(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20241125BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2023005604
(22)【出願日】2023-01-18
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】厚田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】横井 雅
(72)【発明者】
【氏名】竹原 聖翔
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-110827(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067349(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/087747(WO,A1)
【文献】特開2013-230047(JP,A)
【文献】特開2016-019300(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186292(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心に回転するロータと、該ロータの外周面の周囲に配置され、前記ロータに対する回転磁界を生成するステータと、を備える回転電機であって、
前記ロータは、
周方向複数の磁石収容孔と、該磁石収容孔に隣接するフラックスバリアと、が設けられたロータコアと、
前記軸線に垂直な垂直断面において、直線状ないし円弧状に延在する幅と、幅に対して垂直な厚さ、とを有し、前記磁石収容孔に収容される永久磁石と、を備え、
前記永久磁石は、それぞれ幅方向に延在し、互いに対向する第1面および第2面
と、それぞれ厚さ方向に延在し、互いに対向する第1端面および第2端面と、を有し、
前記磁石収容孔は、前記第1面に対向する第1対向面と、前記第2面に対向する第2対向面と、により形成され、
前記第1対向面は、前記第2対向面よりも前記ロータの前記外周面側に位置し、
前記第1対向面と前記第1面との間には、前記永久磁石の幅方向に沿って隙間が設けられ、
前記ロータコアは、
前記第1対向面および前記第2対向面のうち前記第1対向面のみに突起部を有し、
前記突起部は、
前記第1対向面から、前記永久磁石の前記第1面の角部と
前記永久磁石の幅方向中心
を通って厚さ方向に延在する中心線との間のうち、
前記第1面の前記角部側である所定部位に向けて突設され
、
前記突起部は、前記第1端面と前記中心線との間に位置し、前記永久磁石の厚さ方向と略平行に延在する一対の側面である、前記第1端面側の第1側面および前記中心線側の第2側面を有し、
前記第1側面は、前記第1端面よりも前記中心線側に位置し、前記第2端面は、前記中心線よりも前記第1端面側に位置することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記永久磁石は、前記垂直断面において幅方向に直線状に延在し、
前記永久磁石の幅方向の長さをXと定義するとき、前記角部から前記突起部の幅方向中心位置までの距離Tが、
0<T≦0.2・X
の関係を満たすように、前記突起部が設けられることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機において、
前記永久磁石は、前記垂直断面において幅方向に円弧状に延在し、
前記永久磁石の前記第1面の幅方向一方の角部を通る前記第1面に垂直な第1仮想線と、幅方向他方の角部を通る前記第1面に垂直な第2仮想線とのなす角をθと定義するとき、前記角部から前記突起部の幅方向中心位置までの距離Tが、
0<T≦0.13・θ
の関係を満たすように、前記突起部が設けられることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項2または3に記載の回転電機において、
前記突起部の突出量は、前記第1対向面から前記第1面までの距離である前記隙間の長さよりも短いことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項2または3に記載の回転電機において、
前記突起部は、前記垂直断面において略矩形状を呈することを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項
1に記載の回転電機において、
前記突起部は、
幅方向に延在し、前記一対の側面の先端部を接続する先端面をさらに有し、
前記永久磁石は、前記第1面と前記先端面との間に所定の隙間が設けられ、かつ、前記第2面が前記第2対向面に接した状態で、前記磁石収容孔に収容されることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石が埋め込まれたロータを有する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の永久磁石の保持力を調整することで、固定子巻線を流れる電流による磁場変動に対する熱減磁耐性を向上させるようにした回転電機が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、回転電機のような磁気回路に永久磁石が組み込まれた場合、磁石の角部で減磁率が大きくなる。したがって、この点を考慮したうえで、減磁耐性の効率的な向上を図ることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、軸線を中心に回転するロータと、ロータの外周面の周囲に配置され、ロータに対する回転磁界を生成するステータと、を備える回転電機である。ロータは、周方向複数の磁石収容孔と、磁石収容孔に隣接するフラックスバリアと、が設けられたロータコアと、軸線に垂直な垂直断面において、直線状ないし円弧状に延在する幅と、幅に対して垂直な厚さ、とを有し、磁石収容孔に収容される永久磁石と、を備える。永久磁石は、それぞれ幅方向に延在し、互いに対向する第1面および第2面と、それぞれ厚さ方向に延在し、互いに対向する第1端面および第2端面と、を有し、磁石収容孔は、第1面に対向する第1対向面と、第2面に対向する第2対向面と、により形成され、第1対向面は、第2対向面よりもロータの外周面側に位置し、第1対向面と第1面との間には、永久磁石の幅方向に沿って隙間が設けられ、ロータコアは、第1対向面および第2対向面のうち第1対向面のみに第1対向面から第1面に向けて突設された突起部を有し、突起部は、第1対向面から、永久磁石の第1面の角部と永久磁石の幅方向中心を通って厚さ方向に延在する中心線との間のうち、第1面の角部側である所定部位に向けて突設され、突起部は、第1端面と中心線との間に位置し、永久磁石の厚さ方向と略平行に延在する一対の側面である、第1端面側の第1側面および中心線側の第2側面を有し、第1側面は、第1端面よりも中心線側に位置し、第2端面は、中心線よりも第1端面側に位置する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、回転電機に含まれる永久磁石の減磁耐性を効率的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る回転電機の要部構成を示す、軸線に垂直な断面図。
【
図2】単一の磁極部の構成を示す
図1の要部拡大図。
【
図3】
図1の回転電機に対する磁界の作用を模式的に示す図。
【
図4】
図2の磁極部に含まれる永久磁石の周辺領域を拡大して示す図。
【
図6】本発明の実施形態に係る回転電機による磁束の流れを模式的に示す図。
【
図7】永久磁石の角部における減磁率の一例を示すコンタ図。
【
図8A】本発明の実施形態に係る回転電機の所定部位における、突起部の位置と減磁率との関係を示す図。
【
図8B】本発明の実施形態に係る回転電機の他の所定部位における、突起部の位置と減磁率との関係を示す図。
【
図11】本発明の実施形態に係る回転電機に含まれる突起部の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図11を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る回転電機は、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載され、車両駆動用の電動機として用いることができ、発電機として用いることもできる。なお、回転電機は、車両以外に搭載し、種々の用途に用いることもできる。
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の要部構成を示す、軸線CL0に垂直な断面図である。
図1に示すように、回転電機100は、軸線CL0を中心に回転するロータ1と、ロータ1の外周面1aを包囲するように配置されたステータ2とを備える。
【0010】
ロータ1は、軸線CL0を中心とした略円環形状のロータコア10と、ロータコア10に形成された周方向複数の磁極部30と、を有する。ロータコア10の内周面10aには、例えば回転電機100の出力軸を構成する不図示のロータシャフトが嵌合され、ロータ1はロータシャフトと一体に回転する。ロータ1の外周面1aはロータコア10の外周面に相当する。ロータコア10は、磁性体である金属製の複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して形成される。
【0011】
磁極部30は、周方向等間隔に複数設けられる。
図1の例では、45°毎に8個の磁極部30が設けられる。各磁極部30は、ロータコア10に形成された複数(図では3個)の磁石収容孔31と、磁石収容孔31に収容された永久磁石32とを有する。各磁石収容孔31には、単一または複数の永久磁石32を収容することができる。
図1では、単一の磁石収容孔31に2個の永久磁石32が長手方向に並んで収容されるが、単一の磁石収容孔31に収容される永久磁石32の数は1個でもよく、3個以上でもよい。以下では、単一の磁石収容孔31に複数の永久磁石32が収容される場合であっても、全体で1つの永久磁石32として扱う。
【0012】
なお、本実施形態では、磁極部30の周方向中央を径方向に延びる軸をd軸と定義し、磁極部30の周方向端部を径方向に延び、d軸に対し電気角で90°隔てた軸をq軸と定義する。
【0013】
ステータ2は、ロータ1の外周面1aから径方向に所定の間隔を隔てて配置された、軸線CL0を中心とした略円環状のステータコア20と、ステータコア20に取り付けられたコイル21と、を有する。ステータコア20は、磁性体である金属製の複数枚の電磁鋼板を積層して構成される。ステータコア20の内周面には、径方向内側に向けて周方向複数のティース22が突設され、隣り合うティース22の間にスロットが形成される。コイル21は、ティース22に巻回された巻線により構成される。
【0014】
コイル21に電流を流すと、ステータ2に磁界が発生する。この磁界と、ロータ1の磁極部30の永久磁石32によって発生する磁界とが相互作用することにより、ロータ1が回転する。
【0015】
図2は、
図1の要部拡大図であり、単一の磁極部30の構成を示す図である。
図2に示すように、磁極部30における3つの磁石収容孔31、すなわち第1磁石収容孔311、第2磁石収容孔312および第3磁石収容孔313は、d軸に対称に設けられる。より詳しくは、第1磁石収容孔311は、d軸と略直交するように周方向に延在するとともに、d軸を中心にして対称に形成される。第2磁石収容孔312および第3磁石収容孔313は、その径方向内側端部が径方向外側端部よりもd軸に近づくように径方向斜めに延設され、d軸を中心として略V字状となるように形成される。以下では、第1磁石収容孔311、第2磁石収容孔312および第3磁石収容孔313をまとめて、磁石収容孔311~313または単に磁石収容孔31で表すことがある。
【0016】
3つの永久磁石32は、第1磁石収容孔311に収容される第1永久磁石321、第2磁石収容孔312に収容される第2永久磁石322、および第3磁石収容孔313に収容される第3永久磁石323であり、磁極部30は、いわゆる∇型の磁石配置を有する。以下では、第1永久磁石321、第2永久磁石322および第3永久磁石323をまとめて永久磁石321~323または単に永久磁石32で表すことがある。永久磁石321~323は互いに同一形状であり、これらはそれぞれ、磁石収容孔311~313の形状に対応して、軸方向から見た断面が略長方形で、かつ、軸方向に延びる平板状に形成される。永久磁石321~323には、ネオジム磁石やフェライト磁石等、種々のものを用いることができる。
【0017】
軸線CL0に垂直な断面において、永久磁石321~323の長手方向を幅と呼び、短手方向を厚さと呼ぶ。永久磁石321~323は、幅方向(長手方向)に延在する一対の外側面32aおよび内側面32bと、厚さ方向(短手方向)に延在する一対の端面32c,32dとを有する。永久磁石321~323の外側面32aはいずれも、内側面32bよりも径方向外側(ロータ1の外周面1a側)に位置する。永久磁石321~323は、その幅方向中央を通って厚さ方向に延在する中心線CL1に対し、全体が対称に構成される。なお、第1永久磁石321の中心線CL1は、d軸に一致する。
【0018】
永久磁石321~323は、いずれも厚さ方向に磁化される。例えば、永久磁石321~323の外側面32aがそれぞれN極に磁化され、内側面32bがそれぞれS極に磁化される。なお、周方向隣り合う磁極部30では、磁化の方向が反対となる。
【0019】
ロータコア10には、磁石収容孔31に連なってフラックスバリア33が形成される。フラックスバリア33は、永久磁石32の一対の端面32c、32dに隣接し、永久磁石32の幅方向外側に向けて(例えば径方向外側に向けて)延在する。フラックスバリア33は空気層であり、ロータコア10よりも磁気抵抗が大きい。フラックスバリア33を設けることで、永久磁石32によって発生する磁束がロータ側で磁気的に短絡することを抑制することができる。フラックスバリア33にロータコア10よりも透磁率が低い樹脂を充填し、フラックスバリア33を樹脂層とすることもできる。
【0020】
このような回転電機100においては、
図3に模式的に示すように、永久磁石32に対し、その磁化方向A1とは反対方向に、コイル21による逆磁界A2が作用する。このとき、図示は省略するが、磁束密度Bと磁界の強度Hとの関係を示すB-H曲線(磁化曲線)において、パーミアンス係数Pcによって表される動作点が、B-H曲線の屈曲点を越えなければ、可逆減磁であり、永久磁石32の磁束密度は元の状態に戻ることができる。しかし、逆磁界が大きくなると、あるいは、永久磁石32が高温になると、動作点が屈曲点を超えて、不可逆減磁となるおそれがある。
【0021】
特に、永久磁石32の角部は、磁束が集中しやすく、パーミアンス係数Pcが低いため、磁束の短絡を抑制するようにフラックスバリア33を設けた場合であっても、不可逆減磁が生じやすい。そこで、このような不可逆減磁を抑えて、永久磁石32の減磁耐性(熱減磁耐性)を効率的に向上するため、本実施形態は以下のように回転電機100を構成する。
【0022】
図4は、永久磁石32(第1永久磁石321、第2永久磁石322、第3永久磁石323)の周辺領域を拡大して示す図である。なお、
図4では、フラックスバリア33を簡易的に示す。
図4に示すように、磁石収容孔31は、永久磁石32の外側面32aに対向する外側対向面31aと、永久磁石32の内側面32bに対向する内側対向面31bとを有する。外側対向面31aは外側面32aと略平行に延在し、内側対向面31bは内側面32bと略平行に延在する。永久磁石32は、内側面32bが内側対向面31bに接した状態で磁石収容孔31に収容される。
【0023】
外側対向面31aから内側対向面31bまでの長さは、永久磁石32の厚さより長い。このため、外側対向面31aと外側面32aとの間には、永久磁石32の幅方向に沿った隙間34が延在する。このように隙間34を設けた状態で、永久磁石32は、接着剤などの固定手段を用いて磁石収容孔31の所定位置に固定される。なお、固定手段として隙間34に樹脂材を充填し、これにより永久磁石32を固定するようにしてもよい。
【0024】
外側対向面31aからは、永久磁石32の外側面32aに向けて、中心線CL1を対称に一対の突起部35が突設される。以下では、一対の突起部35を、便宜上、第1突起部351および第2突起部352と呼ぶことがある。
図5Aは、
図4のA部拡大図であり、
図5Bは、
図4のB部拡大図である。
【0025】
図5Aに示すように、第1突起部351は、永久磁石32の端面32cと中心線CL1との間に位置する。より詳しくは、第1突起部351は、外側面32aと端面32cとが交差する角部の近傍であり、端面32cよりも中心線CL1側に位置する。好ましくは、第1突起部351は、端面32cと中心線CL1との間であり、中心線CL1よりも端面32c側に位置する。換言すると、永久磁石32の幅方向全長をX(
図4参照)、永久磁石32の端面32cから第1突起部351の幅方向中心位置までの距離をTとすると、Tは0よりも大きく、かつ、0.5Xよりも小さくなるように、好ましくは0.25Xよりも小さくなるように設定される。より好ましくは、次式(I)を満たすように第1突起部351が設けられる。
0<T≦0.2・X ・・・(I)
【0026】
図5Bに示すように、第2突起部352も第1突起部351と同様に構成される。すなわち、永久磁石32の端面32dから突起部35の幅方向中心位置までの距離をTとすると、Tは0よりも大きく、かつ、0.5Xよりも小さくなるように、好ましくは0.25Xよりも小さくなるように、より好ましくは上式(I)を満たすように第2突起部352が設けられる。
【0027】
図5A,
図5Bに示すように、突起部35(第1突起部351、第2突起部352)は略矩形状を呈し、永久磁石32の厚さ方向と略平行に延在する一対の側面35a,35bと、幅方向に略平行に延在する先端面35cとを有する。側面35aは、永久磁石321の角部側(端面32c,32d側)であり、側面35bは中心線CL1側である。第1突起部351の側面35a,35bは、永久磁石32の端面32cと中心線CL1との間、より詳しくは、側面35aは端面32cよりも中心線CL1側に位置し、側面35bは中心線CL1よりも端面32c側に位置する。第2突起部352の側面35a,35bは、永久磁石32の端面32dと中心線CL1との間、より詳しくは、側面35aは端面32dよりも中心線CL1側に位置し、側面35bは中心線CL1よりも端面32d側に位置する。
【0028】
突起部35の先端面35cと永久磁石32の外側面32aとの間には、所定長さだけ隔てた隙間35dが設けられる。これにより永久磁石32が磁石収容孔31に挿入されるとき、永久磁石32が磁石収容孔31の縁部に接触して永久磁石32が損傷することを防止できる。なお、永久磁石32を磁石収容孔31の縁部に接触することなく挿入できるのであれば、隙間35dは小さいほど好ましい。
【0029】
図6は、突起部35を設けたことによる磁束の流れの変化を模式的に示す図であり、一例として、第2永久磁石322の端面32d側の角部の周辺領域を拡大して示す。図中の点線矢印は、突起部35を設けない場合の磁束の流れであり、実線矢印は、突起部35を設けた場合の磁束の流れである。
図6に示すように、突起部35がない場合には、磁束が永久磁石32の角部に集中する(点線矢印)。一方、突起部35がある場合には、磁束が角部を迂回し、突起部35を通って永久磁石32に流れ込む(実線矢印)。このため、磁束の流れが分散され、角部における磁束の集中が緩和される。
【0030】
図7は、永久磁石32(第2永久磁石322)の角部の近傍における減磁率を示すコンタ図である。図中の点線は、突起部35を設けない場合のコンタ図である。
図7の点線に示すように、減磁率は永久磁石32の角部に近づくほど大きくなり、領域AR1(ハッチング)で最大となる。図中の実線の領域AR2(ハッチング)は、突起部35を設けた場合に減磁率が最大となる領域であり、領域AR1と減磁率の大きさは等しい。なお、突起部35を設けた場合の減磁率の変化をコンタ図で示すと、図が煩雑となるため、
図7では、領域AR1に対応する領域AR2のみを示す。
【0031】
突起部35を設けた場合には、上述したように永久磁石32の角部での磁束の集中が緩和される。このため、
図7に示すように、領域AR2は領域AR1よりも小さくなる。すなわち、角部近傍における減磁率が所定値以上となる範囲は、突起部35を設けたことにより小さくなる。これにより、永久磁石32の角部における減磁の程度を抑制することができる。
【0032】
本実施形態では、上式(I)を満たすように突起部35が設けられる。この場合、永久磁石32の端面32c,32dから突起部35の中心までの距離T(
図5A,
図5B)が仮に0であると、突起部35を介して永久磁石32の角部に磁束が流れるため、角部の減磁を抑制することができない。このため、0<Tを満たすように突起部35を設ける必要がある。また、角部からの距離Tが長すぎると、角部に向かう磁束を、突起部35を介して迂回させることができず、角部の減磁抑制の効果が得られない。このため、T≦0.2Xを満たすように突起部35を設けることが好ましい。
【0033】
突起部35の位置を永久磁石32の幅方向に変化させた場合の解析結果は以下のようになる。
図8Aは、第3永久磁石323の角部(径方向内側に位置する角部)近傍における解析結果の一例を示す図であり、
図8Bは、第2永久磁石322の角部(径方向外側に位置する角部)近傍における解析結果の一例を示す図である。
図8A,
図8Bでは、永久磁石32を所定温度(例えば180℃)まで上昇させて逆磁界を印加した後の減磁率αにより減磁耐性が評価される。図中の横軸は、永久磁石32の角部(端面32c)からの距離Tであり、縦軸は減磁率αである。減磁率αは全てマイナスの値としており、減磁率αが大きいほどマイナスの値が大きくなる。そして、減磁率αが小さいほど(図の上側にいくほど)、減磁耐性が大きくなる。
【0034】
図中の特性f0は、突起部35を設けない場合の特性であり、特性f1~f4は、突起部35の高さ(突出量)をそれぞれ、0.05mm、0.1mm、0.15mmおよび0.2mmとした場合の特性である。
図8Aに示すように、特性f1~f4のいずれにおいても、距離Tが0から増加するに従い減磁率αは徐々に小さくなる。そして、減磁率αは、距離Ta当たりで最小になった後、距離Tの増加に伴い徐々に大きくなり、距離T1で、特性f0よりも大きくなる。また、距離Tが0からT1の範囲では、突起部35の高さが高いほど、減磁率αが抑えられ、高さが0.2mmのときに減磁抑制の効果が最大となる。
【0035】
図8Bも
図8Aと同様の傾向を示す。すなわち、
図8Bに示すように、特性f1~f4のいずれにおいても、距離Tが0から増加するに従い減磁率αは徐々に小さくなる。そして、減磁率αは、距離Tb当たりで最小になった後、距離Tの増加に伴い徐々に大きくなり、距離T2で、特性f0よりも大きくなる。また、距離Tが0からT2の範囲では、突起部35の高さが高いほど、減磁率αが抑えられる。
【0036】
ここで、T1,T2は、いずれも0.2X以下であり、上式(I)を満たす。これにより、上式(I)を満たすように突起部35を設ければ、永久磁石32の減磁率を良好に抑えることができる。また、突起部35の高さ(突出量)が大きいほど、減磁抑制の効果が高い。なお、減磁抑制の効果が得られる範囲は、永久磁石32の配置に応じて異なり、例えば0<T≦0.1Xの範囲で効果が得られる場合がある。このため、永久磁石32の配置に応じて、上式(I)の範囲内で突起部35の位置を変更してもよい。
【0037】
以上では、回転電機100に矩形状断面の永久磁石32を用いる場合について説明したが、円弧状断面の永久磁石320を用いることもできる。
図9は、その一例を示す磁極部300の要部断面図である。
図9では、幅方向に円弧状に延在する3つの永久磁石320が、永久磁石32に対応して円弧状に形成された3つの磁石収容孔310に収容される。3つの永久磁石320はいずれも外側面320a側に湾曲される。
【0038】
図10は、
図9の要部拡大図である。
図10に示すように、永久磁石320の外側面320aと磁石収容孔310の外側対向面310aとの間には、永久磁石320の幅方向に沿った略円弧状の隙間340が設けられる。外側対向面310aには、
図4と同様、外側面320aに向けて一対の突起部350が突設される。一対の突起部350は、永久磁石320の端面320cと中心線CL1との間の領域および端面320dと中心線CL1との間の領域に位置する。
【0039】
より詳しくは、突起部350の幅方向中心位置は、フラックスバリア330に隣接した永久磁石320の端面320c,320dからそれぞれ距離Tだけ離れた位置にある。円弧状の永久磁石320の中心角をθとすると、距離Tは、次式(II)を満たすように設定することが好ましい。
0<T≦0.13・θ ・・・(II)
【0040】
これによりステータ2からの磁束が、永久磁石320の角部を迂回して突起部350を通って永久磁石320に流れ込むようになる。このため、磁束の流れが分散され、永久磁石320の角部における磁束の集中が緩和されて、角部の減磁を抑制することができる。なお、上式(II)の角度θは、永久磁石320の一端面320cを通る仮想線L1と他端面320dを通る仮想線L2とのなす角、あるいは永久磁石320の外側面320aの両端の角部を通り、外側面320aに垂直な仮想線L1,L2のなす角、として表すこともできる。
【0041】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)回転電機100は、軸線CL0を中心に回転するロータ1と、ロータ1の外周面1aの周囲に配置され、ロータ1に対する回転磁界を生成するステータ2と、を備える(
図1)。ロータ1は、周方向複数の磁石収容孔31,310と、磁石収容孔31,310に隣接するフラックスバリア33,330と、が設けられたロータコア10と、軸線CL0に垂直な垂直断面において、直線状ないし円弧状に延在する幅と、幅に対して垂直な厚さ、とを有し、磁石収容孔31に収容される永久磁石32,320と、を備える(
図2,
図9)。永久磁石32,320は、それぞれ幅方向に延在し、互いに対向する外側面32a,320a(第1面)および内側面32b,320b(第2面)を有する(
図2,
図10)。磁石収容孔31,310は、外側面32a,320aに対向する外側対向面31a,310a(第1対向面)と、内側面32b,320bに対向する内側対向面31b,310b(第2対向面)と、により形成される(
図2,
図10)。外側対向面31a,310aは、内側対向面31b,310bよりもロータ1の外周面1a側に位置する(
図2,
図9)。外側対向面31a,310aと外側面32a,320aとの間には、永久磁石32,320の幅方向に沿って隙間34,340が設けられる(
図4,
図10)。ロータコア10は、外側対向面31a,310aから外側面32a,320aに向けて突設された突起部35,350を有する(
図4,
図10)。突起部35は、永久磁石320の外側面32a,320aの角部と幅方向中心部(中心線CL1)との間のうち、角部側である所定部位に向けて突設される。
【0042】
この構成により、ステータ2のコイル21によって生じる磁束が、永久磁石32,320の角部を迂回して突起部35,350を通って永久磁石32,320に流れ込むようになる。このため、磁束の流れが分散され、永久磁石32,320の角部における磁束の集中を緩和することができ、永久磁石の減磁(例えば熱減磁)を抑制できる。角部への磁束の集中を抑えるためには角部に大きなフラックスバリアを追加することが考えられるが、本実施形態では突起部35、350を設けるので、その必要がない。
【0043】
(2)永久磁石32は、軸線CL0に垂直な垂直断面において幅方向に直線状に延在する(
図2)。この永久磁石32の幅方向の長さをXと定義するとき、角部から突起部35の幅方向中心位置までの距離Tが、0<T≦0.2・Xの関係を満たすように、突起部35が設けられる(
図4,
図5A,
図5B)。このように距離Tを0より大きく設定することで、突起部35を通った磁束が永久磁石32の角部に導かれることを抑制することができる。また、距離Tを0.2X以下に設定することで、突起部35が角部から離れすぎないため、角部に向かう磁束が角部を迂回して突起部35を流れるようになり、永久磁石32の角部における磁束の集中を抑制できる。
【0044】
(3)永久磁石320は、軸線CL0に垂直な垂直断面において幅方向に円弧状に延在する(
図9)。この場合、永久磁石320の外側面320aの幅方向一方の角部を通り外側面320aに垂直な仮想線(第1仮想線)L1と、幅方向他方の角部を通り外側面320aに垂直な仮想線(第2仮想線)L2とのなす角をθと定義するとき、角部から突起部350の幅方向中心位置までの距離Tが、0<T≦0.13・θの関係を満たすように、突起部350が設けられる。このように永久磁石320が円弧状の場合には、円弧部の中心角θを用いて突起部350の位置が設定されるので、永久磁石320の角部への磁束の集中を良好に抑えることができる。
【0045】
(4)突起部35,350の突出量は、外側対向面31a,310aから外側面32a,320aまでの距離である隙間34,340の長さよりも短い(
図5A,
図5B,
図10)。これにより磁石収容孔31,310の縁部に接触することなく永久磁石32,320を磁石収容孔31,310に挿入することができ、永久磁石32,320の損傷を防ぐことができる。
【0046】
(5)突起部35,350は、軸線CL0に垂直な垂直断面において略矩形状を呈する(
図5A,
図5B,
図10)。これにより、永久磁石32,320の外側面32a,320aに近接する突起部35,350の先端部の面積が大きくなり、突起部35,350に良好に磁束を通過させることができる。
【0047】
(6)突起部35,350は、その幅方向全域が永久磁石32,320の角部と幅方向中心部(中心線CL1)との間の領域に向けて突設される(
図5A,
図5B,
図10)。すなわち、永久磁石32,320の角部側における突起部35,350の一方の側面35aは、当該角部よりも中心線CL1側に位置し、永久磁石32,320の中心線側の突起部35,350aの他方の側面35bは、中心線CL1よりも角部側に位置する。これにより、永久磁石32,320の角部に磁束が集中することを、効率的に抑制することができる。
【0048】
本実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつの変形例について説明する。上記実施形態(
図5A,
図5B)では、軸線CL0に対する垂直断面において突起部35を略矩形状に構成したが、突起部の形状はこれに限らない。例えば
図11に示すように、突起部35の先端を略円弧状(例えば半円形状)に構成してもよい。これにより突起部35を容易に形成することができる。但し、突起部35を略矩形状に構成すると、突起部35の先端の断面積が大きくなるため、突起部35を介してより多くの磁束を永久磁石32に導くことができる。この点を考慮すると、突起部35は略矩形状であることが好ましい。
【0049】
上記実施形態(
図4,
図10)では、永久磁石32,320の外側面32a,320aの一対の角部に対応して、中心線CL1に対称に一対の突起部35,350を設けるようにしたが、永久磁石の一対の角部に互いに同程度の磁束が集中するとは限らない。このため、一対の突起部を中心線CL1に対し非対称な位置に設けるようにしてもよく、あるいは中心線CL1に対し非対称な形状で設けるようにしてもよい。永久磁石の配置によっては、突起部を設けたことによる減磁抑制の効果が小さい場合がある。そこで、一対の突起部を設けるのではなく、単一の突起部を設けるようにしてもよい。複数の永久磁石のうち、突起部を設けたことによる減磁抑制の効果が小さい永久磁石がある場合、当該永久磁石に対し突起部を設けないようにしてもよい。例えば、突起部35を設けたことによる第1永久磁石321(
図2)に対する減磁抑制の効果が、第2永久磁石322および第3永久磁石323に対する効果よりも小さい場合には、第1磁石収容孔31の突起部35を省略してもよい。
【0050】
上記実施形態(
図2,
図9)では、磁極部30,300に3つの永久磁石32,320を配置したが、磁極部における永久磁石の個数および配置は上述したものに限らない。例えば磁極部に単一の永久磁石を配置してもよく、2つの磁石を配置してもよい。すなわち、永久磁石の角部には、永久磁石の個数や配置に拘わらず磁束が集中しやすい。このため、永久磁石の角部に対応して突起部を設けることにより、永久磁石の個数や配置に拘わらず、角部に磁束が集中することを効率的に抑制することができる。
【0051】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ロータ、1a 外周面、2 ステータ、10 ロータコア、30,300 磁極部、31,310 磁石収容孔、31a,310a 外側対向面、31b,310b 内側対向面、32,320 永久磁石、32a,320a 外側面、32b,320b 内側面、33,330 フラックスバリア、34,340 隙間、35,350 突起部、100 回転電機、CL0 軸線、CL1 中心線、L1,L2 仮想線