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特許7592779燃料電池スタックおよび燃料電池スタックの組立方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】燃料電池スタックおよび燃料電池スタックの組立方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/2404 20160101AFI20241125BHJP
   H01M 8/2475 20160101ALI20241125BHJP
   H01M 8/248 20160101ALI20241125BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241125BHJP
【FI】
H01M8/2404
H01M8/2475
H01M8/248
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023057673
(22)【出願日】2023-03-31
(65)【公開番号】P2024145359
(43)【公開日】2024-10-15
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】宮島 一嘉
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-133761(JP,A)
【文献】特開2017-147178(JP,A)
【文献】特開2020-071986(JP,A)
【文献】特開2016-115474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を有する発電セルを、所定方向に積層して構成されたセル積層体と、
前記セル積層体の前記所定方向における一端面および他端面にそれぞれ隣接して配置された一対のエンドユニットと、
前記所定方向に圧縮荷重が付加された状態で前記セル積層体が保持されるように一端部および他端部がそれぞれ前記一対のエンドユニットに固定され、前記セル積層体を包囲するケースと、
前記ケースの内側表面と前記セル積層体の外側表面との間の空隙に配置された緩衝部と、を備え、
前記緩衝部は、
前記ケースの内側表面に隣接して配置された、気泡を含む収縮可能な弾性体と、
前記ケースの内側表面に密着され、前記弾性体が収容される密封空間を形成する膜部材と、を有し、
前記ケースには、前記ケースの外側から前記密封空間の空気を吸引可能なように、前記密封空間に連通する連通孔が設けられることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記連通孔を塞ぐ閉塞部をさらに備えることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
気泡を含む収縮可能な弾性体を、ケースの内側表面に隣接して配置するとともに、前記弾性体を膜部材で覆って該膜部材を前記ケースの内側表面に密着させ、前記弾性体が収容される密封空間を形成する工程と、
前記密封空間と前記ケースの外側空間とを連通するように前記ケースに設けられた連通孔を介して、前記弾性体に含まれる空気を吸引し、前記ケースの内部の収容空間を拡大する工程と、
電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を有する発電セルを所定方向に積層して構成されたセル積層体を、前記収容空間に配置する工程と、
一対のエンドユニットを介して前記セル積層体に前記所定方向の圧縮荷重を付加するとともに、前記一対のエンドユニットを前記ケースの一端部および他端部にそれぞれ締結する工程と、
前記連通孔を介した吸引を停止し、前記連通孔を大気に開放する工程と、を含むことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池スタックの組立方法において、
前記連通孔を塞ぐ工程をさらに含むことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックおよび燃料電池スタックの組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池に関する技術開発が行われている。この種の燃料電池に用いられる複数のセルを積層してなる燃料電池スタックにおいて、従来、積層体の外周面とケースの内周面との間に緩衝層を設けるようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の燃料電池スタックでは、積層体の外周面に、押し潰された状態の緩衝層を配置した後、ケースの内部に積層体を移動し、その際に、ケースの開口端から緩衝層に衝撃を与えることにより緩衝層を復元させ、それにより積層体の外周面とケースの内周面との間に緩衝層を設ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-115474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の燃料電池スタックでは、ケースの内部に積層体を移動させながら、ケースの開口端から緩衝層に衝撃を与えるため、緩衝層の高い寸法精度が必要であり、コストの増加を招く。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である燃料電池スタックは、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を有する発電セルを、所定方向に積層して構成されたセル積層体と、セル積層体の所定方向における一端面および他端面にそれぞれ隣接して配置された一対のエンドユニットと、所定方向に圧縮荷重が付加された状態でセル積層体が保持されるように一端部および他端部がそれぞれ一対のエンドユニットに固定され、セル積層体を包囲するケースと、ケースの内側表面とセル積層体の外側表面との間の空隙に配置された緩衝部と、を備える。緩衝部は、ケースの内側表面に隣接して配置された、気泡を含む収縮可能な弾性体と、ケースの内側表面に密着され、弾性体が収容される密封空間を形成する膜部材と、を有する。ケースには、ケースの外側から密封空間の空気を吸引可能なように、密封空間に連通する連通孔が設けられる。
【0006】
本発明の他の態様である燃料電池スタックの組立方法は、気泡を含む収縮可能な弾性体を、ケースの内側表面に隣接して配置するとともに、弾性体を膜部材で覆って膜部材をケースの内側表面に密着させ、弾性体が収容される密封空間を形成する工程と、密封空間とケースの外側空間とを連通するようにケースに設けられた連通孔を介して、弾性体に含まれる空気を吸引し、ケースの内部の収容空間を拡大する工程と、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を有する発電セルを所定方向に積層して構成されたセル積層体を、収容空間に配置する工程と、一対のエンドユニットを介してセル積層体に所定方向の圧縮荷重を付加するとともに、一対のエンドユニットをケースの一端部および他端部にそれぞれ締結する工程と、連通孔を介した吸引を停止し、連通孔を大気に開放する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、緩衝部を有する燃料電池スタックを安価に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの全体構成を概略的に示す斜視図。
図2図1のII-II線に沿った断面図。
図3図1のIII-III線に沿った断面図。
図4A】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法の手順の一例を概略的に示す図。
図4B図4Aに続く手順の一例を概略的に示す図。
図4C図4Bに続く手順の一例を概略的に示す図。
図4D図4Cに続く手順の一例を概略的に示す図。
図4E図4Dに続く手順の一例を概略的に示す図。
図4F図4Eに続く手順の一例を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図4Fを参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る燃料電池スタックは、燃料電池の主たる要素を構成する。燃料電池は、例えば車両に搭載され、車両駆動用の電力を発生することができる。燃料電池は、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することもできる。
【0010】
まず、燃料電池スタックの全体構成を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池スタック100の全体構成を概略的に示す斜視図である。以下では、便宜上、図示のように互いに直交する三軸方向を、前後方向、左右方向および上下方向と定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。特に、発電セルの積載方向を、燃料電池スタックの組立時の方向に合わせて上下方向と定義する。これらの方向は、車両の前後方向、左右方向および上下方向と同一であるとは限らない。例えば図1の上下方向は、車両の前後方向であってもよく、左右方向であってもよい。あるいは車両の上下方向であってもよい。
【0011】
図1に示すように、燃料電池スタック100は、セル積層体10と、セル積層体10の上下方向両端面に隣接して配置されたエンドユニット20と、セル積層体10を包囲するケース30と、を有し、全体が略直方体形状を呈する。
【0012】
ケース30は、セル積層体10の前面、右面、後面および左面にそれぞれ対向した略矩形状の4つの側壁31を有する。これら4つの側壁31により、上面および下面が開放された略ボックス状の収容空間SP0が形成される。ケース30は、アルミニウムや鉄などの金属によって構成される。エンドユニット20は、金属製のエンドプレート21の他、エンドプレート21の上下方向内側に位置するインシュレータおよびターミナルプレートを含み、ケース30の上面および下面は、エンドユニット20(エンドプレート21)で覆われる。
【0013】
図1のA部には、ケース30の側壁31の一部を破断して示す。図1のA部に示すように、セル積層体10は、複数の発電セル1(便宜上、単一の発電セルのみ示す)を上下方向に積層して構成される。発電セル1は、電解質膜と電極とを含む接合体を有する電極アッセンブリ2と、電極アッセンブリ2の上下両側に配置され、電極アッセンブリ2を挟持するセパレータ3と、を有する。電極アッセンブリ2とセパレータ3とは、上下方向に交互に配置される。
【0014】
セパレータ3は、断面が波板状の上下一対の金属製の薄板を有し、これら一対の薄板の外周部同士を接合して一体に構成される。セパレータ3には耐腐食性に優れた導電性の材料が用いられ、例えばチタン、チタン合金、ステンレス等を用いることができる。一対の薄板は、セパレータ3の内部に冷却媒体(例えば水)が流れる冷却流路を形成するようにプレス成形などによって凹凸状に形成され、冷却媒体の流れにより発電セル1の発電面が冷却される。
【0015】
電極アッセンブリ2の上側のセパレータ3は、例えばアノード側のセパレータ(アノードセパレータ)であり、アノードセパレータ3と電極アッセンブリ2との間に、水素を含む燃料ガスが流れるアノード流路が形成される。電極アッセンブリ2の下側のセパレータ3は、例えばカソード側のセパレータ(カソードセパレータ)であり、カソードセパレータ3と電極アッセンブリ2との間に、酸素を含む酸化剤ガスが流れるカソード流路が形成される。
【0016】
電極アッセンブリ2は、膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)と、膜電極接合体の周囲を支持する樹脂製のフレームと、を有する。膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の上面に設けられたアノード電極と、電解質膜の下面に設けられたカソード電極とを有する。膜電極接合体を、膜電極構造体と呼ぶこともある。電解質膜は、例えば固体高分子電解質膜である。アノード電極は、電解質膜の上面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、電極触媒層の上面には燃料ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。カソード電極は、電解質膜の下面に形成され、電極反応の反応場とする電極触媒層であり、電極触媒層の下面には酸化剤ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。
【0017】
アノード電極では、アノード流路およびガス拡散層を介して供給された燃料ガス(水素)が、触媒の作用によってイオン化され、電解質膜を通過してカソード電極側へ移動する。このとき生じた電子は、外部回路を通過し、電気エネルギとして取り出される。カソード電極では、カソード流路およびガス拡散層を介して供給された酸化剤ガス(酸素)と、アノード電極から導かれた水素イオンおよびアノード電極から移動した電子とが反応し、水が生成される。生成された水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水は電極アッセンブリ2の外部へ排出される。
【0018】
下側のエンドユニット20には、貫通孔211~216が開口される。なお、上側のエンドユニット20に貫通孔211~216が開口されてもよい。貫通孔211~216が開口されたエンドユニット20をウェットエンドユニット、反対側のエンドユニット20をドライエンドユニットと呼ぶことがある。貫通孔211は、セル積層体10の内部に燃料ガスを供給するための貫通孔である。貫通孔212は、セル積層体10から外部に冷却媒体を排出するための貫通孔である。貫通孔213は、セル積層体10から外部に酸化剤ガスを排出するための貫通孔である。貫通孔214は、セル積層体10の内部に酸化剤ガスを供給するための貫通孔である。貫通孔215は、セル積層体10の内部に冷却媒体を供給するための貫通孔である。貫通孔216は、セル積層体10から外部に燃料ガスを排出するための貫通孔である。
【0019】
セル積層体10の左右方向両端部には、貫通孔211~216に連通するように上下方向に延在する複数の流路(マニホールド)が形成される。セル積層体10の内部のアノード流路には、貫通孔211を介して供給された燃料ガスが導かれ、カソード流路には貫通孔214を介して供給された酸化剤ガスが導かれる。これにより発電セル1で発電が行われる。供給後の燃料ガスおよび酸化剤ガスは、それぞれ貫通孔216,213を介してセル積層体10から排出される。セル積層体10には貫通孔215を介して供給された冷却媒体が導かれ、これにより発電面が冷却される。セル積層体10を通過した冷却媒体は、貫通孔212を介して排出される。
【0020】
図2は、図1のII-II線に沿った断面図であり、図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。なお、図2図3では、便宜上、主にセル積層体10の外側表面10a、つまり輪郭のみを示し、セル積層体10の詳細な図示を省略する。すなわち、図2のセル積層体10を構成する電極アッセンブリ2およびセパレータ3の左側および右側には、実際には、エンドユニット20の貫通孔211~213,214~216に連通するそれぞれ3つの貫通孔が前後方向に並んで設けられるが、これら貫通孔などの図示は省略する。図2図3に示すように、ケース30の側壁31の内側表面31aとセル積層体10の外側表面10aとの間には、前後左右方向の全周にわたって空隙SP1が設けられる。
【0021】
前方、後方、右方および左方の空隙SP1には、それぞれ緩衝部40が設けられる。例えば前後方向中央部および左右方向中央部にそれぞれ緩衝部40が介装される。緩衝部40は、下側のエンドユニット20の近傍から上側のエンドユニット20の近傍にかけて上下方向に延設される。緩衝部40は、側壁31の内側表面31aに隣接して配置された板状の弾性体41と、弾性体41の全体を覆う薄膜状のフィルム42と、を有する。
【0022】
弾性体41は、気泡を有する収縮可能な発泡材、例えば発泡ゴムや発泡樹脂により構成される。弾性体41の内部の気泡は、例えば気泡同士のつながりのある連続気泡である、なお、気泡同士が独立してつながりのない独立気泡であってもよく、半連続気泡であってもよい。弾性体41は、側壁31の内側表面31aに当接する外側表面41aと、外側表面41aの反対側の内側表面41bとを有する。弾性体41の外側表面41aから内側表面41bまでの長さ、すなわち弾性体41の厚さは、空隙SP1に介装される前の弾性体41の初期の厚さ(自由長)よりも薄く、弾性体41は、所定量圧縮された状態で空隙SP1に介装される。なお、弾性体41の厚さに直交して前後方向または左右方向に延在するのが弾性体41の幅であり、上下方向に延在するのが弾性体41の長さである。
【0023】
フィルム42は、可撓性を有するガス不透過性の絶縁フィルムであり、樹脂材などによって構成される。フィルム42は全体が略矩形状を呈し、その周縁部42aが接着剤によって側壁31の内側表面31aに接着される。したがって、フィルム42と側壁31との接触面に接着部43が設けられ、接着部43によって接触面がシールされる。これにより、フィルム42と側壁31の内側表面31aとの間に密封空間SP2が形成され、密封空間SP2に弾性体41が収容される。
【0024】
ケース30の側壁31には、密封空間SP2とケース30の外側空間とを連通するように緩衝部40の取付位置に対応して連通孔(貫通孔)35が開口される。例えば弾性体41の幅方向中央部かつ長さ方向中央部に面して略円形の連通孔35が開口される。連通孔35の入口には、シール材を介してカバー36が取り付けられる、これにより、連通孔35がシールされ、ケース30の外部空間から密封空間SP2への水などの浸入が阻止される。より詳しくは、側壁31の外側表面31bには、連通孔35を中心とした座面30cが設けられ、座面30cにボルトなどによってカバー36が取り付けられる。なお、カバー36に代えて、連通孔35に樹脂などを充填することにより連通孔35を閉鎖するようにしてもよい。
【0025】
燃料電池スタック100が車両に搭載されると、セル積層体10には、車両に作用する加速度に応じた慣性力が作用する。例えば積層方向が車両の左右方向であるとき、車両の加速時および減速時に車両(ケース30)に前後方向の加速度が作用すると、セル積層体10には、積層方向に直交する方向に慣性力が作用する。また、積層方向が車両の前後方向であるとき、車両の旋回時に車両に左右方向の横加速度が作用すると、セル積層体10には、積層方向に直交する方向に慣性力が作用する。
【0026】
このように車両の通常運転時においてセル積層体10には慣性力が作用するが、これに限らず、車両に外部から衝撃力が作用した場合にも、セル積層体10に慣性力が作用する。例えば積層方向が車両の左右方向であるとき、車両の外部の物体(例えば他車両)により前方または後方から衝撃が作用すると、セル積層体10には、積層方向に直交する方向に慣性力が作用する。また、積層方向が車両の前後方向であるとき、車両の外部の物体(例えば他車両)により右方または左方から衝撃が作用すると、セル積層体10には、積層方向に直交する方向に慣性力が作用する。
【0027】
本実施形態では、セル積層体10の外側表面10aとケース30の内側表面30aとの間の空隙SP1に緩衝部40が設けられ、セル積層体10の外側表面10aが緩衝部40によって拘束される。このため、セル積層体10に慣性力が作用した場合に、セル積層体10からの力を緩衝部40が受け、これによりセル積層体10の変位や変形を抑えることができる。その結果、セル積層体10を構成する積層体要素(電極アッセンブリ2、セパレータ3)の積層面での位置ずれを防ぐことができる。特に、弾性体41は、初期状態で所定量圧縮された状態で空隙SP1に介装される。このため、緩衝部40はセル積層体10の外側表面10aおよびケース30の内側表面30aに隙間なく当接するとともに、緩衝部40は適度な硬さを有し、緩衝部40を介してセル積層体10を良好に支持することができる。
【0028】
以上のように構成された燃料電池スタック100の組立方法について説明する。図4A図4Fはそれぞれ、燃料電池スタック100の組立方法に含まれる各工程を概略的に示す図である。まず、図4Aに示すように、組立台200の上面に、エンドユニット20とケース30とを搭載し、エンドユニット20にケース30の下端部をボルトなどにより締結する(ケース取付工程)。
【0029】
この場合、予め準備工程として、ケース30の側壁31の内側表面31aには、緩衝部40が取り付けられるとともに、側壁31に連通孔35が開口される。さらに、側壁31の外側表面31bには、連通孔35の周囲に座面31cが設けられる。この状態では、フィルム42の内側の密封空間SP2は、連通孔35を介して大気に連通している。このため、弾性体41に気泡が含まれ、弾性体41の厚さ(外側表面41aから内側表面41bまでの長さ)は、圧縮される前の初期厚さt0である。
【0030】
次に、図4Bに示すように、連通孔35の周囲の座面30cに、吸引機50を接続する。吸引機50は、例えば真空ポンプを有する吸引機本体51と、吸引機本体51に接続されたホース52と、ホース52の先端部に設けられた吸着部53とを有する。吸着部53は例えば吸盤であり、連通孔35の全体を覆うように座面31cに吸着部53が取り付けられる。この状態で、吸引機50(例えば真空ポンプ)をオンして、図4Bの矢印に示すように吸引を開始する(吸引工程)。
【0031】
吸引が開始されると、密封空間SP2内の空気、すなわち弾性体41に含まれる気泡が吸い込まれ、弾性体41が収縮する。これにより、側壁31の内側表面30aから弾性体4の内側表面41bまでの厚さが薄くなり、ケース30内の収容空間SP0の容積が前後方向および左右方向に拡大する。この場合の弾性体41の厚さ(吸引時厚さt1)は、例えば初期厚さt0の50%程度または50%以下である。
【0032】
次いで、図4Cに示すように、吸引機50をオンしたまま、収容空間SP0に上方から積層体要素101を収容する。なお、積層体要素101は、電極アッセンブリ2およびセパレータ3のそれぞれの総称である。これにより、電極アッセンブリ2とセパレータ3とをエンドユニット20上に交互に積層する(積層工程)。吸引により弾性体41の厚さが薄くなっているため、積層工程においては、積層体要素101の端部が緩衝部40に接触することなく、積層体要素101を容易に積層できる。
【0033】
積層体要素101の所定数の積層が完了して、加圧前のセル積層体10が形成されると、図4Dに示すように、吸引機50をオンしたまま、セル積層体10の上面にエンドユニット20を搭載する。さらに、加圧機により、エンドユニット20の上方から矢印に示すように加圧力Fを付加する(加圧工程)。これによりセル積層体10に圧縮荷重が付加され、セル積層体10が全体的に押し縮められる。
【0034】
上側のエンドユニット20の下端面がケース30の上端面に当接すると、図4Eに示すように、ボルト33を用いて両者を締結する(締結工程)。これにより、セル積層体10は、所定の圧縮荷重が付加された状態で保持される。
【0035】
次に、図4Fに示すように、吸引機50をオフし、ケース30の側壁31の外側表面31bから吸着部53を取り外す(吸引終了工程)。これにより、連通孔35を介して密封空間SP2が大気に開放され、弾性体41に気泡が混入して弾性体41が復元(膨張)する。その結果、側壁31の内側表面31aとセル積層体10の外側表面10aとの間の空隙SP1(図3)が塞がれる。このとき、弾性体41の厚さ(復元厚さt2)は、吸引時厚さt1(図4B)よりも厚いが、初期厚さt0(図4A)よりも薄い。このため、弾性体41は圧縮状態で、ケース30とセル積層体10との間の空隙SP1に介装される。
【0036】
最後に、図3に示すように、側壁31の外側表面30bの座面30cに、シール材を介してカバー36を取り付け、連通孔35を塞ぐ(シール工程)。以上で、燃料電池スタック100の組立が完了する。
【0037】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料電池スタック100は、電解質膜と電極とを含む電極アッセンブリ2(膜電極構造体)と、セパレータ3と、を有する発電セル1を、上下方向に積層して構成されたセル積層体10と、セル積層体10の上端面および下端面にそれぞれ隣接して配置された一対のエンドユニット20と、上下定方向に圧縮荷重が付加された状態でセル積層体10が保持されるように上端部および下端部がそれぞれ一対のエンドユニット20に固定され、セル積層体10を包囲するケース30と、ケース30の内側表面30aとセル積層体10の外側表面10aとの間の空隙SP1に配置された緩衝部40と、を備える(図1図3)。緩衝部40は、ケース30の内側表面31aに隣接して配置された、気泡を含む収縮可能な弾性体41と、ケース30の内側表面31aに密着され、弾性体41が収容される密封空間SP2を形成するフィルム42と、を有する(図2図3)。ケース30には、ケース30の外側から密封空間SP2の空気を吸引可能なように、密封空間SP2に連通する連通孔35が設けられる(図2図3)。
【0038】
この構成により、連通孔35を介して密封空間AR2の空気を吸引することができる。このため、弾性体41を収縮させることができ、燃料電池スタック100の組立時に、緩衝部40と干渉することなく、ケース内の収容空間SP0に発電セル1を容易に積層することができる。したがって、緩衝部40の高い寸法精度が不要であり、緩衝部40を有する燃料電池スタック100を安価に構成することができる。また、吸引を停止して密封空間SP2を大気開放することで弾性体41を容易に膨張させることができ、これによりケース30の内側表面30aとセル積層体10の外側表面10aとに密着した状態で緩衝部40を配置することができる。このため、セル積層体10に慣性力が作用した場合に、セル積層体10の変形や変位を良好に抑えることができる。
【0039】
(2)燃料電池スタック100は、連通孔35を塞ぐカバー36をさらに備える(図2図3)。これにより、連通孔35を介してケース30の外部からケース内に水などが浸入することを防ぐことができる。
【0040】
(3)燃料電池スタック100の組立方法は、気泡を含む収縮可能な弾性体41を、ケース30の内側表面30aに隣接して配置するとともに、弾性体41をフィルム42で覆ってフィルム42をケース30の内側表面31aに密着させ、弾性体41が収容される密封空間SP2を形成する工程(準備工程)と、密封空間SP2とケース30の外側空間とを連通するようにケース30に設けられた連通孔35を介して、弾性体41に含まれる空気を吸引し、ケース30の内部の収容空間SP0を拡大する工程(吸引工程)と、電解質膜と電極とを含む電極アッセンブリ2と、セパレータ3と、を有する発電セル1を上下方向に積層して、収容空間SP0にセル積層体10を配置する工程(積層工程)と、一対のエンドユニット20を介してセル積層体10に上下方向の圧縮荷重を付加するとともに、一対のエンドユニット20をケース30の一端部および他端部にそれぞれ締結する工程(加圧工程および締結工程)と、連通孔35を介した吸引を停止し、連通孔35を大気に開放する工程(吸引終了工程)と、を含む(図4A図4F)。
【0041】
これにより、ケース30の内側表面に緩衝部40を配置した状態で、ケース内の収容空間SP0にセル積層体10を容易に配置することができる。すなわち、弾性体41が収納された密封空間SP2を、ケース30の外側から吸引して弾性体41を収縮させるので、セル積層体10を構成する積層体要素101(電極アッセンブリ2、セパレータ3)を、緩衝部40に接触させながら収容空間SP0に配置する必要がない。このため、緩衝部40の高い寸法精度が不要であり、緩衝部40を有する燃料電池スタック100を安価に構成することができる。
【0042】
(4)燃料電池スタック100の組立方法は、連通孔35を塞ぐ工程(シール工程)をさらに含む(図3)。これにより、燃料電池スタック100の組立のみに用いられる連通孔35がシールされ、ケース内に水などが浸入することを防止できる。
【0043】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、セル積層体10の4つの面(前面、後面、左面および右面)に対向して緩衝部40を配置したが、これに代えて、またはこれに加えて、セル積層体10の4つの角部に対向して緩衝部を配置してもよい。4つの角部ではなく、対角に位置する2つの角部に対向して緩衝部を配置してもよい。すなわち、ケースの内側表面とセル積層体の外側表面との間の空隙に配置されるのであれば、緩衝部の設置位置や個数は上述したものに限らない。
【0044】
上記実施形態では、弾性体41を覆うフィルム42の周縁部42aを、側壁31の内側表面31aに接着部43を介して接着して密封空間を形成するようにしたが、膜部材の構成はこれに限らない。例えば膜部材を伸縮可能な袋状に構成するとともに、袋の内部に、気泡を含む収縮可能な弾性体を収納し、さらに袋の開口部を連通孔に連通するようにしてもよい。上記実施形態では、吸引機50の吸着部53を吸盤として構成したが、吸着部53を例えばピン状の筒体として構成し、連通孔35に差し込むようにしてもよい。上記実施形態では、ケース30の外側表面31bに座面30cを設け、座面30cにカバー36を取り付けるようにしたが、閉塞部の構成はこれに限らず、座面を省略してもよい。
【0045】
上記実施形態では、ケース内の収容空間SP0に積層体要素101(電極アッセンブリ2,セパレータ3)を積層してセル積層体10を構成するようにしたが、予めケースの外部で複数の積層体要素を積層した後、その積層体を収容空間SP0に収容するようにしてもよい。上記実施形態では、電解質膜と電極とを含む膜電極接合体としての電極アッセンブリ2と、セパレータ3と、を上下方向(所定方向)に交互に積層してセル積層体10を構成したが、積層方向は上下方向に限らず左右方向や前後方向であってもよい。
【0046】
以上では、燃料電池スタック100を車両に搭載する例を説明したが、本発明の燃料電池スタックは他の移動体にも搭載することができる。この場合にも、上述したのと同様の組立方法で、燃料電池スタックを組み立てればよい。
【0047】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0048】
1 発電セル、2 電極アッセンブリ、3 セパレータ、10 セル積層体、20 エンドユニット、30 ケース、30c 座面、31 側壁、35 連通孔、36 カバー、40 緩衝部、41 弾性体、42 フィルム、50 吸引機、100 燃料電池スタック、SP0 収容空間、SP1 空隙、SP2 密封空間
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F