(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】クラッチ設定センサを備える電動ドライバ
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20241125BHJP
B25B 21/00 20060101ALI20241125BHJP
B25B 23/157 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B25F5/00 C
B25F5/00 Z
B25B21/00 510A
B25B23/157 B
(21)【出願番号】P 2023507371
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 US2021045390
(87)【国際公開番号】W WO2022035861
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-03-06
(32)【優先日】2020-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598073073
【氏名又は名称】ミルウォーキー エレクトリック ツール コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー、ジェイコブ、ピー.
(72)【発明者】
【氏名】メルゲット、マクスウェル、エル.
(72)【発明者】
【氏名】フィールドバインダー、ダグラス、アール.
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-066365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/361432(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00 - 5/02
B25B 21/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤケースと、
前記ギヤケースから延びる出力シャフトと、
前記出力シャフトにトルクを提供して前記出力シャフトを回転させるように構成された駆動機構と、
前記出力シャフトと前記駆動機構との間にあるクラッチ機構であって、前記クラッチ機構が、前記出力シャフトによって提供されるトルクの量を制限するように構成され、前記クラッチ機構が圧縮ばねを備える、クラッチ機構と、
前記圧縮ばねの圧縮長さを調節するように構成されたクラッチ調節アセンブリであって、前記ギヤケースのネック部分の周囲に周方向に配置されたカラーと、前記ギヤケースの前記ネック部分に螺合されたナットであって、前記カラーと共回転して前記圧縮ばねの前記圧縮長さを調節するナットとを備える、クラッチ調節アセンブリと、
前記圧縮ばねの圧縮力が前記ナットと前記ギヤケースとの間に与えられるときに前記圧縮ばねによって付与され
るひずみを受ける前記ギヤケースの
前記ネック部分に配置されたセンサと、
前記センサからの出力信号を受信し、前記出力信号に基づいて前記クラッチ機構のトルク設定を判定するように構成された電子制御ユニットと
、を備える、
回転動力工具。
【請求項2】
前記電子制御ユニットが、前記センサの前記出力信号を前記圧縮ばねの前記圧縮長さに関連付けるように構成される
、請求項1に記載の回転動力工具。
【請求項3】
前記クラッチ機構が、前記クラッチ調節アセンブリを介して、第1のトルク設定、第2のトルク設定、及び前記
第1のトルク設定と前記
第2のトルク設定との間にある少なくとも1つの離散トルク設定の間で移動可能である、請求項2に記載の回転動力工具。
【請求項4】
ユーザインターフェースであって、前記電子制御ユニットが、前記クラッチ機構の前記判定されたトルク設定に基づいて、前記ユーザインターフェースに前記離散トルク設定を表示させる信号を送信する、ユーザインターフェースを更に備える、請求項3に記載の回転動力工具。
【請求項5】
前記センサが前記
ネック部分に結合されたひずみゲージを備え、前記圧縮ばねの圧縮力が前記ナットと前記ギヤケースとの間に与えられることにより、前記
ネック部分を張力下でひずませ、前記
ネック部分の前記ひずみが前記ひずみゲージにより検出される、請求項
1に記載の回転動力工具。
【請求項6】
前記センサが電磁界を発生させる誘導センサを備え、前記圧縮ばねの前記圧縮長さが前記誘導センサのインダクタンスの変化によって判定される、請求項
1に記載の回転動力工具。
【請求項7】
前記駆動機構に動作可能に結合されたモータと、前記モータによって引き出された電流の量を検出するモータセンサとを更に備え、前記電子制御ユニットが、前記モータセンサからのフィードバックに基づいてクラッチイベントを識別するように構成され、前記電子制御ユニットが、前記クラッチイベントが発生すると前記モータを停止させるように構成される、請求項1に記載の回転動力工具。
【請求項8】
前記駆動機構に動作可能に結合されるモータと、前記クラッチ機構がクラッチイベントの際に係脱したときに作動するスイッチ
とを更に備え、前記電子制御ユニットが、前記スイッチからのスイッチ信号を受信したことに応じて前記モータを停止させるよう構成される、請求項1に記載の回転動力工具。
【請求項9】
ギヤケースと、
前記ギヤケースから延びる出力シャフトと、
前記出力シャフトにトルクを提供して前記出力シャフトを回転させるように構成された駆動機構と、
前記出力シャフトと前記駆動機構との間にあるクラッチ機構であって、前記クラッチ機構が、前記出力シャフトによって提供されるトルクの量を制限するように構成され、前記クラッチ機構が圧縮ばねを備える、クラッチ機構と、
誘導センサであって、前記圧縮ばねと前記誘導センサによって放出された磁界との間の相対運動に応じて前記誘導センサに電圧が誘導されるように前記圧縮ばねに近接
する前記誘導センサ
であって、前記圧縮ばねは、前記誘導センサの周囲に周方向に配置される、前記誘導センサと、
前記誘導センサにおけるインダクタンスの変化を示す、前記誘導センサからの出力信号を受信し、前記出力信号に基づいて前記クラッチ機構のトルク設定を判定するように構成された電子制御ユニットと
、を備える、
回転動力工具。
【請求項10】
前記圧縮ばねの圧縮長さを調節するように構成されたクラッチ調節アセンブリ
を更に備え、前記電子制御ユニットが、前記誘導センサの前記出力信号を前記圧縮ばねの前記圧縮長さに関連付けるように構成される
、請求項
9に記載の回転動力工具。
【請求項11】
前記クラッチ機構が、前記クラッチ調節アセンブリを介して、第1のトルク設定、第2のトルク設定、及び前記
第1のトルク設定と前記
第2のトルク設定との間にある複数の離散トルク設定の間で移動可能である、請求項
10に記載の回転動力工具。
【請求項12】
前記圧縮ばねによって付与されたひずみを受ける前記ギヤケースのネック部分を更に含み、前記クラッチ調節アセンブリが、前記ギヤケースの前記ネック部分の周囲に周方向に配置されたカラーと、前記ギヤケースの前記ネック部分に螺合されたナットであって、前記ナットが前記カラーと共回転して前記圧縮ばねの前記圧縮長さを調節する、ナットとを備える、請求項
10に記載の回転動力工具。
【請求項13】
前記駆動機構に動作可能に結合されたモータと、前記モータによって引き出された電流の量を検出するモータセンサとを更に備え、前記電子制御ユニットが、前記モータセンサからのフィードバックに基づいてクラッチイベントを識別するように構成され、前記電子制御ユニットが、前記クラッチイベントが発生すると前記モータを停止させるように構成される、請求項
9に記載の回転動力工具。
【請求項14】
前記駆動機構に動作可能に結合されるモータと、前記クラッチ機構がクラッチイベントの際に係脱したときに作動するスイッチ
とを更に備え、前記電子制御ユニットが、前記スイッチからのスイッチ信号を受信したことに応じて前記モータを停止させるよう構成される、請求項
9に記載の回転動力工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月10日に出願された、同時係属中の米国仮特許出願第63/063,737号明細書に対する優先権を主張するものであり、同米国仮特許出願の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に動力工具に関し、より詳細には電動ドライバに関する。
【背景技術】
【0003】
電動ドライバは、締結具などを締め付け、締結具などにトルクをかけるために使用される。いくつかの電動ドライバは、ユーザが締結具にかかるトルクを制限できるようにするクラッチ機構を備える。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一態様では、ギヤケースと、ギヤケースから延びる出力シャフトと、出力シャフトにトルクを提供して出力シャフトを回転させるように構成された駆動機構とを備える、回転動力工具を提供する。回転動力工具は、出力シャフトと駆動機構との間にあるクラッチ機構を更に備える。クラッチ機構は、圧縮ばねを備え、出力シャフトによって提供されるトルクの量を制限するように構成される。回転動力工具は、圧縮ばねによって与えられたひずみを受けるギヤケースのネック部分に配置されたセンサと、ひずみゲージからの出力信号を受信し、出力信号に基づいてクラッチ機構のトルク設定を判定するように構成された電子制御ユニットとを更に備える。
【0005】
本発明は、別の態様では、ギヤケースと、ギヤケースから延びる出力シャフトと、出力シャフトにトルクを提供して出力シャフトを回転させるように構成された駆動機構とを備える、回転動力工具を提供する。回転動力工具は、出力シャフトと駆動機構との間にあるクラッチ機構を更に備える。クラッチ機構は、圧縮ばねを備え、出力シャフトによって提供されるトルクの量を制限するように構成される。回転動力工具は、圧縮ばねと誘導センサによって放出された磁界との間の相対運動に応じて誘導センサに電圧が誘導されるように圧縮ばねに近接した誘導センサを更に備える。回転動力工具は、誘導センサにおけるインダクタンスの変化を示す、誘導センサからの出力信号を受信し、出力信号に基づいてクラッチ機構のトルク設定を判定するように構成された電子制御ユニットを更に備える。
【0006】
本発明は、別の態様では、ギヤケースと、ギヤケースから延びる出力シャフトと、出力シャフトにトルクを提供して出力シャフトを回転させるように構成された駆動機構とを備える、回転動力工具を提供する。回転動力工具は、出力シャフトと駆動機構との間にあるクラッチ機構を更に備える。クラッチ機構は、圧縮ばねを備え、出力シャフトによって提供されるトルクの量を制限するように構成される。回転動力工具は、圧縮ばねの圧縮長さを調節するように構成されたクラッチ調節アセンブリを更に備える。回転動力工具は、クラッチ調節アセンブリによる圧縮ばねの圧縮長さの調節が阻止されるロックアウト状態と、クラッチ調節アセンブリによる圧縮ばねの圧縮長さの調節が可能である解除状態との間で調節可能であるロックアウト機構を更に備える。
【0007】
本発明の他の特徴及び態様は、以下の詳細な説明及び添付の図面を検討すれば明らかになるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による電動ドライバの前方斜視図である。
【
図2】低トルク設定にあるクラッチ機構を示す、
図1の電動ドライバの線2-2に沿った断面図である。
【
図3】高トルク設定にあるクラッチ機構を示す、
図1の電動ドライバの線2-2に沿った断面図である。
【
図4】クラッチ機構の部分分解図を示す、ハウジングの一部分を取り外した状態の電動ドライバの詳細図である。
【
図5】駆動機構及びクラッチ機構を示す、電動ドライバの一部分の分解斜視図である。
【
図6】クラッチ機構の一部分を示す、
図4の電動ドライバの線6-6に沿った断面図である。
【
図7】クラッチ機構の一部分を示す、ハウジングの一部分を取り外した状態の電動ドライバの詳細図である。
【
図8】クラッチ機構のメインクラッチセンサを示す、電動ドライバの分解斜視図である。
【
図9】メインクラッチセンサから出力された、クラッチ機構が様々なトルク設定の間を移行する際にギヤケースに与えられたひずみの量の信号を示すグラフである。
【
図10】低トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、メインクラッチセンサの代替的な実施形態の平面図である。
【
図11】低トルク設定と高トルク設定との間で可変トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサの平面図である。
【
図12】高トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサの平面図である。
【
図13】低トルク設定と高トルク設定との間でクラッチ機構が移行する際のクラッチスプリングのコイル密度と長さとの比率を示すグラフである。
【
図14】低トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサの代替的な実施形態の平面図である。
【
図15】低トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサの別の代替的な実施形態の平面図である。
【
図16】低トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサの更に別の代替的な実施形態の平面図である。
【
図17】低トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサのまた更に別の代替的な実施形態の平面図である。
【
図18】低トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサのまた更に別の代替的な実施形態の平面図である。
【
図19】低トルク設定にあるクラッチ機構のクラッチスプリングを示す、
図10のメインクラッチセンサのまた更に別の代替的な実施形態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の任意の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されているか、又は以下の図面に図示されている構造の細部及び構成要素の配置に本発明の用途を限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、様々なやり方で実践又は実行することが可能である。また、本明細書において使用される語法及び専門用語は、説明を目的としたものであり、限定するものとみなすべきではないことを理解されたい。
【0010】
図1は、ハウジング14と、ハウジング14内に配置された電気モータ(例えば、ブラシレス電気モータ18、
図2)と、工具10の動作中にワークピースに対して直接的又は間接的に仕事を行う出力シャフト22とを備える動力工具10(例えば、電動ドライバ)を示している。動力工具10は、ワークピースを締め付け過ぎる(すなわち、ワークピースにトルクをかけ過ぎる)ことなく、ワークピースに正確な量のトルクをかける。動力工具10は、バッテリパック26によって電力供給される。他の実施形態では、動力工具10は、電源(例えば、壁コンセント)に接続された電源コードを使用して電力供給される。更に、図示の実施形態の動力工具10は非衝撃回転工具であるが、他の実施形態では、代替的に、動力工具は衝撃回転工具であってもよい。
【0011】
引き続き
図1を参照すると、出力シャフト22は、ワークピース(例えば、締結具)と係合可能なツールビット(図示せず)を受け入れるための六角ソケット30を備える。他の実施形態では、出力シャフト22が異なる構成を備えてもよいし、動力工具10が任意の数の異なる工具の受け入れのための従来のチャックを備えてもよい。動力工具10は、ハンドル34と、ハウジング14に結合されたギヤケース38とを更に備える。出力シャフト22は、ギヤケース38を越えて延びる。ハンドル34は、ユーザが工具10を容易に把持してトリガスイッチ40を介して操作することができるように形状を定められる。バッテリパック26は、ハンドル34に接続し、モータ18に選択的に電力を供給して、動力工具10の駆動機構42を駆動する。図示の実施形態では、バッテリパック26は、ハンドル34に部分的に挿入可能である。
【0012】
図2及び
図3を参照すると、動力工具10がかけるトルクは調節可能である。用途に応じて、ユーザは、動力工具10のトルク設定を調節し、それにより様々且つ正確な量のトルクをかけることができる。図示の実施形態では、ユーザは、
図2に示すような第1の(又は低)トルク設定、
図3に示すような第2の(又は高)トルク設定、又は低トルク設定と高トルク設定との間の任意のレベルのトルクのいずれかを選択する。
【0013】
引き続き
図2及び
図3を参照すると、駆動機構42は、ギヤケース38内に少なくとも部分的に配置された変速機44を備える。変速機44は、1段目ギヤセット50と、2段目ギヤセット52と、3段目ギヤセット54とを備える。図示の実施形態では、3段目ギヤセット54は、ギヤケース38に対して回転する出力キャリア56と、出力キャリア56に回転可能に支持された遊星ギヤ58とを備える。出力キャリア56は、動力工具10のモータ18によって、1段目ギヤセット50及び2段目ギヤセット52を介して駆動又は回転される。
【0014】
出力シャフト22は、出力キャリア56に結合され、出力キャリア56の回転に応じて回転する。図示の実施形態では、駆動軸受62が、出力シャフト22の周囲に周方向に配置される。駆動軸受62は、出力シャフト22とギヤケース38との間に配置されて、出力シャフト22をギヤケース38に対して回転可能に支持する。
【0015】
引き続き
図2及び
図3を参照すると、動力工具10は、クラッチ機構66とクラッチ調節アセンブリ68とを更に備える。クラッチ機構66は、第1の低トルク設定(
図2)と第2の高トルク設定(
図3)との間で動作する。低トルク設定の間、クラッチ機構66は出力シャフト22に正確で低いトルクを伝達する。高トルク設定の間、クラッチ機構66は出力シャフト22に正確で高いトルクを伝達する。クラッチ機構66はまた、低トルク設定と高トルク設定との間にある可変トルク設定で動作して、それぞれの正確なトルクを伝達することが可能である。
【0016】
クラッチ調節アセンブリ68は、
図2及び
図3に示すように、カラー70と、カラー70と共回転可能に結合されるが、カラー70に軸方向に固定されないナット74とを備える。クラッチ機構66は、クラッチスプリング78と、クラッチスプリング78の両方の端部に配置された1対のスプリングエンドプレート82、86とを備える。図示のクラッチスプリング78は圧縮ばねであるが、他の実施形態では、代替的に、ディスクスプリング、円錐コイルスプリング、又はウェーブスプリングなどの異なるばねが使用されてもよい。また、図示のクラッチスプリング78のコイルは、円形の断面形状を含むが、他の実施形態では、クラッチスプリング78は、代替的に、四角形の断面形状を有してもよい。クラッチスプリング78は、出力シャフト22の周囲に配置され、スプリングエンドプレート82、86間で圧縮される。具体的には、クラッチスプリング78は、エンドプレート82に当接する第1の端部88(
図5)と、エンドプレート86に当接する第2の端部90とを備える。クラッチスプリング78は、クラッチ機構66を介して圧縮力の微調節を提供するために、比較的低い剛性を有する。
【0017】
カラー70は、ギヤケース38のネック部分91の周囲に周方向に配置される。ナット74は六角形であり、カラー70と回転可能に結合される。他の実施形態では、ナット74はカラー70にスプライン嵌合されてもよい。ナット74はまた、ギヤケース38のネック部分91に螺結される。よって、ナット74は、カラー70及びギヤケース38に対して軸方向に移動可能である。具体的には、ナット74は、ギヤケース38上の雄ねじ94(
図5)と係合する雌ねじ92(
図5)を備え、これにより、ナット74は、ギヤケース38に対して回転可能であり、ネック部分91に沿って並進可能である。ナット74は、ギヤケース38のネック部分91に沿って、低トルク設定(
図2)と高トルク設定(
図3)との間で軸方向に移動可能である。いくつかの実施形態では、ねじ94は、クラッチ機構66の圧縮力の調節をより細かくするために、細かい螺旋ピッチであってもよい。ナット74は、スプリングエンドプレート82(
図4)上の隆起部96とインターフェースする複数の戻り止め95を備える。ナット74がスプリングエンドプレート82に対して回転すると、隆起部96が摺動して、隣接する戻り止め95に乗り上げ、ユーザが離散トルク設定位置を通してカラー70を回転させたときに、触覚フィードバックを提供する。
【0018】
図2~
図6を参照すると、クラッチ機構66は、クラッチスプリング78とギヤケース38との間の移動(もしあれば)を可能にするスラストワッシャアセンブリ98を更に備える。具体的には、スラストワッシャアセンブリ98は、ギヤケース38に回転が拘束される第1のワッシャ102(
図4)と、第1のワッシャ102とスプリングエンドプレート86との間で摺動接触する第2のワッシャ104とを備える。第2のワッシャ104は、第1のワッシャ102の平坦な面114に沿って転がるために、対応する球面ころ110を受け入れる複数のポケット106を備える。クラッチスプリング78は、ナット74とスラストワッシャアセンブリ98との間で圧縮され、これにより、ギヤケース38のネック部分91に張力がかかる。本実施形態ではスラストワッシャアセンブリ98が組み込まれているが、他の実施形態ではスラストワッシャアセンブリ98が省略されてもよい。
【0019】
ユーザが所望のトルク設定を選択すると、クラッチ調節アセンブリ68は、ロックアウト機構124(
図5)によって意図的又は不用意な調節が生じないようにする。ロックアウト機構124は、カラー70と機械的に干渉して、その回転運動を阻止する。ロックアウト機構124は、例えば、ギヤケース38に結合され、カラー70と選択的に干渉し、その結果、カラー70はギヤケース38に対して回転できなくなる。ロックアウト機構124は、手動又は自動で作動される。つまり、ユーザは、カラー70が回転運動しないようにされるロックアウト状態と、カラー70が回転運動することができる解放状態との間で、ロックアウト機構124を手動で作動させることができる。或いは、動力工具10は、ロックアウト状態と解放状態との間でロックアウト機構124を自動的に作動させてもよい。他の実施形態では、ユーザがトリガスイッチ40を引いたときに工具10が作動しない場合、ロックアウト機構124は、工具10のトルク設定がモバイルアプリケーション(例えば、OneKey(登録商標)アプリ)における指定したトルク設定とは異なる場合に、ユーザに視覚的又は聴覚的な指示を提供するだけでもよい。この場合、動力工具10又はモバイルアプリケーションは、ユーザがクラッチ調節アセンブリ68を調節することを意図したことを確認するために作動されなければならない確認ボタン(物理的又はタッチスクリーン)を有してもよい。また他の実施形態では、ロックアウト機構124は、代替的に、電子スイッチ又はモバイルアプリケーションがロックアウト状態と解放状態との間でロックアウト機構124を作動させることができる電気機械式ロックアウトであってもよい。
【0020】
図5~
図8を参照すると、クラッチ機構66は、ギヤケース38のネック部分91の周囲に周方向に配置され、カラー70に囲まれるワッシャ134を更に備える。ワッシャ134は、ギヤケース38(
図9)の対応する開口部144内に配置された一連のピン138及びボール142(
図5及び
図6)とインターフェースする。一連のピン138及び一連のボール142は、開口部144内で軸方向に整列される。クラッチスプリング78からの圧縮力は、スラストワッシャアセンブリ98を経て、ワッシャ134に与えられる。次いで、ワッシャ134は、詳しく後述するように、クラッチイベントの際、一連のピン138及び一連のボール142にクラッチスプリング78の圧縮力を伝達する。クラッチイベント以外では、ワッシャ134は、単にギヤケース38の前面146に押し付けられる(
図6及び
図8)。
【0021】
図5~
図8を参照すると、ワッシャ134は、ワッシャ134の外周面から延びるL字形のタブ又はアーム136を備える。アーム136は、ギヤケース38の前面146にあるスロット148内に受け入れられる。アーム136は、詳しく後述するように、クラッチイベントの際、ワッシャ134がギヤケース38の前面146から変位したときにスイッチ149(
図7)に接触することができる。
【0022】
引き続き
図5~
図8を参照すると、クラッチ機構66は、一連の突起154を有するリングギヤ150を更に備え、一連の突起154は、リングギヤ150から一連のボール142に向けて軸方向に延びる。3段目ギヤセット54のリングギヤ150は、出力キャリア56及び出力シャフト22を駆動する遊星ギヤ58と噛み合う歯158(
図5)を備える。リングギヤ150は、ギヤケース38に対して回転することができる。通常の動作では、一連のボール142はリングギヤ150の平坦なリム162に係合し、突起154に対して詰まり、リングギヤ150が回転を固定されてトルクがモータ18から出力シャフト22に伝達されるようになっている。しかしながら、クラッチイベントの際、リングギヤ150はギヤケース38に対して回転(又はスリップ)して、突起154が一連のボール142を越えて摺動し、それによりクラッチスプリング78のバイアスに抗して一連のピン138及びワッシャ134に軸方向の変位を与えるようになっている。これは、ワークピースにかかる反作用トルクが、クラッチスプリング78の圧縮力を超える場合に発生する。突起154は、出力シャフト22の反作用トルクがクラッチスプリング78の圧縮力を上回る限り、一連のボール142を越えて摺動し続ける。動力工具10の操作者が工具10をより高い又はより低いトルク設定に調節することを決定した場合、操作者は、クラッチスプリング78がかける圧縮力(すなわち、予荷重)を増やしたり又は減らしたりするには、カラー70を調節するだけでよい。
【0023】
図8を参照すると、動力工具10は、ギヤケース38の空洞170内に配置されたメインクラッチセンサ166を備える。具体的には、メインクラッチセンサ166は、ネック部分91の基部に配置され、基部は、屈曲に耐えるが、張力がかかったときにひずみの影響を受けやすい領域である。センサ166は、1つ又は複数のひずみゲージとして構成されてもよい。例えば、複数のひずみゲージが使用される場合、複数のひずみゲージをホイートストンブリッジで構成してもよい。センサ166は、ギヤケース38のネック部分91に与えられたひずみを検出し、ひずみは、クラッチスプリング78の予荷重に比例する。そのため、クラッチスプリング78の予荷重が(ナット74とナット74のネック部分91に対するねじ接続とを介して)大きくなると、ネック部分91に与えられるひずみの量は増加する。この関係は、クラッチ機構66の摩耗に起因して工具の長期使用で不正確になり得る、カラー70に関して予め定義された離散トルク設定に頼ることなく、トルク設定を判定するために使用され得る。いくつかの実施形態では、例えば曲げ応力、せん断応力、及び温度膨張/収縮応力によって引き起こされる他の変形の検出に対するロバスト性を提供するために、複数のセンサ166が存在してもよい。
【0024】
図8及び
図9を参照すると、動力工具10は、動力工具10が設定されているトルク設定を示すフィードバックをリアルタイムで提供するためのユーザインターフェース178を備える。ユーザインターフェース178を介してユーザに表示されるトルク設定は、クラッチスプリング78が低トルク設定と高トルク設定との間(且つ低トルク設定と高トルク設定とを含む)の様々な予荷重に設定されているときにセンサ166が発生するひずみ信号をマッピングすることに基づく。
図9に示すように、メインクラッチセンサ166は、クラッチ機構66が様々なトルク設定にあるときにネック部分91に与えられるひずみの量を検出し、対応する信号(例えば、レベルA、B、C、D)を出力する。つまり、各レベルA、B、C、Dは、メインクラッチセンサ166において異なるひずみ信号を発生させるクラッチ機構66の離散的な位置を示す。図示の実施形態で発生されるひずみ信号は離散的であるが、他の実施形態では、クラッチ機構66が高トルク設定と低トルク設定との間に無限レベルのトルク設定をユーザに提供する場合、発生される力信号は連続的であり得る。ユーザインターフェース178は、スマートフォンなどの外部デバイスに設けられてもよい。ユーザインターフェース178に加えて、又はその代わりに、動力工具10は、工具10の上部又は工具10の動作中にユーザが見ることができる他の場所に配置された1つ又は複数のユーザフィードバックLED(発光ダイオード)又はLCD(液晶ディスプレイ)179(
図1)を備えてもよい。
【0025】
図5を参照すると、動力工具10はまた、モータ18が引き込む電流を監視する電流センサ182を備えてもよく、この電流もまたモータ18のトルク出力に比例する。ハンドル34(
図2)内に配置されたモータ制御ユニット、すなわちMCU 186は、電流センサ182からのモータ電流信号とメインクラッチセンサ166からのひずみ信号とを受信して比較して、ひずみ信号の精度を求める。ひずみ信号の精度は、例えば、クラッチスプリング78又はクラッチ機構66の他の任意の構成要素の通常の摩耗に起因して、工具の寿命とともに変化し得る。よって、モータ電流信号は、MCU 186が力信号と比較するための第1の基準信号(又は第1のデフォルト信号)を提供する。第1の基準信号(例えば、モータ電流信号)とひずみ信号との間の大きな分散又は偏差に応じて、ユーザインターフェース178は、ユーザにクラッチ機構66を調節するか動力工具10を再較正して工具10によって送達されるトルクのオーバーシュート又はアンダーシュートを除去するように促してもよい。
【0026】
例えば、詳しく後述するように、第1の基準信号はメインクラッチセンサ166からのひずみ信号より高い場合も又は低い場合もあり、この時点でユーザはクラッチ機構66を調節したり、又は工具を再較正したりすることができる。モータ電流センサ182に加えて、又はその代わりに、ロードセル又はトランスデューサ190(
図5)がリングギヤ150上又はリングギヤ150に隣接して設けられて、第2の基準信号(又は第2のデフォルト信号)をMCU 186に提供してもよい。トランスデューサ190は、米国特許第10,357,871号明細書の
図4において参照符号54として識別される、開示されたトランスデューサアセンブリと同様であってもよく、同米国特許の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。第2の基準信号は、リングギヤ150に与えられる回転ひずみの量を示すひずみ信号の形態にあり、ツールビットに与えられる反作用トルクに比例する。第1の基準信号及び第2の基準信号は、ひずみを経ている構成要素のリアルタイムフィードバックを示す。よって、MCU 186は、第1の基準信号と第2の基準信号とを比較して、メインクラッチセンサ166が発生したひずみ信号の精度を求めてもよい。
【0027】
ユーザインターフェース178がユーザに動力工具10の再較正を促す場合では、ユーザは工具10の較正設定を入力し得る。較正設定では、ユーザは、まずクラッチ調節アセンブリ68を介して工具10のトルク設定を機械的に調節することにより、工具10を較正してもよい。その後、工具10は、クラッチ機構66がクラッチイベントを経るおおよそのトルクの独自推定を提供する。次いで、ユーザは、工具10の性能を検査する試験デバイス(図示せず)に監視されながら、工具10を作動させる。試験デバイスは、元の推定と実際の性能との間の差を考慮した調節係数を提供する。この時点で、調節係数がMCU 186に記憶され、これによりユーザインターフェース178から提供された元の推定は、実際の性能に正確である。
【0028】
他の実施形態では、代替的に、製造業者が動力工具10を較正してもよい。例えば、製造業者は、高トルク設定で動力工具10による最大出力トルクを測定する。動力工具10が高トルク設定にあり、クラッチイベントを経たときに、最大トルク出力が求められる。同様に、製造業者は、低トルク設定で動力工具10による最小出力トルクを測定する。動力工具10が低トルク設定にあり、クラッチイベントを経たときに、最小トルク出力が求められる。高トルク設定と低トルク設定との間の各離散トルク設定におけるトルクの出力もまた求められ、この時点でマッピングが工具10に記憶される。
【0029】
また他の実施形態では、動力工具10は、メインクラッチセンサ166が発生する力信号と、第1の基準信号及び第2の基準信号との比較によって較正するだけでよい。具体的には、工具10が較正設定になると、工具10は、ワークピースを駆動するように作動され、この時点でMCU 186はモータ電流センサ182及びトランスデューサ190からの信号を記録する。第1の基準信号(例えば、モータ電流信号)と力信号との間、又は第2の基準信号(例えば、ひずみ信号)と力信号との間に大きな差異又は偏差を検出すると、ユーザインターフェース178が正しいトルク設定を表示できるようにMCU 186は調節係数を記録する。
【0030】
低トルク設定(
図2)のトルク工具を動作させるには、ユーザは、出力シャフト22を物体、例えば締結具に係合させる。モータ18が回転し始めると、3段目ギヤセット54はクラッチ機構66を介して出力キャリア56にトルクを伝達する。出力キャリア56に結合された出力シャフト22が回転し、それに伴い締結具にトルクをかける。低いトルクに達すると、出力シャフト22を介して与えられたトルクがクラッチ機構66の圧縮力に打ち勝つ。この結果、一連のボール142を越えてリングギヤ150が摺動する又は滑る。
【0031】
具体的には、リングギヤ150がギヤケース38に対して回転すると、突起154が一連のボール142を越えて摺動し、この時点で突起154の頂点が開口部144を介して一連のボール142及び一連のピン138を軸方向に変位する。また、この変位により、アーム136がスイッチ149に接触(例えば、直接、電気的になど)するようにワッシャ134も変位する。次いで、スイッチ149は、クラッチイベントが発生したとの信号をMCU 186に中継する。
【0032】
動力工具10がこのクラッチイベントを経ると、出力シャフト22がワークピースに提供していたトルクが遮断される。つまり、動力工具10は、単一のクラッチイベントを検出すると停止される。クラッチ機構66内でクラッチイベントが発生すると、モータ電流センサ182が検出したモータ電流信号が急激に変化する。モータ電流信号の急な変化は、モータ電流センサ182からMCU 186に中継され、この時点でMCU 186を介して動力工具10が停止される。よって、動力工具10が低トルク設定にあるとき、出力シャフト22は、締結具に低いトルクを正確にかけることができ、クラッチイベントを検知すると動力工具10が停止することに起因して、低トルク設定を越えたトルクを締結具にかけることはできない。いくつかの実施形態では、スイッチ149によってMCU 186に送信された信号は、追加的又は代替的に、動力工具10を停止させることもできる。
【0033】
図3を参照すると、クラッチ機構66は、カラー70を回転させることにより、ナット74を並進させてクラッチスプリング78を圧縮することにより、高トルク設定に作動される。図示の実施形態では、カラー70は、ナット74が並進して高トルク設定になるまで回転される。カラー70は、ナット74が高トルク設定に到達すると回転を停止して、クラッチ機構66が高トルク設定に設定されたことを知らせる。ナット74はクラッチスプリング78を圧縮し、それによりスラストワッシャアセンブリ98及びワッシャ134に対してより大きな圧縮力をかける。
【0034】
高トルク設定(
図3)の動力工具10を動作させるには、ユーザは、出力シャフト22を物体、例えば締結具に係合させる。モータ18が回転し始めると、3段目ギヤセット54はクラッチ機構66を介して出力キャリア56にトルクを伝達する。出力キャリア56に結合された出力シャフト22が回転し、それに伴い締結具にトルクをかける。高いトルクに達すると、出力シャフト22を介して与えられたトルクがクラッチ機構66の圧縮力に打ち勝つ。この結果、一連のボール142を越えてリングギヤ150が摺動する又は滑る。
【0035】
具体的には、リングギヤ150がギヤケース38に対して回転すると、突起154が一連のボール142を越えて摺動し、この時点で突起154の頂点が開口部144を介して一連のボール142及び一連のピン138を軸方向に変位する。また、この変位により、アーム136がスイッチ149に接触するようにワッシャ134も変位する。次いで、スイッチ149は、クラッチイベントが発生したとの信号をMCU 186に中継する。
【0036】
動力工具10がこのクラッチイベントを経ると、出力シャフト22がワークピースに提供していたトルクが遮断される。つまり、動力工具10は、単一のクラッチイベントを検出すると停止される。クラッチ機構66内でクラッチイベントが発生すると、モータ電流センサ182が検出したモータ電流信号が急激に変化する。モータ電流信号の急な変化は、モータ電流センサ182からMCU 186に中継され、この時点でMCU 186を介して動力工具10が停止される。よって、動力工具10が高トルク設定にあるとき、出力シャフト22は、締結具に高いトルクを正確にかけることができ、クラッチイベントを検知すると動力工具10が停止することに起因して、高トルク設定を越えたトルクを締結具にかけることはできない。いくつかの実施形態では、スイッチ149によってMCU 186に送信された信号は、追加的又は代替的に、動力工具10を停止させることもできる。
【0037】
動力工具10を低トルク設定に戻すには、ユーザは、ナット74が並進して低トルク設定になるまでカラー70を回転させる(
図2)。低トルク設定では、ナット74は、クラッチスプリング78が高トルク設定の圧縮長さを名目上上回る長さに拡大できるように配置される。
【0038】
更なる実施形態では、動力工具10は、カラー70を回転させて、低トルク設定(
図2)と高トルク設定(
図3)の間の特定の位置までナット74を並進させることにより、可変トルク設定で動作する。クラッチスプリング78は、離散的な位置のそれぞれにおいて異なる量だけ圧縮され、これにより、スラストワッシャアセンブリ98及びワッシャ134に対応する圧縮力が発生する。これにより、クラッチ機構66はトルク設定のそれぞれにおいて異なる正確なトルク出力を発生する。
【0039】
更なる実施形態では、動力工具10は、電場応答性高分子材料、リニアアクチュエータ、又は油圧アクチュエータを使用してクラッチスプリング78の圧縮率を電子的に変化させることにより、可変トルク設定で動作する。電場応答性高分子材料は、例えば、クラッチスプリング78を囲み、電界によって刺激されるとサイズを変える(例えば、変形する)ことにより、電場応答性高分子材料の変形に応じてクラッチスプリング78の圧縮率を変化させることができる。このような実施形態では、クラッチスプリング78及びカラー70は、省略されてもよく、クラッチ機構66の調節は、電子的に(例えば、ユーザインターフェース178を使用して)なされてもよい。
【0040】
更に他の実施形態では、動力工具10は、モータ18を使用してクラッチスプリング78の圧縮率を変化させることにより、可変トルク設定で動作する。通常、モータ18は出力シャフト22のみを駆動するが、このような代替実施形態では、ユーザがモータ18のトルクの印加を出力シャフト22からクラッチスプリング78に偏位させてもよい。つまり、モータ18が作動されてクラッチスプリング78の圧縮率を変化させるように、モータ18をクラッチスプリング78に選択的に結合するシフト機構が設けられてもよい。カラー70を調節する代わりに、ユーザは単に、シフト機構をクラッチ調節モードに作動させた後、トリガスイッチ40を押してモータ18を作動させ、クラッチスプリング78を圧縮/圧縮解除するだけでよい。
【0041】
スイッチ149は、クラッチイベントに応じて動力工具10を停止させる信号をMCU 186に送信することができるが、他の実施形態では、同様のタイプのセンサが、代替的に、クラッチスプリング78、スプリングエンドプレート86、スラストワッシャアセンブリ98、一連のピン138、及び/又は一連のボール142に隣接して配置されて、その軸方向変位を検出してもよい。クラッチ機構66における任意の構成要素の軸方向変位は、クラッチイベント中にリングギヤ150の突起154によって一連のボール142が変位されていることを示す。
【0042】
また、MCU 186は、検出されたトルクがクラッチ機構66によって設定された目標トルクよりも一定の割合大きいときに動力工具10を停止させるように設定されてもよい。例えば、ユーザがクラッチ機構66を介して目標トルクを100フィートポンドに設定し、オーバーシュートの可能性を10%に制限した場合、動力工具10が110フィートポンドの反作用トルクを経ると、動力工具10は自動的に動力工具10をシャットダウンさせることができる。いくつかの実施形態では、ユーザは、オーバーシュートの可能性を5%、10%、又は出力の変動がクラッチの変動を含むクラッチの能力内の任意の値に上限を設定できる。
【0043】
図10~
図13は、本発明の別の実施形態によるメインクラッチセンサ466を示している。
図10~
図13に示すメインクラッチセンサ466は、
図1~
図9に示す動力工具10のメインクラッチセンサ166と同様であり、同様の構造は、同様の参照符号に300を加えて識別される。メインクラッチセンサ466は、ばね378の圧縮長さを検出してクラッチスプリング378の予荷重を求めることができ、次いで予荷重は、クラッチ機構366のトルク設定の形態でユーザに伝達される。
【0044】
図10を参照すると、メインクラッチセンサ466は、誘導センサ474と、導体すなわちターゲット376とを備える。本実施形態では、導体376はクラッチスプリング378であり、導体376は誘導センサ474と隣接し、且つ誘導センサ474からオフセットされて配置される。
図14に示すような他の実施形態では、メインクラッチセンサ766は、誘導センサ774と平行に配置される代わりに、誘導センサ774の周りに周方向に配置される導体すなわちターゲット676(例えば、ばね678)を備える。
【0045】
再び
図10を参照すると、誘導センサ474は、第1の端部494と、第1の端部494とは反対側にある第2の端部498とを備える。誘導センサ474は、MCU 486に誘導信号を伝達し得る。誘導センサ474は、コイル線を有するように構成される。センサ474にAC電圧が印加されると、電磁界が形成される。ファラデーの電磁誘導の法則に基づいて、導体376と誘導センサ474の磁界との間の相対運動に応じて、導体376に電圧が誘導され、これにより、誘導センサ474が形成した電磁界に対抗する渦電流が導体376に発生する。これにより、誘導センサ474のインダクタンスが変化し、これを測定して、ばね378の圧縮長さL(すなわち、L
0、L
1、L
2)の指標として使用することができる。
図10では図示していないが、誘導センサ474はLCタンク回路として構成され、その周波数(以下、「誘導信号」と称する)はインダクタンスの変化に対応して変化する。
【0046】
図10に示すように、誘導センサ474は、誘導センサ474の長さに沿って不均一な巻線密度を有するリニア誘導センサである。換言すれば、誘導センサ474は、センサ474の第1の端部494では比較的低い巻線密度を有し、センサ474の第2の端部498では比較的高い巻線密度を有する。誘導センサ474に対する導体376(例えば、クラッチスプリング378)の移動に応じた、測定されたセンサ474のインダクタンスの変化は、動力工具10がどのトルク設定に設定されているかをユーザに示すために使用され得る。
図15に示すような他の実施形態では、メインクラッチセンサ1066は、センサの長さ(又は直径)全体を通して巻線の数又は密度が同じであるように、均一な巻線密度を代替的に有し得る誘導センサ1074を備える。
【0047】
図10~
図13を参照すると、誘導センサ474が出力する信号は、クラッチスプリング378が圧縮されると変化する。例えば、クラッチスプリング378(又は導体376)の圧縮長さLがL
0(
図10)のとき、誘導センサ474は、L
0のクラッチスプリング378のコイル密度に対応する誘導信号をMCU 486に中継する。同様に、クラッチスプリング378(又は導体376)の圧縮長さLがL
1(
図11)のとき、誘導センサ474は、L
1のクラッチスプリング378のコイル密度に対応する誘導信号をMCU 486に中継する。また、クラッチスプリング378がL
2(
図12)又は他の任意の長さの場合のコイル密度に対応する誘導信号もMCU 486に送信される。MCU 486は、各圧縮長さLで発生される誘導信号に対応する動力工具10のトルク設定をユーザインターフェース178に出力するように予めプログラムされる。
【0048】
図10~
図15に示すメインクラッチセンサ466、766、1066の実施形態を用いた動力工具10の動作では、ユーザがクラッチ機構366、666、966を介してトルク設定を調節して、導体376、676、976(例えば、ばね378、678、978)を圧縮させる。圧縮長さLが減少すると、導体376、676、976のコイル密度が増加し、それによって誘導センサ474、774、1074の出力(例えば、誘導信号)が比例して変化する。誘導信号はMCU 486に中継され、信号は、どの圧縮長さLが信号に関連しているかを判定するように処理される。MCU 486は、受信した誘導信号を介して圧縮長さLを求めると、予荷重(又は特定のトルク設定)が、補間されて、ユーザインターフェース178を介してユーザに表示される。例えば、誘導センサ474、774、1074は、導体376、676、976が長さL
0(
図10)にあるとき、第1の誘導信号をMCU 486に中継し、MCU 486は、第1の誘導信号を長さL
0に関連付ける。つまり、クラッチ機構366、666、966は低トルク設定である。その後、ユーザインターフェース178は、動力工具10が低トルク設定にあることをユーザに通知する。操作者がクラッチ機構366、666、966を介してトルク設定を高トルク設定(又は低トルク設定と高トルク設定との間の何らかの漸進的トルク設定)に調節すると、導体376、676、976(例えば、ばね378、678、978)は更に圧縮される。この圧縮により、誘導センサ474、774、1074が発生する誘導信号において変化が生じる。第2の誘導センサが、導体376、676、976が長さL
2(
図12)にあるとき、MCU 486に中継され、この時点で、MCU 486は、第2の誘導信号を長さL
2に関連付ける。つまり、クラッチ機構366、666、966は高トルク設定である。
【0049】
較正設定では、ユーザは、まずクラッチ調節アセンブリ68を介して工具10のトルク設定を機械的に調節して、例えば高トルク設定にすることにより、工具10を較正してもよい。動力工具10が高トルク設定にあり、クラッチイベントを経たときに、最大トルク出力が求められる。次いで、ユーザは、クラッチ調節アセンブリ68を介して工具10のトルク設定を低トルク設定に機械的に調節する。動力工具10が低トルク設定にあり、クラッチイベントを経たときに、最小トルク出力が求められる。ここで、工具10は、2つの点(例えば、低い点及び高い点)を記憶しており、この時点で、線形補間が使用されて、誘導センサ474、774、1074を介して誘導ベースの測定を使用して工具10を自己較正してもよい。
【0050】
図16は、本発明の別の実施形態によるメインクラッチセンサ1366を示している。
図16に示すメインクラッチセンサ1366は、
図10~
図13に示す動力工具10のメインクラッチセンサ466と同様であり、同様の構造は、同様の参照符号に「900」を加えて識別される。
【0051】
図16を参照すると、メインクラッチセンサ1366は、誘導センサ1374と、導体すなわちターゲット1276とを備える。本実施形態では、導体1276は、クラッチスプリング1278に結合され、クラッチスプリング1278から延びた片持ち状態とされ、誘導センサ1374に重なる。つまり、クラッチスプリング1278はメインクラッチセンサ1366に隣接し、且つメインクラッチセンサ1366からオフセットされて配置されるとともに、導体1276はメインクラッチセンサ1366に整列して重なって配置される。誘導センサ1374は、第1の端部1394と、第1の端部1394とは反対側にある第2の端部1398とを備える。導体1276は誘導センサ1374に対して比較的幅狭であり、これにより導体1276が誘導センサ1374に対して正確にどこに配置されているかを正確に検出することができる。具体的には、誘導センサ1374は、導体1276が、第1の端部1394に隣接して配置されているか、第2の端部1398に隣接して配置されているか、第1の端部1394と第2の端部1398との間のどこかに配置されているかを検出することができる。いくつかの実施形態では、導体1276はナット74であり、ナット74の移動によってセンサ474のインダクタンスに変化が生じ、インダクタンスの変化を測定して動力工具10がそのトルク設定に設定されているかをユーザに示すことができるようになっている。
【0052】
図16に示すように、誘導センサ1374は、誘導センサ1374の長さに沿って不均一な巻線密度を有するリニア誘導センサである。換言すれば、誘導センサ1374は、センサ1374の第1の端部1394では比較的低い巻線密度を有し、センサ1374の第2の端部1398では比較的高い巻線密度を有する。
図17に示すような他の実施形態では、メインクラッチセンサ1666は、センサの長さ(又は直径)全体を通して巻線の数又は密度が同じであるように、均一な巻線密度を代替的に有し得る誘導センサ1674を備える。また、
図18に示すような他の実施形態では、メインクラッチセンサ1766が、正弦波及び余弦波の幾何学的形状を代替的に有し得る誘導センサ1774を備える。メインクラッチセンサ1366の本実施形態では、センサ1374に対する導体1276の移動に応じた、測定されたセンサ1374のインダクタンスの変化を使用して、動力工具10がどのトルク設定に設定されているかをユーザに示すことができる。
【0053】
図19は、本発明の別の実施形態によるメインクラッチセンサ1966を示している。
図19に示すメインクラッチセンサ1966は、
図10~
図13に示す動力工具10のメインクラッチセンサ466と同様であり、同様の構造は、同様の参照符号に「1500」を加えて識別される。
【0054】
図19を参照すると、メインクラッチセンサ1966は、第1の誘導センサ1974aと、第2の誘導センサ1974bと、導体すなわちターゲット1876とを備える。本実施形態では、導体1876はクラッチスプリング1878であり、導体1876は誘導センサ1974a、1974bの周囲に周方向に配置される。他の実施形態では、導体1876(例えば、ばね1878又は片持ちアーム)は、代替的に、第1の誘導センサ1974a及び第2の誘導センサ1974bに隣接し、且つ第1の誘導センサ1974a及び第2の誘導センサ1974bからオフセットされてもよい。
図19に示すように、誘導センサ1974a、1974bは、誘導センサ1974a、1974bの直径に沿って均一な巻線密度を有する円形誘導センサである。他の実施形態では、誘導センサ1974a、1974bは、代替的に、センサの長さ全体を通して巻線数又は巻線密度が変化するような不均一な巻線密度を有してもよい。メインクラッチセンサ1966の本実施形態では、センサ1974a、1974bに対する導体1876の移動に応じた、測定されたセンサ1974a、1974bのインダクタンスの変化は、基準クロック1972からの一定の基準信号と比較されて、動力工具10がどのトルク設定に設定されているかをユーザに示すことができる。
【0055】
第1の誘導センサ1974aはクラッチスプリング1878の第1の端部1888に隣接して配置され、第2の誘導センサ1974bはクラッチスプリング1878の第2の端部1890に隣接して配置される。第1の誘導センサ1974a及び第2の誘導センサ1974bは、トルク機構1866が低トルク設定と高トルク設定との間で調節される場合に誘導センサ1974a、1974bが移動しないように静止している。誘導センサ1974a、1974bは、導体1876と誘導センサ1974a、1974bの磁界との間の相対運動に対応する誘導信号をMCU 1986に伝達し得る。上述のように、このことにより、導体1876には、誘導センサ1974a、1974bによって形成された電磁界に対抗する渦電流が発生する。これにより、誘導センサ1974a、1974bのインダクタンスが変化し、インダクタンスの変化は、導体1876の長さL(例えば、L0、L1、L2)、ひいてはトルクの量を判定するために部分的に使用される。
【0056】
引き続き
図19を参照すると、基準クロック1972は、基準クロック1972が導体1876の渦電流の影響を受けないように、導体1876から分離される。したがって、基準クロック1972は一定の基準信号を出力するように動作可能であり、その目的を以下に詳述する。MCU 1986及びメインクラッチセンサ1366は、誘導センサ1974a、1974bの出力及び基準クロック1972を受信し、ユーザインターフェース178に電気的に接続される。MCU 1986は、第1の誘導センサ1974aからの導体1876の位置の変化を示す第1の誘導信号、第2の誘導センサ1974bからの導体1876の位置の変化を示す第2の誘導信号、及び基準クロック1972からの一定の基準信号を連続して受信する。
【0057】
第1の誘導信号及び第2の誘導信号並びに一定の基準信号を入力として使用して、MCU 1986は、一定の基準信号に対する誘導信号の比率である周波数比を計算するように動作可能である。具体的には、MCU 1986は、第1の周波数比と第2の周波数比とを計算し、第1の周波数比を示す第1の比率信号と第2の周波数比を示す第2の比率信号とをMCU 1986にデジタルで出力する。MCU 1986は、第1の比率信号及び第2の比率信号を補間して、工具10がどのトルク設定に設定されているかを判定するように動作可能である。トルク設定が判定されると、MCU 1986はトルク設定をユーザインターフェース178に出力する。
【0058】
本発明の様々な特徴は、以下の特許請求の範囲に記載されている。