(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】シリコン炭素複合負極材料及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241125BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241125BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241125BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/48
(21)【出願番号】P 2023516632
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(86)【国際出願番号】 CN2021123543
(87)【国際公開番号】W WO2022174598
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】202110193665.9
(32)【優先日】2021-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520417045
【氏名又は名称】貝特瑞新材料集団股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BTR NEW MATERIAL GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7A, 7B, and 8, High-Tech Industrial Park, Xitian Community, Gongming Office, Guangming New District Shenzhen, Guangdong 518106 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 鵬
(72)【発明者】
【氏名】肖 称茂
(72)【発明者】
【氏名】郭 鍔明
(72)【発明者】
【氏名】任 建国
(72)【発明者】
【氏名】賀 雪琴
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-210962(JP,A)
【文献】特開2009-301935(JP,A)
【文献】特開2017-098005(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036127(WO,A1)
【文献】特開2015-037057(JP,A)
【文献】特開2015-115137(JP,A)
【文献】特開2018-181710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0280060(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系活物質粒子、導電材及び炭素被覆層を有するシリコン炭素複合負極材料であって、
前記炭素被覆層は、前記シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に位置し、
前記シリコン系活物質粒子は、CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であ
り、
前記シリコン系活物質粒子中のSi
4+
の含有量は、0.05質量%~5質量%であることを特徴とするシリコン炭素複合負極材料。
【請求項2】
コアシェル構造のシリコン炭素複合負極材料であって、
前記シリコン炭素複合負極材料は、シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆する炭素被覆層を有し、
CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であ
り、
前記シリコン系活物質粒子中のSi
4+
の含有量は、0.05質量%~5質量%であることを特徴とするシリコン炭素複合負極材料。
【請求項3】
コアシェル構造のシリコン炭素複合負極材料であって、
コア部に前記シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子同士の間に介在される前記導電材を有し、
シェル部に前記炭素被覆層を有することを特徴とする請求項1に記載のシリコン炭素複合負極材料。
【請求項4】
以下のa~
eのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1
又は3に記載のシリコン炭素複合負極材料。
a.前記シリコン系活物質粒子は、Si、SiO
x(0<x≦2)及びシリコン合金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記シリコン系活物質粒子は、メジアン径が5nm~120nmである;
c.前記シリコン系活物質粒子は、ナノインデンテーション法で測定される硬度が3Gpa~20Gpaである;
d.前記導電材は、グラファイトシート、カーボンナノチューブ、炭素繊維及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
e.前記炭素被覆層は、厚さが50nm~2500nmである。
【請求項5】
以下のa~fのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン炭素複合負極材料。
a.前記シリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が5μm~30μmである;
b.前記シリコン炭素複合負極材料は、比表面積が0.5m
2/g~10m
2/gである;
c.前記シリコン炭素複合負極材料は、圧粉密度が0.4g/cm
3~1.2g/cm
3である;
d.前記シリコン炭素複合負極材料中の炭素元素の含有量は、15質量%~65質量%である;
e.前記シリコン炭素複合負極材料中のシリコン系活物質粒子の含有量は、15質量%~70質量%である;
f.前記シリコン炭素複合負極材料中の導電材の含有量は、5質量%~70質量%である。
【請求項6】
CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であ
り、Si
4+
の含有量は0.05質量%~5質量%であるシリコン系活物質粒子を、有機溶媒に添加し、分散して前駆体溶液を得る工程と、
前記前駆体溶液に導電材及び炭素源前駆体を添加して負極材料前駆体を得る工程と、 前記負極材料前駆体を熱処理して、シリコン系活物質粒子と、導電材と、前記シリコン系活物質粒子及び/又は前記導電材の表面に形成した炭素被覆層とを含むシリコン炭素複合負極材料を得る工程と、
を含むことを特徴とするシリコン炭素複合負極材料の製造方法。
【請求項7】
CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であ
り、Si
4+
の含有量は0.05質量%~5質量%であるシリコン系活物質粒子を、有機溶媒に添加し、分散して前駆体溶液を得る工程と、
前記前駆体溶液に炭素源前駆体を添加して負極材料前駆体を得る工程と、
前記負極材料前駆体を熱処理して、シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子の表面の少なくとも一部に形成した炭素被覆層を有するシリコン炭素複合負極材料を得る工程と、
を含むことを特徴とするシリコン炭素複合負極材料の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン系活物質粒子は、以下のa~
cのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
a.前記シリコン系活物質粒子は、メジアン径が5nm~120nmである;
b.前記シリコン系活物質粒子は、硬度が3Gpa~20Gpaである;
c.前記シリコン系活物質粒子は、Si、SiO
x(0<x≦2)及びシリコン合金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【請求項9】
前記シリコン炭素複合負極材料は、以下のa~eのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
a.前記シリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が5μm~30μmである;
b.前記シリコン炭素複合負極材料は、比表面積が0.5m
2/g~10m
2/gである;
c.前記シリコン炭素複合負極材料は、圧粉密度が0.4g/cm
3~1.2g/cm
3である;
d.前記シリコン炭素複合負極材料中の炭素元素の含有量は、15質量%~65質量%である;
e.前記シリコン炭素複合負極材料中のシリコン系活物質粒子の含有量は、15質量%~70質量%である。
【請求項10】
以下のa~dのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項
6に記載の製造方法。
a.前記シリコン系活物質粒子、前記導電材及び前記炭素源前駆体の質量比は、(10~70):(5~30):(15~40)である;
b.前記導電材は、グラファイトシート、カーボンナノチューブ、炭素繊維及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
c.前記炭素源前駆体は、スクロース、グルコース、ポリエチレン、ポリアニリン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル及びピッチからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
d.前記シリコン炭素複合負極材料中の導電材の含有量は、5質量%~70質量%である。
【請求項11】
以下のa~bのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項7、8又は9のいずれか一項に記載の製造方法。
a.前記シリコン系活物質粒子と前記炭素源前駆体の質量比は、(10~70):(15~40)である;
b.前記炭素源前駆体は、スクロース、グルコース、ポリエチレン、ポリアニリン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル及びピッチからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【請求項12】
シリコン系活物質粒子を有機溶媒に分散させた後、界面活性剤を前記有機
溶媒に添加する工程をさらに含み、
前記界面活性剤は、ポリビニルアルコール、n-オクタデカン酸、ポリエチレングリコール、ラウリン酸、ポリアクリル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、n-エイコサン酸、ポリ塩化ビニル及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つを含み、及び/又は
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、n-ブタノール、イソブタノール及びペンタノールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項13】
以下のa~cのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
a.前記熱処理の温度は、500℃~1200℃である;
b.前記熱処理の時間は、1h~9hである;
c.前記熱処理の昇温速度は、1℃/min~15℃/minである。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一項に記載のシリコン炭素複合負極材
料を有することを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2021年2月20日付で中国専利局に提出した、出願番号が2021101936659、発明の名称が「シリコン炭素複合負極材料及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全ての内容を本明細書に援用する。
本発明は、負極材料の技術分野に関し、具体的には、シリコン炭素複合負極材料及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、出力が高く、サイクル寿命が長く、環境汚染が少ない等の利点を持つため、電気自動車及びコンシューマエレクトロニクスに幅広く適用されている。電池のエネルギー密度を高くするために、シリコン系負極材料の研究及び開発が成熟しつつある。しかし、シリコン系負極材料は、リチウムを放出・吸蔵する際に体積膨張が大きく(>300%)、シリコン系負極材料は、充放電中に粉化し、集電体から脱落してしまい、結果、活物質と集電体との間に電気的接触が失われ、それにより電気化学特性が悪くなり、容量が減衰し、サイクル安定性が低下し、商品化されにくい。シリコン系負極材料の導電性及びサイクル安定性を向上させるために、ナノ化、多孔質化や炭素被覆などの技術により改善することができ、そのうち、シリコン系材料自体の改変は重要な方向性の一つである。
【0003】
したがって、負極材料の体積膨張を抑制し、材料のサイクル安定性を向上するシリコン炭素複合負極材料の開発は、急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記問題点に鑑み、本発明は、負極材料の体積膨張を効果的に抑制し、電池サイクル特性を向上させることができるシリコン炭素複合負極材料及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池を提供し、当該製造方法で製造コストを低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1態様によれば、シリコン系活物質粒子、導電材及び炭素被覆層を有するシリコン炭素複合負極材料であって、
前記炭素被覆層は、前記シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に位置し、
前記シリコン系活物質粒子は、CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であるシリコン炭素複合負極材料を提供する。
【0006】
上記した技術案において、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピ
ークの半値幅が0.5°以上であるようにシリコン系活物質粒子自体の性能パラメータを制御することにより、シリコンの体積膨張の抑制、負極膨張率の低減、負極充放電効率の改善、電池サイクル特性の向上に有利である。
【0007】
本発明の第2態様によれば、
コアシェル構造のシリコン炭素複合負極材料であって、
前記シリコン炭素複合負極材料は、シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆する炭素被覆層を有し、
前記シリコン炭素複合負極材料は、CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であるシリコン炭素複合負極材料をさらに提供する。
【0008】
一実施形態では、前記シリコン炭素複合負極材料は、コア部に前記シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子同士の間に介在される前記導電材を有し、シェル部に前記炭素被覆層を有するコアシェル構造である。
【0009】
一実施形態では、前記シリコン炭素複合負極材料は、以下のa~fのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記シリコン系活物質粒子は、Si、SiOx(0<x≦2)及びシリコン合金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む;
b.前記シリコン系活物質粒子は、メジアン径が5nm~120nmである;
c.前記シリコン系活物質粒子は、ナノインデンテーション法で測定される硬度が3Gpa~20Gpaである;
d.前記シリコン系活物質粒子中のSi4+の含有量は、0.05質量%~5質量%である;
e.前記導電材は、グラファイトシート、カーボンナノチューブ、炭素繊維及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
f.前記炭素被覆層は、厚さが50nm~2500nmである。
【0010】
一実施形態では、前記シリコン炭素複合負極材料は、以下のa~fのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記シリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が5μm~30μmである;
b.前記シリコン炭素複合負極材料は、比表面積が0.5m2/g~10m2/gである;
c.前記シリコン炭素複合負極材料は、圧粉密度が0.4g/cm3~1.2g/cm3である;
d.前記シリコン炭素複合負極材料中の炭素元素の含有量は、15質量%~65質量%である;
e.前記シリコン炭素複合負極材料中のシリコン系活物質粒子の含有量は、15質量%~70質量%である;
f.前記シリコン炭素複合負極材料中の導電材の含有量は、5質量%~70質量%である。
【0011】
本発明の第3態様によれば、
CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値
幅が0.5°以上であるシリコン系活物質粒子を、有機溶媒に添加し、分散して前駆体溶液を得る工程と、
前記前駆体溶液に導電材及び炭素源前駆体を添加して負極材料前駆体を得る工程と、
前記負極材料前駆体を熱処理して、シリコン系活物質粒子と、導電材と、前記シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に形成した炭素被覆層とを含むシリコン炭素複合負極材料を得る工程と、
を含むシリコン炭素複合負極材料の製造方法を提供する。
【0012】
上記した技術案において、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピ
ークの半値幅が0.5°以上であるようにシリコン系活物質粒子自体の性能パラメータを制御し、製造中に、シリコン系活物質粒子、導電材、及び炭素源前駆体を溶媒に混合し、そして熱処理することで負極材料が得られ、該負極材料は、シリコンの体積膨張の抑制、負極膨張率の低減、負極充放電効率の改善、電池サイクル特性の向上に有利である。
【0013】
本発明の第4態様によれば、
CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値
幅が0.5°以上であるシリコン系活物質粒子を、有機溶媒に添加し、分散して前駆体溶液を得る工程と、
前記前駆体溶液に炭素源前駆体を添加して負極材料前駆体を得る工程と、
前記負極材料前駆体を熱処理して、シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子の表面の少なくとも一部に形成した炭素被覆層を有するシリコン炭素複合負極材料を得る工程と、
を含むシリコン炭素複合負極材料の製造方法を提供する。
【0014】
上記した技術案において、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピ
ークの半値幅が0.5°であるようにシリコン系活物質粒子自体の性能パラメータを制御し、製造中に、シリコン系活物質粒子、及び炭素源前駆体を溶媒に混合し、そして熱処理することにより負極材料が得られ、該負極材料は、シリコンの体積膨張の抑制、負極膨張率の低減、負極充放電効率の改善、電池サイクル特性の向上に有利である。
【0015】
一実施形態では、前記シリコン系活物質粒子は、以下のa~dのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記シリコン系活物質粒子中のSi4+の含有量は、0.05質量%~5質量%である;
b.前記シリコン系活物質粒子は、メジアン径が5nm~120nmである;
c.前記シリコン系活物質粒子は、硬度が3Gpa~20Gpaである;
d.前記シリコン系活物質粒子は、Si、SiOx(0<x≦2)及びシリコン合金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0016】
一実施形態では、前記シリコン炭素複合負極材料は、以下のa~eのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記シリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が5μm~30μmである;
b.前記シリコン炭素複合負極材料は、比表面積が0.5m2/g~10m2/gである;
c.前記シリコン炭素複合負極材料は、圧粉密度が0.4g/cm3~1.2g/cm3である;
d.前記シリコン炭素複合負極材料中の炭素元素の含有量は、15質量%~65質量%である;
e.前記シリコン炭素複合負極材料中のシリコン系活物質粒子の含有量は、15質量%~70質量%である。
【0017】
一実施形態では、前記シリコン炭素複合負極材料中の導電材の含有量は、5質量%~70質量%である。
【0018】
一実施形態では、前記方法は、以下のa~cのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記シリコン系活物質粒子、前記導電材及び前記炭素源前駆体の質量比は、(10~70):(5~30):(15~40)である;
b.前記導電材は、グラファイトシート、カーボンナノチューブ、炭素繊維及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
c.前記炭素源前駆体は、スクロース、グルコース、ポリエチレン、ポリアニリン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル及びピッチからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0019】
一実施形態では、前記方法は、以下のa~bのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記シリコン系活物質粒子と前記炭素源前駆体の質量比は、(10~70):(15~40)である;
b.前記炭素源前駆体は、スクロース、グルコース、ポリエチレン、ポリアニリン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル及びピッチからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0020】
一実施形態では、シリコン系活物質粒子を有機溶媒に分散させた後、前記方法は、界面活性剤を前記有機溶剤に添加する工程をさらに含み、ただし、
前記界面活性剤は、ポリビニルアルコール、n-オクタデカン酸、ポリエチレングリコール、ラウリン酸、ポリアクリル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、n-エイコサン酸、ポリ塩化ビニル及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つを含み、及び/又は
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、n-ブタノール、イソブタノール及びペンタノールからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0021】
一実施形態では、前記方法は、以下のa~cのうちの少なくとも1つを満たす。
a.前記熱処理の温度は、500℃~1200℃である;
b.前記熱処理の時間は、1h~9hである;
c.前記熱処理の昇温速度は、1℃/min~15℃/minである。
【0022】
本発明の第5態様によれば、前記シリコン炭素複合負極材料、又は前記シリコン炭素複合負極材料の製造方法で製造された負極材料を有するリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の技術案は、少なくとも以下の有益な効果を奏しうる。
本発明に係るシリコン炭素複合負極材料では、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であり、シリコン系活物質粒子の結晶粒が小さく、シリコンの体積膨張を効果的に低減し、サイクル特性を向上させることができる。その他の有益な効果を具体的な実施形態において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施例に係るシリコン炭素複合負極材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】本発明の実施例に係るシリコン炭素複合負極材料の別の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の実施例に係るシリコン炭素複合負極材料におけるシリコン系活物質粒子の高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
【
図4】本発明の実施例に係るシリコン炭素複合負極材料の製造方法のフローチャートである。
【
図5】本発明の実施例に係るシリコン炭素複合負極材料の製造方法の別のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に述べられるのは、本発明実施例の好ましい実施形態である。なお、当業者にとって、本発明実施例の原理から逸脱せず、いくつかの改良及び変更を実行することができ、これらの改良及び変更も本発明実施例の保護範囲内にあると認識される。
【0026】
従来のリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、出力が高く、サイクル寿命が長く、環境汚染が少ない等の利点を持つため、電気自動車及びコンシューマエレクトロニクスに幅広く適用されている。電池のエネルギー密度を高くするために、シリコン系負極材料の研究及び開発が成熟しつつある。しかし、シリコン系負極材料は、リチウムを放出・吸蔵する際に体積膨張が大きく(>300%)、シリコン系負極材料は、充放電中に粉化し、集電体から脱落してしまい、結果、活物質と集電体との間に電気的接触が失われ、それにより電気化学特性が悪くなり、容量が減衰し、サイクル安定性が低下し、実用化が難しい。シリコン系負極材料の導電性及びサイクル安定性を向上させるために、シリコン系材料自体を改変させて、シリコン系負極材料の導電性及びサイクル安定性を向上させることができる。
【0027】
第1態様によれば、シリコン系材料自体改変の観点から、本発明に係るシリコン炭素複合負極材料は、シリコン系活物質粒子、導電材及び炭素被覆層を有する。
【0028】
いくつかの実施形態において、炭素被覆層は、シリコン系活物質粒子の表面に位置する。
いくつかの実施形態において、炭素被覆層は、導電材の表面に位置する。
【0029】
いくつかの実施形態において、炭素被覆層は、シリコン系活物質粒子と導電材の両方の表面に位置する。
【0030】
シリコン系活物質粒子は、CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上である。
【0031】
X線が小さい結晶に入射した場合、その回折線が分散してブロード化し、結晶の結晶粒が小さいほど、X線回折スペクトルバンドのブロード化程度が大きくなることが理解される。したがって、本発明の負極材料におけるシリコン系活物質粒子は、結晶粒が小さいものであって、シリコンの体積膨張を効果的に低減し、サイクル特性を向上させることができる。シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°未満である場合、シリコン系活物質粒子の結晶粒が大きすぎ、シリコン系活物質粒子の体積膨張が大きく、負極材料の性能向上に不利である。好ましくは、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅は、0.6°以上である。
【0032】
本発明の第2態様によれば、コアシェル構造であり、シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆する炭素被覆層を有するシリコン炭素複合負極材料をさらに提供する。
【0033】
前記シリコン炭素複合負極材料は、CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上である。
【0034】
いくつかの実施形態において、シリコン系活物質粒子は、Si、SiOx(0<x≦2)及びシリコン合金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むが、それらに限定されるものではなく、当該分野で通常使用されるシリコン系活物質、例えば炭素被覆シリコン酸化物、シリコンドープ半導体又は他のシリコン含有化合物も適用可能である。シリコン系活物質粒子としては、Si、SiO、SiO2、シリコンリチウム合金、シリコンマグネシウム合金等が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、シリコン系活物質粒子は表面にSiOx(シリコン酸化物)が存在することにより、シリコンの体積膨張を効果的に抑制し、当該負極活物質を有する負極の効率とサイクル寿命を改善することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、シリコン系活物質粒子中のSi4+の含有量は、0.05質量%~5質量%であり、具体的に、0.05質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%、1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、3質量%、3.5質量%、4質量%、4.5質量%、5質量%等であってもよい。なお、Si4+はシリコン系活物質粒子の中に存在し、シリコンがリチウムを放出・吸蔵する過程において、第2不活性相として機能可能であるため、Si4+を含有する第2不活性相は分散した細かい微粒子でシリコン系活物質粒子の中に均一に分布する場合、顕著な性能強化作用を発揮し、第2不活性相はシリコンの体積膨張過程において構造を安定化する作用を果たし、シリコンの体積膨張を効果的に抑制し、膨張率を低減し、電池のサイクル安定性を向上させることができる。研究により、シリコン系活物質粒子中のSi4+の含有量が5質量%を超えると、負極材料の容量及び初回効率が低下することが分かった。
【0036】
いくつかの実施形態において、
図1~
図2に示すように、シリコン系活物質粒子のメジアン径は、5nm~120nmであり、具体的に、5nm、10nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、110nm又は120nm等であってもよいが、それら特に限定されるものではない。好ましくは、シリコン系活物質粒子のメジアン径は、5nm~80nmである。シリコン系活物質粒子の粒径のサイズが小さければ小さいほど、材料性能が高いが、極端に小さな粒径のシリコン系活物質粒子を製造するプロセスコストを総合的に考慮すると、シリコン系活物質粒子のメジアン径は、5nm~40nmであることがより好ましいことが理解される。
【0037】
試験を重ねた結果、ナノオーダーのシリコン系活物質粒子は、表面エネルギーが高く、表面原子配列が乱れ、高い延性と安定性を有し、粒子の構造強度が高く、シリコン体積の膨張を抑制できることが分かった。ナノオーダーのシリコン系活物質粒子は、大きな表面エネルギーを有し、充放電過程において凝集しやすいため、本発明に係る複合負極材料では、シリコン系活物質粒子の間に導電材が設けられ、炭素被覆層がシリコン系活物質粒子及び
/又は導電材を被覆することにより、凝集現象の発生を抑制するとともに、シリコン系活物質粒子と電解液との直接接触を低減することができる。シリコン系活物質粒子は、大きな比表面積を有し、充放電過程において表面にパッシベーション膜が生成しやすく、リチウムイオンが大量に消費され、電解液中のリチウムイオン濃度が小さくなり、電池の可逆容量が低下し、したがって、炭素被覆層で被覆した後、シリコン系活物質粒子と電解液との直接接触を低減し、パッシベーション膜の生成を減少させ、電池の可逆容量を向上させることができる。
図3に示すように、シリコン系活物質粒子は、一つの結晶粒より構成される単結晶シリコンナノ粒子、及び/又は、複数の結晶粒より構成される多結晶シリコンナノ粒子であってもよい。
【0038】
いくつかの実施形態において、ナノインデンターによる測定方法を採用し、シリコン系活物質粒子は、ナノインデンテーション法で測定される硬度が3Gpa~20Gpaであり、具体的に、3Gpa、5Gpa、8Gpa、12Gpa、15Gpa、18Gpaまたは20Gpa等であってもいが、それらに限定されるものではない。試験を重ねた結果、シリコン系活物質粒子は、硬度が上記した範囲内である場合、強い剛性を有するから、粒子構造の安定性が高く、一定の体積膨張応力に抵抗することができ、これにより膨張を低減し、電池のサイクル安定性を向上させることがわかった。硬度が20Gpaより高い場合、粒子表面の間に化学結合エネルギーが非常に大きく、リチウムイオンの吸蔵・放出に必要な結合開裂エネルギー障壁がより高く、リチウムイオンの吸蔵が困難になり、負極材料の性能改善に不利である。
【0039】
いくつかの実施形態において、導電材は、グラファイトシート、カーボンナノチューブ、炭素繊維及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む。しかし、それらに限定されるものではなく、当該分野で通常使用される他の導電材、例えば、コークス、カーボンブラック、炭素マイクロバルーンも適用される。グラファイトシートは具体的に天然鱗片状黒鉛であってもよく、炭素繊維は天然炭素繊維又は合成炭素繊維であってもよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、炭素被覆層の厚さは、50nm~2500nmであり、具体的に、50nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、1000nm、1200nm、1500nm、2000nmまたは2500nmであってもよいが、それらに限定されるものではない。シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に被覆される炭素被覆層は、シリコン系活物質粒子と電解液との接触を低減し、パッシベーション膜の生成を低減し、電池の可逆容量を向上させることができる。炭素被覆層は厚さが厚いほど、保護作用が高く、構造の更なる安定性を確保するが、炭素被覆層が厚すぎると、炭素の割合が大きすぎ、シリコン炭素複合材料の容量が低すぎになるため、好ましくは、炭素被覆層の厚さを100nm~1500nmに制御すると考えられる。
【0041】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料は、コア部にシリコン系活物質粒子及び導電材を有し、シェル部に炭素被覆層を有するコアシェル構造を有する。シリ
コン炭素複合負極材料の粒子は、球型またはほぼ球型であってもよい。ただし、前記導電材は、前記シリコン系活物質粒子同士の間に介在される。
【0042】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料のメジアン径は、5μm~30μmであり、具体的に、5μm、8μm、10μm、12μm、15μm、18μm、20μm、23μm、25μm、28μm又は30μm等であってもよいが、それらに限定されるものではない。好ましくは、シリコン炭素複合負極材料のメジアン径は、8μm~20μmである。
【0043】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料の比表面積は、0.5m2/g~10m2/gであり、具体的に、0.5m2/g、1m2/g、2m2/g、3m2/g、4m2/g、5m2/g、6m2/g、7m2/g、8m2/g、9m2/g又は10m2/g等であってもよいが、それらに限定されるものではない。好ましくは、シリ
コン炭素複合負極材料の比表面積は、1m2/g~6m2/gである。比表面積が小さければ小さいほどよく、比表面積が大きすぎるとSEI膜の形成を招きやすくなり、不可逆リチウム塩が過度に消費され、電池の初回効率を低下させるが、製造プロセスのコストを総合的に考慮すると、比表面積を1m2/g~6m2/gに制御することが理解される。
【0044】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料の圧粉密度は、0.4g/cm3~1.2g/cm3であり、具体的に、0.4g/cm3、0.5g/cm3、0.6g/cm3、0.7g/cm3、0.8g/cm3、0.9g/cm3、1.0g/cm3、1.1g/cm3又は1.2g/cm3等であってもよいが、それらに限定されるものではない。好ましくは、シリコン炭素複合負極材料の圧粉密度は、0.5g/cm3~0.9g/cm3である。
【0045】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料中の炭素元素の含有量は15質量%~65質量%であり、シリコン系活物質粒子の含有量は15質量%~70質量%であり、導電材の含有量は5質量%~70質量%である。
【0046】
本発明の第3態様によれば、シリコン炭素複合負極材料の製造方法であって、
図4に示すように、
CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応する
X線回折ピークの半値
幅が0.5°以上であるシリコン系活物質粒子を、有機溶媒に添加し、分散して前駆体溶液を得る工程S10と、
前駆体溶液に導電材及び炭素源前駆体を添加して負極材料前駆体を得る工程S20と、
負極材料前駆体を熱処理して、シリコン系活物質粒子と、導電材と、シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に形成した炭素被覆層とを含むシリコン炭素複合負極材料を得る工程S30とを含む製造方法をさらに提供する。
【0047】
上記した技術案において、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピ
ークの半値幅が0.5°以上であるようにシリコン系活物質粒子自体の性能パラメータを制御し、製造中に、シリコン系活物質粒子、導電材、及び炭素源前駆体を溶媒に混合し、そして熱処理によって、シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に炭素含有被覆層を被覆することにより、凝集現象の発生を抑制するとともに、シリコン系活物質粒子と電解液との直接接触を低減することができる。最終的に製造された負極材料は、シリコンの体積膨張の抑制、負極膨張率の低減、負極充放電効率の改善、電池サイクル特性の向上に有利である。
【0048】
(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であるシリコン系活物質粒子を選択して使用することで、シリコン系活物質粒子は結晶粒が小さく、シリコンの体積膨張を効果的に低減し、サイクル特性を向上させることができる。シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°未満である場合、シリコン系活物質粒子の結晶粒が大きすぎ、シリコン系活物質粒子の体積膨張が大きく、負極材料の性能向上に不利である。
【0049】
以下、実施例を参照しながら、本技術案を詳しく説明する。
【0050】
工程S10:シリコン系活物質粒子を有機溶媒に添加し、分散して前駆体溶液を得る。
【0051】
いくつかの実施形態において、シリコン系活物質粒子は、Si、SiOx(0<x≦2)及びシリコン合金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。シリコン系活物質粒子のメジアン径は、5nm~120nmであり、具体的に、5nm、10nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、110nm又は120nm等であってもよいが、それらに限定されるものではない。好ましくは、シリコン系活物質粒子のメジアン径は、5nm~80nmである。試験を重ねた結果、ナノオーダーのシリコン系活物質粒子は、表面エネルギーが高く、表面原子配列が乱れ、高い延性と安定性を有し、粒子の構造強度が高く、シリコンの体積膨張を抑制できることが分かった。より好ましくは、シリコン系活物質粒子のメジアン径は、5nm~40nmである。
【0052】
いくつかの実施形態において、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回
折ピークの半値幅は、具体的に、0.52、0.65、0.71、0.75、0.81、0.86、0.98等であってもよいが、それらに限定されるものではない。なお、X線が小さい結晶に入射した場合、その回折線が分散してブロード化し、結晶の結晶粒が小さければ小さいほど、X線回折スペクトルバンドのブロード化程度が大きくなるから、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上である場合、シリコン系活物質粒子の結晶粒が小さく、シリコンの体積膨張を効果的に低減し、サイクル特性を向上させることができる。好ましくは、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅は、0.6°以上である。
【0053】
いくつかの実施形態では、シリコン系活物質粒子中のSi4+の含有量は、0.05質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%、1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、3質量%、3.5質量%、4質量%、4.5質量%、5質量%等であってもよい。なお、Si4+はシリコン系活物質粒子の中に存在し、シリコンがリチウムを放出・吸蔵する過程において、第2不活性相として機能可能であるため、Si4+を含有する第2不活性相は分散した細かい微粒子でシリコン系活物質粒子の中に均一に分布する場合、顕著な性能強化作用を発揮し、第2不活性相はシリコンの体積膨張過程において構造を安定化する作用を果たし、シリコンの体積膨張を効果的に抑制し、膨張率を低減し、電池のサイクル安定性を向上させることができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、シリコン系活物質粒子は、ナノインデンターによる測定方法で荷重6mNで測定される硬度が3Gpa~20Gpaであり、具体的に、3Gpa、5Gpa、8Gpa、12Gpa、15Gpa、18Gpaまたは20Gpa等であってもいが、それらに限定されるものではない。シリコン系活物質粒子は、硬度が上記した範囲内である場合、強い剛性を有するから、粒子構造の安定性が高く、一定の体積膨張応力に抵抗することができ、これにより膨張を低減し、電池のサイクル安定性を向上させる。
【0055】
いくつかの実施形態において、有機溶媒は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、n-ブタノール、イソブタノール及びペンタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、工程S10で有機溶剤に、ポリビニルアルコール(PVA)、n-オクタデカン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、ラウリン酸、ポリアクリル酸(PAA)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、n-エイコサン酸、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群より選択される少なくとも1つを含む界面活性剤を添加する必要がある。界面活性剤を添加することにより、シリコン系活物質粒子の分散を加速させ、シリコン系活物質粒子の凝集を防止できることが理解される。
【0057】
いくつかの実施形態において、分散して前駆体溶液を得る過程において、磁気撹拌、機械的攪拌などを採用してもよく、超音波分散、研磨分散などを採用してもよく、好ましくは、研磨分散を採用する。これにより、シリコン系活物質粒子を分散させ、シリコン系活物質粒子が凝集することを防ぐとともに、シリコン系活物質粒子を小さい単結晶シリコンナノ粒子に分散させることができる。なお、シリコン系活物質粒子を製造する過程において、シリコン粒子の研磨時間を制御することにより、Si4+の含有量(質量%)を増加させることができ、一般的に、研磨時間が長ければ長いほど、Si4+の含有量(質量%)が高い。
【0058】
工程S20:前駆体溶液に導電材及び炭素源前駆体を添加して負極材料前駆体を得る。
【0059】
いくつかの実施形態において、シリコン系活物質粒子、導電材及び炭素源前駆体の質量比は、(10~70):(5~30):(15~40)である。具体的に、シリコン系活物質粒子、導電材及び炭素源前駆体の質量比は、40:10:40、60:10:30、50:20:25、70:5:25、55:10:30などであってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0060】
いくつかの実施形態において、導電材は、グラファイトシート、カーボンナノチューブ、炭素繊維及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む。しかし、それらに限定されるものではなく、当該分野で通常使用される他の導電材、例えば、コークス、カーボンブラック、炭素マイクロバルーンも適用される。グラファイトシートは具体的に天然鱗片状黒鉛であってもよく、炭素繊維は天然炭素繊維又は合成炭素繊維であってもよい。
【0061】
いくつかの実施形態において、炭素源前駆体は、スクロース、グルコース、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアニリン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フルフラール樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル及びアスファルトからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、炭素源前駆体のメジアン径は、1μm~50μmであり、具体的に、1μm、5μm、8μm、10μm、12μm、15μm、18μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm又は50μm等であってもよいが、それらに限定されるものではない。好ましくは、炭素源前駆体のメジアン径は、1μm~20μmである。
【0063】
いくつかの実施形態において、前駆体溶液に導電材及び炭素源前駆体を添加し、均一に撹拌した後、さらに分離処理してもよい。分離処理は具体的に、常圧濾過、減圧濾過、遠心濾過などの方式であってもよい。分離処理により得られた固体材料を乾燥処理して、負極材料前駆体を得る。
【0064】
いくつかの実施形態において、乾燥処理の温度は、25℃~200℃であり、具体的に、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃、175℃又は200℃等であってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0065】
いくつかの実施形態において、乾燥処理の時間は1h~15hであり、具体的に、1h、2h、3h、4h、5h、7h、9h、10h、12h又は15h等であってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0066】
いくつかの実施形態において、乾燥処理方式は、具体的に、炉内乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等であってもよい。本実施例において、乾燥処理により、できる限り前駆体溶液中の溶媒を除去することができる。乾燥後の負極材料前駆体は、炭素源前駆体で被覆されたシリコン系活物質粒子及び導電材より構成される。乾燥後の負極材料前駆体を、高温箱型炉内に送り込んで熱処理することにより、炭素源前駆体を炭化させて炭素被覆層を形成することができる。
【0067】
工程S30:負極材料前駆体を熱処理して、シリコン炭素複合負極材料を得る。
【0068】
いくつかの実施形態において、熱処理方式は、具体的に、焼結処理、ホットプレス焼結、真空焼結であってもよい。熱処理の温度は、500℃~1200℃であり、具体的に、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1200℃、1200℃等であってもよい。好ましくは、熱処理の温度は、800℃~1200℃である。
【0069】
いくつかの実施形態において、熱処理の時間は、1h~9hであり、具体的に、1h、2h、3h、4h、5h、6h、7h、8h、9h等であってもよい。
【0070】
いくつかの実施形態において、熱処理時の昇温速度は、1℃/min~15℃/minであり、具体的に、1℃/min、3℃/min、5℃/min、6℃/min、7℃/min、8℃/min、9℃/min、10℃/min、12℃/min又は15℃/min等であってもよく、5℃/min~10℃/minであることが好ましい。
【0071】
いくつかの実施形態において、熱処理中に、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス又はクリプトンガスからなる群から選ばれる少なくとも1つである保護ガスが通気される。
【0072】
いくつかの実施形態において、製造されたシリコン炭素複合負極材料は、コアがシリコン系活物質粒子及び導電材、シェルが炭素被覆層であるコアシェル構造を有する。シリコ
ン炭素複合負極材料の粒子は、球型またはほぼ球型であってもよい。シリコン炭素複合負
極材料のメジアン径は、5μm~30μmであり、具体的に、5μm、8μm、10μm、12μm、15μm、18μm、20μm、23μm、25μm、28μm又は30μm等であってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0073】
ナノオーダーのシリコン系活物質粒子は、大きな表面エネルギーを有し、充放電過程において凝集しやすいから、本発明に係る複合負極材料では、シリコン系活物質粒子間に導電材が設けられ、シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に一層の炭素含有被覆層が被覆される。これにより、凝集現象の発生を抑制するとともに、シリコン系活物質粒子と電解液との直接接触を低減することができる。シリコン系活物質粒子は、大きな比表面積を有するから、充放電過程において表面にパッシベーション膜が生成しやすく、これによりリチウムイオンが大量に消費され、電解液中のリチウムイオン濃度が小さくなり、電池の可逆容量が低下する。したがって、炭素被覆層で被覆した後、シリコン系活物質粒子と電解液との直接接触を低減し、パッシベーション膜の生成を減少させ、電池の可逆容量を向上させることができる。
【0074】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料のメジアン径は、8μm~20μmである。シリコン系活物質粒子及び/又は導電材を被覆する炭素被覆層は、シリコン系活物質粒子と電解液との接触を低減し、パッシベーション膜の生成を低減し、電池の可逆容量を向上させることができる。
【0075】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料の比表面積は、0.5m2/g~10m2/gであり、具体的に、0.5m2/g、1m2/g、2m2/g、3m2/g、4m2/g、5m2/g、6m2/g、7m2/g、8m2/g、9m2/g又は10m2/g等であってもよいが、それらに限定されるものではない。好ましくは、シリ
コン炭素複合負極材料の比表面積は、1m2/g~6m2/gである。
【0076】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料の圧粉密度は、0.4g/cm3~1.2g/cm3であり、具体的に、0.4g/cm3、0.5g/cm3、0.6g/cm3、0.7g/cm3、0.8g/cm3、0.9g/cm3、1.0g/cm3、1.1g/cm3又は1.2g/cm3等であってもよいが、それらに限定されるものではない。好ましくは、シリコン炭素複合負極材料の圧粉密度は、0.5g/cm3~0.9g/cm3である。
【0077】
いくつかの実施形態において、シリコン炭素複合負極材料において、炭素元素の含有量は15質量%~65質量%であり、シリコン系活物質粒子の含有量は15質量%~70質量%であり、導電材の含有量は5質量%~70質量%である。
【0078】
本技術案において、上記した製造方法で製造されたシリコン炭素複合負極材料は、シリコン系活物質粒子及び/又は導電材の表面に炭素被覆層が被覆されることにより、材料のサイクル過程における膨張を抑制することができる。そのコア構造におけるシリコン系活物質粒子は、(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上であり、結晶粒が小さく、シリコンの体積膨張を効果的に低減し、サイクル特性を向上させることができる。ナノオーダーのシリコン系活物質粒子は、表面にSiOxシリコン酸化物が存在しえ、シリコンの体積膨張を効果的に抑制し、当該負極活物質を有する負極の効率とサイクル寿命を改善することができる。さらに、シリコン系活物質粒子中のSi4+の含有量は、0.05質量%~5質量%であることにより、シリコンの体積膨張を効果的に抑制し、膨張率を低減し、サイクル特性を向上させることができる。最後に、シリコン系活物質粒子は、硬度が大きく、強い剛性を有し、一定の体積膨張応力に効果的に抵抗することができ、負極材料構造安定性の維持に有利であり、それにより膨張率を低減し、電池のサイクル特性を向上させる。
【0079】
本発明の第4態様によれば、シリコン炭素複合負極材料の製造方法であって、
図5に示すように、
CuKα線を用いるX線回折測定による(111)面に対応する
X線回折ピークの半値
幅が0.5°以上であるシリコン系活物質粒子を、有機溶媒に添加し、分散して前駆体溶液を得る工程S10’と、
前駆体溶液に炭素源前駆体を添加して負極材料前駆体を得る工程S20’と、
負極材料前駆体を熱処理して、シリコン系活物質粒子、及び前記シリコン系活物質粒子の表面の少なくとも一部に形成した炭素被覆層を有するシリコン炭素複合負極材料を得る工程S30’と、を含む製造方法をさらに提供する。
【0080】
上記した技術案において、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピ
ークの半値幅が0.5°以上であるようにシリコン系活物質粒子自体の性能パラメータを制御し、製造中に、シリコン系活物質粒子、及び炭素源前駆体を溶媒に混合し、そして熱処理によって、シリコン系活物質粒子の表面に一層の炭素含有被覆層を被覆することにより、凝集現象の発生を抑制するとともに、シリコン系活物質粒子と電解液との直接接触を低減することができる。最終的に製造された負極材料は、シリコンの体積膨張の抑制、負極膨張率の低減、負極充放電効率の改善、電池サイクル特性の向上に有利である。
【0081】
本実施形態において、前駆体溶液に導電材を添加する必要がないという点で第3態様に記載の製造方法と相違し、その他の製造プロセスが第3態様に記載の方法と同じであり、ここでは説明を省略する。いくつかの実施形態において、工程S20’において、シリコン系活物質粒子と炭素源前駆体の質量比は、(10~70):(15~40)である。具体的に、シリコン系活物質粒子と炭素源前駆体の質量比は、40:40、60:30、50:25、70:25、55:30などであってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0082】
本発明の第5態様によれば、集電体と前記集電体に塗布された上記したシリコン炭素複合負極材料又は上記したシリコン炭素複合負極材料の製造方法で製造された負極材料とを含む負極シートと、正極シートと、セパレータと、非水電解液とを有するリチウムイオン電池をさらに提供する。
【実施例】
【0083】
以下、複数の実施例により本発明をさらに説明する。ただし、本発明の実施例は、以下の具体的な実施例に限定されない。特許請求の範囲の範囲内で、適宜に変更を行って実施することも可能である。
【0084】
実施例1
(1)メジアン径が20nmであるシリコン粉末をエチレングリコール溶液に分散し、10min超音波分散した後に1.5wt%のPVP界面活性剤を添加し、20min超音波分散して分散溶液を得、そして分散溶液をボールミルに置いて4h研磨分散し、前駆体溶液を得た。
(2)前駆体溶液に、シリコン粉末と単層カーボンナノチューブとピッチの質量比が60:10:30であるようにアスペクト比500の単層カーボンナノチューブ及ピッチを添加し、撹拌し、均一に分散した後に乾燥処理を行い、乾燥材料を得た。
(3)乾燥材料を高温箱型炉に入れ、窒素を導入し、1000℃の条件で熱処理した後、粉砕し、500メッシュの篩にかけ、シリコン炭素複合材料を得た。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.98°以上であり、Si4+の含有量が1.5質量%であり、シリコン粒子の硬度が18Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約6.2μmであり、比表面積が10m2/gであり、炭素の含有量が20質量%であり、炭素被覆層の厚さが300nmである。
【0085】
実施例2
(1)メジアン径が30nmであるシリコン粉末をn-ブタノール溶液に分散し、10min超音波分散した後に2.0wt%のPEG界面活性剤を添加し、30min超音波分散して分散溶液を得、そして分散溶液をボールミルに置いて8h研磨分散し、前駆体溶液を得た。
(2)前駆体溶液に、シリコン粉末と単層カーボンナノチューブとピッチの質量比が60:10:30であるようにアスペクト比100の単層カーボンナノチューブ及ピッチを添加し、撹拌し、均一に分散した後に乾燥処理を行い、乾燥材料を得た。
(3)乾燥材料を高温箱型炉に入れ、窒素を導入し、800℃の条件で熱処理した後、粉砕し、500メッシュの篩にかけ、シリコン炭素複合材料を得た。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.81°以上であり、Si4+の含有量が0.5質量%であり、シリコン粒子の硬度が15Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約10μmであり、比表面積が9m2/gであり、炭素の含有量が30質量%であり、炭素被覆層の厚さが100nmである。
【0086】
実施例3
(1)メジアン径が40nmであるシリコン粉末をイソプロパノール溶液に分散し、10min超音波分散した後に3.0wt%のPVA界面活性剤を添加し、30min超音波分散して分散溶液を得、そして分散溶液をボールミルに置いて8h研磨分散し、前駆体溶液を得た。
(2)前駆体溶液に、シリコン粉末とグラフェンとグルコースの質量比が70:5:25であるようにグラフェンとグルコースを添加し、撹拌し、均一に分散した後に乾燥処理を行い、乾燥材料を得た。
(3)乾燥材料を高温箱型炉に入れ、窒素を導入し、900℃の条件で熱処理した後、粉砕し、500メッシュの篩にかけ、シリコン炭素複合材料を得た。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.71°以上であり、Si4+の含有量が1.1質量%であり、シリコン粒子の硬度が10Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約24μmであり、比表面積が6m2/gであり、炭素の含有量が22質量%であり、炭素被覆層の厚さが200nmである。
【0087】
実施例4
(1)メジアン径が80nmであるシリコン粉末をエチレングリコール溶液に分散し、10min超音波分散した後に2.5wt%のPEG界面活性剤を添加し、30min超音波分散して分散溶液を得、そして分散溶液をボールミルに置いて8h研磨分散し、前駆体溶液を得た。
(2)前駆体溶液に、シリコン粉末とグラファイトシートとスクロースの質量比が50:20:25であるようにメジアン径9μmのグラファイトシートとスクロースを添加し、撹拌し、均一に分散した後に乾燥処理を行い、乾燥材料を得た。
(3)乾燥材料を高温箱型炉に入れ、窒素を導入し、900℃の条件で熱処理した後、粉砕し、500メッシュの篩にかけ、シリコン炭素複合材料を得た。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.62°以上であり、Si4+の含有量が0.2質量%であり、シリコン粒子の硬度が8Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約18μmであり、比表面積が6m2/gであり、炭素の含有量が18質量%であり、炭素被覆層の厚さが800nmである。
【0088】
実施例5
(1)メジアン径が20nmであるシリコン粉末をエチレングリコール溶液に分散し、10min超音波分散した後に1.5wt%のPVP界面活性剤を添加し、20min超音波分散して分散溶液を得、そして分散溶液をボールミルに置いて4h研磨分散し、前駆体溶液を得た。
(2)前駆体溶液に、シリコン粉末と単層カーボンナノチューブとピッチの質量比が60:10:30であるようにアスペクト比500の単層カーボンナノチューブ及ピッチを添加し、撹拌し、均一に分散した後に乾燥処理を行い、乾燥材料を得た。
(3)乾燥材料を高温箱型炉に入れ、窒素を導入し、1000℃の条件で熱処理した後、粉砕し、500メッシュの篩にかけ、シリコン炭素複合材料を得た。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.98°以上であり、Si4+の含有量が0.01質量%であり、シリコン粒子の硬度が18Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約6.6μmであり、比表面積が9.8m2/gであり、炭素の含有量が21質量%であり、炭素被覆層の厚さが300nmである。
【0089】
実施例6
(1)メジアン径が20nmであるシリコン粉末をエチレングリコール溶液に分散し、10min超音波分散した後に1.5wt%のPVP界面活性剤を添加し、20min超音波分散して分散溶液を得、そして分散溶液をボールミルに置いて4h研磨分散し、前駆体溶液を得た。
(2)前駆体溶液に、シリコン粉末と単層カーボンナノチューブとピッチの質量比が60:10:30であるようにアスペクト比500の単層カーボンナノチューブ及ピッチを添加し、撹拌し、均一に分散した後に乾燥処理を行い、乾燥材料を得た。
(3)乾燥材料を高温箱型炉に入れ、窒素を導入し、1000℃の条件で熱処理した後、粉砕し、500メッシュの篩にかけ、シリコン炭素複合材料を得た。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.98°以上であり、Si4+の含有量が1.5質量%であり、シリコン粒子の硬度が2Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約6.6μmであり、比表面積が9.8m2/gであり、炭素の含有量が21質量%であり、炭素被覆層の厚さが300nmである。
【0090】
実施例7
実施例7において、ボールミルに置いて8h研磨分散する以外、実施例1と同様の方法で、ナノシリコン炭素複合負極材料を製造する。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.98°以上であり、Si4+の含有量が8.5質量%であり、シリコン粒子の硬度が14Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約6.6μmであり、比表面積が7.9m2/gであり、炭素の含有量が21質量%であり、炭素被覆層の厚さが300nmである。
【0091】
実施例8
実施例8において、ボールミルに置いて8h研磨分散する以外、実施例1と同様の方法で、ナノシリコン炭素複合負極材料を製造する。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.98°以上であり、Si4+の含有量が3.5質量%であり、シリコン粒子の硬度が28Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約6.5μmであり、比表面積が8.8m2/gであり、炭素の含有量が20質量%であり、炭素被覆層の厚さが300nmである。
【0092】
実施例9
実施例9において、ボールミルに置いて2h研磨分散する以外、実施例1と同様の方法で、ナノシリコン炭素複合負極材料を製造する。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.98°以上であり、Si4+の含有量が0.8質量%であり、シリコン粒子の硬度が18Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約5.8μmであり、比表面積が10m2/gであり、炭素の含有量が20質量%であり、炭素被覆層の厚さが300nmである。
【0093】
実施例10
(1)メジアン径が20nmであるシリコン粉末をエチレングリコール溶液に分散し、10min超音波分散した後に1.5wt%のPVP界面活性剤を添加し、20min超音波分散して分散溶液を得、そして分散溶液をボールミルに置いて4h研磨分散し、前駆体溶液を得た。
(2)前駆体溶液に、シリコン粉末とピッチの質量比が60:30であるようにピッチを添加し、撹拌し、均一に分散した後に乾燥処理を行い、乾燥材料を得た。
(3)乾燥材料を高温箱型炉に入れ、窒素を導入し、1000℃の条件で熱処理した後、粉砕し、500メッシュの篩にかけ、シリコン炭素複合材料を得た。
本実施例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.80°以上であり、Si4+の含有量が0.8質量%であり、シリコン粒子の硬度が18Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約6.3μmであり、比表面積が12m2/gであり、炭素の含有量が22質量%であり、炭素被覆層の厚さが350nmである。
【0094】
比較例1
比較例1において、メジアン径が180nmのシリコン粉末を使用してシリコン炭素複合材料を製造する以外、実施例1と同様の方法で、ナノシリコン炭素複合負極材料を製造する。
本比較例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.32°以上であり、Si4+の含有量が0.01質量%であり、シリコン粒子の硬度が2.5Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約15μmであり、比表面積が6m2/gであり、炭素の含有量が18質量%であり、炭素被覆層の厚さが800nmである。
【0095】
比較例2
比較例2において、実施例1とほぼ同様の方法で、ナノシリコン炭素複合負極材料を製造する。
本比較例において、シリコン粉末は、シリコン粒子の(111)面に対応するX線回折
ピークの半値幅が0.35°以上であり、Si4+の含有量が4.5質量%であり、シリコン粒子の硬度が2.5Gpaであり、得られたシリコン炭素複合負極材料は、メジアン径が約22μmであり、比表面積が9m2/gであり、炭素の含有量が36質量%であり、炭素被覆層の厚さが800nmである。
【0096】
測定方法
以下の方法で電気化学的サイクル性能を測定する。固形分が50%となるように、製造されたシリコン炭素複合負極材料、導電剤及び接着剤を質量比94:1:5で溶媒に溶解して混合し、銅箔集電体に塗布し、真空乾燥させ、負極シートを製造する。そして、従来の成熟した技術で製造された三元正極シート、1mol/LのLiPF6/(エチレンカーボネート)EC+(ジメチルカーボネート)DMC+(エチルメチルカーボネート)EMC(v/v=1:1:1)電解液、Celgard2400セパレータフィルム、ケースを従来の製造技術で18650円柱状単電池に組み立てる。円柱状電池の充放電試験では、WuhanLANDelectronics社(中国語原文:武漢金諾電子有限公司)のLAND電池用測定システムで、常温条件で、0.2Cで定電流充放電し、充放電電圧を2.75~4.2Vとし、充放電試験を行う。初回可逆容量、1サイクル目の充電容量及び1サイクル目の放電容量を得る。初回クーロン効率=1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量
50サイクル繰り返したとき、マイクロメーターでリチウムイオン電池の極片の厚さH1を測定し、(H1-H0)/H0×100%で50サイクル繰り返した後の膨張率を求めた。
100サイクル繰り返し、放電容量をリチウムイオン電池の残容量として記録し、容量維持率=残容量/初回可逆容量×100%である。
X線回折法を用いて、シリコン粉末におけるシリコン粒子の(111)面に対応するX
線回折ピークの半値幅を測定する。
硬さ試験:ナノインデンターによって荷重0.6N、押し込み深さ0.5μmで押し込み硬さ試験を行う。
Si4+含有量の測定:X線光電子分光分析器を用いて、シリコン粉末中のSi4+含有量を測定する。
【0097】
上記性能測定結果は、下表で示される。
表1 性能対比結果表
【0098】
表1に示すように、実施例5は、使用するシリコン系活物質粒子中のSi4+含有量が0.01質量%であるという点で実施例1と相違し、充放電中、負極材料から製造された電極板の膨張率、サイクル寿命、および初回効率がいずれも実施例1と比べて劣化する。
【0099】
実施例6は、使用するシリコン系活物質粒子の硬度が2Gpaと小さく、実施例1におけるシリコン粒子の硬度より低い点で実施例1と相違する。これにより、シリコン粒子の構造安定性が悪く、充放電中に体積膨張応力に抵抗し難く、電池のサイクル安定性が低下する。
【0100】
実施例7は、使用するシリコン系活物質粒子中のSi4+含有量が8.5質量%であり、Si4+含有量が高すぎる点で実施例1と相違する。これにより、負極材料の容量及び初回効率が低下する。
【0101】
実施例8は、使用するシリコン粉末におけるシリコン系活物質粒子の硬度が28Gpaであり、硬度が大きすぎる点で実施例1と相違する。これにより、粒子表面の間の化学結合エネルギーが非常に大きく、リチウムイオンの吸蔵・放出に必要な結合開裂エネルギー障壁がより高く、リチウムイオンの吸蔵が困難になり、負極材料のサイクル特性の改善に不利である。
【0102】
実施例9と実施例1とを対比すると、実施例9において工程(1)で分散液をボールミルで2h研磨分散し、研磨時間が短すぎるのに対し、実施例1においてシリコン粒子の研磨時間が6hであるという点で、相違する。シリコン粒子の研磨時間を制御することにより、Si4+の含有量(質量%)を増加させることができ、一般的に、研磨時間が長ければ長いほど、Si4+の含有量(質量%)が高いことが分かる。
【0103】
実施例10は、製造中に導電材を添加していない点で実施例1と相違する。その結果、電池の初回クーロン効率および初回可逆容量が実施例1に比べて低下する。
【0104】
比較例1~2において使用するシリコン系活物質粒子は、(111)面に対応する半値幅が0.5°未満であり、硬度が3Gpa未満であり、該シリコン系活物質粒子から製造された負極材料極板は膨張率、サイクル寿命、初回効率がいずれも実施例1~6で作製した負極材料よりも劣っている。
【0105】
以上より、シリコン系活物質粒子の(111)面に対応するX線回折ピークの半値幅が0.5°以上、シリコン系活物質粒子中のSi4+含有量が0.05質量%~5質量%、シリコン系活物質粒子の硬度が3Gpa~20Gpaであるようにシリコン系活物質粒子自体の性能パラメータを制御することにより、シリコンの体積膨張の抑制、負極の効率とサイクル寿命の改善に有利であり、一定の体積膨張応力を効果的に抵抗することができ、それによって膨張率を低下させ、電池サイクル性能を向上させることができる。
【0106】
以上より、好適な実施例を参照しながら本発明を開示したが、これらの内容は、特許請求の範囲を限定するものではない。当業者であれば、本発明の主旨を逸脱せず、種々の可能な変更や変形を行うことができる。従って、本願の保護範囲は、特許請求の範囲に限定される範囲に準じるべきである。