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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】除湿装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/26 20060101AFI20241125BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B01D53/26 220
F24F3/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024060424
(22)【出願日】2024-04-03
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏志
(72)【発明者】
【氏名】古木 啓明
(72)【発明者】
【氏名】柿原 麻美
(72)【発明者】
【氏名】成重 晋作
(72)【発明者】
【氏名】酒井 春菜
(72)【発明者】
【氏名】毛利 広明
(72)【発明者】
【氏名】花田 柚
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/178436(WO,A1)
【文献】特開2006-125670(JP,A)
【文献】特開2011-104542(JP,A)
【文献】特開2021-013878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/26-53/28
F24F 3/00-3/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分の吸着能力を有する吸着ロータを備え、前記吸着ロータを少なくとも処理ゾーン、再生ゾーン、パージゾーンに分割してこの順に回転するようにし、
被処理空気を処理空気とパージ空気に分岐し、
前記処理空気をそのまま前記処理ゾーンに通し、前記処理ゾーンを通過後の空気は供給先へ送り、
温度調節装置を冷却器として前記パージ空気を冷却して前記パージゾーンに通し、前記パージゾーンを通過後の空気は加熱装置を通過させて再生空気として前記再生ゾーンに通すようにした除湿装置であって、
前記吸着ロータを逆回転させて、処理ゾーン、パージゾーン、再生ゾーンの順に回転するようにし、前記温度調節装置を加熱器として前記パージ空気を加熱するようにした除湿装置
【請求項2】
水分の吸着能力を有する第1の吸着ロータと第2の吸着ロータを備え、
前記第1の吸着ロータを少なくとも第1の処理ゾーンと第の再生ゾーンに分割し、
前記第2の吸着ロータを少なくとも第2の処理ゾーン、第2の再生ゾーン、第2のパージゾーンに分割し、
被処理空気を前記第1の処理ゾーンに通し、
前記第1の処理ゾーンを通過後の空気は第2の吸着ロータの第2の処理ゾーンおよび/または第2のパージゾーンに送り、
前記第2の処理ゾーンを通過後の空気は供給先へ送り、
前記第2のパージゾーンを通過後の空気は第2の加熱装置を通過させて再生空気として前記第2の再生ゾーンに通し、
前記第2の再生ゾーンを通過後の空気を第1の加熱装置に通して前記第1の再生ゾーンに通し、
前記第1の再生ゾーンを通過後の空気は排出し、
前記第2の吸着ロータは請求項1に記載の除湿装置の吸着ロータである除湿装置。
【請求項3】
前記供給先からの還気を前記第1の処理ゾーンを通過後の空気と混合するようにした請求項に記載の除湿装置。
【請求項4】
外気を前記第2の再生ゾーンを通過後の空気と混合し、前記第1の加熱装置に通して前記第1の再生ゾーンに通すようにした請求項に記載の除湿装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着ロータとして除湿ロータを用いるものであって、消費電力を削減した低露点空気の供給が可能な除湿装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム電池の需要が増大し、それに伴いその生産も増大している。リチウム電池は、その原料であるリチウムが空気中の湿気と反応し、その反応によって生産されたリチウム電池の性能は悪くなる。このため、リチウム電池の生産ラインは、乾燥した状態に保つ必要がある。この乾燥した状態に保つ手段として、生産工場内を乾燥した窒素によってパージする手段と、親水性ゼオライトやシリカゲルなどの湿気吸着材を有する除湿ロータを利用した除湿装置を用いる手段などがある。
【0003】
リチウム電池の用途が、電気自動車やハイブリッド自動車などの自動車用に広がるにつれて、生産工場の規模が大きくなり、除湿装置を用いる手段の方が数多く採用されている。
【0004】
除湿装置の場合、除湿ロータの再生には高温の空気を使用するが、その空気を作るためのエネルギーをできるだけ少なくすることが図られている。またイニシャルコストも削減が望まれている。
【0005】
例えば、特許文献1にはカスケード式ヒートポンプを利用して再生温度を高め、単一の除湿ロータを用いて低露点空気を提供する、イニシャルコストが抑制された除湿装置について開示されている。この除湿装置は、電気ヒータを用いる従来の除湿装置に比べて、省エネルギーである。
【0006】
しかしヒートポンプは電気ヒータに比べてイニシャルコストが高く、また再生温度を上げるには限界がある。そのため、電気ヒータを使用する場合であってもより省エネルギーとなるようなフローの検討がなされている。
【0007】
また近年、エネルギー価格の高騰、電力の需給ひっ迫、カーボンニュートラルに向けた動きなどが加速し、より一層省エネルギーが求められている。
【0008】
特許文献2には、除湿ロータの再生域の熱量が除湿域に伝達されることに起因する顕熱ロスを防止し、パージ域で吸湿してしまうことに起因する除湿域の除湿能力の低下を防止することが出来る除湿機について開示されている。
【0009】
特許文献3には、再生区域と減ガス区域の間にそれぞれパージ区域を設置し、その2つのパージ区域(第1のパージ区域、第2のパージ区域)の間でパージ空気を閉鎖系で循環させるガス除去システムについて開示されている。第1のパージ区域では、冷却装置で冷却したパージ空気によって、再生区域から減ガス区域へ移る前のロータを冷却することで、再生区域から減ガス区域への熱の持ち込みを抑制し、減ガス区域での水蒸気吸着能力を増加させる。また第2のパージ区域では、ロータの冷却により得た熱で昇温したパージ空気によって、再生区域に入る前のロータを加熱するため、ロータを昇温することができ、再生区域での加熱量の低減を図ることができる。
【0010】
特許文献4には、1つのパージゾーンを有し、パージ空気を循環させる除湿システムについて開示されている。この循環経路において、パージゾーンに入る前に冷却器を設けパージ空気の露点を下げることにより、パージゾーンで水分が吸着されにくくすることで除湿能力を高め、低温再生を可能としている。
【0011】
このように、省エネルギーとなるような除湿フローの開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第7142976号公報
【文献】特開2006-341217号公報
【文献】特開2012-24665号公報
【文献】特開2017-44387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
処理ゾーンと再生ゾーンとパージゾーンを備えた吸着ロータを用いる除湿装置において、一般的に処理空気とパージ空気は両方とも冷却器を通過させ冷却する(図1)。処理空気の冷却は、冷却前の処理空気の露点温度以下まで冷却することで結露により絶対湿度を下げる予除湿の目的、冷却後の処理空気の相対湿度を100%RH近くまで上昇させ除湿効率を上げる目的がある。パージ空気の冷却は、再生ゾーンから処理ゾーンへの熱の持ち込みを抑制し、吸着能力を上げる目的、予除湿によってパージ空気を低露点とし、パージゾーンでの水分吸着を防ぐことで除湿能力を高め、パージゾーンを通過した低露点空気を再生空気に用いて再生効率を向上させる目的がある。処理空気とパージ空気の両方を冷却することは性能が良くなる方向に働く。しかしながら、パージゾーンを通過した空気の温度は低いのでより多くの再生熱を必要とし、また冷却器の消費電力が大きくなるという課題がある。
【0014】
本発明は上記課題を解消するためになされたもので、従来の除湿装置に比べて簡易な構成でイニシャルコストを削減し、除湿性能を落とさずに再生に必要な熱量を抑制し、省エネルギーで低露点空気の供給が可能な除湿装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の除湿装置は、水分の吸着能力を有する吸着ロータを少なくとも処理ゾーン、再生ゾーン、パージゾーンに分割し、被処理空気を処理空気とパージ空気に分岐し、処理空気を処理ゾーンに通し、処理ゾーンを通過後の空気は供給先へ送り、パージ空気をパージゾーンに通し、パージゾーンを通過後の空気は加熱装置を通過させて再生空気として再生ゾーンに通し、再生ゾーンを通過後の空気は排出し、処理空気またはパージ空気を温度調節装置に通して冷却または加熱するようにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明の除湿装置では、冷却器を通過させる空気を処理空気またはパージ空気どちらかのみにすることで、簡易な構成で除湿性能を落とさずに再生に必要な熱量を抑制し省エネルギーとすることができる。
【0017】
冷却器を通過させる空気をパージ空気のみにすることは、処理空気を冷却する必要がなく省エネルギーとなる効果がある。またパージ空気を冷却することによりロータの冷却効果が高まる効果や、パージ空気は減湿されており、パージゾーンでロータに吸着される水分量が減り、処理ゾーンでの吸着効果を高めることができるという効果がある。
【0018】
冷却器を通過させる空気を処理空気のみにすることは、パージ空気を冷却する必要がなく省エネルギーとなる効果がある。またパージ空気を冷却しないことで、パージ出口温度が上昇し、再生ヒータ出力を下げることができるため省エネルギーとなる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は従来の一般的な除湿フロー(比較例1)である。
図2図2は本発明の除湿装置の実施例1におけるフロー図である。
図3図3は本発明の除湿装置の実施例2におけるフロー図である。
図4図4は本発明の除湿装置の実施例3におけるフロー図である。
図5図5は本発明の除湿装置の実施例4におけるフロー図である。
図6図6は本発明の除湿装置の実施例5におけるフロー図である。
図7図7は本発明の除湿装置の実施例6におけるフロー図である。
図8図8は従来の一般的な2段の吸着ロータの除湿フロー(比較例2)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の除湿装置は、水分の吸着能力を有する吸着ロータを少なくとも処理ゾーン、再生ゾーン、パージゾーンに分割し、被処理空気を処理空気とパージ空気に分岐し、処理空気を処理ゾーンに通し、処理ゾーンを通過後の空気は供給先へ送り、パージ空気をパージゾーンに通し、パージゾーンを通過後の空気は加熱装置を通過させて再生空気として再生ゾーンに通し、再生ゾーンを通過後の空気は排出し、処理空気またはパージ空気を温度調節装置に通して冷却または加熱するようにした。なお、本発明は以下の実施形態について限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の除湿装置の実施例1について、図2のフロー図に沿って説明する。実施例1の構成には、水分の吸着能力を有する除湿ロータとしての吸着ロータ1、温度調節装置2、加熱装置3が含まれる。吸着ロータ1には、ガラス繊維などの無機繊維からなる基材のハニカムロータにゼオライトやシリカゲルなどの吸着材を担持したものが用いられる。この吸着ロータ1は処理ゾーン4、再生ゾーン5、パージゾーン6に分割され、この順にギヤドモータ(不図示)などによって回転駆動される。温度調節装置2は冷却器としては例えば、冷水コイル、ブラインコイル、ヒートポンプの蒸発器などであり、加熱器としては例えば、電気ヒータ、蒸気ヒータ、温水ヒータ、ヒートポンプの凝縮器などである。また、加熱装置3は例えば、電気ヒータ、蒸気ヒータ、温水ヒータ、ヒートポンプの凝縮器などである。以下、特記しない限り、温度調節装置2を冷却器として説明する。
【0022】
図2に示すように被処理空気Aは、吸着ロータ1を通過する前に処理空気aとパージ空気bに分岐され、それぞれ処理ゾーン4とパージゾーン6に送られる。処理空気aは処理ゾーン4を通過し、水分が除去された空気となり、給気SAとして生産設備やドライルームなどの供給先へ送られる。パージゾーン6を通過する前のパージ空気bを温度調節装置2に通して冷却する。この空気をパージゾーン6に通し、パージゾーン6を通過した空気は、加熱装置3に通されてから再生ゾーン5を通る。再生ゾーン5を通過した空気は、大気などの除湿装置外に放出し排気される。
【0023】
本発明の実施例1は以上のような構成よりなり、以下詳細を説明する。水分を含んだ被処理空気Aは、処理ゾーン4に導入される処理空気aとパージゾーン6に導入されるパージ空気bに分岐される。処理空気aは処理ゾーン4を通過し、吸着ロータ1に担持された吸着材によって水分が吸着除去され、供給先へ乾燥空気が供給される。パージ空気bは温度調節装置2により冷却されてからパージゾーン6を通過する。パージゾーン6に冷却した空気を通過させることで、再生ゾーン5で温度が上昇した吸着ロータ1の吸着材を冷却し、吸着性能を回復させる。パージゾーン6を通過した空気は、加熱装置3に送られて吸着ロータ1の吸着材から水分を脱着させるのに十分な温度(例えば、摂氏80~200℃。
以下、温度は全て「摂氏」とする。)まで加熱され、再生空気cとして再生ゾーン5に送られる。再生ゾーン5を通過した空気は大気などの除湿装置外へ排出される。
【0024】
このように、実施例1の除湿装置では、パージ空気bを温度調節装置2で冷却することにより、ロータの冷却効果を高める。パージ空気bは減湿されているため、パージゾーン6でロータに吸着される水分量が減り、処理ゾーン4での吸着効果が高まる。冷却により減湿され、パージゾーン6を通過した低露点空気を再生空気に用いることで、再生効率も向上する。また、処理空気aを温度調節装置2で冷却しないため、温度調節装置2の消費電力が低減し、冷却容量の低減を図ることができる。
【0025】
なお、図2のフローにおいて、吸着ロータ1を逆回転させることにより、吸着ロータ1は処理ゾーン4、パージゾーン6、再生ゾーン5の順に回転する。温度調節装置2を加熱器としてパージ空気bを加熱することで、再生ゾーン5に入る前のパージ空気bを昇温し、パージゾーン6で吸着ロータ1をプレヒートし、予熱することができる。また、吸着ロータ1をパージゾーン6および再生ゾーン5の2段階で再生して水分の脱着効果を高めることもできる。
【0026】
(比較例1) 図1は従来の一般的な除湿フロー(比較例1)である。図2と重複する部分の説明は省略する。図1では被処理空気Aを温度調節装置2に通した後に処理空気aとパージ空気bに分岐し、それぞれ処理ゾーン4とパージゾーン6に通す。このため、処理空気aとパージ空気bはどちらも冷却され、温度調節装置2の冷却容量が実施例1より大きくなり、イニシャルコストもランニングコストも高くなるという違いがある。
【0027】
ここで、処理ゾーンを通過する前の処理空気を冷却器によって予除湿して絶対湿度を低下させ、温度を下げて相対湿度を高めた後、処理ゾーンに導入するのが当業者にとっては常識であり、特許文献1~4に記載されているように当たり前のことである。逆に、処理ゾーンを通過する前の処理空気を冷却しないという発想は、除湿性能を悪くする方向に働くため、当業者ではなかなか固定概念を捨て難く容易に想到し得ない。
【0028】
実施例1によれば、処理空気aを温度調節装置2に通さないため、処理出口温度が高い。よって、乾燥用途としての使い方に適している。パージゾーン6での水分吸着を抑制し、かつパージゾーン6の冷却もできるぎりぎりのパージ空気bの温度調整を行うことにより、温度調節装置2の省エネルギー効果を一層高めることが可能である。
【実施例2】
【0029】
以下、本発明の除湿装置の実施例2について、図3のフロー図に沿って説明する。前述の実施例と重複する部分の説明は省略する。実施例2では、被処理空気Aを分岐し、処理ゾーン4に通す処理空気aを温度調節装置2により冷却して処理ゾーン4に通し、パージ空気bは冷却せず、そのままパージゾーン6に通す。
【0030】
本発明の実施例2は以上のような構成よりなり、以下詳細を説明する。被処理空気Aは例えばドライルームからの還気と混合した外気であり、25℃、絶対湿度0.6g/kg(DA)の場合、温度調節装置2を通過した空気は温度が低下して14℃となる。すなわち、実施例2(図3)では処理空気aは温度調節装置2を通過した後、14℃、0.6g/kg(DA)の空気となり、処理ゾーン4に導入される。一方、パージ空気bは温度調節装置2を通さないので、25℃、0.6g/kg(DA)のまま、パージゾーン6に導入される。パージゾーン6を通過した空気は70℃、0.4g/kg(DA)となり、加熱装置3に導入される。
【0031】
従来の一般的な除湿フローである比較例1(図1)と比較する。図1では25℃、0.6g/kg(DA)の被処理空気Aは、温度調節装置2を通過して14℃、0.6g/kg(DA)の空気となり、処理空気aとパージ空気bに分岐される。温度が低下したパージ空気bはパージゾーンを通過して59℃、0.3g/kg(DA)の空気となり、加熱装置3に導入される。
【0032】
パージゾーン通過後の温度は実施例2の方が比較例1に比べて11℃高い。パージゾーン6での除湿量(パージゾーン通過前後の絶対湿度の変化量)は実施例2では0.2g/kg(DA)に留まり、比較例1では0.3g/kg(DA)となる。このことから、パージ空気bを温度調節装置2に通さないことにより、パージゾーン通過後はより高い温度の空気が得られ、パージゾーン6での除湿量が低減する。パージ空気bの温度が高いと、吸着ロータ1の冷却効果が低減し、吸着性能が悪くなる方向に働く。また、パージゾーン6での水分の吸着が生じにくくなり、パージゾーン6で低露点の空気が生成されないため脱着性能が悪くなる方向にも働く。しかしながら、-20℃DPのように被処理空気Aの露点が低い場合、パージゾーンでの除湿量が低下しても、被処理空気は乾燥した空気なので、脱着性能への影響は小さい。上記の場合、比較例1、実施例2ともに給気SAの露点は-70℃DP前後の超低露点領域であり、実用上は大きな違いはなく、除湿性能はほぼ同じと言える。従って、被処理空気Aが低露点の空気である場合、パージ空気bを温度調節装置2に通さない効果は大きい。また、パージゾーン6での除湿量を抑えることにより、処理ゾーン4での除湿量が多くなる効果もある。温度調節装置2は処理空気aだけを冷却すればよいので、冷却容量も低減できる。
【0033】
以上のように実施例2によれば、パージ空気bを冷却しないことにより、パージ空気bを冷却する場合に比べてパージゾーン6通過後の空気の温度は高くなる。それにより加熱装置3の出力を下げることができ、省エネルギーとなる。また温度調節装置2は処理空気aのみの冷却で良いため、温度調節装置2も冷却容量低減を図ることができる。
【0034】
図1のようにパージ空気bも冷却する従来の一般的なフロー(比較例1)に比べて、実施例2は若干の性能低下はあるものの、実用には影響が出ない程度であり、省エネルギーのメリットが大きい。
【0035】
ここで、図1のように処理ゾーンおよびパージゾーンを通過する前の処理空気およびパージ空気を冷却器によって予除湿して絶対湿度を低下させ、温度を低下させて相対湿度を高めた後、処理ゾーンおよびパージゾーンに導入するのが当業者にとっては常識であり、当たり前である。パージゾーンを通過する前のパージ空気を冷却しないという発想は、除湿性能を悪くする方向に働くため、当業者ではなかなか固定概念を捨て難く容易に想到し得ない。
【実施例3】
【0036】
以下、本発明の除湿装置の実施例3について、図4のフロー図に沿って説明する。前述の実施例と重複する部分の説明は省略する。実施例3では、被処理空気Aは温度調節装置2によって冷却し、処理ゾーン4とパージゾーン6に通す空気(処理空気a+パージ空気b)と、パージゾーン通過後の空気と混合して再生空気とするための混合用空気d(以下、「混合用空気d」という。)に分岐する。処理ゾーン4通過後の空気は給気SAとして供給先へ送る。パージゾーン6を通過後の空気は、被処理空気Aを分岐した混合用空気dと混合して加熱装置3を通過させ、再生空気cとして再生ゾーン5に通す。再生ゾーン5を通過後の空気は大気などの除湿装置外に放出し排気される。
【0037】
本発明の実施例3は以上のような構成よりなり、以下詳細を説明する。被処理空気Aは例えば外気であり、温度調節装置2を通過して10℃、7g/kg(DA)(相対湿度92%RH)となる。冷却された被処理空気Aは、流量比が処理空気a:パージ空気b:混合用空気d=9:1:2となるようそれぞれ分岐される。すなわち、再生空気cの流量比は、混合用空気dの流量比2とパージ空気bの流量比1を合わせた流量比3となる。よって、処理ゾーン4:再生ゾーン5:パージゾーン6=9:3:1の流量比となる。パージゾーン出口空気は120℃、6g/kg(DA)となり、混合用空気dと混合して加熱装置3によって再生入口温度160℃まで昇温される。再生ゾーン5通過後の空気の温度は50℃、処理ゾーン4を通過後の給気SAは-52℃DPとなる。
【0038】
従来の一般的な除湿フロー(比較例1)である図1と比較する。図1では被処理空気Aは、温度調節装置2を通過して10℃、7g/kg(DA)(相対湿度92%RH)の空気となり、流量比が処理空気a:パージ空気b=3:1となるよう分岐される。よって、処理ゾーン4:再生ゾーン5:パージゾーン6=3:1:1の流量比となる。パージゾーン出口空気は60℃、0.6g/kg(DA)(-20℃DP)となり、加熱装置3によって再生入口温度160℃まで昇温される。再生ゾーン5通過後の空気の温度は40℃、処理ゾーン4を通過後の給気SAは-48℃DPとなる。
【0039】
実施例3と比較例1では、被処理空気Aや再生入口温度が同じ条件であるにも関わらず、実施例3の方が給気SAの露点が低く、性能が良い。これは、実施例3ではパージ空気の流量を比較例の3分の1に減らし、ロータへの水分の吸着を低減させているためと考えられる。比較例1の場合、処理ゾーン4に入る前にパージゾーン6で水分を多く吸着し、処理ゾーン4での吸着量が減ってしまう。再生出口温度に関して、実施例3の方が実施例1に対して10℃高い。再生出口側の空気は高湿度の空気であり、再生出口温度が低いと再生出口側が結露する可能性がある。このため、再生出口温度が高い実施例3は再生出口側の結露を防ぐ効果がある。なお、加熱装置3の加熱容量は比較例1も実施例3も同等である。
【0040】
以上のように、実施例3によれば、被処理空気Aの一部を分岐した混合用空気dをパージゾーン通過後の空気と混合して再生空気cとすることで、パージ空気bの流量を減らし、パージゾーン6でのロータへの水分吸着を低減することができる。このため、処理ゾーン4での吸着ロータ1の吸着性能が高まり、除湿性能が向上する。
【実施例4】
【0041】
以下、本発明の除湿装置の実施例4について、図5のフロー図に沿って説明する。前述の実施例と重複する部分の説明は省略する。実施例4では、被処理空気Aを処理空気aと分岐空気eに分岐し、処理空気aはそのまま処理ゾーン4に通し、処理ゾーン4を通過後の空気は給気SAとして供給先へ送る。分岐空気eは温度調節装置2で冷却し、パージゾーン6に通すパージ空気bと、一部分岐しパージゾーン通過後の空気と混合する混合用空気dとする。
【0042】
実施例1と同様に、パージ空気bを温度調節装置2で冷却することにより、ロータの冷却効果を高める。またパージ空気bは冷却により減湿されていることと、実施例3と同様にパージ空気bの流量が低減したことにより、パージゾーン6でロータに吸着される水分量が減り、処理ゾーン4での吸着効果が高まる。また処理空気aを温度調節装置2で冷却しないため温度調節装置2の冷却容量低減を図ることができる。また、実施例1と同様に、実施例4では処理空気aを温度調節装置2に通さないため、処理出口温度が高い。よって、乾燥用途としての使い方に適している。
【実施例5】
【0043】
以下、本発明の除湿装置の実施例5について、図6のフロー図に沿って説明する。前述の実施例と重複する部分の説明は省略する。実施例5では、被処理空気Aをパージ空気bと分岐空気eとに分岐し、パージ空気bはそのままパージゾーン6に通過する。分岐空気eは温度調節装置2で冷却して2つに分岐し、処理ゾーン4に通す処理空気aと、パージゾーン通過後の空気と混合する混合用空気dとする。
【0044】
実施例2と同様に、パージ空気bを冷却しないことにより、パージ空気bを冷却する場合に比べてパージ出口温度は高くなる。それにより加熱装置3の出力を下げることができ、省エネルギーとなる。また分岐空気eのみの冷却で良いため、温度調節装置2も冷却容量低減を図ることができる。また実施例3と同様にパージ空気bの流量が小さいことにより、パージゾーン6でロータに吸着される水分量が減り、処理ゾーン4での吸着効果が高まる。
【0045】
実施例1~5のフロ
ーにおいて、より低露点の空気を供給先に供給するため、2段の吸着ロータとして構成する場合、前段に第1の吸着ロータ7を配置し、後段に吸着ロータ1を第2の吸着ロータ1として配置するフローとする。なお、被処理空気Aの条件にもよるが、実施例1~5の単段での吸着ロータ1における給気SAの露点は-50℃程度が限界である。しかし、2段の吸着ロータとした場合、給気SAの露点を-80℃DPひいては-90℃DPの超低露点とすることができる。
【実施例6】
【0046】
以下、本発明の除湿装置の実施例6について、図7のフロー図に沿って説明する。前述の実施例と重複する部分の説明は省略する。実施例6では、実施例2の吸着ロータ1(第2の吸着ロータ1)の前段に第1の吸着ロータ7を配置した構成である。この他、温度調節装置2、第2の加熱装置3、第1の加熱装置10が含まれる。前段の第1の吸着ロータ7は少なくとも第1の処理ゾーン8、第1の再生ゾーン9に分割されている。第2の吸着ロータ1、第1の吸着ロータ7はそれぞれギヤドモータ(不図示)などによって回転駆動される。なお、温度調節装置2を第2の温度調節装置とし、第1の吸着ロータ7の第1の処理ゾーン8の前に第1の温度調節装置を追加するようにしても良い。
【0047】
図7に示すように被処理空気A'は、前段の第1の吸着ロータ7の第1の処理ゾーン8を通過し、第1の処理ゾーン通過後の空気は生産設備やドライルームなどの供給先(Room)からの還気RA(f)と混合されて被処理空気Aとなり、第2の吸着ロータ1へ送られる。被処理空気Aは第2の吸着ロータ1を通過する前に処理空気aとパージ空気bとに分岐される。処理空気aは温度調節装置2に通されて冷却され、第2の処理ゾーン4を通る。第2の処理ゾーン4を通過して水分が除去された空気は、供給先(Room)へ送られる。パージ空気bは、第2のパージゾーン6を通過した後、第2の加熱装置3に通され、再生空気cとして第2の再生ゾーン5を通る。第2の再生ゾーン5を通過した空気は、外気OA(g)を一部混合し第1の加熱装置10を通過し、第1の吸着ロータ7の水分を脱着するのに十分な温度に昇温した後、第1の再生ゾーン9を通過し大気などの除湿装置外へ排出される。なお、外気OA(g)と第1の再生ゾーン9を通過した排気EAを熱交換器によって熱交換するようにしても良い。再生空気に混合する空気gは外気OAに限らず、還気RAなど別の空気を用いるようにしても良く、外気OA(g)を混合しないフローとしても良い。また、還気RA(f)は第1の吸着ロータ7と第二の吸着ロータ1の間で混合せず、被処理空気A'と混合して、第1の吸着ロータ7に導入するようにしても良く、供給先からの還気RAとして混合せずに供給先から排出するようにしても良い。
【0048】
本発明の実施例6は以上のような構成よりなり、以下詳細を説明する。水分を含んだ被処理空気A'が10℃、7g/kg(DA)の場合、第1の吸着ロータ7の第1の処理ゾーン8を通過し、吸着材によって水分が吸着除去される。供給先からの還気RA(f)と混合された被処理空気Aは25℃、0.6g/kg(DA)となる。被処理空気Aを分岐した処理空気aは温度調節装置2を通過し、10℃、0.6g/kg(DA)となり第2の処理ゾーン4を通過する。第2の処理ゾーン4を通過し、吸着材によって水分が吸着除去された給気SAは15℃、-73℃DPの超低露点空気となり、供給先へ送られる。パージ空気bは25℃、0.6g/kg(DA)であり、第2のパージゾーン6を通過後、66℃となる。第2のパージゾーン6通過後の空気は第2の加熱装置3を通過して140℃へ昇温し、第2の再生ゾーン5を通過し吸着材から水分を脱着する。第2の再生ゾーン5を通過した空気は外気OA(g)と混合し、第1の加熱装置10により昇温して第1の吸着ロータ7の第1の再生ゾーン9を通過し吸着材から水分を脱着し、大気などの除湿装置外へ排出される。
【0049】
(比較例2) 図8に従来の一般的な除湿フロー(図1、比較例1)の前段に第1の吸着ロータ7を配置した従来の一般的な2段の吸着ロータの除湿フロー(比較例2)を示す。図7と重複する部分の説明は省略する。図8では、被処理空気Aを温度調節装置2に通して冷却した後に処理空気aとパージ空気bに分岐し、第2の吸着ロータ1の第2の処理ゾーン4と第2のパージゾーン6に通す。図7と同様に、被処理空気A'が10℃、7g/kg(DA)の場合、第1の吸着ロータ7の第1の処理ゾーン8を通過し、供給先(Room)からの還気RA(f)と混合された被処理空気Aは25℃、0.6g/kg(DA)となる。被処理空気Aが温度調節装置2を通過し、10℃、0.6g/kg(DA)となり、処理空気aとパージ空気bに分岐してそれぞれ第2の処理ゾーン4、第2のパージゾーン6を通過する。第2の処理ゾーン4を通過し供給先へ送られる給気SAは、14℃、-75℃DPとなる。第2のパージゾーン6を通過した空気は58℃となる。
【0050】
実施例6(図7)と従来の一般的な2段の吸着ロータの除湿フローである比較例2(図8)と比較する。第2のパージゾーン6通過後の温度は実施例6の方が比較例2に比べて8℃高い。このことから、実施例2と同様、パージ空気bを温度調節装置2に通さないことにより、パージゾーン通過後はより高い温度の空気が得られる。よって、第2の加熱装置3の加熱容量を実施例6では低減できる。第2のパージゾーン6を通過する空気の温度が高いと、第2の吸着ロータ1の冷却効果が低減し、脱着性能が悪くなる方向に働く。しかしながら、実施例6では前段で除湿した乾燥空気に供給先からの還気RAを混合した-20℃DPの低露点空気であるため、脱着性能への影響は小さい。上記の場合、給気SAの露点は実施例6の方が2℃DP高いが、超低露点領域であるため実用上は大きな違いはなく、除湿性能はほぼ同じと言える。従って、被処理空気Aが低露点の空気である場合、パージ空気bを温度調節装置2に通さない効果は大きい。また、温度調節装置2の冷却容量を小さくすることができる。なお、給気SAの温度は実施例1の方が1℃高いが、供給先で例えば25℃に調整される場合、供給先の空調負荷を下げる効果もある。
【0051】
上記の実施例において、被処理空気が例えば10℃、7g/kg(DA)(相対湿度92%RH)といった高湿度の条件では、除湿装置の運転開始直後は吸着ロータの再生出口側が温まっていないため、再生ゾーンを通過した空気が結露し、除湿性能が低下する懸念がある。そのため、装置運転開始時、最適回転数よりも回転数を落として再生出口側を温め、再生出口温度を高めて、再生ゾーンを通過した空気が結露しないようにする。再生出口側が温まった後で、最適回転数に戻して定常運転を行うようにすると良い。
【0052】
上記の実施例において、被処理空気Aを分岐したパージ空気bをパージゾーン6に通すようにしたが、これに限るものではなく、外気OAや処理ゾーン4を通過した空気や供給先からの還気RAなど他の空気を用いるようにしても良い。処理ゾーン4またはパージゾーン6に通す空気について、外気OAや還気RAなどを通す配管とつなげて、この配管にバルブやダンパーなどの流量調整装置、三方弁などの流路切替装置を設けて各ゾーンに流す空気の流量を調整したり、空気の種類を切り替えたりするようにしても良い。また、処理ゾーン4およびパージゾーン6の前に温度調節装置2をそれぞれ設け、必要に応じて処理空気a、パージ空気b単独または両方を冷却または加熱するようにしても良い。同様に、実施例3~5においても、温度調節装置2の位置は図4~6に限るものではなく、空気a、b、d、eを単独または複数組み合わせて冷却するようにしても良い。さらに、吸着ロータ1、7には別のゾーンを設けるようにしても良い。処理ゾーン4を通過後の空気は供給先に供給せず、排出するようにしても良い。再生ゾーン5を通過後の空気を排出せず、供給先に供給するようにしても良く、これに限るものではない。2段の吸着ロータとして構成する場合、第2の吸着ロータ1のフローは実施例2のフローに限らず、実施例1、3~5のフローと組み合わせても良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、リチウム電池の生産など乾燥した状態を必要とする製造工程に対して、除湿性能を落とさずにコストを抑え、省エネルギー運転を可能とする除湿装置を提供する。
【符号の説明】
【0054】
1 吸着ロータ(第2の吸着ロータ)2 温度調節装置3 加熱装置(第2の加熱装置)4 処理ゾーン(第2の処理ゾーン)5 再生ゾーン(第2の再生ゾーン)6 パージゾーン(第2のパージゾーン)7 吸着ロータ(第1の吸着ロータ)8 処理ゾーン(第1の処理ゾーン)9 再生ゾーン(第1の再生ゾーン)10 加熱装置(第1の加熱装置)A 被処理空気A' 被処理空気a 処理空気b パージ空気c 再生空気d パージゾーン通過後の空気と混合して再生空気とするための混合用空気e 分岐空気f 供給先からの還気g 再生空気に混合する外気
【要約】      (修正有)
【課題】イニシャルコストや消費電力を削減した低露点空気の供給が可能な除湿システムを提供する。
【解決手段】本発明の除湿装置は、水分の吸着能力を有する吸着ロータ1を少なくとも処理ゾーン4、再生ゾーン5、パージゾーン6に分割し、被処理空気を処理空気aとパージ空気bに分岐し、処理空気を処理ゾーンに通し、処理ゾーンを通過後の空気は供給先へ送り、パージ空気をパージゾーンに通し、パージゾーンを通過後の空気は加熱装置3を通過させて再生空気cとして再生ゾーンに通し、再生ゾーンを通過後の空気は排出し、処理空気またはパージ空気を温度調節装置2に通して冷却または加熱するようにしたことで、除湿性能を落とさずに再生に必要な熱量を抑制し省エネルギーとした。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8