IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サカタインクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-インクジェット印刷物の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】インクジェット印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241125BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 134
B41J2/01 125
B41J2/01 501
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024147247
(22)【出願日】2024-08-29
【審査請求日】2024-09-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 興範
(72)【発明者】
【氏名】森安 員揮
(72)【発明者】
【氏名】冨田 寛樹
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-152286(JP,A)
【文献】国際公開第2024/053209(WO,A1)
【文献】特開2020-44724(JP,A)
【文献】特開2016-196177(JP,A)
【文献】特開2018-203905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂及び水溶性多価金属塩を含有する水性プライマー組成物を、基材に塗布し、乾燥してプライマー塗布物を作成するプライマー塗布工程と、
前記プライマー塗布物に、インクジェット印刷装置を用いて、ガラス転移温度(Tg)が-20~50℃の水性樹脂エマルジョン及び顔料を含有する水性インクジェット用インク組成物を印刷し、乾燥してインクジェット印刷物を作製するインクジェット印刷工程と、
前記インクジェット印刷物に対して、水分に晒しながら熱処理を行う熱処理工程と、
を順に含むインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理は、スチーム処理又は熱水浸漬処理である、請求項1に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記水性プライマー組成物に含有される前記バインダー樹脂が、アクリル系樹脂及び/又は酢酸ビニル系樹脂を含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記水性プライマー組成物に含有される前記水溶性多価金属塩が、カルシウム塩を含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記水性インクジェット用インク組成物に含まれる前記水性樹脂エマルジョンが、スチレン-アクリル系樹脂を含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記水性インクジェット用インク組成物に含まれる前記水性樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が9~50℃である、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記基材が、樹脂フィルム、金属、又は段ボールである、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記インクジェット印刷物は、表刷り印刷物である、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項9】
プライマー塗布手段と、インクジェット印刷手段と、熱処理手段と、を含むインクジェット印刷装置であって:
前記プライマー塗布手段は、バインダー樹脂及び水溶性多価金属塩を含有する水性プライマー組成物を、基材に塗布し、乾燥してプライマー塗布物を提供し;
前記インクジェット印刷手段は、前記プライマー塗布物に、ガラス転移温度(Tg)が-20~50℃の水性樹脂エマルジョン及び顔料を含有する水性インクジェット用インク組成物を印刷し、乾燥してインクジェット印刷物を提供し;
前記熱処理手段は、前記インクジェット印刷物に対して、水分に晒しながら熱処理を行う、インクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインクを用いたインクジェット印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインクは、インク小滴として各種記録媒体に飛翔させ、付着させて印刷層を形成するために用いられ、水性インク、溶剤型インク、硬化型インク等に大別される。水性インクジェットインクは水を主成分としており、環境負荷が低い等のメリットがある。
【0003】
一方で、水性インクジェットインクは、その塗膜の耐性、例えば、耐乾摩擦性等の硬度や強度、耐湿摩擦性や耐レトルト性等の耐湿性や耐水性等が十分とはいえないことがある。そのため、水性インクジェットインクで印刷された印刷物は、その印刷面にラミネートフィルムを積層させる等して、印刷面が外部に晒されることを防止して用いられることが多い。例えば、水性インクジェットインクによるインクジェット印刷物を包装容器として用いる場合には、水性インクジェットインクで、いわゆる裏刷り印刷をすることが一般的であり、その印刷面を外部に晒さずに包装容器とすることが多い。
【0004】
また、記録媒体に水性インクジェットインクを塗布する前に、前処理液(プライマー)を塗布しておくインクジェット印刷法も提案されている(特許文献1及び2参照)。特許文献1には、記録媒体に、凝集効果を高める反応剤を含有する反応液を付着させ、その後に着色インクとクリアインクを付着させることで、付着した着色インクやクリアインクの凝集性を高めて、印刷画像の画質を高めること等が提案されている。特許文献2には、水性プライマー組成物と水性インクジェット用インク組成物とのインクセットが開示されており;記録媒体である樹脂フィルムに、水性プライマー組成物、水性インクジェット用インク組成物を塗布し、更に、印刷面にラミネートフィルムを積層させて、ラミネート強度の高いラミネートフィルムを得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-196177号公報
【文献】特開2018-203905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、水性インクジェットインクで印刷したインクジェット印刷物の印刷層は、塗膜耐性が低く、摩擦により摩耗しやすかったり、湿度や水分に晒される等して塗膜が剥がれたりすることがあった。そのため、水性インクジェットインクで印刷する前に、プライマーを塗布して、インクジェット印刷物の物性を改善しようとする試みもみられるが、印刷物の印刷層自体の塗膜物性を十分に改善できるとはいえなかった。そこで、本発明は、水性インクジェットインクによる印刷物の印刷層の塗膜耐性を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明の第一は、以下に示すインクジェット印刷物の製造方法に関する。
[1]バインダー樹脂及び水溶性多価金属塩を含有する水性プライマー組成物を、基材に塗布し、乾燥してプライマー塗布物を作成するプライマー塗布工程と;前記プライマー塗布物に、インクジェット印刷装置を用いて、ガラス転移温度(Tg)が-20~50℃の水性樹脂エマルジョン及び顔料を含有する水性インクジェット用インク組成物を印刷し、乾燥してインクジェット印刷物を作製するインクジェット印刷工程と;前記インクジェット印刷物に対して、水分に晒しながら熱処理を行う熱処理工程と、を順に含むインクジェット印刷物の製造方法。
【0008】
本発明は、好ましくは、以下に示すインクジェット印刷物の製造方法に関する。
[2]前記熱処理は、スチーム処理又は熱水浸漬処理である、前記[1]に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
[3]前記水性プライマー組成物に含有される前記バインダー樹脂が、アクリル系樹脂及び/又は酢酸ビニル系樹脂を含有する、前記[1]又は[2]に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
[4]前記水性プライマー組成物に含有される前記水溶性多価金属塩が、カルシウム塩を含有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載のインクジェット印刷物の製造方法。
[5]前記水性インクジェット用インク組成物に含有される前記水性樹脂エマルジョンが、スチレン-アクリル系樹脂を含有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載のインクジェット印刷物の製造方法。
[6]前記水性インクジェット用インク組成物に含有される前記水性樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が9~50℃である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のインクジェット印刷物の製造方法。
[7]前記基材が、樹脂フィルム、金属、又は段ボールである、前記[1]~[6]のいずれかに記載のインクジェット印刷物の製造方法。
[8]前記インクジェット印刷物は、表刷り印刷物である、前記[1]~[7]のいずれかに記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【0009】
本発明の第二は、以下に示すインクジェット印刷装置に関する。
[9]プライマー塗布手段と、インクジェット印刷手段と、熱処理手段と、を含むインクジェット印刷装置であって:
前記プライマー塗布手段は、バインダー樹脂及び水溶性多価金属塩を含有する水性プライマー組成物を、基材に塗布し、乾燥してプライマー塗布物を提供し;前記インクジェット印刷手段は、前記プライマー塗布物に、ガラス転移温度(Tg)が-20~50℃の水性樹脂エマルジョン及び顔料を含有する水性インクジェット用インク組成物を印刷し、乾燥してインクジェット印刷物を提供し;前記熱処理手段は、前記インクジェット印刷物に対して、水分に晒しながら熱処理を行う、インクジェット印刷装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水性インクジェットインクによるインクジェット印刷物における、インク印刷層の各種塗膜耐性を高めることができる。そのため本発明によれば、水性インクジェットインクによるインクジェット印刷物を、表刷り印刷物等として、印刷面が外部と接触可能な状態で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のインクジェット印刷装置の概要を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.インクジェット印刷物の製造方法について
本発明のインクジェット印刷物の製造方法は、1)プライマー塗布工程と、2)インクジェット印刷工程と、3)熱処理工程と、をこの順に含む。
【0013】
1-1.プライマー塗布工程
本発明のインクジェット印刷物の製造方法におけるプライマー塗布工程は、被印刷基材に、水性プライマー組成物を塗布し、それを乾燥することを含む工程である。
【0014】
1-1-1.被印刷基材
本発明のインクジェット印刷物の製造方法における被印刷基材の例には、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルシートのようなプラスチック系基材;アルミニウム等の金属系基材;段ボール紙;アート紙、インクジェット専用紙、インクジェット光沢紙等のコート紙;普通紙、オフセット紙等の未コート紙;綿等の布帛等が含まれる。好ましくは、被印刷基材を、包装容器の基材となるものにすることが好ましい場合があり;プラスチック系フィルム、金属、段ボール等が例示される。
【0015】
1-1-2.水性プライマー組成物
プライマー塗布工程における水性プライマー組成物は、バインダー樹脂と、水溶性多価金属塩と、水とを含み、その他の任意成分(ヒドラジン誘導体、塩素化ポリオレフィン等)を含有することができる。水性プライマー組成物の主成分は水であり、水性プライマー組成物における水の含有量は、通常80質量%以上であり、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0016】
1-1-2A.バインダー樹脂
バインダー樹脂は、水性プライマー組成物においてエマルジョンとして存在するか、又は溶解している。バインダー樹脂の例には、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が含まれるが;アクリル系樹脂及び/又は酢酸ビニル系樹脂であることが好ましい。
【0017】
水性プライマー組成物におけるバインダー樹脂の含有量は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく;一方、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。バインダー樹脂を含有させることで、水性プライマー組成物の被印刷基材に対する接着性が高まるが、バインダー樹脂の含有量が過剰に高いと水性プライマー組成物の保存安定性が低下することがある。
【0018】
アクリル系樹脂は、単量体として、(メタ)アクリル酸及び(無水)マレイン酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸エイコシル等の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、オレフィン系化合物等;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、フルオロスチレン、スチレン等のスチレン系単量体;ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ベンジル系単量体;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸フェニル系単量体、等を重合してなる樹脂である。これらのアクリル系樹脂は、単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は-30~120℃が好ましく、重量平均分子量は3000~50000が好ましく、酸価は30~500mgKOH/gが好ましい。
【0020】
酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニル単量体が50モル%以上である樹脂である。酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルホモポリマー;酢酸ビニルと、他のモノマーとのコポリマーであり得る。酢酸ビニル系樹脂は、必要に応じて部分けん化又はけん化度100%けん化してもよい。他のモノマーの例には、エチレン、プロピレン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー及びその無水物等が含まれる。
【0021】
酢酸ビニル系樹脂の重量平均分子量は3000~50000が好ましい。
【0022】
水性プライマー組成物におけるバインダー樹脂は、塩素化ポリオレフィンを含有してもよい。塩素化ポリオレフィンは、ポリオレフィン樹脂を塩素化した樹脂であり、それをエマルジョン化したものであってもよい。塩素化されるポリオレフィン樹脂の例には、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合物、エチレン-プロピレン-ジエン共重合物、エチレン-プロピレン-αオレフィン共重合物、プロピレン-αオレフィン共重合物、エチレン-酢酸ビニル共重合物等が含まれる。なお、塩素化ポリオレフィンは、水性樹脂エマルジョンとしての保存安定性等を高めるために、(無水)マレイン酸等で酸変性されたものであってもよく、その場合は、系中にさらに塩基性化合物を添加して使用する。塩素化ポリオレフィンエマルジョンは、2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、塩素化ポリオレフィンの塩素化度(塩素含有量)は、樹脂全体に対して1~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。塩素化ポリオレフィンの塩素化度が高すぎると、樹脂自体の極性が過剰に高くなり、プライマー組成物中に含有させたときに、被印刷基材への密着性が低下する場合がある。
【0024】
水性プライマー組成物における塩素化ポリオレフィンの含有量は、特に限定されないが、水性プライマー組成物の被印刷基材への接着性と、プライマー組成物自体の保存安定性の観点から、プライマー組成物中に固形分換算で0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、1質量以上であることが更に好ましく、1.5質量%以上であることもあり;一方、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、5質量%であることもある。
【0025】
1-1-2B.水溶性多価金属塩
水性プライマー組成物に含まれる水溶性多価金属塩は、有機酸及び/又は無機酸の多価金属塩であり得るが、好ましくは有機酸の多価金属塩である。多価金属の例には、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛、ストロンチウム、銅、ニッケル等が含まれるが、好ましくはカルシウム及びマグネシウムであり、より好ましくはカルシウムである。
【0026】
有機酸の多価金属塩は、例えば、脂肪酸の多価金属塩である。脂肪酸として、脂肪酸アニオンRCOOにおけるRの炭素数が1以上30以下であるものを好ましく挙げることができる。脂肪酸の具体例には、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が含まれる。これらの中でも、脂肪酸アニオンRCOOにおけるRの炭素数が1以上10以下であるものがより好ましく、1以上5以下であるものがさらに好ましい。このような脂肪酸としては、酢酸等が挙げられる。
【0027】
無機酸の多価金属塩は、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の多価金属塩であり、好ましくは、塩酸や硝酸の多価金属塩であり得る。無機酸の多価金属塩の好ましい具体例には、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等のカルシウム塩;塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩;が挙げられる。
【0028】
プライマー組成物に対する水溶性多価金属塩の含有量は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく;一方、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。水溶性多価金属塩の含有量を調整することにより、プライマー層と、その上に形成した水性インクジェット用インク組成物の印刷層との間を、より密着に積層させることができる。
【0029】
本発明のインクジェット印刷物の製造方法は、熱処理工程(スチーム処理又は熱水浸漬処理)を含むが、当該熱処理工程によって、プライマー層に含まれる水溶性多価金属塩が変質して(例えば、水性インクジェット用インク組成物中の水性樹脂エマルジョンと反応して)、不溶性物質になり得る。
【0030】
1-1-2C.ヒドラジン誘導体
水性プライマー組成物は、ヒドラジン誘導体を含有してもよい。ヒドラジン誘導体は、少なくとも2個のヒドラジン残基を有し;例えば、下記一般式Aで表される化合物、下記一般式Bで表される化合物、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。これらの中でもアジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドがより好ましい。
(化1)
一般式A
(一般式Aにおいて、nは1~10を示す)

一般式B
(一般式Bにおいて、mは1~4を示す)
【0031】
水性プライマー組成物におけるヒドラジン誘導体の含有量は、特に限定されないが、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく;一方、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。ヒドラジン誘導体は、被印刷基材に対する接着性を高めることができるが、その量が過剰になるとプライマー組成物の保存安定性が低下する可能性がある。
【0032】
1-1-3.水性プライマー組成物の塗布及び乾燥
水性プライマー組成物は、基材(被印刷基材)に塗布、乾燥されてプライマー層を形成することで、プライマー塗布物とされる。
【0033】
水性プライマー組成物の塗布手段は特に制限されない。塗布手段の例には、バーコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター及びダイコーター等の各種塗工装置による塗布が含まれる。また、水性プライマー組成物をインクジェット印刷装置で塗布してもよい。
【0034】
水性プライマー組成物の塗布量は、乾燥後のプライマー層の厚みが0.01~1μm、好ましくは0.05~0.8μmとなるように調整されうる。乾燥後のプライマー層の厚みが0.01μm未満であると、基材上に均一に欠点のないプライマー層を形成するのが困難となる。一方、乾燥後のプライマー層の厚みが1μmを超えると、プライマー層の乾燥に時間がかかり作業性が低下するおそれがあり、また、経済的に非効率となるおそれがある。
【0035】
塗布されたプライマー組成物は、乾燥されてプライマー層を形成する。乾燥手段は特に制限されないが、加熱による乾燥が好ましい。加熱温度は30~80℃程度であり、40~70℃程度であることが好ましい場合がある。乾燥時間は、加熱温度によって異なるが、1秒~1分程度であり、10秒以下であってもよい。
【0036】
1-2.インクジェット印刷工程
上記のプライマー塗布工程によって得られたプライマー塗布物に、水性インクジェット用インク組成物を印刷し、乾燥してインクジェット印刷物を作製する。
【0037】
1-2-1.水性インクジェット用インク組成物
水性インクジェット用インク組成物は、水性樹脂エマルジョン、顔料及び水を含有し;その他の成分、例えば、ワックス、界面活性剤、水溶性有機溶媒、顔料分散剤等を含有してもよい。水性インクジェット用インク組成物における水の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく;一方、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
1-2-1A.水性樹脂エマルジョン
水性インクジェット用インク組成物に含まれる水性樹脂エマルジョンの例には、アクリル系樹脂エマルジョン、アクリル-スチレン系樹脂エマルジョン、アクリル-酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、ポリエステル系樹脂エマルジョン、ポリウレタン系樹脂エマルジョン、ポリ酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、ポリ塩化ビニル系樹脂エマルジョン、ポリブタジエン系樹脂エマルジョン、ポリエチレン系樹脂エマルジョン等が含まれる。水性樹脂エマルジョンのより好ましい例には、アクリル系樹脂エマルジョン、アクリル-スチレン系樹脂エマルジョンが含まれ、なかでもアクリル-スチレン系樹脂エマルジョンが更に好ましい。水性樹脂エマルジョンの組成によって、得られるインクジェット印刷物のインクジェット印刷層の物性(耐摩擦性や耐湿性等)を改善することができる。
【0039】
水性樹脂エマルジョンは、スチレン-アクリル系樹脂であることが好ましい場合があり;スチレン-アクリル系樹脂は、スチレンと、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体であり得る。そして、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョンによる効果を損なわない範囲において、アクリルアミド、アクリロニトリル等のモノマーをコモノマーとして共重合させることができる。市場から入手可能なスチレン-アクリル系樹脂の具体例として、例えばヨドゾールAD199、ネオクリルA-1092、ネオクリルA-655等を挙げることができる。
【0040】
水性樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)は、-20℃以上であり、-10℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましく、9℃以上であることが更に好ましく;一方、50℃以下であり、40℃以下であることが好ましい。水性樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が50℃以下であると、プライマー塗布物上におけるインク組成物の成膜性を高めやすく;一方、-20℃以上であると、インク組成物の吐出安定性を高めやすく、また、熱処理工程後に得られるインクジェット印刷物のインクジェット印刷層の物性(耐摩擦性や耐湿性等)を改善することができる。
【0041】
水性樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)は、理論ガラス転移温度であるか、実測ガラス転移温度であり得る。例えば、水性樹脂エマルジョンがアクリル系樹脂又はスチレン-アクリル系樹脂である場合には、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度Tgである。
Woodの式:1/Tg=W/Tg+W/Tg+W/Tg+・・・・・+WX/TgX
[式中、Tg~TgXはアニオン性基含有樹脂を構成する単量体1、2、3・・・xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W~WXは単量体1、2、3・・・xのそれぞれの重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。]
【0042】
実測ガラス転移温度は、熱分析により測定することができる。熱分析の方法としては、JIS K7121(プラスチックの転移温度測定方法)に準じ、一例として、パーキンエルマー社製Pyris1 DSCを用いて、昇温速度20℃/分、窒素ガス流速20ミリリットル/分の条件下でガラス転移温度を測定することができる。
【0043】
水性樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物の吐出安定性を高める観点から、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。前記エマルジョンの平均粒子径は、一例として、日機装製Microtrac粒度分布測定機「UPA-150」を用いて、測定時間60秒、希釈溶媒を水として、D50値の測定によって求めることができる。
【0044】
水性インクジェット用インク組成物における、水性樹脂エマルジョンの含有量は、樹脂固形分として1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく;一方、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。水性樹脂エマルジョンの含有量を樹脂固形分として1質量%以上とすると、得られる印刷物の外観及び各種耐性を改善することができ;一方、10質量%以下とすることで、インク組成物のインクジェット吐出を安定化することができる。
【0045】
1-2-1B.顔料
水性インクジェット用インク組成物に含まれる顔料は、従来から使用されている公知の無機顔料や有機顔料等を使用することができる。
【0046】
無機顔料の例には、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が含まれる。
【0047】
有機顔料の例には、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系等の有機顔料が含まれる。
【0048】
有機顔料の具体例をカラーインデックスで示すと、ピグメントブラック7;ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、60;ピグメントグリーン7、36;ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255;ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185;ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74;等が挙げられる。これら顔料は、1種もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
白色インク以外の水性インクジェット用インク組成物全量に対する顔料の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく;一方、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。白色インクの水性インクジェット用インク組成物全量に対する顔料の含有量は、5~15質量%であることが好ましい。顔料の含有量を一定以上とすることで、十分な着色力を得やすく、一方、一定以下とすることでインク組成物の粘度上昇を抑え、インクの流動性を確保しやすい。
【0050】
1-2-1C.ワックス
水性インクジェット用インク組成物はワックスを含有してもよい。ワックスは、炭化水素系ワックスであることが好ましく;炭化水素系ワックスの好ましい例には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロスタリンワックス等が含まれ、これを単独又は2種以上併用してもよい。ワックスとして、ポリエチレンワックス及び/又はフィッシャートロプシュワックスがより好ましく、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
【0051】
ポリエチレンワックスの具体例には、AQUACER507、AQUACER515、AQUACER531、AQUACER539(いずれもビックケミー・ジャパン社製)、ハイテックE-6314(固形分35%、ノニオン乳化ポリエチレンワックス、東邦化学社製)、ハイテックE-1000(固形分35%、ノニオン乳化ポリエチレンワックス、東邦化学社製)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
水性インクジェット用インク組成物におけるワックスの含有量は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく;一方、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。ワックスは、印刷物の耐ブロッキング性や耐摩擦性(特に、耐乾摩擦性)を向上させることができる。
【0053】
1-2-1D.界面活性剤
水性インクジェット用インク組成物は界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤の例には、アセチレンジオール系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルコールエトキシレート系界面活性剤、アルコールアルコキシレート系界面活性剤等が含まれるが;アセチレンジオール系界面活性剤であることが好ましい場合がある。アセチレンジオール系界面活性剤は、水性インクジェット用インク組成物の印刷(記録)画像のベタ埋まりを良好にし得る。
【0054】
アセチレンジオール系界面活性剤の具体例には、Evonik社製のサーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104BC 、サーフィノール104DPM、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG-50、サーフィノール420、サーフィノール440;日信化学工業社製のオルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020、オルフィンPD-001、オルフィンPD-002W、オルフィンPD-004、オルフィンPD-005、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4200、オルフィンEXP.4123、オルフィンEXP.4300等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
水性インクジェット用インク組成物における界面活性剤の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく;また、3質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが更に好ましい。
【0056】
なお、本発明のインクジェット印刷物の製造方法において、白色の水性インクジェット用インク組成物は、白引き印刷として用いられることがある。白引き印刷とは、白色インク以外の水性インクジェット用インク組成物を印刷する前に、白色インクによる印刷を行うことで、下地(基材)の色を隠蔽することをいう。その場合には、白色の水性インクジェット用インク組成物の表面張力と、白色インク以外の水性インクジェット用インク組成物との表面張力とを界面活性剤で調整して、白色インク以外の水性インクジェット用インク組成物による印刷層を重ね塗りしやすいようにすることができる。
【0057】
1-2-1E.水溶性有機溶剤
水性インクジェット用インク組成物は水溶性有機溶剤を含有してもよい。水溶性有機溶剤の例には:メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノニルアルコール、n-デカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等のモノアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等のジオール;テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラプロピレングリコール、チオジグリコール等、さらにこれらのアルコールのモノアルキルエステル、モノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル等やグリセリン;アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;プロピレンカルボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、酪酸エチル、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のエステル類;ε-カプロラクトン、ε-カプロラクタム等の環状エステル;N-メチル-2-ピロリドン等環状アミド;等が含まれる。水性インクジェット用インク組成物に含まれる水溶性有機溶剤は、1種以上単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0058】
水性インクジェット用インク組成物における水溶性有機溶剤の含有量は、20質量%以上であることが好ましく;一方、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。また、水性インクジェット用インク組成物における水溶性有機溶剤と水との合計含有量は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく;一方、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
1-2-1F.顔料分散剤
水性インクジェット用インク組成物は、顔料分散剤を含有してもよい。顔料分散剤は、樹脂型の顔料分散剤(顔料分散用樹脂)であることが好ましい。顔料分散用樹脂とは、分子内に疎水基(例えば、スチレンや長鎖アルキル基)を有し、当該疎水基が顔料に対する親和性を与える。顔料分散用樹脂の例には、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、αオレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。顔料分散体を安定化させるという観点から、アクリル樹脂、スチレン-アクリル酸ラウロイル-アクリル酸共重合体等のスチレン-アクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0060】
顔料分散用樹脂の酸価は、顔料の分散性及び分散安定性の観点から、40~300mgKOH/gが好ましく、より好ましくは70~250mgKOH/gである。顔料分散用樹脂の重量平均分子量は、顔料の分散性及び分散安定性の観点、インク組成物に適切な粘度を付与する観点から、3000~20万であるのが好ましく、より好ましくは10000~50000である。
【0061】
水性インクジェット用インク組成物における顔料分散用樹脂の含有量は、顔料100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、一方、200質量部以下であることが好ましい。
【0062】
1-2-2.水性インクジェット用インク組成物の印刷及び乾燥
水性インクジェット用インク組成物は、インクジェット印刷装置を用いて、プライマー塗布物上に印刷され、乾燥されて印刷層となり、インクジェット印刷物を与える。インクジェット印刷工程では、単色の水性インクジェット用インク組成物だけを印刷してもよいし、複数色の水性インクジェット用インク組成物を印刷(カラー印刷)してもよい。また、インクジェット印刷工程では、白色の水性インクジェット用インク組成物を印刷(白引き印刷という)してから、更に、他の色の水性インクジェット用インク組成物を重ね塗り印刷してもよい。
【0063】
使用可能なインクジェット印刷装置の方式は特に限定されず、ラインヘッド方式(シングルパス方式)であってもよいし、シリアルヘッド方式(マルチパス方式)であってもよい。また、コンティニュアスタイプのインクジェット印刷装置であってもよく、その場合には、さらに導電性付与剤を加えてインク組成物の電導度を調整することができる。
【0064】
水性インクジェット用インク組成物は、インクジェット印刷装置のプリンターヘッドに供給され、このプリンターヘッドからインク組成物の液滴を印刷対象の基材に吐出する。プリンターヘッドからのインク組成物の基材への吐出(画像の印字)は、基材に対して乾燥後の膜厚が、例えば1~60μmとなるように行えばよい。
【0065】
本発明における水性インクジェット用インク組成物の液滴が基材に着弾すると、プライマー層に含まれる水溶性多価金属塩と、水性インクジェット用インク組成物に含まれるバインダー樹脂とが相互作用して(例えば、イオン結合することで)、水性インクジェット用インク組成物の液滴が基材上で過剰に濡れ広がることが抑制されうる。
【0066】
基材に印刷された水性インクジェット用インク組成物は、乾燥されて印刷層となる。乾燥手段は、特に限定されないが、加熱乾燥で行うことができる。乾燥温度は、60℃~130℃程度とすることができ、80~120℃の範囲にすることが好ましい場合がある。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、1分~10分程度とすることができ、5分以下とすることもできる。
【0067】
1-3.熱処理工程
前記のインクジェット印刷工程で得られたインクジェット印刷物は、熱処理、具体的には、水分に晒されながら熱処理される。熱処理手段の具体例に、スチーム処理及び熱水浸漬処理が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0068】
1-3-1.スチーム処理
スチーム処理とは、インクジェット印刷物の印刷面に水蒸気を接触させることをいう。印刷物に接触させる水蒸気の温度(印刷物に接触するときの水蒸気の温度)は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましく、100℃であってもよい。またスチーム処理は、加圧水蒸気処理であってもよく、蒸気温度が100℃を超える場合もある。スチーム処理の処理時間は、0.1秒以上及び10秒以下であり得る。
【0069】
インクジェット印刷物に水蒸気を接触させる方法は、特に限定されないが、湯沸し方式で発生させた水蒸気をボックス内に充填し、ボックス中にインクジェット印刷物を通過させるか、スチームクリーナー等の蒸気ノズルからの水蒸気をインクジェット印刷物に直接吹きつける、等が挙げられる。インクジェット印刷物の印刷面と蒸気ノズルとの距離を調整することで、印刷物に接触させる水蒸気の温度を調整することができる。
【0070】
1-3-2.熱水浸漬処理
熱水浸漬処理とは、インクジェット印刷物を熱水に浸漬させることをいう。浸漬させる熱水の温度は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上(例えば100℃)であってもよい。浸漬時間は、0.1秒~10秒以下であり得る。
【0071】
インクジェット印刷物をスチーム処理や熱水浸漬処理等の手段で熱処理することで、インクジェット印刷物における印刷層の塗膜物性が改善される。改善される塗膜物性としては、乾燥状態での耐摩擦性(耐乾摩擦性)、湿らせた状態での耐摩擦性(耐湿摩擦性)、レトルト試験等の100℃以上の熱気等に晒したときの耐摩擦性(耐レトルト性)等が含まれる。
【0072】
水分に晒しながら熱処理することによって、インクジェット印刷物における印刷層の塗膜物性が改善される理由は、特に限定されないが、プライマー層に含まれる水溶性金属塩、及び水性インクジェット用インク組成物の印刷層に含まれる水性顔料分散樹脂、水性樹脂エマルジョンが、熱処理により架橋・硬化するとともに、水に対する不溶性が高まることが考えられる。但し、その理由はこれに限定されるわけではない。
【0073】
従来の水性インクジェット用インク組成物を印刷して得られる印刷層は、十分な塗膜物性を得ることが難しかった。本発明は、被印刷基材を特定のプライマー組成物で処理し、かつ水性インクジェット用インク組成物の印刷層を特定の熱処理することによって、塗膜物性の飛躍的な改善が得られうる。
【0074】
2.インクジェット印刷物の用途について
本発明のインクジェット印刷物は、表刷り印刷物であり得る。つまり、インクジェットインクによる印刷層が、外面になるように配置されてもよい。本発明のインクジェット印刷物は、その印刷層(プライマー組成物による塗布膜及びインクジェットインクによる印刷層)の物理的耐性(耐摩擦性等)が高いため、それが外面に配置されていても、その印刷物が劣化しにくい。
【0075】
本発明のインクジェット印刷物は、表刷り印刷された包装容器であってもよく;例えばプラスチックフィルム容器、段ボール容器、アルミパウチ容器、アルミニウム缶等であり得る。プラスチックフィルム容器やアルミパウチ容器は、レトルト包装容器として用いてもよい。本発明のインクジェット印刷物の印刷層は、レトルト処理(100℃以上に晒すこと)しても耐摩擦性が維持できるため、レトルト包装容器として好ましく用いることもできる。
【0076】
なお、本発明のインクジェット印刷物は、インクジェットインクの印刷層を覆うオーバーコート用のニスを有していてもよいし、インクジェットインクの印刷面にラミネートフィルムを積層した積層体とされていてもよい。
【0077】
3.インクジェット印刷装置について
本発明のインクジェット印刷装置は、上述のインクジェット印刷物の製造方法を実施することができる装置である。好ましくは、インクジェット印刷装置は、上述のインクジェット印刷物の製造方法のプロセスをインラインで実施することができるが、但し、これに限定されない。つまり、プライマー塗布工程と、インクジェット印刷工程と、熱処理工程とを、一の装置内で行ってもよいし、それぞれ異なる装置で行ってもよい。
【0078】
本発明のインクジェット印刷装置100は、プライマー塗布手段20と、インクジェット印刷手段30と、熱処理手段40と、を具備し;更に、好ましくは、被印刷基材1を搬送する搬送手段10を有する(図1参照)。
【0079】
プライマー塗布手段20は、前述の水性プライマー組成物を被印刷基材1に塗布する手段であればよく;バーコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター及びダイコーター等の塗工装置21を具備することが好ましい。また、プライマー塗布手段20は、被印刷基材1に塗布したプライマー組成物を乾燥するための乾燥手段22を具備することが好ましい。乾燥手段22は、例えば加熱オーブン、熱風乾燥機、加温された定着ローラー等であり得る。
【0080】
インクジェット印刷手段30は、前述の水性インクジェット用インク組成物を被印刷基材1に印刷する手段であり、少なくとも、インクジェット記録ヘッド31を具備する。インクジェット印刷手段30は、1つのインクジェット記録ヘッド31を具備してもよく、その場合には、単色(例えば黒色)のインク組成物だけを印刷することができ;また、複数の(例えば、5つの)インクジェット記録ヘッド(31A~31E)を具備してもよく、その場合には、複数色(例えば、白色、黒色、イエロー、マゼンタ、シアン)のインク組成物を印刷(カラー印刷)することができる。なお、白色の水性インクジェット用インク組成物で白引き印刷することもできる。
【0081】
インクジェット記録ヘッド31の様式は特に制限されず、ピエゾ方式、バブルジェット方式等であり得る。また、インクジェット記録ヘッドのノズルは、シングルノズルであってもよいが、好ましくはマルチノズルヘッドである。
【0082】
インクジェット印刷手段30は、印刷したインクジェットインクを乾燥する乾燥手段32を具備することが好ましい。乾燥手段32は、インクジェット記録ヘッド31のそれぞれに対応して配置されてもよいが、図1に示されるように、複数のインクジェット記録ヘッド31(A~E)で印刷したインクジェットインクをまとめて乾燥させるものであってもよい。乾燥手段32は、例えば加熱オーブン、熱風乾燥機、加温された定着ローラー等であり得る。
【0083】
熱処理手段40は、インクジェットインクが印刷された被印刷基材1を熱処理、好ましくは、水分に晒しながら熱処理する手段であり、より具体的にはスチーム処理又は熱水浸漬処理する手段等である。熱処理手段40は、例えば、水蒸気を吹き付ける装置(スチームクリーナー等)、水蒸気を充填したボックス、熱水を収容した浴、等であり得る。
【0084】
搬送手段10は、被印刷基材1を、プライマー塗布手段20、インクジェット印刷手段30、及び熱処理手段40に、順に搬送する手段であればよい。例えば、図1に示すように、ローラー11で構成されていてもよい。また、インクジェット印刷装置100は、インクジェット印刷物を巻き取るための巻き取り装置を有していてもよい(不図示)。
【実施例
【0085】
以下に実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定して解釈されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0086】
A.プライマー組成物の調製
表1に示す組成のプライマー組成物P1及びP2を調製した。具体的には、水に、酢酸カルシウムと、水性樹脂エマルジョンと、塩素化ポリオレフィンと、界面活性剤と、を溶解させた。表1の数値の単位は、質量部である。
【表1】
アクリルエマルジョン:ビニブラン2687(アクリル系、日信化学工業社製)
酢酸ビニルエマルジョン:ビニブラン1002(酢酸ビニル系、日信化学工業社製)
塩素化ポリオレフィン(塩素化度21%):スーパークロンE-604(塩素化度21%、日本製紙社製)
界面活性剤:オルフィンE1010(アセチレンジオール系、日信化学工業社製)
【0087】
B.水性インクジェット用インク組成物の調製
B-1.水性樹脂ワニスの調製
ガラス転移温度40℃、重量平均分子量30000、酸価185mgKOH/gの、アクリル酸/アクリル酸n-ブチル/ベンジルメタクリレート/スチレン共重合体20質量部を水酸化カリウム2.5質量部と水77.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分20%の水性樹脂ワニスを得た。
【0088】
B-2.インクベースの調製
B-2-Bk.水性ブラックインクベースの調製
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加えて混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にカーボンブラック(商品名プリンテックス90、デグサ社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性ブラックインクベースを調製した。
【0089】
B-2-Y.水性イエローインクベースの調製
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加えて混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にイエロー顔料(商品名ノバパームイエロー4G01、クラリアント社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性イエローインクベースを調製した。
【0090】
B-2-M.水性マゼンタインクベースの調製
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にマゼンタ顔料(商品名インクジェットマゼンタE5B02、クラリアント社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性マゼンタインクベースを調製した。
【0091】
B-2-C.水性シアンインクベースの調製
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にシアン顔料(商品名ヘリオゲンブルーL7101F、BASF社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性シアンインクベースを調製した。
【0092】
B-2-W.水性ホワイトインクベースの調製
上記水性樹脂ワニスの40.0質量部に水20.0質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更に酸化チタン(商品名R-960、デュポン社製)の40質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性ホワイトインクベースを調製した。
【0093】
B-3.水性インクジェット用インクの調製
表2に示す例1~例12の組成の水性インクジェット用インクを調製した。調製に用いた材料を以下に示す。
<水性樹脂エマルジョン>
・アクリル-スチレン(Tg-14℃):ヨドゾールAD199、アクリル-スチレン系エマルジョン、ヘンケル社製)
・アクリル-スチレン(Tg9℃):ネオクリルA-1092、アクリル-スチレン系エマルジョン、DSM Neoresins社製
・アクリル-スチレン(Tg33℃):ネオクリルA-655、アクリル-スチレン系エマルジョン、DSM Neoresins社製
・アクリル-スチレン(Tg-32℃):モビニール966A、アクリル-スチレン系エマルジョン、日本合成化学工業社製
・アクリル-酢酸ビニル(Tg-13℃):ビニブラン1245L、アクリル-酢酸ビニル系エマルジョン、日信化学社製
・アクリル-塩化ビニル(Tg33℃):ビニブラン278L、アクリル-塩化ビニル系エマルジョン、日信化学社製
・酢酸ビニル(Tg30℃):ビニブランGV6181、酢酸ビニル系エマルジョン、日信化学社製
<ワックスエマルジョン>
・AQUACER 539(固形分35%、BYK社製)
<界面活性剤>
・オルフィンE1010(固形分100%、HLB13~14、日信化学社製)
・オルフィンE1004(固形分100%、HLB7~9、日信化学社製)
【0094】
表2に示す組成の例1~例12の水性インクジェット用インク組成物を調製した。具体的には、インクベースに、水性樹脂エマルジョン、ワックスエマルジョン、界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び水を加えて、ミキサーにより混合した。
【0095】
【表2】
【0096】
C.インクジェット印刷物の製造
表3~表5に示す条件にて、以下の各工程(C-1~C-3)を行い、実施例又は比較例のインクジェット印刷物を製造した。
【0097】
C-1.プライマー塗布工程
プライマー組成物(P1又はP2)を、PETフィルム(E5100、12μm、東洋紡製)、アルミ板(0.3mm厚)、コートボール(OKボール、230g/m2、王子マテリア製)、又は段ボール原紙(Kライナー、170g/m2、王子マテリア製)に、0.1mm線径のバーコーターで塗布し、50℃のオーブンで5秒間加熱乾燥させることにより、プライマー塗膜を形成した。但し、比較例1(表5)ではプライマー塗布膜を乾燥させなかった。
【0098】
C-2.インクジェット印刷工程
水性インクジェット用インク組成物(例1~例12)を、エプソン社製プリンターPX105のカートリッジに詰めて、上記C-1で形成したプライマー塗膜上に印字を行い、70℃又は100℃のオーブンで3分間加熱乾燥させることにより、インク塗膜を形成した。但し、比較例1及び2(表5)では、インク塗膜を乾燥させなかった。
【0099】
C-3.熱処理工程
<スチーム処理>上記C-2で形成したインク塗膜にスチームクリーナーを用いて、インク塗膜に接触する水蒸気の温度が70℃、100℃、又は120℃となるように(具体的には、塗膜面とスチーム噴射口との距離を調整し)、スチームを噴射させてスチーム処理を行った。スチーム処理時間は1秒、5秒、又は10秒に設定した。
<熱水浸漬処理>上記C-2で形成したインク塗膜を、沸騰させた水(100℃)又は80℃の水に、1秒間又は2秒間浸漬することで処理を行った。
<オーブン処理>上記C-2で形成したインク塗膜を10秒間又は30秒間、100℃のオーブン内で保管することで処理を行った。
【0100】
D.インクジェット印刷物の評価
各実施例又は比較例で得られたインクジェット印刷物について、以下のD-1~D-3について評価を行った。それらの結果を表3~表5に示す。
【0101】
D-1.耐乾摩擦性
各実施例及び比較例で得られた印刷物の印刷面を乾いた綿棒でこすって、以下の評価基準に従って耐乾摩擦性を評価した。
◎:塗膜面を綿棒で200回摩擦した後でも全くかすれなかった
○:塗膜面を綿棒で100回摩擦した後でも全くかすれなかった
△:塗膜面を綿棒で100回摩擦した後、綿棒に色が移り、摩擦部分がわずかにかすれた
×:塗膜面を綿棒で100回摩擦した後、摩擦部分の多くが剥がれた
【0102】
D-2.耐湿摩擦性
各実施例及び比較例で得られた印刷物の印刷面を水で湿らせた綿棒でこすって、以下の評価基準に従って耐湿摩擦性を評価した。
◎:塗膜面を綿棒で100回摩擦した後でも全くかすれなかった
○:塗膜面を綿棒で50回摩擦した後でも全くかすれなかった
△:塗膜面を綿棒で50回摩擦した後、綿棒に色が移り、摩擦部分がわずかにかすれた
×:塗膜面を綿棒で50回摩擦した後、摩擦部分の多くが剥がれた
【0103】
D-3.耐レトルト性
各実施例及び比較例で得られた印刷物をレトルト試験機にて120℃/30min処理した後、印刷面を乾いた綿棒でこすって、以下の評価基準に従って耐レトルト性を評価した。
◎:塗膜面を綿棒で100回摩擦した後でも全くかすれなかった
○:塗膜面を綿棒で50回摩擦した後でも全くかすれなかった
△:塗膜面を綿棒で50回摩擦した後、綿棒に色が移り、摩擦部分がわずかにかすれた
×:塗膜面を綿棒で50回摩擦した後、摩擦部分の多くが剥がれた
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
表5の比較例1に示されるように、PETフィルムを印刷基材として、塗布したプライマー組成物を乾燥させなかった場合には、その上に、インクジェット用インク組成物で印刷をしても画質が悪化した。また、表5の比較例2に示されるように、インクジェット用インク組成物の塗膜を乾燥させなかった場合には、その後にスチーム処理により熱処理をしても、各種塗膜耐性が悪かった。
【0108】
表5の比較例3に示されるように、PETフィルムを印刷基材として、塗布したプライマー組成物を乾燥させ、かつインクジェット用インク組成物の塗膜を乾燥させた場合には、熱処理をしなくても、ある程度の耐乾摩擦性は得られたが(評価△)、耐湿摩擦性及び耐レトルト性は不十分であった(評価×)。更に、表5の比較例4及び5に示されるように、塗布したプライマー組成物を乾燥させ、かつインクジェット用インク組成物の塗膜を乾燥させ、更にオーブン処理による熱処理をした場合には、比較例3と同様に、ある程度の耐乾摩擦性は得られたものの(評価△)、耐湿摩擦性及び耐レトルト性は不十分であった(評価×)。
【0109】
これに対して、表3の実施例1~6に示されるように、PETフィルムを印刷基材として、塗布したプライマー組成物を乾燥させ、かつインクジェット用インク組成物の塗膜を乾燥させ、更にスチーム処理をした場合には、各種塗膜性能が格段に向上したことがわかる(実施例2の耐湿摩擦性の評価以外の評価は全て〇)。実施例2に示されるように、インクジェット用インク組成物の塗膜の乾燥における乾燥温度がやや低い(70℃)場合には、耐湿摩擦性の評価が少し低下したことから、インクジェット用インク組成物の塗膜の乾燥を十分に行うことが好ましいことが示唆された。また、スチーム処理は、70℃以上の水蒸気に1秒程度接触させれば十分であることが示唆された。
【0110】
また、表3の実施例7及び8に示されるように、PETフィルムを印刷基材として、塗布したプライマー組成物を乾燥させ、かつインクジェット用インク組成物の塗膜を乾燥させ、更に熱水浸漬処理をした場合にも、各種塗膜性能が格段に向上したことがわかる。実施例8に示されるように、熱水浸漬処理の水の温度がやや低い(80℃)場合には、塗膜の耐湿摩擦性の評価が少し低下したことから、熱水温度は高い方が好ましいことが示唆された。
【0111】
表3の実施例9~11に示されるように、印刷基材を、アルミ板、コートボール紙又は段ボールとした場合にも、実施例1と同様の条件でインクジェット印刷物を製造することで、各種塗膜性能が格段に向上したことがわかる。つまり、アルミ板の場合には、耐乾摩擦性、耐湿摩擦性、耐レトルト性とも評価が〇となった。コートボール紙の場合には、基材が紙であるため、耐レトルト性は得られないものの、耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性とも評価が〇となった。段ボールの場合には、耐乾摩擦性は〇評価、耐湿摩擦性は△評価となった。
【0112】
表4の実施例12に示されるように、プライマー組成物のバインダー樹脂を変更した場合でも(アクリル樹脂エマルジョンから酢酸ビニルエマルジョンに変更)、実施例1と同様に、各種塗膜性能が格段に向上したことがわかる。表4の実施例13~16に示されるように、インクジェット用インク組成物の顔料を変更しても、実施例1と同様に、各種塗膜性能が格段に向上したことがわかる。表4の実施例17に示されるように、インクジェット用インク組成物にワックスを配合しない場合には、各種塗膜性能が格段に向上したが、一方で、耐乾摩擦性の評価は若干低下した(評価△)。
【0113】
更に、表4の実施例18~22に示されるように、インクジェット用インク組成物の水性樹脂エマルジョンを変更した場合でも、実施例1と同様に、各種塗膜性能が格段に向上したことがわかる。特に、実施例18と19の通り、アクリル-スチレン樹脂エマルジョンを用いた場合には、いずれの塗膜性能の評価も◎であった。一方で、アクリル-酢酸ビニル樹脂、アクリル-塩化ビニル樹脂や酢酸ビニル樹脂のエマルジョンを用いた場合には(実施例20~22)、各種塗膜性能が若干低下した(評価△)。また、表5の比較例6に示されるように、ガラス転移温度(Tg)が-32℃のアクリル-酢酸ビニル樹脂エマルジョンを用いた場合には、耐湿摩擦性や耐レトルト性が不十分であった(評価×)。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のインクジェット印刷物の製造方法によれば、水性インクジェット用インク組成物での印刷層の塗膜耐性を、従来よりも格段に高めることができ、印刷層の剥離や色落ち等を抑制することができる。そのため、水性インクジェット用インク組成物の用途を大幅に拡大させることができ、例えば、表刷り印刷された包装容器の製造として、本発明のインクジェット印刷物の製造方法を適用することができる。
【要約】
【課題】インクジェット印刷物において、水性インクジェットインクによる印刷層の塗膜耐性を高めること。
【解決手段】バインダー樹脂及び水溶性多価金属塩を含有する水性プライマー組成物を、基材に塗布し、乾燥してプライマー塗布物を作成するプライマー塗布工程と;前記プライマー塗布物に、インクジェット装置を用いて、ガラス転移温度(Tg)が-20~50℃の水性樹脂エマルジョン及び顔料を含有する水性インクジェット用インク組成物を印刷し、乾燥してインクジェット印刷物を作製するインクジェット印刷工程と;前記インクジェット印刷物に対して、水分に晒しながら熱処理を行う熱処理工程と;を順に含むインクジェット印刷物の製造方法。
【選択図】図1
図1