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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】小魚及びその受精卵の処理装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241126BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20241126BHJP
   A01K 61/17 20170101ALI20241126BHJP
   A01K 61/10 20170101ALI20241126BHJP
【FI】
C12M3/00 A
G01N21/03 Z
A01K61/17
A01K61/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020175017
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2022066093
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 利男
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭子
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/067554(WO,A1)
【文献】特開2020-020591(JP,A)
【文献】特開2015-158489(JP,A)
【文献】特開2003-302411(JP,A)
【文献】特開2014-169951(JP,A)
【文献】特開2012-085571(JP,A)
【文献】特開2016-021947(JP,A)
【文献】特表2020-526215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
A01K
G01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な底板上に立設される隔壁により区画形成された多数のウエルを有し、前記各ウエルの上端は開口しているマルチウエルプレートと、
前記各ウエルへの給水及び排水を制御する給排水手段と、
小魚受精卵を前記各ウエルに一個ずつ挿入する受精卵配列手段と、
を備え、
前記受精卵配列手段は、
前記小魚受精卵よりも径大な受精卵排出口を下端に有して内部に多数の小魚受精卵を水とともに収容する受精卵収容筒部と、
前記受精卵排出口からの水の排出速度を制御することにより前記受精卵収容筒部内の前記小魚受精卵を所定タイミングで一個ずつ前記排出口から落下させる給水調節手段と、
前記受精卵収容筒部を前記マルチウエルプレートの上方において前記マルチウエルプレートの上面と平行に相対移動させることにより小魚受精卵を前記各ウエルに一個ずつ挿入する相対移動手段と
記各小魚受精卵を前記各ウエル内における前記底上の所定位置にセットする受精卵セット手段と、
有し、
前記受精卵セット手段は、前記マルチウエルプレートを傾斜させることにより前記小魚受精卵を前記ウエルの所定の隔壁面に近接する所定位置へ配置させ、
記各ウエルの底面は、略方形形状を有し、
前記受精卵セット手段は、前記小魚受精卵が前記略方形の前記底面の4つの角部のうちの1つに近接する前記所定位置に移動するように前記マルチウエルプレートを傾斜させることを特徴とする小魚受精卵処理装置。
【請求項2】
前記受精卵配列手段は、前記傾斜状態の前記マルチウエルプレートの各ウエルに前記受精卵収容筒部から前記各ウエルへ前記小魚受精卵を落下させ、
前記受精卵収容筒部の前記排出口は、排出される前記受精卵に前記所定位置へ向かう運動エネルギーを前記受精卵に付与するべく垂直方向に対して所定角度だけ斜設されている請求項記載の小魚受精卵処理装置。
【請求項3】
透明な底板上に立設される隔壁により区画形成された多数のウエルを有し、前記各ウエルの上端は開口しているマルチウエルプレートと、
前記各ウエルへの給水及び排水を制御する給排水手段と、
小魚受精卵を前記各ウエルに一個ずつ挿入する受精卵配列手段と、
を備え、
前記受精卵配列手段は、
前記小魚受精卵よりも径大な受精卵排出口を下端に有して内部に多数の小魚受精卵を水とともに収容する受精卵収容筒部と、
前記受精卵排出口からの水の排出速度を制御することにより前記受精卵収容筒部内の前記小魚受精卵を所定タイミングで一個ずつ前記排出口から落下させる給水調節手段と、
前記受精卵収容筒部を前記マルチウエルプレートの上方において前記マルチウエルプレートの上面と平行に相対移動させることにより小魚受精卵を前記各ウエルに一個ずつ挿入する相対移動手段と、
を備え、
記ウエルは、成長した前記小魚が横臥可能なほぼ長方形の底面を有し、
前記マルチウエルプレートは、前記隔壁により前記底面上に区画形成されて前記各ウエルの底面のうちの短辺に個別に隣接する多数のサブウエルと、前記ウエル及び前記サブウエルの間の前記隔壁の底部に貫設されて前記ウエル及び前記サブウエルを連通する連通孔とを有し、
前記給排水手段は、前記サブウエルから前記ウエルの底面の前記短辺に向けて前記ウエル内へ水を供給した後、前記ウエル内の水を前記サブウエルへ排水させることにより、前記小魚を前記ウエルの底面上に横臥させることを特徴とする小魚受精卵処理装置。
【請求項4】
前記給排水手段は、前記サブウエルから前記ウエルへ水を供給した後、前記ウエル内の水を前記サブウエルへ排水させることにより、前記小魚を前記ウエルの底面上に横臥させるとともに、前記ウエル内に残存する前記受精卵の卵殻を前記ウエルの上部に浮上させる請求項記載の小魚受精卵処理装置。
【請求項5】
透明な底板上に立設される隔壁により区画形成された多数のウエルを有し、前記各ウエルの上端は開口しているマルチウエルプレートと、
前記各ウエルへの給水及び排水を制御する給排水手段と、
小魚受精卵を前記各ウエルに一個ずつ挿入する受精卵配列手段と、
前記各小魚受精卵を前記各ウエル内における前記底上の所定位置にセットする受精卵セット手段を有し、
前記受精卵セット手段は、
前記マルチウエルプレートを傾斜させることにより前記小魚受精卵を前記ウエルの所定の隔壁面に近接する所定位置へ配置させ
記各ウエルの底面は、略方形形状を有し、
前記受精卵セット手段は、前記小魚受精卵が前記略方形の前記底面の4つの角部のうちの1つに近接する前記所定位置に移動するように前記マルチウエルプレートを傾斜させることを特徴とする小魚受精卵処理装置。
【請求項6】
透明な底板上に立設される隔壁により区画形成された多数のウエルを有し、前記各ウエルの上端は開口しているマルチウエルプレートと、
前記各ウエルへの給水及び排水を制御する給排水手段と、を有し、
前記ウエルは、ウエル内の小魚が横臥可能なほぼ長方形の底面を有し、
前記マルチウエルプレートは、前記隔壁により前記底面上に区画形成されて前記各ウエルの底面のうちの短辺に個別に隣接する多数のサブウエルと、前記ウエル及び前記サブウエルの間の前記隔壁の底部に貫設されて前記ウエル及び前記サブウエルを連通する連通孔とを有し、
前記給排水手段は、前記サブウエルから前記ウエルの底面の前記短辺に向けて前記ウエル内へ水を供給した後、前記ウエル内の水を前記サブウエルへ排水させることにより前記小魚を前記ウエルの底面上に横臥させることを特徴とする小魚処理装置。
【請求項7】
前記給排水手段は、前記サブウエルから前記ウエルへ水を供給した後、前記ウエル内の水を前記サブウエルへ排水させることにより前記小魚を前記ウエルの底面上に横臥させるとともに、前記ウエル内に残存する前記小魚の受精卵の卵殻を前記ウエルの上部に浮上させる請求項記載の小魚処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼブラフィッシュのような小魚又はその受精卵の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
多産性、高速成長性及び観察容易性などの利点をもつゼブラフィッシュは、生命科学分野や創薬分野などにおいてヌードマウスなどの従来の試験動物と比べて格段に有利である。けれどもゼブラフィッシュ及びその受精卵が小さく、かつ傷付き易いため、受精卵や稚魚への目的材料の注入、稚魚の飼育、成魚の観察などを含む一連の複雑な作業をできるだけ精密に自動処理するシステムをリーズナブルなコストで実現することが期待されている。
【0003】
しかし、このような想定自動処理システムはなお多くの課題を内包することがわかった。たとえば多数の受精卵への目的材料の注入は、各受精卵の分裂開始直後の極めて短い時間内に実行されなければならない。これは、作業工程の簡素化が必要であることを示唆する。
【0004】
特許文献1は、それぞれ一個のゼブラフィッシュを収容する多数のウエルがマトリックス状に配列されたマルチウエルプレートを開示する。各ウエルは、ゼブラフィッシュの成体が横臥可能な長方形の底面をもつ。各ウエルの水は、この長方形の底面の長辺に沿って形成された排水孔から排出される。ウエル内のゼブラフィッシュは、この排水流により付勢されてウエルの底面に横臥する。ウエルの側面は、長方形の底面上におけるゼブラフィッシュの横臥位置のばらつきを低減するために斜設されている。
【0005】
特許文献2は、上記されたマルチウエルプレートの各ウエルの底面上における所定位置に受精卵をセットするための位置決めプレートである受精卵保持構造体を開示する。マルチウエルプレートに被せられるこの構造体は、ウエルの底面近傍まで垂下する先細筒部をもつ。構造体がマルチウエルプレートに固定されるので、各先細筒部は各ウエルの底面の所定位置上に位置決めされる。したがって、受精卵はこの先細筒部を通じて各ウエルの所定位置に着床することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-169951号公報
【文献】特開2020-20591号公報
【発明の概要】
【0007】
種々の実験結果により、ゼブラフィッシュやその受精卵の処理システムにおいて、ゼブラフィッシュやその受精卵に対する処理ツールの位置決め作業の簡素化及び高速化が処理時間の短縮において特に重要であることが判明した。さらに、この位置決め作業を含む種々の処理作業において、ゼブラフィッシュやその受精卵に対する処理ツールの機械的接触を可能な限り回避すべきであることも判明した。これは、ゼブラフィッシュ及びその受精卵は薄くかつ傷付き易い表面膜をもつためである。
【0008】
本発明は、ゼブラフィッシュなどの小魚やその受精卵をできるだけ傷つけることなくそれらに対して必要な処理を高速で実施可能な処理システムを提供することをその目的としている。
【0009】
本発明の小魚及びその受精卵の処理システムに関する3つの様相が以下に説明される。第1及び第2の様相はマルチウエルプレートを用いる受精卵の処理に関連する。第3の様相はマルチウエルプレートを用いる小魚の処理に関連する。しかし、好適には、マルチウエルプレートの各ウエルは受精卵の処理及びそれから孵化した小魚の処理の両方に共通使用される。
【0010】
本発明の第1の様相によれば、マルチウエルプレートの各ウエルへの小魚受精卵の個別挿入作業を実行するために、まず多数の小魚受精卵は水とともにほぼ逆錐形状の受精卵収容筒部に収容される。この受精卵収容筒部は、受精卵よりもやや径大な受精卵排出口を下端に有し、受精卵及び水はこの排出口から落下する。多数の受精卵は受精卵排出口の近傍に降下するにつれて次第に密集する。しかし、複数の受精卵が受精卵排出口から同時に落下することはないように、受精卵排出口の径が制限されている。
【0011】
実験の結果、水とともに受精卵排出口から落下する受精卵の落下頻度を、受精卵収容筒部内の水面に加えられる圧力により制御可能であることがわかった。この圧力が高いと、受精卵排出口からの排水流量が増加し、それとともに受精卵排出頻度は増加する。この圧力は、受精卵収容筒部内の水面の高さを制御したり、この水面に空気圧を追加したりするなどの処理により制御されることができる。
【0012】
一例において、この受精卵排出頻度は、上記水面高さを所定レベルにフィードバック制御することにより所定範囲に維持される。他例において、受精卵の落下が要求されるタイミングにて、この水面に空気圧が付与される。これにより、必要なタイミングで受精卵をウエルに落下させることができる。
【0013】
受精卵収容筒部はマルチウエルプレートの上方において、マルチウエルプレートの上面と平行な方向へ向けてマルチウエルプレートに対して相対移動させられる。これにより、受精卵排出口は各ウエルの直上の所定位置に順次位置決めされる。
【0014】
好適には、受精卵排出口は、一個の受精卵が直下のウエルに落下するまで、このウエルの直上に停止される。受精卵の落下が検出された後、受精卵排出口は、次のウエルの直上へ速やかに移動される。これにより、各ウエルへの受精卵の個別挿入作業を簡素かつ確実に実現することができる。さらに、この受精卵配列方式によれば、従来に比べて受精卵を傷つけることを良好に防止することができる。
【0015】
好適な第1態様及び本発明の第2の様相によれば、落下などによりウエル内に挿入された受精卵を各ウエルの底面上の所定の着座位置にセットするために、マルチウエルプレートを傾斜させる受精卵位置決め処理が実行される。受精卵は水よりも僅かに高比重であるため、マルチウエルプレートのこの傾斜姿勢により、受精卵はウエルの底面の最低位置に相当する上記着座位置に移動する。したがって、受精卵に好ましくない機械的接触操作を加えることなく、受精卵を上記着座位置に着座させることができる。その結果、受精卵への目的物質の自動的な注射作業や受精卵の自動的な画像検査が確実かつ容易となる。
【0016】
好適には、受精卵はウエルを区画する側壁の所定位置近傍に配置される。この側壁は、受精卵が上記着座位置からさらに変位を規制することができる。一例において、ウエルに面する隔壁の表面はウエルの底板に対して略垂直に形成される。これにより、ウエルの容積を減らすことなくマルチウエルプレートの総ウエル数を増加させることができる。好適には、ウエルは略方形の底面を有する。さらに、マルチウエルプレートの傾斜姿勢は、受精卵がこの底面の4つの角部のうちの1つが垂直方向において最低位置となるように制御される。これにより、受精卵を所定の着座位置に安定に保持することができる。
【0017】
好適には、受精卵収容筒部の受精卵排出口は、排出された受精卵が同時に排出される水流によりウエル底面の所定の着座位置に向けて加速されるように、垂直方向に対して所定角度だけ斜設される。これにより、受精卵排出口から水流とともに所定速度で上記方向へ排出された受精卵がウエル底面の所定の着座位置に達するまでの時間を短縮することができる。
【0018】
好適な第2態様及び本発明の第3の様相によれば、マルチウエルプレートの各ウエルは、成長した小魚が横臥可能なほぼ長方形の底面を有する。なお、この第3の様相によれば、マルチウエルプレートは、小魚の育成を行うものの受精卵処理を実行しない育成ウエルとしてもよい。このマルチウエルプレートは、各ウエルの長方形底面の1つの短辺に隣接してウエル給排水用のサブウエルを有する。ウエル及びサブウエルの間の隔壁の底部は、ウエルの給排水のための連通孔をもつ。
【0019】
小魚の撮像作業や小魚への目的材料の注入の前に、ウエル内の小魚はウエルの底面に横臥させられる。この横臥作業において、まずサブウエルから連通孔を通じてウエル内に水を注入する注水ステップが実行される。これにより、ウエル内に上昇水流が形成され、小魚はウエル内にて浮き上がる。その結果、たとえ小魚がウエルの底面や側面に密着していたとしても、小魚はこの上昇水流によりウエルの底面や側面から離脱して浮き上がる。
【0020】
次に、ウエル内の水を連通孔を通じてサブウエル内に排出する排水ステップが実行される。これにより、ウエル底面の短辺に開口する連通孔に向かう下降水流がウエル内に形成される。ウエル内の小魚の表面に沿って流れるこの下降水流は小魚の姿勢を変化させる。
【0021】
実験によれば、小魚はこの下降水流に対する流体抵抗が最小となる姿勢となる。具体的に言えば、小魚の大きな頭部は連通孔から最も遠ざかる位置へ付勢され、逆に小魚の細い尾部は連通孔に近接する位置へ付勢される。その結果、各ウエルの底面に横臥する各小魚の頭部の位置を揃えが可能となる。これにより、各小魚の画像処理の負担を軽減することができる。また、横臥した各小魚に対する各種の処理作業が容易となる。この注水ステップ及びそれに続いて実施される排水ステップからなる給排水サイクルは、必要に応じて連続的に複数回実行されることができる。
【0022】
好適な態様において、前記給排水サイクルは、ウエル内の小魚とその卵殻とを分離するための卵殻分離ステップの実行のために使用される。注水ステップによりウエル内に形成された上昇水流はウエル内の卵殻及び小魚を浮上させるが、卵殻は小魚と比べて低比重であるため、小魚よりも相対的に大きく上昇する。その後、排水ステップによりウエル内に形成された下降水流はウエル内の卵殻及び小魚を下降させるが、卵殻は小魚と比べて低比重であるためウエル内の上部空間に滞留し、小魚は卵殻よりも相対的に大きく降下する。ウエル内の下降水流の速度は、ウエル内の上部空間よりも下部空間において相対的に高い。結局、卵殻はこの給排水サイクルにより小魚の上方に良好に分離できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例のゼブラフィッシュ処理システムの一部を示すブロック図である。
図2図2はマルチウエルプレートを示す模式平面図である。
図3図3はマルチウエルプレートのウエル及びサブウエルを示す模式断面図である。
図4図4はマルチウエルプレートのウエル及びサブウエルを示す模式断面図である。
図5図5はゼブラフィッシュ処理シーケンスを示すフローチャートである。
図6図6はマルチウエルプレートのウエル及びサブウエルを示す平面図である。
図7図7は受精卵容器の断面図である。
図8図8は受精卵容器からマルチウエルプレートの各ウエルへの受精卵を順次配列する工程を示す模式図である。
図9図9は各ウエルの底面角部への受精卵の着座状態を示すためのマルチウエルプレートの平面図である。
図10図10はウエル内にて浮き上がるゼブラフィッシュを示すためのマルチウエルプレートの模式断面図である。
図11図11はウエル内にて沈降するゼブラフィッシュを示すためのマルチウエルプレートの模式断面図である。
図12図12はウエル内にて浮き上がるゼブラフィッシュ及び卵殻を示すためのマルチウエルプレートの模式断面図である。
図13図13はウエル内にて選択的に沈降するゼブラフィッシュを示すためのマルチウエルプレートの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のゼブラフィッシュ処理方法の好適な実施例が以下に説明される。しかし、本発明は下記の実施例に限定解釈されるべきでなく、公知の技術要素の追加乃至公知技術要素への変更は当然可能である。たとえば、この実施例は、ゼブラフィッシュの代わりに同種の他の小魚を処理することができる。
【0025】
(第一実施例)
この実施例では、ゼブラフィッシュの受精卵及びその孵化魚の両方を共通のマルチウエルプレートにより処理する共通マルチウエルプレート形式のゼブラフィッシュ処理システムが説明される。マルチウエルプレートの各ウエルには、本質的に各一個のゼブラフィッシュ受精卵が注入される。各ウエル内の受精卵から孵化した孵化魚は、各ウエル内でそのまま育成される。さらに、この実施例では、目的物質は受精卵に注入される。
【0026】
受精卵及びその孵化魚を別のマルチウエルプレートで処理することも可能である。この処理方式は、複数マルチウエルプレート方式と呼ばれる。複数マルチウエルプレート方式の利点は、受精卵の位置決めが容易となること、及び、受精卵用マルチウエルプレートのウエル密度を向上できる点にある。共通マルチウエルプレート方式の利点は、受精卵マルチウエルプレート内で孵化した稚魚を稚魚育成用マルチウエルプレートに移送する工程を省略できることである。
【0027】
共通マルチウエルプレート方式は、ゼブラフィッシュ育成のために広いウエル底面を必要とする。しかし、受精卵の位置ずれはこの広いウエル底面により増大する。その結果、受精卵への薬剤注入工程や受精卵の撮影工程などにおいて、位置合わせ作業が困難となる。この問題は、この実施例により良好に解決される。
【0028】
図1は、この実施例のゼブラフィッシュ処理システムの基本構成を示すブロック図である。このシステムは、卵配列ブロック1、インジェクションブロック2、成育ブロック3、イメージングブロック4、操作ロボット5及び管理ブロック6からなる。
【0029】
卵配列ブロック1は、マルチウエルプレートの各ウエルにゼブラフィッシュの受精卵を一個ずつ配置する卵配列工程を実行する。インジェクションブロック2は、配列された各受精卵に必要な薬液や細胞などを注入する注入工程を実行する。成育ブロック3は、マルチウエルプレートの各ウエル内にて孵化した稚魚を育成する育成工程、ゼブラフィッシュから卵殻を分離する卵殻分離工程、並びに、育成後に各ウエル内の成魚を各ウエル底面に横臥させる横臥工程を実行する。この育成工程において、マルチウエルプレートの各ウエルには、清浄水及び餌を供給する作業、及び、糞及び残餌を含む汚染水を各ウエルから排出する作業などが必要に応じて実施される。イメージングブロック3は、各ウエル内の受精卵や各ウエルの底面に横臥したゼブラフィッシュを撮像などの処理により評価する撮像工程を実行する。
【0030】
上記された注入工程、育成工程、及び撮像工程は本発明者らにより出願されて公知となっているが、本発明の要旨との関係が薄いためそれらの説明は省略される。本発明者らにより以前に提出された複数の出願書類はこれらの技術内容が開示されているので、必要に応じて参照されたい。
【0031】
操作ロボット5は、受信指令及び内蔵プログラムに基づいて、各ブロック間のマルチウエルプレートの移動を行う。操作ロボット5はさらに各ブロックにおけるマルチウエルプレート及び各種ツールの操作を行う。1乃至複数のロボットアームをもつ操作ロボット5は、マルチウエルプレートの把持、移動、ベッド固定、インジェクションなどの種々の動作を行う。
【0032】
管理ブロック6は、ブロック1-4及び操作ロボット5を所定のシーケンスに基づいて制御するコンピュータ装置からなる。管理ブロック6は、ブロック1-4及び操作ロボット5の各内蔵マイクロコンュータと定期的な通信を行うことにより、後述する一連の工程の進行をマネジメントする。
【0033】
図2はこの実施例で採用されるマルチウエルプレート7の部分的な模式平面図である。図3はマルチウエルプレート7の部分的なY方向矢視垂直断面図である。図4はマルチウエルプレート7の部分的なX方向矢視垂直断面図である。
【0034】
このマルチウエルプレート7は、図3及び図4に示されるように、長方形の底板71、角枠形状の枠板72、及び長方形の蓋板73からなり、全体として長方形の厚板形状を有している。底板71は透明なアクリル平板又はガラス平板からなる。これにより、底板71上に横臥されたゼブラフィッシュ又は受精卵の垂直方向の撮影が可能となる。着色された樹脂成形体からなる枠板72は底板71上に接着されている。
【0035】
枠板72は、図2に示されるように、長方形の外壁部721、多数の隔壁部722及び隔壁部723からなる。外壁部721内の薄長方体状の空間は、格子状に配列された隔壁部722及び隔壁部723により仕切られて多数のウエル74及びサブウエル75に分割されている。多数の隔壁部722はY方向に延在し、多数の隔壁部723はX方向に延在している。ただし、隔壁部722及び隔壁部723は図2において実線で略示されている。
【0036】
多数のウエル74及び多数のサブウエル75は、マトリックス(行列)状に配列されている。ウエル74は、Y方向において隔壁部723を挟んで隣接している。ウエル74及びサブウエル75は、X方向において交互に配置されている。
【0037】
ウエル74は略長方形の水平断面形状をもち、サブウエル75は略正方形の水平断面形状をもつ。ウエル74の長辺となる隔壁部723はX方向に延在し、ウエル74の短辺となる隔壁部722はY方向に延在している。したがって、サブウエル75はウエル74の短辺に隣接している。ウエル74の個数はサブウエル75の個数と等しい。各ウエル74は互いに同一形状を有し、各サブウエル75は互いに同一形状を有している。
【0038】
図3及び図4に示されるように、ウエル74に面する隔壁部722及び723は、底板71に向かうにつれて厚くなっている。蓋板73に接するウエル74の上端開口は、底板71により形成されるウエル74の底面740よりも広くなっている。これにより、ウエル724内の底板71上に横臥したゼブラフィッシュの位置ずれを減らしつつ、ウエル724の容積をゼブラフィッシュの生活環境改善のために増大させることができる。ただし、上記された隔壁部722及び723のテーパー形状は省略可能である。
【0039】
図3は、X方向に配列されたウエル74及びサブウエル75の垂直断面形状を示す。図4は、Y方向に配列されたウエル74の垂直断面形状を示す。サブウエル75とその左側のウエル74との間の隔壁部722の底部は、ウエル74及びサブウエル75を連通する連通孔76を有している。言い換えれば、互いに隣接するウエル74及びサブウエル75間の水の流通のための連通孔76はウエル底面740の短辺に面して開口されている。
【0040】
枠板72上に載置される蓋板73は、透明なアクリル樹脂平板からなる。蓋板73は、ウエル74の中央部に位置するウエル開口731と、サブウエル75の中央部に位置して開口するサブウエル開口732とをもつ。蓋板73の省略は可能である。
【0041】
図5は、管理ブロック6が遂行するゼブラフィッシュ処理ルーチンを示すフローチャートである。卵配列ブロック1による実行される卵配列工程(S100)、インジェクションブロック2により実行される注入工程(S102)、成育ブロック3により実行される成育工程(S104)、成育ブロック3により実行される横臥工程(S106)、及びイメージングブロック4により実行される撮像工程(S108)は、管理ブロック6により総合管理される。管理ブロック6は、これらの工程を遂行するために操作ロボット5の動作を制御する。好適には、各ブロック1-4は並行に動作し、管理ブロック6は各工程の進行を監督する。
【0042】
卵配列工程が図6-図9を参照して説明される。図6は、マルチウエルプレート7の一対のウエル74及びサブウエル75を示す拡大平面図である。卵配列ブロック1は、マルチウエルプレート7を載置するための傾斜ベッド(支持台)をもち、この傾斜ベッドの上面は所定角度にて斜設されている。
【0043】
まず、蓋板73が取り外されたマルチウエルプレート7の各ウエル74に所定量の水がそれぞれ注入される。次に、このマルチウエルプレート7が傾斜ベッドの上面に載置される。マルチウエルプレート7が傾斜ベッド上にセットされた時、ウエル74の底面740の第1角部741は他の角部742-744よりも垂直方向において最低位置となり、底面740の第3角部743は他の角部742-744よりも垂直方向において最高位置となる。これらの作業は操作ロボット5により遂行される。
【0044】
この卵配列工程において、図7に示される受精卵容器8が使用される。操作ロボット5は、そのアームによりこの受精卵容器8を把持し、斜設されたマルチウエルプレート7の直上にて、各ウエル74の配列方向へ順番に移動し、各ウエル74への卵挿入動作を順次実行する。これにより、受精卵容器8内の受精卵9が各ウエル74に順番に投入され、受精卵は各ウエル74に一個ずつ配置される。
【0045】
図7は、受精卵容器8の垂直断面を示す模式図である。受精卵容器8は、ほぼ逆円錐形状をもつ筒部81と、筒部81の上端開口を閉鎖するための蓋部82と、蓋部82の下面に固定された圧電素子83とを有する。筒部81の下端は受精卵排出口84を有する。蓋部82は空気孔85を有する。
【0046】
多数のゼブラフィッシュ受精卵9が水とともに受精卵容器8内に収容されている。これらの受精卵は、水よりも僅かに高比重であるため、受精卵容器8の底部へ次第に降下する傾向をもつ。
【0047】
受精卵排出口84は受精卵よりも僅かに径大に形成されている。好適には、受精卵排出口84の内径は1.5-1.8ミリメートルである。ゼブラフィッシュ受精卵の外径は一般的に0.9-1.2ミリメートルであるため、複数のゼブラフィッシュ受精卵が受精卵排出口84から同時に落下することは防止される。
【0048】
この実施例では、圧電素子83にパルス通電することにより、受精卵を排出口84から落下させる圧電押し出し方式を採用している。圧電素子83は受精卵排出口84に向けて容器8内の水及び受精卵9に音響エネルギーを与える。この音響エネルギーは、ほぼ一個の受精卵9を受精卵排出口84から放出するに足る量である。これにより、ほぼ一個の受精卵が受精卵排出口84から放出される。
【0049】
ただし、複数の受精卵9が1つのウエル74へ放出されるケースが発生する場合も想定される。この場合には、このウエル74内のゼブラフィッシュの検査の回避、あるいは、ロボットアームに取り付けたスポイドにより過剰な受精卵の排除など種々の対策が実行される。
【0050】
圧電素子83の音響(力学的)エネルギーを容器8内の水及び受精卵9を通じて受精卵排出口84近傍の受精卵9に与え、この受精卵9を受精卵排出口84から落下させるこの実施例の受精卵排出法の基本原理は、従来のインクジェット印刷法のそれと本質的に同じである。ただし、このエネルギーは受精卵に生体的な損傷を発生させないレベルに規制される。受精卵排出口84近傍の受精卵9に落下エネルギーを付与するために、他の精卵排出法を採用することも可能である。たとえば、容器8の上部に所定タイミングで空気圧を印加することも可能である。
【0051】
排出口84が1つのウエル74上の所定位置に達した時、この受精卵排出が実行されることが望ましい。操作ロボット5による受精卵容器8の移動走査は、受精卵排出時に停止されることが望ましい。この受精卵排出を光学的に確認した後、容器8を次のウエル74の直上へ移動してもよい。
【0052】
さらに他の受精卵排出法として、受精卵容器8内の水面の高さを制御することもできる。たとえば、受精卵容器8内の水面の高さは一定レベルに制御される。これにより、受精卵排出口から受精卵を含む水が連続的に落下する。落下水流速度はほぼ上記水面高さに比例するため、適切な受精卵落下頻度が得られるように、上記水面高さが調節される。その結果、受精卵9は受精卵排出口84からほぼ一定のインタバルで放出される。
【0053】
好適には、操作ロボット5による受精卵容器8の移動速度を、排出口84からの受精卵排出インタバルと同期させる。これにより、マルチウエルプレート7の大部分のウエル74に受精卵を一個ずつ投入することができる。受精卵が投入されないウエル74が発生する場合、このウエルの二次元アドレスは不良ウエルとして予め記憶され、検査対象から除去される。
【0054】
この卵配列工程のもう一つの特徴が図8及び図9を参照して説明される。この実施例によれば、マルチウエルプレート7は既述されたように傾斜ベッド上に傾斜して載置されている。これにより、マルチウエルプレート7の各ウエル74は、その1つの角部741が垂直方向において最低位置となる姿勢で傾斜する姿勢をもつ。
【0055】
図8は、卵配列工程におけるマルチウエルプレート7の傾斜状態を簡単に示す模式図である。これにより、受精卵容器8から各ウエル74に投入された受精卵9は、最低位置の角部741に向けてウエル底面740上をスライドし、最終的に最低位置の角部741の上に着座する。最低位置の角部741に隣接する隔壁部722及び723は受精卵9のさらなる変位を規制する。最低位置の角部741に位置して、底面740に受精卵9が安座可能な浅い凹部を形成することも可能である。
【0056】
この実施例の卵配列工程によればさらに、図8に示されるように、受精卵容器8が、受精卵排出期間において排出口84の軸線87がマルチウエルプレート7の上面に対して所定の傾斜方向へ傾斜する姿勢をもつ。たとえば、軸線87のこの傾斜方向は、排出口84から放出される受精卵9が最低位置の角部741へ向かう方向に等しいか又は平行となっている。これにより、受精卵9が角部741に到達するまでの時間を短縮することができる。
【0057】
受精卵9をウエル74の底面740の角部741に着座させることの効果が以下に説明される。マイクロニードルを用いた受精卵へ目的材料を注入するマイクロインジェクションにおいて、受精卵に対するマイクロニードルの位置合わせが非常に重要である。たとえば小さい受精卵9の頂部近傍にマイクロニードルの先端を突入させることが好適である。ただし、このインジェクションは受精卵の細胞分裂開始直後の短期間に完了する必要がある。しかし、受精卵とマルチウエルプレート7との位置合わせのために、マイクロニードルを受精卵9毎に正確に位置合わせすることは簡単では無い。
【0058】
このため、従来においては、受精卵保持専用のマルチウエルプレートを使用し、その狭小な卵専用ウエルに受精卵を保持させることが一般的であった。しかし、このような受精卵保持専用のマルチウエルプレートの採用は、孵化したゼブラフィッシュを受精卵保持専用のマルチウエルプレートのウエルから稚魚育成専用のマルチウエルプレートのウエルに個別に移送しなければならないという問題を派生させる。
【0059】
結局、この実施例によれば、稚魚育成可能な大型ウエルをもつマルチウエルプレート7を用いて、受精卵への確実な注入工程を実現することができる。図9は、受精卵9を各ウエル74の底面740の角部741にそれぞれ着座させた状態を示すためのマルチウエルプレート7の模式部分平面図である。
【0060】
次に、操作ロボット5はマルチウエルプレート7を卵配列ブロック1からインジェクションブロック2に移送する。このインジェクションブロック2はマルチウエルプレート7が水平に載置可能なベッドを有し、操作ロボット5はマルチウエルプレート7をこのベッド上に固定する。このベッドにはマルチウエルプレート7のX方向及びY方向への変位を規制するストッパが形成されており、操作ロボット5はマルチウエルプレート7の角部をこのストッパに当接させる。これにより、マルチウエルプレート7をインジェクションブロック2に対して位置決めすることができる。
【0061】
注入工程を実行するためのインジェクションブロック2は、目的とする薬液や細胞などを各ウエル74内の受精卵9に注射する単数又は複数のマイクロニードルを有する。各受精卵9がマルチウエルプレート7の角部741近傍に安定に維持されているため、インジェクションブロック2のマイクロニードルは、正確に各受精卵9のほぼ頭頂部に突入されることができる。この注入工程の終了後、操作ロボット5はマルチウエルプレート7を成育ブロック3に移送する。マルチウエルプレート7の各受精卵9から孵化したゼブラフィッシュの稚魚はこの成育ブロック3において所定時間成育される。
【0062】
この成育工程において、清浄な水が定期的にサブウエル75に供給され、サブウエル75から連通口76を通じてウエル74へ供給される。この実施例では、育成工程において蓋板73がウエル74及びサブウエル75の上に被せられる。これは、ウエル74及びサブウエル75の衛生状態を向上させ、かつ、ゼブラフィッシュがウエル74から飛び出すのを防止するためである。ゼブラフィッシュへの給餌は蓋板73の開口731から実施される。
【0063】
この実施例によれば、ウエル74内の糞や残餌の排出は、サブウエル75からウエル74への水の供給により、ウエル74上の開口731から水をオーバーフローさせることにより実行される。ウエル74からオーバーフローした溢水は蓋板73の上面に沿って流れて外部に排出される。この溢水が蓋板73の他の開口731及び732からウエル74やサブウエル75に再度流入するのを防止するために、開口731及び開口732の上端周縁には突条が設けられることが好適である。その他の成育工程の詳細説明は省略される。
【0064】
この実施例によれば、成育ブロック3はさらに、この成育工程の最終段階において、ウエル74の底面740上にゼブラフィッシュを横臥させる横臥工程を実行する。この横臥工程において、サブウエル75からウエル74に供給される水に麻酔薬が混合され、これにより、各ゼブラフィッシュはウエル74内において静止状態となる。
【0065】
この横臥工程において、サブウエル75からウエル74への給水ステップおよびウエル74からサブウエル75への排水ステップが順次実行される。この横臥工程の給水ステップは、ゼブラフィッシュの育成工程におけるウエル74への給水工程とほぼ同じである。
【0066】
横臥工程におけるこの給水ステップが図10を参照して説明される。この給水ステップにおいて、所定数の給水ノズル11が垂下する給水タンクからなる給水ヘッドが使用される。この給水タンクは各給水ノズル11に連通している。管理ブロック6は給水タンク内への水の注入及びその排出を制御する。水が給水タンク内へ注入される時、給水タンク内の水圧が増加し、水が給水ノズル11から噴出する。水が給水タンク内から排出される時、給水タンク内の水圧が減少し、給水ノズル11は外部より水を吸水する。
【0067】
操作ロボット5は、給水ヘッドをこの給水ステップの直前にマルチウエルプレート7の上方にセットする。各給水ノズル11は各サブウエル75上の開口732の直上に静止する。次に、操作ロボット5は給水ヘッドを降下させる。これにより、各給水ノズル11は各開口732に個別に挿入される。リング状のストッパ12が給水ノズル11に個別に装着されており、給水ノズル11はストッパ12が蓋板73に接触するまで降下される。その結果、給水ノズル11の下端はサブウエル75の底面近傍に達する。管理ブロック6は給水タンクへの給水を制御し、これにおり給水タンクの水圧が制御される。
【0068】
図10に示される横臥工程の給水ステップにおいて、所定量の水が給水ノズル11からサブウエル75内へ放出される。これにより、サブウエル75内の水は連通孔76を通じてウエル74の底部に流入する。その結果、ウエル74内のゼブラフィッシュ10は浮き上がる。
【0069】
図11に示される横臥工程の排水ステップにおいて、給水タンクの圧力が低下される。その結果、サブウエル75内の水は給水ノズル11を通じて給水タンク内に回収される。これにより、ウエル74内の水が連通孔76を通じてサブウエル75内へ流入する。その結果、連通孔76に向かう下降水流がウエル74内に形成され、この下降水流はゼブラフィッシュの姿勢が変化する。この姿勢変化は、下降水流に対するゼブラフィッシュ10による流体抵抗が最小となるようにゼブラフィッシュ10を付勢する。
【0070】
実験によれば、この下降水流により、ゼブラフィッシュ10は、その大きな頭部が連通孔76から離れ、ゼブラフィッシュ10の細い尾部が連通孔76に近接する姿勢をもつことがわかった。最後に、ウエル74の水はほぼ完全に排水され、ゼブラフィッシュ10は適切な横臥姿勢でウエル74の底面740上に横たわる。
【0071】
この給水ステップ及び排水ステップからなる横臥工程は、複数回実施されることが好適である。これにより、ぞの後に実施されるゼブラフィッシュ10の撮像作業や後述される試薬乃至細胞等の注入作業においてゼブラフィッシュの位置ばらつきを低減することができる。
【0072】
次に、卵殻分離工程が図12及び図13を参照して説明される。この卵殻分離工程は、横臥工程と同様に育成ブロック3において、育成工程中又は横臥工程の直前に適宜実施される。この卵殻分離工程は横臥工程と本質的に同じである。
【0073】
この卵殻分離工程の必要性が説明される。受精卵から孵化したゼブラフィッシュの稚魚のほとんどは、受精卵の卵殻から完全に離脱することができる。この時、ウエル74内に滞留する卵殻は、ウエル74からの水のオーバーフローにより、蓋板73の開口731から排出されることができる。しかし、卵殻がゼブラフィッシュの稚魚に付着する事象が希に発生する。このケースによれば、卵殻の排出ができないため、ゼブラフィッシュの撮影及び画像判定に支障が生じる。
【0074】
この卵殻分離工程によれば、横臥工程の給水ステップ及び排水ステップによりゼブラフィッシュ10から卵殻13を分離する。図12は、卵殻分離工程の給水ステップを示す模式図である。図12は、図10に示される横臥工程の給水ステップと本質的に同じである。
【0075】
この給水ステップにおいて、連通孔76からウエル74内へ水が噴出され、これによりゼブラフィッシュ10及びそれに付着した卵殻13に上昇水流が作用する。この上昇水流はゼブラフィッシュ10よりも卵殻13に相対的に強い上昇力を与えるため、卵殻13はゼブラフィッシュ10から分離され、卵殻13はウエル74の上部へ浮上する。これに対してゼブラフィッシュ10の上昇は相対的に緩慢である。
【0076】
図13は、この給水ステップの直後に実施される排水ステップを示す模式図である。図13は、図11に示される横臥工程の排水ステップと本質的に同じである。ウエル74の下部の水は連通孔76からサブウエル75に吸収される。これにより、ゼブラフィッシュ10及び卵殻13に下降水流が作用する。この下降水流はゼブラフィッシュ及び卵殻を下降させる。しかし、ゼブラフィッシュ10は卵殻13よりも重いため、ゼブラフィッシュ10は優先的に下降する。
【0077】
好適には、この給水工程及び排水工程のセットを複数回実行することにより、卵殻13を水面付近に浮上させることができる。この卵殻13は、たとえば既述のオーバーフロー処理により、蓋板73の開口731から排出される。
【0078】
横臥工程及び卵殻分離工程の完了後、給水ヘッドが上方に移動され、給水ノズル11は開口732から上方へ引き抜かれる。次に、操作ロボット5は撮像工程を実行するために、マルチウエルプレート7をイメージングブロック4に移送する。イメージングブロック4はマルチウエルプレート7を水平に載置するベッドを有する。操作ロボット5は、ゼブラフィッシュが横臥するマルチウエルプレート7をこのベッド上に置く。照明装置及び撮像カメラがベッドの上方に配置されている。イメージングブロック4は各ウエル74のゼブラフィッシュの撮影、画像処理、光学検査を行う。この撮像工程の詳細説明は省略される。
【0079】
(第二実施例)
この実施例では、目的材料はゼブラフィッシュの稚魚又は成魚に対して注入される。この実施例では、図5に示されるフローチャートに示される注入ルーチン(S102)は、横臥ルーチン(S106)の後に実行される。一般に、この注入ルーチンがなされた後、成育ルーチン(S104)が再実施され、その後、撮像ルーチン(S108)が実施される。目的材料として薬液や遺伝子材料や癌細胞などを採用することができる。したがって、この注入ルーチンにおいて、インジェクションブロック2のマイクロニードルは、目的とする薬液や細胞などを各ウエル74内のゼブラフィッシュに注射する。結局、本発明のシステムは、受精卵及び/又は小魚への目的材料の注入作業に利用することができる。この第二実施例は、図5に示される各部分ルーチンの遂行順序(シーケンス)が異なる以外は、第一実施例と本質的に同じである。
【0080】
(変形態様)
既述された卵殻分離工程は、横臥工程ではなく育成工程内にて実行されることができる。たとえば、この卵殻分離工程は卵殻が付着する稚魚に対して実施されることができる。
【0081】
(変形態様)
既述された卵配列工程における圧電素子へのパルス通電は、複数回実行されることができる。受精卵排出口84をもつ受精卵容器8の下端筒部内に配列された受精卵は、1回のパルス通電により所定の小距離だけ受精卵排出口84へ向けて移動する。複数のパルス通電により必要距離だけ受精卵を移動させることができる。受精卵の落下を検出してパルス通電を停止させることも可能である。パルス通電波形を適宜設計することができることを当然可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 卵配列ブロック(受精卵配列手段)
2 インジェクションブロック
3 成育ブロック
4 イメージングブロック
5 操作ロボット(受精卵配列手段、相対移動手段、受精卵セット手段)
6 管理ブロック(給水調節手段)
7 マルチウエルプレート
8 受精卵収容容器(受精卵セット手段)
9 受精卵
10 ゼブラフィッシュ
11 給水ノズル(給排水手段)
74 ウエル
75 サブウエル
76 連通孔
81 受精卵収容筒部
83 圧電素子(給水調節手段)
84 受精卵排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13