(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】抗アレルギー用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/085 20060101AFI20241126BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K31/085
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2020206619
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 真行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 知倫
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】澤野 健史
【審査官】鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174526(JP,A)
【文献】J. Ethnopharmacol.,2012年,Vol.140,pp.213-221
【文献】中草葯,2015年,Vol.46 No.11,pp.1625-1628
【文献】Nat. Prod. Res.,2016年,Vol.30,pp.2495-2499
【文献】Sci. Rep.,2017年,7:6444,doi: 10.1038/s41598-017-06835-3
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun.,2016年,Vol.477,pp.454-460
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/085
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アグリモールB
のみを有効成分として含有する抗アレルギー用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症や食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎といった種々のアレルギーが問題になっている。
アレルギーは、アレルギー反応のタイプによってI型、II型、III型、IV型の4つのタイプに分類される。中でもI型は、即時型と呼ばれており、アレルゲンの侵入により作り出された多量のIgE抗体が、肥満細胞又は好塩基球に結合し、そこに再び抗原が結合することによりヒスタミン、ロイコトリエン等の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が分泌(脱顆粒)され、アレルギー症状が発現する。これらが生体に激しい炎症反応を引き起こし、様々な症状となってあらわれる。
このI型のアレルギーは、上記のアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、花粉症など、日常的な疾患として広く認知されている。しかし、現在のところ有効な治療薬は少なく、I型アレルギーの治療には、対症療法的な、抗炎症剤やステロイド製剤などの抗炎症治療剤投与が第1選択薬となっている。
【0003】
近年このようなI型アレルギーの治療や改善のため、肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質や、天然抽出物を含む組成物が多数提案されている。
特許文献1には、p-クマル酸を有効成分として含有する、肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒抑制剤が記載されている。
特許文献2には、サトウキビの糖蜜抽出カスであるバガスの分解抽出物を有効成分として含有する、肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒抑制剤が開示されている。
特許文献3には、ガラナ(Paullinia cupana Kunth.)の果実または種子を原料に、極性溶媒を用いて抽出して得られる極性溶媒抽出物が、好塩基球細胞脱顆粒抑制作用、肥満細胞脱顆粒抑制作用ならびにβ-ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有していることが記載されている。
これらの先行技術以外にも肥満細胞の脱顆粒を抑制して、抗アレルギー効果を発揮する様々な物質や抽出物の利用の試みが提案されているが、いまだに好ましい効果を発揮するものは市場に提供されていないのが現状である。
【0004】
一方、現在植物由来の抽出物が様々な医療用途に用いられている。中でもキンミズヒキ抽出物が近年注目されている。
キンミズヒキ(金水引、学名:Agrimonia pilosa)は、バラ科キンミズヒキ属の多年草で漢方薬に利用される。生薬名は仙鶴草である。キンミズヒキの花期の地上部の茎葉には、精油とタンニンを含んでおり、そのうちの主成分となるタンニンは、細胞組織を引き締める収斂作用があることが知られている。また、水で煮出した水性エキスには、胆嚢の働きを助ける利胆作用があるといわれている。根には、タンニンのほか、フェノール性配糖体、アグリモノリド、フィトステロール、バニル酸、タキシフォリンなどが含まれることが知られている。
【0005】
キンミズヒキ抽出物の薬理効果として様々な効果が知られている。特許文献4にはキンミズヒキ抽出物を有効成分とする神経活性化組成物が記載されている。
特許文献5には、キンミズヒキ抽出物を含有する美白剤、抗老化剤、皮膚化粧料が記載されている。
特許文献6には、キンミズヒキ抽出物を含有するαグルコシダーゼ阻害剤が記載されている。
特許文献7には、キンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤及びアレルゲン不活化剤が記載されている。
特許文献8には、キンミズヒキの70%エチルアルコール抽出物が、アラキドン酸代謝阻害剤として有用であることが記載されている。そしてこの抽出物は、ラット好塩基性白血病細胞株(Rat Basophilic Leukemia Cell:RBL-1)を用いたインビトロ試験において、炎症の起因物質であるロイコトリエンC4の産生阻害効果があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-127455号公報
【文献】特開2019-210271号公報
【文献】特開2010-70531号公報
【文献】特開2018-8888号公報
【文献】特開2010-65008号公報
【文献】特開2006-16388号公報
【文献】特開2008-174529号公報
【文献】特開平08-176003号公報
【文献】特開平11-335256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、血液中の肥満細胞や好塩基球などの顆粒球細胞の脱顆粒作用を研究する過程で、様々な植物抽出物のスクリーニングを行い、キンミズヒキ抽出物の特定の抽出物に、強い肥満細胞や好塩基球の脱顆粒反応を制御する作用があることを見出した。またキンミズヒキ抽出物中に含まれるアグリモールBにもこの作用があることを見出した。そして、このキンミズヒキ抽出物の特定の抽出物及びアグリモールBは、I型アレルギーの治療に有用であることを見出し、本発明をなした。
すなわち、本発明は、新たなI型アレルギーの改善用の組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の構成は以下のとおりである。
(1)アグリモールBを有効成分として含有する抗アレルギー用組成物。
(2)アグリモールBを含む植物抽出物を有効成分として含有する抗アレルギー用組成物であって、アグリモールBを含む植物抽出物がアグリモールBを少なくとも0.4質量%含有するものである抗アレルギー用組成物。
(3)アグリモールBを含む植物がキンミズヒキである(2)に記載の抗アレルギー用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、抗アレルギー用組成物が提供される。
また本発明により提供される抗アレルギー用組成物は、肥満細胞や好塩基球などの顆粒球細胞の脱顆粒反応を抑制してI型アレルギー症状を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で行った濃縮キンミズヒキ抽出物及びアグリモールBの抗アレルギー効果を測定した試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願明細書において、「組成物」とは、医薬品、医薬部外品、食品をいう。
また本願明細書において「キンミズヒキ抽出物」とは、キンミズヒキをエチルアルコール又は水を含む含水エチルアルコールで抽出して得られる抽出物をいう。
さらにまた、前記のキンミズヒキ抽出物を、0~40%エチルアルコールで洗浄して0~40%エチルアルコール可溶性成分を除去したものを本願明細書では「濃縮キンミズヒキ抽出物」という。
【0012】
キンミズヒキ(学名:Agrimonia pilosa)は、バラ科キンミズヒキ属の多年草であり、本州、四国、九州などの林の縁、原野、路傍に自生している。別名、龍牙草ともいう。本発明において、キンミズヒキは、漢方生薬、民間療法薬、健康食品(ハーブティー)原料として市販されているキンミズヒキの乾燥物を使用することができる。全草を乾燥させたものは、仙鶴草の生薬名で市販されている。
また自生あるいは栽培された全草を採取し、これを自然乾燥又は加熱乾燥させたものも使用できる。
これを細切りし、約10倍量の水または、含水濃度0~99.5%(v/v)エチルアルコール、好ましくは含水濃度1~50%エチルアルコール、特に好ましくは含水濃度5~10%エチルアルコールに3~5日間浸漬して室温で抽出するか、あるいは還流冷却器を付して50~80℃で5~24時間抽出し、濾過してキンミズヒキ抽出液を回収する。この抽出液は、ロータリーエバポレーターなどの減圧真空乾燥装置、又は凍結乾燥装置によって、水及びエチルアルコールを除去してキンミズヒキ抽出物とする。本願明細書においては、キンミズヒキ抽出物をキンミズヒキエキスともいう。
このキンミズヒキ抽出物(キンミズヒキエキス固形物)を0~40%エタノール、特に好ましくは10~30%エタノールで洗浄し、0~40%エタノール可溶性成分をろ過等の手段で除去した後、ろ過残渣をロータリーエバポレーターなどの減圧真空乾燥装置、又は凍結乾燥装置を用いて、水及びエチルアルコールを除去することで濃縮キンミズヒキ抽出物を得ることができる。
濃縮キンミズヒキ抽出物は、50~99.5%エタノール、特に好ましくは70~90%エタノールに再溶解し、製剤化に用いる賦形剤を添加して凍結乾燥することで、所望する濃度の濃縮キンミズヒキ抽出物を含有する粉末組成物を得ることができる。
【0013】
上記のキンミズヒキ抽出物及び濃縮キンミズヒキ抽出物には、アグリモールBが含有されている。
アグリモールBは、次の化学式1で特定される化合物である。
【0014】
【0015】
アグリモールBは、フロログルシノール等を出発原料として合成することができる。例えば、Acta Pharmaceutica Sinica 1989,24(6):431~437頁に記載の方法、あるいは特許文献8に開示された方法で合成可能である。
【0016】
なお、合成で得られるアグリモールBとして、(S)-(+)-アグリモールBとその光学異性体である(R)-(-)-アグリモールBの2種類が挙げられるが、本明細書でいう「アグリモールB」とは、これらの1種からなる単一化合物であってもよく、あるいは2種からなる混合物であってもよい。
【0017】
化学合成あるいは天然物から抽出、分離、精製して得られるアグリモールBは、本発明の抗アレルギー用組成物に用いられる。具体的には、上記天然物からアグリモールBを抽出、分離、精製する際に得られる、アグリモールをある程度の濃度で含有する植物抽出物、粗精製物等を本発明の抗アレルギー用組成物に用いることが可能である。
【0018】
アグリモールB又は、アグリモールBを含む植物抽出物を有効成分とする抗アレルギー用組成物は、アグリモールB又は前記抽出物をそのまま、あるいは慣用の医薬用製剤担体とともに医薬用組成物として動物及びヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜選択すればよい。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などの経口剤や、注射剤、坐薬などの非経口剤が挙げられる。投与量は、経口剤の場合、通常成人で抽出物の乾燥質量で、アグリモールBを1~1000mg含有するように配合し、これを1日数回に分けて服用するのが適当である。
食品とする場合は、アグリモールB、アグリモールB含有植物抽出物を適切な倍散剤に分散した後、食品原料に配合し、所望の形態とすることができる。食品中に配合する場合は、食品100g当たりアグリモールBを1~1000mg含有するように配合する。
【0019】
本発明において、アグリモールB又はアグリモールBを含む植物抽出物を含有する錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などの経口剤は、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などの賦形剤を用いて常法に従って製造することができる。経口用製剤には本発明組成物の他に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを適宜使用できる。
【0020】
アグリモールB又はアグリモールBを含有する植物抽出物に配合する配合成分として、次に例示するような物質が使用可能である。
結合剤としてはデンプン、デキストリン、アラビアガム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴールなどが例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロースなどを例として挙げることができる。界面活性剤としてはラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。滑沢剤としては、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコールなどを例示できる。流動性促進剤としては軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどを例として挙げることができる。
以下、本発明の組成物の効果を確認した試験例を示し、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
<肥満細胞に対するアグリモールB又はキンミズヒキ抽出物の脱顆粒抑制効果試験>
1.試験方法
(1)試験試料の調製
・キンミズヒキ抽出物及び濃縮キンミズヒキ抽出物の調製
キンミズヒキ(仙鶴草、福田龍株式会社)100gに、90%エチルアルコール10倍量(1kg)を加え、還流抽出を2回繰り返した。終了後、固液分離して抽出液を得た。得られた抽出液を、常法により活性炭処理、珪藻土ろ過した後、濃縮・凍結乾燥し粗抽出物(固形量9.28g、収率9.28%(対原料))を得た。この粗抽出物を「キンミズヒキ抽出物(A.P.)」として本試験に用いた。
このキンミズヒキ抽出物乾燥物8.51gを60℃に加温した20%エチルアルコール溶液に溶解・懸濁(固形量10%)させた後、常法により珪藻土ろ過して残渣を回収した。残渣を再び90%エチルアルコールに溶解させ、常法により珪藻土ろ過した後、再度濃縮・凍結乾燥して濃縮物を得た(固形量0.59g、収率6.93%(対キンミズヒキ抽出物))。これを濃縮キンミズヒキ抽出物(A.P.(D))とする。この濃縮キンミズヒキ抽出物は、キンミズヒキ抽出物(A.P.)から20%エチルアルコール可溶性成分を除去することで、アグリモールBを含む脂溶性成分が濃縮される。
【0022】
・キンミズヒキ抽出物及び濃縮キンミズヒキ抽出物中のアグリモールBの含有量の測定
本実施例において用いる試験試料についてアグリモールBの含有量を常法によって測定した。キンミズヒキ抽出物中に0.036質量%、濃縮キンミズヒキ抽出物中に0.447質量%含有されていた。
本実施例において用いる試験試料についてアグリモールBの含有量を下記条件にてHPLCで測定した。
カラム:Wakosil-ll5C18 AR 4.6mm×150mm
移動相:蒸留水:アセトニトリル:リン酸=100:900:1
流速 :1mL/min
検出 :UV288nm
注入量:10μL
【0023】
・アグリモールB
アグリモールB(Biorbyt社製)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)で10mMになるように溶解調製し、ストック溶液とした。
このストック溶液を以下の試験に用いた。
【0024】
(2)試験方法
次の操作手順で実施した。
1)細胞培養
Wistar rat由来白血病細胞から樹立した好塩基球性肥満(マスト)細胞株RBL2H3細胞(理化学研究所JCRB0023 RBL-2H3)を、細胞密度3×104cells/wellで96well plateに播種し24時間培養した。なお、DMEM(high glucose:Invitrogen)を使用培地とした。
【0025】
2)細胞へのIgE抗体結合
培養上清を除去した後、新しい培地に交換し、抗DNP-IgE抗体(Sigma-Aldrich)を100μl添加し(最終濃度500ng/ml)、さらに2時間培養後、細胞を回収した。回収した細胞をModified Tyrode(MT)buffer(組成:137mM NaCl、2.7mM KCl、1.8mM CaCl2、1mM MgCl2・6H2O、5.6mM Glucose、20mM HEPES、0.1% BSA、pH7.3)200μl/wellで2回洗浄した。
【0026】
3)アグリモールB、キンミズヒキ抽出物、濃縮キンミズヒキ抽出物の添加
MT bufferで溶解したサンプルを100μl添加し、10分間反応させた。アグリモールBは、最終濃度が2.5、5、10μM、キンミズヒキ抽出物は、最終濃度が12.5、25、50μg/mlになるように、また濃縮キンミズヒキ抽出物は、最終濃度が12.5、25、50μg/mlになるようにそれぞれ溶解濃度を調整した。
また陽性対照(脱顆粒抑制剤)として同様にMT bufferで溶解した100μlのWortmannin(フナコシ株式会社以下「Wort」)を最終濃度が100nMになるように添加し、10分間反応させた。
さらにまた、サンプルを含まないMT bufferを添加し同様に反応させたものをコントロールとした。
各サンプルを添加後3時間培養した。
【0027】
4)脱顆粒反応の測定(β-ヘキソサミニダーゼ活性測定)
氷冷上に10分間培養プレートを載せて冷却後、培養上清100μl(全量)をmultiwell plateに移した。細胞を0.1%Triton X-100含有MT buffer100μl/wellで溶解し、細胞溶解液を得た。
培養上清、および細胞溶解液には、100mMのクエン酸buffer(pH4.5)に溶解した3.3mM p-Nitrophenyl-2-acetamido-2-deoxy-β-D-glucopyranoside(富士フイルム和光純薬株式会社)を100μl/wellを加えた。
37℃で25分間反応させた後2M Glycine buffer 100μl/well加え、反応を止める。次いで、プレートリーダーで405nmの吸光度を測定した。
【0028】
5)β-ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)放出率(脱顆粒率)の計算式
次の計算式で各サンプルのβ-hexosaminidaseの放出率を得た。この放出率は、すなわちIgEによるマスト細胞の脱顆粒の程度を示す。そしてこの値が小さくなれば抗アレルギー作用が強いことを意味している。
β-hexosaminidase放出率(脱顆粒率)=(IgE添加細胞の培養上清-IgE非添加細胞の培養上清a)/(IgE添加細胞の培養上清+IgE添加細胞溶解液b)
a:各群の培養上清の値から、IgEの結合なしに自然に放出されたβ-hexosaminidase量(活性)の差
b:培地中および細胞中のβ-hexosaminidase量(活性)の和
【0029】
6)統計解析
得られた各試験試料の示す脱顆粒率は、平均値及び標準偏差を求め、サンプルを含まない MT bufferを添加し同様に反応させた。測定結果は、コントロール(Cont)に対する有意差検定をDunnet法で行った。なお有意差水準はp<0.05(*)、p<0.01(**)とした。
【0030】
2.試験結果
測定結果を
図1に示す。
無添加(Cont)の場合、IgEによって、肥満細胞の脱顆粒率は16%となった。一方、アグリモールBは、濃度依存性で脱顆粒を抑制し、脱顆粒率は、2.5μMで10.21%、5μMで7.37%、10μMで5.29%と顕著な抑制効果を示した。また濃縮キンミズヒキ抽出物も濃度依存性で脱顆粒を抑制し、その脱顆粒率は12.5μg/mlで15.49%、25μg/mlで14.24%、50μg/mlで12.15%を示した。
したがってアグリモールB及び濃縮キンミズヒキ抽出物は、IgEによって引き起こされる脱顆粒反応を抑制することから、有効性のある抗アレルギー用組成物とすることができるものと考えられた。
なお、
図1に示す通り、キンミズヒキ抽出物(A.P.)は、マスト細胞の脱顆粒を抑制する効果がなく、A.P.濃度25μg/ml、50μg/mlでは、脱顆粒が有意に増加した。
以上のキンミズヒキ抽出物と濃縮キンミズヒキ抽出物の脱顆粒率測定結果から、アグリモールBを乾物全量当たり0.4質量%以上含有することが、抗アレルギー作用を発揮するためには必要であると考えられた。