(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】多足類誘引剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/00 20090101AFI20241126BHJP
A01P 19/00 20060101ALI20241126BHJP
A01N 65/28 20090101ALI20241126BHJP
A01N 65/10 20090101ALI20241126BHJP
A01N 65/22 20090101ALI20241126BHJP
A01N 65/24 20090101ALI20241126BHJP
A01N 65/48 20090101ALI20241126BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20241126BHJP
A01N 65/36 20090101ALI20241126BHJP
A01N 43/08 20060101ALI20241126BHJP
A01N 35/06 20060101ALI20241126BHJP
A01N 31/06 20060101ALI20241126BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20241126BHJP
A01N 31/14 20060101ALI20241126BHJP
A01N 31/08 20060101ALI20241126BHJP
A01N 31/04 20060101ALI20241126BHJP
A01N 29/00 20060101ALI20241126BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A01N65/00 F
A01P19/00
A01N65/28
A01N65/10
A01N65/22
A01N65/24
A01N65/48
A01N65/08
A01N65/36
A01N43/08 C
A01N35/06
A01N31/06
A01N31/02
A01N31/14
A01N31/08
A01N31/04
A01N29/00
A01N25/04
(21)【出願番号】P 2020130526
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】前田 和輝
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-370912(JP,A)
【文献】特開2002-322011(JP,A)
【文献】特開2017-186336(JP,A)
【文献】特開2012-005360(JP,A)
【文献】特開平08-268802(JP,A)
【文献】特開2007-070275(JP,A)
【文献】特開2002-338418(JP,A)
【文献】日本環境動物昆虫学会年次大会要旨集,Vol.31,2019年,p.46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01P 19/00
A01N 43/08
A01N 35/06
A01N 31/06
A01N 31/02
A01N 31/14
A01N 31/08
A01N 31/04
A01N 29/00
A01N 65/00
A01N 65/28
A01N 65/22
A01N 65/10
A01N 65/24
A01N 65/48
A01N 65/08
A01N 65/36
A01N 25/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウスターソース類及び/またはソース香料を有効成分として含有する、
ムカデ誘引剤。
【請求項2】
ウスターソース類及び/またはソース香料を有効成分として含有する組成物を用いて、
ムカデを誘引する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多足類誘引剤や多足類誘引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多足類は、複数の胴節と複数の歩肢(脚)を有しており、その見た目により昔から人に忌み嫌われている。様々な種類が存在し、人に刺咬被害を引き起こすムカデ類や、臭腺を持ち触れると臭いヤスデ類などのほか、自然界の分解者という役割を担うダンゴムシやワラジムシなど、人に危害を加えるものから無害なものまでいろいろであるが、共通して不快感を与えるため駆除要請の高い害虫である。
中でもムカデは、攻撃性が強く、接触した瞬間に顎肢を用いて獲物の体内に毒を注入し、小動物や他の虫を捕食する夜行性の肉食昆虫である。この毒はヒスタミンやセロトニンなどの成分により構成される神経毒であり、温暖で湿度の高い場所を好むムカデが夜間に家屋の中に侵入し、人に刺咬被害を引き起こすことが多数報告されている。刺咬被害は、激痛や腫れのみならず、最悪の場合アナフィラキシーショックを引き起こすこともある。ムカデは、その毒性に加えて動きの素早さ、強い生命力など、殺虫剤での駆除が難しいことも知られている。
【0003】
一方、誘引剤を使用した害虫誘引捕獲器は、一般家庭、飲食店、工場等において汎用されているが、ムカデなど多足類は、誘引することが難しい害虫として知られている。その中でもいくつかの誘引剤が報告されている。例えば、特許文献1には、蛋白質を誘引成分とすることが、特許文献2には、イカの乾燥粉末、魚白子の乾燥粉末、カニ殻の粉末いずれかを誘引成分とすることが、特許文献3には、フレッシュミルクオイルなど食品香料を誘引成分とすることなどが報告されている。
しかしながら、これらの誘引剤を詳細に検討してみると、ムカデなどの多足類への誘引効果は得られない、または不十分であり、より誘引効果の高い誘引剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-017106号公報
【文献】特開2005-035922号公報
【文献】特開2019-127451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ムカデなどの多足類を誘引する効果を発揮する誘引剤の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ウスターソース類及び/またはソース香料が、ムカデなどの多足類を誘引する効果を発揮することを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.ウスターソース類及び/またはソース香料を有効成分として含有する、多足類誘引剤。
2.ウスターソース類及び/またはソース香料を有効成分として含有する組成物を用いて、多足類を誘引する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多足類誘引剤や多足類を誘引する方法は、ムカデなどの多足類を誘引する効果を発揮するものである。これにより、本発明の多足類誘引剤は、殺虫剤と併用する毒餌剤の誘引成分として有用である。また、粘着剤などを用いる捕獲器の誘引成分として使用すれば、殺虫剤を使用しない安全性の高い駆除剤とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の多足類誘引剤や多足類誘引方法について詳細に説明する。
本発明の多足類誘引剤や多足類誘引方法は、ウスターソース類及び/またはソース香料を有効成分として含有することを特徴とするものである。
<ウスターソース類>
本発明の多足類誘引剤の有効成分の1つであるウスターソース類は、日本農林規格に定められるものである。日本農林規格においてウスターソース類は、野菜若しくは果実の搾汁、煮出汁、ピューレまたはこれらを濃縮したものに砂糖類(砂糖、糖みつ及び糖類をいう。)、食酢、食塩及び香辛料を加えて調製したものに、澱粉、調味料等を加えて調製した、茶色または茶黒色をした液体調味料をいうと、定義付けられている。このウスターソース類は、その粘度によりウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースに分類される。
本発明におけるウスターソース類は、市販されているものはもとより、食品添加用のものなど何れであっても使用することができる。また、本発明において、ウスターソース類は、そのまま使用することもできるし、凍結乾燥などにより粉末として使用することもできる。
【0010】
<ソース香料>
本発明の多足類誘引剤の有効成分の1つであるソース香料は、上記ウスターソース類の香気成分や、上記ウスターソース類を模した市販のソース香料を使用することができる。
ウスターソース類の香気成分としては、フルフラール、5-メチル-2-フルアルデヒド、カンファー、テルピネン-4-オール、α-テルピネオール、アネトール、チモール、ボルネオール、酢酸オイゲノール、メチルオイゲノール、β-カリオフィレン、イソアミルアルコール、メチル-2-ブタノール、イソブタノール、β-フェネチルアルコール、n-プロパノールなどが挙げられ、これらの中の1種以上を組み合わせて、本発明の有効成分とすることができる。
市販のソース香料としては、例えば、ソーススパイスフレーバーとして、クローブオイル、タイムオイル、ローレルオイル、メースオイル、セロリーシードオイル、シナモンオイル、セージオイル、ブラックペッパーオイル、ホワイトペッパーオイル、キャラウェーオイル、マージョラムオイル、オレガノオイル、カルダモンオイル、ジンジャーオイル、コリアンダーオイル、アニスシードオイル、クミンシードオイル、カプシカムオレオレジン、マスタードオレオレジンなどを特定の組成比により混合したものが知られており、これを本発明の有効成分とすることができる。
【0011】
本発明の多足類誘引剤は、有効成分であるウスターソース類及び/またはソース香料を誘引剤全体の0.005重量%以上で含有することが好ましく、中でも、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上が特に好ましい。また、本発明の多足類誘引剤は、有効成分であるウスターソース類やソース香料そのもの(100重量%)でも良い。
【0012】
<多足類>
本発明における多足類は、生物学的分類における多足類のみならず、見かけ上複数の脚を有する節足動物甲殻網のワラジムシ目に属する、ワラジムシやダンゴムシを含むものである。
生物学的分類における多足類に属する節足動物は、ムカデ(ムカデ綱)、ヤスデ(ヤスデ綱)、コムカデ(コムカデ綱)、エダヒゲムシ(エダヒゲムシ綱)という4つの群(綱)に分けられる。ムカデ綱には、例えば、トビズムカデ、オオムカデ、ゲジ、イシムカデ、ジムカデが、ヤスデ綱には、例えば、オビヤスデ、ヒメヤスデ、タマヤスデ、フサヤスデ、ツムギヤスデが、コムカデ綱には、例えば、コムカデが、エダヒゲムシ綱としては、例えば、エダヒゲムシ、ヤスデモドキ、ニワムシなどが挙げられる。
また、生物学的分類におけるワラジムシ目に属する節足動物としては、例えば、オカダンゴムシ、ハナダカダンゴムシ、ハマダンゴムシ、コシビロダンゴムシ、ワラジムシなどが挙げられる。
本発明の多足類誘引剤の対象としては、上記ムカデ綱に属する多足類が好適な対象として挙げることができる。
【0013】
<誘引成分>
本発明の多足類誘引剤は、本発明の効果を損なわない範囲において公知の多足類誘引成分を配合してもよい。
<殺虫剤>
本発明の多足類誘引剤は、公知の殺虫剤と組み合わせて使用することにより、誘引した多足類を確実に防除できる防除薬剤とすることができる。併用できる公知の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラレトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、サイパーメスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イミプロトリン、エンペントリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、メペルフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物;プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;イミダクロプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系化合物;ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン等の昆虫幼若ホルモン様化合物;スルフルラミド等の酸化的リン酸化脱共役剤;プレコセン等の抗幼若ホルモン様化合物;ノバルロン、ジフルベンズロン、エトキサゾール等のキチン合成阻害剤;ヒドラメチルノン等のアミジノヒドラゾン系化合物;フィトンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油等の殺虫精油類等の各種殺虫剤を挙げることができ、さらに、サイネピリン、ピペロニルブトキサイド等の共力剤も併用することができる。忌避性の少ない、昆虫幼若ホルモン様化合物、抗幼若ホルモン様化合物、キチン合成阻害剤等の昆虫成長制御剤も、好適に併用することができる。
本発明の多足類誘引剤を毒餌剤として用いる場合に配合する殺虫剤としては、多足類が嫌がる忌避性が少ない、例えば、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、スルフルラミド、フィプロニル、ヒドラメチルノン、ジノテフラン、カルバリルが、本発明の多足類誘引剤に配合する殺虫剤として適している。
【0014】
また、本発明の多足類誘引剤に配合する殺虫剤としては、水溶性が高いものが製剤上好ましい場合があり、たとえば20℃における水溶解度が1ppm以上のものが製剤上好ましい場合がある。このような水溶解度を有する殺虫剤としては、例えば、アセフェート、バミドチオン、メチダチオン(DMTP)、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、フェノブカルブ(BPMC)、スルフルラミド、エチオフェンカルブ、カルタップ、チオシクラム、イミダクロプリド、チアクロプリド、シロマジン、ホスチアゼート、アセタミプリド、チアメトキサム、カルバリル(NAC)、クロチアニジン、ピメトロジン、フィプロニル、ジノテフラン等が挙げられる。
【0015】
<界面活性剤>
本発明の多足類誘引剤は、界面活性剤を配合することができる。特に、本発明の多足類誘引剤と上記公知の殺虫剤とを組み合わせて使用する場合は、界面活性剤を配合することが好ましい。
使用できる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の何れでも特に制限なく使用することができるが、中でも、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤が好適である。
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤としては、糖エステル型、脂肪酸エステル型、植物油型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型のものが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、アンモニウム型、ベンザルコニウム型のものが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型のものが挙げられる。
中でも好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられ、好適な陰イオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩が挙げられる。
特に好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが挙げられ、特に好適な陰イオン性界面活性剤としては、アルキルスルホン酸塩が挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
【0016】
<製剤>
本発明の多足類誘引剤は、ウスターソース類及び/またはソース香料の有効成分以外に、必要に応じて、上記殺虫剤や一般的に製剤に添加される成分と共に製剤化したものと、製剤化したものを水で希釈したものが含まれる。中でも、製剤化したものが、コンパクトでありかつ保存安定性に優れるため、移送時や保管時において有利である。
製剤型としては、例えば、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、マイクロカプセル剤、粉剤、顆粒剤、粒剤、錠剤、ゲル剤、液剤、スプレー剤、エアゾール剤等が挙げられる。その中でも、粉剤、顆粒剤、粒剤、錠剤、ゲル剤等の固形剤が、本発明における製剤型としては、多足類誘引効果を最大限とできるため好適である。
【0017】
本発明の多足類誘引剤を製剤化する場合、必要に応じて、一般的に製剤に添加される成分を配合することができる。一般的に製剤に添加される成分の例としては、安定化剤、着色料、誤飲・誤食防止剤、防腐剤、液体担体、固体担体、ゲル化剤、吸液性材料等が挙げられる。これらは、それぞれにおいて1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
製剤化の際に用いられる安定化剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤、アスコルビン酸等が挙げられる。着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、紅花色素、フラボノイド色素、赤色2号、赤色3号、黄色4号、黄色5号、誤飲・誤食防止剤としては、安息香酸デナトニウム等が、防腐剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸塩、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、チアベンダゾール等が挙げられる。
【0018】
製剤化の際に用いられる液体担体としては、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、及び水が挙げられる。水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水等が用いられる。
【0019】
製剤化する際に使用できる固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、植物質粉末(木粉、大豆粉、小麦粉、澱粉等)、スポンジ、脱脂綿、天然繊維、合成繊維の不織布、吸水性ポリマー等のポリマー、織布、紙、多孔質体等が挙げられる。固体担体の粒子径としては、0.01μm~50mmの範囲のものが好ましく、中でも0.1μm~10mmの範囲のものがより好ましい。
【0020】
製剤化する際に使用できるゲル化剤としては、例えば、寒天、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、ゼラチン、ペクチン、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸等が挙げられる。
製剤化する際に使用できる吸液性材料としては、合成ポリマー系吸水性樹脂、天然物由来系樹脂及びこれらを組み合わせた樹脂が挙げられ、合成ポリマー系吸水性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸塩系樹脂、ポリスルホン酸塩系樹脂、無水マレイン酸塩系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂等が挙げられ、天然物由来系樹脂としては、例えば、ポリグルタミン酸系樹脂、ポリアルギニン酸系樹脂、デンプン系樹脂等が挙げられる。
【0021】
<毒餌剤について>
本発明の多足類誘引剤は、公知の殺虫剤と併用して毒餌剤として使用してもよい。例えば、この毒餌剤を含浸、付着または塗布した摂食基体を、多足類駆除を行う場所に設置すれば、多足類が摂食することで殺虫効果を得ることができる。この摂食基体の素材としては、スポンジ、脱脂綿、天然繊維、合成繊維の不織布、吸水性ポリマー等のポリマー、織布、紙、多孔質体等が挙げられる。また、小麦粉などの喫食成分と組み合わせて毒餌剤を形成しても良い。
この毒餌剤は、容器に収納して使用することが好ましく、収納する容器としては、本発明の多足類誘引剤を内部に収容できる形態であれば形状や大きさ等は制限されず、使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等のほか、本発明の多足類誘引剤が容器から漏出することがない防水や撥水機能を有する特殊紙などの材質であれば特に制限されない。本発明の多足類毒餌剤を野外に設置する場合、雨水等が浸入し本発明における毒餌剤が希釈され、多足類駆除効果が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。本発明の多足類毒餌剤容器は、なるべく直射日光の当たらない、容器の入り口がふさがらないような平坦な場所、特に構造物の壁面に沿った場所に置いて使用することが好ましい。
【0022】
<多足類捕獲器について>
本発明の多足類誘引剤は、粘着剤と組み合わせて容器に収納して多足類捕獲器として使用してもよいし、粘着剤は使用せず、多足類が侵入後脱出できない構造の容器と組み合わせて多足類捕獲器として使用してもよい。
粘着剤を構成する高分子としては、アクリル系高分子、シリコーン系高分子、ビニルエーテル系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。これらの高分子は、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤等の硬化剤と併用することにより、粘着機能を発揮するものである。
収納する容器は、本発明の多足類誘引剤を内部に収容できる形態であれば形状や大きさ等は制限されず、捕獲する多足類に応じて使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等のほか、本発明の多足類誘引剤が容器から漏出することがない防水や撥水機能を有する特殊紙などの材質であれば特に制限されない。
容器は、多足類捕獲数を目視できるように、透明または半透明の窓相当部を設けたもの、もしくは透明または半透明の容器としてもよく、捕獲した多足類を見えにくくして不快感を抑えることもできる。
多足類捕獲器を野外に設置する場合、雨水等が浸入し本発明の多足類誘引剤が希釈され、多足類捕獲効率が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。
本発明の多足類捕獲器は、なるべく直射日光の当たらない、容器の入り口がふさがらないような平坦な場所、特に構造物の壁面に沿った場所に置いて使用することが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、処方例及び試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0024】
<ムカデ誘引効果確認試験1>
(1)試験検体の調製
下記表1に示す10種の成分を試験検体として、それぞれ0.5gをろ紙(直径:90mm)に含浸したものを、確認試験に使用した。試験検体のうち、フレッシュミルクオイルは多足類に誘引効果があると特許文献3で報告されたものであり、水とそれ以外は、ある種の害虫に誘引効果があるとされているものを選定した。
(2)試験方法
供試虫として、トビズムカデ1頭を使用した。
上記(1)の各試験検体を含浸させたろ紙を、供試虫の頭部に接触しないように、約20mm離して近づけ、その時の供試虫の反応を下記評価基準により評価した。試験は各試験検体について3回実施したが、全ての試験検体において、3回とも同じ評価であった。その評価結果を下記表1にまとめて示した。
[評価基準]
〇:供試虫がろ紙に接近しようとする強い反応が認められる。
×:反応がわずか、または認められない。
【0025】
【0026】
表1の結果より、本発明におけるウスターソース類はムカデ誘引効果に極めて優れていることが明らかとなった。一方、表1に示した比較例の試験検体は、紹興酒はごくわずかに反応が認められたものの、それ以外は全く反応が認められなかった。これら比較例の試験検体には、ムカデなどの多足類を誘引する効果はないものと考えられる。
本発明におけるウスターソース類は、眼が退化し嗅覚や触覚に頼って生活しているムカデを反応させる物質であり、誘引効果が得られる可能性があることが明らかとなった。その誘引効果を確認するために、次の「ムカデ誘引効果確認試験2」を実施した。
【0027】
<ムカデ誘引効果確認試験2>
(1)試験検体の調製
上記「ムカデ誘引効果確認試験1」で使用したウスターソース2gを、脱脂綿(80mm×20mm)に含浸させたものを使用した。
(2)試験方法
供試虫として、トビズムカデ1頭を使用した。
対面する面(35mm×35mm)の中央部に、内部方向に狭くなる略角錐台形状の入口(10mm×10mm)を有する直方体形状の捕獲器(35mm×35mm×150mm)の中に、上記(1)のウスターソースを含浸させた脱脂綿を載置し、これをバット(300mm×500mm×高さ150mm)の中央に設置した。このバット内に供試虫を放ち、試験室内を消灯して暗くした。
その後3時間ビデオ撮影を行い、その時間内に供試虫が上記捕獲器に侵入するか否かを確認した。これを試験Aとする。
また、ウスターソースを含浸させた脱脂綿を載置しない上記捕獲器を使用して、同様の試験を実施した。これを試験Bとする。
試験A、試験Bともに試験は5回行った。
(3)試験結果
誘引剤としてウスターソースを使用した試験Aでは、試験回数5回中4回(80%)の割合で、ムカデが捕獲器に侵入することが確認された。
一方、誘引剤としてウスターソースを使用しない試験Bでは、試験回数5回中1回(20%)の割合でしか、ムカデが捕獲器に侵入しないことが確認された。
【0028】
(4)考察
ムカデは、基本的に構造物の壁面に沿って移動する習性を有している。そのため、上記試験方法(2)における、壁面から離れた場所に設置された捕獲器に接近すること自体が稀な状況と考えられる。
このムカデの習性と、誘引剤としてウスターソースを使用した試験Aにおいて、誘引剤のない試験Bに比べて4倍の捕獲器への侵入が確認された、上記試験結果(3)を考慮して、本発明におけるウスターソース類は、ムカデの誘引効果に極めて優れていると判断した。
【0029】
<屋外での確認試験>
(1)試験検体の調製
上記「ムカデ誘引効果確認試験2」で使用した捕獲器の入口部分の内側の面、詳しくは、内部方向に狭くなる略角錐台を形成している部分の捕獲器内部にある面上に、粘着剤を塗工した。この捕獲器に誘引剤を載置しない捕獲器を試験検体(Ia)とした。また、同様の捕獲器に小麦粉で作製した顆粒全体の重量に対して、5重量%のウスターソースを噴霧した誘引剤を載置したものを試験検体(IIa)とした。
(2)試験方法
上記(1)の試験検体(Ia)と(IIa)を、ムカデをよく見かける屋外(兵庫県赤穂市内)4カ所に設置(2020年7月)した。設置から1ヶ月後、各試験検体に捕獲されたムカデの数を計数した。
(3)結果
誘引剤にウスターソースを使用した試験検体(IIa)により4カ所で捕獲されたムカデ捕獲総数は5頭であり、誘引剤がない試験検体(Ia)により4カ所で捕獲されたムカデ捕獲総数1頭の、5倍であった。
(4)考察
上記「ムカデ誘引効果確認試験2」の屋内試験で確認された結果と同様に、屋外試験においても、本発明におけるウスターソース類は、ムカデの誘引効果に優れていることが確認された。
【0030】
<虫に対する誘引性の確認試験>
本発明のウスターソース類が、多足類以外の害虫に対して誘引効果を発揮するかを確認するために試験を行った。
(1)試験検体の調製
市販のゴキブリ捕獲器に、付属の誘引剤を設置したものを試験検体(Ib)とした。また、同じゴキブリ捕獲器の誘引剤に、上記「ムカデ誘引効果確認試験1」で使用したウスターソースを、5重量%(誘引剤全体の重量に対して)噴霧した誘引剤を設置したゴキブリ捕獲器を試験検体(IIb)とした。
(2)試験方法
供試虫1として、チャバネゴキブリ成虫100頭(オス50頭、メス50頭)と、供試虫2として、クロゴキブリ成虫50頭(オス25頭、メス25頭)をそれぞれ使用した。
円形バット(直径:1m)に、容器(KPカップ:直径50mm×高さ35mm)に入った水と紙製(蛇腹折り)シェルター(チャバネゴキブリ用:180mm×320mm、クロゴキブリ用:230mm×320mm)をそれぞれ1個設置し、供試虫1または供試虫2を放ち、供試虫が全てシェルター内に定着したことを確認後、試験検体(Ib)2個を対角に設置し、この試験検体(Ib)と90度ずらして試験検体(IIb)2個を対角に設置して、試験室内を消灯して暗くして試験を開始した。
試験開始から30分後と1晩(14時間)後に、試験検体(Ib)と試験検体(IIb)に捕獲された供試虫を計数し、下記算出式により捕獲率を算出した。試験は、供試虫1、2それぞれ2回行い、その捕獲率の平均値を下記表2にまとめて示した。
[算出式]
捕獲率(%)=各試験検体2個の合計捕獲頭数÷全体の捕獲頭数×100
【0031】
【0032】
表2に示すとおり、ウスターソースを使用した試験検体(IIb)と使用していない試験検体(Ib)は、平均捕獲率に差が無く、この結果より、チャバネゴキブリ、クロゴキブリともに、ウスターソースによる誘引効果はないことがわかった。
上記「ムカデ誘引効果確認試験2」、「屋外での確認試験」の結果より、ムカデはウスターソースに誘引されることを確認していることから、害虫種により本発明におけるウスターソース類の誘引性は大きく異なることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の多足類誘引剤や多足類を誘引する方法は、従来の誘引効果は得られない、または不十分である誘引剤とは異なり、ムカデなどの多足類の誘引効果に極めて優れた誘引剤である。これにより、本発明の多足類誘引剤は、殺虫剤と併用する毒餌剤の誘引成分として有用である。また、粘着剤などを用いる捕獲器の誘引成分として使用すれば、殺虫剤を使用しない安全性の高い駆除剤とすることができる。