(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】アンカー構造体、予防若しくは防護施設、及び、アンカー構造体の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20241126BHJP
E01F 7/04 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
E01F7/04
(21)【出願番号】P 2021024021
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020053941
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】小関 和廣
(72)【発明者】
【氏名】今井 真実
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-041720(JP,A)
【文献】実開昭48-087805(JP,U)
【文献】特開2008-144381(JP,A)
【文献】特開2012-184593(JP,A)
【文献】特開2017-150180(JP,A)
【文献】特開2017-210834(JP,A)
【文献】特開2012-087506(JP,A)
【文献】特開平09-310313(JP,A)
【文献】特開2011-236735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持対象物と接続される第1のアンカーと、前記第1のアンカーを介して前記支持対象物と接続される第2のアンカーを備えることで、複数のアンカーが直列に接続されていることにより、これら直列に接続された複数のアンカーによって荷重を保持する
アンカー構造体であって、
前記第1のアンカーと第2のアンカーを接続するための接続部材を有し、
前記接続部材が、隣り合うアンカーにおける規定変位量の差分である変位差を吸収する、変位差吸収構造を備えることを特徴とするアンカー構造体。
【請求項2】
前記アンカー構造体としての最大耐力の発生時に、前記直列に接続された複数のアンカーのそれぞれの変位量が、それぞれのアンカーの規定変位量となることを特徴とする請求項
1に記載のアンカー構造体。
【請求項3】
規格の異なるアンカーが直列に接続されていることを特徴とする請求項1
又は2に記載のアンカー構造体。
【請求項4】
前記直列に接続された複数のアンカーのうち、規定変位量が最も大きいアンカーに対して、最初に荷重がかかるように構成されていることを特徴とする請求項1から
3の何れかに記載のアンカー構造体。
【請求項5】
前記直列に接続された複数のアンカーが、荷重がかかる順番に、規定変位量が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続されていることを特徴とする請求項
4に記載のアンカー構造体。
【請求項6】
前記直列に接続された複数のアンカーのうち、最も径の大きなアンカーに対して、最初に荷重がかかるように構成されていることを特徴とする請求項1から
3の何れかに記載のアンカー構造体。
【請求項7】
前記直列に接続された複数のアンカーが、荷重がかかる順番に、径が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続されていることを特徴とする請求項
6に記載のアンカー構造体。
【請求項8】
前記変位差吸収構造により、前記接続部材が、前記変位差分の遊びを有していることを特徴とする請求項
1から7の何れかにに記載のアンカー構造体。
【請求項9】
前記接続部材が、長さ調節機構と、長さ調節量を測定するための基準部と、を備えることを特徴とする請求項
8に記載のアンカー構造体。
【請求項10】
第1のアンカーが支持対象物と接続され、第2のアンカーが前記第1のアンカーを介して前記支持対象物と接続されることで、直列に接続されるアンカー構造体の施工方法であって、
アンカーを打設するステップと、
アンカーが保持すべき荷重がかかる方向に、荷重をアンカーにかけながら、アンカーを直列に接続するステップと、
を有することを特徴とするアンカー構造体の施工方法。
【請求項11】
長さ調節機構を有する接続部材によってアンカーを接続し、少なくともガタツキがなくなるまで、前記長さ調節機構によって前記接続部材の長さを短くするステップを有することを特徴とする請求項
10に記載のアンカー構造体の施工方法。
【請求項12】
前記接続部材が、遊び機構を備え、
前記接続部材の長さを短くするステップの後に、隣り合うアンカーにおける規定変位量の差分である変位差分だけ前記接続部材に遊びを設けるステップを有することを特徴とする請求項
11に記載のアンカー構造体の施工方法。
【請求項13】
請求項1から
9の何れかに記載のアンカー構造体と、
複数の支柱と、
前記支柱の間に設けられる受け部材と、
前記複数のアンカーの何れかと前記支柱とを接続する支柱接続部材と、
を備えることを特徴とする予防若しくは防護施設。
【請求項14】
前記予防若しくは防護施設が、傾斜地に設置されており、前記支柱に対して斜面上方となる位置の前記複数のアンカーの何れかと前記支柱とが、前記支柱接続部材によって接続されていることを特徴とする、請求項
13に記載の予防若しくは防護施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー構造体、予防若しくは防護施設、及び、アンカー構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を支持や保持するための固定手段として、アンカーが広く利用されている。
例えば、雪崩や落石の防護・予防施設として、雪崩や落石の恐れのある法面に柵体(金網張りしたものを含む)や三角錐状の枠体を設置し、これら柵体あるいは枠体を、法面の上方に固定したアンカーから吊りロープ(ワイヤロープ)によって吊持した施設や、雪崩や落石の恐れのある法面にポケットを形成するように張ったポケット式ロックネットのワイヤロープや、覆式ロックネットのワイヤロープを、法面の上方に固定したアンカーで吊持した施設や、法面に沿って浮石押さえロープを敷設し、そのロープの上部をアンカーで吊持した施設などが知られている。このような、傾斜地に設置される防護施設やアンカーに関連する技術が、特許文献1によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンカーの耐力(保持可能な荷重)は、基本的にはアンカーが大型であるほど大きなものとすることができるが、大径アンカーの打設には大型の機械設備を要することになる。アンカーにかかる荷重が大きな場合や、軟弱地盤等によってアンカーの耐力が小さくなる場合には、大径アンカーが必要になるが、大型の機械設備を搬入することができない傾斜地等においては大径アンカーを打設することは難しく、必要な耐力を得るために、複数の小径アンカーを並列に打設することが行われている。
例えば、特許文献1の
図7に表れているように、並列に設置された2本のアンカーにて1つの枠体を吊持するようにしている。このように、並列に設置された2本のアンカーを用いることで、アンカー2本分の耐力を得るようにする場合、荷重バランスの均等化の観点等から、同じ規格のアンカーが使用される。例えば、耐力が15KN、20KN、40KNの規格のアンカーがあり、求められる耐力が50KNの場合、40KNのアンカーを2本使用することになり、要求に対してオーバースペックにせざるを得ず、不経済な面を有していた。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、構造物を支持や保持するために複数のアンカーによって荷重を保持する場合において、求められる耐力に対してより柔軟な構成を用いることが可能なアンカー構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
複数のアンカーが直列に接続されていることにより、これら直列に接続された複数のアンカーによって荷重を保持することを特徴とするアンカー構造体。
【0007】
(構成2)
前記アンカー構造体に荷重がかかった状態において、前記直列に接続された複数のアンカーの何れかのアンカーの変位量が当該アンカーの規定変位量を超える前に、前記直列に接続された全てのアンカーに荷重がかかるように構成されていることを特徴とする構成1に記載のアンカー構造体。
【0008】
(構成3)
前記アンカー構造体としての最大耐力が、前記直列に接続された全てのアンカーの耐力の合計によって得られることを特徴とする構成1又は2に記載のアンカー構造体。
【0009】
(構成4)
前記アンカー構造体としての最大耐力の発生時に、前記直列に接続された複数のアンカーのそれぞれの変位量が、それぞれのアンカーの規定変位量となることを特徴とする構成3に記載のアンカー構造体。
【0010】
(構成5)
前記アンカーを接続するための接続部材を有し、前記接続部材が、長さ調節機構を備えることを特徴とする構成1から4の何れかに記載のアンカー構造体。
【0011】
(構成6)
規格の異なるアンカーが直列に接続されていることを特徴とする構成1から5の何れかに記載のアンカー構造体。
【0012】
(構成7)
前記直列に接続された複数のアンカーのうち、規定変位量が最も大きいアンカーに対して、最初に荷重がかかるように構成されていることを特徴とする構成1から6の何れかに記載のアンカー構造体。
【0013】
(構成8)
前記直列に接続された複数のアンカーが、荷重がかかる順番に、規定変位量が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続されていることを特徴とする構成7に記載のアンカー構造体。
【0014】
(構成9)
前記直列に接続された複数のアンカーのうち、最も径の大きなアンカーに対して、最初に荷重がかかるように構成されていることを特徴とする構成1から6の何れかに記載のアンカー構造体。
【0015】
(構成10)
前記直列に接続された複数のアンカーが、荷重がかかる順番に、径が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続されていることを特徴とする構成9に記載のアンカー構造体。
【0016】
(構成11)
前記アンカーを接続するための接続部材を有し、前記接続部材が、隣り合うアンカーにおける規定変位量の差分である変位差を吸収する、変位差吸収構造を備えることを特徴とする構成1から10の何れかに記載のアンカー構造体。
【0017】
(構成12)
前記変位差吸収構造により、前記接続部材が、前記変位差分の遊びを有していることを特徴とする構成11に記載のアンカー構造体。
【0018】
(構成13)
前記接続部材が、長さ調節機構と、長さ調節量を測定するための基準部と、を備えることを特徴とする構成11又は12に記載のアンカー構造体。
【0019】
(構成14)
前記複数のアンカーが、荷重がかかる方向に沿って直列に接続されていることを特徴とする構成1から13の何れかに記載のアンカー構造体。
【0020】
(構成15)
構成1から14の何れかに記載のアンカー構造体によって支持され、傾斜地に設置されている予防若しくは防護施設。
【0021】
(構成16)
直列に接続されるアンカー構造体の施工方法であって、アンカーを打設するステップと、アンカーが保持すべき荷重がかかる方向に、荷重をアンカーにかけながら、アンカーを直列に接続するステップと、を有することを特徴とするアンカー構造体の施工方法。
【0022】
(構成17)
長さ調節機構を有する接続部材によってアンカーを接続し、少なくともガタツキがなくなるまで、前記長さ調節機構によって前記接続部材の長さを短くするステップを有することを特徴とする構成16に記載のアンカー構造体の施工方法。
【0023】
(構成18)
前記接続部材が、遊び機構を備え、前記接続部材の長さを短くするステップの後に、隣り合うアンカーにおける規定変位量の差分である変位差分だけ前記接続部材に遊びを設けるステップを有することを特徴とする構成17に記載のアンカー構造体の施工方法。
【0024】
(構成19)
構成1から14の何れかに記載のアンカー構造体と、複数の支柱と、前記支柱の間に設けられる受け部材と、前記複数のアンカーの何れかと前記支柱とを接続する支柱接続部材と、を備えることを特徴とする予防若しくは防護施設。
【0025】
(構成20)
前記予防若しくは防護施設が、傾斜地に設置されており、前記支柱に対して斜面上方となる位置の前記複数のアンカーの何れかと前記支柱とが、前記支柱接続部材によって接続されていることを特徴とする、構成19に記載の予防若しくは防護施設。
【0026】
(構成21)
前記支柱に対して接続される前記複数のアンカーの何れかが、斜面に対して垂直に打設されていることを特徴とする、構成20に記載の予防若しくは防護施設。
【0027】
(構成22)
前記支柱に対して接続される前記複数のアンカーの何れかと、前記支柱接続部材が、一直線上になるように配されていることを特徴とする、構成21に記載の予防若しくは防護施設。
【0028】
(構成23)
前記支柱接続部材の前記支柱に対する接続位置が、前記支柱の上端部から前記支柱の高さの1/2の間であることを特徴とする、請求項19から22の何れかに記載の予防若しくは防護施設。
【発明の効果】
【0029】
本発明のアンカー構造体によれば、複数のアンカーを直列に接続することにより、求められる耐力に対してより柔軟な構成を用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る実施形態1のアンカー構造体を示す側面図
【
図3】従来のアンカーと実施形態1のアンカー構造体の比較をする概念図
【
図4】実施形態1のアンカー構造体の実験結果を示す表
【
図6】直列アンカーに荷重がかかり、変位が生じた状態を説明する概念図
【
図9】実施形態2のアンカー構造体の施工手順を示す概念図
【
図10】直列アンカーに荷重がかかり、変位が生じた状態を説明する概念図
【
図11】規格の異なるアンカーを使用する場合を説明する表
【
図12】実施形態2のアンカー構造体の実験結果を示す表
【
図14】落石防護支柱にアンカー構造体を利用する例を示す図
【
図15】落石防護支柱にアンカー構造体を利用する例を示す図
【
図17】実施形態3の落石防護柵のアンカー構造体部分を示す概略平面図
【
図18】防護柵に用いたアンカー構造体の耐力に関する概念説明図
【
図21】従来の並列に設置された2本のアンカー構造を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0032】
<実施形態1>
図1は、本発明に係る実施形態1のアンカー構造体を示す側面図であり、
図2は同斜視図(部材の見やすさの観点から蓋部材14a、14bについては描いていない)である。
本実施形態のアンカー構造体1は、斜面等において施設を保持するために地中に打設されて荷重を支持するアンカーであり、複数のアンカーが直列に接続されていることにより、これら直列に接続された複数のアンカーによって荷重を保持するものである。本実施形態では、複数のアンカーが、荷重がかかる方向に沿って直列に接続されている。
アンカー構造体1は、アンカー11a及びアンカー11bと、これらの2本のアンカーを接続するための接続部材12と、取付部13a、13bを備える。
【0033】
アンカー11aとアンカー11bは、鋼管で形成されたパイプアンカーであり、それぞれのアンカーの上部には蓋部材14a、14bが設けられている。蓋部材14a、14bは、蓋としての機能の他、取付部13a、13bやアンカー構造体1に接続される索体等(アンカー構造体1によって荷重を保持される施設と接続する索体等)の抜け止めとしても機能する。図示は省略しているが、アンカー11a及びアンカー11bの上部と蓋部材14a、14bにはそれぞれ、抜け止めのピンボルトを通す孔が形成されており、ピンボルトによって相互に締結される。
本実施形態のアンカー構造体1は、規定変位量が同じアンカーを使用している。“規定変位量”とは、そのアンカーが最大耐力を生じさせる際の変位量である。規定変位量はアンカーのサイズ(太さ及び長さ)や、アンカーを打設する現場の地耐力などの地盤条件によって定まる。“規定変位量”は、実際に現地で測定するもの、対象の条件を模して実験的に定めるもの、計算にて算出するもの等、その定め方は任意のものであってよい。
【0034】
取付部13aと取付部13bは、アンカー11aとアンカー11bに接続部材12を取り付けるための部材であり、アンカーの外側にはまるリング状部分と、当該リング状部分から突出する締結部とを有する。締結部にはピンボルトPBを通す孔が形成されており、接続部材12とピンボルトPBによって締結される。
【0035】
接続部材12は、鋼材アーム124と、ターンバックル121とを有する。ターンバックル121は長さ調節機構として機能する。
鋼材アーム124の両端にはピンボルトPBを通す孔が形成されており、鋼材アーム124とターンバックル121、鋼材アーム124と取付部13a、がそれぞれピンボルトPBによって接続される。
【0036】
次にアンカー構造体1の施工手順について説明する。
先ず、アンカー11aとアンカー11bを打設する。パイプアンカーであるアンカー11a、11bの打設の方法は、使用できる任意の方法であってよいが、例えば特許文献1で開示されている方法を用いることができる。特許文献1で開示されている方法で使用する機材は、人手で運搬できる機材であるので、大型の機械設備を搬入できないような場所であっても、アンカーの打設が可能である。
【0037】
次に、接続部材12を用いてアンカー11aとアンカー11bを直列に接続する。
接続部材12のアンカー11a、11bへの取り付けは、鋼材アーム124とターンバックル121と取付部13a、13bを先に仮組みしてからアンカー11a、11bへ取り付けるものや、アンカー11a、11bへ取付部13a、13bを取り付けた後に鋼材アーム124とターンバックル121を取り付けるもの等、その組み上げの順番は任意のものであってよい。
各部材を組み上げたのちに、ターンバックル121を回して接続部材12の長さを短くすることで、少なくとも各部材間のガタツキが無くなるまで緊張力を加える。“各部材間のガタツキ”とは、アンカーを打設するために地面に開けた穴(穿孔)の内径とアンカーの外径の差、各ピンボルトの孔公差、ターンバックルのネジのあそび、取付部の内径とアンカーの外径の差等の、各部材間の公差やあそびが合わさったものである。これらの公差やあそび等によって生じる“緩み”であるガタツキを無くすためにターンバックルによって緊張力を与えるものである。
アンカー構造体1によって荷重を保持される施設と接続するための索体(特に図示せず)をアンカーに締結した上で蓋部材14a、14bをアンカー11a、11bに取り付けることで、アンカー構造体1が施工される。
【0038】
なお、ターンバックル121の引き締めによって、アンカー11a、11bを相互に引き寄せる方向に力が働くことになる。その結果、両アンカーの反対側で、アンカーと穿孔の間のあそびが大きくなる傾向となる。例えば、アンカー構造体1の使用状態において
図1のFの方向に荷重がかかる場合、アンカー11aの左側でアンカーと穿孔の間にあそびがあると、荷重がかかった際の初動において十分な耐力が得られないおそれもある。
このような問題を低減するために、アンカーが保持すべき荷重がかかる方向に、荷重をアンカーにかけながら、アンカーを相互に接続するようにするとよい。
図1の例では、ターンバックルによって緊張力を与える前に、アンカー11aに対してFの方向に荷重をかけ、この状態でターンバックル121の引き締めを行うようにするとよい。かける荷重は、ターンバックルによって緊張力を与えた際に、アンカー11a(アンカーが保持すべき荷重がかかる方向とターンバックルの引き締め方向が逆になるアンカー)が、ターンバックルの引き締め方向に動かないようにできるものであればよい。なお、荷重をかける方法は任意の方法を用いることができる。
【0039】
アンカー11aに対して荷重をかけながら、ターンバックル121の引き締めを行う施工の一例は、下記の通りである。
1.アンカー11a(荷重が最初にかかるアンカー)に1KN以上の荷重をかけ、荷重前方の隙間・緩みのガタツキ(
図1におけるアンカー11aの左側の、アンカーと穿孔の間のあそび)をとる。
2.接続部材12を用いてアンカー11aとアンカー11bを連結させ、ターンバックル121の引き締めにより、アンカー11aがアンカー11bの方向に一瞬引っ張られる状態(前方と後方のアンカーが釣り合っている状態:前方アンカーが後方アンカー方向に一瞬引っ張られるが、変位とならないように微調整にて前方アンカーを元の位置(荷重をかけた際の位置)に戻した状態)に緊張し、アンカー11bの前方方向のガタツキ(
図1におけるアンカー11bの左側の、アンカーと穿孔の間のあそび)をとる。
上記の施工により、双方のアンカーが同じ初期張力にてガタツキを解消することが可能となる。
なお、ガタツキ(アンカーの緩みや、各部材のあそび等)を無くすにためには、1KN以上の荷重とすることが好ましい。一方で、大きな荷重をかけすぎることによって、アンカーに変位が生じるのはあまり好ましくないため、5KN以下の荷重とすることが好ましい。ただし、これら数値範囲に限るものではなく、アンカーのサイズや地盤の状態に応じて、適宜調整するものであってよい。
【0040】
本実施形態のアンカー構造体1によれば、アンカーを直列に接続していることにより、求められる耐力に対してより柔軟な構成を用いることが可能となる。
図3には、従来のアンカー(並列接続)と本実施形態のアンカー構造体1の比較をする概念図を示した。
従来の並列に設置された2本のアンカーの場合、荷重バランスの均等化の観点等から、同じ規格のアンカーを使用する必要がある。例えば、耐力が15kN、20kN、40kNの規格のアンカーがあり、求められる耐力が50kNの場合、40kNのアンカー11´を2本使用することになり、要求に対してオーバースペックにせざるを得ず、不経済な面を有していた。
これに対し、本実施形態のアンカー構造体1によれば、15kNと40kNのアンカー11a、11bを用いることができる。これからも理解されるように、本実施形態のアンカー構造体1は非常に柔軟な構成を用いることが可能であり、これにより高い経済性を有することができる。
【0041】
図4は、実施形態1のアンカー構造体について行った実験結果を示す表である。また、
図5はその際の実験風景を示す写真である。
図4の左側の表は、本実験で使用したアンカーの規格(アンカーの径、長さ、荷重に対する変位量)を示したものである。ここでは、アンカー11aとして、アンカーの径:89.1mm、長さ:1.1m、耐力:25kN(その際の変位量:55mm)、アンカー11bとして、アンカーの径:139.8mm、長さ:1.1m、耐力:35kN(その際の変位量:55mm)のパイプアンカーをそれぞれ使用した。
なお、本実験では、上記の説明のように、アンカーが保持すべき荷重がかかる方向に、荷重をアンカーにかけながら、アンカーを相互に接続した。より具体的には、アンカー11aに1KNの荷重をかけた状態で、ターンバックル121の引き締めにより、アンカー11aがアンカー11bの方向に一瞬引っ張られる状態(前方と後方のアンカーが釣り合っている状態:前方アンカーが後方アンカー方向に一瞬引っ張られるが、変位とならないようにターンバックル121を僅かに緩める等の微調整にて前方アンカーを元の位置(荷重をかけた際の位置)に戻した状態)に緊張させた。
図4の右側の表は、実験結果を示した表である。
5kNの荷重をかけた際の変位量が両アンカー共に3mmとなっており、アンカーの変位の同期が確認されている。上記のごとく、施工時に接続部材12を用いて両アンカーが緊張力をもって接続されているため、これ以降の荷重による変位においても、両アンカーの変位量は同期されている。
最大耐力として、両アンカーの最大耐力の合計値となる60kNが得られ、その際の変位量が55mmになることが確かめられた。
【0042】
本実施形態のアンカー構造体1は、アンカー11a、11bの変位量が同期されるため、「アンカー構造体に荷重がかかった状態において、直列に接続された複数のアンカーの何れかのアンカーの変位量が当該アンカーの規定変位量を超える前に、直列に接続された全てのアンカーに荷重がかかる」ものである。
また、本実施形態のアンカー構造体1は、「アンカー構造体としての最大耐力が、直列に接続された全てのアンカーの耐力の合計によって得られる」ものである。
図6(b)に概念図を示したように、接続部材に緩みがある等、アンカーの接続が適切に行われていないと、耐力を発生させないアンカーが生じてしまう。
図6(b-1)の状態ではアンカーCは全く耐力を生じさせていない。この状態でアンカーAやアンカーBが規定変位量を超えて(即ち耐荷重を超えて)しまうと、今度はアンカーAやアンカーBが所定の耐力を生じさせることができなくなってしまう。即ち、さらに変位が進んで
図6(b-2)になった状態においては、アンカーCは耐力を発生させているが、アンカーAやアンカーBが所定の耐力を生じさせることができない。結果として、アンカー構造体としての耐力が、直列に接続された全てのアンカーの耐力の合計として得られなくなってしまうものである。
これに対し、
図6(a)に概念図を示したように、各アンカーの接続が適切に行われることにより、荷重がかかった際に、直列に接続された全てのアンカーに荷重がかかり、アンカー構造体としての耐力が、直列に接続された全てのアンカーの耐力の合計として得られる。
「アンカー構造体に荷重がかかった状態において、直列に接続された複数のアンカーの何れかのアンカーの変位量が当該アンカーの規定変位量を超える前に、直列に接続された全てのアンカーに荷重がかかる」ように構成することで、荷重に対して全てのアンカーが耐力を発生させることができるものである。全てのアンカーが同時に最大耐力を発生させるように接続すると効果が最大化されるが、求められる耐荷重を満足できるのであれば、何れかのアンカーが最大耐力を発生させないようなものであっても構わない。
“全てのアンカーが同時に最大耐力を発生させる”ことは、「アンカー構造体としての最大耐力の発生時に、直列に接続された複数のアンカーのそれぞれの変位量が、それぞれのアンカーの規定変位量となる」ようにすることで実現される。
【0043】
以上のごとく、本実施形態のアンカー構造体1によれば、アンカーを直列に接続していることにより、規格の異なるアンカーを使用することが可能であり、求められる耐力に対してより柔軟な構成を用いることができる。これにより高い経済性を得ることもできる。
また、長さ調節機構を有し、各部材間のあそびや公差を解消させるようにしているため、荷重がかかった際のアンカーの変位量が同期され、予定の耐力が得られないといった問題の発生を低減することができる。
さらに、アンカーの施工時に、アンカーが保持すべき荷重がかかる方向に荷重をかけながらアンカーを相互に接続すれば、荷重がかかった際の初動において予定の耐力が得られないといった問題の発生を低減することもできる。
【0044】
また、従来の並列接続型のアンカーでは、土砂の堆積等によって必要な耐力が得られなくなるという問題が生じる場合があったが、本実施形態のアンカー構造体1によれば、このような問題の発生を低減することができる。
図21に、従来の並列接続型アンカーの構成の一例を示した。このように、並列に設置された2本のアンカー106、107を用いる場合、2本掛ロープ101を用い、これを主索102と接続するようにしている。2本掛ロープ101と主索102との接続においては、主索102のシンブル103にシャックル104を係合し、シャックル104に2本掛ロープ101を通す構成としている。シャックル104のシャックル軸には、リング状の部材105が遊嵌されており、このリング状部材105の外周に2本掛ロープ101が巻き付くような構成とされている。これにより、滑車を介して2本掛ロープで吊持する構成となり、並列に設置された2本のアンカー106、107に荷重が均等にかかるようにされている。しかしながら、経年劣化や土砂の体積などによって滑車としての機能をなさなくなり、一方のアンカーのみに大きな荷重がかかる場合があった。
また、上記のように並列に設置された2本のアンカーを2本掛ロープ101によって吊持すると、傾斜地の凹凸等の影響により、十分な耐力(アンカー2本分の耐力)を得られない場合があった。例えば、斜面の起伏や堆積土砂の影響等で、2本掛ロープ101の一方側のみ起伏に接触すること等が生じ、これにより荷重のアンバランスが生じ、一方のアンカーのみに大きな荷重がかかる場合があった。
これらのように、並列接続型の場合、並列のアンカーに均等に荷重をかけることができなくなり、その結果必要な耐力が得られなくなるという問題が生じ得るが、本実施形態のアンカー構造体1によればそのような問題が低減される。
【0045】
<実施形態2>
図7は、本発明に係る実施形態2のアンカー構造体を示す側面図であり、
図8は同斜視図(部材の見やすさの観点から蓋部材14a、14bについては描いていない)である。なお、実施形態1と同様の構成については実施形態1と同一の符号を付し、ここでの説明を省略又は簡略化する。
本実施形態のアンカー構造体1´は、基本概念は実施形態1のアンカー構造体1と同様であるが、規定変位量の異なるアンカーを用いるための構成をさらに有している。“規定変位量の異なるアンカーを用いるための構成”として、本実施形態のアンカー構造体1´は、接続部材12´に変位差吸収構造122を備えている。
【0046】
変位差吸収構造122は、鋼材アーム1221と鋼材アーム1222を備えている。
鋼材アーム1222は、両端にピンボルトPBを通す孔が形成されており、鋼材アーム1222とターンバックル121、鋼材アーム1222と鋼材アーム1221、がそれぞれピンボルトPBによって接続される。
鋼材アーム1221は、一端側に取付部13aと接続するためのピンボルトPBを通す孔が形成されている。また、他端側には、鋼材アーム1221を接続するためのピンボルトPBを、荷重方向に摺動可能に遊嵌する長孔1221Hが形成されている。
変位差吸収構造122は、鋼材アーム1221の長孔1221Hに、ピンボルトPBが荷重方向に摺動可能に遊嵌されることにより、鋼材アーム1221に対して鋼材アーム1222が摺動可能に接続されたものである。長孔1221Hは、アンカー11aの規定変位量とアンカー11bの規定変位量の差分以上の長さを有する長孔として形成される。これにより、少なくともアンカー11aの規定変位量とアンカー11bの規定変位量の差分だけ、鋼材アーム1221に対して鋼材アーム1222が摺動することが可能である。
【0047】
アンカー構造体1´は、さらに、長さ調節量を測定するための基準部となるナット123aとナット123bを備える。
【0048】
次にアンカー構造体1´の施工手順について
図9を参照しつつ説明する。
先ず、アンカー11aとアンカー11bを打設する(
図9(a))。本実施形態では、後に説明するように、アンカー11aは規定変位量が80mmで、アンカー11bは規定変位量が55mmである。なおアンカーの打設方法については実施形態1の説明と同様である。
次に、アンカー11aに対して、アンカー構造体1´によって吊持する施設(ここでは吊式雪崩予防柵HF)を取り付ける(
図9(b))。これによって、実施形態1でも説明した「アンカーが保持すべき荷重がかかる方向に、荷重をアンカーにかけながら、アンカーを相互に接続する」ための荷重をかけるものである。
次に、接続部材12´を用いてアンカー11aとアンカー11bを直列に接続する。接続部材12´のアンカー11a、11bへの取り付けにおいては、実施形態1での説明と同様に、各部材の組み上げの順番は任意のものであってよい。
各部材を組み上げたのちに、ターンバックル121を回して接続部材12´の長さを短くすることで、少なくとも各部材間のガタツキが無くなるまで緊張力を加える(
図9(c))。実施形態1と同様の概念である。即ち、アンカー11aに吊式雪崩予防柵HFの荷重(ここでは概ね5KN)がかかった状態で、ターンバックル121の引き締めにより、アンカー11aがアンカー11bの方向に一瞬引っ張られる状態(前方と後方のアンカーが釣り合っている状態:前方アンカーが後方アンカー方向に一瞬引っ張られるが、変位とならないようにターンバックル121を僅かに緩める等の微調整にて前方アンカーを元の位置(荷重をかけた際の位置)に戻した状態)に緊張させた。これにより、吊式雪崩予防柵HFとアンカー11aをつなぐ主索と、接続部材12´にかかる張力が同期される(初期張力の同期が行われる)。
【0049】
ターンバックル121の締め付けの後、アンカー11aの規定変位量とアンカー11bの規定変位量の差分(25mm)だけ、ターンバックル121を緩めて接続部材12´の長さにあそびを設ける(
図9(d))。即ち、ターンバックル121を緩めることでその長さが長くなった分だけ、鋼材アーム1222のピンボルトPBが鋼材アーム1221の長孔1221H内をスライドして戻り、25mm分のあそびが形成されるものである。
ターンバックル121を緩めてあそびを設ける際に、そのあそびの長さを正確にするために、ナット123aとナット123bを利用する。
ターンバックル121の締め付けを行った際に、ナット123aとナット123bの間隔を測定しておき、ターンバックル121を緩めることによって広がるナット123aとナット123bの間隔を測定することによって、あそびの長さを正確に測定することができる。
ターンバックル121の締め付けを行った際に、ナット123aとナット123bをそれぞれ回してターンバックル本体部に接触するまで移動させておくことで、ターンバックル121を緩めた際に生じるナット123a、123bとターンバックル本体部の間の隙間が、あそびの長さと同じになるため、事後的な管理などにおいても利便性を有する。
なお、ターンバックル121を緩める前と後のナット123aとナット123bの間隔を測定すればよいため、ナット123aとナット123bの位置は任意の位置であっても構わない。
ここでは、長さ調節量を測定するための基準部として、ナット123aとナット123bを例としたが、ナットに替えて任意の目印を用いるようにしてよい。
なお、本実施形態のように、ネジ機構によって長さを調節する構成である場合、ネジのピッチに基づいて、ネジの回転数や角度によって長さ調節量を規定することができる。従って、長さ調節量を測定するための基準部を設けなくとも、ターンバックル121を緩める際に回転させた回数や角度によってあそびの長さを正確に設定することも可能である。
【0050】
最後に蓋部材14a、14bをアンカー11a、11bに取り付けることで、アンカー構造体1が施工される(なお、蓋部材14a、14bの取り付けは、蓋部材14a、14bを取り付け可能な任意のタイミングで行ってよい)。
【0051】
本実施形態のアンカー構造体1´は、規定変位量の異なるアンカーを直列に接続するものであり、各アンカーの最大耐力を同時に発揮させるためには、各アンカーの最大耐力を生じさせる規定変位量が同時に生じるようにする必要がある。
即ち、例えば
図11(a)の表に示した3本の規格のアンカーを直列に接続する場合において、
図6(a)のように、各アンカーをあそび無く接続した場合、全てのアンカーの変位量は同じになる。その結果、
図11(b)に示したように、変位が5cmを超えると、89.1φのパイプアンカーは耐力オーバーとなり、それ以降はアンカーとしての機能を有するとはみなせない。114.3φのパイプアンカーについても変位が7cmを超えると同様となる。結果、アンカー構造体の全体としての耐力は、最大で65kNに留まる。
一方で、荷重がかかる順番に規定変位量が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続し、隣り合うアンカーにおける規定変位量の差分である変位差を吸収する変位差吸収構造122を備えさせることにより、耐力の最大化をすることができる。
例えば、
図10に示される概念図のように、
図11(a)に示した3本の規格のアンカーを直列に接続する場合、規定変位量が10cmの139.8φのパイプアンカーをA、規定変位量が7cmの114.3φのパイプアンカーをB、規定変位量が5cmの89.1φのパイプアンカーをCとして、荷重がかかる順番に規定変位量が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続する。その上で、アンカーAとBの間の変位差吸収構造122のあそびを3cm、アンカーBとCの間の変位差吸収構造122のあそびを2cmに設定する(
図10(a))。
これにより、荷重のかかり始めから変位が3cmとなるまでは、アンカーAとBの間の変位差吸収構造122のあそびにより、アンカーAのみが耐力を発生させ、変位を生じる(
図10(a-1))。
その後さらに荷重が増大すると、アンカーAとBの間の変位差吸収構造122のあそびはなくなり、アンカーBにも変位が生じ耐力を発生させる。変位が5cmとなるまでは、アンカーBとCの間の変位差吸収構造122のあそびにより、アンカーAとBは耐力を発生させるが、アンカーCは耐力を発生させない(
図10(a-2))。
さらに荷重が増大すると、アンカーBとCの間の変位差吸収構造122のあそびもなくなり、アンカーA~Cの全てが耐力を発生させる(
図10(a-3))。
図11(c)の表にも示されるように、アンカーA~Cは、変位が5cmとなるまでに時間差で耐力を生じさせ、変位が5cmを超えて以降は、全てのアンカーが耐力を発生させる。変位10cmになったとき、アンカーAの変位:10cm、アンカーBの変位:7cm、アンカーCの変位:5cmとなり、アンカーAの耐力:40kN、アンカーBの耐力:25kN、アンカーCの耐力:15kNをそれぞれ発生し、アンカー構造体として、80kNの最大耐力を発生させる。
なお、上記説明のごとく、荷重がかかる順番に規定変位量が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続し、隣り合うアンカーにおける規定変位量の差分に相当するあそびを設けることで、アンカー構造体としての耐力が最大化されるが、求められる耐荷重を満足できるのであれば、アンカーの接続順番や、あそびの設け方を上記と異なるものとしても構わない。
【0052】
図12は、実施形態2のアンカー構造体について行った実験結果を示す表である。
図12の左側の表は、本実験で使用したアンカーの規格(アンカーの径、長さ、荷重に対する変位量)を示したものである。ここでは、アンカー11aとして、アンカーの径:114.3mm、長さ:1.6m、耐力:35kN(その際の変位量:80mm)、アンカー11bとして、アンカーの径:89.1mm、長さ:1.1m、耐力:25kN(その際の変位量:55mm)のパイプアンカーをそれぞれ使用した。
図12の右側の表は、実験結果を示した表である。
変位量が25mmになるまでは、変位差吸収構造122のあそびにより、アンカー11aのみが耐力を生じさせ、変位量が25mmを超えると、アンカー11aとアンカー11bの双方が耐力を生じさせる。
最大耐力として、両アンカーの最大耐力の合計値となる60kNが得られ、その際の変位量が80mm(アンカー11aの変位:80mm、アンカー11bの変位:55mm)になることが確かめられた。
【0053】
以上の説明からも理解されるように、本実施形態のアンカー構造体1´は、「直列に接続された複数のアンカーのうち、規定変位量が最も大きいアンカーに対して、最初に荷重がかかるように構成されて」おり、「直列に接続された複数のアンカーが、荷重がかかる順番に、規定変位量が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続されている」ものである。また、「直列に接続された複数のアンカーのうち、最も径の大きなアンカーに対して、最初に荷重がかかるように構成されて」おり、「直列に接続された複数のアンカーが、荷重がかかる順番に、径が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続されている」ものである。
【0054】
本実施形態のアンカー構造体1´によれば、規定変位量が異なるアンカーを使用した場合においても、実施形態1と同様の効果を得られる。
【0055】
各実施形態では、アンカーが2本であるものを例としているが、上記説明でも触れているように、3本以上のアンカーを接続する場合にも適用できる。
また、各実施形態では、アンカーとしてパイプアンカーを例としたが、アンカーそのものは任意のアンカーを用いることができ、アンカーの種類に応じる等して、その打設方向(鉛直方向や、斜面に対して直角方向など)も適宜選択することができる。
【0056】
接続部材は、アンカーを相互に直列に接続できるものであって、引張荷重に対する必要な剛性(上記説明した、各アンカーの変位量の同期等に実質的な影響を与えない程度の剛性)を有するものであればよく、各実施形態で説明した接続部材の構成に限られるものではない。例えば接続部材としてワイヤロープが使用されるものであってもよい。ワイヤロープを使用する場合には引張荷重に対する必要な剛性を得るために、プレテンション加工を行い、ロープの構造上の伸びを除去しておくようにしてもよい。
ワイヤロープの場合、たわむことには自由度があるため、実施形態で説明したような変位差吸収構造の代わりとして、ワイヤロープのたわみを利用してもよい。
また、引張に対する伸びが管理できる部材であれば、当該伸びを上記説明した“規定変位量の差分に相当するあそび”として利用するようにしてもよい。例えばワイヤロープの伸びを計算に入れた上で、ワイヤロープをたわませる(ロープの伸びとたわみの合計で、“規定変位量の差分”を形成する)ようにしてもよい。
当該説明からも明らかなように、“変位差吸収構造”は、実施形態2の構成に限られるものではなく、規定変位量の差分に相当するあそびとして機能し得る任意の構成とすることができる。
また、各実施形態では、接続部材における長さ調節機構として、ネジ機構(その具体例としてのターンバックル)によって長さを調節する構成を例としているが、本発明をこれに限るものではなく、長さ調節をすることが可能な任意の機構を採用することができる。
【0057】
図13には、接続部材の別の例を示した。
図13(a)は上面図、
図13(b)は一部を透過的に示す等した側面図である。
図13のアンカー構造体1´´に用いられている接続部材は、その具体的な構造において、実施形態で説明したものと異なる部分を有するが、概念としては実施形態で説明したものと同様のものである。
実施形態と同様の構成については、実施形態と同様の符号を使用し、ここでの説明を省略若しくは簡略化する。
図13のアンカー構造体1´´は、接続部材として、長さ調節機構としてのターンバックル121と、変位差吸収構造としての鋼材アーム122´aと鋼材アーム122´bを備えている。また、蓋部材14a´、14b´のそれぞれは、接続部材を取り付けるための取り付け部(ボルトB)を有している。アンカー11a及びアンカー11bの上部と蓋部材14´a、14´bにはそれぞれ、抜け止めのピンボルトを通す孔が形成されており、ピンボルトによって相互に締結される。
鋼材アーム122´aと鋼材アーム122´bは同様の構成であり、一端側にターンバックル121と接続するためのピンボルトPBを通す孔が形成されている。また、他端側には、蓋部材14a´、14b´の取り付け部(ボルトB)を、摺動可能に遊嵌する長孔122´Ha、122´Hbが形成されている。長孔122´Ha、122´Hbは、両者の長さの合計が、アンカー11aの規定変位量とアンカー11bの規定変位量の差分以上の長さを有するように形成される。
上記構成を有する
図13のアンカー構造体1´´は、実施形態2のアンカー構造体1´と同様の機能を有する。
この例からも明らかなように、各実施形態の説明を通じて理解される本発明の概念の適用において、同様の機能を有する任意の構造を採用することが可能であり、このような個別具体的な構造の相違が、本発明の概念としての相違となるものではない。
【0058】
実施形態2では、吊式雪崩予防柵を吊持する場合を例としているが、アンカー構造体として支持するものをこれに限るものではなく、雪崩や落石及び土砂(崩壊)に対する防護柵や予防柵、雪崩予防の目的で設置される三角錐状の枠体、雪崩や落石の恐れのある法面にポケットを形成するように張ったポケット式ロックネット、法面に沿って浮石を押さえるためのロープ掛け工等、各種の防護施設に利用することができるのは勿論、任意の構造物を支持や保持するための固定手段として利用することができる。
【0059】
図14、15には、固定式の防護柵(支柱に直結したアンカーを有する防護柵)に、本発明に係るアンカー構造体を適用した例を示した。
図14は、防護柵SFの支柱に直結したアンカー(地中の支柱下部)もアンカー構造体のアンカー11aとし、アンカー11a~11cの3本のアンカー構造体としたものであり、
図14(a)は側面概念図、
図14(b)は上面概念図である。
【0060】
各実施形態では、接続部材に引張荷重がかかる構成のものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、接続部材に圧縮荷重がかかるような構成とすることもできる。
図15(a)は、防護柵SFが、アンカー構造体の傾斜上部側に配置された例である。この場合、各接続部材12´には、圧縮荷重がかかることになる。引張と圧縮の違いはあるが、基本的な概念は上記実施形態で説明したものと同様である。最初に荷重がかかるアンカー11aから11cまで荷重がかかる順番に規定変位量が大きなアンカーから小さなアンカーへと接続し、隣り合うアンカーの規定変位量の差分と同じ長さの長孔1221Hを設ける(隣り合うアンカーにおける規定変位量の差分である変位差を吸収する)ようにすればよい。
図15(b)に示されるように、引張と圧縮の双方を利用する構成としてもよい。
なお、圧縮荷重がかかる場合には、接続部材が圧縮荷重に対する必要な剛性を有するものである必要があり、撓みを生じてしまうような部材は基本的に利用することができない。
【0061】
各実施形態では、複数のアンカーが一直線上に配置されているものを例としているが、本発明における“直列に接続”を、一直線上であることに限るものではなく、施工現場の状況に合わせる等により、例えばジグザグ状に配置されるようなものであってもよい。また、各アンカーは、荷重がかかる方向に沿って直列に接続されていることが望ましいが、荷重がかかる方向と、アンカーが並ぶ方向が異なるものであってもよい。
【0062】
<実施形態3>
図16は、本発明に係る実施形態3の落石防護柵を示す概略側面図である。また、
図17(a)は、実施形態3の落石防護柵の一部におけるアンカー構造体部分を示す概略平面図である。
本実施形態の落石防護柵2は、複数の支柱21と、支柱21の間に設けられる受け部材としての金網22と、上記実施形態で説明したアンカー構造体を構成するアンカーの何れか(ここではアンカー11b)と支柱21とを接続する支柱接続部材25と、を備えている。
本実施形態の落石防護柵2は、傾斜地に設置されて、支柱21に対して斜面上方となる位置のアンカー11bと、支柱21とが、支柱接続部材25によって接続されている。
また、本実施形態では、アンカー11bが、斜面に対して垂直に打設されており、支柱接続部材25が、アンカー11bと一直線上になるように配されている。
なお、落石防護柵としての基本的な構成である支柱や受け部材の構成については、従来の任意の落石防護柵と同様であってよいため、ここでの詳しい説明を省略する。
【0063】
本実施形態の落石防護柵2は、上記各実施形態で説明したアンカー構造体によって予防若しくは防護施設を支持する構造において、さらに支柱接続部材25を設けることにより、より効率的なアンカーの使用を可能としている。
【0064】
図18には、
図14で説明した防護柵SFにおけるアンカー構造体の耐力に関する概念説明図を示した。
上記各実施形態の説明から理解されるように、例えば、100KJの耐力を有する3本のアンカー11a~11cを直列に接続したアンカー構造体を用いることで、300KJのエネルギーを受け止め可能な防護柵SFを得ることができる。直列にアンカーを接続していることにより、アンカーの構成を柔軟に変更できるという優れた効果が得られる。
これに加え、本実施形態の落石防護柵2は、支柱接続部材25によって支柱21とアンカー11bを締結することにより、アンカー11bが有する引き抜き抵抗も有効に活用することができるようにしている。
即ち、
図16に示されるように、アンカー11bの耐力として、アンカーの長手方向(軸線方向)に対して直角の方向の荷重に対する耐力に加え、支柱接続部材25によって支柱21とアンカー11bを締結することにより、アンカーの長手方向(軸線方向)に沿って加わる荷重に対する耐力(引き抜き抵抗)も有効に作用させることができる。
図16に概念的に示しているように、アンカー11aの直角方向の耐力100KJ、アンカー11bの直角方向の耐力100KJ、アンカー11bの引き抜き抵抗100KJによって、300KJのエネルギーを受け止め可能な落石防護柵2を得ることができる。
支柱接続部材25によって接続されるアンカー11bには、引き抜き力がかかるものであるため、引き抜きに対する抵抗力が大きいアンカーを使用することが好ましい。例えば、特許第5542529号公報や、特許第5597590号公報に記載されているアンカー等、引き抜きに対する抵抗力を考慮した各種のアンカーを用いるとよい。
【0065】
以上のごとく、本実施形態の落石防護柵2によれば、支柱接続部材25によって支柱21とアンカー11bを締結することにより、荷重が支柱接続部材25の方向へ分散され、アンカー11bが有する引き抜き抵抗も有効活用することができる。
従って、アンカーの水平方向荷重を低減することが可能であり、結果的に、アンカーの本数を減らしたり、より断面の小さなアンカーを使用することができるという、優れた効果を得ることができる。また、支柱本体の断面を小さくすることもできるという優れた効果を得ることができる。これらにより、予防若しくは防護施設を構成する支柱やアンカーについての選択肢が増える(それぞれの組み合わせの選択肢が増え、より柔軟な構成とすることができる)ため、設計の自由度を高くすることができる。
【0066】
なお、
図16では、別体の支柱21とアンカー11aが上下に接続されている構成のものを例としているが、支柱がアンカーと一体的であってもよい。
支柱がアンカーと一体的である場合、例えば、H形鋼が打設されることで、その地上部分が支柱となり、地中に打設された部分が杭(アンカー)となるような場合、その地中に打設された部分を、上記実施形態で説明したアンカー構造体を構成するアンカーの一つとして機能させる。即ち、支柱とアンカーの一体物として打設された部材と、アンカー11bを接続部材12で接続することで、アンカー構造体が構成される。
【0067】
各支柱(アンカー11a)に対して、複数のアンカーを接続するようにしてもよい。
図17(b)はこのようなものの一例を示しており、各支柱21(アンカー11a)に対して、それぞれ2つのアンカー11bが接続部材12´で接続されている。なお、上述の各実施形態で説明したように、直列方向にアンカーの数を増減させるものであっても勿論よい。
【0068】
本実施形態では、アンカー11bが斜面に対して垂直に設けられており、また、このアンカー11bに対して支柱接続部材25が一直線上になるように配されているものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。
例えば、
図19に例示しているように、アンカー11bが鉛直方向に打設されるものであってもよいし、このアンカー11bと支柱接続部材25が一直線上でないようにしてもよい。ただし、本実施形態で説明したように、アンカー11bが斜面に対して垂直であり、アンカー11bと支柱接続部材25が一直線上であると、アンカー11bが有する引き抜き抵抗をより有効に活用することができる。
また、本実施形態では、支柱21に対して斜面上方となる位置のアンカー11bと、支柱21を、支柱接続部材25によって接続するものを例としているが、
図15(b)のように予防若しくは防護施設の両サイドにアンカーが配される構成とし、支柱の両サイドにおいて支柱接続部材によってアンカーと接続する構成としてもよい。この場合、斜面下方の支柱接続部材には、圧縮荷重がかかるため、圧縮荷重に対する必要な剛性を有するものである必要がある。
なお、斜面以外に設けられる予防若しくは防護施設において、アンカー構造体を用いて支持し、支柱とアンカーを支柱接続部材によって接続するものであってもよい。
【0069】
支柱接続部材としては、想定される張力に対して必要な強度を有する任意の部材を用いることができる。
図20には、支柱接続部材の例を示した。
図20(a)は、支柱接続部材25を、フラットバー等の鋼材で形成したものの例である。支柱21及びアンカー11bの頭部にそれぞれ鋼材である支柱接続部材25を取り付けるための取り付け部が形成され、相互に支柱接続部材25で接続される。
図20(b)は、支柱接続部材25を、ワイヤロープ等の索体で形成したものの例である。支柱21及びアンカー11bの頭部にそれぞれ索体である支柱接続部材25を取り付けるための取り付け部が形成され、相互に支柱接続部材25で接続される。
図20(c)は、支柱接続部材25に長さ調節機構(若しくは張力調整機構)151を設けたものの例である。長さ調節機構(若しくは張力調整機構)151の一例としては、ターンバックル等が挙げられる。
なおここでは、支柱接続部材25の取り付け部として、支柱21に固定(溶接等)される取付部材23と、アンカー11bの頭部に固定(溶接等)される取付部材24(蓋部材であってよい)を設け、それぞれに対して、支柱接続部材25の両端をボルト止めするものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、それぞれを取り付けることができる任意の取り付け方法を用いることができる。支柱接続部材を支柱若しくはアンカーに対して枢動可能に取り付けると好ましいが、枢動不能に取り付けるものであってもよい。
【0070】
支柱に対する支柱接続部材の取り付け位置は、例えば
図19に示されるように、柵高Hに対して、2/3Hとなる位置等、支柱の上端部から支柱の高さの1/2の間となる範囲にすることが好ましい。
【0071】
なお、本実施形態では、予防若しくは防護施設の一例として落石防護柵を用いて説明しているが、本発明をこれに限るものではなく、各種の予防若しくは防護施設に対して上記の概念を用いることができる。また、本実施形態では、受け部材として金網(面材)を例としているが、受け部材は各種の面材、索体、梁部材など、それぞれの予防若しくは防護施設の用途等に応じて、各種の部材を用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
1...アンカー構造体
11a、11b...アンカー
12...接続部材
121...ターンバックル(長さ調節機構)
122...変位差吸収構造
123a、123b...ナット(基準部)