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特許7592971音信号発生方法、音信号発生装置、音信号発生プログラムおよび電子音楽装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】音信号発生方法、音信号発生装置、音信号発生プログラムおよび電子音楽装置
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G10H1/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019166404
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021043372
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】仲田 昌史
(72)【発明者】
【氏名】岩永 尚文
【審査官】山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-122643(JP,A)
【文献】特開2017-169036(JP,A)
【文献】特開2018-146876(JP,A)
【文献】特開平6-19464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音高および強度の指定を受け付け、
受け付けた強度が大きい程、音の距離方向の分布が広くなるよう、受け付けた音高に対応する音信号を、受け付けた強度に応じた音像の大きさで生成し、
前記音の距離方向の分布は、アコースティックピアノの響板を模した、奥行き方向を含む距離方向の分布である、音信号発生方法。
【請求項2】
受け付けた強度に応じて、左右の音信号の相関を調整することにより、前記受け付けた強度に応じた音像の大きさで音信号を生成する、請求項1に記載の音信号発生方法。
【請求項3】
受け付けた強度に応じて、音信号のパンニングを調整することにより、前記受け付けた強度に応じた音像の大きさで音信号を生成する、請求項1に記載の音信号発生方法。
【請求項4】
受け付けた強度が同じであっても、音高に応じて前記音の距離方向の分布が異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の音信号発生方法。
【請求項5】
音高および強度の指定を受け付ける指定受付部と、
前記指定受付部が受け付けた強度が大きい程、音の距離方向の分布が広くなるよう、前記指定受付部が受け付けた音高に対応する音信号を、前記指定受付部が受け付けた強度に応じた音像の大きさで生成する音源と、
を備え
前記音の距離方向の分布は、アコースティックピアノの響板を模した、奥行き方向を含む距離方向の分布である、音信号発生装置。
【請求項6】
音高および強度の指定を受け付ける処理と、
受け付けた強度が大きい程、音の距離方向の分布が広くなるよう、受け付けた音高に対応する音信号を、受け付けた強度に応じた音像の大きさで生成する処理と、
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記音の距離方向の分布は、アコースティックピアノの響板を模した、奥行き方向を含む距離方向の分布である、音信号発生プログラム。
【請求項7】
請求項5に記載の音信号発生装置と、
前記音信号発生装置により生成された音信号を出力する出力部と、
を備えた電子音楽装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音信号発生方法、音信号発生装置、音信号発生プログラムおよび音信号発生装置を備える電子音楽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
演奏者が、アコースティックピアノの鍵を押すと、鍵に対応する弦が振動する。弦は、響板上に配置された駒に接続される。弦が振動すると、弦の振動が駒を介して響板に伝わることで、響板が振動する。これにより、アコースティックピアノにおいては、演奏者の押鍵操作に応じて、弦の振動音と合わせて響板から音が鳴る。
【0003】
響板の振動は、演奏者が鍵を押す操作の強度に依存する。演奏者が鍵を強く押せば、響板が強く振動し、広がりのある音が鳴る。演奏者が鍵を優しく押せば、響板が弱く振動し、広がりを抑えた音が鳴る。
【0004】
電子鍵盤楽器においては、弦および響板は存在しない。したがって、押鍵された鍵に応じた音高の音信号が音源から出力される。音源から出力された音信号は、アナログ変換された後、スピーカから出力される。下記特許文献1においては、音源から放射される音を部分分割し、複数の部分信号を合成して再生する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-079121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子鍵盤楽器を演奏する演奏者は、熟達するにつれて、さらに高いレベルの演奏を求める。高いレベルの演奏をする上で、アコースティックピアノと同様の演奏音を出すことは、演奏者にとって重要な要素である。
【0007】
本発明の目的は、アコースティックピアノと同様の演奏音を発生させることが可能な音信号発生方法、音信号発生装置、音信号発生プログラムおよび電子音楽装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従う音信号発生方法は、音高および強度の指定を受け付け、受け付けた音高に対応する音信号を、受け付けた強度に応じた音像の大きさで生成する。
【0009】
受け付けた強度が大きい程、音の距離方向の分布が広くなるよう、前記受け付けた強度に応じた音像の大きさで音信号を生成してもよい。
【0010】
受け付けた強度に応じて、左右の音信号の相関を調整することにより、前記受け付けた強度に応じた音像の大きさで音信号を生成してもよい。
【0011】
受け付けた強度に応じて、音信号のパンニングを調整することにより、前記受け付けた強度に応じた音像の大きさで音信号を生成してもよい。
【0012】
音高に応じて音像の大きさを調整してもよい。
【0013】
複数の伝送回路を含む伝送路網において、伝送路網に配置された複数のノードの一のノードに受け付けた強度の音高の音信号を入力し、一のノードに入力された音信号を、他のノードに伝送するときにフィルタを施し、各ノードにおいて、各伝送回路から入力した音信号を加算して出力し、各ノードから出力された音信号を加算することにより、受け付けた強度に応じた音像の大きさで音信号を生成してもよい。
【0014】
受け付けた強度に応じて、適応させるコムフィルタの数を調整することで、リバーブの適応度合いを調整することにより、受け付けた強度に応じた音像の大きさで音信号を生成してもよい。
【0015】
本発明の他の局面に従う音信号発生装置は、音高および強度の指定を受け付ける指定受付部と、指定受付部が受け付けた音高に対応する音信号を、指定受付部が受け付けた強度に応じた音像の大きさで生成する音源とを備える。
【0016】
本発明のさらに他の局面に従う音信号発生プログラムは、音高および強度の指定を受け付ける処理と、受け付けた音高に対応する音信号を、受け付けた強度に応じた音像の大きさで生成する処理とをコンピュータに実行させる。
【0017】
本発明のさらに他の局面に従う電子音楽装置は、上記音信号発生装置と、音信号発生装置により生成された音信号を出力する出力部とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アコースティックピアノと同様の演奏音を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態に係る音信号発生装置を含む電子音楽装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る音信号発生装置およびその周辺装置の構成を示すブロック図である。
図3】第1の実施の形態に係る音源の構成を示すブロック図である。
図4】第1の実施の形態に係る音像調整部が有するノードおよびノード間の回路図である。
図5】第1の実施の形態に係る音像調整部の出力部を示す図である。
図6】第2の実施の形態に係る音源の構成を示すブロック図である。
図7】第3の実施の形態に係る音源の構成を示すブロック図である。
図8】第4の実施の形態に係る音源の構成を示すブロック図である。
図9】第5の実施の形態に係る音信号発生装置およびその周辺装置の構成を示すブロック図である。
図10】第5の実施の形態に係る音信号発生装置における音信号発生方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る音信号発生方法、音信号発生装置、音信号発生プログラムおよび電子音楽装置について図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
[1]第1の実施の形態
(1)音像
実施の形態を説明する前に、本発明が目的とする音像の変化について説明する。音像とは音の定位である。つまり、音像とは、音源が本来あるべき場所にあるように、音が聞こえてくることを示す。例えば、音像の大きい音とは、広がりのある音、リバーブ効果の強い音、左右の位相差の大きい音、または、音の定位の左右への振り幅が大きい音などを示す。そして、間隔を空けた2つの音源から音が聞こえてくるとき、視聴者は、音の奥行感を得ることができる。例えば、グランドピアノ(アコースティックピアノ)であれば、響板上の駒付近に音源があるように音が聞こえる。グランドピアノにおいては、演奏者は、近くにある駒付近を音源とする音と遠くにある駒付近を音源とする音を聞くことにより、演奏音に奥行感を感じることができる。本発明は、弦および響板が存在しない電子音楽装置において、アコースティックピアノと同様の音像の変化が得られる音信号を生成することを目的としている。言い換えると、本発明の目的は、電子音楽装置において、広がりのある音(奥行感のある音)と広がりを抑えた音を表現することにより、演奏者にアコースティックピアノと同様の演奏感を与えることである。
【0022】
(2)電子音楽装置の構成
図1は本発明の第1の実施の形態に係る音信号発生装置200を含む電子音楽装置1の構成を示すブロック図である。第1の実施の形態の音信号発生装置200を含む電子音楽装置1は、電子的に音を発生させる装置であるため、弦および響板は存在しない。本実施の形態の音信号発生装置200を含む電子音楽装置1は、押鍵操作の強度に応じて発生する音の音像を疑似的に変化させることで、演奏者に対して、アコースティックピアノと同様の演奏感を与えることを目的としている。
【0023】
図1の電子音楽装置1は、例えば電子鍵盤楽器である。電子音楽装置1は、演奏操作子2、設定操作部3および表示器4を備える。本実施の形態では、演奏操作子2は、鍵盤20を含み、バス14に接続される。鍵盤20は複数の鍵の並びを有する。本実施の形態においては、鍵盤20は、88の鍵を備えている。ただし、鍵盤20が備える鍵の数はこれに限定されるものではない。なお、演奏操作子2の鍵盤20は、後述するタッチパネルディスプレイの画面上に表示された鍵盤の画像であってもよい。
【0024】
設定操作部3は、オン/オフ操作される操作スイッチ、回転操作される操作スイッチ、またはスライド操作される操作スイッチ等を含み、バス14に接続される。この設定操作部3は、音量の調整および電源のオン/オフを含む各種設定を行うために用いられる。表示器4は、例えば液晶ディスプレイを含み、バス14に接続される。表示器4には、楽曲名、楽譜、またはその他の各種情報が表示される。表示器4がタッチパネルディスプレイであってもよい。この場合、演奏操作子2または設定操作部3の一部または全てが表示器4に表示されてもよい。演奏者は、表示器4を操作することにより各種操作を指示することができる。
【0025】
電子音楽装置1は、音源部5およびサウンドシステム6を備える。音源部5はバス14に接続され、演奏操作子2の操作により指定される音高に基づいてオーディオデータ(音響信号)を出力する。オーディオデータは、音の波形を示すサンプリングデータ(例えば、PCM(パルス符号変調)データ)である。以下、音源部5により出力されるオーディオデータを音信号と呼ぶ。音源部5は、予め全ての音高の音信号を記憶している。また、音源部5は後述するように、音像の調整機能を備える。サウンドシステム6は、デジタルアナログ(D/A)変換回路、増幅器およびスピーカを含む。サウンドシステム6は、音源部5から与えられる音信号をアナログ音信号に変換し、アナログ音信号に基づく音を発生する。サウンドシステム6は、本発明における出力部の例である。
【0026】
電子音楽装置1は、記憶装置7、CPU(中央演算処理装置)8、RAM(ランダムアクセスメモリ)10、ROM(リードオンリメモリ)11、および通信I/F(インタフェース)12をさらに備える。記憶装置7、CPU8、RAM10、ROM11および通信I/F12はバス14に接続される。外部記憶装置13等の外部機器が通信I/F12を介してバス14に接続されてもよい。
【0027】
記憶装置7は、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含む。この記憶装置7には、制御プログラムP1等のコンピュータプログラムが記憶される。
【0028】
RAM10は、例えば揮発性メモリからなり、CPU8の作業領域として用いられるとともに、各種データを一時的に記憶する。ROM11は、例えば不揮発性メモリからなる。記憶装置7、CPU8、RAM10およびROM11が制御部100を構成する。制御部100および音源部5が、音信号発生装置200を構成する。
【0029】
(3)音信号発生装置200の機能的な構成
図2は音信号発生装置200の機能的な構成およびその周辺装置を示すブロック図である。図2に示すように、制御部100は、指定受付部101を含む。指定受付部101は、図1のCPU8が、RAM10を作業領域として使用しつつ、記憶装置7に記憶された制御プログラムP1を実行することにより実現される。
【0030】
演奏者が鍵盤20の鍵を押すと、押された鍵に対応する音高を含むノートオンイベント(以下、ノートオンと略記する。)が発生する。ノートオンは鍵のオフ状態からオン状態への状態遷移に相当する。また、演奏者が鍵盤20の鍵を離すと、離された鍵に対応する音高を含むノートオフイベント(以下、ノートオフと略記する。)が発生する。ノートオフは鍵のオン状態からオフ状態への状態遷移に相当する。
【0031】
指定受付部101は、鍵盤20が備える鍵の操作情報を受け付ける。鍵の操作情報には、音高、ノートオン、ノートオフおよび鍵の操作強度に関する情報が含まれる。演奏操作子2は、例えば鍵盤20の各鍵に設けたセンサにより、押鍵された鍵の速度を検知することで、鍵の操作強度を取得する。指定受付部101は、受け付けた操作情報を音源部5に与える。本実施の形態の操作強度は、本発明の「強度」の例である。
【0032】
音源部5は、音信号発生部51および音像調整部52を備える。音信号発生部51は、指定受付部101から与えられた操作情報に基づいて、受け付けた音高に対応する音信号を出力する。操作情報においていずれかの音高のノートオンが示されている場合、音信号発生部51は、受け付けたノートオンで示されている音高の音信号を出力する。操作情報においていずれかの音高のノートオフが示されている場合、音信号発生部51は、受け付けたノートオフで示されている音高の音信号の出力を停止する。また、音信号発生部51は、操作情報に含まれている操作強度に応じて、ノートオンで示されている音高の音信号のレベルを調整する。演奏者により、強く鍵が押されている場合には、出力する音信号のレベルが大きくなる。演奏者により、優しく鍵が押されている場合には、出力する音信号のレベルが小さくなる。
【0033】
音像調整部52は、音信号発生部51が出力した音信号を入力する。音像調整部52は、操作情報に含まれる操作強度に応じて、音信号の音像を調整する。音像調整部52から出力された音像が調整された音信号は、サウンドシステム6に与えられる。サウンドシステム6は、押鍵の操作強度に応じた音像の大きさで音を出力する。
【0034】
(4)音源の構成
次に、第1の実施の形態に係る音源部5の構成について説明する。図3は、第1の実施の形態に係る音源部5の構成図である。図4は、音像調整部52が有するノードおよびノード間の回路図である。図5は、音像調整部52の出力部を示す図である。
【0035】
図3に示すように、音像調整部52は、複数のノード531がノード間伝送回路532により相互に接続されて構成される伝送路網を備える。ノード531は、格子上に配置され、縦方向に隣り合うノード531間および横方向に隣り合うノード531間が、それぞれノード間伝送回路532で接続される。ノード間伝送回路532が、本発明の「伝送回路」の例である。伝送路網の形状は特に限定されるものではなく、伝送路網の形状を変更することによって、音源部5が作り出すことのできる音像の大きさを調整することができる。本実施の形態においては、図3に示すように、伝送路網は、アコースティックピアノの響板を模した形状を有している。
【0036】
図4に示すように、ノード531は、加算器を含む。ノード531は、縦方向および横方向のノード531からノード間伝送回路532を介して伝達された音信号を入力し、加算する。
【0037】
ノード間伝送回路532は、ディレイ532a、フィルタ532bおよび増幅回路532cを含む。一方のノード531から出力された音信号は、ディレイ532aにおいて遅延される。ディレイ532aから出力された音信号は、フィルタ532bにおいて所定のフィルタリング処理が施される。例えば、高周波成分を除去するフィルタリング処理が施される。あるいは、位相を調整するフィルタリング処理が施される。フィルタ532bから出力された音信号は、増幅回路532cにおいて音信号を減衰させるためにゲインが調整される。このように、あるノード531から出力され、隣接するノード531に伝達される音信号は、ディレイ532aにおいて遅延し、および、増幅回路532cにおいて減衰する。また、フィルタ532bにおいて高周波成分を除去するフィルタが用いられる場合、さらに、高周波成分が減衰する。
【0038】
このようにして、あるノード531から出力された音信号は、ノード間伝送回路532を介して隣接するノード531に出力される。各ノード531は、隣接するノード531から入力した音信号を加算する。ノード531は、加算した音信号を、出力回路533に対して出力する。また、ノード531は、加算した音信号を、音信号が伝達されてきたノード間伝送回路532とは別のノード間伝送回路532に出力する。つまり、ノード間を伝送される音信号がループしないように、各ノード531は、あるノード531から入力した音信号を、入力元のノード531に戻すことなく、他のノード531にリレーする。
【0039】
再び、図3を参照する。図3において、ノード531L,531Rは、音信号を入力するノードである。音信号発生部51から入力した音信号は、ノード531L,531Rのいずれかのノード531に入力される。本実施の形態においては、指定受付部101が受け付けた音高に応じて、ノード531L,531Rのいずれのノード531に音信号を入力するかが決定される。例えば、88鍵のうち、低音側の44鍵のいずれかの鍵に対応する音高が指定されている場合には、音信号発生部51から入力した音信号をノード531Lに入力する。また、高音側の44鍵のいずれかの鍵に対応する音高が指定されている場合には、音信号発生部51から入力した音信号をノード531Rに入力する。
【0040】
ノード531Lまたはノード531Rに入力された音信号は、図3に示す伝送路網において縦方向および横方向に伝達される。そして、上記のように、各ノード531は、隣接するノード531から入力した音信号を加算して出力する。このとき、ノード間伝送回路532により伝達される音信号は、入力されたノード531L,531Rから離れるに従って、音信号の遅延量および減衰量が大きくなる。このため、ノード531Lまたはノード531Rに入力された音信号のレベルが大きければ、ノード531Lまたはノード531Rから離れたノード531まで音信号が伝達される。つまり、音信号のレベルが大きい程、広い範囲のノード531から音信号が出力される。これにより、音信号のレベルが大きい程、広がりのある音、つまり、音像の大きい音信号が出力される。ノード531Lまたはノード531Rに入力された音信号のレベルが小さければ、ノード531Lまたはノード531Rに近いノード531にだけ音信号が伝達される。つまり、音信号のレベルが小さい程、狭い範囲のノード531から音信号が出力される。これにより、音信号のレベルが小さい程、広がりが抑えられた音、つまり、音像の小さい音信号が出力される。このように、ノード531L,531Rを、アコースティックピアノにおける響板に取り付けられた駒と考えると、駒を介して響板に音が広がるように、ノード間を音が伝達される。
【0041】
図5に示すように、各ノード531の出力回路533から出力される音信号は、2方向に分岐され、それぞれ、増幅回路534L,534Rに入力される。増幅回路534Lは、ステレオ音の左側の音信号のゲイン調整を行い、増幅回路534Rは、ステレオ音の右側の音信号のゲイン調整を行う。全ての増幅回路534Lから出力された音信号は、加算器535Lにおいて加算され、ステレオ音の左側の音信号として出力される。全ての増幅回路534Rから出力された音信号は、加算器535Rにおいて加算され、ステレオ音の右側の音信号として出力される。
【0042】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る音信号発生装置200は、音信号のレベルの大きさ応じて、音像の大きさを調整する。つまり、操作情報に含まれる操作強度の強さに応じて、音像の大きさが調整される。演奏者が、鍵を強く押している場合には、より広がりのある音、つまり、音像の大きい音が出力される。演奏者が、鍵を優しく押している場合には、広がりの抑えられた音、つまり、音像の小さい音が出力される。これにより、第1の実施の形態に係る音信号発生装置200は、アコースティックピアノの響板に伝わる演奏音を疑似的に発生させることができる。
【0043】
第1の実施の形態に係る音信号発生装置200においては、操作情報に含まれる操作強度が強い場合、音像調整部52において、より広い範囲のノード531に音信号が伝達される。操作情報に含まれる操作強度が弱い場合、音像調整部52において、狭い範囲のノード531に音信号が伝達される。このように、音信号発生装置200においては、受け付けた音高の強度が強い程、音の距離方向の分布(音像の大きさ)が広くなるよう音信号が生成される。
【0044】
(5)第1の実施の形態の効果
以上説明したように、第1の実施の形態の音信号発生装置200において、音源部5は、指定受付部101が受け付けた音高に対応する音信号を、指定受付部101が受け付けた操作強度に応じた音像の大きさで生成する。これにより、本実施の形態の音信号発生装置200は、アコースティックピアノと同じように、受け付けた強度に応じて音像を変化させながら音信号を発生させることができる。
【0045】
また、第1の実施の形態の音信号発生装置200においては、指定受付部101が受け付けた操作強度に応じて、音信号が伝達されるノード531の範囲が変化する。つまり、受け付けた操作強度が強い程、音の距離方向の分布が広くなるように音信号が生成される。これにより、本実施の形態の音信号発生装置200は、演奏者に対してアコースティックピアノと同じような演奏感を与えることができる。
【0046】
[2]第2の実施の形態
次に、本発明の第2の実施の形態に係る音信号発生装置200を含む電子音楽装置1について説明する。第2の実施の形態に係る電子音楽装置1の構成は、図1および図2で示した第1の実施の形態と同様である。第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と比べて音像調整部52の構成が異なる。
【0047】
図6は、第2の実施の形態に係る音源部5の構成を示す図である。音源部5において、第1の実施の形態と同様、音信号発生部51から出力された音信号が、音像調整部52において処理される。音像調整部52は、複数のゲート541,541・・・、複数のコムフィルタ542,542・・・および加算器543を備える。
【0048】
音信号発生部51から出力された音信号は、加算器543および複数のゲート541,541・・・に入力される。各ゲート541,541・・・には、制御部100の制御によって、制御信号が与えられる。各ゲート541,541・・・は、制御信号に基づいて開閉制御される。各ゲート541,541・・・の後段には、コムフィルタ542,542・・・が接続される。また、音信号発生部51から出力された音信号が直接入力されるコムフィルタ542(図6における最上段のコムフィルタ542)が設けられる。コムフィルタ542は、入力信号に対して、遅延信号を1より小さいゲインを掛けて加算するフィルタである。コムフィルタ542は、入力信号が減衰しながら一定周期で繰り返し出力するため、入力した音信号にリバーブ効果(残響効果)を与えることができる。
【0049】
以上の構成において、制御部100の制御によって、各ゲート541,541・・・に制御信号が与えられ、各ゲート541,541・・・の開閉が制御される。制御部100は、操作情報に含まれる操作強度に応じて、開制御するゲート541の数を決定する。具体的には、押鍵の操作強度が強い程、多くのゲート541を開制御する。制御信号に基づいて開制御されたゲート541は、音信号を後段のコムフィルタ542に出力する。制御信号に基づいて閉制御されたゲート541は、音信号を後段のコムフィルタ542に出力しない。音信号を入力したコムフィルタ542は、音信号に対して上述したフィルタ処理を施し、フィルタ処理後の音信号を加算器543に出力する。
【0050】
加算器543は、音信号発生部51から出力された音信号(直接信号)、最上段のコムフィルタ542から出力された音信号、および、開制御されたゲート541の後段のコムフィルタ542から出力された音信号を加算する。加算器543から出力された音信号は、サウンドシステム6に出力される。
【0051】
このように、第2の実施の形態に係る音源部5は、操作情報に含まれる操作強度に応じて、適応させるコムフィルタ542の数を調整する。これにより、押鍵の操作強度が強い場合には、適応させるコムフィルタ542の数を増やし、より多くのリバーブ効果を与える。つまり、押鍵の操作強度が強い場合には、音源部5は、音像の大きい音信号を出力可能である。押鍵の操作強度が弱い場合には、適応させるコムフィルタ542の数を少なくし、リバーブ効果を小さくする。つまり、押鍵の操作強度が弱い場合には、音源部5は、音像の小さい音信号を出力可能である。
【0052】
[3]第3の実施の形態
次に、本発明の第3の実施の形態に係る音信号発生装置200を含む電子音楽装置1について説明する。第3の実施の形態に係る電子音楽装置1の構成は、図1および図2で示した第1の実施の形態と同様である。第3の実施の形態においては、第1の実施の形態と比べて音像調整部52の構成が異なる。
【0053】
図7は、第3の実施の形態に係る音源部5の構成を示す図である。音源部5において、第1の実施の形態と同様、音信号発生部51から出力された音信号が、音像調整部52において処理される。音像調整部52は、複数のコムフィルタ551,551・・・、加算器552L,552R、増幅回路553L,553R、増幅回路554L,554R、オールパスフィルタ(APF)555L,555Rおよび加算器556L,556Rを備える。
【0054】
音信号発生部51から出力された音信号は、複数のコムフィルタ551,551・・・に入力される。コムフィルタ551は、第2の実施の形態と同様、入力した音信号にリバーブ効果(残響効果)を与える。
【0055】
各コムフィルタ551,551・・・の出力はそれぞれ加算器552L,552Rに入力される。加算器552Lは、各コムフィルタ551,551・・・の出力を加算し、加算した音信号を増幅回路553Lおよび増幅回路554Lに出力する。加算器552Rは、各コムフィルタ551,551・・・の出力を加算し、加算した音信号を増幅回路553Rおよび増幅回路554Rに出力する。
【0056】
増幅回路554L,554Rの出力は、それぞれオールパスフィルタ555L,555Rに入力される。オールパスフィルタ555L,555Rは、入力信号の位相を変化させるフィルタである。加算器556Lは、増幅回路553Lの出力およびオールパスフィルタ555Lの出力を加算する。加算器556Lの出力557Lは、音信号発生部51から出力された直接の音信号(図7の最上段の出力557D)に加算され、ステレオ左信号として、サウンドシステム6に出力される。加算器556Rは、増幅回路553Rの出力およびオールパスフィルタ555Rの出力を加算する。加算器556Lの出力557Rは、音信号発生部51から出力された直接の音信号(図7の最上段の出力557D)に加算され、ステレオ右信号として、サウンドシステム6に出力される。
【0057】
ここで、増幅回路553L,554Lの乗算係数は、制御部100により制御される。制御部100は、操作情報に含まれる操作強度に応じて、増幅回路553L,554Lに割り振る乗算係数を調整する。制御部100は、押鍵の操作強度が強くなる程、増幅回路553Lの乗算係数に対する増幅回路554Lの乗算係数の比が大きくなるように、増幅回路553L,554Lを制御する。
【0058】
同様に、制御部100は、押鍵の操作強度が強くなる程、増幅回路553Rの乗算係数に対する増幅回路554Rの乗算係数の比が大きくなるように、増幅回路553R,554Rを制御する。
【0059】
これにより、押鍵の操作強度が強い程、加算器556Lの出力557Lおよび加算器556Rの出力557Rの位相差が大きくなり、左右の音信号の相関が低くなる。これにより、広がりの大きい音、つまり、音像の大きい音信号が音源部5から出力される。押鍵の操作強度が弱い程、加算器556Lの出力557Lおよび加算器556Rの出力557Rの位相差が小さくなり、左右の音信号の相関が高くなる。これにより、広がりの抑えた音、つまり、音像の小さい音信号が音源部5から出力される。
【0060】
このように、第3の実施の形態に係る音源部5は、操作情報に含まれる操作強度に応じて、左右の音信号の位相差を制御することで、左右の音信号の相関を調整する。つまり、押鍵の操作強度が強い場合には、音源部5は、音像の大きい音信号を出力可能である。押鍵の操作強度が弱い場合には、音源部5は、音像の小さい音信号を出力可能である。
【0061】
[4]第4の実施の形態
次に、本発明の第4の実施の形態に係る音信号発生装置200を含む電子音楽装置1について説明する。第4の実施の形態に係る電子音楽装置1の構成は、図1および図2で示した第1の実施の形態と同様である。第4の実施の形態においては、第1の実施の形態と比べて音像調整部52の構成が異なる。
【0062】
図8は、第4の実施の形態に係る音源部5の構成を示す図である。音源部5において、第1の実施の形態と同様、音信号発生部51から出力された音信号が、音像調整部52において処理される。音像調整部52は、パンニング回路561を備える。パンニング回路561は、音信号発生部51から入力した音信号の定位を左右に割り振る。パンニング回路561は、制御部100により制御される。制御部100は、操作情報に含まれる操作強度に応じて、パンニング回路561において割り振る左右の定位を決定する。制御部100は、押鍵の操作強度が強くなる程、音信号の定位の左右への振り幅が大きくなるように制御する。これにより、押鍵の操作強度が強い程、音信号の定位の左右への振り幅が大きくなり、広がりの大きい音、つまり、音像の大きい音信号が音源部5から出力される。押鍵の操作強度が弱くなる程、音信号の定位の左右への振り幅が小さくなり、広がりの抑えた音、つまり、音像の小さい音信号が音源部5から出力される。
【0063】
[5]第5の実施の形態
次に、本発明の第5の実施の形態に係る音信号発生装置200を含む電子音楽装置1について説明する。第5の実施の形態に係る電子音楽装置1の構成は、図1で示した第1の実施の形態と同様である。第1~第4の実施の形態においては、音像調整部52は、ハードウェア回路で構成され、音源部5に実装される場合を説明した。第5の実施の形態においては、第1の実施の形態~第4の実施の形態と異なり、音像調整部102は、ソフトウェアにより制御され、制御部100に含まれる。
【0064】
図9は、第5の実施の形態に係る音信号発生装置200の機能的な構成およびその周辺装置を示すブロック図である。図9に示すように、制御部100は、指定受付部101および音像調整部102を含む。指定受付部101および音像調整部102は、図1のCPU8が、RAM10を作業領域として使用しつつ、記憶装置7またはROM11に記憶された制御プログラムP1を実行することにより実現される。音像調整部102は、第1~第4の実施の形態において説明した音像調整部52を、ソフトウェア処理としてシミュレーションした機能部である。第5の実施の形態によれば、第1~第4の実施の形態と同様、押鍵の操作強度に応じて音像の大きさが変化する音信号を発生させることが可能である。
【0065】
図10図9の制御部100における音信号発生方法を示すフローチャートである。図10の音信号発生方法は、図1のCPU8が記憶装置7に記憶された制御プログラムP1を実行することにより行われる。第5の実施の形態における制御プログラムP1は、本発明の「音信号発生プログラム」の例である。
【0066】
まず、指定受付部101が鍵盤20から操作情報を受け付ける(ステップS1)。上述したように、鍵の操作情報には、音高、ノートオン、ノートオフおよび鍵の操作強度に関する情報が含まれる。次に、音像調整部102が、音信号発生部51から出力された音信号を入力する(ステップS2)。そして、音像調整部102は、鍵の操作強度に応じて、音像の大きさが調整された音信号を出力する(ステップS3)。具体的には、音像調整部102は、ステップS3において、第1~第4の実施の形態における音像調整部52と同様の処理を実行する。
【0067】
制御プログラムP1(音信号発生プログラム)は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納された形態で提供され、記憶装置7(またはROM11)にインストールされてもよい。また、制御プログラムP1が外部記憶装置13に記憶されてもよい。さらに、通信I/F12が通信網に接続されている場合、通信網に接続されたサーバから配信された制御プログラムP1が記憶装置7(またはROM11)にインストールされてもよい。
【0068】
[6]第2の実施の形態~第5の実施の形態の効果
以上説明したように、第2~第4の実施の形態の音信号発生装置200において、音源部5は、指定受付部101が受け付けた音高に対応する音信号を、指定受付部101が受け付けた操作強度に応じた音像の大きさで生成する。また、第5の実施の形態の音信号発生装置200において、制御部100は、指定受付部101が受け付けた音高に対応する音信号を、指定受付部101が受け付けた操作強度に応じた音像の大きさで生成する。これにより、本実施の形態の音信号発生装置200は、アコースティックピアノと同じように、受け付けた強度に応じて音像を変化させながら音信号を発生させることができる。これにより、本実施の形態の音信号発生装置200は、演奏者にアコースティックピアノと同じような演奏感を与えることができる。
【0069】
[7]他の実施の形態
上記の実施の形態においては、指定受付部101が受け付けた操作強度に応じて音像を変化させるようにした。他の実施の形態としては、さらに、音高に応じて音像の大きさを変化させるようにしてもよい。例えば、音高が高音になる程、音像の大きさを大きくするように制御してもよい。
【0070】
また、他の実施の形態として、指定受付部101が受け付けた操作強度に応じて、空間伝達関数(フィルタ)を変化させるようにしてもよい。ここで、空間伝達関数は、電子音楽装置1が備えるスピーカから出力される音を、所望の位置を音源とした音に疑似的に変換するための関数である。電子音楽装置1の音源部5において発生させた音信号を、空間伝達関数によって処理することにより、音像の変化が得られるようになる。
【0071】
また、上記実施の形態において音像調整部52において、音信号の音像を調整した。他の実施の形態としては、音像の調整された音信号と、元信号(直接信号)とを加算するようにしてもよい。そして、音像の調整された音信号と元信号との混合割合を調整することで、より音像の変化を与えるようにしてもよい。
【0072】
また、上記第2および第3の実施の形態においては、コムフィルタを用いて音信号にリバーブ効果(残響効果)を与えるようにした。他の実施の形態として、フィルタを最小位相成分とオールパス成分に分けておいて、それぞれに掛ける指数窓の形を操作強度に応じて変化させるようにしてもよい。例えば、操作強度が弱い程、指数窓の形状を急峻とし、操作強度が強い程、指数窓の形状をなだらかにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…電子音楽装置、2…演奏操作子、3…設定操作部、4…表示器、5…音源部、6…サウンドシステム、7…記憶装置、8…CPU、10…RAM、11…ROM、20…鍵盤、51…音信号発生部、52…音像調整部、101…指定受付部、102…音像調整部
図1
図2
図3
図4
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図8
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図10