(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20241126BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20241126BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20241126BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241126BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20241126BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20241126BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M4/86 T
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
C25B1/04
C25B11/04
C25B11/03
(21)【出願番号】P 2020105181
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153391(JP,A)
【文献】特開2011-228270(JP,A)
【文献】特開2007-200693(JP,A)
【文献】特表2016-512388(JP,A)
【文献】特開2012-227142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1213
H01M 4/86
H01M 8/12
C25B 1/04
C25B 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質層(2)と、上記固体電解質層の一方面側に配置され、燃料(F、F1、F2)が供給される第1電極(3)と、上記固体電解質層の他方面側に配置され、上記第1電極と対をなす第2電極(4)とを備え、
上記第2電極は、酸素不定比性を有する金属酸化物(41)と、上記酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物(42)とを含み、
上記酸素不定比性を有する金属酸化物は、
セル定常動作時であって、10
-1
bar~10
-0.5
bar未満の酸素分圧下で分解せず、セル定常動作時の温度かつ酸素分圧が10
-6bar以下、または、10
-0.5bar以上で分解する材料である、
電気化学セル(1)。
【請求項2】
上記酸素不定比性を有する金属酸化物は、酸素欠損型金属酸化物(411)を含む、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
上記酸素不定比性を有する金属酸化物は、さらに、酸素過剰型金属酸化物(412)を含む、
請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
上記酸素不定比性を有する金属酸化物は、ペロブスカイト構造を有する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
上記第2電極の厚みは、5μm以上である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
固体酸化物形電解セルおよび固体酸化物形燃料電池セルの少なくとも一方として用いられる、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層を用いた水電解セルや燃料電池セルなどの電気化学セルが知られている。例えば、特許文献1には、酸素極の内部に、電流を供給する酸素極給電体の一部を埋設した水電解セルが開示されている。同文献によれば、かかる構成により、酸素極と酸素極給電体との密着性を長期間にわたって持続することができ、酸素極に均一に電解電流を供給し、接触抵抗の増大を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術では、酸素極と酸素極給電体との材質が異なる限り、熱膨張差などによって接触不良が生じることが避けられない。つまり、従来技術では、酸素極において、酸素極と酸素極給電体との間に、接触している部分と接触していない部分とが局所的に発生する。そのため、従来技術では、セル面内での均一反応を得ることができず、セル面内に反応ムラが生じやすい。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、セル面内の反応ムラを抑制することが可能な電気化学セルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層(2)と、上記固体電解質層の一方面側に配置され、燃料(F、F1、F2)が供給される第1電極(3)と、上記固体電解質層の他方面側に配置され、上記第1電極と対をなす第2電極(4)とを備え、
上記第2電極は、酸素不定比性を有する金属酸化物(41)と、上記酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物(42)とを含み、
上記酸素不定比性を有する金属酸化物は、セル定常動作時であって、10
-1
bar~10
-0.5
bar未満の酸素分圧下で分解せず、セル定常動作時の温度かつ酸素分圧が10-6bar以下、または、10-0.5bar以上で分解する材料である、
電気化学セル(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
上記電気化学セルは、上記構成を有する。そのため、上記電解化学セルによれば、セル面内の反応ムラを抑制することができる。
【0008】
なお、特許請求の範囲および課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る電気化学セルの微構造を模式的に示した説明図である。
【
図2】
図2は、第2電極内の局所的に電流が流れやすい部分において、酸素不定比性を有する金属酸化物の一部が、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物に変換され、他の反応場に反応が移る様子を模式的に示した図であり、(a)は酸素不定比性を有する金属酸化物の分解前、(b)は酸素不定比性を有する金属酸化物の分解後を示した図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る電気化学セルを固体酸化物形電解セルとして動作させる場合(SOECモード)について説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る電気化学セルを固体酸化物形燃料電池セルとして動作させる場合(SOFCモード)について説明するための説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係る電気化学セルの微構造を模式的に示した説明図である。
【
図6】実験例において作製された電気化学セルが有する第2電極のXRD分析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の電気化学セルは、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層と、上記固体電解質層の一方面側に配置され、燃料が供給される第1電極と、上記固体電解質層の他方面側に配置され、上記第1電極と対をなす第2電極とを備え、
上記第2電極は、酸素不定比性を有する金属酸化物と、上記酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物とを含む。
【0011】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質層を用いる電気化学セルでは、燃料が供給される第1電極において三相界面にて生じる電気化学反応が用いられることが多く、何も対策がなされていないとセル面内での反応ムラが生じやすい。上記電解化学セルでは、第1電極の微構造の不均一などに起因して局所的に電解電流や発電電流が流れやすい部分が生じた場合に、第1電極と対をなす第2電極では、局所的な過負荷電解反応や過負荷発電反応(以下、まとめて過負荷反応ということがある。)により、局所的に高酸素濃度雰囲気や低酸素濃度雰囲気が生じる。第2電極においてこのような高酸素濃度雰囲気や低酸素濃度雰囲気が生じた部分では、酸素不定比性を有する金属化合物が分解し、活性が低下した分解物あるいは不活性の分解物が生じる。そのため、他の反応場に反応が移り、局所的な過負荷反応が抑制される。それ故、上記電解化学セルによれば、セル面内の反応ムラを抑制することができる。また、セル面内の反応ムラの抑制により、第1電極における微構造破壊による劣化も抑制され、信頼性の高い電気化学セルが得られる。
【0012】
以下、本実施形態の電気化学セルについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態の電気化学セルは、以下の例示によって限定されるものではない。
【0013】
(実施形態1)
実施形態1の電気化学セルについて、
図1~
図4を用いて説明する。
図1に例示されるように、本実施形態の電気化学セル1は、固体電解質層2と、第1電極3と、第2電極4とを備えている。第1電極3は、固体電解質層2の一方面側に配置されている。第2電極4は、固体電解質層2の他方面側に配置されている。
図1では、具体的には、第1電極3、固体電解質層2、および、第2電極4がこの順に積層され、互いに接合されている例が示されている。
【0014】
なお、電気化学セル1は、固体電解質層2と第2電極4との間に中間層(不図示)をさらに備えることができる。中間層は、主に、固体電解質層2の材料と第2電極4の材料との反応を抑制するための層である。この場合、電気化学セル1は、具体的には、第1電極3、固体電解質層2、中間層、および、第2電極4がこの順に積層され、互いに接合された構成とすることができる。また、電気化学セル1は、平板形のセル構造を有することができる。また、電気化学セル1は、第1電極3が支持体としての機能を兼ねるように構成されていてもよいし、固体電解質層2が支持体としての機能を兼ねるように構成されていてもよいし、金属部材等の他の支持体(不図示)によって支持される構成とされていてもよい。
【0015】
固体電解質層2は、酸素イオン伝導性を有している。固体電解質層2は、具体的には、酸素イオン電導性を有する固体電解質より層状に構成されることができる。固体電解質層2は、ガス密性を確保するため、通常、緻密質に形成される。固体電解質層2を構成する固体電解質としては、例えば、強度、熱的安定性に優れるなどの観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などの酸化ジルコニウム系酸化物を好適に用いることができる。固体電解質層2を構成する固体電解質としては、酸素イオン伝導性、機械的安定性、他の材料との両立、酸化雰囲気から還元雰囲気まで化学的に安定であるなどの観点から、イットリア安定化ジルコニアなどが好適である。
【0016】
固体電解質層2を支持体として機能させない場合、固体電解質層2の厚みは、電気抵抗などの観点から、好ましくは、3~20μm、より好ましくは、3.5~15μm、さらに好ましくは、4~10μmとすることができる。固体電解質層2を支持体として機能させる場合、固体電解質層2の厚みは、強度、電気抵抗などの観点から、好ましくは、30~300μm、より好ましくは、50~200μm、さらに好ましくは、100~150μmとすることができる。
【0017】
第1電極3は、燃料が供給される部位である。第1電極3は、多孔質に形成されることができる。第1電極3は、層状に形成されることができ、単層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。
図1では、第1電極3が単層から構成されている例が示されている。第1電極3が複数層から構成される場合、第1電極3は、具体的には、例えば、固体電解質層2側に配置される活性層(不図示)と、固体電解質層2側とは反対側に配置される拡散層(不図示)とを備える構成などとすることができる。なお、活性層は、第1電極3における電気化学反応を高めるための層である。また、拡散層は、供給される燃料Fを第1電極3の面内方向に拡散させることが可能な層である。
【0018】
第1電極3は、具体的には、
図1に例示されるように、電子伝導性を有する電子伝導性材料31と、酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導性材料32とを含む構成とすることができる。電子伝導性材料31としては、例えば、Ni、Ni合金等の触媒活性を有する金属材料などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することがきる。また、第1電極3に用いられる酸素イオン伝導性材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニアなどの酸化ジルコニウム系酸化物などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することがきる。本実施形態では、第1電極3は、具体的には、Niとイットリア安定化ジルコニアとの混合物より構成することができる。なお、
図1中、符号30は、気孔である。また、第1電極3における電子伝導性材料31、酸素イオン伝導性材料32は、いずれも粒子状とすることができる。
【0019】
第1電極3を支持体として機能させる場合、第1電極3の厚みは、強度、電気抵抗、ガス拡散性などの観点から、例えば、好ましくは、100~800μm、より好ましくは、150~700μm、さらに好ましくは、200~600μmとすることができる。第1電極3を支持体として機能させない場合、第1電極3の厚みは、電気抵抗、ガス拡散性などの観点から、例えば、好ましくは、10~40μm、より好ましくは、15~35μm、さらに好ましくは、20~30μmとすることができる。
【0020】
第2電極4は、第1電極3と対をなす電極である。第2電極4は、具体的には、
図1に示されるように、固体電解質層2を挟んで第1電極3と対向するように配置されることができる。第2電極4の外形は、例えば、第1電極3の外形と同じ大きさとなるように形成されていてもよいし、第1電極3の外形よりも小さく形成されていてもよい。第2電極4は、多孔質に形成されることができる。第2電極4は、層状に形成されることができ、単層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。
図1では、第2電極4が単層から構成されている例が示されている。
【0021】
ここで、第2電極4は、酸素不定比性を有する金属酸化物41と、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42とを含んでいる。酸素不定比性を有する金属酸化物41は、複合金属酸化物であって、価数の異なる金属元素を含むことにより、酸素位置に点欠陥を有することができる材料である。酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42は、酸素不定比性を有する金属酸化物41が分解して生じた物質である。酸素不定比性を有する金属酸化物41は、第2電極4中に1種または2種以上含まれていてもよい。また、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42は、第2電極4中に1種または2種以上含まれていてもよい。
【0022】
酸素不定比性を有する金属酸化物41は、酸素欠損型金属酸化物411を含む構成とすることができる。酸素欠損型金属酸化物411は、酸素空孔を伴う金属酸化物であり、上述の点欠陥位置が空席である。酸素欠損型金属酸化物411は、余剰に酸素が入ると不安定になり、より安定な酸化物等に変わろうとする。したがって、酸素不定比性を有する金属酸化物41が酸素欠損型金属酸化物411を含む構成によれば、以下の利点がある。すなわち、酸素欠損型金属酸化物411により高酸素濃度雰囲気に対する感度が高まり、
図2(a)に示されるように、高酸素濃度雰囲気が生じた部分では、余剰に入り込んだ酸素によって酸素欠損型金属酸化物411が分解し、活性が低下した分解物あるいは不活性の分解物が生じる。つまり、
図2(b)に示されるように、酸素欠損型金属酸化物の分解物421が生じる。酸素欠損型金属酸化物の分解物421は、電極活性に乏しいため、
図2(a)、(b)に示されるように、反応が他の反応場44に移り、局所的な過負荷反応(後述するSOECモードでは局所的な過負荷水電解反応、後述するSOFCモードでは局所的な過負荷発電反応)が抑制され、セル面内の反応ムラが抑制される。
【0023】
酸素不定比性を有する金属酸化物41は、ペロブスカイト構造またはダブルペロブスカイト構造を有する構成とすることができる。この構成によれば、価数の異なる金属元素が固定されるので、水電解セル(水蒸気電解セル含む、以下省略)等の固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrochemical Cell:以下、SOECということがある。)や固体酸化物形燃料電池セル(Solid Oxide Fuel Cell:以下、SOFCということがある。)の定常動作環境下においては、酸素不定比性を有した構造体を維持しつつも、酸素濃度変動に対しては、構造を変化させ、安定した化合物を形成することができる。そのため、この構成によれば、電気化学セル1の定常動作時において、酸素濃度が異なる環境下に第2電極4が置かれた場合でも、電極活性の確保を図りやすくなる。酸素不定比性を有する金属酸化物41は、好ましくは、ペロブスカイト構造を有する構成とすることができる。この構成によれば、AサイトまたはBサイトの金属が酸素濃度変動に起因して、安定した化合物を形成することができる。そのため、この構成によれば、発電性能を維持しつつ、均一な電解反応の実現に有利である。
【0024】
酸素欠損型金属酸化物411としては、例えば、(La,Sr)CoO3-δ、(La,Sr)(Co,Fe)O3-δ、(La,Sr)(Mn,Fe)O3-δ、(La,Sr)FeO3-δ、(Sm,Sr)CoO3-δ、(La,Ca)CrO3-δ、(Ba,La)CoO3-δなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。なお、δは酸素不定比量を示す。また、上記(A,B)は、A元素およびB元素の少なくとも1つを含み、A元素とB元素の合計の化学組成が1となるようにA元素とB元素とが互いに一部置換可能であることを意味する(以下、同様である。)。上述した酸素欠損型金属酸化物411のうち、電気抵抗率、他の機能層への被毒性が低い、原材料コストなどの観点から、好ましくは、(La,Sr)CoO3-δ、(La,Sr)(Co,Fe)O3-δ、(Sm,Sr)CoO3-δなどであり、より好ましくは、(La,Sr)CoO3-δである。
【0025】
(La,Sr)CoO3-δとしては、具体的には、La1-xSrxCoO3-δ(0≦x≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5)、(La,Sr)(Co,Fe)O3-δとしては、具体的には、La1-xSrxCo1-yFeyO3-δ(0≦x≦1、0≦y≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5、0.5≦y≦0.9)、(La,Sr)(Mn,Fe)O3-δとしては、具体的には、La1-xSrxMn1-yFeyO3-δ(0≦x≦1、0≦y≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5、0.5≦y≦0.9)、(La,Sr)FeO3-δとしては、具体的には、La1-xSrxFeO3-δ(0≦x≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5)、(Sm,Sr)CoO3-δとしては、具体的には、Sm1-xSrxCoO3-δ(0≦x≦1、好ましくは、0.4≦x≦0.6)、(La,Ca)CrO3-δとしては、具体的には、La1-xCaxCoO3-δ(0≦x≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5)、(Ba,La)CoO3-δとしては、具体的には、Ba1-xLaxCoO3-δ(0≦x≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。なお、これら金属酸化物は、ペロブスカイト構造を有する。
【0026】
酸素欠損型金属酸化物の分解物421としては、具体的には、上述した酸素欠損型金属酸化物411を構成する金属元素を1種または複数含む非活性な酸化物などを例示することができる。(La,Sr)CoO3-δの分解物としては、例えば、Sr3Co2O6.6、Sr2Co2O5等のSrおよびCoを含む酸化物などを例示することができる。(La,Sr)(Co,Fe)O3-δの分解物としては、例えば、Sr3Co2O6.6、Sr2Co2O5、SrFeO2等のSrとCoおよび/またはFeとを含む酸化物などを例示することができる。(Sm,Sr)CoO3-δの分解物としては、例えば、Sr3Co2O6.6、Sr2Co2O5等のSrおよびCoを含む酸化物などを例示することができる。
【0027】
図1では、酸素不定比性を有する金属酸化物41が、酸素欠損型金属酸化物411より構成されている例が示されている。したがって、本実施形態では、
図1に例示されるように、第2電極4は、酸素欠損型金属酸化物411と、その酸素欠損型金属酸化物の分解物421とを含んでいる。酸素欠損型金属酸化物の分解物421は、第2電極4内に含まれる酸素欠損型金属酸化物411の一部が分解して生じた物質である。なお、上述した酸素不定比性を有する金属酸化物41、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42、酸素欠損型金属酸化物411、酸素欠損型金属酸化物の分解物421は、いずれも粒子状とすることができる。
【0028】
酸素不定比性を有する金属酸化物41は、セル定常動作時であって、10
-1
bar~10
-0.5
bar未満の酸素分圧下で分解せず、セル定常動作時の温度かつ酸素分圧が10-6bar以下、または、10-0.5bar以上で分解する材料である。通常、SOECやSOFCの定常動作時において、SOECの酸素極やSOFCの空気極(酸化剤極)が晒される酸素濃度は、10-1bar~10-0.5bar未満である。したがって、上記構成によれば、電気化学セル1を、SOECおよびSOFCの少なくとも一方として定常動作させる場合に、第2電極4が晒される酸素濃度雰囲気では、酸素不定比性を有する金属酸化物41が分解し難い。そのため、上記構成によれば、定常動作時に安定な出力を確保しやすい電気化学セル1が得られる。
【0029】
なお、例えば、上述した(La,Sr)CoO3-δ、(La,Sr)(Co,Fe)O3-δなどは、文献「K.Kendall, M.Kendall,“Chapter 6-Cathodes”High-temperature Solid Oxide Fuel Cells for the 21st Century,p166,Figure6.4(2015)」から理解されるように、10-8barの酸素濃度で分解が生じる。また、実施形態2にて後述する(La,Sr)MnO3+δは、文献「T.Ishihara“Perovskite Oxide for Cathode of SOFCs”Perovskite Oxide for Solid Oxide Fuel Cells,p160,Fig7.9(2009)」から理解されるように、10-7barの酸素濃度で分解が生じる。
【0030】
第2電極4は、
図1に例示されるように、他にも、酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導性材料43を含むことができる。第2電極4に用いられる酸素イオン伝導性材料43としては、例えば、セリア(CeO
2)、Gd、Y、Sm、La、Nd、Yb、Ca、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素等がドープされたセリア、Y、Ca、および、Scから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたジルコニア、(La,Sr)(Ga,Mg)O
3、(La,Sr)(Sc,Mg)O
3、(La,Sr)(Al,Mg)O
3などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。(La,Sr)(Ga,Mg)O
3としては、具体的には、La
1-xSr
xGa
1-yMg
yO
3(0≦x≦1、0≦y≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.3、0.1≦y≦0.3)、(La,Sr)(Sc,Mg)O
3としては、具体的には、La
1-xSr
xSc
1-yMg
yO
3(0≦x≦1、0≦y≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.3)、(La,Sr)(Al,Mg)O
3としては、La
1-xSr
xAl
1-yMg
yO
3(0≦x≦1、0≦y≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)などを例示することができる。
【0031】
第2電極4に用いられる上述した酸素イオン伝導性材料43のうち、好ましくは、酸素イオン伝導の温度依存性が小さい、電子伝導性、他の機能層との反応抑制などの観点から、Gdがドープされたセリアが好適である。なお、
図1中、符号40は、気孔である。また、第2電極4に用いられる酸素イオン伝導性材料43は、粒子状とすることができる。
【0032】
第2電極4において、酸素不定性を有する金属酸化物41および酸素不定性を有する金属酸化物の分解物42の合計に占める酸素不定性を有する金属酸化物41の量は、電解反応・発電反応の反応点量を十分なものとするなどの観点から、95体積%以上が好適である。なお、上記体積%の算出には、FIB-SEM-EDS(集束イオンビーム走査電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光解析)などを用いた3D元素マッピング結果を用いて算出することができる。
【0033】
第2電極4の厚みは、5μm以上とすることができる。電気化学セル1では、第2電極4内に、酸素不定比性を有する金属酸化物41以外に、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42を含んでいる。つまり、第2電極4は、酸素不定比性を有する金属酸化物41を含みかつ酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42を含んでいない電極に比べて、酸素不定比性を有する金属酸化物41の一部の分解により、電極活性が一部失われているといえる。そのため、第2電極4の厚みが上記範囲であれば、電極厚みの確保によって十分な反応が得られる反応点を確保しやすくなり、第2電極4の性能低下を抑制しやすくなる。
【0034】
第2電極4の厚みは、十分な反応点の確保などの観点から、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、15μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、さらにより好ましくは、25μm以上とすることができる。第2電極4の厚みは、ガス拡散性、電気抵抗などの観点から、好ましくは、100μm以下、より好ましくは、60μm以下、さらに好ましくは、50μm以下とすることができる。
【0035】
電気化学セル1が中間層を有する場合、中間層は、具体的には、酸素イオン伝導性を有する固体電解質より層状に構成されることができる。中間層に用いられる固体電解質としては、例えば、セリア(CeO2)、セリアにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたセリアなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。中間層に用いられる固体電解質としては、Gdがドープされたセリアが好適である。
【0036】
中間層の厚みは、オーミック抵抗の低減、第2電極からの元素拡散の抑制等の観点から、好ましくは、1~20μm、より好ましくは、2~10μmとすることができる。
【0037】
なお、上述した電気化学セル1における各部位の厚みは、電気化学セル1のセル面に垂直な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察して測定した各部位における10点の厚み測定値の算術平均値である。
【0038】
電気化学セル1は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0039】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質層2と、固体電解質層2の一方面側に配置される第1電極3と、固体電解質層2の他方面側に配置され、酸素不定比性を有する金属酸化物41を含みかつ酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42は含まない第2電極前駆体(不図示)とを有するセル(不図示)を作製する。本実施形態では、具体的には、例えば、酸素欠損型金属酸化物411を含み、かつ、酸素欠損型金属酸化物の分解物421は含まない第2電極前駆体を用いることができる。次いで、このセルに対して、電気化学セル1の定常動作時の電流密度よりも高い電流密度、つまり、不均一な反応がより顕在化する電流密度領域にて動作させる平準化処理を行う。これにより、第2電極前駆体中における局所的に電流が流れやすい部分において、酸素不定比性を有する金属酸化物41が分解し、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42が生じる。一方、第2電極前駆体中における局所的な電流の流れが生じない部分では、酸素不定比性を有する金属酸化物41の分解はほとんど進行しない。上記平準化処理により、第2電極前駆体が、酸素不定比性を有する金属酸化物41と、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物421とを含む第2電極4に変換され、上述した電気化学セル1が得られる。つまり、この電気化学セル1の製造方法では、上記セルに対して平準化処理を行い、セルの状態において、酸素不定比性を有する金属酸化物41の一部をあえて分解させることにより、得られる電気化学セル1のセル面内の反応分布を緩和させる。つまり、電気化学セル1のセル面内の反応を平準化させる。なお、平準化処理としては、例えば、第1電極3にH2とH2Oとの混合ガスを供給し、第2電極前駆体に空気を供給し、平準化温度650℃~850℃にて、定常動作時の電流密度よりも高い電流密度領域にて動作させる処理などを例示することができる。定常動作時の電流密度よりも高い電流密度領域としては、例えば、電気化学セル1を定常発電動作させる際の電流密度(後述する)の2倍以上4倍以下の電流密度の範囲などを例示することができる。また、発電動作による処理時間は、例えば、2時間~10時間とすることができる。なお、上記処理は1回実施してもよいし、同じ条件または異なる条件にて複数回実施することもできる。このようにして得られる電気化学セル1は、上記平準化処理時の電流密度以下の電流密度にて定常動作させることが好ましい。
【0040】
電気化学セル1は、SOECおよびSOFCの少なくとも一方として用いられることができる。つまり、電気化学セル1は、SOECとして動作させてもよいし、また、SOFCとして動作させてもよいし、さらには、SOECとして動作させるSOECモードとSOFCとして動作させるSOFCモードとに切り替え可能に構成し、SOECおよびSOFCとして動作させてもよい。以下、電気化学セル1の動作例について説明する。
【0041】
先ず、電気化学セル1をSOECとして動作させる一例について、
図3を用いて説明する。この場合、第1電極3は、水素極とされ、第2電極4は、酸素極として用いられる。第1電極3には、燃料Fとして、例えば、水蒸気ガスなどの水(H
2O)含有ガスF1を供給することができる。第2電極4には、空気などのガスA1を供給してもよいし、ガスA1を供給しなくてもよい。なお、
図3では、第2電極4にガスA1を供給する例が示されている。第1電極3側には、第1電極3に接して第1電極側ガス流路5を配置することができる。第2電極4側には、第2電極4に接して第2電極側ガス流路6を配置することができる。第1電極3と第2電極4との間には、
図3に例示されるように、電源7が接続される。SOECモードにおいて、第1電極側ガス流路5の供給口51から供給された燃料Fは、第1電極側ガス流路5を通り、第1電極3に到達する。第1電極3では、H
2O+2e
-→H
2+O
2-の電極反応が生じる。余った燃料Fは、生成した水素ガス(H
2)とともに第1電極側ガス流路5を通って排出口52から排出される。一方、第2電極4では、O
2-→1/2O
2+2e
-→の電極反応が生じる。生成した酸素ガス(O
2)は、排出口62から排出される。なお、第2電極4にガスA1を供給しない場合には、生成した酸素ガスは、外部との酸素濃度差によって排出口62より排出される。第2電極4にガスA1を供給する場合には、生成した酸素ガスは、その濃度がガスA1により薄められて外部に排出される利点がある。固体電解質層2では、第1電極3側から第2電極4側に向かって酸素イオン(O
2-)が移動する。このようにして、電気化学セル1は、SOECとして動作させることができる。なお、第1電極3には、燃料Fとしての水含有ガスF1に、水素ガスなどの調整ガス(還元性ガス)(不図示)を混合することもできる。この場合には、SOEC動作時に、第1電極3に含まれうる金属材料の酸化を抑制することができる。
【0042】
次に、電気化学セル1をSOFCとして動作させる一例について、
図4を用いて説明する。この場合、第1電極3は、燃料極とされ、第2電極4は、空気極(酸化剤極)として用いられる。第1電極3には、燃料Fとして、例えば、水素ガスなどの水素含有ガスF2を供給することができる。第2電極4には、酸化剤として、空気、酸素ガスなどの酸素含有ガスA2を供給することができる。第1電極3側には、第1電極3に接して第1電極側ガス流路5を配置することができる。第2電極4側には、第2電極4に接して第2電極側ガス流路6を配置することができる。第1電極3と第2電極4との間には、
図4に例示されるように、負荷8が接続される。SOFCモードにおいて、第1電極側ガス流路5の供給口51から供給された燃料Fは、第1電極側ガス流路5を通り、第1電極3に到達する。第1電極3では、H
2+O
2-→H
2O+2e
-の電極反応が生じる。余った燃料Fは、生成した水蒸気(H
2O)とともに第1電極側ガス流路5を通って排出口52から排出される。一方、第2電極側ガス流路6の供給口61から供給された酸素含有ガスA2は、第2電極側ガス流路6を通り、第2電極4に到達する。第2電極4では、1/2O
2+2e
-→O
2-の電極反応が生じる。余った酸素含有ガスA2は、第2電極側ガス流路6を通って排出口62から排出される。固体電解質層2では、第2電極4側から第1電極3側に向かって酸素イオン(O
2-)が移動する。このようにして、電気化学セル1は、SOFCとして動作させることができる。なお、第1電極3には、燃料Fとしての水素含有ガスF2に水蒸気など(不図示)を混合することもできる。
【0043】
次に、電気化学セル1をSOECおよびSOFCとして動作させる(電気化学セル1をリバーシブル動作させる)一例について説明する。この場合、電気化学セル1を、上述したようにSOECおよびSOFCとして動作可能に構成すればよい。この構成によれば、余剰電力、再生可能エネルギー等による電気を使用し、電気化学セル1をSOECとして動作させ、生成した水素ガスを別途貯留しておくとともに、貯留しておいた水素ガスを燃料として使用し、電気化学セル1をSOFCとして動作させ、発電させることが可能な、電解・発電装置を得ることができる。
【0044】
電気化学セル1の定常動作温度は、例えば、SOECとして機能させる場合、400℃以上800℃以下、SOFCとして機能させる場合、SOECと同様に400℃以上800℃以下などを例示することができる。また、電気化学セル1の定常動作時の電流密度は、具体的には、SOECとして機能させる場合、0.4A/cm2以上2.0A/cm2以下、SOFCとして機能させる場合、0.2A/cm2以上1.0A/cm2以下とすることができる。
【0045】
(実施形態2)
実施形態2の電気化学セルについて、
図5を用いて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0046】
図5に例示されるように、本実施形態の電気化学セル1は、実施形態1の電気化学セル1と比べ、第2電極4の構成が異なっている。具体的には、本実施形態において、第2電極4における酸素不定比性を有する金属酸化物41は、さらに、酸素過剰型金属酸化物412を含む構成とすることができる。
【0047】
酸素過剰型金属酸化物412は、格子間酸素を伴う金属酸化物であり、上述の点欠陥位置が過剰に埋まっている。酸素過剰型金属酸化物412は、格子間酸素が抜けると不安定になり、より安定な酸化物等に変わろうとする。したがって、酸素不定比性を有する金属酸化物41が、酸素欠損型金属酸化物411のみならず、さらに、酸素過剰型金属酸化物412を含む構成によれば、以下の利点がある。すなわち、第2電極4内に局所的に高酸素濃度雰囲気が生じた場合に、第2電極4内に含まれる酸素欠損型金属酸化物411が過度に分解してしまったときでも、酸素過剰型金属酸化物412は分解しない。また逆に、第2電極4内に局所的に低酸素濃度雰囲気が生じた場合に、第2電極4内に含まれる酸素過剰型金属酸化物412が過度に分解してしまったときでも、酸素欠損型金属酸化物411は分解しない。そのため、上記構成によれば、第2電極4内の触媒活性物質の量が過度に少なくなることを抑制することができ、第2電極4の電極活性の低下を抑制することができる。つまり、上記構成によれば、第2電極4内に、局所的に高酸素濃度雰囲気または低酸素濃度雰囲気のどちらが生じた場合でも、触媒活性を発揮する酸素不定性を有する金属酸化物41の過度な分解を抑制することができる。
【0048】
酸素過剰型金属酸化物412としては、例えば、(La,Sr)MnO3+δ、PrBaCo2O5+δ、PrBaFe2O5+δなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。なお、δは酸素不定比量を示す。上述した酸素過剰型金属酸化物412のうち、電気抵抗率、材料精製にかかるコストなどの観点から、好ましくは、(La,Sr)MnO3+δ、PrBaCo2O5+δなどであり、より好ましくは、(La,Sr)MnO3+δである。
【0049】
(La,Sr)MnO3+δとしては、具体的には、La1-xSrxMnO3+δ(0≦x≦1、好ましくは、0.1≦x≦0.4)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。なお、これら金属酸化物は、ペロブスカイト構造もしくはダブルペロブスカイト構造を有する。
【0050】
酸素過剰型金属酸化物の分解物422としては、具体的には、上述した酸素過剰型金属酸化物412を構成する金属元素を1種または複数含む非活性な酸化物などを例示することができる。(La,Sr)MnO3+δの分解物としては、例えば、Sr2Mn2O5、Sr2MnO4等のSrおよびMnを含む酸化物などを例示することができる。
【0051】
本実施形態において、第2電極4は、酸素欠損型金属酸化物411と、その酸素欠損型金属酸化物の分解物421と、酸素過剰型金属酸化物412とを含んでいてもよいし、酸素欠損型金属酸化物411と、その酸素欠損型金属酸化物の分解物421と、酸素過剰型金属酸化物412と、その酸素過剰型金属酸化物の分解物422とを含んでいてもよい。酸素過剰型金属酸化物の分解物422は、第2電極4内に含まれる酸素過剰型金属酸化物412の一部が分解して生じた物質である。なお、上述した酸素不定比性を有する金属酸化物41、酸素不定比性を有する金属酸化物の分解物42、酸素欠損型金属酸化物411、酸素欠損型金属酸化物の分解物421、酸素過剰型金属酸化物412、酸素過剰型金属酸化物の分解物422は、いずれも粒子状とすることができる。また、本実施形態における第2電極4を有する電気化学セル1は、例えば、次のようにして製造することができる。具体的には、実施形態1にて上述した第2電極前駆体として、酸素欠損型金属酸化物411および酸素過剰型金属酸化物412を含み、かつ、酸素欠損型金属酸化物の分解物421および酸素過剰型金属酸化物の分解物422は含まない構成とする。そして、実施形態1にて上述したように、電気化学セル1を定常発電動作させる際の電流密度の2倍以上4倍以下の電流密度の範囲にて動作させた後、さらに、電気化学セル1を定常電解動作させる際の電流密度の2倍以上4倍以下の電流密度の範囲にて動作させる処理などを例示することができる。なお、電解動作による処理時間は、例えば、2時間~10時間とすることができる。
【0052】
第2電極4は、他にも、実施形態1にて上述したような、酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導性材料43を含むことができる。
図5では、第2電極4が、酸素欠損型金属酸化物411と、酸素欠損型金属酸化物の分解物421と、酸素過剰型金属酸化物412と、酸素過剰型金属酸化物の分解物422と、酸素イオン伝導性材料43とを含む例が示されている。
【0053】
その他の構成および作用効果は、実施形態1と同様である。
【0054】
(実験例)
<材料準備>
NiO粉末(平均粒子径:1.0μm)と、8mol%のY2O3を含むイットリア安定化ジルコニア(以下、YSZ)粉末(平均粒子径:0.5μm)と、カーボン(造孔剤)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、1-ブタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。NiO粉末とYSZ粉末との質量比は、65:35とした。ドクターブレード法を用いて、樹脂シート上に上記スラリーを層状に塗工し、乾燥させた後、樹脂シートを剥離することにより、第1電極形成用シートを準備した。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50である(以下、同様)。
【0055】
YSZ粉末(平均粒子径:0.5μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、1-ブタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。以降は、第1電極形成用シートの作製と同様にして、固体電解質層形成用シートを準備した。
【0056】
GdがドープされたCeO2(以下、GDC)粉末(平均粒子径:0.3μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、2-ブタノールと、エタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。なお、本実験例では、GDCとして、CeO2に10mol%のGdがドープされたものを用いた。以降は、第1電極形成用シートの作製と同様にして、中間層形成用シートを準備した。
【0057】
酸素欠損型金属酸化物としての(La,Sr)CoO3-δ粉末(平均粒子径:1.5μm)と、酸素イオン伝導性材料としてのGDC粉末(平均粒子径:2.0μm)とを混合し、これを分散剤とともに、溶媒としてのテルピネオール中に分散させた。得られた分散液に、バインダーとしてのエチルセルロースを加え、混合することにより、第2電極形成用ペーストを準備した。なお、上記(La,Sr)CoO3-δ粉末には、具体的には、La0.6Sr0.4CoO3-δ粉末を用いた。また、(La,Sr)CoO3-δ粉末とGDC粉末との質量比は、50:50とした。
【0058】
<電気化学セルの作製>
複数枚の第1電極形成用シートと、固体電解質層形成用シートと、中間層形成用シートとをこの順に積層し、静水圧プレス(WIP)成形法を用いて圧着した。なお、WIP成形条件は、温度85℃、加圧力50MPa、加圧時間10分という条件とした。また、得られた成形体は、脱脂した。
【0059】
次いで、得られた成形体を、大気雰囲気中にて、1350℃で2時間焼成した。これにより、層状の第1電極(厚み400μm)、固体電解質層(3.5μm)、および、中間層(3μm)がこの順に積層された焼成体を得た。
【0060】
次いで、上記焼成体における中間層の表面に、第2電極形成用ペーストをスクリーン印刷法により塗布し、大気雰囲気中にて、950℃で2時間焼成(焼付け)することにより、層状の第2電極前駆体(厚み50μm)を形成した。なお、第2電極前駆体の外形は、第1電極の外形よりも小さく形成した。これにより平板形のセルを形成した。なお、形成したセルは、通常、金属製のスタック部材に組付け、システムとして動作可能とされる。本実験例では、金属部材から飛散する被毒物質や大型化に伴う温度分布などの様々な環境因子を除外するため、小型にセルを形成し、このセルのみを用い、要素評価用ベンチを用いて以下の処理および評価を行った。
【0061】
次いで、得られたセルの端面に封止用ガラスを塗布した。このセルを、大気雰囲気中にて850℃まで昇温し、第1電極と燃料配管とをガラスによりシールし、ガスシール構造を形成した。次いで、第1電極を還元処理した。還元処理条件は、還元温度:800℃、還元処理ガス:水素ガス、還元時間:3時間とした。
【0062】
次いで、上記還元処理後、少し温度を下げて発電温度とし、セルに対して、定常発電動作時の電流密度の倍の電流密度(具体的には、1.5A/cm2)にて、4時間発電動作させるという処理を実施した。この際、第1電極には、H2とH2Oとの混合ガス(体積比でH2:H2O=6:4)を供給し、第2電極前駆体には、空気を供給した。また、発電温度は、700℃とした。本実験例では、さらに、上記発電動作させたセルに対して、上記と同じ電流密度にて、4時間電解動作させる処理を実施した。この際、第1電極には、H2とH2Oとの混合ガス(体積比でH2:H2O=6:4)を供給し、第2電極前駆体には、空気を供給した。また、水電解温度は、700℃とした。その後、第1電極の雰囲気を保ったまま、降温した。これにより、本実験例に係る電気化学セルを作製した。なお、本実験例では、平準化処理として、上記発電動作による処理と上記電解動作による処理の両方を行った。これは、セルの面内での空隙の不均一性などから生じる反応分布が発電動作時は水素の供給の律速部があると反応し難い箇所ができるのに対し、電解動作時には、水蒸気の供給の律速部があると反応し難い箇所ができるため、どちらのモードにおいても均一な反応が得られることを確実なものとするためである。
【0063】
<第2電極のXRD分析>
要素評価用ベンチから取り出した上記電気化学セルについて、X線回折装置(RIGAKU社製、全自動多目的X線回折装置「SmartLab」)を用いて、第2電極の構造を分析した。ここで、本実験例では、電気化学セルの作製時に様々な環境因子を除外するため、小型セルのみを用いて平準化処理を行っている。そのため、第2電極に含まれうる物質は、基本的には、第2電極の原料に用いた(La,Sr)CoO3-δおよびGDC(原料中の不純物も含む)と、それ以外の物質、つまり、製造時に形成された化合物とに大別することができる。
【0064】
図6に第2電極のXRD分析結果を示す。
図6によれば、上記電気化学セルの第2電極では、第2電極の原料に用いた(La,Sr)CoO
3-δおよびGDCのピーク以外に、La
2O
3、Sr
2Co
2O
5のピークが検出された。La
2O
3、Sr
2Co
2O
5のピークが検出されたのは、酸素不定比性の金属酸化物である(La,Sr)CoO
3-δが、上記平準化処理によって分解し、La
2O
3、Sr
2Co
2O
5が生じたためである。また、比較のため、上記平準化処理を行っていないセルにおける第2電極前駆体について、同様にXRD分析を行ったところ、第2電極前駆体では、La
2O
3、Sr
2Co
2O
5のピークが検出されなかった。
【0065】
上記電気化学セルと、上記平準化処理を行っていないセルとを、SOFCとして用い、700℃、電流密度0.5A/cm2で定常動作させた。その結果、上記電気化学セルは、上記平準化処理を行っていないセルに比べ、セル面内の反応温度分布が低減された。なお、上記電気化学セルをSOFCとして機能させ、セル面内の反応温度分布を確認したのは、SOFCは発電反応が生じるため、SOECに比べ、セル面内の反応温度分布が確認しやすいことによる。この結果から、上記電気化学セルによれば、セル面内の反応ムラを抑制することができることが確認された。
【0066】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 電気化学セル
2 固体電解質層
3 第1電極
4 第2電極
F 燃料
F1 水含有ガス
F2 水素含有ガス