(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、積層体、および、包装袋
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20241126BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241126BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20241126BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B9/00 A
B32B7/027
B32B27/36
(21)【出願番号】P 2020118818
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】時野谷 修
(72)【発明者】
【氏名】古田 薫
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189221(WO,A1)
【文献】特開2008-049605(JP,A)
【文献】特開2018-144893(JP,A)
【文献】特開2013-123895(JP,A)
【文献】特開平09-174780(JP,A)
【文献】特開2019-006082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0126599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B32B 1/00-43/00
C08J 5/18
C08J 7/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性を有したガスバリア層を積層されることによって包装袋用の積層体を構成する樹脂フィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート
製の三層の樹脂層を備え、
前記三層の樹脂層のうちの少なくとも一層が、リサイクルポリエチレンテレフタレートを含み、
前記樹脂フィルムが含有する前記リサイクルポリエチレンテレフタレートの質量割合は、前記樹脂フィルムの総質量の70%以上であり、
前記樹脂フィルムのtanδと温度との関係を示す損失正接曲線におけるピーク位置のtanδが、0.160以上0.190以下である
樹脂フィルム。
【請求項2】
前記損失正接曲線におけるピーク位置の温度は、108℃以上115℃以下である
請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記
リサイクルポリエチレンテレフタレートは、繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含
む
請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂フィルムと、
ガスバリア性を有するガスバリア層と、
を備える積層体。
【請求項5】
前記ガスバリア層は、
酸化アルミニウムおよび酸化珪素の少なくとも一方を含む第1バリア層と、
高分子材料を含む第2バリア層と、を有する
請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記第2バリア層は、前記第1バリア層に隣接して積層されている
請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記第2バリア層は、Si(OR
1)
4、もしくは、R
2Si(OR
3)
3(OR
1、OR
3は加水分解性基であり、R
2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物を1種以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含む
請求項5または6に記載の積層体。
【請求項8】
対象物を包装するための包装袋であって、
請求項4~7のいずれか一項に記載の積層体から構成されている
包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、樹脂フィルムを備える積層体、および、包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムは、食品、医薬品、化粧品などの対象物を包装するための包装材に広く用いられている。対象物の品質の低下を抑えるために、包装材は、酸素や水蒸気などの気体を通しにくい性質であるガスバリア性を有していることが好ましい。そのため、包装材として、樹脂フィルムと、金属膜や金属酸化膜などを含むガスバリア層との積層体が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
包装された対象物である商品の流通過程では、輸送中の商品に振動が加わる場合などのように、包装材に折れや捩れなどの変形を生じさせる外力が、商品に対して繰り返し印加される場合がある。包装材として用いられる積層体においては、こうした外力の印加に起因したガスバリア性の低下が小さいことが望ましい。
【0005】
本発明は、積層体におけるガスバリア性の低下を抑えることのできる樹脂フィルム、積層体、および、包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する樹脂フィルムは、ガスバリア性を有したガスバリア層を積層されることによって包装袋用の積層体を構成する樹脂フィルムであって、ポリエチレンテレフタレートを含み、前記樹脂フィルムのtanδと温度との関係を示す損失正接曲線におけるピーク位置のtanδが、0.160以上0.190以下である。
【0007】
上記構成によれば、樹脂フィルムにおいて、弾性体としての性質に対する粘性体としての性質の大きさが好適となり、柔軟性が高められる。すなわち、樹脂フィルムにおいて、外力への応答に際しての弾性の寄与に対する粘性の寄与の割合が十分に大きくなるため、振動の吸収性が高くなる。したがって、樹脂フィルムとガスバリア層とを備える積層体に外力が繰り返し印加された場合でも、樹脂フィルムに積層されたガスバリア層の動きが抑えられて、ガスバリア層における欠陥の発生が抑えられる。それゆえ、積層体のガスバリア性の低下を抑えることができる。
【0008】
上記構成において、前記損失正接曲線におけるピーク位置の温度は、108℃以上115℃以下であってもよい。
上記構成によれば、ピーク位置の温度が高すぎないため、包装袋が使用される環境で、粘性に起因した樹脂フィルムの柔軟性が良好に発揮されやすい。
【0009】
上記構成において、前記樹脂フィルムは、繰り返し単位中のジカルボン酸単位にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むポリエチレンテレフタレートを含んでもよい。
上記構成によれば、ピーク位置のtanδが上記範囲内である樹脂フィルムが好適に得られる。
【0010】
上記課題を解決する積層体は、上記樹脂フィルムと、ガスバリア性を有するガスバリア層と、を備える。
上記構成によれば、外力が繰り返し印加された場合でも、積層体におけるガスバリア性の低下が抑えられるため、包装材としての利用に対する積層体の適性が高められる。
【0011】
上記構成において、前記ガスバリア層は、酸化アルミニウムおよび酸化珪素の少なくとも一方を含む第1バリア層と、高分子材料を含む第2バリア層と、を有してもよい。
上記構成によれば、積層体のガスバリア性がより高められる。
【0012】
上記構成において、前記第2バリア層は、前記第1バリア層に隣接して積層されていてもよい。
上記構成によれば、第2バリア層による第1バリア層の保護およびガスバリア性の補完が可能である。
【0013】
上記構成において、前記第2バリア層は、Si(OR1)4、もしくは、R2Si(OR3)3(OR1、OR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物を1種以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含んでもよい。
上記構成によれば、第2バリア層による第1バリア層の保護およびガスバリア性の補完の効果が高められる。
【0014】
上記課題を解決する包装袋は、対象物を包装するための包装袋であって、上記積層体から構成されている。
【0015】
上記構成によれば、商品の輸送時の振動などに起因して包装袋におけるガスバリア性が低下することが抑えられる。したがって、包装された対象物の品質の低下が抑えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、積層体におけるガスバリア性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態の樹脂フィルムの断面構造を示す図。
【
図4】実施例および比較例における貯蔵弾性曲線の一例を示す図。
【
図5】実施例および比較例における損失弾性曲線の一例を示す図。
【
図6】実施例および比較例における損失正接曲線の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、樹脂フィルム、積層体、および、包装袋の一実施形態を説明する。
[樹脂フィルム]
図1を参照して、樹脂フィルム10の構成を説明する。樹脂フィルム10は、再生されたポリエチレンテレフタレート(PET)であるリサイクルPETを含む。リサイクルの対象のPET製品には使用済みペットボトルが含まれる。樹脂フィルム10が含むリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPET、および、ケミカルリサイクルにより再生されたPETの少なくとも一方である。
【0019】
メカニカルリサイクルは、PET製品を粉砕して洗浄し表面の汚れや異物を取り除いた後、高温下に樹脂を曝して樹脂内部に留まっている汚染物質を除去する。ケミカルリサイクルは、PET製品を粉砕して洗浄し表面の汚れや異物を取り除いた後、解重合により樹脂を中間原料まで戻し、当該中間原料を精製して再重合することによりPETを生成する。メカニカルリサイクルは、ケミカルリサイクルと比較して、化学反応のための大掛かりな設備を要しないため、リサイクルPETの製造に要するコストや環境負荷が小さい。したがって、樹脂フィルム10が含むリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPETであることが好ましい。
【0020】
樹脂フィルム10は、リサイクルPETに加えて、石油などの原料から新規に合成されたPETであるバージンPETを含んでいてもよい。樹脂フィルム10が含有するリサイクルPETの質量割合は、樹脂フィルム10の総質量の60%以上100%以下であることが好ましい。
【0021】
PETの繰り返し単位には、ジオール単位とジカルボン酸単位とが含まれる。バージンPETからなる包装用途の樹脂フィルムにおいては、ジオール単位はエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位はテレフタル酸である。一方、ペットボトルに用いられるPETの原料のジカルボン酸には、ボトル形状への成形に際しての樹脂の加工性を向上させるために、テレフタル酸に加えてイソフタル酸が混合されている。すなわち、ペットボトルにおいては、ジオール単位はエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位はテレフタル酸およびイソフタル酸を含む。イソフタル酸が含有されていることにより、PETの結晶化が抑えられるため、加工性が向上する。なお、ジオール単位には、ジエチレングリコールが含まれてもよい。
【0022】
したがって、リサイクルPETのジカルボン酸単位には、テレフタル酸とイソフタル酸とが含まれる。すなわち、樹脂フィルム10は、テレフタル酸とイソフタル酸とを含むジカルボン酸単位を有するPETを含む。樹脂フィルム10が含有するPETの全ジカルボン単位に占めるイソフタル酸の割合は、0.5モル%以上5モル%以下であることが好ましい。
【0023】
樹脂フィルム10が含むPETの平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1,000~100万程度であることが好ましい。なお、樹脂フィルム10は、PET以外の樹脂や、可塑剤等の各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
樹脂フィルム10は、単一の層から構成されていてもよいし、複数の層の積層体であってもよい。樹脂フィルム10が複数の層を備える場合、樹脂フィルム10の構成層の組成は互いに同一であってもよいし、樹脂フィルム10の構成層に互いに異なる組成の層が含まれてもよい。例えば、樹脂フィルム10の構成層には、リサイクルPETからなる層と、バージンPETからなる層とが含まれてもよい。あるいは、樹脂フィルム10の構成層には、互いに異なる割合でリサイクルPETを含む複数の層が含まれてもよい。
【0025】
樹脂フィルム10の厚さは、包装袋に求められる各種の耐性や加工性に応じて選択される。加工性の観点では、樹脂フィルム10の厚さは、実用上、3μm以上100μm以下であることが好ましく、6μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0026】
樹脂フィルム10の形成方法は特に限定されず、押出成形等の公知のフィルム形成方法が用いられればよい。また、押出・冷却の方法も、冷却ロールや空気冷却、水冷却などの公知の冷却方法が用いられる。
さらに、樹脂フィルム10は、無延伸でもよく、延伸によって製造されてもよい。延伸方法は、一軸延伸、もしくは、二軸延伸など公知の延伸方法が用いられる。
【0027】
[積層体]
図2を参照して、積層体20の構成を説明する。積層体20は、樹脂フィルム10と、ガスバリア層11とを備えている。ガスバリア層11は、積層体20におけるガスバリア性を高める機能を有する。
【0028】
ガスバリア層11は、例えば、無機酸化物あるいは金属からなる第1バリア層を含む。無機酸化物は、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどの酸化物である。金属は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、スズ、ナトリウム、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウム、金、クロムなどである。第1バリア層は、これらの材料を2種類以上含んでいてもよい。
【0029】
積層体20から透明な包装袋を形成する場合には、無機酸化物からなる第1バリア層が用いられる。特に、酸化アルミニウムや酸化ケイ素からなる第1バリア層が好適に用いられる。積層体20から形成される包装袋に遮光性を付与する場合には、金属からなる第1バリア層が用いられる。特に、アルミニウムからなる第1バリア層が好適に用いられる。なお、ガスバリア層11は、互いに同一のもしくは異なる材料から形成された複数の第1バリア層を含んでいてもよい。
【0030】
第1バリア層の厚さは、第1バリア層の材料等に応じて選択される。第1バリア層の厚さは、5nm以上300nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。第1バリア層の厚さが上記下限値以上であれば、第1バリア層が均一な膜状に形成されやすく、また、第1バリア層の厚さが十分に確保されるため、ガスバリア性が良好に得られる。第1バリア層の厚さが上記上限値以下であれば、第1バリア層の柔軟性が良好に得られるため、積層体20の折り曲げや引っ張りなどの外的要因によって第1バリア層に亀裂が生じることが抑えられやすい。
【0031】
基材上に第1バリア層を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることができる。特に、生産性が高められる観点から、真空蒸着法が好適に用いられる。真空蒸着法の加熱手段としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを用いることが好ましいが、蒸発材料の選択の自由度が高い観点から、電子線加熱方式を用いることがより好ましい。また、第1バリア層と基材との密着性、および、第1バリア層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着することも可能である。また、第1バリア層の透明性を上げるために、蒸着の際、酸素等の各種ガスなどを吹き込む反応蒸着を用いてもよい。
【0032】
樹脂フィルム10上に第1バリア層を形成する場合、樹脂フィルム10と第1バリア層との密着性を高めるために、樹脂フィルム10の表面に、プラズマ処理やコロナ処理などの表面処理を行ってもよい。また、樹脂フィルム10と第1バリア層との間に、これらの層間の密着性を高めるためのアンカーコート層を形成してもよい。これらの構成によって、積層体20の加熱殺菌後における層間の密着性や、ガスバリア性などの性能が向上する。
【0033】
ガスバリア層11は、上記第1バリア層に加えて、あるいは、上記第1バリア層に代えて、高分子材料を含む第2バリア層を含んでいてもよい。例えば、無機酸化物からなる第1バリア層上に、第1バリア層を保護し、かつ、第1バリア層によるガスバリア性を補完する目的で、第2バリア層を積層してもよい。この場合、積層体20は、樹脂フィルム10上に、第1バリア層と第2バリア層とがこの順に積層された構造を有する。第1バリア層と第2バリア層とは互いに隣り合っている。第2バリア層の材料は、第2バリア層の形成の目的に応じて選択されればよい。以下、上述の第1バリア層の保護およびガスバリア性の補完のための第2バリア層に好適な構成を説明する。
【0034】
第2バリア層は、水溶性高分子と無機化合物とを含む。水溶性高分子は、水酸基を有する。水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどである。特に、ポリビニルアルコール(PVA)は、ガスバリア性の向上に優れているため好ましい。
【0035】
第2バリア層が含む無機化合物は、Si(OR1)4、もしくは、R2Si(OR3)3(OR1、OR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物である。第2バリア層は、上記ケイ素化合物あるいはその加水分解物を2種以上含んでいてもよい。Si(OR1)4としては、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕が、加水分解後に水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましく用いられる。また、R2Si(OR3)3中のR2は、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、および、イソシアネート基からなる群から選択されることが好ましい。
【0036】
第2バリア層は、第2バリア層の材料の混合溶液の塗布によって形成される。混合溶液は、水溶性高分子を、水または水とアルコールとの混合溶媒に溶解させた溶液に、ケイ素化合物を直接または予め加水分解させるなど処理を行って混合することにより調整される。この混合溶液を、第1バリア層上に塗布した後、形成された塗布膜を加熱乾燥することにより、第2バリア層が形成される。混合溶液中には、ガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、あるいは、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。
【0037】
水溶性高分子にPVAを用いた場合、混合溶液中のPVAの割合は、混合溶液の全固形分量の20wt%以上50wt%以下であることが好ましく、25wt%以上40wt%以下であることがより好ましい。PVAの割合が上記下限値以上であれば、第2バリア層の柔軟性が良好に得られるため、第2バリア層の形成が容易である。PVAの割合が上記上限値以下であれば、第2バリア層のガスバリア性が良好に得られる。
第2バリア層の厚さは、例えば、0.05μm以上30μm以下の範囲から選択される。
【0038】
なお、ガスバリア層11は、上記第1バリア層や上記第2バリア層に加えて、あるいは、上記第1バリア層や上記第2バリア層に代えて、金属窒化物などの他の材料からなる層を含んでいてもよい。
【0039】
積層体20は、樹脂フィルム10およびガスバリア層11に加えて、熱可塑性樹脂を含むシール層や、ガスバリア層11とその上層あるいは下層との密着性を高めるための接着層や、印刷により形成された装飾や情報の表示のための層などを備えていてもよい。シール層は、ヒートシールにより積層体20の端部同士を融着させた包装袋を形成する場合に、融解させられる。
【0040】
積層体20の厚さは、例えば、30μm以上300μm以下である。積層体20の厚さは、包装袋に求められる各種の耐性や加工性に応じて選択されればよい。
積層体20の形成には、ガスバリア層11や他の層の材料に応じて、各種の物理気相成長法や各種の塗布法の他、ドライラミネートや押出ラミネートなどが用いられる。
【0041】
[包装袋]
図3を参照して、包装袋30の構成を説明する。包装袋30は、積層体20から形成された袋状を有し、密封可能に構成されている。包装袋30において、ガスバリア層11は、樹脂フィルム10に対して内側に位置する。包装袋30の形状や大きさは特に限定されず、包装の対象物に応じて設計されていればよい。包装の対象物は、例えば、食品、医薬品、化粧品などである。
【0042】
包装袋30の形成に際しての積層体20の端部の接合方法は特に限定されず、上述のようにヒートシールが利用されてもよいし、その他の方法によって積層体20の端部同士が接合されてもよい。
図3は、包装袋30が、その端部に積層体20の端部同士が接合された封止部31を有する形態を例示している。
【0043】
[樹脂フィルムの物性]
本願の発明者は、樹脂フィルム10の柔軟性が、積層体20におけるガスバリア性の低下の抑制に寄与することを見出した。そして、本願の発明者は、樹脂フィルム10の柔軟性を評価するためのパラメータとして、動的弾性率、すなわち、貯蔵弾性率G1、損失弾性率G2、および、損失正接(tanδ)に着目した。
【0044】
積層体20に、振動などによる外力が加わったとき、ガスバリア層11は、樹脂フィルム10の変形に追従して変形する。貯蔵弾性率G1は、物体に応力により生じたエネルギーのうち物体の内部に保存される成分を示し、損失弾性率G2は、上記エネルギーのうち、外部へ熱として拡散される成分を示す。すなわち、貯蔵弾性率G1の大きさは、樹脂フィルム10の弾性体としての性質の強さを示し、損失弾性率G2の大きさは、樹脂フィルム10の粘性体としての性質の強さを示す。tanδは、貯蔵弾性率G1に対する損失弾性率G2の比(G2/G1)であり、樹脂フィルム10における弾性体としての性質と粘性体としての性質とのバランスを示す。
【0045】
樹脂フィルム10における弾性体としての性質が強いほど、外力の印加とその解除とに対する形状変化の応答性が高くなる。すなわち、樹脂フィルム10に振動が加えられた場合のように、樹脂フィルム10への外力の印加と解除とが短時間に繰り返されると、外力の印加によるひずみの発生と外力の解除によるひずみの回復とが樹脂フィルム10において短時間に繰り返される。そのため、樹脂フィルム10に追従するガスバリア層11の動きが大きくなり、その結果、ガスバリア層11にピンホール等の欠陥が生じやすくなって、積層体20のガスバリア性が低下しやすくなる。
【0046】
一方、樹脂フィルム10において粘性体としての性質が強くなると、外力の印加に対する変形の進行が緩やかになり、また、外力が解除されても変形が元に戻りにくくなる。そのため、樹脂フィルム10への外力の印加と解除とが短時間に繰り返された場合でも、樹脂フィルム10およびガスバリア層11の動きが抑えられる。言い換えれば、積層体20における振動の吸収性が高くなる。したがって、ガスバリア層11における欠陥の発生が抑えられ、積層体20のガスバリア性の低下が抑えられる。
【0047】
ただし、樹脂フィルム10における粘性体としての性質が強くなりすぎると、加工の容易性や強度といった積層体20の包装材としての適性が低下する。本願の発明者は、鋭意研究を重ねた結果、積層体20の包装材としての適性を維持しつつ、ガスバリア性の低下を抑えることの可能な樹脂フィルム10の貯蔵弾性率G1、損失弾性率G2、および、tanδの範囲を見出した。以下、各パラメータの好適な範囲について説明する。
【0048】
樹脂フィルム10の貯蔵弾性率G1と温度との関係を示す貯蔵弾性曲線において、ガラス状態からゴム状態への転移温度T1は、80℃以上88℃以下であり、かつ、転移温度T1における貯蔵弾性率G1は、3.8GPa以上4.1GPa以下であることが好ましい。
【0049】
包装袋30が使用される環境の温度は、転移温度T1よりも低い場合が多く、すなわち、樹脂フィルム10は流動性の低いガラス状態で用いられる。樹脂フィルム10がガラス状態であるときの貯蔵弾性率G1の変化は小さいため、転移温度T1での貯蔵弾性率G1を評価することにより、包装袋30として使用されているときの樹脂フィルム10の弾性体としての性質を適切に評価できる。
【0050】
転移温度T1における貯蔵弾性率G1が4.1GPa以下であれば、樹脂フィルム10において、外力への応答に際しての弾性の寄与が大きくなりすぎないため、積層体20のガスバリア性の低下が抑えられる。一方、転移温度T1における貯蔵弾性率G1が3.8GPa以上であれば、樹脂フィルム10の弾性体としての性質が弱くなりすぎないため、積層体20における包装材としての適性の低下が抑えられやすい。
【0051】
樹脂フィルム10の損失弾性率G2と温度との関係を示す損失弾性曲線において、ピーク位置の温度T2は、95℃以上102℃以下であり、かつ、ピーク位置の損失弾性率G2は、0.30GPa以上0.37GPa以下であることが好ましい。
【0052】
損失弾性曲線におけるピーク位置の温度T2は、樹脂フィルム10の粘性体としての性質が顕著に発現する温度である。温度T2が高いほど、包装袋30が使用される環境の温度が含まれる低温領域で、粘性に起因した柔軟性が発現し難くなる傾向がある。温度T2が102℃以下であって、かつ、ピーク位置の損失弾性率G2、すなわち、温度T2での損失弾性率G2が0.30GPa以上であれば、低温領域で、粘性に起因した柔軟性が良好に発揮されやすい。それゆえ、積層体20のガスバリア性の低下が抑えられる。
また、ピーク位置の損失弾性率G2が0.37GPa以下であれば、積層体20における包装材としての適性の低下が抑えられやすい。
【0053】
樹脂フィルム10のtanδと温度との関係を示す損失正接曲線において、ピーク位置のtanδは、0.160以上0.190以下である。ピーク位置の温度T3は、108℃以上115℃以下であることが好ましい。
【0054】
tanδは、貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2との比であるため、動的弾性率に誤差を生じさせる樹脂フィルム10のサンプルごとの因子の影響が取り除かれる。すなわち、同一の構成を有するサンプル間での曲線形状のばらつきが小さい。それゆえ、tanδを用いることで、動的弾性率の的確な評価が可能である。
【0055】
tanδが大きいほど、樹脂フィルム10の弾性体としての性質に対する粘性体としての性質が大きくなり、すなわち、振動の吸収性が高くなる。ピーク位置のtanδが、0.160以上であれば、樹脂フィルム10において、外力への応答に際しての弾性の寄与に対する粘性の寄与の割合が十分に大きくなるため、積層体20のガスバリア性の低下が抑えられる。一方、ピーク位置のtanδが、0.190以下であれば、樹脂フィルム10の弾性体としての性質に対する粘性体としての性質が大きくなりすぎないため、積層体20における包装材としての適性の低下が抑えられる。
【0056】
また、ピーク位置の温度T3が115℃以下であれば、包装袋30が使用される環境の温度が含まれる低温領域で、粘性に起因した樹脂フィルム10の柔軟性が良好に発揮されやすい。
【0057】
各温度T1,T2,T3、および、各温度T1,T2,T3での貯蔵弾性率G1、損失弾性率G2、tanδの値は、樹脂フィルム10の組成や、押出・冷却の温度や速度、延伸倍率などの製造条件によって調整可能である。例えば、樹脂フィルム10が含有するPETの全ジカルボン単位に占めるイソフタル酸の割合が多いほど、分子配向を阻害し、樹脂フィルム10の柔軟性が高められ、樹脂フィルム10の粘性体としての性質を強くすることが可能である。冷却温度においては、樹脂フィルム10の製造時における冷却の温度が低い方が、貯蔵弾性率G1を小さくし、tanδを上げることができる。その結果、低温領域でも樹脂フィルム10の柔軟性が高められ、樹脂フィルム10の粘性体としての性質を強くすることが可能である。冷却速度においては、徐冷するよりは急冷させた方が樹脂を適度に結晶成長させつつ、非晶部分を残すことができるため、温度T3は低くなるが、tanδや損失弾性率G2を上げることができる。その結果、樹脂フィルム10の柔軟性が高められ、樹脂フィルム10の粘性体としての性質を強くすることが可能である。延伸倍率においては、樹脂フィルム10の製造時における延伸倍率を小さくすることで、分子配向が抑制できるので、転移温度T1を下げ、貯蔵弾性率G1の上昇を抑えることができる。その結果、樹脂フィルム10の柔軟性が高められ、樹脂フィルム10の粘性体としての性質を強くすることが可能である。
【0058】
[実施例]
上述した樹脂フィルムおよび積層体について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
【0059】
(実施例1)
三層の樹脂層を、共押出しにより積層して、実施例1の樹脂フィルムを形成した。各樹脂層は、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETとバージンPETとが混合された層である。三層の樹脂層は、互いに同一の組成を有する。実施例1の樹脂フィルムが含有するリサイクルPETの質量割合は、樹脂フィルムの総質量の80%である。実施例1の樹脂フィルムの厚さは12μmである。
【0060】
実施例1の樹脂フィルムに、真空蒸着法を用いて酸化アルミニウムからなる第1バリア層を積層した。第1バリア層の厚さは10nmである。さらに、第1バリア層上に、ダイレクトグラビアコート法を用いて、第2バリア層を形成した。詳細には、第2バリア層の形成のための混合溶液を、テトラエトキシシランに塩酸を加えて30分間攪拌し加水分解させた加水分解溶液と、ポリビニルアルコールを水およびイソプロピルアルコールの混合溶媒に溶解させたPVA溶液とを、加水分解溶液とPVA溶液とを60:40の割合で混合することにより調整した。混合溶液を、第1バリア層上にバーコーターを用いて塗布し、形成された塗布膜を乾燥機を用いて120℃で1分間乾燥させることにより、第2バリア層を形成した。第2バリア層の厚さは、300nmである。
これにより、実施例1の積層体を得た。すなわち、実施例1の積層体は、樹脂フィルムと、第1バリア層および第2バリア層を含むガスバリア層とを備えている。
【0061】
(実施例2)
2つの第1樹脂層の間に第2樹脂層を挟むように、三層の樹脂層を積層して、実施例2の樹脂フィルムを形成した。第1樹脂層は、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETからなる層である。第2樹脂層は、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETに、ケミカルリサイクルによって再生された少量のリサイクルPETが混合された層である。実施例2の樹脂フィルムが含有するリサイクルPETの質量割合は、樹脂フィルムの総質量の100%である。実施例2の樹脂フィルムの厚さは12μmである。
【0062】
(実施例3)
2つの第1樹脂層の間に第2樹脂層を挟むように、三層の樹脂層を積層して、実施例3の樹脂フィルムを形成した。第1樹脂層は、バージンPETからなる層である。第2樹脂層は、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETからなる層である。実施例3の樹脂フィルムが含有するリサイクルPETの質量割合は、樹脂フィルムの総質量の70%である。実施例3の樹脂フィルムの厚さは12μmである。
【0063】
(比較例)
バージンPETからなる一層の樹脂層を形成することにより、比較例の樹脂フィルムを得た。比較例の樹脂フィルムは、リサイクルPETを含まない。比較例の樹脂フィルムの厚さは12μmである。
【0064】
比較例の樹脂フィルムに、実施例1と同様の材料および製法によって、第1バリア層と第2バリア層とを積層することにより、比較例の積層体を得た。すなわち、比較例の積層体は、樹脂フィルムと、実施例1と同一の構成のガスバリア層とを備えている。
【0065】
<動的弾性率の測定>
各実施例および比較例の樹脂フィルムから、帯状の試験片を作製した。試験片の長さは20mmであり、試験片の幅は10mmである。なお、樹脂フィルムの形成時の流れ方向(MD方向)を試験片の長さ方向とした。熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製:DMA7100)を用いて、各試験片における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とを測定し、tanδを算出した。測定条件は、下記である。
周波数:10Hz
張力条件:歪振幅 10μm
:最小張力/圧縮力 50mN
:張力/圧縮力ゲイン 1.2
:力振幅初期値 50mN
加熱条件:昇温速度 2℃/min
:加熱温度 30℃~180℃
【0066】
<ガスバリア性の評価>
実施例1および比較例の積層体から、試験片を作製し、積層体のフレキシリビリティの評価のために、ゲルボフレックス試験を実施した。試験方法を下記に示す。そして、積層体のガスバリア性の評価のために、ゲルボフレックス試験を実施する前の積層体と、ゲルボフレックス試験を実施した後の積層体とに対し、酸素透過度および水蒸気透過度を測定した。測定方法を下記に示す。
【0067】
(フレキシリビリティ評価)
フレキシリビリティ評価装置(テスター産業社製、ゲルボフレックステスター)を用いて、積層体のフレキシビリティを評価した。まず、評価装置の固定ヘッドに、試験片を円筒状になるよう取り付けた。続いて、試験片の両端を保持した状態で、初期把持間隔を175mmとし、87.5mmのストロークで440度のひねりを加える動作を、40回/分の速度で10回繰り返すことにより、積層体を屈曲した。
【0068】
(水蒸気透過度の測定)
積層体の水蒸気透過度を、水蒸気透過度測定装置(Modern Control社製、PERMATRAN 3/31)を用いて、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。測定方法は、JIS K-7129、ASTM F1249-90に準拠し、測定値の単位は[g(STP)/m2・day]とした。
【0069】
(酸素透過度の測定)
積層体の酸素透過度を、酸素透過度測定装置(Modern Control社製、OXTRAN 2/20)を用いて、温度30℃、相対湿度70%の条件で測定した。測定方法は、JIS K-7126のB法(等圧法)、ASTM D3985-81に準拠し、測定値の単位は[cm3(STP)/m2・day・MPa]とした。
【0070】
<測定結果>
図4~
図6は、各実施例および比較例の樹脂フィルムについての、動的弾性率の測定によって得られた曲線を示す。
図4は貯蔵弾性曲線を示し、
図5は損失弾性曲線を示し、
図6は損失正接曲線を示す。なお、動的弾性率の測定は、実施例および比較例ごとに3つの試験片に対して行った。
図4~
図6に示す曲線は、3つの試験片に対する測定によって得られた曲線のうちの代表的な曲線を示す。
【0071】
表1は、各実施例および比較例の樹脂フィルムについての、貯蔵弾性、損失弾性、tanδの解析結果を示す。なお、解析結果の各値は、3つの試験片に対する測定から得られた値の平均値である。
【0072】
貯蔵弾性の解析値は、貯蔵弾性曲線における転移温度T1および転移温度T1での貯蔵弾性率G1である。転移温度T1は、貯蔵弾性曲線における変曲点よりも低温側であるガラス領域の近似直線と、変曲点よりも高温側である転移領域の近似直線との交点の温度とした。低温側の近似直線は、変曲点とそれよりも約10度だけ低い点から約5度だけ低い点までの間の測定点の集団を直線に近似することにより作成した。高温側の近似直線は、変曲点とそれより約5度だけ高い点から約10度だけ高い点までの間の測定点の集団を直線に近似することにより作成した。
【0073】
損失弾性の解析値は、損失弾性曲線におけるピーク位置での温度T2および損失弾性率G2である。tanδの解析値は、損失正接曲線におけるピーク位置での温度T3およびtanδの値である。
【0074】
表2は、実施例1および比較例の積層体についての、酸素透過度および水蒸気透過度の測定結果を示す。ゲルボフレックス試験前の実施例1と、ゲルボフレックス試験後の実施例1および比較例とについては、2つの試験片に対して各透過度を測定し、その平均値を求めた。
【0075】
【0076】
【0077】
表1が示すように、リサイクルPETを含む実施例1~3では、貯蔵弾性曲線における転移温度T1が80℃以上88℃以下であり、かつ、転移温度T1での貯蔵弾性率G1が3.8GPa以上4.1GPa以下である。一方、リサイクルPETを含まない比較例の貯蔵弾性率G1は、4.1GPaよりも大きい。すなわち、比較例の樹脂フィルムにおいては、実施例1~3の樹脂フィルムよりも、弾性体としての性質が強くなっていることが示唆される。
【0078】
また、実施例1~3では、損失弾性曲線におけるピーク位置での温度T2が95℃以上102℃以下であり、かつ、ピーク位置の損失弾性率G2が0.30GPa以上0.37GPa以下である。一方、比較例の温度T2は、102℃よりも大きい。すなわち、比較例の樹脂フィルムでは、低温領域で、粘性に起因した柔軟性が発揮され難くなっていることが示唆される。なお、比較例のピーク位置の損失弾性率G2は、0.37よりも大きいが、実施例と比較例との間の貯蔵弾性率G1の差と比較すると、損失弾性率G2の差は小さく、粘性体としての性質が比較例において顕著に強くなっているとは言い難い。
【0079】
また、実施例1~3では、損失正接曲線におけるピーク位置の温度T3が108℃以上115℃以下であり、ピーク位置のtanδが0.160以上0.190以下である。一方、比較例のピーク位置のtanδは、0.160よりも小さい。すなわち、実施例1~3と比べて、比較例では、弾性体としての性質に対する粘性体としての性質が小さく、外力への応答に際しての粘性の寄与の割合が小さくなっていることが示唆される。また、比較例の温度T3は、115℃よりも大きく、比較例の樹脂フィルムでは、低温領域で柔軟性が発揮され難くなっていることが示唆される。
【0080】
表2が示すように、実施例1は、比較例と比べて、ゲルボフレックス試験の前後での酸素透過度の低下が小さい。また、実施例1は、比較例と比べて、ゲルボフレックス試験の前後での水蒸気透過度の低下も小さい。したがって、比較例よりも実施例1の方が、ゲルボフレックス試験の前後でのガスバリア性の低下が抑えられることが確認された。すなわち、貯蔵弾性、損失弾性、tanδの各パラメータが上記範囲内であれば、樹脂フィルム10の柔軟性が好適に得られ、その結果、外力の印加に対する積層体のガスバリア性の低下が抑えられることが示された。
【0081】
以上、実施形態および実施例にて説明したように、上記樹脂フィルム、積層体、および、包装袋によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)樹脂フィルム10の損失正接曲線におけるピーク位置のtanδが、0.160以上0.190以下である。これにより、樹脂フィルム10において、弾性体としての性質に対する粘性体としての性質の大きさが好適となり、柔軟性が高められる。すなわち、樹脂フィルム10において、外力への応答に際しての弾性の寄与に対する粘性の寄与の割合が十分に大きくなるため、振動の吸収性が高くなる。したがって、積層体20に外力が繰り返し印加された場合でも、樹脂フィルム10に積層されたガスバリア層11の動きが抑えられて、ガスバリア層11における欠陥の発生が抑えられる。それゆえ、積層体20のガスバリア性の低下を抑えることができる。また、樹脂フィルム10の弾性体としての性質に対する粘性体としての性質が大きくなりすぎないため、積層体20における包装材としての適性の低下が抑えられる。
【0082】
(2)樹脂フィルム10の損失正接曲線におけるピーク位置の温度T3が、108℃以上115℃以下である。これにより、ピーク位置の温度T3が高すぎないため、包装袋30の使用環境で、粘性に起因した樹脂フィルム10の柔軟性が良好に発揮されやすい。
【0083】
(3)樹脂フィルム10の貯蔵弾性曲線において、転移温度T1が80℃以上88℃以下であり、かつ、転移温度T1における貯蔵弾性率G1が3.8GPa以上4.1GPa以下である。これにより、包装袋30の使用環境において、樹脂フィルム10の弾性体としての性質の強さが好適となる。すなわち、樹脂フィルム10において、外力への応答に際しての弾性の寄与が大きくなりすぎないため、積層体20のガスバリア性の低下が抑えられる。一方、樹脂フィルム10の弾性体としての性質が弱くなりすぎないため、積層体20における包装材としての適性の低下が抑えられやすい。
【0084】
(4)樹脂フィルム10の損失弾性曲線において、ピーク位置の温度T2が95℃以上102℃以下であり、かつ、ピーク位置の損失弾性率G2が0.30GPa以上0.37GPa以下である。これにより、包装袋30の使用環境の温度が含まれる低温領域で、樹脂フィルム10の粘性に起因した柔軟性が良好に発揮されやすい。それゆえ、積層体20のガスバリア性の低下が抑えられる。また、樹脂フィルム10の粘性体としての性質が強くなりすぎないため、積層体20における包装材としての適性の低下が抑えられやすい。
【0085】
(5)樹脂フィルム10とガスバリア層11とを備える積層体20であれば、外力が繰り返し印加された場合でも、積層体20におけるガスバリア性の低下が抑えられる。したがって、包装材としての利用に対する積層体20の適性が高められる。
【0086】
(6)ガスバリア層11が、酸化アルミニウムおよび酸化珪素の少なくとも一方を含む第1バリア層と、高分子材料を含む第2バリア層とを有することにより、積層体20のガスバリア性が高められる。
【0087】
(7)第2バリア層が第1バリア層に隣接して積層されていることにより、第2バリア層による第1バリア層の保護およびガスバリア性の補完が可能である。
(8)第2バリア層が、Si(OR1)4、もしくは、R2Si(OR3)3(OR1、OR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物を1種以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含むことにより、第2バリア層による第1バリア層の保護およびガスバリア性の補完の効果が高められる。
【0088】
(9)積層体20から構成される包装袋30であれば、商品の輸送時の振動などに起因して包装袋30におけるガスバリア性が低下することが抑えられる。したがって、包装された対象物の品質の低下が抑えられる。
【符号の説明】
【0089】
10…樹脂フィルム
11…ガスバリア層
20…積層体
30…包装袋