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特許7592997地絡継電器、地絡要因推定方法、プログラム、及び推定基準生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】地絡継電器、地絡要因推定方法、プログラム、及び推定基準生成方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20241126BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01R31/52
H02J13/00 301D
H02J13/00 301A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020122291
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2021152517
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020052945
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003171
【氏名又は名称】株式会社戸上電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】中原 健志
(72)【発明者】
【氏名】篠田 幸裕
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-300806(JP,A)
【文献】特開平09-019045(JP,A)
【文献】特開平06-113439(JP,A)
【文献】特開2011-083173(JP,A)
【文献】特開2012-032301(JP,A)
【文献】特開平06-289086(JP,A)
【文献】特開2017-093068(JP,A)
【文献】特許第3213304(JP,B2)
【文献】特開昭61-230065(JP,A)
【文献】特開昭63-080711(JP,A)
【文献】特開昭63-011019(JP,A)
【文献】特公平06-070662(JP,B2)
【文献】特許第3039936(JP,B2)
【文献】特許第3532182(JP,B2)
【文献】特開2019-032315(JP,A)
【文献】特開2019-208317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/50-31/74、
19/00-19/32、
H02J 13/00、
H02H 3/32-3/52、
1/00-3/07、
99/00、
3/26-3/30、
H01H 47/00-47/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
零相電流に基づいて、需要家設備における地絡を検出する地絡検出部と、
前記地絡が検出された場合に、電力系統と前記需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、
前記地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における前記零相電流の時間変化を示す電流データを抽出するデータ抽出部と、
前記零相電流の最大値と最小値が一定値となるように前記電流データを正規化して正規化データを生成する正規化部と、
前記正規化データに基づいて前記電流データの波形の特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記特徴量に基づいて、前記地絡の要因が前記需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定する推定部と、
前記推定部の推定結果を出力する出力部と、を備え、
前記特徴量算出部は、
前記零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を前記正規化データに基づいて算出し、
前記零相電流の変動幅を表す第2特徴量を前記正規化データに基づいて算出し、
前記推定部は、
定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに前記電流データの波形が属するか否かを前記第1特徴量に基づいて推定し、
前記候補グループに前記電流データの波形が属するか否かと、前記第2特徴量とに基づいて、前記地絡の要因が前記ケーブル劣化であるかその他であるかを推定する、地絡継電器。
【請求項2】
零相電流に基づいて、需要家設備における地絡を検出する地絡検出部と、
前記地絡が検出された場合に、電力系統と前記需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、
前記地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における前記零相電流の時間変化を示す電流データを抽出するデータ抽出部と、
前記零相電流の最大値と最小値が一定値となるように前記電流データを正規化して正規化データを生成する正規化部と、
前記正規化データに基づいて前記電流データの波形の特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記特徴量に基づいて、前記地絡の要因が前記需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定する推定部と、
前記推定部の推定結果を出力する出力部と、を備え、
前記特徴量算出部は、前記零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を前記正規化データに基づいて算出し、
前記推定部は、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに前記電流データの波形が属するか否かを前記第1特徴量に基づいて推定し、
前記特徴量算出部は、前記電流データの波形が前記候補グループに属すると推定された場合に、前記変動期間における前記零相電流の変動幅を表す第2特徴量を前記正規化データに基づいて更に算出し、
前記推定部は、前記地絡の要因が前記ケーブル劣化であるかその他であるかを前記第2特徴量に基づいて更に推定する、地絡継電器。
【請求項3】
零相電流に基づいて、模擬設備における模擬地絡の発生を検出する地絡検出部と、前記模擬地絡の発生が検出された場合に、電力系統と模擬設備との間の模擬開閉器を開放する制御部と、を有する模擬継電器から、前記地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における前記零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、
前記零相電流の最大値と最小値が一定値となるように前記電流データを正規化して正規化データを生成することと、
前記零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を前記正規化データに基づいて算出することと、
前記模擬地絡の既知の要因と前記第1特徴量とを対応付けた第1レコードを蓄積することと、
定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに電流データの波形が属するか否かを前記第1特徴量に基づいて推定するための第1推定基準を、蓄積された第1レコードに基づいて生成することと、
前記候補グループに属する電流データの前記変動期間における前記零相電流の変動幅を表す第2特徴量を前記正規化データに基づき算出することと、
前記模擬地絡の既知の要因と前記第2特徴量とを対応付けた第2レコードを蓄積することと、
前記模擬地絡の要因が前記模擬設備内のケーブル劣化であるかその他であるかを前記第2特徴量に基づいて推定するための第2推定基準を、蓄積された第2レコードに基づいて生成することと、を含む、推定基準生成方法。
【請求項4】
零相電流に基づいて、需要家設備における地絡を検出する地絡検出部と、
前記地絡が検出された場合に、電力系統と前記需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、
前記地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における前記零相電流の時間変化を示す電流データを抽出するデータ抽出部と、
前記電流データにおける前記零相電流の絶対値の最大値を基準として前記電流データを正規化し、正規化データを生成する正規化部と、
前記正規化データに基づいて、前記電流データの波形の特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記特徴量に基づいて、前記地絡の要因が前記需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定する推定部と、
前記推定部の推定結果を出力する出力部と、を備え、
前記特徴量算出部は、
前記零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を前記正規化データに基づいて算出し、
前記電流データの中央値に対する、前記零相電流の偏りを表す第2特徴量を前記正規化データに基づいて算出し、
前記推定部は、
定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに前記電流データの波形が属するか否かを前記第1特徴量に基づいて推定し、
前記候補グループに前記電流データの波形が属するか否かと、前記第2特徴量とに基づいて、前記地絡の要因が前記ケーブル劣化であるかその他であるかを推定する、地絡継電器。
【請求項5】
零相電流に基づいて、需要家設備における地絡を検出する地絡検出部と、
前記地絡が検出された場合に、電力系統と前記需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、
前記地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における前記零相電流の時間変化を示す電流データを抽出するデータ抽出部と、
前記電流データにおける前記零相電流の絶対値の最大値を基準として前記電流データを正規化し、正規化データを生成する正規化部と、
前記正規化データに基づいて、前記電流データの波形の特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記特徴量に基づいて、前記地絡の要因が前記需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定する推定部と、
前記推定部の推定結果を出力する出力部と、を備え、
前記特徴量算出部は、前記零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を前記正規化データに基づいて算出し、
前記推定部は、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに前記電流データの波形が属するか否かを前記第1特徴量に基づいて推定し、
前記特徴量算出部は、前記電流データの波形が前記候補グループに属すると推定された場合に、前記電流データの中央値に対する、前記変動期間の前記零相電流の偏りを表す第2特徴量を前記正規化データに基づいて更に算出し、
前記推定部は、前記地絡の要因が前記ケーブル劣化であるかその他であるかを前記第2特徴量に基づいて更に推定する、地絡継電器。
【請求項6】
零相電流に基づいて地絡の発生を検出する地絡検出部と、前記地絡の発生が検出された場合に、電力系統と需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、を備える地絡継電器から、前記地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における前記零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、
前記電流データにおける前記零相電流の絶対値の最大値を基準として前記電流データを正規化し、正規化データを生成することと、
前記正規化データに基づいて、前記電流データの波形の特徴量を算出することと、
前記特徴量に基づいて、前記地絡の要因が前記需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、
推定した結果を出力することと、を含み、
前記正規化データに基づいて、前記電流データの波形の特徴量を算出することは、
前記零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を前記正規化データに基づいて算出することと、
前記零相電流の変動幅を表す第2特徴量を前記正規化データに基づいて算出することと、
を含み、
前記特徴量に基づいて、前記地絡の要因が前記需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することは、
定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに前記電流データの波形が属するか否かを前記第1特徴量に基づいて推定することと、
前記候補グループに前記電流データの波形が属するか否かと、前記第2特徴量とに基づいて、前記地絡の要因が前記ケーブル劣化であるかその他であるかを推定することと、
を含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地絡継電器、地絡要因推定方法、プログラム、及び推定基準生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、配電線における零相の電圧又は電流の時間的な変化を示す零相データを取得するデータ取得部と、零相データに基づいて、地絡が発生している地絡期間を決定する決定部と、地絡期間に対応する零相データを学習済みモデルに入力することにより得られた分類結果に基づいて、地絡期間に含まれる所定期間ごとに地絡要因を推定する推定部と、を備える地絡要因推定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-208317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、配電線により電力供給を受ける需要家設備内における地絡要因を簡素な構成で推定できる装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る地絡継電器は、零相電流に基づいて、需要家設備における地絡を検出する地絡検出部と、地絡が検出された場合に、電力系統と需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出するデータ抽出部と、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定する推定部と、推定部の推定結果を出力する出力部と、を備える。
【0006】
地絡継電器は、電流データの波形の特徴量を算出する特徴量算出部を更に備え、推定部は、特徴量に基づいて、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを推定してもよい。
【0007】
地絡継電器は、零相電流の最大値と最小値が一定値となるように電流データを正規化して正規化データを生成する正規化部を更に備え、特徴量算出部は、正規化データに基づいて特徴量を算出してもよい。
【0008】
特徴量算出部は、零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を正規化データに基づいて算出し、推定部は、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに電流データの波形が属するか否かを第1特徴量に基づいて推定し、特徴量算出部は、電流データの波形が候補グループに属すると推定された場合に、変動期間における零相電流の変動幅を表す第2特徴量を正規化データに基づいて更に算出し、推定部は、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを第2特徴量に基づいて更に推定してもよい。
【0009】
本開示の他の側面に係る地絡要因推定方法は、零相電流に基づいて地絡の発生を検出する地絡検出部と、地絡の発生が検出された場合に、電力系統と需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、を備える地絡継電器から、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定した結果を出力することと、を含む。
【0010】
本開示の更に他の側面に係るプログラムは、零相電流に基づいて地絡の発生を検出する地絡検出部と、地絡の発生が検出された場合に、電力系統と需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、を備える地絡継電器から、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定した結果を出力することと、を含む地絡要因推定方法を装置に実行させる。
【0011】
本開示の更に他の側面に係る推定基準生成方法は、零相電流に基づいて、模擬設備における模擬地絡の発生を検出する地絡検出部と、模擬地絡の発生が検出された場合に、電力系統と模擬設備との間の模擬開閉器を開放する制御部と、を有する模擬継電器から、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データの波形の特徴量を算出することと、模擬地絡の既知の要因と特徴量とを対応付けたレコードを蓄積することと、電流データの波形に基づいて、模擬地絡の要因が模擬設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定するための推定基準を、蓄積されたレコードに基づいて生成することと、を含む。
【0012】
推定基準生成方法は、零相電流の最大値と最小値が一定値となるように電流データを正規化して正規化データを生成することを更に含み、特徴量を算出することは、零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を正規化データに基づいて算出することを含み、レコードを蓄積することは、模擬地絡の既知の要因と第1特徴量とを対応付けた第1レコードを蓄積することを含み、推定基準を生成することは、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに電流データの波形が属するか否かを第1特徴量に基づいて推定するための第1推定基準を、蓄積された第1レコードに基づいて生成することを含み、特徴量を算出することは、候補グループに属する電流データの変動期間における零相電流の変動幅を表す第2特徴量を正規化データに基づき算出することを更に含み、レコードを蓄積することは、模擬地絡の既知の要因と第2特徴量とを対応付けた第2レコードを蓄積することを更に含み、推定基準を生成することは、模擬地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを第2特徴量に基づいて推定するための第2推定基準を、蓄積された第2レコードに基づいて生成することを更に含んでいてもよい。
【0013】
本開示の更に他の側面に係る地絡継電器は、零相電流に基づいて、需要家設備における地絡を検出する地絡検出部と、地絡が検出された場合に、電力系統と需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出するデータ抽出部と、電流データにおける零相電流の絶対値の最大値を基準として電流データを正規化し、正規化データを生成する正規化部と、正規化データに基づいて、電流データの波形の特徴量を算出する特徴量算出部と、特徴量に基づいて、地絡の要因が需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定する推定部と、推定部の推定結果を出力する出力部と、を備えていてもよい。
【0014】
特徴量算出部は、零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を正規化データに基づいて算出し、推定部は、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに電流データの波形が属するか否かを第1特徴量に基づいて推定し、特徴量算出部は、電流データの波形が候補グループに属すると推定された場合に、電流データの中央値に対する、変動期間の零相電流の偏りを表す第2特徴量を正規化データに基づいて更に算出し、推定部は、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを第2特徴量に基づいて更に推定してもよい。
【0015】
本開示の更に他の側面に係る地絡要因推定方法は、零相電流に基づいて地絡の発生を検出する地絡検出部と、地絡の発生が検出された場合に、電力系統と需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、を備える地絡継電器から、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データにおける零相電流の絶対値の最大値を基準として電流データを正規化し、正規化データを生成することと、正規化データに基づいて、電流データの波形の特徴量を算出することと、特徴量に基づいて、地絡の要因が需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定した結果を出力することと、を含む。
【0016】
本開示の更に他の側面に係るプログラムは、零相電流に基づいて地絡の発生を検出する地絡検出部と、地絡の発生が検出された場合に、電力系統と需要家設備との間の開閉器を開放する制御部と、を備える地絡継電器から、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データにおける零相電流の絶対値の最大値を基準として電流データを正規化し、正規化データを生成することと、正規化データに基づいて、電流データの波形の特徴量を算出することと、特徴量に基づいて、地絡の要因が需要家設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定した結果を出力することと、を含む地絡要因推定方法を装置に実行させる。
【0017】
本開示の更に他の側面に係る推定基準生成方法は、零相電流に基づいて、模擬設備における模擬地絡の発生を検出する地絡検出部と、模擬地絡の発生が検出された場合に、電力系統と模擬設備との間の模擬開閉器を開放する制御部と、を有する模擬継電器から、地絡検出部が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データにおける零相電流の絶対値の最大値を基準として電流データを正規化し、正規化データを生成することと、正規化データに基づいて、電流データの波形の特徴量を算出することと、模擬地絡の既知の要因と特徴量とを対応付けたレコードを蓄積することと、特徴量に基づいて、模擬地絡の要因が模擬設備内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定するための推定基準を、蓄積されたレコードに基づいて生成することと、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、配電線により電力供給を受ける需要家設備内における地絡要因を簡素な構成で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】地絡要因推定システムの概略構成を示す模式図である。
図2】需要家設備の配線例を示す模式図である。
図3】地絡継電器の機能的な構成を例示するブロック図である。
図4】リミット処理前後の正規化データを例示するグラフである。
図5】地絡が生じた状態における零相電流の波形を例示するグラフである。
図6】第2特徴量を例示するグラフである。
図7】第2推定基準を例示するグラフである。
図8】推定基準生成装置の機能的な構成を示すブロック図である。
図9】地絡継電器、模擬継電器、及び推定基準生成装置のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図10】地絡模擬設備の遮断手順を例示するフローチャートである。
図11】推定基準の生成手順を例示するフローチャートである。
図12】地絡要因の推定手順を例示するフローチャートである。
図13】第2特徴量の変形例を示すグラフである。
図14】第2推定基準の変形例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
〔地絡要因推定システム〕
図1に示す地絡要因推定システム1は、需要家設備30内で地絡が生じた状態の電流波形に基づいて、需要家設備30内における地絡の要因を推定するためのシステムである。ここでの地絡は、絶縁抵抗が低下している微地絡も含む。需要家設備30の具体例としては、例えば6600Vにて電力系統90から電力の供給を受ける高圧需要家設備が挙げられる。
【0022】
需要家設備30の線路と高圧線路91との間には、需要家設備30は、開閉器11と、地絡継電器12とを有する。開閉器11は、電力系統90の高圧線路91と、需要家設備30内の線路との間に設けられている。地絡継電器12は、開閉器11に流れる零相電流と零相電圧の情報に基づいて地絡を検出した場合に、開閉器11を開放させて需要家設備30を高圧線路91から切り離す。地絡要因推定システム1は、地絡を検出するために地絡継電器12が取得した電流の情報に基づいて、需要家設備30内の地絡の要因を推定する。
【0023】
図2に示すように、開閉器11を介して高圧線路91から需要家設備30内に供給された電力(以下、「需要家内電力」という。)は、地中に埋設された電線管32内に配線されたケーブル31により、キュービクル33等に導かれる。また、需要家内電力は、空中に配線された電線34によってキュービクル33等に導かれる場合もある。電線34は、絶縁性の碍子35によって支持される。
【0024】
需要家設備30内に生じ得る地絡の要因の具体例としては、ケーブル31の劣化、ギャップ放電、碍子35の割れ、碍子35の汚損、電線34への金属接触、電線34への鳥獣接触等が挙げられる。地絡要因推定システム1は、需要家設備30内で地絡が生じた場合に、その要因がケーブル31の劣化(以下、「ケーブル劣化」という。)であるか、その他であるかを推定する。
【0025】
図1に示すように、地絡要因推定システム1は、地絡要因推定装置13と、推定基準生成装置24とを有する。地絡要因推定装置13と推定基準生成装置24とは、ネットワーク回線80を介して接続されている。ネットワーク回線80はローカルエリアネットワークであってもよいし、ワイドエリアネットワーク(例えばインターネット)であってもよい。地絡要因推定装置13と推定基準生成装置24とは、ネットワーク回線80を介することなく通信ケーブルにより接続されていてもよいし、近距離無線通信により接続されていてもよい。地絡要因推定装置13は、地絡を検出するために地絡継電器12が取得した電流の情報に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるかその他であるかを推定する。
【0026】
図1において、地絡要因推定装置13は地絡継電器12に組み込まれているが、必ずしもこれに限られない。地絡要因推定装置13は、地絡継電器12と通信可能な端末装置(例えばタブレット型コンピュータ、ノート型コンピュータ、又はスマートフォン等のモバイル端末)に組み込まれていてもよい。また、地絡要因推定装置13は、地絡継電器12と通信可能なサーバ装置(例えばクラウド上のサーバ装置)に組み込まれていてもよい。
【0027】
推定基準生成装置24は、地絡模擬設備20において取得したデータに基づいて、地絡要因推定装置13による地絡の要因の推定基準を生成する。例えば推定基準生成装置24は、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるかその他であるかを推定するための推定基準を生成する。地絡模擬設備20は、人工地絡発生装置21と、模擬開閉器22と、模擬継電器23とを有する。
【0028】
人工地絡発生装置21は、需要家設備30において想定される複数種類の要因で、人工的に地絡を生じさせる装置である。模擬開閉器22は、電力系統90の高圧線路91と、人工地絡発生装置21の線路との間に設けられている。模擬継電器23は、模擬開閉器22に流れる電流の情報に基づいて地絡を検出した場合に、模擬開閉器22を開放させて人工地絡発生装置21を高圧線路91から切り離す。模擬開閉器22は、手動型の開閉器であってもよい。この場合、人工地絡発生装置21は、模擬継電器23の代わりに、模擬開閉器22に流れる電流を測定する電流計を有していてもよい。以下、地絡要因推定装置13を含む地絡継電器12の構成と、推定基準生成装置24の構成とを詳細に例示する。
【0029】
(地絡継電器)
地絡要因推定装置13を含む地絡継電器12は、零相電流に基づいて、需要家設備30における地絡を検出することと、地絡が検出された場合に、電力系統90と需要家設備30との間の開閉器11を開放することと、地絡が検出されたタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定結果を出力することと、を実行するように構成されている。
【0030】
図3は、地絡継電器12の機能的な構成を例示するブロック図である。図3に示すように、地絡継電器12は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、電流検出部111と、データ蓄積部112と、地絡検出部113と、制御部114と、地絡要因推定装置13とを有する。
【0031】
電流検出部111は、開閉器11内又は開閉器11の近傍に設けられた電流センサ195(図9を参照して後述する)等からの信号に基づいて、開閉器11に流れる零相電流値を検出する。データ蓄積部112は、電流検出部111が検出した零相電流値を時系列で蓄積する。地絡検出部113は、データ蓄積部112が蓄積する時系列の零相電流値に基づいて、需要家設備における地絡を検出する。例えば地絡検出部113は、所定期間における時系列の零相電流値(以下、「地絡検出用の電流データ」という。)が所定レベルを超えた場合に地絡を検出する。
【0032】
制御部114は、地絡検出部113により地絡が検出された場合に、開閉器11を開放する。例えば制御部114は、開閉器11が有するコイルに給電するか、あるいは開閉器11が有するコイルへの給電を停止することによって開閉器11を開放する。これにより、需要家設備30が電力系統90から遮断される。
【0033】
地絡要因推定装置13は、開閉器11が開放されたタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定結果を出力することと、を実行する。例えば地絡要因推定装置13は、より細分化された機能ブロックとして、電流データ抽出部121と、正規化部122と、特徴量算出部123と、推定基準取得部124と、推定基準記憶部125と、推定部126と、出力部127とを有する。
【0034】
電流データ抽出部121(データ抽出部)は、地絡検出部113が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データをデータ蓄積部112から抽出する。例えば電流データ抽出部121は、地絡検出部113が地絡を検出したタイミングを含む解析期間における時系列の零相電流値(以下、「要因推定用の電流データ」という。)をデータ蓄積部112から抽出する。要因推定用の電流データは、上述した地絡検出用の電流データと同じであってもよい。
【0035】
正規化部122は、零相電流の最大値及び最小値が一定値となるように要因推定用の電流データを正規化して正規化データを生成する。一例として、正規化部122は、要因推定用の電流データにおける零相電流値の最大値と最小値を求め、各零相電流値と最小値との差分を、最大値と最小値とで除算することによって正規化データを生成する。この例により生成された正規化データにおいては、上記最小値がゼロとなり、上記最大値が1となる。なお、正規化データの生成方式は、最小値及び最大値が所望の値となるように適宜変更可能である。
【0036】
特徴量算出部123は、要因推定用の電流データの波形の特徴量を算出する。特徴量とは、解析期間の零相電流値に所定の演算を施すことで算出される数値である。特徴量は、複数の数値の組み合わせで表されるベクトルであってもよい。特徴量算出部123は、正規化データに基づいて特徴量を算出してもよい。地絡の要因推定に適した特徴量を算出し得る限り、特徴量の算出手法に特に制限はない。例えば特徴量算出部123は、解析期間の零相電流値に対し統計処理を施すことで特徴量を算出してもよいし、解析期間の零相電流値に対しフーリエ変換等の周波数解析を施すことで特徴量を算出してもよい。
【0037】
推定基準取得部124は、要因推定用の電流データに基づき、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるかその他であるかを推定するための推定基準を推定基準生成装置24から取得する。推定基準記憶部125は、推定基準取得部124が取得した推定基準を記憶する。
【0038】
推定部126は、要因推定用の電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるかその他であるかを推定する。例えば推定部126は、特徴量算出部123が算出した特徴量に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるかその他であるかを推定する。一例として、推定部126は、特徴量算出部123が算出した特徴量が、推定基準記憶部125が記憶する推定基準を満たすか否かに基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるかその他であるかを推定する。
【0039】
推定基準の具体例としては、特徴量に対する閾値が挙げられる。特徴量がベクトルである場合、推定基準はベクトル空間における境界であってもよい。境界は関数として定められていてもよいし、離散的な点列データとして定められていてもよい。推定基準は、入力ベクトルの入力に応じて、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを示す出力ベクトルを出力するニューラルネットワークであってもよい。この場合、要因推定用の電流データ自体、又は正規化データ自体を入力ベクトルとしてもよい。
【0040】
出力部127は、推定部126の推定結果を出力する。例えば出力部127は、画像表示、音声再生等による情報通知が可能なユーザインタフェースに、推定部126の推定結果を通知するためのデータを出力する。ユーザインタフェースの具体例としては、後述の表示デバイス197が挙げられる。
【0041】
以下、特徴量算出部123による特徴量の算出と、推定部126による地絡要因の推定との具体例を示す。特徴量算出部123は、零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を正規化データに基づいて算出する。例えば特徴量算出部123は、正規化データの標準偏差に基づいて第1特徴量として算出する。特徴量算出部123は、正規化データの標準偏差自体を第1特徴量として算出してもよいし、標準偏差に更なる演算を施して(例えば所定倍率を乗算して)第1特徴量を算出してもよい。また、特徴量算出部123は、正規化データに対しリミット処理を施して第2正規化データを生成し、第2正規化データに基づいて第1特徴量を算出してもよい。
【0042】
図4の(a)は、リミット処理前の正規化データを示すグラフである。図4の(b)、(c)は、リミット処理後の第2正規化データを例示するグラフである。図4に示されるように、第2正規化データは、正規化データのうち、所定の下限値から上限値までの範囲内に存在するデータである。上限値は、例えば正規化データの平均値(図4の(a)中の平均値AVE)に所定値を加算した値であり、下限値は、正規化データの平均値から所定値を減算した値である。なお、第1特徴量は、第2正規化データと、上記平均値との差の絶対値の積分値(例えば図4の(c)においてハッチングされた部分の面積)であってもよい。
【0043】
推定部126は、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに要因推定用の電流データの波形が属するか否かを第1特徴量に基づいて推定する。定常期間は、零相電流値の変動が実質的に一定となる期間である。実質的に一定とは、例えば、正規化データにおける零相電流値の変動が、所定の微小変動範囲(図6の範囲R1)内であることを意味する。微小変動範囲は、例えば上記最大値と上記最小値との差の10%以下であり、5%以下であってもよく、1%以下であってもよい。
【0044】
インパルス状の変動期間とは、定常期間(図6の期間P2)に対して相対的に短い期間で零相電流値が実質的に変動する期間(図6の期間P1)である。実質的に変動するとは、例えば上記微小変動範囲を超えて変動することを意味する。インパルス状の変動期間の長さは、定常期間の長さに対して50%以下であり、20%以下であってもよく、10%以下であってもよい。
【0045】
図5は、地絡が生じた状態における零相電流の波形を例示するグラフである。図5の(a)は、ケーブル劣化による地絡が生じた場合の電流波形である。図5の(b)は、ギャップ放電による地絡が生じた場合の電流波形である。図5の(c)は、碍子割れによる地絡が生じた場合の電流波形である。図5の(d)は、碍子汚損による地絡が生じた場合の電流波形である。図5の(e)は、金属接触による地絡が生じた場合の電流波形である。図5の(f)は、鳥獣接触による地絡が生じた場合の電流波形である。
【0046】
図5に示されるように、ケーブル劣化又はギャップ放電により地絡が生じる場合、零相電流の波形は、定常期間とインパルス状の変動期間とが交互に繰り返す波形(以下、「インパルス状波形」という。)となる。これに対し、碍子割れ、碍子汚損、金属接触、又は鳥獣接触により地絡が生じる場合、零相電流の波形は、比較的正弦波に近い波形(以下、「正弦波状波形」という。)となる。
【0047】
図5の(a)又は(b)のようなインパルス状波形と、図5の(c)~(f)のような正弦波状波形とでは、正規化データのばらつきの大きさが大きく異なる。このため、上記第1特徴量に基づくことによって、ケーブル劣化の電流データ及びギャップ放電の電流データを含む候補グループに要因推定用の電流データの波形が属するか否かを適切に判別することが可能である。
【0048】
特徴量算出部123は、電流データの波形が候補グループに属すると推定された場合に、上記変動期間における零相電流の変動幅を表す第2特徴量を正規化データに基づいて更に算出する。例えば特徴量算出部123は、いずれかの変動期間における正規化データの変動幅を第2特徴量として算出する。例えば特徴量算出部123は、図6に示すように、正規化データが上記最大値となる変動期間における変動幅(以下、「最大値基準の変動幅」という。)W1を第2特徴量として算出してもよい。特徴量算出部123は、正規化データが上記最小値となる変動期間における変動幅(以下、「最小値基準の変動幅」という。)W2を第2特徴量として算出してもよい。特徴量算出部123は、最大値基準の変動幅W1と、最小値基準の変動幅W2との組み合わせであるベクトルを第2特徴量として算出してもよい。
【0049】
推定部126は、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを第2特徴量に基づいて更に推定する。図5の(a)に示されるように、ケーブル劣化では、1つの変動期間において、零相電流値は主としてプラス側又はマイナス側のいずれか一方に大きく変化し、他方への変化は小さい傾向がある。これに対し、ギャップ放電では、1つの変動期間において零相電流値がプラス側及びマイナス側の両方に変化する傾向がある。このため、ケーブル劣化とギャップ放電とでは、変動期間における正規化データの変動幅が大きく異なる。
【0050】
図7は、上記ベクトルとして算出された第2特徴量の分布を例示するグラフである。このグラフの横軸は、最大値基準の変動幅W1の大きさを表し、このグラフの横軸は、最小値基準の変動幅W2の大きさを表している。◇印は、ケーブル劣化の正規化データに基づき算出された第2特徴量であり、〇印は、ギャップ放電の正規化データに基づき算出された第2特徴量である。図7に示されるように、ケーブル劣化と、ギャップ放電とでは、第2特徴量の分布が明確に異なる。このため、上記第2特徴量に基づくことによって、要因推定用の電流データの波形が、ケーブル劣化の波形であるか、ギャップ放電の波形であるかを適切に判別することが可能である。
【0051】
以上に例示したように、推定部126が、第1特徴量及び第2特徴量に基づく推定を行う場合、推定基準取得部124は、第1推定基準と第2推定基準とを推定基準生成装置24から取得する。
【0052】
第1推定基準は、要因推定用の電流データの波形が上記候補グループに属するか否かを第1特徴量に基づいて推定するための基準である。第1推定基準は閾値であってもよい。例えば推定部126は、第1特徴量が第1推定基準よりも小さい場合に、要因推定用の電流データの波形が候補グループに属すると推定し、第1特徴量が第1推定基準よりも大きい場合に、要因推定用の電流データの波形が候補グループに属しないと推定する。
【0053】
第2推定基準は、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを第2特徴量に基づいて推定するための基準である。第2特徴量が単一の数値である場合に、第2推定基準は閾値であってもよい。例えば推定部126は、第2特徴量が第2推定基準よりも小さい場合に、地絡の要因がケーブル劣化であると推定し、第2特徴量が第2推定基準よりも大きい場合に、地絡の要因がその他(ギャップ放電)であると推定する。第2特徴量が上記ベクトルである場合、第2推定基準は、ケーブル劣化の第2特徴量の分布エリアと、その他(ギャップ放電)の第2特徴量の分布エリアとの境界(例えば図7中の境界PL)であってもよい。
【0054】
(推定基準生成装置)
推定基準生成装置24は、模擬継電器23により模擬地絡が検出されたタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを模擬継電器23から抽出することと、電流データの特徴量を算出することと、模擬地絡の既知の要因と特徴量とを対応付けた特徴量レコードを蓄積することと、電流データの波形に基づいて、模擬地絡の要因が地絡模擬設備20内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定するための推定基準を、蓄積された特徴量レコードに基づいて生成することと、を実行するように構成されている。
【0055】
図8は、模擬継電器23及び推定基準生成装置24の機能的な構成を示すブロック図である。模擬継電器23は、機能ブロックとして、電流検出部211と、データ蓄積部212と、地絡検出部213と、制御部214とを有する。
【0056】
電流検出部211は、模擬開閉器22内又は模擬開閉器22の近傍に設けられた電流センサ(不図示)等からの信号に基づいて、模擬開閉器22に流れる零相電流値を検出する。データ蓄積部212は、電流検出部211が検出した零相電流値を時系列で蓄積する。
【0057】
地絡検出部213は、データ蓄積部212が蓄積する時系列の零相電流値に基づいて、地絡模擬設備20における模擬地絡を検出する。例えば地絡検出部213は、所定期間における時系列の零相電流値(以下、「模擬地絡検出用の電流データ」という。)が所定レベルを超えた場合に模擬地絡を検出する。
【0058】
制御部214は、地絡検出部213により地絡が検出された場合に、模擬開閉器22を開放する。例えば制御部214は、模擬開閉器22が有するコイルに給電するか、あるいは模擬開閉器22が有するコイルへの給電を停止することによって模擬開閉器22を開放する。これにより、地絡模擬設備20が電力系統90から遮断される。
【0059】
推定基準生成装置24は、機能ブロックとして、電流データ抽出部221と、正規化部222と、特徴量算出部223と、要因情報取得部224と、レコード蓄積部225と、学習用データ記憶部226と、推定基準生成部227と、推定基準記憶部228と、推定基準出力部229とを有する。
【0060】
電流データ抽出部221は、地絡検出部213が模擬地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出する。例えば電流データ抽出部221は、地絡検出部213が模擬地絡を検出したタイミングを含む解析期間における時系列の零相電流値(以下、「特徴量算出用の電流データ」という。)をデータ蓄積部212から抽出する。特徴量算出用の電流データは、上述した模擬地絡検出用の電流データと同じであってもよい。
【0061】
正規化部222は、零相電流の最大値及び最小値が一定値となるように特徴量算出用の電流データを正規化して正規化データを生成する。正規化の手法は、上述した正規化部122による正規化の手法と同様である。
【0062】
特徴量算出部223は、特徴量算出用の電流データの波形の特徴量を算出する。特徴量算出部223は、正規化部222が生成した正規化データに基づいて特徴量を算出してもよい。特徴量算出部223による特徴量の算出手法は、上述した特徴量算出部123による特徴量の算出手法と同様である。
【0063】
要因情報取得部224は、オペレータの入力(例えば後述の入力デバイス296への入力)に基づいて、模擬地絡の既知の要因を示す要因情報を取得する。レコード蓄積部225は、要因情報取得部224が取得した要因情報が示す要因と、特徴量算出部223が算出した特徴量とを対応付けた特徴量レコードを学習用データ記憶部226に蓄積する。
【0064】
推定基準生成部227は、特徴量算出用の電流データの波形に基づいて、模擬地絡の要因が地絡模擬設備20内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定するための推定基準を、蓄積された特徴量レコードに基づいて生成する。推定基準記憶部228は、推定基準生成部227が生成した推定基準を記憶する。推定基準出力部229は、推定基準記憶部228が記憶する推定基準を地絡継電器12に出力する。この推定基準が、上述の推定基準取得部124により取得される。
【0065】
推定基準生成部227は、上述した第1推定基準及び第2推定基準を生成するように構成されていてもよい。この場合、特徴量算出部223は、正規化部222が生成した正規化データに基づいて上記第1特徴量を算出する。レコード蓄積部225は、要因情報取得部224が取得した要因情報が示す要因と、特徴量算出部223が算出した第1特徴量とを対応付けた第1レコードを学習用データ記憶部226に蓄積する。
【0066】
推定基準生成部227は、特徴量算出用の電流データの波形が上記候補グループに属するか否かを第1特徴量に基づいて推定するための第1推定基準を、蓄積された第1レコードに基づいて生成する。例えば推定基準生成部227は、ケーブル劣化又はギャップ放電に対応付けられた第1レコード群と、その他の要因に対応付けられた第1レコード群との境界となる閾値を第1推定基準として生成する。
【0067】
また、特徴量算出部223は、候補グループに属する電流データに対して正規化部222が生成した正規化データに基づいて、上記第2特徴量を更に算出する。レコード蓄積部225は、要因情報取得部224が取得した要因情報が示す要因と、特徴量算出部223が算出した第2特徴量とを対応付けた第2レコードを学習用データ記憶部226に更に蓄積する。
【0068】
推定基準生成部227は、模擬地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを第2特徴量に基づいて推定するための第2推定基準を、蓄積された第2レコードに基づいて生成する。例えば推定基準生成部227は、ケーブル劣化に対応付けられた第2レコード群と、ギャップ放電に対応付けられた第2レコード群との境界となる閾値を第2推定基準として生成する。第2特徴量が上記ベクトルである場合、推定基準生成部227は、ケーブル劣化に対応付けられた第2レコード群と、ギャップ放電に対応付けられた第2レコード群との境界をサポートベクタマシンにより生成してもよい。
【0069】
推定基準生成部227は、上述したニューラルネットワークを上記推定基準として生成してもよい。この場合、蓄積された特徴量レコードを教師データとする機械学習により推定基準を生成する。
【0070】
図9は、地絡継電器12、模擬継電器23、及び推定基準生成装置24のハードウェア構成を例示するブロック図である。地絡継電器12は、通信機能を有するコンピュータであり、回路190を有する。回路190は、プロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、通信ポート194と、電流センサ195と、駆動回路196と、表示デバイス197と、入力デバイス198と、を含む。
【0071】
ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、零相電流に基づいて、需要家設備30における地絡を検出することと、地絡が検出された場合に、電力系統90と需要家設備30との間の開閉器11を開放することと、地絡が検出されたタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定結果を出力することと、を地絡継電器12に実行させるプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した各機能ブロックを地絡継電器12に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0072】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、地絡継電器12の各機能ブロックを構成する。通信ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、推定基準生成装置24との間で情報通信を行う。電流センサ195は、プロセッサ191からの指令に従って、開閉器11に流れる電流を検出する。駆動回路196は、プロセッサ191からの指令に従って、開閉器11を開放する。表示デバイス197及び入力デバイス198は、地絡継電器12のユーザインタフェースとして機能する。表示デバイス197は、例えば液晶モニタ等を含み、ユーザに対する情報表示に用いられる。入力デバイス198は、例えばキーボード等であり、ユーザによる入力情報を取得する。表示デバイス197及び入力デバイス198は、所謂タッチパネルとして一体化されていてもよい。
【0073】
模擬継電器23は、通信機能を有するコンピュータであり、回路280を有する。回路280は、プロセッサ281と、メモリ282と、ストレージ283と、通信ポート284と、電流センサ285と、駆動回路286と、表示デバイス287と、入力デバイス288と、を含む。
【0074】
ストレージ283は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ283は、零相電流に基づいて、地絡模擬設備20における模擬地絡を検出することと、模擬地絡が検出された場合に、電力系統90と地絡模擬設備20との間の模擬開閉器22を開放することと、を模擬継電器23に実行させるプログラムを記憶している。例えばストレージ283は、上述した各機能ブロックを模擬継電器23に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0075】
メモリ282は、ストレージ283の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ281による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ281は、メモリ282と協働して上記プログラムを実行することで、模擬継電器23の各機能ブロックを構成する。通信ポート284は、プロセッサ281からの指令に従って、推定基準生成装置24との間で情報通信を行う。電流センサ285は、プロセッサ281からの指令に従って、開閉器11に流れる電流を検出する。駆動回路286は、プロセッサ281からの指令に従って、開閉器11を開放する。表示デバイス287及び入力デバイス288は、地絡継電器12のユーザインタフェースとして機能する。表示デバイス287は、例えば液晶モニタ等を含み、ユーザに対する情報表示に用いられる。入力デバイス288は、例えばキーボード等であり、ユーザによる入力情報を取得する。表示デバイス287及び入力デバイス288は、所謂タッチパネルとして一体化されていてもよい。
【0076】
推定基準生成装置24は、通信機能を有するコンピュータであり、回路290を有する。回路290は、プロセッサ291と、メモリ292と、ストレージ293と、通信ポート294と、表示デバイス295と、入力デバイス296と、を含む。
【0077】
ストレージ293は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ293は、模擬継電器23により模擬地絡が検出されたタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを模擬継電器23から抽出することと、電流データの特徴量を算出することと、模擬地絡の既知の要因と特徴量とを対応付けた特徴量レコードを蓄積することと、電流データの波形に基づいて、模擬地絡の要因が地絡模擬設備20内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定するための推定基準を、蓄積された特徴量レコードに基づいて生成することと、を推定基準生成装置24に実行させるためのプログラムを記憶している。
【0078】
メモリ292は、ストレージ293の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ291による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ291は、メモリ292と協働して上記プログラムを実行することで、推定基準生成装置24の各機能ブロックを構成する。通信ポート294は、プロセッサ291からの指令に従って、模擬継電器23及び地絡継電器12との間で情報通信を行う。表示デバイス295及び入力デバイス296は、地絡継電器12のユーザインタフェースとして機能する。表示デバイス295は、例えば液晶モニタ等を含み、ユーザに対する情報表示に用いられる。入力デバイス296は、例えばキーボード等であり、ユーザによる入力情報を取得する。表示デバイス295及び入力デバイス296は、所謂タッチパネルとして一体化されていてもよい。
【0079】
〔地絡要因推定手順〕
地絡要因推定方法の一例として、地絡継電器12が実行する地絡要因推定手順を例示する。この手順は、零相電流に基づいて、需要家設備30における地絡を検出することと、地絡が検出された場合に、電力系統90と需要家設備30との間の開閉器11を開放することと、地絡が検出されたタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出することと、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定することと、推定結果を出力することと、を含む。
【0080】
図10に例示するように、地絡継電器12は、まずステップS01,S02,S03を実行する。ステップS01では、電流検出部111が、開閉器11に流れる零相電流値を検出する。ステップS02では、電流検出部111が、零相電流値をデータ蓄積部112に追加する。ステップS03では、データ蓄積部112が蓄積する上記地絡検出用の電流データに基づいて、需要家設備30における地絡があるか否かを、地絡検出部113が確認する。
【0081】
ステップS03において地絡がないと判定した場合、地絡継電器12は処理をステップS01に戻す。以後、ステップS03において地絡が検出されるまで、零相電流値の検出・蓄積と、地絡の有無の確認とが繰り返される。
【0082】
ステップS03において地絡があると判定した場合、地絡継電器12はステップS04,S05,S06,S07,S08を実行する。ステップS04では、制御部114が、開閉器11を開いて需要家設備30を電力系統90から遮断する。ステップS05では、地絡検出部113が地絡を検出したタイミングに基づいて、電流データ抽出部121が上記要因推定用の電流データをデータ蓄積部112から抽出する。
【0083】
ステップS06では、正規化部122が、零相電流の最大値及び最小値が一定値となるように要因推定用の電流データを正規化して正規化データを生成する。ステップS07では、特徴量算出部123が、零相電流のばらつきの大きさを表す上記第1特徴量を正規化データに基づいて算出する。ステップS08では、推定部126が、第1特徴量と第1推定基準とに基づいて、要因推定用の電流データの波形が上記候補グループに属するか否かを確認する。例えば推定部126は、第1特徴量が、第1推定基準より小さいか否かを確認する。
【0084】
ステップS08において要因推定用の電流データの波形が候補グループに属すると判定した場合、地絡継電器12はステップS11,S12を実行する。ステップS11では、特徴量算出部123が、上記変動期間における零相電流の変動幅を表す第2特徴量を正規化データに基づいて更に算出する。ステップS12では、推定部126が、第2特徴量と第2推定基準とに基づいて、地絡の要因がケーブル劣化であるか否かを確認する。例えば推定部126は、第2特徴量が、第2推定基準より小さいか否かを確認する。
【0085】
ステップS12において地絡の要因がケーブル劣化であると判定した場合、地絡継電器12はステップS13を実行する。ステップS13では、出力部127が、推定部126の推定結果として、地絡の要因がケーブル劣化であることを出力する。
【0086】
ステップS08において要因推定用の電流データの波形が候補グループに属しないと判定した場合、及びステップS12において地絡の要因がケーブル劣化でないと判定した場合、地絡継電器12はステップS14を実行する。ステップS14では、出力部127が、推定部126の推定結果として、地絡の要因がその他(ケーブル劣化以外)であることを出力する。以上で地絡要因推定手順が完了する。
【0087】
〔推定基準生成手順〕
推定基準生成方法の一例として、模擬継電器23が実行する地絡模擬設備20の遮断手順と、推定基準生成装置24が実行する地絡要因推定手順とを例示する。
【0088】
(地絡模擬設備の遮断手順)
図11に示すように、模擬継電器23は、まずステップS21,S22,S23を実行する。ステップS21では、電流検出部211が、模擬開閉器22に流れる零相電流値を検出する。ステップS22では、電流検出部211が、零相電流値をデータ蓄積部212に追加する。ステップS23では、データ蓄積部212が蓄積する上記模擬地絡検出用の電流データに基づいて、地絡検出部213が、地絡模擬設備20における模擬地絡があるか否かを確認する。
【0089】
ステップS23において模擬地絡がないと判定した場合、模擬継電器23は処理をステップS21に戻す。以後、ステップS23において模擬地絡が検出されるまで、零相電流値の検出・蓄積と、模擬地絡の有無の確認とが繰り返される。
【0090】
ステップS23において模擬地絡があると判定した場合、模擬継電器23はステップS24を実行する。ステップS24では、制御部214が、模擬開閉器22を開いて地絡模擬設備20を電力系統90から遮断する。以上で地絡模擬設備20の遮断手順が完了する。推定基準生成装置24に上記特徴量レコードを蓄積するために、地絡模擬設備20においては、既知の要因で模擬地絡を発生させて模擬継電器23に以上の手順を実行させることが繰り返される。
【0091】
(推定基準生成手順)
この手順は、模擬継電器23により模擬地絡が検出されたタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを模擬継電器23から抽出することと、電流データの特徴量を算出することと、模擬地絡の既知の要因と特徴量とを対応付けた特徴量レコードを蓄積することと、電流データの波形に基づいて、模擬地絡の要因が地絡模擬設備20内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定するための推定基準を、蓄積された特徴量レコードに基づいて生成することと、を含む。
【0092】
図12に示すように、推定基準生成装置24は、まずステップS31,S32,S33,S34,S35,S36を実行する。ステップS31では、電流データ抽出部221が、地絡検出部213による模擬地絡の検出を待機する。ステップS32では、地絡検出部213が模擬地絡を検出したタイミングに基づいて、電流データ抽出部221が、上記特徴量算出用の電流データをデータ蓄積部212から抽出する。ステップS33では、正規化部222が、零相電流の最大値及び最小値が一定値となるように特徴量算出用の電流データを正規化して正規化データを生成する。ステップS34では、特徴量算出部223が、上記第1特徴量を正規化部222が生成した正規化データに基づいて算出する。
【0093】
ステップS35では、要因情報取得部224が、オペレータの入力に基づいて、模擬地絡の既知の要因を示す要因情報を取得する。ステップS36では、特徴量算出部223が、要因情報に基づいて、特徴量算出用の電流データの波形が上記候補グループに属するか否かを確認する。例えば特徴量算出部223は、模擬地絡の要因がケーブル劣化又はギャップ放電である場合には電流データの波形が候補グループに属すると判定し、模擬地絡の要因がケーブル劣化ではなく、ギャップ放電でもない場合には、電流データの波形が候補グループに属しないと判定する。
【0094】
ステップS36において特徴量算出用の電流データの波形が候補グループに属すると判定した場合、推定基準生成装置24は、ステップS37,S38を実行する。ステップS37では、特徴量算出部223が、上記第2特徴量を、正規化部222が生成した正規化データに基づいて算出する。ステップS38では、要因情報取得部224が取得した要因情報が示す要因と、特徴量算出部223が算出した第1特徴量とを対応付けた第1レコードと、上記要因と、特徴量算出部223が算出した第2特徴量とを対応付けた第2レコードとを、レコード蓄積部225が学習用データ記憶部226に追加する。
【0095】
なお、レコード蓄積部225は、要因と、第1特徴量と、第2特徴量とを対応付けた1つのレコードを学習用データ記憶部226に追加してもよい。この1つのレコードにより、要因と第1特徴量とが対応付けられ、要因と第2特徴量とが対応付けられるので、この1つのレコードは第1レコードと第2レコードとを含む。
【0096】
ステップS36において特徴量算出用の電流データの波形が候補グループに属しないと判定した場合、推定基準生成装置24は、ステップS37を実行することなくステップS38を実行する。この場合、レコード蓄積部225は、第1レコードを学習用データ記憶部226に追加する。
【0097】
次に、推定基準生成装置24は、ステップS41を実行する。ステップS41では、推定基準生成部227が、学習用データ記憶部226に蓄積されたレコードの数が所定数に達したか否かを確認する。
【0098】
ステップS41においてレコードの数が所定数に達していないと判定した場合、推定基準生成装置24は処理をステップS31に戻す。以後、学習用データ記憶部226に蓄積されたレコードの数が所定数に達するまで、特徴量算出用の電流データの抽出と、特徴量の算出と、要因情報の取得と、特徴量レコードの追加とが繰り返される。
【0099】
ステップS41においてレコードの数が所定数に達していると判定した場合、推定基準生成装置24はステップS42,S43を実行する。ステップS42では、推定基準生成部227が、学習用データ記憶部226に蓄積された特徴量レコードに基づいて推定基準を生成し、推定基準記憶部228に上書きする。例えば推定基準生成部227は、学習用データ記憶部226に蓄積された第1レコードに基づいて第1推定基準を算出し、学習用データ記憶部226に蓄積された第2レコードに基づいて第2推定基準を算出する。ステップS43では、推定基準出力部229が、推定基準記憶部228に上書きされた推定基準を推定基準取得部124に出力する。推定基準取得部124は、推定基準出力部229から出力された推定基準を取得し、推定基準記憶部125に上書きする。以上で推定基準生成手順が完了する。
【0100】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、地絡継電器12は、零相電流に基づいて、需要家設備30における地絡を検出する地絡検出部113と、地絡が検出された場合に、電力系統90と需要家設備30との間の開閉器11を開放する制御部114と、地絡検出部113が地絡を検出したタイミングに基づいて、所定長さの解析期間における零相電流の時間変化を示す電流データを抽出する電流データ抽出部121と、電流データの波形に基づいて、地絡の要因が需要家設備30内のケーブル劣化であるか、その他であるかを推定する推定部126と、推定部126の推定結果を出力する出力部127と、を備える。
【0101】
この地絡継電器12によれば、開閉器11が開放されたタイミングに基づくことで、地絡要因の推定に適した解析期間の電流データを容易に抽出することができる。また、ケーブル劣化に起因する地絡が生じた際の零相電流の波形は、その他の要因で地絡が生じた際の零相電流の波形に比較して顕著な特徴を有する。このため、地絡の要因がケーブル劣化であるか、その他であるかを推定対象とすることで、簡素な演算による推定が可能となる。従って、需要家設備30内における地絡要因を簡素な構成で推定できる。
【0102】
なお、需要家設備30内においては、ケーブル劣化、ギャップ放電、碍子割れ、鳥獣接触等、様々な要因で地絡が生じ得るが、地絡箇所の発見性は、ケーブル劣化とその他とで大きく異なる。また、地絡状態からの復旧作業の煩雑さも、ケーブル劣化とその他とで大きく異なる。このため、需要家設備30内においては、地絡の要因がケーブル劣化であるか、その他であるかを推定するだけでも有益である。
【0103】
地絡継電器12は、電流データの波形の特徴量を算出する特徴量算出部123を更に備え、推定部126は、特徴量に基づいて、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを推定してもよい。この場合、波形の特徴を特徴量として数値化することによって、地絡要因を更に容易に推定することができる。
【0104】
地絡継電器12は、零相電流の最大値と最小値が一定値となるように電流データを正規化して正規化データを生成する正規化部122を更に備え、特徴量算出部123は、正規化データに基づいて特徴量を算出してもよい。この場合、零相電流の振れ幅の大きさを一定値にすることで、電流データの波形同士をより適切に比較することが可能となる。
【0105】
特徴量算出部123は、零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量を正規化データに基づいて算出し、推定部126は、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループに電流データの波形が属するか否かを第1特徴量に基づいて推定し、特徴量算出部123は、電流データの波形が候補グループに属すると推定された場合に、変動期間における零相電流の変動幅を表す第2特徴量を正規化データに基づいて更に算出し、推定部126は、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかを第2特徴量に基づいて更に推定してもよい。
【0106】
地絡が生じた状態における零相電流の波形は、定常期間と、インパルス状の変動期間とが交互に繰り返す候補グループと、その他とに大別される。正規化データの波形が、候補グループと、その他とのいずれに属するかは、零相電流のばらつきの大きさに基づくことで容易に判別可能である。候補グループは、ケーブル劣化の電流データと、ギャップ放電の電流データとを含み得る。
【0107】
ケーブル劣化では、1つの変動期間において、零相電流は主としてプラス側又はマイナス側のいずれか一方に大きく変化し、他方への変化は小さい傾向がある。これに対し、ギャップ放電では、1つの変動期間において零相電流値がプラス側及びマイナス側の両方に変化する傾向がある。このため、候補グループに属する正規化データの波形が、ケーブル劣化の波形であるか、ギャップ放電の波形であるかは、変動期間における零相電流の変動幅に基づくことで容易に判別可能である。
【0108】
従って、零相電流のばらつきの大きさを表す第1特徴量に基づいて、電流データが候補グループに属するか否かを推定し、変動期間における零相電流の変動幅を表す第1特徴量に基づいて、候補グループに属する電流データがケーブル劣化の電流データであるか否かを推定することで、地絡の要因がケーブル劣化であるかその他であるかをより適切に推定することができる。
【0109】
〔変形例〕
上述の実施形態においては、正規化部122が、零相電流の最大値及び最小値が一定値となるように要因推定用の電流データを正規化して正規化データを生成する例を示したが、電流データの正規化手法はこれに限られない。例えば正規化部122は、電流データにおける零相電流の絶対値の最大値を基準として電流データを正規化し、正規化データを生成してもよい。例えば正規化部122は、電流データにおける各零相電流値を、上記絶対値の最大値で除算することによって正規化データを生成する。以下、零相電流値を絶対値の最大値で除算した値を「正規化電流値」という。
【0110】
一例として、プラスの零相電流値の絶対値の最大値(以下、「プラス方向の最大値」という。)が、マイナスの零相電流の絶対値の最大値(以下、「マイナス方向の最大値」という。)よりも大きい場合、正規化部122は、電流データにおける各零相電流値をプラス方向の最大値で除算することによって正規化電流値を算出する。マイナス方向の最大値がプラス方向の最大値よりも大きい場合、正規化部122は、電流データにおける各零相電流値をマイナス方向の最大値で除算することによって正規化電流値を算出する。正規化部122は、所定のゲインの乗算、所定の定数の加算等により、正規化電流値のレンジを調整してもよい。
【0111】
地絡の生じ方によっては、プラス側に偏った電流データ(主としてプラス側に零相電流が発生し、マイナス側にはほとんど零相電流が発生しない電流データ)、又はマイナス側に偏った電流データ(主としてマイナス側に零相電流が発生し、プラス側にはほとんど零相電流が発生しない電流データ)が生じる可能性がある。このような場合に、零相電流の最大値及び最小値が一定値となるように電流データを正規化してしまうと、プラス側への偏り又はマイナス側への偏りを適切に表す正規化データが得られなくなる。これに対し、零相電流の絶対値の最大値を基準とする上記正規化手法によれば、プラス側への偏り又はマイナス側への偏りを適切に表す正規化データが得られる。
【0112】
正規化部122が、零相電流の絶対値の最大値を基準とする手法により正規化データを生成する場合、正規化部222も同様に、零相電流の絶対値の最大値を基準とする手法により正規化データを生成する。
【0113】
上述の実施形態においては、特徴量算出部123が、上記変動期間における零相電流の変動幅を表す第2特徴量を正規化データに基づいて算出する例を示した。上述したように、ケーブル劣化では、1つの変動期間において、零相電流値は主としてプラス側又はマイナス側のいずれか一方に大きく変化し、他方への変化は小さい傾向がある。これに対し、ギャップ放電では、1つの変動期間において零相電流値がプラス側及びマイナス側の両方に変化する傾向がある。すなわち、ケーブル劣化とギャップ放電とでは、電流データの中央値に対する、変動期間の零相電流の偏り(以下、単に「零相電流の偏り」という。)の程度が大きく異なる。なお、電流データの中央値とは、電流データ全体における零相電流値の中央値である。ケーブル劣化では、ギャップ放電に比較して零相電流の偏りが大きくなる。変動期間における零相電流の変動幅は、零相電流の偏りに相関する。例えば、零相電流の偏りの程度が大きくなるほど零相電流の変動幅は小さくなる。このため、零相電流の変動幅を表す第2特徴量は、零相電流の偏りを表す量の一種であったといえる。第2特徴量は、少なくとも零相電流の偏りを表す量であればよく、必ずしも零相電流の変動幅を表す量でなくてもよい。
【0114】
例えば特徴量算出部123は、正規化データに基づいて、変動期間の零相電流のプラス側への変動レベル(以下、「プラス側の変動レベル」という。)と、変動期間の零相電流のマイナス側への変動レベル(以下、「マイナス側の変動レベル」という。)との差を第2特徴量として算出してもよい。例えば特徴量算出部123は、正規化データの中央値よりも大きい正規化電流値と、正規化データの中央値との差を、変動期間内で時間積分することでプラス側の変動レベルを算出し、正規化データの中央値と、正規化データの中央値よりも小さい正規化電流値との差を変動期間内で時間積分することでマイナス側の変動レベルを算出する。なお、正規化データの中央値とは、正規化データ全体における正規化電流値の中央値である。特徴量算出部123は、変動期間における正規化電流値の最大値と、正規化データの中央値との差をプラス側の変動レベルとし、正規化データの中央値と、変動期間における正規化電流値の最小値との差をマイナス側の変動レベルとしてもよい。
【0115】
例えば特徴量算出部123は、図13に示すように、正規化電流値が正規化データ全体における最大値となる変動期間において、プラス側の変動レベル(例えば図示の領域A1の面積)と、マイナス側の変動レベル(例えば図示の領域A2の面積)とを算出し、これらの差の絶対値(以下、「最大値基準の偏りレベル」という。)を第2特徴量として算出してもよい。特徴量算出部123は、正規化電流値が正規化データ全体における最小値となる変動期間において、プラス側の変動レベル(例えば図示の領域A11の面積)と、マイナス側の変動レベル(例えば図示の領域A12の面積)とを算出し、これらの差の絶対値(以下、「最小値基準の偏りレベル」という。)を第2特徴量として算出してもよい。特徴量算出部123は、最大値基準の偏りレベルと、最小値基準の偏りレベルとの組み合わせであるベクトルを第2特徴量として算出してもよい。
【0116】
図14は、上記ベクトルとして算出された第2特徴量の分布を例示するグラフである。このグラフの横軸は、最大値基準の偏りレベルを表し、このグラフの横軸は、最小値基準の偏りレベルを表している。◇印は、ケーブル劣化の正規化データに基づき算出された第2特徴量であり、〇印は、ギャップ放電の正規化データに基づき算出された第2特徴量である。図14に示されるように、ケーブル劣化と、ギャップ放電とでは、第2特徴量の分布が明確に異なる。このため、上記第2特徴量に基づくことによって、要因推定用の電流データの波形が、ケーブル劣化の波形であるか、ギャップ放電の波形であるかを適切に判別することが可能である。
【0117】
このように、特徴量算出部123が上記偏りレベルを第2特徴量として算出する場合、特徴量算出部223も上記偏りレベルに基づいて第2特徴量を算出する。このため、推定基準生成部227が算出する第2推定基準は、上記偏りレベルに基づく推定基準となる(例えば図14中の境界PL2)。推定部126は、第2特徴量が第2推定基準よりも大きい場合に、地絡の要因がケーブル劣化であると推定し、第2特徴量が第2推定基準よりも小さい場合に、地絡の要因がその他(ギャップ放電)であると推定する。
【0118】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0119】
11…開閉器、12…地絡継電器、22…模擬開閉器、23…模擬継電器、30…需要家設備、90…電力系統、113…地絡検出部、114…制御部、121…電流データ抽出部(データ抽出部)、122…正規化部、123…特徴量算出部、126…推定部、127…出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14