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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、積層体、および、包装体
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20241126BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241126BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20241126BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B9/00 A
B32B7/027
B32B27/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020122415
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022018952
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】時野谷 修
(72)【発明者】
【氏名】木下 佳世
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189221(WO,A1)
【文献】特開2008-049605(JP,A)
【文献】特開2018-144893(JP,A)
【文献】特開2013-123895(JP,A)
【文献】特開平09-174780(JP,A)
【文献】特開2019-006082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0126599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B32B 1/00-43/00
C08J 5/18
C08J 7/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムであって、当該樹脂フィルムとガスバリア層とを備えた積層体から包装体を製造するための樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムの流れ方向におけるJIS K7161‐1:2014に準拠した降伏応力が109MPa以上117MPa以下であり、
前記流れ方向について得られた応力‐ひずみ曲線において、降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲での前記応力‐ひずみ曲線の傾きが、75以上117以下であり、
前記樹脂フィルムは、3層の樹脂層から構成され、
前記3層の前記樹脂層のうち、少なくとも1つの前記樹脂層がリサイクルポリエチレンテレフタレートを含み、
前記樹脂フィルムの総質量の少なくとも70%が前記リサイクルポリエチレンテレフタレートである
樹脂フィルム。
【請求項2】
前記流れ方向における破断強度が、153MPa以上183MPa以下である
請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂フィルムと、
ガスバリア層と、を備える
積層体。
【請求項4】
前記ガスバリア層は、蒸着層と塗布膜とを備え、
前記蒸着層は、酸化アルミニウム、および、酸化ケイ素の少なくとも一方によって形成される
請求項に記載の積層体。
【請求項5】
前記蒸着層と前記塗布膜とが接している
請求項に記載の積層体。
【請求項6】
前記塗布膜は、
Si(OR、または、RSi(OR(ORおよびORは加水分解性基であり、Rは有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含む
請求項またはに記載の積層体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の樹脂フィルムと、
ガスバリア層と、を備える
包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、樹脂フィルムを備える積層体、および、包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムは、食品、医薬品、化粧品などの対象物を包装するための包装材に広く用いられている。包装材は、対象物の品質における低下を抑えるために、酸素および水蒸気などの気体を通しにくい性質であるガスバリア性を有していることが好ましい。そのため、透明フィルムと、金属膜または金属酸化膜などを含むバリア層との積層体が包装材として用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-81607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、包装体におけるガスバリア性の評価は、製造時、保管時、さらには使用時を想定して行われている。しかしながら、包装された対象物である商品の流通過程では、輸送中の商品に振動が加わる場合などのように、包装材に折れや捩れなどの変形を生じさせる外力が、商品に対して繰り返し印加される場合があり、このような外力の印加に対してもガスバリア性の低下を抑えることが可能な包装材が求められる。
【0005】
本発明は、積層体に加わる外力、特に輸送時において積層体に加わる外力に対して、積層体におけるガスバリア性の低下を抑えることを可能とした樹脂フィルム、積層体、および、包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムであって、当該樹脂フィルムとガスバリア層とを備えた積層体から包装体を製造するための樹脂フィルムであって、前記樹脂フィルムの流れ方向におけるJIS K7161‐1:2014に準拠した降伏応力が109MPa以上117MPa以下である。
【0007】
上記課題を解決するための積層体は、上記樹脂フィルムと、ガスバリア層とを備える。
上記課題を解決するための包装体は、上記樹脂フィルムと、ガスバリア層とを備える。
【0008】
上記各構成によれば、樹脂フィルムが、脆くなりすぎない程度の軟らかさと、過剰な塑性変形が生じにくい程度の硬さとを有する。包装体を形成するための積層体にこの樹脂フィルムが用いられることによって、印加が繰り返される輸送時などの揺れによる外力で樹脂フィルムとガスバリア層との接合やガスバリア層そのものに欠陥が生じること、ひいては欠陥に起因した積層体のガスバリア性における低下を抑えることが可能である。
【0009】
上記樹脂フィルムは、前記流れ方向について得られた応力‐ひずみ曲線において、降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲での前記応力‐ひずみ曲線の傾きが、75以上117以下であってもよい。
【0010】
上記構成によれば、塑性変形が生じる以上の応力が樹脂フィルムに印加された場合において、破断点におけるひずみが小さくなることが抑えられる。これによって、樹脂フィルムの破断、ひいては、樹脂フィルム上に形成されたガスバリア層に欠陥が生じることが抑えられる。
【0011】
上記樹脂フィルムにおいて、前記流れ方向における破断強度が、153MPa以上183MPa以下であってもよい。この構成によれば、樹脂フィルムが破断せずに耐えることが可能な応力とひずみとのいずれか一方が過剰に低くなることを抑え、これによって、樹脂フィルムにおいて破断を生じにくくすることが可能である。結果として、樹脂フィルム10の破断に起因した蒸着層の欠陥を抑えることが可能である。
【0012】
上記積層体において、前記ガスバリア層は、蒸着層と塗布膜とを備え、前記蒸着層は、酸化アルミニウム、および、酸化ケイ素の少なくとも一方によって形成されてもよい。
上記積層体において、前記蒸着層と前記塗布膜とが接してもよい。
【0013】
上記積層体において、前記塗布膜は、Si(OR、または、RSi(OR(ORおよびORは加水分解性基であり、Rは有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含むことも可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、積層体におけるガスバリア性の低下を抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態における樹脂フィルムの構造を示す断面図。
図2】一実施形態における積層体の構造を示す断面図。
図3】一実施形態における包装体の構造を示す斜視図。
図4】樹脂フィルムにおいて得られる応力‐ひずみ曲線の一例。
図5】実施例および比較例の応力‐ひずみ曲線。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から図5を参照して、樹脂フィルム、積層体、および、包装体の一実施形態を説明する。以下では、樹脂フィルム、積層体、包装体、樹脂フィルムの物性、および、実施例を順に説明する。
【0017】
[樹脂フィルム]
図1を参照して、樹脂フィルム10を説明する。
図1が示す樹脂フィルム10を構成する材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。PETは、石油などの原料から新規に合成されたバージンPET、および、再生されたPETであるリサイクルPETの少なくとも一方である。リサイクルの対象であるPET製品は、使用済みペットボトルを含む。樹脂フィルム10を構成するリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPET、および、ケミカルリサイクルにより再生されたPETの少なくとも一方である。
【0018】
メカニカルリサイクルは、PET製品を粉砕して洗浄することによって表面の汚れや異物を取り除いた後、樹脂を高温下に曝して樹脂の内部に留まっている汚染物質を除去することによって得られる。ケミカルリサイクルは、PET製品を粉砕して洗浄することによって表面の汚れや異物を取り除いた後、解重合により樹脂を中間原料まで戻し、当該中間原料を精製して再重合することによって得られる。メカニカルリサイクルは、化学反応用の大掛かりな設備を要しないため、ケミカルリサイクルと比較してリサイクルPETの製造に要するコストおよび環境負荷などが低い。コストおよび環境負荷を低める場合、樹脂フィルム10が含むリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPETであることが好ましい。
【0019】
樹脂フィルム10は、リサイクルPETに加えて、石油などの原料から新規に合成されたPETであるバージンPETを含んでいてもよい。コストおよび環境負荷を低める場合、樹脂フィルム10の総質量に対して、リサイクルPETの割合は60%以上100%以下であることが好ましい。
【0020】
PETを構成する繰り返し単位は、ジオール単位とジカルボン酸単位とを含む。バージンPETでは、ジオール単位の一例は、エチレングリコールであり、ジカルボン酸単位の一例は、テレフタル酸である。リサイクルPETでは、ジオール単位の一例は、エチレングリコールであり、ジカルボン酸単位の一例は、テレフタル酸とイソフタル酸とを含む。樹脂フィルムの降伏応力として109MPa以上117MPa以下が得られやすい観点では、全てのジカルボン単位に占めるイソフタル酸の割合が、0.5モル%以上5モル%以下であることが好ましい。上記ジオール単位にジエチレングリコールを含むことは可能である。
【0021】
なお、再生に用いられるペットボトルを構成するPETでは、PETの結晶化を抑えて資材の加工性を向上させることを目的として、ジオール単位はエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位は、テレフタル酸とイソフタル酸とを含む。樹脂フィルム10を構成するリサイクルPETのジカルボン酸単位は、こうしたペットボトルのジカルボン酸単位、すなわちテレフタル酸とイソフタル酸とを含む。
【0022】
樹脂フィルム10が含むPETの平均分子量は、1000以上100万以下であることが好ましい。なお、樹脂フィルム10は、PET以外の樹脂や、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば可塑剤であってよい。
【0023】
樹脂フィルム10は、単一の層、あるいは、複数の層から構成される。なお、樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層を構成する材料は、同一、あるいは、互いに異なる。各層を構成する材料が互いに異なる構成の一例は、リサイクルPETから形成された層と、バージンPETから形成された層との積層体である。各層を構成する材料が互いに異なる構成の他の例は、バージンPETに対し第1の割合でリサイクルPETを含む層と、バージンPETに対し第1の割合とは異なる第2の割合でリサイクルPETを含む層との積層体である。
【0024】
樹脂フィルム10の厚さは、熱や水分などの各種の環境耐性、内容物の保存性、内容物の充填性、シール加工性、マーキングを含む印刷耐性など、包装体に求められる各種の特性に応じて選択される。樹脂フィルム10の加工性を高める観点では、例えば、樹脂フィルム10の厚さは、3μm以上100μm以下の範囲から選択されることが好ましく、6μm以上50μm以下の範囲から選択されることがさらに好ましい。
【0025】
樹脂フィルム10を形成する方法は、溶融押出成形法、あるいは、溶融共押出成形法である。樹脂フィルム10における流れ方向は、樹脂フィルム10の製造時においてPETの成形が進む方向である。流れ方向は、MD(Machine Direction)方向、あるいは、縦方向とも称される。流れ方向と直交する方向は、TD(Transverse Direction)方向、あるいは、横方向とも称される。樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層の流れ方向は、同一である。
【0026】
樹脂フィルム10は、無延伸フィルム、MD方向あるいはTD方向に所定倍率で延伸された一軸延伸フィルム、MD方向とTD方向とに逐次または同時に所定倍率で延伸される二軸延伸フィルムである。なお、樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層の延伸方向は、同一である。
【0027】
[積層体]
図2を参照して、積層体20を説明する。積層体20は、樹脂フィルム10と、ガスバリア層11とを備えている。ガスバリア層11は、積層体20におけるガスバリア性を高める機能を有する。
【0028】
ガスバリア層11は、例えば気相堆積膜を含む。気相堆積膜は、無機酸化物膜または金属膜である。無機酸化物が含む無機物は、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどの酸化物であってよい。金属は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、スズ、ナトリウム、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウム、金、クロムなどであってよい。
【0029】
気相堆積膜の形成方法は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、および、プラズマ気相成長法(CVD)などであってよい。積層体の生産性を高める観点では、気相堆積膜の形成方法は真空蒸着法であることが好ましい。真空蒸着法において蒸着材料を加熱する方式には、電子線加熱方式、抵抗加熱方式、および、誘導加熱方式のいずれかを用いることが好ましい。蒸着材料の選択性における自由度を高める観点では、電子線加熱方式を用いることが好ましい。気相堆積膜と樹脂フィルム10との密着性を高める観点、および、気相堆積膜の緻密性を高める観点では、真空蒸着法において、プラズマアシスト法およびイオンビームアシスト法を用いることが可能である。蒸着層の透明性を高める観点では、反応性蒸着法を用いてガスバリア層11を形成してもよい。反応性蒸着法では、例えば酸素ガスなどの反応ガスを成膜空間に供給する。
【0030】
透明な包装袋を形成するための積層体20は、無機酸化物から形成された気相堆積膜を備える。特に、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素によって形成された気相堆積膜が好適である。遮光性を有した包装袋を形成するための積層体20は、金属から形成された気相堆積膜を備える。特に、アルミニウムから形成された気相堆積膜が好適である。
【0031】
なお、ガスバリア層11は、複数のバリア層から形成されてもよい。この場合には、各バリア層は同一の材料から形成されてもよいし、複数のバリア層は、第1の材料から形成されたバリア層と、第1の材料とは異なる第2材料から形成されたバリア層とを含んでいてもよい。
【0032】
ガスバリア層11の厚さは、例えば、5nm以上300nm以下の範囲から選択される。ガスバリア層11の厚さが5nm以上であることによって、ガスバリア層11の均一性を高めること、および、ガスバリア層11が十分な厚さを有することが可能である。そのため、ガスバリア層11は、ガスバリア機能を十分に発揮することができる。一方、厚さが300nm以下であることによって、ガスバリア層11が可撓性を保持することができる。これにより、成膜後の折り曲げ、および、引っ張りなどの外的要因に起因したガスバリア層11の亀裂が抑えられる。なお、ガスバリア層11の厚さは、ガスバリア層11を形成する無機化合物の種類、および、積層体20が有する構成に応じて適宜選択される。なお、ガスバリア層11の厚さにおける均一性を高める観点では、ガスバリア層11の厚さは10nm以上150nm以下の範囲に含まれることがより好ましい。
【0033】
ガスバリア層11は、上述した気相堆積膜に加えて、あるいは、上述した気相堆積膜に代えて、ガスバリア性を有する塗布膜を含んでいてもよい。塗布膜は、樹脂を含む材料によって形成される。以下では、ガスバリア層11が、無機酸化物の気相堆積膜に形成された塗布膜を備える場合の一例を説明する。塗布膜は、気相堆積膜を保護し、これによってガスバリア層のガスバリア性を高めることが可能である。
【0034】
塗布膜は、例えば、水溶性高分子と無機化合物とから形成される。水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどであってよい。ガスバリア層11のガスバリア性を高める観点では、水溶性高分子がポリビニルアルコール(PVA)であることが好ましい。
【0035】
塗布膜が含む無機化合物は、例えば、Si(ORまたは、RSi(ORによって表されるケイ素化合物、あるいは、当該ケイ素化合物の加水分解物であってよい。なお、ケイ素化合物を表す化学式において、ORおよびORは加水分解性基であり、Rは有機官能基である。無機化合物は、1種以上のケイ素化合物、または、当該ケイ素化合物の加水分解物を含んでよい。
【0036】
Si(ORは、例えばテトラエトキシシラン(Si(OC)(TEOS)であってよい。TEOSは、加水分解後において、水系の溶媒中にて比較的安定である点で好ましい。また、RSi(ORが含むRは、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、および、イソシアネート基から構成される群から選択されることが好ましい。
【0037】
塗布膜は、溶媒、水溶性高分子、および、ケイ素化合物またはケイ素化合物の加水分解物の混合溶液を蒸着層上に塗布した後に、加熱および乾燥を経ることによって形成される。溶媒は、水、または、水とアルコールとの混合溶媒であってよい。混合溶液を形成する際には、まず、水溶性高分子を溶媒に溶解させ、その後、ケイ素化合物またはケイ素化合物の加水分解物を混合する。なお、混合溶液は、混合溶液を用いて形成された塗布膜がガスバリア性を損なわない範囲において、添加剤を含んでよい。添加剤は、例えば、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、および、着色剤などであってよい。
【0038】
水溶性高分子がPVAである場合には、混合溶液の全固形分における質量に対するPVAの質量の比は、20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、25質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。PVAが20質量%以上含まれることによって、塗布膜の柔軟性が維持される。そのため、塗布膜の形成が容易である。また、PVAが50質量%以下含まれることによって、ガスバリア層11が十分なバリア性を有することが可能である。
塗布膜の厚さは、例えば、0.05μm以上30μm以下の範囲から選択される。
【0039】
ガスバリア層11が、気相堆積膜と塗布膜とを備える場合には、積層体20において、気相堆積膜が樹脂フィルム10上に位置し、塗布膜が気相堆積膜上に位置する。これにより、塗布膜が、気相堆積膜に接している。
【0040】
樹脂フィルム10とガスバリア層11との密着を強化する観点では、樹脂フィルム10の表面であって、ガスバリア層11が形成される面にプラズマ処理およびコロナ処理などの表面処理が行われてもよい。ガスバリア層11が無機酸化物から形成される場合には、樹脂フィルム10とガスバリア層11との間に、アンカーコート層が位置してもよい。表面処理およびアンカーコート層によれば、加熱殺菌後における樹脂フィルム10と蒸着層との間の密着性、および、積層体20のバリア性などが高められる。
【0041】
なお、ガスバリア層11は、上述した気相堆積膜および塗布膜に加えて、あるいは、上述した気相堆積膜および塗布膜の少なくとも一方に代えて、金属箔、および、金属窒化物から形成される層などを含んでいてもよい。ガスバリア層11が気相堆積膜および塗布膜以外の層を1層以上備える場合には、気相堆積膜と塗布膜との間に他の層が位置してもよい。あるいは、気相堆積膜と樹脂フィルムとの間に、塗布膜以外の他の層が位置してもよい。
【0042】
積層体20は、樹脂フィルム10およびガスバリア層11に加えて、シール層、接着層、加飾層、および、情報表示層などを備えてもよい。シール層は、熱可塑性樹脂を含んでいる。シール層は、積層体20を用いて包装体が形成される際に、ヒートシールにより融解される。これにより、2枚の積層体20において、一方の積層体20の端部が、他方の積層体20の端部に融着される。あるいは、1枚の積層体20において、当該積層体20の第1部分と第2部分とが融着される。接着層は、ガスバリア層11とガスバリア層11の上層との間の密着性、あるいは、ガスバリア層11とガスバリア層11の下層との間の密着性を高める。加飾層は、印刷により形成された装飾および情報などを表示する。
【0043】
積層体20の厚さは、積層体20を用いて形成される包装体に求められる各種の耐性、および、積層体20に求められる加工性に応じて選択されればよい。積層体20の厚さは、例えば、30μm以上300μm以下であってよい。
【0044】
積層体20の形成には、上述した成膜法、各種の塗布法、ドライラミネート法、および、押出ラミネート法などが用いられてよい。
【0045】
[包装体]
図3を参照して、包装体を説明する。
図3が示す包装体30は、積層体20から形成されている。包装体30は、当該包装体30の内部に包装対象を収容することが可能な空間を区画している。図3が示す例では、包装体30は袋状を有している。包装体30において、端部が全周にわたって接合されることによって、包装体30が密封されている。包装体30において、ガスバリア層11は、樹脂フィルム10に対して内側に位置する。包装体30の形状および大きさは、特に限定されない。包装体30の形状および大きさは、包装対象の形状および大きさに応じて設計されていればよい。包装対象は、例えば、食品、医薬品、化粧品などであってよい。
【0046】
積層体20の端部を接合する方法は、特に限定されない。例えば、積層体20の端部は、上述したようにヒートシールを用いて接合されてもよいし、その他の方法によって接合されてもよい。なお、図3が示す例では、包装体30が、2枚の積層体20において、第積層体の端部と第2積層体の端部とが接合された封止部31を有している。
【0047】
なお、包装体30は図3が示す袋状に限らず、例えば、筒状、および、一方の筒端が封止される一方で、他方の筒端が開放された袋状を有してもよい。
【0048】
[樹脂フィルムの物性]
図4を参照して、樹脂フィルム10が有する物性を説明する。
樹脂フィルムの物性を評価する方法の1つとして、ダンベル形状を有した試験片に対する引張試験が知られている。引張試験によれば、試験片に対して印加された応力と当該応力が印加されたときの試験片のひずみとの関係を示す応力‐ひずみ曲線を得ることができる。引張試験は、JIS K7161‐1:2014に規定されている。
【0049】
図4は、樹脂フィルム10から形成された試験片に対する引張試験によって得られた応力‐ひずみ曲線の一例を示している。図4が示す応力‐ひずみ曲線において、矢印によって示される降伏点Aでの応力が降伏応力である。また、応力‐ひずみ曲線において、矢印によって示される破断点Bは試験片が破断する点であり、当該B点における応力が破断強度である。
【0050】
応力‐ひずみ曲線において、応力およびひずみの両方が0である点から降伏点Aよりも応力およびひずみの両方が小さい範囲であって、かつ、応力とひずみとが比例する範囲は、樹脂フィルム10が弾性変形する範囲である。弾性変形する範囲において、応力‐ひずみ曲前の傾きが大きいほど樹脂フィルムが硬い傾向を有し、応力‐ひずみ曲線の傾きが小さいほど樹脂フィルムが軟らかい傾向を有する。
【0051】
降伏点Aは、応力‐ひずみ曲線において、応力が増えることなくひずみが増える最初の部分である。樹脂フィルムに対して降伏点Aでの応力、すなわち降伏応力を超える圧力が印加されると、樹脂フィルムは塑性変形する。これにより、樹脂フィルムに生じた変形は、樹脂フィルムに印加された応力が解除されても維持される。
【0052】
応力‐ひずみ曲線において、当該曲線によって囲まれる面積は、樹脂フィルムの衝撃エネルギーを吸収する能力を示している。応力‐ひずみ曲線によって囲まれる面積が小さいほど、樹脂フィルムは、脆性が高い、すなわち粘り強くない傾向を有する。これに対して、応力‐ひずみ曲線によって囲まれる面積が大きいほど、樹脂フィルムは、脆性が低い、すなわち粘り強い傾向を有する。
【0053】
樹脂フィルム10は、下記条件1を満たす。
(条件1)樹脂フィルム10の流れ方向における降伏応力が、109MPa以上117MPa以下である。
【0054】
樹脂フィルム10では、降伏応力が大きいほど、硬くて脆い傾向を有する一方で、降伏応力が小さいほど、軟らかくて粘り強い傾向を有する。上述した積層体を形成するために樹脂フィルム10が用いられる場合、樹脂フィルム10よりも硬い傾向を有した無機材料からなるガスバリア層11と、樹脂フィルム10とが接合される。こうしたガスバリア層11にピンホールなどの欠陥が生ずることを抑えるうえでは、ガスバリア層11に作用した応力が、ガスバリア層11から樹脂フィルム10に逃げることが好ましい。すなわち、ガスバリア層11に作用した応力が、樹脂フィルム10の内部で消費されるように、樹脂フィルム10は、柔らかく、かつ、粘り強いことが好ましい。一方で、樹脂フィルム10の降伏応力が小さすぎる場合には、ガスバリア層11に欠陥を発生させるような塑性変形が樹脂フィルム10に生じやすいから、樹脂フィルム10は所定の硬さを満たすことが好ましい。
【0055】
この点、条件1を満たす樹脂フィルム10は、脆くなりすぎない程度の軟らかさと、過剰な塑性変形が生じにくい程度の硬さを有する。そのため、樹脂フィルム10が包装体30を形成するための積層体20に用いられた場合、樹脂フィルム10上に形成されたガスバリア層11に欠陥を生じさせること、ひいては欠陥に起因した積層体20におけるガスバリア性の低下を抑えることが可能である。
【0056】
なお、積層体20を用いた包装体30が大量生産される場合には、ロールツーロール装置が用いられ、ロールツーロール装置によって積層体20が搬送されている間に、包装体30を形成するための処理が積層体20に施される。積層体20は、ロールツーロール装置によって樹脂フィルム10の流れ方向に沿って搬送される。この際に、積層体20は、樹脂フィルム10の流れ方向に沿って引っ張られた状態で、ロールツーロール装置によって搬送される。樹脂フィルム10には、積層体20の搬送を可能にする上で、また、積層体20を用いて形成された包装体30にしわなどが生じることを抑える上で、積層体20に弛みおよび撓みなどが生じない程度の応力で流れ方向に沿って引っ張られる。
【0057】
また、包装体30が内容物を収容した状態で輸送される際、包装体30を折り曲げるような外力の印加と解放とが繰り返される。こうした揺れによる外力が印加される方向、および外力の印加と解放とによって伸長と収縮とが繰り返される方向は、包装体30の構造に基づいておよそ特定される。
【0058】
この点で、上述したように、樹脂フィルム10の流れ方向における降伏応力が109MPa以上117MPa以下であれば、積層体20の搬送時に積層体20に対して印加される応力に起因した樹脂フィルム10の塑性変形を抑える上で、十分に大きい降伏応力を実現することが可能である。また、揺れによる外力が印加される方向と樹脂フィルム10の流れ方向とを整合させることによって、樹脂フィルム10の塑性変形を抑えること、また、これに伴うバリア性の低下を抑えることが可能ともなる。
【0059】
樹脂フィルム10は、上記条件1に加えて、以下の条件2を満たすことが好ましい。
(条件2)応力‐ひずみ曲線において、降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲において、応力‐ひずみ曲線の傾きが75以上117以下の範囲に含まれる。
【0060】
樹脂フィルム10が降伏点Aを有する場合、樹脂フィルム10は、ひずみが0.1よりも小さい範囲において降伏点を有する。そして、降伏点Aにおける降伏応力よりも高い応力を印加すると、ひずみのみが増加する状態は解除されて、再び応力の増加に応じてひずみが増加する。ひずみが0.2以上である範囲において、ひずみの増加は、応力の増加にほぼ比例する。降伏点A以降において応力‐ひずみ曲線の傾きが大きいほど、樹脂フィルム10は硬く、降伏点Aでのひずみと、破断点Bでのひずみとの差が小さい傾向を有する。一方で、降伏点A以降において応力‐ひずみ曲線の傾きが小さいほど、樹脂フィルム10は軟らかく、降伏点Aでのひずみと、破断点Bでのひずみとの差が大きい傾向を有する。樹脂フィルム10は、応力‐ひずみ曲線において、ひずみが0.4を超えた点において破断点Bを有することが多く、ひずみが0.4以下での傾きによって、樹脂フィルム10の剛性における傾向を把握することが可能である。
【0061】
この点、条件2を満たす樹脂フィルム10であれば、塑性変形が生じる以上の応力が樹脂フィルム10に印加された場合において、破断点Bにおけるひずみが小さくなることを抑え、これによって、樹脂フィルム10の破断、ひいては、樹脂フィルム10上に形成されたガスバリア層11に欠陥が生じることが抑えられる。
【0062】
樹脂フィルム10は、上記条件1に加えて、以下の条件3を満たすことが好ましい。なお、樹脂フィルム10は、条件1,2に加えて、以下の条件3を満たすことがさらに好ましい。
(条件3)流れ方向における破断強度が、153MPa以上183MPa以下である。
【0063】
樹脂フィルム10は、破断強度が高いほど硬さが増す傾向を有し、破断強度が小さいほど粘り強さが増す傾向を有する。そのため、破断強度が高すぎると樹脂フィルム10が破断するときの応力の値は大きくなる一方で、樹脂フィルム10が耐えることが可能なひずみが小さくなる傾向を有する。これに対して、破断強度が小さすぎると樹脂フィルム10が耐えることが可能なひずみが大きくなる一方で、樹脂フィルム10が破断するときの応力の値が小さくなる傾向を有する。
【0064】
この点、条件3を満たす樹脂フィルム10であれば、樹脂フィルム10が破断せずに耐えることが可能な応力とひずみとのいずれか一方が過剰に低くなることを抑え、これによって、樹脂フィルム10において破断を生じにくくすることが可能である。結果として、樹脂フィルム10の破断に起因した蒸着層の欠陥を抑えることが可能である。
【0065】
樹脂フィルム10における降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度は、例えば、樹脂フィルム10を押出成形する際の温度、押し出された樹脂フィルム10の前駆体を冷却する温度、当該前駆体を冷却する速度、および、樹脂フィルム10を延伸する倍率などによって調整することが可能である。また、樹脂フィルム10における降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度は、例えば、樹脂フィルム10が含む全てのジカルボン酸単位に対するイソフタル酸の比によって調節することが可能である。
【0066】
例えば、押し出し成形する際の温度を高くすることによって、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を高くすることが可能である。また、押し出された樹脂フィルム10の前駆体を冷却する温度を低くすることによって、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を低くすることが可能である。また、前駆体を冷却する速度を高くすることによって、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を低くすることが可能である。また、樹脂フィルム10を延伸する倍率を大きくすることによって、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を低くすることが可能である。また、樹脂フィルム10が含む全てのジカルボン酸単位に対するイソフタル酸の比を大きくすることによって、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を低くすることが可能である。
【0067】
[実施例]
図5、および、表1から表4を参照して、実施例および比較例を説明する。
[実施例1]
共押出しにより三層の樹脂層を積層して、12μmの厚さを有した実施例1の樹脂フィルム10を形成した。この際に、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETとバージンPETとから、互いに同一の組成を有した三層の樹脂層を形成した。実施例1の樹脂フィルム10において、リサイクルPETの質量を樹脂フィルムの総質量に対する80%に設定し、バージンPETの質量を樹脂フィルムの総質量に対する20%に設定した。
【0068】
[実施例2]
2つの第1樹脂層の間に第2樹脂層を挟むように三層の樹脂層を積層して、12μmの厚さを有した実施例2の樹脂フィルム10を形成した。この際に、バージンPETから第1樹脂層を形成した。また、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETから第2樹脂層を形成した。実施例2の樹脂フィルムにおいて、リサイクルPETの質量を樹脂フィルム10の総質量に対する70%に設定した。
【0069】
[実施例3]
2つの第1樹脂層の間に第2樹脂層を挟むように三層の樹脂層を積層して、12μmの厚さを有した実施例3の樹脂フィルム10を形成した。この際に、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETから第1樹脂層を形成した。また、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETに、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETを混合して、第2樹脂層を形成した。第2樹脂層において、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETの質量を第2樹脂層の総質量に対する80%に設定し、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETの質量を第2樹脂層の総質量に対する20%に設定した。実施例3の樹脂フィルムにおいて、リサイクルPETの質量を樹脂フィルム10の総質量に対する100%に設定した。
【0070】
[比較例1]
バージンPETを用いて単層の樹脂層を形成することにより、12μmの厚さを有した比較例1の樹脂フィルム10を得た。比較例1の樹脂フィルム10において、リサイクルPETの質量を樹脂フィルムの総質量に対する0%に設定した。
【0071】
[実施例4]
実施例1の樹脂フィルム10に、真空蒸着法を用いて酸化アルミニウムから形成され、10nmの厚さを有した蒸着層を積層した。さらに、グラビアコートを用いて蒸着層上に、0.3μmの厚さを有した塗布膜を形成した。この際に、テトラエトキシシランに塩酸を加え、30分間攪拌してテトラエトキシシランを加水分解した第1溶液と、水とイソプロピルアルコールとを混合した溶液にポリビニルアルコールを溶解した第2溶液を準備した。そして、60質量部の第1溶液と、40質量部の第2溶液とを混合してコーティング剤を調整した。バーコーターを用いて蒸着層上にコーティング剤を塗布した後、乾燥機を用いて120℃において1分間乾燥することによって、塗布膜を形成した。これにより、樹脂フィルム10と、蒸着層および塗布膜を含むガスバリア層11とを備えた実施例4の積層体を得た。
【0072】
[比較例2]
実施例2において、実施例1の樹脂フィルム10を比較例1の樹脂フィルムに変更した以外は、実施例1と同様の材料および方法によって、比較例2の積層体を得た。これにより、比較例1の樹脂フィルムと、樹脂層および塗布膜を含むガスバリア層11とを備えた比較例2の積層体を得た。
【0073】
[評価方法]
[応力‐ひずみ曲線]
実施例1から実施例3、および、比較例1の樹脂フィルムから、2つまたは3つの試験片を切り出した。この際に、JIS Z 1702‐1994に準拠したダンベルカッター((株)ダンベル、SDK‐600)を用いて、流れ方向に沿って延びる形状を有するように各試験片を切り出した。すなわち、各試験片の引っ張り方向が樹脂フィルムの流れ方向に一致するように、樹脂フィルムから試験片を切り出した。そして、各試験片に、伸び測定用の2本の標線を付した。
【0074】
小型卓上試験機(EZ‐LX、(株)島津製作所製)を用いて、試験片に対してJIS K7161‐1:2014に準拠した方法を用いて引張試験を行った。この際に、各試験片を小型卓上試験機に固定し、標線を伸び計で挟んだ。また、試験速度を300mm/分に設定した。実施例1から実施例3、および、比較例1の各々について1つの試験片における引張試験の結果に基づいて、応力‐ひずみ曲線を作成した。応力‐ひずみ曲線から降伏応力、破断強度、および、降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲での傾きを得た。
【0075】
[ガスバリア性]
実施例4の積層体、および、比較例2の積層体の各々から2つの試験片を作製し、ゲルボフレックス試験の前後におけるガスバリア性を評価した。以下に記載の条件によって、ゲルボフレックス試験、酸素透過度の測定、および、水蒸気透過度の測定を行った。
【0076】
[ゲルボフレックス試験]
フレキシリビリティ評価装置(テスター産業(株)製、ゲルボフレックステスター)を用いて各試験片のゲルボフレックス試験を行った。この際に、フレキシリビリティ評価装置の固定ヘッドに対して、円筒状を呈するように各試験片を取り付けた。詳しくは、各試験片の両端を固定ヘッドによって保持して、初期把持間隔を175mmに設定した。そして、ストロークを87.5mmに設定し、ひねりを440°に設定して、各試験片をひねることとひねりを解除することとの往復運動を40回/分の速度で10回行った。
【0077】
[酸素透過度]
各試験片について、ゲルボフレックス試験の前後において酸素透過度測定装置(Mocon社製、OX‐TRAN 2/20)を用いて酸素透過度を測定した。この際に、JIS K 7126‐2:2006、および、ASTM D3985‐81に準拠する方法を用いた。また、温度を30℃に設定し、相対湿度を70%に設定した。酸素透過度の測定値における単位を[cm(STP)/m・day・MPa]に設定した。
【0078】
[水蒸気透過度]
各試験片について、ゲルボフレックス試験の前後において水蒸気透過度測定装置(Mocon社製、PERMATRAN‐W 3/31)を用いて水蒸気透過度を測定した。この際に、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。測定方法は、JIS K 7129‐2:2019、および、ASTM F1249‐90に準拠する方法を用いた。水蒸気透過度の測定値における単位を[g(STP)/m・day]に設定した。
【0079】
[評価結果]
図5、および、表1から表4を参照して、上述した評価方法に基づく評価結果を説明する。実施例1から実施例3、および、比較例1の樹脂フィルムについて得られた応力‐ひずみ曲線は、図5が示す通りであった。なお、図5は、各樹脂フィルムにおいて得られた応力‐ひずみ曲線の一例を示している。降伏応力は以下の表1に示す通りであり、降伏後の傾きは以下の表2に示す通りであり、破断強度は以下の表3に示す通りであった。また、実施例4の積層体、および、比較例2の積層体における酸素透過度および水蒸気透過度は、以下の表4に示す通りであった。
【0080】
【表1】
【0081】
表1が示すように、実施例1から実施例3の試験例では、降伏応力の平均値が、100Pa以上116Pa以下の範囲に含まれることが認められた。また、各試験例では、降伏応力の値がいずれも109MPa以上117MPa以下の範囲に含まれることが認められた。これに対して、比較例1の試験例では、降伏応力の平均値が124.8MPaであり、各試験例において降伏応力の値がおよそ125MPaであることが認められた。このように、実施例1から実施例3の各試験例では、降伏応力の値が、比較例1での降伏応力の値よりも小さいことが認められた。
【0082】
【表2】
【0083】
表2が示すように、実施例1から実施例3の試験例では、降伏後の傾きにおける平均値が、77以上111以下の範囲に含まれることが認められた。また、各試験例では、降伏後の傾きの値が、いずれも75以上117以下の範囲に含まれることが認められた。これに対して、比較例1の試験例では、降伏後の傾きにおける平均値が172.4であり、2つの試験例において、降伏後の傾きが172.1および172.6であることが認められた。このように、実施例1から実施例3の各試験例では、降伏後の傾きが、比較例1での降伏後の傾きよりも小さいことが認められた。
【0084】
【表3】
【0085】
表3が示すように、実施例1から実施例3の試験例では、破断強度の平均値が159MPa以上177MPa以下の範囲に含まれることが認められた。また、各試験例では、破断強度の値がいずれも153MPa以上183MPa以下の範囲に含まれることが認められた。これに対して、比較例1の試験例では、破断強度の平均値が202.7であり、2つの試験例について、破断強度が195.3および210.1であることが認められた。このように、実施例1から実施例3の各試験例では、破断強度が、比較例1での破断強度よりも小さいことが認められた。
【0086】
【表4】
【0087】
表4が示すように、酸素透過度において、実施例4でのゲルボフレックス試験後の平均値が、比較例2でのゲルボフレックス試験後の平均値よりも小さいことが認められた。また、ゲルボフレックス試験の前後において、実施例4での変化量が、比較例2での変化量よりも小さいことが認められた。また、水蒸気透過度において、実施例4でのゲルボフレックス試験後の平均値が、比較例2でのゲルボフレックス試験後の平均値よりも小さいことが認められた。また、ゲルボフレックス試験の前後において、実施例4での変化量が、比較例2での変化量よりも小さいことが認められた。
【0088】
このように、実施例1の積層体によれば、ゲルボフレックス試験によって模された輸送時などにおける振動によるピンホール耐性が高まり、これによって、酸素透過度および水蒸気透過度の低下、すなわちガスバリア性の低下が抑えられるといえる。
【0089】
以上説明したように、樹脂フィルム、積層体、および、包装体の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)樹脂フィルム10が、脆くなりすぎない程度の軟らかさと、過剰な塑性変形が生じにくい程度の硬さを有することが可能である。そのため、樹脂フィルム10が包装体30を形成するための積層体20に用いられた場合に、樹脂フィルム10上に形成された蒸着層に生じる欠陥に起因した積層体20のガスバリア性における低下を抑えることが可能である。
【0090】
(2)塑性変形が生じる以上の応力が樹脂フィルム10に印加された場合において、破断点Bにおけるひずみが小さくなることを抑え、これによって、樹脂フィルム10の破断、ひいては、樹脂フィルム10上に形成された蒸着層に欠陥が生じることが抑えられる。
【0091】
(3)樹脂フィルム10が破断せずに耐えることが可能な応力とひずみとのいずれか一方が過剰に低くなることを抑え、これによって、樹脂フィルム10が破断することが抑えられる。結果として、樹脂フィルム10の破断に起因した蒸着層の欠陥を抑えることが可能である。
【0092】
(4)樹脂フィルム10とガスバリア層11とを備える積層体20によれば、積層体20をひずませる応力が積層体20に印加された場合でも、積層体20のガスバリア性における低下が抑えられる。これにより、包装材としての利用に対する積層体20の適性が高められる。
【0093】
(5)積層体20から形成された包装体30によれば、商品の輸送時に包装体30に印加される振動などに起因した包装体30におけるガスバリア性の低下が抑えられる。これにより、包装体30によって包装された対象物の品質における低下が抑えられる。
【符号の説明】
【0094】
10…樹脂フィルム
11…ガスバリア層
20…積層体
30…包装体
図1
図2
図3
図4
図5