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特許7593012圧電アクチュエーター付ウエハ、圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法、圧電アクチュエーターの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】圧電アクチュエーター付ウエハ、圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法、圧電アクチュエーターの製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241126BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/16 305
B41J2/16 505
B41J2/16 517
B41J2/16 509
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020147410
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042148
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】眞嶋 秀樹
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-265013(JP,A)
【文献】特開2009-045871(JP,A)
【文献】特開2016-162817(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0117311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハ上に12個以上の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハであって、
前記圧電アクチュエーターが、少なくとも、第1電極、圧電体薄膜並びに第2電極からなる圧電体素子及び複数の圧力室を備えており、かつ、
前記ウエハ上における前記圧電アクチュエーターの配置が、いずれの前記圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であることを特徴とする圧電アクチュエーター付ウエハ。
【請求項2】
いずれの前記圧電アクチュエーターも、長手方向の長さが、ウエハの直径の1/3以上であることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ。
【請求項3】
前記圧電アクチュエーターの長手方向が一方向でないことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ。
【請求項4】
前記圧電アクチュエーターの角部がR面取りされていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ
【請求項5】
前記圧電アクチュエーターが、圧力室部材を有し、
前記圧電アクチュエーターの長手方向と直交する平面で切断したときの前記圧力室部材の断面が逆テーパー型であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ
【請求項6】
ウエハ上に12個以上の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法であって、
前記ウエハ上における前記圧電アクチュエーターの配置が、いずれの前記圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であり、
ウエハ上に第1電極及び圧電体薄膜及び第2電極からなる圧電体素子をスパッタリング法で製膜する工程と、
シード層を形成する工程と、
Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程とを有し、かつ、
前記Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程が、圧力室部材を堆積させるときに各圧電アクチュエーターの周囲には圧力室部材を堆積させないことを特徴とする圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法。
【請求項7】
前記圧電体薄膜をスパッタリング法で形成するときに、温度及びプラズマの分布をウエハ上で同心円状に均一となるように制御することを特徴とする請求項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法。
【請求項8】
前記圧電アクチュエーターの長手方向が一方向でないことを特徴とする請求項又は請求項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法。
【請求項9】
請求項から請求項までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法を用いる圧電アクチュエーターの製造方法であって、
前記圧電アクチュエーター付ウエハから前記圧電アクチュエーターを別の支持基板に転写して前記ウエハを除去する工程と、
前記第1電極及び前記圧電体薄膜をパターニングして各圧電アクチュエーターに複数の圧電体素子を形成する工程と、
前記各圧電アクチュエーターの周囲のシード層を除去して各圧電アクチュエーターを個別化する工程とを有することを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項10】
前記圧電アクチュエーターの角部をR面取り加工することを特徴とする請求項に記載の圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項11】
前記圧電アクチュエーターの長手方向と直交する平面で切断したときの前記圧力室部材の断面を逆テーパー型に加工することを特徴とする請求項又は請求項10に記載の圧電アクチュエーターの製造方法。
【請求項12】
請求項から請求項11までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーターの製造方法を用いることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエーター付ウエハ、圧電アクチュエーター及びインクジェットヘッド並びにこれらの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーターを多く得ることが可能な圧電アクチュエーター付ウエハ等に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ薄膜インクジェットヘッドに使用する圧電アクチュエーターは、インクジェットヘッドのノズルに対応するように多数の圧電アクチュエーターユニットを有しており、各圧電アクチュエーターユニットはそれぞれ個別に圧電体素子、圧力室を有している。インクジェットヘッドの各ノズル間のインク吐出特性のばらつきを抑えるためには、各圧電アクチュエーターユニットの圧電体素子間の圧電特性をなるべく均一にすることが望ましい。
【0003】
圧電アクチュエーターの従来の製造方法の一つとして、1枚のウエハ上に圧電アクチュエーターを格子状に複数形成させた圧電アクチュエーター付ウエハを製造し、それから各圧電アクチュエーターを個別化、単品化する方法がある。
【0004】
上記圧電体薄膜を製膜する方法として、ウエハ上にPZT(Pb(Zr,Ti)O:チタン酸ジルコン酸鉛)等をターゲットとしたスパッタリング法での製膜が従来行われている。スパッタリング法で製膜された圧電体薄膜は、加熱によって結晶成長が促進されるため高い圧電特性を有するが、圧電特性の分布がウエハ上全体で均一とならない傾向がある。圧電特性の分布は、スパッタリングする際の温度及びプラズマの分布の影響を受けるが、スパッタリング装置の設計上、温度及びプラズマの分布は同心円状に均一となるように制御することが一般的だからである。
【0005】
例えば、(1)同心円状に内周と外周のヒーターを配置して、均熱板(サセプタ)を温める構成とし、内外周ヒーターを独立制御する、(2)マグネットを同心円状方向に配置したり、マグネットを埋め込んだモールドユニットを回転させたりすることにより印可する磁界分布を均一にし、プラズマの分布を均一化する、といった手法をとることによって、同心円状に圧電特性の分布を制御することができるが、圧電特性をウエハ上全体で均一にすることは困難である。
【0006】
そのため、各圧電アクチュエーターが格子状に配置された圧電アクチュエーター付ウエハの場合、圧電特性の分布が考慮されていないため、この圧電アクチュエーター付ウエハから個別化、単品化された圧電アクチュエーターのうち圧電特性の均一性が良好なものは一部に限られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-45871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーターを多く得ることが可能な圧電アクチュエーター付ウエハ等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記課題の原因等について検討した結果、ウエハ上における複数の圧電アクチュエーターの配置を、いずれの圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置とすることで、1枚の圧電アクチュエーター付ウエハから圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーターを多く得ることが可能になることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.ウエハ上に12個以上の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハであって、
前記圧電アクチュエーターが、少なくとも、第1電極、圧電体薄膜並びに第2電極からなる圧電体素子及び複数の圧力室を備えており、かつ、
前記ウエハ上における前記圧電アクチュエーターの配置が、いずれの前記圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であることを特徴とする圧電アクチュエーター付ウエハ。
【0011】
2.いずれの前記圧電アクチュエーターも、長手方向の長さが、ウエハの直径の1/3以上であることを特徴とする第1項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ。
【0012】
3.前記圧電アクチュエーターの長手方向が一方向でないことを特徴とする第1項又は第2項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ。
【0013】
4.前記圧電アクチュエーターの角部がR面取りされていることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ
【0014】
5.前記圧電アクチュエーターが、圧力室部材を有し、
前記圧電アクチュエーターの長手方向と直交する平面で切断したときの前記圧力室部材の断面が逆テーパー型であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハ
【0016】
.ウエハ上に12個以上の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法であって、
前記ウエハ上における前記圧電アクチュエーターの配置が、いずれの前記圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であり、
ウエハ上に第1電極及び圧電体薄膜及び第2電極からなる圧電体素子をスパッタリング法で製膜する工程と、
シード層を形成する工程と、
Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程とを有し、かつ、
前記Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程が、圧力室部材を堆積させるときに各圧電アクチュエーターの周囲には圧力室部材を堆積させないことを特徴とする圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法。
【0017】
.前記圧電体薄膜をスパッタリング法で形成するときに、温度及びプラズマの分布をウエハ上で同心円状に均一となるように制御することを特徴とする第項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法。
【0018】
.前記圧電アクチュエーターの長手方向が一方向でないことを特徴とする第項又は第項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法。
.第項から第項までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法を用いる圧電アクチュエーターの製造方法であって、
前記圧電アクチュエーター付ウエハから前記圧電アクチュエーターを別の支持基板に転写して前記ウエハを除去する工程と、
前記第1電極及び前記圧電体薄膜をパターニングして各圧電アクチュエーターに複数の圧電体素子を形成する工程と、
前記各圧電アクチュエーターの周囲のシード層を除去して各圧電アクチュエーターを個別化する工程とを有することを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法。
【0019】
10.前記圧電アクチュエーターの角部をR面取り加工することを特徴とする第項に記載の圧電アクチュエーターの製造方法。
【0020】
11.前記圧電アクチュエーターの長手方向と直交する平面で切断したときの前記圧力室部材の断面を逆テーパー型に加工することを特徴とする第項又は第10項に記載の圧電アクチュエーターの製造方法。
【0021】
12.第項から第11項までのいずれか一項に記載の圧電アクチュエーターの製造方法を用いることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記手段により、圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーターを多く得ることが可能な圧電アクチュエーター付ウエハ等を提供することができる。
【0023】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0024】
圧電特性が同心円状に均一である圧電アクチュエーター付ウエハの場合、ウエハの中心点までの距離が同じ箇所の圧電体薄膜の圧電特性は同一となるが、ウエハの中心点までの距離が異なる箇所の圧電体薄膜の圧電特性は同一になるとは限らない。
そのため、従来のようにウエハ上に格子状に圧電アクチュエーターを配置した場合、配置された場所によっては、各圧電アクチュエーター内における圧電体薄膜の圧電特性の均一性が悪い圧電アクチュエーターができてしまう。
しかし、長手方向の両端面の各下辺の各中点から圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となるように配置された圧電アクチュエーターは、両端にある圧電体素子の圧電特性は同一であり、その内側の圧電体素子の圧電特性も大きな差はないため、このように配置された圧電アクチュエーターは圧電特性の均一性が良好である。
したがって、いずれの圧電アクチュエーターもこのように配置することで、1枚のウエハから圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーターのみを得ることができる。
そのため、インクジェットヘッドに適した、圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーターを1枚のウエハから多く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】圧電アクチュエーター付ウエハの平面図
図2】ウエハ上の圧電アクチュエーターの配置を示す図
図3】大きさの異なる圧電アクチュエーターを配置した例を示す図
図4】圧電アクチュエーター付ウエハの平面拡大図
図5】圧電アクチュエーター付ウエハの断面拡大図
図6】圧電アクチュエーター(個別化後、単品化前)の平面図
図7】圧電アクチュエーター(個別化後、単品化前)の断面図
図8】圧電アクチュエーター(単品化後)の断面図
図9】圧電アクチュエーター(単品化後)の平面図
図10】第1電極及び圧電体薄膜の形成工程を示す断面図
図11】絶縁体膜の形成工程を示す断面図
図12】第2電極の形成工程を示す断面図
図13】インク遮断膜の形成工程を示す断面図
図14】シード層の形成工程を示す断面図
図15】DFR層の形成工程を示す断面図
図16】DFR層の形成工程を示す平面図
図17】圧電アクチュエーターの断面を逆テーパー型にするためのDFR層の形成工程を示す断面図
図18】圧力室部材の積層工程を示す断面図
図19】電気メッキ装置の構成図
図20】DFR層の除去工程を示す断面図
図21】DFR層の除去工程を示す平面図
図22】支持基板の接着工程を示す断面図
図23】ウエハの除去工程を示す断面図
図24】第1電極のパターニング工程を示す断面図
図25】圧電体薄膜のパターニング工程を示す断面図
図26】保護膜の形成工程を示す断面図
図27】個別化工程を示す断面図
図28】圧電アクチュエーター付ウエハ1(本発明)の平面図
図29】圧電アクチュエーター付ウエハ2(比較例)の平面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、ウエハ上に複数の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハであって、前記圧電アクチュエーターが、少なくとも、第1電極、圧電体薄膜並びに第2電極からなる圧電体素子及び複数の圧力室を備えており、かつ、前記ウエハ上における複数の圧電アクチュエーターの配置が、いずれの圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であることを特徴とする。この特徴は下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0027】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの実施形態としては、いずれの前記圧電アクチュエーターも、長手方向の長さが、ウエハの直径の1/3以上であることが、1つのアクチュエーター内に多くの圧電体素子を配置できることにより、多数のノズルを備える事が可能なことになる等、圧電アクチュエーターの性能が向上できる点で好ましい。
【0028】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの実施形態としては、前記圧電アクチュエーターを12個以上有することが、ウエハ内より多くの圧電アクチュエーターを生産する事ができてコストの削減ができる点で好ましい。
【0029】
本発明の圧電アクチュエーターは、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハを用いて形成された圧電アクチュエーターであって、角部がR面取りされていること、又は断面が逆テーパー型であることを特徴とする。角部がR面取りされていることは、インク流路部材を接着させるときに、異物の脱落を防ぐことができる点で好ましい。断面が逆テーパー型であることはインク流路部材を接着させるときに、接着剤のはみ出しを緩和できる点で好ましい。
【0030】
本発明のインクジェットヘッドは、本発明の圧電アクチュエーターを備えることを特徴とする。
【0031】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法は、ウエハ上に複数の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法であって、前記ウエハ上における複数の圧電アクチュエーターの配置が、いずれの圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であり、ウエハ上に第1電極及び圧電体薄膜及び第2電極からなる圧電体素子をスパッタリング法で製膜する工程と、シード層を形成する工程と、Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程とを有し、かつ、前記Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程が、圧力室部材を堆積させるときに各圧電アクチュエーターの周囲には圧力室部材を堆積させないことを特徴とする。
【0032】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法の実施形態としては、前記圧電体薄膜をスパッタリング法で形成するときに、温度及びプラズマの分布をウエハ上で同心円状に均一となるように制御することが、圧電体薄膜の圧電特性を同心円上に均一にできる点で好ましい。
【0033】
本発明の圧電アクチュエーターの製造方法は、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法を用いる圧電アクチュエーターの製造方法であって、前記圧電アクチュエーター付ウエハから前記圧電アクチュエーターを別の支持基板に転写して前記ウエハを除去する工程と、前記第1電極及び圧電体薄膜をパターニングして各圧電アクチュエーターに複数の圧電体素子を形成する工程と、前記各圧電アクチュエーターの周囲のシード層を除去して各圧電アクチュエーターを個別化する工程とを有することを特徴とする。
【0034】
本発明の圧電アクチュエーターの製造方法の実施形態としては、前記圧電アクチュエーターの角部をR面取り加工することが、インク流路部材を接着させるときに異物の脱落を防ぐことができる圧電アクチュエーターを製造できる点で好ましい。
【0035】
本発明の圧電アクチュエーターの製造方法の実施形態としては、前記圧電アクチュエーターの断面を逆テーパー型に加工することが、インク流路部材を接着させるときに接着剤のはみ出しを緩和できる圧電アクチュエーターを製造できる点で好ましい。
【0036】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、本発明の圧電アクチュエーターの製造方法を用いることを特徴とする。
【0037】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0038】
1.圧電アクチュエーター付ウエハの概要
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、ウエハ上に複数の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハであって、前記圧電アクチュエーターが、少なくとも、第1電極、圧電体薄膜並びに第2電極からなる圧電体素子及び複数の圧力室を備えており、かつ、前記ウエハ上における複数の圧電アクチュエーターの配置が、いずれの圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であることを特徴としている。
【0039】
また、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、いずれの圧電アクチュエーターも、長手方向の長さが、ウエハの直径の1/3以上であるときに、特に本発明の効果を発揮する。長手方向の長さが大きい圧電アクチュエーターほど圧電特性を均一する重要性が大きいからである。さらに、従来の格子状配置の場合、圧電アクチュエーターの長手方向の長さがウエハの直径の1/3以上であるとき、ウエハ上に2列又は1列でしか配置できず、1枚のウエハから得られる圧電アクチュエーターの個数が極端に減るからである。
【0040】
また、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、圧電アクチュエーターを12個以上有するときに、特に本発明の効果を発揮する。従来の格子状配置の場合、圧電アクチュエーターの個数が多いほど、圧電特性が均一でない圧電アクチュエーターの割合が増えるからである。
【0041】
また、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、各圧電アクチュエーターの角部をR面取りした形状であることが、1枚のウエハ上に配置できる圧電アクチュエーターの個数を多くできる点からも好ましい。また、角部がR面取りされた形状である圧電アクチュエーターを製造できる点からも好ましい。角部がR面取りされた形状である圧電アクチュエーターは、インク流路部材を接着させるときに、異物の脱落を防ぐことができる点で好ましい。
【0042】
また、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、各圧電アクチュエーターの断面が逆テーパー型であることが、断面が逆テーパー型である圧電アクチュエーターを製造できる点から好ましい。断面が逆テーパー型である圧電アクチュエーターは、インク流路部材を接着させるときに、接着剤のはみ出しを緩和できる点で好ましい。
【0043】
本願において、「圧電アクチュエーター」とは、少なくとも圧電体素子と圧力室を有するものをいう。支持基板(ウエハ含む)上に形成されている状態であっても、圧電体素子と圧力室を有する場合はその部分を「圧電アクチュエーター」という。また、他の圧電アクチュエーターと、支持基板以外の構成部分を切り離すことを「個別化」といい、支持基板から分離することを「単品化」という。
【0044】
以下、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハを図面に基づいて説明する。
【0045】
図1は、圧電アクチュエーター付ウエハの平面図である。圧電アクチュエーター付ウエハは、上から見た場合、圧電アクチュエーター101、貫通溝部102及びその他の領域に分けられる。貫通溝部102及びその他の領域は、圧電アクチュエーターとならない領域である。貫通溝部102とは、圧電アクチュエーターを個別化するために圧力室部材を形成しない領域のことをいい、圧電アクチュエーターの外側の周囲1mm程度の領域のことをいう。
【0046】
図2(a)は、ウエハ201上の圧電アクチュエーター101の配置を示す図である。説明のため、圧電アクチュエーター101を1個のみ配置している。図2(b)は圧電アクチュエーター101を簡略的に直方体で表した斜視図である。図2(b)の両矢印は長手方向を示している。本願において、長手方向の両端面とは、長手方向と垂直に位置する2つの面のことであり、図2(b)において斜線で示している面のことである。また、長手方向の両端面の各下辺の各中点は、図2(b)において2つの点で示している。本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、いずれの圧電アクチュエーター101も、その長手方向の両端面の各下辺の各中点(各下辺にある2つの中点)が、図2(a)に示すように、圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であることを特徴とする。
【0047】
それぞれの圧電アクチュエーターが有する上記2つの中点が圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であればよく、異なる圧電アクチュエーター同士の位置関係を限定するものではない。
【0048】
距離が「略同一」とは、距離の差が10%以内、好ましくは5%以内、更に好ましくは3%以内であることをいい、同一も含む。距離の差が小さいほど、圧電特性の均一性を良好にできる。
【0049】
図3は、異なる大きさの圧電アクチュエーターが配置されている例を示す図である。本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、図3のように、大きさが異なる圧電アクチュエーターを同一ウエハ上に配置することができる。また、図示はしていないが、角部の形状等が異なる圧電アクチュエーターを同一ウエハ上に配置することもできる。これにより、機種の異なる圧電アクチュエーターを同時に製造することができる。また、ウエハ上の領域を有効活用できるため、1枚のウエハ上に配置できる圧電アクチュエーターの個数を多くすることができる。
【0050】
図4は、圧電アクチュエーター付ウエハの平面拡大図であり、図1の範囲Eに相当する部分を拡大したものである。本発明の圧電アクチュエーター付ウエハは、上から見たとき、圧力室部材が堆積されている部分と堆積されていない部分がある。圧電アクチュエーター101には、圧力室内部103と、圧力室壁部104がある。圧力室内部103には圧力室部材が堆積されておらず、圧力室壁部104には圧力室部材が堆積されている。貫通溝部102には圧力室部材は堆積されていない。
なお、図4は、例として、圧力室が各圧電アクチュエーター内に2列で配列されたものを示している。
【0051】
図5は、圧電アクチュエーター付ウエハの断面拡大図であり、図4の破線F-Fに相当する。以下、図5に基づいて説明する。
【0052】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハが有する圧電アクチュエーター101は、少なくとも、第1電極202、圧電体薄膜203並びに第2電極205からなる圧電体素子106及び複数の圧力室105を備えていることを特徴としている。
【0053】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハにおいて、各圧電アクチュエーター101は複数の圧力室105を備えているが、その数や配列は特に限られない。例えば200個/列×4列で計800個とすることができる。
【0054】
また、圧電体薄膜203と第2電極205の間に絶縁体膜204がパターニングされて形成されていることが好ましい。
【0055】
また、圧電室部材210の下には、圧力室部材210を堆積させるためのシード層207が形成されていてもよい。
【0056】
また、第2電極205とシード層207の間にインク遮断膜206がパターニングされて形成されていることが好ましい。
【0057】
各構成部の材料や厚さ等は後述する製造方法についての記載で詳しく説明する。
【0058】
2.圧電アクチュエーターの概要
本発明の圧電アクチュエーターは、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハを用いて形成された圧電アクチュエーターであって、角部がR面取りされていること、又は断面が逆テーパー型であることを特徴とする。これらの特徴は両方備えていてもよい。
【0059】
本願において、圧電アクチュエーターとは、前述したとおり、図5のようにウエハに固定されている状態も含むが、後述する加工をして圧電体素子を各圧電アクチュエーターユニットに対応するようにパターニングした状態や、個別化や単品化をした状態も含む。
【0060】
図6は、圧電アクチュエーター(個別化後、単品化前)の平面図である。
【0061】
図7は、圧電アクチュエーター(個別化後、単品化前)の断面図である。貫通溝部102のシード層等の部材が除去されているため個別化されているが、圧電アクチュエーターは熱剥離シート212を介して支持基板211に固定されているため単品化はされていない状態である。圧電アクチュエーター101は複数の圧電アクチュエーターユニット107を有しており、また、各圧電アクチュエーターユニット107はそれぞれ圧電体素子106及び圧力室105を一つずつ有している。
【0062】
また、圧電アクチュエーターの表面に保護膜213を有していることが好ましい。
【0063】
図8は、本発明の実施形態である圧電アクチュエーター(単品化後)の断面図である。圧電アクチュエーターは支持基板と分離され単品化されている。
【0064】
また、図8の圧電アクチュエーターは、断面が逆テーパー型である圧電アクチュエーターを表している。
【0065】
図9は、圧電アクチュエーター(単品化後)の平面図である。図9(a)はR曲面処理されていない圧電アクチュエーターの平面図であり、図9(b)は角部がR曲面処理されている圧電アクチュエーターの平面図である。
【0066】
各構成部の材料や形状は後述する製造方法についての記載で詳しく説明する。
【0067】
3.インクジェットヘッドの概要
本発明のインクジェットヘッドは、本発明の圧電アクチュエーターを備えることを特徴とする。
【0068】
本発明の圧電アクチュエーターを備えているものであれば、他の部材等は特に限定されない。例えば、特開2009-45871号公報に記載のインク流路部材及びノズル板等を用いることができる。
【0069】
4.本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法は、ウエハ上に複数の圧電アクチュエーターを有する圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法であって、前記ウエハ上における複数の圧電アクチュエーターの配置が、いずれの圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置であり、ウエハ上に第1電極及び圧電体薄膜及び第2電極からなる圧電体素子をスパッタリング法で製膜する工程と、シード層を形成する工程と、Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程とを有し、かつ、前記Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させる工程が、圧力室部材を堆積させるときに各圧電アクチュエーターの周囲には圧力室部材を堆積させないことを特徴とする。
【0070】
また、圧電体薄膜をスパッタリング法で形成するときに、温度及びプラズマの分布をウエハ上で同心円状に均一となるように制御することが好ましい。
【0071】
以下、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法を図面に基づいて説明する。
【0072】
図10に示すように、ウエハ201上の全面に、第1電極202及び圧電体薄膜203を形成する。
【0073】
ウエハ201はシリコンウエハであることが好ましい。サイズは特に限られないが、直径φが6~12インチの範囲内であることが好ましい。
【0074】
図示はしていないが、第1電極202を形成する前に、ウエハ201と第1電極202の密着性を高めるために密着層を形成してもよい。
【0075】
密着層は、例えばTiターゲットを用いて、ウエハ201を400℃に加熱しながら500Wの高周波電力を印加し、スパッタ時のガス圧力が1Paのアルゴンガス中で、1分間スパッタ法により形成することにより得ることができる。
【0076】
ターゲットにはTiに限らず、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル若しくはクロム又はこれらの化合物であってもよい。密着層の厚さは0.005~0.2μmの範囲内であることが好ましい。
【0077】
次に、第1電極202を形成する。
【0078】
第1電極202の厚さは0.005~2μmの範囲内であることが好ましい。
【0079】
第1電極は、スパッタリング法で形成することができる。例えば、Ptターゲットを用い、ウエハを600℃に加熱しながらスパッタ時のガス圧力が1Paのアルゴンガス中において500Wの高周波電力で12分間スパッタリングする。ターゲットはプラチナ、イリジウム、パラジウム、ルテニウムのいずれか又はこれらの化合物でもよい。
【0080】
次に、圧電体薄膜203をスパッタリング法で形成する。
【0081】
圧電体薄膜203の厚さは1~10μmの範囲内であることが好ましい。
【0082】
圧電体薄膜203をスパッタリング法で形成するとき、温度及びプラズマの分布をウエハ上で同心円状に均一となるように制御することが好ましい。
例えば、同心円状に内周と外周のヒーターを配置して、均熱板(サセプタ)を温める構成とし、内外周ヒーターを独立制御することによって温度の分布をウエハ上で同心円状に均一となるように制御することができる。また、マグネットを同心円状方向に配置したり、マグネットを埋め込んだモールドユニットを回転させたりすることにより印可する磁界分布を均一にすることによってプラズマの分布をウエハ上で同心円状に均一となるように制御することができる。
【0083】
ターゲットには、PZT(Pb(Zr,Ti)O:チタン酸ジルコン酸鉛)を用いることが好ましい。PZTを用いる場合、Zr/Ti組成は、Zr/Ti=30/70~70/30であることが好ましい。
また、ターゲットにはPZTにLa、Sr、Nb、Al等の添加物を含有したもの等のように、PZTを主成分とする圧電材料や、他にPMN(Pb(Mg,Nb)O:マグネシウム酸ニオブ酸鉛)やPZN(Pb(Zn,Nb)O:亜鉛酸ニオブ酸鉛)を用いることもできる。
【0084】
次に、図11に示すように絶縁体膜204を形成することが好ましい。
絶縁体膜204は、例えば、感光性ポリイミド樹脂をスピンコート法により塗布することで形成することができる。絶縁体膜204はリード配線や電極パッド部等が形成される領域に形成し、主としてショートを防ぐために用いる。
【0085】
貫通溝部並びに第1電極と第2電極に挟まれた圧電体薄膜が形成される領域は絶縁体膜を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像する。パターニング後、300℃で焼成することで硬化させる。
露光装置はウエハサイズに対応した装置、例えばウシオ電機製のUX-4438SCアライナーを用いることができる。(以降、本願において、露光には同じ装置を用いることができる。)
【0086】
また、絶縁体膜204は、感光性ポリイミド樹脂の塗布ではなく、SiO等の無機材料をスパッタリング法で製膜することによっても形成することができる。
【0087】
圧電アクチュエーターを形成する領域の配置及び形状は、後述する圧力室部材形成時の貫通溝部のパターニングによって決定されるが、絶縁体膜204を形成する場合、絶縁体膜204のパターニングの配置及び形状も貫通溝部のパターニングの配置及び形状に対応したものにする必要がある。
【0088】
本発明の圧電アクチュエーター付ウエハにおいては、いずれの圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となるように配置されるので、絶縁体膜のパターニングもこの配置に対応するものとする。
【0089】
また、各圧電アクチュエーターの形状を、角部がR面取りされた形状に加工する場合、絶縁体膜204のパターニングもこの形状に対応するものとする。
【0090】
次に、図12に示すように第2電極205を形成する。
【0091】
第2電極205は、スパッタリング法で形成することができる。例えば、2種類の金属膜を積層させることで形成することができる。Cuターゲットを用いて、室温においてスパッタ時のガス圧力1Paのアルゴンガス中500Wの高周波電力で170分間形成することで1.5μmのCu膜が得られる。また、Crターゲットを用いて、室温においてスパッタ時のガス圧力1Paのアルゴンガス中500Wの高周波電力で220分間形成することで、2.0μmのCr膜が得られる。
【0092】
第2電極205の材料は、CuやCrに限らず、ニッケル、アルミニウム、タンタル、タングステン、シリコン又はこれらの酸化物若しくは窒化物(例えば二酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化シリコン)等であってもよい。
【0093】
また、第2電極205の全体の膜厚は1~10μmの範囲内であることが好ましい。
【0094】
また、2種類の金属膜を積層させる場合、圧電体薄膜203に近い方に設けられる金属膜は他方の金属膜よりもヤング率が小さい材料を用いることが好ましい。これにより積層体の作製時に圧電体薄膜203の応力集中が緩和され、安定したプロセスが構築できる。また、圧電体薄膜203の変位面がより外側に設定されるため、より効率的なエネルギーの発生が得られる。
【0095】
次に、図13に示すように、必要であればインク遮断膜206を第2電極205の上に形成する。
【0096】
インク遮断膜206は、インクの浸透を防ぐとともに、圧電体薄膜のクラックを防止できる。また、応力緩和層としても機能する。インク遮断膜206の厚さは1.0~1.5μmの範囲内であることが好ましい。
【0097】
インク遮断膜206は、例えば、感光性ポリイミド樹脂をスピンコート法により塗布し、200℃で焼成することで硬化させることで形成することができる。
【0098】
なお、図示はしていないが、貫通溝部のインク遮断膜をこの工程で除去してもよい。この工程で貫通溝部のインク遮断膜を除去する場合、感光性ポリイミド樹脂を硬化させる前に、貫通溝部を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像することで、パターニングすることができる。
【0099】
また、インク遮断膜206を形成する場合、インク遮断膜206と後述するシード層207の密着性を高めるためにインク遮断膜206の上に密着層を形成してもよい。密着層の材料は、インク遮断膜との相性を考慮して選択すればよく、例えばCr、Ti、Mo等を用いることができる。
【0100】
次に、図14に示すようにシード層を形成する。
シード層207は、貫通溝部も含め、ウエハ上の全面に形成する。スパッタリング法で形成することができるが、ターゲットは後述する圧力室部材210の材料と同一のものを使用する。厚さは0.5μm程度であることが好ましい。
【0101】
次に圧力室部材を形成する。
まず前処理として、脱脂処理を行うことが好ましい。
脱脂処理は、例えば、界面活性剤(ワールドメタル社製L505-B)を純水との比で1:5の割合で混合したものを使用し、40℃の液温で1分間処理することでできる。脱脂処理後は、純水によりリンス、洗浄し、さらに酸洗浄を行うとよい。酸洗浄は10%濃度の塩酸を使用し、40℃の液温で30秒間処理することでできる。酸洗浄後にさらに純水でリンス、洗浄する。
【0102】
次に、図15及び図16に示すようにドライフィルムレジスト層208及び209を形成する。図16図4の範囲Gに相当する部分を拡大したものである。
なお、「ドライフィルムレジスト」とは、プリント配線板等を作製する際、配線基板上に貼りつけ、回路を形成するために用いられるフィルム状のレジスト材料のことをいう。
【0103】
ドライフィルムレジスト(Dry Film Resist:DFR)層の材料は特に限られないが、例えば、東京応化社製のORDYL MP108を用いることができる。ドライフィルムレジスト層の厚さは圧力室の高さに応じて決めればよい。
【0104】
ドライフィルムレジスト層の形成は、まずドライフィルムレジストを全面に貼り付け、その後、圧力室内部103と貫通溝部102を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像する。これにより、圧力室内部103となる領域のドライフィルムレジスト層208と貫通溝部102となる領域のドライフィルムレジスト層209が残る。
【0105】
このとき、いずれの圧電アクチュエーターを形成する領域も、その長手方向の両端面の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置となるように貫通溝部102をパターニングする。
【0106】
また、圧電アクチュエーターを形成する領域の角部がR面取りされた形状となるように貫通溝部102をパターニングすることで、圧電アクチュエーターの角部がR面取りされた形状である圧電アクチュエーター付ウエハを作製することができる。
【0107】
露光時間や現像時間を長くすることで、図17に示すように、ドライフィルムレジスト層を、下部ほど幅が狭くなるように形状を調整することができ、これにより圧力室部材210及び圧電アクチュエーターの断面の形状を逆テーパー型に調整することができる。例えば、露光は、ウシオ電機製のUX-4438SCアライナーを用いて500Wで40秒処理、現像は、30℃の濃度0.1%炭酸ナトリウム水溶液中で1分間処理することで、圧電アクチュエーターの断面を逆テーパー型に加工することができる。
露光及び現像の条件を変えることで、ドライフィルムレジストの高さが160μmの場合、ドライフィルムレジスト層の上下の幅の差を0~30μmの範囲内で調整することができる。
【0108】
ドライフィルムレジスト層208の形成により、Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させるときに、各圧力室内部には圧力室部材を堆積させないことができる。
【0109】
ドライフィルムレジスト層209の形成により、Ni電鋳法で圧力室部材を堆積させるときに、貫通溝部(各圧電アクチュエーターの周囲)には圧力室部材を堆積させないことができる。
【0110】
次に、脱脂処理を行うことが好ましい。
脱脂処理は前述の方法と同様の方法で行うことができる。
【0111】
次に、Ni電鋳法により圧力室部材210を堆積させる。
図18に示すように、ドライフィルムレジストが除去された部分に、Ni電鋳法でNiからなる圧力室部材210を堆積させる。ドライフィルムレジスト層208及びドライフィルムレジスト層209が除去されずに残っている部分には圧力室部材210は堆積されない。
【0112】
Niからなる圧力室部材210中には、少量の他の金属、例えばCo、Mo、Ru等が含有されていてもよい。
【0113】
堆積された圧力室部材210の硬度は400~700Hvの範囲内であることが後述する研削工程での加工性や加工精度の観点から好ましい。硬度はエリオニクス社製の超微小押し込み硬さ試験機ENT110aにより測定することができる。
【0114】
(Ni電鋳法の例)
Ni電鋳法による圧力室部材210の堆積方法の一例として、図19に示すNi電気メッキ装置を用いた方法について記載する。
【0115】
図19に示すNi電気メッキ装置のカソード電極403の所定の位置に、ワーク401としてドライフィルムレジスト層が形成されている工程段階のウエハを固定し、カソード電極403と導通した状態にしてセッティングを行う。次にカソード電極403をメッキ槽402にセットし、メッキ液412中で遮蔽板405を挟んで、アノード電極404との間に整流器406により電圧を印加、通電して、電気メッキを行う。
【0116】
図19に示すNi電気メッキ装置は、メッキ槽402とリザーブタンク407の間でメッキ液412を循環する構成となっており、メッキ槽402とリザーブタンク407の間には循環用のポンプ409、フィルター410、及び流量計411が設置されている。またリザーブタンク407ではヒーター408によりメッキ液を加熱し、メッキ液412を一定の温度に調整する。メッキ液412は液量100Lの薬液比率として、例えば60%スルファミン酸ニッケル56L、塩化ニッケル1.0kg、ホウ酸3.0kg、応力緩和剤(日本化学産業社製NSF-H-4)0.3L、ピット防止剤(日本化学産業社製ピットレスS)1.0Lを添加し、全体で100Lになるように純水を入れて調合した薬液を使用する。メッキ槽402とリザーブタンク407との薬液の比率は2:8に調整する。また電気メッキ後の硬度や光沢等を調整するために、少量の他の金属、例えばCo、Mo、Ru等を含む添加剤を入れることができる。これらの金属は堆積後にNi中に少量含有される。
【0117】
圧力室部材210を形成するためのNi電気メッキの具体的条件としては、例えば、カソードとアノードとの電極間距離を85mm、循環の流量を5L/分、液温を40℃、PHを4.0~4.5の範囲に保った状態で、電極間に印加する電流密度を8A/dmに設定して、3時間の電気メッキを行うことで、180μmの圧力室部材を堆積できる。
【0118】
次に、圧力室部材の上部を研削して所定の高さにする。
圧力室部材210を所定の高さにするために、圧力室部材210の上部をドライフィルムレジスト層208及び209ごと研削する。この高さは特に限定されず、圧力室内部の高さとして好ましい高さとすればよい。例えば150μm程度である。
【0119】
研削の方法は特に限定されないが、例えば、ディスコ社製の研削装置DAG810により、レジン砥石#320を用い、砥石回転数4000rpm、テーブル回転数300rpmで15μm/分の条件で研削することができる。
【0120】
次に、ドライフィルムレジストを除去する。
図20及び図21に示すように、ドライフィルムレジスト層208及び209を除去する。図21は、図4の範囲Gに相当する部分を拡大したものである。ドライフィルムレジスト層208及び209の除去は剥離剤である東京応化社製のMP2を用いて、60~70℃の液温で浸漬を3時間行い、途中でブラシ洗浄を併用することでできる。
【0121】
ドライフィルムレジスト層208及び209が完全に除去できたら、洗浄・乾燥させ、圧電アクチュエーター付きウエハが完成する。
【0122】
なお、上記研削による研削バリによってドライフィルムレジスト層が除去しにくい場合は、ドライフィルムレジスト層の除去の前に研削バリを電解研磨等により処理するとよい。
【0123】
5.本発明の圧電アクチュエーターの製造方法
本発明の圧電アクチュエーターの製造方法は、本発明の圧電アクチュエーター付ウエハの製造方法を用いる圧電アクチュエーターの製造方法であって、前記圧電アクチュエーター付ウエハから前記圧電アクチュエーターを別の支持基板に転写して前記ウエハを除去する工程と、前記第1電極及び圧電体薄膜をパターニングして各圧電アクチュエーターに複数の圧電体素子を形成する工程と、前記各圧電アクチュエーターの周囲のシード層を除去して各圧電アクチュエーターを個別化する工程とを有することを特徴とする。
【0124】
また、前記圧電アクチュエーターの角部をR面取り加工してもよい。
【0125】
また、前記圧電アクチュエーターの断面を逆テーパー型に加工してもよい。
【0126】
以下、本発明の圧電アクチュエーターの製造方法を図22~27に基づいて説明する。
【0127】
圧電アクチュエーターをウエハ201から支持基板211に転写する。
図22に示すように、圧力室部材210の上に支持基板211を熱剥離シート212で貼り付ける。支持基板211の材料は特に限定されず、ガラス基板等を用いることができる。支持基板211のサイズはウエハ上に形成されている圧電アクチュエーターを全て固定できるサイズであれば特に限定されないが、ウエハと略同サイズのものが好ましい。
【0128】
熱剥離シート212は、少なくとも圧電アクチュエーターと接着する面は熱剥離性でなければならない。支持基板211との接着は、両面仕様の熱剥離シートを用いて接着してもよいし、UV樹脂等の接着剤を用いて接着してもよい。熱剥離シート212は、例えば日東電工社製のものを用いることができる。
【0129】
また、プロセスの負荷を考慮して、必要に応じてウエハの端部等に補強の接着剤を塗布してもよい。
【0130】
支持基板211の貼り付け後、図23に示すように、ウエハ201を除去する。図23は圧電アクチュエーターの上下を図22までと逆に示している。ウエハ201の除去はドライエッチングにより行うことができるが、ドライエッチングの前にあらかじめウエハの厚さが50~100μmになるまでを研削加工等により除去しておいてもよい。エッチングガスには六フッ化硫黄(SF)を用いることで、圧電アクチュエーターへの物理的な影響を抑えてエッチングすることができ、また、上部電極がエッチングのストッパーとなる。
【0131】
ウエハ201と第1電極202の間に密着層を形成していた場合、この密着層はウエハ201と同様に除去することができるが、必ずしも除去する必要はない。
【0132】
次に、図24に示すように、第1電極202をフォトリソグラフィによりパターニングする。
【0133】
パターニングにより、第1電極202を各圧電アクチュエーターユニットに対応するように分離する。このとき、同時に各アクチュエーター間の第1電極202が除去される。
【0134】
フォトリソグラフィによるパターニングは、レジストマスク形成、ドライエッチング除去、レジストマスク剥離により行うことができる。エッチングガスはアルゴン、酸素、トリフルオロメタン(CHF)の混合ガスを用いることができる。
【0135】
レジストマスク形成は、レジストの塗布、露光によるマスクパターン転写、現像によって行うことができる。以降、本願におけるレジストマスク形成は、別途記載する場合を除き、同様の方法にて行うものとする。
【0136】
なお、第1電極202のパターニングするときに、第1電極から延設してリード配線及び電極パッド部を形成してもよい。
【0137】
次に、図25に示すように、圧電体薄膜203をフォトリソグラフィによりパターニングする。
【0138】
パターニングにより、圧電体薄膜203を各圧電アクチュエーターユニットに対応するように分離する。このとき、同時に貫通溝部の圧電体薄膜203を除去する。
【0139】
フォトリソグラフィによるパターニングは、レジストマスク形成、エッチング除去、レジストマスク剥離により行うことができる。エッチングはドライエッチングでもウェットエッチングでもよい。ドライエッチングの場合、エッチングガスには、例えば塩素と臭素の混合ガスを用いることができる。ウェットエッチングの場合、エッチング液には、例えばフッ酸水溶液と硝酸水溶液の混合液(フッ硝酸)を用いることができる。
【0140】
次に、必要であれば図26に示すように保護膜213を形成する。
【0141】
保護膜213は感光性ポリイミド樹脂をスピンコート法により塗布することで形成することができる。
【0142】
保護膜213を形成する場合は、全面に塗布した後、貫通溝部と電極パッド部の保護膜を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像する。これにより、圧電アクチュエーター上の電極パッド部を除いた部分にパターニングすることができる。パターニング後、100℃で焼成することで硬化させる。
【0143】
次に、図27に示すように、貫通溝部のシード層207、第2電極205及びインク遮断膜206を除去する。
【0144】
貫通溝部のシード層207、第2電極205及びインク遮断膜206の除去により、各圧電アクチュエーターが個別化され、支持基板上の圧電アクチュエーターが完成する。シード層207及び第2電極205及びインク遮断膜206の除去は、圧電アクチュエーターへのダメージを抑えることができるレーザー加工で行うことができる。
【0145】
また、インク遮断膜206を形成していない場合や、インク遮断膜206を形成しているが、貫通溝部のインク遮断膜206を形成時に除去している場合は、シード層207及び第2電極205の除去は、レーザー加工で行うこともできるが、フォトリソグラフィで行うこともできる。
【0146】
レーザー加工での除去は、IR(赤外線)レーザー又はUV(紫外線)レーザーを用いて、貫通溝部をレーザー走査することでできる。
【0147】
フォトリソグラフィでの除去は、圧電アクチュエーター上へのレジストマスク形成、貫通溝部のシード層等のエッチング除去、レジストマスク剥離により行うことができる。レジストマスク剥離後はリンス及び洗浄を行うことが好ましい。
【0148】
第2電極205の材料がCrである場合、例えば純水1000質量部、フェリシアン化カリウム200質量部、水酸化ナトリウム60質量部を調合したエッチング液を用いることでエッチングすることができる。
第2電極205の材料がCuである場合、例えば純水1000質量部、過硫酸アンモニウム90質量部、塩化アンモニウム6質量部を調合したエッチング液を用いることでエッチングすることができる。
また、このようなアルカリ系のエッチング液を用いる場合、レジストの材料には耐アルカリ性のゴム系のレジストを用いることが好ましく、例えば東京応化製OMRレジストを使用するができる。
【0149】
シード層をエッチング除去する際のエッチングガスはアルゴン、酸素CHFの混合ガスを用いることができる。
【0150】
次に、各圧電アクチュエーターを支持基板211から取り外して単品化する。
個別化された圧電アクチュエーターは、熱剥離シート212で支持基板211に貼り付けられているため、ホットプレート又は加熱炉等を用いて熱剥離シートが発泡する温度以上に加熱することで取り外すことができる。
【0151】
6.本発明のインクジェットヘッドの製造方法
本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、本発明の圧電アクチュエーターの製造方法を用いることを特徴とする。
【0152】
本発明の圧電アクチュエーターの製造方法を用いていればよく、他の工程等は特に限定されない。
【0153】
例えば、本発明の圧電アクチュエーターの圧力室部材の下端面に接着剤を転写し、別途準備したインク流路部材とアライメント調整を行って、この両者を接着剤により接着することでインクジェットヘッドを製造することができる。
【0154】
前記インク流路部材には共通液室、供給口及びインク流路が形成されており、ノズル孔が形成されているノズル板と接着されているものを用いることができる。
【実施例
【0155】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0156】
≪圧電アクチュエーター1の作製≫
8インチのシリコンウエハ上に20個の圧電アクチュエーターが図28に示すように配置された圧電アクチュエーター付ウエハ1を作製し、当該圧電アクチュエーター付ウエハ1から圧電アクチュエーター1を単品化した。圧電アクチュエーター1の大きさは長辺68.2mm、短辺12.8mmであり、各圧電アクチュエーターは200個/列×4列で計800個の圧電アクチュエーターユニットを備えている。
【0157】
上記配置は、いずれの圧電アクチュエーターも、その長手方向の両端面の各下辺の各中点から前記圧電アクチュエーター付ウエハの中心点までの距離が略同一となる配置である。
【0158】
なお、各工程において、スパッタリングには多元式スパッタ装置を用いた。また、露光装置はウシオ電機製のUX-4438SCアライナーを用いた。
【0159】
まず、8インチのシリコンウエハ上に、0.02μmの密着層をTiターゲットを用いてスパッタリング法で形成した。スパッタリングは、温度400℃、高周波電力500W、スパッタ時のガス圧力1Paのアルゴンガス中で1分間行った。
【0160】
次に、0.2μmの第1電極をPtターゲットを用いてスパッタリング法で形成した。スパッタリングは、温度600℃、高周波電力500W、スパッタ時のガス圧力1Paのアルゴンガス中で12分間行った。
【0161】
次に、3μmの圧電体薄膜をPZTを用いてスパッタリング法で形成した。スパッタリングは、温度580℃、高周波電力500W、スパッタ時のガス圧力0.3Paのアルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O=20:2)で180分間行った。PZTは化学量論組成よりPb量の多いPZT(Zr/Ti=53/47,Pbが20モル%過剰)の焼結体を用いた。
【0162】
次に、1μmの絶縁体膜を、感光性ポリイミド樹脂をスピンコート法により塗布し、さらにパターニングすることで形成した。パターニングは、貫通溝部並びに第1電極と第2電極に挟まれた圧電体素子が形成される領域は絶縁体膜を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像することで行った。パターニング後、300℃で焼成することで硬化させた。
【0163】
次に、1.5μmのCu膜と2.0μmのCr膜からなる第2電極を、スパッタリング法で形成した。Cu膜のスパッタリングは、室温で、高周波電力500W、スパッタ時のガス圧力1Paのアルゴンガス中で170分間行った。Cr膜のスパッタリングは、室温で、高周波電力500W、スパッタ時のガス圧力1Paのアルゴンガス中で120分間行った。
【0164】
次に、1μmのインク遮断膜を、感光性ポリイミド樹脂をスピンコート法により塗布し、200℃で焼成することで硬化させた。
【0165】
次に、0.5μmのシード層を、スパッタリング法で形成した。スパッタリングは、高周波電力500W、スパッタ時のガス圧力1Paのアルゴンガス中で15分間行った。
【0166】
次に、160μmのドライフィルムレジスト層を、東京応化社製のORDYL MP108の厚さが80μmのドライフィルムレジストを2層積層して形成した。次に、圧力室内部と貫通溝部を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像した。露光は500Wで40秒処理することで行った。また、現像は30℃の濃度0.1%炭酸ナトリウム水溶液中で1分間処理することで行った。
【0167】
次に、ドライフィルムレジスト層が除去された部分に、Ni電鋳法でNiからなる圧力室部材を180μm堆積させた。この圧力室部材を、ドライフィルムレジスト層ごと、高さが150μmとなるように、ディスコ社製の研削装置DAG810により、レジン砥石#320を用い、砥石回転数4000rpm、テーブル回転数300rpmで15μm/分の条件で研削した。
【0168】
次に、東京応化社製のMP2を用いて、60~70℃の液温で浸漬を3時間行い、途中でブラシ洗浄を併用することでドライフィルムレジスト層を除去した。除去後、洗浄・乾燥させた。
【0169】
次に、圧力室部材の上に、8インチのガラス製の支持基板を、日東電工社製の両面の熱剥離シートで貼り付けた。次に、シリコンウエハを、厚さが50μm程度になるまで研削し、さらにSFを用いたドライエッチングを行うことで完全に除去した。
【0170】
次に、第1電極の上に東京応化製OMRレジストを塗布し、圧電アクチュエーターユニットに対応する圧電体素子となる領域以外の第1電極を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像することでレジストマスクを形成した。次に、レジストマスクが形成されていない領域の第1電極を、アルゴン、酸素、CHFの混合ガスを用いてドライエッチング除去した。洗浄後、剥離液を用いてレジストマスクを剥離した。
【0171】
次に、東京応化製OMRレジストを塗布し、圧電体素子となる領域以外の圧電体薄膜を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像することでレジストマスクを形成した。次に、レジストマスクが形成されていない領域の圧電体薄膜を、塩素と臭素の混合ガスを用いてドライエッチング除去した。洗浄後、剥離液を用いてレジストマスクを剥離した。
【0172】
次に、1μmの保護膜を、感光性ポリイミド樹脂をスピンコート法により塗布し、さらにパターニングすることで形成した。パターニングは、貫通溝部と電極パッド部の保護膜を除去するマスクパターンを露光により転写し、現像することで行った。パターニング後、100℃で焼成することで硬化させた。
【0173】
次に、貫通溝部の第2電極、インク遮断膜及びシード層をIRレーザーを用いて除去することで各圧電アクチュエーターを個別化した。
【0174】
次に、支持基板を熱剥離シートが発泡する温度以上に加熱して、各圧電アクチュエーターを単品化した。
【0175】
≪圧電アクチュエーター2の作製≫
8インチのシリコンウエハ上に18個の圧電アクチュエーターが図29に示すように配置された圧電アクチュエーター付ウエハ2を作製し、当該圧電アクチュエーター付ウエハ2から圧電アクチュエーター2を単品化した。圧電アクチュエーター2の大きさは圧電アクチュエーター1と同様長辺68.2mm、短辺12.8mmである。
【0176】
圧電アクチュエーター2は、ウエハ上の配置が格子状であること、ウエハ上の個数が18個であること、貫通溝部を設けていないこと、及び各圧電アクチュエーターの個別化をダイサーによる切断加工により行ったこと以外は実施例Aと同様の材料及びプロセスで行った。
【0177】
≪評価≫
5枚のウエハで作製した100個の圧電アクチュエーター1と、5枚のウエハで作製した90個の圧電アクチュエーター2に、それぞれインク流路部材及びノズル板を接着剤によって接着し、100個のインクジェットヘッド1及び90個のインクジェットヘッド2を作製した。使用したノズル板のノズル孔の直径は20μmである。
【0178】
各インクジェットヘッドにインクを充填後、所定の波形を印加してインクを射出させた。このときの、インクの射出速度S[m/s]をドロップウォッチャーを用いて測定した。
【0179】
各インクジェットヘッドに4列ある圧電アクチュエーターユニットのうち両端でないある1列の200個の圧電アクチュエーターユニットから射出されるインクの射出速度S[m/s]から、下記式で速度ばらつきS[%]を算出した。
[%]=[(Smax-Smin)/Save]×100
maxは列内の射出速度Sの最高値
minは列内の射出速度Sの最低値
aveは列内の射出速度Sの平均値
【0180】
[%]の値が小さいほどノズル間の速度ばらつきが小さく、圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーター、インクジェットヘッドであるといえる。
【0181】
各インクジェットヘッドをS[%]の値によって5段階に分け、インクジェットヘッド1及びインクジェットヘッド2でそれぞれ各段階における個数の割合を算出して表Iにまとめた。
【0182】
【表1】
【0183】
表Iから分かるとおり、本発明であるインクジェットヘッド1は、S[%]の値が低いインクジェットヘッドの割合が多い。したがって、圧電特性の均一性が良好な圧電アクチュエーターを1枚のウエハから多く得ることができていることが分かる。
【符号の説明】
【0184】
101 圧電アクチュエーター
102 貫通溝部
103 圧力室内部
104 圧力室壁部
105 圧力室
106 圧電体素子
107 圧電アクチュエーターユニット
201 ウエハ
202 第1電極
203 圧電体薄膜
204 絶縁体膜
205 第2電極
206 インク遮断膜
207 シード層
208 圧力室内部のDFR層
209 貫通壁部のDFR層
210 圧力室部材
211 支持基板
212 熱剥離シート
213 保護膜
401 ワーク
402 メッキ槽
403 カソード電極
404 アノード電極
405 遮蔽板
406 整流器
407 リザーブタンク
408 ヒーター
409 ポンプ
410 フィルター
411 流量計
412 メッキ液
図1
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