(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】トルクセンサ付転がり軸受
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20241126BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
G01L5/00 K
(21)【出願番号】P 2020155211
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大寺 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】小野 潤司
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-243924(JP,A)
【文献】実開昭64-017443(JP,U)
【文献】国際公開第2015/194609(WO,A1)
【文献】特開2016-136117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00-3/26
F16C 41/00
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪特性を有する回転軸を回転自在に支持するための転がり軸受と、
前記転がり軸受に支持された状態で、前記回転軸の周囲に配置され、前記回転軸に生じる逆磁歪効果を利用して該回転軸が伝達するトルクを測定する、磁歪式トルクセンサと、を備え、
前記転がり軸受は、
複数個の転動体と、磁性体材料製で、かつ、使用時にも回転しない外輪
とを有しており、
前記磁歪式トルクセンサは、前記外輪に内嵌され、かつ、磁束の漏洩を抑制するための磁性体材料製のバックヨークを備えない、センサ部を有
しており、
前記外輪は、その内周面から径方向内側に向けて張り出し、かつ、前記転動体の軸方向側方に配置された内向鍔部を有しており、
前記センサ部は、ボビン及び検出コイルを含むコイル部材と、磁場の透過を許容する樹脂材料製で、前記コイル部材を覆うように配置された覆い部材と、を有し、前記覆い部材の一部の軸方向側面を、前記内向鍔部の軸方向側面に突き当てることで、前記外輪に対する軸方向の位置決めが図られている、
トルクセンサ付転がり軸受。
【請求項2】
前記センサ部は、前
記内向鍔部に内嵌されている、請求項1に記載したトルクセンサ付転がり軸受。
【請求項3】
前記センサ部は、前記外輪に対し、圧入により内嵌されている、請求項1~2のうちのいずれか1項に記載したトルクセンサ付転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクセンサ付転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば自動車の技術分野においては、自動変速機を構成する回転軸により伝達しているトルクを測定し、その測定結果を利用して、当該変速機の変速制御やエンジンの出力制御を行うことが、従来から行われている。
【0003】
また、回転軸により伝達しているトルクを測定する技術として、たとえば特開2017-96826号公報(特許文献1)には、当該トルクを、回転軸の周囲に配置した磁歪式のトルクセンサにより測定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば自動車用の自動変速機では、回転軸の周囲に、歯車などの多くの変速部品が配置されている。このため、回転軸の周囲に確保できる、トルクセンサの設置スペースは限られている。
【0006】
さらに、トルクセンサを、ケーシングなどに取り付けることも従来から行われているが、この場合には、トルクセンサと回転軸との間の隙間の大きさを管理することが難しく、トルクの測定精度を確保することが難しくなる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、トルクセンサを限られた設置スペースに設置することができ、かつ、トルクの測定精度の向上を図れる、トルクセンサ付転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトルクセンサ付転がり軸受は、磁歪特性を有する回転軸を回転自在に支持するための転がり軸受と、前記転がり軸受に支持された状態で、前記回転軸の周囲に配置され、前記回転軸に生じる逆磁歪効果を利用して該回転軸が伝達するトルクを測定する、磁歪式トルクセンサと、を備える。
前記転がり軸受は、複数個の転動体と、磁性体材料製で、かつ、使用時にも回転しない外輪とを有している。
前記磁歪式トルクセンサは、前記外輪に内嵌され、かつ、磁束の漏洩を抑制するための磁性体材料製のバックヨークを備えない、センサ部を有している。
これにより、本発明のトルクセンサ付転がり軸受は、前記外輪を、前記センサ部のバックヨークとして機能させる。
前記外輪は、その内周面から径方向内側に向けて張り出し、かつ、前記転動体の軸方向側方に配置された内向鍔部を有している。
前記センサ部は、ボビン及び検出コイルを含むコイル部材と、磁場の透過を許容する樹脂材料製で、前記コイル部材を覆うように配置された覆い部材と、を有し、前記覆い部材の一部の軸方向側面を、前記内向鍔部の軸方向側面に突き当てることで、前記外輪に対する軸方向の位置決めが図られている。
【0009】
本発明の一態様にかかるトルクセンサ付転がり軸受では、前記センサ部を、前記内向鍔部に内嵌することができる。
【0010】
本発明の一態様にかかるトルクセンサ付転がり軸受では、前記センサ部を、前記外輪に対し、圧入、すなわち、締り嵌めで内嵌することができる。
あるいは、本発明の一態様にかかるトルクセンサ付転がり軸受では、前記センサ部を、前記外輪に対し、隙間嵌めで内嵌することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トルクセンサを限られた設置スペースに設置することができ、かつ、トルクの測定精度の向上を図れる、トルクセンサ付転がり軸受を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるトルクセンサ付転がり軸受の使用状態を示す、断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例にかかるトルクセンサ付転がり軸受から、磁歪式トルクセンサを取り出し、模式的に示した斜視図である。
【
図3】
図3は、コイル部材を展開した状態で示す模式図であり、(A)は第1の検出コイル及び第4の検出コイルを示す図であり、(B)は第2の検出コイル及び第3の検出コイルを示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例にかかる磁歪式トルクセンサの測定部の1例を示す、回路図である。
【
図5】
図5は、
本発明に関連する参考例を示す、
図1と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図4を用いて説明する。
【0014】
本例のトルクセンサ付転がり軸受1は、ケーシング2の内側に、磁歪特性を有する回転軸3を回転自在に支持し、かつ、逆磁歪効果を利用して回転軸3が伝達するトルクを測定するものである。本例において、軸方向、径方向、円周方向とは、特に断らない限り、回転軸3に関しての軸方向、径方向、円周方向をいう。
【0015】
トルクセンサ付転がり軸受1は、ケーシング2の内側に回転軸3を回転自在に支持するための転がり軸受4と、回転軸3が伝達するトルクを測定するための磁歪式トルクセンサ5とを備える。
【0016】
〔転がり軸受の構造〕
転がり軸受4は、外輪6と、内輪7と、複数個の転動体8とを備える。
【0017】
外輪6は、たとえば軸受鋼や炭素鋼などの強磁性体材料製で、円環形状を有している。外輪6は、たとえば自動車のパワートレインを構成するケーシング2に対し、圧入により内嵌固定されており、使用時にも回転しない。外輪6は、内周面の軸方向一方側部に、外輪軌道9を有している。また、外輪6は、外輪軌道9よりも軸方向他方側に位置する、内周面の軸方向他方側の半部に、径方向内側に向けて張り出した円環形状の内向鍔部10を有する。内向鍔部10は、転動体8の軸方向他方側に配置されている。内向鍔部10の内周面は、円筒面状であり、軸方向にわたり内径寸法が一定である。
【0018】
内輪7は、軸受鋼などの鋼製で、円環形状を有している。内輪7は、外輪6の軸方向一方側の半部の径方向内側に、外輪6と同軸に配置されている。内輪7は、回転軸3に対し、圧入により外嵌固定されており、使用時に回転軸3とともに回転する。内輪7は、外周面のうちで、外輪軌道9と径方向に対向する部分に、内輪軌道11を有している。内輪7の軸方向寸法は、外輪6の軸方向寸法よりも短い。
【0019】
複数個の転動体8のそれぞれは、軸受鋼などの鋼製で、外輪軌道9と内輪軌道11との間に転動自在に配置されている。図示の例では、転動体8として、玉を使用しているが、本発明を実施する場合に、転動体の種類は問わない。たとえば、転動体として、円すいころ、円筒ころ、ニードルを使用することもできる。本例では、転動体8として玉を使用しているため、転がり軸受4は、玉軸受(深溝玉軸受)である。
【0020】
本例では、上述のような転がり軸受4により、ケーシング2の内側に回転軸3を回転自在に支持する。回転軸3は、たとえば、自動車のパワートレインを構成する、自動変速機の回転軸、デファレンシャルギヤの回転軸、プロペラシャフト、ドライブシャフトなどである。回転軸3は、磁歪特性を有する材料である、SCr420(クロム鋼)、SCM420(クロムモリブデン鋼)、SNCM420(ニッケルクロムモリブデン鋼)などの鋼(鉄合金)製で、円柱状又は円筒状に構成されている。
【0021】
回転軸3には、外周面のうちで、磁歪式トルクセンサ5を構成する後述のセンサ部12の内周面と対向する部分に、ショットピーニング処理を施し、磁歪特性を改善した改質層を形成することもできる。このような改質層を形成すれば、磁歪式トルクセンサ5によるトルク測定の感度及びヒステリシスを改善することができる。
【0022】
〔磁歪式トルクセンサの構造〕
磁歪式トルクセンサ5は、転がり軸受4に対し支持された状態で、回転軸3の周囲に配置され、回転軸3が伝達するトルクを測定するものである。
【0023】
磁歪式トルクセンサ5は、センサ部12と、ハーネス13と、測定部14とを備える。
【0024】
センサ部12は、略円環形状を有しており、転がり軸受4を構成する外輪6に対し内嵌されている。センサ部12は、外輪6に対し取り外し可能な態様で内嵌されており、外輪6とは別体に構成されている。
【0025】
センサ部12は、コイル部材15と、該コイル部材15を覆うように配置された覆い部材16とを備える。センサ部12は、コイル部材15からの磁束の漏洩を抑制するための、磁性体材料製のバックヨークは備えていない。
【0026】
コイル部材15は、ボビン17と、該ボビン17に巻き付けられた絶縁電線からなる複数(本例では4つ)の検出コイル18a~18dと、複数本の端子部19とを備える。
【0027】
ボビン17は、円環形状を有しており、非磁性体材料である樹脂材料から造られている。ボビン17の外周面には、ボビン17の軸方向に対して所定角度(図示の例では+45度)だけ傾斜した複数の第1傾斜溝20aと、ボビン17の軸方向に対して第1傾斜溝20aとは反対方向に所定角度(図示の例では-45度)だけ傾斜した複数の第2傾斜溝20bとが備えられている。なお、第1傾斜溝20a及び第2傾斜溝20bのそれぞれの傾斜角度は、任意に設定することができる。
【0028】
複数の検出コイル18a~18dのうち、第1の検出コイル18a及び第4の検出コイル18dのそれぞれは、ボビン17の外周面に備えられた第1傾斜溝20aに沿って絶縁電線を巻き付けてなる。これに対し、複数の検出コイル18a~18dのうち、第2の検出コイル18b及び第3の検出コイル18cのそれぞれは、ボビン17の外周面に備えられた第2傾斜溝20bに沿って絶縁電線を巻き付けてなる。
【0029】
第1の検出コイル18a及び第4の検出コイル18dは、回転軸3の軸方向に対して所定角度(図示の例では+45度)だけ傾斜した第1方向での、回転軸3の透磁率変化を検出する。第2の検出コイル18b及び第3の検出コイル18cは、回転軸3の軸方向に対して第1方向とは反対側に所定角度(図示の例では-45度)だけ傾斜した第2方向での、回転軸3の透磁率変化を検出する。
【0030】
端子部19のそれぞれは、検出コイル18a~18dを構成する絶縁電線に電気的に接続されており、かつ、ハーネス13を介して、後述する測定部14に電気的に接続されている。複数本の端子部19は、ボビン17の軸方向他方側に位置する部分の円周方向一箇所に、まとめて配置されている。端子部19のそれぞれは、径方向外側に向けて折れ曲がっており、ボビン17の外周面よりも径方向外側に突出している。
【0031】
本例では、上述のようなコイル部材15の周囲を、磁性体材料製のバックヨークにより覆わずに、磁場の透過を許容する樹脂材料から造られた覆い部材16により覆っている。覆い部材16は、たとえば、エポキシ樹脂や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、PA(ポリアミド)、PPA(ポリフタルアミド)といった熱可塑性樹脂から造られている。覆い部材16は、コイル部材15を覆うように樹脂をモールド成形することにより造られる。なお、覆い部材16をエポキシ樹脂製とする場合には、該覆い部材16の周囲をさらに熱可塑性樹脂などの樹脂部材により覆うこともできる。このような構成によれば、熱可塑性樹脂のモールド成形時の圧力により、検出コイル18a~18dに損傷が生じることを、エポキシ樹脂によって抑制できる。また、エポキシ樹脂は粘度が低いため、モールド成形時に、検出コイル18a~18dに損傷を生じさせることもない。
【0032】
覆い部材16は、ボビン17及び検出コイル18a~18dの周囲を覆ったコイル覆い部21と、複数本の端子部19を覆った端子覆い部22とを、一体に備えている。コイル覆い部21は、円筒面状の外周面を有しており、外輪6に備えられた内向鍔部10の内径寸法よりも、わずかに大きい外径寸法を有する。端子覆い部22は、コイル覆い部21の軸方向他方側に配置されている。端子覆い部22は、コイル覆い部21の外周面よりも径方向外側に突出している。端子覆い部22の軸方向一方側の側面は、コイル部材15の中心軸に直交する仮想平面上に位置する平坦面である。
【0033】
本例では、上述のようなセンサ部12のうち、外周面がコイル覆い部21により円筒面状に構成された、円環形状を有する円環部23を、外輪6を構成する内向鍔部10に対し圧入により内嵌固定している。円環部23は、ボビン17と、検出コイル18a~18dと、コイル覆い部21とから構成される。このため、円環部23の径方向外側部は、コイル覆い部21により構成されており、円環部23の径方向内側部は、コイル部材15により構成されている。したがって、センサ部12の円環部23を、外輪6の内向鍔部10に対し内嵌した状態で、コイル部材15の径方向外側には、磁場の透過を許容する樹脂材料製のコイル覆い部21を介して、磁束の漏洩を抑制可能な磁性体材料製の外輪6が配置される。これにより、本例では、外輪6を、センサ部12(コイル部材15)のバックヨークとして機能させることができる。
【0034】
本例では、センサ部12の円環部23を、外輪6の内向鍔部10に内嵌するために、円環部23を、内向鍔部10の内径側に軸方向他方側から軸方向一方側に向けて圧入(挿入)する。また、この際、端子覆い部22の軸方向一方側の側面が、内向鍔部10の軸方向他方側の側面に突き当たるまで、円環部23を内向鍔部10の内径側に圧入する。これにより、外輪6に対する磁歪式トルクセンサ5の軸方向に関する位置決めを図っている。
【0035】
円環部23の径方向厚さ寸法T23は、内向鍔部10の内径寸法d10と回転軸3の外径寸法D3との差の半分よりも少しだけ小さい値に設定されている(T23<(d10―D3)/2)。このため、センサ部12の円環部23を内向鍔部10に内嵌した状態で、円環部23(ボビン17)の内周面と回転軸3の外周面との間には、微小隙間が形成される。
【0036】
また、図示の例では、円環部23の軸方向寸法を、内向鍔部10の軸方向寸法と同じとしている。このため、円環部23を内向鍔部10に内嵌した状態で、円環部23の軸方向一方側の側面と、内輪7の軸方向他方側の側面との間には、隙間が存在する。円環部23の軸方向寸法は、端子覆い部22の軸方向一方側の側面を内向鍔部10の軸方向他方側の側面に突き当てた状態で、円環部23の軸方向一方側の側面が、内輪7の軸方向他方側の側面に当接しない程度の大きさに設定する。
【0037】
以上のように本例では、磁歪式トルクセンサ5を外輪6に支持した状態で、センサ部12の円環部23を、外輪6の内向鍔部10に対し圧入により内嵌固定し、かつ、端子覆い部22の軸方向一方側の側面を、内向鍔部10の軸方向他方側の側面に突き当てている。このため、磁歪式トルクセンサ5を、外輪6に対して、径方向及び軸方向の相対変位を防止し、かつ、相対回転を防止した態様で、支持することができる。
【0038】
ハーネス13は、端子部19のそれぞれと後述する測定部14とを電気的に接続するもので、センサ部12を構成する端子覆い部22から径方向外側に引き出されている。ただし、本発明を実施する場合に、ハーネスをセンサ部から軸方向に引き出すこともできる。
【0039】
測定部14は、
図4に示すように、検出コイル18a~18dのそれぞれのインダクタンスの変化を検出することで、回転軸3が伝達するトルクを測定する。測定部14は、ブリッジ回路24と、発振器25と、電圧測定装置(ロックイン増幅器)26と、トルク演算部27とを備える。
【0040】
ブリッジ回路24は、第1の検出コイル18aと、第2の検出コイル18bと、第3の検出コイル18cと、第4の検出コイル18dとを環状に接続してなる。発振器25は、第1の検出コイル18aと第2の検出コイル18bとの接点Aと、第3の検出コイル18cと第4の検出コイル18dとの接点Bとの間に、交流電圧を印加する。電圧測定装置26は、第1の検出コイル18aと第3の検出コイル18cとの接点Cと、第2の検出コイル18bと第4の検出コイル18dとの接点Dとの間の電圧を検出する。トルク演算部27は、電圧測定装置26の出力信号に基づいて、回転軸3が伝達するトルクを演算する。
【0041】
本例の磁歪式トルクセンサ5を用いて、回転軸3が伝達するトルクを測定するには、発振器25により、A点とB点との間に交流電圧を印加し、検出コイル18a~18dのそれぞれに交流電流を流す。すると、検出コイル18a~18dのそれぞれには、円周方向に隣り合う1対の検出コイル同士で互いに逆向きの電流が流れる。この結果、検出コイル18a~18dの周囲に交流磁界が発生し、交流磁界の磁束の一部が回転軸3の表層部を通過する。この状態で、回転軸3にトルクが加わると、逆磁歪効果により、回転軸3は、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が増加(又は減少)し、軸方向に対して-45度の方向の透磁率が減少(又は増加)する。このため、第1の検出コイル18a及び第4の検出コイル18dでは、インダクタンスが減少(又は増加)し、第2の検出コイル18b及び第3の検出コイル18cでは、インダクタンスが増加(又は減少)する。この結果、電圧測定装置26で検出される電圧の値が変化するため、トルク演算部27は、この電圧の値をもとに、回転軸3が伝達するトルクを演算する。
【0042】
一方、回転軸3がトルクを伝達していない状態では、検出コイル18a~18dのそれぞれのインダクタンスは互いに等しくなる。このため、電圧測定装置26で検出される電圧は0になる。
【0043】
以上のような本例のトルクセンサ付転がり軸受1は、磁歪式トルクセンサ5を限られた設置スペースに設置することができ、かつ、トルクの測定精度の向上を図れる。
すなわち、本例では、回転軸3を回転自在に支持するために使用する転がり軸受4に、磁歪式トルクセンサ5を支持している。このため、磁歪式トルクセンサ5を、転がり軸受4を利用せずに、ケーシング2に対し直接取り付ける場合に比べて、磁歪式トルクセンサ5の設置スペースを小さくできる。したがって、磁歪式トルクセンサ5を、限られた設置スペースに設置することができる。
【0044】
また、磁歪式トルクセンサ5を構成するセンサ部12の円環部23を、強磁性体材料から造られた外輪6の内向鍔部10に対し内嵌固定している。これにより、外輪6を、センサ部12(コイル部材15)のバックヨークとして機能させられるため、センサ部12には、コイル部材15の磁束の漏洩を抑制するための、磁性体材料製のバックヨークを別途備える必要がない。したがって、センサ部12を構成する円環部23の径方向厚さ寸法T23を、バックヨークが不要になる分だけ小さくすることができる。このため、磁歪式トルクセンサ5の小型化を図ることができる。したがって、磁歪式トルクセンサ5を、限られた設置スペースに、より設置しやすくできる。また、外輪6が、バックヨークとして機能するため、センサ部12に、バックヨークを備えていないにもかかわらず、トルクの測定感度を十分に確保することができる。
【0045】
さらに本例では、回転軸3を回転自在に支持した転がり軸受4を構成する外輪6の内向鍔部10に、センサ部12の円環部23を圧入により内嵌固定しているため、円環部23を、回転軸3と同軸に配置することができる。このため、ボビン17の内周面と回転軸3の外周面との間の隙間(対向間隔)を、円周方向にわたり一定の大きさに正確に管理することができる。したがって、トルクの測定精度の向上を図ることができる。
【0046】
また、センサ部12の大部分(円環部23)を、外輪6の径方向内側に配置しているため、磁歪式トルクセンサ5のうちで、外輪6から軸方向に突出する部分を十分に小さくできる。このため、トルクセンサ付転がり軸受1の全体として軸方向寸法を、小さく抑えることもできる。
【0047】
[
参考例]
本発明に関連する参考例について、
図5を用いて説明する。本
参考例では、実施の形態の第1例と同様の構成要素には、実施の形態の第1例と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0048】
本参考例のトルクセンサ付転がり軸受1aは、転がり軸受4aを、外輪6aと、複数個の転動体8aと、保持器28とから構成している。つまり、転がり軸受4aとして、内輪を省略したものを使用している。このため、本参考例では、回転軸3aの外周面に、内輪軌道11aを直接形成している。また、図示の例では、転動体8aとして、ニードルを使用しているため、転がり軸受4aは、ラジアルニードル軸受となる。
【0049】
外輪6aは、たとえばマルテンサイト系ステンレス鋼などの強磁性体材料製で、円筒面状の内周面を有しており、内径寸法が軸方向にわたり一定である。このため、外輪6aの内周面には、内向鍔部は備えられていない。本参考例では、このような外輪6aの内周面の軸方向他方側部に対し、磁歪式トルクセンサ5aを構成するセンサ部12a(円環部23)を、圧入により内嵌固定している。
【0050】
また、センサ部12aを構成する端子覆い部22a、及び、端子覆い部22aにより覆われた端子部19aを、径方向には配置せず、軸方向に配置している。また、ハーネス13aを、端子覆い部22aから軸方向に引き出している。
【0051】
以上のような本参考例の場合にも、外輪6aを、センサ部12a(コイル部材15)のバックヨークとして機能させることができる。このため、磁歪式トルクセンサ5aの小型化を図ることができる。
【0052】
また、本参考例のトルクセンサ付転がり軸受1aでは、転がり軸受4aを、径方向厚さ寸法の小さいラジアルニードル軸受としているため、外輪6aの内周面と回転軸3aの外周面との間の径方向寸法は小さくなる。ただし、本参考例では、外輪6aをバックヨークとして機能させることで、センサ部12a(円環部23)の径方向厚さ寸法を小さくできるため、センサ部12aを外輪6aの内周面に問題なく内嵌することができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の第1例の構造と参考例の構造とは、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0054】
たとえば、本発明を実施する場合に、トルクセンサ付転がり軸受を構成する転がり軸受は、実施の形態の第1例及び参考例で説明した構造に限定されない。転動体として円すいころを使用した円すいころ軸受や、転動体として円筒ころを使用した円筒ころ軸受などを採用することができる。また、転がり軸受として、単列の転がり軸受ではなく、複列の転がり軸受を採用することもできる。
【0055】
また、本発明を実施する場合に、外輪を構成する磁性体材料の種類については、実施の形態の第1例及び参考例で説明した材料に限らず、従来から知られた各種材料を採用することができる。
【0056】
また、本発明を実施する場合に、磁歪式トルクセンサを構成するセンサ部を、転がり軸受を構成する外輪に内嵌する態様は、実施の形態の第1例及び参考例で説明した、圧入により内嵌する態様に限定されない。たとえば、磁歪式トルクセンサを構成するセンサ部を、転がり軸受を構成する外輪に、隙間嵌めで内嵌することもできる。
【0057】
また、本発明を実施する場合に、磁歪式トルクセンサを構成するセンサ部を、転がり軸受を構成する外輪に内嵌する構成と、磁歪式トルクセンサを外輪に対して固定手段により固定する構成とを同時に実施することもできる。特に、センサ部を外輪に隙間嵌めで内嵌する場合には、固定手段を別途備えることが必要となる。固定手段の種類は特に問わないが、たとえば、接着剤を用いた接着手段や、ボルトを用いた螺合手段など、従来から知られた各種方法を採用することができる。
【0058】
また、本発明を実施する場合に、測定部の構成は、実施の形態で説明した構成に限定されない。測定部を構成するブリッジ回路のうち、2つの検出コイルを抵抗に置き換えて使用することができる。また、センサ部を構成するコイル部材に代えて、たとえば、ホール素子、ホールIC、MR素子、GMR素子、AMR素子、TMR素子、MI素子などの磁気検出素子を備えた磁気センサを使用することもできる。
【0059】
本発明にかかるトルクセンサ付転がり軸受を、自動車のパワートレインに組み込んで使用する場合に、組み込み対象となる装置は、特に問わない。たとえば、オートマチックトランスミッション(AT)、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機、オートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、ダブルクラッチトランスミッション(DCT)などの車側の制御で変速を行うトランスミッション、又はトランスファーを対象とすることができる。また、対象となる車両の駆動方式(FF、FR)も、特に問わない。
また、本発明のトルクセンサ付転がり軸受は、自動車のパワートレインに限らず、風車、鉄道車両、圧延機、工作機械、建設機械、農業機械、家庭用電気器具など、各種機械装置に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1、1a トルクセンサ付転がり軸受
2 ケーシング
3、3a 回転軸
4、4a 転がり軸受
5、5a 磁歪式トルクセンサ
6、6a 外輪
7 内輪
8、8a 転動体
9 外輪軌道
10 内向鍔部
11、11a 内輪軌道
12、12a センサ部
13、13a ハーネス
14 測定部
15 コイル部材
16 覆い部材
17 ボビン
18a 第1の検出コイル
18b 第2の検出コイル
18c 第3の検出コイル
18d 第4の検出コイル
19、19a 端子部
20a 第1傾斜溝
20b 第2傾斜溝
21 コイル覆い部
22、22a 端子覆い部
23 円環部
24 ブリッジ回路
25 発振器
26 電圧測定装置
27 トルク演算部
28 保持器