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特許7593028延伸多層フィルム及びこれから成る包装袋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】延伸多層フィルム及びこれから成る包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241126BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241126BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20241126BHJP
   B29C 55/16 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
B29C55/14
B29C55/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020160149
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053353
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】畠 源英
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 連
(72)【発明者】
【氏名】廣田 宗久
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-189149(JP,A)
【文献】特開2005-254629(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065380(WO,A1)
【文献】特開2005-288996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40
B29C 55/12-55/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレートから成るPBT層及びポリエチレンテレフタレートから成るPET層をそれぞれ1層以上有する延伸多層フィルムであって、
前記ポリブチレンテレフタレートの共重合成分の合計含有量が8モル%以下であり、及び前記ポリエチレンテレフタレートの共重合成分の合計含有量が5モル%以下であり、
前記PBT層及びPET層の各層が接着剤を介することなく積層されており、
前記PBT層及び前記PET層の積層順序がフィルムの厚み方向で対称となる多層構造を有し、
前記多層構造が、PET層/PBT層/PET層であり、共押出フィルムであり、
前記PBT層の合計厚みが、延伸多層フィルムの全層の合計厚みの40~60%の範囲にあり、前記延伸多層フィルムの全層厚みにおける単位厚み当たりの突き刺し強度が600N/mm以上であることを特徴とする延伸多層フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の延伸多層フィルムに、シーラント層が積層されて成ることを特徴とする積層体。
【請求項3】
前記シーラント層が、接着剤を介することなく積層されている請求項2記載の積層体。
【請求項4】
前記シーラント層が、ポリテトラメチレングリコール変性ポリエステル樹脂又は酸変性オレフィン系樹脂である請求項2又は3記載の積層体。
【請求項5】
請求項2~4の何れかに記載の積層体から成ることを特徴とする包装袋。
【請求項6】
ポリブチレンテレフタレートから成るPBT層及びポリエチレンテレフタレートから成るPET層を、共押出により積層して多層フィルムを形成した後、該多層フィルムをテンター法による同時二軸延伸又は逐次二軸延伸で延伸する延伸多層フィルムの製造方法であって、
前記ポリブチレンテレフタレートの共重合成分の合計含有量が8モル%以下であり、及び前記ポリエチレンテレフタレートの共重合成分の合計含有量が5モル%以下であり、
前記延伸多層フィルムの層構成が、PET層/PBT層/PET層であり、
前記PBT層の合計厚みが、延伸多層フィルムの全層の合計厚みの40~60%の範囲にあり、前記延伸多層フィルムの全層厚みにおける単位厚み当たりの突き刺し強度が600N/mm以上であることを特徴とする延伸多層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度及び耐熱性に優れた延伸多層フィルム、及びこの延伸多層フィルムから成る包装袋に関するものであり、より詳細には、強靭性に優れたポリブチレンテレフタレートから成る層及び耐熱性に優れたポリエチレンテレフタレートから成る層を有し、テンター法による延伸により安定して得ることが可能な延伸多層フィルム及びこの延伸多層フィルムから成る包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品等を内容物とする包装袋は、ボイル殺菌やレトルト殺菌等の加熱殺菌、或いは湯煎や電子レンジ加熱等の加熱調理に対応可能な耐熱性や、落下衝撃等に耐え得る耐衝撃性、或いはバリア性等の必要な性能を満足するために、種々の材料から成る層を積層して成る多層フィルム(積層体)から形成されている。
例えば、下記特許文献1には、電子レンジ加熱による穴あきを防止するために、外面から順に2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ということがある)系フィルム、ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」ということがある)系フィルム及び熱接着性樹脂層から成る積層体から成る包装袋が提案されている。
【0003】
また下記特許文献2には、基材層、バリア層、シーラント層が順次貼り合わされたラミネート材であり、前記基材層が、少なくとも2種類のポリエステル系樹脂層を含む層が直接積層された二軸延伸多層フィルムで構成されていることを特徴とするラミネート材が記載されており、少なくとも1層のPET層と、少なくとも1層のPBT層を含み、かつ前記PET層とPBT層が隣接して積層されているラミネート材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-143223号公報
【文献】特開2018-187819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された発明においては、PETフィルム及びPBTフィルムを主体とする耐熱性及び強靭性に優れた積層体が使用されているが、二軸延伸フィルムが接着層を介して積層されているため、熱接着性樹脂層を含めた3層構成の積層体を形成するのに2回のラミネート工程が必要であり、生産性及び経済性に劣っている。また接着層の数が増えると接着剤の使用量も増えるため、生産性及び経済性の問題だけでなく、内容物のフレーバーへの影響も懸念される。
【0006】
また上記特許文献2には、PETとPBTをTダイ法やインフレーション法によって共押出により積層し、その後チューブラー法やテンター法等により二軸延伸することによって二軸延伸多層フィルムを作成できることが記載されている。
しかしながら、PBT層とPET層が隣接する共押出フィルムにおいては、PBTとPETの結晶性の相違から、テンター法で延伸するとフィルムがカールし、端縁までフラットな平膜状のフィルムを得ることができなかった。
また市販のPBTやPETは、所望の物性を得るために共重合成分が含有されていることが一般的であるが、この共重合成分の含有量によっては、PBT層及びPET層が隣接する延伸多層フィルムに期待される耐熱性及び強靭性が損なわれる場合がある。
【0007】
従って本発明の目的は、PET層及びPBT層をそれぞれ少なくとも1層備え、PET及びPBTが有する優れた耐熱性及び強靭性の両方を効果的に発現可能な延伸多層フィルムを提供することである。
本発明の他の目的は、PET層及びPBT層をそれぞれ少なくとも1層備えた、耐衝撃性等の機械的強度及び強靭性を有する延伸多層フィルムを、少ないラミネート回数で効率よく製造すると共に、テンター方式による延伸で、延伸フィルムをカールを生じることなく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレートから成るPBT層及びポリエチレンテレフタレートから成るPET層をそれぞれ1層以上有する延伸多層フィルムであって、前記ポリブチレンテレフタレートの共重合成分の合計含有量が8mol%以下であり、前記ポリエチレンテレフタレートの共重合成分の合計含有量が5mol%以下であり、前記PBT層及びPET層の各層が接着剤を介することなく積層されていることを特徴とする延伸多層フィルムが提供される。
【0009】
本発明の延伸多層フィルムにおいては、
1.前記ポリブチレンテレフタレートがホモポリブチレンテレフタレートであること、
2.前記ポリエチレンテレフタレートがホモポリエチレンテレフタレートであること、
3.前記PBT層及び前記PET層の積層順序がフィルムの厚み方向で対称となる多層構造を有すること、
4.前記多層構造が、PBT層/PET層/PBT層又はPET層/PBT層/PET層であり、共押出フィルムであること、
5.機能性樹脂層を少なくとも1層有すること、
6.前記PET層及び/又は前記PBT層が、機能性樹脂を含有すること、
7.前記機能性樹脂が、ガスバリア性、易引裂性、酸素吸収性、UVバリア性、可視光バリア性、剛性のうち一つ以上の機能を有する樹脂又は樹脂組成物から成ること、
8.前記PET層及び/又は前記PBT層が、リプロダクト樹脂、リサイクルポリエステル樹脂、バイオマスポリエステル樹脂の少なくとも1種を含有すること、
9.前記PBT層の合計厚みが、延伸多層フィルムの全層の合計厚みの40~60%の範囲にあること、
10.単位厚み当たりの突き刺し強度が600N/mm以上であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、上記延伸多層フィルムに、シーラント層が積層されて成ることを特徴とする積層体が提供される。
本発明の積層体においては、
1.前記シーラント層が、接着剤を介することなく積層されていること、
2.前記シーラント層が、ポリテトラメチレングリコール変性ポリエステル樹脂又は酸変性オレフィン系樹脂であること、
が好適である。
本発明によれば更に、上記積層体から成ることを特徴とする包装袋が提供される。
【0011】
本発明によれば更にまた、共重合成分の合計含有量が8モル%以下のポリブチレンテレフタレートから成るPBT層及び共重合成分の合計含有量が5モル%以下のポリエチレンテレフタレートから成るPET層を、共押出により積層して多層フィルムを形成した後、該多層フィルムをテンター法による同時二軸延伸又は逐次二軸延伸で延伸することを特徴とする延伸多層フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の延伸多層フィルムにおいては、共重合成分が上記値以下であるPBT及びPETを用いて共押出された多層フィルムを延伸することにより、PBT層に基づく耐突き刺し性や耐衝撃性等の機械的強度や、PET層に基づく耐熱性やバリア性が顕著に向上されている。このことは後述する実施例の結果からも明らかであり、本発明の延伸多層フィルムは、PBTから成る延伸フィルムとPETから成る延伸フィルムを接着して成る延伸多層フィルムに比して、優れた耐突き刺し性及び耐熱性を有している。
また後述する実施例1及び2の結果からも明らかなように、共重合成分がより低減されたPETを使用することにより、耐熱性だけでなく耐突き刺し性もさらに向上するという相乗効果を得ることも可能となる。
更にPBT及びPETが共押出により積層されていることから、接着剤の使用量が低減されており、耐フレーバー性にも優れている。
本発明の延伸多層フィルムにおいては、積層順序がフィルムの厚み方向で対称となる多層構造とすることにより、テンター方式により延伸した場合でもカールの発生が有効に防止された延伸多層フィルムを提供することができる。
【0013】
また本発明の延伸多層フィルムの製造方法においては、ラミネート回数の低減及び接着剤の使用量の低減による経済性及び生産性の向上を図ることができると共に、従来インフレーション法による共押出及びチューブラー法による延伸により製造されていたPBT層及びPET層をそれぞれ少なくとも1層有する延伸多層フィルムを、テンター方式により延伸することが可能となり、フラットな平膜で提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(延伸多層フィルム)
本発明の延伸多層フィルムは、共重合成分の合計含有量が8mol%以下であるPBTから成るPBT層と、共重合成分の合計含有量が5mol%以下であるPETから成るPET層が、接着層を介することなく積層されていることが重要な特徴である。これによりPBT層に基づく耐突き刺し性や耐衝撃性等の機械的強度(強靭性)やPET層に基づく耐熱性を備えることができ、特に単位膜厚当たりの突き刺し強度が600N/mm以上、特に650N/mm以上という優れた機械的強度を有している。尚、単位膜厚当たりの突き刺し強度の測定方法については後述する。
すなわち、PBT及びPETの共重合成分が上記値よりも多い場合には、PBT及びPETの配向結晶性が低下するため、延伸に伴い向上する突き刺し強度や耐熱性等の物性が十分に向上しないだけでなく、延伸の安定性も低下する。
また後述する実施例の結果からも明らかなように、本発明の延伸多層フィルムでは、動的粘弾性測定(DMS或いはDMAとも呼ばれる)において、tanδピーク値が0.27以下、該ピーク値におけるtanδのピーク温度が115℃以上の範囲にある。tanδは損失正接と呼ばれるパラメータであり、損失弾性率/貯蔵弾性率の比で表され、損失弾性率は非晶部に起因する損失であり、貯蔵弾性率は結晶部に起因する弾性率であり、tanδのピーク値が小さいほど結晶部が多く存在しており、このピーク値を示すピーク温度が高いほどガラス転移点が高いことを示している。本発明の延伸多層フィルムにおいては、tanδのピーク値が小さく、且つそのピーク温度が高く、優れた耐熱性を有している。
【0015】
またPBT層とPET層が共押出ラミネートにより接着層を介することなく積層された多層フィルムが延伸されていることにより、PBT層とPET層の界面接着強度が強固なものとなり、その結果、延伸PBTフィルムと延伸PETフィルムを積層した延伸多層フィルムよりも優れた耐突き刺し強度や耐熱性を発現することが可能となる。
【0016】
また後述するように、PET層/PBT層/PET層のように厚み方向に対称の層構成を採用することにより、延伸に際してPBTとPETの結晶性の相違に起因して生じる応力を相殺して延伸バランスを調整することが可能となり、フラットな延伸多層フィルムを作成することができる。
更にPET層及びPET層以外にも、共押出により積層可能な樹脂層を有することにより、特に、後述する機能性樹脂層を有することにより延伸多層フィルムに種々の機能を付与することが可能になる。
【0017】
[PBT層及びPET層]
本発明において、PBT層及びPET層はいずれも延伸多層フィルムの基材となり得る層であり、PBT層によりフィルムの耐衝撃性や耐突き刺し性が向上し、PET層によりフィルムの耐熱性やバリア性が向上する。
PBT層を構成するポリブチレンテレフタレートは、共重合成分が可及的に少ないことが好ましく、8モル%以下、特に共重合成分が0モル%のホモポリブチレンテレフタレートであることが好適である。
PBTは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、アルコール成分として1,4-ブタンジオールを主成分とし、共重合成分が8モル%以下であることが重要である(本明細書では、共重合成分を含むブチレンテレフタレート共重合体も含めて、ポリブチレンテレフタレート(PBT)という)。
【0018】
またPET層を構成するポリエチレンテレフタレートも、共重合成分が可及的に少ないことが好ましく、5モル%以下であることが重要である(本明細書では、共重合成分を含むエチレンテレフタレート共重合体も含めて、ポリエチレンテレフタレート(PET)という)。なお、PETにおいては、PETの合成の際に副反応としてエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールが必然的に生成して含有されることから、不可避的に含まれる共重合成分を除いた共重合成分がゼロである場合をホモポリエチレンテレフタレートと定義する。
またPBT及び/又はPETは、共重合成分量が上記値以下である限り、上記ホモポリエステル及び共重合ポリエステルの2種以上のブレンド物であってもよい。
【0019】
PBT及びPETのテレフタル酸成分以外のカルボン酸成分(共重合成分)としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p-β-オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。
一方、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール以外のアルコール成分(共重合成分)としては、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタン等のアルコール成分を挙げることができる。
【0020】
PBT及びPETは、フィルム形成可能な分子量を有するべきであり、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度が0.5dL/g以上、特に0.55~1.20dL/gの範囲にあることが機械的強度の観点から好ましい。
PBT層及びPET層には、PBT層及びPET層が有する上述した機能を損なわない範囲で、後述する機能性樹脂等の他の樹脂を配合することができ、これに限定されないが、PBT層又はPET層の50質量%以下の量で配合することができる。
また、PBT層及びPET層には、滑剤、アンチブロッキング剤、充填剤、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤等の従来公知の樹脂用配合剤を公知の処方で配合することができる。
【0021】
PBT層の延伸前の厚みは、耐衝撃性等の観点から、25~500μm、特に50~200μmの範囲にあることが好適であり、PBT層を複数設ける場合には、合計厚みが上記範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもPBT層の厚みが薄いと、上記範囲にある場合に比して、耐衝撃性、耐突き刺し性、耐クラック性等に劣り、一方上記範囲よりも厚いと、上記範囲にある場合に比して引き裂き性及び経済性に劣るようになる。
またPET層の延伸前の厚みは、耐熱性、バリア性等の観点から、25~500μm、特に50~200μmの範囲にあることが好適であり、PET層を複数設ける場合には、合計厚みが上記範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもPET層の厚みが薄いと、上記範囲にある場合に比して耐熱性、バリア性に劣り、一方上記範囲よりも厚いと、上記範囲にある場合に比して引き裂き性及び経済性に劣るようになる。
【0022】
[多層構造]
本発明の延伸多層フィルムにおいては、PBT層及びPET層が接着層を介することなく積層されており、この多層構造をPBT層及びPET層の積層順序がフィルムの厚み方向で対称となる多層構造とすることにより、前述した通り、PBT及びPETの到達結晶化密度の相違により生じる応力を相殺して延伸バランスを調整することが可能となり、延伸多層フィルムのカールの発生を有効に防止することができる。
【0023】
本発明の延伸多層フィルムにおいて、PBT層及びPET層の積層順序がフィルムの厚み方向で対称となる多層構造は、これに限定されるものではないが、具体的は、PBT層/PET層/PBT層、PET層/PBT層/PET層、PBT層/PET層/機能性樹脂層/PET層/PBT層、PET層/PBT層/機能性樹脂層/PBT層/PET層、PBT層/機能性樹脂層A/PET層/機能性樹脂層B/PET層/機能性樹脂層A/PBT層、PET層/PBT層/機能性樹脂層A/機能性樹脂層B/PBT層/PET層、等を例示することができ、PBT層、PET層がそれぞれフィルムの厚み方向の中心に対して対称位置にあることが重要である。
【0024】
また本発明の延伸多層フィルムにおいて、PBT層及びPET層の積層順序がフィルムの厚み方向で対称となる多層構造は、上述した層の配列のみならず、対称位置にある、相対する層の厚みが近似している多層構造であることが望ましい。具体的には、相対する層の厚みに差がある場合には両者の厚みの差が、厚肉の層の厚みの50%以下、好適には30%以下、より好適には15%以下であることが望ましい。
またPBT層の合計厚みは、多層延伸フィルムの厚みの40~60%の範囲にあることが好適である。上記範囲よりもPBT層の合計厚みが薄い場合は、PBT層により得られる耐突き刺し性や耐衝撃性等の機械的強度が十分得られず、その一方上記範囲よりもPBT層が厚い場合には、PET層の厚みが薄くなり、耐熱性が低下するおそれがある。
【0025】
[機能性樹脂層]
機能性樹脂層は、PBT層及びPET層と共押出可能である限り種々の機能性樹脂から成る層を使用でき、これに限定されないが、ガスバリア性樹脂層,易引裂き性樹脂層、酸素吸収性樹脂層,UVバリア性樹脂層、可視光バリア性樹脂層、剛性樹脂層、耐衝撃性樹脂層、耐薬品性層、耐突刺性層、耐熱性層等を例示できるが、本発明においては、ガスバリア性樹脂層,易引裂き性樹脂層、酸素吸収性樹脂層,UVバリア性樹脂層、可視光バリア性樹脂層、剛性樹脂層の少なくとも1層であることが好適である。
また機能性樹脂層は、PBT層及びPET層について述べたポリエステル樹脂をベース樹脂とする機能性樹脂から成ることが好ましく、後述するようにリサイクルポリエステルやバイオマスポリエステルも使用することができる。
機能性樹脂のベースとなるポリエステル樹脂も、上述したPBT及びPETと同様にフィルム形成可能な分子量を有するべきであり、上記範囲の固有粘度を有することが好ましい。
【0026】
<ガスバリア性樹脂層>
ガスバリア性樹脂層を構成する樹脂としては、これに限定されないが、メタキシレンジアミンとアジピン酸との重縮合反応から得られるポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリビニルアルコール(PVOH)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、塩化ビニリデン共重合体(PVDC)、アクリロニトリル共重合体(PAN)、ポリグリコール酸(PGA)等を例示することができる。また上記のうちの2種以上のガスバリア性樹脂をブレンドしてもよい。
ガスバリア性樹脂層の延伸前の厚みは、5~500μm、特に10~100μmの範囲にあることが好適である。上記範囲よりもガスバリア性樹脂層の厚みが薄いと、上記範囲にある場合に比して十分なガスバリア性を得ることができず、一方上記範囲より厚いと、PBT層及びPET層の機能を損なうおそれがあると共に経済性に劣るようになる。
【0027】
<易引裂き性樹脂層>
易引裂き性樹脂層を構成する樹脂としては、これに限定されないが、ポリテトラメチレングリコール単位を含有したポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとのブレンド物、ポリエチレンテレフタレートとポリエステルエラストマーから成り、ポリエチレンテレフタレート中にポリエステルエラストマーが分散してなるブレンド物等の直線引裂き性を有するポリエステル系樹脂組成物を好適に使用できる。
易引裂き性樹脂層の延伸前の厚みは、5~500μm、特に10~100μmの範囲にあることが好適である。上記範囲よりも易引裂き性樹脂層の厚みが薄いと、上記範囲にある場合に比して十分な引裂き性を得ることができず、一方上記範囲より厚いと、かえって引裂き性が低下するおそれがある。
【0028】
<酸素吸収性樹脂層>
酸素吸収性樹脂層を構成する樹脂組成物としては、PBT層及びPET層で使用し得るポリエステル樹脂や上記ガスバリア性樹脂等をマトリックス樹脂とし、酸化性有機成分及び遷移金属系触媒を含有する従来公知の酸素吸収性樹脂組成物を使用することができる。
酸化性有機成分としては、これに限定されないが、エチレン系不飽和基含有重合体を挙げることができ、特にポリエンの単量体として誘導され、ポリエンの単独重合体、或いはポリエンを2種以上組み合わせ若しくは他の単量体と組み合わせたランダム共重合体、ブロック共重合体等を酸化性有機成分として用いることができる。ポリエン系重合体は、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、水酸基が導入された酸変性ポリエン重合体であることが好ましい。
【0029】
酸化性有機成分は、酸素吸収性樹脂組成物中に0.01~10重量%の割合で含有されることが好ましい。
遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族金属が好適であるが、他に銅、銀等の第I族金属、錫、チタン、ジルコニウム等の第IV族金属、バナジウム等の第V族金属、クロム等の第VI族金属、マンガン等の第VII族金属等であってもよい。遷移金属系触媒は、一般に、上記遷移金属の低価数の無機塩、有機塩或いは錯塩の形で使用される。
遷移金属系触媒は酸素吸収性樹脂組成物中に、遷移金属原子の濃度(重量濃度基準)として100~3000ppmの範囲であることが好ましい。
酸素吸収性樹脂層の延伸前の厚みは、5~500μm、特に10~100μmの範囲にあることが好適である。上記範囲よりも酸素吸収性樹脂層の厚みが薄いと、上記範囲にある場合に比して十分な酸素吸収性を得ることができず、一方上記範囲より厚いと経済性に劣るようになる。
【0030】
<UVバリア性樹脂層>
UVバリア性樹脂層を構成する樹脂としては、上述したポリエステル樹脂において、ジカルボン酸として2,6-ナフタレンジカルボン酸を含有する、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等を使用することができる。
UVバリア性樹脂層の延伸前の厚みは、5~500μm、特に10~100μmの範囲にあることが好適である。
【0031】
<可視光バリア性樹脂層>
可視光バリア性樹脂層を構成する樹脂組成物としては、上述したポリエステル樹脂に、酸化チタン等の白色顔料が添加された樹脂組成物を使用することができる。
可視光バリア性樹脂層の延伸前の厚みは、5~500μm、特に10~100μmの範囲にあることが好適である。
【0032】
<剛性樹脂層>
本発明の延伸多層フィルムは、PBT及びPETから成る層を有することから、それ自体剛性にも優れたものであるが、さらに剛性樹脂層を備えることもできる。
このような剛性樹脂層を構成する樹脂組成物としては、上述したポリエステル樹脂に、無機フィラーが添加された樹脂組成物を使用することができる。
無機フィラーとしては、例えば、カオリナイト族(カオリナイト)、パイロフィライト族(パイロフィライト)、タルク族(タルク)、スメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト)、雲母族(マスコバイト、セリサイト)等の層状ケイ酸塩鉱物を挙げることができ、特に、タルク、マスコバイト並びにセリサイトを主成分とするマイカを好適に使用することができる。
またこの樹脂組成物は、連続相に上記無機フィラーがナノオーダーで分散しているナノコンポジットであることが特に好適である。これにより延伸の際に、局所的な過延伸による歪み硬化が緻密に生じることになり、優れた延伸バランスを得ることが可能となる。
剛性樹脂層の延伸前の厚みは、5~500μm、特に10~100μmの範囲にあることが好適である。
【0033】
<その他の層>
機能性樹脂層としては、上記の他、リプロダクト樹脂、リサイクルポリエステル樹脂、或いはバイオマスポリエステルを使用することもでき、これらの層を有することにより、延伸多層フィルムが環境対応適性に優れているという機能を備えることができる。
リプロダクト樹脂は、本発明の延伸多層フィルムを作成する工程で排出された樹脂やフィルム等が粉砕還元された樹脂であり、PBTやPETを主成分とする樹脂である。リプロダクト樹脂にはバージンポリエステルを含んでいてもよい。
リサイクルポリエステル樹脂としては、例えばメカニカルリサイクルによりリサイクルされたポリエステルが挙げられ、一般的には、回収されたポリエステルボトルを粉砕・清浄化してリサイクルされたポリエステルであり、このポリエステルには、一般に、アルコール成分としてエチレングリコール、カルボン酸成分としてテレフタル酸及びイソフタル酸が含まれている。
リサイクルポリエステル樹脂には、リサイクルポリエステルと共にバージンポリエステルを含んでいてもよい。
【0034】
バイオマスポリエステルとしては、例えばサトウキビやトウモロコシ等を原料として製造されたバイオマスエタノール由来のエチレングリコールをジオール成分として用い、ジカルボン酸成分として前述した化石燃料由来のジカルボン酸を用いて成るポリエステルが挙げられる。
バイオマスポリエステルには、バイオマスポリエステルと共にバージンポリエステルを含んでいてもよい。
【0035】
(延伸多層フィルムの製造方法)
本発明の延伸多層フィルムは、上述した共重合成分の含有量が可及的に低減されたPBT及びPET、並びに必要により上述した機能性樹脂を用いて共押出ラミネートにより多層フィルムを予め製造する。
共押出による多層フィルムの製造は、従来公知の方法により行うことができ、各樹脂層の種類に対応する押出機を用い、多層多重ダイ中で各樹脂の溶融物を重ね合わせ、これをダイオリフィスから押し出すことにより行われる。このフィルム材を、Tダイ法、インフレーション法等で予め多層キャストフィルムを製膜する。
Tダイ法により共押出フィルムを作成する場合には、テンター法により延伸を行う。すなわち、T型の多層多重ダイスから共押出した多層フィルムをキャストロールに引き取り、次いで、テンター又は延伸ロールによって縦方向(MD)に延伸し、必要に応じてテンターを用いて横方向(TD)に延伸し、さらに、必要に応じて熱固定する。延伸は、一軸延伸又は二軸延伸の何れであってもよいが、二軸延伸であることが好適である。二軸延伸の場合には、MD方向とTD方向の延伸を順次行う逐次二軸延伸以外に、MD方向とTD方向の延伸をテンターで同時に行う二軸延伸であってもよい。
一方、インフレーション法により共押出フィルムを作成する場合には、チューブラー法により延伸を行う。すなわち、サーキュラー状の多層多重ダイスから共押出した多層パリソンを冷却し、次いで、パリソンを延伸温度に加熱してからインフレーションし、必要に応じて熱固定する。得られたチューブ状フィルムは、必要により折り畳んでフラットフィルムにしたり、スリットしてからロール状に巻き取ることができる。
【0036】
本発明においてはテンター法による延伸でもフィルムのカールの発生が抑制されていることから、Tダイ法及びテンター法より延伸多層フィルムを製造することが好適である。Tダイ法及びテンター法による延伸多層フィルムの作成により、厚みムラが少なく、広幅で薄く、カールのないフィルムを、高速製膜で安定的に製造することが可能となる。
延伸倍率は、一軸延伸の場合には、2~10倍、特に2~5倍であることが好ましく、二軸延伸の場合には、MD方向及びTD方向それぞれ2~10倍、特に2~5倍であることが好ましい。
【0037】
(積層体)
本発明においては、上述した共押出工程及び延伸工程を経て得られた延伸多層フィルムに、更に他の層を積層して、積層体とすることもできる。
このような他の層としては、PBT及びPETと共押出では積層できない、これらと接着性に乏しい樹脂から成る層、蒸着層又はコーティング層、これらを別途備えたガスバリア性フィルム、印刷層や印刷層を保護するためのトップコート層、或いはシーラント層等を、必要により積層することができる。このような層の積層方法としては、従来公知のドライラミネート法、押出コート法、融着法等を例示でき、積層する層の種類によって適宜選択することができる。
本発明においては、特にシーラント層を押出コート法により積層することが好適である。すなわち、共押出ラミネートによりPBT層及びPET層と同時にシーラント層を多層フィルムの一方の表面に積層すると、多層フィルムの厚み方向の対称性が損なわれると共に、延伸によりヒートシール性が低下するため、延伸積層フィルムに更に積層することが望ましい。
【0038】
シーラント層を構成する樹脂としては、従来公知のヒートシール性樹脂を使用することができ、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の他、ヒートシール性ポリエステル樹脂を例示することができる。
本発明においては、押出ラミネート法により接着剤を使用することなく積層することが好ましいことから、例えば、PETGのような非晶ポリエステルや、エチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体のような低融点ポリエステル樹脂、或いは高ガラス転移温度(Tg)のポリエステル樹脂及び低ガラス転移温度(Tg)のポリエステル樹脂をブレンドして成るポリエステル樹脂、ポリテトラメチレングリコール変性ポリブチレンテレフタレート(PBT-PTMG)等のポリエステル系熱可塑性エラストマー等のヒートシール性ポリエステル樹脂や酸変性オレフィン系樹脂を好適に使用できる。
シーラント層の厚みは、15~150μm、特に40~80μmの範囲にあることが好適である。
【0039】
(包装袋)
本発明の包装袋は、上述した延伸多層フィルムにシーラント層が形成された積層体を、シーラント層同士が内面となるように重ね合わせシールすることにより製袋する。
包装袋は、上述した積層体から成る限り、その形状は制限されず、ピロータイプのパウチ、ガセットタイプのパウチ、スタンディングパウチ等の種々の形状を採用することができる。
本発明の包装袋において、積層体の外面側(シーラント性樹脂層の反対側の面)に印刷層及びトップコート層を形成する場合、積層体の状態で印刷層及びトップコート層を形成することが好適であるが、印刷層及びトップコート層を除いて必要な層が積層された積層体を、シーラント層同士が向き合うように重ねてシールすることにより得られた包装袋を先に作成し、この包装袋の外面に印刷層及びトップコート層を形成してもよい。
【実施例
【0040】
(延伸フィルムの作製方法)
1.材料
基材層の構成樹脂として、3種類のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET1,2,3)
・PET1(IV=0.84、イソフタル酸1.7mol%、ジエチレングリコール2.2mol%)
・PET2(IV=0.80、ジエチレングリコール1.6mol%)
・PET3(IV=0.90、イソフタル酸15mol%、ジエチレングリコール3.6mol%)
及びポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT1,2,3)
・PBT1(IV=1.14、ホモPBT)
・PBT2(PBT1:PBT3=3:1ブレンド物、イソフタル酸7.5mol%)
・PBT3(IV=1.00、イソフタル酸30mol%)
を用い、各種成形に供した。各樹脂とも成形前に乾燥処理を行った。
【0041】
2.成形
(1)キャストフィルムの成形
多層Tダイを備えたラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用い多層共押出キャストフィルムを製膜した。当該設備は、第1、第2、第3の押出機から押出した樹脂をフィードブロック方式Tダイにて合流させ、第1/第2/第3の順に積層された3種3層フィルムを製膜できる。また、下記方法により他の構成の多層フィルムを製膜した。
<単層>前記3種3層フィルムを製膜する際に、第1、第2、第3の押出機に同種の樹脂を供給することによって単層フィルムを製膜した。
<2種3層>前記3種3層フィルムを製膜する際に、第1、第3の押出機に同種の樹脂を供給することによって2種3層フィルムを製膜した。
Tダイの温度設定はすべて280℃とし、押出機の温度設定は供給樹脂によって変化させた。全層、各層の厚みは押出機の回転数、付帯するフィルム引取機の引取速度を変化させて調整を行った。
【0042】
(2)延伸フィルムの成形
前記キャストフィルムを延伸前原反として、二軸延伸試験装置(x6H-S:(株)東洋精機製作所)にて二軸延伸成形し、延伸フィルムを成形した。
【0043】
(フィルムの評価方法)
(1)フィルムの厚み測定
フィルムの厚みは、JIS B 7503(1997)に準拠するダイヤルゲージにて測定した。測定数n=5として平均値を測定値とした。
(2)キャストフィルムの層比測定
キャストフィルムの断面からミクロトームにて薄片を切削し、透過偏光顕微鏡にて観察し各層厚みを測定した。
(3)延伸フィルムの突き刺し強度測定
延伸フィルムの突き刺し強度は、JIS Z1707(1997)に準拠して測定した。突き刺し速度は50mm/分とした。測定数n=5として平均値を測定値とした。この突き刺し強度の測定値を延伸フィルム全層厚みで除すことにより、単位厚み当たりの突き刺し強度(突刺強度/全層厚)を算出した。また、この突き刺し強度の測定値を、延伸多層フィルム中に占めるPBT層の合計厚みで除すことにより、PBT層単位厚み当たりの突き刺し強度(突刺強度/PBT層厚)を算出した。
(4)延伸フィルムの動的粘弾性(tanδ)測定
延伸フィルムから10mm×30mm大の試験片を切り出し、粘弾性スペクトロメータ(EXSTAR6000DMS:セイコーインスツルメンツ(株))を用いて測定を行った。測定条件を以下に示す。
測定モード:引っ張り正弦波モード
試験片標点間距離:5mm
振動数:1Hz
最小張力:50mN
昇温プロファイル:25℃から200℃まで2℃/分にて昇温
得られたtanδ曲線から、tanδが極大となる温度(tanδ極大温度)を算出した。
【0044】
(実施例1)
前記2種3層キャストフィルムの成形方法に従い、第1、第3の押出機(設定温度280℃)にPET1を、第2の押出機(設定温度250℃)にPBT1を供給し、層構成としてPET1/PBT1/PET1の3層対称構成となるキャストフィルムを成形した。このフィルムは全層厚みが200μm、各層厚みの比率はPET1/PBT1/PET1=50/100/50であった。
このキャストフィルムを延伸前原反として、前記延伸フィルムの成形方法に従い延伸フィルムを成形した。延伸条件は、延伸前加熱温度90℃、縦軸3.0倍、横軸3.0倍の延伸倍率、軸方向速度10m/minで同時二軸延伸方式とした。また延伸終了後、190℃120秒でヒートセット処理を行った。このフィルムは全層厚みが25μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、PET1に変えてPET2を使用した以外は実施例1と同様にしてPET2/PBT1/PET2の3層対称構成となるキャストフィルムを成形した。
このキャストフィルムを延伸前原反として、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成した。このフィルムは全層厚みが19μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0046】
(実施例3)
実施例1において、PET1に変えてPET2を使用し、PBT1に変えてPBT2(PBT1:PBT2=3:1のブレンド物)を使用した以外は、実施例1と同様にしてPET2/PBT2/PET2の3層対称構成となるキャストフィルムを成形した。
このキャストフィルムを延伸前原反として、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成した。このフィルムは全層厚みが22μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、PET1に変えてPET2を使用し、PBT1に変えてPBT3を使用した以外は、実施例1と同様にしてPET2/PBT3/PET2の3層対称構成となるキャストフィルムを成形した。
このキャストフィルムを延伸前原反として、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成した。このフィルムは全層厚みが24μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0048】
(比較例2)
実施例1において、PET1に変えてPET3を使用した以外は、実施例1と同様にしてPET3/PBT1/PET3の3層対称構成となるキャストフィルムを成形した。
このキャストフィルムを延伸前原反として、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成した。このフィルムは全層厚みが23μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0049】
(比較例3)
前記単層キャストフィルムの成形方法に従い、第1、第2、第3の押出機(設定温度280℃)にPBT1を供給し、PBT単層キャストフィルムを成形した。このフィルムは全層厚みが127μmであった。
このキャストフィルムを延伸前原反として、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成した。このフィルムは厚みが12μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0050】
(比較例4)
前記単層キャストフィルムの成形方法に従い、第1、第2、第3の押出機(設定温度280℃)にPET1を供給し、PET単層キャストフィルムを成形した。このフィルムは全層厚みが200μmであった。
このキャストフィルムを延伸前原反として、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成した。このフィルムは厚みが29μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0051】
(比較例5)
比較例3で得られたPBT単層の延伸フィルムと、比較例4で得られたPET単層の延伸フィルムを、ウレタン系接着剤(3μm)を使用してドライラミネートにて多層延伸フィルムを作成した。この多層延伸フィルムは厚みが43μmであった。各種評価結果を表1及び2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の延伸多層フィルムは、耐衝撃性等の機械的強度や、耐熱性、バリア性等に優れていると共に、ラミネート回数が少なく、接着剤の使用量が低減された、平膜状の延伸多層フィルムであることから、生産性及び経済性に優れており、各種内容品用途に使用することができ、特にフレーバー性に優れる特徴から、食品用途に好適に使用することができる。