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特許7593035コンピュータプログラム、判定装置及び判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、判定装置及び判定方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20241126BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20241126BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241126BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H01M10/44 P
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 P
H02J7/04 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020167186
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059437
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】浪床 真一
(72)【発明者】
【氏名】高井 誠治
(72)【発明者】
【氏名】林 英司
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠
(72)【発明者】
【氏名】大矢 将輝
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/204705(WO,A1)
【文献】特開2019-122251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/04
H01M 10/44
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、
推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記シミュレーションにより推定される状態は、前記蓄電デバイスの状態に応じて定められる充電システム電圧の時間変化と、前記蓄電デバイスの両端電圧であるバッテリ電圧の時間変化とを含み、
前記コンピュータに、
前記充電システム電圧と前記バッテリ電圧との差に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
処理を実行させるためのコンピュータプログラム
【請求項2】
コンピュータに、
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、
推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御入力と制御出力との関係を表す伝達関数を用いて設定してあるコンピュータプログラム。
【請求項3】
コンピュータに、
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、
推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御遅延を模擬するコンピュータプログラム。
【請求項4】
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定する推定部と、
推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する判定部と
を備え
前記シミュレーションにより推定される状態は、前記蓄電デバイスの状態に応じて定められる充電システム電圧の時間変化と、前記蓄電デバイスの両端電圧であるバッテリ電圧の時間変化とを含み、
前記判定部は、前記充電システム電圧と前記バッテリ電圧との差に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定す
判定装置。
【請求項5】
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定する推定部と、
推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する判定部と
を備え、
前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御入力と制御出力との関係を表す伝達関数を用いて設定してある
判定装置。
【請求項6】
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定する推定部と、
推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する判定部と
を備え、
前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御遅延を模擬する
判定装置。
【請求項7】
コンピュータ
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、
推定した状態の挙動に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
判定方法であって、
前記シミュレーションにより推定される状態は、前記蓄電デバイスの状態に応じて定められる充電システム電圧の時間変化と、前記蓄電デバイスの両端電圧であるバッテリ電圧の時間変化とを含み、
前記コンピュータが、
前記充電システム電圧と前記バッテリ電圧との差に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
判定方法
【請求項8】
コンピュータが、
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、
推定した状態の挙動に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
判定方法であって、
前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御入力と制御出力との関係を表す伝達関数を用いて設定してある
判定方法。
【請求項9】
コンピュータが、
蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、
推定した状態の挙動に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する
判定方法であって、
前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御遅延を模擬する
判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータプログラム、判定装置及び判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle)やHEV(Hybrid Electric Vehicle)などの車両には、バッテリ及びバッテリを充電するための充電システムが搭載されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このような充電システムは、BMU(Battery Management Unit)から、バッテリの温度、SOC(State Of Charge)、電圧、電流などの各種情報を取得し、取得した各種情報に基づいて、充電制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-062018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両が備える充電システムの充電制御仕様と車両に搭載されたバッテリの性能とが適合していなかった場合、バッテリに対して許容以上の電力が供給されたり、充電に要する時間が非常に長くなったりする可能性がある。実際にバッテリを搭載して車両システムの総合検証を行う段階において、上述のような不具合が見つかった場合、充電システムの充電制御仕様から見直す必要が生じたり、車両に搭載するバッテリの種類を変更したりする必要が生じたりするので、早期に仕様の合意に達することができないという問題点が生じる。
【0006】
本発明は、充電システムと蓄電デバイスとの適合性をシミュレーションにより判定するコンピュータプログラム、判定方法及び判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイスに対する充電制御の挙動を推定し、推定した充電制御の挙動に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0008】
判定装置は、蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイスに対する充電制御の挙動を推定する推定部と、推定した充電制御の挙動に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する判定部とを備える。
【0009】
判定方法は、コンピュータを用いて、蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイスに対する充電制御の挙動を推定し、推定した充電制御の挙動に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する。
【発明の効果】
【0010】
本願によれば、充電システムと蓄電デバイスとの適合性をシミュレーションにより判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両における制御系の構成を説明するブロック図である。
図2】蓄電デバイスの内部構成を示すブロック図である。
図3】本実施の形態に係る開発支援装置の内部構成を説明するブロック図である。
図4】開発支援装置が用いるシミュレーションモデルの構成を示すブロック図である。
図5】バッテリモデルの概要を説明する回路図である。
図6】充電電圧及びバッテリ電圧のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7】蓄電デバイスへの印加電流のシミュレーション結果を示すグラフである。
図8】開発支援装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態におけるコンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する処理を実行させる。
蓄電デバイスを設計する際に内部構造を変化させた場合、活物質や電解液の組成を変化させた場合などにおいて、電池の特性は変化する。電池の特性が変化した場合、その特性の変化に合わせて充電制御を変更する必要がある。蓄電デバイスでは、過充電や過放電を避けなければならず、充電制御の重要性は高い。本実施形態のように、蓄電デバイスと充電システムとの適合性の判定を、モデルを用いたシミュレーションによって実行する場合には、充電制御において高い電圧を発生させるような充電装置は不要であり、安全性は高い。また、実機や試作品を用いた検証では、実際の電池への充電が必要となるため、適合性の判定結果が得られるまでに時間を要するが、シミュレーションによって判定する場合、電池への充電が不要となるため、適合性の判定結果は速やかに得られる。昨今の電気自動車、再生可能エネルギ、スマートグリッドなどの目覚ましい開発進展を考えた場合、高性能・高安全の蓄電デバイスに対する期待は大きく、シミュレーションを活用した安全性設計及び開発時間の短縮の意義は大きい。
【0013】
前記コンピュータプログラムにおいて、前記シミュレーションにより推定される状態は、前記蓄電デバイスの状態に応じて定められる充電システム電圧の時間変化と、前記蓄電デバイスの両端電圧であるバッテリ電圧の時間変化とを含み、前記コンピュータに、前記充電システム電圧と前記バッテリ電圧との差に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する処理を実行させてもよい。実機や試作品を用いた検証では、充電システム電圧とバッテリ電圧との電圧差が大きくなると、電池に入る電流が許容以上となる可能性があり、安全性を担保できない。これに対し、本実施形態では、モデルを用いたシミュレーションによって適合性を判定するので、たとえ許容以上の電流が流れる状況下であっても安全性を担保できる。
【0014】
前記コンピュータプログラムにおいて、前記シミュレーションにより推定される状態は、充電の際に前記蓄電デバイスに印加される印加電流の時間変化を含み、前記コンピュータに、前記印加電流と、印加電流に対して設定される許容値との差に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する処理を実行させてもよい。実機や試作品を用いた検証では、電池に入る電流が許容以上となる可能性があり、安全性を担保できない。これに対し、本実施形態では、モデルを用いたシミュレーションによって適合性を判定するので、たとえ許容以上の電流が流れる状況下であっても安全性を担保できる。
【0015】
前記コンピュータプログラムにおいて、前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御入力と制御出力との関係を表す伝達関数を用いて設定してもよい。実機や試作品を用いた検証では、充電システムにおける制御入力と制御出力との間に遅延が生じる場合がある。例えば、目標値への電圧降下に時間が掛かる場合、電池に許容以上の電流が流れるため、安全性を担保できない。一方、目標値への電圧上昇に時間が掛かる場合、充電に時間が掛かり、電力が不足した状態が長く続く可能性がある。これに対し、本実施形態では、充電システムモデルにおいて伝達関数を設定し、シミュレーションによって蓄電デバイスと充電システムとの適合性を判定するので、例えば許容以上の電流が流れる状況下であっても安全性を担保でき、実機や試作品では充電時間が長く続く状況下であっても、速やかに適合性の判定結果が得られる。
【0016】
前記コンピュータプログラムにおいて、前記充電システムモデルは、前記充電システムにおける制御遅延を模擬してもよい。実機や試作品を用いた検証では、充電システムにおける制御入力と制御出力との間に遅延が生じる場合がある。例えば、目標値への電圧降下に時間が掛かる場合、電池に許容以上の電流が流れるため、安全性を担保できない。また、目標値への電圧上昇に時間が掛かる場合、電力が不足した状態が長く続く可能性がある。これに対し、本実施形態では、充電システムモデルにおいて伝達関数を設定し、シミュレーションによって蓄電デバイスと充電システムとの適合性を判定するので、例えば許容以上の電流が流れる状況下であっても安全性を担保できる。また、実機や試作品では充電に要する時間が長くなる場合であっても、速やかに適合性の判定結果が得られる。
【0017】
前記コンピュータプログラムにおいて、前記バッテリモデルは、前記蓄電デバイスの等価回路を含んでもよい。この構成によれば、蓄電デバイスの等価回路を用いるので、実機や試作品では許容以上の電流が流れる状況下であっても安全性を担保できる。
【0018】
実施形態における判定装置は、蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定する推定部と、推定した状態に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する判定部とを備える。
蓄電デバイスを設計する際に内部構造を変化させた場合、活物質や電解液の組成を変化させた場合などにおいて、電池の特性は変化する。電池の特性が変化した場合、その特性の変化に合わせて充電制御を変更する必要がある。蓄電デバイスでは、過充電や過放電を避けなければならず、充電制御の重要性は高い。本実施形態の判定装置のように、蓄電デバイスと充電システムとの適合性の判定を、モデルを用いたシミュレーションによって実行する場合には、充電制御において高い電圧を発生させるような充電装置は不要であり、安全性は高い。また、実機や試作品を用いた検証では、実際の電池への充電が必要となるため、適合性の判定結果が得られるまでに時間を要するが、判定装置を用いてシミュレーションによって判定する場合、電池への充電が不要となるため、適合性の判定結果は速やかに得られる。昨今の電気自動車、再生可能エネルギ、スマートグリッドなどの目覚ましい開発進展を考えた場合、高性能・高安全の蓄電デバイスに対する期待は大きく、シミュレーションを活用した安全性設計及び開発時間の短縮の意義は大きい。
【0019】
実施形態における判定方法は、コンピュータを用いて、蓄電デバイスを模擬するバッテリモデルと、前記蓄電デバイスを充電する充電システムを模擬する充電システムモデルとを用いたシミュレーションを実行することにより、前記蓄電デバイス及び前記充電システムの少なくとも一方の状態を推定し、推定した状態の挙動に基づき、前記蓄電デバイスと前記充電システムとの間の適合性を判定する。
蓄電デバイスを設計する際に内部構造を変化させた場合、活物質や電解液の組成を変化させた場合などにおいて、電池の特性は変化する。電池の特性が変化した場合、その特性の変化に合わせて充電制御を変更する必要がある。蓄電デバイスでは、過充電や過放電を避けなければならず、充電制御の重要性は高い。本実施形態の判定方法のように、蓄電デバイスと充電システムとの適合性の判定を、モデルを用いたシミュレーションによって実行する場合には、充電制御において高い電圧を発生させるような充電装置は不要であり、安全性は高い。また、実機や試作品を用いた検証では、実際の電池への充電が必要となるため、適合性の判定結果が得られるまでに時間を要するが、コンピュータを用いてシミュレーションによって判定する場合、電池への充電が不要となるため、適合性の判定結果は速やかに得られる。昨今の電気自動車、再生可能エネルギ、スマートグリッドなどの目覚ましい開発進展を考えた場合、高性能・高安全の蓄電デバイスに対する期待は大きく、シミュレーションを活用した安全性設計及び開発時間の短縮の意義は大きい。
【0020】
以下、本発明の実施形態として、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)などの車両に搭載される充電システムへの適用例を説明する。
【0021】
図1は車両における制御系の構成を説明するブロック図である。車両Cは、制御系の構成として、蓄電デバイス10、蓄電デバイス10を充電するための充電システム20、及び車両全体の制御を実行する車両ECU(Electronic Control Unit)30を備える。蓄電デバイス10、充電システム20、及び車両ECU30は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などの車内回線を介して互いに通信可能に接続される。本実施の形態において、車両ECU30は、車両Cの走行状態、蓄電デバイス10の充電状態などを監視し、車両Cの走行状態や蓄電デバイス10の充電状態に応じて、蓄電デバイス10の充放電を切り替える制御等を実行する。
【0022】
蓄電デバイス10は、蓄電素子11と、BMU12(Battery Management Unit)とを備える(図2を参照)。蓄電素子11は、例えば複数の電池を直列に接続してなる組電池により構成される。蓄電デバイス10が備える蓄電素子11は、車両Cの充電システム20から供給される電力により充電され、車両ECU30からの制御指令に応じて負荷へ電力を供給する。蓄電デバイス10が電力を供給する負荷の一例は、車両Cを走行させるための駆動トルクを発生させる電動モータ23である。負荷の他の例は、ヘッドライト、方向指示灯、車内灯、パワーウィンドウなど車両Cが備える各種の装備品を含む。BMU12は、蓄電デバイス10を管理する機能を有する。BMU12は、蓄電デバイス10の状態を推定する機能、蓄電デバイス10における異常を検知する機能などを有しており、推定した蓄電デバイス10の状態(例えばSOC)に関する情報、検知した異常に関する情報などを車両ECU30へ通知する。
【0023】
充電システム20は、充電ECU21と、オルタネータ22とを含む。オルタネータ22は、図に示していないエンジンの出力軸に連結される発電機であり、出力軸が回転することによって発電するよう構成されている。オルタネータ22の発電によって得られる電力は、充電ECU21からの制御により、蓄電デバイス10及び車両Cが備える負荷に供給される。オルタネータ22は、車両Cが減速しているときに発電する回生制御を行うことにより、エンジン出力軸の回転に対する負荷となって車両Cに制動力を与えると共に、発電した電力を蓄電デバイス10及び車両Cが備える負荷へ供給する。
【0024】
図2は蓄電デバイス10の内部構成を示すブロック図である。蓄電デバイス10は、蓄電素子11及びBMU12に加え、電流センサ13、電圧センサ14、温度センサ15、リレー16などを備える。蓄電素子11は、例えば、直列に接続された複数のリチウムイオン二次電池から構成される。
【0025】
電流センサ13は、蓄電素子11と負極端子10Aとの間に設けられており、蓄電素子11に流れ込む電流を計測する。電流センサ13は、計測結果をBMU12へ出力する。
【0026】
電圧センサ14は、蓄電素子11に並列に接続されており、蓄電素子11の両端電圧を計測する。電圧センサ14は、計測結果をBMU12へ出力する。
【0027】
温度センサ15は、蓄電デバイス10の内部又は外部に設けられており、温度を計測する。温度センサ15は複数設けられてもよい。温度センサ15が計測する温度は、例えば蓄電素子11の温度である。この場合、温度センサ15は蓄電素子11の近傍(蓄電デバイスの内部)に設けられる。温度センサ15が計測する温度は、蓄電デバイス10が設置されている環境の温度(環境温度)であってもよい。この場合、温度センサ15は蓄電デバイス10の近傍に設けられる。以下の説明では、蓄電素子11の温度と、環境温度とを区別せずに、蓄電デバイス10の温度と表記する。温度センサ15は、計測結果をBMU12へ出力する。
【0028】
リレー16は、蓄電素子11と正極端子10Bとの間に設けられており、BMU12からの制御指令に応じて、蓄電素子11の充放電経路を遮断又は接続するための回路要素である。蓄電デバイス10が正常に機能している場合、充放電経路は接続され、外部から蓄電素子11への充電、及び蓄電素子11から負荷への給電(放電)が可能である。一方、蓄電デバイス10において何らかの異常が検知された場合、BMU12からの制御指令により、充放電経路は遮断され、蓄電素子11への充電、及び負荷への給電(放電)が停止される。
本実施の形態において、リレー16は充放電経路を遮断又は接続するための回路要素の一例である。代替的に、FET(Field-Effect Transistor)などの半導体スイッチを用いて充放電経路を遮断又は接続する構成としてもよい。
【0029】
BMU12は、蓄電デバイス10の状態を管理するための装置であり、例えば、制御部121、記憶部122、接続部123、通信部124を備える。制御部121は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。制御部121が備えるCPUは、ROMに予め格納される制御プログラムを実行することにより、蓄電デバイス10の状態を推定する機能、蓄電デバイス10における異常を検知する機能などを実現する。RAMは、CPUによる演算の実行中に生成される各種の情報を一時的に記憶する。記憶部122は、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read Only Memory)などにより構成されており、制御に必要なデータなどを記憶する。接続部123には、電流センサ13、電圧センサ14、温度センサ15、リレー16などが接続される。通信部124は、CANやLINなどの車内回線を介して、車両ECU30と通信可能に接続される。
【0030】
BMU12の制御部121は、接続部123を通じて、電流センサ13により計測される電流値、電圧センサ14により計測される電圧値、温度センサ15により計測される温度を取得し、これらのデータに基づき、蓄電デバイス10のSOCや充電電圧の目標値を算出する。制御部121は、算出したSOCや充電電圧の目標値を、通信部124を通じて、車両ECU30へ通知する。また、制御部121は、例えば温度センサ15により計測される温度が予め設定される閾値を超えた場合、蓄電デバイス10における異常を検知したと判断し、充放電経路を遮断する制御指令をリレー16へ出力する。
【0031】
本実施の形態では、蓄電デバイス10がBMU12を内蔵する構成とした。代替的に、BMU12は蓄電デバイス10の外部に設けられてもよい。
【0032】
車両Cに搭載される充電システム20は例えば車両メーカによって開発・製造され、蓄電デバイス10は例えば電池メーカによって開発・製造される。車両Cに搭載される充電システム20の充電制御仕様と、車両Cに組み込まれた蓄電デバイス10の性能とが適合していなかった場合、蓄電デバイス10に対して許容以上の電力が供給されたり、充電に要する時間が非常に長くなったりする可能性がある。蓄電デバイス10を車両Cに組み込み、車両全体を総合検証した時点において、上述のような不具合が見つかった場合、充電システム20の充電制御仕様を見直す必要が生じたり、車両Cに組み込む蓄電デバイス10の種類を変更する必要が生じたりするので、早期に仕様の合意に達することができない。
【0033】
本実施の形態では、車両Cとは独立したコンピュータ(図3に示す開発支援装置100)において、蓄電デバイス10を模擬するモデルと、車両Cの充電システム20を模擬するモデルとを用いたシミュレーションを実行し、車両Cに搭載される蓄電デバイス10と、車両Cが備える充電システム20との間の適合性を判定する。
【0034】
図3は本実施の形態に係る開発支援装置100の内部構成を説明するブロック図である。開発支援装置100は、汎用又は専用のコンピュータであり、制御部101、記憶部102、通信部103、操作部104、表示部105等を備える。
【0035】
制御部101は、CPU、ROM、RAMなどにより構成される。制御部101が備えるCPUは、ROMまたは記憶部102に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体を本願の判定装置として機能させる。
【0036】
制御部101は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性または不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路または演算回路であってもよい。また、制御部101は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0037】
記憶部102は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いた記憶装置を備える。記憶部102には、制御部101によって実行される各種コンピュータプログラム、及びコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。記憶部102に記憶されるコンピュータプログラムは、蓄電デバイス10を模擬するバッテリモデルBMと、車両側の充電システム20を模擬する充電システムモデルCSMを用いて、蓄電デバイス10に対する充電制御の挙動を推定し、蓄電デバイス10と充電システム20との間の適合性を判定する判定プログラムPGを含む。判定プログラムPGは単一のコンピュータプログラムであってもよく、複数のプログラムから構成されるプログラム群であってもよい。
【0038】
記憶部102に記憶されるコンピュータプログラムは、例えば、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体Mにより提供される。記録媒体Mは、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型のメモリである。この場合、制御部101は、不図示の読取装置を用いて記録媒体Mからコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部102にインストールする。代替的に、記憶部102に記憶されるコンピュータプログラムは、通信部103を介した通信により提供されてもよい。この場合、制御部101は、通信部103を通じてコンピュータプログラムを取得し、取得したコンピュータプログラムを記憶部102にインストールすればよい。
【0039】
記憶部102には、コンピュータプログラムの他に各種のデータが記憶される。例えば、記憶部102には、蓄電デバイス10を模擬するバッテリモデルBM、及び充電システム20を模擬する充電システムモデルCSMが記憶される。バッテリモデルBMは、例えば、蓄電素子11を表す等価回路を含む。記憶部102は、等価回路の回路構成に関する情報や等価回路を構成する各素子の値などを記憶する。バッテリモデルBMは、更にBMU12の動作を模擬するBMUモデルを含んでもよい。充電システムモデルCSMは、充電システム20における制御入力と制御出力との関係を表す伝達関数を用いて設定される。記憶部102は、制御入力及び制御出力間の伝達関数を記述するパラメータなどを記憶する。
【0040】
記憶部102は、蓄電デバイス10を識別する識別子に関連付けて、当該蓄電デバイス10の情報を記憶する電池テーブルBTを有していてもよい。電池テーブルBTに登録される電池情報は、例えば、正極及び負極の情報、電解液の情報、タブの情報などを含む。正極及び負極の情報とは、正極及び負極の活物質名、厚み、幅、奥行き、開回路電位などの情報である。電解液及びタブの情報とは、イオン種、輸率、拡散係数、導電率などの情報である。また、電池テーブルBTに登録される情報は、蓄電デバイス10を構成する構成部品等の情報が含まれていてもよい。電池テーブルBTに記憶されている情報は、上述したシミュレーションを実行する際に、パラメータの一部として利用される。
【0041】
通信部103は、図に示してない通信網を通じて外部装置と通信を行うための通信インタフェースを備える。外部装置は、例えば、ユーザが使用するコンピュータやスマートフォンなどの情報処理端末である。通信部103は、外部装置へ送信すべき情報が制御部101から入力された場合、入力された情報を外部装置へ送信する共に、通信網を通じて受信した外部装置からの情報を制御部101へ出力する。
【0042】
通信部103は、車両ECU30や蓄電デバイス10が備えるBMU12と通信可能に構成されてもよい。制御部101は、通信部103を通じて、車両Cの走行状態に関する情報、蓄電デバイス10にて計測される各種計測値などを取得し、取得した情報に基づきシミュレーションを実行してもよい。
【0043】
操作部104は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力インタフェースを備えており、ユーザによる操作を受付ける。表示部105は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、ユーザに対して報知すべき情報を表示する。なお、本実施の形態では、開発支援装置100が操作部104及び表示部105を備える構成としたが、操作部104及び表示部105は必須ではなく、開発支援装置100の外部に接続されたコンピュータを通じて操作を受付け、通知すべき情報を外部のコンピュータへ出力する構成であってもよい。
【0044】
以下、シミュレーションモデルの構成について説明する。
図4は開発支援装置100が用いるシミュレーションモデルの構成を示すブロック図である。開発支援装置100は、充電システム20を模擬する充電システムモデルCSMと、蓄電デバイス10を模擬するバッテリモデルBMとを用いたシミュレーションを実行することにより、車両Cにおける充電制御の挙動を推定する。
【0045】
充電システムモデルCSMには、車両Cの使用時を想定した電力パターンと、バッテリモデルBMの推定結果に基づき設定される充電電圧の目標値とが入力される。ここで、車両Cの使用時を想定した電力パターンとは、車両Cが発進、走行、停止を繰り返した場合の電力の時間変化を表しており、オルタネータ22が生成した電力と車両消費電力との差分により算出される。充電システムモデルCSMは、この電力パターンを制御入力x(t)とし、充電電圧の目標値に基づき制御出力y(t)を算出する。制御出力y(t)は、例えば、オルタネータ22が蓄電デバイス10に供給する充電電圧を表す。
【0046】
本実施の形態では、充電システム20において制御遅延が発生することを考慮して、制御入力x(t)と制御出力y(t)との間に伝達関数G(s)が設定される。伝達関数G(s)の関数形は、車両Cの使用時の電力パターン、オルタネータ22が生成する電力の時間変化、車両Cが消費する電力の時間変化等の実測に基づき定めることができる。伝達関数G(s)は、充電システム20における制御応答のスルーレートを模擬するような関数形を有することが好ましい。
【0047】
伝達関数G(s)が与えられた場合、開発支援装置100の制御部101は、充電システムモデルCSMの制御入力x(t)に対する制御出力y(t)を以下の手順で算出する。まず、制御部101は、制御入力x(t)をラプラス変換して、関数X(s)を求める。次いで、制御部101は、関数X(s)に伝達関数G(s)を掛けた出力Y(s)=G(s)X(s)を求める。制御部101は、出力Y(s)を逆ラプラス変換し、制御出力y(t)を求める。
【0048】
バッテリモデルBMは、充電電圧(すなわち、充電システムモデルCSMの制御出力y(t))が与えられた場合の蓄電素子11の電圧(開放電圧Vo)やSOCを推定する。また、バッテリモデルBMは、推定したSOCに基づき、充電電圧の目標値を求め、充電システムモデルCSMにフィードバックする。
【0049】
図5はバッテリモデルBMの概要を説明する回路図である。バッテリモデルBMは、蓄電素子11の等価回路を含む。蓄電素子11の等価回路は、例えば、抵抗素子R0、抵抗素子R1と容量素子C1とを並列に接続してなる第1RC並列回路、抵抗素子R2と容量素子C2とを並列に接続してなる第2RC並列回路、及び定電圧源V0によって記述される。
【0050】
抵抗素子R0は、蓄電素子11の直流抵抗成分(直流インピーダンス)を表す。蓄電素子11の直流抵抗成分は、例えば蓄電素子11における電極の抵抗に対応する。抵抗素子R0の抵抗値は放電電流、充電電圧、SOC、温度などによって変化する値である。抵抗素子R0の抵抗値が定まれば、この等価回路に電流I(t)が流れたときに抵抗素子R0の両端に発生する電圧を計算できる。抵抗素子R0の両端に発生する電圧を直流抵抗電圧Vdc(t)とする。
【0051】
2つのRC並列回路は、蓄電デバイス10の過渡的な分極特性を記述するための回路要素である。第1RC並列回路を構成する抵抗素子R1及び容量素子C1、並びに第2RC並列回路を構成する抵抗素子R2及び容量素子C2の各値は、蓄電デバイス10のSOCに応じて変動する値として与えられる。これらの値が決まれば、第1RC並列回路及び第2RC並列回路におけるインピーダンスが定まる。インピーダンスが定まれば、この等価回路に電流I(t)が流れたときに第1RC並列回路及び第2RC並列回路に発生する電圧(分極電圧Vp(t))を計算できる。分極電圧Vp(t)は、第1RC並列回路に発生する分極電圧Vp1(t)と、第2RC並列回路に発生する分極電圧Vp2(t)との合計電圧である。
【0052】
ここで、第1RC並列回路における時定数をτ1とし、第2RC並列回路における時定数をτ2とする。時定数τ1は、第1RC並列回路を構成する抵抗素子R1の抵抗値と容量素子C1の容量値とを乗じた値として定められる。時定数τ1は、第1RC並列回路に発生する分極電圧Vp1(t)の時間変化に反映される。同様に、時定数τ2は、第2RC並列回路を構成する抵抗素子R2の抵抗値と容量素子C2の容量値とを乗じた値として定められる。時定数τ2は、第2RC並列回路に発生する分極電圧Vp2(t)の時間変化に反映される。時定数τ1,τ2を異ならせることにより、蓄電素子11内で生じる様々な現象を表現することができる。
【0053】
定電圧源V0は、直流電圧を出力する電圧源である。定電圧源V0が出力する電圧は、蓄電素子11の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を表し、Vo(t)と記載する。開放電圧Vo(t)は、SOC、温度などの関数として与えられる。
【0054】
正極端子PTと負極端子NTとの間の端子電圧V(t)は、直流抵抗電圧Vdc(t)、分極電圧Vp(t)、及び開放電圧Vo(t)を用いて、
V(t)=Vdc(t)+Vp(t)+Vo(t)
として与えられる。
【0055】
等価回路を構成する各素子の値は、例えば実測の結果に基づき、電流やSOCなどの関係を考慮して決定される。
【0056】
以下、充電システムモデルCSMとバッテリモデルBMとを用いたシミュレーション結果を示す。
【0057】
図6は充電電圧及びバッテリ電圧のシミュレーション結果を示すグラフである。図6Aは充電システム20における制御応答のスルーレートが小さい場合のシミュレーション結果を示し、図6Bは充電システム20における制御応答のスルーレートが大きい場合のシミュレーション結果を示している。各グラフの横軸は時間(sec)を表し、縦軸は電圧(V)を表す。
【0058】
図6のシミュレーション結果は、蓄電デバイス10を目標電圧まで充電した場合の充電システム電圧の時間変化と、バッテリ電圧の時間変化とを示している。ここで、充電システム電圧は、充電システム20における制御入力(電力パターン)に基づき定められる電圧を表す。バッテリ電圧は、蓄電デバイス10の端子電圧(図5に示す端子電圧V(t))を表す。
【0059】
図6Aに示す電圧差のグラフから分かるように、制御応答のスルーレートが小さい場合、充電システム電圧とバッテリ電圧との差は比較的小さい。一方、図6Bに示す電圧差のグラフから分かるように、制御応答のスルーレートが大きい場合、充電システム電圧とバッテリ電圧との差は比較的大きい。
【0060】
図7は蓄電デバイス10への印加電流のシミュレーション結果を示すグラフである。図7Aは充電システム20における制御応答のスルーレートが小さい場合のシミュレーション結果を示し、図7Bは充電システム20における制御応答のスルーレートが大きい場合のシミュレーション結果を示している。各グラフの横軸は時間(sec)を表し、縦軸は電流(mA)を表す。
【0061】
図7のシミュレーション結果は、蓄電デバイス10を目標電圧まで充電した場合に蓄電デバイス10に入力される電流の時間変化を示している。図6及び図7のシミュレーション結果から、充電システム20と蓄電デバイス10との間の電圧差が大きくなった場合、蓄電デバイス10に入る電流量が許容以上となる可能性があることが分かる。
【0062】
開発支援装置100の制御部101は、これらのシミュレーション結果に基づき、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定する。例えば、制御部101は、シミュレーション結果として得られる充電システム電圧とバッテリ電圧との電圧差に関して判定閾値を設定し、算出した電圧差と判定閾値との大小関係に基づき、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定すればよい。この場合、制御部101は、算出した電圧差が判定閾値以上である場合、適合性が良好でないと判定し、算出した電圧差が判定閾値未満である場合、適合性が良好であると判定する。
【0063】
また、制御部101は、シミュレーション結果として得られる印加電流と許容電流との大小を比較し、比較結果に基づき、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定してもよい。この場合、制御部101は、算出した印加電流が許容電流以上である場合、適合性が良好でないと判定し、算出した印加電流が許容電流未満である場合、適合性が良好であると判定する。
【0064】
図8は開発支援装置100が実行する処理の手順を示すフローチャートである。開発支援装置100の制御部101は、車両Cが備える充電システム20を模擬する充電システムモデルCSMと、車両Cに搭載される蓄電デバイス10を模擬するバッテリモデルBMとを設定する(ステップS101)。このとき、制御部101は、充電システムモデルCSMにおいて用いる伝達関数G(s)や蓄電素子11の等価回路を構成する各素子の値を設定すればよい。代替的に、伝達関数G(s)及び各素子の値は予め設定されてもよい。この場合、制御部101は、記憶部102から伝達関数G(s)及び各素子の値を読み出せばよい。
【0065】
次いで、制御部101は、車両Cの使用時を想定した電力パターンと、充電電圧の目標値とを取得する(ステップS102)。車両Cの使用時を想定した電力パターンは、車両Cが発進、走行、停止を繰り返した場合の電力の時間変化を表す。電力パターンは車両Cの使用時を想定して予め設定される。充電電圧の目標値は、例えばSOCなどの情報に基づき設定される値である。ステップS102では、使用する電力パターンに応じて、充電電圧の目標値(初期値)を設定すればよい。
【0066】
次いで、制御部101は、充電システムモデルCSMとバッテリモデルBMとを用いたシミュレーションを実行する(ステップS103)。制御部101は、充電システムモデルCSMを用いることにより、電力パターンに応じた制御入力x(t)に対し、充電システム20の制御応答を表す充電電圧(制御出力y(t))を算出する。更に、制御部101は、バッテリモデルBMを用いることにより、充電電圧が与えられた場合の蓄電素子11の電圧(開放電圧Vo)やSOCを推定する。制御部101は、推定したSOCに基づき、充電電圧の目標値を求め、充電システムモデルCSMにフィードバックし、各時刻における充電電圧やバッテリ電圧を順次推定する。
【0067】
次いで、制御部101は、充電システム電圧とバッテリ電圧との電圧差が判定閾値以上であるか否かを判断する(ステップS104)。電圧差が判定閾値以上であると判断した場合(S104:YES)、制御部101は、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性は良好であると判定する(ステップS105)。一方、電圧差が判定閾値未満であると判断した場合(S104:NO)、制御部101は、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性は良好でないと判定する(ステップS106)。
【0068】
図8に示すフローチャートのステップS104では、充電システム電圧とバッテリ電圧との電圧差に基づき、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定する構成とした。代替的に、シミュレーションの結果として得られる蓄電デバイス10への印加電流と許容電流との大小を比較し、比較結果に基づき、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定する構成としてもよい。更に、制御部101は、充電開始から充電終了までに要する時間(充電時間)を推定し、充電時間と閾値時間との長短に応じて、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定する構成としてもよい。
【0069】
以上のように、本実施の形態では、蓄電デバイス10を模擬するバッテリモデルBMと、充電システム20を模擬する充電システムモデルCSMとを用いたシミュレーションを実行することによって、充電制御の挙動を推定し、推定結果に基づき、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定する。よって、蓄電デバイス10及び充電システム20の実機又は試作品を用いた検証を実施する必要はなく、シミュレーションにより、蓄電デバイス10と充電システム20との適合性を判定できる。その結果、開発支援装置100は、充電システム20の充電制御仕様、及び車両Cに搭載する蓄電デバイス10を製品開発の初期段階において決定できる。
【0070】
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0071】
例えば、本実施の形態では、蓄電デバイス10は車両用の電源であるとして説明した。車両は、四輪車に限らず、二輪車であってもよい。代替的に、電車であってもよく、AGV(Automatic Guided Vehicle)、無人飛行体(ドローン)、航空機などの移動体であってもよい。蓄電デバイス10は、車両駆動用の高電圧電源(数百V)や、駆動以外の電源を供給する補機用電池(12V又は24V)であってもよく、エンジン始動用電池(12V又は24V)やマイルドハイブリッド用電池(48V)であってもよい。車両の充電システムの一例としては、車両の減速時に回収される回生電力、屋根等に搭載されるソーラ発電、駐車して充電する100V電源や200Vの急速充電器、再使用された電池を組み込む蓄電システムなどが挙げられるが、これらに限定されない。蓄電デバイス10は、電子機器用の電源であってもよく、電力貯蔵用の電源であってもよい。これらの場合、開発支援装置100は、電子機器又は電力貯蔵施設が備える充電システムと蓄電デバイスとの適合性を判定すればよい。
【0072】
また、本実施の形態では、複数のリチウムイオン二次電池からなる蓄電素子11の構成について説明した。代替的に、蓄電デバイス10は、複数のセルが接続されたモジュール、複数のモジュールを接続したバンク、複数のバンクを接続したドメイン等であってもよい。また、リチウムイオン二次電池に代えて、全固体リチウムイオン電池、亜鉛空気電池、ナトリウムイオン電池、鉛電池などの任意の電池を採用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 蓄電デバイス
20 充電システム
21 充電ECU
22 オルタネータ
23 電動モータ
30 車両ECU
100 開発支援装置
101 制御部
102 記憶部
103 通信部
104 操作部
105 表示部
BM バッテリモデル
CSM 充電システムモデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8