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  • 特許-ヒゼンダニの非接触検出方法および装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ヒゼンダニの非接触検出方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/01 20060101AFI20241126BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20241126BHJP
   G01N 25/18 20060101ALI20241126BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20241126BHJP
【FI】
A61B5/01 100
A61B10/00 Q
G01N25/18 C
G01J5/48 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020180363
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071412
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 俊人
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0374111(US,A1)
【文献】特開2017-074217(JP,A)
【文献】特開2016-209131(JP,A)
【文献】特開2019-202002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/01
A61B 9/00-10/06
A61B 5/06- 5/22
G01N 25/00-25/72
G01J 5/00- 5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの皮膚中のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する、ヒゼンダニの非接触検出方法であって、
冷水の入った水槽に手を入れて冷水負荷をかけ、手の皮膚の温度を下げる第1工程と、
前記水槽から手を出して冷水負荷を終了させた後の手の皮膚の温度分布を経時的に撮像する第2工程と、
第2工程により得られる画像パターンを解析し、皮膚中のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する第3工程とを有することを特徴とするヒゼンダニの非接触検出方法。
【請求項2】
ヒトの皮膚中のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する、ヒゼンダニの非接触検出装置であって、
冷水の入った水槽に手を入れて冷水負荷をかけ、手の皮膚の温度を下げる手段と、
前記水槽から手を出して冷水負荷を終了させた後の手の皮膚の温度分布を経時的に撮像する手段と、
前記撮像する手段により得られる画像パターンを解析し、皮膚中のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する手段とを備えることを特徴とするヒゼンダニの非接触検出装置。
【請求項3】
前記撮像する手段が赤外線サーモグラフィーであることを特徴とする請求項2に記載のヒゼンダニの非接触検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疥癬の検査方法に関する。詳細には、ヒゼンダニの非接触検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疥癬は、ヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptesscabiei)という小さなダニが人の皮膚の角質層に寄生しておこる皮膚疾患である。以前から世界的に30年(約1世代)の周期で流行を繰り返してきたといわれているが、30年を超えていまだに続いている。また世界的には小児に多く、日本でも小児の発症がみられる。
【0003】
通常疥癬は、感染後、約1~2ヵ月の潜伏期間をおいて発症する。きわめて強いかゆみを伴い、皮膚症状は丘疹、結節、疥癬トンネル(ヒゼンダニの通り道)があげられる。特に疥癬トンネルは疥癬だけに見られる特有なものである。
【0004】
疥癬の治療は、基本的にヒゼンダニが検出され確定診断された患者、または、確定診断された患者と接触の機会があり、かつ疥癬の臨床症状を明らかに呈する患者に行っている。患者の手の周辺に多くいるということで、皮膚科ではダーモスコープなどの光学機器で見つけているが、ヒゼンダニは非常に小さいうえ、皮膚と同等の色であるため、探すことが困難である。特にヒゼンダニそのものが手の表面上ではなく、トンネルを作り潜んでいることもあり、さらに見つけることが難しい。またトンネルに入ると0.01mm/dayという非常に遅い動きのため、画像などで動きを検出することも非常に難しい。
【0005】
また、例えば、手全体の中でどこにいるのかということがわからないとダーモスコープでみつけることは難しく、まずは手全体のなかである程度の当たりをつけることができるシステムが望まれている。患者は皮膚科ではない通常の内科などの病院やケアハウス、また家庭内などでも、初期の目安として場所が特定できるとその場所に軟膏を塗布することや、内服薬の必要性が把握できるため、早期の発見が望まれている。なお内服液に関しては発見されていないと医者が処方できないとのことである。
【0006】
このような状況下、医師の指示のもと看護職や介護職のスタッフでも簡便かつ容易に取り扱うことができる疥癬の検査方法が構築できれば、医療現場において、疥癬の診断を極めて効率的に行うことが可能となる。このことは、ひいては、患者のみならず介護関係者の現場の負担軽減や経営コストの低減、患者家族の負担軽減にもつながり、社会的意義が大きい。しかしながら、そのような疥癬の検査方法が確立されていないのが現状である。
【0007】
これらの要求に対して、例えば特許文献1では、皮膚擦過検体からヒゼンダニのDNAを増幅することで存在を確認する方法が開示されてはいるが、皮膚のどの場所に存在するかを見つける着目は見られない。また、簡便かつ容易に取り扱うことができる検査方法とは言えない。
【0008】
また、特許文献2では、水溶性高分子を皮膚に塗布して、硬化後に剥離して観察することで、ヒゼンダ二を確認する方法が開示されている。しかしながら、これも簡便かつ容易に取り扱うことができる検査方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-177061号公報
【文献】特開2002-98687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、疥癬を簡便かつ容易に検査しうる方法であって、非接触で皮膚中のヒゼンダニの存在位置を特定できる検出方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、ヒトの皮膚中のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する、ヒゼンダニの非接触検出方法であって、
冷水の入った水槽に手を入れて冷水負荷をかけ、手の皮膚の温度を下げる第1工程と、
前記水槽から手を出して冷水負荷を終了させた後の手の皮膚の温度分布を経時的に撮像する第2工程と、
第2工程により得られる画像パターンを解析し、皮膚中のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する第3工程とを有することを特徴とするヒゼンダニの非接触検出方法である。
【0012】
本発明の第二の態様は、ヒトの皮膚中のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する、ヒゼンダニの非接触検出装置であって、
冷水の入った水槽に手を入れて冷水負荷をかけ、手の皮膚の温度を下げる手段と、
前記水槽から手を出して冷水負荷を終了させた後の手の皮膚の温度分布を経時的に撮像する手段と、
前記撮像する手段により得られる画像パターンを解析し、皮膚上のヒゼンダニの有無の判定と存在位置を特定する手段とを備えることを特徴とするヒゼンダニの非接触検出装置である。
【0013】
本発明の第三の態様は、第二の態様におけるヒゼンダニの非接触検出装置において、前記皮膚の温度分布を経時的に撮像する手段が赤外線サーモグラフィーであることを特徴とする請求項2に記載のヒゼンダニの非接触検出装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、疥癬を簡便かつ容易に検査しうる方法であって、非接触で手の皮膚上のヒゼンダニの存在位置を特定できる検出方法および装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るヒゼンダニ検出装置の一例を示す概略外観図である。
図2】本発明の一実施形態に係るヒゼンダニ検出装置のブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係るヒゼンダニ検出装置の操作手順を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態に係るヒゼンダニ検出方法のフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る検出方法を説明する熱画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態につき図面を参照しながら説明する。ヒトは恒温動物、ヒゼンダニは変温動物であるので、その違いにより人の皮膚の体温とヒゼンダニの体温は、環境の温度変化を付与したとき、その体温の推移が異なってくる。本発明は、その温度差を用いて皮膚のどこに存在するのかわからないヒゼンダニを簡便かつ容易に取り扱うことができる非接触検出方法および装置である。
【0017】
<ヒゼンダニの検出原理>
ヒゼンダニは、ヒトの手などの角質(深さ0.02mm程度)の中にトンネルを掘ってそこに卵を産んで、増殖していく。生活環境としてはヒトの体温の37度付近が快適な環
境のようで、ヒトの体から接触によって感染していくので、院内や家庭内での感染が多いとされている。ヒゼンダニはダニ類であり変温動物で、周りの環境に体温を適応させている。
【0018】
ヒトは、恒温動物であり、体温は37度付近でありヒトの指先など血流により体温が下がっていることはあるが、30度を割るようなことは滅多にない。そこでダニの環境による体温の変化と、ヒトの体温の変化を追うことでダニの存在を確認する。
【0019】
まずヒゼンダニが寄生している状態では、ヒゼンダニはヒトの体温という環境の中にいるため、ヒトもヒゼンダニも温度は変わらない。次にヒトの手を水や氷水など20度以下の冷水に暫くつける。ヒゼンダニのトンネルのある角質は隙間だらけなので、水が染み込み水温の環境にヒゼンダニの体温は下がるが、ヒトの体温は冷水負荷があってもほぼ37度付近に維持される。
【0020】
手の平を水槽の水や氷水などに漬けてヒトとヒゼンダニの温度差を生じさせて、水から手を離したところを遠隔からサーモグラフィーなどで温度の違いを把握する。患者は手を長く水に漬けることを嫌がる可能性もあるので、十分な時間の後に手を水の入った容器から出す。ヒゼンダニはトンネルが濡れていると水の環境での温度を維持し、トンネルから水が抜けて乾いてくると周囲の環境がヒトの体温に近くなってくる。そのため、水の入った容器から出して暫くの間で、手の中で水温と同じ場所、若しくは水温からヒトの体温へ変化している場所を見つけることによりヒゼンダニの居る場所が特定できる。
【0021】
特定方法としては、水から手を出したところから、遠隔(非接触)で温度変化をサーモグラフィーなどの動画で撮影していくとわかりやすい。このように、熱負荷を与えたときに発生する手の皮膚表面の局所的な温度変化領域を赤外線サーモグラフィーで計測し、この計測データを画像として出力しその画像の解析処理を行うことによって、遠隔(非接触)で温度変化およびその推移をみることが可能になる。すなわち、出力された画像は計測した赤外線強度の分布を表現しており、ヒゼンダニが存在する部位の皮膚表面と周囲の皮膚表面の赤外線強度のコントラスト差およびその推移によって、ヒゼンダニの有無および存在する位置を特定することができる。
【0022】
<非接触検出装置の構成>
図1は本発明の赤外線サーモグラフィーによるヒゼンダニの非接触検出装置1の一例を示す概略外観図、図2は本発明の赤外線サーモグラフィー装置6と情報処理および表示部10のブロック図である。
【0023】
ヒゼンダニの非接触検出装置1の全体構成は、図1に示すように、手を20度以下に冷やすための水槽2と、冷水供給装置3と、照明4と、検査台5と、赤外線サーモグラフィー装置6と、情報処理および表示部10とを備えている。
【0024】
ヒゼンダニの非接触検出装置1は、物体に触れることなく温度測定ができるため、無侵襲の計測である(測定対象物に影響を与えない)。また、撮像した熱画像は、測定対象物の表面温度分布パターンとして表示され、温度毎に色を変えて表示することができるので、温度差を視覚化することが可能である。その他、動いている物体の測定が可能、繰り返し測定が可能などの特徴がある。
【0025】
水槽2は、一例として、測定対象である手に冷水負荷をかける冷水が入った容器であり、冷水供給装置3は、例えば外部の給水源から水槽2内に冷水を供給すると共に、水槽2内の水を循環ポンプで循環させながら冷却器(エバポレータ)にて冷却する冷水供給装置であり、水槽2を一定の水温(約20度)に保っている。また、これ以外の構成として、
水槽2は冷水でなく、冷風を放出する装置を用いて構成されてもよい。
【0026】
照明4は、特に指定はなく、通常の蛍光灯でよく、検査台5の中央に均一に照明されることが望ましい。検査台5は、水槽2から上げた手を載置する台であり、赤外線サーモグラフィー装置6の焦点はこの面に合わせて撮像が開始される。
【0027】
そして、赤外線サーモグラフィー装置6は、図2に示すように赤外線カメラとA/D変換回路を備え、撮像した熱画像データを情報処理および表示部10に転送する。また、情報処理および表示部10は、内部に熱画像取得部、熱画像記憶部、画像データ解析部、および表示部とを備え、取得した熱画像データを解析し、ヒゼンダニの有無の判定および存在位置の特定を行う。
【0028】
<非接触検出装置の操作手順>
図3を参照して、赤外線サーモグラフィー装置を用いたヒゼンダニの非接触検出装置の操作手順を具体的に説明する。
1.第1工程:氷の浮かんだ水に10秒間手首まで浸す。
2.第2工程:冷却後直ちに手を拭いて抹消部位の復温過程を追う。
負荷後5分ごとに画像撮影をした場合は、例えば負荷直後・5分後・10分後・15分後・20分後の6画像を撮影する。表示はカラー表示にし、高温は暖色系、低温は寒色系などで表示するとよい。
3.第3工程:情報処理および表示部10で、ヒゼンダニの有無の判定および存在位置の特定を行い、画面にマーキングして存在位置を示す。
【0029】
システムとしては、水槽2と赤外線サーモグラフィー装置6が一体型になっていることが望ましく、患者が水槽2から手を出した瞬間をトリガーにして撮影を始めることによって大まかに見る自動モードや、特に手の中で見つけることが難しい水掻きの部分については診察者が独自に動かして見るマニュアルモードなどを備えていることが望ましい。
【0030】
本発明では、このような赤外線サーモグラフィー装置6を用いて、上記のように患者が手を水槽から出したタイミングから測定を開始し、所定サンプリング間隔で、赤外線領域の手掌部の表面温度分布画像を取得し、存在位置を特定し表示する。最終的には、診断者がその画面を見てヒゼンダニの有無を判断する。
【0031】
<ヒゼンダニの有無判定および存在位置特定の処理の詳細>
図2は本発明の赤外線サーモグラフィー6と情報処理および表示部10の機能構成の具体例を示すブロック図である。赤外線サーモグラフィー装置6は、例えば波長が10μm付近の赤外光に感度を持つ赤外線カメラを用いて構成される。赤外線サーモグラフィー装置6は、水槽2によって冷却される手掌部を撮像可能なように、その位置や姿勢、ズームレベル等が調整される。また、赤外線サーモグラフィー装置6は、情報処理および表示部10から送信される制御信号に基づいて検査対象の撮像を開始又は終了する。赤外線サーモグラフィー装置6は、撮像を開始してから終了するまでの間、同じ撮像範囲の熱画像を所定の時間間隔(例えば1fps程度)で連続して取得する。赤外線サーモグラフィー装置6は、取得された熱画像のデータを情報処理および表示部10に出力する。情報処理および表示部10は、取得された熱画像データに基づいて検査対象表面の温度分布変化を観測する。情報処理および表示部10は、ヒゼンダニが存在する部位の皮膚表面と周囲の皮膚表面との間で生じる温度分布の変化の差を検出することによって、ヒゼンダニの有無を判定する。
【0032】
情報処理および表示部10は、PC(Personal Computer)やワークステーション、サーバ等の情報処理装置を用いて構成される。情報処理および表示部10
は、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、ヒゼンダニの非接触検出プログラムを実行する。情報処理および表示部10は、検出プログラムの実行によって熱画像記憶部102、熱画像取得部101、温度情報抽出部103、差分画像生成部104、ヒゼンダニの有無判定部105および表示部106を備える装置として機能する。
【0033】
以後、手掌部表面にヒゼンダニが寄生している部分を欠陥部、ヒゼンダニが寄生していない部分を正常部として、図4を用いヒゼンダニ検出処理の一例を説明する。図4は、本発明の実施形態の非接触検出装置1によるヒゼンダニ検出処理の流れを示すフローチャートである。まず、検査対象の冷水負荷が終了すると(第1工程)、続いて熱画像取得部101は、赤外線サーモグラフィー装置6を制御することによって、検査対象の熱画像の取得を開始する(第2工程)。例えば、熱画像取得部101は、予め定められた所定の時間間隔で検査対象を撮像するように赤外線サーモグラフィー装置6を制御する。例えば、熱画像取得部101は、赤外線サーモグラフィー装置6に撮像の開始と終了をタイマーを用いて指示する。
【0034】
熱画像の取得が終了すると、熱画像取得部101は、取得された熱画像データを熱画像記憶部102に記憶させる。
【0035】
温度情報抽出部103は、手掌部分の熱画像情報を切り出し、温度分布情報を得る。差分画像生成部104はその切り出した熱画像データに基づいて、ある2つの時刻において取得された熱画像の差分で表される差分画像を生成する。差分画像生成部104は、生成された差分画像をヒゼンダニの有無判定部105に出力し、判定処理を実行する(第3工程)。
【0036】
差分画像生成部104は、生成された差分画像の各画素について、各画素の画素値と差分画像全体での画素値の平均との差分(すなわち温度差)を算出する。以下、上記の差分を平均差分値と称し、各画素の平均差分値によって表される熱画像を平均差分画像と称する。
【0037】
ヒゼンダニの有無判定部105は、このようにして生成される平均差分画像の各画素値(平均差分値)を所定の閾値と比較することにより、温度変化の速度が異なる領域を欠陥の被疑部位として抽出する。
【0038】
また、一般に、正常部に対する欠陥部の割合は十分に小さいため、差分画像全体での画素値の平均(平均差分値)は正常部の画素値の平均に近いものとなる。その結果、正常部の画素値と平均差分値との差はほぼゼロになり、欠陥部においてのみ平均差分値との差が大きくなる。そのため、判定部105は、平均差分画像の各画素値(すなわち正常部の温度差を基準とする温度差)が所定の閾値以上であるか否かを判定することによって、その画素が真の欠陥部位か否かを判定する。
【0039】
次に、上記のように判定した熱画像の具体例を図5に示す。図5は、検出の流れを説明するために、温度の違いをモノクロの10階調で表現する熱画像を例として説明する。図5(A)および(B)に示す各熱画像内に付した()内の数値は、各領域の階調値を表し、低い階調値ほど高い温度を表し、高い階調値ほど低い温度を表している。熱画像は、このような被写体の温度分布を表現する画像として、被写体の温度に応じた数値を各画素の画素値として持つ。ただし、実際の表示には、前述したように画素値は各温度に対応づけられた色や濃度であり、カラー表示を用いる。
【0040】
図5(A)は冷水負荷を終了した直後における手掌部表面の温度分布を示す熱画像を表している。図5(B)は冷水負荷終了後、20分時間が経過した時点での温度分布を示す
熱画像を表している。図5(B)に示される熱画像から、正常部と欠陥部とでは温度変化の速度が異なることが分かる。これは正常部と欠陥部とで恒温動物と変温動物の違いによって生じる現象である。具体的には、欠陥部は冷水温度まで下がり、正常部は冷水につけても冷水負荷前と近い温度を保つためである。
【0041】
図5(C)は、上記の図5(A)及び図5(B)に示される各熱画像に基づいて生成された差分画像である。図5(A)及び(B)に示される各熱画像の正常部と欠陥部との間では温度変化の速度は異なるが、どちらも負荷前の温度に収束する。しかし、図5(C)に示される差分画像における正常部の画素値は平均差分値との差が小さく、欠陥部では大きくなるので正常部と欠陥部の違いが明確になる。このような差分画像の特徴を用いて欠陥部位を検出することにより、誤検出することを抑制することができる。図5(D)は、欠陥部分を強調してカラー表示した熱画像である。
【0042】
このように構成されたヒゼンダニの非接触検出装置1は、差分画像に基づいて欠陥の被疑部位を抽出し、被疑部位の画素値と平均差分値の差に基づいて被疑部位が真の欠陥部であるか否かを判定する判定部105を備える。ヒゼンダニの非接触検出装置1がこのような構成を備えることにより、ヒゼンダニの存在有無の判定および存在位置の特定の精度をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1・・・非接触検出装置
2・・・水槽
3・・・冷却水供給装置
4・・・照明
5・・・検査台
6・・・赤外線サーモグラフィー装置
10・・・情報処理および表示部(PC)
61・・・赤外線カメラ
62・・・A/D変換器
101・・・熱画像取得部
102・・・熱画像記憶部
103・・・温度情報抽出部
104・・・差分画像生成部
105・・・判定部
106・・・表示部
図1
図2
図3
図4
図5