(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ポリマー組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241126BHJP
C08K 13/04 20060101ALI20241126BHJP
C08K 3/04 20060101ALN20241126BHJP
C08K 7/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K13/04
C08K3/04
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2020188214
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】竹中 芽衣
(72)【発明者】
【氏名】山田 純也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隼人
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 成人
(72)【発明者】
【氏名】近田 安史
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/172137(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/088005(WO,A1)
【文献】特開2013-091783(JP,A)
【文献】特開2007-284521(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047796(WO,A1)
【文献】特開2021-161256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)と、カーボンナノチューブ(B)と、ポリマーとを含む、ポリマー組成物であって、
前記カーボンナノチューブ(A)の外径は、3.0nm未満であり、
前記カーボンナノチューブ(B)の外径は、
4.0nm以上であり、
前記カーボンナノチューブ(A)と前記カーボンナノチューブ(B)の含有比率(質量比)が(A):(B)=1:400~1:0.25であ
り、
前記カーボンナノチューブ(A)の含有率は、0.0005質量%以上0.005質量%未満であり、
前記カーボンナノチューブ(B)の含有率は、0.0005質量%以上0.2質量%未満である、ポリマー組成物
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ(B)の外径は、5.0nm以上である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが、硬化性樹脂である、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
硬化剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマー組成物の硬化物。
【請求項6】
表面抵抗値が、10
6Ω/sq.以上10
11Ω/sq.未満である、請求項5に記載の硬化物。
【請求項7】
電機部品又は電子部品である、請求項5または6に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばICチップ、ハードディスク、シリコンウェハなど半導体部品、さらにはこれらを取り扱う部材(例えば、搬送トレー、ICソケット、コネクタ、ウェハピンセット)など、電機部品や電子部品は、静電気を帯びると電気破壊を起こす問題がある。
【0003】
静電気による電気破壊を抑制した部材としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどの導電性材料を樹脂組成物に添加した制電性成形体が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カーボンナノチューブの配合量が低減されているにも拘わらず、硬化後に優れた帯電防止性能を発揮することができ、さらに、成形性に優れたポリマー組成物を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該ポリマー組成物の硬化物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、相対的に外径の小さいカーボンナノチューブと、外径の大きいカーボンナノチューブを、それぞれ、所定の比率で併用することにより、カーボンナノチューブの配合量が低減されているにも拘わらず、硬化後に優れた帯電防止性能を発揮することができ、さらに、粘度が高くなり過ぎずに成形性に優れたポリマー組成物が得られることを見出した。
【0007】
本開示は、以上のような知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は以下のように記載することができる。
【0009】
項1. カーボンナノチューブ(A)と、カーボンナノチューブ(B)と、ポリマーとを含む、ポリマー組成物であって、
前記カーボンナノチューブ(A)の外径は、3.0nm未満であり、
前記カーボンナノチューブ(B)の外径は、3.0nm以上であり、
前記カーボンナノチューブ(A)と前記カーボンナノチューブ(B)の含有比率(質量比)が(A):(B)=1:400~1:0.25である、ポリマー組成物。
項2. 前記カーボンナノチューブ(A)の含有率は、0.0005質量%以上0.005質量%未満であり、
前記カーボンナノチューブ(B)の含有率は、0.0005質量%以上0.2質量%未満である、項1に記載のポリマー組成物。
項3. 前記ポリマーが、硬化性樹脂である、項1または2に記載のポリマー組成物。
項4. 硬化剤をさらに含む、項1~3のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載のポリマー組成物の硬化物。
項6. 表面抵抗値が、106Ω/sq.以上1011Ω/sq.未満である、項5に記載の硬化物。
項7. 電機部品又は電子部品である、項5または6に記載の硬化物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーボンナノチューブの配合量が低減されているにも拘わらず、硬化後に優れた帯電防止性能を発揮することができ、さらに、成形性に優れたポリマー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、当該ポリマー組成物の硬化物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られたポリマー組成物の硬化物の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリマー組成物は、カーボンナノチューブ(A)と、カーボンナノチューブ(B)と、ポリマーとを含み、カーボンナノチューブ(A)の外径が3.0nm未満であり、カーボンナノチューブ(B)の外径が3.0nm以上であり、カーボンナノチューブ(A)とカーボンナノチューブ(B)の含有比率(質量比)が(A):(B)=1:400~1:0.25であることを特徴とする。本発明のポリマー組成物は、当該構成を備えることにより、カーボンナノチューブの配合量が低減されているにも拘わらず、硬化後に優れた帯電防止性能を発揮することができ、さらに、粘度が高くなり過ぎずに成形性に優れたポリマー組成物が得られる。以下、本発明のポリマー組成物及びその硬化物について詳述する。
【0013】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする(ただし、「未満」と表記している上限値を「~」で結ぶ場合、「~」の後の数値(すなわち上限値)は数値範囲に含まない)。
【0014】
1.ポリマー組成物
本発明のポリマー組成物は、カーボンナノチューブ(A)、カーボンナノチューブ(B)、及びポリマーを含むポリマー組成物である。カーボンナノチューブ(A)の外径は、3.0nm未満である。一方、カーボンナノチューブ(B)の外径は3.0nm以上である。すなわち、本発明のポリマー組成物においては、外径(太さ)の異なる2種類以上のカーボンナノチューブを含んでいる。
【0015】
本発明の効果をより好適に発揮する観点から、カーボンナノチューブ(A)とカーボンナノチューブ(B)の外径の差が大きいことが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブ(A)の外径は、好ましくは2.7nm以下、より好ましくは2.5nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下である。カーボンナノチューブ(A)の外径の下限については、好ましくは1.0nmである。一方、カーボンナノチューブ(B)の外径は、好ましくは4.0nm以上、より好ましくは5.0nm以上、さらに好ましくは6.0nm以上、さらに好ましくは8.0nm以上、さらに好ましくは9.0nm以上である。カーボンナノチューブ(B)の外径の上限は、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。カーボンナノチューブの外径(平均値)は、直径に応じてラマン分光装置と透過型電子顕微鏡を使い分け、平均値として測定することができる。具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0016】
本発明のポリマー組成物においては、外径(太さ)の異なる2種類以上のカーボンナノチューブ(A),(B)を、それぞれ、所定の比率で含んでいる。すなわち、カーボンナノチューブ(A)の外径は、3.0nm未満であり、カーボンナノチューブ(B)の外径は3.0nm以上であり、かつ、カーボンナノチューブ(A)とカーボンナノチューブ(B)の含有比率(質量比)が(A):(B)=1:400~1:0.25である。本発明のポリマー組成物においては、外径の大きなカーボンナノチューブ(B)に加えて、外径の小さなカーボンナノチューブ(A)を、それぞれ、所定の比率及び含有率で含むことにより、カーボンナノチューブの配合量が低減されているにも拘わらず、硬化後に優れた帯電防止性能を発揮することができ、さらに、粘度が高くなり過ぎずに成形性に優れたポリマー組成物が得られる。この機序としては、次のように考えることができる。すなわち、本発明のポリマー組成物中に分散されている外径の大きなカーボンナノチューブ(B)の間を、外径の小さいカーボンナノチューブ(A)が橋渡しする構造が形成されるため、このポリマー組成物が硬化物となった際、硬化物の導電性が高められた結果、硬化物の表面抵抗値が小さくなり、優れた耐電防止性が発揮されると考えられる。特に、カーボンナノチューブ(A)は、外径が3.0nm未満と非常に細いため、カール(湾曲)した形状のものが形成されやすいことから、外径の大きなカーボンナノチューブ(B)の間を、カールしたカーボンナノチューブ(A)が絡み合って、導電パスが形成されやすいといえる。さらに、外径の大きなカーボンナノチューブ(B)を多量に配合した場合、ポリマー組成物の硬化物の導電性を高めることができるものの、ポリマー組成物の粘度が非常に高くなるため、成形性が低下するという課題が発生するが、本発明のポリマー組成物では、外径の小さなカーボンナノチューブ(A)と外径の大きなカーボンナノチューブ(B)とを併用することで、外径の大きなカーボンナノチューブ(B)の使用量(さらには、ポリマー組成物に含まれるカーボンナノチューブの全体の使用量)を低減しながら、ポリマー組成物の硬化物の導電性を高めることができるため、ポリマー組成物の粘度が高くなり過ぎずに、優れた成形性が発揮される。
【0017】
本発明の効果をより好適に発揮する観点から、本発明のポリマー組成物において、カーボンナノチューブ(A)の含有率の下限は、例えば0.0005質量%以上、好ましくは0.00075質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、上限は、例えば0.005質量%未満、好ましくは0.004質量%以下、より好ましくは0.003質量%以下である。また、同様の観点から、カーボンナノチューブ(B)の含有率の下限は、例えば0.0005質量%以上、好ましくは0.00075質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、上限は、例えば0.2質量%未満、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。さらに、本発明のポリマー組成物に含まれる全カーボンナノチューブの合計含有率の下限は、例えば0.001質量%以上、好ましくは0.0015質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上であり、上限は、例えば0.205質量%未満、好ましくは0.155質量%以下、より好ましくは0.105質量%以下である。本発明の効果をより好適に発揮する観点から、カーボンナノチューブ(A)とカーボンナノチューブ(B)との含有比率(質量比)において、カーボンナノチューブ(B)の比率の上限は、1:400(カーボンナノチューブ(A):カーボンナノチューブ(B))であり、好ましくは1:300、より好ましくは1:250、さらに好ましくは1:200、さらに好ましくは1:150である。また、カーボンナノチューブ(B)の比率の下限は、1:0.25(カーボンナノチューブ(A):カーボンナノチューブ(B))であり、好ましくは1:0.3、より好ましくは1:0.5、さらに好ましくは1:0.75である。
【0018】
カーボンナノチューブ(A),(B)の由来は、それぞれ、特に限定されず、いかなる製法で形成されたものであってもよいが、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD)法を例示することができ、化学気相成長法(CVD)法であることが好ましい。また、カーボンナノチューブ(A),(B)の種類については、それぞれ、特に制限されず、単層カーボンナノチューブであってもよいし、2層カーボンナノチューブであってもよいし、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0019】
また、カーボンナノチューブ(A),(B)のGバンドとDバンドの強度比G/Dは、それぞれ、特に限定されないが、カーボンナノチューブ(A)において、下限は例えば10以上であり、20以上であることが好ましく、30以上であることが更に好ましく、上限は例えば200以下であり、190以下であることが好ましく、180以下であることが更に好ましい。また、カーボンナノチューブ(B)において、下限は例えば0.001以上であり、0.01以上であることが好ましく、0.1以上であることが更に好ましく、上限は例えば10以下であり、9以下であることが好ましく、8以下であることがさらに好ましい。G/Dはラマン分光装置により測定され、共鳴ラマン散乱法(励起波長532nm)で測定したラマンスペクトルにおいて、Gバンド(1590cm-1付近)とDバンド(1300cm-1付近)のピーク強度比で算出される。G/D比の高いほど、カーボンナノチューブの構造における欠陥量が少ないことが示される。
【0020】
カーボンナノチューブ(A),(B)の長さは、それぞれ、特に限定されないが、本発明の効果をより好適に奏する観点から、10nm以上であってよく、10μm以上であってもよく、1mm以上であってもよく、10mm以上であってもよく、上限は特に制限はないが、100mm以下である。なお、測定方法も特に限定されるものではなく、カーボンナノチューブ1本の長さであってもよく、もしくは、カーボンナノチューブが相互に凝集されて束になった状態(バンドル状態)であってもよい。
【0021】
カーボンナノチューブ(A)の炭素純度は特に規定されないが、例えば95%以上であり、98%以上であることが好ましく、99%以上であることが更に好ましい。金属などの不純物を極力取り除くことでカーボンナノチューブ(A)の分散性を向上させることができる。分散性が向上することで、カーボンナノチューブ(B)の間を、カーボンナノチューブ(A)が橋渡しする構造をより効率的に形成することができ、本発明の効果が高めることができる。また、カーボンナノチューブ(B)については特に規定されないが、例えば80%以上であり、85%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0022】
本発明のポリマー組成物に含まれるポリマーは、本発明の効果が奏されることを限度として、特に制限されず、例えば、樹脂、ゴムなどが挙げられる。樹脂としては、熱硬化性樹脂や電離放射線硬化性樹脂などの硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0023】
熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂(2液硬化性ポリウレタンも含む)、不飽和ポリエステル樹脂、アミノアルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0024】
また、電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂であり、具体的には、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基を有する、プレポリマー、オリゴマー、及びモノマーなどのうち少なくとも1種を適宜混合したものが挙げられる。ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含むものである。電離放射線硬化性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの電離放射線硬化性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0025】
硬化性樹脂には、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤を添加できる。例えば、硬化剤としては、有機アミン等をエポキシ樹脂に添加でき、イソシアネート、有機スルホン酸塩等を不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等に添加できる。メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物、及びアゾイソブチルニトリル等のラジカル開始剤は、不飽和ポリエステル樹脂に添加できる。
【0026】
熱可塑性樹脂の具体例としては、その具体例としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、酢酸セルロース樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0027】
また、ゴムの具体例としては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴムが挙げられる。
【0028】
本発明のポリマー組成物において、ポリマーの含有率は、好ましくは90.0質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上である。本発明のポリマー組成物は、実質的に、カーボンナノチューブ(A)、カーボンナノチューブ(B)、及びポリマーのみを含むポリマー組成物であってもよい。
【0029】
また、本発明の効果を損なわない限り、本発明のポリマー組成物には、他の配合剤を含有してもよく、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料、分散剤、希釈剤など、本発明のポリマー組成物及び硬化物の用途に応じて公知のものから適宜選択することができる。本発明のポリマー組成物に含まれる添加剤の含有率は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0030】
本発明のポリマー組成物は、カーボンナノチューブ(A),(B)、ポリマーを混合することによって製造することができる。
【0031】
本発明のポリマー組成物は、温度30℃、せん断速度0.1[1/sec]におけるせん断粘度が、当該ポリマー組成物に含まれるポリマーのせん断粘度に対して、好ましくは0.5~24.5倍、より好ましくは0.8~20.0倍、さらに好ましくは0.9~15.0倍である。当該せん断粘度は、実施例に記載の方法により測定された値である。また、室温で固体のポリマー組成物は、公知の測定法を用いて粘度を測定すればよい。
【0032】
2.ポリマー組成物の硬化物
本発明の硬化物は、本発明のポリマー組成物の硬化物である。本発明のポリマー組成物を硬化させる際には、硬化剤を使用してもよい。例えば、本発明のポリマー組成物に含まれるポリマーがエポキシ樹脂である場合には、本発明のポリマー組成物と硬化剤とを混合することで、本発明のポリマー組成物を硬化性のポリマー組成物とし、これを硬化させることによって硬化物が得られる。硬化剤の使用量は、ポリマー組成物100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましく30質量部以下である。本発明のポリマー組成物の硬化物において、カーボンナノチューブ(A)の含有率が0.00025質量%以上0.005質量%未満であり、カーボンナノチューブ(B)の含有率が0.0025質量%以上0.02質量%未満であることが好ましい。カーボンナノチューブ(A)とカーボンナノチューブ(B)の比率については、本発明のポリマー組成物と同様である。
【0033】
なお、本発明のポリマー組成物の硬化には、必ずしも硬化剤を使用する必要は無く、例えば、本発明のポリマー組成物に含まれるポリマーが熱可塑性樹脂である場合には、加熱され流動状態にある本発明のポリマー組成物を冷却、固化(硬化)させることによって、本発明の硬化物としてもよい。
【0034】
本発明の硬化物の表面抵抗値は、好ましくは106~1010Ω/sq.、より好ましくは106~109Ω/sq.、さらに好ましくは106~108Ω/sq.である。前記の通り、本発明の硬化物においては、外径(太さ)の異なる2種類以上のカーボンナノチューブ(A),(B)を、それぞれ、所定の比率で含んでいることから、少量添加でもカーボンナノチューブ同士の導電パスが形成されやすく、硬化物の表面抵抗値がこのような低い値を有し、帯電防止性を発現することができる。表面抵抗値の測定方法は、以下に示す方法であり、具体的な測定方法としては実施例に記載の方法を採用することができる。
【0035】
(表面抵抗値測定)
標準条件(23℃、50%RH)において硬化物の表面に対して、高抵抗抵抗率計(例えば、ハイレスタ-UX MCP-HT800(三菱ケミカルアナリティック社製))を用いてプローブ(例えば、USRプローブMCP-HTP14)を2kgの荷重で押し当て、定電圧印可/漏洩電流測定法にて表面抵抗値を測定する。
【0036】
本発明の硬化物の形状は、特に制限されず、任意の形状とすることができる。例えば、本発明のポリマー組成物を金型で成形して硬化させた場合には、金型の形状に対応した形状の硬化物となる。
【0037】
本発明の硬化物は、表面抵抗値が小さく、帯電防止性に優れていることから、例えば、電機部品、電子部品などとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、本発明において、「部」は、「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0039】
実施例及び比較例における各測定方法は、以下の通りである。
【0040】
(ラマン分光装置)
レーザーラマン顕微鏡(ナノフォトン(株) RAMANtouch VIS-NIR-DIS)を用いて、レーザー波長532nmで測定を行った。カーボンナノチューブの直径方向振動に由来するシグナルであるRBM(100cm-1から300cm-1付近)より、外径(直径)を算出した。なお、本方法では外径が2.5nmを超えるようなカーボンナノチューブは検出できないため、後述する透過型電子顕微鏡による観察と合わせて、外径を算出した。カーボンナノチューブの結晶性を表すGバンドとDバンドの強度比G/Dは、Gバンド(1590cm-1付近)とDバンド(1300cm-1付近)のピーク強度比より算出した。
【0041】
(透過型電子顕微鏡観察)
透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製FEG付透過型電子顕微鏡HF-2000)を用いて、加速電圧200kVで観察を行った。観察試料はアルコール系溶媒に分散させ、分散液をマイクログリッドにブロッティングにて固定し、真空乾燥することで作製した。視野を100万倍に拡大し、観察された50本のカーボンナノチューブから、その外径(平均値)を求めた。
【0042】
(せん断粘度の測定及び成形性の評価)
レオメーター(Thermo Fisher Scientific社製、商品名:HAAKE MARSIII)を用いて、ポリマー組成物の粘度を測定した。温度条件は30℃で統一し、コーンはC35/2°を用いた。また、せん断速度が0.1[1/s]の時のせん断粘度を代表値とした。カーボンナノチューブを配合していないポリマーの30℃でのせん断粘度(5.6Pa・s)を基準として、せん断粘度が基準の24.5倍未満であれば、カーボンナノチューブを配合していないポリマーと同等の扱いで成形することができ、成形性が良好「〇」と評価し、せん断粘度が基準の24.5倍以上であれば、カーボンナノチューブを配合していないポリマーと同等の扱いで成形することが難しく、成形性が不良「×」と評価した。
【0043】
(表面抵抗値の測定及び帯電防止性の評価)
標準条件(23℃、50%RH)において、ポリマー組成物の硬化物(エポキシ樹脂硬化物)の表面に対して、高抵抗抵抗率計(ハイレスタ-UX MCP-HT800、三菱ケミカルアナリティック社製)を用いてUSRプローブMCP-HTP14を2kgの荷重で押し当てて定電圧印可/漏洩電流測定法にて表面抵抗値を測定した。表面抵抗値が1×1011Ω/sq.未満であった場合に、帯電防止性評価を良好「〇」と評価し、表面抵抗値が1×1011Ω/sq.以上であった場合に、帯電防止性評価を不良「×」と評価した。
【0044】
実施例及び比較例で用いた原料の詳細は、以下の通りである。
【0045】
カーボンナノチューブ(A):大阪ソーダ社製
外径 :2.0nm
炭素純度:99.7%
GD比 :75
【0046】
カーボンナノチューブ(B-1):ゼオンナノテクノロジー社製(製品名:ZEONANO SG101)
外径 :4.0nm
炭素純度:99.2%
GD比 :8
【0047】
カーボンナノチューブ(B-2):Nanocyl社製(製品名:NC7000)
外径 :9.5nm
炭素純度:90%
GD比 :1
【0048】
ポリマー:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名「JER-828」、三菱ケミカル株式会社製) せん断粘度:5.6[Pa・s](30℃、せん断速度0.1[1/s])
【0049】
〔実施例1~3及び比較例1~8〕
ナノヴェイタL-ES(吉田機械興業株式会社製)を用いて、カーボンナノチューブ(A)、カーボンナノチューブ(B-1)、及びカーボンナノチューブ(B-2)を、表1の組成となるようにビスフェノールA型エポキシ樹脂中に分散させ、ポリマー組成物を得た。得られたポリマー組成物の30℃におけるせん断粘度は、それぞれ、表1に記載の通りである。次に、ポリマー組成物と、エポキシ樹脂硬化剤(変性芳香族アミン 製品名「WA」、三菱ケミカル株式会社製)を4:1の質量比で秤量し、自公転式撹拌装置(商品名「マゼルスターKK-250S」、倉敷紡績株式会社製)を使用して均一に混合し、脱泡して、硬化性ポリマー組成物を得た。さらに、得られた硬化性ポリマー組成物をSUS製丸形金型(直径50mm、厚み2mm)に注型した後、120℃のオーブンで5時間加熱することで、ポリマー組成物の硬化物(エポキシ樹脂硬化物)を得た。硬化物の表面抵抗値は、それぞれ、表1に示す通りである。また、実施例1のポリマー組成物の硬化物の光学顕微鏡写真を撮影し、表面状態を確認した。実施例1の光学顕微鏡写真を
図1として示す。
【0050】
【0051】
表1において、「-」は配合していない成分であることを意味している。
【0052】
表1の実施例1~3の結果より、カーボンナノチューブ(A)とカーボンナノチューブ(B)とを併用することにより、低添加量で十分な帯電防止性能が得られていることが分かる。比較例7にようにカーボンナノチューブ(B)のみで帯電防止性能を満たすことも可能であるが、成形時の粘度が非常に高いために実用性の面で適さない。また、
図1から、実施例1のポリマー組成物の硬化物は外径の大きなカーボンナノチューブ(B)の間を、外径の細いカーボンナノチューブ(A)が絡み合って導電パスを形成している様子が分かる。