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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】クレーン、クレーン制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/84 20060101AFI20241126BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B66C23/84 H
B66C15/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020190770
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079903
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100141298
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 文典
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 仁士
(72)【発明者】
【氏名】寺内 謙一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲
(72)【発明者】
【氏名】松井 大朗
(72)【発明者】
【氏名】松尾 洋平
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-018596(JP,A)
【文献】特開平11-139770(JP,A)
【文献】特開平11-199178(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0298608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 15/00
B66C 23/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部基体と、
前記下部基体の上部に旋回可能に連結された上部旋回体と、
前記上部旋回体を旋回駆動する旋回駆動装置と、
前記上部旋回体に起伏可能に連結され、吊りロープによって吊り荷が吊るされるブームと、
前記ブームに含まれる複数のアタッチメントの構成を表すアタッチメント構成情報を取得する情報取得部と、
前記ブームの起伏角度を計測する起伏角度計測装置と、
前記ブームに加わる前記吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、
前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果に基づいて、前記ブームの耐旋回トルクに対応し前記ブームに許容される旋回加速度である許容加速度を導出する許容加速度導出部と、
前記旋回駆動装置に対し、前記上部旋回体の旋回加速度を前記許容加速度の範囲内に制限する制御を実行する旋回制御部と、
前記吊りロープの垂下長さを計測する垂下長さ計測装置と、を備え、
前記許容加速度導出部は、前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果と予め定められた最低荷重とに基づいて、前記ブームに加わる荷重が前記最低荷重から前記荷重計測装置の計測荷重まで変化すると仮定する場合における前記許容加速度の初期値および到達値を導出し、さらに、前記上部旋回体の加速または減速が開始してから前記垂下長さ計測装置の計測結果に対応する変化時間が経過するまでの間に前記許容加速度を前記初期値から前記到達値まで変化させる、クレーン。
【請求項2】
下部基体と、
前記下部基体の上部に旋回可能に連結された上部旋回体と、
前記上部旋回体を旋回駆動する旋回駆動装置と、
前記上部旋回体に起伏可能に連結され、吊りロープによって吊り荷が吊るされるブームと、
前記ブームに含まれる複数のアタッチメントの構成を表すアタッチメント構成情報を取得する情報取得部と、
前記ブームの起伏角度を計測する起伏角度計測装置と、
前記ブームに加わる前記吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、
前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果に基づいて、前記ブームの耐旋回トルクに対応し前記ブームに許容される旋回加速度である許容加速度を導出する許容加速度導出部と、
前記上部旋回体が所定の定常速度で旋回中に前記許容加速度で減速するとすれば前記上部旋回体が停止するまでに予め設定される許容時間を要する場合における前記定常速度である上限速度を導出する上限速度導出部と、
前記旋回駆動装置に対し、前記上部旋回体の旋回加速度を前記許容加速度の範囲内に制限する制御と前記上部旋回体の旋回速度を前記上限速度の範囲内に制限する制御とを実行する旋回制御部と、を備える、クレーン。
【請求項3】
前記上部旋回体の旋回の角度を計測する旋回角度計測装置をさらに備え、
前記旋回駆動装置は、
前記上部旋回体を旋回駆動する油圧モーターと、
前記油圧モーターへ流す作動油の油量を調節可能な油量調節弁と、を備え、
前記旋回制御部は、前記旋回角度計測装置の計測結果の変化に基づく前記油量調節弁のフィードバック制御により、前記上部旋回体の旋回加速度を前記許容加速度の範囲内に制限する、請求項1または請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記旋回駆動装置は、
前記上部旋回体を旋回駆動する油圧モーターと、
前記油圧モーターに流れる作動油の減圧調節が可能な減圧調節弁と、を備え、
前記旋回制御部は、前記減圧調節弁を制御することにより、前記作動油の上限圧力を前記許容加速度に対応する圧力に減圧する、請求項1または請求項2に記載のクレーン。
【請求項5】
下部基体と、前記下部基体の上部に旋回可能に連結された上部旋回体と、前記上部旋回体を旋回駆動する旋回駆動装置と、前記上部旋回体に起伏可能に連結され、吊りロープによって吊り荷が吊るされるブームと、前記ブームの起伏角度を計測する起伏角度計測装置と、前記ブームに加わる前記吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、前記吊りロープの垂下長さを計測する垂下長さ計測装置と、を備えるクレーンを制御するクレーン制御方法であって、
前記ブームに含まれる複数のアタッチメントの構成を表すアタッチメント構成情報を取得する工程と、
前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果に基づいて、前記ブームの耐旋回トルクに対応し前記ブームに許容される旋回加速度である許容加速度を導出する工程と、
前記旋回駆動装置に対し、前記上部旋回体の旋回加速度を前記許容加速度の範囲内に制限する制御を実行する工程と、を含み、
前記許容加速度を導出する工程は、前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果と予め定められた最低荷重とに基づいて、前記ブームに加わる荷重が前記最低荷重から前記荷重計測装置の計測荷重まで変化すると仮定する場合における前記許容加速度の初期値および到達値を導出し、さらに、前記上部旋回体の加速または減速が開始してから前記垂下長さ計測装置の計測結果に対応する変化時間が経過するまでの間に前記許容加速度を前記初期値から前記到達値まで変化させる工程を含む、クレーン制御方法。
【請求項6】
下部基体と、前記下部基体の上部に旋回可能に連結された上部旋回体と、前記上部旋回体を旋回駆動する旋回駆動装置と、前記上部旋回体に起伏可能に連結され、吊りロープによって吊り荷が吊るされるブームと、前記ブームの起伏角度を計測する起伏角度計測装置と、前記ブームに加わる前記吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、を備えるクレーンを制御するクレーン制御方法であって、
前記ブームに含まれる複数のアタッチメントの構成を表すアタッチメント構成情報を取得する工程と、
前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果に基づいて、前記ブームの耐旋回トルクに対応し前記ブームに許容される旋回加速度である許容加速度を導出する工程と、
前記上部旋回体が所定の定常速度で旋回中に前記許容加速度で減速するとすれば前記上部旋回体が停止するまでに予め設定される許容時間を要する場合における前記定常速度である上限速度を導出する工程と、
前記旋回駆動装置に対し、前記上部旋回体の旋回加速度を前記許容加速度の範囲内に制限する制御と前記上部旋回体の旋回速度を前記上限速度の範囲内に制限する制御とを実行する工程と、を含む、クレーン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームに過渡な旋回トルクが加わることを防ぐクレーンおよびクレーン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンは、下部基体に対し旋回可能な上部旋回体と、前記上部旋回体に対し起伏可能に連結されたブームとを備える。前記ブームは、吊りロープによって吊り荷を吊るし、前記上部旋回体の旋回に連動して旋回する。
【0003】
また、前記クレーンにおいて、制御装置が、前記上部旋回体の旋回を停止させる場合に、前記上部旋回体を操作司令に相当する旋回角速度から所定のカーブで減速させる司令を旋回モーターへ出力することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-139771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記上部旋回体が加速または減速する場合、旋回方向に沿うトルクである旋回トルクが前記ブームに加わる。前記旋回トルクが、前記ブームの耐旋回トルクを上回ると、前記ブームが破損するおそれがある。
【0006】
前記旋回トルクは、前記ブームの旋回半径と前記ブームを構成する複数のアタッチメントの重量と前記ブームに加わる前記吊り荷の荷重とに応じて定まる。前記ブームの旋回半径は、前記ブームの長さおよび前記ブームの起伏角度に応じて定まる。また、前記ブームの前記耐旋回トルクは、前記ブームにおける前記アタッチメントの構成に応じて定まる。
【0007】
従って、前記上部旋回体の旋回駆動が、前記ブームを構成する前記アタッチメントの構成、前記ブームの起伏角度および前記吊り荷の荷重を考慮せずに制御されると、前記ブームに加わる前記旋回トルクが前記耐旋回トルクを上回るおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、上部旋回体の旋回駆動を適切に制御することによってブームに加わる旋回トルクが耐旋回トルクを上回ることを回避できるクレーンおよびクレーン制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に係るクレーンは、下部基体と、上部旋回体と、旋回駆動装置と、ブームと、情報取得部と、起伏角度計測装置と、荷重計測装置と、許容加速度導出部と、旋回制御部と、を備える。前記上部旋回体は、前記下部基体の上部に旋回可能に連結されている。前記旋回駆動装置は、前記上部旋回体を旋回駆動する。前記ブームは、前記上部旋回体に起伏可能に連結され、吊りロープによって吊り荷が吊るされる。前記情報取得部は、前記ブームに含まれる複数のアタッチメントの構成を表すアタッチメント構成情報を取得する。前記起伏角度計測装置は、前記ブームの起伏角度を計測する。前記荷重計測装置は、前記ブームに加わる前記吊り荷の荷重を計測する。前記許容加速度導出部は、前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果に基づいて、前記ブームの耐旋回トルクに対応し前記ブームに許容される旋回加速度である許容加速度を導出する。前記旋回制御部は、前記旋回駆動装置に対し、前記上部旋回体の旋回加速度を前記許容加速度の範囲内に制限する制御を実行する。
【0010】
本発明の他の局面に係るクレーン制御方法は、前記下部基体と、前記上部旋回体と、前記旋回駆動装置と、前記ブームと、前記起伏角度計測装置と、前記荷重計測装置と、を備えるクレーンを制御する方法である。前記方法は、前記ブームに含まれる複数のアタッチメントの構成を表すアタッチメント構成情報を取得する工程を含む。さらに前記方法は、前記アタッチメント構成情報と前記起伏角度計測装置および前記荷重計測装置の計測結果に基づいて、前記ブームの耐旋回トルクに対応し前記ブームに許容される旋回加速度である許容加速度を導出する工程を含む。さらに前記方法は、前記旋回駆動装置に対し、前記上部旋回体の旋回加速度を前記許容加速度の範囲内に制限する制御を実行する工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上部旋回体の旋回駆動を適切に制御することによってブームに加わる旋回トルクが耐旋回トルクを上回ることを回避できるクレーンおよびクレーン制御方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係るクレーンの構成図である。
図2図2は、第1実施形態に係るクレーンにおける制御関連機器の構成を表すブロック図である。
図3図3は、第1実施形態に係るクレーンにおける制御装置の構成を表すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態に係るクレーンにおける旋回制限制御の手順の第1実施例を示すフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態に係るクレーンにおける上部旋回体の減速旋回制御における旋回制御速度と標準制御速度と制限速度との関係を示すグラフであり、図5(A)は標準制御速度が制限速度よりも優先される例を示すグラフであり、図5(B)は制限速度が標準制御速度よりも優先される例を示すグラフである。
図6図6は、第1実施形態に係るクレーンにおける旋回制限制御の手順の第2実施例を示すフローチャートである。
図7図7は、第1実施形態に係るクレーンにおける上部旋回体の旋回の上限速度と旋回停止の許容時間との関係を示すグラフである。
図8図8は、第2実施形態に係るクレーンにおける制御関連機器の構成を表すブロック図である。
図9図9は、第2実施形態に係るクレーンにおける旋回制限制御の手順の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、第2実施形態に係るクレーンにおける上部旋回体の減速旋回制御における許容加速度と旋回制御速度と標準制御速度と制限速度との関係を示すグラフであり、図10(A)は漸次変化する許容加速度を表すグラフであり、図10(B)は旋回制御速度と標準制御速度と制限速度との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0014】
[クレーン10の概略構成]
第1実施形態に係るクレーン10は、吊り荷9を吊り上げ、移動させる作業機械である。以下、クレーン10がジブクレーンである場合の例について説明する。
【0015】
図1に示されるように、クレーン10は、下部走行体11、上部旋回体12、キャブ13、ガントリ15、ウインチ装置16、カウンターウェイト17、ブーム20、第1起伏ロープ31、第2起伏ロープ32、吊りロープ33およびフック34およびなどを備える。ウインチ装置16は、第1ウインチ161、第2ウインチ162および第3ウインチ163を含む。
【0016】
下部走行体11は、上部旋回体12を旋回可能に支持する台座部分である。図1に示されるクレーン10は移動式クレーンである。そのため、クレーン10の下部走行体11は、クレーン10全体を走行させる走行装置14を備える。図1は、走行装置14がクローラー式の装置である例を示す。なお、下部走行体11は、下部基体の一例である。
【0017】
上部旋回体12は、下部走行体11の上部に旋回可能に連結されている。上部旋回体12は、キャブ13、ガントリ15およびウインチ装置16と一体に構成されている。ガントリ15は、上部旋回体12から起立する状態で上部旋回体12に固定されている。さらに、上部旋回体12は、ウインチ装置16、カウンターウェイト17およびブーム20を支持している。
【0018】
上部旋回体12は、下部走行体11に設けられた旋回モーター441によって旋回駆動される(図2参照)。上部旋回体12が旋回する場合、キャブ13、ガントリ15、ウインチ装置16およびブーム20も、上部旋回体12とともに旋回する。
【0019】
キャブ13は、操縦室である。ブーム20は、上部旋回体12に起伏可能に連結されている。ブーム20は、上部旋回体12と連結された根元部を中心にして起伏可能である。
【0020】
ブーム20は、複数のアタッチメントを含み、前記複数のアタッチメントが組み合わされた構成を有する。図1に示される例では、ブーム20は、主ジブ21、補ジブ22、ポイントシーブ25およびストラット26などを含む。
【0021】
補ジブ22は、主ジブ21の先端部に連結されている。ストラット26は、主ジブ21および補ジブ22の連結部に固定されている。ポイントシーブ25は、補ジブ22の先端部に設けられている。
【0022】
主ジブ21は、1つ以上の主ジブアタッチメント210が組み合わされた構成を有する。補ジブ22は、1つ以上の補ジブアタッチメント220が組み合わされた構成を有する。
【0023】
主ジブアタッチメント210、補ジブアタッチメント220、ポイントシーブ25およびストラット26などが、ブーム20に含まれる前記アタッチメントの一例である。ブーム20における前記複数のアタッチメントの構成は、作業現場の状況に応じて変更される。
【0024】
クレーン10は、ガントリ15の先端部に設けられたガントリシーブ23なども備える。
【0025】
第1起伏ロープ31は、ガントリシーブ23に掛けられており、第1起伏ロープ31の両端が、それぞれ主ジブ21および第1ウインチ161に接続されている。第1ウインチ161は、第1起伏ロープ31を介してブーム20を支える。
【0026】
第1ウインチ161は、第1起伏ロープ31の巻き取り、または、繰り出しを行うことにより、主ジブ21の起伏角度である第1起伏角度θ1を変化させる。
【0027】
第2起伏ロープ32は、ストラット26に掛けられており、第2起伏ロープ32の両端が、それぞれジブ24および第2ウインチ162に接続されている。第2ウインチ162は、第2起伏ロープ32を介して補ジブ22を支える。
【0028】
第2ウインチ162は、第2起伏ロープ32の巻き取り、または、繰り出しを行うことにより、補ジブ22の起伏角度である第2起伏角度θ2を変化させる。
【0029】
吊りロープ33は、ポイントシーブ25に掛けられており、フック34は、吊りロープ33の先端に接続されている。吊り荷9は、フック34に吊り下げられる。これにより、吊り荷9は、吊りロープ33によってブーム20に吊るされる。第3ウインチ163は、吊りロープ33の巻き取り、または、繰り出しを行うことにより、フック34および吊り荷9を昇降させる。
【0030】
なお、クレーン10が、第2ポイントシーブ、第2吊りロープ、第2フック、第4ウインチおよび第2荷重計を備える場合もある。前記第2ポイントシーブは、主ジブ21の先端部に設けられる。前記第2ポイントシーブは、ブーム20を構成する前記アタッチメントの一例である。
【0031】
前記第2吊りロープは、前記第2ポイントシーブに掛けられる。前記第2フックは、前記第2吊りロープの先端に接続される。前記第4ウインチは、前記第2吊りロープの巻き取り、または、繰り出しを行うことにより、前記第2フックおよび前記第2フックに吊られた第2吊り荷を昇降させる。
【0032】
前記第2荷重計は、前記第2吊りロープの前記第2フックに吊られる第2吊り荷の荷重を計測する。前記第2荷重計も、前記荷重計測装置の一例である。
【0033】
カウンターウェイト17は、ブーム20およびフック34に吊られた吊り荷9の荷重とのバランスをとる。
【0034】
図2に示されるように、クレーン10は、エンジン41、油圧ポンプ42、制御弁43および油圧アクチュエータ44などの駆動系の機器と、操作装置5と、制御装置6と、表示装置7とを備える。
【0035】
操作装置5および表示装置7などのヒューマンインターフェースのための装置は、キャブ13内に設けられている。さらに、クレーン10は、クレーン10が備える各種の機器の状態を計測する状態計測装置45も備える。
【0036】
制御装置6は、状態計測装置45および操作装置5などの他の機器とCAN(Controller Area Network)などの車載ネットワーク100を通じて通信可能である。
【0037】
操作装置5は、操縦者の操作を受け付ける装置である。表示装置7は情報を表示する装置であり、例えば液晶表示ユニットなどのパネル表示装置である。
【0038】
操作装置5は、旋回操作装置51、旋回ブレーキ操作装置52および操作入力装置53などを含む。
【0039】
旋回操作装置51は、中立位置から2方向へ変位可能な旋回レバー511を備える。旋回操作装置51は、旋回レバー511に対する操作方向および操作量に応じて、旋回モーター441の回転方向および回転速度を指示する信号を制御装置6へ出力する。制御装置6は、旋回レバー511に対する操作内容に応じて旋回モーター441に対応する制御弁43である方向制御弁431を制御する。
【0040】
旋回ブレーキ操作装置52は、ブレーキボタン521を備える。旋回ブレーキ操作装置52は、ブレーキボタン521に対するON操作またはOFF操作に応じて、旋回ブレーキ装置440をブレーキON状態またはブレーキOFF状態に切り替えることを指示する信号を制御装置6へ出力する。
【0041】
制御装置6は、ブレーキボタン521に対する操作内容に応じて、旋回ブレーキ装置440を前記ブレーキON状態または前記ブレーキOFF状態に切り替える。前記ブレーキON状態は、旋回モーター441にブレーキ力を作用する状態であり、前記ブレーキOFF状態は、旋回モーター441に対するブレーキ力を解除する状態である。
【0042】
なお、前記ブレーキON状態は、旋回ブレーキ装置440のブレーキ状態を意味し、前記ブレーキOFF状態は、旋回ブレーキ装置440のブレーキ解除状態を意味する。また、ブレーキボタン521に対する前記ON操作および前記OFF操作は、それぞれブレーキ操作およびブレーキ解除操作の一例である。
【0043】
操作入力装置53は、前記操縦者による情報入力を受け付ける。例えば、操作入力装置53は、表示装置7と一体に構成されたタッチパネルなどである。また、操作入力装置53が、前記操縦者の音声操作による情報入力を受け付ける装置であってもよい。
【0044】
状態計測装置45は、荷重計451、第1起伏角度計測装置452、第2起伏角度計測装置453および旋回角度計測装置454などを含む。各種の状態計測装置45の計測結果は、車載ネットワーク100を通じて制御装置6へ伝送される。
【0045】
荷重計451は、ブーム20に加わる吊り荷9の荷重を計測する。例えば、荷重計451が、第1起伏ロープ31に取り付けられたロードセルなどの荷重センサーであることが考えられる。荷重計451は、荷重計測装置の一例である。
【0046】
第1起伏角度計測装置452および第2起伏角度計測装置453は、ブーム20の起伏角度を計測する。第1起伏角度計測装置452および第2起伏角度計測装置453が、それぞれ主ジブ21および補ジブ22に取り付けられた角度計であることが考えられる。
【0047】
第1起伏角度計測装置452は、主ジブ21の仰角、即ち、主ジブ21の起伏角度である第1起伏角度θ1を計測する。第2起伏角度計測装置453は、補ジブ22の仰角、即ち、補ジブ22の起伏角度である第2起伏角度θ2を計測する。
【0048】
旋回角度計測装置454は、上部旋回体12が下部走行体11の基準方向から旋回した角度である旋回角度を計測する。
【0049】
操作入力装置53は、前記操縦者による情報入力を受け付ける。例えば、操作入力装置53は、表示装置7と一体に構成されたタッチパネルなどである。また、操作入力装置53が、前記操縦者の音声操作による情報入力を受け付ける装置であってもよい。
【0050】
エンジン41は、油圧ポンプ42を駆動するディーゼルエンジンである。制御弁43は、制御装置6から出力される制御信号に従って油圧アクチュエータ44と油圧ポンプ42などとの間の作動油の流れを制御する。
【0051】
油圧アクチュエータ44は、上部旋回体12を回転駆動する油圧モーターである旋回モーター441などを含む。また、油圧アクチュエータ44は、それぞれ第1ウインチ161、第2ウインチ162および第3ウインチ163を回転駆動する不図示の第1ウインチモーター、第2ウインチモーターおよび第3ウインチモーターなどの他の油圧モーターも含む。
【0052】
制御弁43は、旋回モーター441に対応する方向制御弁431などを含む。方向制御弁431は、旋回モーター441に対する前記作動油の供給方向を切り替え可能である。さらに、方向制御弁431は、旋回モーター441に対する前記作動油の供給量を調節する。
【0053】
なお、方向制御弁431は、上部旋回体12を旋回駆動する油圧モーターへ流す前記作動油の油量を調節可能な油量調節弁の一例である。
【0054】
制御装置6は、操作装置5に対する操作または各種の状態計測装置45の計測結果に応じて、制御弁43などの制御対象へ制御信号を出力する。また、制御装置6は、表示装置7を制御する。
【0055】
図3に示されるように、制御装置6は、MPU(Miro Processing Unit)601、RAM(Random Access Memory)602、不揮発性メモリー603および信号インターフェイス604などを備える。なお、RAM602および不揮発性メモリー603は、コンピューター読み取り可能な記憶装置である。
【0056】
MPU601は、予め不揮発性メモリー603に記憶されたプログラムを実行することにより、各種のデータ処理および制御を実行するプロセッサーの一例である。
【0057】
RAM602は、MPU601によって実行される前記プログラムおよびMPU601が導出もしくは参照するデータを一時記憶する揮発性のメモリーである。
【0058】
不揮発性メモリー603は、MPU601によって実行される前記プログラムおよびMPU601が参照するデータを予め記憶する。例えば、不揮発性メモリー603がEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)またはフラッシュメモリーなどであることが考えられる。
【0059】
信号インターフェイス604は、状態計測装置45の計測信号をデジタルデータへ変換してMPU601へ伝送する。さらに、信号インターフェイス604は、MPU601が出力する制御指令を電流信号または電圧信号などの制御信号へ変換し、制御対象の機器へ出力する。
【0060】
ところで、上部旋回体12が加速または減速する場合、旋回方向に沿うトルクである旋回トルクがブーム20に加わる。前記旋回トルクが、ブーム20の耐旋回トルクを上回ると、ブーム20が破損するおそれがある。
【0061】
前記旋回トルクは、ブーム20の旋回半径とブーム20を構成する複数の前記アタッチメントの重量とブーム20に加わる吊り荷9の荷重とに応じて定まる。ブーム20の旋回半径は、ブーム20の長さおよびブーム20の起伏角度に応じて定まる。ブーム20の長さは、ブーム20における主ジブアタッチメント210および補ジブアタッチメント220の構成によって定まる。また、ブーム20の前記耐旋回トルクは、ブーム20における前記アタッチメントの構成に応じて定まる。
【0062】
従って、上部旋回体12の旋回駆動が、ブーム20を構成する前記アタッチメントの構成、ブーム20の起伏角度および吊り荷9の荷重を考慮せずに制御されると、ブーム20に加わる前記旋回トルクが前記耐旋回トルクを上回るおそれがある。
【0063】
クレーン10において、制御装置6は、後述する旋回制限制御を実行することにより、上部旋回体12の旋回駆動を適切に制御する。これにより、クレーン10において、ブーム20に加わる前記旋回トルクが前記耐旋回トルクを上回ることが回避される。
【0064】
制御装置6のMPU601は、所定のコンピュータープログラムを実行することにより実現される複数の処理モジュールを含む。前記複数の処理モジュールは、主処理部61、情報取得部62、許容加速度導出部63および旋回制御部64などを含む(図2参照)。
【0065】
主処理部61は、制御装置6が起動したときの各種の処理の開始制御、表示装置7の制御および操作入力装置53に対する入力操作に従った情報入力処理などを実行する。
【0066】
情報取得部62、許容加速度導出部63および旋回制御部64は、前記旋回制限制御を実行する。前記旋回制限制御の具体例については後述する。
【0067】
また、制御装置6の不揮発性メモリー603には、予めアタッチメント構成情報D1のデータが記憶されている(図3参照)。アタッチメント構成情報D1は、ブーム20に含まれる複数の前記アタッチメントの構成を表す。
【0068】
例えば、アタッチメント構成情報D1は、アタッチメント仕様情報D11と、アタッチメント組合せ情報D12とを含む。
【0069】
アタッチメント仕様情報D11は、クレーン10の出荷時に予め不揮発性メモリー603に登録される情報である。アタッチメント仕様情報D11は、ブーム20の構成要素となり得る全ての前記アタッチメントの候補の重量および長さの情報と、ブーム20の横方向の耐荷重の情報とを含む。ブーム20の横方向は、ブーム20の旋回方向に沿う方向である。
【0070】
アタッチメント組合せ情報D12は、上部旋回体12に実際に連結されているブーム20を構成している複数の前記アタッチメントの種類および組合せ状態を表す情報である。アタッチメント組合せ情報D12における前記アタッチメントの種類の情報は、アタッチメント仕様情報D11に対応付けられている。
【0071】
アタッチメント組合せ情報D12は、ブーム20における前記アタッチメントの構成の変更に応じて変更される情報である。
【0072】
例えば、主処理部61が、操作入力装置53に対する入力操作に従ってアタッチメント構成情報D1を設定し、設定したアタッチメント構成情報D1を不揮発性メモリー603に記憶させる。
【0073】
[旋回制限制御の第1実施例]
以下、図4に示されるフローチャートを参照しつつ、クレーン10における前記旋回制限制御の第1実施例の手順の一例について説明する。
【0074】
例えば、情報取得部62は、制御装置6が起動した後、第1起伏角度計測装置452の計測角度である第1起伏角度θ1、第2起伏角度計測装置453の計測角度である第2起伏角度θ2または荷重計451の計測荷重である吊り荷荷重が変化したときに、前記旋回制限制御を開始する。
【0075】
以下の説明において、S101,S102,…は、前記旋回制限制御の第1実施例における複数の工程の識別符号を表す。
【0076】
<工程S101>
前記旋回制限制御において、情報取得部62が、不揮発性メモリー603からアタッチメント構成情報D1を取得する。さらに、工程S102の処理が実行される。
【0077】
本実施形態において、情報取得部62は、まずアタッチメント組合せ情報D12を取得する。さらに、情報取得部62は、アタッチメント仕様情報D11のうち、アタッチメント組合せ情報D12に含まれる前記アタッチメントの種類に対応する情報のみを取得する。
【0078】
なお、制御装置6が、不図示のサーバー装置と無線通信可能な無線通信装置を備えることも考えられる。この場合、情報取得部62が、前記サーバーから前記無線通信装置を通じてアタッチメント構成情報D1を取得してもよい。
【0079】
また、制御装置6が、持ち運び可能なデータ記憶媒体が装着されるストレージインターフェイスを備えることも考えられる。この場合、情報取得部62が、前記ストレージインターフェイスに装着された前記データ記憶媒体からアタッチメント構成情報D1を取得してもよい。
【0080】
<工程S102>
工程S102において、許容加速度導出部63が、工程S101で取得されたアタッチメント構成情報D1と、第1起伏角度θ1および第2起伏角度θ2とに基づいて、ブーム20の耐旋回トルクを導出する。さらに、工程S103の処理が実行される。
【0081】
前記耐旋回トルクは、ブーム20に加わる旋回方向に沿う最大トルクの許容値である。前記耐旋回トルクを超える旋回トルクがブーム20に加わると、ブーム20が損傷するおそれがある。
【0082】
例えば、許容加速度導出部63は、アタッチメント構成情報D1における前記主ジブアタッチメントおよび前記補ジブアタッチメントそれぞれの長さの情報から、主ジブ21および補ジブ22の長さを導出する。
【0083】
さらに、許容加速度導出部63は、主ジブ21および補ジブ22の長さと、第1起伏角度θ1および第2起伏角度θ2とに基づいて、主ジブ21の旋回半径である第1旋回半径r1および補ジブ22の旋回半径である第2旋回半径r2を導出する(図1参照)。
【0084】
さらに、許容加速度導出部63は、アタッチメント構成情報D1における前記主ジブアタッチメントおよび前記補ジブアタッチメントそれぞれの前記耐横荷重の情報と、第1旋回半径r1および第2旋回半径r2とに基づいて、ブーム20の耐旋回トルクを導出する。
【0085】
<工程S103>
工程S103において、許容加速度導出部63は、ブーム20の慣性モーメントであるブーム慣性モーメントを導出する。さらに、工程S104の処理が実行される。
【0086】
許容加速度導出部63は、工程S101で取得されたアタッチメント構成情報D1における前記アタッチメントの重量の情報と、工程S102で導出された第1旋回半径r1および第2旋回半径r2とに基づいて、前記ブーム慣性モーメントを導出する。
【0087】
例えば、許容加速度導出部63は、工程S102,S103において、アタッチメント構成情報D1における前記主ジブアタッチメントおよび前記補ジブアタッチメントの長さおよび重量の情報と、第1起伏角度計測装置452、第2起伏角度計測装置453および荷重計451の測装置の計測結果を予め定められた計算式に適用することにより、ブーム20の前記耐トルクおよび前記ブーム慣性モーメントを算出する。
【0088】
なお、前記耐トルクおよび前記ブーム慣性モーメントの導出に用いられるルックアップテーブルのデータが、予め不揮発性メモリー603に記憶されていることも考えられる。
【0089】
前記ルックアップテーブルは、ブーム20として構成され得る前記アタッチメントの構成の全ての候補と、第1起伏角度θ1の複数の代表値と、第2起伏角度θ2の複数の代表値と、前記耐トルクおよび前記ブーム慣性モーメントそれぞれの候補値との対応関係を表す。
【0090】
そして、許容加速度導出部63が、前記ルックアップテーブルからアタッチメント組合せ情報D12と、第1起伏角度計測装置452および第2起伏角度計測装置453の計測角度とに対応する前記耐トルクおよび前記ブーム慣性モーメントそれぞれの候補値を選択することにより、前記耐トルクおよび前記ブーム慣性モーメントを導出してもよい。この場合、MPU601の演算負荷が低減される。
【0091】
<工程S104>
工程S104において、許容加速度導出部63は、吊り荷9の慣性モーメントである吊り荷慣性モーメントを導出する。さらに、工程S105の処理が実行される。
【0092】
許容加速度導出部63は、荷重計451により計測される吊り荷9の荷重と、工程S102で導出された第2旋回半径r2とに基づいて、前記吊り荷慣性モーメントを導出する。
【0093】
以下の説明において、吊りロープ33におけるブーム20から吊り荷9まで垂下する部分の長さのことを垂下長さL1と称する(図1参照)。
【0094】
本実施形態において、許容加速度導出部63は、便宜上、吊りロープ33の垂下長さL1がゼロであるとの仮定の下で前記吊り荷慣性モーメントを導出する。前記仮定は、吊り荷9がブーム20と一体となって旋回することを意味する。
【0095】
なお、クレーン10が前記第2吊りロープおよび前記第2荷重計を備える場合も考えられる。この場合、工程S104において、許容加速度導出部63は、前記第2荷重計により計測される前記第2吊り荷の荷重と、工程S102で導出された第1旋回半径r1とに基づいて、前記第2吊り荷の慣性モーメントも導出する。
【0096】
<工程S105>
工程S105において、許容加速度導出部63は、前記耐旋回トルクに対応しブーム20に許容される旋回加速度である許容加速度dVL1を導出する。さらに、工程S106の処理が実行される。なお、前記旋回加速度は、旋回する上部旋回体12の角加速度である。
【0097】
許容加速度導出部63は、工程S102で導出された前記耐旋回トルクと、工程S103で導出された前記ブーム慣性モーメントと、工程S104で導出された前記吊り荷慣性モーメントとに基づいて、許容加速度dVL1を導出する。
【0098】
例えば、許容加速度導出部63は、前記ブーム慣性モーメントおよび前記吊り荷慣性モーメントの合計と許容加速度dVL1とを乗算して得られるトルクが、前記耐旋回トルクまたは前記耐旋回トルクに予め定められた安全係数を適用して得られるトルクと一致するように、許容加速度dVL1を導出する。
【0099】
本実施形態において、許容加速度dVL1は、旋回中の上部旋回体12が減速する場合に採用されるマイナスの角加速度と、停止中または旋回中の上部旋回体12が加速する場合に採用されるプラスの角加速度とを含む。
【0100】
以下の説明において、減速中の上部旋回体12の減速率が、許容加速度dVL1を上回ると表現する場合、上部旋回体12の減速率が許容加速度dVL1の絶対値よりも大きいことを意味する。
【0101】
同様に、加速中の上部旋回体12の加速率が、許容加速度dVL1を上回ると表現する場合、上部旋回体12の加速率が許容加速度dVL1の絶対値よりも大きいことを意味する。
【0102】
以上に示されるように、許容加速度導出部63は、工程S102~S105において、アタッチメント構成情報D1と起伏角度計測装置452,453および荷重計451の計測結果に基づいて、ブーム20に許容される旋回加速度である許容加速度dVL1を導出する。許容加速度dVL1は、ブーム20の前記耐旋回トルクに対応する旋回加速度である。
【0103】
<工程S106>
工程S106において、旋回制御部64が、旋回減速イベントまたは旋回加速イベントの発生を監視する。
【0104】
例えば、前記旋回減速イベントは、旋回レバー511に対して減速操作が行われたこと、または、上部旋回体12が旋回中に緊急停止条件が成立したこと、などである。一方、前記旋回加速イベントは、旋回レバー511に対して加速操作が行われたことである。
【0105】
前記緊急停止条件は、旋回角度計測装置454により計測される前記旋回角度が、予め設定された制限角度範囲を超えたことである。前記制限角度範囲は、ブーム20および吊り荷9がクレーン10の周囲の障害物と衝突することを回避するために予め設定される。
【0106】
旋回制御部64は、上部旋回体12が旋回中に前記緊急停止条件が成立したときに、回転中の旋回モーター441を既定減速率で徐々に減速させることにより、旋回モーター441を停止させる。
【0107】
但し、後述するように、前記既定減速率が許容加速度dVL1を上回る場合は例外であり、前記緊急停止条件が成立したときの減速率として、許容加速度dVL1が前記既定減速率の代わりに採用される。
【0108】
そして、旋回制御部64は、前記旋回減速イベントまたは前記旋回加速イベントが発生したときに、工程S107,S108の処理を実行する。
【0109】
<工程S107,S108>
旋回制御部64は、工程S107において加速度制限制御を実行し、工程S108において旋回モーター441が停止したか否かを判定する。
【0110】
旋回制御部64は、旋回モーター441が停止したと判定するまで、工程S107の前記加速度制限制御を継続する。そして、旋回制御部64は、旋回モーター441が停止したと判定したときに、前記旋回制限制御を終了させる。以下、前記加速度制限制御の第1例および第2例について説明する。
【0111】
<加速度制限制御の第1例>
前記第1例において、旋回制御部64は、旋回角度計測装置454の計測結果の変化に基づく方向制御弁431のフィードバック制御により、上部旋回体12の旋回加速度を許容加速度dVL1の範囲内に制限する。
【0112】
図5は、前記緊急停止条件の成立によって前記旋回減速イベントが発生した場合に設定される旋回制御速度V0と標準制御速度Vx1と制限速度VL1との関係を表す。
【0113】
図5において、初期速度V1は、前記旋回減速イベントが発生したときの上部旋回体12の旋回速度である。旋回制御速度V0は、方向制御弁431のフィードバック制御において採用される上部旋回体12の目標旋回速度である。
【0114】
標準制御速度Vx1は、前記緊急停止条件が成立した時点から上部旋回体12が停止するまでの間に設定される上部旋回体12の通常の目標旋回速度である。図5に示されるように、標準制御速度Vx1は、旋回モーター441を初期速度V1から既定減速率で徐々に減速させるように設定される。
【0115】
制限速度VL1は、初期速度V1から許容加速度dVL1を減速率として徐々に減速させるように設定される。
【0116】
標準制御速度Vx1および制限速度VL1の一方が、選択的に旋回制御速度V0として採用される。図5(A),(B)において、実線のグラフが、旋回制御速度V0として採用される旋回速度を示す。
【0117】
図5(A)に示されるように、標準制御速度Vx1が制限速度VL1を上回る場合、標準制御速度Vx1が制限速度VL1よりも優先して旋回制御速度V0として採用される。
【0118】
図5(B)に示されるように、制限速度VL1が標準制御速度Vx1を上回る場合、制限速度VL1が標準制御速度Vx1よりも優先して旋回制御速度V0として採用される。
【0119】
<加速度制限制御の第2例>
一方、前記第2例は、図2に示されるように、クレーン10の制御弁43が、旋回モーター441に流れる前記作動油の減圧調節が可能なリリーフ調節弁432を備える場合に採用される。リリーフ調節弁432は、減圧調節弁の一例である。
【0120】
リリーフ調節弁432は、前記作動油の圧力が上限圧力を超える前に前記作動油の一部をタンクへ開放する一般的なリリーフ弁に、制御装置6からの制御信号に従って開度を調節する機能が付加された調節弁である。
【0121】
前記第2例において、旋回制御部64は、リリーフ調節弁432を制御することにより、前記作動油の上限圧力を許容加速度dVL1に対応する圧力に減圧する。リリーフ調節弁432が、油圧回路における旋回モーター441に対し下流側の前記作動油の経路および上流側の経路の一方または両方に設けられることが考えられる。
【0122】
前記下流側のリリーフ調節弁432が開かれることによって前記作動油の上限圧力が下がると、旋回モーター441が減速するときの最大ブレーキ力が低減する。従って、前記下流側のリリーフ調節弁432の調節により、上部旋回体12の減速率を制限することができる。
【0123】
また、前記上流側のリリーフ調節弁432が開かれることによって前記作動油の上限圧力が下がると、旋回モーター441が加速するときの最大トルクが低減する。従って、前記下流側のリリーフ調節弁432の調節により、上部旋回体12の加速率を制限することができる。
【0124】
例えば、許容加速度dVL1と前記下流側および前記上流側のリリーフ調節弁432の開度との対応関係を表す減圧調節情報のデータが不揮発性メモリー603に記憶されていることが考えられる。この場合、旋回制御部64は、許容加速度dVL1および前記減圧調節情報に基づいてリリーフ調節弁432を調節する。
【0125】
前記第2例が採用されることにより、前記加速度制限制御が簡素化され、MPU601の演算負荷が低減される。
【0126】
本実施形態において、方向制御弁431、リリーフ調節弁432および旋回モーター441は、上部旋回体12を旋回駆動する旋回駆動装置の一例である。また、工程S107において旋回制御部64により実行される前記加速度制限制御の前記第1例および前記第2例は、上部旋回体12の旋回加速度を許容加速度dVL1の範囲内に制限する制御の一例である。
【0127】
[旋回制限制御の第2実施例]
次に、図6に示されるフローチャートを参照しつつ、クレーン10における前記旋回制限制御の第2実施例の手順の一例について説明する。
【0128】
制御装置6のMPU601は、前記旋回制限制御の第2実施例を実行するための前記処理モジュールとして、上限速度導出部65をさらに備える(図2参照)。
【0129】
前記旋回制限制御の第2実施例が開始される条件は、前記旋回制限制御の第1実施例が開始される条件と同様である。
【0130】
以下、前記旋回制限制御の第2実施例における前記旋回制限制御の第1実施例と異なる点について説明する。前記旋回制限制御の第2実施例は、前記旋回制限制御の第1実施例と比較して、工程S201および工程S202が追加されている点が異なる。
【0131】
<工程S201>
工程S201の処理は、工程S105と工程S106との間で実行される。工程S201において、上限速度導出部65は、上部旋回体12の旋回速度の制御上の上限値である上限速度Vmx1を導出する。
【0132】
図7に示されるように、上限速度導出部65は、上部旋回体12が所定の定常速度で旋回中に許容加速度dVL1で減速するとすれば上部旋回体12が停止するまでに予め設定される許容時間t1を要する場合における前記定常速度を、上限速度Vmx1として導出する。
【0133】
上部旋回体12が上限速度Vmx1以下の速度で旋回している場合、上部旋回体12を許容加速度dVL1で減速させることにより、上部旋回体12を許容時間t1以内に停止させることができる。
【0134】
<工程S202>
工程S202の処理は、工程S107の前後または工程S107と並行して実行される。
【0135】
工程S202において、旋回制御部64は、方向制御弁431に対する制御信号のレベルを制限することにより、上部旋回体12の旋回速度を上限速度Vmx1の範囲内に制限する制御を実行する。
【0136】
前記旋回制限制御の第2実施例が採用されることにより、例えば前記緊急停止条件の成立によって前記旋回減速イベントが発生した場合に、許容加速度dVL1での減速の制約を守りつつ、上部旋回体12を許容時間t1以内に停止させることができる。
【0137】
例えば、主処理部61が、操作入力装置53に対する選択操作に従って、前記旋回制限制御のモードとして第1モードおよび第2モードのいずれか一方を選択する機能を備えることが考えられる。
【0138】
上記の場合、旋回制御部64は、前記第1モードが選択された場合に、前記旋回制限制御の第1実施例に従った処理を実行し、前記第2モードが選択された場合に、前記旋回制限制御の第2実施例に従った処理を実行する。
【0139】
以上に示されるように、クレーン10において前記旋回制限制御が実行されることにより、上部旋回体12の旋回駆動が適切に制御され、ブーム20に加わる旋回トルクが前記耐旋回トルクを上回ることが回避される。その結果、上部旋回体12の旋回の急加速または急減速によるブーム20の破損が回避される。
【0140】
[第2実施形態]
次に、図8~10を参照しつつ、第2実施形態に係るクレーン10Aについて説明する。図8~10において、図1~7に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0141】
以下、クレーン10Aにおけるクレーン10と異なる点について説明する。図8に示されるように、クレーン10Aは、図1に示されるクレーン10に対し、繰り出し長さ計測装置455および垂下長さ導出部66が追加された構成を備える。
【0142】
繰り出し長さ計測装置455は、吊りロープ33の繰り出し長さを計測する装置である。例えば、繰り出し長さ計測装置455は、吊りロープ33に接触して従動回転する回転体の回転数をカウントすることによって吊りロープ33の繰り出し長さを計測する。
【0143】
垂下長さ導出部66は、繰り出し長さ計測装置455の検出結果を主ジブ21および補ジブ22の長さと、第1起伏角度θ1および第2起伏角度θ2とに基づいて補正することにより、吊りロープ33の垂下長さL1を導出する。
【0144】
繰り出し長さ計測装置455および垂下長さ導出部66は、吊りロープ33の垂下長さL1を計測する垂下長さ計測装置の一例である。
【0145】
また、本実施形態において、制御装置6のMPU601は、図4に示される手順の代わりに、図9に示される手順で前記旋回制限制御を実行する。
【0146】
以下、図9に示されるフローチャートを参照しつつ、クレーン10Aにおける前記旋回制限制御の手順の一例について説明する。
【0147】
本実施形態における前記旋回制限制御が開始される条件は、クレーン10における図4の前記旋回制限制御の第1実施例が開始される条件と同様である。
【0148】
以下、クレーン10Aにおける前記旋回制限制御のクレーン10における前記旋回制限制御の第1実施例と異なる点について説明する。クレーン10Aにおける前記旋回制限制御は、図4に示される前記旋回制限制御の第1実施例と比較して、工程S105が工程S301~S303に置き換えられ、さらに、工程S304が追加されている点が異なる。
【0149】
本実施形態において、許容加速度導出部63は、ブーム20に加わる吊り荷9の荷重が予め定められた最低荷重から荷重計451の計測荷重まで変化すると仮定する場合における許容加速度dVL1の初期値および到達値を導出する。前記最低荷重はゼロまたは実際の吊り荷9の荷重よりも十分に小さい値である。
【0150】
即ち、本実施形態においては、吊り荷9がブーム20の先端部の概ね直下の位置から上部旋回体12の加速方向または減速方向に対し反対の方向へ振れるに従って、吊り荷9からブーム20に対して旋回方向に沿って加わる力が増大するという仮定の下で、変化する許容加速度dVL1が導出される。
【0151】
以下の説明において、ブーム20に加わる吊り荷9の荷重が前記最低荷重であると仮定したときの許容加速度dVL1である許容加速度dVL1の初期値のことを許容加速度初期値dVL11と称する(図11(A)参照)。
【0152】
また、ブーム20に加わる吊り荷9の荷重が荷重計451の計測荷重であるときの許容加速度dVL1である許容加速度dVL1の到達値のことを許容加速度到達値dVL12と称する(図11(A)参照)。
【0153】
<工程S301>
工程S301において、許容加速度導出部63は、許容加速度初期値dVL11を導出する。
【0154】
例えば、許容加速度導出部63は、前記ブーム慣性モーメントおよび前記最低荷重の慣性モーメントの合計と許容加速度初期値dVL11とを乗算して得られるトルクが、前記耐旋回トルクまたは前記耐旋回トルクに予め定められた安全係数を適用して得られるトルクと一致するように、許容加速度初期値dVL11を導出する。
【0155】
<工程S302>
工程S302において、許容加速度導出部63は、クレーン10において許容加速度dVL1を導出する場合と同様に、許容加速度到達値dVL12を導出する。
【0156】
即ち、許容加速度導出部63は、工程S301,S302において、アタッチメント構成情報D1と起伏角度計測装置452,453および荷重計451の計測結果と予め定められた前記最低荷重とに基づいて、許容加速度初期値dVL11および許容加速度到達値dVL12を導出する。
【0157】
<工程S303>
工程S303において、許容加速度導出部63は、許容加速度dVL1を許容加速度初期値dVL11から許容加速度到達値dVL12まで変化させるときの所要時間である変化時間t2を導出する。
【0158】
吊りロープ33で吊られた吊り荷9の動きは、振り子における重りの動きに近似する。前記振り子における前記重りの振動周期は、理論上、前記振り子における吊り糸の長さの0.5乗に比例する。
【0159】
本実施形態において、垂下長さL1と変化時間t2との関係が、前記振り子における前記吊り糸の長さと前記重りの振動周期との関係と同様の関係を有すると仮定される。
【0160】
そこで、許容加速度導出部63は、繰り出し長さ計測装置455および垂下長さ導出部66の計測結果である垂下長さL1を予め定められた計算式に適用することにより、垂下長さL1に対応する変化時間t2を導出する。
【0161】
変化時間t2の導出に用いられる垂下長さL1は、繰り出し長さ計測装置455および垂下長さ導出部66の計測結果である。
【0162】
<工程S304>
工程S304の処理は、工程S106と工程S107との間に開始される。
【0163】
工程S304において、許容加速度導出部63は、上部旋回体12の加速または減速が開始してから変化時間t2が経過するまでの間に、許容加速度dVL1を許容加速度初期値dVL11から許容加速度到達値dVL12まで漸次変更する処理を開始する(図10(A)参照)。
【0164】
工程S304の処理の開始に続いて、旋回制御部64が、図4に基づき説明された工程S107および工程S108の処理を実行する。
【0165】
許容加速度導出部63は、旋回制御部64による工程S107および工程S108の処理を実行と並行して、変化時間t2が経過する間に許容加速度dVL1を許容加速度初期値dVL11から許容加速度到達値dVL12まで漸次変更する。
【0166】
また、許容加速度導出部63は、工程S304の処理の開始から変化時間t2が経過した後は、許容加速度dVL1を許容加速度到達値dVL12に維持する(図10(A)参照)。
【0167】
そして、工程S107において、旋回制御部64は、漸次変更される許容加速度dVL1に基づいて制限速度VL1を設定する。
【0168】
図10(B)は、前記緊急停止条件の成立によって前記旋回減速イベントが発生した場合に設定される旋回制御速度V0と標準制御速度Vx1と制限速度VL1との関係を表す。図10(B)における標準制御速度Vx1は、図5における標準制御速度Vx1と同じである。
【0169】
一方、図10(B)における制限速度VL1は、図10(A)に示されるように漸次変更される許容加速度dVL1に基づいて設定されている。
【0170】
図10(B)は、上部旋回体12の旋回の減速開始から途中までは標準制御速度Vx1が制限速度VL1を上回り、途中から制限速度VL1が標準制御速度Vx1を上回る例を示す。
【0171】
従って、図10(B)に示される例において、上部旋回体12の旋回の減速開始から途中までは、標準制御速度Vx1が制限速度VL1よりも優先して旋回制御速度V0として採用される。その後は、制限速度VL1が標準制御速度Vx1よりも優先して旋回制御速度V0として採用される。
【0172】
クレーン10Aが採用される場合も、クレーン10が採用される場合と同様の効果が得られる。また、クレーン10Aが採用されることにより、ブーム20と吊り荷9との動きのズレが反映されたより現実的な許容加速度dVL1が導出され、より適切な前記旋回制限制御が実現される。
【符号の説明】
【0173】
5 :操作装置
6 :制御装置
7 :表示装置
9 :吊り荷
10 :クレーン
10A :クレーン
11 :下部走行体
12 :上部旋回体
13 :キャブ
14 :走行装置
15 :ガントリ
16 :ウインチ装置
17 :カウンターウェイト
20 :ブーム
21 :主ジブ
22 :補ジブ
23 :ガントリシーブ
24 :ジブ
25 :ポイントシーブ
26 :ストラット
31 :第1起伏ロープ
32 :第2起伏ロープ
33 :吊りロープ
34 :フック
41 :エンジン
42 :油圧ポンプ
43 :制御弁
44 :油圧アクチュエータ
45 :状態計測装置
51 :旋回操作装置
52 :旋回ブレーキ操作装置
53 :操作入力装置
61 :主処理部
62 :情報取得部
63 :許容加速度導出部
64 :旋回制御部
65 :上限速度導出部
66 :垂下長さ導出部(垂下長さ計測装置)
100 :車載ネットワーク
161 :第1ウインチ
162 :第2ウインチ
163 :第3ウインチ
210 :主ジブアタッチメント
220 :補ジブアタッチメント
431 :方向制御弁(油量調節弁)
432 :リリーフ調節弁(減圧調節弁)
440 :旋回ブレーキ装置
441 :旋回モーター
451 :荷重計(荷重計測装置)
452 :第1起伏角度計測装置
453 :第2起伏角度計測装置
454 :旋回角度計測装置
455 :繰り出し長さ計測装置(垂下長さ計測装置)
511 :旋回レバー
521 :ブレーキボタン
601 :MPU
602 :RAM
603 :不揮発性メモリー
604 :信号インターフェイス
D1 :アタッチメント構成情報
D11 :アタッチメント仕様情報
D12 :アタッチメント組合せ情報
V0 :旋回制御速度
V1 :初期速度
VL1 :制限速度
Vmx1 :上限速度
Vx1 :標準制御速度
dVL1 :許容加速度
dVL11 :許容加速度初期値
dVL12 :許容加速度到達値
r1 :第1旋回半径
r2 :第2旋回半径
t1 :許容時間
t2 :変化時間
θ1 :第1起伏角度
θ2 :第2起伏角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10