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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/00 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
C03B19/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020191564
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080473
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中塚 和人
(72)【発明者】
【氏名】加賀井 翼
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001586(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0206119(US,A1)
【文献】特開平06-279040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの原料を融解させた融液を成形型に流入させる工程と、
前記融液を冷却することによりガラスを得る工程と、
を備え、
前記ガラスがカルコゲナイドガラスであり、
前記成形型内に仕切り部材が配置されており、前記成形型及び前記仕切り部材に囲まれた流入部が構成されており、
前記融液を前記成形型に流入させる工程を、大気雰囲気下において行い、
前記融液を前記成形型に流入させる工程において、前記流入部に流入させた前記融液の液面に異質層を形成させながら、かつ前記成形型を前記仕切り部材に対して移動させ、前記流入部の容積を大きくしながら、前記融液を前記流入部における底の部分と前記異質層との間に流入させる、ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記融液を前記成形型に流入させる工程において、前記成形型を前記仕切り部材に対して移動させる際に、前記融液の厚みを一定に保つ、請求項1に記載のガラスの製造方法。
【請求項3】
前記融液を前記成形型に流入させる工程において、前記成形型のみを移動させる、請求項1または2に記載のガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線光学分野において好適に用いられる材料としては、カルコゲナイドガラスが知られている。カルコゲナイドガラスは、赤外線の透過性を有するだけでなく、モールドプレス成形が可能な点により、量産性や低コスト化の観点において優れている。
【0003】
レンズ等の光学部材を製造する際には、例えば、溶融ガラスを急冷鋳造して、一旦ガラスインゴットを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。続いて、プリフォームガラスのモールドプレス成形等を行うことにより、レンズ等の光学部材を作製する。
【0004】
下記の特許文献1には、ガラス物品の製造方法の例が開示されている。この製造方法においては、有底筒状の成形型に溶融ガラスを流入させ、鋳込み成形を行うことによって、ガラスインゴットを得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-209364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カルコゲナイドガラス等のガラスを形成する際には、酸化を抑制する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、成形型に流入した融液は、成形型の開口面積に相当する面積において、空気に接することとなる。そのため、酸化を抑制するためには、成形を行う環境を不活性雰囲気下とする等の工程を要し、生産性を高めることが困難となる。
【0007】
本発明の目的は、酸化を容易に抑制することができ、生産性を高めることができる、ガラスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガラスの製造方法は、ガラスの原料を融解させた融液を成形型に流入させる工程と、融液を冷却することによりガラスを得る工程とを備え、成形型内に仕切り部材が配置されており、成形型及び仕切り部材に囲まれた流入部が構成されており、融液を成形型に流入させる工程において、成形型を仕切り部材に対して移動させ、流入部の容積を大きくしながら、融液を流入部に流入させることを特徴とする。
【0009】
融液を成形型に流入させる工程において、成形型を仕切り部材に対して移動させる際に、融液の厚みを一定に保つことが好ましい。
【0010】
融液を成形型に流入させる工程において、成形型のみを移動させることが好ましい。
【0011】
融液を成形型に流入させる工程を、大気雰囲気下において行うことが好ましい。
【0012】
ガラスがカルコゲナイドガラスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化を容易に抑制することができ、生産性を高めることができる、ガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)~(c)は、本発明の第1の実施形態に係るガラスの製造方法における、原料を加熱する工程までを説明するための模式的断面図である。
図2】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態に係るガラスの製造方法における、融液を撹拌する工程以降を説明するための模式的断面図である。
図3】(a)~(d)は、本発明の第1の実施形態に係るガラスの製造方法における、融液を成形型に流入させる工程を説明するための模式的断面図である。
図4】(a)~(d)は、参考例のガラスの製造方法を示す模式的断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係るガラスの製造方法において用いられる成形型の模式的斜視図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係るガラスの製造方法において用いられる成形型の模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0016】
(ガラスの製造方法)
(第1の実施形態)
本実施形態の特徴は、原料を融解させた融液を成形型に流入させる工程にある。以下において、各図を参照し、本実施形態の製造方法を説明する。
【0017】
図1(a)~図1(c)は、本発明の第1の実施形態に係るガラスの製造方法における、原料を加熱する工程までを説明するための模式的断面図である。図2(a)及び図2(b)は、本発明の第1の実施形態に係るガラスの製造方法における、融液を撹拌する工程以降を説明するための模式的断面図である。図3(a)~図3(d)は、本発明の第1の実施形態に係るガラスの製造方法における、融液を成形型に流入させる工程を説明するための模式的断面図である。なお便宜上、図面の一部において、コイル10Aまたはコイル10Bを省略している。
【0018】
本実施形態の製造方法は、本発明の一例としての、カルコゲナイドガラスを製造する方法である。もっとも、本発明の方法は、カルコゲナイドガラス以外のガラスの製造にも適用することができる。
【0019】
図1(a)に示すように、本実施形態においては、容器1としてのるつぼを用いる。容器1は底部2及び側壁部3を有する。容器1は石英ガラスからなることが好ましい。これにより、以下の工程において、好適にガラスを形成することができる。
【0020】
容器1の底部2には配管4が接続されている。配管4を囲むように、外套管5が配置されている。配管4は外套管5内を通っている。本実施形態においては、外套管5はPtからなる。もっとも、外套管5は適宜の金属からなっていればよい。
【0021】
図1(a)に示すように、容器1内にガラスの原料6を配置する。本実施形態では、原料6は、カルコゲナイドガラスを構成する成分を含む混合物である。本実施形態においては、原料6が金属を含んでいればよい。なお、本発明において、「金属」は金属元素、半金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素等を含む。原料6の詳細は後述する。なお、あらかじめ少量の原料6を溶かして少量の融液11とし、少量の融液11を配管4内に流出させることが好ましい。少量の融液11は、配管4内にて冷却され、固化物(固体のガラス)となる。これにより、栓12を形成することができる。栓12が形成されることにより、容器1の底部2に配管4が接続されていても、原料6を安定して配置することができる。
【0022】
次に、図1(b)に示すように、容器1の側壁部3上に蓋7を配置する。蓋7にはガス供給管8及びガス排出管9が接続されている。ガス排出管9から容器1内の気体を排出し、減圧する。次に、ガス供給管8から不活性ガスまたは還元ガスを容器1内に供給する。これを繰り返すことにより、容器1内を不活性雰囲気または還元雰囲気とする。
【0023】
カルコゲナイドガラスを形成する場合には、加熱された原料6が酸素や水分と反応することを防ぐ必要がある。本実施形態においては、容器1内の空気を不活性ガスまたは還元ガスに置換するため、容器内から酸素や水分が除去される。よって、真空状態に保たれた、密閉された容器を用いずとも、カルコゲナイドガラスを好適に形成することができる。本実施形態においては、後述するように、形成されたガラスを配管4から容器1の外に流出させることができるため、形成されたガラスを取り出すために容器1を破壊する必要はなく、容器1を再利用することができる。
【0024】
ところで、図1(c)に示すように、容器1の側壁部3の少なくとも一部を囲むように、コイル10Aが配置されている。具体的には、容器1における原料6が配置される部分を囲むように、コイル10Aが配置されている。コイル10Aに電流を流すことにより、原料6を誘導加熱する。具体的には、コイル10Aに電流を流すことにより生じた誘導磁場により、誘導電流が生じる。原料6は金属を含み、金属は内部抵抗を有する。そのため、誘導電流が金属に流れることにより、原料6に含まれる金属が熱源となって、原料6全体が加熱される。この誘導加熱により、原料6を、図2(a)に示すように融液11とする。
【0025】
コイル10Aに電流を流すことによって誘導磁場及び誘導電流が生じることにより、融液11にローレンツ力が加わる。このローレンツ力により融液11を撹拌することができる。このように、本実施形態においては、スターラ等のような、融液11に直接的に部材を接触させて撹拌する手段を用いずして、融液11を撹拌することができる。もっとも、融液11の撹拌には、スターラ等を用いてもよい。
【0026】
上述したように、融液11の一部は、上記配管4内に流出する。配管4内の融液11は冷却され、固化物(固体のガラス)となる。これにより、栓12が形成される。よって、栓12を形成する分の少量の融液11は配管4内に流出するが、他の融液11の流出は栓12により止められる。もっとも、栓12の代わりに、蓋やプランジャ等を用いてもよい。
【0027】
図2(b)に示すように、上記外套管5の周囲にはコイル10Bが配置されている。コイル10Bに電流を流すことにより、外套管5が誘導加熱される。外套管5からの輻射熱により、配管4及び配管4内の栓12が加熱される。なお、栓12は固体のガラスであり、単体の金属及び合金を含まないため、誘導加熱されない。上記の加熱により栓12が融解し、融液11が容器1から流出する。
【0028】
なお、図1(a)~図1(c)、並びに図2(a)及び(b)に示した方法は一例であって、原料6を融解させる工程、及び融液11を流出させる工程における方法は、上記に限定されるものではない。
【0029】
図3(a)に示すように、流出させた融液11を、成形型13に流入させる。本実施形態においては、成形型13は外形が直方体状の容器である。成形型13は底面部14及び壁部15を有する。成形型13においては、底面部14と対向する側は開口している。成形型13内には、直方体状の仕切り部材16が配置されている。具体的には、仕切り部材16は、成形型13の底面部14及び壁部15に接触している。これにより、成形型13の底面部14及び壁部15、並びに仕切り部材16により囲まれた、流入部17が構成されている。なお、壁部15は対向部15aを含む。対向部15aは、流入部17を構成しており、かつ仕切り部材16と対向している部分である。
【0030】
はじめに、図3(a)に示すように、成形型13内における融液11が一定の厚み(すなわち、一定の液面高さ)になるまで、融液11を流入部17に流入させる。図3(a)においては、融液11の厚みは、壁部15の上端に至るまでの厚みとして模式的に示されているが、融液11の上記一定の厚みはこれに限定されるものではない。なお、本実施形態では、融液11を成形型13に流入させる工程、及び後述する融液11を冷却させる工程は、大気雰囲気下で行う。この場合、カルコゲナイドガラスの融液11においては、外気との接触時間が長くなるほど、表面に異質層11aが形成され易い。異質層11aは、酸化不純物及び/または失透物及び/または急冷されて固化したガラスから構成される。
【0031】
次に、図3(b)及び図3(c)に示すように、融液11の成形型13への流入を行いながら、成形型13を仕切り部材16に対して移動させる。これにより、流入部17の容積を大きくしながら、融液11を成形型13に流入させる。具体的には、成形型13の底面部14及び壁部15に仕切り部材16が接触している状態を維持しながら、成形型13をスライドさせる。壁部15における対向部15aが、仕切り部材16から離れる方向に、成形型13を移動させる。このとき、本実施形態においては、仕切り部材16及び上記配管4は移動させず、成形型13のみを移動させる。これにより、流入部17の開口面積が大きくなると共に、流入部17の容積が大きくなる。
【0032】
次に、図3(d)に示すように、成形型13内において融液11を冷却させることによって、ガラス18を形成する。本実施形態においては、角柱状のガラス18を得ることができる。ガラス18を研削、研磨、洗浄することにより、プリフォームガラスを作製することができる。また、プリフォームガラスに対しモールドプレス成形等を行うことにより、レンズ等の光学部材を作製することができる。なお、プリフォームガラスを作製せず、ガラス18からレンズ等の光学部材を直接作製してもよい。また、異質層11aは研削・研磨等により除去することができる。
【0033】
本実施形態の特徴は、成形型13を仕切り部材16に対して移動させ、流入部17の容積を大きくしながら、融液11を成形型13に流入させることにある。それによって、融液11の酸化を容易に抑制することができ、ガラス18の生産性を高めることができる。さらに、ガラス18の脈理を抑制することができる。これらの詳細を以下において説明する。
【0034】
従来の成形型に融液を流入させる場合には、融液の供給に伴って、配管と融液の液面との距離が徐々に短くはなるものの、外気と接触する時間が長い状態で融液が供給される。外気と長時間接しながら供給された融液は、異質部分を含むことになり、このような融液によって液面が常に置き換えられていくこととなる。そのため、成形型の開口面積に相当する面積において、新たに追加された異質部分を含む融液と以前に供給された融液とが常に混ざり合い、不均質な状態でガラス融液が堆積していく。
【0035】
これに対して、図3(b)及び図3(c)に示すように、本実施形態においては、成形型13内における融液11が一定の厚みになるまで、融液11を流入部17に流入させた後は、流入部17の容積を大きくしながら、融液11を成形型13に流入させる。ここで、成形型13内において融液11が一定の厚みになった際、融液11の液面には異質層11aが形成されている。よって、流入部17の容積を大きくしながら流入させた融液11は、外気と長時間接することなく、成形型13の底面部14と異質層11aとの間に流入する。なお、流入部17の開口面積が大きくなるに伴って、異質層11aの面積も大きくなる。これにより、成形型13をスライドさせても、流入部17は異質層11aにより覆われる。そのため、成形型13内に新たに導入された融液11は、異質層11aにより、外気と接することが抑制される。よって、融液11の酸化が抑制される。従って、生産性を高めることができる。
【0036】
また、本発明の方法によれば、融液11が外気に接する面積は最初から最大ではなく、成形型13を仕切り部材16に対して移動させることにより、徐々に大きくなっていく。そのため、融液11が外気に接する面積と時間との積算値を小さくすることができる。よって、不活性雰囲気とする工程を経なくとも、酸化を容易に抑制することができる。従って、生産性を高めることができる。
【0037】
以下において、本実施形態におけるガラスの脈理を抑制できる効果の詳細を説明する。
【0038】
図4(a)~図4(d)は、参考例のガラスの製造方法を示す模式的断面図である。参考例では、図4(a)に示すように、融液11を流入部17に流入させる。次に、図4(b)及び図4(c)に示すように、仕切り部材16を移動させ、流入部17の容積を大きくしながら、融液11を成形型13に流入させる。このとき、融液11は、成形型13における対向部15aに接している部分では、比較的冷却され易い。そうすると、図4(b)に示すように、最初に流入部17に流入した融液11が対向部15aに接している部分で冷却されて固化し、固化した後も、固化した部分付近に、高温の融液11が配管4から供給され続ける。そのため、固化した部分の一部が高温の融液11によって融解する。さらに、図4(b)中の破線の矢印に示されるように、固化した部分の一部が融解した液体が、供給された融液11に混合する。そのため、融液11が不均質となり易い。また、図4(d)に示すように、上記のような融液11が冷却され、ガラス18が形成されるため、脈理が生じ易くなる。
【0039】
これに対して、図3(a)~図3(d)に示す本実施形態においては、成形型13を移動させる。このとき、仕切り部材16付近の部分においては、底面部14と仕切り部材16の相対位置が変化するため、仕切り部材16付近の部分においては、直ちに融液11の固化は生じ難い。
【0040】
一方で、融液11は、成形型13における対向部15aに接している部分では、比較的固化し易い。ここで、本実施形態においては、対向部15aを、仕切り部材16及び配管4から離れるように移動させる。そのため、最初に流入部17に流入した融液11が冷却され、固化したときには、対向部15aが配管4から離れている。そのため、高温の融液11は、固化した部分に接触し難い。よって、参考例のような、固化した部分の一部の融解が生じ難くなり、融液11は不均質となり難い。従って、ガラス18の脈理を抑制することができる。
【0041】
融液11を成形型13に流入させる工程においては、融液11の厚みを一定に保つことが望ましい。これにより、配管4の先端と融液11の表面との距離を短く保つことができ、供給される融液11が外気と過剰に接触することを防止できる。それによって、融液11が酸化することを効果的に抑制することができる。
【0042】
融液11を成形型13に流入させる際、本実施形態のように、成形型13のみを移動させることが好ましい。言い換えると、融液11を成形型13に流入させる工程においては、仕切り部材16を移動させないことが好ましい。それによって、融液11の厚みを一定に保ちやすくなる。そうすると、配管4付近の融液11の固化をより確実に抑制することができ、固化した部分が融解することを、より確実に抑制することができる。従って、ガラス18の脈理をより確実に抑制することができる。
【0043】
なお、融液11の成形型13への流入を、成形型13の底面部14を配管4に近づけた状態から開始し、成形型13を配管4から遠ざけるように移動させながら、融液11を成形型13に流入させ、成形型13内において、融液11が一定の厚みになった後、上記のように成形型13をスライドさせながら、融液11を成形型13に流入させてもよい。これにより、融液11が外気に接することをより一層抑制することができる。これは、流入部17の厚みが厚い場合に特に好適である。
【0044】
本実施形態の原料6は、以下の組成のガラス18となるように、含有する材料の比が調整されている。ガラス18の組成の説明において、「%」は「モル%」を意味する。なお、例えば、A、B及びCの含有量の合計を「A+B+Cの含有量」または「A+B+C」と記載することがある。
【0045】
本実施形態の方法により形成されるガラス18は、ガラス組成として、モル比で、Ge 0%超~50%、Ga 0%超~50%、Te 30%~90%、Ag+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Zn+Mn 0%超~40%、及びF+Cl+Br+I 0%~50%を含有する。
【0046】
Geはガラス骨格を形成するための成分である。また、Geは半金属元素である。Geの含有量は、0%超~50%であり、2%~40%であることが好ましく、4%~35%であることがより好ましく、5%~30%であることがさらに好ましく、7%~25%であることがより一層好ましく、10%~20%であることがさらにより一層好ましい。Geの含有量が少なすぎると、ガラス化し難くなる。一方、Geの含有量が多すぎると、Ge系結晶が析出し易くなると共に、原料コストが高くなる傾向がある。
【0047】
Gaはガラスの熱的安定性(ガラス化の安定性)を高めるための成分である。また、Gaは金属元素である。Gaの含有量は、0%超~50%であり、1%~45%であることが好ましく、2%~40%であることがより好ましく、4%~30%であることがさらに好ましく、5%~25%であることがより一層好ましく、10%~20%であることがさらにより一層好ましい。Gaの含有量が少なすぎると、ガラス化し難くなる。一方、Gaの含有量が多すぎると、Ga系結晶が析出し易くなると共に、原料コストが高くなる傾向がある。
【0048】
カルコゲン元素であるTeはガラス骨格を必須形成する成分である。また、Teは半金属元素である。Teの含有量は、30%~90%であり、40%~89%であることが好ましく、50%~88%であることがより好く、60%~86%であることがさらに好ましく、70%~85%であることがより一層好ましい。Teの含有量が少なすぎると、ガラス化し難くなる。一方、Teの含有量が多すぎるとTe系結晶が析出し易くなる。
【0049】
Ag+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Zn+Mnは、金属元素である。ガラスが上記金属元素を含むことにより、熱的安定性を高めることができる。Ag+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Zn+Mnの含有量は、0%~40%であり、0%超~30%であることが好ましく、0%超~20%であることがより好ましく、0.1%~10%であることがさらに好ましい。Ag+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Zn+Mnの含有量が少なすぎると、あるいは多すぎると、ガラス化し難くなる。なお、Ag+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Zn+Mnの各成分の含有量は、各々0%~40%であり、0%~30%(少なくとも1種は0%超)であることが好ましく、0%~20%(少なくとも1種は0%超)であることがより好ましく、0.1%~10%であることがさらに好ましい。中でも、ガラスの熱的安定性を高める効果が特に大きいという点で、Ag及び/又はSnを使用することが好ましい。
【0050】
本実施形態において形成するガラスには、上記成分以外にも、例えば下記の成分を含有させることができる。
【0051】
F、Cl、Br、Iもガラスの熱的安定性を高める成分である。F+Cl+Br+Iの含有量は0%~50%であり、1%~40%であることが好ましく、1%~30%であることがより好ましく、1%~25%であることがさらに好ましく、1%~20%であることが特に好ましい。F+Cl+Br+Iの含有量が多すぎると、ガラス化し難くなると共に、耐候性が低下し易くなる。なお、F、Cl、Br、Iの各成分の含有量は、各々0%~50%であり、1%~40%であることが好ましく、1%~30%であることがより好ましく、1%~25%であることがさらに好ましく、1%~20%であることが特に好ましい。中でも、元素原料を使用可能であり、ガラス安定性を高める効果が特に大きいという点で、Iを使用することが好ましい。
【0052】
Si、Sb、Csを含むことにより、熱的安定性を高めることができる。ここで、Si及びSbは半金属である。Si+Sb+Csは、0%~40%であることが好ましく、0%~30%であることがより好ましく、0%~20%であることがさらに好ましく、0.1%~10%であることがより一層好ましい。
【0053】
Sはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱的安定性を高めやすい成分である。その含有量は0%~30%であることが好ましく、0%~20%であることがより好ましく、0~10%であることがさらに好ましく、0~3%であることが特に好ましい。Sの含有量が多すぎると、波長10μm以上の赤外線の透過性が低下しやすくなる。
【0054】
Se、Asはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱的安定性を高める成分である。その含有量はそれぞれ0%~10%であることが好ましく、0.5%~5%であることがより好ましい。ただし、これらの物質は毒性を有するため、上記のように、環境や人体への影響を低減する観点からは実質的に含有しないことが好ましい。
【0055】
なお、上記ガラスは、有毒物質であるCd、Tl及びPbを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、含有量が0.1%以下であることをいう。
【0056】
原料6に占める金属の割合は、体積%で80%以上、85%以上、特に90%以上であることが好ましい。このようにすれば、誘導加熱により原料6を容易に融解させることができる。よって、輻射による加熱よりも、昇温または降温を容易に高速に行うことができ、生産性を高めることができる。上限は特に限定されないが、例えば100%、99%、特に98%以下とすることができる。
【0057】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係るガラスの製造方法において用いられる成形型の模式的斜視図である。本実施形態は、成形型23の外形が半円柱状である点において第1の実施形態と異なる。本実施形態においても、第1の実施形態と同様にガラスを形成する。
【0058】
成形型23は壁部25を有する。壁部25は、半円柱状の形状における曲面状の面の部分と、半円状の一対の面の部分とを含む。成形型23内には、半円柱状の仕切り部材26が配置されている。仕切り部材26は、成形型23の壁部25に接触している。壁部25における、半円状の一対の面のうち一方の面に相当する部分が、対向部25aである。成形型23を、ガイドレールや適宜の支持体等により支持してもよい。なお、成形型の形状は、第1の実施形態及び本実施形態における形状には限定されない。
【0059】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、融液11の酸化を容易に抑制することができ、ガラスの生産性を高めことができる。さらに、ガラスの脈理を抑制することもできる。本実施形態によれば、半円状の底面を有する柱状ガラスを得ることができる。当該ガラスを研削、研磨、洗浄することによっても、プリフォームガラスを作製することができる。また、プリフォームガラスに対しモールドプレス成形等を行うことにより、レンズ等の光学部材を作製することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態に係るガラスの製造方法において用いられる成形型の模式的斜視図である。本実施形態は、成形型33の外形が略円柱状である点において第1の実施形態と異なる。本実施形態においても、第1の実施形態と同様にガラスを形成する。
【0061】
成形型33は壁部35を有する。壁部35は、略円柱状の形状における曲面状の面の部分と、略円状の一対の面の部分とを含む。成形型33内には、略円柱状の仕切り部材36が配置されている。仕切り部材36は、成形型33の壁部35に接触している。壁部35における、略円状の一対の面のうち一方の面に相当する部分が、対向部35aである。成形型33を、ガイドレールや適宜の支持体等により支持してもよい。なお、成形型の形状は、第1の実施形態及び本実施形態における形状には限定されない。
【0062】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、融液11の酸化を容易に抑制することができ、ガラスの生産性を高めことができる。さらに、ガラスの脈理を抑制することもできる。本実施形態によれば、略円柱状のガラスを得ることができる。当該ガラスを研削、研磨、洗浄することによっても、プリフォームガラスを作製することができる。また、プリフォームガラスに対しモールドプレス成形等を行うことにより、レンズ等の光学部材を作製することができる。レンズ等の光学部材は平面形状が円形である場合が多いため、本実施形態に従い略円柱状のガラスを形成すれば、レンズを作製するために必要な加工を少なくでき、歩留まりを向上させることができる。
【符号の説明】
【0063】
1…容器
2…底部
3…側壁部
4…配管
5…外套管
6…原料
7…蓋
8…ガス供給管
9…ガス排出管
10A…コイル
10B…コイル
11…融液
11a…異質層
12…栓
13…成形型
14…底面部
15…壁部
15a…対向部
16…仕切り部材
17…流入部
18…ガラス
23…成形型
25…壁部
25a…対向部
26…仕切り部材
33…成形型
35…壁部
35a…対向部
36…仕切り部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6