(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ローラー、媒体搬送装置、液体吐出装置及びローラーの製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 5/06 20060101AFI20241126BHJP
B41J 13/076 20060101ALI20241126BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B65H5/06 D
B41J13/076
F16C13/00 Z
(21)【出願番号】P 2020196412
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田村 与作
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0120632(US,A1)
【文献】特開2017-159997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259592(US,A1)
【文献】特開2005-104613(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0068401(US,A1)
【文献】特開平03-193452(JP,A)
【文献】米国特許第05291224(US,A)
【文献】特開2012-158463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/06
B41J 13/076
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体の搬送に用いられるローラーであって、
複数の歯を周面に有するホイールと、
以下の条件1と条件2とを満たすn個(但し、nは2以上の自然数)のホイールを軸方向に積層して保持するホルダーと、を備えることを特徴とするローラー。
<条件1>
前記ローラーの歯ピッチPr、前記ホイールの歯ピッチPtとすると、
Pr=Pt/nを満たす。
<条件2>
前記複数の歯のうちの1つの歯を基準歯とし、n個の前記ホイールのうちの1つのホイールを基準ホイールとし、
前記ホイールの回転軸方向から見た場合に、前記基準ホイールの前記基準歯に対して、周方向
のうち一方向の第1周方向において
1~(n-1)のそれぞれとずらし量Tcとの積だけ回転する角度にそれぞれ基準歯を持つホイールを順に、2~n個目のホイールとした場合に、
1~n個
目の前記ホイール
のうち、前記基準ホイールの前記基準歯に対して、前記第1周方向に
おいてn個目のホイールの前記基準歯まで累積した前記ずらし量Tcの合計値
Tc*(n-1)の最小値は、180度よりも大きい。
【請求項2】
前記ホイールの周方向に隣り合う2つの歯間の間隔は、前記軸方向に隣り合う2つの前記ホイール間の間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のローラー。
【請求項3】
前記ホイールの周方向に隣り合う2つの歯間の間隔は、前記軸方向に隣り合う2つのホイール間で最短の2つの歯間の間隔よりも狭いことを特徴とする請求項1または2に記載のローラー。
【請求項4】
前記基準ホイールの前記基準歯に対して、前記第1周方向に
おいてn個目のホイールの前記基準歯
まで累積した前記ずらし量Tcの合計値Tc*
(n
-1)が、360
度よりも大きいことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のローラー。
【請求項5】
前記ずらし量Tcは、以下で示される
Tc=N*Pt+M*Pr
但し、N
とMとを自然数として、N*Pt≧360/nであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のローラー。
【請求項6】
前記ずらし量Tcは、以下で示される
Tc=N*Pt+M*Pr
但し、NとMは自然数、Mとnは互いに素であり、
Nとnとが互いに素で、N*Pt≧360/nであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のローラー。
【請求項7】
前記ホイールは、それぞれ複数個のタイバーカット部を有し、
前記ローラーの周方向に隣り合う2つの前記タイバーカット部がなす角度は、全て、前記ホイールの歯ピッチPtよりも大きいことを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載のローラー。
【請求項8】
前記ホルダーは、n個の前記ホイールを個々に保持するn個の保持部を有し、当該保持部は前記ホイールが積層されたときの軸方向の厚さが前記ホイールの軸方向の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載のローラー。
【請求項9】
請求項
8に記載のローラーと、
前記ローラーとの間で媒体を挟む第2ローラーと、
前記ローラーを回転させる駆動源と、
を備え、
n個の前記保持部のうち軸方向において最も一方側の保持部であって、前記ホイールが一方側に並べられない保持部に対して、前記第2ローラーは、一方側に延在することを特徴とする媒体搬送装置。
【請求項10】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
請求項1~
8のいずれか一項に記載の前記ローラーとを備え、
前記ローラーは、前記液体吐出ヘッドにより液体が吐出された媒体を搬送することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項11】
合成樹脂製のホルダーがアウトサート成形により一体に形成された金属製のホイールをn個(但し、nは2以上の自然数)準備する準備工程と、
n個のホイールを周方向に位相をずらしつつ積層する積層工程と
を含み、
前記積層工程では、請求項1に記載の前記条件1および前記条件2を満たすように、n個の前記ホイールが積層されることを特徴とするローラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等の媒体を搬送するローラー、媒体搬送装置、液体吐出装置及びローラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の印刷装置として、搬送ローラーにより搬送されている用紙等の媒体に対してインク等の液体を吐出することにより媒体に印刷を行うインクジェット式プリンターが知られている。このようなプリンターには、印刷が行われた媒体を挟持して搬送する歯付ローラーが設けられたものもある(例えば特許文献1参照)。特許文献1の歯付ローラーは、複数の歯先形状を有する円形状の金属シートよりなるホイールと、そのホイールを回転可能に支持しているホルダーとからなり、駆動軸(回転軸の一例)に対して媒体の搬送方向と交差する媒体の幅方向において間隔を空けて複数個設けられている。このように構成された搬送ローラーは、ホイールの歯先が媒体に接触して媒体を搬送することにより媒体と歯付ローラーとの接触面積を小さくして媒体からインクが転写することを抑制している。
【0003】
特許文献1の歯付ローラーを構成するホイールは、プレス加工により形成された金属シートであるため、母材と金属シートとを連結するタイバー部を切り離すことにより、金属シートが形成される。このため、金属シートよりなるホイールの外周には、歯先形状の他にタイバーカット部が形成される。このタイバーカット部は、その形状が歯先形状とは異なり、且つ歯先よりもホイールの径方向内側に形成される。このため、金属シートの歯数が多くなると、タイバーカット部が形成された部分には歯が形成できず、ホイールの歯先形状を円周に結んで形成される仮想円が真円から離れた形状となる。そして、歯付ローラーを軸方向(媒体の幅方向)から見たときに、その軸方向において隣り合うホイール同士のタイバーカット部が重なっていたり、歯付ローラーの周方向において偏在したりしていると、歯付ローラーの形状が真円から離れた形状となる。その結果、歯付ローラーにより搬送される媒体の搬送精度が低下する場合がある。
【0004】
このため、特許文献1では、複数のホイールを別部材のホルダーを介して軸方向に積み重ねる状態に嵌め合わせるときに周方向にずらすことで、軸方向から見たときのタイバーカット部の周方向の偏在を防いでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の歯付ローラーは、軸方向から見たときにタイバーカット部が周方向において偏在していないが、ホルダーの周方向における厚みのばらつきが原因で厚みの大きい部分が積み重ねられていると、周方向における他の部分との厚み差が累積される。この場合、歯付ローラーの周方向における厚みのばらつきが大きくなる。そのため、歯付ローラーを駆動軸(回転軸の一例)に組み付けたときに軸方向に対して傾いてしまい、これが原因で、歯付ローラーが搬送する媒体が斜行するスキューが発生し易くなるという課題がある。
【0007】
なお、このような課題は、特許文献1のような歯付ローラーに限らず、例えば、プレス加工以外のエッチング加工など他の加工方法により形成され、タイバーカット部が設けられていないホイールであっても、ホイールを保持するホルダーを軸方向に積み重ねた構成のローラーであれば同様に生じるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するローラーは、媒体の搬送に用いられるローラーであって、複数の歯を周面に有するホイールと、以下の条件1と条件2とを満たすn個(但し、nは2以上の自然数)のホイールを軸方向に積層して保持するホルダーと、を備えることを特徴とするローラーである。
【0009】
<条件1>
前記ローラーの歯ピッチPr、前記ホイールの歯ピッチPtとすると、Pr=Pt/nを満たす。
【0010】
<条件2>
前記複数の歯のうちの1つの歯を基準歯とし、n個の前記ホイールのうちの1つのホイールを基準ホイールとし、前記ホイールの回転軸方向から見た場合に、前記基準ホイールの前記基準歯に対して、周方向において最も近い基準歯をもつホイールを2個目のホイールとし、前記基準ホイールに対する2個目のホイールと同じ向きにおいて、当該基準ホイールの基準歯に対して、近い基準歯を持つホイールを順に、2~n個目のホイールとした場合に、1~n個の前記ホイールにおいて、周方向に隣り合う基準歯がなす角度の合計値の最小値は、180度よりも大きい。
【0011】
上記課題を解決する媒体搬送装置は、上記ローラーと、前記ローラーとの間で媒体を挟む第2ローラーと、前記ローラーを回転させる駆動源と、を備え、n個の前記保持部のうち軸方向において最も一方側の保持部であって、前記ホイールが一方側に並べられない保持部に対して、前記第2ローラーは、一方側に延在する。
【0012】
上記課題を解決する液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、上記ローラーとを備え、前記ローラーは、前記液体吐出ヘッドにより液体が吐出された媒体を搬送する。
【0013】
上記課題を解決するローラーの製造方法において、合成樹脂製のホルダーがアウトサート成形により一体に形成された金属製のホイールをn個(但し、nは2以上の自然数)準備する準備工程と、n個のホイールを周方向に位相をずらしつつ積層する積層工程とを含み、前記積層工程では、上記条件1および上記条件2を満たすように、n個の前記ホイールが積層される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における印刷装置を示す模式正断面図。
【
図3】搬送駆動ローラーを構成する歯付ローラーを示す斜視図。
【
図5】歯付ローラーを軸方向から見たときの側面図。
【
図6】ホイールとホルダーとを含んで構成される歯付ローラーの分解斜視図。
【
図12】基準歯の位置を示す歯付ローラーの正面図。
【
図13】
図5に示すホイール部材の外周縁の一部を拡大した拡大図。
【
図14】
図4に示す歯付ローラーの一部を示す正面図。
【
図15】歯付ローラーと従動ローラーとの位置関係を示す正面図。
【
図16】ローラーの製造方法を示すフローチャート。
【
図17】第2実施形態における隣合う2個のホイール部材を示す斜視図。
【
図18】基準歯の位置を示す歯付ローラーの正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、液体吐出装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の印刷装置は、媒体の一例としての用紙に、液体の一例としてのインクを吐出することで、用紙に文字や画像を形成するインクジェット式プリンターである。
【0016】
図1に示すように、液体吐出装置の一例としての印刷装置1は、記録用紙に代表される媒体Pに対し、液体の一例であるインクを吐出することで記録を行うインクジェット方式の装置として構成されている。なお、各図において示すX-Y-Z座標系は直交座標系である。
【0017】
X方向は、媒体の搬送方向と交差する媒体の幅方向及び装置奥行き方向であり、一例として、水平方向となっている。また、X方向は、後述するA方向及びB方向の両方と交差する装置奥行方向の一例である。X方向の奥に向かう方向を+X方向、手前に向かう方向を-X方向と称する。
【0018】
Y方向は装置幅方向であり、一例として、水平方向となっている。印刷装置1の操作者から見てY方向の左に向かう方向を+Y方向、右に向かう方向を-Y方向と称する。Z方向は、装置高さ方向であり、一例として、鉛直方向となっている。Z方向の上に向かう方向を+Z方向、下に向かう方向を-Z方向と称する。
【0019】
印刷装置1において、媒体Pは、
図1に破線で示す搬送経路Tを通って搬送される。印刷装置1は、ヘッドユニット20を備え、ヘッドユニット20は、液体を吐出する液体吐出ヘッド20Hを備える。Y-Z面に示されるA-B座標系は、直交座標系である。A方向は、搬送経路Tのうち液体吐出ヘッド20Hと対向する領域における媒体Pの搬送方向である。液体吐出ヘッド20Hは、例えば、媒体Pの幅方向Xの全域に液体を吐出可能なラインヘッドである。A方向の上流に向かう方向を-A方向、下流に向かう方向を+A方向と称する。このように、本実施形態の印刷装置1における媒体Pの搬送方向Aは、水平方向および鉛直方向の両方向と交差する傾斜した方向である。
【0020】
ヘッドユニット20が搬送ベルト装置10に対し進退する移動方向がB方向である。B方向において、液体吐出ヘッド20Hが搬送経路Tに近づく方向を+B方向、搬送経路Tから離れる方向を-B方向と称する。B方向は、A方向と直交する傾いた方向である。
【0021】
印刷装置1は、直方体状の筐体2を有する。筐体2のZ方向中央よりも上方には、記録後の媒体Pが排出される排出部3が形成されている。また、筐体2には、複数のカセット4が着脱可能に設けられている。複数のカセット4には、媒体Pが収容されている。各カセット4に収容された媒体Pは、ピックローラー6及び搬送ローラー対7、8によって、搬送経路Tに沿って搬送される。搬送経路Tには、外部装置から媒体Pが搬送される搬送路T1と、筐体2に設けられた手差トレイ9から媒体Pが搬送される搬送路T2とが合流している。
【0022】
また、搬送経路Tには、搬送ベルト装置10と、媒体Pを搬送する複数の搬送ローラー対11と、媒体Pが搬送される経路を切り替える複数のフラップ12と、媒体PのX方向の幅を検出する媒体幅センサー13とが配置されている。複数の搬送ローラー対11のうち記録位置よりも搬送方向Aの上流側かつ搬送経路Tに沿う経路で一番近くに位置する搬送ローラー対11は、歯付ローラーである。なお、記録位置は、搬送経路Tのうち、液体吐出ヘッド20Hと対向する位置である。この搬送ローラー対11を特に他のものと区別するために符号「60」を付し、以下、搬送ローラー対60という。この搬送ローラー対60は、ローラーの一例としての駆動ローラー70と従動ローラー80とを備える。
【0023】
搬送経路Tは、媒体幅センサー13と対向する領域において湾曲されており、媒体幅センサー13から斜め上方、すなわちA方向に延びている。搬送経路Tにおける搬送ベルト装置10よりも下流には、排出部3に向かう搬送路T3及び搬送路T4と、媒体Pの表裏を反転させる反転路T5とが設けられている。排出部3には、搬送路T4に合わせて、不図示の排出トレイが設けられている。
【0024】
印刷装置1はヘッドユニット20を昇降方向に移動させる昇降機構(図示略)を有する。ここで、B方向は、ヘッドユニット20を変位させる方向である。また、筐体2内には、インク等の液体を収容する液体収容部23と、インクの廃液を貯留する廃液貯留部16と、印刷装置1の各部の動作を制御する制御部26とが設けられている。液体収容部23は、不図示のチューブを介して液体吐出ヘッド20Hへインクを供給する。液体吐出ヘッド20Hは、供給されたインク等の液体をノズル(図示略)から搬送経路Tを搬送される媒体Pに向かって吐出する。
【0025】
図1に示すように、印刷装置1は、液体吐出ヘッド20Hをメンテナンスするメンテナンス装置50を備える。メンテナンス装置50は、キャップを有するキャップユニット(図示略)を備える。制御部26は、メンテナンス時期になると、ヘッドユニット20を-B方向に退避させるとともに、メンテナンス装置50を
図1に示す退避位置から液体吐出ヘッド20Hと対向するメンテナンス位置へ移動させ、液体吐出ヘッド20Hのノズルに対するクリーニングを行わせる。
【0026】
図1に示すように、排出部3はその底部を構成する排出トレイ21を備える。排出トレイ21は、板状に形成された部材であり、排出された媒体Pが載置される載置面21Aを有する。また、排出トレイ21は、媒体Pの搬送経路Tにおける搬送ベルト装置10よりも下流で且つZ方向におけるヘッドユニット20に対する+Z方向に設けられている。具体的には、排出トレイ21は、媒体Pの搬送方向において、排出トレイ21の下流端部が上流端部よりも+Z方向に位置する斜めに傾斜する姿勢で配置されている。載置面21Aは、媒体Pの排出方向に沿って斜め上に向かう傾斜を有している。なお、
図1では、印刷装置1の各構成部を簡略化して示している。
【0027】
制御部26は、印刷装置1における媒体Pの搬送や、ヘッドユニット20による媒体Pへの情報の記録動作を制御する。すなわち、制御部26は、搬送ローラー対11及び搬送ベルト装置10の各駆動源を制御するとともに、液体吐出ヘッド20Hを制御する。
【0028】
図2に示すように、搬送ローラー対60は、ローラーの一例としての駆動ローラー70と、駆動ローラー70の回転に伴い従動回転する従動ローラー80とを含んで構成されている。駆動ローラー70及び従動ローラー80は、B方向に並べて配置されている。駆動ローラー70は、電動モーター等の駆動源62から供給される動力により駆動回転可能である。従動ローラー80は、搬送経路T(
図1参照)を挟んで駆動ローラー70と対向する位置に配置されている。本実施形態では、搬送ローラー対60及び駆動源62により、媒体Pを液体吐出ヘッド20Hの記録領域に向かって搬送する媒体搬送装置61が構成される。駆動ローラー70は、従動ローラー80と共に液体吐出ヘッド20Hにより液体が吐出された媒体Pを搬送する。
【0029】
図2に示すように、駆動ローラー70は、幅方向Xに延びる回転軸の一例としての駆動軸71と、この駆動軸71に挿通される複数の歯付ローラー72とを含んで構成されている。
図2に示す例では、例えば、10個の歯付ローラー72が駆動軸71に挿通されている。各歯付ローラー72は、駆動軸71が延びる方向である幅方向Xにおいて間隔を空けて並べられた状態で駆動軸71に固定され、駆動軸71と一体回転可能に設けられている。
【0030】
従動ローラー80は、幅方向Xに延びる従動軸81と、この従動軸81に挿通される複数のローラー82とを含んで構成されている。
図2に示す例では、例えば、ローラー82は、歯付ローラー72と同数の10個設けられている。ローラー82は、B方向において歯付ローラー72と対向する位置に配置され、従動軸81に対して回転可能に支持されている。ローラー82は、その周面が凹凸のない一様な円周面となるように設けられ、搬送される媒体P(
図1参照)に対して従動回転しつつ面接触可能な構成となる。また従動ローラー80は、従動軸81においてローラー82が配置される位置とは異なる複数箇所(本実施形態では6箇所)に、鉛直上向きに延びる例えばコイルばねなどの付勢部材83を備える。付勢部材83は、従動軸81を下方に向けて押すことにより、従動ローラー80を駆動ローラー70に向けて付勢している。
【0031】
図3~
図5に示すように、歯付ローラー72は、媒体P(
図1参照)と接触可能なホイール73(本実施形態では10枚)と、ホイール73を保持するホルダー74(本実施形態では10個)とが一体に成形されたリング板状のホイール部材75が、幅方向Xにおいて複数枚積層されるように組み付けられてなる。ホイール部材75は、ホイール73とホルダー74とのアウトサート成形により製造されている。ホルダー74はホイール73よりも外径寸法が小さくかつホイール73よりも板厚が大きい。ホイール73は、ホルダー74の厚み方向のほぼ幅中心位置にその外周縁部を、ホルダー74の外周端部から径方向外側に突出させた状態でその外周縁部以外のリング状の部分がホルダー74に埋設されている。ホルダー74の外周端部から径方向の外側に突出するホイール73の周縁部には、ホイール73の歯73aが周方向にほぼ一定のピッチで径方向の外側に突出している。
【0032】
これにより、歯付ローラー72は、複数のホイール73がホイール73の側面と直交する軸方向AX(本実施形態では幅方向Xと同じ方向)に間隔を空けて並べられた状態で複数のホルダー74に保持されていることにより構成されている。本実施形態では、軸方向AXの-AX側(幅方向Xの-X側と同じ側)の端部に位置するホルダー部材76以外の10個のホルダー74は、それぞれにホイール73と一体成形されている。ホルダー74はホイール73の軸方向AXの両側面から所定厚さだけ略リング板状に膨出している。
【0033】
このため、複数のホイール73は、幅方向Xに所定の間隔(ホイールピッチ)で保持されている。軸方向AXの+AX側(幅方向Xの+X側と同じ側)の端部に位置するホルダー部材76には、駆動軸71が挿通される貫通孔76aと、貫通孔76aの軸線と交差する径方向に延びるキー溝76bとが形成されている。ホルダー部材76には、駆動軸71(
図3参照)に対してその軸方向と直交する方向に貫通する止め棒77が取り付けられている。また-AX側の端部に位置するホイール部材75のホルダー74には、その-AX側の面に接触するように止め輪78が駆動軸71に取り付けられている。これにより、駆動軸71の軸方向(軸方向AX)において歯付ローラー72が止め棒77と止め輪78とにより挟み込まれることにより、歯付ローラー72が駆動軸71に対して軸方向AXに移動することが制限される。加えて、歯付ローラー72は、駆動軸71に対して一体回転可能に固定されている。
【0034】
複数のホイール73(
図6参照)は、例えばステンレス鋼板により形成された母材となるフープ材(図示略)から打ち抜き加工(プレス加工)により形成されている。具体的には、フープ材に複数個のホイール成型品が打ち抜き加工(プレス加工)により形成される。ホイール成型品は、3個のタイバー部によりフープ材に支持されている。本実施形態では、ホイール成形品が形成されたフープ材に対してアウトサート成形によって、ホイール成形品のうちのホイール73の外周縁を除く部分に合成樹脂製のホルダー74を一体成形する。アウトサート成形品において、ホイール部材成型品(図示略)はその周方向に等間隔(120°間隔)の位置でタイバー部を介してフープ材とを連結している。これらタイバー部をプレス機により切り離すことにより、
図7~
図10に示すホイール部材75が形成される。
【0035】
図7及び
図8に示すように、ホイール部材75を構成するホイール73の外周には径方向外側に突出する歯73aがホイール73の全周に亘って連続的に設けられている。ホイール73の外周には、タイバー部(図示略)の切り離し痕となるタイバーカット部73bが設けられている。タイバーカット部73bは、タイバー部と同様に、ホイール73の周方向において等間隔すなわち120°間隔で3個設けられている。
図9、
図13に示すように、ホイール73の周方向における歯73aとその歯73aと隣り合う歯73aとの距離である歯ピッチPtと、タイバーカット部73bとそのタイバーカット部73bと隣り合う歯73aとの距離であるピッチPcとは概ね等しい。このため、ホイール73の外周においてタイバーカット部73bが設けられる箇所には、歯73aが形成されていない。また、タイバーカット部73bの先端は、歯73aの先端よりも径方向内側に位置している。
【0036】
図7~
図11に示すように、ホルダー74には、軸方向AXに貫通する孔74aが形成されている。ホルダー74において-AX側の面である第1面と+AX側の面である第2面との両面には、ホイール73の外径よりも小さい外径を有する円環状の保持部74bが軸方向AXの両側に向けて一定の厚さで突出している。そして、保持部74bには、孔74aにより貫通されている。第1面側(-AX側)の保持部74bには、その内周面からホルダー74の径方向外側に向けて凹む係合穴74cが複数(本実施形態では2個)形成されている。
【0037】
図11に示すように、ホイール部材75におけるホルダー74の第1面側(-AX側)の保持部74bには、軸方向AXに隣り合うホイール部材75のホルダー74の係合穴74cに対応するように複数の係合突起74e(本実施形態では2個の係合突起74e)が孔74aの外周縁に相当する位置から径方向外側に向けて突出している。10個のホルダー74のそれぞれについて、係合穴74cの周方向の位置と、係合突起74eの周方向の位置とは互いに異なっている。なお、ホイール部材75の孔74aの内周面にはホイール73の内周縁である係合片73cが、孔74aの内周面に沿って延出している。ホイール部材75の孔74aに駆動軸71が挿通された状態では、係合片73cが駆動軸71の外周面と係合する。
【0038】
図11に示すように、ホルダー74は、軸方向AXに隣り合うホルダー74に組み付けられる。具体的には、
図11における左側のホイール部材75の+AX側のホルダー74の係合穴74cに、隣合うホイール部材75の-AX側のホルダー74の係合突起74eが係合される。これにより、ホイール73は、軸方向AXに隣り合うホルダー74により挟み込まれる。
【0039】
このように複数のホイール部材75が軸方向AXに重ね合わせられてなる歯付ローラー72は、その周面に設けられた歯73aの先端が媒体Pに対して接触することで媒体Pを搬送する。すなわち、歯付ローラー72の歯73aは、媒体Pに対して点接触可能な凸部として機能する。
【0040】
また
図13に示すように、歯付ローラー72では、歯付ローラー72を軸方向AXから見たとき、歯付ローラー72の周面においてそれぞれの歯73aが完全に重ならないように歯73aの位置がずれて設けられている。すなわち、歯付ローラー72の周面に設けられる全ての歯73aが、歯付ローラー72を軸方向AXから見たときに視認可能となるように配置されている。本実施形態では、歯付ローラー72を軸方向AXから見たときに歯付ローラー72における歯73aと歯73aとの周方向の間隔が周方向において等間隔となるように配置されている。すなわち、ホイール73の個数をn個とすると、ホイール73の周方向に隣り合う歯73aと歯73aとの距離である歯ピッチPtをn等分するように、その他の(n-1)個のホイール73の歯73aが配置されている。
【0041】
本実施形態では、n個のホイール部材75を軸方向AXに積層するとともに隣同士のホイール部材75の組付位置を回転方向にずらしながら組み付けるため、ホイール73の周方向の歯73aと歯73aのピッチPtよりも、ホイール部材75の周方向の歯73aと歯73aのピッチを1/nに狭くすることが可能である。このため、歯付ローラー72を有する駆動ローラー70の製造方法として加工費が高く生産性の低いエッチング加工を行わなくても、コストパフォーマンスが良く生産性も高いプレス加工によって同様の機能を満たすことが可能になる。但し、現状のプレス加工限界としては歯先と歯先の間隔が1mm程度必要となる。そのため、例えば、歯ピッチ3.6°を構成するためにはローラー外径が33mm程度必要となる。従来のローラー外径が20mm程度であるため、ローラー外径が大きくなると、印刷装置1の製品サイズが大型化する。
【0042】
そこで、ローラー外径は約20mmを維持しつつ、1ローラー当たりの歯ピッチPr=0.6°を実現するためにはホイール73を重ねる個数を増やしている。外径20mmのホイール73では歯ピッチPt=6°となるため、1ローラー当たりのホイール73を10個(n=10)重ねることで、1ローラー当たりの歯ピッチPrは0.6°となる(
図13参照)。
【0043】
ここで、ホイール73の積層個数を増やすと、歯付ローラー72の軸方向AXの厚みが増し、ホイール73の1個当たりの厚みばらつきが累積される。この場合、歯付ローラー72の周方向における厚み差(厚みばらつき)が大きくなる。厚み差が大きいと歯付ローラー72が駆動軸71に対して傾いて組み付けられる場合があり、これは、媒体Pに傷の発生や目標搬送精度を確保できなくなる原因になる。また、ホイール73の積層体を止め棒77と止め輪78とを用い挟み込むことで1つの歯付ローラー72を形成するが、歯付ローラー72の傾きはその組付不良を発生させる原因になる。
【0044】
そのため、本実施形態では、合成樹脂製のホルダー74をアウトサート成形でホイール73に一体に形成することで、ホイール部材75のホルダー74を薄肉に形成する。これにより、軸方向AXに隣合う2つのホイール73間のホイールピッチPwは必要な寸法を確保しつつ、歯付ローラー72の軸方向AXの厚みを、極力厚くならないようにしている。しかし、アウトサート成形では、ホルダー74を薄肉に成形できるものの、ホイール部材75におけるゲート部に相当するタイバーカット部73bの付近が厚くなる傾向がある。つまり、ホイール部材75の周方向の厚みばらつきは、特に樹脂成形時のゲート部付近が厚くなり易いことが原因で発生する。但し、全てのタイバーカット部73bの付近で厚みが厚くなるとは限らず、フープ材におけるホイール成形品の位置などにも影響する。つまり、複数のタイバーカット部73bのうちのどれが厚みに影響を与えるかは特定できない。このホイール部材75の周方向の厚みばらつきを考慮することなく、ホイール部材75がその厚い部分が周方向に偏在する状態で積層されると、歯付ローラー72におけるその偏在箇所で厚みが他の箇所よりも厚くなり、前述の問題を引き起こす可能性がある。そのため、本実施形態の歯付ローラー72は、以下に示す条件を満たすように製造される。
【0045】
本実施形態の歯付ローラー72は、複数の歯73aを周面に有するホイール73と、以下の条件1と条件2とを満たすn(nは2以上の整数)個のホイール73を軸方向に積層して保持するホルダー74とを備える。
【0046】
<条件1>
条件1は、歯ピッチPtのホイール73で、歯ピッチPtよりも狭い歯ピッチの歯付ローラー72を実現するための条件である。歯付ローラー72の歯ピッチPrは、ホイール73の歯ピッチPtとすると、条件1は、次式で与えられる。
【0047】
Pr=Pt/n…(1)
<条件2>
条件2は、以下の(a),(b)を満たすことである。
【0048】
(a)ホイール73の複数の歯73aのうちの1つの歯73aを基準歯F(
図5参照)とし、複数のホイール73,…,73のうちの1つのホイール73を基準ホイールW1(
図5参照)とする。
【0049】
(b)ホイール73の軸方向AX(回転軸方向)から見た場合に、基準ホイールW1の基準歯F1に対して、周方向において最も近い基準歯Fを持つホイール73を2個目のホイールW2とする。
【0050】
(c)基準ホイールW1に対する2個目のホイールと同じ向きR(
図12参照)において、基準ホイールW1の基準歯F1に対して、近い基準歯を持つホイール73を順に、2~n個目のホイールW2~Wnとする(
図4参照)。この場合に、1~n個のホイールW1~Wnにおいて、n個の基準歯F1~Fnがのうち周方向に隣り合う2つずつの基準歯Fのなす角度の合計値の最小値は、180度よりも大きい。
【0051】
ここで、n個の基準歯F1~Fnのうち周方向に隣り合う2つの基準歯のなす角度の合計値SUMθとは、例えば、[1~2]個目、[2~3]個目、[(n-1)~n]個目の各ホイールWk,Wk+1間の各基準歯Fk,Fk+1(但し、kはk=1,2,…n-1である)のなす角度を、θ(1,2),θ(2,3),…,θ(n-1,n)とすると、合計値SUMθは、SUMθ=θ(1,2)+θ(2,3)+…+θ(n-1,n)で与えられる。そして、合計値SUMθの最小値を、min[SUMθ]とおくと、条件2は、次式で与えられる。min[SUMθ]>180°…(2)
また、n個の基準歯F2~Fnのうち周方向に隣り合う2つの基準歯のなす角度の合計値SUMθの最小値min[SUMθ]は、360°よりも大きくてもよい。つまり、次式で与えられる条件を採用してもよい。min[SUMθ]>360°…(3)
ここで、min[SUMθ]が180°よりも大きければ、ホイール73の厚い箇所をホイール73の中心を挟んだ反対側の位置(最も遠い位置)にずらすことが可能になるので、歯付ローラー72の厚みばらつきの緩和に一定の効果が得られる。これに対して、min[SUMθ]が360°よりも大きければ、n個のホイール73の厚い箇所を1周に亘って分散できるので、歯付ローラー72の厚さの周方向のばらつきを一層緩和できる。
【0052】
ここで、どのホイール73を基準ホイールW1とするかによって角度の合計値が変わりうるので、合計値の最小値で条件を規定している。つまり、基準ホイールW1を順番に変えていって求めた合計値が最小値となるときの基準ホイールW1を、条件2における基準ホイールW1とする。また、歯付ローラー72は、付加的に、n+1個目のホイールを備えていてもよい。また、軸方向AXに隣り合う2つのホイール73の各基準歯Fが、周方向に隣リ合う2つの基準歯になっていなくてもよい。また、周方向に隣り合う2つの基準歯Fのなす角度、つまりずらし量が、全てのホイールW1~Wn間で同じでなくてもよい。ここで「ずらし量」は、周方向に隣り合う2つの基準歯Fのなす角度で表される。「ずらし量」は、周方向に隣り合う2つの基準歯間で一方の基準歯Fkに対して他方の基準歯Fk+1をずらす角度で表される。
【0053】
n個のホイール73において、周方向に隣り合う2つの基準歯Fのなす角度、つまりずらし量は、全て同じ値であってもよい。ずらし量が全て同じ値である場合、ずらし量Tcは、次式で与えられる。
Tc=N*Pt+M*Pr…(4)
ここで、Pr=Pt/n、NとMは自然数、Mとnは互いに素である。
【0054】
ずらし量Tcが全て同じ値である場合、上記(2)式の条件は、ずらし量Tcの合計値Tc*(n-1)を用いて、次式に置き換えることができる。n*Tc>180°…(5)
また、ずらし量Tcの合計値Tc*(n-1)は、360°よりも大きくてもよい。つまり、次式で与えられる条件を採用してもよい。n*Tc>360°…(6)ここで、ずらし量Tcの合計値Tc*(n-1)が180°よりも大きければ、ホイール73の厚い箇所をホイール73の中心を挟んだ反対側の位置(最も遠い位置)にずらすことが可能なので、歯付ローラー72の厚みばらつきの緩和に一定の効果が得られる。これに対して、ずらし量Tcの合計値Tc*(n-1)が360°よりも大きければ、n個のホイール73の厚い箇所を1周に亘ってほぼ均等に分散できるので、歯付ローラー72の厚さの周方向におけるばらつきを一層緩和できる。
【0055】
上記(4)式および上記(5)において、適用するNの値は、次式の条件を満たす値であってもよい。
N*Pt≧180°/n…(7)
ここで、Nとnとは互いに素である。
【0056】
また、上記(4)式および上記(6)において、適用するNの値は、次式の条件を満たす値であってもよい。
N*Pt≧360°/n…(8)
ここで、Nとnとは互いに素である。このため、ホルダー74に保持されたホイール73を軸方向AXに積層して歯付ローラー72を形成しても、基準歯Fの偏在による歯付ローラー72の厚みばらつきが軸方向AXに累積しにくい。
【0057】
本実施形態では、ホイール73の歯ピッチPtが「6°」(Pt=6°)、歯付ローラー72を構成するホイール73の個数が10個(n=10)なので、上記(8)式の条件を採用すると、N≧6となる。例えば、Nの値として、この条件を満たす最小値「6」(N=6)を採用する。また、ホイール73の周方向に等分割となる位置に形成されたタイバーカット部73bの個数mを用いて、個数mの倍数となるNの値を採用してもよい。
図5、
図9に示すように、タイバーカット部73bの個数mは「3」である。「6」は、mの倍数でもあるので、条件に合うNの一例としてN=6を採用する。
【0058】
また、上記(4)式において、Mは、例えば「1」であってもよい。M=1であると、歯付ローラー72を軸方向AXから見たときに、
図13に示すように、基準ホイールW1の歯ピッチPtの範囲に、残り(n-1)個のホイールW2~Wnの歯73aが全て見えるようにn個のホイール73を軸方向AXに積層することが可能になる。M=1を採用すると、ずらし量Tcは次式で与えられる。
Tc=N*Pt+Pr(9)
ここで、Nは、ホイール73の歯ピッチPtの倍数である。歯付ローラー72の歯ピッチPrは、Pt/(ホイールの個数n)により規定される。本実施形態では、ホイール73の歯ピッチPtは「6°」である。また、Nの値を「6」とする。また、ホイール73の個数nが「10」であるので、歯付ローラー72の歯ピッチPrは、6°/10から0.6°となる。よって、ずらし量Tcは、Tc=6*6°+0.6°により、「36.6°」になる。
【0059】
本実施形態では、軸方向AXに隣り合うホルダー74同士の組み付けにより、軸方向AXに隣り合うホイール73がずらし量Tc分だけずれるようにする。具体的には、
図9に示すホイール部材75における1個のホルダー74において-AX側に形成された係合穴74cの周方向の位置と、+AX側に形成された係合突起74eの周方向の位置とがずらし量Tc(=36.6°)分だけ周方向に異なるように係合穴74c及び係合突起74eが設けられている。そのため、
図9に示すホイール部材75を用いて、
図11に示すように、2つのホイール部材75の対向する面で係合穴74cに係合突起74eを嵌め込むと、2つのホイール部材75の位相がずらし量Tc分の36.6°だけずれて積層される。
図6に示すn個のホイール部材75が、同様に軸方向AXに隣り合うもの同士がずらし量Tc分ずつ周方向に位相がずれた状態で順次積層される。
【0060】
このため、
図12に示すように、10個のホイール73のそれぞれの10個の基準歯F1~F10は、歯付ローラー72を軸方向AXから見たときに、1周に亘る範囲にほぼ均等に分散して配置されている。10個の基準歯F1~F10は、
図12における反時計方向の向きRに、ずらし量Tc(=36.6°)ずつ位相がずれてこの順番で配置されている。このため、歯付ローラー72の厚みの周方向のばらつきが緩和されている。
【0061】
また、
図14に示すように、本実施形態の歯付ローラー72では、ホイール73の周方向に隣り合う2つの歯73a間の間隔Psが、軸方向AXに隣り合う2つのホイール73間の間隔Lwよりも小さくてもよい(Ps<Lw)。
【0062】
さらに、
図14に示すように、ホイール73の周方向に隣り合う2つの歯73a間の間隔Psの方が、軸方向AXに隣り合う2つのホイール73間の最も近い2つの歯73a,73a間の間隔Ltよりも狭くなっていてもよい。
【0063】
また、
図5、
図9に示すように、ホイール73は、それぞれ複数個のタイバーカット部73bを有する。ホイール73において、周方向に隣り合う2つのタイバーカット部73bがなす角度は、全て、ホイール73の歯ピッチPtよりも大きい。
【0064】
さらに、ホルダー74は、n個のホイール73を個々に保持するとともに軸方向AXにn個並べられた保持部74bを有する。
媒体搬送装置61は、駆動ローラー70と、駆動ローラー70との間で媒体Pを挟む第2ローラーの一例としての従動ローラー80と、駆動ローラー70を回転させる駆動源62とを備える。
図15に示すように、軸方向AXにおいて最も一方側の保持部であって、ホイール73が一方側に並べられない保持部に対して、第2ローラーの一例としての従動ローラー80は、一方側に延在する。すなわち、
図15に示すように、従動ローラー80のローラー82は、歯付ローラー72の端面よりも軸方向AXの外側に距離L1だけ延出して位置している。
【0065】
<作用>
このように構成される搬送ローラー対60備える印刷装置1の作用について説明する。
図1に示す印刷装置1が媒体Pに印刷を行うときは、搬送ローラー対60を含む複数の搬送ローラー対11及び搬送ベルト装置10によって搬送経路Tに沿って媒体Pが搬送される。液体吐出ヘッド20Hが、搬送ベルト装置10に支持された媒体Pに向かってインク等の液体を吐出することで媒体Pに文字又は画像が印刷される。液体吐出ヘッド20Hと対向する記録領域へ媒体Pを送り出す搬送ローラー対60は、その媒体Pの搬送位置が液体吐出ヘッド20Hの記録位置精度を決めるため搬送位置精度が要求される。搬送ローラー対60は歯付ローラー72によって媒体Pを搬送するので、歯付ローラー72と媒体Pとの間で滑りが発生しにくく媒体Pは高い搬送位置精度で搬送される。この結果、液体吐出ヘッド20Hによって媒体Pに高い印刷精度で印刷を行うことができる。
【0066】
図2~
図5、
図12に示す歯付ローラー72は、n個のホイール部材75が、条件1と条件2を満たすずらし量Tcの分だけ位相をずらしつつ軸方向AXに積層されることで形成されている。このため、歯付ローラー72は軸方向AXの厚みの周方向のばらつきが小さい。
【0067】
<比較例1>
ところで、ずらし量「0」で複数のホイールを積層して形成された歯付ローラーでは、樹脂成形時に発生したホルダーの厚みばらつきに起因する厚い部分が同じ位相で積層されるため、そのホルダーの厚い部分が軸方向に累積される。このため、歯付ローラーに周方向の厚みばらつきが発生する。
【0068】
<比較例2>
また、特許文献1に記載された歯付ローラーでは、ずらし量Tcが設定されるものの、ずらし量Tcが、例えば15°または18°であり、Tc*n<180°を満たす値であった。このため、ホイールをホルダーと共に周方向にずらし量Tc(例えば15°)で位相をずらしつつ軸方向に積層したときにホルダーの成形時にできた厚い部分が周方向に十分分散されない。よって、歯付ローラーに周方向の厚みばらつきが発生する。
【0069】
比較例1及び比較例2の歯付ローラーは、周方向に厚みばらつきがあるので、歯付ローラーは駆動軸に対して傾いて組み付けられる可能性がある。この場合、駆動軸に傾いた歯付ローラーによって搬送された媒体がスキューする問題がある。
【0070】
<実施例>
これに対して、本実施形態の歯付ローラー72は、ホイール部材75の位相を周方向にずらしつつ複数(n個)のホイール部材75を軸方向AXに積層して形成されている。そして、ホイール部材75の位相を周方向にずらすずらし量Tcが、上述の条件2を満たす値であって、さらに、Tc*n>180°を満たす値に設定される。特に、本実施形態では、ずらし量Tcが、Tc*n>360°を満たす値に設定される。このため、アウトサート成形時にホルダー74できた厚い部分は、複数(n個)のホイール部材75の位相を周方向にずらし量Tcでずらしつつ軸方向AXに積層される。
【0071】
例えば、
図12に示すように、n個のホイール73(W1~W10)が軸方向AXに積層されて製造された歯付ローラー72では、各ホイール73の基準歯F1~F10が周方向にずらし量Tc(=36.6°)ずつずれた位置に配置される。つまり、n個のホイール73が周方向にずらし量Tcずつ位相がずれた状態で積層されている。このため、各ホイール73にアウトサート成形時にできた厚い部分は周方向に分散される。この結果、本実施形態の歯付ローラー72は、周方向の厚みばらつきが抑制されている。
【0072】
このため、歯付ローラー72が駆動軸71に対して傾いて組み付けられることが防止される。よって、歯付ローラー72によって搬送される媒体Pはスキューが発生しにくい。この結果、搬送ローラー対60を備える媒体搬送装置61によって、媒体Pを幅方向Xのずれを抑えつつ搬送方向Aに高い搬送位置精度で搬送することができる。
【0073】
<ローラーの製造方法>
次に、
図16を参照して、本実施形態の歯付ローラー72を備える駆動ローラー70の製造方法について説明する。
【0074】
図16に示すように、駆動ローラー70の製造方法は、ホイール準備工程(ステップS1)及びホイール積層工程(ステップS2)を備える。なお、ホイール準備工程が「準備工程」の一例に相当し、ホイール積層工程が「積層工程」の一例に相当する。
【0075】
ホイール準備工程(S1)では、ローラー1個当たりにn個(例えば10個)のホイール部材75を準備する。合成樹脂製のホルダー74がアウトサート成形により一体に形成された金属製のホイール73(ホイール部材75)をn個(但し、nは2以上の自然数)準備する。ホイール部材75は工場で製造して準備してもよいし、製造されたものを購入して準備してもよい。前者の場合、フープ材から打ち抜き加工(プレス加工)により複数のホイール成型品が形成された後、アウトサート成形によりホイール73の全ての歯73aを含む周縁部を露出させた状態でそれ以外のリング状の部分が合成樹脂材料でモールドされる。これによりホイール73とホルダー74とが一体に形成される。その後、プレス加工によりタイバー部が切り離されることにより、フープ材からホイール部材75が切り離されて、複数個のホイール部材75(
図6~
図11参照)が得られる。ホイール部材75は、複数のタイバーカット部73bを有する。
【0076】
次のホイール積層工程(S2)では、
図6に示すように、1個のホルダー部材76と10個のホイール部材75が駆動軸71に対して軸方向AXに積層された状態で組み付けられる。本実施形態では、
図11に示すように、軸方向AXに隣り合う2つのホイール部材75を、一方のホルダー74の係合穴74cに、他方のホルダー74の係合突起74eを嵌め込むことで組み付ける。このとき、ホルダー74の係合穴74cの周方向の位置と、係合突起74eの周方向の位置とが、
図11に示すように36.6°ずれている。このため、軸方向AXに隣り合う2つのホルダー74は、周方向に36.6°ずれた状態で組み付けられる。
【0077】
こうして
図6に示すホルダー部材76及びn個のホイール部材75は、周方向に36.6°ずつ位相をずらしつつ駆動軸71に組み付けられる。こうして積層されたローラー組立体は、-AX側の端部に位置するホルダー部材76及び駆動軸71に組み付けられた止め棒77により軸方向AXの移動が規制される。また、ローラー組立体の+AX側の端部は、+AX側の端部のホルダー74の端面に接触するように駆動軸71に止め輪78が組み付けられることでその積層状態が保持される。そして、残り9個の歯付ローラー72が同様に駆動軸71に組み付けられる。これにより、駆動ローラー70が製造される。
【0078】
本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)媒体Pの搬送に用いられるローラー70(72)は、複数の歯73aを周面に有するホイール73と、以下の条件1と条件2とを満たすn個(但し、nは2以上の自然数)のホイール73を軸方向AXに積層して保持するホルダー74とを備える。条件1は、ローラー70の歯ピッチPr、ホイール73の歯ピッチPtとすると、Pr=Pt/nを満たすことである。
【0079】
条件2は、複数の歯73aのうちの1つの歯73aを基準歯Fとし、n個のホイール73のうちの1つのホイール73を基準ホイールW1とし、ホイール73の軸方向AXから見た場合に、基準ホイールW1の基準歯Fに対して、周方向において最も近い基準歯Fをもつホイール73を2個目のホイール73とし、基準ホイールW1に対する2個目のホイールW2と同じ向きにおいて、基準ホイールW1の基準歯Fに対して、近い基準歯Fを持つホイール73を順に、2~n個目のホイールW2~Wnとした場合に、1~n個のホイールW1~Wnにおいて、周方向に隣り合う基準歯Fがなす角度の合計値の最小値は、180度よりも大きいことである。よって、基準歯Fが周方向に偏在しにくいので、ローラー70の厚みばらつきを分散できる。また、n個のホイール73が軸方向AXに積層される構成において、ホイール73の歯ピッチPtよりも狭いローラー70の歯ピッチPrを実現できる。
【0080】
(2)ホイール73の周方向に隣り合う2つの歯73a間の間隔Psは、軸方向AXに隣り合う2つのホイール73間の間隔Lwよりも小さい。よって、ホイール73の歯73a間の間隔が狭いので、ホルダー74に保持されるホイール73の積層枚数を少なくすることができる。
【0081】
(3)ホイール73の周方向に隣り合う2つの歯73a間の間隔Psは、軸方向AXに隣り合う2つのホイール73間で最短の2つの歯73a間の間隔Ltよりも狭い。よって、ローラー70を軸方向AXに小型化できるので、周方向における基準歯Fの偏在によるローラー70の周方向の厚みばらつきの影響を小さくすることができる。すなわち、基準歯Fの偏在による厚みばらつきの影響は、ローラー70が軸方向AXに厚くなるほど顕著になるが、ローラー70を軸方向AXに小型化できることから、ローラー70の周方向における基準歯Fの偏在によるローラー70の厚みばらつきの影響を小さくすることができる。
【0082】
(4)n個のホイール73において、周方向に隣り合う2つの基準歯Fがなす角度は、同じであり、角度をずらし量Tcとすると、ずらし量Tcの合計値Tc*(n-1)が、360°よりも大きい。よって、n*Tc>360°なので、n*Tc>180°のときよりも、ホルダー74に保持されるホイール73を積層してローラー70を形成したときのローラー70の周方向の厚みばらつきを一層抑制することができる。
【0083】
(5)Nとnとが互いに素で、N*Pt≧360/nである。よって、ホルダー74に保持されたホイール73を軸方向AXに積層してローラー70を形成しても、ローラー70の周方向における基準歯Fの偏在によるローラー70の厚みばらつきが軸方向AXに累積しにくい。
【0084】
(6)ホイール73は、それぞれ複数個のタイバーカット部73bを有し、ローラー70の周方向に隣り合う2つのタイバーカット部73bがなす角度は、全て、ホイール73の歯ピッチPtよりも大きい。よって、ローラー70の周方向にタイバーカット部73bが偏在していないので、タイバーカット部73bの有無による搬送抵抗ばらつきを、周方向に分散することができる。すなわち、媒体Pを搬送する歯73aとしての機能がないタイバーカット部73bがローラー70の周方向に分散しているので、搬送抵抗のばらつきを周方向に分散させることができる。
【0085】
(7)ホルダー74は、n個のホイール73を個々に保持するn個の保持部74bを有し、保持部74bはホイール73が積層されたときの軸方向AXの厚さがホイール73の軸方向AXの厚さよりも厚い。よって、n個のホイール73は積層された状態で保持部74bの厚さにより隙間が規定できるので、ローラー70の組み立て性がよい。
なお、ホイール73の軸方向AXに歯73aと歯73aの間に隙間があり歯73a同士が密着しないので、インク等の液体が隙間に堆積しにくかったり、液体を吸収して膨潤する媒体Pのコックリング等の変形が隙間によって許容されたり、または変形した部分を隙間に収容したりすることができる。例えば、寸胴ローラーのように液体で膨潤した媒体Pの皺の変形を許容または皺を収容できないローラー70では、媒体Pの皴が折れとなるが、この種の媒体Pの皺の折れを抑制することができる。
【0086】
(8)駆動ローラー70と、駆動ローラー70との間で媒体Pを挟む従動ローラー80と、駆動ローラー70を回転させる駆動源62と、を備え、n個の保持部74bのうち軸方向AXにおいて最も一方側の保持部74bであって、ホイール73が一方側に並べられない保持部74bに対して、従動ローラー80は、一方側に延在する。よって、それだけホルダー74を薄くできる。軸方向AXにホイール73が位置ずれしても、従動ローラー80との間で媒体Pを挟み易い。
【0087】
(9)液体吐出装置の一例である印刷装置1は、液体を吐出する液体吐出ヘッド20Hと、駆動ローラー70とを備える。駆動ローラー70は、液体吐出ヘッド20Hにより液体が吐出された媒体Pを搬送する。よって、媒体Pに液体が吐出されても、駆動ローラー70がホイール73の歯73aにより媒体Pを搬送するので、液体がホイール73に転写されにくい。例えば、ホイール73が歯73aを有さず、面接触して媒体Pを搬送するローラー70に比べ、液体がホイール73に転写されにくい。
【0088】
(10)合成樹脂製のホルダー74がアウトサート成形により一体に形成された金属製のホイール73をn個(但し、nは2以上の自然数)準備する準備工程S1と、n個のホイール73を周方向に位相をずらしつつ積層する積層工程S2とを含む。積層工程S2では、条件1および条件2を満たすように、n個のホイール73が積層される。よって、この製造方法によれば、駆動ローラー70(歯付ローラー72)と同様の効果が得られる。
【0089】
(第2実施形態)
図17及び
図18を参照して、第2実施形態の媒体搬送装置61について説明する。この実施形態では、特に、搬送ローラー対60の歯付ローラー72の構成が前記第1実施形態と異なる。この第2実施形態では、ホイール部材75のずらし量Tcが第1実施形態と異なる。
【0090】
図17に示すように、軸方向AXに隣り合う2つのホイール部材75は、係合穴74cの周方向の位置と、係合突起74eの周方向の位置とがずらし量Tc(=108.6°)分だけ周方向に異なるように設けられている。そのため、2つのホイール部材75の対向する面で係合穴74cに係合突起74eを嵌め込むと、2つのホイール部材75が位相がずらし量Tc分の108.6°だけずれて積層される。n個のホイール部材75は、軸方向AXに隣り合うもの同士がずらし量Tc(=108.6°)分ずつ周方向に位相がずれた状態で順次積層される。
【0091】
ここで、本実施形態のずらし量Tcは、第1実施形態における前記(6)式の条件を満たすNの値として「18」を設定している。そして、N=18のときのずらし量Tc=108.6°を採用する。ホイール73の個数n及びタイバーカット部73bの個数など他の構成は前記第1実施形態と同様である。第1実施形態における前記(9)式で示されるTc=N*Pt+Prより、N=18、Pt=6°、Pr=0.6°のときは、ずらし量Tcが、Tc=108.6°となる。
【0092】
図18は、ずらし量Tc=108.6°のときの歯付ローラー72について基準歯F1~Fnの配置例を示している。
図18に示すとおり、基準歯F1~Fnは、第1実施形態における
図12と同様に、歯付ローラー72の全周に亘って概ね均等に配置されている。但し、基準歯F1から向きRに沿う基準歯F2~Fnの並び順が異なっている。前記第1実施形態では、N*Pt*n=360°を満たすNを採用したため、1周内で基準歯F1~Fnが並び順の向きRにおいてこの順番に配列されていた。これに対して、本実施形態では、N*Pt*n=3*360°を満たすNの値(N=18)を採用しているため、3周で基準歯F1~Fnが一巡するような配列となる。このため、1周目で基準歯F1~F4が配列され、2周目で基準歯F5~F7が1周目の各基準歯F1~F4の間の位置に配列され、さらに3周目で基準歯F8~F10が1周目及び2周目の各基準歯F1,F5とF2,F6とF3,F7の各間の位置に配列される。このため、1周に亘るn個の基準歯F1~Fnの配列位置はほぼ同じであるが、基準歯F1~Fnの並び順が異なっている。
【0093】
このため、本実施形態の歯付ローラー72も、周方向における厚みばらつきが周方向において偏在していない。このため、第1実施形態の効果(1)~(10)と同様の効果が得られる。
【0094】
<変形例>
なお、上記各実施形態は以下に示す変形例のように変更してもよい。また、上記各実施形態と各変形例とは、任意に組み合わせることができる。
【0095】
・前記各実施形態では、N=6、N=18の例を示したが、2周で基準歯F1~Fnが一巡する配列となるN*Pt*n=2*360°を満たすNの値(N=12)を採用してずらし量Tc=72.6°としてもよい。また、4周で基準歯F1~Fnが一巡する配列となるN*Pt*n=2*360°を満たすNの値(N=24)を採用してずらし量Tc=144.6°としてもよい。要するに、J周で基準歯F1~Fnが一巡する配列となるN*Pt*n=J*360°を満たすNの値(N=12)を採用してずらし量Tcを設定してもよい。
【0096】
・ずらし量Tcを、基準ホイールW1における歯73aの位置を決める第1ずらし量と、第1ずらし量で決めた歯からのPr単位のずらし量である第2ずらし量とに分け、第2ずらし量=Pr*iを、1~nの中から重複を許さずランダムなiの値を選択して決めてもよい。
【0097】
・前記各実施形態では、ずらし量Tcを、Tc*n>360°を条件として設定したが、Tc*n>180°を条件として設定してもよい。この構成によれば、1つのホイール73を180°近くずらすことができる。つまり、1つのホイール73については厚い部分を、ホイール73の中心を挟んで反対側の位置にずらすことができる。また、厚い部分ができる原因であるタイバーカット部73bは通常2個以上あるので、約180°ずらすことができれば、約360°内でずらす第1実施形態とほぼ同等またはそれに近い効果を得ることができる。
【0098】
・ずらし量Tcを決める条件は、Tc*n>240°やTc*n>270°を設定するなど、条件の右辺の角度θcを、180°<θc<360°の範囲内の任意の値に設定してもよい。
【0099】
・ずらし量Tcを決める条件Tc=N*Pt+M*Pr>360°/nまたはTc=N*Pt+M*Pr>180°/nにおいて、Mとnは互いに素であることに限定されない。例えば、M=3、n=9でもよい。
【0100】
・上記各実施形態において、ホイール部材75を軸方向AXに積層させるために嵌め合わせる係合穴74cと係合突起74eとの数および形状を適宜変更してもよい。前記各実施形態では、係合穴74cと係合突起74eとをホイール73の中心を挟んで対向する二位置に2個ずつ設けたが、ホイール73の周方向に異なる位置に3個ずつ又は4個ずつ設けてもよい。また、形状も直方体に替え、円柱状や三角柱状などの他の形状でもよいし、係合穴74cと係合突起74eとの嵌合状態で抜け止めとして機能する係止爪などを有する形状でもよい。
【0101】
・上記各実施形態において、歯付ローラー72における各ホイール73の歯73aは、歯付ローラー72を軸方向AXから見たとき、その周面において全てが視認可能にずれて配置されていなくてもよい。例えば、所定のホイール73の歯73aが他のホイール73の歯73aと完全に重なるように配置されてもよい。
【0102】
・上記各実施形態において、タイバーカット部73bの個数は任意の設定事項である。フープ材に対してホイール成型品がバランスよく保持されるように、タイバー部は2個以上が好ましい。このため、タイバーカット部73bは2個以上が好ましい。タイバーカット部73bは、例えば、2個でもよいし4個、5個、6個でもよい。
【0103】
・基準歯F,F1~Fnは、条件2の定義に基づいて任意の歯73aに設定できる。
・基準ホイールW1および第2~第nホイールW2~Wnは、条件2の定義に基づいてn個のホイール73のうち任意のホイール73に設定できる。
【0104】
・上記各実施形態において、ローラー外径は20mm以外でもよい。例えば、33mmでもよいし、これら以外の外径寸法でもよい。また、歯ピッチPtは6°以外でもよい。例えば、Pt=2°、4°、8°、10°でもよい。さらに、1ローラー当たりの歯ピッチPrは0.6°以外でもよい。例えば、Pr=0.4°、0.8°、1°でもよい。ホイールの個数nは、10個以外でもよい。例えば、n=2、n=6、n=15でもよい。
【0105】
・上記各実施形態において、歯付ローラー72の個数は任意の設定事項である。要するに、駆動ローラー70は、歯付ローラー72は少なくとも1つ備えていればよい。
・上記各実施形態において、駆動ローラー70における複数の歯付ローラー72のうちの一部の歯付ローラー72は、歯付ローラー72を軸方向AXから見たときに歯付ローラー72の周方向において存在する複数の基準歯Fが偏在して設けられてもよい。すなわち、駆動ローラー70における複数の歯付ローラー72の少なくとも1つの歯付ローラー72が、歯付ローラー72を軸方向AXから見たときに、歯付ローラー72の周方向において存在する複数の基準歯Fが偏在しなければよい。
【0106】
・上記各実施形態において、印刷装置1は、印刷機能だけを備えた構成に限定されず、複合機であってもよい。
・上記各実施形態において、液体吐出ヘッド20Hが幅方向Xに沿って移動可能なシリアルヘッドであってもよい。
【0107】
・上記各実施形態において、媒体Pは、用紙のような単票紙に限られず、連続紙、樹脂製のフィルム、金属箔、金属フィルム、樹脂と金属の複合体フィルム(ラミネートフィルム)、織物、不織布、セラミックシート等であってもよい。
【0108】
・上記各実施形態において、液体吐出ヘッド20Hと対向する搬送ベルト装置10に替えて、媒体Pを支持するプラテン等の支持台を設ける構成でもよい。
・印刷に用いられる記録材は、インク以外の流体(液体や、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流状体、流体として噴射できる固定を含む)であってもよい。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液状体を吐出して印刷を行う構成にしてもよい。
【0109】
また印刷装置1は、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体(粉粒体)を例とする固体を噴射する粉粒体噴射装置(例えばトナージェット式記録装置)であってもよい。なお、本明細書において「流体」とは、気体のみからなる流体を含まない概念であり、流体には、例えば液体(無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属溶融)等を含む)、液状体、流状体、粉粒体(粒体及び粉体を含む)などが含まれる。
【0110】
また印刷装置1は、媒体P等の媒体に液体を直接吐出することにより媒体に印刷を行うものに限らず、印刷版に塗布した液体を媒体に転写する平版印刷、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷等であってもよい。
【0111】
以下に、上述した実施形態及び変更例から把握される技術的思想及びその作用効果を記載する。
(A)媒体の搬送に用いられるローラーであって、複数の歯を周面に有するホイールと、以下の条件1と条件2とを満たすn個(但し、nは2以上の自然数)のホイールを軸方向に積層して保持するホルダーと、を備えることを特徴とするローラーである。
【0112】
<条件1>
前記ローラーの歯ピッチPr、前記ホイールの歯ピッチPtとすると、Pr=Pt/nを満たす。
【0113】
<条件2>
前記複数の歯のうちの1つの歯を基準歯とし、n個の前記ホイールのうちの1つのホイールを基準ホイールとし、前記ホイールの回転軸方向から見た場合に、前記基準ホイールの前記基準歯に対して、周方向において最も近い基準歯をもつホイールを2個目のホイールとし、前記基準ホイールに対する2個目のホイールと同じ向きにおいて、当該基準ホイールの基準歯に対して、近い基準歯を持つホイールを順に、2~n個目のホイールとした場合に、1~n個の前記ホイールにおいて、周方向に隣り合う基準歯がなす角度の合計値の最小値は、180度よりも大きい。
【0114】
この構成によれば、基準歯が周方向に偏在しにくいので、ローラーの厚みばらつきを分散できる。また、n個のホイールが軸方向に積層される構成において、ホイールの歯ピッチPtよりも狭いローラーの歯ピッチPrを実現できる。
【0115】
(B)上記ローラーにおいて、前記ホイールの周方向に隣り合う2つの歯間の間隔は、前記軸方向に隣り合う2つの前記ホイール間の間隔よりも小さくてもよい。
この構成によれば、ホイールの歯間の間隔が狭いので、ホルダーに保持されるホイールの積層枚数を少なくすることができる。
【0116】
(C)前記ホイールの周方向に隣り合う2つの歯間の間隔は、前記軸方向に隣り合う2つのホイール間で最短の2つの歯間の間隔よりも狭くてもよい。
この構成によれば、ローラーを軸方向に小型化できるので、周方向における基準歯の偏在によるローラーの周方向の厚みばらつきの影響を小さくすることができる。すなわち、基準歯の偏在による厚みばらつきの影響は、ローラーが軸方向に厚くなるほど顕著になるが、ローラーを軸方向に小型化できることから、ローラーの周方向における基準歯の偏在によるローラーの厚みばらつきの影響を小さくすることができる。
【0117】
(D)n個の前記ホイールにおいて、周方向に隣り合う2つの前記基準歯がなす角度は、同じであり、当該角度をずらし量Tcとすると、当該ずらし量Tcの合計値Tc*(n-1)が、360°よりも大きくてもよい。
【0118】
この構成によれば、n*Tc>360°なので、n*Tc>180°のときよりも、ホルダーに保持されるホイールを積層してローラーを形成したときのローラーの周方向の厚みばらつきを一層抑制することができる。
【0119】
(E)Nとnとが互いに素で、N*Pt≧360/nであってもよい。
この構成によれば、ホルダーに保持されたホイールを軸方向に積層してローラーを形成しても、ローラーの周方向における基準歯の偏在によるローラーの厚みばらつきが軸方向に累積しにくい。
【0120】
(F)前記ホイールは、それぞれ複数個のタイバーカット部を有し、前記ローラーの周方向に隣り合う2つの前記タイバーカット部がなす角度は、全て、前記ホイールの歯ピッチPtよりも大きくてもよい。
【0121】
この構成によれば、ローラーの周方向にタイバーカット部が偏在していないので、タイバーカット部の有無による搬送抵抗ばらつきを、周方向に分散することができる。すなわち、媒体を搬送する歯としての機能がないタイバーカット部がローラーの周方向に分散しているので、搬送抵抗のばらつきを周方向に分散させることができる。
【0122】
(G)前記ホルダーは、n個の前記ホイールを個々に保持するn個の保持部を有し、当該保持部は前記ホイールが積層されたときの軸方向の厚さが前記ホイールの軸方向の厚さよりも厚くてもよい。
【0123】
この構成によれば、n個のホイールは積層された状態で保持部の厚さにより隙間が規定できるので、ローラーの組み立て性がよい。
(H)媒体搬送装置は、上記ローラーと、前記ローラーとの間で媒体を挟む第2ローラーと、前記ローラーを回転させる駆動源と、を備え、n個の前記保持部のうち軸方向において最も一方側の保持部であって、前記ホイールが一方側に並べられない保持部に対して、前記第2ローラーは、一方側に延在する。
【0124】
この構成によれば、それだけホルダーを薄くできる。軸方向にホイールが位置ずれしても、第2ローラーとの間で媒体を挟み易い。
(I)液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記ローラーとを備え、前記ローラーは、前記液体吐出ヘッドにより液体が吐出された媒体を搬送する。
【0125】
この構成によれば、媒体に液体が吐出されても、ローラーがホイールの歯により媒体を搬送するので、液体がホイールに転写されにくい。例えば、ホイールが歯を有さず、面接触して媒体を搬送するローラーに比べ、液体がホイールに転写されにくい。
【0126】
(H)ローラーの製造方法において、合成樹脂製のホルダーがアウトサート成形により一体に形成された金属製のホイールをn個(但し、nは2以上の自然数)準備する準備工程と、n個のホイールを周方向に位相をずらしつつ積層する積層工程とを含み、前記積層工程では、上記(A)に記載の前記条件1および前記条件2を満たすように、n個の前記ホイールが積層される。この製造方法によれば、上記ローラーと同様の効果が得られるローラーを製造し易い。
【符号の説明】
【0127】
1…印刷装置、10…搬送ベルト装置、11…ローラー対、20…ヘッドユニット、20H…液体吐出ヘッド、50…メンテナンス装置、60…搬送ローラー対、61…媒体搬送装置、62…駆動源、70…ローラーの一例である駆動ローラー、71…回転軸の一例である駆動軸、72…歯付ローラー、73…ホイール、73a…歯、73b…タイバーカット部、73c…係合片、74…ホルダー、74a…孔、74b…保持部、74c…係合穴、74e…係合突起、75…ホイール部材、76…ホルダー部材、77…止め棒、78…止め輪、80…第2ローラーの一例としての従動ローラー、W1…基準ホイール、W2~Wn…2番目~n番目のホイール、F,F1~F10…基準歯、Ps…周方向の歯間の間隔、Lw…ホイール間の間隔、Lt…軸方向の歯間の間隔、L1…延在する距離、P…媒体、A…搬送方向、B…搬送方向と直交する方向、X…幅方向、Z…鉛直方向、AX…軸方向(回転軸方向)。