(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電池監視装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/387 20190101AFI20241126BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20241126BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241126BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241126BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241126BHJP
H01M 10/44 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
G01R31/387
G01R31/382
G01R31/389
H01M10/48 P
H02J7/00 M
H01M10/44 Q
(21)【出願番号】P 2020209592
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕基
(72)【発明者】
【氏名】内山 正規
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-173373(JP,A)
【文献】特開2004-56945(JP,A)
【文献】国際公開第2014/108971(WO,A1)
【文献】特開2010-249797(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0319256(US,A1)
【文献】特開2014-74588(JP,A)
【文献】特開2008-128802(JP,A)
【文献】特開2016-109455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H01M 10/42
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電に伴い蓄電容量が変化する際に所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池(40)に適用され、
通電時に前記2次電池のインピーダンス値変化を取得する取得部(50)と、
前記取得部により取得された前記インピーダンス値変化に基づいて、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する容量判定部(50)と、を備え
、
前記2次電池は、前記所定容量として第1容量と第2容量とを有し、充電時には前記第1容量の高容量側では低容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が大きく、前記第2容量の高容量側では低容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が小さく、放電時には前記第1容量の低容量側では高容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が大きく、前記第2容量の低容量側では高容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が小さいものとなっており、
前記容量判定部は、
通電に伴って前記インピーダンス値変化が減少する場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記第1容量であると判定し、
通電に伴って前記インピーダンス値変化が増加する場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記第2容量であると判定する電池監視装置。
【請求項2】
前記2次電池に対して流入及び流出する電流を積算することで前記2次電池の蓄電容量を算出容量として算出する算出容量算出部(50)を備え、
前記算出容量算出部は、前記容量判定部により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された場合に、前記所定容量を用いて前記算出容量を補正する請求項
1に記載の電池監視装置。
【請求項3】
通電に伴い蓄電容量が変化する際に所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池(40)に適用され、
通電時に前記2次電池のインピーダンス値変化を取得する取得部(50)と、
前記取得部により取得された前記インピーダンス値変化に基づいて、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する容量判定部(50)と、
前記2次電池に対して流入及び流出する電流を積算することで前記2次電池の蓄電容量を算出容量として算出する算出容量算出部(50)と、を備え、
前記算出容量算出部は、前記容量判定部により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された場合に、前記所定容量を用いて前記算出容量を補正する電池監視装置。
【請求項4】
前記2次電池に対して流入及び流出する電流に重畳する所定の交流電流を発生させる交流電流発生部(60)を備え、
前記取得部は、前記交流電流発生部による前記交流電流の発生時に前記インピーダンス値変化を取得する請求項1から
3までのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項5】
前記2次電池が満充電となったことを判定する満充電判定部(50)と、
前記容量判定部により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された第1タイミング及び前記満充電判定部により前記2次電池が満充電状態となったことが判定された第2タイミングの間に前記2次電池に対して流入及び流出する電流の積算量と、前記所定容量とを用いて前記2次電池の放電容量を算出する放電容量算出部(50)と、を備える請求項1から
4までのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項6】
通電に伴い蓄電容量が変化する際に所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池(40)に適用され、
通電時に前記2次電池のインピーダンス値変化を取得する取得部(50)と、
前記取得部により取得された前記インピーダンス値変化に基づいて、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する容量判定部(50)と、
前記2次電池が満充電となったことを判定する満充電判定部(50)と、
前記容量判定部により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された第1タイミング及び前記満充電判定部により前記2次電池が満充電状態となったことが判定された第2タイミングの間に前記2次電池に対して流入及び流出する電流の積算量と、前記所定容量とを用いて前記2次電池の放電容量を算出する放電容量算出部(50)と、を備える電池監視装置。
【請求項7】
前記2次電池は、前記2次電池の蓄電容量の変化に伴う前記2次電池の開路電圧の変化が小さいプラトー領域を有するものであり、
前記所定容量は、前記プラトー領域内に存在する請求項1から6までのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項8】
前記容量判定部は、前記インピーダンス値変化の時間変化量の絶対値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する請求項1
から7までのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項9】
通電に伴い蓄電容量が変化する際に所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池(40)に適用され、
コンピュータに、
通電時に前記2次電池のインピーダンス値変化を取得する取得処理と、
前記取得処理により取得された前記インピーダンス値変化に基づいて、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する容量判定処理と、を実行させ、
前記2次電池は、前記所定容量として第1容量と第2容量とを有し、充電時には前記第1容量の高容量側では低容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が大きく、前記第2容量の高容量側では低容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が小さく、放電時には前記第1容量の低容量側では高容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が大きく、前記第2容量の低容量側では高容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が小さいものとなっており、
前記容量判定処理において、
通電に伴って前記インピーダンス値変化が減少する場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記第1容量であると判定し、
通電に伴って前記インピーダンス値変化が増加する場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記第2容量であると判定するプログラム。
【請求項10】
通電に伴い蓄電容量が変化する際に所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池(40)に適用され、
コンピュータに、
通電時に前記2次電池のインピーダンス値変化を取得する取得処理と、
前記取得処理により取得された前記インピーダンス値変化に基づいて、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する容量判定処理と、
前記2次電池に対して流入及び流出する電流を積算することで前記2次電池の蓄電容量を算出容量として算出する算出容量算出処理と、を実行させ、
前記算出容量算出処理において、前記容量判定処理により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された場合に、前記所定容量を用いて前記算出容量を補正するプログラム。
【請求項11】
通電に伴い蓄電容量が変化する際に所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池(40)に適用され、
コンピュータに、
通電時に前記2次電池のインピーダンス値変化を取得する取得処理と、
前記取得処理により取得された前記インピーダンス値変化に基づいて、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する容量判定処理と、
前記2次電池が満充電となったことを判定する満充電判定処理と、
前記容量判定処理により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された第1タイミング及び前記満充電判定処理により前記2次電池が満充電状態となったことが判定された第2タイミングの間に前記2次電池に対して流入及び流出する電流の積算量と、前記所定容量とを用いて前記2次電池の放電容量を算出する放電容量算出処理と、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次電池の電池監視装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池は、軽量且つ高エネルギー密度の2次電池として注目されている。リチウムイオン電池では、蓄電池の蓄電状態を示すSOC(State Of Charge)の変化に伴う開路電圧OCV(Open Circuit Voltage)の変化が小さい領域、すなわちプラトー領域を有するものが存在する。プラトー領域では、SOCと開路電圧OCVとの相関関係を示すSOC-OCV特性を用いて2次電池のSOCを算出することが難しい。
【0003】
SOC-OCV特性を用いずにSOCを算出する技術として、2次電池に対して流入及び流出する電流を積算してSOCを算出する技術が知られている。ただし、電流積算によるSOCの算出では、電流積算期間が長期化すると積算誤差が蓄積され、SOCの算出精度が低下する問題が生じる。そこで、特許文献1では、充電中又は放電中における2次電池の単位時間当たりの電圧変化を、その間に2次電池に対して流入及び流出した電流容量で割った値である電圧変化率に基づいて2次電池のSOCを算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通電中の電圧変化率は、2次電池の温度に大きく依存する。そのため、通電中の電圧変化率によるSOCの算出では、通電中の2次電池の温度変化によりSOCを適正に算出することができない。SOC-OCV特性を用いずに2次電池のSOCを適正に算出できる技術が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、SOC-OCV特性を用いずに2次電池の蓄電容量を適正に算出できる電池監視装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の手段は、通電に伴い蓄電容量が変化する際に所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池に適用され、通電時に前記2次電池のインピーダンス値変化を取得する取得部と、前記取得部により取得された前記インピーダンス値変化に基づいて、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する容量判定部と、を備える。
【0008】
通電に伴い所定容量で反応熱量の変化が生じる2次電池では、当該所定容量において、反応熱量の変化に伴って2次電池の温度が変化する。2次電池では温度とインピーダンス値とが相関関係を有し、2次電池の温度が変化する場合に2次電池のインピーダンス値が変化する。つまり、上記2次電池では、所定容量において2次電池のインピーダンス値が変化する。本発明者らは、この点に着目し、蓄電容量を算出する方法を見出した。
【0009】
具体的には、上記構成では、通電時に2次電池のインピーダンス値変化を取得し、このインピーダンス値変化に基づいて、2次電池の蓄電容量が所定容量であることを判定する。2次電池の所定容量におけるインピーダンス値変化を用いて2次電池の蓄電容量を算出することができ、SOC-OCV特性を用いずに2次電池の蓄電容量を適正に算出することができる。
【0010】
第2の手段では、前記容量判定部は、前記インピーダンス値変化の時間変化量の絶対値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることを判定する。
【0011】
2次電池のインピーダンス値変化が変化しても、その変化が微少であればノイズ等によりインピーダンス値変化が変化した可能性が高い。上記構成では、インピーダンス値変化の時間変化量の絶対値が所定の閾値よりも大きい場合に、2次電池の蓄電容量が所定容量であることを判定する。そのため、ノイズ等の影響を抑制して2次電池の蓄電容量を適正に算出することができる。
【0012】
第3の手段では、前記所定容量として第1容量と第2容量とを有し、充電時には前記第1容量の高容量側では低容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が大きく、前記第2容量の高容量側では低容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が小さく、放電時には前記第1容量の低容量側では高容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が大きく、前記第2容量の低容量側では高容量側よりも前記インピーダンス値変化の絶対値が小さい前記2次電池に適用され、前記容量判定部は、通電に伴って前記インピーダンス値変化が減少する場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記第1容量であると判定し、通電に伴って前記インピーダンス値変化が増加する場合に、前記2次電池の蓄電容量が前記第2容量であると判定する。
【0013】
2次電池では、所定容量を複数有するものが存在する。この場合、インピーダンス値変化に基づいて所定容量であることを判定しても、複数の所定容量のうちのどの所定容量であるかを判定できない。その点、本実施形態では、所定容量として第1容量と第2容量とを有しており、充電時には第1容量の高容量側では低容量側よりもインピーダンス値変化の絶対値が大きく、第2容量の高容量側では低容量側よりもインピーダンス値変化の絶対値が小さい。また、放電時には第1容量の低容量側では高容量側よりもインピーダンス値変化の絶対値が大きく、第2容量の低容量側では高容量側よりもインピーダンス値変化の絶対値が小さい。そのため、第1容量では、通電に伴ってインピーダンス値変化が減少し、第2容量では、通電に伴ってインピーダンス値変化が増加する。したがって、所定容量を複数有する2次電池において、このインピーダンス値変化の態様の違いを用いて所定容量が第1容量であるか第2容量であるかを判定することができる。
【0014】
第4の手段では、前記2次電池に対して流入及び流出する電流を積算することで前記2次電池の蓄電容量を算出容量として算出する算出容量算出部を備え、前記算出容量算出部は、前記容量判定部により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された場合に、前記所定容量を用いて前記算出容量を補正する。
【0015】
電流積算による蓄電容量の算出では、電流積算期間が長期化すると積算誤差が蓄積され、算出容量の算出精度が低下する。その点、上記構成では、所定容量を用いて算出容量を補正するため、算出容量の積算誤差をリセットすることができる。
【0016】
第5の手段では、前記2次電池に対して流入及び流出する電流に重畳する所定の交流電流を発生させる交流電流発生部を備え、前記取得部は、前記交流電流発生部による前記交流電流の発生時に前記インピーダンス値変化を取得する。
【0017】
2次電池に流入及び流出する電流が変化したときに2次電池のインピーダンス値変化が変化するため、2次電池のインピーダンス値変化は、この電流が変化したときに取得される。しかし、例えば2次電池が定電流充電されている場合など、2次電池に流入及び流出する電流の変化が小さい場合には、2次電池のインピーダンス値変化を取得することができず、2次電池の蓄電容量が所定容量であることを判定することができない。この点、上記構成では、2次電池に流入及び流出する電流に交流電流を重畳させる交流電流発生部が備えられている。交流電流を用いて2次電池に流入及び流出する電流を変化させることで、重畳前における電流の変化が小さい場合でも2次電池の蓄電容量を適正に算出することができ、2次電池の蓄電容量が所定容量であることを判定することができる。
【0018】
第6の手段では、前記2次電池が満充電となったことを判定する満充電判定部と、前記容量判定部により前記2次電池の蓄電容量が前記所定容量であることが判定された第1タイミング及び前記満充電判定部により前記2次電池が満充電状態となったことが判定された第2タイミングの間に前記2次電池に対して流入及び流出する電流の積算量と、前記所定容量とを用いて前記2次電池の放電容量を算出する放電容量算出部と、を備える。
【0019】
2次電池では、劣化により2次電池の劣化状態を示す放電容量が減少する。一方、所定容量は、2次電池の劣化により変化しない量である。上記構成では、2次電池の劣化により変化しない所定容量を用いて放電容量を算出することで、2次電池の放電容量を適正に算出することができる。
【0020】
第7の手段では、前記2次電池は、前記2次電池の蓄電容量の変化に伴う前記2次電池の開路電圧の変化が小さいプラトー領域を有するものであり、前記所定容量は、前記プラトー領域内に存在する。
【0021】
プラトー領域を有する2次電池では、プラトー領域においてSOC-OCV特性を用いて蓄電容量を算出することが難しい。その点、上記構成では、プラトー領域に反応熱量の変化が生じる所定容量が存在するため、この所定容量を用いてプラトー領域において2次電池の蓄電容量を適正に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係るバッテリ制御装置の全体構成図。
【
図3】第1実施形態に係る判定処理のフローチャート。
【
図4】第1実施形態の判定処理の一例を示すタイムチャート。
【
図5】第1実施形態の判定処理の別例を示すタイムチャート。
【
図6】第2実施形態に係るバッテリ制御装置の全体構成図。
【
図8】第2実施形態に係る判定処理のフローチャート。
【
図9】バッテリの劣化に伴う放電容量の変化を示す図。
【
図10】第3実施形態に係る判定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る電池監視装置を、車載のバッテリ制御装置100に適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係るバッテリ制御装置100は、バッテリ40の蓄電容量や充放電状態を監視する装置である。バッテリ40は、充放電可能な蓄電池(2次電池)であり、具体的には、複数のリチウムイオン蓄電池41が直列接続された組電池である。本実施形態では、リチウムイオン蓄電池41として、正極活物質にリン酸鉄リチウム、負極活物質に黒鉛を使用したものが用いられている。
【0025】
バッテリ40は、インバータ20を介して、回転電機10に接続されている。回転電機10は、バッテリ40との間で電力の入出力を行うものであり、力行時には、バッテリ40から供給される電力により車両に推進力を付与し、回生時には、車両の減速エネルギーを用いて発電を行い、バッテリ40に電力を出力する。
【0026】
バッテリ制御装置100は、電圧センサ30と、電流センサ31と、第1~第4リレースイッチ32~35と、電池監視装置としてのBMU(Battery Management Unit)50と、を備えている。
【0027】
電圧センサ30は、バッテリ40を構成するリチウムイオン蓄電池41それぞれの端子間電圧を検出し、これらの端子間電圧を合計したバッテリ電圧VBを検出する。電流センサ31は、バッテリ40とインバータ20とを接続する接続線LC上に設けられており、バッテリ40に対して流入及び流出する電流である充放電電流ISの大きさと向きを検出する。各センサの検出値は、BMU50に入力される。
【0028】
バッテリ40は、第1,第2外部充電端子TA,TBを介して車外充電器200に接続可能に構成されている。車外充電器200は、例えばDC急速充電器である。バッテリ40は、第1,第2外部充電端子TA,TBに車外充電器200が接続されると、車外充電器200から入力される高圧の直流電力により定電流充電又は定電圧充電される。
【0029】
第1,第2外部充電端子TA,TBは、第1,第2充電経路LA,LBを介して接続線LCに接続されている。具体的には、第1外部充電端子TAは、第1充電経路LAを介して、接続線LCにおけるバッテリ40の正極端子とインバータ20との間の第1接点PAに接続されている。第2外部充電端子TBは、第2充電経路LBを介して、接続線LCにおけるバッテリ40の負極端子とインバータ20との間の第2接点PBに接続されている。
【0030】
第1リレースイッチ32は、接続線LCにおける第1接点PAとインバータ20との間に設けられており、第2リレースイッチ33は、接続線LCにおける第2接点PAとインバータ20との間に設けられている。第1,第2リレースイッチ32,33は、バッテリ40と回転電機10との接続状態を切り替える。また、第3リレースイッチ34は、第1充電経路LAに設けられており、第4リレースイッチ35は、第2充電経路LBに設けられている。第3,第4リレースイッチ34,35は、バッテリ40と車外充電器200との接続状態を切り替える。
【0031】
BMU50は、CPU、ROM及びRAMなどから構成される制御装置である。BMU50は、各センサから入力された検出値に基づいて、バッテリ40の蓄電容量を算出する。BMU50は、算出されたバッテリ40の蓄電容量に基づいて、バッテリ40の劣化状態を示す放電容量を算出する。
【0032】
また、BMU50は、第1~第4リレースイッチ32~35に接続されており、バッテリ40の蓄電容量に基づいて、第1~第4リレースイッチ32~35の接続状態を切り替える。さらに、BMU50は、車載ネットワークインタフェース51を介して、走行制御ECU70と通信可能に接続されており、バッテリ40の蓄電容量に基づいて回転電機10を制御する指令を走行制御ECU70に出力する。走行制御ECU70は、BMU50からの指令に基づき、回転電機10の制御量をその指令に従って制御すべく、インバータ20を制御する。制御量は、例えばトルクである。
【0033】
ところで、バッテリ40の蓄電容量を算出する方法として、バッテリ40の蓄電状態を示すSOC(State Of Charge)と開路電圧OCVとの相関関係を示すSOC-OCV特性を用いる方法が知られている。しかし、本実施形態では、バッテリ40を構成するリチウムイオン蓄電池41として、正極活物質にリン酸鉄リチウム、負極活物質に黒鉛を使用したものを用いている。これらの活物質を用いた蓄電池では、SOCの広い範囲で開路電圧OCVが安定しており、SOCの変化に伴う開路電圧OCVの変化が小さい領域、すなわちプラトー領域PRを有する。プラトー領域PRでは、SOC-OCV特性を用いて蓄電池のSOCを算出し、蓄電容量を算出することが難しい。
【0034】
SOC-OCV特性を用いずにバッテリ40の蓄電容量を算出する技術として、バッテリ40の充放電電流ISを積算して蓄電容量を算出する技術が知られている。ただし、電流積算による蓄電容量の算出では、電流積算期間が長期化すると積算誤差が蓄積され、蓄電容量の算出精度が低下する問題が生じる。
【0035】
蓄電池では、通電に伴い蓄電容量が変化する際に、反応熱量WRの変化が生じる。反応熱量WRとは、下記の式(1)に示すように、通電に伴う蓄電池の発熱量WBから蓄電池のインピーダンス成分によるジュール熱WJを除いたものである。反応熱量WRは、蓄電池の温度TM、充放電電流IS、及び単位温度当たりの開路電圧OCVの変化量である電圧変化量ΔOCVを用いて、下記の式(2)のように表される。
【0036】
WB=WJ+WR・・・(1)
WR=TM×IS×ΔOCV・・・(2)
式(2)によれば、反応熱量WRは電圧変化量ΔOCVに比例する。この電圧変化量ΔOCVは、蓄電池の蓄電容量毎に値を持ち、蓄電池の中には、蓄電容量が変化した時に、電圧変化量ΔOCVが変化する蓄電池が存在する。このような蓄電池では、蓄電容量が変化すれば、反応熱量WRが変化するため、温度TMが変化する。また、蓄電池では、温度TMとインピーダンス値RAとが相関関係を有する。そのため、蓄電池の温度TMが変化すると、蓄電池のインピーダンス値RAが変化する。
【0037】
蓄電池では、使用される活物質等により、比較的大きな電圧変化量ΔOCVが生じる所定容量が予め定められている。
図2に、本実施形態のバッテリ40における蓄電容量と電圧変化量ΔOCVとの関係を示す。
図2に示すように、バッテリ40では、所定容量として第1容量QAと第2容量QBとを有しており、蓄電容量が低容量側から第1容量QAに増加する場合に電圧変化量ΔOCVが急増し、蓄電容量が第1容量QAとなると電圧変化量ΔOCVの増加が飽和傾向になる。また、蓄電容量が低容量側から第2容量QBに増加する場合に電圧変化量ΔOCVが急減し、蓄電容量が第2容量QBとなると電圧変化量ΔOCVの減少が飽和傾向になる。
【0038】
第1,第2容量QA,QBでは、電圧変化量ΔOCVの変化が急峻であることからインピーダンス値RAの変化が大きくなる。本発明者らは、この点に着目し、バッテリ40の蓄電容量を算出する方法を見出した。
【0039】
具体的には、BMU50は、通電時にバッテリ40のインピーダンス値変化HAを取得する。BMU50は、充放電電流ISが変化したときのバッテリ電圧VBの変化量ΔVBを充放電電流ISの変化量ΔISで割ってインピーダンス値RAを算出する。そして、単位時間当たりのインピーダンス値RAの変化量であるインピーダンス値変化HAを算出する。BMU50は、このインピーダンス値変化HAに基づいて、バッテリ40の蓄電容量が第1,第2容量QA,QBであることを判定する判定処理を実施する。判定処理によれば、バッテリ40の第1,第2容量QA,QBにおけるインピーダンス値変化HAを用いてバッテリ40の蓄電容量を算出することができ、SOC-OCV特性を用いずにバッテリ40の蓄電容量を適正に算出できる。
【0040】
そして、本実施形態のバッテリ40では、
図4,
図5に示すように、プラトー領域PR内に第1,第2容量QA,QBが存在している。そのため、SOC-OCV特性を用いて蓄電池のSOCを算出することが難しいプラトー領域PRにおいて、バッテリ40の蓄電容量を適正に算出できる。
【0041】
図3に、本実施形態の判定処理のフローチャートを示す。BMU50は、バッテリ40の通電時に、所定の制御周期毎に判定処理を繰り返し実施する。
【0042】
判定処理を開始すると、まずステップS10では、充放電電流ISが閾値電流以上変化したか否かを判定する。ステップS10で否定判定すると、判定処理を終了する。一方、ステップS10で肯定判定すると、ステップS11に進む。
【0043】
ステップS11では、上述の方法によりバッテリ40のインピーダンス値RAを算出する。続くステップS12では、ステップS11で算出されたインピーダンス値RAを用いてインピーダンス値変化HAを算出し、ステップS13,S14に進む。なお、本実施形態において、ステップS12の処理が「取得部」に相当する。
【0044】
ステップS13,S14では、ステップS12で算出されたインピーダンス値変化HAに基づいて、バッテリ40の蓄電容量が第1,第2容量QA,QBであることを判定する。具体的には、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAを算出し、その時間変化量ΔHAの絶対値が閾値α,β(α,β>0)よりも大きいか否かを判定する。なお、本実施形態において、ステップS13,S14の処理が「容量判定部」に相当する。
【0045】
ステップS13では、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAの絶対値が閾値αよりも大きく、且つ通電に伴ってインピーダンス値変化HAが減少しているか否かを判定する。第1容量QAでは、電圧変化量ΔOCVの変化に伴って、充電時には高容量側で低容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が大きく、放電時には低容量側で高容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が大きくなる。つまり、第1容量QAでは、通電に伴ってインピーダンス値変化HAが減少し、これにより時間変化量ΔHAが閾値-αよりも小さくなるため、ステップS13で肯定判定する。この場合、ステップS15において、バッテリ40の蓄電容量が第1容量QAであることを判定し、ステップS18に進む。一方、ステップS13で否定判定すると、ステップS14に進む。
【0046】
ステップS14では、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAの絶対値が閾値βよりも大きく、且つ通電に伴ってインピーダンス値変化HAが増加しているか否かを判定する。なお、閾値βは、閾値αと等しくてもよければ、異なっていてもよい。第2容量QBでは、電圧変化量ΔOCVの変化に伴って、充電時には高容量側で低容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が小さく、放電時には低容量側で高容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が小さくなる。つまり、第2容量QBでは、通電に伴ってインピーダンス値変化HAが増加し、これにより時間変化量ΔHAが閾値βよりも大きくなるため、ステップS14で肯定判定する。この場合、ステップS16において、バッテリ40の蓄電容量が第2容量QBであることを判定し、ステップS18に進む。一方、ステップS14で否定判定すると、ステップS17に進む。
【0047】
ステップS17では、電流積算によりバッテリ40の蓄電容量を算出し、判定処理を終了する。ステップS17では、充放電電流ISを積算することでバッテリ40の蓄電容量を算出容量QMとして算出する。具体的には、ステップS17では、前回の判定処理から今回の判定処理までの間にバッテリ40に対して流入及び流出した充放電電流ISを積算し、この積算した値を前回の判定処理における算出容量QMに加算する。
【0048】
ステップS18では、算出容量QMをステップS15,S16で判定された第1,第2容量QA,QBに補正し、判定処理を終了する。なお、本実施形態において、ステップS17,S18の処理が「算出容量算出部」に相当する。
【0049】
続いて、
図4,
図5に、判定処理の一例を示す。
図4には、車外充電器200を用いてバッテリ40を定電圧充電した場合における算出容量QMの推移が示されている。
図4,
図5において、(A)は、開路電圧OCVの推移を示し、(B)は、算出容量QMの推移を示し、(C)は、インピーダンス値RAの推移を示し、(D)は、インピーダンス値変化HAの推移を示し、(E)は、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAの推移を示す。
【0050】
なお、
図4(B),
図5(B)では、正確な蓄電容量が破線で示されており、この蓄電容量に対して高容量側の積算誤差が蓄積された算出容量QMが第1算出容量QM1として実線で示されており、低容量側の積算誤差が蓄積された算出容量QMが第2算出容量QM2として実線で示されている。また、本実施形態では、バッテリ40のインピーダンス値RAのうち、その実数成分である抵抗値を用いる例が示されており、
図4(C),
図5(C)では、抵抗値の推移が示されている。
【0051】
図4に図示される例では、時刻t1に、バッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PRよりも低容量である状態で定電圧充電が開始される。時刻t1では、バッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PR内に存在しないため、第1,第2算出容量QM1,QM2は、SOC-OCV特性を用いて補正される。そして、定電圧充電が開始されると、第1,第2算出容量QM1,QM2及び開路電圧OCVが増加する。第1,第2算出容量QM1,QM2は、電流積算により算出されるため、時刻t1からの経過時間の増加とともに積算誤差ΔQが増加する。開路電圧OCVは、その後の時刻t2にバッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PRの下限容量に到達すると、増加を停止して略一定に維持される。
【0052】
インピーダンス値RAは、時刻t1からの経過時間の増加とともに所定の第1インピーダンス値変化HA1で減少する。その後の時刻t3に、蓄電容量が第1容量QAとなると、インピーダンス値RAのインピーダンス値変化HAが第1インピーダンス値変化HA1から所定の第2インピーダンス値変化HA2に減少する。これにより、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAが閾値-αよりも小さくなると、BMU50は、蓄電容量が第1容量QAであることを判定し、この時刻t3に第1,第2算出容量QM1,QM2を第1容量QAに補正する。
【0053】
その後の時刻t4に、蓄電容量が第2容量QBとなると、インピーダンス値RAのインピーダンス値変化HAが第2インピーダンス値変化HA2から所定の第3インピーダンス値変化HA3に増加する。これにより、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAが閾値βよりも大きくなると、BMU50は、蓄電容量が第2容量QBであることを判定し、この時刻t4に第1,第2算出容量QM1,QM2を第2容量QBに補正する。
【0054】
開路電圧OCVは、その後の時刻t5にバッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PRの上限容量に到達すると、再び増加する。そして、その後の時刻t6に開路電圧OCVが所定の充電上限電圧VUthに到達すると、BMU50は、バッテリ40が満充電状態であることを判定し、この時刻t6にバッテリ40の定電圧充電を終了する。
【0055】
また、
図5には、回転電機10によりバッテリ40を放電した場合における算出容量QMの推移が示されている。
図5に図示される例では、時刻t11に、バッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PRよりも高容量である状態で放電が開始される。時刻t11では、バッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PR内に存在しないため、第1,第2算出容量QM1,QM2は、SOC-OCV特性を用いて補正される。そして、放電が開始されると、第1,第2算出容量QM1,QM2及び開路電圧OCVが減少する。開路電圧OCVは、その後の時刻t12にバッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PRの上限容量に到達すると、減少を停止して略一定に維持される。
【0056】
インピーダンス値RAは、時刻t11からの経過時間の増加とともに所定の第4インピーダンス値変化HA4で減少する。その後の時刻t13に、蓄電容量が第2容量QBとなると、インピーダンス値RAのインピーダンス値変化HAが第4インピーダンス値変化HA4から所定の第5インピーダンス値変化HA5に増加する。これにより、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAが閾値βよりも大きくなると、BMU50は、蓄電容量が第2容量QBであることを判定し、この時刻t13に第1,第2算出容量QM1,QM2を第2容量QBに補正する。
【0057】
その後の時刻t14に、蓄電容量が第1容量QAとなると、インピーダンス値RAのインピーダンス値変化HAが第5インピーダンス値変化HA5から所定の第6インピーダンス値変化HA6に減少する。これにより、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAが閾値-αよりも小さくなると、BMU50は、蓄電容量が第1容量QAであることを判定し、この時刻t14に第1,第2算出容量QM1,QM2を第1容量QAに補正する。
【0058】
開路電圧OCVは、その後の時刻t15にバッテリ40の蓄電容量がプラトー領域PRの下限容量に到達すると、再び減少する。そして、その後の時刻t16に開路電圧OCVが所定の放電下限電圧VDthに到達すると、BMU50は、バッテリ40が完放電状態であることを判定し、この時刻t16にバッテリ40の放電を終了する。
【0059】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0060】
・本実施形態では、通電時にバッテリ40のインピーダンス値変化HAを算出し、このインピーダンス値変化HAに基づいて、バッテリ40の蓄電容量が第1,第2算出容量QM1,QM2であることを判定する。バッテリ40の第1,第2算出容量QM1,QM2におけるインピーダンス値変化HAを用いてバッテリ40の蓄電容量を算出することができ、SOC-OCV特性を用いずにバッテリ40の蓄電容量を適正に算出できる。
【0061】
・特に本実施形態では、バッテリ40がプラトー領域PRを有しており、このプラトー領域PRに第1,第2算出容量QM1,QM2が存在する。そのため、SOC-OCV特性を用いて蓄電容量を算出することが難しいプラトー領域PRにおいて、第1,第2算出容量QM1,QM2を用いてバッテリ40の蓄電容量を適正に算出できる。
【0062】
・本実施形態では、電流積算により第1,第2算出容量QM1,QM2を算出している。電流積算による蓄電容量の算出では、電流積算期間が長期化すると積算誤差ΔQが蓄積され、第1,第2算出容量QM1,QM2の算出精度が低下する。本実施形態では、バッテリ40の第1,第2算出容量QM1,QM2におけるインピーダンス値変化HAを用いてバッテリ40の蓄電容量を算出し、この第1,第2算出容量QM1,QM2を用いて第1,第2算出容量QM1,QM2を補正するため、第1,第2算出容量QM1,QM2の積算誤差ΔQをリセットすることができる。
【0063】
・バッテリ40のインピーダンス値変化HAが変化しても、その変化が微少であればノイズ等によりインピーダンス値変化HAが変化した可能性が高い。上記構成では、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAの絶対値が所定の閾値α,βよりも大きい場合に、バッテリ40の蓄電容量が第1,第2算出容量QM1,QM2であることを判定する。そのため、ノイズ等の影響を抑制してバッテリ40の蓄電容量を適正に算出できる。
【0064】
・蓄電池では、比較的大きな電圧変化量ΔOCVが生じる所定容量を複数有するものが存在する。この場合、インピーダンス値変化HAに基づいて所定容量であることを判定しても、複数の所定容量のうちのどの所定容量であるかを判定できない。
【0065】
その点、本実施形態では、所定容量として第1容量QAと第2容量QBとを有しており、充電時には第1容量QAの高容量側では低容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が大きく、第2容量QBの高容量側では低容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が小さい。また、放電時には第1容量QAの低容量側では高容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が大きく、第2容量QBの低容量側では高容量側よりもインピーダンス値変化HAの絶対値が小さい。つまり、第1容量QAでは、通電に伴ってインピーダンス値変化HAが減少し、第2容量QBでは、通電に伴ってインピーダンス値変化HAが増加する。そのため、所定容量を複数有する2次電池において、このインピーダンス値変化HAの様態の違いを用いて所定容量が第1容量QAであるか第2容量QBであるかを判定することができる。
【0066】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に
図6~
図8を参照しつつ説明する。本実施形態では、バッテリ制御装置100が交流電流発生部としての電流発生回路60を備えている点で第1実施形態と異なる。
【0067】
上述したように、インピーダンス値RAは、充放電電流ISが変化したときのバッテリ電圧VBの変化量ΔVBと電流の変化量ΔISとを用いて算出される。そのため、例えばバッテリ40が定電流充電されている場合には、充放電電流ISが変化しないためインピーダンス値RAが算出されず、インピーダンス値変化HAをすることができない。そのため、インピーダンス値変化HAに基づいてバッテリ40の蓄電容量が第1,第2算出容量QM1,QM2であることを判定することができない。
【0068】
そこで、本実施形態のバッテリ制御装置100は、電流発生回路60を備える。電流発生回路60は、回転電機10及び車外充電器200による充放電電流ISとは別に、インピーダンス値RAを算出するための交流電流IAを発生させる。
図6に示すように、電流発生回路60は、バッテリ40を構成するリチウムイオン蓄電池41それぞれの両端に接続されている。電流発生回路60は交流電源を有しており、この交流電源を用いて各リチウムイオン蓄電池41に対して個別に交流電圧を印加し、交流電流IAを発生させる。
【0069】
BMU50は、電流発生回路60に接続されており、各リチウムイオン蓄電池41に対して交流電流IAが発生している状態と発生していない状態とを切り替える。これにより、充放電電流ISに交流電流IAが重畳する状態と重畳していない状態とが切り替えられる。
【0070】
図7に、充放電電流ISと交流電流IAとの重畳を示す。本実施形態において、交流電流IAは正弦波として設定される。正弦波の周波数は1kHz以下にするのが好ましい。1kHz以下では、温度依存性が顕著なイオン伝導性成分のインピーダンス値RAが取得されるためである。
図7に示すように、交流電流IAの振幅は、充放電電流ISの絶対値に比べて微少な値である。本実施形態の判定処理では、交流電流IAにより充放電電流ISが変化したときにインピーダンス値変化HAが算出される。つまり、電流発生回路60による交流電流IAの発生時にインピーダンス値変化HAが算出される。
【0071】
図8に、本実施形態の判定処理のフローチャートを示す。なお、
図6において、先の
図3に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0072】
図8に示すように、本実施形態の判定処理では、判定処理を開始すると、まずステップS21では、充放電電流ISに交流電流IAを重畳させ、ステップS11,S12に進む。この場合、ステップS12では、ステップS21による交流電流IAの重畳時にインピーダンス値変化HAが算出される。なお、本実施形態において、ステップS21の処理が「交流電流発生部」に相当する。
【0073】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0074】
・本実施形態では、充放電電流ISに交流電流IAを重畳させる電流発生回路60が備えられている。電流発生回路60を用いることで交流電流IAを用いて充放電電流ISを変化させることができるため、例えばバッテリ40が定電流充電されている場合など、重畳前における充放電電流ISの変化が小さい場合でもバッテリ40の蓄電容量を適正に算出することができる。
【0075】
・本実施形態では、充放電電流ISに重畳させる電流として交流電流IAを用いる。そのため、直流電流を用いる場合に比べてEMC特定の低下を抑制することができる。
【0076】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に
図9,
図10を参照しつつ説明する。本実施形態では、判定処理において、バッテリ40の放電容量を算出放電容量QHとして算出する点で第1実施形態と異なる。放電容量は、バッテリ40の満充電状態における蓄電容量であり、バッテリ40の劣化により減少する。
【0077】
図9に、バッテリ40の劣化に伴う放電容量の変化を示す。
図7では、バッテリ40の製造時における蓄電容量と電圧変化量ΔOCVとの関係が実線で示されており、バッテリ40の使用開始後における蓄電容量と電圧変化量ΔOCVとの関係が破線で示されている。
図7に矢印YAで示すように、バッテリ40では、劣化に伴って放電容量が減少する。一方、バッテリ40では、放電容量が減少しても第1,第2容量QA,QBが変化しない。本実施形態では、この点に着目して、第2容量QBに基づいて算出放電容量QHを算出する。
【0078】
図8に、本実施形態の判定処理のフローチャートを示す。
図8には、バッテリ40の充電中に算出放電容量QHを算出する判定処理のフローチャートを示す。なお、
図8において、先の
図3に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0079】
図8に示すように、本実施形態の判定処理では、ステップS15でバッテリ40の蓄電容量が第1容量QAであることを判定すると、ステップS18において、第1容量QAに算出容量QMを補正し、判定処理を終了する。
【0080】
また、ステップS16でバッテリ40の蓄電容量が第2容量QBであることを判定すると、ステップS31において、第2容量QBに算出容量QMを補正する。続くステップS32では、バッテリ40が充電中であるか否かを判定する。バッテリ40が充電中であるか否かの判定は、電流センサ31により検出される充放電電流ISの向きにより判定される。ステップS32で否定判定すると、判定処理を終了する。一方、ステップS32で肯定判定すると、ステップS33に進む。
【0081】
ステップS33では、満充電フラグFAをオンし、ステップS34に進む。満充電フラグFAは、バッテリ40の蓄電容量が第2容量QB以上であり、且つバッテリ40が充電中であることを示すフラグであり、上記2つの条件が満たされた場合にオンされる。
【0082】
ステップS34では、電流積算による加算容量QDの算出を開始し、判定処理を終了する。加算容量QDは、バッテリ40の蓄電容量が第2容量QBであることが判定されたタイミングから、バッテリ40が満充電状態となったことが判定されたタイミングまでの間にバッテリ40に対して流入及び流出する充放電電流ISの積算量である。なお、本実施形態において、ステップS16の処理のタイミングが「第1タイミング」に相当する。
【0083】
また、ステップS17で電流積算により算出容量QMを算出すると、ステップS35において、満充電フラグFAがオンであるか否かを判定する。ステップS35で否定判定すると、判定処理を終了する。一方、ステップS35で肯定判定すると、ステップS36に進む。
【0084】
ステップS36では、バッテリ40が満充電状態であるか否かを判定する。ステップS36で否定判定すると、ステップS37に進む。ステップS37では、電流積算により加算容量QDを算出し、判定処理を終了する。
【0085】
一方、ステップS36で肯定判定すると、ステップS38に進む。ステップS38では、第2容量QBに加算容量QDを加算して算出放電容量QHを算出する。続くステップS39では、満充電フラグFAをオフし、判定処理を終了する。なお、本実施形態において、ステップS36の処理が「満充電判定部」に相当し、ステップS38の処理が「放電容量算出部」に相当する。また、ステップS36の肯定判定のタイミングが「第2タイミング」に相当する。
【0086】
以上詳述した本実施形態によれば、第2容量QBを用いて算出放電容量QHを算出する。バッテリ40では、劣化によりバッテリ40の放電容量が減少する。一方、第2容量QBは、バッテリ40の劣化により変化しない。そのため、バッテリ40の劣化により変化しない第2容量QBを用いて算出放電容量QHを算出することで、算出放電容量QHを適正に算出することができる。
【0087】
(その他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、次のように実施されてもよい。
【0088】
・上記実施形態では、判定処理において、インピーダンス値変化HAの時間変化量ΔHAの絶対値を閾値α,βと比較する例を示したが、これに限られない。例えば、時間変化量ΔHAそのものを閾値-α,βと比較するようにしてもよい。
【0089】
・上記実施形態では、判定処理において、第1,第2容量QA,QBを用いて算出容量QMを補正する場合に、第1,第2容量QA,QBを算出容量QMに補正する例を示したが、これに限られない。例えば、バッテリ40の充電中であれば、実際に補正が行われるまでの充電による蓄電容量の増加分を考慮して、算出容量QMを、第1,第2容量QA,QBに当該増加分を加算したものに補正するようにしてもよい。また例えば、バッテリ40の放電中であれば、実際に補正が行われるまでの放電による蓄電容量の減少分を考慮して、算出容量QMを、第1,第2容量QA,QBに当該減少分を減算したものに補正するようにしてもよい。
【0090】
・上記実施形態では、判定処理に用いるインピーダンス値として、インピーダンス値の実数成分である抵抗値を用いる例を示したが、これに限らない。例えば、インピーダンス値の虚数成分を用いてもよければ、インピーダンス値の位相、つまり充放電電流ISとバッテリ電圧VBとの位相差を用いてもよい。さらには、インピーダンス値の絶対値を用いてもよい。
【0091】
・上記第2実施形態では、充放電電流ISに重畳させる交流電流IAの波形として、正弦波を例示したが、これに限られず、台形波又は矩形波などの周期波であってもよい。
【0092】
・上記第2実施形態では、インピーダンス値RAを算出する場合にのみバッテリ40に交流電流IAを印加する例を示したが、これに限られない。例えば、バッテリ40に常時交流電流IAを印加するようにしてもよい。この場合、BMU50による電流発生回路60の制御が不要となる。
【0093】
・上記第2実施形態では、電流発生回路60で発生させる正弦波の周波数を1kHz以下とし、温度依存性が顕著なイオン伝導性成分のインピーダンス値RAを取得する例を示したが、これに限らない。周波数を1kHzより高くしてもよい。周波数を1kHzより高くした場合でも、1kHz以下とした場合と同様に、インピーダンス値RAは電池温度が高くなるにつれて低下する特性を有する。そのため、周波数を1kHzより高くした場合でもインピーダンス値RAを取得することができる。
【0094】
・上記第2実施形態では、充放電電流ISに正弦波の交流電流IAを重畳する際、交流電流IAの振幅を振幅WAとすると、重畳後の電流の極大値が充放電電流IS+振幅WAとなり、極小値が充放電電流IS-振幅WAとなる例を示したが、これに限らない。例えば、極大値が充放電電流ISとなり、極小値が充放電電流IS-2×振幅WAとなるように交流電流IAを調整してもよければ、極大値が充放電電流IS+2×振幅WAとなり、極小値が充放電電流ISとなるように交流電流IAを調整してもよい。
【0095】
・上記第3実施形態では、判定処理において、バッテリ40を充電する場合に算出放電容量QHを算出する例を示したが、バッテリ40を放電する場合に算出放電容量QHを算出するようにしてもよい。例えば、満充電状態からバッテリ40を放電する場合に、放電開始から、バッテリ40の蓄電容量が第2容量QBであることが判定されるまでの加算容量QDを算出し、第2容量QBに加算容量QDを加算して算出放電容量QHを算出するようにしてもよい。この場合、放電開始のタイミングが「第2タイミング」に相当する。
【0096】
・上記実施形態では、算出容量QMを算出する方法として、電流積算によるものを例示したが、これに限られず、バッテリ40の蓄電容量を算出する周知の技術を用いることができる。
【0097】
・上記実施形態では、バッテリ40としてプラトー領域PRを有する蓄電池を用いる例を示したが、プラトー領域PRを有しない蓄電池に対して、本実施形態の技術が用いられてもよい。
【0098】
・上記実施形態では、第1容量QAと第2容量QBとの2つの所定容量を有するバッテリ40を用いる例を示したが、これに限られない。バッテリ40における所定容量の数や大きさは、バッテリ40に用いられる正極活物質及び負極活物質により変動する。本実施形態の技術は、バッテリ40における所定容量の数や大きさに関わらず適用することが可能である。
【0099】
・上記実施形態では、2次電池のインピーダンス値変化として単位時間当たりの変化量を用いる例を示したが、これに限られない。例えば、単位容量当たりの変化量を用いてもよい。
【0100】
・本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0101】
40…バッテリ、50…BMU。