(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/393 20170101AFI20241126BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20241126BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20241126BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241126BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20241126BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241126BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20241126BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20241126BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B29C64/393
B33Y50/02
B29C64/106
B33Y10/00
B29C64/209
B33Y30/00
B22F3/16
B22F3/105
B28B1/30
(21)【出願番号】P 2020214758
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲角▼谷 彰彦
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-086829(JP,A)
【文献】特開2020-131700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/393
B33Y 50/02
B29C 64/106
B33Y 10/00
B29C 64/209
B33Y 30/00
B22F 3/16
B22F 3/105
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形装置であって、
ステージと、
溶融した材料を前記ステージに向かって吐出する吐出部と、
前記ステージと前記吐出部との相対的な位置を変更する位置変更部と、
前記ステージに吐出された前記材料の温度を調整する温度調整部と、
前記ステージに吐出された前記材料の温度を計測する温度センサーと、
前記材料の温度と前記材料の粘度との関係を表す第1関係データが記憶された記憶部と、
前記吐出部と前記位置変更部と前記温度調整部とを制御することによって、前記ステージ上に第1造形物と第2造形物とを形成する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第1造形物を造形する第1制御と、
前記温度センサーによって計測される前記第1造形物の温度と前記第1関係データとに基づいて算出される前記第1造形物の粘度が予め定められた粘度以下になるように、前記温度センサーによって前記第1造形物の温度を計測しつつ前記温度調整部の出力を調整する第2制御と、
前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第2造形物
の最外殻を形成する第1部分を形成する第3制御と、
前記第2制御において調整された出力で前記温度調整部によって前記第1部分の温度を調整しつつ前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第2造形物のうちの前記第1部分に隣り合う部分である第2部分を形成する第4制御と、を実行する、
三次元造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元造形装置であって、
前記温度調整部は、前記ステージを均一に加熱するヒーターによって構成されている、
三次元造形装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の三次元造形装置であって、
前記温度調整部は、前記吐出部に固定されている、
三次元造形装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の三次元造形装置であって、
前記温度調整部の外周縁は、前記吐出部から前記ステージに向かう方向に視たときに、前記ステージが前記吐出部に対して相対的に移動する領域の外側に配置される、
三次元造形装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の三次元造形装置であって、
前記記憶部には、前記材料の温度と、前記材料によって形成された部分同士の間の剥離強度との関係を表す第2関係データが記憶されており、
前記制御部は、前記第2制御にて、前記温度センサーによって計測される前記第1造形物の温度と前記第1関係データとに基づいて算出される前記第1造形物の粘度が予め定められた粘度以下になり、かつ、前記温度センサーによって計測される前記第1造形物の温度と前記第2関係データとに基づいて算出される前記剥離強度が予め定められた強度以上になるように、前記温度センサーによって前記第1造形物の温度を計測しつつ前記温度調整部の出力を調整する、
三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶融樹脂を押し出しながら多段に積層する装置が開示されている。この装置は、層間の溶着強度を高めるために、加熱ユニットによって加熱された前の段の層の上に吐出ユニットから溶融樹脂を押し出して層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元造形物を寸法精度良く造形するためには層の厚みが薄いことが好ましい。層の厚みを薄くすると層の熱容量が小さくなるので、層が冷えて硬化しやすくなる。上記文献のように上下に隣り合う層のうちの上側の層を造形する際に下側の層を加熱したとしても、上側の層を造形している間に上側の層の一部が冷えて硬化する可能性がある。そのため、硬化した部分に隣接する部分を造形する際に、硬化した部分にノズルが接触して、三次元造形物の形状が崩れる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、ステージと、溶融した材料を前記ステージに向かって吐出する吐出部と、前記ステージと前記吐出部との相対的な位置を変更する位置変更部と、前記ステージに吐出された前記材料の温度を調整する温度調整部と、前記ステージに吐出された前記材料の温度を計測する温度センサーと、前記材料の温度と前記材料の粘度との関係を表す第1関係データが記憶された記憶部と、前記吐出部と前記位置変更部と前記温度調整部とを制御することによって、前記ステージ上に第1造形物と第2造形物とを形成する制御部と、を備える。前記制御部は、前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第1造形物を造形する第1制御と、前記温度センサーによって計測される前記第1造形物の温度と前記第1関係データとに基づいて算出される前記第1造形物の粘度が予め定められた粘度以下になるように、前記温度センサーによって前記第1造形物の温度を計測しつつ前記温度調整部の出力を調整する第2制御と、前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第2造形物のうちの第1部分を形成する第3制御と、前記第2制御において調整された出力で前記温度調整部によって前記第1部分の温度を調整しつつ前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第2造形物のうちの前記第1部分に隣り合う部分である第2部分を形成する第4制御と、を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態の三次元造形装置の概略構成を示す斜視図。
【
図2】第1実施形態の三次元造形装置の概略構成を示す断面図。
【
図9】第1実施形態の三次元造形処理の内容を示すフローチャート。
【
図10】第1造形物および第2造形物が形成される様子を模式的に示す説明図。
【
図12】
第2実施形態の第2関係データの一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における三次元造形装置100の概略構成を示す斜視図である。
図2は、第1実施形態における三次元造形装置100の概略構成を示す断面図である。
図1および
図2には、互いに直交するX,Y,Z方向を示す矢印が示されている。X方向およびY方向は、水平面に平行な方向であり、Z方向は、重力方向とは反対の方向である。X,Y,Z方向を示す矢印は、他の図においても、図示の方向が
図1や
図2と対応するように適宜、図示してある。以下の説明において、向きを特定する場合には、矢印の指し示す方向である正の方向を「+」、矢印の指し示す方向とは反対の方向である負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。
【0008】
図1に示すように、本実施形態では、三次元造形装置100は、造形部200と、温度調整部210と、温度センサー220と、ステージ300と、位置変更部400と、制御部500とを備えている。三次元造形装置100は、制御部500の制御下で、造形部200に設けられたノズル61からステージ300に向かって造形材料を吐出しながら位置変更部400によってノズル61とステージ300との相対的な位置を変化させることによって、ステージ300上に造形材料を積層して、三次元形状を有する第1造形物OB1および第2造形物OB2を形成する。
【0009】
図2に示すように、造形部200は、材料MRの供給源である材料供給部20と、材料MRを可塑化して造形材料にする可塑化部30と、上述したノズル61を有する吐出部60とを備えている。「可塑化」とは、熱可塑性を有する材料に熱が加わり溶融することを意味する。「溶融」とは、熱可塑性を有する材料が融点以上の温度に加熱されて液状になることのみならず、熱可塑性を有する材料がガラス転移点以上の温度に加熱されることにより軟化し、流動性が発現することをも意味する。
【0010】
材料供給部20は、造形材料を生成するための材料MRを可塑化部30に供給する。本実施形態では、材料供給部20は、材料MRを収容するホッパーによって構成されている。材料供給部20の下方には排出口が設けられており、この排出口は、供給路22を介して可塑化部30に接続されている。本実施形態では、材料MRとして、ペレット状に形成されたABS樹脂が用いられる。
【0011】
可塑化部30は、材料供給部20から供給路22を介して供給された材料MRを可塑化して造形材料にして、吐出部60に供給する。可塑化部30は、スクリューケース31と、駆動モーター32と、フラットスクリュー40と、バレル50と、可塑化ヒーター58とを備えている。
【0012】
スクリューケース31は、フラットスクリュー40を収容する筐体である。スクリューケース31の下端部にはバレル50が固定されており、スクリューケース31とバレル50とによって囲まれた空間にフラットスクリュー40が収容されている。スクリューケース31の上面には、駆動モーター32が固定されている。
【0013】
フラットスクリュー40は、その中心軸RXに沿った方向の高さが直径よりも小さい略円柱形状を有している。フラットスクリュー40は、中心軸RXがZ方向に平行になるようにスクリューケース31内に配置されている。フラットスクリュー40は、バレル50に対向する下端部に、溝部45が形成された溝形成面42を有している。フラットスクリュー40には、溝形成面42とは反対側の上端部に駆動モーター32が接続されている。駆動モーター32が発生させるトルクによって、フラットスクリュー40は、スクリューケース31内にて中心軸RXを中心に回転する。駆動モーター32は、制御部500の制御下で駆動される。
【0014】
図3は、本実施形態におけるフラットスクリュー40の構成を示す斜視図である。
図3には、技術の理解を容易にするために、
図2とは上下逆向きにフラットスクリュー40が表されている。
図3には、フラットスクリュー40の中心軸RXの位置が一点鎖線で示されている。
【0015】
フラットスクリュー40の溝形成面42のうちの中心軸RXと交差する中央部47は、溝部45の一端が接続されている窪みとして構成されている。中央部47は、
図2に表されたバレル50の連通孔56に対向する。
【0016】
溝部45は、中央部47から、フラットスクリュー40の外周に向かって弧を描くように渦状に延びている。溝部45は、インボリュート曲線状に構成されてもよいし、螺旋状に延びるように構成されてもよい。溝形成面42には、溝部45の側壁部を構成し、各溝部45に沿って延びている凸条部46が設けられている。溝部45は、フラットスクリュー40の側面43に形成された材料導入口44まで連続している。この材料導入口44は、材料供給部20の供給路22を介して供給された材料MRを受け入れる部分である。材料導入口44から溝部45内に導入された材料MRは、フラットスクリュー40の回転によって溝部45内を中央部47に向かって搬送される。
【0017】
図3には、3つの溝部45と、3つの凸条部46とを有するフラットスクリュー40が表されている。フラットスクリュー40に設けられる溝部45や凸条部46の数は、3つには限定されない。フラットスクリュー40には、1つの溝部45のみが設けられてもよいし、2以上の複数の溝部45が設けられてもよい。また、溝部45の数に合わせて任意の数の凸条部46が設けられてもよい。
図3には、材料導入口44が3箇所に形成されたフラットスクリュー40が表されている。フラットスクリュー40に設けられる材料導入口44の位置は、3箇所に限定されない。フラットスクリュー40には、材料導入口44が1箇所にのみ設けられてもよいし、2箇所以上の複数の位置に設けられてもよい。
【0018】
図4は、本実施形態におけるバレル50の構成を示す上面図である。バレル50は、フラットスクリュー40の溝形成面42に対向するスクリュー対向面52を有している。スクリュー対向面52の中央には、吐出部60に連通する連通孔56が設けられている。スクリュー対向面52には、連通孔56の周りに、複数の案内溝54が形成されている。それぞれの案内溝54の一端は、連通孔56に接続されている。それぞれの案内溝54は、連通孔56からスクリュー対向面52の外周に向かって渦状に延びている。それぞれの案内溝54は、造形材料を連通孔56に導く機能を有している。なお、案内溝54の一端は連通孔56に接続されていなくてもよい。また、スクリュー対向面52には、案内溝54が設けられていなくてもよい。
【0019】
図2に示すように、バレル50には、材料MRを加熱するための可塑化ヒーター58が埋め込まれている。本実施形態では、可塑化ヒーター58は、電力の供給を受けて発熱する。可塑化ヒーター58の温度は、制御部500によって制御される。
【0020】
溝部45内を搬送される材料MRは、フラットスクリュー40の回転によるせん断と可塑化ヒーター58からの熱によって可塑化されて、ペースト状の造形材料になる。造形材料は、連通孔56から吐出部60に供給される。
【0021】
吐出部60は、バレル50の下方に設けられている。吐出部60は、ノズル61と、流路65と、吐出量調整部70とを備えている。ノズル61は、-Z方向側の端部に、先端面63を有している。先端面63が水平面に沿うように、ノズル61が設けられている。先端面63の中央には、ノズル孔62が設けられている。ノズル孔62は、流路65を介して、バレル50の連通孔56に連通している。ノズル61は、可塑化部30から供給された造形材料を、ノズル孔62から-Z方向に向かって吐出する。先端面63の形状、および、ノズル孔62の開口形状は、円形形状である。ノズル孔62の直径のことをノズル径と呼ぶ。なお、ノズル孔62の開口形状は、円形ではなく、例えば、楕円形や、四角形等の多角形でもよいし、先端面63の形状は、円形ではなく、例えば、楕円形や、四角形等の多角形でもよい。
【0022】
吐出量調整部70は、ノズル61から吐出される造形材料の量を調節する。以下の説明では、ノズル61から吐出される造形材料の量のことを吐出量と呼ぶ。本実施形態では、吐出量調整部70は、軸状部材である駆動シャフト72と、駆動シャフト72の回転に応じて流路65を開閉する弁体73と、駆動シャフト72を回転させるバルブ駆動部74とを備えている。
【0023】
駆動シャフト72は、造形材料の流れ方向に交差するように流路65の途中に取り付けられている。本実施形態では、駆動シャフト72は、流路65内の造形材料の流れ方向に対して垂直な向きであるY方向に平行になるように取り付けられている。駆動シャフト72は、Y方向に沿った中心軸を中心にして回転可能である。
【0024】
弁体73は、流路65内において回転する部材である。本実施形態では、弁体73は、駆動シャフト72の流路65内に配置されている部位を板状に加工することによって形成されている。弁体73を、その板面に垂直な方向から見たときの形状は、弁体73が配置されている部位における流路65の開口形状とほぼ一致する。
【0025】
バルブ駆動部74は、制御部500の制御下で駆動シャフト72を回転させる。バルブ駆動部74は、例えば、ステッピングモーターによって構成される。駆動シャフト72の回転によって弁体73が流路65内において回転する。
【0026】
流路65における造形材料の流れ方向に対して弁体73の板面が垂直に保持された場合、流路65からノズル61への造形材料の供給が遮断されるので、ノズル61からの造形材料の吐出が停止される。バルブ駆動部74によって駆動シャフト72が回転されて、流路65における造形材料の流れ方向に対して弁体73の板面が鋭角に保持されると、流路65からノズル61への造形材料の供給が開始されて、弁体73の回転角度に応じた吐出量で、造形材料がノズル61から吐出される。
図2に表されているように、流路65における造形材料の流れ方向に対して弁体73の板面が平行に保持された場合、流路65が最も開かれた状態になる。この状態では、吐出量が最大となる。このように、吐出量調整部70は、造形材料の吐出のオンとオフとを切り替えるとともに、吐出量の調節を実現できる。
【0027】
ステージ300は、ノズル61の先端面63に対向する造形面301を有している。造形面301上に第1造形物OB1および第2造形物OB2が形成される。本実施形態では、造形面301は、水平面に平行になるように設けられている。ステージ300は、位置変更部400によって支持されている。
【0028】
ステージ300には、ステージヒーター310が設けられている。本実施形態では、ステージヒーター310は、ステージ300に埋め込まれており、制御部500の制御下で、ステージ300の造形面301を加熱する。
【0029】
位置変更部400は、ノズル61とステージ300との相対的な位置を変化させる。本実施形態では、位置変更部400は、ステージ300をX方向およびY方向に移動させることによって、X方向およびY方向におけるノズル61とステージ300との相対的な位置を変化させ、造形部200をZ方向に沿って移動させることによって、Z方向におけるノズル61とステージ300との相対的な位置を変化させる。本実施形態では、位置変更部400は、ステージ300をX方向に沿って移動させる第1電動アクチュエーター410と、ステージ300と第1電動アクチュエーター410とをY方向に沿って移動させる第2電動アクチュエーター420と、造形部200をZ方向に沿って移動させる第3電動アクチュエーター430とによって構成されている。各電動アクチュエーター410~430は、制御部500の制御下で駆動される。
【0030】
位置変更部400は、ステージ300をZ方向に移動させ、造形部200をX方向およびY方向に沿って移動させることによって、ノズル61とステージ300との相対的な位置を変化させるように構成されてもよい。位置変更部400は、造形部200を移動させずにステージ300をX方向、Y方向およびZ方向に移動させることによって、ノズル61とステージ300との相対的な位置を変化させるように構成されてもよいし、ステージ300を移動させずに造形部200をX方向、Y方向およびZ方向に移動させることによって、ノズル61とステージ300との相対的な位置を変化させるように構成されてもよい。
【0031】
温度調整部210は、ノズル61の外周に配置されている。本実施形態では、温度調整部210は、支持部205を介して、造形部200に固定されている。支持部205は、矩形板状の外形形状を有している。支持部205の中央には、ノズル61が挿通される貫通孔が設けられている。温度調整部210は、ステージ300の造形面301に対して平行に配置されている。位置変更部400が造形部200とステージ300との相対的な位置を変化させることによって、造形部200に固定された温度調整部210とステージ300との相対的な位置が変化する。温度調整部210の面積は、ステージ300の造形面301の面積よりも広い。温度調整部210の外周縁は、ノズル61からステージ300に向かう-Z方向に視たときに、ノズル61に対してステージ300が移動する領域の外側に配置されている。つまり、位置変更部400によって温度調整部210とステージ300との相対的な位置がどのように変化させられても、ステージ300は、温度調整部210の外周縁よりも内側に配置されている。
【0032】
温度調整部210は、制御部500の制御下で、ステージ300上に積層された造形材料の温度を調整する。本実施形態では、温度調整部210は、ステージ300の造形面301の全域を均一に加熱可能に構成されている。温度調整部210は、例えば、ハロゲンヒーターによって構成される。温度調整部210は、ニクロム線ヒーター、または、カーボンヒーターによって構成されてもよいし、熱風を送出するヒーターによって構成されてもよい。
【0033】
温度センサー220は、支持部205の外周端部に固定されている。温度センサー220は、ステージ300上に積層された造形材料の温度を計測する。本実施形態では、温度センサー220は、非接触式の赤外線温度計である。温度センサー220によって計測された温度は、制御部500に送信される。
【0034】
制御部500は、1つまたは複数のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェースとを備えるコンピューターによって構成されている。なお、制御部500は、コンピューターではなく、複数の回路の組み合わせによって構成されてもよい。
【0035】
制御部500は、三次元造形処理を実行する造形実行部510と、各種データを記憶する記憶部520とを有している。造形実行部510は、主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令をプロセッサーが実行することによって、後述する三次元造形処理を実行する。造形実行部510は、三次元造形装置100に接続されたコンピューターやUSBメモリーなどの記憶媒体から取得される造形データを用いて、三次元造形処理を実行する。
【0036】
記憶部520には、第1関係データが記憶されている。第1関係データには、材料MRの温度と材料MRの粘度との関係が表されている。第1関係データは、予め行われる試験によって作成できる。本実施形態では、第1関係データは、関数で表されている。第1関係データは、関数ではなく、マップで表されてもよい。
【0037】
図5は、第1関係データの一例を示す説明図である。
図5には、材料MRの温度と材料MRの粘度との関係を示すグラフが表されている。横軸は、温度を表しており、縦軸は、粘度を表している。縦軸は、対数目盛で表されている。一般に、材料MRの温度が高いほど材料MRの粘度は低くなる。
図5には、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、および、カーボンナノチューブを添加されたポリカーボネート樹脂(PC-CNT)の温度と粘度との関係が表されている。
【0038】
図6は、形状データDT1の一例を示す説明図である。
図7は、スライスデータDT2の一例を示す説明図である。
図8は、造形パスデータDT3の一例を示す説明図である。三次元造形処理に用いられる造形データは、例えば、三次元造形装置100に接続されたコンピューターにインストールされたスライサーソフトに、形状データDT1を読み込ませることによって作成される。形状データDT1とは、3次元CADデータや3次元CGデータのことを意味する。
【0039】
図6に示す形状データDT1には、第1造形物OB1の形状と第2造形物OB2の形状とが表されている。第1造形物OB1は、温度調整部210の出力を調整するために用い
られる。第2造形物OB2は、製品形状に応じた形状を有する。この例では、第1造形物OB1は、直方体状の外形形状を有している。第2造形物OB2は、底面部BPと側面部SPとを有する箱状の外形形状を有している。なお、第1造形物OB1の形状と第2造形物OB2の形状とが別個の形状データに表されてもよい。
【0040】
図7に示すように、スライサーソフトは、形状データDT1を読み込んでスライスデータDT2を生成する。ステージ300上における第1造形物OB1の向きや配置、および、ステージ300上における第2造形物OB2の向きや配置が決定され、積層ピッチが決定された後、第1造形物OB1および第2造形物OB2が積層ピッチに応じて複数の層に分割されたスライスデータDT2が生成される。積層ピッチとは、1層分の厚みのことを意味する。各層のことをステージ300に近い方から順に、第1層LY1、第2層LY2、第3層LY3と呼ぶ。
【0041】
図8に示すように、スライサーソフトは、スライスデータDT2を用いて造形パスデータDT3を生成する。造形パスデータDT3には、第1造形物OB1および第2造形物OB2の各層を形成するためのノズル61の移動経路である造形パスZPが表される。
図8には、一例として、第1造形物OB1および第2造形物OB2を形成するための1層分の造形パスZPが一点鎖線で表されている。この例では、造形パスZPは、直線状の複数の造形パス要素PE1~PE20によって構成されている。造形パス要素PE1~PE8に沿ってノズル61から造形材料が吐出されることによって、一筆書きのようにして第1造形物OB1の層が形成され、造形パス要素PE9~PE20に沿ってノズル61から造形材料が吐出されることによって、一筆書きのようにして第2造形物OB2の層が形成される。
【0042】
造形データには、造形パスZPの他に、造形パスZPに沿って層を形成する際の吐出量の目標値や、可塑化ヒーター58の出力の目標値や、温度調整部210の出力の目標値や、ステージヒーター310の出力の目標値、ステージ300上に積層された造形材料の粘度の目標値などが表される。温度調整部210の出力の目標値とは、例えば、温度調整部210が発生させる熱エネルギーの目標値、温度調整部210の温度の目標値、または、温度調整部210に供給される電流値の目標値のことを意味する。
【0043】
図9は、本実施形態における三次元造形処理の内容を示すフローチャートである。この処理は、所定の開始命令が供給された場合に、造形実行部510によって開始される。開始命令は、例えば、三次元造形装置100に設けられた開始ボタンが押された場合に造形実行部510に供給される。
【0044】
まず、ステップS110にて、造形実行部510は、造形材料の生成を開始する。造形実行部510は、フラットスクリュー40の回転、および、可塑化ヒーター58の温度を制御することによって、材料を可塑化させて造形材料を生成する。造形材料は、この処理が行われる間、生成され続ける。
【0045】
次に、ステップS120にて、造形実行部510は、温度調整部210およびステージヒーター310の出力をオンにする。造形実行部510は、造形データに表された出力で、温度調整部210およびステージヒーター310の運転を開始させる。本実施形態では、温度調整部210およびステージヒーター310の出力は、この処理が行われる間、オンにされている。
【0046】
ステップS130にて、造形実行部510は、ノズル61から造形材料を吐出させることによって、第1造形物OB1の第n層を形成する。nは自然数である。造形実行部510は、造形データに表された造形パスに沿ってノズル61をステージ300に対して移動させながらノズル61から造形材料を吐出させることによって、第1造形物OB1の第n層を形成する。本実施形態では、ノズル61から摂氏250度の温度で造形材料が吐出される。後述するように、ステップS130の処理は、複数回実行される。1回目のステップS130では、造形実行部510は、第1造形物OB1の第1層LY1を形成し、2回目のステップS130では、造形実行部510は、第1造形物OB1の第2層LY2を形成する。なお、ステップS130によって実行される制御のことを第1制御と呼ぶことがある。
【0047】
ステップS140にて、造形実行部510は、温度センサー220によって第1造形物OB1の第n層の温度を計測する。本実施形態では、造形実行部510は、位置変更部400を制御することによって第1造形物OB1の第n層の温度を計測可能な位置に温度センサー220を移動させた後、温度センサー220によって第1造形物OB1の第n層の温度を計測する。
【0048】
ステップS150にて、造形実行部510は、第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であるか否かを判定する。本実施形態では、造形実行部510は、温度センサー220によって計測された第1造形物OB1の第n層の温度と第1関係データとに基づいて算出される粘度が造形データに表された造形材料の粘度の目標値以下である場合に、第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であると判断する。この粘度の目標値は、第n層が自重で所定量以上潰れる値に設定される。本実施形態では、粘度の目標値は、100000Pa・secである。そのため、調整後の出力で温度調整部210が第n層を加熱することによって、第n層の温度は、摂氏130度以上に保たれる。
【0049】
ステップS150にて第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であると判断されなかった場合、造形実行部510は、ステップS155にて、温度調整部210の出力を上昇させる。その後、造形実行部510は、ステップS140に処理を戻して、温度センサー220によって第1造形物OB1の第n層の温度を計測し、ステップS150にて第1造形物OB1の第n層の粘度が所定値以下であるか否かを判定する。造形実行部510は、ステップS150にて第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であると判断されるまで、ステップS155、ステップS140、および、ステップS150の処理を繰り返す。つまり、本実施形態では、造形実行部510は、温度センサー220によって計測される第1造形物OB1の第n層の温度と第1関係データとに基づいて算出される第1造形物OB1の第n層の粘度が予め定められた粘度以下になるように、温度センサー220によって第1造形物OB1の第n層の温度を計測しつつ温度調整部210の出力を調整する。造形実行部510は、第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であると判断されたときの、温度調整部210の出力を記憶部520に記憶する。なお、ステップS155、ステップS140、および、ステップS150によって実行される制御のことを第2制御と呼ぶことがある。
【0050】
ステップS150にて第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であると判断された場合、ステップS160にて、造形実行部510は、ノズル61から造形材料を吐出させることによって、第2造形物OB2の第n層のうち、既に形成された第n層の部分に隣り合わない部分を形成する。
本実施形態においては、第1部分は、第2造形物の最外殻を形成する部分であってもよい。なお、第1部分は、第2造形物のうち、最初に形成される造形パスを含む部分であればよい。図8に示した例では、造形パス要素PE9~PE12に沿って形成される部分が第1部分である。造形実行部510は、造形データに表された造形パスに沿ってノズル61をステージ300に対して移動させながらノズル61から造形材料を吐出させることによって第1部分を形成する。本実施形態では、第1部分を形成する際、造形実行部510は、記憶部520に記憶された出力の目標値に従って温度調整部210を運転する。なお、第1部分を形成する際には、造形実行部510は、温度調整部210の出力を一時的にオフにしてもよい。ステップS160によって実行される制御のことを第3制御と呼ぶことがある。
【0051】
ステップS170にて、造形実行部510は、記憶部520に記憶された出力の目標値に従って温度調整部210を運転することによって、第2造形物OB2の第n層のうちの既に形成された部分を加熱しつつ、ノズル61から造形材料を吐出することによって、第2造形物OB2の第n層のうち、既に形成された部分に隣り合う部分を形成する。第2造形物OB2の第n層のうち、既に形成された部分に隣り合う部分のことを第2部分と呼ぶ。
図8に示した例では、造形パス要素PE13~PE20に沿って形成される部分が第2部分である。造形実行部510は、造形データに表された造形パスに沿ってノズル61をステージ300に対して移動させながらノズル61から造形材料を吐出させることによって第2部分を形成する。なお、ステップS170によって実行される制御のことを第4制御と呼ぶことがある。
【0052】
ステップS180にて、造形実行部510は、全ての層の形成が終了したか否かを判定する。造形実行部510は、造形データを参照することによって、全ての層の形成が終了したか否かを判断できる。ステップS180にて全ての層の形成が終了したと判断されなかった場合、造形実行部510は、位置変更部400を制御することによって、第n層の厚み分、ノズル61とステージ300との間隔を広げた後、ステップS130に処理を戻して、第1造形物OB1および第2造形物OB2の第n+1層を形成する。造形実行部510は、例えば、第1造形物OB1および第2造形物OB2の第1層LY1を形成した後には第1造形物OB1および第2造形物OB2の第2層LY2を形成し、第1造形物OB1および第2造形物OB2の第2層LY2を形成した後には第1造形物OB1および第2造形物OB2の第3層LY3を形成する。造形実行部510は、ステップS180にて全ての層の形成が終了したと判断されるまでステップS130からステップS180までの処理を繰り返すことによって、第1造形物OB1および第2造形物OB2の全ての層を形成する。ステップS180にて全ての層の形成が終了したと判断された場合、造形実行部510は、この処理を終了する。
【0053】
図10は、上述した三次元造形処理によって第1造形物OB1および第2造形物OB2が形成される様子を模式的に示す説明図である。
図11は、
図10におけるXI-XI線断面図である。
図9に示した三次元造形処理のステップS130、ステップS160、および、ステップS170において、造形実行部510は、
図10に示すように、ステージ300とノズル61との相対的な位置を変化させながら、ノズル61から造形材料MMを吐出させる。この際、造形実行部510は、ステージ300の造形面301とノズル61の先端面63との間隔を一定に保ったまま、ステージ300とノズル61との相対的な位置を変化させる。ノズル61から吐出された造形材料MMは、ノズル61の移動経路に沿って、線状の形態でステージ300上に堆積する。ステージ300上に堆積した造形材料MMは、自重によって潰れた後、冷えて硬化する。
【0054】
造形実行部510は、
図9に示したステップS130からステップS180までの処理を繰り返すことによって、造形実行部510は、第1造形物OB1および第2造形物OB2の層MLを形成し、ステージ300に対するノズル61の位置を+Z方向に移動させ、これまでに形成された層MLの上に、さらに層MLを積み重ねることによって第1造形物OB1および第2造形物OB2を形成していく。
【0055】
図11に示すように、層MLとステージ300の造形面301との間の距離が遠くなるほど、ステージヒーター310からの熱が層MLに伝わりにくくなる。そのため、温度調整部210の出力を変更しない場合には、ノズル61から吐出された造形材料MMが冷えて造形材料MMの粘度が上昇しやすくなる。造形材料MMの粘度が上昇すると、造形材料MMが潰れにくくなる。三次元造形装置100を構成する各部材の組付精度などにより、ノズル61の先端面63とステージ300の造形面301とを完全な平行に保つことは困難である。そのため、造形材料MMが潰れにくくなると、層MLの形成中に、ノズル61が層MLに接触する可能性がある。
【0056】
本実施形態では、造形実行部510は、ステップS140からステップS155までの処理が実行されることによって、造形材料MMの粘度が100000Pa・sec以下になるように、温度調整部210の出力が調整される。既に形成された第1部分P1に隣り合う第2部分P2の形成に先立って、出力を調整された温度調整部210によって第1部分P1が加熱される。温度調整部210からの加熱によって、第1部分P1の温度は、造形材料MMの粘度が100000Pa・sec以下になる摂氏130度以上に保たれる。造形材料MMの粘度が100000Pa・sec以下である場合には、造形材料MMが自重で潰れやすい。そのため、Z方向におけるノズル61と第1部分P1との間隔Gが確保される。
【0057】
以上で説明した本実施形態における三次元造形装置100によれば、造形実行部510は、第2造形物OB2の層MLのうちの第2部分P2の形成に先立って、出力を調整された温度調整部210を用いて第2造形物OB2の層MLのうちの第1部分P1の温度を調整することによって、第1部分P1の粘度を低くして第1部分P1を自重で潰れさせ、ノズル61と第1部分P1との間隔Gを広げることができる。そのため、第2部分P2を形成する際にノズル61が第1部分P1に接触することに起因して第2造形物OB2の形状が崩れることを抑制できる。さらに、本実施形態では、非接触式の温度センサー220によって計測された第1部分P1の温度を用いて温度調整部210の出力を調整するので、第1部分P1の温度を計測する際に三次元造形物の形状が崩れることを抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では、温度調整部210は、ステージ300の造形面301を均一に加熱するヒーターによって構成されているので、造形面301上に形成される第2造形物OB2のうちの第1部分P1を温度調整部210によって均一に加熱することができる。特に、本実施形態では、第2造形物OB2の第1部分P1にレーザーを点状に照射して第1部分P1を加熱する形態に比べて、第1部分P1の広範囲を均等に加熱できる。また、レーザーを照射して第1部分P1を点状に加熱する形態に比べて、簡易な制御で、狙いの位置を加熱することができる。
【0059】
また、本実施形態では、温度調整部210が造形部200に固定されているので、ノズル61と温度調整部210の相対位置を変化させずに、ノズル61と温度調整部210とを移動させることができる。そのため、温度調整部210によってノズル61の移動が阻害されることを抑制できる。
【0060】
また、本実施形態では、温度調整部210の外周縁は、ノズル61からステージ300に向かう-Z方向に視たときに、ノズル61に対してステージ300が移動する領域の外側に配置されている。そのため、ノズル61に対するステージ300の相対位置が位置変更部400によっていずれの位置に変更されても、温度調整部210の外周縁よりも内側にステージ300が配置されるので、ステージ300上に形成される第2造形物OB2のうちの第1部分P1の温度を温度調整部210によって調整しやすくできる。
【0061】
B.第
2実施形態:
図12は、第2関係データの一例を示す説明図である。
第2実施形態では、制御部500が、第1関係データおよび第2関係データを用いて、温度調整部210の出力を調整することが第1実施形態とは異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0062】
本実施形態では、記憶部520には、第1関係データと第2関係データとが記憶されている。第2関係データには、材料の温度と剥離強度との関係が表されている。第2関係データは、予め行われる試験によって作成できる。本実施形態では、第2関係データは、関数で表されている。第2関係データは、関数ではなく、マップで表されてもよい。
【0063】
図12には、材料の温度と剥離強度との関係を示すグラフが表されている。
図12において、横軸は、温度を表しており、縦軸は、剥離強度を表している。一般に、温度が高いほど、剥離強度は高くなる。
図12には、一例として、ABS樹脂の剥離強度が表されている。
【0064】
本実施形態では、造形実行部510は、
図9に示した三次元造形処理と同様の三次元造形処理を実行する。ただし、本実施形態の三次元造形処理では、
図9に示したステップS150において、造形実行部510は、第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であり、かつ、第1造形物OB1の第n層の剥離強度が所定の強度以上であるという条件を満足するか否かを判定する。本実施形態では、造形実行部510は、温度センサー220によって計測された第1造形物OB1の第n層の温度と第1関係データとに基づいて算出される粘度が造形データに表された造形材料の粘度の目標値以下である場合に、第1造形物OB1の第n層の粘度が所定の粘度以下であると判断する。造形実行部510は、温度センサー220によって計測された第1造形物OB1の第n層の温度と第2関係データとに基づいて算出される剥離強度が造形データに表された造形材料の剥離強度の目標値以上である場合に、第1造形物OB1の第n層の剥離強度が所定の強度以上あると判断する。
【0065】
以上で説明した本実施形態における三次元造形装置100によれば、造形実行部510は、三次元造形処理において、温度センサー220によって計測された温度と第1関係データとに基づいて粘度を算出し、温度センサー220によって計測された温度と第2関係データとに基づいて剥離強度を算出し、粘度が所定値以下であり、かつ、剥離強度が所定値以上であるという条件を満足するように、温度調整部210の出力を調整する。そのため、第2造形物OB2の強度を高めることができる。なお、本実施形態において、造形実行部510は、
図12に示した三次元造形処理と同様の三次元造形処理を実行してもよい。この場合、
図12に示したステップS250において、造形実行部510は、造形物OBの第n層のうちの第1部分の粘度が所定の粘度以下であり、かつ、造形物OBの第n層のうちの第1部分の剥離強度が所定の強度以上であるという条件を満足するか否かを判定する。この処理により、造形物OBの強度を高めることができる。
【0066】
C.他の実施形態:
(C1)上述した各実施形態の三次元造形装置100では、ステージ300には、ステージヒーター310が設けられている。これに対して、ステージ300に、ステージヒーター310が設けられていなくてもよい。
【0067】
(C2)上述した各実施形態の三次元造形装置100では、温度調整部210は、ステージ300の造形面301の全域を均一に加熱可能に構成されている。つまり、温度調整部210は、造形面301上に形成された造形材料の層の全域を均一に加熱可能に構成されている。これに対して、温度調整部210は、造形面301の全域、つまり、造形面301に形成された造形材料の層を均一に加熱可能に構成されていなくてもよい。この場合、温度調整部210は、例えば、レーザーを照射して造形材料の層を局所的に加熱するように構成されてもよい。
【0068】
(C3)上述した各実施形態の三次元造形装置100では、温度調整部210は、造形部200に固定されている。これに対して、温度調整部210は、造形部200に固定されていなくてもよい。この場合、温度調整部210は、例えば、X,Y,Zの3方向に移動可能に支持されて、造形部200とは別個に移動されてもよい。
【0069】
(C4)上述した各実施形態の三次元造形装置100では、温度調整部210の外周縁は、ノズル61からステージ300に向かう-Z方向に視たときに、ノズル61に対してステージ300が移動する領域の外側に配置されている。これに対して、温度調整部210の外周縁は、ノズル61からステージ300に向かう-Z方向に視たときに、ノズル61に対してステージ300が移動する領域の外側に配置されていなくてもよい。例えば、ノズル61に対してステージ300が移動することによって、-Z方向に視たときに、ステージ300の一部または全部が温度調整部210の外周縁よりも外側に位置してもよい。
【0070】
(C5)上述した各実施形態の三次元造形装置100では、可塑化部30は、フラットスクリュー40を備えており、フラットスクリュー40の回転によって材料MRを可塑化している。これに対して、可塑化部30は、フラットスクリュー40ではなく、例えば、側面部分に螺旋溝を有するインラインスクリューを備え、インラインスクリューの回転によって材料MRを可塑化してもよい。フラットスクリュー40やインラインスクリューを用いずに、材料フィラメントをヒーターによる加熱によって可塑化してもよい。
【0071】
(C6)上述した各実施形態の三次元造形装置100では、ペレット状のABS樹脂が材料MRとして用いられたが、造形部200において用いられる材料MRとしては、例えば、熱可塑性を有する材料や、金属材料、セラミック材料等の種々の材料を主材料として三次元造形物を形成する材料を採用することもできる。ここで、「主材料」とは、三次元造形物の形状を形作っている中心となる材料を意味し、三次元造形物において50重量%以上の含有率を占める材料を意味する。上述した造形材料には、それらの主材料を単体で溶融したものや、主材料とともに含有される一部の成分が溶融してペースト状にされたものが含まれる。
【0072】
主材料として熱可塑性を有する材料を用いる場合には、可塑化部30において、当該材料が可塑化することによって造形材料が生成される。「可塑化」とは、熱可塑性を有する材料に熱が加わり溶融することを意味する。また、「溶融」とは、熱可塑性を有する材料がガラス転移点以上の温度に加熱されることにより軟化し、流動性が発現することをも意味する。
【0073】
熱可塑性を有する材料としては、例えば、下記のいずれか一つまたは2以上を組み合わせた熱可塑性樹脂材料を用いることができる。<熱可塑性樹脂材料の例>ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアミド樹脂(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチック、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのエンジニアリングプラスチック。
【0074】
熱可塑性を有する材料には、顔料や、金属、セラミック、その他に、ワックス、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤等が混入されていてもよい。熱可塑性を有する材料は、可塑化部30において、フラットスクリュー40の回転と可塑化ヒーター58の加熱によって可塑化されて溶融した状態に転化される。また、そのように生成された造形材料は、ノズル61から吐出された後、温度の低下によって硬化する。
【0075】
熱可塑性を有する材料は、そのガラス転移点以上に加熱されて完全に溶融した状態でノズル61から吐出されることが望ましい。尚、「完全に溶融した状態」とは、未溶融の熱可塑性を有する材料が存在しない状態を意味し、例えばペレット状の熱可塑性樹脂を材料に用いた場合、ペレット状の固形物が残存しない状態のことを意味する。
【0076】
造形部200では、上述した熱可塑性を有する材料の代わりに、例えば、以下の金属材料が主材料として用いられてもよい。この場合には、下記の金属材料を粉末状にした粉末材料に、造形材料の生成の際に溶融する成分が混合されて、可塑化部30に投入されることが望ましい。<金属材料の例>マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)の単一の金属、もしくはこれらの金属を1つ以上含む合金。<合金の例>マルエージング鋼、ステンレス、コバルトクロムモリブデン、チタニウム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルト合金、コバルトクロム合金。
【0077】
造形部200においては、上記の金属材料の代わりに、セラミック材料を主材料として用いることが可能である。セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物セラミックスや、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスなどが使用可能である。主材料として、上述したような金属材料やセラミック材料を用いる場合には、ステージ300に配置された造形材料は、例えばレーザーの照射や温風などによる焼結によって硬化されてもよい。
【0078】
材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料は、単一の金属の粉末や合金の粉末、セラミック材料の粉末を、複数種類、混合した混合材料であってもよい。
【0079】
材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のような溶剤を添加することもできる。溶剤は、下記の中から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。<溶剤の例>水;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル等の酢酸エステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;テトラアルキルアンモニウムアセテート類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤;ピリジン、γ-ピコリン、2,6-ルチジン等のピリジン系溶剤;テトラアルキルアンモニウムアセテート(例えば、テトラブチルアンモニウムアセテート等);ブチルカルビトールアセテート等のイオン液体等。
【0080】
その他に、材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のようなバインダーを添加することもできる。<バインダーの例>アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂或いはその他の合成樹脂又はPLA(ポリ乳酸)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)或いはその他の熱可塑性樹脂。
【0081】
E.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0082】
(1)本開示の第1の形態によれば、三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、ステージと、溶融した材料を前記ステージに向かって吐出する吐出部と、前記ステージと前記吐出部との相対的な位置を変更する位置変更部と、前記ステージに吐出された前記材料の温度を調整する温度調整部と、前記ステージに吐出された前記材料の温度を計測する温度センサーと、前記材料の温度と前記材料の粘度との関係を表す第1関係データが記憶された記憶部と、前記吐出部と前記位置変更部と前記温度調整部とを制御することによって、前記ステージ上に第1造形物と第2造形物とを形成する制御部と、を備える。前記制御部は、前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第1造形物を造形する第1制御と、前記温度センサーによって計測される前記第1造形物の温度と前記第1関係データとに基づいて算出される前記第1造形物の粘度が予め定められた粘度以下になるように、前記温度センサーによって前記第1造形物の温度を計測しつつ前記温度調整部の出力を調整する第2制御と、前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第2造形物のうちの第1部分を形成する第3制御と、前記第2制御において調整された出力で前記温度調整部によって前記第1部分の温度を調整しつつ前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記第2造形物のうちの前記第1部分に隣り合う部分である第2部分を形成する第4制御と、を実行する。 この形態の三次元造形装置によれば、第2造形物の第2部分の形成に先立って、第2制御によって出力を調整された温度調整部を用いて第2造形物の第1部分の温度を調整することによって、第1部分の粘度を低くして第1部分を自重で潰れさせ、吐出部と第1部分との間隔を広げることができる。そのため、第2部分を形成する際に吐出部が第1部分に接触することに起因して第2造形物の形状が崩れることを抑制できる。
【0083】
(2)上記形態の三次元造形装置において、前記温度調整部は、前記ステージを均一に加熱するヒーターによって構成されてもよい。 この形態の三次元造形装置によれば、ステージ上に形成される第2造形物のうちの第1部分を温度調整部によって均一に加熱することができる。
【0084】
(3)上記形態の三次元造形装置において、前記温度調整部は、前記吐出部に固定されてもよい。 この形態の三次元造形装置によれば、温度調整部が吐出部に固定されているので、位置変更部によって、吐出部とともに温度調整部を移動させることができる。
【0085】
(4)上記形態の三次元造形装置において、前記温度調整部の外周縁は、前記吐出部から前記ステージに向かう方向に視たときに、前記ステージが前記吐出部に対して相対的に移動する領域の外側に配置されてもよい。 この形態の三次元造形装置によれば、吐出部に対するステージの相対位置が位置変更部によっていずれの位置に変更されても、温度調整部の外周縁よりも内側にステージが配置されるので、ステージ上に形成される第2造形物のうちの第1部分の温度を温度調整部によって調整しやすくできる。
【0086】
(5)上記形態の三次元造形装置において、前記記憶部には、前記材料の温度と、前記材料によって形成された部分同士の間の剥離強度との関係を表す第2関係データが記憶されており、前記制御部は、前記第2制御にて、前記温度センサーによって計測される前記第1造形物の温度と前記第1関係データとに基づいて算出される前記第1造形物の粘度が予め定められた粘度以下になり、かつ、前記温度センサーによって計測される前記第1造形物の温度と前記第2関係データとに基づいて算出される前記剥離強度が予め定められた強度以上になるように、前記温度センサーによって前記第1造形物の温度を計測しつつ前記温度調整部の出力を調整してもよい。 この形態の三次元造形装置によれば、第2造形物を構成する第1部分と第2部分との剥離強度を高めることによって、第2造形物の強度を高めることができる。
【0087】
(6)本開示の第2の形態によれば、三次元造形装置される。この三次元造形装置は、ステージと、溶融した材料を前記ステージに向かって吐出する吐出部と、前記ステージと前記吐出部との相対的な位置を変更する位置変更部と、前記ステージに吐出された前記材料の温度を調整する温度調整部と、前記ステージに吐出された前記材料の温度を計測する温度センサーと、前記材料の温度と前記材料の粘度との関係を表す第1関係データが記憶された記憶部と、前記吐出部と前記位置変更部と前記温度調整部とを制御することによって、前記ステージ上に造形物を形成する制御部と、を備える。前記制御部は、前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記造形物のうちの第1部分を形成する第1制御と、前記温度センサーによって計測される前記第1部分の温度と前記第1関係データとに基づいて算出される前記第1部分の粘度が予め定められた粘度以下になるように、前記温度センサーによって前記第1部分の温度を計測しつつ前記温度調整部の出力を調整する第2制御と、前記第2制御において調整された出力で前記温度調整部によって前記第1部分の温度を調整しつつ前記吐出部から前記材料を吐出することによって、前記造形物のうちの前記第1部分に隣り合う部分である第2部分を形成する第3制御と、を実行する。 この形態の三次元造形装置によれば、造形物の第2部分の形成に先立って、第2制御によって出力を調整された温度調整部を用いて造形物の第1部分の温度を調整することによって、第1部分の粘度を低くして第1部分を自重で潰れさせ、吐出部と第1部分との間隔を広げることができる。そのため、第2部分を形成する際に吐出部が第1部分に接触することに起因して造形物の形状が崩れることを抑制できる。
【0088】
本開示は、三次元造形装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、三次元造形物の製造方法等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0089】
20…材料供給部、22…供給路、30…可塑化部、31…スクリューケース、32…駆動モーター、40…フラットスクリュー、42…溝形成面、43…側面、44…材料導入口、45…溝部、46…凸条部、47…中央部、50…バレル、52…スクリュー対向面、54…案内溝、56…連通孔、58…可塑化ヒーター、60…吐出部、61…ノズル、62…ノズル孔、63…先端面、65…流路、70…吐出量調整部、72…駆動シャフト、73…弁体、74…バルブ駆動部、100…三次元造形装置、200…造形部、205…支持部、210…温度調整部、220…温度センサー、300…ステージ、301…造形面、310…ステージヒーター、400…位置変更部、410…第1電動アクチュエーター、420…第2電動アクチュエーター、430…第3電動アクチュエーター、500…制御部、510…造形実行部、520…記憶部