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  • -情報提供方法、情報提供装置及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】情報提供方法、情報提供装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20241126BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20241126BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/536 D
G01N21/64 E
G01N21/64 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020572199
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004478
(87)【国際公開番号】W WO2020166469
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019025027
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二谷 悦子
(72)【発明者】
【氏名】郷田 秀樹
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-197522(JP,A)
【文献】特表2016-518813(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126420(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0160032(US,A1)
【文献】国際公開第2016/006096(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48
G01N 33/536
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織切片から得られる情報に基づく判断を支援するための、支援情報を提供する情報提供方法であって、
明視野観察可能に染色された組織切片の、デジタル化された明視野画像を取得する画像取得工程と、
前記明視野画像から複数種の情報を取得し、当該複数種の情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成するスコア作成工程と、
前記解析スコアを、前記支援情報として提示する情報提示工程と、を備え、
前記スコア作成工程においては、前記組織切片に存在する種々の領域の面積の割合又は比に基づくスコア、種々の構造の有無、種々の構造の密度又は種々の構造の出現数に基づくスコア、各細胞種の数、各細胞種の密度、異なる細胞種の距離又は特定の細胞種と特定の構造の距離に基づくスコアの順に算出し、算出した当該スコアに基づいて前記解析スコアを作成する
情報提供方法。
【請求項2】
前記画像取得工程において、前記組織切片の全体を撮像可能なバーチャル顕微鏡スライド作成装置で撮像することによって得られた、前記組織切片の全体の明視野画像を取得する
請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項3】
前記スコア作成工程において、前記組織切片に存在する領域、構造及び細胞種の間の局在の関係性に係る情報を取得する
請求項1又は2に記載の情報提供方法。
【請求項4】
前記組織切片は、蛍光物質を複数集積した蛍光物質集積ナノ粒子に生体物質認識部位を結合した染色試薬を用いて、当該組織切片に存在する特定の生体物質が蛍光観察可能に染色され、
前記画像取得工程において、さらに、前記組織切片のデジタル化された蛍光画像を取得し、
前記スコア作成工程において、さらに、前記蛍光画像から前記特定の生体物質の存在に係る情報を取得し、前記複数種の情報と組み合わせてスコア化した解析スコアを作成する
請求項1から3のいずれか一項に記載の情報提供方法。
【請求項5】
前記組織切片上の特定の領域に存在する生体物質を、蛍光物質により蛍光観察可能に染色する領域可視化工程を備える
請求項1から4のいずれか一項に記載の情報提供方法。
【請求項6】
組織切片から得られる情報に基づく判断を支援するための、支援情報を提供する情報提供装置であって、
明視野観察可能に染色された組織切片の、デジタル化された明視野画像を取得する画像取得部と、
前記明視野画像から複数種の情報を取得し、当該複数種の情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成するスコア作成部と、
前記解析スコアを、前記支援情報として提示する情報提示部と、を備え、
前記スコア作成は、前記組織切片に存在する種々の領域の面積の割合又は比に基づくスコア、種々の構造の有無、種々の構造の密度又は種々の構造の出現数に基づくスコア、各細胞種の数、各細胞種の密度、異なる細胞種の距離又は特定の細胞種と特定の構造の距離に基づくスコアの順に算出し、算出した当該スコアに基づいて前記解析スコアを作成する
情報提供装置。
【請求項7】
組織切片から得られる情報に基づく判断を支援するための、支援情報を提供する情報提供装置のコンピューターを、
明視野観察可能に染色された組織切片の、デジタル化された明視野画像を取得する画像取得部、
前記明視野画像から複数種の情報を取得し、当該複数種の情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成するスコア作成部、
前記解析スコアを、前記支援情報として提示する情報提示部、
として機能させるためのプログラムであって、
前記スコア作成部は、前記明視野画像から前記組織切片に存在する種々の領域の面積の割合又は比に基づくスコア、種々の構造の有無、種々の構造の密度又は種々の構造の出現数に基づくスコア、各細胞種の数、各細胞種の密度、異なる細胞種の距離又は特定の細胞種と特定の構造の距離に基づくスコアの順に算出し、算出した当該スコアに基づいて前記解析スコアを作成するプログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報提供方法、情報提供装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組織切片から得られる情報に基づいて、種々の判断が行われている。例えば、病理医は、病理診断において組織切片を染色して顕微鏡観察を行い、細胞の核の大きさや形の変化、組織としてのパターンの変化等の形態学的な情報や染色情報を取得し、これをもとに病変の有無や病変の状態を観察する。また、組織切片の観察に基づく患者の予後予測や、臨床あるいは医薬品の開発過程における薬効の予測などにおいても、これらの情報が用いられている。
【0003】
近年では、組織切片上の特定の細胞や構造の密度が、病理診断等において患者の予後の予測やその後の治療計画を決める上で有用な情報となり得ることが知られている。例えば、特許文献1は、腫瘍組織から得られた組織切片を撮像してバーチャルスライド画像を取得し、腫瘍境界の近傍に位置する細胞及び/又は血管の密度を測定している。そして、測定された密度に基づいて、患者の予後を予測可能であることが明らかにしている。また、特許文献2には、腫瘍組織から得られた組織切片上の免疫細胞の数をカウントし、腫瘍組織中に存在する免疫細胞の密度と患者の予後との間に相関があることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-537969号公報
【文献】特表2016-530505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の病理診断等においては、病理医等の主観によって判断されるため、診断結果のばらつきを排除することが難しかった。この点、特許文献1に記載の発明は、顕微鏡画像をデジタル解析する技術を用いており、病理医等による診断に比べ客観性が担保されているといえる。
【0006】
一方で、病理診断等においては、組織切片上に存在する領域、構造及び細胞種が総合的に観察される。即ち病理医等は、例えば、まず組織切片上の腫瘍領域の面積を評価し、次いで組織切片に存在する血管、リンパ管などの特定の構造の有無やその数を評価し、さらに腫瘍細胞の数、間質細胞と腫瘍細胞との距離を判断する、といった順序で観察を行い、これらの間の配置関係も判断材料として用いている。特許文献1に記載の発明においては、細胞及び/又は血管密度に基づく予後予測を行うことが可能であるが、領域、構造及び細胞種の間の関係性に基づく総合的な判断を行うことはできない。また、特許文献2に記載の発明は、免疫細胞の密度については評価しているが、その他の細胞種や構造、領域等の関係性を判断していないため、評価精度の改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであって、組織切片から得られる情報に基づいて行われる種々の判断のための、客観的かつ高精度な支援情報を提供することが可能な情報提供方法、情報提供装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の情報提供方法は、
組織切片から得られる情報に基づく判断を支援するための、支援情報を提供する情報提供方法であって、
明視野観察可能に染色された組織切片の、デジタル化された明視野画像を取得する画像取得工程と、
前記明視野画像から複数種の情報を取得し、当該複数種の情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成するスコア作成工程と、
前記解析スコアを、前記支援情報として提示する情報提示工程と、を備え、
前記スコア作成工程において、前記組織切片に存在する種々の領域の面積の割合又は比に基づくスコア、種々の構造の有無、種々の構造の密度又は種々の構造の出現数に基づくスコア、各細胞種の数、各細胞種の密度、異なる細胞種の距離又は特定の細胞種と特定の構造の距離に基づくスコアの順に算出し、算出した当該スコアに基づいて前記解析スコアを作成する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の情報提供方法において、
前記画像取得工程において、前記組織切片の全体を撮像可能なバーチャル顕微鏡スライド作成装置で撮像することによって得られた、前記組織切片の全体の明視野画像を取得する。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の情報提供方法において、
前記スコア作成工程において、前記組織切片に存在する領域、構造及び細胞種の間の局在の関係性に係る情報を取得する。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の情報提供方法において、
前記組織切片は、蛍光物質を複数集積した蛍光物質集積ナノ粒子に生体物質認識部位を結合した染色試薬を用いて、当該組織切片に存在する特定の生体物質が蛍光観察可能に染色され、
前記画像取得工程において、さらに、前記組織切片のデジタル化された蛍光画像を取得し、
前記スコア作成工程において、さらに、前記蛍光画像から前記特定の生体物質の存在に係る情報を取得し、前記複数種の情報と組み合わせてスコア化した解析スコアを作成する。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項1からのいずれか一項に記載の情報提供方法において、
前記組織切片上の特定の領域に存在する生体物質を、蛍光物質により蛍光観察可能に染色する領域可視化工程を備える。
【0014】
請求項6に記載の情報提供装置は、
組織切片から得られる情報に基づく判断を支援するための、支援情報を提供する情報提供装置であって、
明視野観察可能に染色された組織切片の、デジタル化された明視野画像を取得する画像取得部と、
前記明視野画像から複数種の情報を取得し、当該複数種の情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成するスコア作成部と、
前記解析スコアを、前記支援情報として提示する情報提示部と、を備え、
前記スコア作成は、前記組織切片に存在する種々の領域の面積の割合又は比に基づくスコア、種々の構造の有無、種々の構造の密度又は種々の構造の出現数に基づくスコア、各細胞種の数、各細胞種の密度、異なる細胞種の距離又は特定の細胞種と特定の構造の距離に基づくスコアの順に算出し、算出した当該スコアに基づいて前記解析スコアを作成する。
【0015】
請求項7に記載のプログラムは、
組織切片から得られる情報に基づく判断を支援するための、支援情報を提供する情報提供装置のコンピューターを、
明視野観察可能に染色された組織切片の、デジタル化された明視野画像を取得する画像取得部、
前記明視野画像から複数種の情報を取得し、当該複数種の情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成するスコア作成部、
前記解析スコアを、前記支援情報として提示する情報提示部、
として機能させ
前記スコア作成部は、前記明視野画像から前記組織切片に存在する種々の領域の面積の割合又は比に基づくスコア、種々の構造の有無、種々の構造の密度又は種々の構造の出現数に基づくスコア、各細胞種の数、各細胞種の密度、異なる細胞種の距離又は特定の細胞種と特定の構造の距離に基づくスコアの順に算出し、算出した当該スコアに基づいて前記解析スコアを作成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、組織切片から得られる情報に基づいて行われる種々の判断のための、客観的かつ高精度な支援情報を提供することが可能な情報提供方法、情報提供装置及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る病理診断支援システムの概略構成を示す図である。
図2図1の情報提供装置の機能的構成を示すブロック図である。
図3】情報提供装置の動作を示すフローチャートである。
図4】スコア算出対象の特定処理を示すフローチャートである。
図5】細胞種の特定処理を示すフローチャートである。
図6】形態スコアの算出処理を示すフローチャートである。
図7】生体物質スコアの算出処理を示すフローチャートである。
図8A】明視野画像の一例を示す図である。
図8B】解析スコアの算出方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明で用いる下記の用語について説明する。
【0019】
1.領域
「領域」とは、同じ構造または細胞が一定量集合して存在する範囲のことを示す。
領域のうち、本実施形態に係る「腫瘍領域」は、後述する腫瘍細胞が一定量集合して形成された領域を示し、「間質領域」は、後述する間質細胞が一定量集合して形成された領域を示す。
2.構造
「構造」とは、細胞が一定量集合して存在し、何らかの生理的活動を行っているものを示す。構造として、例えば、血管、リンパ管、分泌腺等が挙げられる。
3.細胞種
「細胞種」とは、それ一つで機能を持ち、働く最小の単位の細胞の種類を示す。
細胞種のうち、本実施形態における「腫瘍細胞」は、生体内の制御に反して自律的に過剰に増殖する細胞を示し、悪性腫瘍を形成する「がん細胞」を含む。「間質細胞」は、生体組織の支持構造を形成する細胞を広く示し、免疫細胞、炎症細胞、線維芽細胞、内皮細胞等を含む。なお、がん細胞と間質細胞とが密接に相互作用を行うことにより、がんが進行していくことが知られている。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0021】
<病理診断支援システム100の構成>
図1に、本実施形態に係る情報提供方法を実行する病理診断支援システム100の全体構成例を示す。病理診断支援システム100は、所定の染色試薬で染色された組織切片の顕微鏡画像を取得及び解析し、支援情報を出力するシステムである。
従来、組織切片に存在する特定の領域、構造、細胞種に係る情報や、組織切片に存在する特定の生体物質の発現量や生体に投与された医薬品の有効成分の局在などの情報に基づき、生体に投与された医薬品の薬効予測、観察対象の予後予測又は病理診断などの種々の判断が行われる。このような判断は、病理医や医薬品開発の従事者等のユーザーのみならず、近年では人工知能を用いて自動的にこれらの情報を認識し、判断することも行われている。本実施形態に係る支援情報は、これらの判断の精度向上を支援するために提供される。具体的には、支援情報は、組織切片上の特定の領域、構造、細胞種の存在数や配置などの情報に基づいて算出される解析スコアの形態をとることができるが、上述した種々の判断をサポートするための、客観的かつ高精度な指標として機能する。
【0022】
図1に示すように、病理診断支援システム100は、顕微鏡画像取得装置1Aと情報提供装置2Aとが、通信ネットワークNを介してデータ送受信可能に接続されて構成されている。
病理診断支援システム100は、顕微鏡画像取得装置1Aと情報提供装置2Aとが、同一の建物内など互いに近傍に配置されるシステムである場合と、顕微鏡画像取得装置1Aと情報提供装置2Aとが、互いに遠く離れた地点に配置されるシステムである場合と、のどちらであってもよい。通信ネットワークNは特に限定されず、接続方式は有線であっても無線であってもよいが、顕微鏡画像取得装置1Aと情報提供装置2Aとが近傍に配置される場合、例えばLAN(Local Area Network)が挙げられ、顕微鏡画像取得装置1Aと情報提供装置2Aとが遠隔地に配置される場合、例えばインターネットなどのWAN(Wide Area Network)が挙げられる。
【0023】
顕微鏡画像取得装置1Aは、顕微鏡のスライド固定ステージ上のスライドをスキャンして組織切片全体のデジタル画像を取得するバーチャル顕微鏡スライド作成装置(例えば、特表2002-514319号公報参照)であり、スライド上の組織切片の全体像を表示部で一度に閲覧可能な画像データを取得し、情報提供装置2Aに送信するものである。
顕微鏡画像取得装置1Aは、照射手段、結像手段、撮像手段、通信I/F等を備えて構成されている。照射手段は、光源、フィルター等により構成され、スライド固定ステージに載置されたスライド上の組織切片に光を照射する。結像手段は、接眼レンズ、対物レンズ等により構成され、照射した光によりスライド上の組織切片から発せられる透過光、反射光、又は蛍光を結像する。撮像手段は、CCD(Charge Coupled Device)センサー等を備え、結像手段により結像面に結像される像を撮像して顕微鏡画像のデジタル画像データを生成する顕微鏡設置カメラである。通信I/Fは、生成された顕微鏡画像のデジタル画像データを、通信ネットワークNを介して情報提供装置2Aに送信する。本実施の形態において、顕微鏡画像取得装置1Aは、明視野観察に適した照射手段及び結像手段を組み合わせた明視野ユニット、蛍光観察に適した照射手段及び結像手段を組み合わせた蛍光ユニットが備えられており、前者を用いて明視野画像、後者を用いて蛍光画像をそれぞれ取得することができる。
【0024】
顕微鏡画像取得装置1Aが通信ネットワークNとしてのインターネットに接続されている場合、取得された顕微鏡画像は、インターネット上のサーバー装置に保存することで、同じくインターネットに接続された情報提供装置2A上で閲覧することが可能となる。
即ち、顕微鏡画像取得装置1Aと情報提供装置2Aとが互いに遠く離れた地点に配置された場合であっても、ユーザーが情報提供装置2Aによって、遠隔地から顕微鏡画像取得装置によって取得された情報を利用することが可能である。
【0025】
なお、本実施形態においては、顕微鏡画像取得装置1Aとしてバーチャル顕微鏡スライド作成装置を用いるものとするが、これに限定されず、公知のカメラ付き顕微鏡を用いてもよい。カメラ付き顕微鏡においては、スライド固定ステージ上に載置されたスライド上の組織切片について、所定の視野の顕微鏡画像を取得することができる。
【0026】
情報提供装置2Aは、顕微鏡画像取得装置1Aから送信された顕微鏡画像を解析することによって生成された、支援情報を出力する。
図2に、情報提供装置2Aの機能構成例を示す。図2に示すように、情報提供装置2Aは、制御部21、操作部22、表示部23、通信I/F24、記憶部25等を備えて構成され、各部はバス26を介して接続されている。
【0027】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等を備えて構成され、記憶部25に記憶されている各種プログラムとの協働により各種処理を実行し、情報提供装置2Aの動作を統括的に制御する。例えば、制御部21は、記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により、画像取得部、スコア作成部、情報提示部としての機能を実現する。
【0028】
操作部22は、文字入力キー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードで押下操作されたキーの押下信号とマウスによる操作信号とを、入力信号として制御部21に出力する。
【0029】
表示部23は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等のモニタを備えて構成されており、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。
【0030】
通信I/F24は、通信ネットワークNを介して顕微鏡画像取得装置1Aをはじめとする外部機器との間でデータ送受信を行うためのインターフェースであり、顕微鏡画像取得装置1Aによって撮像された蛍光画像を情報提供装置2Aに入力するための手段として機能する。
【0031】
記憶部25は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や半導体の不揮発性メモリー等で構成されている。記憶部25には、前述のように各種プログラムや各種データ等が記憶されている。
その他、情報提供装置2Aは、LANアダプターやルーター等を備え、通信ネットワークNを介して外部機器と接続される構成としてもよい。
【0032】
<情報提供方法>
以下、本実施形態に係る情報提供方法について説明する。
本発明に係る情報提供方法は、観察対象の薬効予測、予後予測、又は病理診断などの、組織切片から得られる情報に基づく種々の判断を支援するための支援情報の提供方法である。
【0033】
本発明に係る情報提供方法は、少なくとも、1.明視野観察可能な染色試薬を用いて染色された組織切片の、デジタル化された明視野画像を取得する工程(画像取得工程)と、2.明視野画像から複数種の情報を取得し、当該複数種の情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成する工程(スコア作成工程)と、3.解析スコアを支援情報としてユーザーに提示する工程(情報提示工程)と、を有する。
また、上記工程に加えて、4.蛍光物質集積ナノ粒子を用いて染色された組織切片の、デジタル化された蛍光画像を取得する工程(画像取得工程)と、を有し、スコア作成工程において、明視野画像から取得された情報に加え、蛍光画像から取得された情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成するものとすることで、支援情報の精度を向上させることができる。
本実施形態に係る情報提供方法においては、上記1~4の工程を有し、明視野画像及び蛍光画像から得られる情報に基づいて解析スコアを作成する。
【0034】
(1)組織標本
組織標本とは、一般的には、免疫組織化学染色により特定の生体物質の発現量を評価する場合などで慣用されているような、組織切片や細胞を載置した標本スライドの形態をとる。本実施形態においては、腫瘍組織から採取した組織切片を用いるものとする。
組織標本の作製法は特に限定されず、一般的には、例えば、被験体から採取した組織切片を、ホルマリン等を用いて固定し、アルコールで脱水処理した後、キシレン処理を行い、高温のパラフィン中に浸すことでパラフィン包埋を行うことで作製した組織試料を3~4μmの切片にすることで得ることができ、当該組織切片をスライドガラス上に載置して乾燥することで標本スライドを作製することができる。
【0035】
(2)染色工程
以下、組織標本を、染色試薬を用いて染色する染色工程について述べる。
【0036】
(2.1)標本作製工程
(2.1.1)脱パラフィン処理
キシレンを入れた容器に、組織切片を浸漬させ、パラフィン除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中でキシレンを交換してもよい。
【0037】
次いでエタノールを入れた容器に組織切片を浸漬させ、キシレン除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中でエタノールを交換してもよい。
【0038】
水を入れた容器に、組織切片を浸漬させ、エタノール除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中で水を交換してもよい。
【0039】
(2.1.2)賦活化処理
後述する蛍光染色工程において目的物質の染色を行うため、公知の方法に倣い、当該目的物質の賦活化処理を行う。賦活化条件に特に定めはないが、賦活液としては、0.01Mのクエン酸緩衝液(pH6.0)、1mMのEDTA溶液(pH8.0)、5%尿素、0.1Mのトリス塩酸緩衝液などを用いることができる。
pH条件は用いる組織切片に応じてpH2.0~13.0の範囲から、シグナルが出て、組織の荒れがシグナルを評価できる程度となる条件で行う。通常はpH6.0~8.0で行うが、特殊な組織切片ではたとえばpH3.0でも行う。
加熱機器はオートクレーブ、マイクロウェーブ、圧力鍋、ウォーターバスなどを用いることができる。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。温度は50~130℃、時間は5~30分で行うことができる。
【0040】
次いでPBSを入れた容器に、賦活処理後の切片を浸漬させ、洗浄を行う。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。
【0041】
(2.2)形態染色工程
形態染色工程は、明視野において細胞、組織、臓器などの形態を観察することができるように可視化させるための染色を行う工程である。
組織標本の形態観察に関しては、細胞質・間質・各種線維・赤血球・角化細胞が赤~濃赤色に染色される、エオジンを用いた染色が標準的に用いられている。細胞核・石灰部・軟骨組織・細菌・粘液が青藍色~淡青色に染色される、ヘマトキシリンを用いた染色も標準的に用いられている(これら2つの染色を同時に行う方法はヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)として知られている)。
形態染色工程は、常法に従って行うことができる。例えば、HE染色の場合、組織標本をマイヤーヘマトキシリン液に浸漬させて、ヘマトキシリン染色を行った後、流水で組織標本を洗浄し、エオジン液に浸漬させて、エオジン染色を行う。形態染色工程を行う上での条件、すなわち染色液に組織標本を浸漬する際の温度および浸漬時間等は、定法に準じて適宜調整することができる。
【0042】
(2.3)蛍光染色工程
蛍光染色工程は、目的物質を蛍光物質集積ナノ粒子によって蛍光観察を行うための染色を行う工程である。蛍光染色工程では、目的物質を染色するために、免疫染色剤の溶液を切片に乗せ、目的物質と反応させる、免疫組織化学染色を行う。蛍光染色工程に用いる免疫染色剤の溶液については、この工程の前にあらかじめ調製しておけばよい。
なお、蛍光染色工程は、形態染色工程の後に行うようにしてもよいし、形態染色工程の前に行うようにしてもよい。
【0043】
(2.3.1)目的物質
目的物質とは、主に病理診断の観点からの検出または定量のために、蛍光標識体を用いた免疫組織化学染色の対象とするものをいう。具体的には、組織切片に存在するタンパク質(抗原)、核酸などの生体物質が想定される。さらに、生体に投与される医薬品(抗体医薬や核酸医薬など)に含まれる抗体や核酸なども目的物質の例として挙げられる。本実施形態においては、目的物質として、以下に例示する生体物質のうちいずれかを染色するものとする。
タンパク質としては、免疫細胞に発現しており、バイオマーカーとして利用することができるタンパク質を挙げることができる。例えば、PD-1、CTLA-4、TIM3、Foxp3、CD3、CD4、CD8、CD25、CD27、CD28、CD70、CD40、CD40L、CD80、CD86、CD160、CD57、CD226、CD112、CD155、OX40(CD134)、OX40L(CD252)、ICOS(CD278)、ICOSL(CD275)、4-1BB(CD137)、4-1BBL(CD137L)、2B4(CD244)、GITR(CD357)、B7-H3(CD276)、LAG-3(CD223)、BTLA(CD272)、HVEM(CD270)、GITRL、ガレクチン-9(Galectin-9)、B7-H4、B7-H5、PD-L2、KLRG-1、E-Cadherin、N-Cadherin、R-CadherinおよびIDO、TDO、CSF-1R、HDAC、CXCR4、FLT-3、TIGITなどが挙げられるが、これらに限定されない。
核酸としては、DNAやRNA関連物質(mRNA、tRNA、rRNA、miRNA、non-codingRNAなど)などが挙げられる。
抗体を成分に含む医薬品としては、抗体を有効成分として含む医薬品のほか、抗がん剤、抗ウイルス剤、抗生物質等を有効成分とし、がん細胞へのデリバリー手段としてがん細胞特異的タンパク質を認識する抗体が含まれる医薬品や、有効成分が標的とする因子(タンパク質)の関連するシグナル伝達経路の因子を標的とする抗体を含む医薬品等が挙げられる。これらの医薬品に含まれる抗体としては、がんの増殖制御因子、転移制御因子又はがん細胞特異的タンパク質などを特異的に認識する抗体が好ましく、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも良い。抗体のクラスやサブクラスは特に限定されず、クラスとしては、IgA、IgG、IgE、IgD、IgMなどを挙げることができ、サブクラスとしては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などを挙げることができる。なお、本明細書における「抗体」という用語には、全長の抗体だけでなく、Fab、F(ab)’2、Fv、scFvなどの抗体断片およびキメラ抗体(ヒト化抗体等)、多機能抗体などの誘導体が包含される。
核酸を成分に含む医薬品としては、DNA若しくはRNAである核酸、又はPNA等の人工核酸であれば特に限定されず、好ましい例としてデコイ、アンチセンス、siRNA、miRNA、リボザイム、アプタマー及びプラスミドDNA等を挙げることができる。
【0044】
(2.3.2)蛍光物質集積ナノ粒子
蛍光物質集積ナノ粒子(Phosphor Integrated Dot:PID)とは、励起光の照射を受けて蛍光発光するナノサイズの粒子であって、目的物質を1分子ずつ輝点として表すのに十分な強度の蛍光を発光しうる粒子である。
蛍光物質集積ナノ粒子は、有機物または無機物でできた粒子を母体とし、複数の蛍光物質(例えば、後述する蛍光有機色素や量子ドットなど)がその中に内包されている及び/又はその表面に吸着している構造を有する、ナノサイズの粒子であり、蛍光色素集積ナノ粒子、量子ドット集積ナノ粒子などが使用される。
蛍光物質集積ナノ粒子としては、母体と蛍光物質とが、互いに反対の電荷を有する置換基または部位を有し、静電的相互作用が働くものであることが好適である。
【0045】
(2.3.2.1)蛍光物質
蛍光画像の取得のための染色試薬に用いられる蛍光物質としては、蛍光有機色素及び量子ドット(半導体粒子)を挙げることができる。200~700nmの範囲内の波長の紫外~近赤外光により励起されたときに、400~1000nmの範囲内の波長の可視~近赤外光の発光を示すことが好ましい。
【0046】
蛍光有機色素としては、フルオレセイン系色素分子、ローダミン系色素分子、Alexa Fluor(インビトロジェン社製)系色素分子、BODIPY(インビトロジェン社製)系色素分子、カスケード系色素分子、クマリン系色素分子、エオジン系色素分子、NBD系色素分子、ピレン系色素分子、Texas Red系色素分子、シアニン系色素分子等を挙げることができる。
【0047】
具体的には、5-カルボキシ-フルオレセイン、6-カルボキシ-フルオレセイン、5,6-ジカルボキシ-フルオレセイン、6-カルボキシ-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオレセイン、6-カルボキシ-2’,4,7,7’-テトラクロロフルオレセイン、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン、ナフトフルオレセイン、5-カルボキシ-ローダミン、6-カルボキシ-ローダミン、5,6-ジカルボキシ-ローダミン、ローダミン6G、テトラメチルローダミン、X-ローダミン、及びAlexa Fluor 350、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 500、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 635、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750、BODIPY FL、BODIPY TMR、BODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665(以上インビトロジェン社製)、メトキシクマリン、エオジン、NBD、ピレン、Cy5、Cy5.5、Cy7等を挙げることができる。単独でも複数種を混合したものを用いてもよい。
【0048】
量子ドットとしては、II-VI族化合物、III-V族化合物、又はIV族元素を成分として含有する量子ドット(それぞれ、「II-VI族量子ドット」、「III-V族量子ドット」、「IV族量子ドット」ともいう。)のいずれかを用いることができる。単独でも複数種を混合したものを用いてもよい。
【0049】
具体的には、CdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS、ZnTe、InP、InN、InAs、InGaP、GaP、GaAs、Si、Geが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
上記量子ドットをコアとし、その上にシェルを設けた量子ドットを用いることもできる。以下、本明細書中シェルを有する量子ドットの表記法として、コアがCdSe、シェルがZnSの場合、CdSe/ZnSと表記する。例えば、CdSe/ZnS、CdS/ZnS、InP/ZnS、InGaP/ZnS、Si/SiO2、Si/ZnS、Ge/GeO2、Ge/ZnS等を用いることができるが、これらに限定されない。
量子ドットは必要に応じて、有機ポリマー等により表面処理が施されているものを用いてもよい。例えば、表面カルボキシ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)、表面アミノ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0051】
なお、蛍光物質集積ナノ粒子に集積させる蛍光物質としては、上述したような蛍光有機色素及び量子ドットの他、例えば、Y2O3、Zn2SiO4 等を母体とし、Mn2+,Eu3+等を賦活剤とする「長残光蛍光体」を挙げることができる。
【0052】
(2.3.2.2)母体
母体のうち、有機物としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、グアナミン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂など、一般的に熱硬化性樹脂に分類される樹脂;スチレン樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、ASA樹脂(アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸メチル共重合体)など、一般的に熱可塑性樹脂に分類される樹脂;ポリ乳酸等のその他の樹脂;多糖を例示することができる。
母体のうち、無機物としては、シリカ、ガラスなどを例示することができる。
【0053】
(2.3.2.3)量子ドット集積ナノ粒子
量子ドット集積ナノ粒子とは、上記量子ドットが、上記母体の中に内包されている、及び/又はその表面に吸着している構造を有する。
量子ドットが母体に内包されている場合、量子ドットは母体内部に分散されていればよく、母体自体と化学的に結合していてもよいし、していなくてもよい。
【0054】
(2.3.2.4)蛍光色素集積ナノ粒子
蛍光色素集積ナノ粒子とは、上記蛍光有機色素が、上記母体の中に内包されている、及び/又はその表面に吸着している構造を有する。
なお、蛍光有機色素が母体に内包されている場合、蛍光有機色素は母体内部に分散されていればよく、母体自体と化学的に結合していてもよいし、していなくてもよい。
【0055】
(2.3.2.5)蛍光物質集積ナノ粒子の作製
蛍光物質集積ナノ粒子は、公知の方法に従って作製することができる。
具体的には、例えば、シリカを母体とし、その中に蛍光物質が内包されている蛍光物質内包シリカ粒子は、量子ドット、蛍光有機色素などの蛍光物質と、テトラエトキシシランのようなシリカ前駆体とが溶解している溶液を、エタノールおよびアンモニアが溶解している溶液に滴下し、シリカ前駆体を加水分解することにより作製することができる。
【0056】
一方、樹脂を母体とし、蛍光物質を樹脂粒子の表面に吸着させるか、樹脂粒子中に内包させるかした蛍光物質集積樹脂粒子は、それらの樹脂の溶液ないし微粒子の分散液を先に用意しておき、そこに量子ドット、蛍光有機色素などの蛍光物質を添加して撹拌することにより作製することができる。あるいは、樹脂原料の溶液に蛍光物質を添加した後、重合反応を進行させることにより、蛍光物質集積樹脂粒子を作製することもできる。
例えば、母体となる樹脂としてメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂を用いる場合、その樹脂の原料(モノマーまたはオリゴマーないしプレポリマー、たとえばメラミンとホルムアルデヒドの縮合物であるメチロールメラミン)と、蛍光有機色素と、好ましくはさらに界面活性剤および重合反応促進剤(酸など)とを含有する反応混合物を加熱し、乳化重合法によって重合反応を進行させることにより、蛍光色素集積樹脂粒子を作製することができる。また、母体となる樹脂としてスチレン系共重合体のような熱可塑性樹脂を用いる場合、その樹脂の原料と、蛍光有機色素と(樹脂の原料モノマーとして、あらかじめ有機蛍光色素を共有結合などで結合させたモノマーを用いるようにしてもよい)、重合開始剤(過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなど)を含有する反応混合物を加熱し、ラジカル重合法またはイオン重合法によって重合反応を進行させることにより、蛍光色素集積樹脂粒子を作製することができる。
【0057】
(2.3.2.6)平均粒径
本実施の形態で用いられる蛍光物質集積ナノ粒子の平均粒径は特に限定されないが、粒子径が大きいものは抗原にアクセスしにくく、粒子径が小さく輝度値が低いものは蛍光物質集積ナノ粒子の信号がバックグラウンドノイズ(カメラのノイズや細胞の自家蛍光)に埋もれてしまうことから、20~500nm程度のものが好適である。
また、粒径のばらつきを示す変動係数(=(標準偏差/平均値)×100%)は特に限定されないが、20%以下のものを用いることができ、好ましくは5~15%である。
平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、各計測値を円の面積としたときの円の直径を粒径として求めた。本願においては、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。変動係数も、1000個の粒子の粒径分布から算出した値とした。
【0058】
(2.3.3)抗体
一次抗体には、目的物質としてのタンパク質を抗原として特異的に認識して結合する抗体(IgG)を用いることができる。
なお、一次抗体は、特定の生体物質(抗原)を特異的に認識して結合する能力を有するものであれば、天然の全長の抗体でなく、抗体断片または誘導体であってもよい。
【0059】
二次抗体には、一次抗体を抗原として特異的に認識して結合する抗体(IgG)を用いることができる。
【0060】
一次抗体および二次抗体はいずれも、ポリクローナル抗体であってもよいが、定量の安定性の観点から、モノクローナル抗体が好ましい。抗体を産生する動物(免疫動物)の種類は特に限定されるものではなく、従来と同様、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどから選択すればよい。
【0061】
(2.3.4)免疫染色剤
免疫染色剤は、目的物質に直接的又は間接的に結合しうる抗体と標識物質とを、直接的又は間接的に結合させた標識化抗体を、適当な媒体に分散させて生成される。
なお、蛍光標識の効率を向上させて蛍光の劣化につながる時間経過をなるべく抑えるためには、一次抗体および蛍光物質集積ナノ粒子が間接的に、つまり抗原抗体反応やアビジン・ビオチン反応などを利用した、共有結合以外の結合によって連結される複合体を用いることが好ましいが、これに限定されない。
【0062】
抗体及び蛍光ナノ粒子が間接的に連結される免疫染色剤の一例として、[目的物質に対する一次抗体]…[一次抗体に対する抗体(二次抗体)]~[蛍光ナノ粒子(蛍光体集積ナノ粒子)]が挙げられる。ここで、“…”は抗原抗体反応により結合していることを表し、“~”が示す結合の態様としては特に限定されず、例えば、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着または化学吸着等が挙げられ、必要に応じてリンカー分子を介していてもよい。
【0063】
二次抗体~蛍光物質集積ナノ粒子結合体は、例えば、無機物と有機物とを結合させるために広く用いられている化合物であるシランカップリング剤を用いて作製することができる。このシランカップリング剤は、分子の一端に加水分解でシラノール基を与えるアルコキシシリル基を有し、他端に、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルデヒド基などの官能基を有する化合物であり、上記シラノール基の酸素原子を介して無機物と結合する。具体的には、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ポリエチレングリコール鎖を有するシランカップリング剤(例えば、Gelest社製PEG-silaneno.SIM6492.7)等が挙げられる。シランカップリング剤を用いる場合、2種以上を併用してもよい。
【0064】
蛍光物質集積ナノ粒子とシランカップリング剤との反応手順は、公知の手法を用いることができる。例えば、得られた蛍光物質を内包したシリカナノ粒子を純水中に分散させ、アミノロピルトリエトキシシランを添加し、室温で12時間反応させる。反応終了後、遠心分離またはろ過により表面がアミノプロピル基で修飾された蛍光物質を内包したシリカナノ粒子を得ることができる。続いてアミノ基と抗体中のカルボキシル基とを反応させることで、アミド結合を介し抗体を、蛍光物質を内包したシリカナノ粒子と結合させることができる。なお、必要に応じて、EDC(1-Ethyl-3-[3-Dimethylaminopropyl] carbodiimide Hydrochloride:Pierce社製)のような縮合剤を用いることもできる。
【0065】
また、必要により、有機分子修飾された蛍光物質を内包したシリカナノ粒子と直接結合しうる部位と、分子標的物質と結合し得る部位とを有するリンカー化合物を用いることができる。具体例として、アミノ基に選択的に反応する部位とメルカプト基に選択的に反応する部位との両方を有するsulfo-SMCC(Sulfosuccinimidyl-4-[N-maleimidomethyl] cyclohexane-1-carboxylate:Pierce社製)を用いると、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した蛍光物質を内包したシリカナノ粒子のアミノ基と、抗体中のメルカプト基とを結合させることで、抗体が結合した蛍光物質を内包したシリカナノ粒子が得られる。
【0066】
蛍光物質を内包したポリスチレン粒子に生体物質認識部位(生体物質を特異的に認識可能な部位、例えば、ビオチン、アビジン、抗体等)を結合させる場合、蛍光物質が蛍光有機色素あるいは量子ドットの何れの場合であっても、同様の手順を適用することができる。すなわち、アミノ基など官能基を有するポリスチレンナノ粒子に量子ドットまたは蛍光有機色素を含浸することにより、官能基を有する蛍光物質集積ポリスチレン粒子を得ることができ、以降EDCまたはsulfo-SMCCを用いることで、抗体が結合した蛍光物質集積ポリスチレン粒子ができる。
【0067】
抗体及び蛍光ナノ粒子が間接的に連結される免疫染色剤の他の一例として、[目的物質に対する一次抗体]…[一次抗体に対する抗体(二次抗体)]-[ビオチン]/[アビジン]-[蛍光体(蛍光物質集積ナノ粒子)](ここで、“…”は抗原抗体反応により結合していることを表し、“-”は必要に応じてリンカー分子を介していてもよい共有結合により結合していることを表し、“/”はアビジン・ビオチン反応により結合していることを表す。)という様式によって連結される、3つの分子からなる複合体が挙げられる。
【0068】
二次抗体-ビオチン結合体(ビオチン修飾二次抗体)は、所望の抗体(タンパク質)にビオチンを結合させることのできる公知の手法に基づいて、たとえば市販されているビオチン標識試薬(キット)を利用して作製することができる。また、あらかじめ所望の抗体にビオチンが結合されているビオチン修飾二次抗体自体が市販されていれば、それを利用してもよい。
【0069】
蛍光物質集積ナノ粒子-アビジン結合体(アビジン修飾蛍光体)も、蛍光体にアビジンを結合させることのできる公知の手法に基づいて、たとえば市販されているアビジン標識試薬(キット)を利用して作製することができる。この場合のアビジンは、ビオチンとの間でアビジンよりも高い結合力が働く、ストレプトアビジンやニュートラアビジンなどの改良型であってもよい。
【0070】
蛍光物質集積ナノ粒子-アビジン結合体の作製方法の具体例を挙げれば次の通りである。
蛍光物質集積ナノ粒子が樹脂を母体とする場合、その樹脂が有する官能基と、アビジン(タンパク質)が有する官能基とを、必要に応じて分子の両末端に官能基を有するPEG等のリンカー分子を介することにより、結合させることができる。例えば、メラミン樹脂であればアミノ基等の官能基を利用することができるし、アクリル樹脂、スチレン樹脂等であれば、側鎖に官能基(たとえばエポキシ基)を有するモノマーを共重合させることにより、その官能基自体またはその官能基から変換された官能基(例えばアンモニア水を反応させることにより生成するアミノ基)を利用することができるし、さらにはそれらの官能基を利用して別の官能基を導入することもできる。
【0071】
また、蛍光物質集積ナノ粒子がシリカを母体とする場合、シランカップリング剤で表面修飾することにより所望の官能基を導入することができ、例えばアミノプロピルトリメトキシシランを用いればアミノ基を導入することができる。
一方、アビジンに対しては、たとえばN-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテート(SATA)をアビジンのアミノ基と反応させることにより、チオール基を導入することができる。そして、アミノ基との反応性を有するN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルおよびチオール基との反応性を有するマレイミド基をポリエチレングリコール(PEG)鎖の両端に有するクロスリンカー試薬を利用することにより、アミノ基を有する蛍光物質集積ナノ粒子と、チオール基が導入されたアビジンとを連結することができる。
【0072】
蛍光染色工程を行う上での条件、すなわち免疫染色剤の溶液に組織標本を浸漬する際の温度および浸漬時間は、従来の免疫組織化学染色法に準じて、適切なシグナルが得られるよう適宜調整することができる。
温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。反応時間は、30分以上24時間以下であることが好ましい。
上述したような処理を行う前に、BSA含有PBSなど公知のブロッキング剤やTween20などの界面活性剤を滴下することが好ましい。
【0073】
例えば、免疫染色剤が、[一次抗体(プローブ)]…[二次抗体]-[ビオチン]/[アビジン]-[蛍光ナノ粒子(蛍光物質集積ナノ粒子等)]という複合体である場合、最初に一次抗体の溶液に組織標本を浸漬する処理(1次反応処理)、次に二次抗体-ビオチン結合体の溶液に組織標本を浸漬する処理(2次反応処理)、最後に本発明に係る蛍光ナノ粒子用希釈液に分散させたアビジン-蛍光ナノ粒子の溶液に組織標本である組織切片を浸漬する処理(蛍光標識処理)を行えばよい。
【0074】
(2.4)標本後処理工程
形態染色工程及び蛍光染色工程を終えた組織標本は、観察に適したものとなるよう、固定化・脱水、透徹、封入などの処理を行うことが好ましい。
【0075】
固定化・脱水処理は、組織標本を固定処理液(ホルマリン、パラホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、アセトン、エタノール、メタノールなどの架橋剤)に浸漬すればよい。透徹処理は、固定化・脱水処理を終えた組織標本を透徹液(キシレンなど)に浸漬すればよい。封入処理は、透徹処理を終えた組織標本を封入液に浸漬すればよい。
これらの処理を行う上での条件、たとえば組織標本を所定の処理液に浸漬する際の温度および浸漬時間は、従来の免疫染色法に準じて、適切なシグナルが得られるよう適宜調整することができる。
【0076】
(3)画像取得工程
画像取得工程では、まず、顕微鏡画像取得装置1Aを明視野ユニットに設定したうえで所望の倍率に設定し、形態染色工程によって染色された組織標本全体の明視野画像を観察・撮影する。
次いで、顕微鏡画像取得装置1Aを蛍光ユニットに設定し、蛍光染色工程に用いられた目的物質を蛍光標識するそれぞれの蛍光物質に対応した励起光を組織標本に照射し、それらの蛍光物質から発せられた蛍光による組織標本全体の蛍光画像を観察・撮影する。
【0077】
(4)スコア作成工程
スコア作成工程では、まず明視野画像における領域、構造及び細胞種などの複数種の情報を取得し、各々の情報を組み合わせてスコア化した形態スコアを算出する。
画像処理及びスコア化に用いることができるソフトウェアとしては、例えば「ImageJ」(オープンソース)が挙げられる。このような画像処理ソフトウェアを利用することにより、一細胞ごとに識別可能に染色された明視野画像から、細胞ごとの形状や、細胞が集まって形成された領域、構造の形状に基づいて、領域、構造及び細胞種の判別を行う処理や、領域、構造及び細胞種の数、面積などの情報に基づいてスコアを算出する処理などを半自動的に、迅速に行うことができる。
【0078】
続いて、蛍光画像における目的物質の存在に関する情報を取得し、スコア化して生体物質スコアを得る。なお、目的物質の存在に係る情報とは、目的物質(タンパク質、核酸、医薬品に含まれる抗体など)の一細胞内の存在量や、目的物質の細胞内局在などの情報が挙げられる。即ち、目的物質に関して撮影された蛍光画像について、情報提供装置2Aにおいて画像処理を実行し、目的物質に対応する蛍光の輝点などの蛍光標識シグナルを抽出し、各輝点の座標を特定、あるいはこれらの数を計測して目的物質の存在量や細胞内局在を定量化してスコア化する。なお、生体物質スコアは、複数種類の目的物質を染色した場合には、各々について算出することができる。
画像処理及び発現解析にも、上記した「ImageJ」(オープンソース)などのソフトウェアを利用することができる。即ち、蛍光画像から、所定の波長(色)の輝点を抽出し、そのうち所定の輝度以上の輝点の数を計測する処理などを半自動的に、迅速に行うことができる。
【0079】
最後に、明視野画像において算出した形態スコアと、蛍光画像において算出した生体物質スコアとを合算して、最終的な解析スコアを作成する。
【0080】
(5)領域可視化工程
本実施形態に係る病理診断支援システム100においては、必要に応じて、腫瘍領域と間質領域とを識別するための蛍光染色を行う工程を含むことができる。即ち、例えば間質領域に多く存在する物質を蛍光標識し、蛍光観察を行うことで、蛍光が観測される間質領域と、蛍光が観察されないか、あるいは微弱な傾向が観察される腫瘍領域との境界を、ユーザーが蛍光観察によって確認することが可能となる。これにより、明視野画像に基づく腫瘍領域と間質領域との識別をサポートすることができる。
具体的には、以下の染色が有効である。
【0081】
(5.1)サイトカインの蛍光染色
間質領域中に存在するサイトカインを蛍光標識することで、腫瘍領域と間質領域を蛍光観察によって明確に識別することができる。即ち、腫瘍領域に比べ、間質領域においてはサイトカインが多量に存在するため、蛍光輝度の違いにより腫瘍領域と間質領域との境界を視認することができる。
本工程においては、サイトカインを抗原として特異的に認識して結合する抗体(IgG)を用い、当該抗体を蛍光物質で標識した免疫染色剤を用いて組織標本を染色する。なお、蛍光標識に用いる蛍光物質は、蛍光物質集積ナノ粒子に限定されず、単体の蛍光色素を用いても腫瘍領域と間質領域とを十分に識別することができる。
具体的には、上記「(2.3)蛍光染色工程」と同様の手順によって染色することができる。また、サイトカインの蛍光染色は、上記「(2.3)蛍光染色工程」における目的物質の蛍光染色と同時に行うことが可能である。ただし、目的物質を標識した蛍光物質集積ナノ粒子とは、蛍光波長の異なる蛍光物質を用いることが望ましい。
サイトカインの例としては、IL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、TNF、TGF-βが挙げられる。
【0082】
(5.2)免疫細胞におけるタンパク質の蛍光染色
免疫細胞におけるタンパク質とは、ここでは免疫細胞に特異的に発現するタンパク質を指し、これを蛍光標識することでも、腫瘍領域と間質領域を蛍光観察によって明確に識別することができる。即ち、間質領域における免疫細胞に基づく蛍光輝度が、腫瘍領域における免疫細胞に基づく蛍光輝度に比べて大幅に大きいため、輝度の違いから領域の境界を視認することができる。なお、上記「(2.3)蛍光染色工程」において間質領域に高発現するタンパク質の蛍光染色を行う場合には、目的物質の蛍光観察によって本工程を代替することができるが、これを行わない場合には、本工程で以下に例示するタンパク質を蛍光染色することが有効である。
本工程においては、免疫細胞におけるタンパク質を抗原として特異的に認識して結合する抗体(IgG)を用い、当該抗体を蛍光物質で標識した免疫染色剤を用いて組織標本を染色する。蛍光標識をするための蛍光物質は、蛍光物質集積ナノ粒子に限定されず、単体の蛍光色素でも腫瘍領域と間質領域とを十分に識別することができる。なお、染色は、上記「(2.3)蛍光染色工程」同様の手順によって行うことができる。
免疫細胞におけるタンパク質の例としては、PD-1、CTLA-4、TIM3、Foxp3、CD3、CD4、CD8、CD25、CD27、CD28、CD70、CD40、CD40L、CD80、CD86、CD160、CD57、CD226、CD112、CD155、OX40(CD134)、OX40L(CD252)、ICOS(CD278)、ICOSL(CD275)、4-1BB(CD137)、4-1BBL(CD137L)、2B4(CD244)、GITR(CD357)、B7-H3(CD276)、LAG-3(CD223)、BTLA(CD272)、HVEM(CD270)、GITRL、ガレクチン-9(Galectin-9)、B7-H4、B7-H5、PD-L2、KLRG-1、E-Cadherin、N-Cadherin、R-CadherinおよびIDO、TDO、CSF-1R、HDAC、CXCR4、FLT-3、TIGITが挙げられる。
【0083】
<病理診断支援システム100の動作>
以下、病理診断支援システム100において、上記説明した蛍光画像及び明視野画像を取得して解析を行う動作について説明する。ここでは、免疫細胞において発現するタンパク質から任意のものを目的物質として選択し、当該目的物質を認識する生体物質認識部位が結合した蛍光物質集積ナノ粒子を含む染色試薬を用いて染色された組織標本を観察対象とする場合を例にとり説明する。
【0084】
まず、操作者は、HE染色試薬と、目的物質を認識する生体物質認識部位が結合した蛍光物質集積ナノ粒子を蛍光標識材料とした染色試薬との、2種の染色試薬を用いて組織標本を染色する。
その後、顕微鏡画像取得装置1Aにおいて、(a1)~(a5)の手順により明視野画像及び蛍光画像が取得される。
(a1)操作者は、HE染色試薬と蛍光物質集積ナノ粒子を含む染色試薬とによりそれぞれ染色された組織標本をスライドに載置し、当該スライドを顕微鏡画像取得装置1Aのスライド固定ステージに設置する。
(a2)明視野ユニットに設定し、撮影倍率、ピントの調整を行う。
(a3)撮像手段で組織標本全体の撮影を行って明視野画像の画像データを生成し、情報提供装置2Aに画像データを送信する。
(a4)ユニットを蛍光ユニットに変更する。
(a5)視野及び撮影倍率を変えずに撮像手段で組織標本全体の撮影を行って蛍光画像の画像データを生成し、情報提供装置2Aに画像データを送信する。
【0085】
続いて、情報提供装置2Aにおいて、画像取得工程、スコア作成工程、情報提示工程を実行する。
図3に、情報提供装置2Aにおける処理のフローチャートを示す。図3に示す処理は、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0086】
まず、制御部21の制御下で、通信I/F24を介して顕微鏡画像取得装置1Aからの明視野画像が入力されると(ステップS1:画像取得工程)、スコア算出対象の特定が行われる(ステップS2)。
図4に、ステップS2における処理の詳細フローを示す。ステップS2の処理は、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0087】
ステップS2においては、まず、細胞種の特定が行われる(ステップS21)。
図5に、ステップS21における処理の詳細フローを示す。ステップS21の処理は、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0088】
ステップS21においては、まず、細胞核の抽出が行われる(ステップS211)。
具体的には、まず、明視野画像がモノクロ画像に変換され、モノクロ画像に対してあらかじめ定められた閾値を用いた閾値処理が施され、各画素の値が2値化される。
さらに、クロージング処理やオープニング処理が施されることによりノイズ処理が実施される。ノイズ処理後には、細胞核が抽出された画像(細胞核画像)が得られる。
次いで、ノイズ処理後の画像にラベリング処理が施され、抽出された細胞核のそれぞれにラベルが付与される。ラベリング処理とは、連結している画素に同じラベル(番号)を付与していくことで画像内のオブジェクトを識別する処理である。ラベリング処理により、ノイズ処理後の画像から各細胞核を識別してラベルを付与することができる。
なお、ステップS211においては、細胞核を抽出する方法の他、細胞自体を抽出するものとしてもよい。この場合、ノイズ処理後には細胞が抽出された画像が取得され、ラベリング処理により各細胞にラベルが付与される。
【0089】
続いて、細胞特徴量が算出される(ステップS212)。
具体的には、ステップS211で抽出された細胞核画像内の全細胞核について、細胞核画像から、細胞核の面積A、細胞核の平均濃度B、細胞核内のピクセル輝度バラつき(σ値)C、細胞核の円形度D、細胞核の扁平率Eなどの細胞特徴量が算出される。
細胞核の面積Aについては、予め細胞核画像に対応した基準となる長さを測定することで画素(ピクセル)の大きさを算出し、ステップ211で抽出された各細胞核内の画素数を積算することにより、細胞核の面積Aが決定される。
細胞の平均濃度Bは、細胞核内の各画素(ピクセル)のグレイスケールに変換した輝度信号値を求め、その平均値を算出することにより決定される。
ピクセル輝度バラツキCは、細胞核内の各画素(ピクセル)の輝度信号値の標準偏差を算出することにより決定される。
細胞核の円形度D及び扁平率Eは、ステップ211で抽出された各細胞核について、細胞核画像から得られる一定の値を、下記式(d)、(e)に当てはめることで決定される。
(円形度D)=4πS/L2 … (d)
(扁平率E)=(a-b)/a … (e)
ただし、式(d)中、「S」は細胞の面積(細胞核の面積A)を、「L」は細胞核の外周長をそれぞれ表す。式(e)中、「a」は長半径を、「b」は短半径をそれぞれ表す。
【0090】
次いで、算出された細胞特徴量に基づいて、細胞特徴量の閾値処理が実行される(ステップS213)。例えば、上記した細胞特徴量A~Eについて、腫瘍細胞と正常細胞とを識別するための閾値が設定され、細胞核画像上の全ての細胞核に対してこれらの閾値処理を施し、腫瘍細胞又は正常細胞として特定する。また、間質領域における免疫細胞、炎症細胞、線維芽細胞、内皮細胞等の細胞種を識別するための閾値処理を行ってもよい。その他、識別したい細胞種に応じて、任意の閾値を設定することで、種々の細胞種を特定することができる。
【0091】
なお、上記した細胞特徴量の因子A~Eは一例であって、細胞特徴量の因子として上記とは異なる別の因子が使用されてよい。例えば、病理診断において腫瘍細胞と正常細胞を比較する際には、細胞の大きさ及び形状、細胞核の位置、大きさ、形状の変化及び核分裂像、細胞質の色や粘液産生の有無及び細胞核/細胞質面積比などが観察される。このような、実際の病理診断時に注目される項目を細胞特徴量として抽出して、細胞種の特定に用いてもよい。
【0092】
続いて、血管、リンパ管、分泌腺などの構造の特定が行われる(ステップS22)。
ステップS22においては、例えば、細胞核画像から細胞が一定量集合して形成された構造を抽出する。続いて、抽出された各構造から、構造の面積、平均輝度、輝度のばらつき、扁平率、円形度などの特徴量を算出し、当該特徴量に基づいて、血管、リンパ管、分泌腺などを識別する。
【0093】
続いて、領域の特定が行われる(ステップS23)。
領域の特定においては、腫瘍細胞が一定量集合して存在する腫瘍領域と、間質細胞が一定量集合して存在する間質領域と、が特定される。
ステップS23においては、例えば、ステップS21において細胞核画像上で腫瘍細胞と特定された細胞(細胞核)の集合が、所定の面積以上を占めている場合に、当該腫瘍細胞の集合を腫瘍領域として特定することができる。同様に、ステップS21において間質細胞と特定された細胞(細胞核)の集合が、所定の面積以上を占めている場合に、当該間質細胞の集合を間質領域として特定することができる。
ステップS23の処理により、スコア算出対象の特定が完了する。
【0094】
なお、上記ステップS21~ステップS23におけるスコア算出対象の特定処理は、基本的には、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働にて自動で行われるが、かかる処理には病理医などのユーザーによる補助作業を伴ってもよい。
ユーザーによる補助作業とは、例えば、ステップS21の領域の特定処理においては、入力された情報提供装置2Aの表示部23に表示された明視野画像に対して、ユーザーによって明視野画像上の特定の領域を、操作部22を用いて多角形や自由曲線等の閉じた図形で囲むことにより選択し、各選択箇所を「腫瘍領域」、「間質領域」など定義づける動作を含む。また、蛍光画像における蛍光を観察することにより、明視野画像における領域の特定処理の結果を確認する動作を含む。
ステップS22の構造の特定処理及びステップS23の細胞種の特定処理においても、同様にユーザーによって明視野画像上で選択及び定義づけする動作を含む。
また、ステップS233の細胞特徴量の閾値処理においては、例えば、記憶部25に記憶されているプログラムに対し細胞特徴量の各閾値を段階的に調整し、特定された細胞種の目視による確認等を含む。
【0095】
また、上記ステップS21~ステップS23におけるスコア算出対象の特定処理は、上記の手法のほか、機械学習によってトレーニングされた画像認識技術を用いて、自動的に行うものとしてもよい。即ち、例えばニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)などの手法を用いて、明視野画像に出現する領域、構造、細胞種を学習させることで、入力された明視野画像におけるこれらの項目の特定を自動的に行うことができる。
【0096】
続いて、形態スコアの算出が行われる(ステップS3:スコア作成工程)。
図6に、ステップS3における処理の詳細フローを示す。ステップS24の処理は、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0097】
ステップS3においては、まず、領域に基づくスコアが算出される(ステップS31)。
領域に基づくスコアとは、組織切片上に存在する腫瘍領域及び間質領域などの種々の領域から得られる情報をスコア化したものである。腫瘍領域の大きさはがんの悪性度と関連付けられるため、例えば、撮像した組織切片の全体の面積のうちの腫瘍領域が占める割合や、全体の面積のうちの腫瘍領域及び間質領域が占める面積の割合、間質領域の面積と腫瘍領域の面積の比などをスコア化することが有効である。
【0098】
続いて、構造に基づくスコアが算出される(ステップS32)。
構造に基づくスコアとは、組織切片上に存在する血管、リンパ管及び分泌管など種々の構造から得られる情報をスコア化したものである。血管の密度ががんの悪性度の評価指標となることが知られているため、例えば、がんの悪性度に関連する構造の、組織切片上の存在の有無、密度又は出現数などをスコア化することが有効である。
【0099】
続いて、細胞種に基づくスコアが算出される(ステップS33)。
細胞種に基づくスコアとは、組織切片上に存在する腫瘍細胞、間質細胞などの細胞種から得られる情報をスコア化したものである。例えば、がん細胞及び正常細胞のそれぞれの、組織切片上に存在する数をスコア化してもよい。また、これらのがん細胞の組織切片上の密度や、腫瘍領域におけるがん細胞と、間質領域における免疫細胞との距離など、異なる細胞種間の距離や、腫瘍領域におけるがん細胞と間質領域における血管との距離などの、特定の細胞出と特定の構造との距離といった、病理診断において注目される種々の情報をスコア化してもよい。
ステップS33の処理により、形態スコアの算出が完了し、図3に戻る。
【0100】
なお、ステップS31~ステップS33においては、目的に応じて各スコアに重みづけを行っても良いし、任意の段階でスコアの小計を算出し、小計に対して重みづけを行っても良い。ただし、領域、構造、及び細胞種に基づくそれぞれのスコアの算出は、ステップS31~ステップS33の順序で行うことが望ましい。即ち、例えば、まず組織切片上に存在する腫瘍領域の面積等を評価し、次いで組織切片上に存在する血管などの構造を評価し、次いで腫瘍細胞の数や配置等を評価する順序とすることで、病理医が実際に組織標本を観察して診断を行う場合の順序と同一となり、臨床における診断手法に近づけることができるため、支援情報の精度の向上が期待できる。
また、上記した領域スコア、構造スコア及び細胞種スコアの算出方法は一例であって、これに限定されない。その他、病理診断において注目される項目をスコア化するのが望ましい。
【0101】
一方で、通信I/F24により顕微鏡画像取得装置1Aからの蛍光画像が入力されると(ステップS4:画像取得工程)、蛍光画像から蛍光輝点が抽出される(ステップS5)。
ステップS5においては、まず、蛍光画像からR成分の抽出が行われ、R成分が抽出された画像にTophat変換が施される。Tophat変換は、入力画像の各画素の値から、入力画像に最小値フィルター及び最大値フィルターをこの順でかけた画像の、対応する画素の値を減算する処理である。最小値フィルターは、注目画素の近傍の画素(例えば、3×3画素)のうちの最小値で注目画素の値を置き換えるものである。最大値フィルターは、注目画素の近傍の画素(例えば、3×3画素)のうちの最大値で注目画素の値を置き換えるものである。Tophat変換により、濃淡プロファイル上の小突起(近傍の画素に比べて輝度の高い領域)を抽出することができる。これにより、蛍光輝点候補画像を得ることができる。次いで、蛍光輝点候補画像からノイズ除去が行われることにより、蛍光輝点が抽出された画像(蛍光輝点画像)が得られ、ノイズ除去後の画像にラベリング処理が施され、抽出された蛍光輝点のそれぞれにラベルが付与される。
【0102】
続いて、生体物質スコアの算出が行われる(ステップS6:スコア作成工程)。
図7に、ステップS6における処理の詳細フローを示す。ステップS6の処理は、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0103】
ステップS6においては、まず、明視野画像と蛍光画像とで共通に検出される情報源に基づき、明視野画像と蛍光画像との各画像の位置合わせが行われる(ステップS61)。当該位置合わせに用いられる明視野画像はステップS2で得られた細胞核画像であり、当該位置合わせに用いられる蛍光画像はステップS5で得られた蛍光輝点画像である。
明視野画像と蛍光画像とで共通に検出される情報源としては、明視野画像及び蛍光画像の両方で認識可能な情報が用いられ、本実施形態では組織切片の染色材料であるエオジンの染色情報が用いられる。エオジンの染色情報からは、明視野画像及び蛍光画像の各画像においてその画像を特徴付けるコントラスト情報やエッジ情報、輪郭情報等の画像特徴量が算出される。
明視野画像及び蛍光画像のそれぞれのエオジンの染色情報から、各画像におけるコントラスト情報、エッジ情報及び輪郭情報が算出される。そしてこれら画像間の情報同士が比較され、その共通点を合致させることにより、明視野画像と蛍光画像との位置合わせが行われる。
【0104】
次いで、位置合わせ後の明視野画像(ステップS2で得られた細胞核画像)と蛍光画像(ステップS5で得られた蛍光輝点画像)との両画像から、各細胞内の目的物質の存在状況の判定が行われる(ステップS62)。
具体的には、例えば、明視野画像と蛍光画像とを重ね合わせた状態において、ステップS23で特定した細胞に対応する部分の蛍光輝点数が算出される。また、蛍光輝点数のほか、輝点領域ごとに輝度値を算出し、その蛍光画像中のすべての輝点領域の輝度値を総計した輝度積分値を算出するものとしてもよい。
【0105】
続いて、存在状況に応じたスコアが算出される(ステップS63)。
存在状況に応じたスコアは、一細胞当たりの目的物質の存在量や細胞内局在等に応じて算出されるスコアである。なお、複数の目的物質を蛍光染色した場合には、ステップS5及びステップS6の処理は各目的物質について行い、各目的物質についての生体物質スコアを得ることができる。
ステップS63により、生体物質スコアの算出を完了する。
【0106】
続いて、解析スコアの算出が行われる(ステップS7:スコア作成工程)。
解析スコアの算出は、ステップS3で算出した形態スコアと、ステップS6で算出した生体物質スコアを合算することで行われる。
なお、形態スコア及び生体物質スコアの合算に際して、ユーザーが欲する支援情報を得られるように、任意の重みづけを行ってもよい。
【0107】
次いで、算出された解析スコアを表示部23に表示させる(ステップS8:情報提示工程)。これにより、ユーザーが、情報提供装置2Aによって支援情報として提示された解析スコアを確認することができる。なお、ステップS8においては、解析スコアの提示の態様は特に限定されず、解析スコアを数値のみの状態で提示するものとしても良いし、明視野画像及び蛍光画像上に解析スコア(形態スコア及び生体物質スコアの状態でも良い)を表示した状態で提示するものとしても良い。解析スコアと画像が関連付けられて表示されると、解析スコアと組織切片の状態との関係性を視認しやすく、ユーザーにとって利便性が高い。
以上により、情報提供装置2Aにおける処理を終了する。
【0108】
以上説明したように、本実施形態に係る情報提供方法においては、組織切片のデジタル化された明視野画像から複数種の情報を取得し、これらの情報を組み合わせてスコア化した解析スコアを作成し、支援情報としてユーザーに提示する。実際の病理診断等においては、単一の情報(例えば、腫瘍細胞の数)のみではなく、組織切片から得られる複数種の情報(例えば、腫瘍細胞の数と免疫細胞の数)に基づいて行われる。本実施形態に係る情報提供方法においては、実際の判断時と同様に、複数種の情報を加味して組織切片を総合的に評価した解析スコアを提供する。これにより、解析スコアが種々の判断における高精度な指標として機能し、ユーザーが解析スコアの値に基づき病理診断等を行えるほか、ユーザーが情報提供装置2Aに表示された解析スコアと、自身が組織切片を観察して行った病理診断等の結果と照らし合わせることで、自身の判断の精度を確認することが可能となる。
また、組織切片の画像をデジタル解析して評価を行うため、病理医等による主観的な判断に比べ、客観的な情報を提供することができ、本実施形態に係る情報提供方法によって病理診断等の種々の判断がサポートされ、精度の向上を図ることができる。
【0109】
また、バーチャル顕微鏡スライド作成装置を用いて顕微鏡画像を取得することで、代表的視野から判断を行う必要がなく、組織切片全体を観察して判断することができる。
【0110】
また、解析スコアは、領域、構造、細胞種から得られる情報を組み合わせて作成することができる。実際の病理医による病理診断等と同様に、これらの関係性に基づいて総合的に評価するため、精度の高い支援情報を提供することができる。
さらに、腫瘍領域におけるがん細胞と間質領域における免疫細胞との距離や、がん細胞と血管などの特定の構造との距離など、領域、構造及び細胞種の間の局在の関係性に係る情報を用いて解析スコアを作成することで、より信頼性の高い支援情報を提供することができる。
また、領域、構造及び細胞種のそれぞれについてスコア化することを基本とし、目的に応じてスコア化する項目及び重みづけを設定することで、ユーザーが欲する情報をスコアとして提示することができる。
【0111】
また、蛍光物質集積ナノ粒子により特定の生体物質を蛍光観察可能に染色することにより、生体物質の存在量と関連付けて解析スコアを、病理診断等における新たな指標とすることができる。
【0112】
また、領域染色工程によって領域の染め分けを行うことで、領域境界を明確に視認することができるようになり、支援情報の信憑性が増す。
【0113】
なお、上記実施形態においては、目的物質の蛍光染色を行うものとしたが、蛍光染色工程は省略することも可能である。
本発明は、上記したように、病理切片から得られる情報を自動的にスコア化して提示することで病理医等による種々の判断をサポートすることを目的とするが、これは、明視野画像から得られる複数種の情報(領域、構造及び細胞種に係る情報)を組み合わせたスコアによって、実際に病理医等が判断を行う際の判断基準に近い方法で病理切片を評価した結果を得ることができるため、十分にその目的を達成することができる。
即ち、特許文献1及び特許文献2のように、生体物質を蛍光染色することが必ずしも必要ではなく、形態染色工程のみによっても解析スコアを作成することが可能であるため、染色ごとのスライド間のばらつきや手間を省略することができる。
【0114】
以下、図8を用いて解析スコアの算出の具体的な例を説明する。
図8Aは、被検体から採取された組織切片にHE染色を施した組織標本を、顕微鏡画像取得装置1Aの明視野ユニットを用いて撮影して得られた明視野画像200である。図8Aに示すように、明視野画像200上に、腫瘍領域210及び間質領域220が存在し、間質領域220には血管230が存在する。
なお、組織切片は、蛍光物質集積ナノ粒子を用いて目的物質(HER2)を染色しており、図示を省略するが、顕微鏡画像取得装置1Aの蛍光ユニットを用いて、明視野画像200と同一の視野の蛍光画像を取得した。
【0115】
図8Bは、ユーザーが欲する支援情報が出力されるように、スコア化に用いる情報が設定され、またスコアの重みづけが定義された、解析スコアの算出手順を示すフローチャートである。以下、図8Aに示す組織標本を例に、図8Bに示すフローに従った解析スコアの算出方法について説明する。
まず、領域面積をスコア化する(ステップS101)。ここでは、腫瘍領域210及び間質領域220の面積が、組織標本全体の面積に占める割合をスコア化した値N1を算出するものとし、N1を、(腫瘍領域210及び間質領域220の面積/明視野画像200の面積)の式で得られる値を規格化した値とする。
図8Aの組織標本からは、N1=40が得られた。
【0116】
続いて、構造の有無をスコア化する(ステップS102)。ここでは、組織標本上の血管の有無をスコア化した値N2を得るものとし、血管ありの場合はN2=20とし、血管無し場合はN2=0とする。
図8Aの組織標本においては、間質領域220に血管230が観察されるため、N2=20が得られた。
【0117】
続いて、構造出現数に基づいて、N1及びN2に重みづけを行う(ステップS103)。ここでは、組織標本上の血管の出現数が所定の数よりも多い場合には、N3=(N1+N2)×2とし、所定の数よりも少ない場合には、N3=(N1+N2)×1とする。
図8Aの組織標本においては、血管230が所定の数よりも多いため、N3=(N1+N2)×2=(40+20)×2=120が得られた。
【0118】
続いて、細胞種数をスコア化する(ステップS104)。ここでは、組織標本上の腫瘍細胞の数をスコア化した値N4を得るものとし、N4を、腫瘍細胞の数を規格化した値とする。
図8Aの組織標本からは、N4=30が得られた。
【0119】
続いて、細胞種密度をスコア化する(ステップS105)。ここでは、組織標本上の腫瘍細胞の密度をスコア化した値N5を得るものとし、組織標本上の腫瘍細胞の密度が所定の密度よりも高い場合には、N5=10とし、所定の密度よりも低い場合には、N5=0とする。
図8Aの組織標本においては、腫瘍細胞の密度が所定の密度よりも高いため、N5=10が得られた。
【0120】
続いて、細胞間距離に基づいてN4及びN5に重みづけを行う(ステップS106)。
ここでは、組織標本上の腫瘍領域210における腫瘍細胞と、間質領域220における免疫細胞との距離が、所定の距離よりも短い(細胞同士が近い)場合には、N6=(N4+N5)×2とし、所定の距離よりも大きい(細胞同士が遠い)場合には、N6=(N4+N5)×1とする。
図8Aの組織標本においては、細胞間距離が所定の距離よりも小さいためN6=(N4+N5)×2=(30+10)×2=80が得られた。
【0121】
続いて、生体物質スコアN7を算出する(ステップS108)。ここでは、生体物質スコアは、目的物質の存在量に基づき、蛍光物質集積ナノ粒子の輝点の数をスコア化した値N7を得るものとし、N7を、蛍光輝点数を規格化した値とする。
図8Aの組織標本からは、N7=50が得られた。
【0122】
以上のように算出された各スコアを合算して、解析スコアNを取得する(ステップS108)。ここでは、N=N3+N6+N7とする。
図8Aの組織標本からは、N=N3+N6+N7=120+80+50=250が得られた。
この解析スコアN=250をユーザーに提示する。例えば、予め解析スコアの数値が、がん悪性度に紐づけられている場合には、ユーザーは解析スコアを参照して被検者のがんの悪性度を判断することができる。このように、解析スコアを病理診断等における種々の指標とすることができる。
【0123】
[他の実施形態]
以上、本発明を適用した好ましい実施形態について説明したが、上記実施形態における記述内容は、本発明の好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0124】
上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体としてHDDや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを、通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0125】
その他、病理診断支援システム100を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、組織切片から得られる情報に基づいて行われる種々の判断のための、客観的かつ高精度な支援情報を提供することが可能な情報提供方法、情報提供装置及びプログラムに利用することができる。
【符号の説明】
【0127】
100 病理診断支援システム
1A 顕微鏡画像取得装置
2A 情報提供装置
21 制御部(画像取得部、スコア算出部、情報提示部)
22 操作部
23 表示部
24 通信I/F
25 記憶部
N 通信ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B