(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】水素生成方法及びテトラヒドロほう酸塩との反応用水溶液
(51)【国際特許分類】
C01B 3/08 20060101AFI20241126BHJP
B01J 25/02 20060101ALI20241126BHJP
C01B 6/15 20060101ALI20241126BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20241126BHJP
【FI】
C01B3/08 Z
B01J25/02 M
C01B6/15
H01M8/0606
(21)【出願番号】P 2021002685
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 康孝
(72)【発明者】
【氏名】長坂 政彦
(72)【発明者】
【氏名】内山 晃臣
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-068701(JP,A)
【文献】特表2019-509246(JP,A)
【文献】特開2015-117179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0045388(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/08
C01B 6/15
B01J 25/02
H01M 8/0606
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅ペレット又は
銅板と、水とを反応させて
銅イオンを含む水溶液を得る工程、及び、
テトラヒドロほう酸塩と、
銅イオンを含む前記水溶液とを反応させて水素を生成する工程を備え
る、水素生成方法。
【請求項2】
前記テトラヒドロほう酸塩が水素化ほう素ナトリウムである、請求項1に記載の生成方法。
【請求項3】
前記水溶液がアルカリ性水溶液である場合を除く、請求項1又は2に記載の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素生成方法及びテトラヒドロほう酸塩との反応用水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロほう酸塩は水素エネルギー貯蔵材料として古くより研究されている。その特徴は高い体積エネルギー貯蔵密度、すなわち水素貯蔵密度であり、液化水素の体積エネルギー密度をも凌ぐ。テトラヒドロほう酸塩は、水を加えられるとほう酸塩に分解されると同時に水素を発生する。
【0003】
テトラヒドロほう酸塩から水素を取り出し、得られた水素を用いて電力供給を行う方法が種々検討されている。例えば、水と水素化物との反応で水素を発生させる水素発生装置と、水素発生装置で発生させた水素を酸素と反応させてエネルギーを得る水素反応部とを備えた水素発生システムが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術において、テトラヒドロほう酸塩からの水素生成速度には改善の余地がある。より効率的にエネルギーを得る観点からは、テトラヒドロほう酸塩からの水素生成反応をより速やかに進めることが求められる。
【0006】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、テトラヒドロほう酸塩からのより速やかな水素生成が可能な水素生成方法を提供することを目的とする。本開示はまた、当該方法に用いられる、テトラヒドロほう酸塩との反応用水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、テトラヒドロほう酸塩と、金属イオンを含む水溶液とを反応させて水素を生成する工程を備え、金属イオンが、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン及びニッケルイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、水素生成方法を提供する。
【0008】
本開示は、テトラヒドロほう酸塩との反応用水溶液であって、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン及びニッケルイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンを含む、水溶液を提供する。
【0009】
テトラヒドロほう酸塩と反応させる水として、所定の金属イオンを含む水溶液を用いることで、より速やかな水素生成が可能となる。
【0010】
一態様において、テトラヒドロほう酸塩は水素化ほう素ナトリウムであってよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、テトラヒドロほう酸塩からのより速やかな水素生成が可能な水素生成方法を提供することができる。本開示はまた、当該方法に用いられる、テトラヒドロほう酸塩との反応用水溶液を提供することができる。
【0012】
テトラヒドロほう酸塩と反応させる水として、所定の金属イオンを含む水溶液を用いることのメリットを以下に示す。テトラヒドロほう酸塩と反応させる水を単に反応水ということができる。
・反応水中の金属イオンが触媒として働き、上記のとおり速やかに水素生成反応が進む。これにより短時間で反応が完了し、所望量の水素を直ちに得ることが可能になる。
・反応水中の金属イオンの働きにより、雑菌等の発生を抑制することができる。これにより、長期間貯蔵後も反応水を好適に用いることができる。
・長期間貯蔵後に反応水を用いても、理論値に準じた水素を生成することができる。これは、雑菌等が発生し難いため、水素生成反応の際に用いられるニッケル触媒表面に、雑菌等由来の固形物が付着することが抑制されるためである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
水素生成方法は、テトラヒドロほう酸塩と、金属イオンを含む水溶液とを反応させて水素を生成する工程を備える。
【0015】
(テトラヒドロほう酸塩)
テトラヒドロほう酸塩としては、以下に例示したほう酸塩に対応する水素化物が挙げられる。例えば、ほう酸塩としてメタほう酸塩を用いた場合、NaBH4(水素化ほう素ナトリウム)、KBH4、LiBH4、Ca(BH4)2、Mg(BH4)2等が挙げられる。入手容易性、入手コスト、化学的安定性、水素脱着容易性、水素貯蔵密度等の観点からは、テトラヒドロほう酸塩として水素化ほう素ナトリウムを好適に用いることができる。水素化ほう素ナトリウムを用いた場合、水との反応により下記式(1)に従い水素が生じる。
NaBH4(s)+2H2O+aq→NaBO2(aq)+4H2 (1)
【0016】
ほう酸塩の例:例えばメタほう酸塩、四ほう酸塩、五ほう酸塩等のほう酸塩が挙げられる。メタほう酸塩としては、例えばNaBO2、KBO2、LiBO2、Ca(BO2)2、Mg(BO2)2等が挙げられる。四ほう酸塩としては、例えばNa2B4O7、Na2O・2BO3、K2O・B2O3、Li2B4O7、Mg3B4O9等が挙げられる。五ほう酸塩としては、例えばNaB5O8、Na2O・5B2O3、KB5O8、K2O・5B2O9、LiB5O8等が挙げられる。また、天然のほう酸塩鉱物であるNa2B4O7・10H2O、Na2B4O7・4H2O、Ca2B6O11・5H2O、CaNaB5O9・6H2O、Mg7Cl2B17O30等を用いることもできる。入手容易性、入手コスト、化学的安定性、水素脱着容易性、水素貯蔵密度等の観点からは、ほう酸塩としてメタほう酸ナトリウムを用いることができる。
【0017】
テトラヒドロほう酸塩は、水溶液への溶解性の観点から粉末状とすることができる。テトラヒドロほう酸塩の平均粒子径は、1mm以下とすることができ、500μm以下であってもよく、100μm以下であってもよい。下限は特に限定されないが、作業性の観点から5μmとすることができる。
【0018】
(水溶液)
水溶液は水及び金属イオンを含む。金属イオンは、テトラヒドロほう酸塩と水とが反応して水素を発生させる反応を促進させる触媒作用と、微量金属作用とを有すると考えられる。水溶液は、テトラヒドロほう酸塩との反応用水溶液ということができる。金属イオンとしては、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン及びニッケルイオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。これらのうち、安価であり、かつ、水中における雑菌の繁殖を抑える効果が高いという観点からは、銅イオンを用いることができる。
【0019】
金属イオンの添加方法は、例えばより濃度の高い金属イオンを含む金属イオン含有水溶液と水とを混合する方法、金属イオン放出源を備える容器中にて水を保存する方法が挙げられる。金属イオン放出源としては、容器中に収容された金属ペレットや、容器の内壁に設けられた(あるいは内壁として設けられた)金属板等が挙げられる。金属イオン含有量は、金属イオン含有水溶液中の金属イオン量を調整したり、あるいは金属ペレット量や金属板面積、容器中での保存期間を調整したりすることで調整できる。なお、金属イオンを過度に添加しないことで、テトラヒドロほう酸塩との反応後に得られる、ほう酸塩水溶液のリサイクル性が向上する。
【0020】
水溶液は、pH調整剤としてほう酸塩を含んでいてよい。これにより、雑菌等の発生をより抑制し易くなり、また水素生成速度やタイミングを調整することができる。ほう酸塩の添加方法は、例えば水にほう酸塩を適量添加する方法、水にテトラヒドロほう酸塩を適量添加する方法(水との反応によりほう酸塩が生じる)が挙げられる。ほう酸塩の含有量は、0.1~20.0質量%とすることができ、1.0~5.0質量%であってもよい。
ほう酸塩含有量が下限以上であると、期待する効果が得られ易い。ほう酸塩含有量を多くすることで、雑菌等の発生を抑制し易くなる。ほう酸塩含有量が上限以下であると、残された溶解度に余裕が生じるため、生成工程において水溶液を十分な量のテトラヒドロほう酸塩と反応させ易くなる。ほう酸塩含有量が多過ぎると、生成工程における水溶液とテトラヒドロほう酸塩との反応が鈍くなる傾向がある。
【0021】
pH調整後の水溶液のpHは、例えば9.5~12.0とすることができ、10.0~11.0であってよい。pHが下限以上であると、期待する効果が得られ易い。pHを高くすることで、雑菌等の発生を抑制し易くなる。pHが上限以下であると、過剰にpHが調整されることが避けられ、生成工程におけるテトラヒドロほう酸塩との反応への寄与に対し、経済的な不利が生じ難くなる。
【0022】
テトラヒドロほう酸塩と反応させる水溶液の量は、特に制限されないが、溶解度の観点から、テトラヒドロほう酸塩100質量部に対し、水溶液180~1000質量部とすることができる。
【0023】
テトラヒドロほう酸塩と水溶液との反応は、触媒存在下で行うことができる。触媒としては、例えばラネーニッケル触媒が挙げられる。
【0024】
テトラヒドロほう酸塩と水溶液との反応により、残渣としてほう酸塩水溶液が得られる。この水溶液に含まれるほう酸塩を再度水素化することで、原料となるテトラヒドロほう酸塩を得ることができる。水素生成方法は、テトラヒドロほう酸塩と、金属イオンを含む水溶液とを反応させて得られるほう酸塩(水溶液)からテトラヒドロほう酸塩を得る工程を備えていてよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本開示をさらに詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
(試験1)
内壁に銅イオン放出源(銅板)を備えた、600mL(φ6.5cm)の透明円柱容器を準備した。容器にイオン交換水を投入して、室温26℃、暗所にて所定期間保存し、反応水とした。この反応水を用いて、試験1を実施した。
【0027】
容器内で、反応水と水素化ほう素ナトリウム0.38gとを反応させて、180秒間に発生する水素の量を測定した。試験時の室温は26℃であった。各反応水に対しn=2で試験を行った。結果を表1に示す。
【0028】
【0029】
(試験2)
内壁に銅イオン放出源(銅板)を備えた、600mL(φ6.5cm)の透明円柱容器を準備した。容器にイオン交換水及び牛乳を投入して、室温26℃、暗所にて所定期間保存し、反応水とした。牛乳は雑菌等の増殖を促し、短期間で微量金属作用の効果を確認するために添加した。この反応水を用いて、試験2を実施した。
【0030】
反応水を60秒かけて濾過し、フィルタ上に残った固形物の重量を測定した。フィルタ上に残った固形物は雑菌等由来のものと考えられるため、固形物の重量を測定することで雑菌等の繁殖の程度を評価した。フィルタとして、目開き1.00mm、平織、線径0.56mmのステンレスメッシュを用いた。各反応水に対しn=2で試験を行った。結果を表2に示す。
【0031】
【0032】
(試験3)
内壁に銅イオン放出源(銅板)を備えた、600mL(φ6.5cm)の透明円柱容器を準備した。容器にイオン交換水を投入して、室温26℃、暗所にて所定期間保存し、反応水とした。この反応水を用いて、試験3を実施した。
【0033】
反応水に水素化ほう素ナトリウム0.38gを溶解させた溶液を調製した。これを、ラネーニッケル触媒を充填した触媒層に滴下・透過させて、300秒間に発生する水素の量を測定した。試験時の室温は26℃であった。各反応水に対しn=2で試験を行った。結果を表3に示す。
【0034】
【0035】
(試験4)
内壁に銅イオン放出源(銅板)を備えた、600mL(φ6.5cm)の透明円柱容器を準備した。容器にイオン交換水、メタほう酸ナトリウム四水和物、及び牛乳を投入して、室温26℃、暗所にて所定期間保存し、反応水とした。この反応水を用いて、試験4を実施した。保存期間、イオン交換水容積、牛乳添加量は試験2と同様とした。
【0036】
反応水を60秒かけて濾過し、試験2と同様にしてフィルタ上に残った固形物の重量(g)を測定した。結果を表4に示す。
【0037】