(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】二元系化合物半導体の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20241126BHJP
C30B 25/14 20060101ALI20241126BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20241126BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20241126BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01L21/205
C30B25/14
C30B29/36 A
C23C16/42
C23C16/455
(21)【出願番号】P 2021005180
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 有一
(72)【発明者】
【氏名】藤林 裕明
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-187113(JP,A)
【文献】特開平07-193014(JP,A)
【文献】特開2011-236085(JP,A)
【文献】特開2017-017084(JP,A)
【文献】特開2017-154956(JP,A)
【文献】特開2006-261612(JP,A)
【文献】特開2015-179781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C30B 25/14
C30B 29/36
C23C 16/42
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1原料を含む第1原料ガスと第2原料を含む第2原料ガスを供給して二元系化合物半導体の基板(1)上にエピタキシャル膜(2)を成長させる二元系化合物半導体の製造方法であって、
希釈ガスによって前記第1原料ガスを第1ガス濃度で希釈させた第1原料希釈ガスを収容する第1原料ガスボンベ(41)と前記希釈ガスと同じもしくは異なる希釈ガスによって前記第2原料ガスを第2ガス濃度で希釈させた第2原料希釈ガスを収容する第2原料ガスボンベ(42)を用意することと、
前記基板を収容すると共に加熱する成長室を構成する反応炉(20)を用意することと、
前記第1原料ガスボンベと前記第2原料ガスボンベの少なくとも1つを交換する際に、前記第1ガス濃度と前記第2ガス濃度のうち交換するガスボンベのガス濃度の検査値を得ることと、
前記検査値を装置制御部(90)に入力することと、
前記装置制御部にて、前記第1ガス濃度が狙い値である場合の前記第1原料と前記第2ガス濃度が狙い値である場合の前記第2原料の原子数となるように、前記検査値に基づいて、前記第1原料ガスボンベから前記反応炉に導入する前記第1原料希釈ガスのガス流量と前記第2原料ガスボンベから前記反応炉に導入する前記第2原料希釈ガスのガス流量を自動補正し、前記エピタキシャル膜を成長させる際のレシピを作成することと、
前記レシピに従って、前記自動補正を行ったガス流量で前記第1原料希釈ガスおよび前記第2原料希釈ガスを前記基板が収容された前記反応炉に導入して前記エピタキシャル膜を成長させることと、
を含む、二元系化合物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記検査値を得ることでは、ガス濃度測定器にて、前記第1原料ガスボンベから前記第1原料希釈ガスを排出させると共に前記第2原料ガスボンベから前記第2原料希釈ガスを排出させて、前記第1ガス濃度および前記第2ガス濃度の前記検査値を得る、請求項1に記載の二元系化合物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記基板として炭化珪素基板(1)を用い、
前記第1原料としてSiを含む前記第1原料ガス、前記第2原料としてCを含む前記第2原料ガスを用いる、請求項1または2に記載の二元系化合物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記第1原料希釈ガスとして、前記第1原料ガスとなるSiH
4を該第1原料希釈ガスの希釈ガスとなるH
2で希釈したものを用い、
前記第2原料希釈ガスとして、前記第2原料ガスとなるC
3H
8を該第2原料希釈ガスの希釈ガスとなるH
2で希釈したものを用いる、請求項3に記載の二元系化合物半導体の製造方法。
【請求項5】
ドーパント原料を含むドーパント原料ガスを第3ガス濃度で希釈させたドーパント原料希釈ガスを収容するドーパントガスボンベ(43)を用意することと、
前記ドーパントガスボンベを交換する際に、前記第3ガス濃度の検査値を得ることと、
前記第3ガス濃度の検査値を前記装置制御部に入力することと、
前記装置制御部にて、前記第3ガス濃度が狙い値である場合の前記ドーパント原料の原子数となるように、前記第3ガス濃度の検査値に基づいて、前記ドーパントガスボンベから前記反応炉に導入する前記ドーパント原料希釈ガスのガス流量を自動補正し、前記エピタキシャル膜を成長させる際の前記レシピを作成することと、を含み、
前記エピタキシャル膜を成長させることでは、前記レシピに従って、前記第1原料希釈ガスおよび前記第2原料希釈ガスに加えて前記ドーパント原料ガスを導入して前記エピタキシャル膜を成長させる、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の二元系化合物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記ドーパント原料希釈ガスとして、前記ドーパント原料ガスとなるN
2、NH
3もしくはトリメチルアルミニウムのうちのいずれか1つを該ドーパント原料希釈ガスの希釈ガスとなるH
2で希釈したものを用いる、請求項5に記載の二元系化合物半導体の製造方法。
【請求項7】
前記レシピを作成することでは、前記第1ガス濃度および前記第2ガス濃度が狙い値である場合に対する前記検査値のガス濃度の比率を算出し、該比率に基づいて前記自動補正を行う、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の二元系化合物半導体の製造方法。
【請求項8】
第1原料を含む第1原料ガスと第2原料を含む第2原料ガスを供給して二元系化合物半導体の基板(1)上にエピタキシャル膜(2)を成長させる二元系化合物半導体の製造装置であって、
希釈ガスによって前記第1原料ガスを第1ガス濃度で希釈させた第1原料希釈ガスを収容する第1原料ガスボンベ(41)と、
前記希釈ガスと同じもしくは異なる希釈ガスによって前記第2原料ガスを第2ガス濃度で希釈させた第2原料希釈ガスを収容する第2原料ガスボンベ(42)と、
前記基板を収容すると共に加熱する成長室を構成する反応炉(20)と、
前記第1ガス濃度が狙い値である場合の前記第1原料と前記第2ガス濃度が狙い値である場合の前記第2原料のガス流量を記憶すると共に、前記第1原料ガスボンベと前記第2原料ガスボンベの少なくとも1つの交換の際に、前記第1ガス濃度と前記第2ガス濃度のうち交換するガスボンベのガス濃度の検査値を入力し、前記第1ガス濃度が狙い値である場合の前記第1原料と前記第2ガス濃度が狙い値である場合の前記第2原料の原子数となるように、前記検査値に基づいて、前記第1原料ガスボンベから前記反応炉に導入する前記第1原料希釈ガスのガス流量と前記第2原料ガスボンベから前記反応炉に導入する前記第2原料希釈ガスのガス流量を自動補正し、前記エピタキシャル膜を成長させる際のレシピを作成する装置制御部(90)と、
を有する、二元系化合物半導体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)や窒化ガリウム(以下、GaNという)などの二元系化合物半導体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二元系化合物半導体の製造方法の1つとして、特許文献1に、SiCなどで構成される半導体基板上にエピタキシャル膜を成長させる化合物半導体装置の製造方法が提案されている。この製造方法では、ドーパントガスを事前に導入するプレドープを伴う昇温期間のステップと、原料ガスを導入し始め徐々に増加していく遷移期間のステップと、原料ガス導入量を一定に保つ定常成長期間のステップとを有したレシピでエピタキシャル膜を形成する。SiCのエピタキシャル膜を形成する場合には、原料ガスとしてシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を用いているが、原料ガス供給を安定して行えるように水素(H2)などのキャリアガスを原料ガスと共に導入してエピタキシャル膜を成長させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、原料ガスが収容された原料ガスボンベは、希釈ガスによって希釈されており、狙いのガス濃度に対して所定のガス濃度公差を有したものになっている。例えば、原料ガスと希釈ガスの混合ガスの全体積に対する原料ガスの体積比率が10%となるガス濃度が狙い濃度であるとすると、その±5%が許容公差とされている。このため、原料ガスの狙い濃度が10%であったとしても、9.5~10.5%のガス濃度となっている原料ガスボンベがエピタキシャル膜の形成に用いられることになる。
【0005】
SiCなどの2次元化合物半導体でのエピタキシャル膜の形成において、アルミニウム(Al)や窒素(N)等のドーパント取込効率は、Si系材料とC系材料の含有されるSiとCの元素比率に大きく依存することが知られているが、原料ガスボンベの交換毎にそれが変わる。このため、原料ガスボンベの交換毎に、参照用の試料となる半導体基板を用意し、その上にエピタキシャル膜を形成したのち、半導体基板上におけるエピタキシャル膜の膜厚の面内分布、ドーパントの取込効率把握実験、濃度プロファイル測定を行っている。そして、その結果に基づいて検量線を求め、エピタキシャル膜を形成する際の原料ガスの濃度制御を行っている。
【0006】
ところが、原料ガスボンベの交換前のエピタキシャル膜の成長条件での流量から始めて、少しずつ流量を変化させて、エピタキシャル膜の膜厚の面内分布やドーパントの取込効率および濃度プロファイルが狙いの値となるまで実験を行って検量線を求めることになる。このため、煩雑な実験が必要になるのに加えて、エピタキシャル膜の成膜レシピの固定が困難である。したがって、煩雑な実験を行わなくても良く、エピタキシャル膜の成膜レシピを容易に固定できるようにすることが望まれる。
【0007】
なお、ここではエピタキシャル膜の膜厚の面内分布だけでなく、ドーパントの取込効率把握実験や濃度プロファイル測定を行うことについて説明した。しかしながら、ドーパントの取込効率や濃度プロファイルは、上記の通り、Si系材料やC系材料におけるSiとCの元素比率に大きく依存し、得られるエピタキシャル膜の膜厚の面内分布に影響する。このため、少なくともエピタキシャル膜の膜厚の面内分布が安定して狙い値となるように制御できれば、煩雑な実験を行わなくても良くなり、エピタキシャル膜の成膜レシピを容易に固定することが可能になる。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、煩雑な実験を行わなくても良く、エピタキシャル膜の成膜レシピを容易に固定することが可能な二元系化合物半導体の製造方法、製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、第1原料を含む第1原料ガスと第2原料を含む第2原料ガスを供給して二元系化合物半導体の基板(1)上にエピタキシャル膜(2)を成長させる二元系化合物半導体の製造方法であって、希釈ガスによって第1原料ガスを第1ガス濃度で希釈させた第1原料希釈ガスを収容する第1原料ガスボンベ(41)と前記希釈ガスと同じもしくは異なる希釈ガスによって第2原料ガスを第2ガス濃度で希釈させた第2原料希釈ガスを収容する第2原料ガスボンベ(42)を用意することと、基板を収容すると共に加熱する成長室を構成する反応炉(20)を用意することと、を行う。また、第1原料ガスボンベと第2原料ガスボンベの少なくとも1つを交換する際に、第1ガス濃度と第2ガス濃度のうち交換するガスボンベのガス濃度の検査値を得ることと、検査値を装置制御部(90)に入力することと、を行う。そして、装置制御部にて、第1ガス濃度が狙い値である場合の第1原料と第2ガス濃度が狙い値である場合の第2原料の原子数となるように、検査値に基づいて、第1原料ガスボンベから反応炉に導入する第1原料希釈ガスのガス流量と第2原料ガスボンベから反応炉に導入する第2原料希釈ガスのガス流量を自動補正し、エピタキシャル膜を成長させる際のレシピを作成することを行い、そのレシピに従って、自動補正を行ったガス流量で第1原料希釈ガスおよび第2原料希釈ガスを基板が収容された反応炉に導入してエピタキシャル膜を成長させる。
【0010】
このように、ボンベ交換の際には、交換後の第1ガス濃度と第2ガス濃度でも、狙い値の原子数が維持されるように、第1原料希釈ガスや第2原料希釈ガスのガス流量を自動補正してレシピを作成している。例えば、ボンベ交換を行った第1原料ガスボンベの第1原料希釈ガスのガス濃度や第2原料ガスボンベの第2原料希釈ガスのガス濃度を検査し、ガス濃度の狙い値に対する検査値の比率算出を行う。そして、算出した比率に基づいて、交換前後での第1原料と第2原料の原子数が同じとなるように、第1原料希釈ガスと第2原料希釈ガスのガス流量を自動補正し、それに基づいてレシピを作成している。
【0011】
このようにして得たレシピに従ってエピタキシャル膜を成長させることで、第1原料と第2原料の原子数をボンベ交換前後で一定にでき、安定させられることから、エピタキシャル膜の膜厚の面内分布を安定して狙った値にすることができる。よって、煩雑な実験を行わなくても良く、エピタキシャル膜の成膜レシピを容易に固定することが可能となる。
【0012】
また、請求項8に記載の発明では、第1原料を含む第1原料ガスと第2原料を含む第2原料ガスを供給して二元系化合物半導体の基板(1)上にエピタキシャル膜(2)を成長させる二元系化合物半導体の製造装置であって、希釈ガスによって第1原料ガスを第1ガス濃度で希釈させた第1原料希釈ガスを収容する第1原料ガスボンベ(41)と、前記希釈ガスと同じもしくは異なる希釈ガスによって第2原料ガスを第2ガス濃度で希釈させた第2原料希釈ガスを収容する第2原料ガスボンベ(42)と、基板を収容すると共に加熱する成長室を構成する反応炉(20)と、第1ガス濃度が狙い値である場合の第1原料と第2ガス濃度が狙い値である場合の第2原料のガス流量を記憶すると共に、第1原料ガスボンベと第2原料ガスボンベの少なくとも1つの交換の際に、第1ガス濃度と第2ガス濃度のうち交換するガスボンベのガス濃度の検査値を入力し、第1ガス濃度が狙い値である場合の第1原料と第2ガス濃度が狙い値である場合の第2原料の原子数となるように、検査値に基づいて、第1原料ガスボンベから反応炉に導入する第1原料希釈ガスのガス流量と第2原料ガスボンベから反応炉に導入する第2原料希釈ガスのガス流量を自動補正し、エピタキシャル膜を成長させる際のレシピを作成する装置制御部(90)と、を備える。
【0013】
このように、請求項1に記載したエピタキシャル膜の製造方法を実現する製造装置とすることもできる。このような製造装置とすることにより、煩雑な実験を行わなくても良く、エピタキシャル膜の成膜レシピを容易に固定することが可能となる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態にかかるエピタキシャル膜製造装置の概略構成を示した図である。
【
図2】従来のエピタキシャル膜の製造フローを示した図である。
【
図3】サセプタ部の中心からの距離となるサセプタ半径と、その場所でのエピタキシャル膜のp型不純物濃度を調べた結果を示す図である。
【
図4】エピタキシャル膜の厚み方向となる深さ(Depth)とp型不純物濃度との関係について調べた結果を示す図である。
【
図5】第1実施形態にかかる製造方法に基づく製造フローを示した図である。
【
図6】第1実施形態にかかる製造方法において作成されるレシピの一例を示した図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる二元系化合物半導体の製造方法および製造装置について説明する。ここでは、二元系化合物半導体としてSiC基板上にSiCのエピタキシャル膜を形成する場合を例に挙げて説明するが、SiC以外の二元系化合物半導体についても本実施形態を適用可能である。また、SiC基板上に形成されたエピタキシャル膜やイオン注入層上に更にエピタキシャル膜を形成する場合にも本実施形態を適用可能である。
【0018】
まず、本実施形態の二元系化合物半導体の製造装置であるエピタキシャル膜製造装置について、
図1を参照して説明する。
【0019】
図1に示すエピタキシャル膜成長装置10は、SiCで構成された基板1の表面上にエピタキシャル膜2を成長させる装置である。
図1に示すように、本実施形態のエピタキシャル膜成長装置10は、炉体20、ガス導入口30、各種ガスボンベ40、ガス導入路50、ガス排出口60、サセプタ部70、加熱部80、および装置制御部90等を備えた構成とされている。
【0020】
炉体20は、反応炉に相当するもので、石英等で構成されるカバー21の内側に、断熱材22および被加熱部23が順に配置された構成とされており、内部にエピタキシャル膜2を成長させる基板1が設置される成長室24を構成する中空部を有した筒状とされている。なお、被加熱部23は、後述する加熱部80によって誘導加熱される部分であり、本実施形態では成長室24を略囲むように配置されている。また、被加熱部23は、例えば、カーボン等で構成される。
【0021】
ガス導入口30は、エピタキシャル膜2を成長させるための各種ガスを炉体20の成長室24内に導入する入口となる部分であり、筒状である炉体20の一端部側に備えられている。そして、ガス導入口30にガス導入路50を通じて各種ガスボンベ40が接続されている。これにより、ガス導入口30から、Si原料を含有するSi原料ガス、C原料を含有するC原料ガス、ドーパント原料を含有するドーパント原料ガス等が成長室24内に導入される。
【0022】
各種ガスボンベ40として、Si原料ガスボンベ41、C原料ガスボンベ42、ドーパントガスボンベ43が備えられている。各種ガスボンベ40は、それぞれ個別に交換可能とされており、ガスが無くなると新しいものに交換される。
【0023】
Si原料ガスボンベ41は、Si原料ガスを収容するものであり、希釈ガスによりSi原料ガスを所定のガス濃度で希釈したSi原料希釈ガスを収容している。Si原料希釈ガスに含めるSi原料ガスとして、例えばSiH4(シラン)ガスを用いているが、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4等のエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料ガス(クロライド系原料)を用いることもできる。また、Si原料希釈ガスとしては、例えば、シランに対してH2を添加したガスを用いることもできる。
【0024】
C原料ガスボンベ42は、C原料ガスを収容するものであり、希釈ガスによりC原料ガスを所定のガス濃度に希釈したC原料希釈ガスを収容している。C原料希釈ガスに含めるC原料ガスとしては、例えば、C3H8(プロパン)ガス等を用いている。
【0025】
ドーパントガスボンベ43は、ドーパント原料ガスを収容するものであり、希釈ガスによりドーパント原料ガスを所定のガス濃度に希釈したドーパント原料希釈ガスを収容している。ドーパント原料希釈ガスは、エピタキシャル膜2の導電型を制御するためのガスであり、形成したいエピタキシャル膜2の導電型に応じたドーパント原料ガスが含められる。N型SiCをエピタキシャル成長させる場合は、ドーパント原料ガスとして、例えば、N2(窒素)を含むドーパント原料希釈ガスが用いられる。P型SiCをエピタキシャル成長させる場合は、ドーパント原料ガスとして、例えばTMA(トリメチルアルミニウム)を含むドーパント原料希釈ガスが用いられる。
【0026】
各種ガスボンベ40における希釈ガスとしては、SiやCを含まないガスが用いられ、例えば、H2ガスや、Ar、He等の不活性ガス(希ガス)が用いられる。これらSiやCを含まないガスを用いることにより、原料ガスの拡散を抑制すると共に、不要なSi、C、もしくはSiC生成物が形成されることを抑制し、パーティクル源とならないようにすることができる。
【0027】
各種ガスボンベ40における原料ガスのガス濃度、つまり希釈ガスと原料ガスの混合ガスの全体積に対する原料ガスの体積比率は、所定の狙い値となるように調整されている。しかしながら、実際のガス濃度は、狙いのガス濃度に対して所定のガス濃度公差を有したものになっている。Si原料ガスボンベ41の場合、例えば狙いのガス濃度が10%とされ、その±5%が許容公差とされる。このため、Si原料ガスボンベ41における実際のガス濃度は、9.5~10.5%の範囲でバラツキがある。C原料ガスボンベ42の場合、例えば狙いのガス濃度が30%とされ、その±5%が許容公差とされる。このため、C原料ガスボンベ42における実際のガス濃度は、28.5~31.5%の範囲でバラツキがある。ドーパントガスボンベ43の場合、ドーパント原料ガスとしてN2を用いるのであれば、例えば狙いのガス濃度が1.0%とされ、その±5%が許容公差とされる。このため、ドーパントガスボンベ43における実際のガス濃度は、0.95~1.05%の範囲でバラツキがある。
【0028】
ガス導入路50は、各種ガスボンベ40と炉体20との間を接続するガス流路を構成するものである。ガス導入路50は、Si原料ガスボンベ41に繋がる第1通路51、C原料ガスボンベ42に繋がる第2通路52、およびドーパントガスボンベ43に繋がる第3通路53を有し、第1~第3通路51~53それぞれに流量調整弁54~56を備えている。流量調整弁54~56は、装置制御部90からの制御信号に基づいて開度調整が可能となっており、この流量調整弁54~56が個別に制御されることで、各種ガスボンベ40から第1~第3通路51~53に供給されるガス流量が調整される。
【0029】
ガス排出口60は、炉体20のうちのガス導入口30と反対側に配置されており、成長室24を通過した後の未反応ガス等を排出する。また、ガス排出口60は、成長室24内の雰囲気圧力を適宜調整できるように、図示しない吸引部等と接続されて成長室24を真空吸引できるようになっている。
【0030】
サセプタ部70は、円盤状とされ、基板1が設置される設置面を構成する設置部71と、設置部71の中央部から下方に延びる支持軸72とを有しており、設置部71がガス導入口30とガス排出口60との間に位置するように配置されている。そして、サセプタ部70は、支持軸72が図示しない回転機構に連結されることによって回転可能とされている。
【0031】
なお、ここではサセプタ部70の設置面に基板1を複数枚配置した図を示してあるが、設置面に配置される基板1の枚数については任意である。例えば1枚の場合には、サセプタ部70の中心と基板1の中心が一致するように配置され、複数枚の場合には、サセプタ部70の中心に対して周方向に並べて各基板1が配置される。
【0032】
加熱部80は、炉体20を囲むように配置されたコイルで構成されている。そして、加熱部80は、交流電流が印加されることによって被加熱部25を誘導加熱する。これにより、成長室24内が所定温度に維持される。
【0033】
装置制御部90は、各流量調整弁54~56の開度を制御することで、Si原料ガスボンベ41によるSi原料希釈ガス、C原料ガスボンベ42によるC原料希釈ガス、ドーパントガスボンベ43によるドーパント原料希釈ガスのガス流量を制御する。例えば、装置制御部90は、各流量調整弁54~56に対して開度を制御するための制御信号を伝えることで、各ガス流量を制御している。
【0034】
より詳しくは、装置制御部90は、Si原料ガスボンベ41とC原料ガスボンベ42の少なくとも1つが交換された際に、ガス濃度が所定の狙い値と異なっていても、狙い値の場合と同様の条件でエピタキシャル膜2が成長させられるように各ガス流量を制御する。つまり、装置制御部90はガス濃度が狙い値である場合の各ガス流量のレシピを記憶しており、これと実際のガス濃度の検査値に基づいて、交換後にも、狙い値の場合とガス分子数、換言すればSiとCの原子数が同じとなるようにガス流量を自動補正する。また、ドーパントガスボンベ43が交換される場合にも、交換後に、ドーパント原料希釈ガスのガス濃度が狙い値である場合のガス分子量、換言すればドーパントの原子数が同じとなるようにガス流量を自動補正する。そして、自動補正の結果に基づいて交換後のレシピを作成し、エピタキシャル膜2の成長工程の際に、レシピに従って各流量調整弁54~56の開度を制御してガス流量するようになっている。なお、自動補正や交換後のレシピの作成の方法については後で詳細に説明する。
【0035】
以上が本実施形態におけるエピタキシャル膜成長装置10の構成である。続いて、本実施形態のSiC半導体の製造方法について、従来の製造方法を参照しつつ説明する。
【0036】
従来の製造方法では、
図2に示す製造フローに従ってエピタキシャル膜を成長させる。まず、ステップS100として、各種ガスボンベの交換を行ったのち、ステップS110として、参照用の試料となるSiC基板上にエピタキシャル膜を成長させ、各種パラメータを測定する。具体的には、その膜厚の面内分布やドーパントの取込効率および濃度プロファイルを測定するという実験を行う。
【0037】
このとき、最初は各種ガスボンベの交換前のエピタキシャル膜の成長条件での流量から始めて、少しずつ流量を変化させて、エピタキシャル膜の膜厚の面内分布やドーパントの取込効率および濃度プロファイルの各パラメータが狙いの値となるまで実験を行う。そして、ステップS120として、各パラメータが狙いの値となる検量線を求める。
【0038】
その後、ステップS130として、先ほど求めた検量線に基づいて、各パラメータが狙いの値となるようにするレシピを作成する。そして、ステップS140として、作成したレシピに従ってエピタキシャル膜を成長させることで、各パラメータが狙いの値となるエピタキシャル膜を得る。
【0039】
このように、エピタキシャル膜の各パラメータが狙いの値なるようにするには、各種ガスボンベの交換前のエピタキシャル膜の成長条件での流量から始めて、少しずつ流量を変化させて実験を行うことが必要になる。
【0040】
上記したように、例えば、Si原料希釈ガスのガス濃度としては10%が狙い濃度とされ、その±5%が許容公差とされるため、Si原料希釈ガスの狙い濃度が10%であったとしても、Si原料ガスボンベは9.5~10.5%のガス濃度となっている。このようにガス濃度のバラツキがあるため、成長させたエピタキシャル膜の各パラメータにバラツキが生じ、各種ガスの流量を変化させて様々な実験を行うことになる。
【0041】
例えば、C原料希釈ガスのガス濃度が狙い値である場合(ref.)と狙い値から+5%、-5%バラツキがあった場合それぞれについて、サセプタ部70の中心からの距離となるサセプタ半径と、その場所でのエピタキシャル膜のp型不純物濃度を調べた。また、エピタキシャル膜の厚み方向となる深さとp型不純物濃度との関係について調べた。
図3および
図4は、これらの結果を示した図である。
【0042】
図3に示すように、サセプタ半径に対するp型不純物濃度について、+5%の場合と-5%の場合、いずれの場合も狙い値の場合の値から大きくずれている。また、
図4に示すように、エピタキシャル膜の深さ毎のp型不純物濃度についても、+5%の場合と-5%の場合、いずれの場合も狙い値の場合の値から大きくずれている。このため、原料ガスボンベの交換毎に、参照用の試料となるSiC基板を用意し、その上にエピタキシャル膜を形成したのち、エピタキシャル膜の膜厚の面内分布、ドーパントの取込効率把握実験、濃度プロファイル測定を繰り返し行うことが必要になるのである。したがって、各パラメータが狙い値となるまで実験を行って検量線を求めることになり、煩雑な実験が必要になるのに加えて、エピタキシャル膜の成膜レシピの固定が困難になる。
【0043】
そこで、本実施形態では、煩雑な実験を行わなくても良く、エピタキシャル膜の成膜レシピを容易に固定することが可能となるように、
図5に示す製造フローに従って原料ガスやドーパントガスの濃度制御を行いつつ、基板1上にエピタキシャル膜2を成長させる。
【0044】
まず、ステップS200では、各種ガスボンベ41~43を用意し、各種ガスボンベ41~43を交換する。このとき、各種ガスボンベ41~43のうちガスが空もしくは概ね空になったものだけを交換しても良い。
【0045】
次に、ステップS210では、Si原料ガスボンベ41、C原料ガスボンベ42およびドーパントガスボンベ43それぞれにおけるガス濃度を検査して検査値を得る。そして、検査した各ガス濃度を装置制御部90に入力する。
【0046】
Si原料ガスボンベ41におけるSi原料希釈ガスのガス濃度については、例えば10%が狙い値とされ、9.5~10.5%の範囲のバラツキがあるが、ガス濃度が特定されて流通している場合がある。その場合には、その特定されているガス濃度を確認することにより検査を行う。同様に、C原料ガスボンベ42におけるC原料希釈ガスのガス濃度についても、例えば30%が狙い値とされ、28.5~31.5%の範囲でバラツキがあるが、ガス濃度が特定されて流通している場合がある。その場合にも、その特定されているガス濃度を確認することにより検査を行う。更に、ドーパントガスボンベ43におけるドーパントガスのガス濃度についても、例えば1.0%が狙い値とされ、0.95~1.05%の範囲でバラツキがあるが、ガス濃度が特定されて流通している場合がある。その場合にも、その特定されているガス濃度を確認することにより検査を行う。
【0047】
続いて、ステップS220として、装置制御部90において、狙い値に対する検査値の比率算出を行う。例えば、Si原料ガスボンベ41を例に挙げると、Si原料希釈ガスのガス濃度の狙い値が10%である場合において、実際のガス濃度の検査値が10.5%であるとすると、狙い値に対する検査値の比率は1.05になる。同様に、C原料ガスボンベ42の場合、C原料希釈ガスのガス濃度の狙い値が30%である場合において、実際のガス濃度の検査値が29.0%であるとすると、狙い値に対する検査値の比率は0.967になる。
【0048】
その後、ステップS230として、算出した比率に基づき、交換後にも、狙い値の場合とガス分子数、換言すればSiとCの原子数が同じとなるようにガス流量を自動補正すると共に、そのレシピを作成して装置制御部90で記憶しておく。
【0049】
すなわち、ガス濃度が狙い値である場合のレシピに対応して、実際のガス濃度から算出した検査値に基づく補正を行ったレシピを作成する。一例を挙げると、
図6に示すようなレシピを作成する。
図6は、Si原料ガスボンベ41とC原料ガスボンベ42を交換する場合を示しているが、Si原料ガスボンベ41とC原料ガスボンベ42の少なくとも一方を交換する場合に、交換する側のガス流量を自動補正する。また、
図6では、ドーパントガスボンベ43については交換していない場合を示しているが、交換する場合には、後述するSi原料希釈ガスやC原料希釈ガスと同様に自動補正を行えば良い。なお、この図では、標準条件、例えば27℃、1気圧下で各ガスを炉体20に導入する場合の流量を示しているが、エピタキシャル膜2の成長に適用される場合には、エピタキシャル膜2の成長時の温度や雰囲気圧に換算した流量になる。
【0050】
図6では、レシピ1として、エピタキシャル膜2を比較的低速な成長レートで成長させる場合(以下、低速成長という)と、レシピ2として、レシピ1よりも高速な成長レートで成長させる場合(以下、高速成長という)の2つを示してある。
【0051】
レシピ1については、ステップ1として初期成長時の低速成長の中でもより低速の成長レートでエピタキシャル膜2を成長させるステップと、ステップ2として初期成長よりも高速の成長レートでエピタキシャル膜2を成長させるステップを設定している。
【0052】
例えば、各種ガスのガス濃度が狙い値通りの場合には、狙い値に基づいてSiとCの原子数が所望値となるように各ステップのガス流量およびガス導入時間を設定している。Si原料希釈ガスのガス濃度が10%、C原料希釈ガスのガス濃度が30%、ドーパントガスのガス濃度が1.0%である場合を狙い値とした場合、ステップ1、ステップ2それぞれでの各種ガスの流量や導入時間を図中に示した値にしている。このとき、炉体20に導入されるSiとCの原子数が所定数となるように、Si原料希釈ガスとC原料希釈ガスの流量が設定されている。ステップ1の場合、Si原料希釈ガスが80.0sccm、C原料希釈ガスが60.0sccmとされる。また、ステップ2の場合、Si原料希釈ガスが240.0sccm、C原料希釈ガスが180.0sccmとされる。
【0053】
炉体20に導入されるSiやCの原子数は、Si原料希釈ガスのガス濃度やC原料希釈ガスのガス濃度とそれぞれのガスの流量とから決まる所定数になっている。すなわち、SiH4中におけるSiの原子数は1であり、C3H8中におけるCの原子数は3である。そして、各ガス濃度が単位体積当たりのSiH4やC3H8の含有量を表しているため、炉体20に導入される単位時間当りのSiとCの原子数は、各ガス濃度とガス流量とから決まる。
【0054】
例えば、ステップ1では、炉体20に導入される単位時間当りのSiの原子数は、1[Si原子数]×0.1[ガス濃度]×80.0[sccm:流量]×Kとなり、Cの原子数は、3[C原子数]×0.3[ガス濃度]×60.0[sccm:流量]×Kとなる。また、ステップ2では、単位時間当りのSiの原子数を、1[Si元素数]×0.1[ガス濃度]×240.0[sccm:流量]×Kとし、Cの原子数を、3[C元素数]×0.3[ガス濃度]×180.0[sccm:流量]×Kとする。なお、Kは、単位体積当たりに含まれる分子数に相当する係数である。
【0055】
これに対して、Si原料ガスボンベ41およびC原料ガスボンベ42を交換した場合において、
図6中に示したようにSi原料希釈ガスのガス濃度が10.5%、C原料希釈ガスのガス濃度が29.0%であったとする。その場合にも、ガス濃度が狙い値通りの場合の原子数と等しくなるように、Si原料希釈ガスやC原料希釈ガスの流量を設定する。
【0056】
すなわち、ステップ1では、単位時間当りのSiの原子数を、1[Si元素数]×0.105[ガス濃度]×76.2[sccm:流量]×Kとし、Cの原子数を、3[C元素数]×0.29[ガス濃度]×62.1[sccm:流量]×Kとする。Siの原子数については、交換前の1[Si原子数]×0.1[ガス濃度]×80.0[sccm:流量]×Kと、交換後の1[Si元素数]×0.105[ガス濃度]×76.2[sccm:流量]×Kが略等しくなり、所定数のまま維持される。また、Cの原子数についても、交換前の3[C原子数]×0.3[ガス濃度]×60.0[sccm:流量]×Kと、交換後の3[C元素数]×0.29[ガス濃度]×62.1[sccm:流量]×Kが略等しくなり、所定数のまま維持される。
【0057】
また、ステップ2でも、単位時間当りのSiの原子数を、1[Si元素数]×0.105[ガス濃度]×228.6[sccm:流量]×Kとし、Cの原子数を、3[C元素数]×0.29[ガス濃度]×186.2[sccm:流量]×Kとする。Siの原子数については、交換前の1[Si原子数]×0.1[ガス濃度]×240.0[sccm:流量]×Kと、交換後の1[Si元素数]×0.105[ガス濃度]×228.6[sccm:流量]×Kが略等しくなり、所定数のまま維持される。また、Cの原子数についても、交換前の3[C原子数]×0.3[ガス濃度]×180[sccm:流量]×Kと、交換後の3[C元素数]×0.29[ガス濃度]×186.2[sccm:流量]×Kが略等しくなり、所定数のまま維持される。
【0058】
このように、ガスボンベの交換前後において、各ガスに含まれるSiやCの原子数が所定数のまま維持されるようにガス流量制御を行う。また、このようなガス流量制御を行うと、その結果、ガスボンベの交換後におけるSiやCの元素比率についても狙い値となるようにすることができる。
【0059】
すなわち、SiH4中にSiが1元素含まれ、C3H8中にCが3元素含まれている。このため、ステップ1では、単位時間当りのSiとCの元素比率は、1[Si元素数]×0.1[ガス濃度]×80.0[sccm:流量]:3[C元素数]×0.3[ガス濃度]×60.0[sccm:流量]=8:54=4:27になる。また、ステップ2でも、単位時間当りのSiとCの元素比率は、1[Si元素数]×0.1[ガス濃度]×240.0[sccm:流量]:3[C元素数]×0.3[ガス濃度]×180.0[sccm:流量]=24:162=4:27になる。
【0060】
これに対して、Si原料ガスボンベ41およびC原料ガスボンベ42を交換した場合にも、ガス濃度が狙い値通りの場合の元素比率と等しくなるように、Si原料希釈ガスやC原料希釈ガスの流量が設定される。すなわち、ステップ1では、単位時間当りのSiとCの元素比率を、1[Si元素数]×0.105[ガス濃度]×76.2[sccm:流量]:3[C元素数]×0.29[ガス濃度]×62.1[sccm:流量]≒8:54=1:9とする。また、ステップ2でも、単位時間当りのSiとCの元素比率を、1[Si元素数]×0.105[ガス濃度]×228.6[sccm:流量]:3[C元素数]×0.29[ガス濃度]×186.2[sccm:流量]≒24:162=4:27とする。
【0061】
このように、Si原料ガスボンベ41やC原料ガスボンベ42の交換後にも、SiとCの原子数が所定数で維持されるように、Si原料希釈ガスやC原料希釈ガスの流量を設定し、レシピを作成する。
【0062】
なお、ここではレシピ1の作成の仕方について説明したが、レシピ2についても同様である。レシピ1については、例えば低速成長が望ましい場合に適用され、レシピ2については、例えば高速成長が望ましい場合に適用される。低速成長が望ましい場合としては、例えば下地のSiCが不純物のイオン注入が行われているイオン注入層上にエピタキシャル膜2を成長させるような場合が挙げられる。このような場合に、高速成長を行うとイオン注入時のダメージがより顕著に引き継がれてしまうため、ダメージの引き継ぎが抑制される低速成長とするのが望ましい。また、高速成長が望ましい場合としては、SiCの基板1上にドリフト層を形成する場合などが挙げられる。このような場合、SiCの基板1に対してイオン注入によるダメージなどが入っていない表面状態の良好な下地の上にエピタキシャル膜2を成長させることになるため、結晶欠陥ができる可能性が比較的低い。このため、成長レートを高くできる高速成長とすることが望ましい。また、レシピ1、レシピ2を例に挙げたが、これらも低速成長と高速成長を行う場合の一例として挙げただけであり、他のレシピを作成することもできる。
【0063】
また、ドーパントガスとしてn型ドーパントとなるN2を例に挙げたが、他のドーパントガスを用いても良い。例えば、n型ドーパントになるNを含むNH4などを用いることができるし、p型ドーパントとなるAlを含むTMA(トリメチルアルミニウム)を用いることができる。NH4やTMAの場合も、これらをH2などの希釈ガスで希釈してドーパントガスボンベ43内に収容したものが用いられる。その場合にも、ドーパントガスボンベ43を交換する際に、上記したSi原料希釈ガスやC原料希釈ガスと同様に自動補正を行ってレシピ作成を行えば、ドーパントの取込効率および濃度プロファイルを安定して狙い値にすることができる。
【0064】
このようにして、レシピを作成すると、ステップS240として、ステップS230で作成したレシピに従ってエピタキシャル膜2の成長工程を行う。すなわち、
図1に示したような反応炉に相当する炉体20を有したエピタキシャル膜成長装置10を用意し、SiCで構成された基板1を配置する。そして、作成したレシピに従ってエピタキシャル膜2を基板1の表面上に成長させる。
【0065】
これにより、SiとCの原子数、換言すれば元素比率をSi原料ガスボンベ41やC原料ガスボンベ42の交換前後で一定にでき、安定させられることから、エピタキシャル膜2の膜厚の面内分布を安定して狙った値にすることが可能となる。そして、エピタキシャル膜2におけるドーパントの取込効率および濃度プロファイルについても、安定して狙い値となるようにできる。
【0066】
なお、
図5に示したような製造フローについては、ボンベ交換毎に行われ、その都度、エピタキシャル膜2の成膜条件としてSiとCの原子数、換言すれば元素比率が狙い値とほぼ同じとなるようなレシピが作成されることになる。
【0067】
以上説明したように、ボンベ交換の際には、交換後のSi原料希釈ガスのガス濃度とC原料希釈ガスのガス濃度でも、狙い値の原子数が維持されるように、Si原料希釈ガスやC原料希釈ガスのガス流量を自動補正してレシピを作成している。具体的には、ボンベ交換を行ったSi原料ガスボンベ41のSi原料希釈ガスのガス濃度やC原料ガスボンベ42のC原料希釈ガスのガス濃度を検査し、ガス濃度の狙い値に対する検査値の比率算出を行う。そして、算出した比率に基づいて、交換前後でのSiとCの原子数が同じとなるように、Si原料希釈ガスとC原料希釈ガスのガス流量を自動補正し、それに基づいてレシピを作成している。
【0068】
このようにして得たレシピに従ってエピタキシャル膜2を成長させることで、SiとCの原子数、換言すれば元素比率をSi原料ガスボンベ41やC原料ガスボンベ42の交換前後で一定にでき、安定させられる。このため、エピタキシャル膜2の膜厚の面内分布を安定して狙った値にすることが可能となる。そして、エピタキシャル膜2におけるドーパントの取込効率および濃度プロファイルについても、安定して狙い値となるようにできる。
【0069】
また、
図6の例では、ドーパントガスボンベ43を交換していないが、ドーパントガスボンベ43を交換する際にも、交換前後でドーパントの原子数が一定になるようにドーパントガスのガス流量を自動補正してレシピを作成することもできる。これにより、交換前後において、エピタキシャル膜2におけるドーパントの取込効率および濃度プロファイルが安定して狙い値となるようにできる。
【0070】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0071】
例えば、上記各実施形態では、ボンベ交換を行った場合のガス濃度の検査の手法の一例として、ガス濃度が特定されて流通している場合を例に挙げた。しかしながら、これは一例を挙げたに過ぎない。例えば、交換後のSi原料ガスボンベ41やC原料ガスボンベ42からSi原料希釈ガスやC原料希釈ガスを排出させ、そのガス濃度をin-situモニタなどのガス濃度測定器で測定することで検査値を得るようにしても良い。このように、排出中のガス濃度を測定して検査値を求めるようにすれば、炉体20への流入中にガス濃度が変化した場合にも対応することが可能となる。
【0072】
また、二元系化合物半導体としてSiCを例に挙げて説明したが、他の二元系化合物半導体、例えばGaN、AsGa、InP等についても、原料ガスボンベやドーパントガスボンベの交換の際に本発明を適用することができる。すなわち、第1原料ガスを希釈ガスで希釈して第1ガス濃度とした第1原料希釈ガスを収容する第1原料ガスボンベと、第2原料ガスを希釈ガスで希釈して第2ガス濃度とした第2原料希釈ガスを収容する第2原料ガスボンベを用意する。そして、これら第1原料ガスボンベと第2原料ガスボンベを用いて二元系化合物半導体を製造する際のガスボンベ交換時のガス流量の設定において適用できる。また、ドーパント原料についても、希釈ガスで希釈して第3ガス濃度としたドーパント原料希釈ガスを収容するドーパントガスボンベを用意し、このガスボンベ交換時のガス流量の設定において適用できる。ただし、SiCの場合、ボンベ交換頻度が高く、不純物濃度絶対値、面内分布のC/Si比に対する依存性が大きいため、他の二元系化合物半導体の場合よりも本発明を適用することによる効果がより大きい。
【0073】
また、希釈ガスとしてH2を例に挙げたが、H2以外の希釈ガス、例えばArなどの希ガスやHClなどのエッチングガスが用いられていても良い。その場合、各種ガスボンベ41~43に用いられている希釈ガスのガス種が同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0074】
また、上記実施形態では、ガスボンベ交換前後においてSiとCの原子数が等しくなるようにする手法として、ガス濃度の狙い値に対する検査値の比率算出を行い、ガスボンベ交換後のガス流量を自動補正するという手法を用いた。これに限らず、単位時間当りに炉体20に供給されるSiとCの原子数について、狙い値での原子数を取得しておき、検査値におけるSiとCの原子数が狙い値での原子数と等しくなるようにガス流量を設定すれば良い。
【0075】
また、上記実施形態では、本発明を二元系化合物半導体の製造方法および製造装置として把握する場合について説明したが、本発明を二元系化合物半導体の製造に適用されるガス流量の自動補正を含む二元系化合物半導体の製造プログラムとして把握することもできる。その場合、(1)狙い値での第1原料希釈ガスのガス濃度での第1原料と第2原料希釈ガスのガス濃度での第2原料のガス流量を記憶するステップを行っておく。そして、ボンベ交換時に、(2)ボンベ交換を行ったことを入力するステップと、(3)ガス濃度の検査値を入力するステップと、を行う。その後、(4)検査値での第1原料と第2原料の原子数が狙い値での原子数となるように、第1原料希釈ガスのガス流量および第2原料希釈ガスのガス流量を自動補正したレシピを作成するステップを行う。そして、(5)作成したレシピに従ってエピタキシャル膜2を成膜するステップを行う。このような各ステップを有する二元系化合物半導体の製造プログラムとすることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 基板
2 エピタキシャル膜
10 エピタキシャル膜成長装置
20 炉体
41 Si原料ガスボンベ
42 C原料ガスボンベ
43 ドーパントガスボンベ
70 サセプタ部