(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】量子ドット
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20241126BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20241126BHJP
C09K 11/56 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
C09K11/88
C09K11/56
(21)【出願番号】P 2021009481
(22)【出願日】2021-01-25
(62)【分割の表示】P 2020568359の分割
【原出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019170996
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020024688
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荷方 惣一朗
(72)【発明者】
【氏名】小椋 佑子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 幹大
(72)【発明者】
【氏名】高三潴 由香
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022217(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/074083(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104592990(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnSeからなるコアと、ZnSからなるシェルと、から構成されるコアシェル構造であり、
粒径が、5nm以上20nm以下であり、
蛍光寿命が、50ns以下であ
り、
前記ZnSの表面に、ClあるいはBrが修飾しており、
蛍光量子収率は、76%以上である、
ことを特徴とする量子ドット。
【請求項2】
蛍光半値幅が、25nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の量子ドット。
【請求項3】
蛍光波長が、410nm以上490nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載の量子ドット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウムを含まない量子ドット及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットは、蛍光を発し、そのサイズがナノオーダーのサイズであることから蛍光ナノ粒子、その組成が半導体材料由来であることから半導体ナノ粒子、またはその構造が特定の結晶構造を有することからナノクリスタル(Nanocrystal)とも呼ばれる。
【0003】
量子ドットの性能を表すものとして、蛍光量子収率(Quantum Yield:QY)や、蛍光半値幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)が挙げられる。量子ドットを可視光領域の波長変換材料として用いる場合、その最も大きな特徴として、表現可能な色の範囲が広いこと、すなわち高色域化が挙げられる。量子ドットを用いて高色域化を達成するためには、蛍光半値幅を狭くすることが重要である。
【0004】
量子ドットを用いたディスプレイの用途として、フォトルミネッセンス(Photoluminescence:PL)を発光原理として採用する場合、バックライトに青色LEDを用いて励起光とし、量子ドットを用いて緑色光や、赤色光に変換する方法が採用されている。一方で、例えばエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence:EL)を発光原理として採用する場合、或いは、他の方法で3原色すべてを量子ドットで発光させる場合などは、青色発光の量子ドットが必要となる。その際、高色域化を達成する場合には、緑色、及び、赤色のみならず、青色光の半値幅の狭いことが必要となる。従って、RGB3色すべてを量子ドットで発光させる場合、青色発光の量子ドットの蛍光半値幅が狭いことが必要となる。
【0005】
青色の量子ドットとしては、カドミウム(Cd)を用いたセレン化カドミウム(CdSe)系の量子ドットが代表的なものとして挙げられる。しかしながら、Cdは、国際的に規制されており、CdSeの量子ドットを用いた材料の実用化には高い障壁があった。
【0006】
一方、Cdを使用しない量子ドットの開発も検討されている。例えば、CuInS2や、AgInS2などのカルコパイライト系量子ドット、インジウムホスフィド(InP)系量子ドットなどの開発が進んでいる(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、現行で開発されているものは、一般的に蛍光半値幅が広く、青色発光の量子ドットとしては適さない。
【0007】
また、下記の非特許文献1には、有機亜鉛化合物と比較的反応性の高いと考えられるジフェニルホスフィンセレニドを用いた直接的なZnSeの合成方法について詳細に記載されているが、青色発光の量子ドットとしては適さない。
【0008】
また、下記の非特許文献2においても、水系でのZnSe合成方法が報告されている。反応は低温で進行するものの、蛍光半値幅が30nm以上でやや広く、蛍光波長は430nmに満たないため、これを用いて従来の青色LEDの代替品として用いて高色域化を達成するには、不適である。
【0009】
他にも、下記の非特許文献3ではセレン化銅(CuSe)等の前駆体を形成した後、銅を亜鉛(Zn)でカチオン交換することで、ZnSe系の量子ドットを合成する方法が報告されている。しかし、前駆体であるセレン化銅の粒子が15nmと大きい上に、銅と亜鉛をカチオン交換する際の反応条件が最適ではないため、カチオン交換後のZnSe系の量子ドットに銅が残留していることがわかる。本発明の検討結果から銅が残留しているZnSe系量子ドットは発光することができないことがわかっている。或いは、発光しても銅が残留している場合は欠陥由来の発光となり、発光スペクトルの半値幅が30nm以上の発光となる。この銅残留には、前駆体であるセレン化銅の粒子サイズも影響し、粒子が大きい場合はカチオン交換後も銅が残留しやすく、XRDでZnSeと確認できても、僅かな銅の残留が要因で発光しない場合が多い。よって、非特許文献3は、この前駆体の粒子サイズ制御とカチオン交換法の最適化ができていないため銅が残留している例として挙げられる。そのため、青色蛍光については報告されていない。このようにカチオン交換法による報告例は多いが上記のような理由から強く発光する報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2007/060889号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【文献】Organic Electronics 15 (2014) 126-131
【文献】Materials Science and Engineering C 64 (2016) 167-172
【文献】J. Am. Chem. Soc.(2015)137 29 9315-9323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、青色量子ドットの研究開発は進んでいるものの、いずれの量子ドットも量産可能なレベルで、蛍光半値幅及び蛍光量子収率の観点からCd系量子ドットの代替となるべき性能には到達していない。
【0013】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、蛍光半値幅が狭く、且つ蛍光量子収率が高い青色蛍光を発する量子ドットを提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、コアシェル構造において、発光効率が高く、蛍光半値幅の狭い青色蛍光を発する量子ドットを提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、上記の量子ドットを、安全に、且つ量産可能に合成する量子ドットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ZnSeからなるコアと、ZnSからなるシェルと、から構成されるコアシェル構造であり、粒径が、5nm以上20nm以下であり、蛍光寿命が、50ns以下であり、前記ZnSの表面に、ClあるいはBrが修飾しており、蛍光量子収率は、76%以上である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の量子ドットによれば、粒子形状やサイズの揃った量子ドットを合成できるため、蛍光半値幅を狭くでき、高色域化の向上を図ることができる。
【0022】
また、本発明の量子ドットの製造方法によれば、蛍光半値幅が狭く、Cdを含まない量子ドットを、安全に、且つ、量産可能な方法で製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態における量子ドットの模式図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態における量子ドットの模式図である。
【
図2】本発明の実施形態の量子ドットを用いたLED装置の模式図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるLED装置を用いた表示装置の縦断面図である。
【
図4】実施例1におけるZnSe/ZnSの蛍光(Photoluminescence:PL)スペクトルである。
【
図5】実施例2におけるZnSe/ZnSのPLスペクトルである。
【
図6】実施例3におけるZnSe/ZnSのPLスペクトルである。
【
図7A】実施例1におけるZnSeの走査線電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)写真である。
【
図8A】実施例1におけるZnSe/ZnSのSEM写真である。
【
図9A】実施例2におけるZnSeのSEM写真である。
【
図10A】実施例2におけるZnSe/ZnSのSEM写真である。
【
図11A】実施例3におけるZnSeのSEM写真である。
【
図12A】実施例3におけるZnSe/ZnSのSEM写真である。
【
図13】実施例1におけるZnSe及びZnSe/ZnSのX線回折(Xray Diffraction:XRDスペクトルである。
【
図14】実施例2におけるZnSe及びZnSe/ZnSのXRDスペクトルである。
【
図15】実施例3におけるZnSe及びZnSe/ZnSのXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態(以下、「実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
図1A及び
図1Bは、本実施形態における量子ドットの模式図である。
図1Aに示す量子ドット5は、カドミウム(Cd)を含まないナノクリスタルである。
【0026】
本実施形態では、量子ドット5は、少なくとも、亜鉛(Zn)とセレン(Se)を含み、Cdを含まない。具体的には、量子ドットは、ZnとSe、ZnとセSeと硫黄(S)、又は、ZnとSeとテルル(Te)を含有するナノクリスタルであることが好ましい。
【0027】
量子ドット5は、バンド端発光による蛍光特性を有し、その粒子がナノサイズであることにより量子サイズ効果を発現する。
【0028】
ここで「ナノクリスタル」とは、数nm~数十nm程度の粒径を有するナノ粒子を指す。本実施形態では、多数の量子ドット5を、略均一の粒径にて生成することができる。
【0029】
量子ドット5に含まれる、ZnとSe、ZnとSeとS、或いは、ZnとSeとTeが主成分であるが、これら元素以外の元素が含まれていてもよい。ただし、Cdは含まず、また、リン(P)も含まないことが好適である。有機リン化合物は高価であり、また空気中で酸化されやすいため合成が不安定化し、コストの上昇や蛍光特性の不安定化、製造工程の煩雑性を招きやすくなる。
【0030】
本実施形態の量子ドット5は、蛍光半値幅が25nm以下である。「蛍光半値幅」とは、蛍光スペクトルにおける蛍光強度のピーク値の半分の強度での蛍光波長の広がりを示す半値全幅(Full Width at Half Maximum)を指す。また、蛍光半値幅は、23nm以下であることが好ましい。また、蛍光半値幅は20nm以下であることがより好ましい。また、蛍光半値幅は15nm以下であることが更により好ましい。このように、本実施形態では蛍光半値幅を狭くすることができるため、高色域化の向上を図ることができる。
【0031】
本実施形態では、後述するように、量子ドット5を合成する反応系として、銅カルコゲニドを前駆体として合成した後に、前駆体に対して金属交換反応を行う。このような間接的な合成反応に基づいて量子ドット5を製造することで、蛍光半値幅を狭くすることができ、具体的には25nm以下の蛍光半値幅を達成することができる。
【0032】
量子ドット5の表面には多数の有機配位子2が配位していることが好ましい。これにより、量子ドット5同士の凝集を抑制でき、目的とする光学特性が発現する。更に、アミン又はチオール系の配位子を加えることで、量子ドット発光特性の安定性を大きく改善することが可能である。反応に用いることのできる配位子は特に限定されないが、例えば、以下の配位子が、代表的なものとして挙げられる。
【0033】
(1)脂肪族1級アミン系
オレイルアミン:C18H35NH2、ステアリル(オクタデシル)アミン:C18H37NH2、ドデシル(ラウリル)アミン:C12H25NH2、デシルアミン:C10H21NH2、オクチルアミン:C8H17NH2
(2)脂肪酸系
オレイン酸:C17H33COOH、ステアリン酸:C17H35COOH、パルミチン酸:C15H31COOH、ミリスチン酸:C13H27COOH、ラウリル(ドデカン)酸:C11H23COOH、デカン酸:C9H19COOH、オクタン酸:C7H15COOH
(3)チオール系
オクタデカンチオール:C18H37SH、ヘキサンデカンチオール:C16H33SH、テトラデカンチオール:C14H29SH、ドデカンチオール:C12H25SH、デカンチオール:C10H21SH、オクタンチオール:C8H17SH
(4)ホスフィン系
トリオクチルホスフィン:(C8H17)3P、トリフェニルホスフィン:(C6H5)3P、トリブチルホスフィン:(C4H9)3P
(5)ホスフィンオキシド系
トリオクチルホスフィンオキシド:(C8H17)3P=O、トリフェニルホスフィンオキシド:(C6H5)3P=O、トリブチルホスフィンオキシド:(C4H9)3P=O
【0034】
本実施形態における量子ドット5の蛍光量子収率(Quantum Yield)は、5%以上である。蛍光量子収率は、20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。このように、本実施形態では、量子ドットの蛍光量子収率を高めることができる。
【0035】
本実施の形態では、量子ドット5の粒径を、5nm以上20nm以下で調整することができる。本実施の形態では、量子ドット5の粒径を、好ましくは、15nm以下にすることができ、より好ましくは、10nm以下にすることができる。このように、本実施の形態では、量子ドット5の粒径を小さくすることができ、且つ、各量子ドット5の粒径のばらつきを小さくすることができ、サイズの揃った量子ドット5を得ることができる。これにより、本実施の形態では、量子ドット5の蛍光半値幅を上記したように、25nm以下に狭くすることができ、高色域化の向上を図ることができる。
【0036】
また、本実施の形態では、量子ドット5の蛍光寿命を、50ns以下にすることができる。また、本実施の形態では、蛍光寿命を、40ns以下、更には30ns以下に調整することもできる。このように、本実施の形態では、蛍光寿命を短くすることができるが、50ns程度まで延ばすこともでき、使用用途により、蛍光寿命の調整が可能である。
【0037】
本実施形態では、蛍光波長を、410nm以上490nm以下程度にまで自由に制御することができる。本実施形態における量子ドット5は、Zn以外にカルコゲン元素を用いており、具体的には、ZnSeをベースとする固溶体である。本実施形態では、量子ドット5の粒径及び、量子ドット5の組成を調整することによって、蛍光波長を制御することが可能である。本実施の形態では、好ましくは、蛍光波長を、430nm以上とすることができ、より好ましくは、450nm以上とすることができる。また、ZnSeTeをベースとした量子ドット5では、蛍光波長を、450nm以上490nm以下とすることができる。また、蛍光波長を、480nm以下、或いは、470nm以下とすることもできる。
【0038】
このように、本実施形態の量子ドット5では、蛍光波長を青色に制御することが可能である。
【0039】
図1Bに示す量子ドット5は、コア5aと、コア5aの表面に被覆されたシェル5bを有するコアシェル構造である。
図1Bに示すように、量子ドット5の表面には、多数の有機配位子2が配位していることが好ましい。
【0040】
本実施の形態では、コアシェル構造においても、上記した蛍光半値幅及び蛍光量子収率を得ることができる。すなわち、
図1Bに示すコアシェル構造の量子ドット5においては、蛍光半値幅を25nm以下とすることができる。また、蛍光量子収率を5%以上とすることができる。蛍光半値幅及び蛍光量子収率の好ましい範囲は、上記に記載の範囲を適用することができる。
【0041】
また、
図1Bに示すコアシェル構造の量子ドット5の粒径は、5nm以上20nm以下である。
図1Aに示すコア単体の構造より、コアシェル構造とすることで、多少、粒径は大きくなるものの、20nm以下の粒径を保つことができ、非常に小さい粒径に揃えられたコアシェル構造の量子ドット5を得ることができる。
【0042】
図1Bに示す量子ドット5のコア5aは、
図1Aに示すナノクリスタルである。したがって、コア5aは、ZnSe、ZnSeS、或いは、ZnSeTeで形成されることが好ましい。シェル5bは、コア5aと同様に、Cdを含まない。シェル5bは、特に材質を問うものではないが、例えば、ZnS等で形成される。
【0043】
なお、シェル5bは、コア5aの表面に固溶化した状態であってもよい。
図1Bでは、コア5aとシェル5bとの境界を点線で示したが、これは、コア5aとシェル5bとの境界を分析により確認できてもできなくてもどちらでもよいことを指す。なお、本実施形態では、コア5aのみでも蛍光を発する特徴を有する。
【0044】
図1Bに示すコアシェル構造の量子ドット5も、
図1Aと同様に、蛍光波長を、410nm以上で490nm以下程度にまで自由に制御することができる。そして、本実施形態では、蛍光波長を青色に制御することが可能である。また、コアシェル構造の量子ドット5においても、蛍光寿命を50nsにすることができるが、組成及び粒径が同じコア5a単体に比べると、コアシェル構造とすることで、蛍光寿命を短くすることができる。
【0045】
続いて、本実施形態の量子ドット5の製造方法について説明する。まず、本実施形態では、有機銅化合物、或いは、無機銅化合物と、有機カルコゲン化合物とから銅カルコゲニド前駆体を合成する。具体的には、銅カルコゲニド前駆体は、Cu2Se、Cu2SeS、Cu2SeTe、Cu2SeTeS、CuSe、CuSeS、CuSeTe、CuSeTeSであることが好ましい。
【0046】
ここで、本実施形態では、Cu原料を、特に限定はしないが、例えば、下記の有機銅試薬や無機銅試薬を用いることができる。すなわち、酢酸塩として、酢酸銅(I):Cu(OAc)、酢酸銅(II):Cu(OAc)2、脂肪酸塩として、ステアリン酸銅:Cu(OC(=O)C17H35)2、オレイン酸銅:Cu(OC(=O)C17H33)2、ミリスチン酸銅:Cu(OC(=O)C13H27)2、ドデカン酸銅:Cu(OC(=O)C11H23)2、銅アセチルアセトネート:Cu(acac)2、ハロゲン化物として1価、又は2価の両方の化合物が使用可能であり、塩化銅(I):CuCl、塩化銅(II):CuCl2、臭化銅(I):CuBr、臭化銅(II):CuBr2、ヨウ化銅(I):CuI、ヨウ化銅(II):CuI2などを用いることができる。
【0047】
本実施形態では、Se原料は、有機セレン化合物(有機カルコゲニド)を原料として用いる。特に化合物の構造を限定するものではないが、例えば、トリオクチルホスフィンにSeを溶解させたトリオクチルホスフィンセレニド:(C8H17)3P=Se、或いは、トリブチルホスフィンにSeを溶解させたトリブチルホスフィンセレニド:(C4H9)3P=Se等を用いることができる。又は、オクタデセンのような長鎖の炭化水素である高沸点溶媒にSeを高温で溶解させた溶液(Se-ODE)や、又はオレイルアミンとドデカンチオールの混合物に溶解させた溶液(Se-DDT/OLAm)などを用いることができる。
【0048】
本実施形態では、Teは、有機テルル化合物(有機カルコゲン化合物)を原料として用いる。特に化合物の構造を限定するものではないが、例えば、トリオクチルホスフィンにTeを溶解させたトリオクチルホスフィンテルリド:(C8H17)3P=Te、或いは、トリブチルホスフィンにTeを溶解させたトリブチルホスフィンテルリド:(C4H9)3P=Te等を用いることができる。また、ジフェニルジテルリド:(C6H5)2Te2などのジアルキルジテルリド:R2Te2やオレイルアミンとドデカンチオールの混合物に溶解させた溶液(Te-DDT/OLAm)などを用いることも可能である。
【0049】
本実施形態では、有機銅化合物、或いは、無機銅化合物と、有機カルコゲン化合物とを混合し溶解させる。溶媒としては、高沸点の飽和炭化水素又は、不飽和炭化水素として、オクタデセンを用いることができる。これ以外にも芳香族系の高沸点溶媒として、t-ブチルベンゼン:t-butylbenzene、高沸点のエステル系の溶媒として、ブチルブチレート:C4H9COOC4H9、ベンジルブチレート:C6H5CH2COOC4H9などを用いることが可能であるが、脂肪族アミン系又は、脂肪酸系の化合物や脂肪族リン系の化合物又は、これらの混合物を溶媒として用いることも可能である。
【0050】
このとき、反応温度を、140℃以上で250℃以下の範囲に設定し、銅カルコゲニド前駆体を合成する。なお、反応温度は、より低温の、140℃以上で220℃以下であることが好ましく、更に低温の、140℃以上で200℃以下であることがより好ましい。
【0051】
また、本実施形態では、反応法に特に限定はないが、蛍光半値幅の狭い量子ドットを得るために、粒径の揃ったCu2Se、Cu2SeS、Cu2SeTe、Cu2SeTeSを合成することが重要である。
【0052】
また、Cu2Se、Cu2SeS、Cu2SeTe、Cu2SeTeS等の銅カルコゲニド前駆体の粒径は、20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。この銅カルコゲニド前駆体の組成及び粒径によって、ZnSe系の量子ドットの波長制御が可能となる。そのため、適切な粒径制御を行うことが重要である。
【0053】
また、本実施形態では、コアとして、より蛍光半値幅の狭い量子ドットを得るためには、Sをコアに固溶させることが重要である。このため前駆体であるCu2Se又はCu2SeTeの合成において、チオールを添加することが好ましい。より蛍光半値幅の狭い量子ドットを得るためには、Se原料として、Se-DDT/OLAmを使用することがより好ましい。特にチオールを限定するものでないが、例えば、オクタデカンチオール:C18H37SH、ヘキサンデカンチオール:C16H33SH、テトラデカンチオール:C14H29SH、ドデカンチオール:C12H25SH、デカンチオール:C10H21SH、オクタンチオール:C8H17SH、等である。
【0054】
次に、ZnSe、ZnSeS、ZnSeTe、又はZnSeTeSの原料として、有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物を用意する。有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物は、空気中でも安定で取り扱い容易な原料である。有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物の構造を特に限定するものではないが、金属交換反応を効率よく行うためには、イオン性の高い亜鉛化合物を使用するのが好ましい。例えば、以下に示す有機亜鉛化合物及び無機亜鉛化合物を用いることができる。すなわち、酢酸塩として酢酸亜鉛:Zn(OAc)2、硝酸亜鉛:Zn(NO3)2、脂肪酸塩として、ステアリン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C17H35)2、オレイン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C17H33)2、パルミチン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C15H31)2、ミリスチン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C13H27)2、ドデカン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C11H23)2、亜鉛アセチルアセトネート:Zn(acac)2、ハロゲン化物として、塩化亜鉛:ZnCl2、臭化亜鉛:ZnBr2、ヨウ化亜鉛:ZnI2、カルバミン酸亜鉛としてジエチルジチオカルバミン酸亜鉛:Zn(SC(=S)N(C2H5)2)2、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛:Zn(SC(=S)N(CH3)2)2、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛:Zn(SC(=S)N(C4H9)2)2等を用いることができる。
【0055】
続いて、上記の有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物を、銅カルコゲニド前駆体が合成された反応溶液に添加する。これにより、銅カルコゲニドのCuと、Znとの金属交換反応が生じる。金属交換反応は、150℃以上300以下で生じさせることが好ましい。また、金属交換反応を、より低温の、150℃以上280℃以下、更に好ましくは、150℃以上250℃以下で生じさせることがより好ましい。
【0056】
本実施形態では、CuとZnの金属交換反応は、定量的に進行し、ナノクリスタルには、前駆体のCuが含有されないことが好ましい。前駆体のCuがナノクリスタルに残留すると、Cuがドーパントとして働き、別の発光機構で発光して蛍光半値幅が広がってしまうためである。このCuの残存量は、Znに対して100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が理想的である。
【0057】
本実施形態では、カチオン交換法で合成されたZnSe系量子ドットは、直接法で合成されたZnSe系量子ドットよりもCu残量が高くなる傾向があるが、Znに対してCuが1~10ppm程度含まれていても良好な発光特性を得ることができる。なお、Cu残量により、カチオン交換法で合成された量子ドットであるとの判断を行うことが可能である。すなわち、カチオン交換法で合成することで、銅カルコゲニド前駆体で粒径制御でき、本来反応しにくい量子ドットの合成が可能となるため、Cu残量は、カチオン交換法を用いたかどうかの判断を行う上でメリットがある。
【0058】
また、本実施形態では、金属交換を行う際に、銅カルコゲニド前駆体の金属を配位又はキレートなどにより反応溶液中に遊離させる補助的な役割をもつ化合物が必要である。
【0059】
上述の役割を有する化合物としては、Cuと錯形成可能なリガンドが挙げられる。例えば、リン系リガンド、アミン系リガンド、硫黄系リガンドが好ましく、その中でも、その効率の高さからリン系リガンドが更に好ましい。
【0060】
これにより、CuとZnとの金属交換が適切に行われ、ZnとSeをベースとする蛍光半値幅の狭い量子ドットを製造することができる。本実施の形態では、上記のカチオン交換法により、直接合成法に比べて、量子ドットを量産することができる。
【0061】
すなわち、直接合成法では、Zn原料の反応性を高めるために、例えば、ジエチル亜鉛(Et2Zn)などの有機亜鉛化合物を使用する。しかしながら、ジエチル亜鉛は反応性が高く、空気中で発火するため不活性ガス気流下で取り扱わなければならないなど、原料の取り扱いや保管が難しく、それを用いた反応も発熱、発火等の危険を伴うため、量産には不向きである。また同様に、Se原料の反応性を高めるために、例えば、水素化セレン(H2Se)を用いた反応なども毒性、安全性の観点から量産には適さない。
【0062】
また、上記のような反応性の高いZn原料やSe原料を用いた反応系では、ZnSeは生成するものの、粒子生成が制御されておらず、結果として生じたZnSeの蛍光半値幅が広くなる。
【0063】
これに対し、本実施形態では、有機銅化合物、或いは、無機銅化合物と、有機カルコゲン化合物から、銅カルコゲニド前駆体を合成し、銅カルコゲニド前駆体を用いて金属交換することによって量子ドットを合成する。このように、本実施形態では、まず、銅カルコゲニド前駆体の合成を経て量子ドットを合成しており、直接合成していない。このような間接的な合成により、反応性が高過ぎて取り扱いが危険な試薬を使う必要はなく、蛍光半値幅の狭いZnSe系量子ドットを安全かつ安定的に合成することが可能である。
【0064】
また、本実施形態では、銅カルコゲニド前駆体を単離・精製することなく、ワンポットで、CuとZnの金属交換を行い、所望の組成及び粒径を有する量子ドットを得ることが可能である。一方、銅カルコゲニド前駆体を一度、単離・精製してから使用してもよい。
【0065】
また、本実施形態では、合成した量子ドットは、洗浄、単離精製、被覆処理やリガンド交換などの各種処理を行わずとも蛍光特性を発現する。
【0066】
ただし、
図1Bに示すように、ZnSe、ZnSeS、ZnSeTe、或いはZnSeTeS等のナノクリスタルからなるコア5aをZnS、ZnSeS等のシェル5bで被覆することによって、蛍光量子収率を更に増大させることができる。更に、コアシェル構造とすることで、蛍光寿命を、シェルの被覆前よりも短くすることができる。
【0067】
また、
図1Bに示すように、コア5aをシェル5bで被覆することで、コア5aよりも波長を短波長若しくは、長波長化することも可能である。例えば、コア5aの粒径が小さい場合は、シェル5bを被覆することで、長波長化する傾向があるが、コア5aの粒径が大きい場合は、シェル5bを被覆することで、短波長化する傾向がある。また、シェル5bの被覆の条件によっても、波長変化値の大きさは異なる。
【0068】
さらに、カチオン交換法で得られたZnSe、ZnSeS、ZnSeTe、或いはZnSeTeS等のナノクリスタルからなるコア5aに、同原料であるZnSe、ZnSeS、ZnSeTe、或いはZnSeTeSを添加することで、粒子サイズが均一なまま、任意の粒子サイズに変更した量子ドット5のコア5aを得ることが可能である。そのため、蛍光半値幅を25nm以下に保持したまま、410nm以上490nm以下の波長制御を行うことが容易である。
【0069】
また、本実施形態では、コアシェル構造を、銅カルコゲニド前駆体の段階で合成することが可能である。例えば、銅カルコゲニド前駆体であるCu2SeにS原料を連続的に添加することによってCu2Se/Cu2Sを合成し、引き続き、CuとZnの金属交換を行うことによって、ZnSe/ZnSを得ることが可能である。
【0070】
また、本実施形態では、コアシェル構造に用いるS原料としては、特に限定するものではないが、以下の原料が代表的なものとして挙げられる。
【0071】
すなわち、チオール類として、オクタデカンチオール:C18H37SH、ヘキサンデカンチオール:C16H33SH、テトラデカンチオール:C14H29SH、ドデカンチオール:C12H25SH、デカンチオール:C10H21SH、オクタンチオール:C8H17SH、ベンゼンチオール:C6H5SH、又は、トリオクチルホスフィンのような長鎖のホスフィン系炭化水素である高沸点溶媒に硫黄を溶解させた溶液(S-TOP)、更には、オクタデセンのような長鎖の炭化水素である高沸点溶媒に硫黄を溶解させた溶液(S-ODE)や、又は、オレイルアミンとドデカンチオールの混合物に溶解させた溶液(S-DDT/OLAm)などを用いることができる。
【0072】
使用するS原料によって、反応性が異なり、その結果、シェル5b(例えば、ZnS)の被覆厚を異ならせることができる。チオール系は、その分解速度に比例しており、S-TOP又はS-ODEはその安定性に比例して反応性が変化する。これより、S原料の使い分けによっても、シェル5bの被覆厚の制御が可能となり、最終的な蛍光量子収率も制御することができる。
【0073】
また、本実施形態では、コアシェル構造に用いるZn原料としては、上記に記載した原料を用いることができる。
【0074】
また、最適被覆厚みは、蛍光寿命の推移からも算出することができる。被覆原料の添加回数に伴って粒径サイズは大きくなり、蛍光寿命は次第に短くなっていく。同時に蛍光量子収率も増大するため、蛍光寿命が最も短いときに蛍光量子収率が最も高くなることがわかった。
【0075】
また、本実施形態では、シェル5bの被覆時に用いる溶媒は、アミン系の溶媒が少ないほど、シェル5bの被覆が容易になり、良好な発光特性を得ることができる。更に、アミン系溶媒、カルボン酸系又はホスフィン系溶媒の比率によって、シェル5bの被覆後の発光特性が異なる。
【0076】
更に、本実施の形態の製造方法により合成した量子ドット5は、メタノール、エタノール、又はアセトン等の極性溶媒を加えることで凝集し、量子ドット5と未反応原料を分離して回収することができる。この回収した量子ドット5に再度トルエン、又はヘキサン等を加えることで再び分散する。この再分散した溶液に配位子となる溶媒を加えることで、更に発光特性を向上させることや発光特性の安定性を向上させることができる。この配位子を加えることでの発光特性の変化は、シェル5bの被覆操作の有無で大きく異なり、本実施の形態では、シェル5bの被覆を行った量子ドット5は、チオール系の配位子を加えることで、特に蛍光安定性を向上させることができる。
【0077】
図1A、
図1Bに示す量子ドット5の用途を、特に限定するものでないが、例えば、青色蛍光を発する本実施形態の量子ドット5を、波長変換部材、照明部材、バックライト装置、及び、表示装置等に適用することができる。
【0078】
本実施形態の量子ドット5を波長変換部材、照明部材、バックライト装置、及び、表示装置等の一部に適用し、例えば、フォトルミネッセンス(Photoluminescence:PL)を発光原理として採用する場合、光源からのUV照射により、青色蛍光を発することを可能とする。或いは、エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence:EL)を発光原理として採用する場合、或いは、他の方法で3原色すべてを量子ドットで発光させる場合、本実施形態の量子ドット5を用いた青色蛍光を発する発光素子とすることができる。本実施形態では、緑色蛍光を発する量子ドット、赤色蛍光を発する量子ドットとともに、青色蛍光を発する本実施形態の量子ドット5を含む発光素子(フルカラーLED)とすることで、白色を発光させることが可能になる。
【0079】
図2は、本実施形態の量子ドットを用いたLED装置の模式図である。本実施形態のLED装置1は、
図2に示すように、底面2aと底面2aの周囲を囲む側壁2bを有する収納ケース2と、収納ケース2の底面2aに配置されたLEDチップ(発光素子)3と、収納ケース2内に充填され、LEDチップ3の上面側を封止する蛍光層4を有して構成される。ここで上面側とは、収納ケース2からLEDチップ3の発した光が放出される方向であって、LEDチップ3に対して、底面2aの反対の方向を示す。
【0080】
LEDチップ3は、図示しないベース配線基板上に配置され、ベース配線基板は、収納ケース2の底面部を構成していてもよい。ベース基板としては、例えば、ガラスエポキシ樹脂等の基材に配線パターンが形成された構成を提示できる。
【0081】
LEDチップ3は、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子であり、P型半導体層とN型半導体層とがPN接合された基本構成を備える。
【0082】
図2に示すように、蛍光層4は、多数の量子ドット5が分散された樹脂6により形成されている。
【0083】
また本実施の形態における量子ドット5を分散した樹脂組成物には、量子ドット5と量子ドット5とは別の蛍光物質を含んでいてもよい。蛍光物質としては、サイアロン系やKSF(K2SiF6:Mn4+)赤色蛍光体などがあるが材質を特に限定するものでない。
【0084】
蛍光層4を構成する樹脂6は、特に限定するものでないが、ポリプロピレン(Polypropylene:PP)、ポリスチレン(Polystyrene:PS)、アクリル樹脂(Acrylic resin)、メタクリル樹脂(Methacrylate)、MS樹脂、ポリ塩化ビニル(Polyvinyl chloride:PVC)、ポリカーボネート(Polycarbonate:PC)、ポリエチレンテレテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)、ポリエチレンナフタレート(Polyethylene naphthalate:PEN)、ポリメチルペンテン(Polymethylpentene)、液晶ポリマー、エポキシ樹脂(Epoxy resin)、シリコーン樹脂(Silicone resin)、又は、これらの混合物等を使用することができる。
【0085】
本実施形態の量子ドットを用いたLED装置は、表示装置に適用することができる。
図3は、
図2に示すLED装置を用いた表示装置の縦断面図である。
図3に示すように、表示装置50は、複数のLED装置20と、各LED装置20に対向する液晶ディスプレイ等の表示部54を有して構成される。各LED装置20は、表示部54の裏面側に配置される。各LED装置20は、
図2に示すLED装置1と同様に多数の量子ドット5を拡散した樹脂によりLEDチップが封止された構造を備える。
【0086】
図3に示すように、複数のLED装置20は、支持体52に支持されている。各LED装置20は、所定の間隔を空けて配列されている。各LED装置20と支持体52とで表示部54に対するバックライト55を構成している。支持体52はシート状や板状、あるいはケース状である等、特に形状や材質を限定するものでない。
図3に示すように、バックライト55と表示部54との間には、光拡散板53等が介在していてもよい。
【0087】
本実施の形態における蛍光半値幅の狭い量子ドット5を、
図2に示すLED装置や、
図3に示す表示装置等に適用することで、装置の発光特性を効果的に向上させることが可能となる。
【0088】
また、本実施形態の量子ドット5を樹脂中に分散させた樹脂組成物を、シート状、フィルム状に形成することもできる。このようなシートやフィルムを、例えば、バックライト装置に組み込むことができる。
【0089】
また、本実施の形態では、複数の量子ドットを樹脂中に分散した波長変換部材を成形体で形成することができる。例えば、量子ドットが樹脂に分散されてなる成形体は、収納空間を有する容器に圧入等により収納される。このとき、成形体の屈折率は、容器の屈折率より小さいことが好ましい。これにより、成形体に進入した光の一部が、容器の内壁で全反射する。したがって、容器の側方から外部に漏れる光の梁を減らすことができる。このように、本実施の形態における蛍光半値幅の狭い量子ドットを、波長変換部材、照明部材、バックライト装置、及び、表示装置等に適用することで、発光特性を効果的に向上させることが可能となる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0091】
本発明では、Cdを含まない量子ドットを合成するにあたり以下の原料用いた。また合成した量子ドットを評価するにあたり以下の測定機器を用いた。
【0092】
<原料>
無水酢酸銅:和光純薬株式会社製
オクタデセン:出光興産株式会社製
オレイルアミン:花王株式会社製 ファーミン
オレイン酸:花王株式会社製 ルナックO-V
ドデカンチオール(Se―DDT):花王株式会社製 チオカルコール20
トリオクチルホスフィン:北興化学株式会社製
無水酢酸亜鉛:キシダ化学株式会社製
セレン(4N:99.99%):新興化学株式会社製
硫黄:キシダ化学株式会社製
<測定機器>
蛍光分光計:日本分光株式会社製 F-2700
紫外-可視光分光光度計:日立株式会社製 V-770
量子収率測定装置:大塚電子株式会社製 QE-1100
X線回折装置(XRD):Bruker社製 D2 PHASER
走査線電子顕微鏡(SEM):日立株式会社製 SU9000
蛍光寿命測定装置:浜松ホトニクス製 C11367
【0093】
[実施例1]
300mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 546mgと、オレイルアミン:OLAm 28.5mLと、オクタデセン:ODE 46.5mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、150℃で20分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0094】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.285M)8.4mLを添加し、150℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(CuSe)を、室温まで冷却した。
【0095】
その後、Cu2Se反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 4.092gと、トリオクチルホスフィン:TOP 60mLと、オレイルアミン:OLAm 2.4mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0096】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 72mlを加えて分散させた。
【0097】
その後、ZnSe-ODE溶液 72mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 4.092gとトリオクチルホスフィン:TOP 30mLと、オレイルアミン:OLAm 3mLとオレイン酸36mlを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、280℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0098】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約430.5nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
【0099】
得られた反応溶液を、量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約30%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、48nsであった。
【0100】
また、得られたZnSe粒子の分散溶液を、走査型電子顕微鏡(SEM)、及びX線回折(XRD)装置を用いて測定した。
図7Aが、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定結果であり、
図7Bが
図7Aの模式図であり、
図13の点線が、X線回折(XRD)の測定結果である。SEMの結果より、粒径は約5nmであった。また、XRDの結果より、結晶は立方晶であり、ZnSeの結晶ピーク位置と一致していることがわかった。
【0101】
上記とは別に得られたZnSe反応液47mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。
【0102】
分散したZnSe-ODE溶液35mLを不活性ガス(N2)雰囲気下にて、310℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。
【0103】
この溶液に、S-TOP溶液(2.2M)2.2mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.8M)11mLの混合液を1.1mL添加し、310℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し12回行った。得られた反応溶液(ZnSe/ZnS)を、室温まで冷却した。
【0104】
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0105】
ヘキサン分散したZnSe/ZnSを蛍光分光計で測定した。その結果、
図4に示すように、蛍光波長が約423nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
【0106】
同様の溶液を、量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約60%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、44nsであった。
【0107】
また、得られたZnSe/ZnS粒子の分散溶液を、走査型電子顕微鏡(SEM)、及びX線回折(XRD)装置を用いて測定した。
図8Aが、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定結果であり、
図8Bが
図8Aの模式図であり、
図13の実線が、X線回折(XRD)の測定結果である。SEMの結果より、粒径は約12nmであった。また、XRDの結果より、結晶は立方晶であり、最大ピーク強度がZnSeの結晶ピーク位置よりも1.1°高角側にシフトしていることがわかった。
【0108】
[実施例2]
100mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 91mgと、オレイルアミン:OLAm 4.8mLと、オクタデセン:ODE 7.75mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、150℃で5分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0109】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.285M)1.4mLを添加し、150℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(Cu2Se)を、室温まで冷却した。
【0110】
その後、Cu2Se反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 682mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 0.4mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0111】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 12mlを加えて分散させた。
【0112】
その後、ZnSe-ODE溶液12mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 682mgとトリオクチルホスフィン:TOP 5mLと、オレイルアミン:OLAm 0.5mLと、オレイン酸:OLAc 6mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、280℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0113】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約437nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
【0114】
得られた反応溶液(数ml程度)にエタノールを加えて沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0115】
ヘキサン分散したZnSeを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約37%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、13nsであった。
【0116】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)、及びX線回折(XRD)装置を用いて測定した。
図9Aが、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定結果であり、
図9Bが
図9Aの模式図であり、
図14の点線が、X線回折(XRD)の測定結果である。SEMの結果より、粒径は約6.0nmであった。また、XRDの結果より、結晶は立方晶であり、ZnSeの結晶ピーク位置と一致していることがわかった。
【0117】
上記とは別に得られたZnSe反応溶液23mlにエタノールを加えて沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させた。
【0118】
分散したZnSe-ODE溶液17.5mLに、オレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0119】
この溶液に、S-TOP溶液(1M)1mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)5mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し8回行った。
【0120】
その後、オレイン酸:OLAc 2ml加え、320℃で10分間反応させ、トリオクチルホスフィン:TOP 2ml加え、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe/ZnS)を、室温まで冷却した。
【0121】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、
図5に示すように、蛍光波長が約435nm、蛍光半値幅が約16nmである光学特性が得られた。
【0122】
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0123】
ヘキサン分散したZnSe/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約81%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、12nsであった。
【0124】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)、及びX線回折(XRD)装置を用いて測定した。
図10Aが、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定結果であり、
図10Bが
図10Aの模式図であり、
図14の実線が、X線回折(XRD)の測定結果である。SEMの結果より、粒径は約8.5nmであった。また、XRDの結果より、結晶は立方晶であり、最大ピーク強度がZnSeの結晶ピーク位置よりも0.4°高角側にシフトしていることがわかった。
【0125】
[実施例3]
100mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 91mgと、オレイルアミン:OLAm 4.8mLと、オクタデセン:ODE 7.75mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、170℃で5分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0126】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.285M)1.4mLを添加し、170℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(CuSe)を、室温まで冷却した。
【0127】
その後、Cu2Se反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 922mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 0.4mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0128】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 12mlを加えて分散させた。
【0129】
その後、ZnSe-ODE溶液 12mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 922mgとトリオクチルホスフィン:TOP 5mLと、オレイルアミン:OLAm 0.5mLと、オレイン酸:OLAc 3mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、280℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0130】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約448nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
【0131】
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0132】
ヘキサン分散したZnSeを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約6%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、25nsであった。
【0133】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)、及びX線回折(XRD)装置を用いて測定した。
図11Aが、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定結果であり、
図11Bが
図11Aの模式図であり、
図15の点線が、X線回折(XRD)の測定結果である。SEMの結果より、粒径は約8.2nmであった。また、XRDの結果より、結晶は立方晶であり、ZnSeの結晶ピーク位置と一致していることがわかった。
【0134】
上記とは別に得られたZnSe反応液 20mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させた。
【0135】
分散したZnSe-ODE溶液 17.5mLに、オレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0136】
この溶液に、DDT 0.2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 0.8mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)5mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し8回行った。
【0137】
その後、オレイン酸:OLAc 2ml加え、320℃で10分間反応させ、トリオクチルホスフィン:TOP 2ml加え、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe/ZnS)を、室温まで冷却した。
【0138】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、
図6に示すように、蛍光波長が約447nm、蛍光半値幅が約14nmである光学特性が得られた。
【0139】
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0140】
ヘキサン分散したZnSe/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約62%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、16nsであった。
【0141】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)、及びX線回折(XRD)装置を用いて測定した。
図12Aが、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定結果であり、
図12Bが
図12Aの模式図であり、
図15の実線が、X線回折(XRD)の測定結果である。SEMの結果より、粒径は約9.8nmであった。また、XRDの結果より、結晶は立方晶であった。
図16に
図15の最大ピーク強度を拡大した結果を示す。これより最大ピーク強度がZnSeの結晶ピーク位置よりも0.1°高角側にシフトしていることがわかった。
【0142】
[実施例4]
100mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 91mgと、オレイルアミン:OLAm 4.8mLと、オクタデセン:ODE 7.75mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、150℃で5分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0143】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.285M)1.4mLを添加し、150℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。
【0144】
この溶液に、0.5M TeのTOP溶液0.1mLと、0.1M SeのODE溶液 2.5mLの混合液を1分間かけて滴下した。その後、150℃で30分間攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(CuSeTe)を、室温まで冷却した。
【0145】
その後、CuSeTe反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 682mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 0.4mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。
【0146】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 12mlを加えて分散させた。
【0147】
その後、ZnSeTe-ODE溶液 12mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 922mgとトリオクチルホスフィン:TOP 5mLと、オレイルアミン:OLAm 0.5mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSeTe)を、室温まで冷却した。
【0148】
得られたZnSeTe反応液 8.7mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 8.75mlを加えて分散させた。
【0149】
分散したZnSeTe-ODE溶液 8.75mLに、オレイン酸:OLAc 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0150】
この溶液に、Se-TOP溶液(1M)0.25mLとオレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)2.5mLの混合液を0.25mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し6回行った後、室温まで冷却した。
【0151】
得られたZnSeTe/ZnSe反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約461nm、蛍光半値幅が約24nmである光学特性が得られた。
【0152】
[実施例5]
100mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 91mgと、オレイルアミン:OLAm 4.8mLと、オクタデセン:ODE 7.75mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、180℃で5分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0153】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.285M)1.4mLを添加し、180℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。
【0154】
この溶液に、0.5M TeのTOP溶液0.1mLと、0.1M SeのODE溶液 1.35mLの混合液を1分間かけて滴下した。その後、180℃で20分間攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(CuSeTe)を、室温まで冷却した。
【0155】
その後、CuSeTe反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 682mgとトリオクチルホスフィン:TOP 7.5mLと、オレイルアミン:OLAm 0.25mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。
【0156】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 12mlを加えて分散させた。
【0157】
その後、ZnSeTe-ODE溶液 12mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 682mgとトリオクチルホスフィン:TOP 7.5mLと、オレイルアミン:OLAm 0.25mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSeTe)を、室温まで冷却した。
【0158】
得られたZnSeTe反応液 10mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 8.75mlを加えて分散させた。
【0159】
分散したZnSeTe-ODE溶液 8.75mLに、オレイン酸:OLAc 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0160】
この溶液に、Se-TOP溶液(1M)0.25mLとオレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)5mLの混合液を2.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し4回行った後、室温まで冷却した。
【0161】
得られたZnSeTe/ZnSe反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約479nm、蛍光半値幅が約23nmである光学特性が得られた。
【0162】
実施例1~5を、以下の表1にまとめると、CuSeまたはCuSeTeの合成条件を変更することで蛍光半値幅を25nm以下で、かつ蛍光波長を410nmから490nm(好ましくは420nmから480nm)の範囲内で制御することができた。
【0163】
【0164】
実施例1~3は、反応温度や時間を増やすことで、Cu2Seの粒子を大きくして蛍光波長を制御することができた。しかしながら、450nm以上の蛍光波長を、ZnSeコアで実現することは困難であった。そこで、CuSeTeを合成してからカチオン交換にてZnSeTeを合成し、460nm台や470nm台の蛍光波長を有する蛍光粒子を作成することができた。
【0165】
実施例4、5のZnSeTe量子ドットの特徴点は、蛍光半値幅が25nm以下で、蛍光波長が420nm~480nmの範囲内で制御可能であるということである。
【0166】
なお、ZnとSeとTeとを直接反応させて得られたZnSeTe量子ドットは、従来より知られており、蛍光半値幅が25nm以上であった。
【0167】
実施例3(後述の実施例7、8も同様に)は、蛍光波長が447nmであり、450nm付近を確保でき、且つ、高い蛍光量子収率を得ることができた。ZnSeを直接合成法で生成すると、粒子が大きくなり内部に欠陥が生じやすくなり、蛍光量子収率が低下しやすい。それに対し、実施例3では高い蛍光量子収率を確保することができる。
【0168】
実施例3~5の結果は、いずれもカチオン交換ならではの結果であると推測される。
【0169】
[実施例6]
100mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 182mgと、オレイルアミン:OLAm 4.8mLと、オクタデセン:ODE 7.75mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、165℃で5分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0170】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.7M)1.14mLを添加し、165℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(Cu2Se)を、室温まで冷却した。
【0171】
その後、Cu2Se反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 1844mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 0.4mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で45分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0172】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 12mlを加えて分散させた。
【0173】
その後、ZnSe-ODE溶液 12mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 1844mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 1mLと、オレイン酸:OLAc 6mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、280℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0174】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約447.5nm、蛍光半値幅が約14nmである光学特性が得られた。
【0175】
得られたZnSe反応液 20mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させた。
【0176】
分散したZnSe-ODE溶液 17.5mLに、オレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0177】
この溶液に、Se-TOP溶液(1M)0.5mLと、DDT 0.125mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 0.375mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)5mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し4回行った。
【0178】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させ、先程同様にオレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0179】
この溶液に、DDT 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)10mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
【0180】
(A) その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させ、先程同様にオレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0181】
(B) この溶液に、DDT 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)10mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し6回行った。その後、320℃で30分間攪拌しつつ加熱した。
【0182】
以降、この反応溶液は、上記(A)と(B)の洗浄方法と被覆方法の操作を3回繰り返して、最終的に目的物である反応溶液(ZnSe/ZnS)を得て、室温まで冷却した。
【0183】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約444nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
【0184】
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0185】
ヘキサン分散したZnSe/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約62%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、15nsであった。
【0186】
[実施例7]
100mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 182mgと、オレイルアミン:OLAm 4.8mLと、オクタデセン:ODE 7.75mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、165℃で5分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0187】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.7M)1.14mLを添加し、165℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(Cu2Se)を、室温まで冷却した。
【0188】
その後、Cu2Se反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 1844mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 0.4mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で45分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0189】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 12mlを加えて分散させた。
【0190】
その後、ZnSe-ODE溶液 12mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 1844mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 1mLと、オレイン酸:OLAc 6mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、280℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0191】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約447.5nm、蛍光半値幅が約14nmである光学特性が得られた。
【0192】
得られたZnSe反応液 20mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させた。
【0193】
分散したZnSe-ODE溶液 17.5mLに、オレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0194】
この溶液に、Se-TOP溶液(1M)0.5mLと、DDT 0.125mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 0.375mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)5mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し4回行った。
【0195】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させ、先程同様にオレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0196】
この溶液に、DDT 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)10mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
【0197】
(C) その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させ、先程同様にオレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0198】
(D) この溶液に、DDT 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)10mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し6回行った。その後、320℃で30分間攪拌しつつ加熱した。
【0199】
以降、この反応溶液は、上記(C)と(D)の洗浄方法と被覆方法の操作を2回繰り返した。
【0200】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させ、先程同様にオレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0201】
この溶液に、DDT 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.4M)10mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し6回行った。その後、320℃で30分間攪拌しつつ加熱した。
【0202】
(E) この溶液に、DDT 0.25mLとTOP 0.75mLと0.4MのZnBr2のオレイン酸・TOP溶液 5mLの混合液を1.0mL添加し、320℃で10分間加熱した。最終的に目的物である反応溶液(ZnSe/ZnS)を得て、室温まで冷却した。
【0203】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約444nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
【0204】
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0205】
ヘキサン分散したZnSe/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約76%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、17nsであった。元素分析(EDX)の結果、Zn:53
atom% Se:16atom% S:23atom% Br:1 atom%
【0206】
[実施例8]
[実施例7]の(E)のZnBr2をZnCl2に変更した以外、同様の操作を行い得られたZnSe/ZnSの蛍光量子収率は80%であった。
【0207】
[実施例9]
[実施例7]の(E)のZnBr2をZnI2に変更した以外、同様の操作を行い得られたZnSe/ZnSの蛍光量子収率は69%であった。
【0208】
実施例7~実施例9は、445nmのZnSeコアに対して、ZnSを被覆したあとに、ハロゲン化亜鉛を含む溶液を添加することで、実施例6に対し、蛍光量子収率が7%から18%程度、向上することを見出した(下記、表2参照)。また、実施例7にて得られたQDを洗浄した後に組成分析した結果、臭素(Br)が検出されていることから、表面にハロゲンが修飾しており、その効果によって、蛍光量子収率が向上したものと考えられる。
【0209】
【0210】
[比較例1]
100mL反応容器に、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2-ODE溶液(0.4M)0.833mLと、Se-ODE溶液(0.1M)10mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下、280℃で35分間攪拌しつつ加熱した。
【0211】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約455.0nm、蛍光半値幅が約45.2nmである光学特性が得られた。
【0212】
[比較例2]
300mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc)2 182mgと、オレイルアミン:OLAm 7.75mLと、オクタデセン:ODE 4.8mLを入れた。そして、不活性ガス(N2)雰囲気下で、150℃で10分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0213】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.285M)2.8mLを添加し、150℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(CuSe)を、室温まで冷却した。
【0214】
その後、CuSe反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)20.682gと、トリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 0.4mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0215】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 24mlを加えて分散させた。
【0216】
その後、ZnSe-ODE溶液 24mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc)2 0.682gとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 1mLを入れ、不活性ガス(N2)雰囲気下にて、180℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0217】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約438.5nm、蛍光半値幅が約13nmである光学特性が得られた。
【0218】
得られた反応溶液を、量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約11%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、43nsであった。
【0219】
上記のZnSe反応液20mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させた。
【0220】
分散したZnSe-ODE溶液17.5mLを不活性ガス(N2)雰囲気下にて、310℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。
【0221】
この溶液に、S-TOP溶液(2.2M)0.73mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)2溶液(0.8M)3.63mLの混合液を0.545mL添加し、310℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し8回行った。得られた反応溶液(ZnSe/ZnS)を、室温まで冷却した。
【0222】
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0223】
ヘキサン分散したZnSe/ZnSを蛍光分光計で測定した。その結果、
図4に示すように、蛍光波長が約437.5nm、蛍光半値幅が約13.8nmである光学特性が得られた。
【0224】
同様の溶液を、量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約33%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、44nsであった。
【0225】
また実施例1の最適被覆添加回数を、被覆添加回数と蛍光寿命の変化から想定する実験を行った。その結果を下記の表3に示す。
【0226】
【0227】
これより最適被覆添加回数は、蛍光量子収率が高く且つ蛍光寿命が短い6~8回であると予想できる。これは被覆方法によっても異なるが、粒径サイズから確認するといずれの材料でも同様の傾向がある。このように、最も蛍光量子効率が高く、蛍光寿命が短いときの被覆厚み(粒子サイズ)が最大になるように、本実施例はいずれも検討している。
【0228】
また、上記実験での実施例1及び比較例2は、シェル(ZnS)を被覆する際、硫黄源に、S-TOPを使用している。このとき、粒径の小さい(蛍光波長が短い)実施例1のZnSeには有効であったが、ZnSeの蛍光波長が約440nmの比較例2には適しておらず、粒子形状が悪くなり、また、被覆後の蛍光量子収率も低くなることがわかった。
【0229】
これに対し、実施例6では、硫黄源をDDTに変更した。これにより、蛍光波長が440nm以上で良好な蛍光収率及び粒子形状を維持でき、ZnSを被覆できることがわかった。以下の表4に上記内容をまとめた。
【0230】
【0231】
以上の実験結果から、各実施例では、量子ドットの粒径を、5nm以上20nm以下の範囲内にて調整できることがわかった。また、各実施例では、蛍光量子収率が5%以上であり、蛍光半値幅が、25nm以下であることがわかった。また、蛍光寿命を、50ns以下にすることができた。また、蛍光波長を、410nm以上490nm以下の範囲で調整できることがわかった。また、Znと、Seと、Sからなるコアシェル構造においては、XRDにおける最大強度ピーク位置が、ZnSeコア単体での結晶ピークより0.05°~1.2°高角側にあることがわかった。
【0232】
この高角側へのピークシフトからZnSeコアにZnSを被覆することで、格子定数が変化したことがわかる。更に、このピークシフト量とZnS被覆量が比例していることも本結果から見出されている。また、今回の結果ではXRDの位置は限りなくZnSのピーク位置に近いが、青色(430~455nm)発光していることから、コアはZnSeであり、その上にZnSが被覆されていると考えられる。
【0233】
すなわち、ZnSeコアからのピークシフトと青色発光より、Znと、Seと、Sからなるコアシェル構造であると推測することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0234】
本発明によれば、青色蛍光を発する量子ドットを安定して得ることができる。そして本発明の量子ドットを、LEDやバックライト装置、表示装置等に適用することで、各装置において優れた発光特性を得ることができる。
【0235】
本出願は、2019年9月20日出願の特願2019-170996、及び、2020年2月17日出願の特願2020-024688に基づく。この内容は全てここに含めておく。