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特許7593140情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20241126BHJP
   H02J 3/24 20060101ALI20241126BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/24
H02J13/00 301A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021010133
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114035
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2023-11-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代電力ネットワーク安定化技術開発/研究開発項目[1]-2 慣性力等の低下に対応するための基盤技術の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】片岡 良彦
(72)【発明者】
【氏名】大原 尚
(72)【発明者】
【氏名】里 悠太
(72)【発明者】
【氏名】保坂 直貴
(72)【発明者】
【氏名】草柳 儀隆
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】西川 倫太郎 三谷 康範 渡邊 政幸 玉木 貴裕,位相・潮流情報を用いた系統慣性推定における位相観測地点決定手法,2020年度電気・情報関係学会九州支部連合大会,日本,電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会,2020年09月27日,p.189-190
【文献】網分 智則 上田 圭祐 三谷 康範,多地点位相計測による系統間動揺周波数解析に基づく電力系統の地域慣性推定手法,電気学会研究会資料,分冊4,日本,一般社団法人電気学会,2018年09月27日,p.53-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/24
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する制御部を備え
前記制御部は、前記慣性比として、前記交流連系系統の動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用い、
前記制御部は、前記慣性の大きさに関する前記部分的情報の一つあたり、同定した前記システム行列の一部と、同定した少なくとも一つの潮流感度ベクトルから得る、
情報処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記システム行列を、常時の位相角と回転速度との少なくとも一つの、一定期間の記録を用いて同定する、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記一つの潮流感度ベクトルを、常時の位相角と回転速度との少なくとも一つと、電力値又はそれに準ずる計測値の少なくとも一つとについて、これら両方の一定期間の記録を用いて同定する、
請求項又は請求項に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、同定に用いる測定量の少なくとも一つに、HPF又はBPFを適用する、
請求項から請求項のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、同定した前記システム行列の一部と、それを構成する潮流感度行列の一般的特徴に基づいて、前記システム行列から前記慣性比を推定し、
前記潮流感度行列の一般的特徴は、前記潮流感度行列の各列の合計が0であるという特徴、又は、前記潮流感度行列が対称行列であるという特徴の少なくとも一つであり、
前記制御部は、推定した前記慣性比に関する情報と、前記慣性の大きさに関する前記部分的情報の少なくとも一つの情報に基づいて、前記慣性を推定する、
請求項から請求項のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記発電機別の前記慣性を推定するための件の成立度合いを全ての前記発電機について含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、前記発電機別の前記慣性を推定する、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記位相角及び前記回転速度として、前記交流連系系統にある個別の発電機の位相角及び回転速度、又は、複数の発電機を含む部分系統の代表的な位相角及び周波数のうちの少なくとも一方を用いる、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記システム行列の同定において、前記慣性の推定精度の向上を目的として、数値的な指標値に基づいて、互いの一定時間内のコサイン類似度あるいは相関係数が一定値以上である2以上の計測値のうちの1以上を除外する、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する制御部を備え
前記制御部は、前記発電機別の前記慣性を推定するための条件の成立度合いを全ての前記発電機について含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、前記発電機別の前記慣性を推定する、
情報処理装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記慣性比として、前記交流連系系統の動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用いる、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する、情報処理方法であって、
前記慣性比として、前記交流連系系統の動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用い、
前記慣性の大きさに関する前記部分的情報の一つあたり、同定した前記システム行列の一部と、同定した少なくとも一つの潮流感度ベクトルから得る、
情報処理方法。
【請求項12】
交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する、情報処理方法であって、
前記発電機別の前記慣性を推定するための条件の成立度合いを全ての前記発電機について含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、前記発電機別の前記慣性を推定する、
情報処理方法。
【請求項13】
コンピュータに、
交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定するステップ、
を実行させるためのプログラムであって、
前記慣性比として、前記交流連系系統の動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用い、
前記慣性の大きさに関する前記部分的情報の一つあたり、同定した前記システム行列の一部と、同定した少なくとも一つの潮流感度ベクトルから得る、
プログラム。
【請求項14】
コンピュータに、
交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定するステップ、
を実行させるためのプログラムであって、
前記発電機別の前記慣性を推定するための条件の成立度合いを全ての前記発電機について含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、前記発電機別の前記慣性を推定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
交流連系系統の系統慣性を推定する技術についての研究、開発が行われている。交流連系系統は、1つ以上の発電機を含み、これら1つ以上の発電機による同期発電が行われる交流電力系統のことである。また、交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体(すなわち、発電機の回転子、タービン等)の慣性モーメントの総和のことである。
【0003】
ここで、交流連系系統では、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体は、全て同期回転し、系統周波数として1つの周波数を作る。このため、交流連系系統における発電機の脱落等によって交流連系系統の系統慣性が変化すると、系統周波数が動揺する。系統周波数の動揺は、交流連系系統による電力の供給品質や,発電機同士の同期の安定性に影響を与えることがある。従って、交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統による電力の安定供給の観点から、常に一定値以上であることが求められている。このような事情から、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定することが望まれることも少なくない。
【0004】
例えば、電力系統により供給される電力の周波数の安定性は、当該電力系統に連系し、互いに同期して運転している発電機及び電源の慣性の合計に依存しており、主に同期発電機の慣性により維持されていた。
ところが、近年、再生可能エネルギー電源が半導体を用いて構成された電力変換器を介して電力系統に連系されるケースが増加している。このような電力変換器は慣性を持たないため,このようなケースでは系統慣性は減少することとなる。また、電力系統に連系する発電機及び電源の数の増加、及び電力自由化により、個々の発電機及び電源の諸元あるいは運転状況を一元的に把握することが困難なケースも増加している。
【0005】
したがって、電力系統により供給される電力の周波数の維持に使用する目的で当該電力系統に連系している発電機及び電源の慣性の合計を推定する技術が注目を集めている。このような技術の一例としては、非特許文献1に開示されている慣性推定方法が挙げられる(非特許文献1参照。)。
【0006】
なお、非特許文献2には、RoCoF(Rate of Change of Frequency)法が記載されている(非特許文献2参照。)。
また、非特許文献3には、電力システム同定による電力動揺モードの推定が記載されている(非特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Davide del Giudice and Samuele Grillo,“Analysis of the Sensitivity of the Extended Kalman Filter-Based Inertia Estimation Method to the Assumed Time of Disturbance”,Energies 12,483(2019).
【文献】「実測結果に基づく系統周波数特性の推定手法の開発」、電力中央研究所報告、研究報告:T94016、平成7年5月
【文献】平岩、他、“擬似負荷モデルを導入した電力システム同定による電力動揺モードの推定”、IEEJ Trans. PE, Vol.127, No.3, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載された慣性推定方法は、電力系統から大規模な発電機が脱落した場合等のような異常時に発生する大きな周波数の変動を使用して慣性を推定するものであるため、正常時における電力系統の系統慣性を推定することができなかった。
また、電力系統の系統慣性の推定に限られず、電力系統の慣性比の推定が有用である場合も考えられる。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、異常時における電力系統の慣性に関する値だけではなく、正常時における電力系統の慣性に関する値も推定することができる情報処理装置、情報処理方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一構成例として、交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する制御部を備え、前記制御部は、前記慣性比として、前記交流連系系統の動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用い、前記制御部は、前記慣性の大きさに関する前記部分的情報の一つあたり、同定した前記システム行列の一部と、同定した少なくとも一つの潮流感度ベクトルから得る、情報処理装置である。
一構成例として、交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する制御部を備え、前記制御部は、前記発電機別の前記慣性を推定するための条件の成立度合いを全ての前記発電機について含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、前記発電機別の前記慣性を推定する、情報処理装置である。
【0011】
一構成例として、交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する、情報処理方法であって、前記慣性比として、前記交流連系系統の動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用い、前記慣性の大きさに関する前記部分的情報の一つあたり、同定した前記システム行列の一部と、同定した少なくとも一つの潮流感度ベクトルから得る、情報処理方法である。
一構成例として、交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定する、情報処理方法であって、前記発電機別の前記慣性を推定するための条件の成立度合いを全ての前記発電機について含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、前記発電機別の前記慣性を推定する、情報処理方法である。
【0012】
一構成例として、コンピュータに、交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定するステップ、を実行させるためのプログラムであって、前記慣性比として、前記交流連系系統の動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用い、前記慣性の大きさに関する前記部分的情報の一つあたり、同定した前記システム行列の一部と、同定した少なくとも一つの潮流感度ベクトルから得る、プログラムである。
一構成例として、コンピュータに、交流連系系統を構成する各発電機の回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機別の慣性を推定するステップ、を実行させるためのプログラムであって、前記発電機別の前記慣性を推定するための条件の成立度合いを全ての前記発電機について含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、前記発電機別の前記慣性を推定する、プログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る情報処理装置、情報処理方法及びプログラムによれば、異常時における電力系統の慣性に関する値だけではなく、正常時における電力系統の慣性に関する値も推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理システムの概略的な構成を示す図である。
図2】情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】情報処理装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る慣性比推定の概略を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る慣性推定の概略を示す図である。
図6】本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る検証モデルの一例を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る慣性比推定(HPF-1)の検証結果を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る慣性推定(HPF-2)の検証結果を示す図である。
図9】イベント発生時刻の前後における代表地点の系統周波数の時間的な変化の一例を示す図である。
図10】グラフ上にフィッティング関数を重畳させた図である。
図11】イベント発生時刻の前後における代表地点の電力の時間的な変化の一例を示す図である。
図12】グラフ上にフィッティング関数を重畳させた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
なお、以下では、ある地点において測定された電力の周波数と称した場合、当該地点において測定された電圧の周波数、又は、当該地点において測定された電流の周波数のことを意味する。
【0016】
また、以下では、数式において文字の修飾(例えば、太字)を行うが、当該文字を文章中で引用する場合には当該修飾を省略する。文字の修飾を除いて、数式における文字(又は、文字列)と文章中で引用する文字(又は、文字列)とを一致させて説明する。
【0017】
[情報処理システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る情報処理システム1の概略的な構成を示す図である。
情報処理システム1は、交流連系系統の系統慣性に関する値を推定する。交流連系系統の系統慣性に関する値としては、例えば、系統慣性そのものの値、あるいは、慣性比の値がある。
【0018】
ここで、交流連系系統は、1つ以上の発電機を含み、これら1つ以上の発電機による同期発電が行われる交流電力系統のことである。例えば、日本における中部、北陸、関西、中国、四国、九州から成る範囲の交流電力系統(中西系統と呼ばれることがある)は、交流連系系統の一例である。交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体(すなわち、発電機の回転子、タービン等)の慣性モーメントの総和のことである。以下では、一例として、情報処理システム1が、図1に示した交流連系系統Rの系統慣性に関する値を推定する場合について説明する。
【0019】
交流連系系統Rは、1つ以上の発電機として、発電機PP1~発電機PPzのz(zは2以上の整数)個の発電機を含む。交流連系系統Rでは、これらz個の発電機PP1~PPzによる同期発電が行われる。また、交流連系系統Rでは、これらz個の発電機PP1~PPzのそれぞれの回転体は、全て同期回転し、系統周波数として1つの周波数を作る。
ここで、図1の例では、4つ以上の発電機PP1~発電機PPzを図示してあるが、zは、1、2、3のいずれかの値であってもよい。また、zは4以上の任意の値であってもよい。
【0020】
以下では、説明の便宜上、これらz個の発電機PP1~PPzのそれぞれの回転体が作る系統周波数を、単に系統周波数と称して説明する。
ここで、系統周波数は、回転体の回転についての周波数であるが、交流連系系統Rに含まれる地点のうち系統周波数が測定される地点において測定される電力の周波数と実用上等価であることが知られている。このため、系統周波数の測定は、当該電力の周波数を測定することによって行われる。すなわち、系統周波数は、交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数の一例である。
なお、交流連系系統Rには、これらz個の発電機PP1~PPzに加えて、変電所等の他の設備が含まれている。しかしながら、図1では、図を簡略化するため、当該他の設備の図示が省略されている。
【0021】
発電機PP1~発電機PPzのそれぞれは、例えば、火力発電、水力発電、原子力発電、太陽光発電、地熱発電、潮力発電等により電力の供給を行う発電機である。発電機PP1~発電機PPzのうちの一部又は全部は、互いに同じ種類の発電により電力の供給を行う発電機であってもよく、互いに異なる種類の発電により電力の供給を行う発電機であってもよい。
【0022】
情報処理システム1は、測定装置10と、z個の測定装置PQ1~PQzと、情報処理装置20と、を備える。
z個の測定装置PQ1~PQzのそれぞれは、z個の発電機PP1~PPzのそれぞれに設けられている。
測定装置10及び測定装置PQ1~PQzは、それぞれ、無線又は有線により、情報処理装置20と通信可能に接続される。
【0023】
ここで、例えば、測定装置10による測定結果は、RoCoF法を使用する場合に用いられる。このため、情報処理システム1において、RoCoF法が使用されない場合には、測定装置10は備えられなくてもよいが、本実施形態では、情報処理システム1の一構成例として、測定装置10についても説明する。
なお、情報処理システム1に測定装置10が備えられない場合には、情報処理装置20などにおいて測定装置10による測定結果に関する処理は行われない。
【0024】
測定装置10は、交流連系系統R内の予め決められた代表地点に設けられる。代表地点は、交流連系系統Rに含まれる地点のうち、系統周波数を測定可能な地点であれば、如何なる地点であってもよい。ここで、系統周波数は、交流連系系統Rに含まれる地点のうち系統周波数が測定される地点において測定される電力の周波数として測定される。このため、代表地点は、交流連系系統Rにより供給される電力を測定可能な地点と換言することができる。例えば、代表地点は、交流連系系統R内に含まれる変電所等である。
なお、以下では、説明の便宜上、代表地点において測定装置10により測定された物理量Xを、代表地点の物理量Xと称して説明する。物理量Xは、例えば、系統周波数、電力、電圧、電流、位相角等のことである。
【0025】
測定装置10は、代表地点の時刻毎の系統周波数と、代表地点の時刻毎の電力に応じた値(例えば、電圧、電流、位相角、及び電力そのもの等)とを測定する。測定装置10は、例えば、PMU(Phasor Measurement Unit)である。
【0026】
一般に、PMUは、地点毎のphasor(電圧と位相角)と周波数、オプションで電流や電力等を、GPSベースのタイムスタンプを付けて計測(記録、送信)する、標準化された安価な計測装置である。これにより、地点別の周波数や位相角、連系線潮流の記録を、時刻同期した形で中央で監視や分析することなどが可能である。
【0027】
それぞれの測定装置PQ1~PQzは、それぞれの発電機PP1~PPzの位相及び周波数を測定する。
それぞれの測定装置PQ1~PQzは、例えば、PMUである。
【0028】
情報処理装置20は、時刻毎に測定装置10により測定された情報を、測定装置10から取得する。情報処理装置20は、取得した情報を時刻毎に記憶する。
情報処理装置20は、時刻毎にそれぞれの測定装置PQ1~PQzにより測定された情報を、それぞれの測定装置PQ1~PQzから取得する。情報処理装置20は、取得した情報を時刻毎に記憶する。
【0029】
情報処理装置20は、例えば、ワークステーション、デスクトップPC(Personal Computer)、ノートPC等である。なお、情報処理装置20は、これらに代えて、タブレットPC、多機能携帯電話端末(スマートフォン)、携帯電話端末、PDA(Personal Digital Assistant)等であってもよい。
【0030】
[情報処理装置]
図2は、情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
情報処理装置20は、例えば、プロセッサー21と、記憶部22と、入力受付部23と、通信部24と、表示部25と、を備える。これらの構成要素は、バスを介して相互に通信可能に接続されている。また、情報処理装置20は、通信部24を介して測定装置10及び測定装置PQ1~PQzと通信を行う。
【0031】
プロセッサー21は、情報処理装置20の全体を制御する。プロセッサー21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。なお、プロセッサー21の機能部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等を用いて構成されてもよい。プロセッサー21は、記憶部22に格納された各種のプログラムを実行する。
【0032】
記憶部22は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部22は、情報処理装置20に内蔵されるものに代えて、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。記憶部22は、情報処理装置20が処理する各種の情報、各種の画像、各種のプログラム等を格納する。
【0033】
入力受付部23は、キーボード、マウス、タッチパッド等の入力装置である。なお、入力受付部23は、表示部25と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。
【0034】
通信部24は、例えば、アンテナ、USB等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等を含んで構成される。
【0035】
表示部25は、例えば、液晶ディスプレイパネル、あるいは、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイパネル等を含む表示装置である。
【0036】
図3は、情報処理装置20の機能構成の一例を示す図である。
情報処理装置20は、記憶部22と、入力受付部23と、通信部24と、表示部25と、制御部26と、を備える。
【0037】
制御部26は、情報処理装置20の全体を制御する。制御部26は、例えば、取得部261と、推定部262と、表示制御部263と、記憶制御部264と、を備える。制御部26が備えるこれらの機能部は、例えば、プロセッサー21が、記憶部22に記憶された各種のプログラムを実行することにより実現される。また、当該機能部のうちの一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア機能部であってもよい。
【0038】
取得部261は、各種の情報を取得する。例えば、取得部261は、測定装置10及び測定装置PQ1~PQzから情報を取得する。
【0039】
推定部262は、各種の推定を行う。例えば、推定部262は、交流連系系統Rの慣性に関する値を推定する。
【0040】
表示制御部263は、各種の画像を生成する。表示制御部263は、生成した画像を、表示部25に表示させる。
【0041】
記憶制御部264は、取得部261により取得された各種の情報を、記憶部22に記憶させる。
【0042】
[系統慣性の定義とその推定の概要]
一般に連系系統内の同期機の回転体は全て同期回転し、ひとつの周波数を作っている。よってこれら回転体の運動エネルギーをまとめて捉えることで、系統全体の慣性を考えることができる。ここでは慣性を,慣性モーメントや単位慣性定数ではなく、運動エネルギーとして推定する。例えば系統に回転体が一つだけ存在する場合、その運動エネルギーE(単位[J]又は[WS])は式(1)で表される。
【0043】
【数1】
【0044】
ここにJは回転体の慣性モーメント[kgm]、ωは回転速度[rad/s]である。系統の周波数は概ね一定に制御されており、ωの変化は大規模外乱時を含め概ね1%未満である。よって運動エネルギーの変化もその程度にとどまる。よって電力系統においては回転体の運動エネルギーの推定と、慣性モーメントJの推定は、対象の数値は異なるものの意味的には概ね同義である。回転体が複数ある一般的な場合、系統全体の運動エネルギーは個々の運動エネルギーの単純な和である。以下、系統全体の(公称周波数時の)運動エネルギーEsys[Ws]を便宜上、系統慣性と呼び、これに関する値を推定の対象とする。
【0045】
【数2】
【0046】
式(2)のωを変数に戻し、Esysを変数とした上で両辺をtで微分する。
dEsys/dt=ΔP、ΔP=P-Pなる関係を参照して式(3)を得る。
【0047】
【数3】
【0048】
は回転体への機械入力であり、Pは電気出力であり、ΔPはそれらの差である。式(3)は回転系の運動方程式である(厳密には両辺をωで割ったものが運動方程式であるが、等価である)。これらの式からJを消去すると、式(4)となる。
【0049】
【数4】
【0050】
前述のとおり回転速度ωの変化は小さいため、数式の形式上係数として作用するものは公称回転速度ωに再び置き換えた。次に、式(5)が成り立ちすなわち回転速度が電圧の周波数と同等と仮定すれば,周波数を用いて記述した系統大の動揺方程式として式(6)を得る。
【0051】
【数5】
【0052】
【数6】
【0053】
[HPF手法の例]
HPF手法の一例を、HPF手法0と呼んで、示しておく。
HPF手法0は、機械入力Pの変化の影響を、RoCoF法が時間領域で検討対象時間を限定することで回避するのに対して、HPF(ハイパスフィルタ)で除去しようとするものである。
慣性を推定するためには外乱が必要である。HPF手法0では原則として常時の負荷変動を外乱として活用する。
【0054】
HPF手法0の基本数式モデルを説明する。
系統大の動揺方程式である式(6)がベースとなる。
一度両辺をラプラス変換した上で(ただし初期値項は省略する)、両辺にHPFを適用する。
【0055】
【数7】
【0056】
これにより式(8)を得る。
【0057】
【数8】
【0058】
まず、機械入力の変化が周波数や有効電力の変化に比べて十分に遅いとすれば、HPFを適当なものとすることで式(9)とすることができる。すると式(10)となる。
【0059】
【数9】
【0060】
【数10】
【0061】
周波数と電気出力についてはHPFの適用で高速変化分だけが抽出されることから、これらを式(11)及び式(12)と記載すると、式(13)が得られる。
【0062】
【数11】
【0063】
【数12】
【0064】
【数13】
【0065】
これを時間領域に戻すと式(14)となる。
【0066】
【数14】
【0067】
目的はb=f/2Esysを推定することである。式(14)の左辺にある微分値としてPMUから出力されるものをそのまま、又はPMUから出力される周波数を数値微分して用い、比例定数bを推定する手法や、式(14)を状態方程式と捉えて拡張カルマンフィルタを構成し,係数bを推定する手法が知られている。
【0068】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。
本実施形態に係るHPF手法を、HPF-1と呼んで、説明する。
【0069】
[HPFを用いた慣性比の推定]
図4は、本発明の第1実施形態に係る慣性比推定の概略を示す図である。
情報処理装置20は、発電機PP1~PPz別の測定装置PQ1~PQzによる発電機PP1~PPz別の位相角と周波数(又は、周波数の代わりに、回転速度など)の計測結果に基づいて、複数の発電機PP1~PPzの慣性比を推定する。情報処理装置20は、発電機PP1~PPz別の位相角と周波数を観測(測定)して、それらの常時変動から運動方程式をシステム同定し、発電機PP1~PPz別の慣性相互の比を推定する。ここで、位相角と周波数としては、例えば、一定期間の情報(記録された値)が用いられる。
この際、情報処理装置20は、全ての発電機PP1~PPzについて、発電機PP1~PPz別の位相角及び周波数に対してHPFにより電力系統の周波数維持のために設けられている周波数フィードバック制御装置(例えば、速度ガバナ、LFC)の効果を取り除く。なお、これら制御装置の目的は次に述べるように周波数維持であるため制御結果を効果と呼んだが、慣性推定の立場からはこれら制御装置は推定を難しくする要因であることから影響と呼ぶべきものである。
【0070】
なお、ガバナは、回転機の回転速度を一定に保つための制御装置である。
また、LFC(Load Frequency Control)は、負荷周波数制御である。
また、常時変動は、例えば、特別なイベントが無く、需要家における負荷機器のオン/オフにおさまるものである。需要は、需要家の意思で任意に変わるため、常に変動している。本実施形態では、需要変動は正規分布に従う(小さい変動は頻繁に、大きい変動はまれに、それぞれ起こる)としている。
Δpは、タービンを回そうとする蒸汽の仕事率や水車を回そうとする水流の仕事率なので、直接的には計測できず、またゆっくり変化する。
【0071】
ここで、図4において、太字小文字は要素数が発電機数に等しいベクトルである。ベクトル間感度は行列になる。図4において、太線の経路は要素数が発電機数に等しいベクトルに相当する。
情報処理装置20は、常時変動から、式(15)の感度として式(16)の行列Lを最小二乗推定する。
【0072】
【数15】
【0073】
【数16】
【0074】
式(16)において、Kは同期化力行列(又は、潮流感度行列)であり、Kの一般的条件からJの要素比(慣性比)を推定する。
ここで、Kの一般的条件としては、例えば、列合計0条件(各列の合計が0であるという条件)と、対称性条件(対称行列であるという条件)とのうちの少なくとも一方の条件である。
行列Kのこれら2つの条件(性質)のいずれを使用するかは、例えば、ユーザーによって選択される。
Jは慣性モーメントであり、Jにω /2を掛ければエネルギーになる。
【0075】
なお、推定した一連の行列から固有値を算出し定態安定度の推定が行われてもよい。なお、常時変動から固有値を推定する手法は公知である(非特許文献3参照。)。
【0076】
<行列Kの条件「列合計値=0」>
微小変動分(高周波分)に関する潮流方程式は、式(17)となる。
Δpは各発電機PP1~PPzの電気出力であり、Δδは各発電機PP1~PPzの位相角である。
【0077】
【数17】
【0078】
Δpの要素合計(発電電力変動合計)は0である。ここでは、負荷変動が零で初期外乱のみがある場合を考えている。
すなわち、式(17)の左から1の並んだ行ベクトルを掛けると両辺は0である。
【0079】
【数18】
【0080】
初期外乱により様々に動くΔδに対して式(18)が常に成立するためには式(19)が成り立つ。
【0081】
【数19】
【0082】
式(19)は、Kの列合計がそれぞれ0であることを示している。
【0083】
<行列Kの条件「Kの対称性」>
2台の発電機A、Bを考えたとき、次の2つの量は等しいのでKは対称となる。
1つ目の量は、発電機Aの位相角だけが小さく変化したときの、発電機Bから発電機Aへの潮流変化であり、2つ目の量は、発電機Bの位相角だけが小さく(上記と同量)変化したときの、発電機Aから発電機Bへの潮流変化である。
そこで、潮流感度行列Kの対称性の度合いを数値的に指標化し、その指標値を最適化することで、慣性比を推定する手法を用いることができる。
【0084】
<行列Lの非対称性>
同じ条件下で、次の2つの量は慣性相違分だけ異なるので、一般にはLは非対称である。なお、角加速度は電気トルク(∝Δδ)を慣性で割ったものである。
1つ目の量は、発電機Aの位相角だけが小さく変化したときの、発電機Bの角加速度dω/dtであり、2つ目の量は、発電機Bの位相角だけが小さく(上記と同量)変化したときの、発電機Aの角加速度dω/dtである。
【0085】
式(20)が極力対称となるようなJを求めるという問題を設定することが可能である。
【数20】
【0086】
非特許文献3では、常時の位相角と回転速度だけの観測から、多機系(発電機が多数ある一般的な系統)の動揺モード(固有値)を推定している。技術的にはシステム行列(線形システムの状態空間表現dx/dt=AxにおけるA行列)の同定と同等なことが行われている。しかしながら、システム行列の中身から慣性に関する値(本実施形態では、慣性比)を分離することはできていなかった。本実施形態では、行列Kの性質に着目して当該分離を可能とした。上述のように、着目した「行列Kの性質(行列Kの条件)」には2つあり、どちらを用いても構わない。
なお、本実施形態に係るHPF-1によって、非特許文献3と同様に、システム固有値を求めることもできる。
【0087】
図4には、電力系統211と、PMU212と、HPF213、214と、推定演算部215と、を示してある。
電力系統211は、交流連系系統Rの一例である。
PMU212は、それぞれの測定装置PQ1~PQzの一例である。なお、図4では、1つのPMU212を示しているが、発電機PP1~PPz別にPMUが設けられている。
HPF213、214の機能及び推定演算部215の機能は、推定部262の機能の一例である。
【0088】
推定演算部215は、ΔωがHPF213を通過した結果と、ΔδがHPF214を通過した結果に基づいて、式(16)あるいは式(20)を用いて、慣性比を推定する。
【0089】
[慣性比の推定の詳細]
慣性比(慣性定数の比)の推定について詳しく説明する。
台の発電機の位相角と周波数が計測できたと仮定して、それらの常時変動から発電機間の慣性比を推定する。
【0090】
<動揺方程式の定式化>
まず、発電機がn台ある系統の動揺方程式(線形領域)を同定し、それをもとに慣性比の推定値を求める手順を述べる。
発電機がn台あるとする。そのうちi(i=1~n)番目の発電機の回転子の運動方程式は式(21)である(両辺の単位は[W])。
【0091】
【数21】
【0092】
式(21)において、Dは、機械ダンピング等のような当該機固有のダンピングである。回転数ω[rad/s]の変化は小さいため一部近似を行っている。一方、発電機の背後電圧が一定と仮定すれば、諸量の微小変化に対する、発電機内部インピーダンスを含めた回路網の特性は式(22)、式(23)で表される。
【0093】
【数22】
【0094】
【数23】
【0095】
×n行列K[w/rad]は、潮流方程式の線形近似に基づく定数行列である。Δδはδの微小変化量であり、ΔPe,iはPe,iの微小変化量である。すなわち回路網はノード数が発電機数に一致するように縮約されているとしている。一般に、中間母線を含む系統構成をそのまま潮流方程式でモデル化したときにはKは疎行列となる。しかし中間母線の電圧や位相角は発電機群の諸量に従属する量なので、対象の物理的特性を失うことなく、中間母線の諸量は消去することができる。上で定義したKはこのような手続きにより縮約されたものであるため密行列となる。式(23)のΔδは式(24)で決まる位相角δ[rad]の微小変化分である。
【0096】
【数24】
【0097】
以上をまとめると、微小変化について、機械入力を外部要因として記述した多機系の動揺方程式が得られる。
【0098】
【数25】
【0099】
【数26】
【0100】
【数27】
【0101】
【数28】
【0102】
式(25)~式(28)において、Δωはωの微小変化量を並べたベクトル、ΔpはPm.iの微小変化量を並べたベクトル、Iは単位行列、0は零行列であり、diag()は括弧内の要素やベクトルを対角要素に持つ対角行列である。
【0103】
<高周波成分に関する動揺方程式の導出>
ここで、諸量の高い周波数の成分だけに関わる動揺方程式を導いておく。式(25)のd/dtをラプラス演算子sに置き換え、両辺左側からハイパスフィルタ(HPF)の伝達関数HPF(s)をかけると、式(29)となる。
【0104】
【数29】
【0105】
ここで、HPF通過後の量に添え字Hをつけると、式(30)を得る。
【0106】
【数30】
【0107】
ラプラス演算子sは微分演算子d/dtに戻している。すなわち高周波成分だけに着目した場合にも、高周波の諸量はオリジナルの発電機や系統の特性を満たすものである。よって諸量の高周波成分だけから、動揺方程式を同定できる可能性がある。
一般に機械入力の変化は他の量に比べ低速であることを根拠に、Δpm,Hを含む右辺第二項が第一項より十分に小さいとしてこの項を無視すると式(31)を得る。
【0108】
【数31】
【0109】
式(31)を、高周波成分に関する動揺方程式と呼んで説明する。
実際には式(31)には負荷変動が入力となり外力として作用しており、式(32)となる。
【0110】
【数32】
【0111】
負荷変動の作用のしかたは機械入力が明示的に書かれている動揺方程式を参考にしている。ただし負荷は消去された中間母線に主に存在するため,発電機への配分を決める行列Bを形式的に加えている。高周波分だけを考慮しているため、Δpl,Hは基本的にはランダムなものであると同時に、計測は原則的に行われていない。ランダムな入力に駆動されて状態ΔωとΔδが変化する。Δpl,Hが計測されていなくてもそれが0を中心としたランダムなものであれば、計測した状態量からシステム行列等を同定できる可能性がある。以降、負荷変動にこのような性質を仮定する。状態方程式での負荷変動入力の記載は省略する。
【0112】
式(33)~式(36)はこの動揺方程式の一部を構成している。Λは、式(35)に示されるシステム行列の上半分である。
【0113】
【数33】
【0114】
【数34】
【0115】
【数35】
【0116】
【数36】
【0117】
式(33)を基本に、発電機の回転速度の微分の高周波成分と、回転速度と位相角の高周波成分の実測値を用いて、行列Λを同定することを目指す。なおΛが同定できれば、システム行列の下半分は単位行列と零行列を並べたものであるため、動揺方程式全体を知ることができる。そして、Λに含まれる各行列について、Lが非対称、Kが対称、JやJ-1が対角行列といった特徴がわかっているため、同定したLからJの何らかの特徴を抽出できる可能性がある。
【0118】
以上で述べた推定の枠組みは、図4に示されるもの(システム同定をベースとした慣性比推定の枠組み)となる。
【0119】
以上のように、本実施形態に係る情報処理システム1では、情報処理装置20において、異常時における電力系統の慣性に関する値(本実施形態では、慣性比)だけではなく、正常時における電力系統の慣性に関する値(本実施形態では、慣性比)も推定することができる。
【0120】
ここで、本実施形態では、HPFを用いる手法を説明したが、他の例として、HPFの代わりに、バンドパスフィルタ(BPF)が用いられてもよい。
また、本実施形態では、位相角と周波数の両方を用いた場合を示したが、他の例として、位相角と周波数との一方が用いられてもよい。
また、本実施形態では、位相角と周波数の両方にフィルタ(HPF、又は、BPF)を適用する場合を示したが、他の例として、位相角と周波数との一方にフィルタ(HPF、又は、BPF)が適用されてもよい。
以上では、フィルタ(例えば、HPFやBPF)を用いる手法を説明したが、他の構成例として、フィルタを用いずに同様な処理結果を得る構成として実施されてもよい。
【0121】
なお、位相角及び周波数(又は、回転速度)として、交流連系系統Rにある個別の発電機PP1~PPzの位相角及び回転速度の代わりに、複数の発電機を含む部分系統の代表的な位相角及び周波数が用いられてもよい。
また、システム行列の同定において、推定精度の向上を目的として、数値的な指標値に基づいて、互いに似通っていて依存性の高い周波数等の計測値の1以上を除外することが行われてもよい。
【0122】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態とは異なる点について詳しく説明し、第1実施形態と同様な点については説明を省略あるいは簡略化する。
本実施形態に係るHPF手法を、HPF-2と呼んで、説明する。
【0123】
[HPFを用いた慣性の推定]
図5は、本発明の第2実施形態に係る慣性推定の概略を示す図である。
情報処理装置20は、発電機PP1~PPz別の測定装置PQ1~PQzによる発電機PP1~PPz別の位相角及び周波数の計測結果と、交流連系系統Rの測定装置10による連系線潮流の計測結果に基づいて、複数の発電機PP1~PPzのそれぞれ個別の慣性を推定する。
この際、情報処理装置20は、全ての発電機PP1~PPzについて、発電機PP1~PPz別の位相角と、連系線潮流に対して、HPFにより周波数フィードバック制御(例えば、速度ガバナ、LFC)の効果を取り除く。
【0124】
図5には、電力系統のエリア1及びエリア2と、PMU312と、HPF313、314と、推定演算部315と、を示してある。
電力系統は、交流連系系統Rの一例である。
PMU312は、測定装置10及びそれぞれの測定装置PQ1~PQzの一例である。なお、図5では、1つのPMU312を示しているが、交流連系系統にPMU(測定装置10の一例)が設けられているとともに、発電機PP1~PPz別にPMU(測定装置PQ1~PQzの一例)が設けられている。
HPF313、314の機能及び推定演算部315の機能は、推定部262の機能の一例である。
本実施形態では、図5においてのみ,Σ記号は入力ベクトルの要素の合計値を表す。
【0125】
ここで、図5において、太字小文字は要素数が発電機数に等しいベクトルである。図5において、太線の経路は要素数が発電機数に等しいベクトルに相当する。
【0126】
情報処理装置20は、発電機PP1~PPz別の位相角及び周波数と、連系線潮流の常時変動からシステム同定する。
情報処理装置20は、発電機PP1~PPz別の慣性の部分的な情報(エリア慣性合計値の差等)を得て、例えば、HPF-1で得た慣性比情報と連立して、発電機PP1~PPz別の慣性を推定する。ここで、情報処理装置20は、HPF-1以外の手法で得られた慣性比情報を使用して、発電機PP1~PPz別の慣性を推定してもよい。
【0127】
例えば、2エリア系の連系線潮流である式(37)を利用して説明する。
【0128】
【数37】
【0129】
式(38)の感度として、ベクトルk12 を最小二乗同定する(Kの部分的情報)。
【0130】
【数38】
【0131】
情報処理装置20は、Lと、Kの部分的情報からJの部分的情報(例えば未知の慣性2つの合計のみ)を推定して所定の情報(説明の便宜上、情報a1と呼ぶ。)を取得する。
情報処理装置20は、HPF-1などの手法で得たJの要素の比の情報(説明の便宜上、情報a2と呼ぶ。)も活用する。
情報処理装置20は、情報a1と情報a2から、それらを最大限両立させるJを最小二乗推定する。
【0132】
本実施形態では、連系線潮流と位相角の観測から「慣性の大きさに関する部分的情報」を得る。また、それをHPF-1などにより得られる慣性比情報と組み合わせることで慣性自体の推定ができる。
本実施形態では、発電機PP1~PPz別の慣性を推定するための件の成立度合いを全ての発電機PP1~PPzについて含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、発電機PP1~PPz別の慣性を推定する手法が用いられてもよい。
【0133】
[慣性の推定の詳細]
慣性の推定について詳しく説明する。
連系線潮流情報を活用した慣性の推定では、連系線潮流が一つ以上計測できているとして、全ての発電機の慣性を推定する。
発電機での計測情報に加え連系線潮流情報が得られる場合の、慣性推定について説明する。
【0134】
<連系線潮流と発電機状態の関係の定式化>
ここでは潮流情報を活用した慣性推定方法について説明する。式(31)の動揺方程式は、交流連系された系統全体を対象にしたものであるが、これが2エリアで構成され、且つ連系線潮流が計測可能な場合を想定する。まず、式(31)が行列Lの部分に内包する系統全体の潮流方程式は式(39)である。
【0135】
【数39】
【0136】
これを2エリアに分けると式(40)のようになる。
【0137】
【数40】
【0138】
なお、二つのエリアの発電機数は一般に異なるのでK12とK21は正方行列とは限らない。さらに例えばエリア1の発電機が1台というケース等もこの定式化に含まれる。エリア1からエリア2へと向かう潮流のHPF通過成分(高域成分)ΔPH12を、エリア1内の発電出力の同成分の合計と考えれば、式(41)となる。
【0139】
【数41】
【0140】
ここに、1 、0 、1は、1又は0を適当な個数(各添え字を番号とするエリアの発電機数、又は系統全体の発電機数)だけ並べた行ベクトルである。また、式(42)の行ベクトルにより,エリア1が定義されている。
【0141】
【数42】
【0142】
同様に,同じ連系線の逆向きの潮流ΔPH21も式(43)のように求められる。
【0143】
【数43】
【0144】
ここに、0 、12は、それぞれ1又は0を各エリアの発電機数だけ並べた行ベクトルである。また、式(44)である。
【0145】
【数44】
【0146】
ここで,潮流ΔPH12とその逆向きの潮流ΔPH21が式(45)の関係にあることから、式(46)を得る。
【0147】
【数45】
【0148】
【数46】
【0149】
目的は潮流情報を推定に活用することである。ΔPH12とΔδの計測値から、式(47)で表されるような、それらの静的な比例関係(潮流感度に関わる情報)k 12が同定できると考えられる。
【0150】
【数47】
【0151】
12は、Δδと同じ要素数の行ベクトル(横長のベクトル)である。以下、このベクトルを潮流感度ベクトルと呼んで説明する。
本実施形態では、一つの潮流感度ベクトルは、常時の位相角と回転速度との少なくとも一つと、電力値又はそれに準ずる計測値の少なくとも一つとについて、これら両方の一定期間の情報(記録された値)を用いて同定される。
すでに求めてある式(41)の関係式と係数比較すると、式(48)となる。
【0152】
【数48】
【0153】
同様に、式(46)の関係式と係数比較すると、式(49)となる。
【0154】
【数49】
【0155】
ここでは,得られている情報は単一のk 12であるが、エリア1の発電機出力に着目した場合とエリア2の発電機出力に着目した場合とで、得られた情報を異なった使途に適用できていることになる。実際、e 10はKの上寄りの要素を抽出及び合計する行ベクトルであり、e 20は下寄りの要素を抽出及び合計する行ベクトルであり、Kの異なる部分の合計値に類するものが得られていることがわかる。
【0156】
ここで、式(50)の関係を用いると、式(51)及び式(52)が得られる。
【0157】
【数50】
【0158】
【数51】
【0159】
【数52】
【0160】
システム行列の部分行列Lが予め同定できているとすれば、J(慣性定数を要素に並べた対角行列)が未知数である。未知数を求めたい観点から式(51)及び式(52)を考察すると、一つ目の式はJの上寄りの要素に関する条件式で、二つ目の式はJの下寄りの要素に関する条件式である。このため、最終的にJの全ての要素を求めていく観点からは、式(51)及び式(52)に情報の重複は無いと考えられる。そこで、式(51)及び式(52)を辺々加算してまとめると、式(53)を得る。式(54)により式(55)及び式(56)が得られる。
【0161】
【数53】
【0162】
【数54】
【0163】
【数55】
【0164】
【数56】
【0165】
ここで、導出においては行列の積において対角行列同士が交換可能である性質を利用している。また、jは対角行列であるJの対角要素を取り出して並べたベクトルである。式(55)の両辺の転置をとることで式(57)を得る。
【0166】
【数57】
【0167】
ここでは対角行列が転置操作で変化しない性質を利用している。式(57)は、未知数をjとする連立方程式である。ただしLが特異なためこれだけではjを確定させることはできない。しかしながら「対称性条件」とは異なり、式(57)は少なくとも形式的にはjの要素の大きさを決め得る情報を持っている。
【0168】
以上で述べた推定の枠組みは、図5に示されるもの(連系線潮流情報を活用した慣性推定の枠組み)となる。
【0169】
例えば、位相角、回転速度、連系線潮流の観測値に基づいて、行列L及びk12等を同定した上で、慣性比に関する式群から一つ以上、慣性の大きさに関する式群から一つ以上、それぞれ選択し、それら二つ以上の関係式群に対し最小二乗法を適用することで、全ての条件式を可能な限り成立させるような慣性定数を求める。ここで、慣性の大きさに関する式群と表現したのは、連系線潮流をより多数(例えば3エリアが串状に連なる場合、2つの連系線潮流が存在する)計測できた場合に、1つではなく複数得られるためである。
【0170】
以上のように、本実施形態に係る情報処理システム1では、情報処理装置20において、異常時における電力系統の慣性に関する値(本実施形態では、慣性)だけではなく、正常時における電力系統の慣性に関する値(本実施形態では、慣性)も推定することができる。
【0171】
ここで、本実施形態では、HPFを用いる手法を説明したが、他の例として、HPFの代わりに、バンドパスフィルタ(BPF)が用いられてもよい。
また、本実施形態では、位相角と連系線潮流の両方を用いた場合を示したが、他の例として、位相角と連系線潮流との一方が用いられてもよい。
また、本実施形態では、位相角と連系線潮流の両方にフィルタ(HPF、又は、BPF)を適用する場合を示したが、他の例として、位相角と連系線潮流との一方にフィルタ(HPF、又は、BPF)が適用されてもよい。
以上では、フィルタ(例えば、HPFやBPF)を用いる手法を説明したが、他の構成例として、フィルタを用いずに同様な処理結果を得る構成として実施されてもよい。
【0172】
なお、位相角及び周波数(又は、回転速度)として、交流連系系統Rにある個別の発電機PP1~PPzの位相角及び回転速度の代わりに、複数の発電機を含む部分系統の代表的な位相角及び周波数が用いられてもよい。
また、システム行列の同定において、推定精度の向上を目的として、数値的な指標値に基づいて、互いに依存性の高い周波数等の計測値の1以上を除外することが行われてもよい。
【0173】
(第1実施形態~第2実施形態の検証)
[HPFを用いた多機系慣性及び慣性比推定手法の検証]
3つの発電機を例として説明する。
第1実施形態(HPF-1)の検証と第2実施形態(HPF-2)の検証をまとめて説明する。
【0174】
図6は、本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る検証モデルの一例を示す図である。
図6の例では、安定度評価モデル(発電機モデルとしてParkモデルを使用)により評価している。また、各発電機431-1~431-3の直近から、互いに独立な負荷変動を印加している。また、シミュレーションおよびサンプリングの時間刻みとしてΔt=0.005[s]としている。
【0175】
図6には、3つの発電機431-1~431-3と、それぞれの発電機431-1~431-3毎に設けられているPMU412-1~412-3と、代表地点に設けられているPMU421と、推定機能441と、負荷L、Lを示してある。
【0176】
それぞれの発電機431-1~431-3の近傍に、微小変動ΔP~ΔPが与えられている。
発電機431-1~431-3毎のPMU412-1~412-3は、それぞれの発電機431-1~431-3について、δ、ωを測定する。
HPF-1の場合、推定機能441に、慣性合計値が入力される。
HPF-2の場合、PMU421によって測定されるP12が推定機能441での推定に用いられる。
【0177】
検証について詳しく説明する。
各発電機の位相角、回転速度を同期計測し、回転速度の数値微分を加えた上で慣性「比」を推定する手法(HPF-1)を検証した。あわせて、さらに連系線潮流を同期計測した際の発電機別慣性推定手法(HPF-2)の検証も行った。
【0178】
例題系統は3台の発電機431-1~431-3から成る。エリア構成については,図6で、左寄りの発電機431-1の近傍をエリア1とし、その他をエリア2とした。負荷変動としては各発電機431-1~431-3の近傍から、互いに異なるランダムノイズ(疑似ホワイトノイズにカットオフ角周波数0.5[rad/s](時定数2秒)のLPF(ローパスフィルタ)を適用し、乱数のシードを互いに異なったものとしたもの)を印加した。
例題系統のシミュレーションは、時間刻みを0.005秒とする実効値ベースの安定度評価機能を用いて行った。サンプリングも計算刻みに応じて同じ間隔とした。動揺方程式の一部を最小二乗法で同定するにあたって、対象系統の状態変化を追跡するためにはRLS(逐次最小二乗)法を用いることが基本と考えられるが、本例では解が安定的に得られることを確認することを目的として、各時刻において過去の全てのデータを用いて最小二乗法を実行した。
【0179】
図7は、本発明の第1実施形態に係る慣性比推定(HPF-1)の検証結果を示す図である。
図7に示されるグラフにおいて、横軸は時刻[s]を表しており、縦軸は各発電機431-1~431-3の慣性[MW・s]を表している。
3つの発電機431-1~431-3のそれぞれについて、基準特性(モデル上の発電機に設定した慣性の値すなわち真値)1011~1013と、推定特性1021~1023を示してある。基準特性と推定特性とは、それぞれ、初期を除き最も近い特性どうしが対応している。
【0180】
ここで、図7の例では、過去のデータの全て(グラフの1000まで)を使用して最小二乗法が行われている。過去の情報の全てからの逐次推定結果である。HPF-1では「比」の推定が行われるため、慣性の合計値を既知とした按分値である。
図7の例では、図中の一定値は真値であり、低い方から高い方への順に2020、3030、4040 [MW・s]である。
図7の例では、曲線は推定値であり、初期を除き真値と同順序である。
慣性推定の最終誤差は-17%~+5%であった。必ずしも高精度とは言い切れないものの、一定の精度で推定できた。
HPFのカットオフは、10 [rad/s]である。
LPFは無い。
慣性比条件としては、Kの列合計が0である条件を用いた。
【0181】
図8は、本発明の第2実施形態に係る慣性推定(HPF-2)の検証結果を示す図である。
図8に示されるグラフにおいて、横軸は時刻[s]を表しており、縦軸は各発電機431-1~431-3の慣性[MW・s]を表している。
3つの発電機431-1~431-3のそれぞれについて、基準特性1111~1113と、推定特性1121~1123を示してある。基準特性と推定特性とは、それぞれ、初期を除き最も近い特性どうしが対応している。
【0182】
ここで、図8の例では、過去のデータの全て(グラフの1000まで)を使用して最小二乗法が行われている。過去の情報の全てからの逐次推定結果である。HPF-2では「慣性そのもの」の推定が行われる。
図8の例では、図中の一定値は真値であり、低い方から高い方への順に2020、3030、4040 [MW・s]である。
図8の例では、曲線は推定値であり、初期を除き真値と同順序である。
慣性推定の最終誤差は-3%~+25%であった。必ずしも高精度とは言い切れないものの、一定の精度で推定できた。
HPFのカットオフは、10 [rad/s]である。
LPFは無い。
慣性比条件としては、Kの列合計が0である条件を用いた。
【0183】
HPF-1及びHPF-2のいずれの検証においても、慣性比に関する条件として式(58)を用いている。
【0184】
【数58】
【0185】
なお、HPF-1では慣性値を推定できないため、慣性の合計値(シミュレーションにおいて与えた真値)を与えてプロットした。また、二つのシミュレーションに共通してωHPF=10[rad/s]としている。
図7及び図8では、それぞれ、6本の線を示してあり、上述のように3本の直線は各発電機431-1~431-3の慣性の真値であり小さい順に2020、3030、4040[MWs]である。残りの3本の曲線は時刻推移に伴う推定結果の変化であり、概ね時刻100[s]以降は真値と同じ順に並んでいる。
【0186】
HPF-1については、各発電機単位の慣性推定精度で評価して、-17~+5%の誤差であった。HPF-2については-3%~+25%の誤差であった。HPF-2について、慣性合計値については+4%の誤差であった。十分な高精度とは言えないものの、一定の精度で慣性比や慣性が推定できており、手法がこの数値例の範囲で概ね妥当であることが確認できた。
【0187】
なお、HPF-1の結果において、慣性合計を与えたにもかかわらず、推定結果の合計値が真値と一致しない場合がある。これは慣性合計値を制約条件として与えたのではなく、最小二乗法で考慮する条件式の一つとして与えたためである。定式化においてLは特異行列であるとしていたが、実際の推定においては負荷等の条件や各種ノイズ、計算誤差により、必ずしも特異行列になるとは限らない。このような場合,零であるはずのLの固有値の一つが非零の小さな値を持つようになり、結果として最小二乗法における条件式が冗長となり、慣性合計値の条件は最小二乗評価対象の一つとして他の式と同等に考慮され、誤差が不可避となる。それでも当該の固有値が小さい限りは、HPF-1の推定値の合計は概ね与えた真値に近いものとなると考えられる。
【0188】
(第1実施形態~第2実施形態の変形例)
<変電所計測情報を利用した推定>
以上では、定式化の中で発電機関連諸量が計測できたと仮定しているため、実際にPMUで計測した(発電機ではなく)変電所データで推定を行うことについて説明する。
つまり、第1実施形態~第2実施形態において、発電機PP1~PPzの位置(又は、近傍)の代わりに、代表変電所の位置(又は、近傍)が用いられてもよい。
【0189】
以上では、発電機の動揺方程式に基づく説明を行った。これに対し発電機自体の位相角等を直接測ることは難しいことに加え、現実には系統の発電機台数も数百台オーダと多くPMU等による全台の同期計測は現在のところ現実的ではない場合も考えられる。このため、限られた箇所数の適当な(複数の発電機の位相角を代表し得る)代表地点の位相角や周波数を、ここまでの検討で用いたδ等に代えて用いることも可能である。
【0190】
この場合、当該の観測点が適切に近隣の発電機群を代表しているかが重要な点となる。また情報の冗長性(測定値の類似性)が低いことも重要である。
以下、冗長性の問題について考察する。冗長性が高いと次のような問題が起こりえる。極端な例だが仮に同じ地点のデータが二つ含まれていた場合、その近傍の発電機慣性が二重カウントになる可能性、システム同定のための諸数値計算に支障が生じる(逆行列が得られない等の)可能性がある。このため、一定以上似通った計測値は予め取り除くことが望ましい。
【0191】
計測値が似通っているあるいは独立性が高いことを評価する手法は複数考えられるが、最も簡単な方法はそれらの一定時間内のコサイン類似度あるいは相関係数を指標とすることである。ここでコサイン類似度とは、ふたつの計測値時系列それぞれをベクトルとみなしたとき、これらベクトルのなす角のコサイン値である。コサイン類似度や相関係数が大きければ似通ったデータである。コサイン類似度、相関係数とも、ふたつの計測値が同一である場合に最大となり、その最大値は1である。全データ同士のコサイン類似度を求め、他のデータと最も独立性の低い箇所から除いていき、システム同定プロセスや推定結果への作用、影響を調べることで、必要十分な観測点を決めることも可能であると考えられる。
【0192】
計測地点1の位相角ΔδH1と計測地点2の位相角ΔδH2とのコサイン類似度<ΔδH1,ΔδH2>は式(59)のように得られる。ここで、Σ記号は時間方向に関するものである。
【0193】
【数59】
【0194】
なお、ここで求めたコサイン類似度は相関係数とほぼ同等である。相関係数は各量からそれらの平均値を引いたものに対して上式の計算を行うものだが、上式は高周波分を対象にしているため、平均値はほぼ零と期待できる。よって結果としてこの場合コサイン類似度は相関係数と同等になると考えられる。
【0195】
他の計測情報と似通った計測情報を取り除く手順として次のものが考えられる。
まず、上式のようなコサイン類似度を、全ての位相角の組み合わせについて、すなわちn(n-1)/2通り計算し、大きい順に並べたリストを作る。
ここで、i、j、kをそれぞれ1~nのいずれかの整数とする。
最も大きい(1に近い)組み合わせ(i,j)が,最も似通った波形ということになる。次に番号iと番号jのどちらを除外するべきかを決める。リストを2番目から順に見ていき、i又はjが現れないか探す。
【0196】
例えば、最初に(j,k)なる組み合わせが見つかった場合、番号jの計測値は番号iの計測値と最も似通っていることに加え、番号kとも一定の類似度があると考えられるため、データ群から取り除く。2つ以上の計測値を取り除く場合には以上の手続きのうちリスト作成以降を繰り返す。
【0197】
以上では情報に冗長性がある場合の課題と対策について述べたが、逆に情報が不足している場合もある。例えば上述のコサイン類似度を活用するならば、上述リストの末尾の組み合わせやその値等を見ることで、特定の計測値が他の情報と大きく異なることが見いだされた場合には,必要な計測が欠けている可能性が示唆される。このような情報不足ケースへの対応が為されてもよい。
【0198】
情報の冗長性と情報不足の課題について、上記では計測値をもとに検討することを考えたが、他には、発電機端での計測をベースとして定式化した今回の手法を、変電所計測を前提とした定式化に見直すことも有効な対策である。
現時点で存在する計測設備で最大限高精度に慣性を推定することと、計測を追加する場合に最小限の追加で最大限の高精度化を達成することが図られてもよい。
【0199】
上述のとおりこの場合発電機ベースの定式化をもとに、発電機位相角、角速度に代えて変電所位相角、周波数を用いてもよい。このとき位相角と周波数は、必要に応じて[deg]、[Hz]等から[rad]、[rad/s]に換算する必要がある。
【0200】
(第3実施形態)
[HPF-1のRoCoFへの応用]
以下、RoCoF推定法の3つの例を、RoCoF0、RoCoF1、RoCoF2と呼んで説明する。これらの名称は説明の便宜上のものである。
【0201】
<RoCoF0>
RoCoF0では、大規模電源脱落等のイベント後の周波数波形を5次式等(任意の多項式でよい。)で近似して系統慣性を推定する。RoCoF0に関して、例えば、非特許文献2が概ね解決した課題は、イベントの数秒後に顕著となるガバナ応答等の影響を回避することと、イベント後の数秒間の波形に含まれる発電機間の動揺成分の影響を回避することであるが、次のような課題が残っていた。
すなわち、慣性推定結果が(解析者が決めた)イベント時刻に依存する点、発電機間の動揺成分の影響の回避が十分でない点が課題として残っていた。
【0202】
<RoCoF1>
RoCoF1では、周波数波形に関し、イベント前の波形を考慮して、イベント時刻を同定することで、客観的なイベント時刻決めを実現する。つまり、イベント前の定常状態の周波数も使用する。
RoCoF1では、例えば、イベント前周波数を直線近似し、イベント後の5次式等(任意の多項式でよい。)との連続条件を考慮して、考察期間全体での二乗誤差が最小となるイベント時刻を決める。
なお、最小二乗法ではパラメータ同定が主目的だが、副産物として二乗誤差値が得られる。この二乗誤差値が小さくなるようなイベント時刻を決める。
また、RoCoF1は、周波数ばかりでなく、電力に適用されてもよい。
【0203】
<RoCoF2>
RoCoF2では、RoCoF1との組み合わせが前提であり、周波数波形とともに電力変化波形も活用してイベント時刻を決める。
RoCoF2では、例えば、適当な電力値(脱落発電機、残存機、近隣残存機合計等の出力、近隣潮流等でステップ状に変化する電力の波形)のステップ変化波形を、周波数波形と同時に評価して両者に共通するイベント時刻を決める。
RoCoF2では、周波数fと電力Pのそれぞれについて最小二乗同定し、二乗誤差の加重平均を最小化するような共通のイベント時刻を求める。
以上説明したRoCoF0、RoCoF1、RoCoF2で用いる周波数波形は、交流連系系統Rにおける代表的な周波数である。代表的な周波数の一例は、交流連系系統において予め決めた、あるいはイベント波形の何らかの分析から決めた、代表地点における周波数計測値である。
【0204】
<HPF-1の適用>
第1実施形態に係るHPF-1は、RoCoF0、RoCoF1、RoCoF2、あるいは、他のRoCoFの手法に適用可能である。
上記のような各RoCoFの手法あるいは他のRoCoFの手法に対して、第1実施形態に係るHPF-1で得られた慣性比情報を適用することができる。具体的には後述するように、この慣性比情報は上記各RoCoF手法で用いる代表的な周波数を決めるための情報となる。
【0205】
以下、説明の便宜上、HPF-1が適用されたRoCoFを、本RoCoFと呼んで説明する。
本RoCoFの手法は、「重みは未知、イベントは不定期」という問題設定があった場合、イベントがあったとき、直近過去の一定時間データを使用して、HPF-1の手法で重みを算出して、RoCoF検討に利用する手法である。
【0206】
本RoCoFでは、イベントがあった際、イベント前の一定期間の記録値によりHPF-1により推定した発電機別慣性の比(慣性定数比)を重みとして、複数箇所のイベント時周波数波形を加重平均し、RoCoFを求める。
【0207】
本RoCoFでは、図9図12に示されるグラフにおける実測波形のうち、図9図10に示される周波数波形として、複数地点の加重平均値を用いる。当該実測波形は、図9図10の例では曲線PL1であり、図11図12の例では曲線PL2である。
【0208】
<イベント直前の系統特性に基づく多地点周波数の加重平均>
周波数波形の加重平均について説明する。
各地点周波数への理想的重み付けは地点別慣性であり、それは時々刻々変化するものであるから、式(60)の重みwをイベント前の一定時間(例えば、30分、あるいは、1時間など)の計測値から求めた系統特性に基づいて決める。重み係数なので合計値は1という制約がすでに与えられているため、慣性定数そのものではなく、地点間の慣性定数の比がわかれば十分である。w(i=1~n)は、i番目の地点(例えば、i番目の発電機)の重み係数の値である。
【0209】
【数60】
【0210】
慣性定数の比は例えばHPFを地点別周波数,位相角に適用して、地点間諸量の感度から求められる。
すなわち、第1実施形態に係るHPF-1の手法によって、慣性定数の比を求めることができる。
この場合、情報処理装置20では、測定装置10及び測定装置PQ1~PQzから取得される測定結果に基づいて、推定部262によって、HPF-1により慣性定数の比を推定し、その推定結果を用いて、重み係数を決定して、本RoCoFの手法を実行する。
【0211】
[RoCoFの詳細]
上述のように、第1実施形態に係るHPF-1の手法は、従来のRoCoF法に適用することができ、また、新規なRoCoF法に適用することもできる。
以下で、RoCoF法について詳しく説明する。
【0212】
交流連系系統Rの系統慣性を推定する方法として、RoCoF法が知られている。RoCoF法は、系統周波数が動揺した場合における系統周波数についてのRoCoF(すなわち、系統周波数の変化率)を推定し、推定したRoCoFに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する方法のことである。
【0213】
ここで、交流連系系統Rに含まれる1つ以上の発電機PP1~PPzそれぞれの回転体の運動エネルギーは、交流連系系統Rに含まれる1つ以上の発電機PP1~PPzそれぞれの回転体の慣性モーメントと見做すことができる。これは、交流連系系統Rに含まれる1つ以上の発電機PP1~PPzそれぞれの回転体の運動エネルギーが、回転体の慣性モーメントに、回転体の角速度の二乗(すなわち、回転体の周波数の二乗)を乗じることによって求められるからである。従って、交流連系系統Rでは、交流連系系統Rの系統慣性を、交流連系系統Rに含まれる1つ以上の発電機PP1~PPzそれぞれの回転体の運動エネルギーの総和として算出することができる。そして、このような運動エネルギーの総和は、運動エネルギーの総和を示す数式を時間微分することにより得られる動揺方程式によって、系統周波数についてのRoCoFと関係付けることができる。RoCoF法は、この動揺方程式を用いて、当該RoCoFに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性(より正確には、当該系統慣性と見做すことができる運動エネルギーの総和)を求める方法である。
【0214】
なお、交流連系系統Rにおいて、系統周波数は、通常、需要変動によって時間的に小さく動揺しながらも、常に一定の範囲内の値を保つように制御されている。このため、RoCoF法により交流連系系統Rの系統慣性を推定するために用いるRoCoFを得るためには、当該範囲から逸脱するほど系統周波数が大きく変化する必要がある。そこで、RoCoF法による交流連系系統Rの系統慣性の推定では、交流連系系統Rからの発電機の脱落、交流連系系統に接続される負荷の脱落等のイベントが生じた場合における系統周波数についてのRoCoFが用いられることが多い。何故なら、当該場合、系統の脱落しなかった発電機の出力電力はステップ状(階段関数状)に、周波数は少なくとも短期間は直線状に、それぞれ大きく変化することが知られているからである。
【0215】
ここで、上記のようなイベントが交流連系系統Rにおいて生じた場合におけるRoCoF法による交流連系系統Rの系統慣性の推定精度は、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた時刻の推定精度に依存する。そして、当該時刻の推定精度は、当該時刻の推定を行う人の推定についての習熟度に依存してしまう。このため、RoCoF法においては、当該時刻の推定を行う人の推定についての習熟度に依らずに、当該時刻を客観的に決定する方法の確立が求められていた。
【0216】
これに関し、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた時刻として、RoCoFが0.4[Hz/s]を下回った時刻を用いて、RoCoF法により、交流連系系統Rの系統慣性を推定する方法が知られている(非特許文献2参照。)。
しかしながら、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた時刻として、RoCoFが0.4[Hz/s]を下回った時刻を用いることを正当化する理由は、交流連系系統Rの系統慣性の推定精度が経験則上高くなるということ以外に存在しない。すなわち、上記の非特許文献2に記載されたような方法では、経験則という主観を排除することができず、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた時刻の推定についての客観性が不十分であった。
【0217】
そこで、新規なRoCoF法として、イベント発生時刻の推定についての客観性を向上させることを検討した。
以下、新規なRoCoF法について説明する。
【0218】
本実施形態では、情報処理システム1は、RoCoF法により、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
RoCoF法では、系統周波数が動揺した場合における系統周波数についてのRoCoF(すなわち、系統周波数の変化率)を推定し、推定したRoCoFに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0219】
そこで、情報処理システム1は、RoCoF法による交流連系系統Rの系統慣性の推定において、交流連系系統Rからの発電機の脱落、交流連系系統Rに接続される負荷の脱落等のイベントが生じた場合における系統周波数についてのRoCoFを用いる。
本実施形態では、説明の便宜上、交流連系系統Rからの発電機の脱落、交流連系系統Rに接続される負荷の脱落等のイベントを、単にイベントと称して説明する。なお、イベントが生じた場合、交流連系系統Rの各地点の電力に応じた値も、系統周波数とともに変化する。当該値は、例えば、交流連系系統Rの各地点における電圧、電流、及び電力そのもの等であるが、これらに限られるわけではない。
【0220】
測定装置10は、代表地点の時刻毎の系統周波数と、代表地点の時刻毎の電力に応じた値(例えば、電圧、電流、位相角、及び電力そのもの等)とを測定する。測定装置10は、例えば、PMUである。
以下では、説明の便宜上、測定装置10が測定する値のうち系統周波数を除く測定値を、非周波数測定値と称して説明する。なお、測定装置10は、代表地点の時刻毎の系統周波数を測定し、代表地点の時刻毎の非周波数測定値を測定しない構成であってもよい。この場合、情報処理装置20は、測定装置10と異なる他の装置から、代表地点の時刻毎の非周波数測定値を示す非周波数測定値情報を取得する。また、測定装置10は、代表地点の時刻毎の系統周波数を測定せず、代表地点の時刻毎の非周波数測定値を測定する構成であってもよい。この場合、情報処理装置20は、測定装置10と異なる他の装置から、代表地点の時刻毎の系統周波数を示す周波数情報を取得する。
【0221】
情報処理装置20は、時刻毎に測定装置10により測定された系統周波数を示す周波数情報を、測定装置10から取得する。情報処理装置20は、取得した周波数情報を時刻毎に記憶する。また、情報処理装置20は、時刻毎に測定装置10により測定された非周波数測定値を示す非周波数測定値情報を、時刻毎に測定装置10から取得する。情報処理装置20は、取得した非周波数測定値情報を、時刻毎に記憶する。なお、情報処理装置20は、測定装置10が非周波数測定値を測定しない場合、非周波数測定値情報を測定装置10から取得しない。
【0222】
ここで、以下では、一例として、非周波数測定値が、電力である場合について説明する。また、以下では、説明の便宜上、非周波数測定値として電力を示す非周波数測定値情報を、電力情報と称して説明する。
【0223】
情報処理装置20は、例えば、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う動作モードとして、第1推定モード、第2推定モード、第3推定モードの3つの推定モードを有する。なお、情報処理装置20は、当該3つの推定モードのうちの一部又は全部に代えて、又は、当該3つの推定モードのうちの一部又は全部に加えて、他の推定モードを有する構成であってもよい。また、情報処理装置20は、当該3つの推定モードのうちの一部を有する構成であってもよい。
【0224】
第1推定モードは、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う動作モードのうち、測定装置10から取得した周波数情報に基づくイベント発生時刻の推定を伴う動作モードである。なお、イベント発生時刻は、イベントが発生した時刻のことである。
本実施形態では、第1推定モードの一例は、RoCoF0又はRoCoF1の手法のモードである。
【0225】
第2推定モードは、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う動作モードのうち、測定装置10から取得した電力情報(非周波数測定値情報の一例)に基づくイベント発生時刻の推定を伴う動作モードである。
本実施形態では、第2推定モードの一例は、RoCoF0又はRoCoF1の手法のモードである。
【0226】
第3推定モードは、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う動作モードのうち、測定装置10から取得した周波数情報と、測定装置10から取得した電力情報とに基づくイベント発生時刻の推定を伴う動作モードである。
本実施形態では、第3推定モードの一例は、RoCoF2の手法のモードである。
【0227】
なお、情報処理装置20は、第2推定モード及び第3推定モードを有さない場合、電力情報を取得しない構成であってもよい。
【0228】
第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、予め記憶した周波数情報のうち、受け付けた操作に応じた期間の周波数情報に基づいて、イベント発生時刻を推定する。より具体的には、第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。そして、情報処理装置20は、代表地点における時刻毎の系統周波数を示す周波数情報のうち、特定した第1時刻から、特定した第2時刻までの対象期間における周波数情報に基づいて、イベント発生時刻を推定する。これにより、情報処理装置20は、イベント発生時刻の推定についての客観性を向上させることができる。ここで、推定期間は、イベントが生じたと推定される期間のことである。対象期間は、イベント発生時刻の推定を行う対象となる期間のことである。第1時刻は、推定期間よりも前の時刻のことであり、対象期間が始まる時刻のことである。第2時刻は、推定期間よりも後の時刻のことであり、対象期間が終わる時刻のことである。対象期間は、推定期間が含まれる期間であれば、如何なる期間であってもよい。例えば、第1時刻は、推定期間が始まる時刻よりも数秒前の時刻である。これは、イベントが生じる前の代表地点の系統周波数が、ほぼ一定に保たれているためである。また、例えば、第2時刻は、推定期間が始まる時刻よりも数秒後の時刻である。これは、イベントによる代表地点の系統周波数の動揺が、数秒以内に収まることが多いためである。
【0229】
また、第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、イベント発生時刻を推定する際、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)にフィットさせるフィッティング関数を、最適化問題を解くことにより導出する。そして、情報処理装置20は、導出したフィッティング関数に基づいて、推定期間における系統周波数についてのRoCoFを推定する。そして、情報処理装置20は、推定したRoCoFと、RoCoF法とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。この場合に、情報処理装置20は、HPF-1の結果を用いることができる。
【0230】
第2推定モードにおいて、情報処理装置20は、予め記憶した電力情報のうち、受け付けた操作に応じた期間の電力情報に基づいて、イベント発生時刻を推定する。より具体的には、第2推定モードにおいても、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。そして、情報処理装置20は、代表地点における時刻毎の電力を示す電力情報のうち、特定した第1時刻から、特定した第2時刻までの対象期間における電力情報に基づいて、イベント発生時刻を推定する。この場合も、情報処理装置20は、イベント発生時刻の推定についての客観性を向上させることができる。
【0231】
また、第2推定モードにおいて、情報処理装置20は、推定したイベント発生時刻に基づいて、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数を、最適化問題を解くことにより導出する。そして、情報処理装置20は、導出したフィッティング関数に基づいて、RoCoFを推定する。そして、情報処理装置20は、推定したRoCoFと、RoCoF法とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。この場合に、情報処理装置20は、HPF-1の結果を用いることができる。
【0232】
第3推定モードにおいて、情報処理装置20は、予め記憶した周波数情報及び電力情報のうち、受け付けた操作に応じた期間の周波数情報及び電力情報に基づいて、イベント発生時刻を推定する。より具体的には、第3推定モードにおいても、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。そして、情報処理装置20は、特定した第1時刻から、特定した第2時刻までの対象期間における周波数情報及び電力情報に基づいて、イベント発生時刻を推定する。この場合、情報処理装置20は、イベント発生時刻の推定についての客観性を、より確実に向上させることができる。
【0233】
また、第3推定モードにおいて、情報処理装置20は、イベント発生時刻を推定する際、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)にフィットさせるフィッティング関数を、最適化問題を解くことにより導出する。そして、情報処理装置20は、導出したフィッティング関数に基づいて、前述の推定期間における系統周波数についてのRoCoFを推定する。そして、情報処理装置20は、推定したRoCoFと、RoCoF法とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。この場合に、情報処理装置20は、HPF-1の結果を用いることができる。
【0234】
情報処理装置20は、動作モードとして第1推定モードが選択されている場合、取得した周波数情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
また、情報処理装置20は、動作モードとして第2推定モードが選択されている場合、取得した電力情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
また、情報処理装置20は、動作モードとして第3推定モードが選択されている場合、取得した周波数情報及び電力情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0235】
<第1推定モードにおけるイベント発生時刻及び系統慣性の推定方法>
以下、図9を参照し、第1推定モードにおけるイベント発生時刻及び系統慣性の推定方法について説明する。図9は、イベント発生時刻の前後における代表地点の系統周波数の時間的な変化の一例を示す図である。
【0236】
図9に示したグラフの横軸は、時刻を示す。当該グラフの縦軸は、代表地点の系統周波数を示す。当該グラフにプロットされた曲線PL1は、測定装置10により時刻毎に測定された系統周波数を、時系列順に直線で繋いだ曲線の一例である。すなわち、曲線PL1は、代表地点の系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)の一例を示す。
【0237】
例えば、情報処理装置20のユーザーは、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた後、図9に示したようなグラフに基づいて、前述の推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを決める。このため、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、図9に示したようなグラフを表示する。この際、情報処理装置20は、イベント発生時刻を含む期間を示す情報を受け付ける。そして、情報処理装置20は、予め記憶している周波数情報の中から、受け付けた当該期間における代表地点の時刻毎の系統周波数を示す周波数情報を抽出する。情報処理装置20は、抽出した周波数情報に基づいて、図9に示したようなグラフを生成し、生成したグラフを表示する。なお、情報処理装置20は、このようなグラフの表示を行わない構成であってもよい。この場合、図9に示したようなグラフは、他の装置により生成される。
【0238】
次に、情報処理装置20のユーザーは、情報処理装置20に表示されたグラフに基づいて、推定期間を決める。より具体的には、当該ユーザーは、当該グラフに基づいて、イベント発生時刻が含まれていると推定される期間を、推定期間として決める。例えば、当該ユーザーは、代表地点の系統周波数が第1所定値以上に変化したと目視にて判定可能な期間を含む期間を、推定期間として決める。これは、イベント発生時刻の前後において、代表地点の系統周波数が第1所定値以上に変化するためである。第1所定値は、例えば、代表地点の系統周波数についての数秒移動平均(例えば、5秒移動平均線)の0.2%程度であるが、これに限られるわけではない。なお、推定期間の決め方は、これに代えて、イベント発生時刻を含む期間を推定期間として決定可能な決め方であれば、他の決め方であってもよい。なお、情報処理装置20は、抽出した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、イベントが発生したと推定される期間を推定期間として特定する構成であってもよい。図9に示した期間PD1は、当該グラフに基づいて当該ユーザーにより決められた推定期間の一例である。
【0239】
次に、情報処理装置20のユーザーは、決めた推定期間よりも前の時刻を、第1時刻として決める。例えば、当該ユーザーは、当該推定期間が始まる時刻よりも第1所定時間前の時刻を、第1時刻として決める。第1所定時間は、例えば、2秒である。図9に示した時刻ts1は、当該推定期間に基づいて当該ユーザーにより決められた第1時刻の一例である。なお、第1所定時間は、2秒より短い時間であってもよく、2秒より長い時間であってもよい。また、第1時刻の決め方は、これに代えて、他の決め方であってもよい。また、情報処理装置20は、抽出した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、イベントが発生したと推定される期間を推定期間とともに、第1時刻を特定する構成であってもよい。
【0240】
次に、情報処理装置20のユーザーは、決めた推定期間よりも後の時刻を、第2時刻として決める。例えば、当該ユーザーは、推定期間が終わる時刻よりも第2所定時間後の時刻を、第2時刻として決める。第2所定時間は、例えば、2秒である。図9に示した時刻te1は、当該推定期間に基づいて当該ユーザーにより決められた第2時刻の一例である。なお、第2所定時間は、2秒より短い時間であってもよく、2秒より長い時間であってもよい。また、第2所定時間は、第1所定時間と同じ時間であってもよく、第1所定時間と異なる時間であってもよい。また、第2時刻の決め方は、これに代えて、他の決め方であってもよい。また、情報処理装置20は、抽出した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、イベントが発生したと推定される期間を推定期間とともに、第2時刻を特定する構成であってもよい。
【0241】
ここで、第1時刻である時刻ts1から第2時刻である時刻te1までの期間をn-1等分し、時刻ts1を時刻tとし、時刻te1を時刻tとすることにより、対象区間の任意の時刻を、tによって表すことができる。ただし、nは、1以上の整数であれば、如何なる整数であってもよい。そして、iは、1以上n以下の閉区間に含まれる整数のうちのいずれかの整数を示す。なお、図9に示した期間PD2は、時刻tから時刻tまでの期間(時刻ts1から時刻te1までの期間)、すなわち、前述の対象期間の一例である。
【0242】
情報処理装置20のユーザーは、このようにして決めた推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを、情報処理装置20に入力する。すなわち、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。情報処理装置20は、特定した第1時刻及び第2時刻に基づいて、対象期間を算出する。情報処理装置20は、予め記憶した周波数情報の中から、算出した対象期間における周波数情報を抽出する。情報処理装置20は、抽出した周波数情報に基づいて、対象期間における代表地点の系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数を、目的関数を最小化する最適化問題を解くことにより推定する。以下では、一例として、第1推定モードにおいて、情報処理装置20が最小二乗法を用いて当該最適化問題を解くことによりフィッティング関数を推定する場合について説明する。
【0243】
ここで、情報処理装置20は、情報処理装置20がフィッティング関数を最小二乗法によって推定する際、フィッティング関数に含まれる1つ以上の実数係数とともに、イベント発生時刻を未知数(フィッティングパラメーター)として扱う。以下では、説明の便宜上、イベント発生時刻の候補を、時刻候補tによって示す。mは、1以上n以下の閉区間に含まれる整数のうちのいずれかの整数を示す。ただし、時刻候補tは、推定期間に含まれる時刻である。また、情報処理装置20は、例えば、フィッティング関数として、多項式を用いる。以下では、一例として、フィッティング関数が、5次の多項式である場合について説明する。この場合、情報処理装置20がフィッティング関数を最小二乗法によって推定する際の未知数は、5次の多項式であるフィッティング関数に含まれる6つの実数係数と、イベント発生時刻の候補である時刻候補tとのそれぞれである。なお、フィッティング関数は、多項式に代えて、指数関数等の他の関数であってもよい。また、フィッティング関数は、4以下の次数の多項式であってもよく、5以上の次数の多項式であってもよい。
【0244】
例えば、推定期間に含まれるある時刻tx1を、時刻候補tとして選択した場合、最小二乗法により最小化させる目的関数Jは、以下の式(61)~式(63)のように定式化される。
【0245】
【数61】
【0246】
【数62】
【0247】
【数63】
【0248】
上記の式(61)の右辺括弧内第1項は、測定装置10が時刻tに測定した系統周波数を示す。式(61)の右辺括弧内第2項は、フィッティング関数であり、時刻に応じて式(62)又は式(63)のように5次の多項式として表される。時刻tから時刻tm-1までの期間では、フィッティング関数は、式(62)により表される。以下では、説明の便宜上、当該期間を、第1対象期間と称して説明する。第1対象期間は、換言すると、第1時刻から、推定期間に含まれる時刻のうち時刻候補tとして選択された時刻までの期間のことである。式(62)におけるa、a、a、a、a、aのそれぞれは、フィッティング関数に含まれる実数係数(すなわち、フィッティングパラメータ)である。式(62)の右辺では、時刻が時刻候補tとして選択された時刻に固定されている。すなわち、式(62)により表されるフィッティング関数は、直線となる。これは、第1対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の直線近似を行うことに相当する。一方、式(63)の右辺は、時刻tに依存している。そして、式(62)と式(63)とは、時刻候補tとして選択された時刻において連続的に繋がっていなければならない。これらのことから、上記の式(61)~式(63)は、以下の式(64)及び式(65)のように書き換えることができる。
【0249】
【数64】
【0250】
【数65】
【0251】
そして、上記の式(64)に基づく最小化問題は、以下の式(66)のように表される。
【0252】
【数66】
【0253】
また、上記の式(66)の解は、以下の式(67)のように表される。
【0254】
【数67】
【0255】
なお、上記の式(67)の導出方法については、一般的な最小二乗法における方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0256】
ここで、上記の式(67)により得られるフィッティング関数は、イベント発生時刻が時刻tx1であると仮定した場合において、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形に最もフィットする関数である。しかしながら、時刻tx1は、推定期間に含まれる時刻のうちの1つに過ぎず、イベント発生時刻の時刻候補のうちの1つに過ぎない。そこで、上記の式(64)に基づく最小化問題は、上記の式(66)に代えて、以下の式(68)のように定義することにより、フィッティング関数に含まれる実数係数とともに時刻候補tを未知数とした最小化問題として表すことができる。
【0257】
【数68】
【0258】
ここで、区間[tm1,tm2]は、推定期間を示す。すなわち、時刻tm1は、推定期間が始まる時刻を示す。また、時刻tm2は、推定期間が終わる時刻を示す。そして、区間[tm1,tm2]に含まれる個々の時刻が、時刻候補tとして選択される時刻である。
【0259】
上記の式(68)の最小化問題を解くことにより、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形に最もフィットするフィッティング関数を推定することができるとともに、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形にフィッティング関数が最もフィットする場合における時刻候補tをイベント発生時刻として推定することができる。
【0260】
なお、RoCoF法において用いるRoCoFは、このようにして得られたフィッティング関数を時間について1回微分することによって得られる導関数に、イベント発生時刻として推定された時刻候補tを代入することで、以下の式(69)のように得られる。
【0261】
【数69】
【0262】
すなわち、第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、算出した対象期間における周波数情報を抽出した後、抽出した周波数情報と、特定した推定期間に含まれる各時刻と、上記の式(68)とに基づく最小二乗法により、当該周波数情報が示す系統周波数の波形に最もフィットするフィッティング関数の推定と、イベント発生時刻の推定とを行う。換言すると、第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、推定期間における各時刻をイベントが発生した時刻候補とし、時刻候補毎に、第1時刻から時刻候補までの第1対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の直線近似と、時刻候補から第2時刻までの第2対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の多項式近似とを行うことにより、イベント発生時刻を推定する。このようなイベント発生時刻の推定では、情報処理装置20は、推定期間にイベント発生時刻が含まれており、且つ、対象期間に推定期間が含まれている限り、推定期間と対象期間との選択についてどのような選択を行ったとしても、ほぼ同様の推定結果を得ることができる(当然ながら、推定を行う毎にフィッティング関数の関数形を代えた場合は、この限りではない)。従って、情報処理装置20は、第1推定モードにおいて、イベント発生時刻の推定についての客観性を向上させることができる。
【0263】
ここで、図10は、図9に示したグラフ上にフィッティング関数を重畳させた図である。図10において、当該グラフ上に重畳された関数FF1は、第1推定モードにおいて情報処理装置20により推定されたフィッティング関数の一例を示す。図10に示した時刻tv1は、当該フィッティング関数とともに情報処理装置20により推定されたイベント発生時刻の一例を示す。図10を見ると、第1推定モードにおいて、イベント発生時刻よりも前の期間である第1対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の直線近似を情報処理装置20が行っていることが分かる。また、図10を見ると、第1推定モードにおいて、イベント発生時刻よりも後の期間である第2対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の多項式近似を情報処理装置20が行っていることが分かる。
【0264】
また、第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、上記の式(69)に基づいてRoCoFを算出し、算出したRoCoFに基づいて、RoCoF法により交流連系系統Rの系統慣性を推定する。この場合に、情報処理装置20は、HPF-1の結果を用いてもよい。
【0265】
<第2推定モードにおけるイベント発生時刻及び系統慣性の推定方法>
以下、図11を参照し、第2推定モードにおけるイベント発生時刻及び系統慣性の推定方法について説明する。図11は、イベント発生時刻の前後における代表地点の電力の時間的な変化の一例を示す図である。
【0266】
図11に示したグラフの横軸は、時刻を示す。当該グラフの縦軸は、代表地点の電力を示す。当該グラフにプロットされた曲線PL2は、測定装置10により時刻毎に測定された当該電力を、時系列順に直線で繋いだ曲線の一例である。すなわち、曲線PL2は、代表地点の電力の波形(すなわち、当該電力の時間的な変化)の一例を示す。
【0267】
例えば、情報処理装置20のユーザーは、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた後、場合、図11に示したようなグラフに基づいて、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを決める。なお、第2推定モードにおける推定期間、第1時刻、第2時刻の決め方は、第1推定モードにおける推定期間、第1時刻、第2時刻の決め方と同様であってもよい。ここでは、第2推定モードにおける推定期間、第1時刻、第2時刻の決め方が、第1推定モードにおける推定期間、第1時刻、第2時刻の決め方と異なる場合について説明する。
【0268】
情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、図11に示したようなグラフを表示する。この際、情報処理装置20は、イベント発生時刻を含む期間を示す情報を受け付ける。そして、情報処理装置20は、予め記憶している電力情報の中から、受け付けた当該期間における代表地点の時刻毎の電力(非周波数測定値の一例)を示す電力情報(非周波数測定値情報の一例)を抽出する。情報処理装置20は、抽出した電力情報に基づいて、図11に示したようなグラフを生成し、生成したグラフを表示する。なお、情報処理装置20は、このようなグラフの表示を行わない構成であってもよい。この場合、図11に示したようなグラフは、他の装置により生成される。
【0269】
ここで、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた場合、代表地点の系統周波数の変化に伴い、代表地点の非周波数測定値も変化する。すなわち、当該場合、代表地点の電力も変化する。このため、情報処理装置20のユーザーは、情報処理装置20に表示されたグラフに基づいて、イベント発生時刻が含まれていると推定される期間を、推定期間として決めることができる。例えば、当該ユーザーは、代表地点の電力が第2所定値以上に変化したと目視にて判定可能な期間を含む期間を、推定期間として決める。これは、イベント発生時刻の前後において、代表地点の電力が第2所定値以上に変化するためである。第2所定値は、例えば、代表地点の電力についての数秒移動平均(例えば、5秒移動平均線)の5%程度であるが、これに限られるわけではない。なお、推定期間の決め方は、これに代えて、イベント発生時刻を含む期間を推定期間として決定可能な決め方であれば、他の決め方であってもよい。また、情報処理装置20は、抽出した電力情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、イベントが発生したと推定される期間を推定期間として特定する構成であってもよい。図11に示した期間PD3は、当該グラフに基づいて当該ユーザーにより決められた推定期間の一例である。
【0270】
次に、情報処理装置20のユーザーは、決めた推定期間に基づいて、第1時刻及び第2時刻を決める。当該推定期間を決めた後の第1時刻及び第2時刻の決め方は、第1推定モードにおける第1時刻及び第2時刻の決め方と同様であるため、詳細な説明を省略する。図11に示した時刻ts2は、当該推定期間に基づいて当該ユーザーにより決められた第1時刻の一例である。また、図11に示した時刻te2は、当該推定期間に基づいて当該ユーザーにより決められた第2時刻の一例である。なお、情報処理装置20は、抽出した電力情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、イベントが発生したと推定される期間を推定期間とともに、第1時刻及び第2時刻を特定する構成であってもよい。
【0271】
ここで、前述した通り、第1時刻である時刻ts2から第2時刻である時刻te2までの期間をn-1等分し、時刻ts2を時刻tとし、時刻te2を時刻tとすることにより、対象区間の任意の時刻を、tによって表すことができる。なお、図11に示した期間PD4は、図11における時刻tから時刻tまでの期間(時刻ts2から時刻te2までの期間)、すなわち、対象期間の一例である。
【0272】
情報処理装置20のユーザーは、このようにして決めた推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを、情報処理装置20に入力する。すなわち、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。情報処理装置20は、特定した第1時刻及び第2時刻に基づいて、対象期間を算出する。情報処理装置20は、予め記憶した電力情報の中から、算出した対象期間における電力情報を抽出する。情報処理装置20は、抽出した電力情報に基づいて、対象期間における代表地点の電力の波形にフィットさせるフィッティング関数を、目的関数を最小化する最適化問題を解くことにより推定する。以下では、一例として、第2推定モードにおいて、情報処理装置20が最小二乗法を用いて当該最適化問題を解くことによりフィッティング関数を推定する場合について説明する。
【0273】
ここで、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた場合、代表地点の電力は、ステップ関数的に変化することが知られている。より正確には、当該場合、代表地点だけではなく、交流連系系統R内の多くの地点では、電力がステップ関数的に変化することが知られている。そこで、情報処理装置20は、フィッティング関数を推定する際、イベント時刻の前後における当該電力の波形それぞれの直線近似を行う。すなわち、情報処理装置20は、フィッティング関数として、定数関数を用いる。このため、以下では、説明の便宜上、イベント発生時刻よりも前の当該電力をppre、イベント発生時刻よりも後の当該電力をppostによって示す。そして、情報処理装置20は、情報処理装置20がフィッティング関数を最小二乗法によって推定する際、第1対象期間におけるフィッティング関数に含まれる1つの実数係数(すなわち、ppre)、第2対象期間におけるフィッティング関数に含まれる1つの実数係数(すなわち、ppost)とともに、イベント発生時刻を未知数(フィッティングパラメーター)として扱う。なお、フィッティング関数は、定数関数に代えて、多項式、指数関数等の他の関数であってもよい。
【0274】
例えば、推定期間に含まれる各時刻を時刻候補tとして選択する場合、最小二乗法により最小化させる目的関数Jは、以下の式(70)~式(72)のように定式化される。
【0275】
【数70】
【0276】
【数71】
【0277】
【数72】
【0278】
上記の式(70)の右辺括弧内第1項は、測定装置10が時刻tに測定した電力を示す。式(70)の右辺括弧内第2項は、フィッティング関数であり、時刻に応じて式(71)又は式(72)により表される。時刻tから時刻tm-1までの第1対象期間では、フィッティング関数は、式(71)により表される。すなわち、式(71)により表されるフィッティング関数は、直線となる。一方、時刻tから時刻tまでの第2対象期間では、フィッティング関数は、式(72)により表される。このことから、上記の式(70)~式(72)を、以下の式(73)及び式(74)のように書き換えることができる。
【0279】
【数73】
【0280】
【数74】
【0281】
そして、上記の式(73)に基づく最小化問題は、以下の式(75)のように表される。
【0282】
【数75】
【0283】
また、上記の式(75)の解は、以下の式(76)のように表される。
【0284】
【数76】
【0285】
なお、上記の式(76)の導出方法については、一般的な最小二乗法における方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0286】
ここで、前述した通り、区間[tm1,tm2]は、推定期間を示す。すなわち、時刻tm1は、推定期間が始まる時刻を示す。また、時刻tm2は、推定期間が終わる時刻を示す。そして、区間[tm1,tm2]に含まれる個々の時刻が、時刻候補tとして選択される時刻である。
【0287】
上記の式(75)の最小化問題を解くことにより、対象期間における電力情報が示す電力の波形に最もフィットするフィッティング関数を推定することができるとともに、対象期間における電力情報が示す電力の波形にフィッティング関数が最もフィットする場合における時刻候補tをイベント発生時刻として推定することができる。
【0288】
なお、RoCoF法において用いるRoCoFは、このようにして推定されたイベント発生時刻を代入した式(75)の最小化問題を解くことにより得られる多項式を、時間について1回微分することによって得られる導関数に、イベント発生時刻を代入することで得られる。
【0289】
すなわち、第2推定モードにおいて、情報処理装置20は、算出した対象期間における電力情報を抽出した後、抽出した電力情報と、決定した推定期間に含まれる各時刻と、上記の式(75)とに基づく最小二乗法により、当該電力情報が示す電力の波形に最もフィットするフィッティング関数の推定と、イベント発生時刻の推定とを行う。換言すると、第2推定モードにおいて、情報処理装置20は、最小二乗法に基づいて、第1対象期間における電力情報が示す電力の波形の直線近似と、第2対象期間における電力情報が示す電力の波形の直線近似とを行うことにより、イベント発生時刻を推定する。このようなイベント発生時刻の推定でも、情報処理装置20は、推定期間にイベント発生時刻が含まれており、且つ、対象期間に推定期間が含まれている限り、推定期間と対象期間との選択についてどのような選択を行ったとしても、ほぼ同様の推定結果を得ることができる(当然ながら、推定を行う毎にフィッティング関数の関数形を代えた場合は、この限りではない)。従って、情報処理装置20は、第2推定モードにおいても、イベント発生時刻の推定についての客観性を向上させることができる。
【0290】
ここで、図12は、図11に示したグラフ上にフィッティング関数を重畳させた図である。図12において、当該グラフ上に重畳された関数FF2は、第2推定モードにおいて情報処理装置20により導出されたフィッティング関数の一例を示す。図12に示した時刻tv2は、当該フィッティング関数とともに情報処理装置20により推定されたイベント発生時刻の一例を示す。図12を見ると、第2推定モードにおいて、イベント発生時刻よりも前の期間である第1対象期間における電力情報が示す電力の波形の直線近似を情報処理装置20が行っていることが分かる。また、図12を見ると、第2推定モードにおいて、イベント発生時刻よりも後の期間である第2対象期間における電力情報が示す電力の波形の多項式近似を情報処理装置20が行っていることが分かる。
【0291】
また、第2推定モードにおいても、情報処理装置20は、イベント発生時刻を推定した後、推定したイベント発生時刻に基づいて、上記の式(70)~式(76)に基づいて、RoCoFを推定する。そして、情報処理装置20は、推定したRoCoFに基づいて、RoCoF法により交流連系系統Rの系統慣性を推定する。この場合に、情報処理装置20は、HPF-1の結果を用いてもよい。
【0292】
<第3推定モードにおけるイベント発生時刻及び系統慣性の推定方法>
以下、第3推定モードにおけるイベント発生時刻及び系統慣性の推定方法について説明する。
【0293】
第3推定モードにおけるイベント発生時刻の推定方法は、フィッティング関数の推定及びイベント発生時刻の推定を行う最適化問題において最小化させる目的関数として、上記の式(61)及び式(70)が線形結合された関数を用いる方法である。
【0294】
すなわち、第3推定モードにおいて、情報処理装置20は、以下の式(77)により表される最小化問題を解く。
【0295】
【数77】
【0296】
すなわち、第3推定モードにおいて、情報処理装置20は、第1推定モードにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数の推定と、第2推定モードにおける電力の波形にフィットさせるフィッティング関数の推定と、イベント発生時刻の推定とを一緒に行う。ここで、上記の式(77)のw、wのそれぞれは、式(77)における目的関数の線形結合における重みである。w、wのそれぞれは、以下の式(78)により定義される。なお、以下では、説明の便宜上、第1推定モードにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数を、第1フィッティング関数と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、第2推定モードにおける電力の波形にフィットさせるフィッティング関数と称して説明する。
【0297】
【数78】
【0298】
上記の式(78)のσは、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の分散である。式(78)のσは、対象期間における電力情報が示す電力の分散である。これら2つの分散のそれぞれを重みとして用いる理由としては、上記の式(78)により表される目的関数の右辺に含まれる2つの項のそれぞれが、誤差の二乗値であることが挙げられる。なお、このような重みとして、分散以外の他の量を用いる構成であってもよい。
【0299】
情報処理装置20のユーザーは、第1推定モード又は第2推定モードについての推定期間、第1時刻、第2時刻の決定方法と同じ方法により、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを決める。そして、情報処理装置20のユーザーは、決めた推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを、情報処理装置20に入力する。すなわち、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。情報処理装置20は、特定した第1時刻及び第2時刻に基づいて、対象期間を算出する。情報処理装置20は、予め記憶した電力情報の中から、算出した対象期間における周波数情報及び電力情報を抽出する。情報処理装置20は、抽出した周波数情報及び電力情報と、上記の式(77)及び式(78)とに基づいて、式(78)により表される目的関数を最小化する最適化問題を解く。これにより、情報処理装置20は、第1フィッティング関数及び第2フィッティング関数とともに、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形に第1フィッティング関数が最もフィットする場合、且つ、対象期間における電力情報が示す電力の波形に第2フィッティング関数が最もフィットする場合における時刻候補tをイベント発生時刻として推定する。
【0300】
なお、RoCoF法において用いるRoCoFを得る方法は、第1推定モードにおける方法であってもよく、第2推定モードにおける方法であってもよい。
【0301】
また、第3推定モードにおいても、情報処理装置20は、上記の式(69)に基づいてRoCoFを算出し、算出したRoCoFに基づいて、RoCoF法により交流連系系統Rの系統慣性を推定する。この場合に、情報処理装置20は、HPF-1の結果を用いてもよい。
【0302】
以上のように、本実施形態に係る情報処理システム1では、情報処理装置20において、第1実施形態に係るHPF-1の手法により得られる結果を、RoCoF法に応用することが可能である。
【0303】
なお、HPF-1以外の手法により得られる情報(例えば、慣性比)を、RoCoF法に応用する構成が実施されてもよい。
【0304】
(以上の実施形態について)
[第1の構成例]
一構成例として、情報処理装置20は、交流連系系統Rの動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて慣性比を推定する制御部26を備える。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、システム行列を、常時の位相角と回転速度との少なくとも一つの、一定期間の記録を用いて同定する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、同定に用いる測定量の少なくとも一つに、HPF又はBPFを適用する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、同定したシステム行列の一部Lと、それを構成する潮流感度行列Kの一般的特徴に基づいて、システム行列から慣性比を推定する。
一構成例として、情報処理装置20において、潮流感度行列Kの一般的特徴は、潮流感度行列Kの各列の合計が0であるという特徴である。
一構成例として、情報処理装置20において、潮流感度行列Kの一般的特徴は、潮流感度行列Kが対称行列であるという特徴である。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、潮流感度行列Kの対称性の度合いを数値的に指標化し、その指標値を最適化することで、慣性比を推定する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、位相角及び回転速度として、交流連系系統Rにある個別の発電機PP1~PPzの位相角及び回転速度、又は、複数の発電機(例えば、発電機PP1~PPzのうちの一部)を含む部分系統の代表的な位相角及び周波数のうちの少なくとも一方を用いる。例えば、交流連系系統内で、ある部分系統A1では個別の発電機の位相角及び回転速度を測ることができて、他の部分系統B1では代表発電機または代表変電所の位相角及び回転速度しか測れないことも考えられ、これら両方が用いられてもよい。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、システム行列の同定において、推定精度の向上を目的として、数値的な指標値に基づいて、互いに依存性の高い計測値の1以上を除外する。
【0305】
なお、以上のような情報処理装置20と同様な処理を実行する情報処理方法、あるいは、以上のような情報処理装置20と同様な処理を実現するプログラム(コンピュータのプログラム)が実施されてもよい。
一構成例として、情報処理方法は、交流連系系統Rの動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて慣性比を推定する。
一構成例として、プログラムは、コンピュータ(例えば、情報処理装置20を構成するコンピュータ)に、交流連系系統Rの動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて慣性比を推定するステップ、を実行させるためのプログラムである。
【0306】
[第2の構成例]
一構成例として、情報処理装置20は、交流連系系統Rを構成する各発電機PP1~PPzの回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機PP1~PPz別の慣性を推定する制御部26を備える。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、慣性比として、交流連系系統Rの動揺方程式の数値的に得られたシステム行列に基づいて推定された値を用いる。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、慣性の大きさに関する部分的情報の一つあたり、同定したシステム行列の一部Lと、同定した少なくとも一つの潮流感度ベクトルkから得る。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、システム行列を、常時の位相角と回転速度との少なくとも一つの、一定期間の記録を用いて同定する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、一つの潮流感度ベクトルkを、常時の位相角と回転速度との少なくとも一つと、電力値又はそれに準ずる計測値の少なくとも一つとについて、これら両方の一定期間の記録を用いて同定する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、同定に用いる測定量の少なくとも一つに、HPF又はBPFを適用する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、同定したシステム行列の一部Lと、それを構成する潮流感度行列Kの一般的特徴に基づいて、システム行列から慣性比を推定し、潮流感度行列Kの一般的特徴は、潮流感度行列Kの各列の合計が0であるという特徴、又は、潮流感度行列Kが対称行列であるという特徴の少なくとも一つであり、制御部26は、推定した慣性比に関する情報と、慣性の大きさに関する部分的情報の少なくとも一つの情報に基づいて、慣性を推定する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、発電機PP1~PPz別の慣性を推定するための件の成立度合いを全ての発電機PP1~PPzについて含む単一の数値的な指標にまとめ、その指標値を最適化することで、発電機PP1~PPz別の慣性を推定する。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、位相角及び回転速度として、交流連系系統Rにある個別の発電機PP1~PPzの位相角及び回転速度、又は、複数の発電機(例えば、発電機PP1~PPzのうちの一部)を含む部分系統の代表的な位相角及び周波数のうちの少なくとも一方を用いる。
一構成例として、情報処理装置20において、制御部26は、システム行列の同定において、慣性の推定精度の向上を目的として、数値的な指標値に基づいて、互いの一定時間内のコサイン類似度あるいは相関係数が一定値以上である2以上の計測値のうちの1以上を除外する。
【0307】
なお、以上のような情報処理装置20と同様な処理を実行する情報処理方法、あるいは、以上のような情報処理装置20と同様な処理を実現するプログラム(コンピュータのプログラム)が実施されてもよい。
一構成例として、情報処理方法は、交流連系系統Rを構成する各発電機PP1~PPzの回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機PP1~PPz別の慣性を推定する。
一構成例として、プログラムは、コンピュータ(例えば、情報処理装置20を構成するコンピュータ)に、交流連系系統Rを構成する各発電機PP1~PPzの回転体の慣性比と、慣性の大きさに関する部分的情報から、発電機PP1~PPz別の慣性を推定するステップ、を実行させるためのプログラムである。
【0308】
ここで、以上に示した任意の装置における任意の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録(記憶)して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、処理を行ってもよい。
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、オペレーティング・システム(OS:Operating System)あるいは周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えば、非一時的記録媒体である。
【0309】
さらに、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークあるいは電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーあるいはクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)あるいは電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0310】
以上に説明した任意の装置における任意の構成部の機能は、プロセッサーにより実現されてもよい。例えば、本実施形態における各処理は、プログラム等の情報に基づき動作するプロセッサーと、プログラム等の情報を記憶するコンピュータ読み取り可能な記録媒体により実現されてもよい。ここで、プロセッサーは、例えば、各部の機能が個別のハードウェアで実現されてもよく、あるいは、各部の機能が一体のハードウェアで実現されてもよい。例えば、プロセッサーはハードウェアを含み、当該ハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路のうちの少なくとも一方を含んでもよい。例えば、プロセッサーは、回路基板に実装された1又は複数の回路装置、あるいは、1又は複数の回路素子のうちの一方又は両方を用いて、構成されてもよい。回路装置としてはIC(Integrated Circuit)などが用いられてもよく、回路素子としては抵抗あるいはキャパシターなどが用いられてもよい。
【0311】
ここで、プロセッサーは、例えば、CPUであってもよい。ただし、プロセッサーは、CPUに限定されるものではなく、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)等のような、各種のプロセッサーが用いられてもよい。また、プロセッサーは、例えば、ASICによるハードウェア回路であってもよい。また、プロセッサーは、例えば、複数のCPUにより構成されていてもよく、あるいは、複数のASICによるハードウェア回路により構成されていてもよい。また、プロセッサーは、例えば、複数のCPUと、複数のASICによるハードウェア回路と、の組み合わせにより構成されていてもよい。また、プロセッサーは、例えば、アナログ信号を処理するアンプ回路あるいはフィルタ回路等のうちの1以上を含んでもよい。
【0312】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0313】
1…情報処理システム、10、PQ1~PQz…測定装置、20…情報処理装置、21…プロセッサー、22…記憶部、23…入力受付部、24…通信部、25…表示部、26…制御部、211…電力系統、212、312、412-1~412-3、421…PMU、213~214、313~314…HPF、215、315…推定演算部、261…取得部、262…推定部、263…表示制御部、264…記憶制御部、431-1~431-3、PP1~PPz…発電機、441…推定機能、1011~1013、1111~1113…基準特性、1021~1023、1121~1123…推定特性、FF1~FF2…関数、PL1~PL2…曲線、PD1~PD4…期間、R…交流連系系統、ts1~ts2、te1~te2、tv1~tv2…時刻
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