(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20241126BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20241126BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 110
H02J13/00 301B
(21)【出願番号】P 2021010138
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-11-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代電力ネットワーク安定化技術開発/研究開発項目[1]-2 慣性力等の低下に対応するための基盤技術の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】片岡 良彦
(72)【発明者】
【氏名】大原 尚
(72)【発明者】
【氏名】里 悠太
(72)【発明者】
【氏名】保坂 直貴
(72)【発明者】
【氏名】草柳 儀隆
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-238664(JP,A)
【文献】特開2017-099119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/38
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数を示す周波数情報のうち、前記周波数を変化させるイベントによる前記周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、前記イベントによる前記周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における前記周波数情報
と、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数をRoCoF(Rate of Change of Frequency)法によって推定するために導出された方程式とに基づいて、前
記制動係数を推定する、
情報処理装置。
【請求項2】
受け付けた操作に応じて、前記第1時刻、前記第2時刻のそれぞれを特定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第1時刻の候補、前記第2時刻の候補のそれぞれを推定し、推定した前記第1時刻の候補を前記第1時刻として特定し、推定した前記第2時刻の候補を前記第2時刻として特定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記制動係数は、前記交流連系系統に接続された負荷の周波数特性を示す周波数特性係数と、前記1つ以上の発電機それぞれの回転体の回転数の変動を抑制する制動要因を示す制動要因係数とを含む係数である、
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の多項式近似を行うことにより、前記制動係数を推定する、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
最小二乗法に基づいて、前記多項式近似を行う、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の指数関数による近似を行うことにより、前記制動係数を推定する、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数を示す周波数情報を取得し、
取得した前記周波数情報のうち、前記周波数を変化させるイベントによる前記周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、前記イベントによる前記周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における前記周波数情報
と、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数をRoCoF(Rate of Change of Frequency)法によって推定するために導出された方程式とに基づいて、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数を推定する、
情報処理方法。
【請求項9】
コンピューターに、
1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数を示す周波数情報を取得させ、
取得された前記周波数情報のうち、前記周波数を変化させるイベントによる前記周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、前記イベントによる前記周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における前記周波数情報
と、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数をRoCoF(Rate of Change of Frequency)法によって推定するために導出された方程式とに基づいて、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数を推定させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
交流連系系統の系統慣性を推定する技術についての研究、開発が行われている。交流連系系統は、1つ以上の発電機を含み、これら1つ以上の発電機による同期発電が行われる交流電力系統のことである。また、交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体(すなわち、発電機の回転子、タービン等)の慣性モーメントの総和のことである。
【0003】
ここで、交流連系系統では、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体は、すべて同期回転し、系統周波数として1つの周波数を作る。このため、交流連系系統における発電機の脱落等によって交流連系系統の系統慣性が変化すると、系統周波数が動揺する。系統周波数の動揺は、交流連系系統による電力の供給量に影響を与えることがある。従って、交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統による電力の安定供給の観点から、常に一定値以上であることが求められている。このような事情から、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定することが望まれることも少なくない。
【0004】
交流連系系統の系統慣性を推定する方法として、RoCoF(Rate of Change of Frequency)法が知られている。RoCoF法は、系統周波数が動揺した場合における系統周波数についてのRoCoF(すなわち、系統周波数の変化率)を推定し、推定したRoCoFに基づいて、交流連系系統の系統慣性を推定する方法のことである。
【0005】
ここで、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の運動エネルギーは、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の慣性モーメントと見做すことができる。これは、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の運動エネルギーが、回転体の慣性モーメントに、回転体の角速度の二乗(すなわち、回転体の周波数の二乗)を乗じることによって求められるからである。従って、交流連系系統では、交流連系系統の系統慣性を、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の運動エネルギーの総和として算出することができる。そして、このような運動エネルギーの総和は、運動エネルギーの総和を示す数式を時間微分することにより得られる動揺方程式によって、系統周波数についてのRoCoFと関係付けることができる。RoCoF法は、この動揺方程式を用いて、当該RoCoFに基づいて、交流連系系統の系統慣性(より正確には、当該系統慣性と見做すことができる運動エネルギーの総和)を求める方法である。本明細書では、RoCoF法が既知であるため、RoCoF法についてこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0006】
なお、交流連系系統において、系統周波数は、通常、時間的に小さく動揺しながらも、常に一定の範囲内の値を保つように制御されている。このため、RoCoF法により交流連系系統の系統慣性を推定するために用いるRoCoFを得るためには、当該範囲から逸脱するほど系統周波数が大きく変化する必要がある。そこで、RoCoF法による交流連系系統の系統慣性の推定では、交流連系系統からの発電機の脱落、交流連系系統に接続される負荷の脱落等のイベントが生じた場合における系統周波数についてのRoCoFが用いられることが多い。何故なら、当該場合、系統周波数は、ランプ状(1次関数的)に大きく変化することが知られているからである。これは、当該場合、代表地点において測定される電力が、ステップ状(階段関数状)に大きく変化するためである。代表地点は、交流連系系統に含まれる地点のうち系統周波数が測定される地点のことであり、例えば、変電所等である。
【0007】
これに関し、交流連系系統においてイベントが生じた時刻として、RoCoFが0.4[Hz/s]を下回った時刻を用いて、RoCoF法により、交流連系系統の系統慣性を推定する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】「実測結果に基づく系統周波数特性の推定手法の開発」、電力中央研究所報告、研究報告:T94016、平成7年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、交流連系系統においてイベントが生じた場合、イベントによる系統周波数の動揺は、イベントによる周波数の動揺を抑制する効果によって抑制されることが知られている。当該効果には、交流連系系統に接続されている負荷の周波数特性に基づく効果と、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の回転数の変動を抑制する制動要因に基づく効果とが含まれている。イベントによる周波数の動揺を抑制する効果が大きい場合、当該効果を示す制動係数の推定を伴わないRoCoF法は、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定できない場合がある。しかしながら、制動係数を推定する方法は、従来において、知られていない。
【0010】
なお、上記の周波数特性に基づく効果を示す係数の推定を行う方法と、上記の発電機それぞれの制動要因に基づく効果を示す係数の推定を行う方法とは、従来から知られている。しかしながら、制動係数は、偶然一致する場合を除いて、これら2種類の係数の単純な和(この和には、それぞれの発電機についての制動効果を示す係数の総和が含まれる)とはならない。このため、イベントによる周波数の動揺を抑制する効果に関わる従来の推定方法の組み合わせでは、制動係数を推定することができない。その結果、イベントによる周波数の動揺を抑制する効果が大きい場合、依然として、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定できない場合がある。また、電力系統に連系する発電機及び電源の数の増加、及び電力自由化により、個々の発電機及び電源の諸元又は運転状況を一元的に把握することが困難なケースも増加しており、これらのことも系統慣性、イベントによる周波数の動揺を抑制する効果を精度良く把握できない原因となっている。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、制動係数を精度よく推定することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数を示す周波数情報のうち、前記周波数を変化させるイベントによる前記周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、前記イベントによる前記周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における前記周波数情報と、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数をRoCoF(Rate of Change of Frequency)法によって推定するために導出された方程式とに基づいて、前記制動係数を推定する、情報処理装置である。
【0013】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、受け付けた操作に応じて、前記第1時刻、前記第2時刻のそれぞれを特定する、構成が用いられてもよい。
【0014】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、前記第1時刻の候補、前記第2時刻の候補のそれぞれを推定し、推定した前記第1時刻の候補を前記第1時刻として特定し、推定した前記第2時刻の候補を前記第2時刻として特定する、構成が用いられてもよい。
【0015】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、前記制動係数は、前記交流連系系統に接続された負荷の周波数特性を示す周波数特性係数と、前記1つ以上の発電機それぞれの回転体の回転数の変動を抑制する制動要因を示す制動要因係数とを含む係数である、構成が用いられてもよい。
【0016】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、前記対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の多項式近似を行うことにより、前記制動係数を推定する、構成が用いられてもよい。
【0017】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、最小二乗法に基づいて、前記多項式近似を行う、構成が用いられてもよい。
【0018】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、前記対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の指数関数による近似を行うことにより、前記制動係数を推定する、構成が用いられてもよい。
【0019】
また、本発明の他の態様は、1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数を示す周波数情報を取得し、取得した前記周波数情報のうち、前記周波数を変化させるイベントによる前記周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、前記イベントによる前記周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における前記周波数情報と、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数をRoCoF(Rate of Change of Frequency)法によって推定するために導出された方程式とに基づいて、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数を推定する、情報処理方法である。
【0020】
また、本発明の他の態様は、コンピューターに、1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数を示す周波数情報を取得させ、取得された前記周波数情報のうち、前記周波数を変化させるイベントによる前記周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、前記イベントによる前記周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における前記周波数情報と、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数をRoCoF(Rate of Change of Frequency)法によって推定するために導出された方程式とに基づいて、前記イベントによる前記周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数を推定させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、制動係数を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】情報処理システム1の構成の一例を示す図である。
【
図2】5次の多項式をフィッティング関数としてフィットさせた場合の系統周波数の波形の一例を示す図である。
【
図3】情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】情報処理装置20の機能構成の一例を示す図である。
【
図5】情報処理装置20が制動係数、交流連系系統Rの系統慣性のそれぞれを推定する処理の流れの一例を示す図である。
【
図6】数値検討に用いたモデル系統を説明するための図である。
【
図7】フィッティング関数として3次の多項式を用いた場合における制動係数の推定結果の一例を示す図である。
【
図8】フィッティング関数として2次の多項式を用いた場合における制動係数の推定結果の一例を示す図である。
【
図9】情報処理装置20が測定装置10から周波数情報と電力情報とを取得する処理の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下では、ある地点において測定された電力の周波数と称した場合、当該地点において測定された電圧の周波数、又は、当該地点において測定された電流の周波数のことを意味する。
【0024】
<情報処理システムの構成>
まず、実施形態に係る情報処理システム1の構成について説明する。
図1は、情報処理システム1の構成の一例を示す図である。
【0025】
情報処理システム1は、交流連系系統の系統慣性を推定する。
【0026】
ここで、交流連系系統は、1つ以上の発電機を含み、これら1つ以上の発電機による同期発電が行われる交流電力系統のことである。例えば、日本における中部、北陸、関西、中国、四国、九州から成る範囲の交流電力系統(中西系統と呼ばれることがある)は、交流連系系統の一例である。交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体(すなわち、発電機の回転子、タービン等)の慣性モーメントの総和のことである。以下では、一例として、情報処理システム1が、
図1に示した交流連系系統Rの系統慣性を推定する場合について説明する。
【0027】
交流連系系統Rは、1つ以上の発電機として、発電機PP1~発電機PP4の4つの発電機を含む。交流連系系統Rでは、これら4つの発電機による同期発電が行われる。また、交流連系系統Rでは、これら4つの発電機それぞれの回転体は、すべて同期回転し、系統周波数として1つの周波数を作る。ここで、系統周波数は、回転体の回転についての周波数であるが、交流連系系統Rに含まれる地点のうち系統周波数が測定される代表地点において測定される電力の周波数と実用上等価であることが知られている。このため、系統周波数の測定は、当該電力の周波数を測定することによって行われる。以下では、説明の便宜上、代表地点において測定される電力を、系統電力と称して説明する。なお、代表地点は、交流連系系統Rに含まれる地点のうち、系統周波数が測定される地点であれば、如何なる地点であってもよい。ここで、系統周波数は、前述した通り、系統電力の周波数として測定される。このため、代表地点は、交流連系系統Rにより供給される電力を測定可能な地点と換言することができる。例えば、代表地点は、交流連系系統R内に含まれる変電所等である。また、交流連系系統Rには、上記の4つの発電機に加えて、変電所等の他の設備が含まれている。しかしながら、
図1では、図を簡略化するため、当該他の設備が省略されている。また、交流連系系統Rは、3つ以下の発電機を含む構成であってもよく、5つ以上の発電機を含む構成であってもよい。系統周波数は、交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数の一例である。
【0028】
発電機PP1~発電機PP4のそれぞれは、例えば、火力発電、水力発電、原子力発電、太陽光発電、地熱発電、潮力発電等により電力の供給を行う発電機である。発電機PP1~発電機PP4のうちの一部又は全部は、互いに同じ種類の発電により電力の供給を行う発電機であってもよく、互いに異なる種類の発電により電力の供給を行う発電機であってもよい。
【0029】
また、情報処理システム1は、RoCoF(Rate of Change of Frequency)法に基づく方法により、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0030】
RoCoF法は、系統周波数が動揺した場合における系統周波数についてのRoCoF(すなわち、系統周波数の変化率)を推定し、推定したRoCoFに基づいて、交流連系系統の系統慣性を推定する方法のことである。一般的な交流連系系統において、系統周波数は、通常、時間的に小さく動揺しながらも、常に一定の範囲内の値を保つように制御されている。これは、交流連系系統Rについても同様である。このため、RoCoF法により交流連系系統Rの系統慣性を推定するために用いるRoCoFを得るためには、当該範囲から逸脱するほど系統周波数が大きく変化する必要がある。そこで、RoCoF法による交流連系系統の系統慣性の推定では、交流連系系統からの発電機の脱落、交流連系系統に接続される負荷の脱落等のイベントが生じた場合における系統周波数についてのRoCoFが用いられることが多い。何故なら、当該場合、系統周波数は、ランプ状(1次関数的)に大きく変化することが知られているからである。これは、当該場合、系統電力が、当該場合、代表地点を含む多くの地点で、ステップ状(階段関数状)に大きく変化するためである。
【0031】
ここで、交流連系系統においてイベントが生じた場合、イベントによる系統周波数の動揺は、イベントによる系統周波数の動揺を抑制する効果によって抑制されることが知られている。すなわち、交流連系系統Rにおいてイベントが生じた場合、イベントによる系統周波数の動揺は、イベントによる系統周波数の動揺を抑制する効果によって抑制される。当該効果には、交流連系系統Rに接続されている図示しない負荷の周波数特性に基づく効果と、交流連系系統Rに含まれる4つの発電機それぞれの回転体の回転数の変動を抑制する制動要因に基づく効果とが含まれている。本実施形態では、イベントによる系統周波数の動揺を抑制する効果を示す係数を、制動係数と称して説明する。制動係数が示す効果が大きい場合、制動係数の推定を伴わないRoCoF法は、交流連系系統Rの系統慣性を精度よく推定できない場合がある。しかしながら、制動係数の推定を伴うRoCoF法は、従来において、知られていない。
【0032】
そこで、情報処理システム1は、イベントによる系統周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、イベントによる系統周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における周波数情報に基づいて、イベントによる系統周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数を推定する。そして、情報処理システム1は、推定した制動係数に基づくRoCoF法により、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。これにより、情報処理システム1は、制動係数を精度よく推定することができる。
【0033】
情報処理システム1は、測定装置10と、情報処理装置20を備える。
【0034】
測定装置10は、交流連系系統R内の予め決められた代表地点に設けられる。測定装置10は、時刻毎の系統周波数と、時刻毎の系統電力に応じた値(例えば、電圧、電流、位相角、及び系統電力そのもの等)とを測定する。測定装置10は、例えば、PMU(Phasor Measurement Unit)である。以下では、説明の便宜上、測定装置10が測定する値のうち系統周波数を除く測定値を、非周波数測定値と称して説明する。なお、測定装置10は、時刻毎の系統周波数を測定し、時刻毎の非周波数測定値を測定しない構成であってもよい。この場合、情報処理装置20は、測定装置10と異なる他の装置から、時刻毎の非周波数測定値を示す非周波数測定値情報を取得する。また、測定装置10は、時刻毎の系統周波数を測定せず、時刻毎の非周波数測定値を測定する構成であってもよい。この場合、情報処理装置20は、測定装置10と異なる他の装置から、時刻毎の系統周波数を示す周波数情報を取得する。
【0035】
測定装置10は、無線又は有線により、情報処理装置20と通信可能に接続される。
【0036】
情報処理装置20は、時刻毎に測定装置10により測定された系統周波数を示す周波数情報を、測定装置10から取得する。情報処理装置20は、取得した周波数情報を時刻毎に記憶する。また、情報処理装置20は、時刻毎に測定装置10により測定された非周波数測定値を示す非周波数測定値情報を、時刻毎に測定装置10から取得する。情報処理装置20は、取得した非周波数測定値情報を、時刻毎に記憶する。なお、情報処理装置20は、測定装置10が非周波数測定値を測定しない場合、非周波数測定値情報を測定装置10から取得しない。
【0037】
情報処理装置20は、測定装置10から取得した周波数情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う。
【0038】
より具体的には、情報処理装置20は、予め記憶した周波数情報のうち、受け付けた操作に応じた期間の周波数情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。例えば、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。そして、情報処理装置20は、時刻毎の系統周波数を示す周波数情報のうち、特定した第1時刻から、特定した第2時刻までの対象期間における周波数情報に基づいて、当該系統慣性を推定する。第1時刻は、イベントによる系統周波数の動揺が始まったと推定される時刻のことである。第2時刻は、イベントによる系統周波数の動揺が終わったと推定される時刻のことである。なお、情報処理装置20は、例えば、予め記憶した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、第1時刻の候補、第2時刻の候補のそれぞれを推定し、推定した第1時刻の候補を第1時刻として特定し、推定した第2時刻の候補を第2時刻として特定する構成であってもよい。また、上記において説明したユーザーによる第1時刻、第2時刻の決定は、機械学習等の機能によりユーザーの介在なしに自動的に、又は、ユーザーによる部分的な介在を伴い半自動的に、行われてもよい。
【0039】
交流連系系統Rの系統慣性を推定する際、情報処理装置20は、対象期間における周波数情報に基づいて、イベントによる系統周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数を推定する。これにより、情報処理装置20は、制動係数を精度よく推定することができる。なお、制動係数は、交流連系系統Rに接続された負荷の周波数特性を示す周波数特性係数と、交流連系系統Rに含まれる4つの発電機それぞれの回転体の回転数の変動を抑制する制動要因を示す制動要因係数とを含む係数のことである。
【0040】
<制動係数と系統慣性それぞれの推定方法>
以下、制動係数と、交流連系系統Rの系統慣性とのそれぞれの推定方法について説明する。
【0041】
情報処理装置20は、RoCoF法に基づく方法により、制動係数の推定と、交流連系系統Rの系統慣性の推定とを行う。
【0042】
ここで、RoCoF法では、交流連系系統Rにおける系統周波数の時間的な変化を表す動揺方程式(運動方程式)は、以下の式(1)によって表される。ただし、以下の式(1)では、交流連系系統Rから脱落した発電機により供給されていた電力の符号を正とするノーテーションが用いられている。
【0043】
【0044】
上記の式(1)におけるfは、系統周波数を示す。式(1)におけるtは、経過時間を示す。すなわち、式(1)の左辺は、系統周波数の変化率、すなわち、RoCoFを示す。式(1)におけるfsは、公称の系統周波数を示す。式(1)におけるEsysは、交流連系系統Rの系統慣性を示す。式(1)におけるΔPeは、イベントによって変化した系統電力の変化分を示す。
【0045】
ここで、制動係数は、前述した通り、系統周波数の動揺を抑制する効果を示す係数である。これは、制動係数が、イベントによる系統周波数の偏差(すなわち、イベントによる系統周波数の変化分)に比例した係数であると換言することができる。そこで、上記の式(1)のΔPeを、以下の式(2)のように置き換えることにより、運動方程式に制動係数を含めることができる。
【0046】
【0047】
上記の式(2)のDは、制動係数である。なお、Dの単位は、[pu/Hz]である。式(2)のL0は、公称の系統周波数fsにおける残存負荷の大きさである。なお、L0の単位は、[W]である。そして、式(2)のΔfは、イベントによる系統周波数の偏差である。以下では、説明の便宜上、式(2)におけるDL0Δfを、制動項と称して説明する。制動項の大きさの主要な変動要因は、Δfである。
【0048】
制動係数が示す効果が小さい場合、イベントが生じた場合の系統周波数の変化は、ランプ状の変化として近似することができる。すなわち、制動係数が示す効果を無視できるような状況下では、系統周波数についての動揺方程式として、近似的に上記の式(1)が成り立つ。一方、制動係数が示す効果を無視できないような状況下では、系統周波数についての動揺方程式は、式(2)によって表される。当該場合における実際の系統周波数の変化は、ランプ状の変化からずれることが多い。これは、実環境下では、制動係数が示す効果を無視できないことを示している。
【0049】
式(2)は、イベントが生じた場合において、系統周波数が指数関数的に変化し、一定の値に収束していくことを示している。これは、制動項の絶対値が、Δfの増大に応じてΔPeに近づき、Δfの変化率(すなわち、式(2)の左辺の値)が小さくなることから明らかである。すなわち、Δfの変化率は、イベントが生じた後、時間の経過とともに定常状態に至る。なお、これはあくまでも模型化された数式上の話であり、現実の現象と必ずしも一致しているわけではない。しかしながら、式(2)から得られる結果は、後述するように、現実の現象を上手く説明できている。すなわち、式(2)は、理論として有用である。このため、情報処理装置20は、上記の式(2)に基づいて得られる結果を用いて、制動係数の推定を行う。
【0050】
ここで、上記のような定常状態では、上記の式(2)の右辺の括弧内は、ゼロになっているはずである。このため、定常状態では、定常状態におけるΔfをΔfssによって示す場合、以下の式(3)が成り立つ。
【0051】
【0052】
上記の式(3)に基づいて、式(2)は、以下のように書き換えることができる。
【0053】
【0054】
上記の式(4)は、解析的に解くことができ、Δfは、以下の式(5)、式(6)のように算出される。
【0055】
【0056】
【0057】
ただし、上記の式(5)は、イベントが発生した時刻tを、t=0とした場合の式である。
【0058】
ここで、イベントが発生してから、イベントによる系統周波数の動揺に対してガバナー等の影響が顕著に現れるまでの短期間における系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)にフィットするフィッティング関数を推定することにより、上記の式(5)を用いて、制動係数と、交流連系系統Rの系統慣性とのそれぞれを推定することができる。なお、フィッティング関数としては、指数関数、2次以上の多項式等を用いることができる。
【0059】
イベントが発生した時刻において上記の式(5)を1階微分することにより、以下の式(7)のように、RoCoFを得ることができる。
【0060】
【0061】
上記の式(7)の最左辺は、イベントが発生した時刻におけるRoCoFである。式(7)を見れば分かる通り、当該RoCoFは、制動係数による影響を受けない。一方、イベントが発生した時刻において上記の式(5)を2階微分することにより、以下の式(8)を得ることができる。
【0062】
【0063】
上記の式(8)を変形することにより、制動係数を求める式として、以下の式(9)が得られる。
【0064】
【0065】
情報処理装置20は、上記の式(9)に基づいて、制動係数を推定する。なお、系統周波数の波形にフィットするフィッティング関数の推定方法は、如何なる方法であってもよい。例えば、情報処理装置20は、当該推定方法として、非特許文献として挙げた電力中央研究所報告に記載された方法を用いてもよく、他の方法を用いてもよい。
【0066】
例えば、情報処理装置20により推定されるフィッティング関数が5次の多項式である場合、フィッティング関数、フィッティング関数の1階微分、フィッティング関数の2階微分のそれぞれは、以下の式(10)~式(12)のように得られる。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
上記の式(10)は、情報処理装置20により推定されたフィッティング関数の一例である。ここで、上記の式(10)に含まれるa0、a1、a2、a3、a4、a5のそれぞれは、実数係数であり、フィッティングパラメーターである。式(11)は、当該フィッティング関数の1階微分の一例である。式(12)は、当該フィッティング関数の2階微分の一例である。
【0071】
ここで、
図2は、5次の多項式をフィッティング関数としてフィットさせた場合の系統周波数の波形の一例を示す図である。
図2に示したグラフの横軸は、時刻を示す。当該グラフの縦軸は、代表地点の系統周波数を示す。当該グラフにプロットされた曲線PL1は、測定装置10により時刻毎に測定された系統周波数を、時系列順に直線で繋いだ曲線の一例である。すなわち、曲線PL1は、代表地点の系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)の一例を示す。また、
図2に示した時刻ts1は、前述の第1時刻、すなわち、イベントが始まったと推定される時刻の一例である。また、
図2に示した時刻te1は、前述の第2時刻、すなわち、イベントが終わったと推定される時刻の一例である。そして、曲線FF1は、曲線PL1にフィットさせたフィッティング関数の一例を示す。このようなフィッティングを行うことにより、情報処理装置20は、上記の式(10)を推定する。そして、情報処理装置20は、上記の式(10)の微分を行うことにより、上記の式(11)及び式(12)を導出する。その結果、情報処理装置20は、上記の式(9)に基づいて、制動係数を推定することができる。また、情報処理装置20は、上記の式(7)及び式(11)に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行うことができる。
【0072】
なお、前述した通り、系統周波数の波形にフィットするフィッティング関数は、多項式に代えて、指数関数であってもよい。この場合、フィッティング関数は、上記の式(5)に基づいて、以下の式(13)のように定義することができる。
【0073】
【0074】
ここで、上記の式(13)におけるAは、実数係数であり、フィッティングパラメーターである。式(13)のようにフィッティング関数を定義し、式(5)と比較することにより、情報処理装置20は、与えられたΔPe、L0を使ってDを推定することができる。また、情報処理装置20は、当該フィッティング関数に基づくフィッティングによって、式(13)におけるσを推定ことができ、推定したσと、上記の式(6)とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定することができる。なお、当該フィッティング関数に基づくフィッティングは、例えば、一般的な指数回帰計算によって行うことができるが、他の方法により行われてもよい。
【0075】
<情報処理装置のハードウェア構成>
以下、
図3を参照し、情報処理装置20のハードウェア構成について説明する。
図3は、情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0076】
情報処理装置20は、例えば、プロセッサー21と、記憶部22と、入力受付部23と、通信部24と、表示部25を備える。これらの構成要素は、バスを介して相互に通信可能に接続されている。また、情報処理装置20は、通信部24を介して測定装置10等と通信を行う。
【0077】
プロセッサー21は、情報処理装置20の全体を制御する。プロセッサー21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。なお、プロセッサー21は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の他のプロセッサーであってもよい。プロセッサー21は、記憶部22に格納された各種のプログラムを実行する。
【0078】
記憶部22は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部22は、情報処理装置20に内蔵されるものに代えて、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。記憶部22は、情報処理装置20が処理する各種の情報、各種の画像、各種のプログラム等を格納する。
【0079】
入力受付部23は、キーボード、マウス、タッチパッド等の入力装置である。なお、入力受付部23は、表示部25と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。
【0080】
通信部24は、例えば、アンテナ、USB等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等を含んで構成される。
【0081】
表示部25は、例えば、液晶ディスプレイパネル、あるいは、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイパネル等を含む表示装置である。
【0082】
<情報処理装置の機能構成>
以下、
図4を参照し、情報処理装置20の機能構成について説明する。
図4は、情報処理装置20の機能構成の一例を示す図である。
【0083】
情報処理装置20は、記憶部22と、入力受付部23と、通信部24と、表示部25と、制御部26を備える。
【0084】
制御部26は、情報処理装置20の全体を制御する。制御部26は、例えば、取得部261と、推定部262と、表示制御部263と、記憶制御部264を備える。制御部26が備えるこれらの機能部は、例えば、プロセッサー21が、記憶部22に記憶された各種のプログラムを実行することにより実現される。また、当該機能部のうちの一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア機能部であってもよい。
【0085】
取得部261は、各種の情報を取得する。例えば、取得部261は、測定装置10から周波数情報を取得する。また、例えば、取得部261は、測定装置10から非周波数測定値情報を取得する。
【0086】
推定部262は、各種の推定を行う。例えば、推定部262は、制動係数とともに、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0087】
表示制御部263は、各種の画像を生成する。表示制御部263は、生成した画像を、表示部25に表示させる。
【0088】
記憶制御部264は、取得部261により取得された各種の情報を、記憶部22に記憶させる。
【0089】
<情報処理装置が制動係数、系統慣性のそれぞれを推定する処理>
以下、
図5を参照し、情報処理装置20が制動係数、交流連系系統Rの系統慣性のそれぞれを推定する処理について説明する。
図5は、情報処理装置20が制動係数、交流連系系統Rの系統慣性のそれぞれを推定する処理の流れの一例を示す図である。以下では、一例として、情報処理装置20が、
図8に示したステップS110の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、当該処理を開始する操作を受け付けている場合について説明する。また、以下では、一例として、情報処理装置20のユーザーが、当該タイミングにおいて、第1時刻、第2時刻のそれぞれを決めている場合について説明する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、当該タイミングよりも過去の時刻毎の周波数情報が記憶部22に記憶されている場合について説明する。なお、当該ユーザーは、例えば、第1時刻及び第2時刻のそれぞれを、
図2に示したような系統周波数の波形に基づいて、目視によって第1時刻及び第2時刻のそれぞれを決定してもよく、他の方法により第1時刻及び第2時刻を決定してもよい。
【0090】
推定部262は、第1時刻、第2時刻のそれぞれを入力する操作を受け付けるまで待機する(ステップS110)。
【0091】
推定部262は、第1時刻、第2時刻のそれぞれを入力する操作を受け付けたと判定した場合(ステップS110-YES)、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する(ステップS120)。
図8では、ステップS120の処理を、「時刻特定」として示している。
【0092】
次に、推定部262は、ステップS120において特定した第1時刻及び第2時刻に基づいて、対象期間を算出する。そして、推定部262は、情報処理装置20の動作モードに応じて、算出した対象期間における周波数情報を記憶部22から抽出して読み出す(ステップS130)。
【0093】
次に、推定部262は、ステップS130において記憶部22から読み出した周波数情報に基づいて、当該周波数情報が示す系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数の推定を行うことにより、制動係数の推定を行う(ステップS140)。なお、ステップS140の推定を行う方法については、既に説明済であるため、説明を省略する。
【0094】
次に、推定部262は、ステップS140における推定結果に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する(ステップS150)。ステップS150の推定を行う方法については、既に説明済であるため、説明を省略する。
【0095】
次に、表示制御部263は、ステップS140において推定部262が推定した制動係数を示す情報と、ステップS150において推定部262が推定した系統慣性を示す情報とのそれぞれを、表示部25に表示させ(ステップS160)、
図5に示したフローチャートの処理を終了する。
【0096】
<制動係数の推定の数値的検証>
以下、
図5に示したフローチャートの処理によって行われた制動係数の推定の数値的検証について説明する。なお、当該数値的検証には、数式モデルで表現された三つの発電機で構成するモデル系統が使用されている。ここで、
図6は、モデル系統を説明するための図である。今回使用したモデル系統は、発電機G1~発電機G3の3つの発電機と、負荷L1及び負荷L2の2つの負荷とが
図6に示したように接続された交流連系系統Xを数値的に再現している。発電機G1には、計測ユニットP1が設けられている。発電機G2には、計測ユニットP2が設けられている。発電機G3には、計測ユニットP3が設けられている。計測ユニットP1~計測ユニットP3のそれぞれは、PMUである。このようなモデル系統において、発電機G2に機械入力として外乱EXを与える。この外乱EXは、モデル系統における擬似的なイベントの一例である。
【0097】
このようなモデル系統を用いて、0.00~0.08[pu/Hz]の範囲内で0.02[pu/Hz]毎に負荷L1及び負荷L2に与えた周波数特性を変化させ、周波数特性を変化させる毎に、上記において説明した推定方法に基づいて制動係数の推定を行った。このような方法では、制動係数は、この周波数特性と一致する。
【0098】
ここで、
図7は、フィッティング関数として3次の多項式を用いた場合における制動係数の推定結果の一例を示す図である。
図8は、フィッティング関数として2次の多項式を用いた場合における制動係数の推定結果の一例を示す図である。
【0099】
図7及び
図8に示したグラフの横軸は、負荷L1及び負荷L2に与えた周波数特性を示す。また、当該グラフの縦軸は、推定された制動係数を示す。
図7と
図8を比較すると、フィッティング関数の次数に応じて、推定された制動係数の大きさが異なっている。しかしながら、
図7に示したグラフと
図8に示したグラフとは、両方とも、負荷L1及び負荷L2に与えた周波数特性の30%台ではあるが、設定値の増加の傾向を線形に捉えた結果となっている。従って、上記において説明した制動係数の推定方法は、制動係数の変化の傾向を上手く捉えることに成功していると言える。
【0100】
なお、このようにして推定した制動係数とともに推定された交流連系系統Xの系統慣性の推定誤差は、フィッティング関数として3次の多項式を用いた場合が9%、フィッティング関数として2次の多項式を用いた場合が-1%~+0%程度であった。このことから、情報処理装置20は、上記において説明した推定方法により交流連系系統Xの制動係数とともに、系統慣性も精度よく推定することができていることが分かる。
【0101】
<情報処理装置が測定装置から情報を取得する処理>
以下、
図9を参照し、情報処理装置20が測定装置10から情報を取得する処理について説明する。以下では、一例として、情報処理装置20が測定装置10から周波数情報とともに電力情報を取得する場合について説明する。
図9は、情報処理装置20が測定装置10から周波数情報と電力情報とを取得する処理の流れの一例を示す図である。情報処理装置20は、例えば、測定装置10から情報を取得する処理を開始する操作を受け付けた場合、測定装置10から情報を取得する処理を終了する操作を受け付けるまでの間、所定のサンプリング周期が経過する毎に、
図9に示したフローチャートの処理を繰り返し行う。
【0102】
取得部261は、測定装置10から周波数情報及び電力情報を取得する(ステップS210)。
図11では、ステップS210の処理を、「情報取得」として示している。なお、取得部261は、周波数情報及び電力情報を取得する要求を測定装置10へ出力することにより、周波数情報及び電力情報を測定装置10から取得する構成であってもよい。また、取得部261は、測定装置10から出力された周波数情報及び電力情報を測定装置10から取得する構成であってもよい。
【0103】
次に、記憶制御部264は、ステップS210において取得部261により取得された周波数情報及び電力情報を、記憶部22に記憶させ(ステップS220)、処理を終了する。
【0104】
なお、情報処理装置20は、周波数情報と電力情報とのそれぞれを異なるタイミングで取得する構成であってもよい。また、情報処理装置20は、周波数情報と電力情報とのそれぞれを異なるタイミングで記憶部22に記憶させる構成であってもよい。
【0105】
以上のように、実施形態に係る情報処理装置(上記において説明した例では、情報処理装置20)は、1つ以上の発電機(上記において説明した例では、発電機PP1~発電機PP4)を含む交流連系系統(上記において説明した例では、交流連系系統R)内の予め決められた地点(上記において説明した例では、代表地点)における時刻毎の電力の周波数(上記において説明した例では、系統周波数)を示す周波数情報のうち、周波数を変化させるイベントによる周波数の動揺が始まったと推定される第1時刻から、イベントによる周波数の動揺が終わったと推定される第2時刻までの対象期間における周波数情報に基づいて、イベントによる周波数の動揺を抑制する効果を示す制動係数を推定する。これにより、情報処理装置は、制動係数を精度よく推定することができる。
【0106】
また、情報処理装置は、受け付けた操作に応じて、第1時刻(上記において説明した例では、時刻ts1)、第2時刻(上記において説明した例では、時刻te1)のそれぞれを特定する、構成が用いられてもよい。
【0107】
また、情報処理装置は、第1時刻の候補、第2時刻の候補のそれぞれを推定し、推定した第1時刻の候補を第1時刻として特定し、推定した第2時刻の候補を第2時刻として特定する、構成が用いられてもよい。
【0108】
また、情報処理装置では、制動係数は、交流連系系統に接続された負荷の周波数特性を示す周波数特性係数と、1つ以上の発電機それぞれの回転体の回転数の変動を抑制する制動要因を示す制動要因係数とを含む係数である、構成が用いられてもよい。
【0109】
また、情報処理装置は、対象期間における周波数情報が示す周波数の波形の多項式近似を行うことにより、制動係数を推定する、構成が用いられてもよい。
【0110】
また、情報処理装置は、最小二乗法に基づいて、前記多項式近似を行う、構成が用いられてもよい。
【0111】
また、情報処理装置は、前記対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の指数関数による近似を行うことにより、前記制動係数を推定する、構成が用いられてもよい。
【0112】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0113】
また、以上に説明した装置における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピューターシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。ここで、当該装置は、例えば、測定装置10、情報処理装置20等である。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)-ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0114】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピューターシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピューターシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル又は差分プログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…情報処理システム、10…測定装置、20…情報処理装置、21…プロセッサー、22…記憶部、23…入力受付部、24…通信部、25…表示部、26…制御部、261…取得部、262…推定部、263…表示制御部、264…記憶制御部、PP1~PP4…発電機、R…交流連系系統