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  • 特許-車両用駆動装置の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
F16H61/14 601F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021011454
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114951
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 慎平
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-076667(JP,A)
【文献】特開2010-156377(JP,A)
【文献】特開2003-161368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、
前記内燃機関の回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、
前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、
前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、
を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記ロックアップクラッチの締結又は解放を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記変速機構の変速段を切り替える変速動作中であって前記変速クラッチが前記遮断状態で、前記ロックアップクラッチの締結を完了し、
前記ロックアップクラッチの解放状態から締結状態への切替中に変速指示がなされた場合、前記ロックアップクラッチの締結度合いに応じて前記変速動作を遅らせることを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
内燃機関に接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、
前記内燃機関の回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、
前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、
前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、
を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記ロックアップクラッチの締結又は解放を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記変速機構の変速段を切り替える変速動作中であって前記変速クラッチが前記遮断状態で、前記ロックアップクラッチの締結を完了し、
記ロックアップクラッチの解放状態から締結状態への切替中に変速指示がなされた場合、前記ロックアップクラッチに対する指示圧を第1の圧として前記ロックアップクラッチを締結前状態で待機させ、前記変速クラッチが前記遮断状態になった後に前記指示圧を前記ロックアップクラッチを完全に締結させる第2の圧に高めることを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ロックアップクラッチの解放状態から締結状態への切替中に変速指示がなされた場合、前記ロックアップクラッチの締結度合いに応じて前記変速動作を遅らせることを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記内燃機関の回転数と前記トルクコンバータの出力側の回転数との差が所定値以下であることを条件に、前記ロックアップクラッチの締結を完了することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、順に接続されたエンジン、ロックアップ機構付きトルクコンバータ、クラッチ装置及び自動変速機と、制御手段とを備えた車両の制御システムであって、クラッチ装置の入力軸の回転数を測定する第1回転センサと、エンジンのクランク軸の回転数を測定する第2回転センサと、車両のアクセルの車速を測定する車速センサとを設置したものが開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の車両の制御システムにおいて、制御手段は、車速センサの測定値が予め設定されたしきい値に達したときは、第1回転センサの測定値と第2回転センサの測定値とを比較して、自動変速機がギヤイン状態であってかつクラッチ装置が接状態であるときに、第1回転センサの測定値の方が大きい場合には、次の制御を行う。
【0004】
すなわち、当該制御手段は、クラッチ装置を半クラッチ状態にするとともに、エンジンのエンジン回転数を増加させ、第1回転センサの測定値に対する第2回転センサの測定値の比が、予め設定された範囲内になったときには、トルクコンバータのロックアップ機構をロックアップするとともに、クラッチ装置を接状態にする制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-58005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと変速機構との間に変速クラッチを備えるような構成の車両用駆動装置にあっては、変速クラッチの制御に影響を与えないために、変速動作中はロックアップクラッチの状態を変更しないようにすることが考えられる。
【0007】
この場合、変速が完了するまでロックアップクラッチの締結動作を実行できないため、ロックアップ領域を拡大できない。このため、上述したような構成の車両用駆動装置においては、変速クラッチの制御に影響を与えることなくロックアップ領域を拡大することが望ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の車両の制御システムにあっては、変速動作中のクラッチ装置及びロックアップ機構の制御については何ら考慮されておらず、未だ改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、変速クラッチの制御に影響を与えることなくロックアップ領域を拡大することができる車両用駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、内燃機関に接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、前記内燃機関の回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、前記ロックアップクラッチの締結又は解放を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記変速機構の変速段を切り替える変速動作中であって前記変速クラッチが前記遮断状態で、前記ロックアップクラッチの締結を完了し、前記ロックアップクラッチの解放状態から締結状態への切替中に変速指示がなされた場合、前記ロックアップクラッチの締結度合いに応じて前記変速動作を遅らせる構成を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変速クラッチの制御に影響を与えることなくロックアップ領域を拡大することができる車両用駆動装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置によって実行されるロックアップ制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両におけるロックアップクラッチの解放状態から締結状態への切替中に変速指示がなされた場合のタイミングチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、内燃機関に接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、内燃機関の回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、トルクコンバータと変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、ロックアップクラッチの締結又は解放を制御する制御部を備え、制御部は、変速機構の変速段を切り替える変速動作中であって変速クラッチが遮断状態で、ロックアップクラッチの締結を完了することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、変速クラッチの制御に影響を与えることなくロックアップ領域を拡大することができる。
【実施例
【0014】
以下、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両について図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、車両用駆動装置としての自動変速機3と、駆動輪4と、制御部としての制御装置10と、を含んで構成されている。
【0016】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。エンジン2は、車両1の動力源である。
【0017】
自動変速機3は、エンジン2と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられている。自動変速機3は、トルクコンバータ30と、変速機構31と、変速クラッチ32と、クラッチアクチュエータ33と、を有している。
【0018】
トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ35を有する、いわゆるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータである。トルクコンバータ30は、エンジン2と変速クラッチ32との間の動力伝達経路に設けられ、流体を介して動力の伝達を行いタービン軸36に出力する。
【0019】
タービン軸36には、変速クラッチ32が接続されている。トルクコンバータ30は、エンジン2のクランク軸21から入力されるトルク(駆動力)を、流体を介することにより回転差にて増幅してタービン軸36および変速クラッチ32に出力する。そして、トルクコンバータ30の出力は、タービン軸36および変速クラッチ32を介して変速機構31に伝達される。
【0020】
トルクコンバータ30の内部は、ロックアップクラッチ35を境にして図示しないアプライ室とリリース室とに区画されている。アプライ室又はリリース室には作動油が供給され、供給される作動油の油圧(作動油圧)によってロックアップクラッチ35の作動状態を切り替えるようになっている。
【0021】
ロックアップクラッチ35は、トルクコンバータ30内に設けられ、エンジン2のクランク軸21とタービン軸36とが一体的に回転して動力伝達するように接続(以下、「直結」という)する締結状態と、クランク軸21とタービン軸36との直結を解除して流体(作動油)を介してクランク軸21とタービン軸36とが動力伝達をする解放状態と、の間で作動状態が切り替えられるようになっている。
【0022】
ロックアップクラッチ35は、アプライ室に作動油圧(以下、この作動油圧を「締結油圧」という)が供給されてリリース室から作動油が排出されることで、締結状態に切り替えられる。逆に、ロックアップクラッチ35は、リリース室に作動油圧(以下、この作動油圧を「解放油圧」という)が供給されてアプライ室から作動油が排出されることで、解放状態に切り替えられる。
【0023】
変速機構31は、変速クラッチ32と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられ、変速クラッチ32に接続された入力軸37と、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に接続された出力軸38と、を有する。変速機構31は、変速クラッチ32から入力軸37に入力される駆動力を変換および回転速度を変速して、出力軸38から出力する。
【0024】
変速機構31は、エンジン2から出力され、入力軸37に伝達されたエンジン2の回転を、後述する複数の変速段のうち選択されたいずれかの変速段に応じた変速比で変速して出力軸38に出力する。出力軸38に出力された回転や駆動力は、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に伝達される。
【0025】
変速機構31は、歯数比の異なる複数のギヤ対によって変速比の異なる複数の変速段を形成可能に構成されている。変速機構31における変速段の切替は、図示しないシフトアクチュエータによって自動で行われるようになっている。詳細には、制御装置10が、車速及びアクセルペダルの踏込み量に基づき変速マップを参照することにより変速の要否を判断し、変速の指示をシフトアクチュエータに出力する。そして、変速指示を受けたシフトアクチュエータが動作して、変速が行われる。
【0026】
変速クラッチ32は、トルクコンバータ30と変速機構31との間の動力伝達経路に設けられている。変速クラッチ32は、タービン軸36と一体で回転するように連結されたクラッチホイールディスク32aと、変速機構31の入力軸37と一体で回転するように連結されたクラッチディスク32bと、を有する。
【0027】
変速クラッチ32は、乾式単板クラッチであって、クラッチディスク32bをクラッチホイールディスク32aに押し付けることでクラッチディスク32bをクラッチホイールディスク32aが一体的に回転して動力伝達する締結状態と、クラッチディスク32bがクラッチホイールディスク32aから分離されることでクラッチホイールディスク32aとクラッチディスク32bとの間の動力伝達を遮断する遮断状態と、に切り替えられるようになっている。つまり、変速クラッチ32は、締結状態ではタービン軸36と入力軸37との間で動力を伝達し、遮断状態ではタービン軸36と入力軸37との間の動力伝達を遮断する。
【0028】
変速クラッチ32に対する締結状態と遮断状態とを切り替える操作(以下、「クラッチ操作」という)は、クラッチアクチュエータ33によって自動で行われるようになっている。
【0029】
クラッチアクチュエータ33は、制御装置10に電気的に接続されており、制御装置10からの指令に基づき、変速クラッチ32のクラッチ操作を行うようになっている。具体的には、クラッチアクチュエータ33は、いずれも図示しないレリーズベアリングをレリーズフォーク等にて入力軸37の軸方向に移動させ、レリーズベアリングにてクラッチホイールディスク32aのダイヤフラムスプリングを弾性変形させて変速クラッチ32を遮断状態とする。また、クラッチアクチュエータ33は、レリーズベアリングを遮断状態の位置から遮断状態にする時と反対の方向に移動させ、ダイヤフラムスプリングを弾性変形から解放させて変速クラッチ32を締結状態とする。
【0030】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0031】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御装置10として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、本実施例における制御装置10として機能する。
【0032】
制御装置10には、上述した図示しないシフトアクチュエータ、クラッチアクチュエータ33及び油圧制御装置40等の各種装置、クランク角センサ50、タービン回転数センサ51、クラッチ回転数センサ52、クラッチ位置検出センサ53、ロックアップ油圧センサ54、車速センサ55及びアクセルセンサ56等の各種センサ類が接続されている。
【0033】
油圧制御装置40は、トルクコンバータ30のロックアップクラッチ35やクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧を制御する。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきロックアップクラッチ35に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、ロックアップクラッチ35を締結状態又は解放状態に切り替える。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、変速クラッチ32を締結状態又は遮断状態に切り替える。
【0034】
クランク角センサ50は、クランク軸21の回転角(以下、「クランク角」という)を検出する。制御装置10は、クランク角センサ50から入力されたクランク角を示す情報に基づきエンジン2の回転速度(クランク軸21の回転速度)である内燃機関の回転数としてのエンジン回転数を算出する。
【0035】
タービン回転数センサ51は、トルクコンバータ30の出力側の回転数としてのタービン軸36の回転速度(以下、「タービン回転数」という)を検出する。クラッチ回転数センサ52は、クラッチディスク32b及び入力軸37の回転速度(以下、「クラッチ回転数」という)を検出する。
【0036】
クラッチ位置検出センサ53は、変速クラッチ32におけるレリーズベアリングの位置あるいはレリーズベアリングの移動状態に関連して移動するレリーズフォーク等の部品の位置(以下、「クラッチ位置」という)を検出する。クラッチ位置は、変速クラッチ32の状態(遮断状態/半クラッチ状態/締結状態)を示すものでもあり、変速クラッチ32の伝達するトルクの大きさを示すものとも考えられる。ロックアップ油圧センサ54は、ロックアップクラッチ35に供給される作動油圧を検出する。本実施例では、アプライ室に作用する締結油圧を少なくとも検出するが、リリース室に作用する解放油圧を基準にアプライ室に作用する油圧を推定あるいは検出してもよい。車速センサ55は、車両1の速度である車速を検出する。アクセルセンサ56は、運転者による図示しないアクセルペダルの踏込み量を検出する。なお、アクセルセンサ56は、アクセルペダルの踏込み量に連動して変化するスロットル弁の動きを検出してもよい。
【0037】
制御装置10は、クラッチ位置検出センサ53によって検出されたクラッチ位置に基づき、クラッチ位置とクラッチ伝達トルクとの関係を定義した図示しないマップを参照することにより、変速クラッチ32を制御するクラッチ制御部101としての機能を有する。
【0038】
制御装置10は、ロックアップクラッチ35の締結又は解放を制御するロックアップクラッチ制御部102としての機能を有する。例えば、制御装置10は、所定のロックアップ条件が成立した場合、ロックアップクラッチ35を解放状態から締結状態に切り替えるよう、油圧制御装置40を制御するロックアップ制御を実行する。
【0039】
本実施例においては、例えば車速が所定車速以上となったことを、所定のロックアップ条件とする。所定のロックアップ条件は、これに限定されるものではなく、他の条件としてもよく、変速段と車速の状態を所定のロックアップ条件としてもよい。
【0040】
制御装置10は、上述のロックアップ制御におけるロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされた場合、変速機構31の変速段を切り替える変速動作中であって変速クラッチ32が遮断状態にある場合に、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を完了するようになっている。つまり、制御装置10は、上述のロックアップ制御におけるロックアップクラッチ35の解放状態から締結状態への切替中に変速指示がなされた場合、変速動作で変速クラッチ32が遮断中に、ロックアップクラッチ35の締結状態への切替を完了するようになっている。この為、制御装置10は、変速クラッチ32が遮断中にロックアップクラッチ35を完全締結させる。言い換えると、制御装置10は、変速クラッチ32が遮断中にロックアップクラッチ35を直結する。
【0041】
具体的には、制御装置10は、上述のロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされた場合、ロックアップクラッチ35に対する指示圧(以下、「LU指示圧」という)を第1の圧P1にし、ロックアップクラッチ35の状態を締結前の状態(「締結前状態」ともいう)に維持して待機させ、変速クラッチ32が遮断状態になった後にLU指示圧を第2の圧P2に高めるようになっている。つまり、制御装置10は、上述のロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされた場合、LU指示圧を第1の圧P1にしてロックアップクラッチ35の締結を待機させ、変速クラッチ32が遮断状態になった後にLU指示圧を第2の圧P2に高めてロックアップクラッチ35を締結させる。
【0042】
より詳しくは、制御装置10は、変速クラッチ32が遮断状態になった後、エンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下であることを条件に、LU指示圧を第2の圧P2に高めるようになっている。LU指示圧が第2の圧P2に高められると、当該第2の圧P2に応じて締結油圧が高められ、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替が完了する。つまり、変速クラッチ32が遮断状態になるとタービン軸(クラッチホイールディスク32a)が負荷から解放されて、エンジン回転数とタービン回転数との差が減少する。この為、エンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下であることは、変速クラッチ32が遮断状態であることを示しており、これを条件にLU指示圧を一気に第2の圧P2に高めるようにしてロックアップクラッチ35の締結を速やかに完了させる。
【0043】
上述のロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中とは、所定のロックアップ条件が成立して制御装置10からロックアップ指示がなされてからロックアップクラッチ35に対するLU指示圧が完全締結を指示する指示圧となるまでの間のことである。また、ロックアップクラッチ35の状態で表現すると、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中とは、ロックアップクラッチ35の解放状態から完全締結状態(直結)となるまでの間のことである。
【0044】
なお、上述のLU指示圧とは、制御装置10から油圧制御装置40に対して指示される油圧であって、締結油圧と解放油圧との差圧の指示値である。
【0045】
上述の第1の圧P1とは、ロックアップクラッチ35が締結状態となるLU指示圧よりも低い圧であって、完全締結されるLU指示圧よりも低い圧である。例えば、ロックアップクラッチ35が動力をほとんど伝達しないが、ロックアップクラッチ35の締結を速やかに完了できるように予め高められた圧である。具体的には、第1の圧P1は、ロックアップクラッチ35が締結(動力伝達)を開始する直前の状態となる(状態を維持する)圧力が実現される指示圧であって、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。
【0046】
上述の第2の圧P2とは、第1の圧P1よりも高い圧であって、ロックアップクラッチ35を締結状態とする、すなわち完全締結するLU指示圧であり、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。なお、ロックアップクラッチ35の締結を維持する際には、LU指示圧を第2の圧P2としたままでもよいが滑りを生じない範囲で、第2の圧P2よりも低圧のLU指示圧に下げることができる。つまり、第2の圧P2は、ロックアップクラッチ35を急速に完全締結状態(直結)とする高圧な作動油圧を指示するLU指示圧である。
【0047】
上述の所定値Nthとは、ロックアップクラッチ35を締結しても乗員に違和感を与えるようなショックが生じない程度の、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差であって、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。
【0048】
制御装置10は、上述のロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされた場合にLU指示圧を第1の圧P1に高めるにあたっては、LU指示圧を第1の圧P1まで徐々に昇圧するのが好ましい。これにより、ロックアップクラッチ35に供給される作動油圧が急激に変化することが抑制され、作動油圧の急変に起因したショックや変速制御への影響が抑制される。
【0049】
また、制御装置10は、上述のロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされた場合、ロックアップクラッチ35の締結度合いに応じて上記変速動作を遅らせるようになっている。
【0050】
具体的には、制御装置10は、ロックアップクラッチ35のLU指示圧が所定の圧Pxより高い場合には、ロックアップクラッチ35の締結度合いが高い、すなわち締結が進んでいると判断して、上記変速動作が進まないよう変速制御を待機する。このとき、制御装置10は、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替をそのまま継続する。
【0051】
制御装置10は、進行中のロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を完了させた後、待機していた変速制御を再開し、変速を完了する。所定の圧Pxとは、第1の圧P1より高く、かつ第2の圧P2よりも低い圧であって、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を優先するほどロックアップクラッチ35の締結が進んでいないと判断できるLU指示圧の上限値であり、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。つまり、所定の圧Pxとは、LU指示圧が第1の圧P1に変更されても車両の商品性を低下させない程度のショックに抑えられるLU指示圧の上限値であり、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。
【0052】
(ロックアップ制御)
次に、図2を参照して、本実施例の制御装置10によって実行されるロックアップ制御の処理の流れについて説明する。
【0053】
図2に示すように、制御装置10は、所定のロックアップ条件が成立しているか否かを判定する(ステップS1)。制御装置10は、ステップS1において所定のロックアップ条件が成立していないと判定した場合には、ステップS1の処理を繰り返す。
【0054】
制御装置10は、ステップS1において所定のロックアップ条件が成立していると判定した場合には、LU指示圧を徐々に昇圧する通常制御を行う(ステップS2)。
【0055】
次いで、制御装置10は、変速指示があるか否か、すなわちロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされたか否かを判定する(ステップS3)。制御装置10は、ステップS3において変速指示がないと判定した場合には、ステップS2の通常制御を継続して(ステップS9)、本ロックアップ制御を終了する。なお、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中は、変速指示がなされたか否かを常に監視している。
【0056】
制御装置10は、車速及びアクセルペダルの踏込み量に基づき変速マップを参照することにより、図示しないシフトアクチュエータを作動させて変速機構31における変速段の切替を行っており(図1では変速クラッチ32以外の変速関連部を省略)、変速指示があるか否かを判定することができる。なお、変速マップは、車速及びアクセルペダルの踏込み量と変速線とが対応付けられたマップで、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。
【0057】
制御装置10は、ステップS3において変速指示があると判定した場合、すなわちロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされたと判定した場合には、LU指示圧が所定の圧Pxより高いか否かを判定する(ステップS4)。
【0058】
制御装置10は、ステップS4においてLU指示圧が所定の圧Pxより高いと判定した場合には、ステップS2の通常制御を継続しつつ、変速制御を待機して(ステップS10)、本ロックアップ制御を終了する。つまり、LU指示圧が所定の圧Pxより高い場合には、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替が相当進んでおり、完全締結まで至らないもののロックアップクラッチ35の締結度合いが高い状態にある。このため、こうした状況においては、変速制御よりもロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を優先して、ロックアップクラッチ35の締結を完了させる。なお、ロックアップクラッチ35の締結が完了した後、変速制御が再開されて、変速が完了する。
【0059】
制御装置10は、ステップS4においてLU指示圧が所定の圧Pxより高くない、すなわち所定の圧Px以下であると判定した場合には、LU指示圧を第1の圧P1にして待機する(ステップS5)。
【0060】
次いで、制御装置10は、変速クラッチ32が遮断状態であるか否かを判定する(ステップS6)。制御装置10は、ステップS6において変速クラッチ32が遮断状態でないと判定した場合には、変速クラッチ32の遮断状態への移行が完了していないものと判断して、ステップS6の処理を繰り返す。
【0061】
制御装置10は、ステップS6において変速クラッチ32が遮断状態であると判定した場合には、エンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下であるか否かを判定する(ステップS7)。本実施例においては、例えばエンジン回転数Neからタービン回転数Ntを減算した値の絶対値を、エンジン回転数とタービン回転数との差としている。
【0062】
制御装置10は、ステップS7においてエンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下でないと判定した場合には、ステップS7の処理を繰り返す。つまり、制御装置10は、ステップS6において変速クラッチ32が遮断状態となり、かつ、ステップS7においてエンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下となるまで、LU指示圧を第1の圧P1として待機する。
【0063】
制御装置10は、ステップS7においてエンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下であると判定した場合には、LU指示圧を第2の圧P2として(ステップS8)、本ロックアップ制御を終了する。ステップS8の実行により作動油圧の油圧が高められ、ロックアップクラッチ35が締結される。
【0064】
次に、図3を参照して、本実施例の車両1における、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされたときのLU指示圧の遷移について説明する。図3は、ロックアップ指示後、すなわち所定のロックアップ条件の成立後に、1速段(図3中、「1st」と表記)から2速段(図3中、「2nd」と表記)への変速指示がなされた場合の例である。
【0065】
図3に示すように、時刻t0においては、所定のロックアップ条件が非成立、すなわちロックアップ指示がなされていない状態(図3中、「OFF」と表記)で、かつ1速段で車両1が加速走行している状態である。
【0066】
時刻t0において、クラッチ位置は変速クラッチ32が締結状態にあるときの位置(図3中、「締結」と表記)であり、LU指示圧は第1の圧P1よりも低い圧に維持されている。また、加速走行中であることから、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt及びクラッチ回転数Ncは、時間の経過とともに上昇している状態である。
【0067】
その後、時刻t1において、ロックアップ指示がなされる(図3中、「ON」と表記)と、LU指示圧が徐々に昇圧される。
【0068】
その後、時刻t2において、1速段から2速段への変速指示がなされると、変速クラッチ32が締結状態から遮断状態への移行を開始する。これにより、クラッチ位置は、締結を示す位置から変速クラッチ32が遮断状態にあるときの位置(図3中、「遮断」と表記)に向けて遷移する。
【0069】
時刻t2の経過後は、LU指示圧が第1の圧P1に達し、その後、LU指示圧が第1の圧P1に維持される。その後、変速クラッチ32が締結状態から遮断状態に移行する。時刻t2と時刻t3との間においては、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への移行に伴い、タービン回転数Ntに対してクラッチ回転数Ncが低下し始める。この結果、車両1の駆動力が低下し、車両1の加速度も低下する。
【0070】
その後、時刻t3において、エンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下になると、LU指示圧が第2の圧P2に高められる。これにより、LU指示圧が第1の圧P1に維持されることで待機されていた、ロックアップクラッチ35の解放状態から締結状態への切替が再開され、その後、変速クラッチ32が遮断状態にある間にロックアップクラッチ35が完全に締結する。すなわち、ロックアップクラッチ35が締結状態に切り替わり、ロックアップクラッチ35を締結する制御が完了する。
【0071】
時刻t3の経過後、上述の通り、ロックアップクラッチ35が締結状態に切り替わると、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとが同期し、その結果、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの回転数差(図3中、「|Ne-Nt|」と表記)が0になる。
【0072】
さらに、時刻t3の経過後に、変速機構31における変速段が1速段から2速段へと変更される。これにより、時刻t3からクラッチ回転数Ncが2速段に対応した回転数に向けて低下し始め、その後、変速機構31における2速段への変更がほぼ完了して、クラッチ回転数Ncが2速段に対応した回転数となる。
【0073】
その後、遮断状態にあった変速クラッチ32の締結状態への切替が開始されると、クラッチ位置が徐々に締結を示す位置に向けて遷移する。
【0074】
エンジン回転数Neは、変速クラッチ32の締結状態への移行に伴い、クラッチ回転数Ncに同期するように低下する。そして、エンジンの動力が伝えられることで加速が再開され、クラッチ回転数Ncが上昇する(車速が上昇する)。
【0075】
その後、クラッチ位置が締結を示す位置に達して変速クラッチ32が締結状態になると、エンジン回転数Ne及びタービン回転数Ntとクラッチ回転数Ncとが同期し、2速段への変速が完了する。
【0076】
以上のように、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、変速動作中であって変速クラッチ32が遮断状態にある場合に、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を完了するよう構成されている。
【0077】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、変速が完了するまでロックアップクラッチ35の締結を待つことなく、変速が完了する前にロックアップクラッチ35を締結させることができる。このため、変速クラッチ32の制御に影響を与えることなくロックアップ領域を拡大することができる。これにより、燃費向上を図ることができる。
【0078】
また、変速動作における変速クラッチ32の遮断状態中にロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を完了することができるので、変速クラッチ32の制御をロックアップクラッチ35の締結を考慮して変更する必要がないので、変速クラッチ32の制御が複雑になってしまうことを防止できる。
【0079】
さらに、ロックアップクラッチ35を締結する際には変速クラッチ32が遮断状態にあるため、ロックアップクラッチ35の締結に伴うショックや揺動が駆動輪4に伝達されてしまうことを防止することができる。
【0080】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされた場合、ロックアップクラッチ35の締結前にLU指示圧を第1の圧P1に維持した状態で待機させ、変速クラッチ32が遮断状態になった後にLU指示圧を第2の圧P2に高めるよう構成されている。
【0081】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、変速クラッチ32が遮断状態になった後は予め待機させておいた第1の圧P1に対応する作動油圧から第2の圧P2に対応する作動油圧に高めるだけでロックアップクラッチ35を締結させることができるので、速やかにロックアップクラッチ35を締結することができる。
【0082】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替中に変速指示がなされた場合、ロックアップクラッチ35の締結度合いに応じて変速動作を遅らせるよう構成されている。
【0083】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、変速指示がなされたときにロックアップクラッチ35の締結度合いが高い、すなわち締結が進んでいる場合には、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を優先することができる。これにより、変速制御とロックアップ制御とが同時に進行することを防止でき、制御を容易にすることができる。
【0084】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、エンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下であることを条件に、ロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を完了するよう構成されている。
【0085】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、エンジン回転数とタービン回転数との差が小さい領域でロックアップクラッチ35を締結するため、短時間でロックアップクラッチ35の解放から締結への切替を完了することができる。これにより、遮断状態にある変速クラッチ32の締結開始時にはロックアップクラッチ35を完全締結させておくことができ、エンジン2のイナーシャトルクを駆動力として利用することができる。
【0086】
なお、本実施例においては、図2のロックアップ制御中、ステップS6において変速クラッチ32が遮断状態となり、かつ、ステップS7においてエンジン回転数とタービン回転数との差が所定値Nth以下となったことを条件に、LU指示圧を第2の圧P2とする処理(ステップS8)を行ったが、これに限らず、例えばステップS6又はステップS7のいずれか一方の処理を行い、当該一方の処理において肯定的な判定がなされたことを条件にLU指示圧を第2の圧P2とする処理(ステップS8)を行う構成としてもよい。
【0087】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0088】
1 車両
2 エンジン(内燃機関)
3 自動変速機(車両用駆動装置)
4 駆動輪
10 制御装置(制御部)
21 クランク軸
30 トルクコンバータ
31 変速機構
32 変速クラッチ
32a クラッチホイールディスク
32b クラッチディスク
33 クラッチアクチュエータ
35 ロックアップクラッチ
36 タービン軸
37 入力軸
38 出力軸
40 油圧制御装置
50 クランク角センサ
51 タービン回転数センサ
52 クラッチ回転数センサ
53 クラッチ位置検出センサ
54 ロックアップ油圧センサ
55 車速センサ
56 アクセルセンサ
101 クラッチ制御部
102 ロックアップクラッチ制御部
P1 第1の圧
P2 第2の圧
Px 所定の圧
Ne エンジン回転数
Nt タービン回転数
Nth 所定値
図1
図2
図3