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特許7593195モータ劣化推定方法及びモータ劣化推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】モータ劣化推定方法及びモータ劣化推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20241126BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20241126BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20241126BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01R31/00
H02P29/024
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021054913
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152221
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越尾 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 才夫
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-150692(JP,A)
【文献】特開2018-046714(JP,A)
【文献】特開2020-157444(JP,A)
【文献】国際公開第2020/105557(WO,A1)
【文献】特開2013-3004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
G01R 31/34
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの負荷、前記モータに電力を供給するバッテリの第1電圧、及び、前記モータに印加される第2電圧を測定し、
前記負荷の大きさを区分する複数の第1範囲、及び前記第1電圧の大きさを区分する複数の第2範囲の組み合わせごとに、前記第2電圧が所定値を超えた回数をデータベースに記録し、
前記データベースに基づいて前記モータの劣化を推定する、処理をコンピュータが実行する、
モータ劣化推定方法。
【請求項2】
前記モータの起動を検知し、
前記回数を前記データベースに記録する処理において、前記モータの起動時の前記第1電圧の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記モータの起動回数を、さらに前記データベースに記録する、処理を前記コンピュータが実行する、
請求項に記載のモータ劣化推定方法。
【請求項3】
前記モータの駆動時間を計時し、
前記回数を前記データベースに記録する処理において、前記モータの駆動中の前記負荷の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記駆動時間を、さらに前記データベースに記録する、処理を前記コンピュータが実行する、
請求項1または2に記載のモータ劣化推定方法。
【請求項4】
モータの負荷、前記モータに電力を供給するバッテリの第1電圧、及び、前記モータに印加される第2電圧を測定する測定部と、
前記モータの劣化の推定に用いられるデータベースを保持する保持部と、
前記負荷の大きさを区分する複数の第1範囲、及び前記第1電圧の大きさを区分する複数の第2範囲の組み合わせごとに、前記第2電圧が所定値を超えた回数をデータベースに記録する記録部とを有する、
モータ劣化推定装置。
【請求項5】
前記モータの起動を検知する検知部を有し、
前記記録部は、前記モータの起動時の前記第1電圧の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記モータの起動回数を、さらに前記データベースに記録する、
請求項に記載のモータ劣化推定装置。
【請求項6】
前記モータの駆動時間を計時する計時部を有し、
前記記録部は、前記モータの駆動中の前記負荷の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記モータの駆動時間を、さらに前記データベースに記録する、
請求項4または5に記載のモータ劣化推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ劣化推定方法及びモータ劣化推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、モータの駆動に関する複数の測定項目のセンサデータを時系列(例えば4時間おき)に保存して機械学習に用いることによりモータの劣化を判定する技術がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-150692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の技術によると、センサデータを時系列に保存するため、モータが劣化するまでに莫大な容量のセンサデータを保存する必要がある。
【0005】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、モータの劣化推定に用いるデータ量を低減することができるモータ劣化推定方法及びモータ劣化推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載のモータ劣化推定方法は、モータの負荷、前記モータに電力を供給するバッテリの第1電圧、及び、前記モータに印加される第2電圧を測定し、前記負荷の大きさを区分する複数の第1範囲、及び前記第1電圧の大きさを区分する複数の第2範囲の組み合わせごとに、前記第2電圧が所定値を超えた回数をデータベースに記録し、前記データベースに基づいて前記モータの劣化を推定する、処理をコンピュータが実行する方法である。
【0008】
上記のモータ劣化推定方法において、前記モータの起動を検知し、前記回数を前記データベースに記録する処理において、前記モータの起動時の前記第1電圧の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記モータの起動回数を、さらに前記データベースに記録する、処理を前記コンピュータが実行してもよい。
【0009】
上記のモータ劣化推定方法において、前記モータの駆動時間を計時し、前記回数を前記データベースに記録する処理において、前記モータの駆動中の前記負荷の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記駆動時間を、さらに前記データベースに記録する、処理を前記コンピュータが実行してもよい。
【0010】
本明細書に記載のモータ劣化推定装置は、モータの負荷、前記モータに電力を供給するバッテリの第1電圧、及び、前記モータに印加される第2電圧を測定する測定部と、前記モータの劣化の推定に用いられるデータベースを保持する保持部と、前記負荷の大きさを区分する複数の第1範囲、及び前記第1電圧の大きさを区分する複数の第2範囲の組み合わせごとに、前記第2電圧が所定値を超えた回数をデータベースに記録する記録部とを有する。
【0012】
上記のモータ劣化推定装置は、前記モータの起動を検知する検知部を有し、前記記録部は、前記モータの起動時の前記第1電圧の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記モータの起動回数を、さらに前記データベースに記録してもよい。
【0013】
上記のモータ劣化推定装置は、前記モータの駆動時間を計時する計時部を有し、前記記録部は、前記モータの駆動中の前記負荷の大きさに応じた前記第1範囲ごとに前記モータの駆動時間を、さらに前記データベースに記録してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータの劣化推定に用いるデータ量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施例の補機システムを示す構成図である。
図2】データベースに記録された高電圧回数の一例を示す図である。
図3】ECU(Electronic Control Unit)の動作の一例を示すフローチャートである。
図4】高電圧回数の収集処理の一例を示すフローチャートである。
図5】第2実施例の補機システムを示す構成図である。
図6】データベースに記録された起動回数の一例を示す図である。
図7】起動回数の収集処理の一例を示すフローチャートである。
図8】第3実施例の補機システムを示す構成図である。
図9】データベースに記録された駆動時間の一例を示す図である。
図10】駆動時間の収集処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施例)
図1は、第1実施例の補機システム9を示す構成図である。補機システム9は、例えばハイブリッド車や電気自動車などの車両に搭載され、車両の補機を監視制御する。補機システム9は、ECU1及び補機回路90を有する。
【0017】
補機回路90は、モータ2、バッテリ3、バッテリセンサ4、電圧センサ20、及びトルクセンサ21を含む。モータ2は、例えばブラシ付きモータであり、冷却水を循環させるウォーターポンプ、または燃料をエンジンに送出する燃料ポンプとして機能する。なお、モータ2は、これに限定されず、ブラシレスモータであってもよい。
【0018】
電圧センサ30は、モータ2に並列接続され、モータ2に印加される電圧(以下、モータ電圧と表記)を検出する。電圧センサ30はモータ電圧の値をECU1に出力する。なお、モータ電圧は第2電圧の一例である。
【0019】
トルクセンサ21はモータ2のトルクを検出する。トルクセンサ21はトルクの値をECU1に出力する。なお、トルクはモータ2の負荷の一例である。
【0020】
バッテリ3は、例えば補機用の鉛バッテリであり、モータ2及び他の補機類(不図示)に電力を供給する。
【0021】
バッテリセンサ4は、バッテリ3に直列接続され、例えばバッテリ3の電圧(以下、バッテリ電圧と表記)を検出する。バッテリセンサ4はバッテリ電圧の値をECU1に出力する。なお、バッテリ電圧は第1電圧の一例である。
【0022】
ECU1は補機回路90の状態を監視する。ECU1は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ10、ROM(Read Only Memory)11、RAM(Random Access Memory)12、データ記憶装置13、及び通信ポート14を有する。プロセッサ10は、互いに信号の入出力ができるように、ROM11、RAM12、データ記憶装置13、及び通信ポート14と、バス19を介して電気的に接続されている。なお、ECU1は、モータ劣化推定方法を実行するコンピュータ及びモータ劣化推定装置の一例である。
【0023】
ROM11は、プロセッサ10を駆動するプログラムが格納されている。RAM12は、プロセッサ10のワーキングメモリとして機能する。通信ポート14は、プロセッサ10と電圧センサ20、トルクセンサ21、及びバッテリセンサ4との間の通信を中継する。
【0024】
通信ポート14は、有線通信または無線通信により電圧センサ20、トルクセンサ21、及びバッテリセンサ4と通信する。通信ポート14は、プロセッサ10の制御に従って、電圧センサ20からモータ電圧の値を受信し、トルクセンサ21からトルクの値を受信し、バッテリセンサ4からバッテリ電圧の値を受信する。なお、通信ポート14は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specified Integrated Circuit)などのハードウェアにより実現されるが、これに限定されない。
【0025】
プロセッサ10は、ROM11からプログラムを読み込むと、機能として、劣化推定部100、モータ状態記録部101、データ測定部102、及び劣化度取得部105を生成する。また、データ記憶装置13は、モータ2の劣化の推定に用いられるデータベース130を記憶する。なお、データ記憶装置13は、データベース130を保持する保持部の一例である。データ記憶装置13は例えばHDD(Hard Disk Drive)やSDD(Solid State Drive)により実現される。
【0026】
データ測定部102は、バッテリセンサ4、電圧センサ20、及びトルクセンサ21を用いてバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクをそれぞれ測定する。データ測定部102は、通信ポート14を介してバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクの各値を取得する。なお、データ測定部102は、モータ2の負荷、バッテリ電圧、及びモータ電圧を測定する測定部の一例である。
【0027】
モータ状態記録部101は、記録部の一例であり、モータ2の劣化に関連する状態をデータベース130に記録する。本例では、モータ2の劣化に関連する状態として、モータ電圧が所定の閾値を超えた回数を挙げる。モータ状態記録部101は、データ測定部102にバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクの測定を指示する。データ測定部102は、モータ状態記録部101の指示に従って所定の期間においてバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクを測定する。
【0028】
モータ状態記録部101は、トルクの大きさを区分する「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」の各範囲(以下、モータ負荷範囲と表記)のうち、データ測定部102が測定したトルクの大きさが属する範囲を特定する。ここで、「低レベル」は、トルクが最も小さいモータ負荷範囲であり、「高レベル」は、トルクの大きさが最も大きいモータ負荷範囲である。なお、モータ負荷範囲は、負荷の大きさを区分する複数の第1範囲の一例である。
【0029】
また、モータ状態記録部101は、バッテリ電圧の大きさを区分する「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」の各範囲(以下、バッテリ電圧範囲と表記)のうち、データ測定部102が測定したバッテリ電圧の大きさが属する範囲を特定する。ここで、「低レベル」は、バッテリ電圧が最も低いバッテリ電圧範囲であり、「高レベル」は、バッテリ電圧が最も高いバッテリ電圧範囲である。なお、バッテリ電圧範囲は、バッテリ電圧の大きさを区分する複数の第2範囲の一例である。
【0030】
モータ状態記録部101は、データ測定部102が測定したモータ電圧を所定の閾値と比較する。モータ状態記録部101は、モータ負荷範囲及びバッテリ電圧範囲の組み合わせごとに、モータ電圧が閾値を越えた回数(以下、高電圧回数と表記)をデータベース130に記録する。ここで閾値は、例えばモータ2に許容される電圧範囲の最大値に応じて決定される(例えば最大値の90(%))。これにより、モータ状態記録部101は、モータ電圧が最大値となった回数を計測することができる。
【0031】
図2は、データベース130に記録された高電圧回数の一例を示す図である。データベース130には、バッテリ電圧範囲の「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」と、モータ負荷範囲の「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」との組み合わせごとに、高電圧回数がヒストグラム形式で記録される。具体的には、バッテリ電圧範囲とモータ負荷範囲で決まる9種類(3×3)の状態ごとに高電圧回数が記録される。
【0032】
例えば、バッテリ電圧範囲の「低レベル」とモータ負荷範囲の「低レベル」とに対応する高電圧回数は20回であり、バッテリ電圧範囲の「中レベル」とモータ負荷範囲の「低レベル」とに対応する高電圧回数は13回である。このようにデータベース130には、バッテリ電圧範囲及びモータ負荷範囲ごとに高電圧回数が記録される。
【0033】
再び図1を参照すると、モータ状態記録部101は、データベース130に所定の期間内の高電圧回数を記録する。モータ状態記録部101は、データベース130への高電圧回数の記録が完了すると劣化推定部100に通知する。
【0034】
劣化推定部100は、データベース130に基づいてモータ2の劣化を推定する。劣化推定部100は、モータ状態記録部101からの記録完了の通知に応じて、高電圧回数とモータ2の劣化度の相関性を特定する。
【0035】
劣化度取得部105は、実際に測定したモータ2の劣化度を、例えばユーザの端末やサーバなどからLAN(Local Area Network)を介して取得して劣化推定部100に出力する。ここで劣化度としては、例えばモータ2のブラシの摩耗の度合いの指標値が挙げられるが、これに限定されず、例えばモータ2の軸摺動部の摩耗の度合いの指標値であってもよい。
【0036】
F=f(N1,N2,N3,・・・,Nm) ・・・(1)
【0037】
劣化推定部100は、一例として高電圧回数と劣化度Fの相関性を上記の式(1)で特定する。式(1)において、N1,N2,N3,・・・,Nmはバッテリ電圧範囲とモータ負荷範囲ごとの高電圧回数である。ここで、mはバッテリ電圧範囲及びモータ負荷範囲の組み合わせの個数であり、上記の例の場合、m=9である。
【0038】
関数fは、高電圧回数N1,N2,N3,・・・,Nmを変数とする関数である。劣化推定部100は、データベース130に基づいて関数fの係数を特定する。モータ状態記録部101は、劣化推定部100が高電圧回数と劣化度Fの相関性の特定に成功するまで高電圧回数をデータベース130に繰り返し記録する。
【0039】
劣化推定部100は、関数fの特定後、データ測定部102が測定したバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクから所定の期間内の高電圧回数を計測する。劣化推定部100は、高電圧回数を式(1)に代入して劣化度Fを算出する。このように、劣化推定部100は、データベース130に基づいて劣化を推定する。
【0040】
上述したように、データベース130には、モータ負荷範囲とバッテリ電圧範囲の組み合わせごとに、モータ2の高電圧回数が記録されている。このため、例えば時系列でバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクをデータベース130に記録する場合よりデータ記憶装置13のデータ容量を低く抑えることが可能である。
【0041】
図3は、ECU1の動作の一例を示すフローチャートである。まず、モータ状態記録部101及びデータ測定部102は、モータ1の劣化に関する状態を示すデータを収集する(ステップSt1)。モータ1の劣化に関する状態を示すデータとしては高電圧回数が挙げられるが、後述するように高電圧回数以外のデータが含まれてもよい。本例では高電圧回数が測定されてデータベース130に記録される。なお、データ収集処理の詳細は後述する。
【0042】
次に劣化度取得部105は、実際に測定されたモータ2の劣化度を取得する(ステップSt2)。モータ2の劣化度の測定は、例えば上記のデータを収集が完了したときに行われる。
【0043】
次に劣化推定部100は、データベース130に記録された高電圧回数とモータ2の劣化度の相関性を特定する(ステップSt3)。劣化推定部100は、例えば高電圧回数とモータ2の劣化度の相関性を示す上記の式(1)を特定する。劣化推定部100が特定に失敗した場合(ステップSt4のNo)、再びステップSt1以降の各処理が実行される。
【0044】
劣化推定部100が特定に成功した場合(ステップSt4のYes)、データ測定部102は、モータ1の劣化に関する状態を示す状態に関するデータを測定する(ステップSt5)。これにより高電圧回数が測定される。次に劣化推定部100は、データ測定部102が測定したデータ及び特定した相関性を用いてモータ2の劣化度を推定する(ステップSt6)。例えば劣化推定部100は、データ測定部102により測定された高電圧回数N1,N2,N3,・・・,Nmから式(1)により劣化度Fを算出する。
【0045】
ECU1は、処理を継続する場合(ステップSt7のNo)、再びステップSt5以降の各処理を実行し、処理を終了する場合(ステップSt7のYes)、本動作を終了する。このようにしてECU1は動作する。
【0046】
図4は、高電圧回数の収集処理の一例を示すフローチャートである。本処理は上記のステップSt1で実行される。
【0047】
データ測定部102は、モータ電圧、バッテリ電圧、及びトルクを測定する(ステップSt11)。次にモータ状態記録部101はモータ電圧を閾値THと比較する(ステップSt12)。モータ電圧が閾値TH未満である場合(ステップSt12のNo)、以下に述べるステップSt13~St15の各処理は実行されず、後述のステップSt16の処理が行われる。
【0048】
モータ状態記録部101は、モータ電圧が閾値THを超える場合(ステップSt12のYes)、バッテリ電圧の大きさからバッテリ電圧範囲(「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」)を特定し、トルクの大きさからモータ負荷範囲(「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」)を特定する(ステップSt13)。
【0049】
例えばバッテリ電圧範囲の低レベル、中レベル、及び高レベルが、それぞれ、10.5~11.5(V)、11.5~12.5(V)、及び12.5~13.5(V)であると仮定する。この場合、データ測定部102が測定したバッテリ電圧が12.2(V)であるとすると、モータ状態記録部101は、測定したバッテリ電圧が属するバッテリ電圧範囲として中レベルを特定する。なお、トルクについても同様の手法によりモータ負荷範囲が特定される。
【0050】
次にモータ状態記録部101は、データベース130を参照し、特定したバッテリ電圧範囲及びモータ負荷範囲に該当する高電圧回数に1を加算し(ステップSt14)、データベース130に記録する(ステップSt15)。
【0051】
次にモータ状態記録部101は、高電圧回数の収集を終了するか否かを判定する(ステップSt16)。モータ状態記録部101は、例えば高電圧回数の収集処理の時間をタイマにより計時し、タイマが満了したとき、高電圧回数の収集処理の終了を決定し、タイマが満了していないとき、高電圧回数の収集処理の継続を決定する。
【0052】
モータ状態記録部101が収集処理の継続を判定した場合(ステップSt16のNo)、再びステップSt11以降の各処理が実行される。また、モータ状態記録部101が収集処理の終了を判定した場合(ステップSt16のYes)、収集処理は終了する。このようにして高電圧回数の収集処理は実行される。
【0053】
このようにモータ状態記録部101は、モータ2の劣化に関する状態として高電圧回数をデータベース130に記録するため、劣化推定部100は、車両の走行状態及びバッテリ3の充電状態に応じて生ずる高電圧(最大電圧)に起因するモータ2の劣化を推定することができる。
【0054】
また、データベース130には、トルクの大きさに応じたモータ負荷範囲、及びバッテリ電圧の大きさに応じたバッテリ電圧範囲の組み合わせごとに、モータ2の高電圧回数が記録されている。このため、例えば時系列でバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクをデータベース130に記録する場合よりデータ記憶装置13のデータ容量を低く抑えることが可能である。
【0055】
(第2実施例)
第1実施例において、モータ状態記録部101は、データベース130に高電圧回数を記録したが、高電圧回数に加えてモータ2の起動回数をバッテリ電圧範囲ごとに記録してもよい。
【0056】
図5は、第2実施例の補機システム9aを示す構成図である。図5において、図1と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0057】
補機システム9aは、第1実施例と同様にECU1a及び補機回路90を有する。ECU1aにおいて、プロセッサ10は、ROM11からプログラムを読み込むと、機能として、劣化推定部100a、モータ状態記録部101a、データ測定部102、起動検知部103、及び劣化度取得部105を生成する。また、データ記憶装置13は、モータ2の劣化の推定に用いられるデータベース130aを記憶する。
【0058】
起動検知部103は、例えばデータ測定部102が測定したモータ電圧及びトルクに基づきモータ2の起動及び停止を検知する。起動検知部103は、一例としてモータ電圧及びトルクからモータ2の回転開始を検出することにより起動を検知する。起動検知部103はモータ2の起動をモータ状態記録部101に通知する。なお、起動検知部103は検知部の一例である。
【0059】
モータ状態記録部101aは、第1実施例と同様に高電圧回数を記録するだけでなく、起動検知部103の検知通知から所定の期間内のモータ2の起動回数を計数してバッテリ電圧範囲ごとにデータベース130aに記録する。このとき、モータ状態記録部101aはデータ測定部102からバッテリ電圧の測定値を取得し、測定値が属するバッテリ電圧範囲を特定する。本例において、起動回数は、高電圧回数と同様に、モータ2の劣化に関する状態の一例である。なお、モータ状態記録部101aは記録部の一例である。
【0060】
図6は、データベース130aに記録された起動回数の一例を示す図である。データベース130aには、バッテリ電圧範囲の「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」ごとに、起動回数がヒストグラム形式で記録される。本例は、バッテリ電圧範囲の「低レベル」に該当する起動回数が5回である場合を示す。
【0061】
再び図5を参照すると、モータ状態記録部101aは、データベース130aに所定の期間内の高電圧回数及び起動回数を記録する。モータ状態記録部101aは、データベース130aへの高電圧回数及び起動回数の記録が完了すると劣化推定部100aに通知する。
【0062】
劣化推定部100aは、データベース130aに基づいてモータ2の劣化を推定する。劣化推定部100aは、モータ状態記録部101aからの記録完了の通知に応じて、高電圧回数及び起動回数とモータ2の劣化度の相関性を特定する。
【0063】
F=fa(N1,・・・,Nm,M1,M2,M3,・・・,Mk) ・・・(2)
【0064】
劣化推定部100aは、高電圧回数及び起動回数と劣化度Fの相関性として例えば上記の式(2)を特定する。式(2)において、N1,N2,N3,・・・,Nmは、上述したようにバッテリ電圧範囲及びモータ負荷範囲ごとの高電圧回数である。また、M1,M2,M3,・・・,Mkはバッテリ電圧範囲ごとの起動回数である。ここで、kはバッテリ電圧範囲の区分数であり、上記の例の場合、k=3である。
【0065】
関数faは、高電圧回数N1,N2,N3,・・・,Nm、及び起動回数M1,M2,M3,・・・,Mkを変数とする関数である。劣化推定部100aは、データベース130aに基づいて関数faの係数を特定する。モータ状態記録部101aは、劣化推定部100aが高電圧回数及び起動回数と劣化度Fの相関性の特定に成功するまで高電圧回数及び起動回数をデータベース130aに繰り返し記録する。
【0066】
劣化推定部100aは、関数faの特定後、データ測定部102が測定したバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクから所定の期間内の高電圧回数を計測し、起動検知部103からの検知通知からその期間内の起動回数を計測する。劣化推定部100aは、高電圧回数及び起動回数を式(2)に代入して劣化度Fを算出する。このように、劣化推定部100aは、データベース130aに基づいてモータ2の劣化を推定する。
【0067】
ECU1aの動作は、図3を参照して述べた通りである。図3のステップSt1では、図4を参照して述べた高電圧回数の収量処理と同時並行で起動回数の収集処理が実行される。
【0068】
図7は、起動回数の収集処理の一例を示すフローチャートである。モータ状態記録部101aは、起動検知部103からの検知通知に基づいてモータ2の起動が検知されたか否かを判定する(ステップSt21)。起動が検知されていない場合(ステップSt21のNo)、後述するステップSt26の処理が実行される。
【0069】
起動が検知された場合(ステップSt21のYes)、モータ状態記録部101aは、データ測定部102からバッテリ電圧を取得する(ステップSt22)。次にモータ状態記録部101aは、取得したバッテリ電圧が属するバッテリ電圧範囲を特定する(ステップSt23)。
【0070】
次にモータ状態記録部101aは、データベース130aを参照し、特定したバッテリ電圧範囲に該当する起動回数に1を加算する(ステップSt24)。次にモータ状態記録部101aは、特定したバッテリ電圧範囲に該当する起動回数をデータベース130aに記録する(ステップSt25)。
【0071】
次にモータ状態記録部101aは、起動回数の収集を終了するか否かを判定する(ステップSt26)。モータ状態記録部101aは、例えば起動回数の収集処理の時間をタイマにより計時し、タイマが満了したとき、起動回数の収集処理の終了を決定し、タイマが満了していないとき、起動回数の収集処理の継続を決定する。
【0072】
モータ状態記録部101aが収集処理の継続を判定した場合(ステップSt26のNo)、再びステップSt21以降の各処理が実行される。また、モータ状態記録部101aが収集処理の終了を判定した場合(ステップSt26のYes)、収集処理は終了する。このようにして起動回数の収集処理は実行される。
【0073】
このようにモータ状態記録部101aは、起動回数をデータベース130aに記録するため、劣化推定部100aは、モータ2の起動時に流れる高電流に起因するモータ2の劣化も推定することができる。このため、劣化の推定の精度が第1実施例より向上する。
【0074】
また、データベース130aには、モータ2の起動時のバッテリ電圧の大きさに応じたバッテリ電圧範囲ごとに、モータ2の起動回数が記録されている。このため、例えば時系列で起動回数をデータベース130aに記録する場合よりデータ記憶装置13のデータ容量を低く抑えることが可能である。なお、本例においてモータ状態記録部101aは、高電圧回数及び起動回数をデータベース130に記録するが起動回数のみを記録してもよい。
【0075】
(第3実施例)
第2実施例において、モータ状態記録部101aは、データベース130aに高電圧回数及び起動回数を記録したが、高電圧回数及び起動回数に加えてモータ2の駆動時間をモータ負荷範囲ごとに記録してもよい。
【0076】
図8は、第3実施例の補機システム9bを示す構成図である。図8において、図5と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0077】
補機システム9bは、第1実施例と同様にECU1b及び補機回路90を有する。ECU1bにおいて、プロセッサ10は、ROM11からプログラムを読み込むと、機能として、劣化推定部100b、モータ状態記録部101b、データ測定部102、起動検知部103、駆動時間計測部104、及び劣化度取得部105を生成する。また、データ記憶装置13は、モータ2の劣化の推定に用いられるデータベース130bを記憶する。
【0078】
駆動時間計測部104は、所定の期間内でモータ2が駆動された時間(以下、駆動時間と表記)を計測する。本例において、駆動時間は、起動回数及び高電圧回数と同様に、モータ2の劣化に関する状態の一例である。駆動時間計測部104は、例えば、起動検知部103からモータ2が起動中及び停止中の何れであるかの情報(以下、起動情報と表記)を取得する。駆動時間計測部104は、モータ2の起動から停止までの時間を断続的に計時する。駆動時間計測部104は、計測した駆動時間をモータ状態記録部101bに通知する。なお、駆動時間計測部104は、モータ2の駆動時間を計時する計時部の一例である。
【0079】
モータ状態記録部101bは、第2実施例と同様に高電圧回数及び起動回数を記録するだけでなく、駆動時間計測部104が計測した駆動時間をモータ負荷範囲ごとにデータベース130bに記録する。このとき、モータ状態記録部101bはデータ測定部102からトルクの測定値を取得し、測定値が属するモータ負荷範囲を特定する。なお、モータ状態記録部101bは記録部の一例である。
【0080】
図9は、データベース130bに記録された駆動時間の一例を示す図である。データベース130bには、モータ負荷範囲の「低レベル」、「中レベル」、及び「高レベル」ごとに、駆動時間がヒストグラム形式で記録される。本例において、例えばモータ負荷範囲の「低レベル」に該当する駆動時間は150時間である。
【0081】
再び図8を参照すると、モータ状態記録部101bは、データベース130bに所定の期間内の高電圧回数、起動回数、及び駆動時間を記録する。モータ状態記録部101bは、データベース130bへの高電圧回数、起動回数、及び駆動時間の記録が完了すると劣化推定部100bに通知する。
【0082】
劣化推定部100bは、データベース130bに基づいてモータ2の劣化を推定する。劣化推定部100bは、モータ状態記録部101bからの記録完了の通知に応じて、高電圧回数、起動回数、及び駆動時間とモータ2の劣化度の相関性を特定する。
【0083】
F=fb(N1,・・・,Nm,M1,・・・,Mk,L1,L2,L3,・・・Lj)
・・・(3)
【0084】
劣化推定部100bは、一例として高電圧回数、起動回数、及び駆動時間と劣化度Fの相関性として上記の式(3)を特定する。式(3)において、N1,N2,N3,・・・,Nmは、上述したようにバッテリ電圧範囲及びモータ負荷範囲ごとの高電圧回数である。また、M1,M2,M3,・・・,Mkは、上述したようにバッテリ電圧範囲ごとの起動回数である。また、L1,L2,L3,・・・,Ljは、モータ負荷範囲ごとの駆動時間である。ここで、jはバッテリ電圧範囲の区分数であり、上記の例の場合、j=3である。
【0085】
関数fbは、高電圧回数N1,N2,N3,・・・,Nm、起動回数M1,M2,M3,・・・,Mk、駆動時間L1,L2,L3,・・・,Ljを変数とする関数である。劣化推定部100bは、データベース130bに基づいて関数fbの係数を特定する。モータ状態記録部101bは、劣化推定部100bが高電圧回数、起動回数、及び駆動時間と劣化度Fの相関性の特定に成功するまで高電圧回数、起動回数、及び駆動時間をデータベース130bに繰り返し記録する。
【0086】
劣化推定部100bは、関数fbの特定後、データ測定部102が測定したバッテリ電圧、モータ電圧、及びトルクから所定の期間内の高電圧回数を計測し、起動検知部103からの検知通知からその期間内の起動回数を計測する。また、劣化推定部100bは駆動時間計測部104から駆動時間を取得する。劣化推定部100bは、高電圧回数、起動回数、及び駆動時間を式(3)に代入して劣化度Fを算出する。このように、劣化推定部100bは、データベース130bに基づいてモータ2の劣化を推定する。
【0087】
ECU1bの動作は、図3を参照して述べた通りである。図3のステップSt1では、図4を参照して述べた高電圧回数の収量処理、及び図7を参照して述べた起動回数の収集処理と同時並行で駆動時間の収集処理が実行される。
【0088】
図10は、駆動時間の収集処理の一例を示すフローチャートである。駆動時間計測部104は、起動検知部103からの起動情報に基づいてモータ2が駆動中であるか否かを判定する(ステップSt31)。駆動時間計測部104は、モータ2が停止中である場合(ステップSt31のNo)、駆動時間の計時を停止する(ステップSt37)。その後、後述するステップSt36の処理が実行される。
【0089】
また、駆動時間計測部104は、モータ2が駆動中である場合(ステップSt31のYes)、駆動時間を計時する(ステップSt32)。
【0090】
次にモータ状態記録部101bは、駆動時間計測部104から駆動時間を取得し、データ測定部102からバッテリ電圧を取得する(ステップSt33)。次にモータ状態記録部101bは、取得したバッテリ電圧が属するバッテリ電圧範囲を特定する(ステップSt34)。次にモータ状態記録部101bは、特定したバッテリ電圧範囲に対応する駆動時間をデータベース130bに記録する(ステップSt35)。
【0091】
次にモータ状態記録部101bは、駆動時間の収集を終了するか否かを判定する(ステップSt36)。モータ状態記録部101bは、例えば駆動時間の収集処理の時間をタイマにより計時し、タイマが満了したとき、駆動時間の収集処理の終了を決定し、タイマが満了していないとき、駆動時間の収集処理の継続を決定する。
【0092】
モータ状態記録部101bが収集処理の継続を判定した場合(ステップSt36のNo)、再びステップSt31以降の各処理が実行される。また、モータ状態記録部101bが収集処理の終了を判定した場合(ステップSt36のYes)、収集処理は終了する。このようにして駆動時間の収集処理は実行される。
【0093】
このようにモータ状態記録部101bは、モータ2の駆動中のトルクの大きさに応じた駆動時間をデータベース130bに記録するため、劣化推定部100bは、駆動時間の経過によるモータ2の劣化も推定することができる。このため、劣化の推定の精度が第1実施例より向上する。
【0094】
また、データベース130bには、モータ2の駆動中のトルクの大きさに応じたモータ負荷範囲ごとに、モータ2の駆動時間が記録されている。このため、例えば時系列でトルク及び駆動時間をデータベース130aに記録する場合よりデータ記憶装置13のデータ容量を低く抑えることが可能である。なお、本例においてモータ状態記録部101bは、高電圧回数、起動回数、及び駆動時間をデータベース130bに記録するが起動回数のみを記録してもよい。
【0095】
なお、モータ状態記録部101bは、高電圧回数及び駆動時間だけをデータベース130bに記録してもよい。この場合も、劣化推定部100bは第1実施例より高い精度でモータ2の劣化も推定することができる。
【0096】
これまで述べたように、データ測定部は、トルク及びバッテリ電圧を測定し、モータ状態記録部101,101a,101bは、モータ負荷範囲及びバッテリ電圧範囲の少なくとも一方の範囲ごとに、モータの劣化に関連する状態をデータベース130,130a,130bに記録する。劣化推定部100,100a,100bは、データベース130,130a,130bに基づいてモータ2の劣化を推定する。
【0097】
したがって、モータ状態記録部101,101a,101bが仮に時系列でトルク、バッテリ電圧、モータ電圧、及び起動回数をデータベース130,130a,130bに記録した場合よりデータ記憶装置13のデータ容量を低く抑えることができる。
【0098】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0099】
1,1a,1b ECU(モータ劣化推定装置)
2 モータ
3 バッテリ
4 バッテリセンサ
9 補機システム
13 データ記憶装置(保持部)
20 電圧センサ
21 トルクセンサ
100,100a,100b 劣化推定部
101,101a,101b モータ状態記録部(記録部)
102 データ測定部(測定部)
103 起動検知部
104 駆動時間計測部(計時部)
130,130a,130b データベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10