(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20241126BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20241126BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2021062334
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 伸雄
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-046528(JP,A)
【文献】特開2009-273193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令値に基づいて、交流モータを制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成手段と、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換手段と、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換手段と、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータにより前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成手段と
を有し、
前記第2の変換手段は、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限
し、
前記第2の変換手段は、
前記3相の電圧指令値をクラーク変換により、2相の電圧指令値に変換するクラーク変換手段と、
前記クラーク変換手段にて変換された2相の電圧指令値を極座標変換により、電圧指令ベクトルのノルムと位相に変換する極座標変換手段と、
前記位相に基づいて特定される電圧制限六角形の制限値にて、前記電圧指令ベクトルのノルムを制限する制限処理手段と、
前記制限処理手段にて制限されたノルムを、前記位相に基づいて特定される電圧制限六角形の基本ベクトルに分解することで、3相の印加時間を導出するベクトル分解手段と、
前記3相の印加時間に基づいて、前記3相のデューティ信号を生成する生成手段と
を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制限処理手段は、直交座標系にて規定される、前記電圧制限六角形の辺のうち前記位相に基づいて特定される辺と前記電圧指令ベクトルを示す直線との交点と、原点との距離を前記制限値として用いることを特徴とする請求項
1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
トルク指令値に基づいて、交流モータを制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成手段と、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換手段と、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換手段と、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータにより前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成手段と
を有し、
前記第2の変換手段は、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限し、
前記第2の変換手段は、
前記3相の電圧指令値をクラーク変換により、2相の電圧指令値に変換するクラーク
変換手段と、
前記クラーク変換手段にて変換された2相の電圧指令値を極座標変換により、電圧指
令ベクトルのノルムと位相に変換する極座標変換手段と、
前記位相に基づいて特定される電圧制限六角形の2相の基本ベクトルに、前記電圧指
令ベクトルのノルムを分解した際に、所定の係数にて前記2相の基本ベクトルの値を制限
した上で、3相の印加時間を導出するベクトル分解手段と、
前記3相の印加時間に基づいて、前記3相のデューティ信号を生成する生成手段と
を有することを特徴とす
るモータ制御装置。
【請求項4】
前記第2の変換手段は、前記制限値にて前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限する際に、前記位相は変化しないように処理を行うことを特徴とする請求項1
~3の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、モータ制御装置、モータ制御方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置などに備えられる交流モータなどの交流電動機に対して、周波数や電圧、電流、位相などを制御可能な電源から電力を供給し、その動作を制御することが行われている。同期モータの駆動制御を行う際、制御対象であるモータへ制御装置から出力される電圧は、一般的にインバータを介する。インバータの一般的な構成では、三相モータへ電圧を出力するために6個のスイッチング素子が1組となっている。これらのスイッチングにより、直流電源電圧の範囲で任意の三相電圧が出力可能である。
【0003】
制御器から見ると、上記の構成によりモータへの出力電圧は制限されている。つまり、モータ制御系は、出力飽和の存在する非線形システムとなっている。インバータの電源電圧による制限(以下、電源制限と称する)を考慮せずにモータ駆動を行うと、特に指令が大きい場合や高速回転を行っている場合には電圧指令が増大し、電圧制限を超えた電圧飽和状態となる。電圧飽和が生じると出力トルクの急激な低下や応答性の低下など、種々の問題が生じる。そのため、電圧飽和が生じないように、あるいは電圧飽和の影響を低減するような処理が必要となる。
【0004】
電圧飽和を生じないようにするために、電圧指令値を制限することが行われている。電圧指令値を適切に制限することとは、インバータの電源電圧に応じた出力可能電圧に一致させることに相当する。三相で考えた場合、出力可能電圧は、端子間電圧が電源電圧に等しくなる。ここで、モータの電流制御は、三相電流ではなく電流ベクトルに対して行われるため、電圧も三相電圧ではなく、電圧ベクトルとして考える方が扱いやすい。よって、インバータの電源電圧による制限も三相ではなくベクトル的に表すと、固定座標上の六角形となる。特許文献1では、制御部の出力を電圧制限六角形で制限するように制御することで、電圧利用率を向上させる制御方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、特許文献1では、六角形での電圧ベクトル制限方法に指定が無いため、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルに位相差が生じる場合があった。また、能動的に電圧指令ベクトルを制限しなくても、出力電圧ベクトルは、結果的に電圧制限六角形に収まる様にしか出力されない。しかし、能動的な制限を行わない場合、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの位相差は最大となりうる。電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの乖離において、その大きさに関しては電流ベクトルの大きさやトルクの大きさに連動しているため、これまでも考慮されてきた。一方、位相差に関しては、十分に検討されていなかった。電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトル間に位相差があると、電流ベクトルやトルクの大きさだけでなく、リップルにも影響が出てしまう。
【0007】
上記課題を鑑み、本願発明は、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差に起因した影響を抑えて適切な電圧制限を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、モータ制御装置であって、
トルク指令値に基づいて、交流モータを制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成手段と、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換手段と、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換手段と、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータにより前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成手段と
を有し、
前記第2の変換手段は、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限する。
【0009】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、モータ制御方法であって、
トルク指令値に基づいて、交流モータを制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成工程と、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換工程と、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換工程と、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータにより前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成工程と
を有し、
前記第2の変換工程において、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限する。
【0010】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、プログラムであって、
コンピュータを、
トルク指令値に基づいて、交流モータを制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成手段、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換手段、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換手段、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータにより前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成手段
として機能させ、
前記第2の変換手段は、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限する。
【発明の効果】
【0011】
本願発明により、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差に起因した影響を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本願発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概要構成の例を示す構成図。
【
図2】本願発明の一実施形態に係るモータ制御系の構成例を示す図。
【
図3】本願発明の第1の実施形態に係るSVM部の構成例を示す図。
【
図4】本願発明に係る電圧指令ベクトルの制御における電圧制限六角形を説明するための概念図。
【
図5】本願発明の第1の実施形態に係る電圧指令ベクトルの制限方法を説明するための図。
【
図6】本願発明の第1の実施形態に係るSVM部における処理のフローチャート。
【
図7】本願発明の第1の実施形態の変形例に係る電圧指令ベクトルの制限方法を説明するための図。
【
図8】本願発明の第2の実施形態に係るSVM部の構成例を示す図。
【
図9】本願発明の第2の実施形態に係る電圧指令ベクトルの制限方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。なお、以下に示す電動パワーステアリング装置の構成は一例であり、本願発明に係るモータ制御方法は、電動パワーステアリング装置の他、交流モータを含む電動機全般(例えば、電動ブレーキブースター等)に適用可能である。また、本願発明に係るモータ制御方法は、交流モータとして、メガトルクモータなどにも適用可能である。
【0015】
[構成概要]
本実施形態に係るモータ制御方法を適用可能な装置の一例としての電動パワーステアリング装置の構成例を
図1に示す。ステアリングホイール1は、ドライバが転舵操作を行うための転舵輪である。ステアリングホイール1の操舵軸2は、減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a、4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0016】
操舵軸2は、トーションバー9を介して、ステアリングホイール1側の入力軸と、ピニオンラック機構5側の出力軸とが連結して構成される。ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフト(不図示)に連結されたピニオン5aと、ピニオン5aに噛合するラック5bとを有する。ピニオン5aに伝達された回転運動が、ラック5bで車幅方向の直進運動に変換される。
【0017】
操舵軸2には、トーションバー9に対して加えられる操舵トルクTdctを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、操舵軸2のステアリングホイール1側(入力軸側)の軸周りの回転角を示す操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。また、操舵軸2には、操舵軸2のピニオンラック機構5側(出力軸側)の軸周りの回転角を示す出力軸角θcを検出する出力軸角センサ15が設けられている。つまり、操舵角センサ14はトーションバー9に対する入力軸側の回転角を操舵角θhとして検出し、出力軸角センサ15はトーションバー9に対する出力軸側の回転角を出力軸角θcとして検出する。トルクセンサ10は、操舵角θhと出力軸角θcの差によって生じるトーションバー9のねじれに基づき、操舵トルクTdctを検出する。
【0018】
なお、操舵角センサ14と出力軸角センサ15は、一体となって構成されたセンサであってもよい。また、
図1では、説明を容易にするために、操舵軸2とトルクセンサ10を分けて示しているが、これらが一体となった構成であってもよい。トルクセンサ10の構成は特に限定するものではなく、例えば、トーションバー9のねじれからトルクを検出するスリーブタイプやリングタイプなどが用いられてよい。また、上記の構成では、操舵トルクT
dctは、操舵角θ
hと出力軸角θ
cの差によって生じるトーションバー9のねじれに基づいて検出されているが、これに限定するものではない。例えば、トーションバー9のステアリングホイール1側の角度信号と、ピニオンラック機構5側の角度信号の差を用いて、トルク値を検出してもよい。以下の説明において、操舵軸2のステアリングホイール1側を上流側、ピニオンラック機構5側を下流側とも称する。
【0019】
トルクセンサ10にて検出される操舵トルクTdctには、ドライバによるステアリングホイール1に対する操作に基づくドライバトルクの他、下流側からの入力(外乱等)により生じたトルクが含まれる。操舵トルクTdctに基づく指令値を、下流側の入力に起因する振動を抑制するように補正する。ここでの抑制方法は特に限定するものではなく、任意の手法が用いられてよい。
【0020】
ステアリングホイール1に対する操舵力を補助する操舵補助モータ20が減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置を制御するコントローラであるEPS-ECU(Electronic Control Unit)30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニッション(IGN)キー11を経てイグニッションキー信号が入力される。
【0021】
本実施形態に係る操舵補助モータ20(以下、単にモータ20とも称する)は、例えば、同期モータの一種である3相交流モータであり、永久磁石界磁または巻線界磁を有する。モータ20は、u相、v相、w相の各相コイル(不図示)に120°ずつ位相が異なる3相の交流電流が供給されることにより回転する。モータ20の回転子(不図示)の軸には、レゾルバやロータリエンコーダなどから構成される回転角検出部215が設置される。回転角検出部215にて検出されたモータ20の回転角θは、EPS-ECU30へ出力される。ここで検出される回転角θの用途については後述する。
【0022】
EPS-ECU30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTdct、および車速センサ12で検出された車速Vhに基づいてアシスト指令値としての電圧指令値の演算を行う。さらに、EPS-ECU30は、操舵トルクTdctに基づく電圧指令値と、運転支援機能に基づく電圧指令値とに応じて操舵補助モータ20に供給する電力(電圧値Vref)を制御する。操舵補助モータ20は、EPS-ECU30から入力された電圧値Vrefに基づき、減速ギア3を動作させ、ステアリングホイール1に対するアシスト制御を行う。
【0023】
EPS-ECU30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。以下に説明するEPS-ECU30の機能は、例えばEPS-ECU30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0024】
なお、EPS-ECU30は、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウェアにより形成されてもよい。例えば、EPS-ECU30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えば、EPS-ECU30は、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0025】
[モータ制御の機能構成]
図2は、本実施形態に係るモータ20の制御に係るモータ制御系の構成例を示す図である。
図2に示す制御系は、例えば、EPS-ECU30の内部に構成される。
【0026】
本実施形態に係る制御系において、まず、トルク指令値τ
*が、電流指令生成部201に入力される。トルク指令値τ
*は、例えば、EPS-ECU30が、
図1に示した操舵トルクT
dctに基づいて、モータ20により出力するべきトルク値を算出し、これに対応する値として指定される指令値である。なお、以下の説明において記号「
*」は、指令値であることを示す。電流指令生成部201は、角速度演算部217から入力されるモータ20の角速度ωに基づいて、モータ20にて発生させるトルクと、トルク指令値τ
*とが一致するようにd軸およびq軸成分それぞれにおける電流指令値を演算する。ここで、d軸とq軸は、dq回転座標系における軸である。d軸は、モータ20が備える回転子(不図示)の磁束の方向を示す。また、q軸は、d軸に直交した方向を示す。
【0027】
電流指令生成部201は、回転数に応じたdq電流指令値を生成する。dq電流指令値は、例えば、MTPA(Maximum Torque Per Ampere:最大トルク/電流)制御や、FW(Flux Weaking:弱め磁束)制御に対応する値が生成されてよい。電流指令生成部201により生成されたd軸成分の電流指令値id
*は減算器202に出力される。また、電流指令生成部201により生成されたq軸成分の電流指令値iq
*は減算器202に出力される。
【0028】
減算器202は、電流指令値id
*から、3相/2相変換部216から出力される実電流値idを減算し、偏差Δid
*としてPI制御部204へ出力する。減算器203は、電流指令値iq
*から、3相/2相変換部216から出力される実電流値iqを減算し、偏差Δiq
*としてPI制御部204へ出力する。
【0029】
PI制御部204は、減算器202、203からの偏差Δid
*、Δiq
*を入力とし、PI(Proportinal-Integral:比例-積分)制御を行う。ここでは、PI制御部204は、所定の伝達関数を用いて電圧指令値vd
*、vq
*を算出し、アンチワインドアップ部205へ出力する。このとき、PI制御部204は、アンチワインドアップ部205から、電圧指令値に対する制限値からの超過分Δvd
*、Δvq
*を積分器(不図示)に対する負帰還として受け付け、PI制御に反映させる。これにより、積分器(不図示)における飽和を防ぐ。
【0030】
アンチワインドアップ部205は、PI制御部204からの電圧指令値vd
*、vq
*を、予め設定した制限値を超過しないように制限し、超過分をΔvd
*、Δvq
*として、PI制御部204へ負帰還する。これにより、制御出力が飽和している際の積分器(不図示)内の積分値が増加し続けることを防止し、指令変化への追従性を高める。また、アンチワインドアップ部205は、制限後の電圧指令値vd
**、vq
**をデカップリング部206へ出力する。
【0031】
デカップリング部206は、アンチワインドアップ部205から入力された電圧指令値vd
**、vq
**に対し、角速度演算部217から入力されるモータ20の角速度ωに応じて、誘起電圧を除去し、q軸-d軸間の非干渉化を行う。そして、デカップリング部206は、処理後の電圧指令値vd
***、vq
***を2相/3相変換部207へ出力する。
【0032】
2相/3相変換部207は、デカップリング部206から入力された電圧指令値vd
***、vq
***を、回転角検出部215から入力されるモータ20の回転角θに基づいて、モータ20に対応した3相電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*に変換する。そして、2相/3相変換部207は、3相電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*をデッドタイム補償部208へ出力する。
【0033】
デッドタイム補償部208は、2相/3相変換部207から入力された3相電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*に対し、デッドタイムの影響を除去するための補償を行う。デッドタイム補償部208では、デッドタイムに起因する電圧誤差を予め各相電圧指令値に重畳することで、電圧誤差を打ち消す。ここで重畳する電圧は、デッドタイムに起因する電圧誤差と同等の大きさである。そして、デッドタイム補償部208は、処理後の3相電圧指令値vu
**、vv
**、vw
**をSVM部209へ出力する。
【0034】
SVM部209は、デッドタイム補償部208から入力された3相電圧指令値v
u
**、v
v
**、v
w
**に対し、SVM(Space Vector Modulation:空間ベクトル変調)処理を行い、各相のデューティ比を示すDuty
u、Duty
v、Duty
wを生成する。そして、SVM部209は、生成した3相のデューティ比をPWM生成部210へ出力する。本実施形態に係るSVM部209の詳細な構成および処理については、
図3等を用いて後述する。
【0035】
PWM生成部210は、SVM部209から入力された3相のデューティ比それぞれから、インバータ211に対する制御信号であるPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号PWMu、PWMv、PWMwを生成する。そして、PWM生成部210は、PWM信号PWMu、PWMv、PWMwをインバータ211へ出力する。
【0036】
インバータ211は、PWM生成部210からの入力に基づいて、バッテリ13により供給される交流電源の電力を3相交流電圧v
u、v
v、v
wに変換して、モータ20へ供給する。なお、
図1では、EPS-ECU30からモータ20に出力される指令値として、電圧値V
refを示したが、これは、3相交流電圧v
u、v
v、v
wに対応する。
【0037】
インバータ211とモータ20との間の接続線上には、3相交流電圧vu、vv、vwに対応する電流値を検出するための電流検出回路212、213、214が備えられ、3相交流電流iu、iv、iwの値が検出される。電流検出回路212、213、214は、検出した電流値を3相/2相変換部216へ出力する。なお、電流検出回路212、213、214は、インバータ211内部に設けられてもよい。
【0038】
回転角検出部215は、モータ20の回転角θを検出し、2相/3相変換部207、3相/2相変換部216、および角速度演算部217へ出力する。
【0039】
3相/2相変換部216は、3相電流値(インバータ211からモータ20に供給される3相交流電流iu、iv、iw)、および回転角検出部215からのモータ20の回転角θを入力とし、3相電流値をdq回転座標系のd軸およびq軸それぞれに対応した2相の実電流値id、iqに変換する。そして、3相/2相変換部216は、実電流値idを減算器202へ出力し、実電流値iqを減算器203へ出力する。
【0040】
角速度演算部217は、回転角検出部215からの回転角θを微分してモータ20の角速度ωを算出し、電流指令生成部201、およびデカップリング部206へ出力する。
【0041】
(SVM部)
図2にて示したモータ制御系に含まれるSVM部209の詳細について説明する。
図3は、本実施形態に係るSVM部209の機構構成の例を示す図である。SVM部209は、クラーク変換部301、極座標変換部302、制限処理部303、ベクトル分解部304、およびデューティ生成部305を含んで構成される。
【0042】
クラーク変換部301は、SVM部209に入力された3相電圧指令値vu
**、vv
**、vw
**に基づいてクラーク変換を行い、直交座標系であるαβ直交座標系における2相のαβ電圧指令値vα
*、vβ
*を導出する。そして、クラーク変換部301は、2相のαβ電圧指令値vα
*、vβ
*を極座標変換部302へ出力する。極座標変換部302は、クラーク変換部301から入力されたαβ電圧指令値vα
*、vβ
*に基づいて極座標変換を行い、電圧指令ベクトルのノルムva
*と位相ε*を導出する。そして、極座標変換部302は、電圧指令ベクトルのノルムva
*と位相ε*を制限処理部303へ出力する。
【0043】
制限処理部303は、極座標変換部302から入力された電圧指令ベクトルのノルムv
a
*と位相ε
*に対して、インバータ211の電源電圧に対応して電圧制限六角形にて規定される制限値にて制限をかける。
図4は、本実施形態に係る制限手法の概念を説明するための図である。上述したように、インバータ211の電源電圧による制限をベクトル的に表すと、固定座標系の六角形となり、六角形に含まれる範囲が電圧ベクトルの出力可能領域を示す。そして、この六角形にて示される範囲は、6つのセクションに分けられ、位相ε
*の値に応じていずれかのセクションが用いられる。つまり、位相ε
*は、0~60度、60~120度、120~180度、180~240度、240~300度、300~360度の6つの範囲に分けられ、それぞれが上記のセクションに対応する。
【0044】
ここでは、横軸をα軸とし、縦軸をβ軸とする。このαβ直交座標系は、クラーク変換部301にて変換されたαβ電圧指令値vα
*、vβ
*の値に対応する。本実施形態では、電圧指令ベクトルのノルムva
*をこの電圧制限六角形にて示す制限値にて制限を行うことで、制限後の電圧指令ベクトルのノルムva
**を導出する。
【0045】
図4に示すような電圧制限六角形に対応するため、60度ごとに処理を切り替える必要がある。まず、電圧指令ベクトルの位相ε
*が0~60度の範囲にある時を考える。このとき、固定座標系から、60度(=π/3)回転させたxy座標系を用いる。
図5は、ここで用いるxy座標系の例を示す。
【0046】
まず、xy座標系において、電圧指令ベクトルの直線は、以下の式(1)にて示すことができる。また、
図4に示す電圧制限六角形の辺は、以下の式(2)にて示すことができる。
【0047】
【0048】
【0049】
そして、式(1)と式(2)それぞれにて示される直線の交点Hとxy座標系の原点Oの距離|OH|は、以下の式(3)にて求められる。
【0050】
【0051】
式(3)にて得られる距離|OH|の値が、電圧指令ベクトルのノルムva
*に対する制限値となる。電圧指令ベクトルの位相ε*が0~60度以外の範囲である場合には、位相ε*の代わりに以下の式(4)にて示される値ε’を用いる。なお、mod関数は、数値を除数で割ったときの余りを算出する関数であり、「X mod Y」の場合、XをYで割った場合の余りを示す。
【0052】
【0053】
制限処理部303は、極座標変換部302から入力された電圧指令ベクトルのノルムva
*を上記の式(3)にて算出された制限値(=|OH|)にて制限することで、va
**を導出する。そして、制限処理部303は、制限後の電圧指令ベクトルのノルムva
**と、位相ε*をベクトル分解部304へ出力する。
【0054】
ベクトル分解部304は、制限処理部303から入力された電圧指令ベクトルのノルムv
a
**と、位相ε
*に基づいて、位相ε
*に対応するセクション(
図4に示す各セクションに対応)の基本ベクトルに分解することで、3相の平均印加時間t
1、t
2、t
3を導出する。そして、ベクトル分解部304は、3相の平均印加時間t
1、t
2、t
3をデューティ生成部305へ出力する。
【0055】
デューティ生成部305は、ベクトル分解部304から入力された3相の平均印加時間t1、t2、t3に基づき、3相のデューティ比を計算し、各相のデューティ比を示すDutyu、Dutyv、Dutywを生成する。そして、デューティ生成部305は、Dutyu、Dutyv、DutywをPWM生成部210へ出力する。
【0056】
[処理フロー]
図6は、本実施形態に係るSVM部209における処理のフローチャートを示す。本処理フローは、例えば、EPS-ECU30に備えられた制御部(不図示)が所定のプログラムを読み出すことで実現されてよい。なお、本実施形態では説明を簡単にするため、処理主体をSVM部209としてまとめて記載するが、各処理工程は、
図3に示すような各部位が実行する構成であってよい。
【0057】
S601にて、SVM部209は、入力された3相電圧指令値vu
**、vv
**、vw
**に基づいてクラーク変換を行い、αβ直交座標系における2相のαβ電圧指令値vα
*、vβ
*を導出する。ここでのクラーク変換の方法は、公知の手法を用いてよく、ここでの詳細な説明は省略する。
【0058】
S602にて、SVM部209は、S601にて変換した2相のαβ電圧指令値vα
*、vβ
*に基づいて極座標変換を行い、電圧指令ベクトルのノルムva
*と位相ε*を導出する。ここでの極座標変換の方法は、公知の手法を用いてよく、ここでの詳細な説明は省略する。
【0059】
S603にて、SVM部209は、S602にて変換した電圧指令ベクトルの位相ε*に対応する、電圧制限六角形にて規定されるセクションを特定し、その辺を導出する。より具体的には、上記の式(2)、および式(4)にて、制限値に対応する辺の直線を特定する。
【0060】
S604にて、SVM部209は、電圧指令ベクトルを示す直線と、S603にて導出した辺との交点から、電圧指令ベクトルのノルムva
*に対する制限値を導出する。具体的には、上記の式(1)にて示される直線と、S602にて導出した辺との交点Hを求め、更に、式(3)により交点Hと原点Oとの距離を求めることで、電圧指令ベクトルのノルムva
*に対する制限値を導出する。
【0061】
S605にて、SVM部209は、S604にて導出した制限値にて、電圧指令ベクトルのノルムva
*を制限することで、制限後の電圧指令ベクトルのノルムva
**を導出する。
【0062】
S606にて、SVM部209は、S605にて導出した電圧指令ベクトルのノルムva
**と位相ε*に基づき、位相ε*に対応する電圧制限六角形におけるセクションの基本ベクトルに分解することで、3相の平均印加時間t1、t2、t3を導出する。ここでの基本ベクトルへの分解方法は、公知の方法を用いてよく、ここでの詳細な説明は省略する。
【0063】
S607にて、SVM部209は、S606にて導出した3相の平均印加時間t1、t2、t3に基づき、3相のデューティ比を計算し、各相のデューティ比を示すDutyu、Dutyv、Dutywを生成する。そして、SVM部209は、Dutyu、Dutyv、DutywをPWM生成部210へ出力する。そして、本処理フローを終了する。
【0064】
以上、本実施形態により、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差をなくすことが可能となり、位相差に起因した影響を抑えることが可能となる。特に、位相差による電流応答の遅れや、トルクリップル等を低減することができ、モータの高速回転時の安定性を向上させることが可能となる。
【0065】
(変形例)
本実施形態の変形例について説明する。上記の例では、制限処理部303の処理において、0~60度の範囲を基準として式(1)、および式(2)を用い、0~60度以外の範囲では、式(4)を用いて位相を変換していた。これの変形例として、位相の範囲ごとに電圧指令ベクトルのノルムva
*に対する制限値に対応する辺を示す式を切り替えて用いる構成について説明する。
【0066】
本変形例では、電圧指令ベクトルのノルムva
*に対応する直線は以下の式(5)にて求示すことができる。つまり、本変形例では、式(1)に代えて、式(5)を用いる。
【0067】
【0068】
更に、位相ε*の値に応じて、以下の各式を用いて電圧制限六角形の辺に対応する直線を求める。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
図7は、位相ε
*が0~60度の範囲において、これに対応する式(6)と、式(5)を用いて、制限値(=|OH|)を求める場合の例を示す。式(5)にて示される電圧指令ベクトルのノルムv
a
*を示す直線と、式(6)にて示される電圧制限六角形の辺の直線との交点Hを求める。そして、求められた交点Hとxy座標系の原点Oの距離|OH|を、上記の式(3)により求める。
【0076】
本変形例においても、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差をなくすことが可能となり、位相差に起因した影響を抑えることが可能となる。
【0077】
<第2の実施形態>
本願発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態にて述べたSVM部209の制限処理部303に代えて、ベクトル分解部による処理により、電圧指令値の制限を行う。なお、第1の実施形態と重複する箇所については説明を省略し、差分に着目して説明を行う。
【0078】
(SVM部)
本実施形態に係るSVM部209の構成について
図8を用いて説明する。モータ制御系における、SVM部209以外の構成については、第1の実施形態の
図2にて示した構成と同様である。SVM部209は、クラーク変換部301、極座標変換部302、ベクトル分解部801、およびデューティ生成部305を含んで構成される。ベクトル分解部801以外の処理は、第1の実施形態にて説明した処理と同様である。
【0079】
極座標変換部302は、電圧指令ベクトルのノルムva
*と位相ε*をベクトル分解部801へ出力する。ベクトル分解部801は、極座標変換部302から入力された電圧指令ベクトルのノルムva
*と位相ε*に基づいて、位相ε*に対応するセクションの基本ベクトルに分解することで、3相の平均印加時間t1、t2、t3を導出する。このとき、ベクトル分解部801は、電圧制限六角形にて規定される6つのセクションのうち位相ε*に対応するセクションの基本ベクトル2つに対する係数c1、c2を用いて、電圧指令ベクトルのノルムva
*に制限をかける。
【0080】
図9は、本実施形態に係る制限手法の概念を説明するための図である。第1の実施形態にて述べたように、インバータ211の電源電圧による制限をベクトル的に表すと、固定座標系の六角形となる。そして、この六角形にて示される範囲は、6つのセクションに分けられ、位相ε
*の値に応じていずれかのセクションが用いられる。つまり、位相ε
*は、0~60度、60~120度、120~180度、180~240度、240~300度、300~360度の6つの範囲に分けられ、それぞれが上記のセクションに対応する。
【0081】
図9は、位相ε
*が0~60度の範囲にある場合の例を示している。ここでのセクションの2つの基本ベクトルをV
1、V
2として示す。そして、この2つの基本ベクトルに対する係数c
1、c
2により、電圧指令ベクトルのノルムv
a
*を制限する。まず、電圧指令ベクトルのノルムv
a
*は以下の式(12)によって規定できる。
【0082】
【0083】
更に、電圧制限六角形に対応して、以下の式(13)にて示される制限を設定する。
【0084】
【0085】
そして、式(13)に示される制限を満たすように係数を更新すると以下の式(14)、式(15)にて示す係数c’1、c’2が規定される。
【0086】
【0087】
【0088】
式(12)、式(14)、および式(15)に基づいて制限された電圧指令ベクトルのノルムva
**は以下の式(16)にて示される。
【0089】
【0090】
そして、ベクトル分解部1001は、制限した電圧指令ベクトルva
**と、位相ε*に基づく基本ベクトルにより、3相の平均印加時間t1、t2、t3を導出する。そして、ベクトル分解部304は、3相の平均印加時間t1、t2、t3をデューティ生成部305へ出力する。
【0091】
以上、本実施形態により、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差をなくすことが可能となり、位相差に起因した影響を抑えることが可能となる。
【0092】
<その他の実施形態>
本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0093】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0094】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) トルク指令値に基づいて、交流モータ(例えば、20)を制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成手段(例えば、201~206)と、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換手段(例えば、207、208)と、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換手段(例えば、209)と、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータ(例えば、211)により前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成手段(例えば、210)と
を有し、
前記第2の変換手段は、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限することを特徴とするモータ制御装置(例えば、30)。
この構成によれば、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差をなくすことが可能となり、位相差に起因した影響を抑えることが可能となる。
【0095】
(2) 前記第2の変換手段は、前記制限値にて前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限する際に、前記位相は変化しないように処理を行うことを特徴とする(1)に記載のモータ制御装置。
この構成によれば、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差が生じないように制御することが可能となる。
【0096】
(3) 前記第2の変換手段は、
前記3相の電圧指令値をクラーク変換により、2相の電圧指令値に変換するクラーク変換手段(例えば、301)と、
前記クラーク変換手段にて変換された2相の電圧指令値を極座標変換により、電圧指令ベクトルのノルムと位相に変換する極座標変換手段(例えば、302)と、
前記位相に基づいて特定される電圧制限六角形の制限値にて、前記電圧指令ベクトルのノルムを制限する制限処理手段(例えば、303)と、
前記制限処理手段にて制限されたノルムを、前記位相に基づいて特定される電圧制限六角形の基本ベクトルに分解することで、3相の印加時間を導出するベクトル分解手段(例えば、304)と、
前記3相の印加時間に基づいて、前記3相のデューティ信号を生成する生成手段(例えば、305)と
を有することを特徴とする(1)または(2)に記載のモータ制御装置。
この構成によれば、インバータの電源電圧に対応した電圧制限六角形に基づいて、電圧指令値ベクトルのノルムのみを制限することが可能となる。
【0097】
(4) 前記制限処理手段は、直交座標系にて規定される、前記電圧制限六角形の辺のうち前記位相に基づいて特定される辺と前記電圧指令ベクトルを示す直線との交点と、原点との距離を前記制限値として用いることを特徴とする(3)に記載のモータ制御装置。
この構成によれば、インバータの電源電圧に対応した電圧制限六角形に基づいて、位相に対応した制限値を特定することができる。
【0098】
(5) 前記第2の変換手段は、
前記3相の電圧指令値をクラーク変換により、2相の電圧指令値に変換するクラーク変換手段(例えば、301)と、
前記クラーク変換手段にて変換された2相の電圧指令値を極座標変換により、電圧指令ベクトルのノルムと位相に変換する極座標変換手段(例えば、302)と、
前記位相に基づいて特定される電圧制限六角形の2相の基本ベクトルに、前記電圧指令ベクトルのノルムを分解した際に、所定の係数にて前記2相の基本ベクトルの値を制限した上で、3相の印加時間を導出するベクトル分解手段(例えば、801)と、
前記3相の印加時間に基づいて、前記3相のデューティ信号を生成する生成手段(例えば、305)と
を有することを特徴とする(1)または(2)に記載のモータ制御装置。
この構成によれば、インバータの電源電圧に対応した電圧制限六角形に基づいて、電圧指令値ベクトルのノルムのみを制限することが可能となる。
【0099】
(6) トルク指令値に基づいて、交流モータを制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成工程と、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換工程と、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換工程と、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータにより前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成工程と
を有し、
前記第2の変換工程において、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限することを特徴とするモータ制御方法。
この構成によれば、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差をなくすことが可能となり、位相差に起因した影響を抑えることが可能となる。
【0100】
(7) コンピュータを、
トルク指令値に基づいて、交流モータを制御するための2相の電流指令値を生成する第1の生成手段、
前記2相の電流指令値を3相の電圧指令値に変換する第1の変換手段、
前記3相の電圧指令値に基づいてベクトル変換を行うことにより、3相のデューティ信号を生成する第2の変換手段、
前記3相のデューティ信号に基づき、インバータにより前記交流モータに電源電圧を供給するための制御信号を生成する第2の生成手段
として機能させ、
前記第2の変換手段は、前記3相の電圧指令値の位相に応じて特定される、前記インバータの電源電圧に対応する電圧制限六角形の制限値にて、前記3相の電圧指令値のベクトルのノルムを制限することを特徴とするプログラム。
この構成によれば、電圧指令ベクトルと出力電圧ベクトルの間の位相差をなくすことが可能となり、位相差に起因した影響を抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0101】
1 ステアリングホイール
2 操舵軸
3 減速ギア
4a,4b ユニバーサルジョイント
5 ピニオンラック機構
6a,6b タイロッド
7a,7b ハブユニット
8L,8R 操向車輪
9 トーションバー
10 トルクセンサ
11 イグニッション(ING)キー
12 車速センサ
13 バッテリ
14 操舵角センサ
20 操舵補助モータ(モータ)
30 EPS(Electric Power Steering)-ECU(Electronic Control Unit))
201 電流指令生成部
202,203 減算器
204 PI制御部
205 アンチワインドアップ部
206 デカップリング部
207 2相/3相変換部
208 デッドタイム補償部
209 SVM部
210 PWM生成部
211 インバータ
212,213,214 電流検出回路
215 回転角検出部
216 3相/2相変換部
217 角速度演算部