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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/185 20060101AFI20241126BHJP
   B62D 1/184 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B62D1/185
B62D1/184
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021063852
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022159579
(43)【公開日】2022-10-18
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】作田 雅芳
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-55983(JP,A)
【文献】特開2017-171196(JP,A)
【文献】特開2018-103763(JP,A)
【文献】実開平6-63473(JP,U)
【文献】特開2008-94254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/185
B62D 1/184
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に接続されるコラムシャフトを回転可能に保持する筒状のインナーチューブと、
前記インナーチューブの軸方向において、前記インナーチューブを移動可能に保持するハウジングと、
前記ハウジングに対する前記インナーチューブの移動を複数箇所で規制可能なロック機構と、を備え、
前記ロック機構は、
前記インナーチューブの外周面に固定的に設けられ、前記インナーチューブの軸方向に複数の第一歯部が並んで配置される第一係合部材と、
前記軸方向において衝撃吸収部材を介して前記ハウジングに固定され、前記第一係合部材に対して離接し、前記第一歯部と噛み合う第二歯部を有する第二係合部材と、
前記第二係合部材を前記インナーチューブから外向きに付勢する第一付勢部材と、
前記第一付勢部材の付勢力に抗して前記第一歯部と前記第二歯部とが噛み合うように前記第二係合部材を前記第一係合部材に向かって押圧する押圧機構と、
前記第一歯部と前記第二歯部とが噛み合わない解除位置に前記第二係合部材の移動を規制する規制部材と、
前記第二係合部材と前記規制部材との間に配置され、前記第二係合部材の離接方向の移動に伴って移動し、前記軸方向においては前記ハウジングにより移動が規制される打音抑制部材と、を備える
ステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、
前記軸方向、および前記離接方向に直交する幅方向において第一係合部材の両側に前記衝撃吸収部材が掛けられる保持突起を備え、
前記打音抑制部材は、
前記幅方向の両方に突出し、前記軸方向において前記保持突起に当接する係合突起を備える
請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記打音抑制部材は、
前記軸方向において突出し前記ハウジングに先端が当接する当接突起を備える
請求項1または2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項4】
前記ハウジングは、
前記軸方向、および前記離接方向に直交する幅方向において前記第一係合部材の側方に前記離接方向に窪む係合穴部を備え、
前記打音抑制部材は、
前記係合穴部に挿入される挿入部を備える
請求項1から3のいずれか一項に記載のステアリングコラム装置。
【請求項5】
前記打音抑制部材は、
前記ハウジングに固定される固定部と、
前記固定部に対して弾性的に撓み変形する爪部と、を備える
請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵に関連するステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テレスコピック構造を備え伸縮可能なステアリングコラム装置が存在している。このようなステアリングコラム装置は、一方のジャケットに伸縮方向に並ぶ歯を設け他方のジャケットに当該歯に噛み合う第二の歯を設け、これらを噛み合わせることにより所望の位置で二つのジャケットの位置を固定するいわゆるポジティブロック構造が採用される場合がある。
【0003】
特許文献1は、ポジティブロック構造が採用されたステアリングコラム装置を開示するものであり、ロック解除をする際に金属製の部材同士の接触による打音の発生を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-103763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のポジティブロック構造は、一方の歯に対し他方の歯を回転移動させることにより離接するものである。
【0006】
本発明は、一方の歯に対し他方の歯を直線移動させることにより離接するポジティブロック構造が採用されたステアリングコラム装置であって、金属部材同士が接触することによる打音を抑制するステアリングコラム装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリングコラム装置は、操舵部材に接続されるコラムシャフトを回転可能に保持する筒状のインナーチューブと、前記インナーチューブの軸方向において、前記インナーチューブを移動可能に保持するハウジングと、前記ハウジングに対する前記インナーチューブの移動を複数箇所で規制可能なロック機構と、を備え、前記ロック機構は、前記インナーチューブの外周面に固定的に設けられ、前記インナーチューブの軸方向に複数の第一歯部が並んで配置される第一係合部材と、前記軸方向において衝撃吸収部材を介して前記ハウジングに固定され、前記第一係合部材に対して離接し、前記第一歯部と噛み合う第二歯部を有する第二係合部材と、前記第二係合部材を前記インナーチューブから外向きに付勢する第一付勢部材と、前記第一付勢部材の付勢力に抗して前記第一歯部と前記第二歯部とが噛み合うように前記第二係合部材を前記第一係合部材に向かって押圧する押圧機構と、前記第一歯部と前記第二歯部とが噛み合わない解除位置に前記第二係合部材の移動を規制する規制部材と、前記第二係合部材と前記規制部材との間に配置され、前記第二係合部材の離接方向の移動に伴って移動し、前記軸方向においては前記ハウジングにより移動が規制される打音抑制部材と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
第二係合部材と規制部材との間に打音防止部材が配置され、第二係合部材の離接動作に伴って打音防止部材も動作することで第二係合部材と規制部材との直接的な接触が無くなり打音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ステアリングコラム装置の構成を示す斜視図である。
図2】ロック機構を分解して示す斜視図である。
図3】ロック状態のロック機構を示す断面図である。
図4】解除状態のロック機構を示す断面図である。
図5】第一付勢部材を示す斜視図である。
図6】打音抑制部材を示す斜視図である。
図7】打音抑制部材を透過状態で示す斜視図である。
図8】二次衝突発生時に維持部材に第二係合部材が潜り込んだ状態を示す断面図である。
図9】打音抑制部材の別例1を示す斜視図である。
図10】打音抑制部材の別例2を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るステアリングコラム装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するために一例を挙示するものであり、本発明を限定する主旨ではない。例えば、以下の実施の形態において示される形状、構造、材料、構成要素、相対的位置関係、接続状態、数値、数式、方法における各段階の内容、各段階の順序などは、一例であり、以下に記載されていない内容を含む場合がある。また、平行、直交などの幾何学的な表現を用いる場合があるが、これらの表現は、数学的な厳密さを示すものではなく、実質的に許容される誤差、ずれなどが含まれる。また、同時、同一などの表現も、実質的に許容される範囲を含んでいる。
【0011】
また、図面は、本発明を説明するために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる。
【0012】
また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として包括的に説明する場合がある。また、以下に記載する内容の一部は、本発明に関する任意の構成要素として説明している。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るステアリングコラム装置の構成を示す斜視図である。ステアリングコラム装置100は、操舵者が操舵するステアリングホイールなどの操舵部材(不図示)をコラムシャフト(不図示)を介して回転可能に保持し、操舵部材の位置を変更することができる装置であって、インナーチューブ120と、ハウジング130と、ロック機構150と、衝撃吸収部材170(図2参照)と、を備えている。なお、ステアリングコラム装置100は、コラムシャフト、およびコラムシャフトに連結されるインターミディエイトシャフトなどのシャフト部材、ラックアンドピニオン機構などの転舵機構を備える場合があるが、これらの図示および説明は省略する。
【0014】
ステアリングコラム装置100は、衝突が発生していない通常の使用においては、操作レバー156(後述)を解除側に回転させ、ハウジング130に対しインナーチューブ120を軸方向(図中Y軸方向)にスライドさせることにより、操舵者の体格などに応じて操舵部材のポジションを変更することができる。また、操作レバー156を固定側に回転させる事により、ロック機構150によりインナーチューブ120のポジションを固定することができる。
【0015】
本実施の形態の場合、ステアリングコラム装置100は、操作レバー156を固定側に回転させる事により、ハウジング130を縮径しインナーチューブ120を締め付けることもできる。また、ステアリングコラム装置100は、取付部材200により車体に吊り下げ状態で取り付けられ、車体に対するハウジング130の傾きを変更できるものとなっている。また、ハウジング130の傾きの固定と解除も操作レバー156により実行することができる機構を備えている。
【0016】
インナーチューブ120が保持するコラムシャフトは、操舵者が操舵する操舵部材が先端部(図中Y-側の先端部)に取り付けられる部材であり、インナーチューブ120を介してハウジング130の内方に挿通状態で回転可能に保持され、操舵部材の操舵角をラックアンドピニオンなどの転舵機構に伝達する部材である。本実施の形態の場合、コラムシャフトは、軸受(不図示)を介してインナーチューブ120に保持されており、インナーチューブ120に対し軸方向には固定され、周方向には回転可能となっている。コラムシャフトは、スプライン嵌合構造などを備え、ハウジング130に対するインナーチューブ120の出没に伴って伸縮し、かつ操舵角の伝達を維持できるように構成されている。
【0017】
インナーチューブ120は、コラムシャフトを回転可能に保持するコラムジャケット、アッパーチューブなどと称される部材であり、車体に取り付けられたハウジング130に保持されることによりコラムシャフトを介して操舵部材を回転可能に所定の位置に配置する部材である。インナーチューブ120の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、円筒形状(管状)であり、軸方向(図中Y軸方向)に貫通孔を備えたハウジング130に挿入状態で保持される。また、インナーチューブ120は、少なくとも1つの軸受を介して内方にコラムシャフトを保持しており、保持したコラムシャフトと共にハウジング130に対して軸方向(図中Y軸方向)に移動するものとなっている。
【0018】
ハウジング130は、車体に対しインナーチューブ120を軸方向(図中Y軸方向)に移動可能に保持する筒状の部分を有する部材である。またハウジング130は、操舵部材側の一端面から軸方向に延在し径方向(図中Z軸方向)に貫通する第一スリット131と、周方向において、第一スリット131の両側からそれぞれ径方向に突出する被締付部133と、を備えている。第一スリット131は、操舵部材側の一端部は開放されているが、反対側の他端部は閉ざされている。
【0019】
被締付部133には、インナーチューブ120の軸方向にそれぞれ直交する貫通孔134を備えている。貫通孔134は、インナーチューブ120の外側に配置されている。貫通孔134には、後述する操作レバー156の回転軸となる軸体157が刺し通されている。2つの被締付部133は、軸体157の軸方向において軸体157の両端部にそれぞれ係合している。被締付部133の一方は、操作レバー156の回転により軸体157の軸方向に距離が変化するようなカムを有する拡縮機構144を介して軸体157の端部と係合している。以上の構造により、操作レバー156の回転により対向状に配置される2つの被締付部133の間隔を狭めることができる。被締付部133の間隔を狭めることで、ハウジング130は縮径し、刺し通されたインナーチューブ120は、周囲からハウジング130により締め付けられてハウジング130に固定的に保持される。
【0020】
またハウジング130は、ロック機構150の一部である第一係合部材151(後述)がインナーチューブ120と共に軸方向に移動することを許容し、外側からロック機構150の操作を可能とする第二スリット132を備えている。本実施の形態の場合、第二スリット132は、ハウジング130の径方向(図中X軸方向)に貫通している。第二スリット132の貫通方向は第一スリット131の貫通方向と交差(本実施の形態の場合直交)している。軸方向において第二スリット132の両端部は、解放されていない。
【0021】
操作レバー156は、インナーチューブ120の外側(本実施の形態の場合、ハウジング130の外側)において運転者などにより操作され、ロック機構150のロックと解除とを転換するための部材である。ロック機構150の詳細は後述する。本実施の形態の場合、操作レバー156は、ロック機構150のロックと解除に加え、ハウジング130の2つの被締付部133を締め付けてインナーチューブ120の位置決めとその解除をすることができるものとなっている。操作レバー156は、ハウジング130の第一スリット131の両側に一体に延設される貫通孔134に刺し通された状態で配置される軸体157を備え、軸体157の軸周りに回転する。軸体157の一方には、フランジ部158が備えられ、他方にはスラストベアリング、ナット(不図示)を備えている。
【0022】
また、一方のフランジ部158と被締付部133との間に、拡縮機構144を備えている。拡縮機構144は、操作レバー156による回転運動を被締付部133の間隔を拡縮する直線運動に変換する機構であり、一方の部分は操作レバー156と共に回転して原動節として機能し、他方の部分は回転することなく軸体157に沿って移動する従動節として機能している。以上のように操作レバー156を軸体157周りに回転させることにより、ロック機構150のロックに加え、一対の被締付部133の間隔を狭めてインナーチューブ120をハウジング130に対し固定することができる。
【0023】
図2は、ロック機構を分解して示す斜視図である。図3は、ロック機構を示す断面図である。ロック機構150は、ハウジング130に対するインナーチューブ120の移動を複数箇所で規制可能な機構であり、第一係合部材151と、第二係合部材152と、第一付勢部材153と、押圧機構105と、規制部材137と、打音抑制部材190と、を備えている。本実施の形態の場合、ロック機構150は、維持部材135と、操作レバー156と、を備えている。
【0024】
第一係合部材151は、インナーチューブ120の外周面に固定的に設けられ、インナーチューブ120の軸方向に複数の第一歯部161が並んで配置される部材である。本実施の形態の場合、第一係合部材151は、帯状の板金部材であり、第一係合部材151の一面に第一歯部161がインナーチューブ120の軸方向に並んで設けられている。第一歯部161の形状は、後述の第二歯部162と係合するものであれば特に限定されるものではなく、例えば所定の間隔で設けられた溝、窪みなどでもよい、本実施の形態の場合、第一歯部161の断面がのこぎり刃形状であり、第一歯部161の並び方向(図中Y軸方向)と直交する方向(第一係合部材151の幅方向)に延在する突条となっている。
【0025】
また、第一係合部材151は、図4に示すように、第一係合部材151に対し第二係合部材152が離れた状態においても、第二係合部材152の軸方向(図中Y軸方向)の端部と当接する位置にまで突出する当接部177を備えている。当接部177は、軸方向において、第一係合部材151の操舵部材側(図中Y-側)の端部に一体に立設されている。なお、当接部177と第二係合部材152との当接時の衝突を緩和するため当接部177、および第二係合部材152の当接する部分の少なくとも一方にゴムなどの緩衝部材を取り付けても構わない。
【0026】
本実施の形態の場合、第一係合部材151の幅方向(図中Z軸方向)の両端縁にはインナーチューブ120から外側に向かう方向に起立する壁部163がそれぞれ設けられている。第一係合部材151の幅方向において、第一歯部161の両端とそれぞれの壁部163との間には、第一付勢部材153が当接し、インナーチューブ120が軸方向に移動する際に第一付勢部材153と摺動する帯状の摺動部164が軸方向に延在して設けられている。
【0027】
第二係合部材152は、二次衝突が発生する前の通常使用時においては、インナーチューブ120の軸方向において衝撃吸収部材170を介してハウジング130に固定され、インナーチューブ120の径方向(図中X軸方向)に沿って第一係合部材151に対して直線的に離接し、第一歯部161と噛み合う第二歯部162を有する部材である。本実施の形態の場合、第二係合部材152は、衝撃吸収部材170を介してハウジング130に固定され、離接方向(図中X軸方向)においては、衝撃吸収部材170に対し移動可能となっている。具体的には、第二係合部材152は、第一係合部材151に対向する面から第一係合部材151から遠ざかる方向に窪み第一係合部材151の幅方向に延在する係合溝部166を備えている。ハウジング130に固定される衝撃吸収部材170が係合溝部166に嵌まり込むことにより、インナーチューブ120の軸方向における第二係合部材152の移動が固定的に規制され、径方向の移動が許容されている。
【0028】
第二歯部162の形状は、第一歯部161と係合するものであれば特に限定されるものではない。本実施の形態の場合、第二歯部162の断面形状は、第一歯部161の断面形状に対応するのこぎり刃形状であり、第一係合部材151の幅方向に延在する突条となっている。また、ハーフロックを防止するために、第二歯部162の歯のピッチ(間隔)をずらして配置してもよい。
【0029】
第二係合部材152は、軸方向の中間部において、第一係合部材151に対向する面から第一係合部材151から遠ざかる方向に窪み第一係合部材151の幅方向に延在する保持溝167を備えている。保持溝167は、第一付勢部材153を保持する部分である。本実施の形態の場合、第二歯部162は保持溝167の両側にそれぞれ一対設けられている。
【0030】
第二係合部材152は、軸方向の一端部において、第一係合部材151の反対側の面から第一係合部材151に向かって落ち込む段差部159を備えている。段差部159は、後述の打音抑制部材190と係合する部分である。
【0031】
図5は、第一付勢部材を示す斜視図である。第一付勢部材153は、離接方向において第二係合部材152をインナーチューブ120から外向きに付勢する部材である。第一付勢部材153の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第一付勢部材153は、インナーチューブ120の軸方向に延在する一対の弾性部168と、一対の弾性部168の中央部分を架橋状に接続する保持部169を備え、平面視H字形状を成している。弾性部168は、インナーチューブ120の径方向外向き(図中X軸方向負の向き)に張り出すように湾曲しており、第一付勢部材153を構成する材料の弾性と当該湾曲により付勢力を発揮する板バネの機能を備えている。一対の弾性部168は、第一歯部161を跨ぐように配置されており、第一係合部材151の摺動部164に当接する。保持部169は、第二係合部材152の保持溝167に嵌め込まれる。第一付勢部材153は、一対の弾性部168の付勢力のバランスにより、インナーチューブ120の径方向の外向きに第二係合部材152を付勢している。
【0032】
押圧機構105は、第一付勢部材153の付勢力に抗して第一歯部161と第二歯部162とが噛み合うように第二係合部材152を第一係合部材151に向かって押圧する機構である。本実施の形態の場合、押圧機構105は、第二付勢部材154と、カム部材155と、を備えている。
【0033】
第二付勢部材154は、第一付勢部材153の付勢方向と対抗する方向に第二係合部材152を付勢する。本実施の形態の場合、第二付勢部材154は、第二係合部材152、および第一付勢部材153と同一直線上に配置され打音抑制部材190を介して第二係合部材152を付勢している。第一付勢部材153の付勢方向を示す付勢軸と第二付勢部材154の付勢軸とが一直線上に配置されている。これにより、第一付勢部材153と第二付勢部材154との間に挟まれた第二係合部材152は、第一付勢部材153の付勢力と第二付勢部材154の付勢力との関係に基づき第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向において移動することができる。
【0034】
第二付勢部材154の形状は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第一付勢部材153、第二係合部材152、および第二付勢部材154の並び方向に伸縮するバネである。具体的に第二付勢部材154は、コイルバネである。
【0035】
また本実施の形態の場合、第二付勢部材154は、ハウジング130に対して固定され、第二付勢部材154の伸縮、および移動を第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内するガイド機構107に案内されている。ガイド機構107の構造は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ガイド機構107は、保持体172と、保持体172を第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内する案内部材171と、を備えている。
【0036】
保持体172の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、コイルバネである第二付勢部材154を内側に収容状態で保持する円筒形状である。保持体172の一端は、第二付勢部材154と係合する内側に突出するフランジを有し、他端は非圧縮状態の第二付勢部材154が突出する開口となっている。保持体172の長さは非圧縮状態の第二付勢部材154よりも短く設定されている。
【0037】
案内部材171の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第二付勢部材154を収容する保持体172を第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内する案内孔173と案内孔173を所定の位置に保持する基体174と、基体174から軸体157の軸方向に延びるガイド部180と、を備えている。基体174は、操作レバー156の回転軸となる軸体157が刺し通され、ガイド部180が取付部材200と係合することにより車体側に固定される。また、軸体157が刺し通された基体174の周りには、拡縮機構144の一方である環状のカムが設けられている。つまり、基体174は、操作レバー156の回転により、軸体157に沿って移動可能となっている。
【0038】
カム部材155は、インナーチューブ120の外側(本実施の形態の場合ハウジング130の外側)に配置され、第一係合部材151に対する第二付勢部材154の距離を変更し、第一付勢部材153の付勢力と第二付勢部材154の付勢力との大小関係を変更する部材である。本実施の形態の場合、カム部材155は、図3に示すように、第一係合部材151に対向する面であって、第一係合部材151と近い距離にある近距離面175と、近距離面175よりも第一係合部材151に対して遠い距離にある遠距離面176と、を備えている。近距離面175と遠距離面176とは滑らかな面で接続されている。近距離面175、または遠距離面176は、ガイド機構107の保持体172を介して第二付勢部材154と当接し、第二付勢部材154は従動節として機能する。
【0039】
本実施の形態の場合、カム部材155は、操作レバー156に一体に取り付けられており、操作レバー156の操作に伴ってカム部材155も動作する。具体的には、操作レバー156を回転させることにより、第一付勢部材153および第二付勢部材154の並び方向に沿った軸体157を中心としてカム部材155が回転し、操作レバー156の回転方向(トルク方向)と直交する方向(離接方向)に第二付勢部材154を移動させる。
【0040】
規制部材137は、ロックを解除した状態において、第一歯部161と第二歯部162とが噛み合わない解除位置に第二係合部材152の移動を規制する板状の部材である。本実施の形態の場合、規制部材137は、少なくとも第二係合部材152を覆うようにハウジング130に固定されており、第二付勢部材154が通過する貫通孔が設けられている。
【0041】
衝撃吸収部材170は、ハウジング130に固定される部材であり、インナーチューブ120の軸方向において、通常使用時には第二係合部材152を固定する部材である。また、二次衝突時おいてはハウジング130へのインナーチューブ120の没入に伴い第二係合部材152がハウジング130に対して移動することにより衝撃吸収部材170が変形し、二次衝突による衝撃を吸収する。本実施の形態の場合、衝撃吸収部材170は、M字形状に折り曲げられた棒状の部材である。衝撃吸収部材170は、幅方向(図中Z軸方向)において第一係合部材151の両側の位置のハウジング130に設けられた保持突起138に掛けられた状態でハウジング130に固定さている。衝撃吸収部材170の中央部が第二係合部材152の係合溝部166に嵌め込まれることで、第二係合部材152が軸方向においてハウジング130に固定されている。
【0042】
維持部材135は、第一係合部材151と第二係合部材152との噛み合わせ状態を維持する部材である。本実施の形態の場合、維持部材135は、第二スリット132の少なくとも一部を塞ぐようにハウジング130に取り付けられた板金である。維持部材135は、通常時は第二係合部材152と離接方向において重なり合わず、二次衝突の発生により第二係合部材152が移動する方向に配置されている。通常使用時において第二係合部材152を覆う規制部材137の第一係合部材151との距離は、第一歯部161と第二歯部162とが噛み合わない位置にまで第二係合部材152が移動できる距離に設定されている。維持部材135と第一係合部材151との距離は、第一歯部161と第二歯部162とが噛み合いながら第二係合部材152が第一係合部材151と共に移動することができる距離に設定されている。
【0043】
維持部材135と規制部材137との間には維持部材135と規制部材137とを一体に接続する傾斜部136が設けられている。当該傾斜部136により二次衝突が発生した際にスムーズに規制部材137から維持部材135に第二係合部材152が移動できる。なお、第二係合部材152の端部にも傾斜部136に対応したテーパが設けられており、維持部材135の傾斜部136とテーパが当接することで第二係合部材152はよりスムーズに移動することができる。
【0044】
図6は、打音抑制部材を示す斜視図である。打音抑制部材190は、第二係合部材152と規制部材137との間に配置され、第二係合部材152の離接方向(図中X軸方向)の移動に伴って移動し、軸方向(図中Y軸方向)においてはハウジング130により移動が規制される部材である。打音抑制部材190の材質は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、打音抑制部材190は、樹脂で構成されている。
【0045】
本実施の形態の場合、打音抑制部材190は、幅方向(図中Z軸方向)の両方に突出し、軸方向(図中Y軸方向)において保持突起138に係合する係合突起191を備えている。離接方向に突出する保持突起138と係合することにより打音抑制部材190は、軸方向においては保持突起138を介してハウジング130により移動が規制される。これにより、通常使用時において、打音抑制部材190は、ロック時やロック解除時における第二係合部材152の離接方向の移動に伴って移動し、二次衝突発生時においては、第二係合部材152の軸方向の移動には追随することなく停止する。従って、打音抑制部材190が第二係合部材152と維持部材135との間に入り込むことはなく、衝撃吸収部材170により実現される衝撃吸収のプロファイルに影響を及ぼさない。
【0046】
打音抑制部材190は、軸方向において係合突起191の反対側の端部に第二係合突起192を備えている。また、打音抑制部材190は、係合突起191の間において第二係合部材152に向かって突出し第二係合部材152の段差部159と係合する位置決め突起193を備える。第二係合突起192が保持突起138と係合し位置決め突起193が第二係合部材152と係合することにより、ロック機構150の組立時において第二係合部材152の位置合わせ容易に行うことができる。また、打音抑制部材190は、係合突起191、および第二係合突起192により保持突起138を挟むことにより、離接方向に安定して移動することができる。
【0047】
打音抑制部材190は、係合突起191の先端部から離接方向に沿ってハウジング130に向かって突出する挿入部194を備えている。ハウジング130には、幅方向(図中Z軸方向)において第一係合部材151の側方に位置し離接方向に窪む係合穴部139が設けられている。打音抑制部材190の挿入部194をハウジング130の係合穴部139に挿入することにより打音抑制部材190のハウジング130に対する位置(挿入方向以外)を固定することができ、打音抑制部材190を組み付ける際の位置決めが容易に行える。
【0048】
次にステアリングコラム装置100の動作について説明する。通常使用時においては、図3、および図4に示すように、規制部材137と第一係合部材151との間で第二係合部材152が離接方向に直動し、ロック機構150がインナーチューブ120のハウジング130に対する移動をロックするロック状態と解除状態が転換される。具体的には、カム部材155の近距離面175、第二付勢部材154、第二係合部材152、および第一付勢部材153が一直線上に並んだ状態では、カム部材155の近距離面175が第二付勢部材154を第一付勢部材153に向かって押しつける状態となる。これにより、第二付勢部材154の付勢力が第一付勢部材153の付勢力より強くなり、第一係合部材151の第一歯部161と第二係合部材152の第二歯部162とが噛み合いロック状態となる。第二付勢部材154の移動は、ガイド機構107によって第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内されており、コイルバネである第二付勢部材154の付勢軸は筒状の保持体172によって第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に一致する様に規制されている。また、保持体172は、第二係合部材152には接触していない。
【0049】
次に、運転者などが操作レバー156を軸体157周りに回転させ、操作レバー156と共に回転するカム部材155の遠距離面176が第二付勢部材154、第二係合部材152、および第一付勢部材153と一直線上に並んだ状態にする。この状態においても、カム部材155の遠距離面176は、第二付勢部材154を第一付勢部材153に向かって押しつけているが、第二付勢部材154の位置は第一係合部材151から離れる方向に移動し、比較的伸長した状態となる。これにより、第二付勢部材154の付勢力が第一付勢部材153の付勢力より弱くなる。第二係合部材152は、第一付勢部材153の付勢力により持ち上げられ、第一係合部材151の第一歯部161と第二係合部材152の第二歯部162との噛み合いが解除される。
【0050】
第一付勢部材153による第二係合部材152の移動は規制部材137に規制されるが、第二係合部材152と規制部材137との間には樹脂製の打音抑制部材190が介在配置されているため、金属部材同士が当接することにより発生する打音を防止している。
【0051】
以上の構造のロック機構150をステアリングコラム装置100が備えることにより、ステアリングコラム装置100全体を小型化(インナーチューブ120の径方向の薄型化)させることができ、車体内におけるステアリングコラム装置100の取付位置、および姿勢の自由度を向上させることが可能となる。
【0052】
二次衝突が発生した場合、第二係合部材152は、第一係合部材151と共に車両の前方側に衝撃吸収部材170を変形させながら移動する。打音抑制部材190は、ハウジング130の保持突起138により移動が規制され、同じ位置に止まる。第二係合部材152の移動が進むと図8に示すように第二係合部材152は、維持部材135に潜り込んだ状態となり第二付勢部材154による押圧力が無くなっても第一係合部材151と第二歯部162との係合状態が維持される。以上により、第二係合部材152は、第一係合部材151、およびインナーチューブ120と共に衝撃吸収部材170を変形させながら移動し、二次衝突による衝撃を吸収することができる。また、衝撃吸収部材170が第二係合部材152の移動などを妨げないため、衝撃吸収のプロファイルに悪影響を与えることがない。また、ロック機構150の部品と衝撃吸収機構の部品とを共通化させることができ、ステアリングコラム装置100全体の部品点数を削減することが可能となる。
【0053】
上記実施の形態に係るステアリングコラム装置100によれば、樹脂製の打音抑制部材190によりロック解除時における規制部材137と第二係合部材152との直接接触を防止し、打音の発生を防止することが可能となる。
【0054】
また、二次衝突発生時においては、打音抑制部材190が軸方向に移動しないため、衝撃吸収部材170の変形によって実現される衝撃吸収プロファイルに悪影響を及ぼすことがない。
【0055】
また、打音抑制部材190が、第二係合部材152と第二付勢部材154との間に介在配置され、コイルばねである第二付勢部材154の受け皿としても機能している。これにより、第二付勢部材154と第二係合部材152との直接接触により発生する異音(メタルコンタクト音)を防止することができる。
【0056】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0057】
例えば図9に示すように、打音抑制部材190は、第二係合突起192を備えなくてもかまわない。また、打音抑制部材190は、係合突起191の先端部に軸方向において保持突起138の反対に向かって突出しハウジング130に先端が当接する当接突起195を備えてもかまわない。これにより、打音抑制部材190の軸方向の移動は両方向に規制され、打音抑制部材190の位置を安定させることができる。
【0058】
また、図10に示すように、打音抑制部材190は、ハウジング130に固定される固定部196と、固定部196に対して弾性的に撓み変形する爪部197と、を備えてもかまわない。固定部196は、例えばハウジング130が備える保持突起138と第二突起140との間に圧入することによりハウジング130に固定されてもかまわない。爪部197は、第二係合部材152の離接方向の直動動に伴って撓みによる回転揺動により移動する。これにより、爪部197をたわみ変形させることで、打音抑制部材190の全体を離接方向へ移動させず、たわみ変形で一部分の移動を許容するため、最小限の変形で打音を抑制することができる。
【0059】
また、第一係合部材151は、インナーチューブ120とは別部材であり、溶接などにより第一係合部材151に固定的に取り付けられ場合を実施の形態として説明したが、第一係合部材151は、インナーチューブ120と一体に形成されてもかまわない。
【0060】
また、操作レバー156の回転によるロック機構150のロック、および解除と共に、ハウジング130の被締付部133を間隔を狭めてインナーチューブ120の締め付け、および解除できる場合を説明したが、インナーチューブ120の締め付け構造を備えなくてもかまわない。
【0061】
また、案内部材171に拡縮機構144の一方が一体に設けられる場合を説明したが、ガイド機構107と拡縮機構144とが別機構であってもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、車両の操舵に関する装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
100…ステアリングコラム装置、105…押圧機構、107…ガイド機構、120…インナーチューブ、130…ハウジング、131…第一スリット、132…第二スリット、133…被締付部、134…貫通孔、135…維持部材、136…傾斜部、137…規制部材、138…保持突起、139…係合穴部、140…第二突起、144…拡縮機構、150…ロック機構、151…第一係合部材、152…第二係合部材、153…第一付勢部材、154…第二付勢部材、155…カム部材、156…操作レバー、157…軸体、158…フランジ部、159…段差部、161…第一歯部、162…第二歯部、163…壁部、164…摺動部、166…係合溝部、167…保持溝、168…弾性部、169…保持部、170…衝撃吸収部材、171…案内部材、172…保持体、173…案内孔、174…基体、175…近距離面、176…遠距離面、177…当接部、180…ガイド部、190…打音抑制部材、191…係合突起、192…第二係合突起、193…突起、194…挿入部、195…当接突起、196…固定部、197…爪部、200…取付部材
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図10