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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】エンジン締結構造
(51)【国際特許分類】
   B60K 5/12 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
B60K5/12 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021068420
(22)【出願日】2021-04-14
(65)【公開番号】P2022163474
(43)【公開日】2022-10-26
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】野村 直史
(72)【発明者】
【氏名】畑 善晴
(72)【発明者】
【氏名】中園 隆明
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-89487(JP,A)
【文献】特開2015-21503(JP,A)
【文献】特開2008-232390(JP,A)
【文献】特開2008-240998(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0113099(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103568806(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 5/12
B62D 21/00
B62D 25/08
B62D 25/20
F16F 15/08
F16F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに取り付けられるブラケットと、車体のフレームに取り付けられるエンジンマウントと、前記ブラケットと前記エンジンマウントとを締結するボルトと、を含み、
前記エンジンマウントが、前記フレームに取り付けられるケースと、前記ブラケットと締結されるマウント金具と、前記ケースと前記マウント金具とを繋いでいる弾性部材と、を含み、
前記マウント金具に、同マウント金具の先端部から突出している第1ピンと、同マウント金具の側面から突出している第2ピンと、が設けられており、
前記ブラケットに、前記第1ピンが挿通する孔と、前記第1ピンを前記孔に誘導する傾斜面と、前記第2ピンが入り込むスリットとが設けられており、
前記孔に前記第1ピンが挿通されて前記第1ピンの中心軸と直交する方向における前記ブラケットと前記マウント金具との相対変位が規制され、且つ前記スリットに前記第2ピンが入り込んで前記中心軸を回転軸にした回転方向の相対変位も規制されている状態で、前記ブラケットに設けられた挿通孔を挿通させた前記ボルトを前記マウント金具に設けられたボルト孔に螺合させて前記エンジンマウントと前記ブラケットとを締結することにより前記エンジンを前記フレームに締結するエンジン締結構造。
【請求項2】
前記第1ピンの長さが、前記第1ピンが前記孔に一定量以上挿入されてから前記第2ピンが前記スリットに入り込むようになる長さになっている
請求項1に記載のエンジン締結構造。
【請求項3】
前記スリットの幅が、前記ボルトによる締結時に前記第2ピンが位置する部位に近づくほど狭くなっている
請求項2に記載のエンジン締結構造。
【請求項4】
前記第1ピンの前記中心軸と直交する断面の形状が円形である
請求項2又は請求項3に記載のエンジン締結構造。
【請求項5】
前記孔が、挿通された前記第1ピンが摺動する円形の孔である
請求項4に記載のエンジン締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両のフレームにエンジンを締結するエンジン締結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のフレームに取り付けられたエンジンマウントと、エンジンに取り付けられたブラケットとをボルトで締結することによってエンジンマウントを介してエンジンをフレームに固定するエンジン締結構造が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されているエンジン締結構造では、フレームに向かってエンジンを降下させ、フレームに取り付けられたエンジンマウントとエンジンに取り付けられたブラケットとを組み合わせる。こうしてフレーム上にエンジンを載置した状態で、エンジンマウントとブラケットとをボルトで締結することにより、エンジンをフレームに固定する。
【0004】
特許文献1に開示されているエンジン締結構造では、エンジンマウントのマウント金具の先端部に上方に突出しているピンが設けられている。そして、ブラケットには、このピンが挿通する孔が設けられている。エンジンマウントとブラケットとを組み合わせる際には、マウント金具のピンが、ブラケットの孔を挿通するようにフレームに対するエンジンの位置を調整する。
【0005】
なお、ブラケットのエンジンマウントと対向する面には、孔が設けられている部分に繋がる傾斜面が設けられている。そのため、フレームに対してある程度の位置合わせを行った状態でエンジンを降下させると、ピンが傾斜面に沿って摺動する。これにより、ピンが孔に向かって誘導され、ピンが孔に挿通するようになる。
【0006】
ブラケットにはボルトを挿通させる挿通孔が設けられている。そして、マウント金具にはボルトが螺合するボルト孔が設けられている。上記のようにピンを孔に挿通させた状態で、挿通孔を挿通させてボルトをボルト孔に螺合させる。これにより、エンジンマウントとブラケットを締結することができる。
【0007】
なお、フレームに対するエンジンマウントの取り付け位置やエンジンに対するブラケットの取り付け位置には、誤差が生じ得る。特許文献1に開示されているエンジンマウントでは、フレームに固定されるケースに対して弾性部材を介してマウント金具が取り付けられている。そのため、各締結構造においては、弾性部材の弾性変形によるマウント金具の変位が生じ得る。こうした変位が許容されていることによって、ブラケットの取り付け位置やエンジンマウントの取り付け位置に誤差があっても、ピンが孔に挿通し得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-89487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、エンジンをフレームに向かって降下させてブラケットとエンジンマウントとを組み合わせる際に、ピンを中心にした回転方向のねじれが弾性部材に発生することもある。そして、こうしたねじれが発生した状態で、ピンが孔に挿通されることもある。この場合、ブラケットに設けられた挿通孔と、マウント金具に設けられたボルト孔とがずれた状態で、フレームへのエンジンの載置が完了する。その結果、フレームに対するエンジンの載置は完了しているものの、ボルトで適切な締結ができないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するためのエンジン締結構造は、エンジンに取り付けられるブラケットと、車体のフレームに取り付けられるエンジンマウントと、前記ブラケットと前記エンジンマウントとを締結するボルトと、を含む。そして、このエンジン締結構造では、前記エンジンマウントが、前記フレームに取り付けられるケースと、前記ブラケットと締結されるマウント金具と、前記ケースと前記マウント金具とを繋いでいる弾性部材と、を含んでいる。そして、前記マウント金具に、同マウント金具の先端部から突出している第1ピンと、同マウント金具の側面から突出している第2ピンと、が設けられている。また、前記ブラケットに、前記第1ピンが挿通する孔と、前記第1ピンを前記孔に誘導する傾斜面と、前記第2ピンが入り込むスリットとが設けられている。このエンジン締結構造では、前記孔に前記第1ピンが挿通されて前記第1ピンの中心軸と直交する方向における前記ブラケットと前記マウント金具との相対変位が規制され、且つ前記スリットに前記第2ピンが入り込んで前記中心軸を回転軸にした回転方向の相対変位も規制されている状態で、前記ブラケットに設けられた挿通孔を挿通させた前記ボルトを前記マウント金具に設けられたボルト孔に螺合させる。このエンジン締結構造は、こうして前記エンジンマウントと前記ブラケットとを締結することにより前記エンジンを前記フレームに締結する。
【0011】
上記構成によれば、第1ピンがブラケットの孔に挿通されることにより、第1ピンの中心軸と直交する方向における位置合わせが完了し、ブラケットとマウント金具との相対変位が規制される。また、第2ピンがブラケットのスリットに入り込むことにより、第1ピンの中心軸を回転軸にした回転方向における位置合わせも行われる。
【0012】
そのため、エンジンをフレーム上に載置する過程でエンジンマウントの弾性部材にねじれが発生していても第2ピンとスリットの作用によって回転方向におけるマウント金具とブラケットとの位置ずれが解消される。これにより、フレームに対するエンジンの載置が完了したときにはブラケットに設けられた挿通孔とボルト孔が連通するようになる。
【0013】
したがって、上記構成によれば、弾性部材のねじれによるマウント金具とブラケットとの位置ずれの解消を図ることができる。ひいては、ボルトでの適切な締結を実現できる。
エンジン締結構造の一態様では、前記第1ピンの長さが、前記第1ピンが前記孔に一定量以上挿入されてから前記第2ピンが前記スリットに入り込むようになる長さになっている。
【0014】
上記構成では、まず第1ピンの中心軸と直交する方向における位置合わせを完了させる。そして、第1ピンが孔に挿通して第1ピンの中心軸と直交する方向における相対変位が規制された状態で、回転方向の位置合わせを行えばよい。そのため、位置合わせのための、フレームに対するエンジンの姿勢の調整が容易になる。
【0015】
エンジン締結構造の一態様では、前記スリットの幅が、前記ボルトによる締結時に前記第2ピンが位置する部位に近づくほど狭くなっている。
上記構成によれば、第2ピンがスリットの壁面に沿って摺動しながらスリットの奥に進むのにしたがって、マウント金具が締結に適した姿勢に向かって誘導されるようになる。
【0016】
エンジン締結構造の一態様では、前記第1ピンの前記中心軸と直交する断面の形状が円形である。
上記構成によれば、第1ピンの側面は角のない滑らかな形状になっている。そのため、第1ピンの側面に角が存在する場合と比較して第1ピンの中心軸を回転軸とする回転が阻害されにくい。そのため、第1ピンの中心軸を回転軸とする回転方向におけるマウント金具の姿勢の調整が容易に実現する。
【0017】
エンジン締結構造の一態様では、前記孔が、挿通された前記第1ピンが摺動する円形の孔である。
上記構成によれば、第1ピンの中心軸と直交する方向における位置をずらさずにマウント金具の回転方向の姿勢を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態のエンジン締結構造を採用してエンジンをフレームに締結した状態を示す上面図。
図2】エンジン締結構造の正面図。
図3】エンジン締結構造の分解斜視図。
図4】エンジン締結構造の上面図。
図5図4における5-5線に沿った断面図。
図6】第2ピンがスリットに入り始めた時点におけるエンジン締結構造の、(a)図4におけるA-A線に沿った断面図、(b)側面図。
図7図6の状態からさらに第1ピンが孔に挿入された時点におけるエンジン締結構造の、(a)図4におけるA-A線に沿った断面図、(b)側面図。
図8】フレーム上へのエンジンの載置が完了する直前の時点におけるエンジン締結構造の、(a)図4におけるA-A線に沿った断面図、(b)側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、エンジン締結構造の一実施形態について、図1図8を参照して説明する。
<エンジン20のフレーム10への締結について>
図1に示すように、この実施形態のエンジン締結構造100は、車体のフレーム10にエンジン20を固定するために用いられる。フレーム10は、車両前後方向に延びる2本のサイドメンバ11と、車両幅方向に延びている複数のクロスメンバ12とを含んでいる。2本のサイドメンバ11は、複数のクロスメンバ12によって連結されている。これにより、フレーム10は、梯子型になっている。
【0020】
各サイドメンバ11には、エンジン締結構造100が取り付けボルト130によって1つずつ締結されている。各エンジン締結構造100は、エンジン20の車両幅方向における側面にも締結されている。これにより、エンジン20は、車両幅方向においてエンジン20を挟むように配置された2つのエンジン締結構造100を介してフレーム10に締結されている。
【0021】
<エンジン締結構造100について>
図2に示すように、エンジン締結構造100は、ブラケット120と、エンジンマウント150と、締結ボルト110とによって構成されている。
【0022】
ブラケット120は、エンジン20の側面にとりつけられる。図2図4に示すように、ブラケット120は、フランジ部121を備えている。図3に示すようにフランジ部121には3つのボルト挿通孔122が設けられている。ブラケット120は、各ボルト挿通孔122に挿通させたボルトをエンジン20に締結することによってエンジン20の側面に取り付けられる。
【0023】
図2図4に示すように、ブラケット120は、フランジ部121から延びるアーム部123を備えている。図2に示すように、アーム部123は、エンジンマウント150のマウント金具160の先端部167に被せられ、マウント金具160と組み合わせた状態で、締結ボルト110によってマウント金具160と締結される。
【0024】
なお、図3に示すように、アーム部123の上面に設けられた締結部129には、2つの挿通孔126が設けられている。マウント金具160の先端部167には、締結面165が設けられている。締結面165には、2つのボルト孔166が設けられている。図2に示すように、エンジンマウント150とブラケット120は2つの締結ボルト110によって締結される。
【0025】
図2図4に示すように、エンジンマウント150は、サイドメンバ11に締結されるマウントブラケット190を備えている。図3に示すように、マウントブラケット190には取り付けボルト130が螺合するボルト孔191が4つ設けられている。マウントブラケット190には、ケース170が固定されている。
【0026】
ケース170は筒状であり、図2に破線で示すように、ケース170の内部の空間には、マウント金具160のベース部163が収容されている。また、ケース170内には、ケース170とベース部163とを繋ぐ弾性部材180も収容されている。弾性部材180の外周面は、ケース170の内周面に密着している。弾性部材180のリップ部181がベース部163に接着されている。これにより、ベース部163は弾性部材180に包み込まれている。こうしてマウント金具160は、弾性部材180を介してケース170に取り付けられている。
【0027】
図2図4に示すように、ケース170には、カバー171が固定されている。カバー171にはマウント金具160が挿通する孔が設けられており、この孔を通じてケース170内からマウント金具160が突出している。
【0028】
図2及び図3に示すように、マウント金具160の先端部167には、第1ピン161と締結面165が設けられている。第1ピン161は、円柱状のピンであり、第1ピン161の先端は先細りのテーパ状をなしている。第1ピン161は、エンジンマウント150がフレーム10に取り付けられた状態における車両上方に向かって延びている。
【0029】
図3に示すように、先端部167における第1ピン161が設けられている部位と隣接する位置には、締結ボルト110が螺合するボルト孔166の設けられた締結面165が設けられている。図2及び図3に示すように、締結面165は、エンジンマウント150がフレーム10に取り付けられた状態における水平面に対して傾いている。例えば、締結面165は、水平面に対して約45°傾いている。すなわち、締結面165は、水平でもなく、垂直でもない角度に設定されている。
【0030】
図2及び図3に示すように、マウント金具160における、ケース170から突出している部分のうち、締結面165よりもベース部163側の部分には、側面164から突出する第2ピン162が設けられている。マウント金具160における第2ピン162が設けられている部分は、円柱状になっている。第2ピン162は、この円柱状の部分から径方向に突出している。なお、第2ピン162は円柱状のピンである。
【0031】
図3に示すように、ブラケット120には、エンジンマウント150と組み合わせる際に、第1ピン161が挿通する孔124と、第2ピン162が入り込むスリット127が設けられている。なお、孔124は、円形であり、直径は第1ピン161の直径よりも僅かに大きくなっており、第1ピン161が摺動するようになっている。
【0032】
エンジン締結構造100では、ブラケット120を取り付けたエンジン20を、エンジンマウント150を取り付けたフレーム10に載置する。そして、図1及び図5に示すようにエンジンマウント150とブラケット120とを組合せ、締結ボルト110でブラケット120とマウント金具160とを締結する。エンジン締結構造100では、こうしてエンジン20をフレーム10に締結する。なお、図5は、図4に示す5-5線に沿った断面図である。図5では、弾性部材180の図示を省略している。
【0033】
図1及び図5に示すように、締結時には、第1ピン161が孔124に挿通し、ブラケット120の挿通孔126とマウント金具160のボルト孔166とが連通した状態になる。なお、このとき、第2ピン162はスリット127の奥まで入り込んだ状態になっている。なお、スリット127における、このとき第2ピン162が位置する部位における幅は、第2ピン162の直径よりも僅かに大きくなっている。そのため、このときには、第2ピン162とスリット127の壁面との係合により、第1ピン161の中心軸C1を回転軸とする回転方向におけるブラケット120とマウント金具160との相対変位が規制されている。
【0034】
図5に示すように、ブラケット120における、図5における下方の面には、傾斜面125が設けられている。より詳しくは、マウント金具160と組み合わせる際にマウント金具160と対向する面には、孔124が設けられている部位に近づくほど上方に位置するように傾斜した傾斜面125が設けられている。そして、この傾斜面125が孔124まで繋がっている。ブラケット120を取り付けたエンジン20をエンジンマウント150が取り付けられたフレーム10に向かって降下させ、ブラケット120をマウント金具160に組み合わせる際には、第1ピン161がまずこの傾斜面125に当接する。そして、エンジン20を降下させるのに伴って第1ピン161が傾斜面125に沿って摺動し、孔124に誘導される。
【0035】
なお、エンジン締結構造100には、エンジン20をフレーム10に向かって降下させる際のエンジン20の位置の調整の目安になる目印が設けられている。
具体的には、図3に示すようにブラケット120におけるスリット127が設けられている部分の両脇には、ガイド爪128がそれぞれ設けられている。そして、エンジンマウント150におけるカバー171には、突起172が設けられている。
【0036】
図4に示すように、ブラケット120がマウント金具160に適切に組み合わされてフレーム10上へのエンジン20の載置が完了した状態では、突起172の先端が2つのガイド爪128の先端の間に位置するようになっている。
【0037】
そのため、エンジン20をフレーム10に向かって降下させる際には、2つのガイド爪128の間に突起172が見えている状態になるようにエンジン20の位置を調整し、エンジン20を降下させるとよい。こうしてエンジン20の位置を大まかに調整した状態でエンジン20を降下させると、ブラケット120の傾斜面125に第1ピン161が当接し、傾斜面125の作用によって第1ピン161を孔124に誘導することができる。
【0038】
エンジン締結構造100では、図2及び図4に示すように、第1ピン161を孔124に挿通させた状態で、挿通孔126を挿通させて締結ボルト110をボルト孔166に螺合させる。これにより、エンジンマウント150とブラケット120を締結することができる。
【0039】
<弾性部材180の弾性変形によるねじれについて>
なお、フレーム10に対するエンジンマウント150の取り付け位置やエンジン20に対するブラケット120の取り付け位置には、誤差が生じ得る。エンジンマウント150では、マウントブラケット190を介してフレーム10に固定されるケース170に対して弾性部材180を介してマウント金具160が取り付けられている。そのため、各エンジン締結構造100においては、弾性部材180の弾性変形によるマウント金具160の変位が生じ得る。こうした変位が許容されていることによって、ブラケット120の取り付け位置やエンジンマウント150の取り付け位置に誤差があっても、第1ピン161が孔124に挿通し得るようになっている。
【0040】
しかし、エンジン20をフレーム10に向かって降下させてブラケット120とエンジンマウント150とを組み合わせる際に、第1ピン161の中心軸C1を回転軸にした回転方向のねじれが弾性部材180に発生することもある。そして、こうしたねじれが発生した状態で、第1ピン161が孔124に挿通されることもある。この場合、ブラケット120に設けられた挿通孔126と、マウント金具160に設けられたボルト孔166とがずれた状態になりやすい。そこで、このエンジン締結構造100では、マウント金具160に第2ピン162を設けるとともに、ブラケット120にスリット127を設けている。
【0041】
<作用>
次に、この第2ピン162とスリット127の作用について図6図8を参照して説明する。なお、図6図8においては、(a)において図4のA-A線に沿った断面図を示している。そして、(b)において同じ時点における側面図を示している。
【0042】
第1ピン161の長さは、第1ピン161が孔124に一定量以上挿入されてから第2ピン162がスリット127に入り込むようになる長さに設定されている。そのため、第1ピン161が孔124に入り始めた時点では、第2ピン162はスリット127に入り込んでいない。
【0043】
図6には、第1ピン161が孔124に一定量以上挿入され、第2ピン162がスリット127に入り始めた時点の様子を示している。そのため、図6(a)に示すように、この時点では第1ピン161の先端がすでに孔124に入り込んでいる。一方で、図6(b)に示すように、この時点では第2ピン162は、スリット127に入り込み始めたばかりであり、スリット127の最も幅の広い部分に位置している。
【0044】
この時点では、第1ピン161が孔124に挿入されているため、第1ピン161の中心軸C1と直交する方向におけるブラケット120とマウント金具160との位置の調整は完了している。また、孔124に第1ピン161が入り込んでいるため、中心軸C1と直交する方向におけるブラケット120とマウント金具160との相対変位は、孔124の壁面と第1ピン161との係合により規制されている。
【0045】
一方で、図6(b)に示すように、第2ピン162は、スリット127に入り込み始めているものの、スリット127の壁面から離れている。そのため、この時点では、中心軸C1を回転軸とする回転方向におけるブラケット120とマウント金具160との相対変位は許容されている。
【0046】
さらにエンジン20がフレーム10側に降下し、図7(a)に示すように第1ピン161がさらに孔124に深く挿入されると、図7(b)に示すように第2ピン162がスリット127の壁面に当接する。スリット127は、奥に向かうほど幅が狭くなっていて壁面は傾斜している。そのため、図7(b)に示すように第2ピン162がスリット127の壁面に当接すると、エンジン20が降下するのにともなって第2ピン162がスリット127の壁面上を摺動しながらスリット127の奥へと進むようになる。すなわち、スリット127の壁面との摺動によって第2ピン162が誘導され、中心軸C1を回転軸とする回転方向におけるマウント金具160の変位が発生する。これにより、ブラケット120とマウント金具160との上記回転方向における位置のずれが解消に向かう。
【0047】
図8は、フレーム10上へのエンジン20の載置が完了する直前の状態を示している。図8(a)に示すように、この時点では、第1ピン161の先端がブラケット120の上面から突出するようになっている。また、この時点では、図8(b)に示すように、第2ピン162がスリット127の最も幅が狭い部分まで入り込んでいる。すなわち、図7に示した状態から図8に示す状態に到るまでの間に、マウント金具160の上記回転方向における位置の調整が完了する。そして、マウント金具160とブラケット120との上記回転方向における位置は、図4及び図5に示した締結に適した位置と同じになっている。
【0048】
また、フレーム10上へのエンジン20の載置が完了すると、第2ピン162がスリット127の奥まで入り込んだ状態になる。上述したように、このとき第2ピン162が位置する部位におけるスリット127の幅は、第2ピン162の直径よりも僅かに大きいだけである。そのため、こうしてフレーム10上へのエンジン20の載置が完了したときには、スリット127の壁面と第2ピン162との係合により上記回転方向におけるブラケット120とマウント金具160との相対変位が規制された状態になっている。
【0049】
<効果>
本実施形態の効果について説明する。
(1)上記構成によれば、第1ピン161がブラケット120の孔124に挿通されることにより、第1ピン161の中心軸C1と直交する方向における位置合わせが完了する。そして、ブラケット120とマウント金具160との相対変位が規制される。また、第2ピン162がブラケット120のスリット127に入り込むことにより、第1ピン161の中心軸C1を回転軸にした回転方向における位置合わせも行われる。
【0050】
そのため、エンジン20をフレーム10上に載置する過程でエンジンマウント150の弾性部材180にねじれが発生していても第2ピン162とスリット127の作用によって回転方向におけるマウント金具160とブラケット120との位置ずれが解消される。これにより、フレーム10に対するエンジン20の載置が完了したときにはブラケット120に設けられた挿通孔126とボルト孔166が連通するようになる。したがって、弾性部材180のねじれによるマウント金具160とブラケット120との位置ずれの解消を図ることができる。ひいては、締結ボルト110での適切な締結を実現できる。
【0051】
(2)締結面165は第1ピン161の中心軸C1に対して傾斜している。すなわち、締結面165は、水平面に対して傾斜した面になっており、水平でも垂直でもない面になっている。締結面165が傾斜していると、弾性部材180にねじれが生じている際に、挿通孔126とボルト孔166がずれやすく、締結ボルト110による締結が困難になりやすい。エンジン締結構造100では、第2ピン162とスリット127の作用により、弾性部材180のねじれによる位置ずれを解消できる。そのため、締結面165が傾斜していても締結ボルト110で締結することができる。
【0052】
(3)また、締結箇所が複数存在する場合、弾性部材180にねじれが生じている際に、締結ボルト110による締結が困難になりやすい。これに対しても、上記のエンジン締結構造100によれば、弾性部材180のねじれによる位置ずれを解消できるため、複数の締結ボルト110で締結することができる。
【0053】
(4)第1ピン161は先端がテーパ状になっている。そのため、エンジン締結構造100では、第1ピン161が孔124に挿入しやすくなっている。
(5)エンジン締結構造100では、まず第1ピン161の中心軸C1と直交する方向における位置合わせを完了させる。そして、第1ピン161が孔124に挿通して中心軸C1と直交する方向における相対変位が規制された状態で、回転方向の位置合わせを行えばよい。そのため、位置合わせのための、フレーム10に対するエンジン20の姿勢の調整が容易になる。
【0054】
(6)スリット127の幅が、締結ボルト110による締結時に第2ピン162が位置する部位に近づくほど狭くなっている。そのため、第2ピン162がスリット127の壁面に沿って摺動しながらスリット127の奥に進むのにしたがって、マウント金具160が締結に適した姿勢に向かって誘導される。
【0055】
(7)第1ピン161は、中心軸C1と直交する断面の形状が円形である。すなわち、第1ピン161の側面は角のない滑らかな形状になっている。そのため、第1ピン161の側面に角が存在する場合と比較して中心軸C1を回転軸とする回転が阻害されにくい。そのため、中心軸C1を回転軸とする回転方向におけるマウント金具160の姿勢の調整が容易に実現する。
【0056】
(8)孔124が、挿通された第1ピン161が摺動する円形の孔になっている。そのため、中心軸C1と直交する方向における位置をずらさずにマウント金具160の回転方向の姿勢を調整することができる。
【0057】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第2ピン162がスリット127に入り込む前に、第1ピン161が孔124に挿入されるように第1ピン161の長さが設定されている例を示した。これに対して、第1ピン161が孔124に挿入されるタイミングと、第2ピン162がスリット127に入り込むタイミングの関係はこうした関係になっていなくてもよい。例えば、第1ピン161が孔124に挿入されるよりも先に第2ピン162がスリット127に入り込むようになっていてもよい。また、第1ピン161が孔124に挿入されるタイミングと、第2ピン162がスリット127に入り込むタイミングとが同時になるように設計されていてもよい。
【0058】
・マウント金具160の側面164から突出しており、スリット127と係合して上記回転方向におけるブラケット120とマウント金具160との相対変位を規制することができるのであれば、第2ピン162の延びる方向は適宜変更してもよい。
【0059】
・スリット127の幅が次第に狭くなっている例を示したが、スリット127の幅が次第に狭くなっていなくてもよい。少なくとも第2ピン162がスリット127に入り込むことにより、上記回転方向における位置ずれの解消が図れるものであればよい。
【0060】
・2つの締結ボルト110で締結する例を示したが、締結ボルト110の数は1つでもよい。また、3つ以上の締結ボルト110で締結するようにしてもよい。
・断面が円形の孔124を例示したが、孔124は必ずしも円形でなくてもよい。孔124は、第1ピン161を挿通させることにより、ブラケット120とマウント金具160との相対位置を調整し、締結に適した位置に規制することのできる形状であればよい。
【0061】
・第1ピン161は断面が円形の円柱状のピンでなくてもよい。例えば、断面が矩形状や、三角形状など、多角形状のピンであってもよい。また、断面が楕円形のピンであってもよい。第1ピン161は、少なくとも孔124に挿通することによって、ブラケット120とマウント金具160との相対変位を規制することのできるものであればよい。
【0062】
・締結面165は、水平面であってもよい。また、垂直面であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
100…エンジン締結構造
110…締結ボルト
120…ブラケット
123…アーム部
124…孔
125…傾斜面
126…挿通孔
127…スリット
129…締結部
130…取り付けボルト
150…エンジンマウント
160…マウント金具
161…第1ピン
162…第2ピン
164…側面
165…締結面
166…ボルト孔
167…先端部
170…ケース
171…カバー
172…突起
180…弾性部材
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8