(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】車載レーダー装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20241126BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20241126BHJP
【FI】
G01S7/40 139
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2021073963
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遊馬 貴之
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-050271(JP,A)
【文献】特開平10-048332(JP,A)
【文献】特開2019-158485(JP,A)
【文献】特開2020-030908(JP,A)
【文献】特開2005-127781(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0000650(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
B60S 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を車両の周囲へ向けて発信する発信装置と、
前記発信された電波の反射波を受信する受信装置と、
前記受信した反射波に基づいて、前記車両の周囲に存在する物体を検知する制御装置と、
を備え、
前記制御装置が、前記反射波に基づいて、前記受信装置に雪が付着しているか否かを判定する雪付着判定処理を実行するように構成された、
車載レーダー装置であって、
前記制御装置は、
前記物体を検知可能な全範囲のうち、前記車両の走行中に巻き上げられた雪が前記受信装置の一部に付着することにより前記物体の検知が困難になる範囲として予め規定された範囲のみを前記雪付着判定処理の対象とするように構成された、
車載レーダー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、前記車両の周囲に存在する物体を認識(検知)するための車載レーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載され、前記車両の周囲に存在する物体を認識する車載レーダー装置(以下、「従来装置」と称呼する。)が知られている(例えば、下記特許文献1を参照。)。従来装置は、発信装置、受信装置、制御装置などを備える。さらに、従来装置は、上記の発信装置、受信装置、制御装置などを収容するケース(筐体)を備える。発信装置は、車両の周囲(例えば、斜め後方)へ向けて電波を発信する。その電波が車両の周囲に位置する物体(車両、通行人、路面など)にて反射する。受信装置は、その反射波を受信して、反射波を表す信号(以下、「反射波信号」と称呼する。)を出力する受信アンテナを含む。制御装置は、反射波信号に基づいて、複数(数百点)の反射点(前記発信した電波の反射点)の位置(車両との距離、車両から見た方向など)を計算し、当該計算結果に基づいて、車両の周囲に存在する物体を認識する。
【0003】
従来装置は、例えば、車両のバンパーカバーの角部に取り付けられる。バンパーカバーの角部であって、受信アンテナが取り付けられた部分(以下、当該部位を、単に「受信アンテナ」又は「受信装置」と称呼する。)が露出している場合に比べて、当該部位に雪が付着している場合(受信アンテナの一部が雪で覆われている場合)、受信アンテナは、反射波を受信し難い。そのため、従来装置による物体の認識精度(正確度)が低下する。そこで、従来装置は、「受信アンテナに雪が付着しているか否か」を判定する機能を有する。以下の説明において、「受信アンテナに雪が付着しているか否か」を判定する処理を、「雪付着判定処理」と称呼する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
例えば、従来装置において、全ての反射点(従来装置の全検知範囲(以下、「視野」と称呼する。))内に位置する反射点)の位置の平均値に基づいて、「受信アンテナに雪が付着しているか否か」を判定する手法を採用することができる。以下、この判定手法を第1手法と称呼する。一方、例えば、従来装置において、その視野を複数の領域に分割しておき、それらの領域ごとに、反射点の位置の平均値を計算し、その計算結果に基づいて、「受信アンテナに雪が付着しているか否か」を判定する手法を採用してもよい。以下、この判定手法を第2手法と称呼する。
【0006】
ところで、受信アンテナの一部に雪が付着していて、その他の部分には付着していない場合がある。この状態において、第1手法を採用した場合に、雪が付着していない部分の視野内に位置する反射点が前記平均値に与える影響が大きい場合がある。この場合、「雪が受信アンテナに付着していない」と判定される可能性がある。一方、第2手法を採用した場合には、第1手法を採用した場合に比べて、演算装置の計算量(所定時間あたりの判定回数)が多い。つまり、演算負荷が大きくなる。
【0007】
本発明の目的の一つは、受信装置への雪の付着を効率的に検知できる車載レーダー装置を提供することにある。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の車載レーダー装置(1)は、
電波を車両の周囲へ向けて発信する発信装置(10)と、
前記発信された電波の反射波を受信する受信装置(20)と、
前記受信した反射波に基づいて、前記車両の周囲に存在する物体を検知する制御装置(30)と、
を備える。
前記制御装置が、前記反射波に基づいて、前記受信装置に雪が付着しているか否かを判定する雪付着判定処理を実行するように構成されている。
前記制御装置は、
前記物体を検知可能な全範囲(Va)のうち、前記車両の走行中に巻き上げられた雪が前記受信装置の一部に付着することにより前記物体の検知が困難になる範囲として予め規定された範囲(Z)のみを前記雪付着判定処理の対象とするように構成されている。
【0009】
上記のように、本発明に係る車載レーダー装置において、全検知範囲(視野)のうち、走行時に受信装置に雪が付着した場合に物体の検知が困難になる範囲が予め規定されている。そして、制御装置は、その範囲のみを雪付着判定処理の対象とする。よって、上述した第1手法を採用した場合に比べて、受信部に雪が付着しているか否かの判定精度(正確度)を向上させることができる。さらに、上述した第2手法を採用した場合に比べて、計算量が少ないため、制御装置の演算負荷を低減できる。このように、本発明によれば、受信装置への雪の付着を効率的に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る車載レーダー装置1が適用された車両の後部を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した車載レーダー装置1のブロック図である。
【
図3A】
図3Aは、車両の右側の後部を拡大した平面図である。
【
図3B】
図3Bは、車両の右側の後部を拡大した斜視図である。
【
図4】
図4は、雪付着判定プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(構成)
図1に示したように、本発明の一実施形態に係る車載レーダー装置1は、例えば、車両Vのリアバンパーカバーの角部(左右の端部)にそれぞれ設けられ、自車両の後方及び側方に存在する物体を認識する。詳しくは後述するように、車載レーダー装置1は、受信アンテナ21の表面に雪が付着しているか否かを判定する機能を有する。
【0012】
車載レーダー装置1は、
図2に示したように、従来装置と同様に、発信装置10、受信装置20及び制御装置30を備える。
【0013】
発信装置10は、発信機11及び送信アンテナ12を含む。発信機11は、一定周波数の信号(例えば正弦波)を出力する信号源11a、及び当該信号源11aから出力された信号の周波数を所定の周期で変化させる変調装置11bを含む。送信アンテナ12は、変調装置11bから出力された信号(変調信号)を、車両Vから斜め後方へ向かって発信する。
【0014】
受信装置20は、受信アンテナ21及び増幅装置22を含む。受信アンテナ21は、車両Vのリアバンパーカバーの角部に設けられる。
図3Aに示したように、車両Vの平面視において、受信アンテナ21の中心軸Cが斜め後方へ向けられている。複数のアンテナ素子21aを含む。受信アンテナ21は、複数のアンテナ素子21a,21b,・・・から構成されている。各アンテナ素子21a,21b,・・・は、その中心軸を基準とした所定の範囲(角度範囲)内に位置する物体からの反射波を受信して、その反射波を表す反射波信号RSa,RSb,・・・をそれぞれ出力する。各アンテナ素子21a,21b,・・・は、前記所定の範囲内に位置する反射点からの反射波の受信感度が高くなるように構成されている。各アンテナ素子21a,21b,・・・は、互いに異なる方向へ向けられている。これにより、広いFOV(=Field Of View (検知範囲(視野))が実現される。すなわち、各アンテナ素子21a,21b,・・・の検知範囲(受信範囲)は比較的狭いが、それらの検知範囲が互いにずれるように複数のアンテナ素子21a,21b,・・・が配置されることにより、受信アンテナ21全体(車載レーダー装置1)としての検知範囲が広くなる。具体的には、車載レーダー装置1の検知範囲(以下、「視野」と称呼する。)は、
図3Aに示したように、その中心軸Cを中心として「±75°」である。ここで、中心軸Cに対して車両前側を「+」側と定義し、車両後方側を「―」側と定義する。なお、上記の検知範囲の数値は一例であり、この例よりも多少広くてもよいし、多少狭くてもよい。
【0015】
再び
図2を参照すると、増幅装置22は、各アンテナ素子21aから出力された反射波信号をそれぞれ増幅して、制御装置30に供給する。
【0016】
制御装置30は、演算装置31(以下、「CPU」と称呼する。)、記憶装置32(RAM,ROMなど)、通信装置33などを含む。CPUは、記憶装置32にあらかじめ記憶されているコンピュータプログラムを実行する。CPUは、通信装置33を介して、通信ネットワークCANに接続されている。図示しない車両Vの制御装置(メインECU)も通信ネットワークCANに接続されていて、CPUとメインECUとの間において、車両Vの周囲に存在する物体に関する情報を送受信可能である。
【0017】
(動作)
車両Vが起動(エンジンが始動)されると、CPUは、所定の周期で、図示しない物体検知プログラムを実行して、増幅装置22から、反射波信号RSa,RSb,・・・を逐次取得し、それらを解析して、車両Vの周囲(特に、斜め後方)に存在する物体を認識する。そして、CPUは、その認識結果を、通信装置33を介して、メインECUへ送信する。ただし、CPUは、後述する物体検知許可フラグFが「1」であるとき、物体検知プログラムを実行し、物体検知許可フラグFが「0」であるとき、物体検知プログラムを実行しない。
【0018】
ところで、積雪時に車両Vが走行すると、車両Vの後輪によって、車両Vの後方に雪が巻き上げられる。車両Vの後方の空気が負圧になっているため、上記のようにして巻き上げられた雪が、車両Vの後面部に付着する。すなわち、主に、受信アンテナ21の中心軸Cの近傍から後半側に亘る領域Xが、雪で覆われる(
図3Bを参照。)。これにより、車載レーダー装置1の視野が、通常時に比べて狭くなる。受信アンテナ21(リアバンパーカバーの角部)が完全に露出している状態では、上記のように、車載レーダー装置1の視野Vaは、「―75°」乃至「+75°」である(
図3Aを参照。)。これに対し、受信アンテナ21(リアバンパーカバーの角部)の領域Xが雪で覆われている状態では、車載レーダー装置1の視野Vbは、凡そ「―5°」乃至「+75°」になる。すなわち、積雪時に車両Vが走行した場合、車載レーダー装置1は、視野Vaのうち視野Vbを除く範囲Z(「―75°」乃至「―5°」(不可視範囲))内に位置する物体を認識し難くなる。上記の範囲Zが予め計測(又は計算)され、その範囲Zを表すデータが記憶装置32に記憶されている。なお、上記の範囲Zの数値は一例であり、当該数値は、車種に応じて異なる場合がある。
【0019】
上記のように、CPUは、原則として、物体検知プログラムを周期的に実行しているが、物体検知プログラムを実行していない期間に、
図4に示した雪付着判定プログラムを実行する。すなわち、CPUは、物体検知プログラムと雪付着判定プログラムとを交互に実行する。
【0020】
CPUは、ステップ400から雪付着判定プログラムを開始する。つぎに、CPUは、ステップ401にて、発信装置10を制御して、送信アンテナ12から電波を発信させる。CPUは、電波の発信を開始させてから所定の短時間Δtが経過した時点で、電波の発信を一旦停止させる。
【0021】
つぎに、CPUは、ステップ402にて、受信装置20から反射波信号RSa,RSb,・・・を取得して、それらの反射波信号RSa,RSb,・・・を解析して、複数の反射点の位置を計算する。
【0022】
つぎに、CPUは、ステップ403にて、前記複数の反射点のうち、上述したように予め設定された範囲Zに含まれる反射点を選択する。
【0023】
つぎに、CPUは、ステップ404にて、以下のように、雪付着判定処理を実行する。ここで、領域Xが雪で覆われていなければ、領域Xに、地面からの反射波が入射する。すなわち、この場合、複数の反射点が、範囲Zの下部に一様に分布し、受信アンテナ21の中心Oと各反射点との距離が比較的長い。これに対し、領域Xが雪で覆われている場合には、複数の反射点が、範囲Zの略全体に亘って分布し、中心Oと反射点との距離が非常に短い。そこで、CPUは、前記選択した反射点の分布形状、中心Oと反射点との距離などに基づいて、「受信アンテナ21の領域Xに雪が付着しているか否か(領域Xが雪で覆われているか否か)」を判定する。例えば、前記選択した複数の反射点の平均最近距離が所定値Dより大きく、且つ中心Oと各反射点との距離の平均値が所定の短距離Δd以下であるとき、CPUは、「受信アンテナ21の領域Xに雪が付着している(領域Xが雪で覆われている)」と判定し、ステップ405に進む。
【0024】
つぎに、CPUは、ステップ405にて、物体検知許可フラグFを「0」に設定する。これ以降、物体検知許可フラグFが「1」にリセットされるまで、CPUは、物体検知プログラムを実行しない。すなわち、物体検知処理の実行が禁止される。
【0025】
つぎに、CPUは、ステップ406にて、「受信アンテナ21に雪が付着している(領域Xが雪で覆われている)ため、車両Vの周囲の物体を検知不能である」ことを表す情報を、通信装置33を介してメインECUに送信する。メインECUは、例えば、音響装置、映像表示装置などを制御して、同情報(音、画像など)を運転者に提示させる。
【0026】
そして、CPUは、ステップ407にて、雪付着判定プログラムを終了する。
【0027】
一方、ステップ404において、例えば、前記平均最近距離が所定値D以下であるとき、又は中心Oと各反射点との距離の平均値が所定の短距離Δdより大きいとき、CPUは、「受信アンテナ21の領域Xに雪が付着していない(領域Xが雪で覆われていない)」と判定し、ステップ408に進む。
【0028】
つぎに、CPUは、ステップ408にて、物体検知許可フラグFを「1」に設定する。すなわち、物体検知処理の実行が許容される。つぎに、CPUは、ステップ409にて、「車両Vの周囲の物体を検知可能である」ことを表す情報を、通信装置33を介してメインECUに送信する。メインECUは、例えば、音響装置、映像表示装置などを制御して、同情報(音、画像など)を運転者に提示させる。そして、CPUは、ステップ407に進み、雪付着判定プログラムを終了する。
【0029】
なお、CPUは、物体検知プログラムの実行を禁止されている状態(物体検知許可フラグFが「0」である状態)においても、雪付着判定プログラムを周期的に実行する。
【0030】
(効果)
上記のように、車載レーダー装置1において、視野Vaのうち、走行時に受信アンテナ21(リアバンパーカバーの角部)に雪が付着した場合に物体の検知が困難になる範囲Zが予め規定されている。そして、CPUは、その範囲Zのみを雪付着判定処理の対象としている。よって、上述した第1手法を採用した場合に比べて、受信アンテナ21に雪が付着しているか否かの判定精度(正確度)を向上させることができる。さらに、視野Vbは雪付着判定処理の対象外であるため、上述した第2手法を採用した場合に比べて、計算量が少ないため、CPUの演算負荷を低減できる。このように、本実施形態によれば、受信アンテナ21(リアバンパーカバーの角部)への雪の付着を効率的に判定できる。
【0031】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、以下に述べるように、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0032】
<変形例1>
例えば、上記実施形態では、雪付着判定プログラムのステップ404にて、範囲Zにおける反射点の分布及び中心Oとの距離に基づいて、受信アンテナ21への雪の付着を判定している。この手法に代えて、又は加えて、他の手法を採用してもよい。例えば、反射波の周波数特性(パターン)に基づいて、受信アンテナ21への雪の付着を判定してもよい。
【0033】
<変形例2>
上記実施形態は、本発明を、車両Vの後部に搭載される車載レーダー装置1に適用した例であるが、本発明は、車両の他の部位に搭載される車載レーダー装置1にも適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…車載レーダー装置、10…発信装置、11…発信機、12…送信アンテナ、20…受信装置、21…受信アンテナ、22…増幅装置、30…制御装置、C…中心軸、F…物体検知許可フラグ、RSa,RSb…反射波信号、V…車両