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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】取水排砂兼用装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20241126BHJP
   E02B 7/20 20060101ALI20241126BHJP
   E03B 3/04 20060101ALI20241126BHJP
   E02B 8/00 20060101ALI20241126BHJP
   E02B 7/26 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
E02B7/02 B
E02B7/20 106
E03B3/04
E02B8/00
E02B7/26 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021083012
(22)【出願日】2021-05-17
(65)【公開番号】P2022176526
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2024-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 直寿
(72)【発明者】
【氏名】上条 宏明
(72)【発明者】
【氏名】宮内 賢治
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-350462(JP,A)
【文献】特開2014-15710(JP,A)
【文献】特開2012-188829(JP,A)
【文献】特開昭62-153409(JP,A)
【文献】特開2015-74913(JP,A)
【文献】実開昭63-112529(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
E02B 7/20
E03B 3/04
E02B 8/00
E02B 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川を横断する堤体に設けられ、該堤体の上流側に堆積する土砂を排出するとともに河川水を導いて取水する取水排砂兼用装置であって、
前記堤体の上流側に設けられ、河川水とともに土砂を取込む底面排砂設備と、
該底面排砂設備に接続する接続部、及び該接続部を開閉する流入制御装置を有する取水塔と、を備え、
前記流入制御装置は、前記接続部を介して前記取水塔に流入する河川水により生じる浮力を利用して昇降し、河川水位が予め設定された規定水位に到達した場合に、前記接続部を遮断する制水ゲートを備えることを特徴とする取水排砂兼用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の取水排砂兼用装置において、
前記取水塔に接続される沈砂槽と、
該沈砂槽が備える排砂口を開閉する排砂制御装置と、
該排砂制御装置に前記取水塔に流入した河川水を注水する排砂用注水管と、
を備える沈砂設備が設けられており、
前記排砂制御装置は、前記排砂用注水管から注水された河川水により生じる浮力を利用して昇降し、該排砂制御装置内の水面が予め設定された規定高さに到達した場合に、前記排砂口を開放する排砂ゲートを備えることを特徴とする取水排砂兼用装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の取水排砂兼用装置において、
前記底面排砂設備が、
前記堤体の水通しに沿って延在し、溝状取水口を上部に形成されている導水路と、
該導水路が上面に形成される排砂設備本体と、
前記溝状取水口に設置され、透過部が設けられたスクリーンと、を備え、
前記排砂設備本体の、少なくとも下半が河床に埋設されているとともに、上面が前記河川の上流側から下流側に向けて上昇するように傾斜していることを特徴とする取水排砂兼用装置。
【請求項4】
請求項3に記載の取水排砂兼用装置において、
前記導水路が、前記取水塔に接続される一端側に開口を有するとともに、該開口に向けて下降する縦断勾配を有し、
前記スクリーンが、前記透過部における前記導水路の一端側近傍に位置する透過幅を、他端側近傍に位置する透過幅より大きく形成されていることを特徴とする取水排砂兼用装置。
【請求項5】
請求項4に記載の取水排砂兼用装置において、
前記透過部の透過幅が大きく形成された範囲に対向する前記導水路の縦断勾配が、他の範囲と比較して急勾配に形成されていることを特徴とする取水排砂兼用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂防ダムや砂防堰堤など河川を横断する堤体に設置する取水排砂兼用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会の実現を目指し、枯渇することのない再生可能エネルギーの導入促進が求められている現在、再生可能エネルギーのひとつである中小水力発電が注目されている。
【0003】
水の位置エネルギーで発電する中小水力発電は、燃料調達が不要、24時間連続して発電可能、また発電効率がよいベースロード電源であり、中小河川や水路、ダムや堰堤、工業用設備や下水道設備等に導入可能な、地域分散型のエネルギー源として注目されている。中小水力発電の導入にあたっては、中小河川や水路、ダムや堰堤、工業用設備や下水道設備等に取水機構や放流設備を設け、発電に使用する水を導く。
【0004】
例えば、特許文献1には、砂防ダムに設ける取水機構が開示されている。取水機構は、砂防ダムの袖部上流側に設けられ、土砂を含む河川水が流入する除塵スクリーンを河川の上流側に対向して配置し、開閉バルブを備えた取水管及び排砂管を河川の下流側に砂防ダムを貫通させて配置している。
【0005】
これにより、取水管のバルブを閉状態とし排砂管のバルブを開状態にすると、除塵スクリーンを介して取水機構に流入した土砂を含む河川水を排砂し、河川の下流側に運搬排出することができる。こうすると、取水機構の周辺にウォータープールを形成できるため、この状態を維持しつつ、取水管のバルブを開状態とし排砂管のバルブを閉状態とすれば、継続的な取水が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-046937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような取水機構によれば、簡略な構造で継続的な取水を実現できる。ところが、特許文献1では、土砂を含む河川水が流入する除塵スクリーンを、河川の上流側に対向して配置していることから、除塵スクリーン近傍に土砂が堆積しやすい。すると、重機を用いた堆砂の除去作業を定期的に実施する必要が生じる等、維持管理費が嵩みやすく、また、除去作業の期間中は発電を停止せざるを得ない。
【0008】
このため、取水口となる除塵スクリーンを、河川が流下する方向に対して直交させて設けるといった対策を講じる必要があった。また、取水管及び排砂管の開閉バルブとして一般には電磁バルブを採用するが、洪水などの自然災害時には停電することが多い。このような事態が生じると取水機構の操作ができなくなるといった不具合が生じていた。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、電力を用いることなく、砂防ダムや砂防堰堤など河川を横断する堤体の上流側に堆積した土砂の排出と取水に関する動作を制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明の取水排砂兼用装置は、河川を横断する堤体に設けられ、該堤体の上流側に堆積する土砂を排出するとともに河川水を導いて取水する取水排砂兼用装置であって、前記堤体の上流側に設けられ、河川水とともに土砂を取込む底面排砂設備と、該底面排砂設備に接続する接続部、及び該接続部を開閉する流入制御装置を有する取水塔と、を備え、前記流入制御装置は、前記接続部を介して前記取水塔に流入する河川水により生じる浮力を利用して昇降し、河川水位が予め設定された規定水位に到達した場合に、前記接続部を遮断する制水ゲートを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の取水排砂兼用装置によれば、河川水位が予め設定された規定水位に到達した場合に、河川水により生じる浮力を利用して昇降する制水ゲートで、底面排砂設備と取水塔との接続部を遮断し、底面排砂設備で取込んだ土砂及び河川水の沈砂設備への流入を制限することができる。したがって、沈砂設備を用いて排砂および取水する動作を、河川水位に基づいて無電化及び無人力で制御することが可能となる。
【0012】
また、洪水など自然災害時や不測の事態により停電が生じても、規定水位に到達した時点で確実に接続部を遮断することができるため、河川水及び土砂だけでなく、流木や大径土石が流入することにより、取水塔や沈砂設備に破損や破壊を生じさせる事態を回避することが可能となる。
【0013】
本発明の取水排砂兼用装置は、前記取水塔に接続される沈砂槽と、該沈砂槽が備える排砂口を開閉する排砂制御装置と、該排砂制御装置に前記取水塔に流入した河川水を注水する排砂用注水管と、を備える沈砂設備が設けられており、前記排砂制御装置は、前記排砂用注水管から注水された河川水により生じる浮力を利用して昇降し、該排砂制御装置内の水面が予め設定された規定高さに到達した場合に、前記排砂口を開放する排砂ゲートを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の取水排砂兼用装置によれば、排砂制御装置内に注入した河川水の水面が予め設定された規定高さに到達した場合に、河川水により生じる浮力を利用して昇降する排砂ゲートを排砂口から開放することができる。したがって、排砂制御装置内に注入した河川水の水面が、所望の排砂時期に規定高さに到達するよう調整することで、沈砂槽に流入した土砂を排出する動作を、無電化及び無人力で制御することが可能となる。
【0015】
本発明の取水排砂兼用装置は、前記底面排砂設備が、前記堤体の水通しに沿って延在し、溝状取水口を上部に形成されている導水路と、該導水路が上面に形成される排砂設備本体と、前記溝状取水口に設置され、透過部が設けられたスクリーンと、を備え、前記排砂設備本体の、少なくとも下半が河床に埋設されているとともに、上面が前記河川の上流側から下流側に向けて上昇するように傾斜していることを特徴とする。
【0016】
本発明の取水排砂兼用装置によれば、洪水時期以外の比較的河川流量の多い時期に排砂設備本体近傍を排砂しておくと、洪水時に堤体の上流側で生じる堆砂の起点が、堤体の上流側壁面近傍から排砂設備本体より上流側の河床まで後退する。これにより、洪水時に砂防堰堤で留めおくことのできる土砂の容量を、大幅に増大させることが可能となる。
【0017】
また、底面排砂設備上で転動するスクリーンの透過部より大径土石を堤体の水通しに向かって効率よく導き、河川の下流域へ流下させることが可能となる。これにより、堤体の上流側壁面近傍に堆積する土砂の容量を削減することが可能となる。
【0018】
本発明の取水排砂兼用装置は、前記導水路が、前記取水塔に接続される一端側に開口を有するとともに、該開口に向けて下降する縦断勾配を有し、前記スクリーンが、前記透過部における前記導水路の一端側近傍に位置する透過幅を、他端側近傍に位置する透過幅より大きく形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の取水排砂兼用装置によれば、導水路が一端の開口に向けて下降する縦断勾配をもって形成されていることから、導水路の一端側の広い範囲に、河川水を開口に向けて引き込む吸引力が作用する。このため、スクリーンに設けた透過部について、前記導水路の一端側近傍の透過幅を他端側近傍より大きく形成することにより、底面排砂設備の近傍に堆積している土砂を効率よく導水路に流入させることが可能となる。
【0020】
したがって、スクリーンにおける、導水路の一端側近傍に位置し透過部の透過幅を大きく取った範囲を土砂取込み専用とする一方で、導水路の他端側近傍に位置し透過部の透過幅を小さく取った範囲を取水専用として機能分担させると、排砂効率及び取水効率とともに向上させることが可能となる。
【0021】
本発明の取水排砂兼用装置は、前記透過部の透過幅が大きく形成された範囲に対応する前記導水路の縦断勾配が、他の範囲と比較して急勾配に形成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明の取水排砂兼用装置によれば、スクリーンに設けた透過部の透過幅を大きくとって、積極的に土砂を流入させた範囲に対応する導水路の縦断勾配を急勾配に設定するため、導水路の一端に設けた開口近傍で、取込んだ土砂が滞留する現象を抑制でき、排砂を安定させることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、砂防ダムや砂防堰堤など河川を横断する堤体の上流側に堆積した土砂の排出と取水に関する動作を、無電力及び無人力で制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態における取水排砂兼用装置の概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における取水排砂兼用装置を設けた河川の流況図である。
図3】本発明の実施の形態における取水排砂兼用装置の動作パターンを示す図である。
図4】本発明の実施の形態における底面排砂設備の詳細を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における底面排砂設備の有無による堆砂起点の相違を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における取水塔の詳細を示す図である(その1)。
図7】本発明の実施の形態における取水塔の詳細を示す図である(その2)。
図8】本発明の実施の形態における沈砂設備の詳細を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における排砂制御装置の詳細を示す図である。
図10】本発明の実施の形態における底面排砂設備の他の事例(その1)を示す図である。
図11】本発明の実施の形態における底面排砂設備の他の事例(その2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、砂防ダムや砂防堰堤といった河川を横断して構築される堤体に設けるものであり、既設もしくは新設のいずれの堤体にも適用可能である。以下に図1図11を参照しつつ、取水排砂兼用装置の詳細を説明する。
【0026】
≪≪取水排砂兼用装置の概略≫≫
図1の平面図で示すように、河川を横断する砂防堰堤10に設けられた取水排砂兼用装置1は、底面排砂設備2、取水塔3、及び沈砂設備4により構成されている。これらは3つの設備が相まって、河川水Wの一部を導いて取水する取水機能と、砂防堰堤10の上流側に堆積した土砂Sを排砂する排砂機能と、取水排砂兼用装置1を保全する保全機能を有する。
【0027】
これらの機能は、砂防堰堤10が設けられている河川の流況(1年を通じた川の流量の特徴)に基づいて、適切な時期にいずれかの機能が発揮される。各機能が実施される時期の設定方法はいずれでもよいが、1年間の1日当たりの平均流量Qを大きな順に365日分表示した流況曲線を利用すると良い。
【0028】
例えば、本実施の形態では、砂防堰堤10が設けられている河川の流況曲線を10年分蓄積してその平均を取り、図2で示すように、10年平均の流況曲線を作成している。そして、この10年平均の流況曲線に基づいて、取水機能、排砂機能、保全機能の各々を実行する時期を設定している。
【0029】
≪取水時期≫
具体的には、河川流量が35日流量(最大流量から数えて35番目の流量)に満たない時期を、取水時期に設定する。取水時期には、図3(a)で示すように、底面排砂設備2に流入した河川水W及び土砂Sのうち河川水Wを、取水塔3及び沈砂設備4を経由して沈砂設備4に備えた取水管46より取水する。
【0030】
≪排砂時期≫
また、河川流量が35日流量(最大流量から数えて35番目の流量)に到達した以降であって、最大流量から数えて5番目の流量に到達するまでの間の時期を、排砂時期に設定する。排砂時期には、図3(b)で示すように、底面排砂設備2から取水塔3を経由して沈砂設備4に流入した土砂S及び河川水Wを、排砂管45より河川の下流側へ排砂する。このとき、取水管46による河川水Wの取水は一時停止される。
【0031】
≪保全時期≫
そして、河川流量が最大流量から数えて5番目の流量に到達した以上の洪水時期を保全時期に設定する。保全時期には、図3(c)で示すように、取水塔3に設けた流入制御装置33を用いて、底面排砂設備2に流入した河川水Wや土砂S、さらには不測の事態により底面排砂設備2に流入した流木や大径土石が、取水塔3及び沈砂設備4へ流入する挙動を制限する。
【0032】
≪≪取水排砂兼用装置の詳細≫≫
上記のように、取水排砂兼用装置1は、河川流況に基づいて設定した取水時期、排砂時期、保全時期が到来するごとに3つの機能を適宜切り替えて実施する動作を、無人力かつ無電化で実施することができる。以下に、取水排砂兼用装置1を構成する底面排砂設備2、取水塔3、及び沈砂設備4の詳細を説明する。
【0033】
≪底面排砂設備≫
底面排砂設備2は、河川を流下する河川水W及び土砂Sを取込む設備である。図1及び図4(a)で示すように、河川を横断して構築された砂防堰堤10の上流側であって少なくとも水通し103の形成範囲に延在するよう設置され、排砂設備本体21とスクリーン22と導水路23とを備える。
【0034】
排砂設備本体21は、砂防堰堤10の上流側壁面101に沿って設けられる長尺なコンクリート構造物であり、図4(b)で示すように、少なくとも下半が河床に埋設されている。また、その上面は、河川の上流側から下流側に向けて上昇するように傾斜しているとともに、水通し103に沿って延在するトレンチ状の導水路23が形成されている。
【0035】
導水路23は、図4(a)で示すように、砂防堰堤10の他方の袖部105側に位置する他端側232から一方の袖部104側に位置する一端側231に向けて下降傾斜する縦断勾配をもって形成されている。他端側232は閉塞されているのに対し、一端側231は開口し、後述する取水塔3に接続される。
【0036】
また、導水路23の上部に設けられた溝状取水口235には、図4(b)で示すように、これを覆うようにしてスクリーン22が設置されている。このとき、導水路23における河川下流側の側壁234の天端が、河川上流側の側壁233より高く形成されているため、スクリーン22は、その上面が排砂設備本体21の上面と同様に、河川の上流側から下流側に向けて上昇する姿勢に設置されている。
【0037】
スクリーン22は、図4(a)で示すように、長尺な鋼板に透過部221を複数形成したもので、導水路23の全長に渡って設置されている。本実施の形態では、透過部221をスリット状に形成しているが、その透過幅はいずれでもよく、砂防堰堤10の上流側に堆積する土砂S(例えば、最大で100mm程度の礫分まで)を取込むことができる程度の大きさに形成すると良い。なお、透過幅は、透過部221における河川水W及び土砂Sが透過する部分の大きさをいう。
【0038】
上記の構成を有する底面排砂設備2は、スクリーン22の透過部221を介して導水路23に、河川水W及び土砂Sを流入させ、一端側231の開口に向けて流下させる。しかし、導水路23内に流入し堆積した土砂Sは、導水路23内を流下する河川水Wが掃流力を有していない場合、流下しないことが知られている。掃流力とは、河川や管路等を水が移動する際、河床や管路底面に堆積している土砂を、その底部を擦りながら流下させる力をいう。
【0039】
そこで、底面排砂設備2では、少なくとも排砂時期前には、河川流量の増大に伴って増大した導水路23内を流下する河川水Wによって、導水路23に堆積した土砂Sが掃流されるよう、導水路23の縦断勾配を設定している。
【0040】
これにより、取水時期において、河川流量が小さい場合には、図4(a)で示すように、導水路23内で河川水Wのみが取水塔3に向けて流下する。ところが、河川流量が増大して所定の流量になると、図6(a)で示すように、自動的に導水路23内に堆積していた土砂Sが河川水Wとともに、一端側231の開口から取水塔3に向けて流下する。
【0041】
こうすると、底面排砂設備2では、導水路23に堆積している土砂Sを、排砂時期の前段階から順次、取水塔3を経由して沈砂設備4に向けて排出することが可能となる。なお、導水路23の縦断勾配は、河川流域の土質等も考慮して、好適な縦断勾配となるよう適宜調整するとよい。
【0042】
また、導水路23が、一端側231の開口に向けて下降する縦断勾配となっているから、一端側231の広い範囲には、河川水Wを取水塔3に引き込む吸引力が作用する。このため、導水路23の一端側近傍において堆積している土砂Sを、河川水Sとともに効率よく導水路23に取込んで、取水塔3に排出することが可能となる。
【0043】
さらに、排砂設備本体21が、砂防堰堤10の上流側河床に設置され、上面が、河川の上流側から下流側に向けて上昇するように傾斜している。これにより、図5で示すように、上昇傾斜を設けない場合の堆砂の起点O’が、砂防堰堤10の上流側壁面101近傍であったところ、上昇傾斜を設けた場合の堆砂の起点Oは、排砂設備本体21より上流側の河床まで後退する。
【0044】
したがって、排砂時期に排砂設備本体21近傍を排砂しておくことで、河川の洪水時に砂防堰堤10の上流側で留めおくことのできる土砂Sの容量を、起点の差分ΔL高が確保され堆砂勾配の土砂量を増大させることが可能となる。
【0045】
加えて、排砂設備本体21とスクリーン22の上面は、図5で示すように、水通し103に向かうスロープのごとく形成されている。これにより、スクリーン22を透過できずその上面で転動する大径土石Gを、砂防堰堤10の水通し103に向かって効率よく導き、河川の下流域へ流下させることが可能となる。これにより、砂防堰堤10の上流側壁面101近傍に堆積する土砂Sの容量を、より削減することが可能となる。
【0046】
≪取水塔≫
取水塔3は、図1で示すように、上述した底面排砂設備2と後述する沈砂設備4とを接続する装置であり、砂防堰堤10の一方の袖部104側であって上流側壁面101に近接して設置されたコンクリート造の塔状構造物により構成されている。
【0047】
その塔高さは少なくとも、図6で示すように、計画高水位(H.W.L)を超える高さに形成され、内部には、接続流路31と、接続流路31に接続された接続水槽32と、接続流路31を遮断する流入制御装置33と、を備えている。
【0048】
接続流路31は、底面排砂設備2の導水路23と接続水槽32とを接続する流路であり、その形状は、導水路23から流入した河川水W及び土砂Sを、接続水槽32に向けてスムーズに流下させることができれば、いずれの形状に構築されたものであってもよい。
【0049】
接続水槽32は、図8で示すように、計画高水位(H.W.L)を超える高さを有する貯水槽であり、砂防堰堤10と面する側の側壁に開口が設けられ、砂防堰堤10を貫通する堤体横断排水路106が接続されている。なお、堤体横断排水路106は、砂防堰堤100の上流側壁面101から下流側壁面102に向けて一方の袖部104を貫通するよう設けられている。
【0050】
このように、接続水槽32は、砂防堰堤10と略平行に設けられた導水路23及び接続流路31と、砂防堰堤10と略直交して設けられた堤体横断排水路106とを接続するように設けられている。そして、導水路23及び接続流路31を流下した河川水W及び土砂Sを、接続水槽32で一時貯留することができる。これにより、河川水W及び土砂Sの流れ方向を効率よく直交方向へ転換し、堤体横断排水路106が接続されている沈砂設備4にスムーズに流入させることができる。
【0051】
≪流入制御装置≫
流入制御装置33は、図6(a)及び図7で示すように、接続流路31を開放もしくは遮断することにより、河川水W及び土砂Sが導水路23から取水塔3及び沈砂設備4に流入する挙動を制御する装置である。
【0052】
その構成は、接続流路31を開放もしくは遮断することができればいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、制水ゲート331、ゲート室332、カウンターウェイト室333、錘体334、ワイヤー335、定滑車336、及び注水管337により構成されている。
【0053】
制水ゲート331は、図6及び図7で示すように、接続流路31の断面より大きい面積を有する板材により構成されている。その部材厚、形状、及び材料等は、接続流路31から流下する河川水Wや土砂S等が衝突した際の衝撃に十分耐えることが可能であれば、いずれに構成されていてもよい。
【0054】
ゲート室332は、制水ゲート331の昇降空間であり、接続水槽32の底面排砂設備2側に、接続流路31と交差するようにして配置されている。その形状は、鉛直方向に延在する筒状に形成され、上端は河川の計画高水位(H.W.L)より上方に位置し、下端部は接続流路31より下方に配置されている。
【0055】
このようにゲート室332は、接続流路31と連通している。したがって、接続流路31を介して取水塔30に流入した河川水Wは、ゲート室332と前述した接続水槽32に流入する。これにより、ゲート室332内は常時、河川水位と等しい水位が維持された状態となっている。
【0056】
また、図6(b)で示すように、ゲート室332の内壁面には制水ゲート331の昇降をガイドするガイド部3321が設けられている。ガイド部3321は、制水ゲート331の両側端部各々が嵌合可能な対をなす溝を、ゲート室332の高さ方向に延在するように配置することにより形成している。しかし、ガイド部3321はこれに限定されるものではなく、いずれの形状に構成してもよい。
【0057】
上記の構成を有するゲート室332は、図6(a)で示すように、注水管337を介してカウンターウェイト室333に連通されている。また、ゲート室332内を昇降する制水ゲート331は、ワイヤー335によりカウンターウェイト室333内を昇降する錘体334に連結されている。
【0058】
注水管337は、図7(a)で示すように、接続流路31と計画高水位(H.W.L)の間の任意の高さ位置でゲート室332に接続されており、接続流路31から流入しゲート室322内を上昇した河川水Wの一部を、カウンターウェイト室333に注水する。なお、ゲート室322内の河川水Wには細粒分が含まれていることから、図6(a)で示すように、注水管337とゲート室332との接続部に細粒分を捕集する注水口スクリーン3371を設けるとよい。
【0059】
カウンターウェイト室333は、図6(a)で示すように、接続水槽32を挟んでゲート室332と並列配置されている。その形状は、鉛直方向に延在する筒状に形成され、注水管337より供給された河川水Wを貯留することが可能な構造に形成されている。また、カウンターウェイト室333の壁面には、所定の高さ位置に開口を設けて越流堰3331として機能させている。これにより、カウンターウェイト室333内では、越流堰3331の設置高さが、水位の最上値となる。
【0060】
錘体334は、取水塔30の天端に配された定滑車336に掛け回されたワイヤー335の一端に連結されている。ワイヤー335の他端には制水ゲート331が連結されており、カウンターウェイト室333内に河川水Wが流入するまでは、図6(a)で示すように、錘体334が着底した状態に置かれるよう、制水ゲート331より重量を大きく設定されている。
【0061】
また、錘体334は、図7で示すように、カウンターウェイト室333内に流入し貯留する河川水Wにより生じる浮力を利用して昇降するよう構成されるとともに、その外側面にはキャスター3341が設けられている。
【0062】
キャスター3341は、カウンターウェイト室333の内壁面に当接するよう設けられ、これにより、錘体334が昇降する際、揺動もしくは回転する挙動を抑制する。なお、キャスター3341は必ずしも設置しなくてもよく、また、錘体334が揺動もしは回転する挙動を抑制する手段として他の構造を採用してもよい。
【0063】
このような構成の流入制御装置33は、図6(a)で示すように、カウンターウェイト室333内に河川水Wが流入する前の時点では、錘体334が着底し、制水ゲート331が接続流路31より上方に配置された状態でバランスされている。したがって、接続流路31は開放され、河川水Wや土砂Sは、接続水槽32に流入する。
【0064】
そして、河川流量の増大に伴ってゲート室332内の水位が注水管337の設置高さまで上昇すると、カウンターウェイト室333内に河川水Wが流入する。これにより、錘体334が上昇を開始するとともに、制水ゲート331が下降する。
【0065】
さらに河川流量が増大してゲート室332内の水位(河川水位)が注水管337の設置高さより十分高くなると、注水管337から連続的に河川水Wがカウンターウェイト室333に流入する。そして、予め設定した規定水WL1に到達すると、カウンターウェイト室333内の水位は越流堰3331の設置高さに到達し、それ以降、水位上昇は停止する。
【0066】
これに伴って錘体334も上昇を停止するため、錘体334は越流堰3331の設置位置に相当する高さに保持され、制水ゲート331は着底するようワイヤー335の長さが調整されている。したがって、接続流路31は、制水ゲート331により遮断される。このように、流入制御装置33に備えた制水ゲート331は、導水路23から取水塔3に流入する河川水により生じる浮力を利用して昇降し、河川水位が予め設定した規定水位WLに到達すると、接続流路31を遮断することができる。
【0067】
したがって、保全時期として設定した河川流量に対応する河川水位を規定水位WL1に設定しておき、河川水位が規定水位WL1に到達した際、カウンターウェイト室333内の水位が越流堰3331の設置高さに到達するよう調整しておく。これにより、保全時期が到来すると電力を用いることなく、底面排砂設備2で取込んだ土砂S及び河川水の、取水塔3及び沈砂設備4への流入を抑制できる。
【0068】
したがって、洪水など自然災害時や不測の事態により停電が生じても、河川水位が保全時期に対応する規定水位WL1に到達した時点で、確実に接続流路31を遮断することができる。このため、河川水W及び土砂Sだけでなく、流木や大径土石が流入することにより、取水塔3や沈砂設備4に破損や破壊を生じさせる事態を回避することが可能となる。
【0069】
なお、例えば図7で示すように、制水ゲート331の外周縁にゲート側水密ゴム3311を設けるとともに、これに当接する空間側水密ゴム3322をゲート室332に設けておくと、より確実に接続流路31と接続水槽32との遮断できる。
【0070】
≪沈砂設備≫
沈砂設備4は、底面排砂設備2で取込んだ河川水Wを取水し、また土砂Sを排出する設備であり、図1で示すように、砂防堰堤10の一方の袖部104側であって下流側壁面102に近接して設置された略直方体のコンクリート構造物により構成されている。図8及び図9で示すように、その内空部には仕切り壁43が設けられ、砂防堰堤10に対向する河川上流側に沈砂槽41が設けられ、河川下流側に貯水槽42が設けられている。
【0071】
貯水槽42は、仕切り壁43の上部に設けられたストレーナー44を介して沈砂槽41と連通されており、沈砂槽41に流入し仕切り壁43を越流した河川水Wが、ストレーナー44を介して流入する。また、貯水槽42の河川下流側の側壁には、その下部近傍に開口が設けられ、貯水槽42に貯水した河川水Wに排水する取水管46が接続されている。
【0072】
取水管46は、例えば、中小水力発電設備に備えられているヘッドタンク等に接続されており、取水管46を流下した河川水Wは、このヘッドタンクに貯留されたのち、発電に利用される。
【0073】
沈砂槽41は、図8で示すように、砂防堰堤10に隣接する側壁の下部近傍に形成された開口に、前述した堤体横断排水路106が接続されている。これにより、取水塔3の接続水槽32から河川水W及び土砂Sが、堤体横断排水路106を介して貯水槽42に流入する。また、貯水槽42の底部には、下方に凸となる鉢形状に形成された砂溜部411が設けられている。
【0074】
砂溜部411は、堤体横断排水路106から流入した河川水W及び土砂Sを貯留するとともに、河川水W中に浮遊する細粒分を沈降させる設備である。これら砂溜部411に沈降した土砂S及び細粒分は、その中央部に形成されている排砂口412から排砂される。
【0075】
排砂口412には排砂管45の一端が接続されており、排砂管45の他端は河川中に配置されている。これにより、図9で示すように、排砂口412を流下した土砂Sや細粒分は排砂管45を介して、河川の砂防堰堤10より下流側に排出される。このような構成の沈砂槽41には、排砂口412を開閉する排砂制御装置5が設けられている。
【0076】
≪排砂制御装置≫
排砂制御装置5は、排砂口412を開放もしくは遮断することができればいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、図9で示すように、排砂口412に挿入可能な排砂ゲート51、昇降ロッド52、接続板53、吊りロッド54、昇降板55、フロート56、フロート槽57、及び排砂用注水管58を備える。
【0077】
排砂用注水管58は、図8で示すように、取水塔3の接続水槽32に接続されており、接続水槽32に流入した河川水Wを、フロート槽57に注入する。フロート槽57は、排砂口412の上方に配置された水槽であり、排砂用注水管58を介して注水された河川水Wを貯留する。また、フロート槽57の内方には、フロート56が挿入されている。
【0078】
フロート56は、上部に昇降板55が設置され、昇降板55には複数の吊りロッド54が垂下されている。これら複数の吊りロッド54を介して排砂口412に挿入可能な排砂ゲート51、排砂ゲート51を吊持する昇降ロッド52、及び昇降ロッド52が固定された接続板53が吊り下げられている。そして、フロート56は、図9で示すように、これらを支持しつつ、フロート槽57内に流入した河川水Wにより生じる浮力を利用して、昇降するよう構成されている。
【0079】
このような構成の排砂制御装置5は、図8で示すように、フロート槽57内に河川水Wが流入する前の時点ではフロート56が着底し、排砂ゲート51が排砂口412に挿入された状態となっている。また、排砂ゲート51は、排砂口412に挿入された状態で、砂溜部411と排砂管45との接続を確実に遮断できるよう、外周面が排砂口412に精度よく接する紡錘形状に形成されている。
【0080】
そして、河川流量が増大し、接続水槽32内の水位が排砂用注水管58の設置高さまで上昇すると、フロート槽57内に河川水Wが流入する。これにより、浮力が生じてフロート56が上昇を開始し、これに伴い排砂ゲート51も徐々に上昇する。
【0081】
こののち、図9で示すように、フロート槽57内に貯留する河川水Wの水面が、予め設定した規定高さWL2に到達すると、この水位までフロート56が上昇することに伴い、排砂ゲート51が排砂口412から抜け出す。なお、本実施の形態では、規定高さWL2が、接続水槽32と排砂用注水管58との接続高さと同一高さになるよう、フロート槽57と排砂用注水管58との接続高さを下げて設定している。
【0082】
したがって、排砂時期として設定した河川流量に到達した際、フロート槽57内に貯留する河川水Wの水面が、規定水面WL2に到達するよう調整しておく。こうすることで、沈砂槽41に流入した土砂S及び河川水Wを排出する動作を、無電化及び無人力で制御することが可能となる。
【0083】
≪≪取水排砂兼用装置を用いた取水及び排砂事例≫≫
上記の構成を有する取水排砂兼用装置1を用いて取水及び排砂する事例を、以下に示す。
【0084】
本実施の形態では、図2で例示したように、取水時期を河川流量が35日流量に満たない時期、排砂時期を河川流量が35日流量に到達した以降であって、最大流量から数えて5番目の流量に満たない時期、保全時期を河川流量が最大流量から数えて5番目の流量に到達した時期以降、に設定する場合を事例に挙げる。
【0085】
≪取水排砂兼用装置の設定≫
まず、取水塔3の流入制御装置33について、保全時期になると制水ゲート331で接続流路31を遮断されるよう、規定水位WL1として、河川流量が最大流量から数えて5番目の流量に到達した際に想定される河川水位を設定する。
【0086】
また、底面排砂設備2の導水路23について、排砂時期には順次、導水路23に堆積する土砂Sが取水塔3に向けて排出されるよう、縦断勾配を調整しておく。なお、本実施の形態では、排砂時期前において、河川流量が所定の流量に到達した時点における導水路23内を流下する河川水の流量により、掃流力が働き土砂Sが滑動する最適な縦断勾配として、河川を流下する土砂Sの性状等を併せて考慮し、導水路23の縦断勾配を1/20程度に設定している。
【0087】
さらに、沈砂設備4の排砂制御装置5について、排砂時期になると排砂ゲート51が排砂口412から抜け出し開放されるよう、フロート槽57内に貯留する河川水Wの水面の規定高さWL2として、河川流量が35日流量に到達した際に想定される接続水槽32内の水位を設定する。
【0088】
≪取水時期≫
上記のとおり取水排砂兼用装置1を構築すると、河川流量が35日流量に満たない取水時期では、図4(a)で示すように、河川水W及び土砂Sが底面排砂設備2のスクリーン22を介して導水路23に流入すると、まず、河川水Wのみが導水路23を流下し取水塔3に流入する。なお、導水路23内を流下する河川水Wの流量では掃流力が作用しないため、土砂Sは導水路23に堆積したままとなっている。
【0089】
降雨等により、河川流量が増大すると、これに伴って増大した導水路23内を流下する河川水Wに掃流力が働く。これにより、底面排砂設備2の導水路23では図6(a)で示すように、自動的に導水路23内に堆積していた土砂Sが河川水Wとともに流下する。
【0090】
また、導水路23の取水塔3に接続される一端側231の広い範囲では、河川水Wを取水塔3に引き込むような吸引力が作用するから、導水路23に流下していない底面排砂設備2上の土砂も効率よく導水路23に取込まれる。そして、取水塔3では接続流路31が開放されているから、河川水W及び土砂Sは接続水槽32及び堤体横断排水路106を経由して、沈砂設備4に流入する。
【0091】
また、沈砂設備4では図8で示すように、排砂口412が排砂ゲート51により遮断されているから、流入した河川水W及び土砂Sは沈砂槽41に一時貯留される。こののち、貯留量が増大し、河川水Wが仕切り壁43を越流すると、貯水槽42に流入して取水管46を介して取水される。
【0092】
≪排砂時期≫
大雨等により排砂時期を迎えると、排砂制御装置5のフロート槽57内に貯留する河川水Wの水面が規定高さWL2に到達し、図9で示すように、電力を用いることなく、排砂ゲート51が排砂口412から抜け出し排砂口412が開放される。
【0093】
このため、沈砂槽41に流入した河川水W及び土砂Sは、排砂口412から排砂管45を介して土砂Sともに河川に排水される。したがって、河川水Wは貯水槽42に流入せず、取水管46から取水されることはない。
【0094】
≪保全時期≫
さらに河川流量が増大して保全時期を迎えると、河川流量が最大流量から数えて5番目の流量に到達することに伴って河川水位が規定水位WL1を超える。すると、図7で示すように、電力を用いることなく、制水ゲート331により接続流路31が遮断される。したがって、導水路23内の土砂S及び河川水Wはいずれも、取水塔3に流入することはない。
【0095】
なお、排砂時期に、底面排砂設備2の近傍及び導水路23に堆積する土砂Sを排出しているため、図5を参照しつつ説明したように、砂防堰堤10の上流側で留めおくことのできる土砂Sの容量は、取水排砂兼用装置1に底面排砂設備2を設けない場合と比較して、大幅に増大させることが可能となる。
【0096】
≪保全時期の経過後≫
保全時期が経過し、河川流量が取水時期に相当する流量に低減した時点で、次のとおり、取水時期に備える。
【0097】
まず、取水塔3では、カウンターウェイト室333内に流入した河川水Wを排水する。これにより、図6(a)で示すように、錘体334を着底させるとともに制水ゲート331を上昇させて、接続流路31を開放する。カウンターウェイト室333内の河川水Wは、図7で示すように、下部に設けられた放水穴3332により排水され、河川水位が下がりカウンターウェイト室333への流入量が減り、流入量と排水量がバランスされ、錘体334は下降する。また、沈砂設備4では図8で示すように、排砂制御装置5のフロート槽57に流入した河川水Wを、排水設備59により排水する。これにより、排砂ゲート51を下降させて排砂口412を遮断する。
【0098】
上述する取水排砂兼用装置1によれば、取水塔3の流入制御装置33に備えた河川水Wにより生じる浮力を利用して昇降する制水ゲート331で、底面排砂設備2と取水塔3との接続流路31を遮断し、底面排砂設備2で取込んだ土砂S及び河川水Wの沈砂設備4への流入を制限することができる。したがって、沈砂設備4を用いて排砂および取水する動作を、河川水位に基づいて無電化及び無人力で制御することが可能となる。
【0099】
本発明の取水排砂兼用装置1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0100】
例えば、本実施の形態では、図4で示すように、底面排砂設備にスリット状の透過部221の一様なスクリーン22を採用し、導水路23の上面を覆っている。しかし、必ずしもこれに限定されるものではなく、様々な態様のスクリーン22を採用することができる。
【0101】
具体的には、図10(a)で示すように、導水路23の全長を覆うスクリーン22のうち、導水路23の一端側231近傍に透過部221より透過幅の大きい透過部221’を設ける。なお、透過幅の大きい透過部221’を設ける範囲としては、スクリーン22のうち、一端側231から1/3~1/4程度の範囲に設けると良い。
【0102】
前述したように、導水路23が一端側231の開口に向けて下降する縦断勾配となっているから、一端側231近傍の広い範囲に、河川水Wを取水塔3に引き込むような吸引力が作用する。このため、一端側231近傍に透過幅の大きい透過部221’を採用することで、スクリーン22上や底面排砂設備2近傍に堆積する土砂Sを効率よく導水路23に流入させることができ、排砂効率を向上することが可能となる。
【0103】
したがって、例えば図10(b)で示すように、スクリーン22のうち、導水路23の他端側232に位置する透過部221(例えば、最大で100mm程度の礫分まで透過できる透過幅のもの)の範囲を取水優先とする。その一方で、一端側231に位置する透過部221’(透過部221より透過幅の大きいもの)の範囲を排砂優先とする。こうして、機能分担させると、取水排砂兼用装置1全体の排砂効率及び取水効率に大きく寄与することが可能となる。
【0104】
また、上記のように機能分担させる場合には、取水優先とする導水路23の他端側232のスクリーン22について、図11(a)で示すように、その奥行(河川流下方向の長さ)を狭くすることも可能となる。こうすると、コンクリート構造物である排砂設備本体21の形状をスリム化できるため、底面排砂設備2を経済性及び施工性の高い設備とすることが可能となる。
【0105】
また、図11(b)では、導水路23について、排砂優先とすべく透過幅の大きい透過部221’が設けられている範囲の下方は、他端側232より縦断勾配を急に形成した急勾配な導水路23’を別途設けると良い。こうすると、透過幅の大きい透過部221’で積極的に土砂Sを流入させることにより、導水路23の一端側231に設けた開口近傍で、取込んだ土砂Sが滞留する現象を抑制でき、排砂を安定させることが可能となる。
【0106】
なお、図11(b)では、急勾配な導水路23’の縦断勾配を1/15程度に設定しているが、これに限定されるものではなく、河川流域の土質等を考慮して好適な縦断勾配に設定するとよい。また、導水路23及び急勾配な導水路23’をそれぞれ、取水塔3の接続流路31に向けて個別に流下させている。しかし、例えばこれらを取水塔3の手前で合流させたのち、取水塔3の接続流路31に向けて流下させる構造としてもよい。
【0107】
さらに、スクリーン22において、透過部221’より透過幅の小さい取水優先とする透過部221が設けられている範囲に対向する導水路23には、土砂Sが多少流入するものの、堆積する程にはならない可能性がある。このような場合には掃流力を考慮する必要がないため、導水路23の縦断勾配を、河川水Wのみを流下させるために必要な緩勾配(通常設計では、縦断勾配1/40程度)に設定してもよい。
【符号の説明】
【0108】
10 砂防堰堤
101 上流側壁面
102 下流側壁面
103 水通し
104 一方の袖部
105 他方の袖部
106 堤体横断排水路
1 取水排砂兼用装置
2 底面排砂設備
21 排砂設備本体
22 スクリーン
221 透過部
221’ 透過部(透過幅の大きい)
23 導水路
23’ 導水路(急勾配な)
231 一端側
232 他端側
233 河川上流側の側壁
234 河川下流側の側壁
235 溝状取水口
3 取水塔
31 接続流路(接続部)
32 接続水槽
33 流入制御装置
331 制水ゲート
3311 ゲート側水密ゴム
332 ゲート室
3321 ガイド部
3322 空間側水密ゴム
333 カウンターウェイト室
3331 越流堰
3332 放水穴
334 錘体
3341 キャスター
335 ワイヤー
336 定滑車
337 注水管
3371 注水口スクリーン
4 沈砂設備
41 沈砂槽
411 砂溜部
412 排砂口
413 開口
42 貯水槽
43 仕切り壁
44 ストレーナー
45 排砂管
46 取水管
5 排砂制御装置
51 排砂ゲート
52 昇降ロッド
53 接続板
54 吊りロッド
55 昇降板
56 フロート
57 フロート槽
58 排砂用注水管
59 排水設備
S 土砂
W 河川水
WL1 規定水位
WL2 規定高さ
Q 平均流量
O 堆砂の起点
O’ 堆砂の起点(底面排砂設備2のない場合)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11