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特許7593230電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法
<図1>
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図1
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図2
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図3
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図4
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図5
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図6
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図7
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図8
  • 特許-電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20241126BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/02 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021085644
(22)【出願日】2021-05-20
(65)【公開番号】P2022178682
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武島 健太
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-072754(JP,A)
【文献】特開平09-163649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータのロータであって、
孔を有するロータコアと、
前記孔に挿入されている磁石と、
前記孔の内面と、前記内面と対向する前記磁石の側面と、の間に位置するシートと、を備え、
前記シートは、
前記孔の前記内面に接触している第1の接触層と、
前記磁石の前記側面に接触している第2の接触層と、
前記第1の接触層と前記第2の接触層との間に位置するとともに、多孔質構造を有する本体層とを備え、
前記本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層とのいずれよりも、高い空隙率を有する、ロータ。
【請求項2】
前記孔は、前記ロータコアを前記ロータの軸方向に貫通している、請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記シートは、ガラス繊維と、樹脂と、を含み、
前記本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層とのいずれよりも、前記ガラス繊維を多く含み、
前記第1の接触層と前記第2の接触層との双方は、前記本体層よりも前記樹脂を多く含む、請求項1または2に記載のロータ。
【請求項4】
前記ロータコアは、複数の鋼板が積層されて作られている、請求項1からのいずれか1項に記載のロータ。
【請求項5】
電気モータのロータの製造方法であって、
前記ロータの孔に、シート及び磁石を挿入する工程と、
前記孔に配置された前記シートを膨張させる膨張工程と、を備え、
前記シートは、
前記孔の前記内面に接触している第1の接触層と、
前記内面と対向する前記磁石の側面に接触している第2の接触層と、
前記第1の接触層と前記第2の接触層との間に位置するとともに、多孔質構造を有する本体層と、を備え、
前記膨張工程では、前記本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層とのいずれよりも大きく膨張して、前記第1の接触層と前記第2の接触層とのいずれよりも高い空隙率を有する、
製造方法。
【請求項6】
前記膨張工程では、加熱により前記シートを膨張させる、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の製造方法に用いる前記シートの製造方法であって、
前記本体層を構成する第1の材料層と、前記第1の接触層と前記第2の接触層とを構成する第2の材料層と、を積層する積層工程と、
積層された前記第1の材料層及び前記第2の材料層を加熱しながら圧縮する加熱圧縮工程と、を備え、
前記第1の材料層及び前記第2の材料層は、熱可塑性材料で構成され、
前記第1の材料層及び前記第2の材料層のうちの少なくとも前記第1の材料層は、繊維材料を含有し、
前記第1の材料層は、前記第2の材料層よりも前記繊維材料の含有率が高い、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電気モータのロータ、その製造方法、及び、その製造方法に用いるシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電気モータのロータが開示されている。ロータは、孔(特許文献1では磁石挿入スロットと称している)を有するロータコアと、孔に挿入される磁石と、磁石に巻回されるシート(特許文献1では絶縁シートと称している)と、を備える。シートは、発泡性を有する材料で構成されており、ロータコアの孔へ磁石と共に挿入された後に、加熱によってその体積を膨張させる。膨張したシートは、孔の内面と磁石の側面との間の隙間を充填し、磁石を孔に対して固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-115712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のロータでは、シートを大きく膨張させるほど、孔の内面と磁石の側面との間の隙間を、膨張したシートによって確実に充填することができる。その一方で、シートを大きく膨張させるほど、膨張したシートの空隙率は高くなり、その結果、孔の内面や磁石の側面に対するシートの接着性が低下する。このように、従来の構造では、シートの膨張性と接着性との双方を向上させることが困難である。本明細書では、シートの接着力と膨張性との双方を向上させ得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、電気モータのロータに具現化される。ロータは、孔を有するロータコアと、前記孔に挿入されている磁石と、前記孔の内面と、前記内面と対向する前記磁石の側面と、の間に位置するシートと、を備える。前記シートは、前記孔の前記内面に接触している第1の接触層と、前記磁石の前記側面に接触している第2の接触層と、前記第1の接触層と前記第2の接触層との間に位置するとともに、多孔質構造を有する本体層とを備える。前記本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方より、高い空隙率を有する。ここで、第1の接触層及び第2の接触層のそれぞれは、多孔質構造を有してもよいし、有さなくてもよい。即ち、第1の接触層と第2の接触層との少なくとも一方は、空隙率がゼロであってもよい。
【0006】
上述したロータでは、シートが、孔の内面に接触している第1の接触層と、磁石の側面に接触している第2の接触層と、第1の接触層と第2の接触層との間に位置する本体層とを有する。そして、本体層は、第1の接触層と第2の接触層との少なくとも一方より、高い空隙率を有する。このような構成によると、本体層を主に膨張させることによって、シートの膨張性を向上しつつ、第1の接触層及び/又は第2の接触層の空隙率を低く維持することによって、シートの接着性を向上することができる。
【0007】
また、本明細書では、電気モータのロータの製造方法も開示する。当該製造方法は、前記ロータの孔に、シート及び磁石を挿入する工程と、前記孔に配置された前記シートを膨張させる膨張工程と、を備える。前記シートは、前記孔の前記内面に接触している第1の接触層と、前記内面と対向する前記磁石の側面に接触している第2の接触層と、前記第1の接触層と前記第2の接触層との間に位置するとともに、多孔質構造を有する本体層と、を備える。前記膨張工程では、前記本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方よりも大きく膨張して、前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方よりよりも高い空隙率を有する。
【0008】
上述した製造方法によれば、膨張工程において、本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方よりも大きく膨張して、当該一方の層よりも高い空隙率を有する。このような製造方法によると、本体層を主に膨張させることによって、シートの膨張性を向上しつつ、空隙率の低い第1の接触層及び/又は第2の接触層によって、シートの接着性を向上するロータを製造することができる。
【0009】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例のロータ2の斜視図を示す。
図2】ロータコア2cの平面図を示す。
図3図2の二点鎖線IIIに囲まれた範囲の拡大図を示す。
図4図3のIV-IVに沿った断面図を示す。
図5】積層工程における断面図を示す。
図6】加熱圧縮工程における断面図を示す。
図7】シート圧着工程における断面図を示す。
図8】磁石挿入工程における断面図を示す。
図9】膨張工程における断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本技術の一実施形態では、前記本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層とのいずれよりも、高い空隙率を有してもよい。このような構成によれば、シートは、孔の内面と磁石の側面の双方に対して大きい接着力を発揮するため、磁石がより強固に固定される。
【0012】
本技術の一実施形態では、前記孔は、前記ロータコアを、前記ロータの軸方向に貫通してもよい。貫通した孔に固定される磁石は、貫通していない孔に固定される磁石に比して、孔から外れやすい。このため、上述した技術は、貫通した孔を有するロータに対して有益である。
【0013】
本技術の一実施形態では、前記シートは、ガラス繊維と、樹脂と、を含んでもよい。その場合、前記本体層は、前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方より、前記ガラス繊維を多く含んでもよく、前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方は、前記本体層よりも前記樹脂を多く含んでもよい。但し、別の実施形態では、本体層は、ガラス繊維に代えて、中和等の化学反応によって膨張する材料を前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方よりも多く含んでもよい。
【0014】
本技術の一実施形態では、前記ロータコアは、複数の鋼板が積層されて作られていてもよい。但し、別の実施形態では、ロータコアは、鋼材の削り出しによって作られてもよい。
【0015】
本技術の一実施形態では、前記膨張工程では、加熱により前記シートを膨張させてもよい。但し、別の実施形態では、中和等の化学反応によって前記シートを膨張させてもよい。
【0016】
本技術の一実施形態では、前記シートの製造方法は、前記本体層を構成する第1の材料層と、前記第1の接触層と前記第2の接触層との少なくとも一方を構成する第2の材料層と、を積層する積層工程と、積層された前記第1の材料層及び前記第2の材料層を加熱しながら圧縮する加熱圧縮工程と、を備えてもよい。前記第1の材料層及び前記第2の材料層は、熱可塑性材料で構成され、前記第1の材料層及び前記第2の材料層のうちの少なくとも第1の材料層は、繊維材料を含有する。前記第1の材料層は、前記第2の材料層よりも前記繊維材料の含有率が高くてもよい。このような製造方法によると、比較的容易な工程により、繊維材料の含有量が高い第1の材料層によって、シートの膨張性を向上させるとともに、第2の材料層によって、第1の接触層及び/又は第2の接触層の空隙率を低く維持することができる。
【0017】
(実施例)
図1を参照して、実施例のロータ2について説明する。図中に示されるZ軸は、ロータ2の軸線100に平行な軸である。XY平面は、Z軸に直交する平面である。本明細書では、Z軸に平行な方向を、単に「軸線方向」と呼ぶことがある。また、XY平面に平行でXY平面と軸線100との交点を通過する直線の方向を、単に「径方向」と呼ぶことがある。
【0018】
ロータ2は、電気モータ(図示省略)を構成する。図示は省略したが、ロータ2の径方向外側には、ステータが配置される。ステータのコイルに電流が流れると、ロータ2とステータの間に磁力が発生し、ロータ2が軸線100を中心に回転する。ロータ2は、ラジアルギャップ型の電気モータを構成する。
【0019】
図1に示されるように、ロータ2は、ロータコア2cと、シャフト4と、磁石6と、を備えている。ロータコア2cは、複数の鋼板が軸線方向に沿って積層されて形成されている。ロータコア2cを構成するそれぞれの鋼板は、互いに絶縁されている。絶縁された複数の鋼板を積層してロータコア2cを形成することで、ロータコア2cに過電流が発生するのを抑制することができる。また、これにより、ロータ2に発生する鉄損を低減することができる。
【0020】
ロータコア2cは、複数の孔2hを備えている。ロータコア2cを構成する複数の鋼板のそれぞれに予め孔が設けてあり、積層される鋼板の孔が重なることで、ロータコア2cを軸方向に貫通する孔2hが形成される。複数の孔2hのそれぞれには、磁石6が挿入されている。シャフト4は、軸線方向に延びる円筒形状を有している。シャフト4は、ロータコア2cの中心部を軸線方向に貫通している。
【0021】
図2に示されるように、ロータコア2cは、16個の孔2hを備えている。16個の孔2hは、8個のペアに分けられ配置されている。孔2hのペアは、ロータ2(図1参照)の1極に対応する。すなわち、ロータコア2cは、計8極に対応する孔2hを備えている。孔2hのペアのそれぞれは、互いに対称となるように配置されている。それぞれの孔2hのペアは、ロータコア2cの中心を向くように、ロータコア2cの外周に沿って配置されている。なお、ロータ2の極数に応じて、ロータコア2cが備える孔2hの個数は調整される。
【0022】
ロータコア2cの中央部には、シャフト孔4hが形成されている。シャフト孔4hは、ロータコア2cを軸線方向に貫通している。シャフト孔4hの内周面には、2個の突起4pが形成されている。一方の突起4pは、他方の突起4pと対向する位置に配置されている。それぞれの突起4pの両側には、溝が形成されている。シャフト4(図1参照)は、シャフト孔4hの突起4pおよび溝と系合することで、ロータコア2cに固定される。
【0023】
図3を参照して、孔2hの詳細形状について説明する。図3は、図2の二点鎖線IIIに囲まれた範囲の拡大図であり、1個の孔2hの周辺を拡大した図である。なお、他の孔2hについても、形状は略同じである。孔2hは、略長方形の形状を有している。孔2hの長手方向の一方の端(図3において上側の端)では、徐々にその幅が狭くなっている。孔2hの長手方向の他方の端(図3において下側の端)には、ロータコア2cの中心(すなわち、軸線100)に向かって延びる平面が設けられている。孔2hは、略長方形の形状に複数の形状が組み合わさった形状である。孔2hは、孔2hの短手方向において互いに対向する内面2iを備えている。一方の内面2iは、他方の内面2iと略平行に延びている。すなわち、一方の内面2iと他方の内面2iとの距離は、一定である。
【0024】
図3に示されるように、ロータコア2cの孔2hには、軸線100方向(すなわち、軸線方向)に矩形の磁石6が挿入されている。先に述べたように、ロータコア2cは、複数の鋼板を積層して形成されている。鋼板を積層したロータコア2cの孔2hに磁石6が挿入されることで、ロータコア2cに磁束が発生する。ロータコア2cの孔2hの内面2iと、当該内面2iと対向する磁石6の側面6sとの間のそれぞれには、シート10が配置されている。詳細は図4を参照して説明するが、シート10によって磁石6が孔2hに固定される。
【0025】
シート10は、樹脂を含む。このため、シート10は、磁石6とロータコア2cとの間の導通を防止する絶縁材としても機能する。シート10が内面2iと側面6sとの間に介在することで、磁石6の側面6sとロータコア2cの内面2iとが直接接触することを防止することができる。側面6sと内面2iとが直接に接触し、それらの間で導通すると、ロータ2(図1参照)に鉄損が生じる。ロータ2は、側面6sと内面2iとの間に樹脂を含むシート10を配置することで、鉄損を低減する。
【0026】
また、磁石6の長手方向の端の一方と孔2hの長手方向の端の一方との間には空間S1が設けられており、磁石6の長手方向の端の他方と孔2hの長手方向の端の他方との間には、空間S2が設けられている。空間S1,S2は、軸線方向にロータコア2cを貫通している。電気モータ(図示省略)に組み込まれたロータ2(図1参照)が回転すると、磁石6は発熱する。磁石6の長手方向の端は、空間S1,S2に露出する。ロータ2の回転時、空間S1,S2内に磁石6を冷却するオイルを循環させることで、発熱した磁石6の長手方向の端を直接冷却することができる。
【0027】
図4を参照して、シート10の詳細構造について説明する。シート10は、本体層11と、第1の接触層12と、第2の接触層13と、を備える。第1の接触層12は、ロータコア2cの内面2iと接触している。第2の接触層13は、磁石6の側面6sと接触している。本体層11は、各接触層12,13の間に位置している。
【0028】
図4の下方に、シート10の断面図の拡大図を示す。本体層11は、3層の繊維層21で構成される。各繊維層21は、複数のガラス繊維31と、樹脂32と、を含む。複数のガラス繊維31は、軸線方向に蛇行して延びる繊維材料である。複数のガラス繊維31は、それぞれ、少なくとも部分的に樹脂32で覆われている。複数のガラス繊維31のそれぞれの間には、間隙が設けられる。すなわち、複数のガラス繊維31で構成される本体層11は、多孔質構造を有している。先に述べたように、ロータコア2cの孔2hには、磁石6を冷却するオイルが循環する。本体層11が多孔質構造を有することで、当該オイルが、本体層11の複数のガラス繊維31の間を通過する。これにより、シート10は、本体層11を通過するオイルによって磁石6をその側面6sから冷却することができる。その結果、本体層11が多孔質構造を有していない構成に比して、磁石6の冷却効率を向上させることができる。同様に、シート10は、本体層11を通過するオイルによってロータコア2cをその内面2iから冷却することができる。
【0029】
各接触層12,13も、本体層11と同様に、ガラス繊維31と、樹脂32と、を含んでいる。すなわち、各接触層12,13も、本体層11と同様に、多孔質構造を有している。図4の拡大図に示されるように、各接触層12,13に含まれるガラス繊維31の量は、本体層11に含まれるガラス繊維31の量よりも少ない。その結果、各接触層12,13は、本体層11よりも低い空隙率を有する。各接触層12,13は、ガラス繊維31に代えて、樹脂32を多く含んでいる。本体層11も樹脂を含んでいるが、本体層11に含まれる樹脂32の量は、各接触層12,13に含まれる樹脂32の量よりも少ない。樹脂32は、熱可塑性であり、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)である。
【0030】
詳細は図9を参照して後述するが、第1の接触層12の樹脂32が加熱によって溶融され、冷却されることで、第1の接触層12がロータコア2cの孔2hの内面2iと接着される。同様に、第2の接触層13の樹脂32が加熱によって溶融され、冷却されることで、第2の接触層13が磁石6の側面6sと接着される。このため、各接触層12,13に含まれる樹脂32の量が多いほど、各接触層12,13の接着力は大きくなる。
【0031】
先に述べたように、各接触層12,13は、本体層11よりも樹脂32を多く含む。このため、各接触層12,13の接着力は、本体層11の接着力よりも大きくなる。図4に示されるように、シート10では、第1の接触層12がロータコア2cの孔2hの内面2iと接触し、第2の接触層13が磁石6の側面6sと接触する。そのため、シート10は、大きな接着力を有する各接触層12,13によって、磁石6をロータコア2cの孔2hに強固に固定することができる。
【0032】
また、シート10は、膨張することで、ロータコア2cの孔2hの内面2iと磁石6の側面6sとの間の隙間を充填する。その結果、第1の接触層12は、ロータコア2cの孔2hの内面2iに押し付けられ、内面2iに接触する。第1の接触層12が内面2iに強く押し付けられるほど、第1の接触層12の接着力が強くなる。同様に、第2の接触層13は、磁石6の側面6sに押し付けられ、側面6sに接触する。第2の接触層13が側面6sに強く押し付けられるほど、第2の接触層13の接着力が強くなる。
【0033】
シート10が加熱によって膨張することで、第1の接触層12が内面2iに押し付けられ、第2の接触層13が側面6sに押し付けられる。このため、シート10が大きく膨張するほど、各接触層12,13の接着力は大きくなる。
【0034】
先に述べたように、本体層11は、各接触層12,13よりも多くガラス繊維31を含む。詳細は図6を参照して後述するが、加熱圧縮されることでガラス繊維31に生じた応力が加熱によって解放され、ガラス繊維31の形状が復元することで、シート10は膨張する。このため、ガラス繊維31の量が多いほど、シート10は大きく膨張する。各接触層12,13よりもガラス繊維31を多く含む本体層11は、各接触層12,13よりも大きく膨張する。その結果、本体層11は、各接触層12,13よりも高い空隙率を有する。
【0035】
上述したように、シート10には、多くの樹脂32を含むことと、多くのガラス繊維31を含むことと、が求められる。しかしながら、シート10が含む樹脂32の量が増えるほど、シート10が含むガラス繊維31の量が減少する。同様に、シート10が含むガラス繊維31量が増えるほど、シート10が含む樹脂32量が減少する。
【0036】
シート10では、樹脂を多く含む各接触層12,13が、シート10の径方向の両側に配置され、ガラス繊維31を多く含む本体層11が、各接触層12,13の間に配置される。これにより、第1の接触層12がロータコア2cの孔2hの内面2iと接触し、第2の接触層13が磁石6の側面6sと接触する。このため、その空隙率が低く、樹脂32を多く含む各接触層12,13は、接触する各面2i、6sに対して、強固に接着することができる。また、各接触層12,13の間に配置される本体層11にガラス繊維31を多く配置することで、各面2i、6sに接触しない本体層11によって、シート10は、その膨張性を向上させることができる。これにより、シート10は、各接触層12,13を各面2i、6sに強く押し付けることができる。このように、本明細書が開示するロータ2(図1参照)は、シート10の膨張性と、シート10の接着力と、の双方を向上させることができる。
【0037】
以下、図5図6を参照して、シート10の製造方法について説明する。まず、図5を参照して積層工程について説明する。積層工程では、治具40の上面に第2の接触層13が配置された後、その上方に3層の繊維層21、第1の接触層12が、順に積層される。これにより、3層の繊維層21は、第2の接触層13と第1の接触層12との間に位置する。
【0038】
次いで、図6を説明して加熱圧縮工程を説明する。加熱圧縮工程では、第2の接触層13、3層の繊維層21及び第1の接触層12が積層された状態で、圧縮治具42が上方から矢印F1に移動する。圧縮治具42は、第2の接触層13、3層の繊維層21及び第1の接触層12を矢印F1の方向に圧縮する。この際、圧縮治具42及び治具40は、第2の接触層13、3層の繊維層21及び第1の接触層12を加熱する。先に述べたように、各接触層12,13及び繊維層21は、ガラス繊維31と樹脂32とを含む。樹脂32は、熱可塑性であるため、加熱されることにより軟化する。さらに、加熱圧縮工程では、圧縮治具42及び治具40は、樹脂32のガラス転移点を超える温度で加熱しながら、第2の接触層13、3層の繊維層21及び第1の接触層12を圧縮する。このため、加熱圧縮工程では、ガラス繊維31の形状が、変形しやすい。その結果、図6に示されるように、加熱圧縮工程では、各接触層12,13及び繊維層21の厚みが減少する。
【0039】
加熱圧縮工程が終了すると、圧縮治具42及び治具40の加熱が停止され、各接触層12,13及び繊維層21が冷却される。これにより、樹脂32が硬化する。このように、シート10が製造される。この時点では、硬化した樹脂32によって、ガラス繊維31の形状は、変形したまま保持される。すなわち、シート10の厚みは、減少したまま保持される。
【0040】
次いで、図7図9を参照して、ロータ2(図1参照)の製造方法について説明する。初めに、図7を参照して、シート圧着工程について説明する。シート圧着工程では、加熱圧着治具44の上にシート10を配置し、その上方に磁石6、シート10を順に配置する。その結果、磁石6の側面6sと、シート10の第2の接触層13と、が接触する。さらに、加熱圧着治具46によって、シート10及び磁石6を矢印F2の方向に圧縮する。この際、加熱圧着治具44,46は、樹脂32が溶融する温度までシート10及び磁石6を加熱し、その後冷却する。これにより、各接触層12,13と、磁石6の側面6sとが樹脂32によって接着される。
【0041】
次いで、図8を参照して、磁石挿入工程について説明する。磁石挿入工程では、磁石6と、その両側の側面6sに接着されているシート10と、がロータコア2cの孔2hに矢印F3の方向に挿入される。この際、先に述べたように、加熱圧縮工程及び加熱圧着工程においてシート10が加熱されながら圧縮されるため、シート10の厚みは減少している。そのため、図8に示されるように、磁石挿入工程では、シート10の第1の接触層12と、孔2hの内面2iと、の間に間隙d1が生じる。これにより、磁石挿入工程でおいて、シート10が内面2iと干渉しにくい。磁石挿入工程でおいて、厚みが減少した状態のシート10を磁石6に接着して、磁石6とともに孔2hに挿入することで、磁石6の挿入性を向上させることができる。磁石挿入工程では、ロータコア2cを下方から支えるサポート治具48の上面と、磁石6の下面と、が当接するまで、磁石6及びシート10が挿入される。
【0042】
次いで、図9を参照して、膨張工程について説明する。膨張工程では、磁石6及びシート10が孔2hに挿入された状態で、ロータコア2c、磁石6及びシート10を加熱する。この際、ロータコア2c、磁石6及びシート10は、樹脂32のガラス転移点を超える温度で加熱される。これにより、樹脂32が軟化する。その結果、加熱圧縮工程(図7参照)で変形したガラス繊維31の形状が復元する。その結果、シート10の厚みが増加する。すなわち、シート10が膨張する。これにより、シート10は、磁石6の側面6sと孔2hの内面2iとの間の隙間を充填する。その結果、第1の接触層12が、孔2hの内面2iに押し付けられる。さらに、樹脂32は、加熱により溶融した状態で、内面2iに押し付けられる。シート10が膨張した後、ロータコア2c、磁石6及びシート10は、冷却される。これにより、樹脂32が再び硬化し、第1の接触層12と内面2iとが接着される。シート10によって磁石6が孔2hに固定された後、最後にロータコア2cにシャフト4(図1参照)が挿通される、これにより、ロータ2が完成する。
【0043】
上述した実施例の変形例を以下に列挙する。
【0044】
(変形例1)上述したロータ2では、シート10は、第1の接触層12と、第2の接触層13と、を備えている。本変形例では、シート10は、第1の接触層12のみを備えてもよい。その場合、シート圧着工程では、シート10は、磁石6に対して接着剤で接着されてもよい。
【0045】
(変形例2)上述したロータ2では、2枚のシート10を用いて磁石6を孔2hに固定していた。本変形例では、これに代えて、1枚のシート10を用いて磁石6を孔2hに固定してもよい。
【0046】
(変形例3)上述したロータ2では、孔2hは、ロータコア2cを軸線方向に貫通していた。本変形例では、孔2hは、ロータコア2cに設けられる窪みであってもよい。
【0047】
(変形例4)上述したロータ2では、複数の鋼板を積層したロータコア2cを用いてロータ2を製造した。本変形例では、これに代えて、一体で形成されたロータコア2cを用いてもよい。
【0048】
(変形例5)上述したロータ2の製造方法では、シート圧着工程において、磁石6とシート10とを圧着した後、磁石挿入工程でロータコア2cの孔2hに磁石6及びシート10を挿入した本変形例では、これに代えて、磁石6を先に孔2hに挿入し、その後にシート10を磁石6の側面6sと孔2hの内面2iとの間に挿入してもよい。また、別の変形例では、先に一対のシート10を孔2hに挿入し、その後に磁石6を一対のシート10の間に挿入してもよい。
【0049】
(変形例6)上述したロータ2では、シート10は、樹脂32と、ガラス繊維31と、を含む。本変形例では、シート10は、ガラス繊維31に代えて、中和等の化学反応で膨張する材料を含んでもよい。この場合、本体層11は、当該材料を、各接触層12,13よりも多く含んでもよい。さらに、その場合、膨張工程では、加熱によらず、当該材料を膨張させる物質を付加することで、シート10を膨張させてもよい。また、本体層11は、ガラス繊維31に代えて、加熱によって膨張する材質を含んでもよい。
【0050】
(変形例7)上述したロータ2では、シート10の本体層11は、3層の繊維層21で構成される。本変形例では、本体層11は、1層の繊維層21によって構成されてもよいし、2層または4層以上の繊維層21によって構成されてもよい。
【0051】
(変形例8)上述したロータ2では、シート10の各接触層12,13は、ガラス繊維31を含む。本変形例では、各接触層12,13は、ガラス繊維31を含まなくてもよい。その場合、各接触層12,13は、積層された繊維層21の表面に樹脂32を塗布することで形成されてもよい。
【0052】
(変形例9)上述したロータ2では、各接触層12,13の間に、同一の3層の繊維層21が積層されている。本変形例では、3層の繊維層21のうちの中央に位置する繊維層は、他の繊維層21よりもガラス繊維31を多く含んでもよい。これにより、ガラス繊維31の量は、シート10の厚み方向の中央において最も多くなるように徐変し、樹脂32の量は、シート10の厚み方向の表面側において最も多くなるように徐変する。このように、シート10では、ガラス繊維31(すなわち、空隙率)及び樹脂32の量は、シート10の厚み方向で変化してもよい。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0054】
2 :ロータ
2c :ロータコア
2h :孔
2i :内面
4 :シャフト
4h :シャフト孔
4p :突起
6 :磁石
6s :側面
10 :シート
11 :本体層
12 :第1の接触層
13 :第2の接触層
21 :繊維層
31 :ガラス繊維
40 :治具
42 :圧縮治具
44、46 :加熱圧着治具
48 :サポート治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9