(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20241126BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2021098776
(22)【出願日】2021-06-14
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2020128718
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】須原 遼
(72)【発明者】
【氏名】藤下 翔平
(72)【発明者】
【氏名】中島 彰男
(72)【発明者】
【氏名】丹下 聡
(72)【発明者】
【氏名】大場 佑樹
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/158818(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/206003(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を有し、下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体[A]と、
下記式(2)で表される部分構造を有する重合体[B]と、
下記の部分構造Xを主鎖に有し、下記式(1)で表される部分構造及び下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体[C]と、
を含有する、液晶配向剤
(ただし、下記式(DA-2R)で表される化合物、下記式(DA-3R)で表される化合物及び下記式(DA-4R)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分を用いて得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、下記式(DA-9R)で表されるジアミンを含有するジアミン成分を用いて得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、下記式(DA-10R)で表される化合物及び下記式(DA-11R)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分を用いて得られるポリアミック酸と、を含有するものを除く。)。
部分構造X:-(CH
2)
a-で表される構造(ただし、aは2~20の整数)、又は、-(CH
2)
a-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR
7-、-O-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
8-CO-NR
9-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造(ただし、R
7は、水素原子又はアルキル基である。R
8及びR
9は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であるか、又はR
8とR
9とが互いに合わせられてR
8が結合する窒素原子、R
9が結合する窒素原子及び-CO-と共に構成される環構造を表す。部分構造Xにおいて、-NR
7-、-O-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
8-CO-NR
9-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない)
【化1】
(式(1)中、R
1は保護基である。「*」は結合手であることを表す。)
【化2】
(式(2)中、A
1及びA
4は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。B
1は、単結合、-NR
4-、-O-又は2価の芳香族複素環基である。R
4は、水素原子又は1価の有機基である。B
1が単結合である場合、A
2は2価の芳香環基であり、A
3は単結合又は2価の芳香環基である。B
1が2価の芳香族複素環基である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に単結合又は2価の芳香環基である。B
1が-NR
4-又は-O-である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に2価の芳香環基であるか、又は、A
2が有する芳香環とA
3が有する芳香環とが単結合又は鎖状構造によって連結されて、-NR
4-又は-O-と共に構成される窒素又は酸素含有縮合環構造を表す。「*」は結合手であることを表す。)
【化8】
【請求項2】
前記重合体[A]、前記重合体[B]及び前記重合体[C]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体[C]は、下記式(3-1)で表されるジアミンに由来する構造単位を含む、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(3-1)中、A
5は、2価の芳香環基である。A
6は、単結合又は2価の芳香環基である。Y
2は、前記部分構造Xを有する2価の基である。R
5は、水素原子又は1価の有機基である。)
【請求項4】
前記部分構造Xは、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-及び-NR
8-CO-NR
9-よりなる群から選択される少なくとも1種の基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体[A]は、下記式(1-1)で表されるジアミンに由来する構造単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化4】
(式(1-1)中、A
7及びA
8は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。Y
1は2価の有機基である。rは0又は1である。ただし、rが1の場合、A
7、A
8及びY
1のうち少なくともいずれかは、上記式(1)で表される部分構造を有する。rが0の場合、A
7は、上記式(1)で表される部分構造を有する。)
【請求項6】
前記重合体[A]は、下記の部分構造Yを主鎖に有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
部分構造Y:-(CH
2)
b-で表される構造(ただし、bは2~20の整数)、又は、-(CH
2)
b-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR
10-、-O-、-COO-、-NR
10-CO-、-NR
10-COO-、-NR
10-CO-NR
11-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造(ただし、R
10及びR
11は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。部分構造Yにおいて、-NR
10-、-O-、-COO-、-NR
10-CO-、-NR
10-COO-、-NR
10-CO-NR
11-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない)
【請求項7】
前記重合体[B]は、下記式(2-1)で表されるジアミンに由来する構造単位を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化5】
(式(2-1)中、A
1~A
4、B
1、R
2及びR
3は、それぞれ上記式(2)と同義である。)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項9】
下記式(1A)で表される部分構造を重合に関与する基とは異なる部分に含む構造単位を有し、下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体と、
下記式(2)で表される部分構造を有する重合体と、
下記の部分構造Xを主鎖に有し、下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体と、
を含有する、液晶配向膜
(ただし、下記式(DA-2R)で表される化合物、下記式(DA-3R)で表される化合物及び下記式(DA-4R)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分を用いて得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、下記式(DA-9R)で表されるジアミンを含有するジアミン成分を用いて得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、下記式(DA-10R)で表される化合物及び下記式(DA-11R)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分を用いて得られるポリアミック酸と、を含有するものを除く。)。
部分構造X:-(CH
2)
a-で表される構造(ただし、aは2~20の整数)、又は、-(CH
2)
a-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR
7-、-O-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
8-CO-NR
9-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造(ただし、R
7は、水素原子又はアルキル基である。R
8及びR
9は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であるか、又はR
8とR
9とが互いに合わせられてR
8が結合する窒素原子、R
9が結合する窒素原子及び-CO-と共に構成される環構造を表す。部分構造Xにおいて、-NR
7-、-O-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
8-CO-NR
9-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない)
【化6】
(式(1A)中、「*」は結合手であることを表す。)
【化7】
(式(2)中、A
1及びA
4は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。B
1は、単結合、-NR
4-、-O-又は2価の芳香族複素環基である。R
4は、水素原子又は1価の有機基である。B
1が単結合である場合、A
2は2価の芳香環基であり、A
3は単結合又は2価の芳香環基である。B
1が2価の芳香族複素環基である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に単結合又は2価の芳香環基である。B
1が-NR
4-又は-O-である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に2価の芳香環基であるか、又は、A
2が有する芳香環とA
3が有する芳香環とが単結合又は鎖状構造によって連結されて、-NR
4-又は-O-と共に構成される窒素又は酸素含有縮合環構造を表す。「*」は結合手であることを表す。)
【化9】
【請求項10】
請求項8又は9に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子の液晶材料としては、VA駆動方式やMVA駆動方式等の液晶素子ではネガ型液晶が使用され、TN型やIPS(In-Plane Switching)駆動方式、FFS(Fringe Field Switching)駆動方式等の液晶素子ではポジ型液晶が使用されている。また近年では、液晶素子の更なる高精細化を図るべく、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶素子においてネガ型液晶を使用することも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、液晶素子は、液晶テレビやインフォメーションディスプレイ等といった比較的大型の表示装置から、スマートフォン等の小型の表示装置まで幅広い用途に適用されている。こうした液晶素子の多用途化に伴い、液晶素子の更なる高品質化が求められている。そこで従来、含窒素メタアリーレン構造を有する重合体を液晶配向剤に含有させ、これにより抵抗値が低く、透明性が高い液晶配向膜を得るとともに、蓄積電荷に起因する焼き付き(DC残像)が少ない液晶素子を得ることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
スマートフォンやタブレットPC等に代表されるタッチパネル式の表示装置において、タッチパネルの稼働面積をより広く、かつ表示装置の小型化を両立させるために狭額縁化を図ることが行われている。狭額縁化を図る方法の1つとしては、基材面全体に液晶配向膜を形成した後、シール剤を液晶配向膜上に塗布して基材同士を貼り合わせる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/152928号
【文献】国際公開第2019/093037号
【文献】特開2013-109154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶素子の狭額縁化を図ること等を目的として液晶配向膜上にシール剤を配置した場合、シール剤部分で液晶配向膜の基材からの剥がれが生じやすい傾向がある。このため、液晶素子の信頼性が低下することが懸念される。
【0007】
また、特許文献2の技術のように、メタアリーレン構造を重合体に導入することによって液晶素子の残像低減を図ろうとした場合、メタアリーレン構造由来の芳香環を多く含む構造によって液晶配向膜が硬く脆くなり、液晶配向膜と基材との密着性(特に、スペーサー部位での基材との密着性)が低下することが懸念される。その一方で、残像の低減、基材との密着性、シール剤との密着性といった複数の特性を同時に満たすようにすることは困難であり、液晶配向剤においては更なる改善の余地がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、シール剤及び基材との密着性に優れた液晶配向膜を形成することができ、かつ残像が生じにくい液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、構造が異なる複数の重合体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の手段が提供される。
【0010】
<1> 下記式(1)で表される部分構造を有し、下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体[A]と、下記式(2)で表される部分構造を有する重合体[B]と、下記の部分構造Xを主鎖に有し、下記式(1)で表される部分構造及び下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体[C]と、を含有する、液晶配向剤。
部分構造X:-(CH
2)
a-で表される構造(ただし、aは2~20の整数)、又は、-(CH
2)
a-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR
7-、-O-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
8-CO-NR
9-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造(ただし、R
7は、水素原子又はアルキル基である。R
8及びR
9は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であるか、又はR
8とR
9とが互いに合わせられてR
8が結合する窒素原子、R
9が結合する窒素原子及び-CO-と共に構成される環構造を表す。-NR
7-、-O-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
8-CO-NR
9-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない)。
【化1】
(式(1)中、R
1は保護基である。「*」は結合手であることを表す。)
【化2】
(式(2)中、A
1及びA
4は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。B
1は、単結合、-NR
4-、-O-又は2価の芳香族複素環基である。R
4は、水素原子又は1価の有機基である。B
1が単結合である場合、A
2は2価の芳香環基であり、A
3は単結合又は2価の芳香環基である。B
1が2価の芳香族複素環基である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に単結合又は2価の芳香環基である。B
1が-NR
4-又は-O-である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に2価の芳香環基であるか、又は、A
2が有する芳香環とA
3が有する芳香環とが単結合又は鎖状構造によって連結されて、-NR
4-又は-O-と共に構成される窒素又は酸素含有縮合環構造を表す。「*」は結合手であることを表す。)
【0011】
<2> 上記<1>の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
<3> 下記式(1A)で表される部分構造を重合に関与する基とは異なる部分に含む構造単位を有し、下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体と、下記式(2)で表される部分構造を有する重合体と、下記の部分構造Xを主鎖に有し、下記式(2)で表される部分構造を有しない重合体と、を含有する、液晶配向膜。
【化3】
(式(1A)中、「*」は結合手であることを表す。)
<4> 上記<2>又は<3>の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶配向剤によれば、シール剤及び基材との密着性に優れた液晶配向膜を形成することができ、かつ残像が生じにくい液晶素子を得ることができる。特に、本発明の液晶配向剤によれば、スペーサーの配置部分における基材と液晶配向膜との密着性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の液晶配向剤は、モノマー組成が互いに異なる3種類の重合体である重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]を含有する。以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0014】
なお、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「芳香環」とは、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。「構造単位」とは、主鎖構造を主として構成する単位であって、少なくとも主鎖構造中に2個以上含まれる単位をいう。各成分及び各化合物については、特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。「保護基」とは、反応性の高い特性基(下記式(1)では-NH-)を一時的に不活性な官能基に変換しておく原子団をいう。
【0015】
<重合体[A]>
重合体[A]は、下記式(1)で表される部分構造を有する重合体である。
【化4】
(式(1)中、R
1は保護基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0016】
上記式(1)において、R1の保護基は、熱により脱離する1価の基であることが好ましく、例えばカルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点で、R1はカルバメート系保護基であることが好ましい。保護基の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基(Alloc基)、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基、9-フルオロニルメチルオキシカルボニル基(F-moc基)等が挙げられる。熱による脱離性に優れ、シール剤に対する密着性の改善効果を高くできる点、及び脱保護した部分の膜中の残存量を少なくできる点で、これらの中でも特に、tert-ブトキシカルボニル基が好ましい。
【0017】
なお、上記式(1)において、2個の「*」のうち一方は水素原子に結合していてもよい。すなわち、上記式(1)中の2個の「*」のうち、一方は水素原子に結合し、他方は炭素原子に結合していてもよい。あるいは、2個の「*」の両方が炭素原子に結合していてもよい。
【0018】
重合体[A]は、上記式(1)で表される部分構造と共に、下記の部分構造Yを有していることが好ましい。重合体[A]が部分構造Yを更に有する場合、DC残像に加え、液晶の配向方向が初期配向からずれてくることに起因するAC残像の発生を抑制することができる点で好適である。
部分構造Y:-(CH2)b-で表される構造(ただし、bは2~20の整数)、又は、-(CH2)b-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR10-、-O-、-COO-、-NR10-CO-、-NR10-COO-、-NR10-CO-NR11-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造(ただし、R10及びR11は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。部分構造Yにおいて、-NR10-、-O-、-COO-、-NR10-CO-、-NR10-COO-、-NR10-CO-NR11-及び窒素含有芳香族複素環基は互いに隣接していない)。
【0019】
液晶素子におけるAC残像低減の改善効果を高くできる点で、部分構造Y中のbは2以上であることが好ましく、部分構造Y中に炭素数2以上の直鎖状アルカンジイル基を含むことがより好ましい。また、膜強度の低下を抑制する観点から、bは、好ましくは12以下であり、より好ましくは10以下である。
R10、R11が1価の有機基である場合、当該1価の有機基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基又は保護基であることが好ましい。1価の炭化水素基は、炭素数1~3のアルキル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。保護基の例示及び好ましい例は、R1の上記説明を援用することができる。
上記のうち、R10、R11は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基であることが好ましい。
窒素含有非芳香族複素環基としては、ピペリジン-1,4-ジイル基、ピペラジン-1,4-ジイル基等が挙げられる。
【0020】
重合体[A]は、上記式(1)で表される部分構造を部分構造Yとは別に有していてもよいし、上記式(1)で表される部分構造を部分構造Y中に有していてもよい。上記式(1)で表される部分構造を部分構造Y中に有する場合、重合体[A]は、部分構造Yとして、-(CH2)b-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR10-、-NR10-CO-、-NR10-COO-、及び-NR10-CO-NR11-よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造であって、かつR10及びR11のうち少なくとも一方が保護基である構造を有する。部分構造Yが保護基を有する構造である場合、部分構造Yを有するモノマーを重合体[A]の製造の際に使用することよって、シール剤に対する密着性改善とAC残像低減とを同時に改善できる点で好ましい。液晶素子のAC残像低減を改善する効果を高くできる点で、重合体[A]は部分構造Yを主鎖に有していることが好ましい。重合体[A]は、重合体[B]が有する、下記式(2)で表される部分構造を有していない。
【0021】
なお、本明細書において、液晶配向剤に含まれる複数種の重合体のうち少なくとも1種の重合体が有している部分構造(以下、「特定構造」という)を別の重合体が「有しない」とは、別の重合体が、本発明の効果を損なわない範囲において、その特定構造を有することは許容される意味である。別の重合体が特定構造を有しない場合、別の重合体における特定構造の含有量は、別の重合体が有する全構造単位に対して、好ましくは1モル%以下であり、より好ましくは0.5モル%以下であり、更に好ましくは0.1モル以下である(重合体[B]及び重合体[C]についても同じ)。
【0022】
重合体[A]の主鎖は特に限定されないが、液晶との親和性及び機械的強度が高く、かつ信頼性の高い液晶配向膜を形成できる点、上記式(1)で表される部分構造を重合体中に導入しやすい点で、重合体[A]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
重合体[A]を製造する方法は特に限定されず、有機化学の定法に従って行うことができる。具体的には、例えば、上記式(1)で表される部分構造を有するモノマーを用いて重合する方法;重合体末端と、上記式(1)で表される部分構造を有する化合物とを反応させて、上記式(1)で表される部分構造を重合体末端に導入する方法、等が挙げられる。これらのうち、液晶配向膜とシール剤との密着性の改善効果をより高くできる点で、上記式(1)で表される部分構造を有するモノマーを用いた重合により重合体[A]を製造することが好ましい。すなわち、重合体[A]は、上記式(1)で表される部分構造を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体であることが好ましい。
【0024】
なお、「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。例えば、「特定構造を主鎖に有する」とは、その特定構造が主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。
【0025】
(ポリアミック酸)
重合体[A]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸[A]」ともいう)は、モノマーの選択の自由度が高く、上記式(1)で表される部分構造を導入しやすい点で、テトラカルボン酸二無水物と、上記式(1)で表される部分構造を有するジアミン(以下、「特定ジアミン(A)」ともいう)を含むジアミン化合物と、を反応させる方法により製造することが好ましい。
【0026】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0027】
ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、溶剤に対する溶解性が高く、低残像特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。
【0028】
・ジアミン化合物
重合体[A]の合成に使用する特定ジアミン(A)は、下記式(1-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
(式(1-1)中、A
7及びA
8は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。Y
1は2価の有機基である。rは0又は1である。ただし、rが1の場合、A
7、A
8及びY
1のうち少なくともいずれかは、上記式(1)で表される部分構造を有する。rが0の場合、A
7は、上記式(1)で表される部分構造を有する。)
【0029】
上記式(1-1)において、A7及びA8の2価の芳香環基としては、2価の芳香族炭化水素基及び2価の芳香族複素環基が挙げられる。A7及びA8は、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン原子、上記式(1)で表される部分構造を有する1価の基等が挙げられる。
【0030】
A7、A8の好ましい具体例としては、2価の芳香族炭化水素基として、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を;2価の芳香族複素環基として、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を、それぞれ挙げることができる。これらのうち、A7、A8は、置換又は無置換のフェニレン基、ビフェニレン基又はピリジニレン基が好ましい。
【0031】
Y1の2価の有機基としては、-(CH2)b-で表される構造、-(CH2)b-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR10-、-O-、-COO-、-NR10-CO-、-NR10-COO-、-NR10-CO-NR11-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造、-NR10-、-NR10-CO-、-NR10-COO-、-NR10-CO-NR11-等が挙げられる。これらのうち、Y1は、-(CH2)b-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR10-、-NR10-CO-、-NR10-COO-及び-NR10-CO-NR11-よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造であることが好ましい。なお、R10及びR11の両方が保護基とは異なる基である場合、A7及びA8のうち少なくとも一方は、芳香環に導入された置換基として、上記式(1)で表される部分構造を有することが好ましい。なお、Y1は芳香環基を有しない。
rは0又は1であり、1がより好ましい。
【0032】
特定ジアミン(A)の具体例としては、下記式(DA-1)~式(DA-12)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化6】
【化7】
(式中、「Boc」は、tert-ブトキシカルボニル基を表す。「Alloc」は、アリルオキシカルボニル基を表す。「F-moc」は、9-フルオロニルメチルオキシカルボニル基を表す。)
【0033】
特定ジアミン(A)は、上記のうち、上記式(DA-1)~式(DA-10)のそれぞれで表される化合物が好ましく、上記式(DA-1)、式(DA-3)~式(DA-6)及び式(DA-8)のそれぞれで表される化合物がより好ましい。
【0034】
ポリアミック酸[A]の合成に使用するジアミン化合物は、特定ジアミン(A)のみであってもよいが、特定ジアミン(A)とともに、特定ジアミン(A)とは異なるジアミン(以下、「他のジアミン(A)」ともいう)を使用してもよい。他のジアミン(A)としては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。他のジアミン(A)の具体例としては、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、6,6’-(ペンタメチレンジオキシ)ビス(3-アミノピリジン)、4’-(2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ)-[1,1’-ビフェニル]-4-アミン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等といった、部分構造Yを主鎖に有するジアミン化合物;
o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、2,5-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,5-ジアミノ-N,N-ビス(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド等といった、部分構造Yを主鎖に有しないジアミン化合物等が挙げられる。
【0035】
ポリアミック酸[A]の合成に際し、特定ジアミン(A)の使用量は、シール剤との密着性の改善効果を十分に得る観点から、ポリアミック酸[A]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、25モル%以上であることが更に好ましく、35モル%以上であることが特に好ましい。
また、部分構造Yを有するジアミンの使用量(ただし、特定ジアミン(A)が部分構造Yを有する場合には、特定ジアミン(A)と、他のジアミン(A)のうち部分構造Yを主鎖に有するジアミン化合物との合計量)は、AC残像低減の改善効果を十分に得る観点から、ポリアミック酸[A]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることが更に好ましく、40モル%以上であることが特に好ましい。
【0036】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸[A]は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0037】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0038】
以上のようにして、ポリアミック酸[A]を溶解してなる重合体溶液が得られる。この重合体溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、重合体溶液中に含まれるポリアミック酸[A]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0039】
(ポリアミック酸エステル)
重合体[A]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]ポリアミック酸[A]とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミン(A)を含むジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミン(A)を含むジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。なお、本明細書において「テトラカルボン酸誘導体」とは、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物を含む意味である。
【0040】
(ポリイミド)
重合体[A]がポリイミドである場合、当該ポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸[A]を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミドのイミド化率は、20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0041】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0042】
<重合体[B]>
重合体[B]は、下記式(2)で表される部分構造を有する重合体である。
【化8】
(式(2)中、A
1及びA
4は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。B
1は、単結合、-NR
4-、-O-又は2価の芳香族複素環基である。R
4は、水素原子又は1価の有機基である。B
1が単結合である場合、A
2は2価の芳香環基であり、A
3は単結合又は2価の芳香環基である。B
1が2価の芳香族複素環基である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に単結合又は2価の芳香環基である。B
1が-NR
4-又は-O-である場合、A
2及びA
3は、それぞれ独立に2価の芳香環基であるか、又は、A
2が有する芳香環とA
3が有する芳香環とが単結合又は鎖状構造によって連結されて、-NR
4-又は-O-と共に構成される窒素又は酸素含有縮合環構造を表す。「*」は結合手であることを表す。)
【0043】
上記式(2)において、A1及びA4の2価の芳香環基としては、2価の芳香族炭化水素基及び2価の芳香族複素環基が挙げられる。A1及びA4は、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。A1、A4の好ましい具体例としては、2価の芳香族炭化水素基として、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を;2価の芳香族複素環基として、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を、それぞれ挙げることができる。A1及びA4は、これらのうち、フェニレン基、ビフェニレン基又はピリジニレン基が好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
【0044】
R2及びR3について、1価の有機基は、炭素数1~10の1価の炭化水素基又は保護基であることが好ましい。1価の炭化水素基は、炭素数1~3のアルキル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。保護基の例示及び好ましい例は、R1の上記説明を援用することができる。
R2及びR3は、これらのうち、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0045】
B1は、単結合、-NR4-、-O-又は2価の芳香族複素環基である。2価の芳香族複素環基としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環から任意の2個の水素原子を取り除いてなる基;フラン環から任意の2個の水素原子を取り除いてなる基;チオフェン環から任意の2個の水素原子を取り除いてなる基等が挙げられる。これらのうち、ピロール環、フラン環及びチオフェン環から任意の2個の水素原子を取り除いてなる基であることが好ましく、ピロール環から任意の2個の水素原子を取り除いてなる基であることがより好ましい。
【0046】
R4の1価の有機基は、炭素数1~3のアルキル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0047】
B1が単結合又は2価の芳香族複素環基である場合、A2、A3はそれぞれ2価の芳香環基である。当該2価の芳香環基の例示及び好ましい例については、A1及びA4の2価の芳香環基の説明を援用することができる。
【0048】
B1が-NR4-又は-O-である場合、A2及びA3の2価の芳香環基としては、A1及びA4の2価の芳香環基の説明を援用することができる。A2及びA3が、A2が有する芳香環とA3が有する芳香環とが単結合又は鎖状構造(例えば、エチレン基)によって連結されて、-NR4-と共に構成される窒素含有縮合環構造を表す場合、当該縮合環構造としては、カルバゾール構造、9-メチルカルバゾール構造、9-エチルカルバゾール構造等が挙げられる。A2及びA3が、A2が有する芳香環とA3が有する芳香環とが単結合又は鎖状構造(例えば、エチレン基)によって連結されて、-O-と共に構成される酸素含有縮合環構造を表す場合、当該縮合環構造としては、ジベンゾフラン構造等が挙げられる。
【0049】
上記式(2)で表される部分構造は、芳香環(芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む)を、合計3個以上有し、4個以上有することが特に好ましい。上記式(2)で表される部分構造が芳香環を合計4個以上含む場合、共役構造が長くなることによって残留電荷の緩和がより速くなり、残像(特にDC残像)を十分に低減できる点で好適である。これらの中でも、上記式(2)で表される部分構造がビフェニル構造を有していることが特に好ましい。
【0050】
重合体[B]の主鎖は特に限定されず、重合体[A]の主鎖等に応じて適宜選択することができる。重合体[A]がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、重合体[A]との親和性を高くできる点で、重合体[B]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0051】
(ポリアミック酸)
重合体[B]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸[B]」ともいう)は、上記式(2)で表される部分構造を重合体中に導入しやすい点で、テトラカルボン酸二無水物と、上記式(2)で表される部分構造を有するジアミン(以下、「特定ジアミン(B)」ともいう)を含むジアミン化合物と、を反応させることにより得られる重合体であることが好ましい。ポリアミック酸[B]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸に無水物として例示した化合物等が挙げられる。ポリアミック酸[B]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用量の説明については、ポリアミック酸[A]の説明を援用することができる。
【0052】
重合体[B]の合成に使用する特定ジアミン(B)は、下記式(2-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化9】
(式(2-1)中、A
1~A
4、B
1、R
2及びR
3は、それぞれ上記式(2)と同義である。)
【0053】
特定ジアミン(B)の具体例としては、下記式(DA-19)~式(DA-27)、式(DA-42)及び式(DA-43)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化10】
【0054】
【0055】
特定ジアミン(B)は、上記のうち、上記式(DA-19)~式(DA-25)及び式(DA-42)のそれぞれで表される化合物が好ましく、上記式(DA-19)~式(DA-23)及び式(DA-42)のそれぞれで表される化合物がより好ましく、上記式(DA-19)~式(DA-21)のそれぞれで表される化合物が更に好ましい。
【0056】
ポリアミック酸[B]の合成に使用するジアミン化合物は、特定ジアミン(B)のみであってもよいが、特定ジアミン(B)とともに、特定ジアミン(B)とは異なるジアミン(以下、「他のジアミン(B)」ともいう)を使用してもよい。他のジアミン(B)としては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン等が挙げられる。他のジアミン(B)の具体例としては、重合体[A]の説明で例示した、部分構造Yを主鎖に有しないジアミン化合物等を挙げることができる。重合体[B]は、部分構造Y及び以下で説明する部分構造Xのいずれも有しないことが好ましい。
【0057】
重合体[B]の合成に際し、特定ジアミン(B)の使用量は、残像(特にDC残像)の低減を十分に図ることができる点で、重合体[B]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。また、特定ジアミン(B)の使用量は、重合体[B]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、100モル%以下の範囲で任意に設定することができる。液晶配向剤の基材に対する塗布性をより良好にできる点で、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましい。
【0058】
なお、重合体[B]としてのポリアミック酸[B]、ポリアミック酸エステル及びポリイミドについても、重合体[A]と同様にして製造することができる。ポリアミック酸[B]等の各重合体の合成方法における各種条件等については、上述した重合体[A]の説明を援用することができる。
【0059】
<重合体[C]>
重合体[C]は、下記の部分構造Xを主鎖に有する重合体である。重合体[A]及び重合体[B]と共に、部分構造Xを有する重合体[C]を液晶配向剤に含有させることにより、シール剤に対する密着性向上と、残像(AC残像及びDC残像)の低減とを図りながら、液晶配向膜と基材との密着性(特に、スペーサー部位での基材との密着性)を改善することができる点で好適である。
部分構造X:-(CH2)a-で表される構造(ただし、aは2~20の整数)、又は、-(CH2)a-で表される構造において任意のメチレン基が、-NR7-、-O-、-COO-、-NR7-CO-、-NR7-COO-、-NR8-CO-NR9-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種の基に置き換えられてなる構造(ただし、R7は、水素原子又はアルキル基である。R8及びR9は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であるか、又はR8とR9とが互いに合わせられてR8が結合する窒素原子、R9が結合する窒素原子及び-CO-と共に構成される環構造を表す。部分構造Xにおいて、-NR7-、-O-、-COO-、-NR7-CO-、-NR7-COO-、-NR8-CO-NR9-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない)。
【0060】
部分構造Xにおいて、スペーサーの配置部分における基材と液晶配向膜との密着性の改善効果が高い点で、部分構造X中に炭素数2以上の直鎖状アルカンジイル基を含むことが好ましい。また、膜強度の低下を抑制する観点から、aは、好ましくは12以下であり、より好ましくは10以下である。
【0061】
R7、R8、R9は、水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。R8とR9とが互いに合わせられて構成される環構造としては、2-オキソ-4-イミダゾリジノン-1,3-ジイル基等が挙げられる。窒素含有非芳香族複素環基としては、ピペリジン-1,4-ジイル基、ピペラジン-1,4-ジイル基等が挙げられる。なお、重合体[C]は上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造を有していない。
【0062】
部分構造Xは、上記のうち、-COO-、-NR7-CO-、-NR7-COO-及び-NR8-CO-NR9-よりなる群から選択される少なくとも1種の基を有する構造であることが好ましい。部分構造Xが、こうした水素結合性官能基を有することで重合体[A]と層分離しやすくなる傾向があり、液晶配向膜と基材との密着性をより向上させることができる点で好適である。特に、部分構造Xは、-COO-、-NR7-CO-、-NR7-COO-及び-NR8-CO-NR9-よりなる群から選択される少なくとも1種の基と、炭素数2以上の直鎖状アルカンジイル基とを含むことが、基材に対する密着性の改善効果を高くでき好ましい。
【0063】
重合体[C]の主鎖は特に限定されないが、重合体[A]がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、重合体[A]との親和性を高くできる点、及び重合体の主鎖に部分構造Xを導入しやすい点で、重合体[C]についても同じく、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
重合体[C]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸[C」ともいう)は、部分構造Xを重合体の主鎖中に導入しやすい点で、テトラカルボン酸二無水物と、部分構造Xを有するジアミン(以下、「特定ジアミン(C)」ともいう)を含むジアミン化合物と、を反応させることにより得られる重合体であることが好ましい。ポリアミック酸[C]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸に無水物として例示した化合物等が挙げられる。ポリアミック酸[C]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用量の説明については、ポリアミック酸[A]の説明を援用することができる。
【0065】
特定ジアミン(C)は、部分構造Xを有するジアミン化合物であれば特に限定されず、例えば、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン等が挙げられる。特定ジアミン(C)は、下記式(3-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化12】
(式(3-1)中、A
5は、2価の芳香環基である。A
6は、単結合又は2価の芳香環基である。Y
2は、部分構造Xを有する2価の基である。R
5は、水素原子又は1価の有機基である。)
【0066】
上記式(3-1)において、A5、A6の2価の芳香環基としては、2価の芳香族炭化水素基及び2価の芳香族複素環基が挙げられる。A5、A6の2価の芳香環基の具体例及び好ましい例については、上記式(2)中のA1及びA4の2価の芳香環基の説明を援用することができる。
【0067】
R5の1価の有機基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基が挙げられる。R5は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0068】
Y2は、部分構造Xを有する2価の基であり、例えば、-(CH2)a-や、-(CH2)a-で表される構造において任意のメチレン基が-NR7-、-O-、-COO-、-NR7-CO-、-NR7-COO-、-NR8-CO-NR9-及び窒素含有非芳香族複素環基よりなる群から選択される少なくとも1種に置き換えられてなる2価の基(以下、「ヘテロ原子含有基(c)」ともいう)、-(CH2)a-及びヘテロ原子含有基(c)のうち少なくとも1種が1個以上と、シクロアルキレン基(好ましくはシクロへキシレン基)とが結合してなる2価の基等が挙げられる。なお、Y2は芳香環基を有しない。
【0069】
特定ジアミン(C)の具体例としては、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;芳香族ジアミンとして、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレア、1,3-ビス(4-アミノベンジル)ウレア、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、ジエチレングリコールビス(4-アミノフェニル)エーテル、下記式(DA-32)~式(DA-40)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。
【化13】
【0070】
特定ジアミン(C)は、上記式(DA-32)~式(DA-40)のそれぞれで表される化合物のうち、上記式(DA-32)~式(DA-35)のそれぞれで表される化合物が好ましく、上記式(DA-32)~式(DA-34)のそれぞれで表される化合物がより好ましい。
【0071】
ポリアミック酸[C]の合成に使用するジアミン化合物は、特定ジアミン(C)のみであってもよいが、特定ジアミン(C)とともに、特定ジアミン(C)とは異なるジアミン(以下、「他のジアミン(C)」ともいう)を使用してもよい。他のジアミン(C)としては、特定ジアミン(A)~(C)とは異なるジアミンを挙げることができ、例えば、重合体[A]の説明で例示した、部分構造Yを主鎖に有しないジアミン化合物等を挙げることができる。
【0072】
重合体[C]の合成に際し、特定ジアミン(C)の使用量は、基材との密着性を十分に高くする観点から、重合体[C]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることが更に好ましい。また、特定ジアミン(C)の使用量は、重合体[C]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、100モル%以下の範囲で任意に設定することができる。
【0073】
なお、重合体[C]としてのポリアミック酸[C]、ポリアミック酸エステル及びポリイミドについても、重合体[A]と同様にして製造することができる。ポリアミック酸[C]等の各重合体の合成方法における各種条件等については、上述した重合体[A]の説明を援用することができる。
【0074】
液晶配向剤の調製に使用する重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]の各重合体につき、重合体の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0075】
重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]のそれぞれにつき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0076】
液晶配向剤において、重合体[A]の含有量は、シール剤に対する密着性の改善効果を十分に得る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以上であることがより更に好ましい。また、重合体[A]の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0077】
重合体[B]の含有量は、残像(特にDC残像)の低減効果を高くできる点で、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、重合体[B]の含有量は、液晶配向剤の塗布性を高くする観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
【0078】
重合体[C]の含有量は、基材との密着性の改善効果を高める点で、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、重合体[B]の含有量は、液晶配向剤の塗布性を高くする観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましい。
【0079】
ここで、重合体[A]は、-NH-基が保護されることによって疎水化されていることにより、液晶配向剤を基材上に塗布した際には膜表面に偏在しやすいことが考えられる。また、重合体[A]が有する-NR1-については、例えば膜形成時のポストベークによって保護基(R1)が脱離して水素原子に置き換わり、これにより極性官能基が現れると考えられる。このため、重合体[A]を含有する液晶配向剤は、膜形成時には溶剤に対する溶解性が高く、かつ重合体[A]が表層へ偏在しやすいとともに、膜形成後には、保護基の脱離によってシール剤に対する密着性が良好となり、液晶配向膜の表面上にシール剤が形成された場合にも剥がれが生じにくく、信頼性の高い液晶素子を得ることができるものと考えられる。
【0080】
また、液晶素子の更なる高性能化を図るべく、上記式(2)で表される特定の窒素含有共役構造を有する重合体[B]を重合体[A]と共に液晶配向剤に配合することにより、DC残像の低減効果を示すことが考えられる。しかしながら、上記式(2)で表される部分構造は芳香環が多く、形成される液晶配向膜(特に下層部分)の靭性が低下することによって、例えば外力が加わった場合に液晶配向膜が基材から剥がれやすく、液晶配向膜と基材との密着性、特に、スペーサーの配置部分における基材と液晶配向膜との密着性が劣ることが考えられる。
【0081】
これに対し、重合体[A]及び重合体[B]と共に重合体[C]を含有する液晶配向剤とすることにより、シール剤との密着性及びDC残像の低減効果を優れたものとしながら、基材(特にスペーサー部位)との密着性に優れた液晶配向膜を形成することができたものと推測される。
【0082】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]のほか、必要に応じて、重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0083】
(他の重合体)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]とは異なる重合体(以下、「他の重合体」ともいう)を含有していてもよい。他の重合体の主骨格は特に限定されない。他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、又はスチレン-マレイミド系重合体が挙げられる。重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]と併用した場合の液晶との親和性が高く、また液晶素子の信頼性を高くする観点から、他の重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0084】
他の重合体を液晶配向剤に含有させる場合、他の重合体の含有量については、本発明の効果を損なわない範囲において適宜設定することができる。具体的には、他の重合体の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量に対して、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下がより更に好ましい。
【0085】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体[A]、重合体[B]、重合体[C]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0086】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0087】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0088】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすい。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすく、また、液晶配向剤の粘性が適度となり塗布性を良好にできる傾向がある。
【0089】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用する基材が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0090】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基材上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基材上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基材の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜等が挙げられる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。
【0091】
基材への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されず、例えばスピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式法等により行うことができる。
【0092】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。これにより、重合体[A]が有する上記式(1)で表される部分構造から保護基が脱離してなる重合体[A’]、重合体[B]及び重合体[C]を含む膜を基材上に形成することができる。なお、重合体[A’]は、重合に関与する基とは異なる部分に-NH-基を含む構造単位を有する。
【0093】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基材上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能をさらに高めるために該塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0094】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基材面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0095】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/m2であり、より好ましくは500~10,000J/m2である。配向能付与のための光照射後において、基材表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基材を加熱する処理を行ってもよい。
【0096】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基材を2枚準備し、対向配置した2枚の基材間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基材を対向配置し、2枚の基材の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法や、ODF方式による方法等が挙げられる。2枚の基材の間には、面内スペーサーとしてビーズスペーサーや柱状スペーサーが配置され、これによりセルギャップが形成される。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。シール剤を基材上に塗布する際には、液晶配向膜が形成された2枚の基板のうち、少なくとも一方の基材における液晶配向膜の表面上に、例えばスクリーン印刷法により行うことができる。
【0097】
液晶としては、ポジ型及びネガ型のいずれを用いてもよいが、好ましくはネガ型である。ネガ型液晶としては、例えばメルク社製「MLC-6608」、「MLC-6609」、「MLC-6610」、「MLC-7026-100」等が挙げられる。特に、IPS型及びFFS型の液晶素子においてネガ型液晶を用いた場合、電極上部での透過損失を小さくでき、コントラスト向上を図ることができる点で好ましい。また、液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。
【0098】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得る。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0099】
本発明の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワードプロセッサ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に基づき実施形態をより詳しく説明するが、以下の実施例によって本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0101】
以下の例において、重合体の重量平均分子量(Mw)、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、及び重合体溶液の溶液粘度は以下の方法により測定した。以下の実施例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
[重合体の重量平均分子量(Mw)]
重量平均分子量(Mw)は、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:リチウムブロミド及びリン酸含有のN,N-ジメチルホルムアミド溶液
温度:40℃
圧力:68kgf/cm2
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β1/(β2×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、β1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、β2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
【0102】
実施例で用いた化合物の略号は以下の通りである。
(テトラカルボン酸誘導体)
・化合物(AN-1)~化合物(AN-8):下記式(AN-1)~式(AN-8)のそれぞれで表される化合物
【化14】
【0103】
(ジアミン化合物)
・化合物(DA-1)~化合物(DA-12):上記式(DA-1)~式(DA-12)のそれぞれで表される化合物
・化合物(DA-19)~化合物(DA-27)、化合物(DA-42):上記式(DA-19)~式(DA-27)及び式(DA-42)のそれぞれで表される化合物
・化合物(DA-32)~化合物(DA-40):上記式(DA-32)~式(DA-40)のそれぞれで表される化合物
・化合物(DA-13)~化合物(DA-18)、化合物(DA-28)~化合物(DA-31)、化合物(DA-41):下記式(DA-13)~式(DA-18)、式(DA-28)~式(DA-31)及び式(DA-41)のそれぞれで表される化合物
【化15】
【0104】
<重合体の合成>
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1]
化合物(DA-1)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、0.95当量(モル比)の化合物(AN-1)を加え、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は128mPa・sであった。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(これを「重合体(A-1)」とする)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は27000であった。
【0105】
[合成例2~8、11~16、18~53:重合体(A-2)~(A-8)、(A-11)~(A-16)、(A-18)、(A-19)、(B-1)~(B-20)、(C-1)~(C-14)の合成]
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の種類及びモル比をそれぞれ下記表1~表4に記載の通りに変更した以外は合成例1と同様にして、重合体(A-2)~(A-8)、(A-11)~(A-16)、(A-18)、(A-19)、(B-1)~(B-20)、(C-1)~(C-14)をそれぞれ得た。なお、表1~表4中の数値は、酸誘導体(ポリアミック酸の合成ではテトラカルボン酸二無水物)については、合成に使用した酸誘導体の合計量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表し、ジアミン化合物については、合成に使用したジアミン化合物の合計量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表す。
【0106】
[合成例17:重合体(A-17)の合成]
化合物(DA-13)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、0.95当量(モル比)の化合物(AN-1)を加え、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。このポリアミド酸溶液に、0.05当量(モル比)の二炭酸ジ-tert-ブチルを加え、15時間、室温条件下にて撹拌を行った。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。得られた沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、重合末端にBoc基が導入されたポリアミック酸(これを「重合体(A-17)」とする)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は25000であった。
【0107】
2.ポリイミドの合成
[合成例9:重合体(A-9)の合成]
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の種類及びモル比をそれぞれ下記表1に記載の通りに変更した以外は合成例1と同様にして重合を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約85%のポリイミドを15質量%含有する溶液を得た。次いで、このポリイミド溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリイミド(これを「重合体(A-9)」とする)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は33000であった。
【0108】
3.ポリアミック酸エステルの合成
[合成例10:重合体(A-10)の合成]
ジアミン化合物として化合物(DA-5)70モル部、化合物(DA-6)15モル部及び化合物(DA-3)15モル部、塩基としてジアミン化合物の全量に対し2.5当量(モル比)のピリジン、並びに溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加え、溶解させた。この溶液を水冷撹拌しながら、酸誘導体としてジメチル-1,3-ビス(クロロカルボニル)シクロブタン-2,4-カルボキシレート97モル部を添加し、さらに固形分濃度が5質量%となるようにNMPを加え、水冷しながら4時間撹拌した。この溶液を水に注いで重合体を析出させ、吸引濾過により重合体をろ取し、再度水で洗浄したのちメタノールにて3回洗浄し、40℃で減圧乾燥することで、ポリアミック酸エステル(これを「重合体(A-10)」とする)を得た。重合体(A-10)の重量平均分子量(Mw)は29000であった。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
[実施例1]
1.液晶配向剤の調製
合成例1で得た重合体(A-1)を20質量部、合成例26で得た重合体(B-7)を40質量部、及び合成例40で得た重合体(C-3)を40質量部を、NMP、γ-ブチルラクトン(GBL)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BC)、ダイアセトンアルコール(DAA)、及びジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)により希釈して、固形分濃度が4.0質量%、溶剤組成比がNMP:GBL:BC:DAA:DEDG=30:30:20:10:10(質量比)となる溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(R-1)を調製した。
【0114】
2.ラビング法による液晶配向膜の形成
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層され、電極形成面に柱状スペーサーを有するガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とを準備した。この一対の基板のそれぞれの面上に、上記1.で調製した液晶配向剤(R-1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間の加熱(プレベーク)後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmにてラビング処理を行った。ラビング配向処理が施された塗膜を、超純水中で1分間超音波洗浄した後、100℃のオーブンで10分間乾燥を行い、液晶配向膜を形成した。
【0115】
3.FFS型液晶表示素子の製造
上記2.で作製した液晶配向膜を有する一対の基板のうち、一方の基板における液晶配向膜を形成した面の縁に、液晶注入口を残して直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、それぞれの基板のラビング方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に、液晶注入口よりネガ型のネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に偏光板を貼り合わせてFFS型液晶表示素子を製造した。
【0116】
4.シール剤に対する密着性(シール密着性)の評価
上記2.と同様にして、液晶配向剤(R-1)を用いて、液晶配向膜を有する一対の基板を作製した。次に、この一対の基板における配向膜形成面のそれぞれの中心部分に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、配向膜形成面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させてシール剤を形成した。引っ張り試験機を用いて、シール剤が剥離する際の圧力を測定した。2.0Kgf以上の圧力を掛けた際に剥離したものを「優良」、1.0Kgf以上2.0Kgf未満の圧力を掛けた際に剥離したものを「良好」、1.0Kgf未満の圧力で剥離したものを「不良」とした。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0117】
5.AC残像特性の評価
基板の外側両面に偏光板を貼り合わせなかった点以外は上記3.と同様の操作を行い、FFS型液晶セルを作製した。このFFS型液晶セルにつき、交流電圧10Vで72時間駆動した後に、光源と光量検出器の間に偏光子と検光子を配置した装置を使用して、下記数式(2)で表される最小相対透過率(%)を測定した。
最小相対透過率(%)=[(β-B0)/(B100-B0)]×100 …(2)
(数式(2)中、B0は、ブランクでクロスニコル下の光の透過量である。B100は、ブランクでパラニコル下の光の透過量である。βは、クロスニコル下で偏光子と検光子の間に液晶セルを挟み最小となる光透過量である。)
暗状態の黒レベルは液晶セルの最小相対透過率で表され、FFS型液晶セルでは、暗状態での黒レベルが小さいほどコントラストが優れる。最小相対透過率が0.3%未満のものを「優良」、0.3%以上2.0%未満のものを「良好」、2.0%以上のものを「不良」とした。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0118】
6.DC残像特性の評価
上記3.で製造した液晶表示素子につき、AC2.5Vで駆動させて任意の2画素の間の輝度差を0に設定した後、AC2.5Vで駆動させつつ片方の画素のみにDC1Vを20分間印加して電荷を蓄積させた。DC1Vの印加を終了してAC2.5Vでの駆動のみに戻すと、蓄積された電荷によって2画素の間に輝度差が生じた。この輝度差の経時変化を観測することで、残留DC値が減衰する過程の緩和時間を算出した。緩和時間が10秒未満であった場合を「優良」、緩和時間が10秒以上20秒未満であった場合を「良好」、緩和時間が20秒以上であった場合を「不良」と判定した。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0119】
7.基材に対する密着性(スペーサー密着性)の評価
上記3.で製造した液晶表示素子につき、外部応力を付与した後の配向欠陥を観察した。具体的には、5mm径の棒状の圧子を、加重2.0Kgf、回転速度200rpmで10分押し当てた後に、クロスニコル下で画素内の光抜けが生じている配向欠陥箇所の個数をカウントした。液晶配向膜の靭性が高い場合には、液晶表示素子を上部から厚み方向に押圧したときに、液晶配向膜はスペーサーの厚み方向の動きに追従して変形し元に戻るため、液晶配向膜は基材から剥がれにくい。この場合、液晶配向膜の基材に対する密着性は良好であるといえる。これに対し、液晶配向膜の靭性が十分でない場合には、液晶表示素子を上部から厚み方向に押圧したときに液晶配向膜はスペーサーの動きに追従できず、押圧によって液晶配向膜にひび割れ等が生じ基材から剥がれやすくなる。この場合、液晶配向膜の基材に対する密着性は不良であるといえる。そこで、本実施例では、液晶表示素子に外部応力を付与した後の配向欠陥を観察することにより、液晶配向膜の基材との密着性(特に、スペーサー部位での密着性)を評価した。評価基準は、配向欠陥の箇所が0点であった場合を「優良」、配向欠陥の箇所が1点以上5点未満であった場合を「良好」、配向欠陥の箇所が5点以上であった場合を「不良」とした。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0120】
8.インクジェット塗布性の評価
液晶配向剤(R-1)を塗布する基板として、ITOからなる透明電極付きガラス基板を200℃のホットプレート上で1分間加熱し、次いで紫外線/オゾン洗浄を行って透明電極面の水の接触角を10°以下とした直後のものを用いた。上記で調製した液晶配向剤(R-1)を、インクジェット塗布機(芝浦メカトロニクス(株)製)を用いて、上記透明電極付きガラス基板の透明電極面上に塗布した。このときの塗布条件は、2,500回/(ノズル・分)、吐出量250mg/10秒にて2往復(計4回)塗布とした。塗布後、1分間静置した後、80℃にて加熱することによって、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜につき、干渉縞計測ランプ(ナトリウムランプ)照射下、肉眼でムラ及びハジキの数を観察した。ムラ及びハジキの箇所が合わせて0の場合を「優良」とし、ムラ及びハジキの箇所が合わせて1以上3未満の場合を「良好」、ムラ及びハジキの箇所が合わせて3以上の場合を「不良」と判定した。その結果、本実施例の液晶配向剤のインクジェット塗布性は「優良」の評価であった。
【0121】
[実施例2~9、11~19及び比較例1~9]
液晶配向剤の組成を下記表5のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にして液晶表示素子を製造し、各種評価を行った。それらの結果を下記表5に示した。表5中、各重合体の括弧内の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。
【0122】
[実施例10]
液晶配向剤の組成を下記表5のとおりに変更した点、及び液晶配向膜をラビング法に代えて光配向法を用いた点以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製するとともに、液晶表示素子及び液晶セルを製造し、各種評価を行った。光配向法による液晶配向膜の形成は以下の手順で行った。
(光配向法による液晶配向膜の形成)
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層され、電極形成面に柱状スペーサーを有するガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に液晶配向剤をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/m2を基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/m2の範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶セルを製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶セルを用いて、実施例1と同様にして各種評価を行った。
【0123】
【0124】
表5に示すように、実施例1~19は、比較例1~9に比べて、シール密着性、AC残像特性、DC残像特性、スペーサー密着性及び塗布性の各種特性がバランス良く良化された。これに対し、重合体[A]、重合体[B]及び重合体[C]のうちいずれかを含まない比較例1~9は、シール密着性、DC残像特性及びスペーサー密着性のいずれかが「不良」の評価であった。