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特許7593251走行制御システム、走行制御装置、走行制御方法、走行制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】走行制御システム、走行制御装置、走行制御方法、走行制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20241126BHJP
   B60W 30/18 20120101ALI20241126BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021108859
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006318
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 大城
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-203884(JP,A)
【文献】特開2014-001823(JP,A)
【文献】特開2009-106130(JP,A)
【文献】特開2006-226178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ(102)を有し、車両の走行を制御する走行制御システムであって、
前記プロセッサは、
上り勾配路において前記車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得することと、
前記上り勾配路において前記車両を駆動させる駆動力に対して、前記勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定することと、
前記車両の将来経路に関する情報を取得することと、
を実行するように構成され、
前記補正量を設定することは、前記将来経路上における前記上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、前記補正量に対して減少変化を付与することを含み、
前記減少変化を付与することは、前記車両の進行に応じて漸減する変化を付与することを含む走行制御システム。
【請求項2】
前記減少変化を付与することは、前記駆動力の出力に対する前記車両の応答遅れと、前記補正量を漸減させる漸減時間との合算時間に基づき、前記減少変化の開始タイミングを決定することを含む請求項に記載の走行制御システム。
【請求項3】
前記漸減時間は、推定される前記開始タイミングにおける勾配の大きさに基づいて、設定される請求項に記載の走行制御システム。
【請求項4】
前記減少変化を付与することは、前記車両の発進シーンにおいて、前記減少変化の付与を禁止することを含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の走行制御システム。
【請求項5】
前記補正量を設定することは、前記上り勾配路の入口地点への到達タイミングよりも後に、前記補正量の設定を開始することを含む請求項1から請求項のいずれか1項に記載の走行制御システム。
【請求項6】
プロセッサ(102)を有し、車両の走行を制御する走行制御装置であって、
前記プロセッサは、
上り勾配路において前記車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得することと、
前記上り勾配路において前記車両を駆動させる駆動力に対して、前記勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定することと、
前記車両の将来経路に関する情報を取得することと、
を実行するように構成され、
前記補正量を設定することは、前記将来経路上における前記上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、前記補正量に対して減少変化を付与することを含み、
前記減少変化を付与することは、前記車両の進行に応じて漸減する変化を付与することを含む走行制御装置。
【請求項7】
車両の走行を制御するために、プロセッサ(102)により実行される走行制御方法であって、
上り勾配路において前記車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得することと、
前記上り勾配路において前記車両を駆動させる駆動力に対して、前記勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定することと、
前記車両の将来経路に関する情報を取得することと、
を含み、
前記補正量を設定することは、前記将来経路上における前記上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、前記補正量に対して減少変化を付与することを含み、
前記減少変化を付与することは、前記車両の進行に応じて漸減する変化を付与することを含む走行制御方法。
【請求項8】
車両の走行を制御するために記憶媒体(101)に記憶され、プロセッサ(102)に実行させる命令を含む走行制御プログラムであって、
前記命令は、
上り勾配路において前記車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得させることと、
前記上り勾配路において前記車両を駆動させる駆動力に対して、前記勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定させることと、
前記車両の将来経路に関する情報を取得させることと、
を含み、
前記補正量を設定することは、前記将来経路上における前記上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、前記補正量に対して減少変化を付与させることを含み、
前記減少変化を付与させることは、前記車両の進行に応じて漸減する変化を付与させることを含む走行制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の走行を制御する技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ナビ地図の高さ情報から勾配を算出し、それをもとに内界センサから推定した勾配値を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013‐44558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
登坂走行において、勾配値に応じて駆動力に補正を行うことが求められている。しかし、特許文献1の技術では、駆動力の補正に対する車両の応答遅れが考慮されていない。このため、上り勾配路の退出以降に駆動力が補正され、車両が加速してしまう虞がある。この加速により、乗員が不安感を覚え得る。
【0005】
本開示の課題は、乗員の不安感を低減可能な走行制御システムを、提供することにある。本開示の別の課題は、乗員の不安感を低減可能な走行制御装置を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、乗員の不安感を低減可能な走行制御方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、乗員の不安感を低減可能な走行制御プログラムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、プロセッサ(102)を有し、車両の走行を制御する走行制御システムであって、
プロセッサは、
上り勾配路において車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得することと、
上り勾配路において車両を駆動させる駆動力に対して、勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定することと、
車両の将来経路に関する情報を取得することと、
を実行するように構成され、
補正量を設定することは、将来経路上における上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、補正量に対して減少変化を付与することを含み、
減少変化を付与することは、車両の進行に応じて漸減する変化を付与することを含む
【0008】
本開示の第二態様は、プロセッサ(102)を有し、車両の走行を制御する走行制御装置であって、
プロセッサは、
上り勾配路において車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得することと、
上り勾配路において車両を駆動させる駆動力に対して、勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定することと、
車両の将来経路に関する情報を取得することと、
を実行するように構成され、
補正量を設定することは、将来経路上における上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、補正量に対して減少変化を付与することを含み、
減少変化を付与することは、車両の進行に応じて漸減する変化を付与することを含む
【0009】
本開示の第三態様は、車両の走行を制御するために、プロセッサ(102)により実行される走行制御方法であって、
上り勾配路において車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得することと、
上り勾配路において車両を駆動させる駆動力に対して、勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定することと、
車両の将来経路に関する情報を取得することと、
を含み、
補正量を設定することは、将来経路上における上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、補正量に対して減少変化を付与することを含み、
減少変化を付与することは、車両の進行に応じて漸減する変化を付与することを含む
【0010】
本開示の第四態様は、車両の走行を制御するために記憶媒体(101)に記憶され、プロセッサ(102)に実行させる命令を含む走行制御プログラムであって、
命令は、
上り勾配路において車両に作用する勾配抵抗の大きさを取得させることと、
上り勾配路において車両を駆動させる駆動力に対して、勾配抵抗の大きさに基づく補正量を設定させることと、
車両の将来経路に関する情報を取得させることと、
を含み、
補正量を設定することは、将来経路上における上り勾配路の出口地点への到達に推定される推定到達時間よりも前から、補正量に対して減少変化を付与させることを含み、
減少変化を付与させることは、車両の進行に応じて漸減する変化を付与させることを含む
【0011】
これら第一~第四態様によると、上り勾配路の出口地点までの到達時間よりも前から、勾配値に基づく駆動力の補正量に対して、減少変化が付与される。故に、補正量の応答遅れが生じたとしても、出口地点到達以降に出力される補正量は減少された状態となり、補正量に起因する加速は抑制され得る。したがって、乗員の不安感を低減可能となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
図2】第一実施形態による走行制御システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】走行時間経過に伴う各パラメータの変化の一例を示すグラフである。
図4】走行時間経過に伴う各パラメータの変化の一例を示すグラフである。
図5】第一実施形態による走行制御方法を示すフローチャートである。
図6図6における勾配補正トルク算出処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を図面に基づき複数説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことで、重複する説明を省略する場合がある。また、各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。さらに、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0014】
以下、本開示の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0015】
(第一実施形態)
図1に示す第一実施形態の走行制御システム100は、ホスト車両の走行を制御する。ホスト車両を中心とする視点において、ホスト車両は自車両(ego-vehicle)であるともいえる。ホスト車両を中心とする視点において、ターゲット車両は他車両であるともいえ、他の道路ユーザであるともいえる。ターゲット車両は、四輪自動車及び二輪車を含む。
【0016】
ホスト車両においては、運転タスクにおける乗員の手動介入度に応じてレベル分けされる、自動運転モードが与えられる。自動運転モードは、条件付運転自動化、高度運転自動化、又は完全運転自動化といった、作動時のシステムが全ての運転タスクを実行する自律走行制御により、実現されてもよい。自動運転モードは、運転支援、又は部分運転自動化といった、乗員が一部若しくは全ての運転タスクを実行する高度運転支援制御により、実現されてもよい。自動運転モードは、それら自律走行制御と高度運転支援制御とのいずれか一方、組み合わせ、又は切り替えにより実現されてもよい。
【0017】
ホスト車両には、図1,2に示すセンサ系10、地図データベース(以下、「DB」)20、駆動制御系30、及び走行系40が搭載される。センサ系10は、走行制御システム100により利用可能なセンサ情報を、ホスト車両の外界及び内界の検出により取得する。そのためにセンサ系10は、外界センサ11及び内界センサ12を含んで構成されている。
【0018】
外界センサ11は、ホスト車両の周辺環境となる外界から、走行制御システム100により利用可能な外界情報を取得する。外界センサ11は、ホスト車両の外界に存在する物標を検知することで、外界情報を取得してもよい。物標検知タイプの外界センサ11は、例えばカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、及びソナー等のうち、少なくとも一種類である。
【0019】
内界センサ12は、ホスト車両の内部環境となる内界から、走行制御システム100により利用可能な内界情報を取得する。内界センサ12は、ホスト車両の内界において特定の運動物理量を検知することで、内界情報を取得してもよい。物理量検知タイプの内界センサ12は、例えば走行速度センサ、加速度センサ、及びジャイロセンサ等のうち、少なくとも一種類である。内界センサ12は、ホスト車両の内界において乗員の特定状態を検知することで、内界情報を取得してもよい。乗員検知タイプの内界センサ12は、例えばドライバーステータスモニター(登録商標)、生体センサ、着座センサ、アクチュエータセンサ、及び車内機器センサ等のうち、少なくとも一種類である。
【0020】
図DB20は、走行制御システム100により利用可能な地図情報を、記憶する。地図DB20は、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)を含んで構成される。地図DB20は、ホスト車両の自己位置を含む自己状態量を推定するロケータの、データベースであってもよい。地図DB20は、ホスト車両の走行経路をナビゲートするナビゲーションユニットの、データベースであってもよい。地図DB20は、これらのデータベース等のうち複数種類の組み合わせにより、構成されていてもよい。
【0021】
図DB20は、例えば外部センタとの通信等により、最新の地図情報を取得して記憶する。ここで地図情報は、ホスト車両の走行環境を表す情報として、二次元又は三次元にデータ化されている。特に三次元の地図データとしては、高精度地図のデジタルデータが採用されるとよい。地図情報は、例えば道路自体の位置、形状、及び路面状態等のうち、少なくとも一種類を表した道路情報を含んでいてもよい。地図情報は、例えば道路に付属する標識及び区画線の位置並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した標示情報を含んでいてもよい。地図情報は、例えば道路に面する建造物及び信号機の位置並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した構造物情報を含んでいてもよい。
【0022】
駆動制御系30は、ホスト車両の走行系40を駆動する駆動力(駆動トルク)を出力する。駆動制御系30は、走行制御システム100からの指令トルクに基づいて、内燃機関又は駆動用モータに駆動トルクを発揮させる。走行系40は、駆動トルクの伝達により車体を任意の車速にて走行させる機械構成であり、駆動軸及びタイヤ等を含む。
【0023】
走行制御システム100は、例えばLAN(Local Area Network)回線、ワイヤハーネス、内部バス、及び無線通信回線等のうち、少なくとも一種類を介してセンサ系10及び地図DB20に接続されている。走行制御システム100は、少なくとも一つの専用コンピュータを含んで構成されている。
【0024】
走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両の運転制御を統合する、統合ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両の運転制御における運転タスクを判断する、判断ECUであってもよい。走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両の運転制御を監視する、監視ECUであってもよい。走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両の運転制御を評価する、評価ECUであってもよい。
【0025】
走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両の走行経路をナビゲートする、ナビゲーションECUであってもよい。走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両の自己状態量を推定する、ロケータECUであってもよい。走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両の走行アクチュエータを制御する、アクチュエータECUであってもよい。走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、ホスト車両において情報提示系による情報提示を制御する、HCU(HMI(Human Machine Interface) Control Unit)であってもよい。走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、例えばホスト車両との間で通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構成する、ホスト車両以外のコンピュータであってもよい。
【0026】
走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、メモリ101及びプロセッサ102を、少なくとも一つずつ有している。メモリ101は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ102は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、RISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU、DFP(Data Flow Processor)、及びGSP(Graph Streaming Processor)等のうち、少なくとも一種類をコアとして含んでいる。
【0027】
走行制御システム100においてプロセッサ102は、ホスト車両の周辺の道路ユーザについて挙動を予測するためにメモリ101に記憶された、走行制御プログラムに含まれる複数の命令を実行する。これにより走行制御システム100は、ホスト車両の周辺の道路ユーザについて挙動を予測ための機能ブロックを、複数構築する。走行制御システム100において構築される複数の機能ブロックには、図2に示すように目標車速取得ブロック110、フィードバック補償ブロック120、フィードフォワード補償ブロック130、抵抗補正算出ブロック140、経路情報取得ブロック150、勾配情報生成ブロック160、勾配補正算出ブロック170、総補正算出ブロック175及び指令トルク算出ブロック180が含まれている。
【0028】
目標車速取得ブロック110は、ホスト車両が目標軌道に沿って走行するための目標車速を取得する。目標軌道は、「将来経路」の一例である。
【0029】
フィードバック補償ブロック120は、目標車速と内界センサ12にて検出された実車速との差分に基づくフィードバック補償により、目標車速を出力するために必要なフィードフォワード補償トルクを算出する。
【0030】
フィードフォワード補償ブロック130は、目標車速に基づくフィードフォワード補償により、フィードフォワード補償トルクを算出する。
【0031】
抵抗補正算出ブロック140は、後述の勾配抵抗以外の走行抵抗に応じたトルク(走行補正トルク)を算出する。勾配抵抗以外の走行抵抗は、例えば、空気抵抗及び転がり抵抗等を含む。
【0032】
経路情報取得ブロック150は、ホスト車両の将来経路に関する情報(経路情報)を取得する。経路情報は、例えば、自動運転モードにおけるホスト車両の目標軌道に関する目標軌道情報、及び当該目標軌道上の地図情報を含む。
【0033】
勾配情報生成ブロック160は、ホスト車両に作用する勾配抵抗及び勾配値を算出する。勾配情報生成ブロック160は、内界センサ12にて検出された車速及び前後方向加速度に基づいて、勾配抵抗及び勾配値を算出すればよい。
【0034】
勾配補正算出ブロック170は、勾配補正トルクを算出する。勾配補正トルクは、上り勾配路の走行時に、勾配抵抗に応じた駆動トルクの補正量である。勾配補正算出ブロック170は、ホスト車両の重量、勾配値、勾配抵抗、及び補正ゲインに基づいて、勾配補正トルクを算出する。
【0035】
補正ゲインは、勾配補正トルクの大きさを調整するパラメータである。補正ゲインの調整により、勾配補正算出ブロック170は、上り勾配路の出口地点への到達時間よりも前から、勾配補正トルクに対して減少変化を付与する。
【0036】
詳記すると、勾配補正算出ブロック170は、先読み時間TPREDに基づき、勾配補正トルクに減少変化を付与するか否か判断する。勾配補正算出ブロック170は、現在位置から先読み時間後に出口地点に到達すると予測される場合、現在位置から減少変化の付与を開始する。勾配補正算出ブロック170は、時間経過に応じて補正ゲインを漸減するように設定する。これにより、勾配補正トルクは、時間経過に応じて漸減する減少変化が付与されることになる。
【0037】
より具体的には、勾配補正算出ブロック170は、補正ゲインを1から0へと漸減させることで、勾配補正トルクを減少変化付与前の値から0へと漸減させる(図3,4参照)。勾配補正算出ブロック170は、補正ゲインを時間経過に応じて線形に漸減させればよい。勾配補正算出ブロック170は、現在位置から先読み時間後に出口地点に未達であると予測される場合には、補正ゲインを1とすることで、勾配補正トルクに対して減少変化を付与しない。
【0038】
先読み時間TPREDは、補正ゲインが1から0へと減少するまでの減少時間ΔTDECと、駆動トルクの出力遅れ時間ΔTDRVとに基づいて算出される。
【0039】
減少時間ΔTDECは、例えば、勾配補正トルクの減少開始から減少終了までの勾配抵抗値幅と、ジャーク規制のための駆動トルクの変化率制限値とに基づいて定義される。ここで、勾配抵抗値幅をΔRSLOP[N]、変化率制限値をdN/dtLIM[N/s]とすると、減少時間ΔTDECは、以下の数式(1)で表現される。
【0040】
[数1]
ΔTDEC=ΔRSLOP/(dN/dtLIM) ・・・(1)
ここで、勾配補正トルクの減少開始から減少終了までの勾配値幅をΔδ[m/s]、ジャーク規制値をjLIM[m/s]、ホスト車両の重量をMcar[kg]とすると、数式(1)は、以下の数式(2)のように式変形できる。
【0041】
[数2]
ΔTDEC=Mcar・Δδ/(Mcar・jLIM)=Δδ/jLIM ・・・(2)
尚、ジャーク規制値はホスト車両の運転性評価に基づいて予め設定される値である。また、勾配補正トルクの減少終了時点での勾配値は、0m/sとみなせる。したがって、減少時間は、現在位置での勾配値(現在勾配値)δ[m/s]に依存する値として、以下の数式(3)で表現される。
【0042】
[数3]
ΔTDEC=δ/jLIM ・・・(3)
以上により、減少時間ΔTDECは、現在勾配値δに基づいて算出される。減少時間ΔTDECは、「漸減時間」の一例である。
【0043】
出力遅れ時間ΔTDRVは、例えば、駆動制御系30における駆動トルク出力に対するホスト車両の応答遅れ時間を少なくとも含む。さらに、出力遅れ時間ΔTDRVは、駆動トルクを出力させるための指令トルクの演算による遅れ時間(演算遅れ時間)を含む。出力遅れ時間ΔTDRVは、応答遅れ時間と演算遅れ時間との合計時間とされる。出力遅れ時間ΔTDRVは、例えば、実験やシミュレーション等に基づき予め決定された値である。
【0044】
勾配補正算出ブロック170は、先読み時間TPREDを、減少時間ΔTDECと出力遅れ時間ΔTDRVとを加算することで算出すればよい。これにより、先読み時間TPREDは、駆動力の出力に対するホスト車両の応答遅れと、勾配補正トルクを漸減させる減少時間ΔTDECとの合算時間に基づき算出されることになる。勾配補正算出ブロック170は、先読み時間TPRED後において上り勾配路の出口地点に到達しているか否かを、軌道情報、すなわち目標軌道上の勾配値に基づいて予測する。具体的には、勾配補正算出ブロック170は、先読み時間TPRED後のホスト車両の将来位置における勾配値について、到達推定範囲内であると推定される場合に、出口地点に到達していると予測する。到達推定範囲は、勾配値が閾値未満又は閾値以下となる数値範囲である。尚、勾配補正算出ブロック170は、将来位置における勾配値を、地図情報に基づいて推定すればよい。又は、勾配補正算出ブロック170は、将来位置における勾配値を、外界センサ11の検出情報に基づいて推定してもよい。
【0045】
これにより、勾配補正算出ブロック170は、ホスト車両の上り勾配路出口への到達時間よりも前から、勾配補正トルクに対して減少変化を付与できる。以上の処理において、現在位置から先読み時間TPRED後に上り勾配路の出口地点に到達すると予測された場合の先読み時間TPREDが、上り勾配路の出口地点への「推定到達時間」に相当することになる。そして、先読み時間TPRED後に上り勾配路の出口地点に到達すると予測されたタイミングが、減少変化の「開始タイミング」に相当することになる。
【0046】
尚、勾配補正算出ブロック170は、ホスト車両の発進シーンにおいて、補正ゲインの減少開始、ひいては勾配補正トルクの減少変化の付与開始を禁止する(図4参照)。勾配補正算出ブロック170は、例えば、ホスト車両の停車状態から、車速が減少禁止範囲外まで上昇した場合に、発進シーンであると判断すればよい。減少禁止範囲は、車速が閾値以下又は閾値未満となる数値範囲である。
【0047】
尚、勾配補正算出ブロック170は、ホスト車両が平坦路を走行中の場合には、補正ゲインを0に設定する。そして、勾配補正算出ブロック170は、ホスト車両が上り勾配路に進入したと判定した場合には、補正ゲインを1に設定する。勾配補正算出ブロック170は、内界センサ12に基づく勾配値が補正禁止範囲外となった場合に、ホスト車両が上り勾配路に進入したと判定すればよい。ここで、補正禁止範囲は、勾配値が閾値以下又は閾値未満となる数値範囲である。尚、勾配補正算出ブロック170は、この上り勾配路への進入シーンにおいては、駆動トルクの出力遅れを許容する。換言すれば、勾配補正算出ブロック170は、上り勾配路の入口地点への到達タイミングよりも後に勾配補正トルクに対して増加変化を付与する。
【0048】
総補正算出ブロック175は、抵抗補正トルク及び勾配補正トルクを加算することで、走行中の車両に作用する走行抵抗に対する総補正トルクを算出する。
【0049】
指令トルク算出ブロック180は、トルク制御系に対して送信する指令トルクを算出する。例えば、指令トルク算出ブロック180は、フィードバック補償トルク、フィードフォワードトルク、抵抗補正トルク、勾配補正トルクの加算値を、指令トルクとする。
【0050】
ここまで説明した各ブロックの共同により、走行制御システム100がホスト車両の走行を制御する走行制御方法のフロー(以下、走行制御フローという)を、図5,6に従って以下に説明する。本処理フローは、ホスト車両の起動中に繰り返し実行される。尚、本処理フローにおける各「S」は、走行制御プログラムに含まれた複数命令によって実行される複数ステップを、それぞれ意味している。
【0051】
図5のS10では、経路情報取得ブロック150が、経路情報を取得する。続くS20では、勾配情報生成ブロック160が、勾配値、勾配抵抗値を算出する。続くS30では、勾配補正算出ブロック170が、勾配補正トルクを算出する。
【0052】
また、S40では、目標車速取得ブロック110が、目標車速を取得する。続くS50では、抵抗補正算出ブロック140が、他の走行補正トルクを算出する。S30及びS50の処理に続くS60では、総補正トルクを算出する。
【0053】
S40に続くS70では、フィードフォワード補償ブロック130が、目標車速に基づきフィードフォワード補償トルクを算出する。S40に続くS80では、フィードバック補償ブロック120が、目標車速と実車速との差分に基づいて、フィードバック補償トルクを算出する。
【0054】
S60,S70,及びS80の処理の後、S90では、指令トルク算出ブロック180が、指令トルクを算出し、トルク制御系に出力する。
【0055】
次に、S30にて勾配補正算出ブロック170が実行する勾配補正トルクの算出方法について、図6に従って説明する。まず、S31では、内界センサ12に基づく勾配値が補正禁止範囲外であるか否かを判定する。勾配値が補正禁止範囲外でないと判定された場合、本フローは、S32へと移行する。S32では、勾配補正トルクの算出を中断し、勾配補正トルクなしとする。
【0056】
一方で、勾配値が補正禁止範囲外であると判定した場合には、本フローが、S33へと移行する。S33では、現在シーンがホスト車両の発進シーンであるか否かを判定する。発進シーンであると判定した場合には、本フローが後述のS36へと移行する。
【0057】
一方で、S33にて、発進シーンでないと判定した場合には、本フローがS34へと進む。S34では、先読み時間TPREDを算出する。続くS35では、先読み時間TPRED後にホスト車両が上り勾配路の出口地点に到達するか否かを判定する。先読み時間TPRED後にホスト車両が上り勾配路の出口に到達しないと判定した場合には、本フローがS36へと移行する。S36では、補正ゲインを1に設定した状態で、勾配補正トルクを算出する。
【0058】
一方で、S35にて先読み時間後にホスト車両が上り勾配路の出口に到達すると判定した場合には、本フローがS37へと移行する。S37では、補正ゲインに減少設定を設けた状態で、勾配補正トルクを算出する。
【0059】
以上の第一実施形態によれば、上り勾配路の出口地点までの到達時間よりも前から、勾配値に基づく駆動力の補正量に対して、減少変化が付与される。故に、補正量の出力遅れが生じたとしても、出口地点到達以降に出力される補正量は減少された状態となり、補正量に起因する加速は抑制され得る。したがって、乗員の不安感を低減可能となり得る。
【0060】
また、第一実施形態によれば、減少変化を付与することは、時間経過に応じて漸減する変化を付与することを含む。故に、徐々に補正量が抑制されるので、より滑らかな走行制御が可能となり得る。
【0061】
さらに、第一実施形態によれば、減少変化を付与することは、駆動力の出力遅れと、補正量を漸減させる漸減時間との合算時間に基づき、減少変化の開始タイミングを決定することを含む。故に、出口地点の到達タイミングにて補正量がゼロとなるように、減少変化の開始タイミングが決定され得る。
【0062】
加えて、第一実施形態によれば、減少変化を付与することは、車両の発進シーンにおいて減少変化の付与を禁止することを含む。故に、比較的駆動力が必要な坂道発進時において、駆動力の出力が優先され得る。
【0063】
また、第一実施形態によれば、補正量を設定することは、上り勾配路への入口地点への到達タイミングよりも後に、補正量の設定を開始することを含む。故に、上り勾配路への進入シーンにおいては、駆動力の応答遅れが許容され得る。これにより、上り勾配路への進入シーンにおいて駆動力が過剰に大きくなることも抑制され得る。
【0064】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該説明の実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0065】
変形例において、勾配補正算出ブロック170は、ホスト車両の進行に応じて非線形に漸減する減少変化を、勾配補正トルクに付与してもよい。又は、勾配補正算出ブロック170は、勾配補正トルクに対して、所定の値(例えばゼロ)まで一度に減少させる減少変化を付与してもよい。
【0066】
変形例において、走行制御システム100は、手動運転モードにて勾配補正トルクを算出してもよい。この場合、経路情報取得ブロック150は、ナビゲーション装置から経路情報を取得すればよい。又は、経路情報取得ブロック150は、ホスト車両の走行位置、進行方向及び車速等に基づいて、将来経路を推定してもよい。
【0067】
変形例において走行制御システム100を構成する専用コンピュータは、デジタル回路及びアナログ回路のうち、少なくとも一方をプロセッサとして有していてもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリを、有していてもよい。
【0068】
ここまでの説明形態の他、上述の実施形態及び変化例による走行制御システム100は、ホスト車両に搭載の走行制御装置(例えば処理ECU等の処理装置)として、実施されてもよい。また、上述の実施形態及び変化例は、走行制御システム100のプロセッサ102及びメモリ101を少なくとも一つずつ有した半導体装置(例えば半導体チップ等)として、実施されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
100:走行制御システム、101:メモリ(記憶媒体)、102:プロセッサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6