(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】2波長赤外線センサ、及び撮像システム
(51)【国際特許分類】
H01L 31/02 20060101AFI20241126BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20241126BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20241126BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01L31/02 A
G01J1/02 C
G01J1/02 Q
G01J1/02 B
H01L27/144 K
H01L27/146 F
(21)【出願番号】P 2021114733
(22)【出願日】2021-07-12
【審査請求日】2024-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西野 弘師
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 僚
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021846(JP,A)
【文献】特開2020-009860(JP,A)
【文献】特開2021-077804(JP,A)
【文献】米国特許第08847202(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0290865(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104576805(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射側から順に第1コンタクト層、第1ブロック層、第2コンタクト層、第1波長の光に感度を有する第1光吸収層、第2ブロック
層、
前記第1波長よりも長い第2波長の光に感度をもつ第2光吸収層、及び第3コンタクト層を有する画素が、複数配列された受光素子アレイ、
を有し、
前記第1波長の光を検出する少なくとも1つの第1画素と、前記第2波長の光を検出する少なくとも1つの第2画素とで単位ブロックが形成され、前記単位ブロックが前記受光素子アレイ内で繰り返し配置され、
前記第1画素は、前記第3コンタクト層、前記第2光吸収層、前記第2ブロック層、及び前記第1光吸収層を貫通する第1分離溝で分断され、
前記第2画素は前記第3コンタクト層から前記第1コンタクト層に達する第2分離溝で分断されている、
2波長赤外線センサ。
【請求項2】
前記第1ブロック層と前記第2ブロック層は、前記第1光吸収層と前記第2光吸収層に対して伝導帯と価電子帯のいずれか一方に第1ポテンシャル障壁を有し、前記価電子帯と前記伝導帯の他方に前記第1ポテンシャル障壁よりも低い第2ポテンシャル障壁を有し、
前記第2ポテンシャル障壁の側で、前記第1ブロック層と、前記第1コンタクト層及び前記第2コンタクト層との間の電位差は、前記第2ブロック層と、前記第1光吸収層及び前記第2光吸収層との間の電位差よりも大きい、
請求項1に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項3】
前記第1コンタクト層、前記第2コンタクト層、前記第1光吸収層、前記第2光吸収層、及び前記第3コンタクト層は、同じ導電型である、
請求項1または2に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項4】
前記第1コンタクト層と前記第2コンタクト層は同じ導電型であり、前記第1ブロック層は前記第1コンタクト層及び前記第2コンタクト層と逆の導電型である、
請求項1に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項5】
前記第1コンタクト層と前記第2コンタクト層はそれぞれ共通電極に接続され、前記共通電極により前記第1コンタクト層と前記第2コンタクト層は同電位に設定されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項6】
前記第1ブロック層に逆方向バイアスが印加される、
請求項4に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項7】
前記第1画素と前記第2画素に、極性の異なるバイアス電圧が同時に印加される、
請求項1から6のいずれか1項に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項8】
前記第1光吸収層と前記第2光吸収層の少なくとも一方はタイプ2型超格子で形成されている、
請求項1から7のいずれか1項に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項9】
前記受光素子アレイの画素ピッチは、前記第2画素の光学的分解能の大きさ以下である、請求項1から8のいずれか1項に記載の2波長赤外線センサ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の2波長赤外線センサと、
前記2波長赤外線センサの出力に接続される信号処理回路と、
を有し、
前記信号処理回路は、前記第1画素の出力に対して、前記第1画素の周囲の前記第2画素の出力を用いて前記第1画素での第2波長の光の受光量を補間し、前記第1画素における第1波長情報と第2波長情報を生成する、
撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2波長赤外線センサ、及び撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
1画素で異なる波長帯に感度を有する赤外線センサが知られている(たとえば、特許文献1、及び特許文献2参照)。これらの2波長赤外線センサでは、異なる赤外波長に感度を持つ受光層の積層構造を1画素とし、各画素に印加するバイアスの方向を切り替えることで、異なる波長の赤外線応答を検出する。
【0003】
画素アレイの面内で隣接する4つの画素を1単位ブロックとし、単位ブロック中の1つの画素を長波長検出用の画素、他の3つの画素を短波長検出用の画素として用いる赤外線検出器が知られている(たとえば、特許文献3参照)。
【0004】
図1は、公知の赤外線センサの断面構成を示す。断面Aは、短波長(λ
S)用の画素のみを含む行または列の模式図、断面Bは、短波長(λ
S)用の画素と長波長(λ
L)用の画素を交互に含む行または列の模式図である。各画素で、光入射側から順に、下部コンタクト層(B-NCT)、λ
L吸収層、中間コンタクト層(M-CNT)、λ
S吸収層、上部コンタクト層(T-CNT)が、この順で積層されている。
【0005】
中間コンタクト層(M-CNT)と上部コンタクト層(T-CNT)の間に印加されるバイアス電圧により、λS用画素から、λS吸収層に蓄積された電荷が読み出される。中間コンタクト層(M-CNT)と下部コンタクト層(T-CNT)の間に印加されるバイアス電圧により、λL用画素から、λL吸収層に蓄積された電荷が読み出される。この構成により、画素ごとに印加する電圧の方向を時分割で切り替えなくても、λS用画素とλL用画素から同時に検出結果が得られる。ただし、各画素でλLまたはλSのどちらか一方の応答出力しか取り出せないため、欠落した波長の情報は、隣接画素の出力情報に基づく補間処理で補われる。
【0006】
図1の構成では、光入射側にλ
L吸収層が配置されている。λ
L吸収層とλ
S吸収層は、多重量子井戸層で形成されており、それぞれが目的の波長に急峻な吸収ピークを有するように設計されている。λ
L吸収層とλ
S吸収層の吸収ピークが互いに独立しているので、λ
Sの光はλ
L吸収層でほとんど吸収されずにλ
S吸収層に到達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-21032号公報
【文献】特開2018-32663号公報
【文献】特開2020-21846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、2波長赤外線センサの感度向上のために、赤外線吸収効率の高いT2SL(Type-II Super Lattice:タイプ2超格子)を光吸収層に用いる構成が採用されている。T2SLの光吸収層は非常にブロードな応答特性をもつため、λL吸収層とλS吸収層の応答特性が重なり合い、λL吸収層でλSの赤外光が吸収されてしまう。λL吸収層とλS吸収層の積層順序を入れ替えることが考えられるが、単純に積層順序を入れ替えるだけでは、各波長の吸収層から独立した波長情報を読み出すことができない。
【0009】
本開示は、各画素で電荷読み出し用のバイアス電圧の切換えなしに、異なる波長の光に対する検出精度を維持できる波長赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態では、2波長赤外線センサは
光入射側から順に第1コンタクト層、第1ブロック層、第2コンタクト層、第1波長の光に感度を有する第1光吸収層、第2ブロック層、第1波長よりも長い第2波長の光に感度をもつ第2光吸収層、及び第3コンタクト層を有する画素が、複数配列された受光素子アレイ、を有し、
前記第1波長の光を検出する少なくとも1つの第1画素と、前記第2波長の光を検出する少なくとも1つの第2画素とで単位ブロックが形成され、前記単位ブロックが前記受光素子アレイ内で繰り返し配置され、
前記第1画素は、前記第3コンタクト層、前記第2光吸収層、前記第2ブロック層、及び前記第1光吸収層を貫通する第1分離溝で分断され、前記第2画素は前記第3コンタクト層から前記第1コンタクト層に達する第2分離溝で分断されている。
【発明の効果】
【0011】
2波長赤外線センサの各画素でバイアス電圧の切換えなしに、異なる波長の光に対する検出精度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来の2波長赤外線センサの断面模式図である。
【
図2】従来構成の2波長赤外線センサにT2SLを適用するときの課題を説明する図である。
【
図3】
図1の構成でλ
L吸収層とλ
S吸収層を入れ替えたときの構成を示す平面模式図である。
【
図4】
図1の構成でλ
L吸収層とλ
S吸収層を入れ替えたときの構成を示す断面模式図である。
【
図5】実施形態に至る過程で考えられる受光素子アレイの断面模式図である。
【
図6】実施形態の2波長赤外線センサの受光素子アレイの平面模式図である。
【
図7】
図6の受光素子アレイの断面Aと断面Bの模式図である。
【
図8】1画素構成のエネルギーポテンシャル図である。
【
図9】2波長赤外線センサの短波長画素の動作を説明する図である。
【
図10】2波長赤外線センサの長波長画素の動作を説明する図である。
【
図11】実施形態の受光素子アレイの結晶成長構造を示す図である。
【
図14】受光素子アレイの変形例の断面模式図である。
【
図15】2波長赤外線センサを用いた撮像システムの概略ブロック図である。
【
図16】実施形態の2波長信号の補間処理を説明する図である。
【
図17】実施形態の2波長信号の補間処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態に至る過程で考えられる構成とその課題>
図2は、
図1の2波長赤外線センサにT2SLを適用するときに生じる課題を説明する図である。図中の破線は、T2SLで形成された短波長(λ
S)吸収層の赤外線応答特性を示し、実線は、T2SLで形成された長波長(λ
L)吸収層の赤外線応答特性を示す。多重量子井戸層を用いた光吸収層と異なり、T2SLの光吸収層の赤外線応答特性はブロードである。λ
S吸収層の応答特性の大部分は、λ
L吸収層の応答特性と重なっている。そのため、
図1のように光入射側にλ
L吸収層が位置すると、λ
Sの赤外光の多くがλ
L吸収層で吸収される。λ
Sの赤外光は、λ
S吸収層に到達する前にλ
L吸収層で減衰し、λ
S側の検出感度が低下する。
【0014】
まず考えられるのが、
図1の構成で、λ
L吸収層とλ
S吸収層の位置を入れ替えることである。すなわち、光入射側にλ
S吸収層を設け、光入射面から遠い側にλ
L吸収層を配置する。しかし、単にλ
L吸収層とλ
S吸収層の位置を入れ替えるだけでは、各波長の光検出信号を適切に取り出すことができない。
【0015】
図3と
図4は、T2SL構成を採用してλ
L吸収層とλ
S吸収層を入れ替えた構成を示す。
図3は、受光素子アレイの平面模式図、
図4は受光素子アレイの断面模式図である。
図3において、λ
L用画素とλ
S用画素を含む複数の画素が、X-Y面内に並べられている。受光素子アレイのX方向とY方向で互いに隣接する4つの画素により、単位ブロックが形成される。単位ブロックに含まれる4つの画素のうち、1つの画素がλ
L用画素、残りの3つの画素がλ
S用画素である。
【0016】
図4の(A)は、
図3の断面Aでの模式図、
図4の(B)は、
図3の断面Bでの模式図である。
図1と異なり、光入射側にλ
S吸収層が配置されている。λ
S用画素は、λ
L吸収層を有しないため、短波長用の電極EL
λSの高さを、長波長用の電極EL
λLよりも高くして電極面を揃える。
【0017】
λL用画素は、周囲をλS用画素で囲まれている。中間コンタクト層(M-CNT)は画素ごとに分断されており、共通コンタクト層として用いることができない。そこで、下部コンタクト層(B-CNT)を共通コンタクト層として用いる。λS用画素では、個々の電極ELλSを選択してバイアス電圧を印加することで、λS吸収層に蓄積された電荷を読み出すことができる。しかし、λL用画素では、λL吸収層の出力に、λS吸収層の出力が混入し、1つの画素内で混信が生じる。この構成では、λLの入射光量を正しく検出することができない。
【0018】
図5は、実施形態に至る過程で考えられる、さらに別の構成例である。T2SL光吸収層を用いる構成で、λ
L吸収層の出力電流にλ
S吸収層の出力が混入しないように、λ
S吸収層とλ
L吸収層の間にブロック層(BLC)を挿入する。下部コンタクト層(B-CNT)を共通コンタクト層として用い、共通のバイアス電圧(たとえば0V)を印加する。λ
S用画素とλ
L用画素に、互いに極性が反対のバイアス電圧を印加することで、各画素でのバイアス切り替えなしに、λ
S用画素とλ
L用画素を同時に駆動することができる。
【0019】
λS用画素に正のバイアスを印加し、λL用画素に負のバイアスを印加する場合、λS用画素のλS吸収層で発生した光励起キャリアの電子は、電極ELλSから引き出され、正孔は下部電極(B-CNT)に引き出される。このとき、λS用画素のλL吸収層の光励起キャリアである正孔は、ブロック層BLCで遮られる。しかし、λS吸収層から下部電極(B-CNT)に引き出された正孔は、隣接するλL用画素に入り込んで、矢印の方向の電流経路が発生し得る。隣接画素間で、目的外の波長の信号が混信する。
【0020】
このように、T2SLを用いた2波長赤外線センサを、各画素のバイアス切り替えなしに正しく動作させようとすると、画素構造に工夫が必用である。以下で、実施形態の具体的な構成を述べる。同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。
【0021】
<実施形態の構成>
図6は、実施形態の2波長赤外線センサの受光素子アレイ20の平面模式図、
図7は、
図6の断面Aと断面Bの模式図である。実施形態では、T2SLを用いた2波長赤外線センサにおいて、画素内、及び隣接する画素間で、目的外別波長の信号の混入を防止し、バイアス切り替えなしに各波長の光に対する検出感度を維持する。
【0022】
図6に示すように、λ
Sに感度を有するλ
S用画素21と、λ
Lに感度を有するλ
L用画素22が、周期的な配置パターンでX-Y面内に並べられている。隣接する画素の中心間距離、すなわち画素ピッチは、λ
Sとλ
Lの応答波長のうち、λ
Lの光学的分解能の大きさ以下である。これは、後述する補間処理で、λ
L用画素22に集光しきれずに周囲の画素に漏れ拡がるλ
L光の情報を利用するためである。
【0023】
受光素子アレイ20では、少なくとも1つのλ
S用画素21と、少なくとも1つのλ
L用画素22とを含む複数の画素で、単位ブロック25が形成される。
図6では、2×2の4画素で単位ブロック25が形成されているが、この例に限定されない。後述するように隣接する2つの画素で単位ブロック25が形成されてもよいし、3×3個の9個の画素で単位ブロック25が形成されてもよい。
【0024】
単位ブロック25の配列は、受光素子アレイ20のX-Y面内で繰り返される。すべての画素は、λS吸収層とλL吸収層を有しているが、単位ブロック25に含まれるλS用画素21はλSの光を検出し、λL用画素22はλLの光を検出する。各画素で、検出されない波長の赤外線の受光量を、周辺画素の出力値から補間して求めることで、画素ごとに2波長の出力信号を取得する。補間処理の具体例は、後述する。
【0025】
図7の(A)は、
図6の断面Aを示し、
図7の(B)は
図6の断面Bを示す。受光素子アレイ20は、光入射側から順に、第1コンタクト層201、第1ブロック層202、第2コンタクト層203、λ
S吸収層205、第2ブロック層206、λ
L吸収層207、及び、第3コンタクト層209の積層を含む。受光層とコンタクト層は、光励起キャリアのうち、電子と正孔のどちらを信号として取り出すかによって、導電型が設計される。以下では、電子を信号として取り出す構成、すなわち積層にp型導電体を適用する構成を例にとって説明する。この場合、第1ブロック層202と第2ブロック層206は、p型、またはi型のT2SLで形成されてもよい。
【0026】
断面Aは、λS用画素21だけを含む。各λS用画素21は、浅い分離溝27で互いに分離されている。分離溝27は、第3コンタクト層209の表面から、第2コンタクト層203に達している。λS用画素21にとって、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203を、共通コンタクト層として用いることができる。
【0027】
断面Bは、λS用画素21とλL用画素22を交互に含む。λL用画素22は、深い分離溝28で分離されている。分離溝28は、第3コンタクト層209の表面から、第1コンタクト層201に達している。λL用画素22にとって、第1コンタクト層201を共通コンタクト層として用いることができる。
【0028】
第3コンタクト層209は、オーミック電極212、及び下地電極213を介して、個々の突起電極41,及び42に電気的に接続されている。図示の簡略化のため、詳細な構成は省略されているが、電極部分を除いて、各画素の積層構造が保護膜に覆われていてもよい。
【0029】
便宜上、λS用画素21に設けられる個別電極を突起電極41、λL用画素22に設けられる個別電極を突起電極42とするが、突起電極41と42は、同一工程で形成される同一構成の電極である。受光素子アレイ20は、突起電極41及び42によって、読出回路にフリップチップ接合される。
【0030】
図8は、1画素構成のエネルギーポテンシャル図である。λ
L吸収層207のエネルギーバンドギャップは、λ
S吸収層205のエネルギーバンドギャップよりも狭い。電子を信号として取り出す場合、第1ブロック層202と第2ブロック層206は、積層の上下で接する層に対して、価電子帯側に大きなポテンシャル障壁、伝導帯側に小さなポテンシャル障壁を有する。伝導帯側の障壁については、積層の上下で接する層に対する第1ブロック層202のポテンシャル差B1のほうが、積層の上下で接する層に対する第2ブロック層206のポテンシャル差B2よりも、大きい(B1>B2)。
【0031】
正孔を信号として取り出す場合は、エネルギーポテンシャル図は、
図8と上下逆の構成になる。すなわち、各画素のコンタクト層をn型導電体で形成する。第1ブロック層202と第2ブロック層206は、積層の上下で接する層に対して、伝導帯側に大きなポテンシャル障壁を有し、価電子帯側に小さなポテンシャル障壁を有する。ポテンシャル障壁の小さい価電子帯側で、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203に対する第1ブロック層202のポテンシャル差のほうが、λ
S吸収層205とλ
L吸収層207に対する第2ブロック層206のポテンシャル差よりも大きくする。
【0032】
図9と
図10は、
図7の受光素子アレイ20を用いた2波長赤外線センサの動作を説明する図である。
図9はλ
S用画素21の動作を示し、
図10はλ
L用画素22の動作を示す。いずれも電子を信号として取り出す構成を前提としている。
【0033】
図9で、λ
S用画素21の突起電極41に正のバイアス、たとえば、+0.5Vを印加し、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203に負のバイアス、たとえば-0Vを印加して、λ
S吸収層205から光電流を読み出す。第1コンタクト層201と第2コンタクト層203は同電位に設定され、
図13を参照して後述するように、受光素子アレイ20の外周部で、共通電極に接続されている。
【0034】
第1コンタクト層201と第2コンタクト層203が-0V、第3コンタクト層が+0.5Vとなることで、λ
S吸収層205の伝導帯と、λ
L吸収層207の伝導帯の間に、電位差が生じる。伝導帯側で、第2ブロック層206と、λ
S吸収層205及びλ
L吸収層207のポテンシャル差は、
図8に示されるように、小さく設定されている。
【0035】
赤外線入射によりλS吸収層205で生成された光励起キャリアのうち、電子は、第2ブロック層206の障壁を乗り越え、伝導帯の下端に沿って第3コンタクト層209へ移動する。λS吸収層205で生成された正孔は、価電子帯の上端に沿って、第2コンタクト層203に移動する。このとき、λL吸収層207で生成された正孔は、第2ブロック層206でブロックされ、第2コンタクト層203へは流れない。
【0036】
第1コンタクト層201と第2コンタクト層203は、同電位に設定されているので、第1コンタクト層201からの余分なキャリア(電子)は、第1ブロック層202でブロックされる。第1コンタクト層201と第2コンタクト層203の間にわずかな電位差が生じたとしても、第1ブロック層202は伝導帯と価電子帯の両方にポテンシャル障壁が存在するように設計されており、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203の間の余剰なキャリアの流れは遮断される。これにより、λSに応答する光電流が、第2コンタクト層203から引き出される。
【0037】
図10で、λ
L用画素22の突起電極42に負のバイアス、たとえば、-0.5Vを印加し、第1コンタクト層201に、-0Vを印加して、λ
L吸収層207からの光電流を読み出す。λ
L用画素22では、第2コンタクト層203は深い分離溝28で分断されており、第2コンタクト層203への外部電圧の印可はない(フローティング状態となっている)。他方、λ
S用画素21では、第2コンタクト層203は紙面と垂直な方向で隣接するλ
S用画素21と連続しており、λ
S用画素21の共通コンタクト層として用いられている。
【0038】
λL用画素22において、第1コンタクト層201が-0V、第2コンタクト層203がフローティング状態、第3コンタクト層が-0.5Vとなり、λS吸収層205とλL吸収層207の間、及び、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203の間に電位差が生じる。赤外線の入射により、λL用画素22のλL吸収層207で生成された少数キャリアの電子は、第2ブロック層206と第1ブロック層202の障壁を乗り越えて、第1コンタクト層201へと移動する。λL吸収層207で生成された正孔は第3コンタクト層209へと移動する。
【0039】
このとき、λS吸収層205で生成された正孔は、第2ブロック層206の価電子帯でブロックされて、第3コンタクト層209に向かって移動できない。したがって、λLに応答する光電流が、突起電極42から引き出される。このようにして、画素内での異なる波長情報の混信、及び、λS用画素21とλL用画素の間の混信の両方を抑制することができる。
【0040】
図9と
図10で、λ
S用の突起電極41への正バイアスの印可、λ
L用の突起電極42への負バイアスの印可、及び、第1コンタクト層201及び第2コンタクト層203への共通電位の印可は、同時に行われている。各画素でバイアスの印可方向を切り替えることなく、λ
S用画素21とλ
L用画素22のそれぞれで、目的とする波長の光が正しく検出される。
【0041】
光入射面となる第1コンタクト層201に近い側にλS吸収層205を配置し、遠い側にλL吸収層207を配置しているので、λS用画素21においてλL吸収層207による光減衰の影響を受けない。したがって、λS感度の低下という問題も解決されている。
【0042】
図11は、実施形態の受光素子アレイ20の結晶成長構造を示す図である。基板221の上に、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)法等の結晶成長方法により、2波長赤外線センサの受光素子アレイ20の層構造を結晶成長する。具体的には、GaSb(100)ウェハ上に、
図11の積層体を構成する各層を、順次エピタキシャル成長する。電子を信号として検出する場合、
図11の積層体を、p型導電体で形成してもよい。
【0043】
GaSbの基板221の上に厚さ100nmのGaSbバッファ層222を成長する。バッファ層222は、たとえば、ボロン等のp型不純物を、1E18cm^-3の濃度で含んでいる。
【0044】
バッファ層222の上に、第1コンタクト層201、第1ブロック層202、第2コンタクト層203、λS吸収層205、第2ブロック層206、λL吸収層207、第3コンタクト層209、及びキャップ層210をこの順で成長する。
【0045】
第1コンタクト層201は、InAs(3nm)/GaSb(1nm)を100周期繰り返した超格子で形成され、p型不純物を1E18cm^-3の濃度で含んでいる。
【0046】
第1ブロック層202は、InAs(3nm)/AlSb(1nm)を20周期繰り返した超格子で形成され、p型不純物を1E16cm^-3の濃度で含んでいる。この超格子は、価電子帯側に深い、広いエネルギーバンドギャップを有する。
【0047】
第2コンタクト層203は、InAs(3nm)/GaSb(1nm)を100周期繰り返した超格子で形成され、p型不純物を1E18cm^-3の濃度で含んでいる。
【0048】
λS吸収層205は、InAs(3nm)/GaSb(1nm)を200周期繰り返した超格子で形成され、p型不純物を1E16cm^-3の濃度で含んでいる。この超格子は1~7μmの帯域にわたって応答感度を有し、5μmに応答のカットオフ波長を有する。
【0049】
第2ブロック層206は、InAs(5nm)/AlSb(1nm)を20周期繰り返した超格子で形成され、p型不純物を1E16cm^-3の濃度で含んでいる。この超格子は、価電子帯側に深い、広いエネルギーバンドギャップを有する、伝導帯側では、第2ブロック層206と光吸収層との間のポテンシャル差は、第1ブロック層202とコンタクト層との間のポテンシャル差よりも小さい。
【0050】
λL吸収層207は、InAs(4nm)/GaSb(2nm)を200周期繰り返した超格子で形成され、p型不純物を1E16cm^-3の濃度で含んでいる。この超格子は、1~11μmの帯域にわたって応答感度を有し、9μmに応答のカットオフ波長を有する。λS吸収層205と、λL吸収層207の各超格子で、InAsとGaSbの膜厚を調整することで、所望の赤外線分光応答が得られる。
【0051】
第3コンタクト層209は、InAs(4nm)/GaSb(2nm)を80周期繰り返した超格子で形成され、p型不純物を1E18cm^-3の濃度で含んでいる。キャップ層210は、厚さ30nmのアンドープのInAs層である。
【0052】
図11の積層体に、以下に述べる素子形成プロセスを行って、
図7の画素構造を有する受光素子アレイ20を作製する。
【0053】
(1)表面のキャップ層210をエッチングして、パターン合わせ用のマーカーを形成し、表面からドライエッチングを行って、第2コンタクト層203の表面に到達する分離溝27を形成する。このとき、画素アレイの外周部で共通電極を設ける位置にも表面からλS吸収層205のほとんどをエッチンにより除去する。これにより、積層体の全体に浅い分離溝が形成される。この分離溝は、λS用画素21を分離する分離溝27となる。
【0054】
(2)λ
L用画素22の周囲に、深い分離溝28を形成するためのパターニングを行い第2コンタクト層203と第1ブロック層202をドライエッチングして、第1コンタクト層201の表面に到達する分離溝28を形成する。このとき、画素アレイの外周部で共通電極を設ける位置においても、同時に第2コンタクト層203と第1ブロック層202をドライエッチングする。これにより、
図12に示すように、断面Aと断面Bで異なる深さの分離溝で分断された画素分離構造が得られる。
【0055】
(3)CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により、
図12で得られた画素分離構造の全体をSiO2保護膜で覆ったあと、必要な個所に第3コンタクト層209と接続するオーミック電極212を形成する。たとえば、SiO2保護膜の上にレジストパターンを形成し、SiO2保護膜の必要な箇所に開口を形成して第3コンタクト層209を露出する。真空蒸着によりAuGe膜を形成し、リフトオフによりレジストマスク上のAuGe膜を、レジストパターンとともに除去する。
【0056】
(4)再度、全面にSiO2膜を形成し、突起電極41、42の下地電極213を設ける領域と、アレイ外周の配線が形成される領域のSiO2膜を、ドライエッチングで除去する。スパッタ法で全面にTi/Ptの金属積層膜を形成する。その後、不要な個所のTi/Pt金属積層膜をイオンミリングで除去する。λ
S用画素21とλ
L用画素22を含む画素領域では、オーミック電極212に接続される下地電極213(
図7参照)が形成される。画素アレイの外周部では、第1コンタクト層201及び第2コンタクト層203に接続される配線が形成される。
【0057】
(5)画素アレイ全体をSiO2保護膜で覆い、突起電極41、42と、共通電極が形成される部分に開口を形成する。リフトオフ法により、開口内にインジウム等の突起電極41、42と共通電極431、432(
図13参照)を形成する。これにより、
図7の構成が得られる。
【0058】
図13は、受光素子アレイ20を用いた2波長赤外線センサ50の断面模式図である。受光素子アレイ20は、λ
S用画素21とλ
L用画素22を含む画素領域230と、画素領域230の外側の外周領域240を含む。受光素子アレイ20は、読出回路30にフリップチップ接合されている。読出回路30は、たとえばCMOS回路で形成された各画素の検出回路を有する。
【0059】
受光素子アレイ20の画素領域230で、λS用画素21とλL用画素22は、それぞれ突起電極41と42により、読出回路30の対応する検出回路に接続されている。外周領域240では、オーミック電極214と配線215により、第1コンタクト層201と共通電極431が接続されている。オーミック電極216と配線217により、第2コンタクト層203と共通電極432が接続されている。
【0060】
λS用画素21には、読出回路30から正のバイアスV+が印加される。λL用画素22には、読出回路30から負のバイアスV-が印加される。共通電極431と432には読出回路30から共通のバイアス電位V0が印加され、同電位に設定される。これらのバイアス電位は、同時に受光素子アレイ20に印加され、λS用画素21でλSの信号が取り出され、λL用画素22でλLの信号が取り出される。なお、正孔を信号として取り出す場合は、、λS用画素21に負のバイアスV-が印加され、λL用画素22に正のバイアスV+が印加される。
【0061】
得られた光応答出力は、読出回路30によって順次に走査読み出しされて、時系列信号として2波長赤外線センサ50から出力される。
【0062】
<受光素子アレイの変形例>
図14は、受光素子アレイ20の変形例として、受光素子アレイ20Aの断面構成を示す。
図14の(A)は
図6の断面Aの模式図、
図14の(B)は
図6の断面Bの模式図である。
【0063】
図14の変形例では、
図7の構成で用いたワイドギャップの第1ブロック層202に替えて、n型の第1ブロック層232を用いる。n型の第1ブロック層232は、λ
S用画素21で用いられるn型領域232aと、λ
L用画素22で用いられるp型領域232bを含む。p型領域232bは、全体としてn型の第1ブロック層232を形成した後に、部分的にp型の不純物をイオン注入してp型に反転させることで形成されてもよい。
図14の構成を採用する場合は、受光素子アレイの外周領域240に、n型の第1ブロック層232にバイアス電圧を印加する電極端子を設けておくことが望ましい。
【0064】
λ
S用画素21では、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203、及びこれらのコンタクト層に挟まれた第1ブロック層232のn型領域232aにより、電気的にpnp型接続220が形成されている。一方、λ
L用画素22では、
図7と同様に、第1コンタクト層201、第1ブロック層232、及び第2コンタクト層203は、p型導電体として形成されている。
【0065】
λS用画素21に正のバイアス電位が与えられ、λL用画素22に負のバイアス電位が与えらる。第1コンタクト層201と第2コンタクト層203には、同じ共通バイアス電圧が印加されて、同電位に設定される。
【0066】
λS用画素21の突起電極41に、たとえば+0.5Vを印加し、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203に、-0Vを印加して、λS吸収層205から光電流を読み出す。このとき、外周部240の電極端子からn型の第1ブロック層232に、正電位が与えられる。λS吸収層205で生成された光励起キャリアのうち、電子は、第2ブロック層206の伝導帯のわずかな障壁を乗り越えて、第3コンタクト層209へ移動し、正孔は第2コンタクト層203に移動する。λL吸収層207で生成された正孔は、ワイドギャップの第2ブロック層206でブロックされ、第2コンタクト層203へは流れない。
【0067】
第1コンタクト層201と第2コンタクト層203の間で、n型の第1ブロック層に正電位が与えられると、pn接合ダイオードの逆バイアス状態が生成され、第1コンタクト層201と第2コンタクト層203の間の電流が遮断される。したがって、第1コンタクト層201から余分なキャリア(電子)が第2コンタクト層203へと流れ込むのを防止できる。これにより、λSに応答する光電流だけが第2コンタクト層203から引き出される。
【0068】
図λL用画素22の突起電極42に、たとえば-0.5Vを印加し、第1コンタクト層201に、-0Vを印加して、λL吸収層207からの光電流を読み出す。λL用画素22では、第2コンタクト層203はフローティング状態となっている。λL用画素22のλL吸収層207で生成された少数キャリアの電子は、第2ブロック層206の伝導帯の障壁を乗り越え、p型領域232bとして形成されている第1ブロック層232を通過して、第1コンタクト層201へと移動する。λL吸収層207で生成された正孔は第3コンタクト層209へと移動する。
【0069】
λ
S吸収層205で生成された正孔は、第2ブロック層206の価電子帯でブロックされる。したがって、λ
Lに応答する光電流だけが突起電極42から引き出される。このように、
図14の構成でも、
図7と同様に、画素内での2波長の混信と、λ
S用画素21とλ
L用画素22の間の混信の双方を、抑制することができる。受光素子アレイ20と同様に、受光素子アレイ20Aでも、高感度のT2SLを用いた微細画素の2波長赤外線センサ50を実現できる。
【0070】
<撮像システム>
図15は、2波長赤外線センサ50を用いた撮像システム100の模式図である。撮像システム100は、2波長赤外線センサ50と、信号処理回路60を含む。信号処理回路60は、DSP(Digital Signal Processor)等で実現される。
【0071】
2波長赤外線センサ50のλS用画素21とλL用画素22から順次読み出された電荷量は、アナログ電気信号として信号処理回路60に入力される。アナログ電気信号は、読出回路30によってノイズキャンセル、増幅等の処理を受けた後の信号であってもよい。
【0072】
信号処理回路60は、AD変換器61、補間処理回路62、補正係数メモリ63、フレームメモリ64、及び感度補正処理回路65を有する。AD変換器61は、入力されたアナログ電気信号を所定のレートでサンプリングしてデジタル信号に変換する。フレームメモリ64は、デジタル変換された画素出力を順次記憶し、1フレーム分のデジタルデータを保持する。
【0073】
補間処理回路62は、フレームメモリ64から1画素ごとに、その画素の出力値と、その画素の周辺画素の別波長の出力値を読み出し、後述する演算処理を行って、着目画素で検出されていない波長の受光量を補間する。この補間処理により、補間処理回路62は、画素ごとに、λSデジタル信号と、λLデジタル信号を出力する。
【0074】
感度補正処理回路65は、各画素での感度ばらつきを補正する。2波長赤外線センサ50の感度は、λS用画素21とλL用画素22の応答特性のばらつきや、読出回路30のトランジスタの特性ばらつき等の影響を受ける。感度補正処理回路65は、補正係数メモリ63に記憶された補正係数を用いて、2波長赤外線センサ50から時系列で出力されデジタル変換された信号の感度を補正する。
【0075】
補正係数メモリ63は、画素ごとの補正係数(オフセット値及びゲイン値を含む)を記憶する。感度補正処理回路65は、補間処理回路62の出力に対して、補正係数メモリ63から読み出した補正係数を乗算して感度補正してもよい。感度補正処理回路65は、画素ごとに、λS信号とλL信号のそれぞれに感度補正を施し、画像信号として出力する。
【0076】
撮像システム100は、小型で高解像の2波長赤外線センサ50を用いるので、装置全体をコンパクトにすることができる。画素ごとの2つの波長出力の相関から、観測対象の温度の絶対値を精度よく測定できる。また、対象物体から受け取る赤外線情報から自然光(太陽光)の反射光成分と、物体自体からの温度輻射成分とを弁別することができる。
【0077】
<補間処理>
図16と
図17は、実施形態の2波長信号の補間処理を説明する図である。この補間処理は、信号処理回路60の補間処理回路62によって行われる。
図16のように、隣接する4つの画素を1つの単位ブロック25とする。単位ブロック25は、1つのλ
L用画素22と、3つのλ
S用画素21を有する。単位ブロック25Aの内部で、λ
L用画素22の位置を(3)、λ
L用画素22と水平方向(X方向)または垂直方向(Y方向)で隣接するλ
S用画素21の位置を(1)、λ
L用画素22と対角にあるλ
S用画素21の位置を(2)とする。画素位置(1)~(3)のそれぞれで、出力される電流値は、対応する単一の波長の検出値であるが、受光素子アレイ20を2波長赤外線センサ50の受光部として機能させるために、補間処理を行う。
【0078】
図17は、画素位置(1)~(3)における各画素に対して行われる補間処理を示す。
図17(A)の画素位置(1)では、λ
S出力として、このλ
S用画素21からの出力値をそのまま用いる。このλ
S用画素21はλ
Lの検出値を出力しない。そこで、λ
S用画素21のλ
L出力として、隣接するλ
L用画素22の画素Aと画素Bの平均値を用いる。これにより、1つの画素から2波長に対応する検出値を得ることができる。
【0079】
画素サイズまたは画素ピッチは、短波長(λS)側の赤外線分解能より大きく、かつ長波長(λL)側の赤外線分解能以下に設定されている。この場合、λSの光は、画素位置(1)のλS用画素21内に集光されて画素位置(1)の検出出力に反映されており、隣接画素への光の漏れは小さい。一方でλLの入射光は、この波長の光学的分解能よりも画素ピッチ(サイズ)が小さいため、1画素のサイズにまで集光しきれずに、複数の画素にまたがって入射光が結像される。画素位置(1)へのλL入射光は、隣接するλL用画素22(図中の画素Aと画素Bの2つの画素)へ漏れ出て入射する。したがって、画素位置(1)に隣接する2つの画素Aと画素Bの検出出力には、画素位置(1)へのλL入射光の成分が、それぞれ部分的に反映されている。これを利用して、画素位置(1)のλS用画素21から、λLの検出出力が直接得られなくても、隣接する画素Aと画素Bの出力の平均を取ることで、λS用画素21におけるλLの入射量を概ね推定することができる。
【0080】
図17(B)の画素位置(2)では、λ
S出力として、このλ
S用画素21からの出力値をそのまま用いる。このλ
S用画素21は、λ
Lの検出値を出力しない。そこで、この画素のλ
L出力として、対角方向で隣接する4つのλ
L用画素22(画素A~画素D)の平均値を用いる。画素位置(2)のλ
S用画素21に入射するλ
L赤外光は、この画素サイズに集光されずに周囲の画素A~画素Dにも入射しており、画素A~画素Dの出力から、画素位置(2)へのλ
Lの入射量を推測することができる。これにより、1つの画素から2波長に対応する検出値を得ることができる。
【0081】
図17(C)の画素位置(3)では、λ
L出力として、このλ
L用画素22からの出力値をそのまま用いる。このλ
L用画素22は、短波長λ
Sの検出値を出力しない。そこで短波長出力として、水平方向及び垂直方向で隣接する4つのλ
S用画素21(画素A~画素D)の平均値を用いる。画素位置(3)のλ
L用画素22に入射するλ
S赤外光は、周囲の画素A~Dへのλ
S入射光と連続する強度分布を有すると考えられる。したがって、周囲の画素の検出値を用いることで、1つの画素から2波長に対応する検出値を得ることができる。
【0082】
各画素位置で、欠落している波長出力を上述した補間処理で補うことで、2波長分の出力信号を生成することができる。これにより、T2SLを用いた各画素でバイアス印加方向を切り替えずに、2波長の検出感度を維持することができる。実施形態の2波長赤外線センサ50と撮像システム100は、セキュリティシステム、無人探査システム、夜間の監視システム等に適用できる。
【0083】
以上、特定の実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は実施例で例示された構成に限定されない。各画素で用いるT2SLの構成は上述した例に限定されない。T2SLを構成する薄膜の組成と厚さを調整することで、目的とする波長に感度を持たせることができる。必ずしも、λ
S用画素21とλ
L用画素2の両方をT2SLで形成する必要はない。いずれか一方の光吸収層がT2SLであれば、ブロードな応答特性に起因して一方の波長の減衰と、混信の問題が生じるが、この問題は、実施形態の構成により解決される。コンタクト層と光吸収層の導電型は、検出対象とするキャリアに応じて適宜決定される。各画素に印加されるバイアス電圧値は、適宜調整可能である。
図14の構成で全体としてn型導電体を用いる場合、λ
S用画素21の第1コンタクト層201、第1ブロック層232、及び第2コンタクト層203でnpn接合を形成してもよい。
【0084】
単位ブロック25を形成する画素の数は、2×2の4画素に限定されず、2×1、3×3、4×4、5×5等で単位ブロック25を形成してもよい。2×1の単位ブロックは、1つのλ
S用画素21と、1つのλ
L用画素22で形成される。この場合、受光素子アレイ20の平面画素配置は、チェッカーボードパターンとなる。補間処理は
図17の(A)と同じになる。3×3の単位ブロックは、マトリクスの対角上に並ぶ3つのλ
L用画素22と、6つのλ
S用画素21を含む。補間処理は
図17と類似するが、着目するλ
S用画素21から周囲の補間用のλ
L用画素22までの距離がλ
L用画素22の位置によって異なる場合は、平均値の計算に重み付けをしてもよい。4×4の単位ブロックの場合は、2×2の単位ブロックの補間処理の繰り返しとなる。
【0085】
これらの置換、変形が行われる場合も、2波長赤外線センサ50でλS用画素21とλL用画素22が同時に動作し、画素ごとに補間処理が行われて2波長イメージングが可能になる。これは、画素ごとのバイアス切替動作で2波長イメージセンサとして動作させる構成では成し得ない機能である。実施形態のように、2波長情報の相関処理などを行う際には、同時に取得されたデータであることが重要である。一つの波長に着目すると、空間的に画素が欠落しているように見えるが、配置数の少ないλL用画素22に関しては、レンズ光学系で集光・結像されたλL赤外線が1画素内に集光しきれずに、複数画素にまたがって結像される。そのため、補完処理によって欠落画素位置でのλL応答を十分に推定することができる。
【符号の説明】
【0086】
20 受光素子アレイ
21 λS用画素(第1画素)
22 λL用画素(第2画素)
27 第1分離溝
28 第2分離溝
201 第1コンタクト層
202、232 第1ブロック層
232a n型領域
232b p型領域
203 第2コンタクト層
205 λS吸収層(第1光吸収層)
206 第2ブロック層
207 λL吸収層(第2光吸収層)
209 第3コンタクト層
30 読出回路
41、42 突起電極
50 2波長赤外線センサ
60 信号処理回路
100 撮像システム