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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】加速度検出装置および取付角検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 21/00 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G01P21/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021121108
(22)【出願日】2021-07-22
(65)【公開番号】P2023016630
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】陳 超
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直記
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/171227(WO,A1)
【文献】特開2011-209162(JP,A)
【文献】特開2005-274186(JP,A)
【文献】特開2005-147696(JP,A)
【文献】国際公開第2017/064790(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00-21/02
G01C 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する第1検出軸(sx)と第2検出軸(sy)を少なくとも有する加速度センサ(20)を備え、車両(1)に搭載される加速度検出装置(10)であって、
車両前後方向軸(bx)または車両幅方向軸(by)のいずれかである車両基準軸と、前記第1検出軸と前記第2検出軸との間に設定した仮想線(VL)との間の角度であるヨー取付角(Δθ)が±15度以下になるように、前記加速度センサは前記車両に配置され、
前記車両に、車両幅方向の加速度が生じ、かつ、車両前後方向は低加減速である状態で、第1検出軸方向の加速度と、第2検出軸方向の加速度とを、前記加速度センサから取得する取得部(31)と、
前記車両に、前記車両幅方向の加速度が生じ、かつ、前記車両前後方向には加速度が生じていない状態を想定し、かつ、前記ヨー取付角のtan値が前記ヨー取付角に近似できることを利用して導出した式であって、前記第1検出軸方向の加速度と前記第2検出軸方向の加速度とから前記ヨー取付角を算出する角度算出式と、前記取得部が取得した前記第1検出軸方向の加速度と前記第2検出軸方向の加速度とから、前記ヨー取付角を算出する取付角算出部(37、237)と、を備える加速度検出装置。
【請求項2】
前記仮想線は、前記第1検出軸と前記第2検出軸とを2等分する線である、請求項1に記載の加速度検出装置。
【請求項3】
前記加速度センサの出力信号とは別のカーブ走行判断信号に基づいて、前記車両がカーブ走行しているか否かを判断し、前記車両の車速変化から車両前後方向は低加減速状態であるか否かを判断するカーブ低加減速判断部(36)を備え、
前記取付角算出部は、前記カーブ低加減速判断部が、前記車両がカーブ走行かつ低加減速状態であると判断したことに基づいて、前記ヨー取付角を算出する、請求項1または2に記載の加速度検出装置。
【請求項4】
前記加速度センサの出力信号に基づいて、前記車両がカーブ走行かつ車両前後方向は低加減速状態であるか否かを判断するカーブ低加減速判断部(236)を備え、
前記取付角算出部は、前記カーブ低加減速判断部が、前記車両がカーブ走行かつ前記低加減速状態であると判断したことに基づいて、前記ヨー取付角を算出する、請求項1または2に記載の加速度検出装置。
【請求項5】
前記カーブ低加減速判断部は、前記加速度センサの出力信号とは別のカーブ走行判断信号に基づいて、前記車両がカーブ走行しているか否かを判断する、請求項4に記載の加速度検出装置。
【請求項6】
互いに直交する第1検出軸(sx)と第2検出軸(sy)を少なくとも有し、車両に搭載される加速度センサ(20)の取付角を検出する取付角検出方法であって、
車両前後方向軸(bx)または車両幅方向軸(by)のいずれかである車両基準軸と、前記第1検出軸と前記第2検出軸との間に設定した仮想線(VL)との間の角度であるヨー取付角(Δθ)が±15度以下になるように、前記加速度センサは前記車両に配置され、
前記車両に、車両幅方向の加速度が生じ、かつ、車両前後方向は低加減速である状態で、第1検出軸方向の加速度と、第2検出軸方向の加速度とを、前記加速度センサから取得し、
前記車両に、前記車両幅方向の加速度が生じ、かつ、前記車両前後方向には加速度が生じていない状態を想定し、かつ、前記ヨー取付角のtan値が前記ヨー取付角に近似できることを利用して導出した式であって、前記第1検出軸方向の加速度と前記第2検出軸方向の加速度とから前記ヨー取付角を算出する角度算出式と、取得した前記第1検出軸方向の加速度と前記第2検出軸方向の加速度とから、前記ヨー取付角を算出する、取付角検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
加速度検出装置、および、加速度センサの取付角を検出する取付角検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、θy=sin-1(-ASY/ABX)により、車両前後方向軸とセンサx軸とのなす角(以下、ヨー取付角θy)を算出する技術が開示されている。上記式において、ASYは加速度センサが検出したセンサy軸方向の加速度であり、ABXは車両前方向の加速度である。車両前後方向の加速度ABXは、車両が水平面上を直進して走行しているときに速度センサが検出した車両前後方向の速度変化から算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-4593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筐体に加速度センサが固定されているので、特許文献1に開示された技術により、加速度センサのヨー取付角θyも決定できる。しかし、車両前後方向の加速度ABXを、車両が水平面上を直進して走行しているときに速度センサが検出した車両前後方向の速度変化から算出する必要がある。したがって、車両が走行している路面が傾斜している場合など、車両や加速度センサが水平面に対して傾斜している場合には、ヨー取付角θyの算出精度が低下する。
【0005】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、加速度センサの取付角を精度よく検出できる加速度検出装置および取付角検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的態様との対応関係を示すものであって、開示した技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するための加速度検出装置に係る1つの開示は、
互いに直交する第1検出軸(sx)と第2検出軸(sy)を少なくとも有する加速度センサ(20)を備え、車両(1)に搭載される加速度検出装置(10)であって、
車両前後方向軸(bx)または車両幅方向軸(by)のいずれかである車両基準軸と、第1検出軸と第2検出軸との間に設定した仮想線(VL)との間の角度であるヨー取付角(Δθ)が±15度以下になるように、加速度センサは車両に配置され、
車両に、車両幅方向の加速度が生じ、かつ、車両前後方向は低加減速である状態で、第1検出軸方向の加速度と、第2検出軸方向の加速度とを、加速度センサから取得する取得部(31)と、
車両に、車両幅方向の加速度が生じ、かつ、車両前後方向には加速度が生じていない状態を想定し、かつ、ヨー取付角のtan値がヨー取付角に近似できることを利用して導出した式であって、第1検出軸方向の加速度と第2検出軸方向の加速度とからヨー取付角を算出する角度算出式と、取得部が取得した第1検出軸方向の加速度と第2検出軸方向の加速度とから、ヨー取付角を算出する取付角算出部(37、237)と、を備える加速度検出装置である。
【0008】
加速度センサが上記のように配置されており、かつ、車両前後方向には加速度がしょうじていない状態であるとし、かつ、ヨー取付角のtan値がヨー取付角に近似できることを利用すると、第1検出軸方向の加速度と第2検出軸方向の加速度とからヨー取付角を算出する角度算出式を導出できる。
【0009】
そこで、取付角算出部は、車両幅方向には加速度が生じ、かつ、車両前後方向は低加速度である状態で取得部が取得した第1検出軸方向の加速度および第2検出軸方向の加速度と、上記角度算出式から、ヨー取付角を算出する。
【0010】
角度算出式は、車両幅方向の加速度が生じ、かつ、車両前後方向には加速度が生じていない状態を想定して導出した式である。車両が車両幅方向に傾斜しているとき、第1検出軸および第2検出軸には、車両の車両幅方向の傾斜に起因する加速度が加わる。しかし、角度算出式は、車両幅方向の加速度が生じることを想定した式である。したがって、車両が走行している路面が車両幅方向に傾斜しているなどにより、加速度センサの第1検出軸と第2検出軸が水平面に対して車両幅方向に傾斜していても、ヨー取付角の算出精度が低下してしまうことが抑制される。
【0011】
上記目的を達成するための取付角検出方法に係る1つの開示は、
互いに直交する第1検出軸(sx)と第2検出軸(sy)を少なくとも有し、車両に搭載される加速度センサ(20)の取付角を検出する取付角検出方法であって、
車両前後方向軸(bx)または車両幅方向軸(by)のいずれかである車両基準軸と、第1検出軸と第2検出軸との間に設定した仮想線(VL)との間の角度であるヨー取付角(Δθ)が±15度以下になるように、加速度センサは車両に配置され、
車両に、車両幅方向の加速度が生じ、かつ、車両前後方向は低加減速である状態で、第1検出軸方向の加速度と、第2検出軸方向の加速度とを、加速度センサから取得し、
車両に、車両幅方向の加速度が生じ、かつ、車両前後方向には加速度が生じていない状態を想定し、かつ、ヨー取付角のtan値がヨー取付角に近似できることを利用して導出した式であって、第1検出軸方向の加速度と第2検出軸方向の加速度とからヨー取付角を算出する角度算出式と、取得した第1検出軸方向の加速度と第2検出軸方向の加速度とから、ヨー取付角を算出する、取付角検出方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】加速度センサ20が備えるsx軸とsy軸の向きを示す図。
図2】加速度センサ20が備えるsz軸の向きを示す図。
図3】加速度検出装置10の構成を示す図。
図4】角度算出式を導出する過程の式を示す図。
図5】第1実施形態においてヨー取付角Δθを算出するまでの処理の流れを示す図。
図6】第2実施形態の加速度検出装置210の構成を示す図。
図7】第2実施形態で用いる角度算出式を示す図。
図8】第2実施形態においてヨー取付角Δθを算出するまでの処理の流れを示す図。
図9】Asx+AsyとAsx-Asyによる加速度Aの方向を示す図。
図10】第3実施形態の加速度センサ20の取り付け向きを示す図。
図11】第3実施形態で用いる角度算出式を導出する過程の式を示す図。
図12】第4実施形態の加速度センサ20の取り付け向きを示す図。
図13】第4実施形態で用いる角度算出式を導出する過程の式を示す図。
図14】第5実施形態の加速度センサ20の取り付け向きを示す図。
図15】第5実施形態で用いる角度算出式を導出する過程の式を示す図。
図16】第6実施形態で用いる角度算出式を導出する過程の式を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の加速度検出装置10(図3参照)が備える加速度センサ20のsx軸とsy軸の向きを示す図である。加速度センサ20は車両1に搭載される。車両1の前後方向をbx方向、車両1の車両幅方向をby方向とする。bx方向を示す軸をbx軸、by方向を示す軸をby軸と記載することもある。bx軸は車両前後方向軸、by軸は車両幅方向軸である。また、図2に示すように、車両1の上下方向をbz方向とする。bz方向を示す軸をbz軸と記載することもある。
【0014】
加速度センサ20が備えるsx軸とsy軸は、加速度センサ20が加速度Aを検出する方向を示す軸である。第1検出軸であるsx軸と第2検出軸であるsy軸は同一平面内にあり、かつ、互いに直交している。加速度センサ20は、図2に示すようにsz軸も備える。sz軸は、sx軸、sy軸と直交する軸である。加速度センサ20は、これら3軸方向の加速度Aをそれぞれ検出する。
【0015】
また、図1図2に示すように、各軸方向の加速度を「A」に軸を示す添字を付して示す。したがって、加速度Abx、Aby、Abzは、それぞれ、bx軸、by軸、bz軸方向の加速度Aを示す。加速度Asx、Asy、Aszは、それぞれ、sx軸方向(すなわち第1検出軸方向)の加速度A、sy軸方向(すなわち第2検出軸方向)の加速度A、sz軸方向の加速度Aを示す。
【0016】
sx軸、sy軸は、車両1の前後方向および左右方向を含む車両平面に沿って配置されている。車両平面は、bx軸およびby軸を含む平面である。ただし、加速度センサ20のsx軸、sy軸を含む平面(以下、センサ平面)が完全に車両平面に平行になるように、加速度センサ20を、その加速度センサ20が収容される筐体などを介して車両1に取り付けることは困難である。センサ平面と車両平面が略平行であれば、センサ平面は車両平面に沿っていると言える。ただし、センサ平面と車両平面とが平行でない場合、bz軸とsz軸とが一致しないことになる。
【0017】
そこで、加速度センサ20を車両1に取り付けた後、bz軸とsz軸とのずれを検出して、車両制御においては、加速度Aszを補正して用いる。bz軸とsz軸とのずれは、重力ベクトルの方向とsz軸とのずれを検出することで検出できる。
【0018】
加速度センサ20のsx軸およびsy軸も、厳密に、車両1の所定方向に合わせて取り付けることは困難である。しかし、bz軸とsz軸とのずれとは異なり、sx軸とbx軸とのずれ、および、sy軸とby軸とのずれは、重力ベクトルを利用して検出することは困難である。
【0019】
そこで、本実施形態の加速度検出装置10は、加速度センサ20のsx軸、sy軸との間に仮想線VLを設定する。本実施形態の仮想線VLは、sx軸、sy軸と同一平面内でsx軸とsy軸との間を2等分する。加速度センサ20は、bx軸を車両基準軸とし、仮想線VLとbx軸との間の角度(以下、ヨー取付角)Δθが、±15°以下になるように車両1に取り付ける。
【0020】
ヨー取付角Δθが0°になるように加速度センサ20を車両1に取り付けることは困難であっても、ヨー取付角Δθが±15°以下になるように加速度センサ20を車両1に取り付けることは容易である。そして、ヨー取付角Δθが±15°以下になるように加速度センサ20を車両1に取り付けることで、以下に説明するように、ヨー取付角Δθを容易に算出することができる。ヨー取付角Δθが算出できれば、sx軸やsy軸の方向も算出できる。
【0021】
〔加速度検出装置10の構成〕
図3に加速度検出装置10の構成を示す。加速度検出装置10は、加速度センサ20と演算装置30とを備えている。図3には、演算装置30が備える構成のうち、ヨー取付角Δθを算出する構成を主として示しており、ヨー取付角Δθを算出する構成とは関係ない構成は省略している。
【0022】
演算装置30は、プロセッサ、不揮発性メモリ、RAM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータにより実現できる。また、演算装置30は、プロセッサに加えてハードウェア論理回路を備えていてもよい。不揮発性メモリには、汎用的なコンピュータを演算装置30として作動させるためのプログラムが格納されている。プロセッサが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、不揮発性メモリに記憶されたプログラムを実行することで、演算装置30は、図3に示す各部としての機能を実現する。また、演算装置30が図3に示す各部として機能する場合、上記プログラムに対応する取付角検出方法が実行されることを意味する。
【0023】
図3に示すように、演算装置30は、取得部31、カーブ低加減速判断部36、取付角算出部37として機能する。取得部31は、加速度センサ20から、3軸の加速度Asx、Asy、Aszを示す信号を取得する。取得部31は、取得した加速度Asx、Asy、Aszを示す信号を車両制御装置4へ逐次出力する。車両制御装置4は、車両1に生じる加速度A、角加速度などに基づいて、車両1の加減速を制御する装置である。
【0024】
取得部31は、ローパスフィルタ32、33を備えている。ローパスフィルタ32は、加速度センサ20から取得した加速度Asxを示す信号の低周波成分を通過させる。ローパスフィルタ33は、加速度センサ20から取得した加速度Asyを示す信号の低周波成分を通過させる。ローパスフィルタ32、33は、加速度Aを示す信号からノイズ成分を除去するために備えられている。ローパスフィルタ32、33は、それぞれ信号を、カーブ低加減速判断部36と取付角算出部37に出力する。
【0025】
カーブ低加減速判断部36は、車両1が、カーブ走行中、かつ、低加減速状態であるかどうかを判断する。カーブ低加減速判断部36には、ステアリングセンサ2の検出値と、ジャイロセンサ3のヨー角速度検出値が入力される。これらステアリングセンサ2の検出値と、ジャイロセンサ3のヨー角速度検出値は、車両1がカーブ走行中であるかどうかを判断するためのカーブ走行判断信号である。なお、カーブ走行判断信号として、ステアリングセンサ2の検出値およびジャイロセンサ3の検出値のいずれか一方のみがカーブ低加減速判断部36に入力されるようになっていてもよい。また、図3では、ジャイロセンサ3は、加速度検出装置10が備えていない構成として示しているが、ジャイロセンサ3を加速度検出装置10が備える加速度センサ20と一体構成としてもよい。
【0026】
カーブ低加減速判断部36には、車速センサ5から車両1の車速を示す信号も入力される。カーブ低加減速判断部36は、車速変化から加速度Aを算出する。この加速度Aは、車両1の進行方向への加速度Aを意味する。カーブ低加減速判断部36は、車速の時間変化から算出した加速度Aをもとに、車両1が低加減速状態であるか否かを判断する。低加減速状態であるかどうかは、車両1の加速度Aが、事前に設定した低加減速度範囲内であるかどうかで判断する。低加減速度範囲は、後述する(6)式、(7)式が成り立つかどうかという観点で決定する範囲であり、実験等に基づき事前に設定しておく範囲である。
【0027】
取付角算出部37は、ローパスフィルタ32、33が出力した加速度Asx、Asyを示す信号、および、次に説明する角度算出式を用いて、ヨー取付角Δθを算出する。取付角算出部37は、算出したヨー取付角Δθを車両制御装置4に出力する。車両制御装置4は、ヨー取付角Δθを用いて、取得部31が出力する加速度Asx、Asyを補正して車両制御に用いる。
【0028】
〔角度算出式〕
次に、角度算出式について説明する。本実施形態では、図4に示す(1)式を角度算出式として用いる。この(1)式の導出方法を以下に説明する。図1に示す幾何的関係より、図4に示す(2)式、(3)式が成立する。
【0029】
(2)式と(3)式の左辺同士および右辺同士を加算し、右辺を、加法定理を使って変形すると(4)式が得られる。また、(2)式の左辺と右辺から、(3)式の左辺と右辺をそれぞれ減算し、右辺を、加法定理を使って変形すると(5)式が得られる。(1)式に示す角度算出式は、車両1がカーブを定速走行中である場合など、車両前後方向の加速度Abxが、車両幅方向の加速度Abyよりも十分に小さいことを想定としている。換言すれば、角度算出式は、車両前後方向の加速度Abxが実質的に生じていないと見なせる小さい加速度Aである状態を想定としている。この想定を(4)式、(5)式に当てはめると、(4)式、(5)式において、かっこ内の第1項は消去でき、(6)式と(7)式が得られる。(6)式と(7)式を用いると、さらに(8)式に示す計算ができる。
【0030】
本実施形態では、ヨー取付角Δθが±15°以下になるように加速度センサ20が取り付けられている。ヨー取付角Δθが±15°以下であれば、tanθ≒θ(rad)と近似できる。tan(15π/180)は約0.259であり、15°は0.261(rad)だからである。式8にtanθ≒θを適用すると(1)式が得られる。
【0031】
〔処理の流れ〕
図5に、ヨー取付角Δθを算出するまでの処理の流れを示している。図5に示す処理は、ヨー取付角Δθを算出していない場合に、車両1の走行時に実行することができる。あるいは、ヨー取付角Δθを算出していても、ヨー取付角Δθを算出してから一定期間を経過した場合に、車両1の走行時に実行するようにしてもよい。
【0032】
S10では、カーブ低加減速判断部36が、ステアリングセンサ2の検出値およびジャイロセンサ3のヨー角速度検出値の一方または両方を用いて、車両1がカーブ走行しているか否かを判断する。ステアリングセンサ2の検出値が、ステアリング角がカーブ走行を示す角度閾値以上であることを示していれば、車両1がカーブ走行していると判断することができる。また、ヨー角速度検出値が、ヨー角速度が角速度閾値以上を示している場合に、車両1がカーブ走行していると判断してもよい。上記角度閾値および角速度閾値は事前に設定する値である。
【0033】
S10の判断結果がNOであれば、このS10の判断を繰り返す。S10の判断結果がYESであればS20に進む。S20では、カーブ低加減速判断部36が、車速の時間変化から加速度Aを算出する。そして、この加速度Aをもとに、車両1が定速走行中であるか否かを判断する。車速から算出した加速度Aが、事前に設定した低加減速度範囲内であれば、車両1は定速走行中であると判断する。この判断は、車両1が低加減速状態であるかを判断しているとも言える。S20の判断結果がNOであればS10に戻る。S20の判断結果がYESであればS30に進む。
【0034】
S30では、取得部31が加速度センサ20から加速度Asx、Asyを取得する。S40では、カーブ低加減速判断部36が、S30で取得した加速度Asx、Asyを(1)式に代入してヨー取付角Δθを算出する。
【0035】
S50では、取付角算出部37が、S40で算出したヨー取付角Δθが規格外であるか否かを判断する。たとえば、S40で算出したヨー取付角Δθが±15°の範囲外であれば、ヨー取付角Δθは規格外であると判断する。S50の判断結果がYESであればS10に戻る。S50の判断結果がYESであればS60に進む。
【0036】
S60では、取付角算出部37が、S40で算出されたヨー取付角Δθを蓄積する。S70では、取付角算出部37が、蓄積したヨー取付角Δθが一定数になったか否かを判断する。S70の判断結果がNOであればS10に戻る。S10の判断結果がYESであればS80に進む。一定数は、事前に決定しておく値であり、S80の統計処理において必要とされる精度が確保できるようにするための数である。
【0037】
S80では、取付角算出部37は、S60にて蓄積したデータを統計処理してヨー取付角Δθを算出する。統計処理の一例は、蓄積したヨー取付角Δθの最頻値を採用することができる。また、統計処理の他の例は、横軸をAsx-Asyとし、縦軸をAsx+Asyとする点をプロットし、この点の近似直線を算出することである。(1)式より、この近似直線の傾きはヨー取付角Δθになる。取付角算出部37は、統計処理して得られたヨー取付角Δθを車両制御装置4へ出力する。
【0038】
車両制御装置4は、ヨー取付角Δθをもとにsx軸およびsy軸の向きを算出することができる。なお、演算装置30がsx軸およびsy軸の向きも算出して車両制御装置4へ出力してもよい。
【0039】
以上、説明した第1実施形態では、sx軸とsy軸との間に仮想線VLを設定する。車両前後方向の加速度Abxが車両幅方向の加速度Abyよりも十分に小さいとすると、仮想線VLと車両前後方向軸であるbx軸との間のヨー取付角Δθを算出する角度算出式((1)式)を導出できる。
【0040】
角度算出式は、車両幅方向の加速度Abyが生じ、かつ、車両前後方向には加速度Abxが生じていない状態を想定して導出した式である。車両1が車両幅方向に傾斜しているとき、sx軸およびsy軸には、車両1の車両幅方向の傾斜に起因する加速度Aが加わる。しかし、角度算出式は、車両幅方向の加速度Aが生じることを想定した式である。したがって、車両1が走行している路面が車両幅方向に傾斜しているなどにより、加速度センサ20のsx軸とsy軸が水平面に対して車両幅方向に傾斜していても、ヨー取付角Δθの算出精度が低下してしまうことが抑制される。
【0041】
仮想線VLはsx軸とsy軸との間を2等分する。仮想線VLとbx軸との間のヨー取付角Δθが±15°以下になるように加速度センサ20を取り付けると、sx軸とsy軸は、ともにbx軸との角度が45°に近くなる。これにより、(1)式に代入するAsx、Asyの一方が極端に小さくなってしまうことを抑制できるので、より精度よくヨー取付角Δθを算出できる。
【0042】
また、加速度検出装置10はカーブ低加減速判断部36を備えている。このカーブ低加減速判断部36が、車両1はカーブ走行状態かつ低加減速状態でないと判断した場合の加速度Asx、Asyは、ヨー取付角Δθを算出するためのデータとして用いない。この処理によっても、精度よくヨー取付角Δθを算出できる。
【0043】
また、カーブ低加減速判断部36が、車両1がカーブ走行状態であるかどうかを判断するカーブ走行判断信号は、ステアリングセンサ2の検出値とジャイロセンサ3のヨー角速度検出値である。また、車両1が定速走行中であるかは車速を微分して得られる加速度から判断する。よって、加速度センサ20が異常な値を検出する状態になっていたとしても、誤って、その異常な値を使ってヨー取付角Δθを算出してしまうことを抑制できる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態を説明する。この第2実施形態以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0045】
図6に、第2実施形態の加速度検出装置210の構成を示す。加速度検出装置210は、カーブ低加減速判断部236が実行する処理が、第1実施形態のカーブ低加減速判断部36と相違する。カーブ低加減速判断部236は、車両1がカーブ走行しているかは、カーブ低加減速判断部36と同様、ステアリングセンサ2の検出値とジャイロセンサ3のヨー角速度検出値の少なくとも一方を用いて判断する。しかし、低加減速状態であるかどうかは、加速度センサ20が検出した加速度Aを用いて判断する。したがって、カーブ低加減速判断部236は、車速センサ5からの信号を取得しない。また、第2実施形態では、取付角算出部237が用いる角度算出式が第1実施形態と相違する。
【0046】
〔角度算出式〕
次に、第2実施形態で用いる角度算出式について説明する。第2実施形態では、図7に示す(9)式を角度算出式として用いる。この(9)式の導出方法を以下に説明する。図4に示す(5)式において、第1実施形態と同様、Aby=0とする。また、ヨー取付角Δθが±15°以下であれば、cosθ≒1(rad)と近似できる。これらのことから、図4に示す(5)式から、(9)式の左側の式が得られる。また、図1に示す幾何的関係より、図7に示す(10)式が成立する。(10)式を変形すると、(9)式の右側の式が得られる。
【0047】
なお、(9)式は2つの式としているが、左側の式により、右側の式のAbyを消去すると、(9)式を(11)式に示す1つの式にまとめることもできる。(11)式から分かるように、(9)式の角度算出式も、加速度Asx、Asyからヨー取付角Δθを算出できることが分かる。
【0048】
図8に、第2実施形態においてヨー取付角Δθを算出するまでの処理の流れを示す。図8は、図5のS20を備えておらず、代わりにS31を実行する。S31では、カーブ低加減速判断部236が、S30で取得した加速度Asx、Asyをもとに、Asx+AsyがAsx-Asyよりも十分に小さいか否か判断する。図9に示すように、Asx+Asyは車両前後方向の加速度Aを代用する値であり、Asx-Asyは車両幅方向の加速度Aを代用する値である。S31は、加速度Abyがあり、加速度Abxがほぼゼロであるか否か、つまり、車両1が、カーブを定速走行しているかを判断している。
【0049】
角度算出式は加速度Abxがゼロであるとして算出した式であるので、角度算出式に代入するデータを取得する際にも、加速度Abxがゼロに近い値であるかどうかを判断するのである。S31の判断の具体例として、Asx-AsyがAsx+Asyよりも所定値以上大きければ、S31の判断結果をYESとすることができる。また、Asx-AsyがAsx+Asyの所定倍(たとえば8倍)以上であればS31の判断結果をYESとするようにしてもよい。
【0050】
また、Asx+Asyに代えてAsxcosα+Asycos(π/2-α)を用い、Asx-Asyに代えてAsxcos(π/2-α)-Asycosαを用いてもよい。αは、sx軸とbx軸との間の見込みの角度差である。
【0051】
S31の判断結果がNOである場合は、S10を再度実行する。S31の判断結果がYESであればS41に進む。S41では、取付角算出部237が、S30で取得した加速度Asx、Asyを(9)式に代入してヨー取付角Δθを算出する。
【0052】
この第2実施形態では、加速度センサ20の出力信号を用いて、車両1がカーブを定速走行しているかを判断している(S31)。この判断が否定判断であれば、ヨー取付角Δθを算出しないので、角速度算出式の導出において想定とした状況とは異なる状況において取得した加速度Asx、Asyを用いてヨー取付角Δθを算出してしまうことを抑制できる。
【0053】
また、第2実施形態でも、ステアリングセンサ2の検出値およびジャイロセンサ3のヨー角速度検出値の一方または両方を用いて、車両1がカーブ走行しているか否かを判断している。これにより、車両1がカーブ走行していないときに検出された加速度Asx、Asyを用いてヨー取付角Δθを算出してしまうことを、より抑制できる。
【0054】
<第3実施形態>
第3実施形態では、加速度センサ20のsx軸とsy軸の方向が、これまでの実施形態と異なる。図10に示すように、第3実施形態では、加速度センサ20を、第1実施形態の向きから、sz軸周りに90°、左回りに回転させている。そして、ヨー取付角Δθは、仮想線VLとby軸との間の角とする。第3実施形態では、by軸が車両基準軸である。加速度センサ20は、仮想線VLとby軸との間の角度θが±15°以下になるように車両1に取り付ける。
【0055】
第3実施形態では、図10に示す幾何的関係より、図11に示す(12)式、(13)式が成立する。(12)式と(13)式の左辺同士および右辺同士を加算し、右辺を、加法定理を使って変形し、かつ、Abx=0とすると(14)式が得られる。また、(12)式の左辺と右辺から、(13)式の左辺と右辺をそれぞれ減算し、右辺を、加法定理を使って変形し、且つAbx=0とすると(15)式が得られる。さらに、(14)式と、(15)式の両辺にマイナスを乗じた式から、角度算出式である(16)式が得られる。
【0056】
このように、第3実施形態の加速度センサ20の向きでも、加速度Asx、Asyからヨー取付角Δθを算出する角度算出式を導出できる。
【0057】
<第4実施形態>
第4実施形態では、図12に示すように、加速度センサ20を、第1実施形態の向きから、sz軸周りに180°回転させている。ヨー取付角Δθは、第1実施形態と同様、仮想線VLとbx軸との間の角である。
【0058】
第4実施形態では、図12に示す幾何的関係より、図13に示す(17)式、(18)式が成立する。(17)式と(18)式の左辺同士および右辺同士を加算し、右辺を、加法定理を使って変形し、かつ、Abx=0とすると(19)式が得られる。また、(17)式の左辺と右辺から、(18)式の左辺と右辺をそれぞれ減算し、右辺を、加法定理を使って変形し、且つAbx=0とすると(20)式が得られる。さらに、(19)式、(20)式から、第1実施形態と同じ(8)式が得られる。したがって、第4実施形態でも、第1実施形態と同じ(1)式を角度算出式として用いてヨー取付角Δθを算出することができる。
【0059】
<第5実施形態>
第5実施形態では、図14に示すように、加速度センサ20を、第1実施形態の向きから、sz軸周りに270°、左回りに回転させている。第3実施形態から、加速度センサ20をsz軸周りに180°回転させていると言うこともできる。ヨー取付角Δθは、第3実施形態と同様、仮想線VLとby軸との間の角である。
【0060】
第5実施形態では、図14に示す幾何的関係より、図15に示す(21)式、(22)式が成立する。(21)式と(22)式の左辺同士および右辺同士を加算し、右辺を、加法定理を使って変形し、かつ、Abx=0とすると、(23)式が得られる。また、(21)式の左辺と右辺から、(22)式の左辺と右辺をそれぞれ減算し、右辺を、加法定理を使って変形し、かつAbx=0とすると、(24)式が得られる。さらに、(23)式と、(24)式の左右にマイナスを乗じた式から、第3実施形態と同じ(16)式が得られる。よって、第5実施形態では、第3実施形態と同じく(16)式を用いてヨー取付角Δθを算出できる。
【0061】
<第6実施形態>
これまでの実施形態では、仮想線VLは、sx軸とsy軸との間を2等分する線であった。しかし、仮想線VLは、sx軸とsy軸との間に任意に設定することができる。仮想線VLとsx軸との間の角度をα、仮想線VLとsy軸との間の角度をβとする。
【0062】
(2)式、(3)式を、α、βを用いて一般化すると、図16に示す(25)式、(26)式が得られる。(25)式、(26)式の右辺同士、左辺同士を加減算し、且つ、Abx=0とすると、(27)式、(28)式が得られる。さらに、(27)式、(28)式から(29)式が得られる。(29)式において、sinΔθ、cosΔθ以外は数値が求められる。数値を計算すると(30)式が得られる。(30)式においてγは数値である。(30)式から、さらに(31)式が得られる。(31)式が得られるので、仮想線VLは、sx軸とsy軸との間に任意に設定できることが分かる。
【0063】
以上、実施形態を説明したが、開示した技術は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も開示した範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0064】
<変形例1>
加速度センサ20は、sx軸方向の加速度Aを検出するセンサと、sy軸方向の加速度Aを検出するセンサを別々に備える構成でもよい。また、加速度センサ20は、3軸でなく、sx軸とsy軸のみを備えるセンサであってもよい。
【0065】
<変形例2>
ローパスフィルタ32、33に代えて、バンドパスフィルタを用いてもよい。バンドパスフィルタを用いるとバイアスを除去しやすい。
【0066】
<変形例3>
第2実施形態では、S31でカーブを定速走行しているかを判断していることに加えて、S10でカーブ走行しているかどうかを判断している。しかし、S10の判断を省略してもよい。
【0067】
<変形例4>
第2実施形態において角度算出式として(1)式を用いてもよい。第1実施形態において角度算出式として(9)式を用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1:車両 2:ステアリングセンサ 3:ジャイロセンサ 4:車両制御装置 5:車速センサ 10:加速度検出装置 20:加速度センサ 30:演算装置 31:取得部 32:ローパスフィルタ 33:ローパスフィルタ 36:カーブ低加減速判断部 37:取付角算出部 210:加速度検出装置 236:カーブ低加減速判断部 237:取付角算出部 VL:仮想線 Δθ:ヨー取付角 bx:車両前後方向軸 by:車両幅方向軸 sx:第1検出軸 sy:第2検出軸
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
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図16