(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】昇温制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241126BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2021145636
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】風岡 諒哉
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-72955(JP,A)
【文献】国際公開第2008/010382(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第113119801(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置(20)と、
多相の巻線(41U,41V,41W)を有する回転電機(40)と、
直列接続された上アームスイッチ(QUH,QVH,QWH)と下アームスイッチ(QUL,QVL,QWL)とを相毎に有し、前記上アームスイッチと前記下アームスイッチとの接続点が各相の前記巻線の一端に接続されるインバータ(30)と、
前記上アームスイッチの高電位側端子と前記蓄電装置の正極端子とを接続する正極側電気経路(Lp)と、
前記下アームスイッチの低電位側端子と前記蓄電装置の負極端子とを接続する負極側電気経路(Ln)と、
前記正極側電気経路及び前記負極側電気経路の間に接続されたコンデンサ(31)と、
前記正極側電気経路及び前記負極側電気経路の少なくとも一方において、前記蓄電装置と前記コンデンサとの間に設けられた電源スイッチ(MR1,MR2,PR,Re)と、を備えた電源システム(10)に適用され、前記電源スイッチを閉鎖した状態で、前記蓄電装置と前記コンデンサとの間にd軸電流としてリップル電流が流れるように前記インバータをスイッチング制御することで、前記蓄電装置を昇温する昇温制御装置(70)であって、
前記蓄電装置の昇温制御中に、前記コンデンサが過電圧状態となる過電圧条件が成立したか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記過電圧条件が成立したと判定された場合に、前記電源スイッチを閉鎖した状態で、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのうち一方において全相を開放するとともに、他方において、少なくとも1相を閉鎖し且つ前記回転電機との間で電流を還流させる状態制御を実施する制御部と、を備える昇温制御装置。
【請求項2】
前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチには、ダイオード(DUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWL)がそれぞれ逆並列接続されており、
前記制御部は、前記状態制御において、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのうち一方において全相を開放するとともに、他方において、一部の相を閉鎖し且つ残りの相を開放する、請求項1に記載の昇温制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記状態制御において、
前記上アームスイッチにおいて、少なくとも1相を閉鎖し且つ前記回転電機との間で電流を還流させるとともに、前記下アームスイッチにおいて全相を開放する第1状態と、
前記上アームスイッチにおいて全相を開放するとともに、前記下アームスイッチにおいて、少なくとも1相を閉鎖し且つ前記回転電機との間で電流を還流させる第2状態と、を交互に切り替える、請求項1又は2に記載の昇温制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記判定部により前記過電圧条件が成立したと判定された場合に、前記状態制御を実施せず前記昇温制御を実施する期間と、前記状態制御を実施する期間とを交互に切り替える、請求項1~3までのいずれか一項に記載の昇温制御装置。
【請求項5】
前記電源スイッチは、メインスイッチ(MR1)と、サブスイッチ(PR)及び抵抗体(Re)が直列接続され且つ前記メインスイッチに並列接続された直列接続体と、を有しており、
前記制御部は、前記状態制御において前記サブスイッチを閉鎖するとともに、前記メインスイッチを開放する、請求項1~4までのいずれか一項に記載の昇温制御装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記コンデンサの電圧が所定値よりも高くなること、前記回転電機に流れる電流が所定値よりも大きくなること、及び前記蓄電装置に流れる電流が所定値よりも大きくなることの少なくとも1つが生じた場合に、前記過電圧条件が成立したと判定する、請求項1~5までのいずれか一項に記載の昇温制御装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記蓄電装置の昇温期間が所定の期間閾値よりも長くなった場合に、前記過電圧条件が成立したと判定する、請求項1~6までのいずれか一項に記載の昇温制御装置。
【請求項8】
前記蓄電装置の昇温開始時の温度に基づいて前記期間閾値を設定する設定部を備え、
前記設定部は、前記温度が低いほど前記期間閾値を短く設定する、請求項7に記載の昇温制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記過電圧条件が成立したと判定した後に、前記コンデンサの電圧が所定範囲に収束し、且つ前記回転電機に流れる電流が所定範囲に収束したこと、及び前記状態制御の実施期間が所定期間以上経過したことの少なくとも一方が生じた場合に、前記状態制御を終了する、請求項1~8までのいずれか一項に記載の昇温制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置の昇温を制御する昇温制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1~3に記載されているように、インバータを介して蓄電装置に接続された回転電機を動力源とする車両が知られている。このような車両では、低温環境下にある蓄電装置を昇温させるために、回転電機の停止中(車両停止中)に蓄電装置の昇温制御が実施されることがある。特許文献1には、回転電機の停止中にインバータを制御して蓄電装置と回転電機との間にd軸電流を流すことにより、蓄電装置を昇温する構成が開示されている。この昇温制御では、d軸電流の上げ下げに起因して蓄電装置が充放電を繰り返すことにより、蓄電装置が昇温する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-72955号公報
【文献】特開2011-55582号公報
【文献】特開2015-198463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昇温制御では、蓄電装置と回転電機との間に流れるd軸電流が上げ下げされることにより、インバータの平滑化コンデンサ(以下、単にコンデンサ)にd軸電流としてリップル電流が流れ、コンデンサの電圧が変動する。この場合、意図せずに大きなリップル電流が流れると、コンデンサの電圧が過剰に増大し、コンデンサが過電圧状態となることがある。
【0005】
特許文献2,3には、回転電機の動作中に車両の事故等が生じ、コンデンサが過電圧状態となるおそれがある場合に、蓄電装置とコンデンサとの間に設けられた電源スイッチを開放し、インバータ制御によりコンデンサに蓄えられた電荷を放電する構成が開示されている。しかしながら、上記構成では、放電後のコンデンサの電圧が過度に低下する。そのため、蓄電装置の昇温制御に適用されると、コンデンサが過電圧状態となった後に昇温制御を再開する場合に、昇温制御に必要な電力が増大するとともに、再開までの期間が長くなり、蓄電装置を適切に昇温させることができないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、コンデンサを保護しつつ蓄電装置の適切な昇温が可能な昇温制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の手段は、蓄電装置と、多相の巻線を有する回転電機と、直列接続された上アームスイッチと下アームスイッチとを相毎に有し、前記上アームスイッチと前記下アームスイッチとの接続点が各相の前記巻線の一端に接続されるインバータと、前記上アームスイッチの高電位側端子と前記蓄電装置の正極端子とを接続する正極側電気経路と、前記下アームスイッチの低電位側端子と前記蓄電装置の負極端子とを接続する負極側電気経路と、前記正極側電気経路及び前記負極側電気経路の間に接続されたコンデンサと、前記正極側電気経路及び前記負極側電気経路の少なくとも一方において、前記蓄電装置と前記コンデンサとの間に設けられた電源スイッチと、を備えた電源システムに適用され、前記電源スイッチを閉鎖した状態で、前記蓄電装置と前記コンデンサとの間にd軸電流としてリップル電流が流れるように前記インバータをスイッチング制御することで、前記蓄電装置を昇温する昇温制御装置であって、前記蓄電装置の昇温制御中に、前記コンデンサが過電圧状態となる過電圧条件が成立したか否かを判定する判定部と、前記判定部により前記過電圧条件が成立したと判定された場合に、前記電源スイッチを閉鎖した状態で、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのうち一方において全相を開放するとともに、他方において、少なくとも1相を閉鎖し且つ前記回転電機との間で電流を還流させる状態制御を実施する制御部と、を備える。
【0008】
上記構成では、蓄電装置の昇温制御において、電源スイッチを閉鎖した状態で、蓄電装置とコンデンサとの間にd軸電流としてリップル電流が流れるようにインバータがスイッチング制御される。蓄電装置にd軸電流としてリップル電流が流れることで、回転電機を停止状態に維持したまま蓄電装置の充放電が繰り返され、蓄電装置が昇温する。また、コンデンサにリップル電流が流れることで、コンデンサの電圧が変動する。この場合、コンデンサに意図せずに大きなリップル電流が流れると、コンデンサの電圧が過剰に増大し、コンデンサが過電圧状態となることが懸念される。
【0009】
この点、上記構成では、コンデンサが過電圧状態となる過電圧条件が成立したと判定された場合に、電源スイッチを閉鎖した状態で、上アームスイッチ及び下アームスイッチのうち一方において全相を開放するとともに、他方において、少なくとも1相を閉鎖し且つ回転電機との間で電流を還流させる状態制御を実施するようにした。これにより、インバータとコンデンサとが電気的に遮断され、コンデンサに蓄えられた電荷が蓄電装置に放電される。その結果、コンデンサが過電圧状態に維持されることを抑制することができる。この場合に、放電後のコンデンサの電圧は蓄電装置の電圧に制御され、例えば電源スイッチが開放された場合のようにコンデンサの電圧が過度に低下することを抑制することができる。さらに、回転電機の各相の巻線に流れる電流は、回転電機とインバータとの間で還流し、コンデンサへと還流することを抑制することができる。このため、コンデンサを保護しつつ蓄電装置の適切な昇温を実施することができる。
【0010】
第2の手段では、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチには、ダイオードがそれぞれ逆並列接続されており、前記制御部は、前記状態制御において、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのうち、一方において全相を開放するとともに、他方において、一部の相を閉鎖し且つ残りの相を開放する。
【0011】
上記構成では、回転電機の各相の巻線に流れる電流を、回転電機とインバータとの間で還流させる場合に、上アームスイッチ及び下アームスイッチのうち、電流が還流するスイッチの一部が閉鎖し、残りが開放されるようにした。これにより、開放されているスイッチでは、並列接続されたダイオードに電流が還流することととなり、スイッチに電流が流れる場合に比べて、より多くの電力損失を発生させることができる。このため、回転電機の各相の巻線に流れる電流を早期に収束させることができ、蓄電装置の適切な昇温を実施することができる。
【0012】
第3の手段では、前記制御部は、前記状態制御において、前記上アームスイッチにおいて、少なくとも1相を閉鎖し且つ前記回転電機との間で電流を還流させるとともに、前記下アームスイッチにおいて全相を開放する第1状態と、前記上アームスイッチにおいて全相を開放するとともに、前記下アームスイッチにおいて、少なくとも1相を閉鎖し且つ前記回転電機との間で電流を還流させる第2状態と、を交互に切り替える。
【0013】
回転電機の各相の巻線に流れる電流を、回転電機とインバータとの間で還流させる場合には、各相の上アームスイッチ及び下アームスイッチの開閉状態を順次切り替える必要があり、これらのスイッチを切り替える切替期間が必要となる。切替期間は、還流による電力損失が発生しない期間であるため、短いことが好ましい。この場合に、例えば第1状態から第1状態に切り替える場合、上アームスイッチの開放が完了した後に上アームスイッチを閉鎖しなければならず、切替期間が延長される。一方、第1状態から第2状態に切り替える場合、上アームスイッチを開放している間に下アームスイッチの閉鎖を開始することができ、切替期間を短縮することができる。つまり、第1状態と第2状態とを交互に切り替えることで、より多くの電力損失を発生させることができ、回転電機の各相の巻線に流れる電流を早期に収束させることができる。その結果、蓄電装置の適切な昇温を実施することができる。
【0014】
第4の手段では、前記制御部は、前記判定部により前記過電圧条件が成立したと判定された場合に、前記状態制御を実施せず前記昇温制御を実施する期間と、前記状態制御を実施する期間とを交互に切り替える。
【0015】
コンデンサが過電圧状態となった場合に、状態制御が実施されずに昇温制御が継続されると、回転電機の各相の巻線に流れる電流を蓄電装置へと還流させることができ、回転電機の各相の巻線に流れる電流を早期に収束させることができる。この場合、電流はコンデンサにも還流することでコンデンサが過電圧状態に維持されることが懸念される。この点、上記構成では、昇温制御を実施する期間と、状態制御を実施する期間とを交互に切り替えるようにした。これにより、コンデンサが過電圧状態に維持されることを抑制しつつ、回転電機の各相の巻線に流れる電流を早期に収束させることができる。その結果、コンデンサを保護しつつ蓄電装置の適切な昇温を実施することができる。
【0016】
第5の手段では、前記電源スイッチは、メインスイッチと、サブスイッチ及び抵抗体が直列接続され且つ前記メインスイッチに並列接続された直列接続体と、を有しており、前記制御部は、前記状態制御において前記サブスイッチを閉鎖するとともに、前記メインスイッチを開放する。
【0017】
上記構成によれば、コンデンサに蓄えられた電荷が蓄電装置に放電される場合に、抵抗体を介して電荷が放電されるため、コンデンサの放電が緩やかになり、蓄電装置に大電流が流れて劣化することを抑制することができる。また、抵抗体を介して電荷が放電されるため、より多くの電力損失を発生させることができる。これにより、コンデンサの放電期間を短縮することができ、コンデンサを適切に保護することができる。
【0018】
第6の手段では、前記判定部は、前記コンデンサの電圧が所定値よりも高くなること、前記回転電機に流れる電流が所定値よりも大きくなること、及び前記蓄電装置に流れる電流が所定値よりも大きくなることの少なくとも1つが生じた場合に、前記過電圧条件が成立したと判定する。
【0019】
上記構成によれば、コンデンサの電圧、回転電機に流れる電流、及び蓄電装置に流れる電流の少なくとも1つを用いて、コンデンサが過電圧状態となったことを適切に判定することができる。
【0020】
第7の手段では、前記判定部は、前記蓄電装置の昇温期間が所定の期間閾値よりも長くなった場合に、前記過電圧条件が成立したと判定する。
【0021】
上記構成によれば、蓄電装置の昇温期間を用いてコンデンサが過電圧状態となることを適切に判定することができ、コンデンサが過電圧状態となることを抑制することができる。
【0022】
第8の手段では、前記蓄電装置の昇温開始時の温度に基づいて前記期間閾値を設定する設定部を備え、前記設定部は、前記温度が低いほど前記期間閾値を短く設定する。
【0023】
蓄電装置の昇温開始時の温度が低いほど、蓄電装置の昇温期間が長くなり、コンデンサが過電圧状態となりやすくなる。上記構成によれは、蓄電装置の昇温開始時の温度が低いほど、期間閾値を短く設定するため、コンデンサが過電圧状態となることを適切に抑制することができる。
【0024】
第9の手段では、前記制御部は、前記過電圧条件が成立したと判定した後に、前記コンデンサの電圧が所定範囲に収束し、且つ前記回転電機に流れる電流が所定範囲に収束したこと、及び前記状態制御の実施期間が所定期間以上経過したことの少なくとも一方が生じた場合に、前記状態制御を終了する。
【0025】
上記構成によれば、コンデンサの電圧及び回転電機に流れる電流と、状態制御の実施期間との少なくとも一方を用いて、状態制御を適切に終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】第1実施形態における昇温制御処理の手順を示すフローチャート。
【
図3】昇温制御及び状態制御において電源システムに流れる電流を示す図。
【
図5】第1実施形態の第2変形例における昇温制御処理を説明する図。
【
図6】第1実施形態の第3変形例における昇温制御処理を説明する図。
【
図7】第2実施形態における昇温制御処理の手順を示すフローチャート。
【
図8】昇温開始時の電池温度と期間閾値との相関関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る昇温制御装置を車載の電源システム10に適用した実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1に示すように、電源システム10は、電力変換器としてのインバータ30を介して、蓄電装置である組電池20と回転電機40との間で電力の入出力を行うシステムである。
【0029】
回転電機40は、3相の同期機であり、ステータ巻線として星形結線されたU,V,W相巻線41U,41V,41Wを有している。各相巻線41U,41V,41Wは、電気角で120°ずつずれて配置されている。回転電機40は、例えば永久磁石同期機である。本実施形態において、回転電機40は車載主機であり、車両の走行動力源となる。回転電機40は誘導機であってもよい。
【0030】
インバータ30は、上アームスイッチQUH,QVH,QWHと下アームスイッチQUL,QVL,QWLとの直列接続体を3相分備えている。本実施形態では、各スイッチとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、具体的にはIGBTが用いられている。各スイッチには、フリーホイールダイオードとしての各ダイオードDUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWLが逆並列に接続されている。
【0031】
U相上アームスイッチQUHの低電位側端子と、U相下アームスイッチQULの高電位側端子との接続点には、バスバー等のU相導電部材32Uを介して、回転電機40のU相巻線41Uの第1端が接続されている。V相上アームスイッチQVHの低電位側端子と、V相下アームスイッチQVLの高電位側端子との接続点には、バスバー等のV相導電部材32Vを介して、回転電機40のV相巻線41Vの第1端が接続されている。W相上アームスイッチQWHの低電位側端子と、W相下アームスイッチQWLの高電位側端子との接続点には、バスバー等のW相導電部材32Wを介して、回転電機40のW相巻線41Wの第1端が接続されている。U,V,W相巻線41U,41V,41Wの第2端同士は、中性点Oで接続されている。なお、本実施形態において、各相巻線41U,41V,41Wは、ターン数が同じに設定されている。これにより、各相巻線41U,41V,41Wは、例えばインダクタンスが同じに設定されている。
【0032】
各上アームスイッチQUH,QVH,QWHの高電位側端子と、組電池20の正極端子とは、バスバー等の正極側電気経路Lpにより接続されている。各下アームスイッチQUL,QVL,QWLの低電位側端子と、組電池20の負極端子とは、バスバー等の負極側電気経路Lnにより接続されている。
【0033】
インバータ30内には、正極側電気経路Lpと負極側電気経路Lnとの間に接続されたコンデンサ(平滑化コンデンサ)31が設けられている。なお、コンデンサ31は、インバータ30の外部に設けられていてもよい。
【0034】
組電池20は、単電池としての電池セル21の直列接続体として構成されており、端子電圧が例えば数百Vとなるものである。本実施形態では、組電池20を構成する各電池セル21の端子電圧(例えば定格電圧)が互いに同じに設定されている。電池セル21としては、例えば、リチウムイオン電池や、ニッケル水素蓄電池を用いることができる。
【0035】
電源システム10は、メインスイッチとしての第1メインリレーMR1及び第2メインリレーMR2を備えている。第1メインリレーMR1は、正極側電気経路Lpにおいて組電池20とコンデンサ31との間に設けられており、第2メインリレーMR2は、負極側電気経路Lnにおいて組電池20とコンデンサ31との間に設けられている。第1,第2メインリレーMR1,MR2により、組電池20と回転電機40との間における通電及び通電遮断が切り替えられる。
【0036】
第1メインリレーMR1には、サブスイッチとしてのプリチャージリレーPRと抵抗体Reとの直列接続体が並列接続されている。組電池20と回転電機40との間における通電開始時において、第1メインリレーMR1に代えてプリチャージリレーPRが閉鎖されることで、組電池20と回転電機40との間に突入電流が流れることを抑制することができる。本実施形態では、各リレーとして、機械式のリレースイッチが用いられている。なお、本実施形態において、第1,第2メインリレーMR1,MR2、プリチャージリレーPR、及び抵抗体Reが「電源スイッチ」に相当する。
【0037】
電源システム10は、相電流センサ61と、電池電流センサ62と、電圧センサ63と、温度センサ64とを備えている。相電流センサ61は、各相の導電部材32U,32V,32Wにそれぞれ1つずつ設けられ、各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWをそれぞれ検出する。
【0038】
電池電流センサ62は、負極側電気経路Lnにおいて第2メインリレーMR2よりも組電池20側に設けられ、組電池20に流れる電池電流IBを検出する。電圧センサ63は、コンデンサ31に印加される電圧であるコンデンサ電圧VCを検出する。温度センサ64は、組電池20の温度である電池温度TBを検出する。各センサ61~64の検出値は、電源システム10が備える制御装置70に入力される。
【0039】
昇温制御装置としての制御装置70は、マイコンを主体として構成され、自身が備える記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種制御機能を実現する。制御装置70は、回転電機40の制御量をその指令値にフィードバック制御すべく、インバータ30を構成する各スイッチのスイッチング制御を行う。これにより、電源システム10は、組電池20の直流電力を交流電力に変換し、回転電機40に供給する。制御量は、例えばトルクである。
【0040】
制御装置70は、第1,第2メインリレーMR1,MR2及びプリチャージリレーPRを開閉制御する。
【0041】
制御装置70は、組電池20を昇温する昇温制御を実施する機能を有している。昇温制御は、例えば車両停止時など、回転電機40の停止時に実施される。昇温制御において、制御装置70は、第1,第2メインリレーMR1,MR2を閉鎖した状態で、組電池20と回転電機40との間にd軸電流を流すようにインバータ30のスイッチング制御を行う。具体的には、組電池20、電気経路Lp,Ln、インバータ30、及び導電部材32U,32V,32Wにおけるインダクタンス成分とコンデンサ31との共振を利用して、d軸電流を上げ下げする。昇温制御では、d軸電流の上げ下げに起因して組電池20が充放電を繰り返すことにより、組電池20が昇温する。なお、回転電機40にd軸電流が流れても、回転電機40のトルクはゼロに維持される。
【0042】
ところで、組電池20と回転電機40との間に流れるd軸電流が上げ下げされることにより、コンデンサ31にd軸電流としてリップル電流IRが流れ、コンデンサ電圧VCが変動する。この場合、コンデンサ31に意図せずに大きなリップル電流IRが流れると、コンデンサ31の電圧が過剰に上昇し、コンデンサ31が過電圧状態となることが懸念される。
【0043】
そこで、本実施形態では、コンデンサ31が過電圧状態となる過電圧条件が成立したと判定された場合に、第1,第2メインリレーMR1,MR2を閉鎖した状態で、上アームスイッチQUH,QVH,QWH及び下アームスイッチQUL,QVL,QWLのうち一方を開放し、他方を閉鎖する状態制御を実施するようにした。具体的には、状態制御において、全相の上アームスイッチQUH,QVH,QWHを開放し、全相の下アームスイッチQUL,QVL,QWLを閉鎖する、いわゆるゼロベクトル出力状態とするようにした。これにより、インバータ30とコンデンサ31とを電気的に遮断することができ、コンデンサ31を保護しつつ組電池20の適切な昇温を実施することができる。
【0044】
図2に、本実施形態の昇温制御処理のフローチャートを示す。制御装置70は、車両の起動タイミングにおける電池温度TBが所定の温度閾値TBthよりも低い場合に、回転電機40の動作が開始されるまでの期間において、所定周期ごとに昇温制御処置を繰り返し実施する。
【0045】
昇温制御処理を開始すると、ステップS11では、組電池20の昇温制御を終了するか否かを判定する。具体的には、所定の昇温終了条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態において、昇温終了条件には、(1)電池温度TBが温度閾値TBthよりも高くなること、及び(2)電源システム10の外部に設けられた上位制御装置から昇温制御停止命令を受信したことが含まれる。昇温終了条件の少なくとも1つが成立している場合には、本処理を一旦終了する。一方、昇温終了条件の全てが成立していない場合には、ステップS12に進む。
【0046】
ステップS12では、過電圧フラグFgが「0」に設定されているか否かを判定する。過電圧フラグFgは、車両の起動タイミングにおいて「0」に設定されており、コンデンサ31が過電圧状態でない場合には、「0」に設定される。一方、昇温制御処理においてコンデンサ31が過電圧状態である場合には、過電圧フラグFgは「1」に設定される。過電圧フラグFgが「0」に設定されている場合には、ステップS13に進む。一方、過電圧フラグFgが「1」に設定されている場合には、ステップS21に進む。
【0047】
ステップS13では、コンデンサ31が過電圧状態であるか否かを判定する。具体的には、コンデンサ31が過電圧状態となる過電圧条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態において、過電圧条件には、(1)コンデンサ電圧VCが所定の電圧閾値VCthよりも高くなること、(2)相電流IU,IV,IWの少なくとも1つが所定の相電流閾値ISthよりも大きくなること、及び(3)電池電流IBが所定の電池電流閾値IBthよりも大きくなることが含まれる。
【0048】
過電圧条件の全てが成立していない場合には、コンデンサ31が過電圧状態でないと判定し、ステップS14に進む。ステップS14では、昇温制御を実施し、本処理を一旦終了する。
【0049】
一方、過電圧条件の少なくとも1つが成立している場合には、コンデンサ31が過電圧状態であると判定し、ステップS15に進む。なお、コンデンサ31が過電圧状態となる原因には、制御装置70からインバータ30に出力されるスイッチング制御指令がノイズ等により、一時的に伝達されなかったことが含まれる。ステップS15では、過電圧フラグFgを「1」に設定し、ステップS24に進む。ステップS24では、状態制御を実施し、本処理を一旦終了する。なお、本実施形態において、ステップS13の処理が「判定部」に相当し、ステップS24の処理が「制御部」に相当する。
【0050】
ステップS21では、コンデンサ31が異常状態であるか否かを判定する。異常状態とは、コンデンサ31が過電圧状態となった後に状態制御を実施したにも関わらず、コンデンサ電圧VCが電圧閾値VCthよりも上昇している状態である。ステップS21では、所定の異常条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態において、異常条件には、(1)コンデンサ電圧VCが、電圧閾値VCthよりも高い値に設定された電圧異常閾値VCXthよりも高くなること、(2)相電流IU,IV,IWの少なくとも1つが、相電流閾値ISthよりも大きい値に設定された相電流異常閾値ISXthよりも大きくなること、及び(3)電池電流IBが、電池電流閾値IBthよりも大きい値に設定された電池電流異常閾値IBXthよりも大きくなることが含まれる。
【0051】
異常条件の少なくとも1つが成立している場合には、コンデンサ31が異常状態であると判定し、ステップS22に進む。なお、コンデンサ31が異常状態となる原因には、インバータ30を構成する少なくとも1つのスイッチに一時的ではない異常が発生したことが含まれる。ステップS22では、第1,第2メインリレーMR1,MR2及びプリチャージリレーPRを開放する開放制御を実施し、本処理を一旦終了する。
【0052】
一方、異常条件の全てが成立していない場合には、コンデンサ31が異常状態でないと判定し、ステップS23に進む。ステップS23では、コンデンサ31が過電圧状態から回復し、過電圧状態でなくなったか否かを判定する。具体的には、所定の回復条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態において、回復条件には、(1)コンデンサ電圧VCが電池電圧を基準とした所定の電圧範囲に一定時間以上収まっており、且つ相電流IU,IV,IWの全てがゼロを基準とした所定の電流範囲に一定時間以上収まっていること、及び(2)状態制御の実施期間が所定期間以上経過したことが含まれる。電池電圧は、例えば車両の起動タイミングにおけるコンデンサ電圧VCである。
【0053】
回復条件の全てが成立していない場合には、コンデンサ31が過電圧状態であると判定し、ステップS24に進む。一方、回復条件の少なくとも1つが成立している場合には、コンデンサ31が過電圧状態でなくなったと判定し、ステップS25に進む。ステップS25では、過電圧フラグFgを「0」に設定し、ステップS14に進む。
【0054】
続いて、
図3,
図4に、昇温制御及び状態制御におけるコンデンサ電圧VCの変動の推移について説明する。なお、
図3では、各センサ61~64及び制御装置70等の記載が省略されている。
図5~
図7についても同様である。
【0055】
図3(A)に示すように、昇温制御では、コンデンサ31による共振作用により組電池20と回転電機40との間に流れるd軸電流が上げ下げされ、相電流IU,IV,IWが変動する。なお、
図4(B)に示すように、相電流IU,IV,IWは、d軸電流となるように制御されているため、例えば回転電機40の動作時のように電気角で120°ずつずれた波形とはならない。
【0056】
図4(C)に示すように、相電流IU,IV,IWの変動に同期して電池電流IBが変動する。電池電流IBが正負で変動することで、組電池20が充放電を繰り返し、組電池20が昇温する。
【0057】
図4(A)に示すように、組電池20と回転電機40との間に流れるd軸電流が上げ下げされることで、コンデンサ31にd軸電流としてリップル電流IRが流れ、コンデンサ電圧VCが変動する。
図4(A)に示す例では、時刻t1~t2の期間において、コンデンサ電圧VCは電圧閾値VCthよりも低くなるように制御されているが、時刻t2において、コンデンサ電圧VCが電圧閾値VCthよりも高くなり、過電圧状態となる。
【0058】
過電圧状態となると、状態制御が実施される。
図3(B)に示すように、状態制御では、全相の上アームスイッチQUH,QVH,QWHが開放(OFF)され、全相の下アームスイッチQUL,QVL,QWLが閉鎖(ON)される。これにより、インバータ30とコンデンサ31とが電気的に遮断され、コンデンサ31に蓄えられた電荷は組電池20に放電される。これにより、
図4(A)に示すように、コンデンサ電圧VCが所定の時定数で低下し、コンデンサ31が過電圧状態に維持されることが抑制される。
【0059】
この場合に、放電後のコンデンサ電圧VCは電池電圧に制御され、例えば第1,第2メインリレーMR1,MR2が開放された場合のようにコンデンサ電圧VCが過度に低下することが抑制される。放電後のコンデンサ電圧VCが過度に低下すると、コンデンサ31が過電圧状態から回復し、昇温制御を再開する場合に、コンデンサ電圧VCが電池電圧となるまでコンデンサ31を充電する必要があり、昇温制御に必要な電力が増大するとともに、昇温制御を再開するまでの期間が長くなる。本実施形態では、コンデンサ電圧VCが過度に低下することが抑制されるため、組電池20を適切に昇温させることができる。
【0060】
また、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWは、回転電機40とインバータ30の下アームスイッチQUL,QVL,QWLとの間で還流し、インバータ30を構成する各スイッチに逆並列接続されたダイオードを介してコンデンサ31へと還流することが抑制される。
【0061】
本実施形態では、第1,第2メインリレーMR1,MR2として機械式のリレースイッチが用いられているため、第1,第2メインリレーMR1,MR2の開閉制御に必要な期間は、半導体スイッチング素子である上アームスイッチQUH,QVH,QWH及び下アームスイッチQUL,QVL,QWLの開放制御に必要な期間よりも長い。そのため、コンデンサ電圧VCが過電圧状態となった場合に、第1,第2メインリレーMR1,MR2を開放しようとしても、コンデンサ31の保護が遅れるおそれがある。本実施形態では、コンデンサ電圧VCが過電圧状態となった場合に、上アームスイッチQUH,QVH,QWHを開放し、下アームスイッチQUL,QVL,QWLを閉鎖するため、コンデンサ31を適切に保護することができる。
【0062】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0063】
コンデンサ31が過電圧状態となる過電圧条件が成立したと判定された場合に、第1,第2メインリレーMR1,MR2を閉鎖した状態で、上アームスイッチQUH,QVH,QWHにおいて全相を開放するとともに、下アームスイッチQUL,QVL,QWLにおいて全相を閉鎖する状態制御を実施するようにした。これにより、インバータ30とコンデンサ31とが電気的に遮断され、コンデンサ31に蓄えられた電荷が組電池20に放電される。その結果、コンデンサ31が過電圧状態となることを抑制することができる。この場合に、放電後のコンデンサ電圧VCは電池電圧に制御され、例えば第1,第2メインリレーMR1,MR2が開放された場合のようにコンデンサ電圧VCが過度に低下することを抑制することができる。さらに、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWは、回転電機40とインバータ30の下アームスイッチQUL,QVL,QWLとの間で還流し、コンデンサ31へと還流することを抑制することができる。このため、コンデンサ31を保護しつつ組電池20の適切な昇温を実施することができる。
【0064】
本実施形態によれば、コンデンサ電圧VC、相電流IU,IV,IW、及び電池電流IBの少なくとも1つを用いて、コンデンサ31が過電圧状態となったことを適切に判定することができる。また、コンデンサ電圧VC及び相電流IU,IV,IWと、状態制御の実施期間との少なくとも一方を用いて、状態制御を適切に終了させることができる。
【0065】
(第1実施形態の第1変形例)
図3(B)に示すように、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWが、回転電機40とインバータ30との間で還流する場合には、閉鎖された下アームスイッチQUL,QVL,QWLのうちの1相又は2相(
図3(B)ではU相下アームスイッチQUL)において、電流が低電位側端子から高電位側端子に流れる。この場合、電流が低電位側端子から高電位側端子に流れるスイッチを開放するようにしてもよい。つまり、下アームスイッチQUL,QVL,QWLにおいて、一部の相を閉鎖し且つ残りの相を開放するようにしてもよい。
【0066】
電流が低電位側端子から高電位側端子に流れるスイッチを開放することで、電流はそのスイッチに逆並列接続されたダイオードを流れることになり、スイッチに電流が流れる場合に比べて、より多くの電力損失を発生させることができる。このため、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWを早期に収束させることができ、組電池20の適切な昇温を実施することができる。
【0067】
(第1実施形態の第2変形例)
状態制御において、上アームスイッチQUH,QVH,QWHにおいて全相を開放し、下アームスイッチQUL,QVL,QWLにおいて全相を閉鎖する代わりに、上アームスイッチQUH,QVH,QWHにおいて全相を閉鎖し、下アームスイッチQUL,QVL,QWLにおいて全相を開放するようにしてもよい。また、
図5に示すように、上アームスイッチQUH,QVH,QWHにおいて全相を閉鎖し、下アームスイッチQUL,QVL,QWLにおいて全相を開放する第1状態と、上アームスイッチQUH,QVH,QWHにおいて全相を開放し、下アームスイッチQUL,QVL,QWLにおいて全相を閉鎖する第2状態と、を交互に切り替えるようにしてもよい。
【0068】
回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWを、回転電機40とインバータ30との間で還流させる場合には、各相の上アームスイッチQUH,QVH,QWH及び下アームスイッチQUL,QVL,QWLの開閉状態を順次切り替える必要があり、これらのスイッチを切り替える切替期間が必要となる。切替期間は、還流による電力損失が発生しない期間であるため、短いことが好ましい。
【0069】
この場合に、例えば第1状態から第1状態に切り替える場合、上アームスイッチQUH,QVH,QWHの開放が完了した後に上アームスイッチQUH,QVH,QWHを閉鎖しなければならず、切替期間が延長される。一方、第1状態から第2状態に切り替える場合、上アームスイッチQUH,QVH,QWHと下アームスイッチQUL,QVL,QWLとが同時に閉鎖されない範囲において、上アームスイッチQUH,QVH,QWHを開放している間に下アームスイッチQUL,QVL,QWLの閉鎖を開始することができ、切替期間を短縮することができる。つまり、第1状態と第2状態とを交互に切り替えることで、より多くの電力損失を発生させることができ、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWを早期に収束させることができる。その結果、組電池20の適切な昇温を実施することができる。
【0070】
(第1実施形態の第3変形例)
図6に示すように、状態制御において、第1メインリレーMR1に代えてプリチャージリレーPRを閉鎖してもよい。これにより、コンデンサ31に蓄えられた電荷が組電池20に放電される場合に、抵抗体Reを介して電荷が放電されるため、コンデンサ31の放電が緩やかになり、組電池20に大電流が流れて劣化することを抑制することができる。また、抵抗体Reを介して電荷が放電されるため、より多くの電力損失を発生させることができる。これにより、新たな構成を追加することなくコンデンサ31の放電期間を短縮することができ、コンデンサ31を適切に保護することができる。
【0071】
(第1実施形態の第4変形例)
コンデンサ31が過電圧状態となった場合に、昇温制御のみが実施されることに代えて、昇温制御と状態制御とを交互に実施するようにしてもよい。つまり、状態制御を実施せず昇温制御を実施する期間と、状態制御を実施する期間とを交互に切り替えるようにしてもよい。
【0072】
コンデンサ31が過電圧状態となった場合に、状態制御が実施されずに昇温制御が継続されると、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWを組電池20へと還流させることができ、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWを早期に収束させることができる。この場合、電流はコンデンサ31にも還流することでコンデンサ31が過電圧状態に維持されることが懸念される。
【0073】
一方、コンデンサ31が過電圧状態となった場合に、昇温制御が実施されずに状態制御が実施されると、状態制御によりコンデンサ電圧VCが低下し、コンデンサ31が過電圧状態に維持されることが抑制される。しかしながら、例えば回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWの大きさによっては、これらの相電流IU,IV,IWを早期に収束させることができず、昇温制御の再開が遅れてしまうことが懸念される。
【0074】
この点、本変形例では、昇温制御を実施する期間と、状態制御を実施する期間とを交互に切り替えるようにした。これにより、コンデンサ31が過電圧状態に維持されることを抑制しつつ、回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wに流れる相電流IU,IV,IWを早期に収束させることができる。その結果、コンデンサ31を保護しつつ組電池20の適切な昇温を実施することができる。なお、昇温制御を実施する期間と、状態制御を実施する期間との割合は、例えばコンデンサ31が過電圧状態となったタイミングにおける相電流IU,IV,IWの大きさに基づいて設定されればよい。
【0075】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に
図7,
図8を参照しつつ説明する。
【0076】
本実施形態では、昇温制御処理における過電圧条件が第1実施形態と異なる。本実施形態において、過電圧条件には、組電池20の昇温期間LSが所定の期間閾値LSthよりも長くなったことが含まれる。本実施形態の昇温制御処理には、この期間閾値LSthを設定する処理が含まれる。
【0077】
図8に、本実施形態の昇温制御処理のフローチャートを示す。
図7において、先の
図2に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0078】
本実施形態の昇温制御処理では、ステップS11で否定判定すると、ステップS31において、期間閾値LSthを設定し、ステップS12に進む。電源システム10では、昇温動作が継続されると、電池温度TBの上昇に伴ってコンデンサ31に流れるリップル電流IRが意図せず増大し、コンデンサ31が過電圧状態となることがある。期間閾値LSthは、昇温動作が継続された場合にコンデンサ31が過電圧状態となる期間よりも短い期間に設定される。そのため、期間閾値LSthを用いることで、コンデンサ31が過電圧状態となる前に、コンデンサ31が過電圧状態となるおそれがあるか否かを判定することができる。なお、本実施形態において、ステップS31の処理が「設定部」に相当する。
【0079】
ステップS13では、コンデンサ31が過電圧状態であるか否かを判定する。本実施形態では、第1実施形態における(1)~(3)の過電圧条件に加えて、(4)組電池20の昇温期間LSが期間閾値LSthよりも長くなったことが判定される。そのため、組電池20の昇温期間LSが期間閾値LSthよりも長くなった場合には、コンデンサ31が過電圧状態でないと判定し、ステップS14に進む。
【0080】
なお、ステップS31では、例えば車両の起動タイミングにおける電池温度TBなど、昇温開始時の電池温度TBに基づいて期間閾値LSthを設定する。
図8に、昇温開始時の電池温度TBと期間閾値LSthとの相関関係を示す。本実施形態では、昇温開始時の電池温度TBが低いほど期間閾値LSthが短く設定される。昇温開始時の電池温度TBが低いほど、組電池20の昇温期間LSが長くなり、コンデンサ31が過電圧状態となりやすくなる。昇温開始時の電池温度TBが低いほど期間閾値LSthが短く設定されることで、コンデンサ31が過電圧状態となることを適切に抑制することができる。
【0081】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0082】
本実施形態によれば、組電池20の昇温期間LSを用いてコンデンサ31が過電圧状態となることを適切に判定することができ、コンデンサ31が過電圧状態となることを抑制することができる。
【0083】
過電圧状態の判定では、組電池20の昇温期間LSが期間閾値LSthよりも長くなったことが判定される。本実施形態では、組電池20の昇温開始時の電池温度TBが低いほど、期間閾値LSthを短く設定するようにした。これにより、組電池20の昇温期間LSが長くなりやすい低温時において、コンデンサ31が過電圧状態となることを適切に抑制することができる。
【0084】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0085】
・上アームスイッチQUH,QVH,QWH及び下アームスイッチQUL,QVL,QWLにおいて、ダイオードDUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWLは必須ではない。下アームスイッチQUL,QVL,QWLにダイオードDUL,DVL,DWLが存在する場合、下アームスイッチQUL,QVL,QWLと回転電機40との間で電流を還流させるためには、少なくとも1相において、下アームスイッチQUL,QVL,QWLが閉鎖されればよい。一方、下アームスイッチQUL,QVL,QWLにダイオードDUL,DVL,DWLが存在しない場合、下アームスイッチQUL,QVL,QWLと回転電機40との間で電流を還流させるためには、少なくとも2相において、下アームスイッチQUL,QVL,QWLが閉鎖される必要がある。
【0086】
・第2メインリレーMR2は必須ではない。また、第1実施形態の第3変形例以外の実施形態及び変形例において、プリチャージリレーPRは必須ではない。
【0087】
・回転電機40及びインバータ30としては、5相又は7相等、3相以外のものであってもよい。
【0088】
・回転電機40の各相の巻線41U,41V,41Wは、星形結線ではなくデルタ結線されていてもよい。
【0089】
・インバータ30を構成する各スイッチとしては、IGBTに限らず、例えばNチャネルMOSFETであってもよい。
【0090】
・本開示に記載の昇温制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の昇温制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の昇温制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0091】
10…電源システム、20…組電池、30…インバータ、31…コンデンサ、40…回転電機、41U,41V,41W…巻線、70…制御装置、Ln…負極側電気経路、Lp…正極側電気経路、MR1,MR2…メインリレー、PR…プリチャージリレー、QUH,QVH,QWH…上アームスイッチ、QUL,QVL,QWL…下アームスイッチ、Re…抵抗体。