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特許7593282車両、車両の制御方法および車両制御インターフェースボックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】車両、車両の制御方法および車両制御インターフェースボックス
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241126BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20241126BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20241126BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20241126BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/045
B60W60/00
B62D101:00
B62D113:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021157625
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048356
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁真
(72)【発明者】
【氏名】渡 裕司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 栄祐
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-123140(JP,A)
【文献】特開2021-123146(JP,A)
【文献】特開2002-331952(JP,A)
【文献】特開2019-177837(JP,A)
【文献】特開2018-132015(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0197890(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017202598(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B60W 30/045
B60W 60/00
B62D 101/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転システムを搭載可能な車両であって、
前記自動運転システムからのコマンドに従って車両制御を実行する車両プラットフォームを備え、
前記車両プラットフォームは、ベース車両と、前記自動運転システムと前記ベース車両との間のインターフェースを行なう車両制御インターフェースボックスとを含み、
前記自動運転システムから前記ベース車両へは、操舵輪の切れ角を要求するタイヤ切れ角コマンドが前記車両制御インターフェースボックスを介して送信され、
前記ベース車両から前記自動運転システムへは、前記切れ角を示すシグナルが送信され、
前記自動運転システムは、
前記車両が直進状態である場合の前記切れ角を示す値を基準値に設定し、
前記切れ角の現在値と、自動運転の走行計画によって定められた操舵角に対応した前記切れ角を前記基準値に加算または前記基準値から減算することによって算出される値との相対値を算出し、
前記車両の速度を用いて設定される、前記切れ角の角速度の制限範囲を超えないように、前記タイヤ切れ角コマンドによって要求される前記切れ角を、前記相対値を用いて設定する、車両。
【請求項2】
前記制限範囲は、前記車両の速度が第1速度である場合の前記角速度の上限値の大きさが、前記車両の速度が前記第1速度よりも低い第2速度である場合の前記角速度の上限値の大きさよりも低くなるように設定される、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
自動運転システムを搭載可能な車両の制御方法であって、前記車両は、前記自動運転システムからのコマンドに従って車両制御を実行する車両プラットフォームを含み、前記車両プラットフォームは、ベース車両と、前記自動運転システムと前記ベース車両との間のインターフェースを行なう車両制御インターフェースボックスとを含み、
前記自動運転システムから前記ベース車両に対して、操舵輪の切れ角を要求するタイヤ切れ角コマンドが前記車両制御インターフェースボックスを介して送信するステップと、
前記ベース車両から前記自動運転システムに対して、前記切れ角を示すシグナルを送信するステップと、
前記車両が直進状態である場合の前記切れ角を示す値を基準値に設定するステップと、
前記切れ角の現在値と、自動運転の走行計画によって定められた操舵角に対応した前記切れ角を前記基準値に加算または前記基準値から減算することによって算出される値との相対値を算出するステップと、
前記車両の速度を用いて設定される、前記切れ角の角速度の制限範囲を超えないように、前記タイヤ切れ角コマンドによって要求される前記切れ角を、前記相対値を用いて設定するステップとを含む、車両の制御方法。
【請求項4】
前記制限範囲は、前記車両の速度が第1速度である場合の前記角速度の上限値の大きさが、前記車両の速度が前記第1速度よりも低い第2速度である場合の前記角速度の上限値の大きさよりも低くなるように設定される、請求項3に記載の車両の制御方法。
【請求項5】
自動運転システムと、前記自動運転システムを搭載可能であって、かつ、前記自動運転システムからのコマンドに従って車両制御を実行する車両プラットフォームを備える車両との間のインターフェースを行なう車両制御インターフェースボックスであって、前記車両プラットフォームは、ベース車両を含み、
前記車両制御インターフェースボックスは、
前記自動運転システムから前記ベース車両に対して、操舵輪の切れ角を要求するタイヤ切れ角コマンドを送信し、
前記ベース車両から前記自動運転システムに対して、前記切れ角を示すシグナルを送信し、
前記車両が直進状態である場合の前記切れ角を示す値が基準値に設定され、
前記切れ角の現在値と、自動運転の走行計画によって定められた操舵角に対応した前記切れ角を前記基準値に加算または前記基準値から減算することによって算出される値との相対値が算出され、
前記タイヤ切れ角コマンドによって要求される前記切れ角は、前記車両の速度を用いて設定される、前記切れ角の角速度の制限範囲を超えないように前記相対値を用いて設定される、車両制御インターフェースボックス。
【請求項6】
前記制限範囲は、前記車両の速度が第1速度である場合の前記角速度の上限値の大きさが、前記車両の速度が前記第1速度よりも低い第2速度である場合の前記角速度の上限値の大きさよりも低くなるように設定される、請求項5に記載の車両制御インターフェースボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動運転中の車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユーザの操作を必要とせずに車両を走行させる自動運転システムの開発が進められている。自動運転システムは、たとえば、既存の車両に搭載可能にするためにインターフェースを介して車両とは別個に設けられる場合がある。
【0003】
このような自動運転システムとして、たとえば、特開2018-132015号公報(特許文献1)には、車両の動力を管理するECU(Electronic Control Unit)と自動運転用のECUを独立させることで、既存の車両プラットフォームに大きな変更を加えることなく、自動運転機能を付加することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-132015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の自動運転中においては、要求にしたがって操舵角を制御する場合において、操舵角の要求量の急増にともなって操舵角も急激に変化すると車両の安定性が悪化する場合がある。
【0006】
本開示は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、自動運転システムが搭載可能であって、自動運転中の操舵の安定性を向上させる車両、車両の制御方法および車両制御インターフェースボックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に係る車両は、自動運転システムを搭載可能な車両である。この車両は、自動運転システムからのコマンドに従って車両制御を実行する車両プラットフォームを備える。車両プラットフォームは、ベース車両と、自動運転システムとベース車両との間のインターフェースを行なう車両制御インターフェースボックスとを含む。自動運転システムからベース車両へは、操舵輪の切れ角を要求するタイヤ切れ角コマンドが車両制御インターフェースボックスを介して送信される。ベース車両から自動運転システムへは、切れ角を示すシグナルが送信される。タイヤ切れ角コマンドによって要求される切れ角は、車両の速度を用いて設定される、切れ角の角速度の制限範囲を超えないように設定される。
【0008】
このようにすると、操舵輪のタイヤ切れ角の要求量が急増した場合でも切れ角の角速度の制限範囲を超えないようにタイヤ切れ角コマンドが設定されるため、操舵角が急激に変化することが抑制される。そのため、車両の安定性の悪化を抑制することができる。
【0009】
ある実施の形態においては、制限範囲は、車両の速度が第1速度である場合の角速度の上限値の大きさが、車両の速度が第1速度よりも低い第2速度である場合の角速度の上限値の大きさよりも低くなるように設定される。
【0010】
このようにすると、車両の速度が高いほど切れ角の角速度の上限値の大きさが低くなるため、操舵角が急激に変化することが抑制される。そのため、車両の安定性の悪化を抑制することができる。
【0011】
本開示の他の局面に係る車両の制御方法は、自動運転システムを搭載可能な車両の制御方法である。車両は、自動運転システムからのコマンドに従って車両制御を実行する車両プラットフォームを含む。車両プラットフォームは、ベース車両と、自動運転システムとベース車両との間のインターフェースを行なう車両制御インターフェースボックスとを含む。この制御方法は、自動運転システムからベース車両に対して、操舵輪の切れ角を要求するタイヤ切れ角コマンドが車両制御インターフェースボックスを介して送信するステップと、ベース車両から自動運転システムに対して、切れ角を示すシグナルを送信するステップと、車両の速度を用いて設定される、切れ角の角速度の制限範囲を超えないように、タイヤ切れ角コマンドによって要求される切れ角を設定するステップとを含む。
【0012】
ある実施の形態においては、制限範囲は、車両の速度が第1速度である場合の角速度の上限値の大きさが、車両の速度が第1速度よりも低い第2速度である場合の角速度の上限値の大きさよりも低くなるように設定される。
【0013】
本開示のさらに他の局面に係る車両制御インターフェースボックスは、自動運転システムと、自動運転システムを搭載可能であって、かつ、自動運転システムからのコマンドに従って車両制御を実行する車両プラットフォームを備える車両との間のインターフェースを行なう車両制御インターフェースボックスである。車両プラットフォームは、ベース車両を含む。車両制御インターフェースボックスは、自動運転システムからベース車両に対して、操舵輪の切れ角を要求するタイヤ切れ角コマンドを送信する。車両制御インターフェースボックスは、ベース車両から自動運転システムに対して、切れ角を示すシグナルを送信する。タイヤ切れ角コマンドによって要求される切れ角は、車両の速度を用いて設定される、切れ角の角速度の制限範囲を超えないように設定される。
【0014】
ある実施の形態においては、制限範囲は、車両の速度が第1速度である場合の角速度の上限値の大きさが、車両の速度が第1速度よりも低い第2速度である場合の角速度の上限値の大きさよりも低くなるように設定される。
【発明の効果】
【0015】
本開示によると、自動運転システムが搭載可能であって、自動運転中の操舵の安定性を向上させる車両、車両の制御方法および車両制御インターフェースボックスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の実施の形態に係る車両の概要を示す図である。
図2】ADS、VCIBおよびVPの各構成を詳細に説明するための図である。
図3】ADSで実行される、基準値を設定する処理の一例を示すフローチャートである。
図4】自律モード中にADSで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図5】車速とタイヤ切れ角の角速度の制限値との関係を表形式で示した図である。
図6】車速とタイヤ切れ角の角速度の制限値との関係を示すマップである。
図7】VCIBで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0018】
図1は、本開示の実施の形態に係る車両10の概要を示す図である。図1を参照して、車両10は、自動運転キット(以下、「ADK(Autonomous Driving Kit)」と表記する。)200と、車両プラットフォーム(以下、「VP(Vehicle Platform)」と表記する。)120とを備える。ADK200とVP120とは、車両制御インターフェースを介して相互で通信が可能に構成されている。
【0019】
車両10は、VP120に取り付けられたADK200からの制御要求(コマンド)に従って自動運転を行なうことができる。なお、図1では、VP120とADK200とが離れた位置に示されているが、ADK200は、実際には後述するベース車両100のルーフトップ等に取り付けられる。なお、ADK200は、VP120から取り外すことも可能である。ADK200が取り外されている場合には、VP120は、ユーザの運転により走行することができる。この場合、VP120は、マニュアルモードによる走行制御(ユーザ操作に応じた走行制御)を実行する。
【0020】
ADK200は、車両10の自動運転を行なうための自動運転システム(以下、「ADS(Autonomous Driving System)」と表記する。)202を含む。ADS202は、たとえば、車両10の走行計画を作成し、作成された走行計画に従って車両10を走行させるための各種コマンド(制御要求)を、コマンド毎に定義されたAPI(Application Program Interface)に従ってVP120へ出力する。また、ADS202は、VP120の状態(車両状態)を示す各種信号を、信号毎に定義されたAPIに従ってVP120から受信し、受信した車両状態を走行計画の作成に反映する。ADS202の詳細な構成については、後ほど説明する。
【0021】
VP120は、ベース車両100と、ベース車両100内に設けられる車両制御インターフェースを実現する車両制御インターフェースボックス(以下、「VCIB(Vehicle Control Interface Box)」と表記する。)111を含む。
【0022】
VCIB111は、CAN(Controller Area Network)等を通じてADK200と
通信可能である。VCIB111は、通信される信号毎に定義された所定のAPIを実行することにより、ADK200から各種コマンドを受信し、また、VP120の状態をADK200へ出力する。すなわち、VCIB111は、ADK200から制御要求を受信すると、その制御要求に対応する制御コマンドを統合制御マネージャ115を介して制御コマンドに対応するシステムへ出力する。また、VCIB111は、ベース車両100の各種情報を各種システムから統合制御マネージャ115を介して取得し、ベース車両100の状態を車両状態としてADK200へ出力する。
【0023】
VP120は、ベース車両100を制御するための各種システムおよび各種センサを含む。VP120がADK200(より具体的には、ADS202)からの制御要求に従って各種車両制御を実行することにより、車両10の自動運転が行われる。VP120は、たとえば、ブレーキシステム121と、ステアリングシステム122と、パワートレーンシステム123と、アクティブセーフティシステム125と、ボディシステム126とを含む。
【0024】
ブレーキシステム121は、ベース車両100の各車輪に設けられる複数の制動装置を制御可能に構成される。制動装置は、たとえば、アクチュエータによって調整される油圧を用いて動作するディスクブレーキシステムを含む。
【0025】
ブレーキシステム121には、たとえば、車輪速センサ127A,127Bが接続される。車輪速センサ127Aは、たとえば、ベース車両100の前輪に設けられ、前輪の回転速度を検出する。車輪速センサ127Aは、前輪の回転速度をブレーキシステム121に出力する。車輪速センサ127Bは、たとえば、ベース車両100の後輪に設けられ、後輪の回転速度を検出する。車輪速センサ127Bは、後輪の回転速度をブレーキシステム121に出力する。車輪速センサ127A,127Bは、パルス信号を出力値(パルス値)として出力する。パルス信号のパルス数を用いて回転速度が算出され得る。ブレーキシステム121は、各車輪の回転速度を車両状態に含まれる情報の一つとしてVCIB111に出力する。
【0026】
ブレーキシステム121は、ADK200からVCIB111および統合制御マネージャ115を介して出力される所定の制御要求にしたがって制動装置に対する制動指令を生成し、生成された制動指令を用いて制動装置を制御する。
【0027】
ステアリングシステム122は、車両10の操舵輪の操舵角を操舵装置を用いて制御可能に構成される。操舵装置は、たとえば、アクチュエータにより操舵角の調整が可能なラック&ピニオン式のEPS(Electric Power Steering)を含む。
【0028】
ステアリングシステム122には、ピニオン角センサ128が接続される。ピニオン角センサ128は、操舵装置を構成するアクチュエータの回転軸に連結されたピニオンギヤの回転角(ピニオン角)を検出する。ピニオン角センサ128は、検出したピニオン角をステアリングシステム122に出力する。ステアリングシステム122は、ピニオン角を車両状態に含まれる情報の一つとしてVCIB111に出力する。
【0029】
ステアリングシステム122は、ADK200からVCIB111および統合制御マネージャ115を介して出力される所定の制御要求にしたがって操舵装置に対する操舵指令を生成する。ステアリングシステム122は、生成された操舵指令を用いて操舵装置を制御する。
【0030】
パワートレーンシステム123は、車両10に設けられる複数の車輪のうちの少なくともいずれかに設けられるEPB(Electric Parking Brake)と、車両10のトラッスミッションに設けられるP-Lock装置と、複数のシフトレンジのうちのいずれかのシフトレンジを選択可能に構成されるシフト装置と、車両10の駆動源とを制御する。詳細な説明は後述する。
【0031】
アクティブセーフティシステム125は、カメラ129Aおよびレーダセンサ129B,129Cを用いて前方あるいは後方の障害物等(障害物や人)を検出し、障害物等との距離や車両10の移動方向によって衝突の可能性があると判定する場合、統合制御マネージャ115を介して制動力が増加するようにブレーキシステム121に制動指令を出力する。
【0032】
ボディシステム126は、たとえば、車両10の走行状態あるいは走行環境等に応じて方向指示器、ホーンあるいはワイパー等の部品の制御が可能に構成される。ボディシステム126は、ADK200からVCIB111および統合制御マネージャ115を介して出力される所定の制御要求にしたがって上述の部品を制御する。
【0033】
なお、車両10は、MaaS(Mobility as a Service)システムの構成の一つとして採用され得る。MaaSシステムは、車両10に加えて、たとえば、データサーバと、モビリティサービス・プラットフォーム(以下、「MSPF(Mobility Service Platform)」と表記する。)と、自動運転関連のモビリティサービス(いずれも図示せず)とをさらに備える。
【0034】
車両10は、上述のデータサーバと無線通信するための通信I/F(インターフェース)としてDCM(Data Communication Module)(図示せず)をさらに備える。DCMは、たとえば、速度、位置、自動運転状態のような各種車両情報をデータサーバへ出力する。また、DCMは、たとえば、自動運転関連のモビリティサービスにおいて車両10を含む自動運転車両の走行を管理するための各種データを、モビリティサービスからMSPFおよびデータサーバを通じて受信する。
【0035】
MSPFは、各種モビリティサービスが接続される統一プラットフォームである。MSPFには、自動運転関連のモビリティサービスの他、図示しない各種モビリティサービス(たとえば、ライドシェア事業者、カーシェア事業者、保険会社、レンタカー事業者、タクシー事業者等により提供される各種モビリティサービス)が接続される。モビリティサービスを含む各種モビリティサービスは、MSPF上で公開されたAPIを用いて、MSPFが提供する様々な機能をサービス内容に応じて利用することができる。
【0036】
自動運転関連のモビリティサービスは、車両10を含む自動運転車両を用いたモビリティサービスを提供する。モビリティサービスは、MSPF上で公開されたAPIを用いて、たとえば、データサーバと通信を行なう車両10の運転制御データや、データサーバに蓄えられた情報等をMSPFから取得することができる。また、モビリティサービスは、上記APIを用いて、たとえば、車両10を含む自動運転車両を管理するためのデータ等をMSPFへ送信する。
【0037】
なお、MSPFは、ADSの開発に必要な車両状態及び車両制御の各種データを利用するためのAPIを公開しており、ADSの事業者は、データサーバに蓄えられた、ADSの開発に必要な車両状態及び車両制御のデータを上記APIとして利用することができる。
【0038】
図2は、ADS202、VCIB111およびVP120の各構成を詳細に説明するための図である。図2に示すように、ADS202は、コンピュータ210と、HMI(Human Machine Interface)230と、認識用センサ260と、姿勢用センサ270と、センサクリーナ290とを含む。
【0039】
コンピュータ210は、車両の自動運転時に後述する各種センサを用いて車両周辺の環境、車両の姿勢、挙動および位置を取得するとともに、後述するVP120からVCIB111を経由して車両状態を取得して、次の車両10の動作(加速、減速あるいは曲がる等)を設定する。コンピュータ210は、設定した次の車両の動作を実現するための各種指令をVCIB111に出力する。コンピュータ210は、通信モジュール210A,210Bを含む。通信モジュール210A,210Bの各々は、VCIB111と通信可能に構成される。
【0040】
HMI230は、自動運転時、ユーザの操作を要する運転時、あるいは、自動運転とユーザの操作を要する運転との間での移行時などにおいてユーザへの情報の提示や操作の受け付けを行なう。HMI230は、たとえば、ベース車両100に設けられるタッチパネルディスプレイや、表示装置および操作装置等の入出力装置と接続可能に構成される。
【0041】
認識用センサ260は、車両10の周辺の環境を認識するためのセンサを含み、たとえば、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、ミリ波レーダ、および、カメラのうちの少なくともいずれかによって構成される。
【0042】
LIDARは、レーザ光(赤外線)をパルス状に照射し、対象物に反射して戻ってくるまでの時間によって距離を計測するための距離計測装置である。ミリ波レーダは、波長の短い電波を対象物に照射し、対象物から戻ってきた電波を検出して、対象物までの距離や方向を計測する距離計測装置である。カメラは、たとえば、車室内のルームミラーの裏側に配置されており、車両の前方の画像の撮影に用いられる。認識用センサ260によって取得された情報は、コンピュータ210に出力される。カメラによって撮影された画像や映像に対する人工知能(AI)や画像処理用プロセッサを用いた画像処理によって車両の前方にある他の車両、障害物あるいは人が認識可能となる。
【0043】
姿勢用センサ270は、車両の姿勢、挙動あるいは位置を検出するセンサを含み、たとえば、IMU(Inertial Measurement Unit)やGPS(Global Positioning System)などによって構成される。
【0044】
IMUは、たとえば、車両の前後方向、左右方向および上下方向の加速度や、車両のロール方向、ピッチ方向およびヨー方向の角速度を検出する。GPSは、地球の軌道上を周回する複数のGPS衛星から受信する情報を用いて車両10の位置を検出する。姿勢用センサ270によって取得された情報は、コンピュータ210に出力される。
【0045】
センサクリーナ290は、各種センサにおいて車両の走行中に付着する汚れを除去するように構成される。センサクリーナ290は、たとえば、カメラのレンズ、レーザや電波の照射部等の汚れを洗浄液やワイパー等を用いて除去する。
【0046】
VCIB111は、VCIB111Aと、VCIB111Bとを含む。VCIB111AおよびVCIB111Bは、いずれも図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリ(たとえば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む)を内蔵する。VCIB111Aは、VCIB111Bと比較して、同等の機能を有しているが、VP120を構成する複数のシステムに対する接続先が一部異なっている。
【0047】
VCIB111AおよびVCIB111Bは、コンピュータ210の通信モジュール210Aおよび通信モジュール210Bにそれぞれ通信可能に接続されている。さらに、VCIB111AとVCIB111Bとは、相互に通信可能に接続されている。
【0048】
VCIB111AおよびVCIB111Bの各々は、ADS202からの制御要求に対応する各種指令を中継して制御コマンドとしてVP120の対応するシステムに出力する。より具体的には、VCIB111AおよびVCIB111Bの各々は、メモリに記憶されたプログラム等の情報(たとえば、API)を用いてADS202から出力される各種コマンド指令を用いてVP120の対応するシステムの制御に用いられる制御コマンドを生成して対応するシステムに出力する。また、VCIB111AおよびVCIB111Bの各々は、VP120の各システムから出力される車両情報を中継して車両状態としてADS202に出力する。なお、車両状態を示す情報は、車両情報と同一の情報であってもよいし、あるいは、車両情報からADS202で実行される処理に用いられる情報が抽出されたものであってもよい。
【0049】
一部のシステム(たとえば、ブレーキや操舵)の動作に関し同等の機能を有するVCIB111AおよびVCIB111Bを備えることにより、ADS202とVP120との間の制御系統が冗長化されることになる。そのため、システムの一部に何らかの障害が発生したときに、適宜制御系統を切り替える、あるいは、障害が発生した制御系統を遮断することによってVP120の機能(曲がる、止まるなど)を維持することができる。
【0050】
ブレーキシステム121は、ブレーキシステム121A,121Bを含む。ステアリングシステム122は、ステアリングシステム122A,122Bを含む。パワートレーンシステム123は、EPBシステム123Aと、P-Lockシステム123Bと、推進システム124と含む。
【0051】
VCIB111Aと、VP120の複数のシステムのうちのブレーキシステム121Aと、ステアリングシステム122Aと、EPBシステム123Aと、P-Lockシステム123Bと、推進システム124と、ボディシステム126とは、通信バスを介して相互に通信可能に接続される。
【0052】
また、VCIB111Bと、VP120の複数のシステムのうちのブレーキシステム121Bと、ステアリングシステム122Bと、P-Lock123Bとは、通信バスを介して相互に通信可能に接続される。
【0053】
ブレーキシステム121A,121Bは、いずれも車両の各車輪に設けられる複数の制動装置を制御可能に構成される。ブレーキシステム121Aは、ブレーキシステム121Bと同等の機能を有するようにしてもよいし、たとえば、いずれか一方は、各車輪の車両走行時の制動力を独立して制御可能に構成され、他方は、車両走行時に各車輪において同じ制動力が発生するように制御可能に構成されてもよい。
【0054】
ブレーキシステム121A,121Bは、ADS202からVCIB111AおよびVCIB111Bをそれぞれ介して出力される制御要求にしたがって制動装置に対する制動指令を生成する。また、ブレーキシステム121A,121Bは、たとえば、いずれか一方のブレーキシステムにおいて生成された制動指令を用いて制動装置を制御し、いずれか一方のブレーキシステムに異常が発生する場合に他方のブレーキシステムにおいて生成された制動指令を用いて制動装置を制御する。
【0055】
ステアリングシステム122A,122Bは、いずれも車両10の操舵輪の操舵角を操舵装置を用いて制御可能に構成される。ステアリングシステム122Aは、ステアリングシステム122Bと比較して同様の機能を有する。
【0056】
ステアリングシステム122A,122Bは、ADS202からVCIB111AおよびVCIB111Bをそれぞれ介して出力される制御要求にしたがって操舵装置に対する操舵指令を生成する。また、ステアリングシステム122A,122Bは、たとえば、いずれか一方のステアリングシステムにおいて生成された操舵指令を用いて操舵装置を制御し、いずれか一方のステアリングシステムに異常が発生する場合に他方のステアリングシステムにおいて生成された操舵指令を用いて操舵装置を制御する。
【0057】
EPBシステム123Aは、EPBを制御可能に構成される。EPBは、アクチュエータの動作によって車輪を固定する。EPBは、たとえば、車両10に設けられる複数の車輪のうちの一部に設けられるパーキングブレーキ用のドラムブレーキをアクチュエータを用いて作動させて、車輪を固定したり、ブレーキシステム121A,121Bとは別に制動装置に供給される油圧を調整可能とするアクチュエータを用いて制動装置を作動させて車輪を固定したりする。
【0058】
EPBシステム123Aは、ADS202からVCIB111Aを介して出力される制御要求にしたがってEPBを制御する。
【0059】
P-Lockシステム123Bは、P-Lock装置を制御可能に構成される。P-Lock装置は、車両10のトランスミッション内の回転要素に連結して設けられる歯車(ロックギヤ)の歯部に対して、アクチュエータにより位置が調整されるパーキングロックポールの先端に設けられる突起部を嵌合させる。これにより、トランスミッションの出力軸の回転を固定され、駆動輪の車輪の回転の固定(以下、「車輪の固定」とも称する)が行なわれる。
【0060】
P-Lockシステム123Bは、ADS202からVCIB111Aを介して出力される制御要求にしたがってP-Lock装置を制御する。P-Lockシステム123Bは、たとえば、ADS202からVCIB111Aを介して出力される制御要求がシフトレンジをパーキングレンジ(以下、Pレンジと記載する)にする制御要求を含む場合にP-Lock装置を作動させ、制御要求がシフトレンジをPレンジ以外にする制御要求を含む場合にP-Lock装置の作動を解除する。
【0061】
推進システム124は、シフト装置を用いたシフトレンジの切り替えが可能であって、かつ、駆動源を用いた車両10の移動方向に対する車両10の駆動力を制御可能に構成される。切り替え可能なシフトレンジとしては、たとえば、Pレンジと、ニュートラルレンジ(以下、Nレンジと記載する)と、前進走行レンジ(以下、Dレンジと記載する)と、後進走行レンジ(以下、Rレンジと記載する)とを含む。駆動源は、たとえば、モータジェネレータやエンジンなどを含む。
【0062】
推進システム124は、ADS202からVCIB111Aを介して出力される制御要求にしたがってシフト装置と駆動源とを制御する。推進システム124は、たとえば、ADS202からVCIB111Aを介して出力される制御要求がシフトレンジをPレンジにする制御要求を含む場合に、シフトレンジがPレンジになるようにシフト装置を制御する。
【0063】
アクティブセーフティシステム125は、ブレーキシステム121Aと通信可能に接続されている。アクティブセーフティシステム125は、上述したとおり、カメラ129A,レーダセンサ129Bを用いて前方の障害物等(障害物や人)を検出し、障害物等との距離によって衝突の可能性があると判定する場合、制動力が増加するようにブレーキシステム121Aに制動指令を出力する。
【0064】
ボディシステム126は、ADS202からVCIB111Aを介して出力される制御要求にしたがって方向指示器、ホーンあるいはワイパー等の部品を制御する。
【0065】
なお、上述した制動装置、操舵装置、EPB、P-Lock装置、シフト装置、および、駆動源等についてユーザにより手動で操作可能な操作装置が別途設けられてもよい。
【0066】
ADS202からVCIB111に出力される制御要求に対応する各種コマンドとしては、シフトレンジの切り替えを要求する推進方向コマンドと、EPBやP-Lock装置の作動または作動解除を要求する不動コマンドと、車両10の加速または減速を要求する加速コマンドと、操舵輪のタイヤ切れ角を要求するタイヤ切れ角コマンドと、自律ステートを自律モードと、マニュアルモードとの状態の切り替えを要求する自律化コマンドと、車両の停車保持または停車保持の解除を要求する停止コマンドとを含む。
【0067】
以上のような構成を有する車両10において、たとえば、ユーザのHMI230に対する操作等によって自律ステートとして自律モードが選択されると、自動運転が実施される。上述したように、ADS202は、自動運転中においては、まず、走行計画を作成する。走行計画としては、たとえば、直進を継続するという計画、予め定められた走行経路の途中にある所定の交差点で左折、あるいは、右折するという計画、あるいは、走行車線を自車が走行する車線と異なる車線に変更するという計画などの車両10の動作に関する複数の計画を含む。
【0068】
ADS202は、作成された走行計画に沿って車両10が動作するために必要な制御的な物理量(たとえば、加速度または減速度やタイヤ切れ角等)を抽出する。ADS202は、APIの実行周期毎の物理量を分割する。ADS202は、分割された物理量を用いてAPIを実行して、各種コマンドをVCIB111に出力する。さらに、ADS202は、VP120から車両状態(たとえば、車両10の実際の移動方向や車両の固定化の状態など)を取得し、取得された車両状態を反映した走行計画を再作成する。このようにして、ADS202は、車両10の自動運転を可能とする。
【0069】
車両10の自動運転中においては、要求にしたがってタイヤ切れ角(操舵角)を制御する場合において、タイヤ切れ角の要求量の急増にともなって操舵角も急激に変化すると車両10の安定性が悪化する場合がある。
【0070】
そこで、本実施の形態においては、操舵輪である前輪のタイヤ切れ角を用いて設定されるタイヤ切れ角コマンドに従って操舵する場合において、車両10の速度(以下、車速とも記載する)を用いて設定される、タイヤ切れ角の角速度の制限範囲を超えないようにタイヤ切れ角コマンドによって要求されるタイヤ切れ角が設定されるものとする。
【0071】
このようにすると、操舵輪のタイヤ切れ角の要求量が急増した場合でも切れ角の角速度の制限範囲を超えないようにタイヤ切れ角コマンドが設定されるため、操舵角が急激に変化することが抑制される。そのため、車両10の安定性の悪化を抑制することができる。
【0072】
以下、図3を参照して、本実施の形態におけるADS202(より詳細には、コンピュータ210)が実行する処理について説明する。図3は、ADS202で実行される、基準値を設定する処理の一例を示すフローチャートである。ADS202は、たとえば、予め定められた期間が経過する毎に以下のような処理を繰り返し実行する。
【0073】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)11にて、ADS202は、車両10が直進状態であるか否かを判定する。ADS202は、たとえば、車両10が走行する走行車線を示す白線が所定長さ以上の直線を示す場合に、車両10が直進状態であると判定してもよいし、あるいは、GPSに基づく車両10の移動履歴が所定長さ以上の直線を示す場合に車両10が直進状態であると判定してもよい。車両10が直進状態であると判定される場合(S11にてYES)、処理はS12に移される。
【0074】
S12にて、ADS202は、操舵輪である前輪のタイヤ切れ角を取得する。ADS202は、ベース車両100から車両制御インターフェースボックス111を経由して出力される車両状態から前輪のタイヤ切れ角を取得する。ベース車両100(具体的には、ステアリングシステム122)は、ピニオン角センサ128の検出結果を用いてピニオン角を取得し、取得されたピニオン角を用いて前輪のタイヤ切れ角を算出する。ベース車両100は、予め定められた期間が経過する毎に前輪のタイヤ切れ角を算出し、算出された前輪のタイヤ切れ角を車両状態に含まれる情報の一つとして車両制御インターフェースボックス111を経由してADS202に出力する。
【0075】
S13にて、ADS202は、基準値を設定する。ADS202は、取得した前輪のタイヤ切れ角を示す値を基準値に設定する。なお、直進状態でないと判定される場合(S11にてNO)、この処理は終了される。
【0076】
ADS202は、たとえば、基準値の設定後に自律モードに切り替えられたときに、走行計画に従って設定される操舵角に対応するタイヤ切れ角コマンドの初期値を基準値に基づいて設定する。
【0077】
図4を参照して、自律モード中にADS202が実行する処理について説明する。図4は、自律モード中にADS202で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0078】
S21にて、ADS202は、自律ステートが自律モードであるか否かを判定する。ADS202は、たとえば、自律モードであることを示すフラグの状態に基づいて自律ステートが自律モードであるか否かを判定する。自律モードであることを示すフラグは、たとえば、ユーザによるHMI230に対して自動運転を実施するための操作を受け付けたときにオン状態にされ、ユーザによる操作または運転状況に応じて自律モードが解除されてマニュアルモードに切り替わるときにオフ状態にされる。自律ステートが自律モードであると判定される場合(S21にてYES)、処理はS22に移される。
【0079】
S22にて、ADS202は、タイヤ切れ角コマンドの初期値を設定する。ADS202は、走行計画に従ってタイヤ切れ角コマンドの初期値を設定する。ADS202は、たとえば、走行計画が直進する走行計画である場合には、タイヤ切れ角の現在値と基準値との相対値をタイヤ切れ角コマンドの初期値として設定する。ADS202は、たとえば、走行計画が予め定められた操舵角で左折する走行計画である場合には、タイヤ切れ角の現在値と、予め定められた操舵角に対応した値を基準値に加算した値との相対値をタイヤ切れ角コマンドの初期値として設定する。さらに、ADS202は、たとえば、走行計画が予め定められた操舵角で右折する走行計画である場合にはタイヤ切れ角の現在値と、基準値から予め定められた操舵角に対応する値を減算した値との相対値をタイヤ切れ角コマンドの初期値として設定する。
【0080】
S23にて、ADS202は、操舵輪である前輪のタイヤ切れ角の角速度の制限値を取得する。ADS202は、図5および図6に示すような車速とタイヤ切れ角の角速度の制限値との関係からタイヤ切れ角の角速度の制限値を設定する。図5は、車速とタイヤ切れ角の角速度の制限値との関係を表形式で示した図である。図6は、車速とタイヤ切れ角の角速度の制限値との関係を示すマップである。
【0081】
図5には、車速がゼロ、36km/h、40km/h、67km/hおよび84km/hである場合のそれぞれのタイヤ切れ角の角速度の制限値が示されている。さらに、図6には、車速がゼロから80km/hまでの範囲において車速に応じて設定されるタイヤ切れ角の角速度の制限値が示されている。
【0082】
たとえば、図5および図6には、たとえば、車速がゼロから36km/hまでの範囲である場合には、0.751[rad/sec]がタイヤ切れ角の角速度の制限値として設定されることが示される。さらに、図5および図6には、たとえば、車速が40km/hであるときに、0.469[rad/sec]がタイヤ切れ角の角速度の制限値として設定されることが示される。さらに、図5および図6には、車速が36km/hと40km/hとの間で変化する場合には、0.751[rad/sec]と0.469[rad/sec]との間で車速の変化に対して線形で変化する(たとえば、車速が増加すれば増加量に比例した分だけ制限値が低下する)ようにタイヤ切れ角の角速度の制限値が設定されることが示される。さらに、図5および図6には、たとえば、車速が67km/hであるときに、0.287[rad/sec]がタイヤ切れ角の角速度の制限値として設定されることが示される。さらに、図5および図6には、車速が40km/hと67km/hとの間で変化する場合には、0.469[rad/sec]と0.287[rad/sec]との間で車速の変化に対して線形で変化するようにタイヤ切れ角の角速度の制限値が設定されることが示される。さらに、図5および図6には、車速が84km/hであるときに、0.253[rad/sec]がタイヤ切れ角の角速度の制限値として設定されることが示される。さらに、図5および図6には、車速が67km/hと84km/hとの間で変化する場合には、0.287[rad/sec]と0.253[rad/sec]との間で車速の変化に対して線形で変化するようにタイヤ切れ角の角速度の制限値が設定される。なお、図5および図6に示した車速に対応した角速度の制限値は、実験等によって適合された予め定められた値である。
【0083】
ADS202は、車両10の車速についての情報を車両状態としてVP120から取得する。ADS202は、たとえば、車輪速センサ127Aまたは車輪速センサ127Bによって取得される車輪速を用いて算出される車両10の速度(車両10の進行方向の速度)についての情報が車両状態としてベース車両100からVCIB111を介してADS202に出力される。ADS202は、取得した車速と、図5および図6で示した上述の車速とタイヤ切れ角の角速度の制限値との関係とを用いてタイヤ切れ角の角速度の制限値を取得する。
【0084】
S24にて、ADS202は、タイヤ切れ角コマンドの初期値の大きさが、タイヤ切れ角の制限値よりも大きいか否かを判定する。ADS202は、たとえば、タイヤ切れ角コマンドの初期値の絶対値をタイヤ切れ角コマンドの初期値の大きさとして取得する。ADS202は、タイヤ切れ角の角速度の制限値からタイヤ切れ角の制限値を算出する。ADS202は、たとえば、タイヤ切れ角度の角速度の制限値に制御周期(演算周期)に相当する値を乗算することによってタイヤ切れ角の制限値を算出する。タイヤ切れ角コマンドの初期値の大きさが、タイヤ切れ角の制限値よりも大きいと判定される場合(S24にてYES)、処理はS25に移される。
【0085】
S25にて、ADS202は、タイヤ切れ角の制限値を用いてタイヤ切れ角コマンドを設定する。すなわち、ADS202は、タイヤ切れ角コマンドの符号は維持しつつ、初期値の大きさのみをタイヤ切れ角の制限値に変更して、変更された値をタイヤ切れ角コマンドとして設定する。なお、タイヤ切れ角コマンドの初期値の大きさが、タイヤ切れ角の制限値以下であると判定される場合(S24にてNO)、処理はS26に移される。
【0086】
S26にて、ADS202は、設定されたタイヤ切れ角コマンドをVCIB111に送信する。
【0087】
次に、図7を参照して、VCIB111(より詳細には、VCIB111AまたはVCIB111B)が実行する処理について説明する。図7は、VCIB111で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0088】
S31にて、VCIB111は、ADS202からタイヤ切れ角コマンドを受信するか否かを判定する。タイヤ切れ角コマンドを受信すると判定される場合(S31にてYES)、処理はS32に移される。
【0089】
S32にて、VCIB111は、操舵装置の制御を実行する。VCIB111は、受信したタイヤ切れ角コマンドにしたがって操舵装置を制御する。すなわち、VCIB111は、タイヤ切れ角コマンドに示す操舵角の相対値だけ操舵するように操舵装置を制御する。
【0090】
S33にて、VCIB111は、前輪のタイヤ切れ角を取得する。S34にて、VCIB111は、取得したタイヤ切れ角を車両状態のうちの一つの情報としてADS202に送信する。
【0091】
以上のような構造およびフローチャートに基づくADS202の動作について説明する。
【0092】
たとえば、車両10が直進状態になる場合には(S11にてYES)、ベース車両100から前輪のタイヤ切れ角が取得され(S12)、取得された前輪のタイヤ切れ角を示す値が基準値として設定される(S13)。
【0093】
そして、たとえば、自律ステートとして自律モードが設定されている場合には(S21にてYES)、走行計画に従ってタイヤ切れ角コマンドの初期値が設定される(S22)。このとき、タイヤ切れ角の現在値から走行計画に従った操舵角に相当する値までの相対値がタイヤ切れ角コマンドの初期値が設定される。
【0094】
その後に、車速を用いてタイヤ切れ角の角速度の制限値が取得される(S23)。具体的には、ベース車両100から車速を取得し、取得した車速と、図5および図6に示す車速と制限値との関係とからタイヤ切れ角の角速度の制限値が取得される。設定された初期値の大きさが、タイヤ切れ角の角速度の制限値を用いて算出されるタイヤ切れ角の制限値よりも大きい場合には(S24にてYES)、タイヤ切れ角の制限値がタイヤ切れ角コマンドとして設定され(S25)、設定されたタイヤ切れ角コマンドがVCIB111に送信される(S26)。一方、設定された初期値の大きさが、タイヤ切れ角の制限値以下である場合には(S24にてNO)、タイヤ切れ角の初期値がタイヤ切れ角コマンドとしてVCIB111に送信される(S26)。
【0095】
VCIB111でタイヤ切れ角コマンドが受信されると(S31にてYES)、ベース車両100の操舵装置の制御が実行される(S32)。その後にタイヤ切れ角が取得され(S33)、タイヤ切れ角がADS202に送信される(S34)。
【0096】
以上のようにして、本実施の形態に係る車両10によると、操舵輪である前輪のタイヤ切れ角の要求量が急増した場合でも切れ角の角速度の制限範囲を超えないようにタイヤ切れ角コマンドが設定されるため、操舵角が急激に変化することが抑制される。そのため、車両10の安定性の悪化を抑制することができる。したがって、自動運転システムが搭載可能であって、自動運転中の操舵の安定性を向上させる車両、車両の制御方法および車両制御インターフェースボックスを提供することができる。
【0097】
さらに、車速が高いほどタイヤ切れ角の角速度の上限値の大きさが低くなるため、操舵角が急激に変化することが抑制される。そのため、車両の安定性の悪化を抑制することができる。
【0098】
以下、変形例について記載する。
【0099】
上述の実施の形態では、VCIB111AまたはVCIB111Bが図5のフローチャートに示す処理を実行するものとして説明したが、たとえば、VCIB111AとVCIB111Bとが連携して上述の処理を実行してもよい。
【0100】
さらに、上述の実施の形態では、車両制御インターフェースボックス111が図5のフローチャートに示す処理を実行するものとして説明したが、たとえば、上述の処理の一部または全部についてVP120の制御対象となるシステム(具体的には、ステアリングシステム122Aまたはステアリングシステム122B)において実行されてもよい。
【0101】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を適宜組み合わせて実施してもよい。
【0102】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
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【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
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【0161】
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【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【符号の説明】
【0184】
10 車両、100 ベース車両、111,111A,111B VCIB、115 統合制御マネージャ、120 VP、121,121A,121B ブレーキシステム、122,122A,122B ステアリングシステム、123 パワートレーンシステム、123A EPBシステム、123B P-Lockシステム、124 推進システム、125 アクティブセーフティシステム、126 ボディシステム、127A,127B 車輪速センサ、128 ピニオン角センサ、129A カメラ、129B,129C レーダセンサ、200 ADK、202 ADS、210 コンピュータ、210A,210B 通信モジュール、260 認識用センサ、270 姿勢用センサ、290 センサクリーナ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7