(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】三次元造形物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/10 20170101AFI20241126BHJP
B65D 6/24 20060101ALI20241126BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241126BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20241126BHJP
【FI】
B29C64/10
B65D6/24 F
B33Y80/00
B33Y40/20
(21)【出願番号】P 2021169243
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田渕 経雄
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田渕 智雄
(72)【発明者】
【氏名】大野 友浩
(72)【発明者】
【氏名】大窪 夢美
(72)【発明者】
【氏名】圓山 裕人
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-162371(JP,A)
【文献】特表2017-523933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/10
B65D 6/24
B33Y 80/00
B33Y 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形によって製造される三次元造形物であって、
複数の分割体と、
前記複数の分割体における互いに隣り合う位置にある2つの分割体同士を屈曲可能に連結するヒンジ構造と、
嵌合雄部と該嵌合雄部が嵌合可能な嵌合雌部を有する嵌合構造と、
を有しており、
前記ヒンジ構造により、折畳位置と該折畳位置から組立てられる組立位置とに変位可能とされており、
前記嵌合雄部が前記嵌合雌部に嵌合することにより、前記組立位置にあるときに該組立位置に保持され、
前記ヒンジ構造は、該ヒンジ構造により連結される前記2つの分割体の一方に一体に形成される第1ヒンジ要素と、該ヒンジ構造により連結される前記2つの分割体の他方に一体に形成され前記第1ヒンジ要素と回動可能に連結される第2ヒンジ要素と、を有し、
前記嵌合雄部は、前記第1ヒンジ要素に形成されており、前記嵌合雌部は、前記第2ヒンジ要素に形成されている、
三次元造形物。
【請求項2】
積層造形によって製造される三次元造形物であって、
複数の分割体と、
前記複数の分割体における互いに隣り合う位置にある2つの分割体同士を屈曲可能に連結するヒンジ構造と、
嵌合雄部と該嵌合雄部が嵌合可能な嵌合雌部を有する嵌合構造と、
を有しており、
前記ヒンジ構造により、折畳位置と該折畳位置から組立てられる組立位置とに変位可能とされており、
前記嵌合雄部が前記嵌合雌部に嵌合することにより、前記組立位置にあるときに該組立位置に保持され、
前記三次元造形物は、製品であり、前記組立位置にあるとき、内側に空洞を形成するような形状となっており、
前記折畳位置にあるとき、前記組立位置にあるときに比べて、前記空洞の容積が小となっている、
三次元造形物。
【請求項3】
積層造形によって製造される三次元造形物であって、
複数の分割体と、
前記複数の分割体における互いに隣り合う位置にある2つの分割体同士を屈曲可能に連結するヒンジ構造と、
嵌合雄部と該嵌合雄部が嵌合可能な嵌合雌部を有する嵌合構造と、
を有しており、
前記ヒンジ構造により、折畳位置と該折畳位置から組立てられる組立位置とに変位可能とされており、
前記嵌合雄部が前記嵌合雌部に嵌合することにより、前記組立位置にあるときに該組立位置に保持され、
前記三次元造形物は、互いに隣り合う位置にある2つの前記三次元造形物同士が連結されることで製品となる半製品である、
三次元造形物。
【請求項4】
互いに隣り合う位置にある前記2つの三次元造形物は、該2つの三次元造形物の一方に形成される嵌合突起を、該2つの三次元造形物の他方に形成される嵌合受け部に嵌合させることで連結される、請求項
3記載の三次元造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形によって製造される三次元造形物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-149268号公報は、3Dプリンタを用いて車両の部品を製造する技術を開示している。
【0003】
インクジェットタイプの3Dプリンタを使用する場合、1バッチ内(製造機内空間)にて製造する部品数が多いほど、部品の個当たり単価を低減でき、メリットがある。しかし、1バッチ内にて製造する部品数は、部品の形状やサイズに依存するため、部品によっては、1度に製造できる部品数が少なくなり、製造時の材料ロスや製造に時間がかかる(留まりが悪化する)だけでなく、コストが高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、1バッチ内で製造する部品数を従来に比べて多くできる、三次元造形物とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1)〔実施例1-3〕
積層造形によって製造される三次元造形物であって、
複数の分割体と、
前記複数の分割体における互いに隣り合う位置にある2つの分割体同士を屈曲可能に連結するヒンジ構造と、
嵌合雄部と該嵌合雄部が嵌合可能な嵌合雌部を有する嵌合構造と、
を有しており、
前記ヒンジ構造により、折畳位置と該折畳位置から組立てられる組立位置とに変位可能とされており、
前記嵌合雄部が前記嵌合雌部に嵌合することにより、前記組立位置にあるときに該組立位置に保持される、
三次元造形物。
(2)〔実施例1-3〕
前記ヒンジ構造は、該ヒンジ構造により連結される前記2つの分割体の一方に一体に形成される第1ヒンジ要素と、該ヒンジ構造により連結される前記2つの分割体の他方に一体に形成され前記第1ヒンジ要素と回動可能に連結される第2ヒンジ要素と、を有する、(1)記載の三次元造形物。
(3)〔実施例1-3〕
前記嵌合雄部は、前記第1ヒンジ要素に形成されており、前記嵌合雌部は、前記第2ヒンジ要素に形成されている、(2)記載の三次元造形物。
(4)〔実施例1-3〕
前記ヒンジ構造は、該ヒンジ構造により連結される前記2つの分割体の両方に一体に形成されるインテグラルヒンジである、(1)記載の三次元造形物。
(5)〔実施例1-3〕
前記嵌合雄部は、前記ヒンジ構造により連結される前記2つの分割体の一方に形成されており、前記嵌合雌部は、前記ヒンジ構造により連結される前記2つの分割体の他方に形成されている、(4)記載の三次元造形物。
(6)〔実施例1、3〕
前記三次元造形物は、製品であり、前記組立位置にあるとき、内側に空洞を形成するような形状となっている、(1)~(5)のいずれか1つに記載の三次元造形物。
(7)〔実施例1、3〕
前記折畳位置にあるとき、前記組立位置にあるときに比べて、前記空洞の容積が小となっている、(6)記載の三次元造形物。
(8)〔実施例2〕
前記三次元造形物は、互いに隣り合う位置にある2つの前記三次元造形物同士が連結されることで製品となる半製品である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の三次元造形物。
(9)〔実施例2〕
互いに隣り合う位置にある前記2つの三次元造形物は、該2つの三次元造形物の一方に形成される嵌合突起を、該2つの三次元造形物の他方に形成される嵌合受け部に嵌合させることで連結される、(8)記載の三次元造形物。
(10)〔実施例1-3〕
積層造形によって製造される三次元造形物の製造方法であって、
ヒンジ構造により組立位置から折り畳まれる折畳位置で、積層造形によって製造する製造工程と、
前記折畳位置から前記組立位置に変位させる組立工程と、
を有する、三次元造形物の製造方法。
(11)〔実施例1-3〕
前記組立工程では、前記折畳位置から前記組立位置に変位させることで、嵌合構造の嵌合雄部が嵌合雌部に嵌合する、(10)記載の三次元造形物の製造方法。
(12)〔実施例1、3〕
前記三次元造形物は、製品であり、前記組立位置にあるとき、内側に空洞を形成するような形状となっており、
前記製造工程では、前記組立位置よりも前記空洞の容積が小となるように折畳まれる前記折畳位置で、製造する、(10)または(11)記載の三次元造形製造方法。
(13)〔実施例2〕
前記三次元造形物は、互いに隣り合う位置にある2つの前記三次元造形物同士が連結されることで製品となる半製品であり、半製品である前記三次元造形物を、前記製造工程と前記組立工程で製造する、(10)または(11)記載の三次元造形物の製造方法。
(14)〔実施例2〕
前記組立工程の後に、互いに隣り合う位置にある2つの前記三次元造形物同士を連結する連結工程を、さらに有する、(13)記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
上記(1)の三次元造形物によれば、三次元造形物が、ヒンジ構造により、折畳位置と組立位置とに変位可能とされているため、折畳位置で三次元造形物を積層造形によって製造することができる。そのため、三次元造形物を積層造形によって製造する際、組立位置で製造する場合には重ねて製造することができない、または少数しか重ねて製造することができない場合であっても、折畳位置で製造することで、組立位置の場合よりも多数重ねて製造することができる。よって、1バッチ内で製造する部品数(1度に製造できる部品数、1ロット当たりの生産個数)を多くでき、歩留まりの向上やコスト低減を図ることができる。
【0008】
また、嵌合雄部が嵌合雌部に嵌合することにより、三次元造形物が組立位置にあるときに該組立位置に保持されるため、折畳位置で三次元造形物を積層造形によって製造する場合であっても、三次元造形物を組立位置に保持することができる。また、手で折畳位置から組立位置に変位させることができる場合、手で押し拡げるだけで組み立てられるため、組立時の手間も少なくて済む。
【0009】
上記(2)の三次元造形物によれば、ヒンジ構造が、ヒンジ構造により連結される2つの分割体の一方に一体に形成される第1ヒンジ要素と、ヒンジ構造により連結される2つの分割体の他方に一体に形成され第1ヒンジ要素と回動可能に連結される第2ヒンジ要素と、を有するため、ヒンジ構造がヒンジ構造により連結される2つの分割体の両方に一体に形成されるインテグラルヒンジからなる場合に比べて、強固なヒンジ構造を作製できる。
【0010】
上記(3)の三次元造形物によれば、嵌合雄部が第1ヒンジ要素に形成されており、嵌合雌部が第2ヒンジ要素に形成されているため、ヒンジ構造に嵌合構造を設けることができる。そのため、分割体に嵌合構造を設ける必要が無く、嵌合構造による分割体への制約を低減させることができる。
【0011】
上記(4)の三次元造形物によれば、ヒンジ構造が、ヒンジ構造により連結される2つの分割体の両方に一体に形成されるインテグラルヒンジであるため、ヒンジ構造が、ヒンジ構造により連結される2つの分割体の一方に一体に形成される第1ヒンジ要素と、ヒンジ構造により連結される2つの分割体の他方に一体に形成され第1のヒンジ要素と回動可能に連結される第2ヒンジ要素と、を有する場合に比べて、(a)ヒンジ構造を簡易に作製できる。また、(b)ヒンジ構造に要するスペースを低減でき、三次元造形物を積層造形によって製造する際に1バッチ内で製造する部品数を多くすることができる。
【0012】
上記(5)の三次元造形物によれば、嵌合雄部が、ヒンジ構造により連結される2つの分割体の一方に形成されており、嵌合雌部が、ヒンジ構造により連結される2つの分割体の他方に形成されているため、分割体に嵌合構造を設けることができる。そのため、ヒンジ構造に嵌合構造を設ける必要が無く、ヒンジ構造をインテグラルヒンジで構成することができる。
【0013】
上記(6)の三次元造形物によれば、三次元造形物が、製品であり、組立位置にあるとき内側に空洞を有するような形状となっているため、三次元造形物を積層造形によって製造する際、折畳位置で製造することで、組立位置で製造する場合よりも1バッチ内で製造する部品数を多くすることができる。
【0014】
上記(7)の三次元造形物によれば、三次元造形物が折畳位置にあるとき、組立位置にあるときに比べて、空洞の容積が小となっているため、上記(6)で得られる効果を効率よく得ることができる。
【0015】
上記(8)の三次元造形物によれば、三次元造形物が、互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物同士が連結されることで製品となる半製品であるため、三次元造形物が製品である場合に比べて、積層造形によって製造する部品を小型化でき、1バッチ内で製造する部品数を多くすることができる。
【0016】
上記(9)の三次元造形物によれば、互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物が、該2つの三次元造形物の一方に形成される嵌合突起を、該2つの三次元造形物の他方に形成される嵌合受け部に嵌合させることで連結されるため、三次元造形物同士を比較的簡易に連結することができる。
【0017】
上記(10)の三次元造形物の製造方法によれば、ヒンジ構造により組立位置から折畳まれる折畳位置で、三次元造形物を積層造形によって製造する製造工程を有するため、製造工程時に、組立位置で製造する場合には重ねて製造することができない、または少数しか重ねて製造することができない場合であっても、折畳位置で製造することで、組立位置の場合よりも多数重ねて製造することができる。よって、1バッチ内で製造する部品数(1度に製造できる部品数、1ロット当たりの生産個数)を多くでき、歩留まりの向上やコスト低減を図ることができる。
【0018】
また、折畳位置から組立位置に変位させる組立工程を有するため、手で折畳位置から組立位置に変位させることができる場合、手で押し拡げるだけで組み立てられるため、組立時の手間も少なくて済む。
【0019】
上記(11)の三次元造形物の製造方法によれば、組立工程では、折畳位置から組立位置に変位させることで、嵌合雄部が嵌合雌部に嵌合するため、三次元造形物を組立位置に保持することができる。また、折畳位置から組立位置に変位させるだけで嵌合雄部を嵌合雌部に嵌合させることができ、折畳位置から組立位置に変位させた後に嵌合雄部を嵌合雌部に嵌合させる必要がなく、コスト上有利である。
【0020】
上記(12)の三次元造形物の製造方法によれば、製造工程では、組立位置よりも空洞の容積が小となるように折畳まれる折畳位置で製造するため、組立位置で製造する場合に比べて1バッチ内で製造する部品数を多くすることができる。
【0021】
上記(13)の三次元造形物の製造方法によれば、半製品である三次元造形物を製造工程と組立工程で製造するため、三次元造形物が製品である場合に比べて、積層造形によって製造する部品を小型化でき、1バッチ内で製造する部品数を多くすることができる。
【0022】
上記(14)の三次元造形物の製造方法によれば、組立工程の後に、互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物同士を連結する連結工程を有するため、三次元造形物同士を連結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明実施例1の三次元造形物の、組立位置にあるときにおける斜視図である。
【
図2】本発明実施例1の三次元造形物の、組立位置にあるときにおける正面図である。
【
図3】本発明実施例1の三次元造形物の、折畳位置にあるときにおける正面図である。
【
図4】本発明実施例1の三次元造形物の、折畳位置で1バッチ内で製造された状態を示す斜視図である。
【
図5】本発明実施例1の三次元造形物の、折畳位置にあるときにおける部分拡大斜視図である。
【
図7A】本発明実施例1の三次元造形物の、折畳位置にあるときにおける部分拡大正面図である。
【
図7B】本発明実施例1の三次元造形物の、組立位置にあるときにおける部分拡大正面図である。
【
図8】本発明実施例2の三次元造形物の、組立位置にあるときにおける斜視図である。
【
図9】本発明実施例2の三次元造形物の、折畳位置にあるときにおける斜視図である。
【
図10】本発明実施例2の三次元造形物の、折畳位置で1バッチ内で製造された状態を示す斜視図である。
【
図11】本発明実施例3の三次元造形物同士が連結されて製品となった状態を示す正面図である。
【
図12】本発明実施例3の三次元造形物の、組立位置にあるときにおける模式正面図である。
【
図13】本発明実施例3の三次元造形物の、折畳位置にあるときにおける正面図である。
【
図14】本発明実施例3の三次元造形物の、折畳位置で1バッチ内で製造された状態を示す斜視図である。
【
図15A】本発明実施例3の三次元造形物の、折畳位置にあるときにおける部分拡大斜視図である。
【
図15B】本発明実施例3の三次元造形物の、組立位置にあるときにおける部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明実施例の三次元造形物とその製造方法を、図面を参照して、説明する。
図1~
図7Bは、本発明実施例1の三次元造形物を示しており、
図8~
図10は、本発明実施例2の三次元造形物を示しており、
図11~
図15Bは、本発明実施例3の三次元造形物を示している。
【0025】
本発明全実施例にわたって共通または類似する部分には、本発明全実施例にわたって同じ符号を付してある。まず、本発明全実施例にわたって共通する部分を説明する。
【0026】
本発明実施例の三次元造形物10は、3DプリンタPを用いた積層造形によって製造される三次元の構造物である。三次元造形物10は、樹脂製であってもよく、金属製であってもよい。三次元造形物10は、複数の分割体20と、ヒンジ構造30と、嵌合構造40と、を有する。
【0027】
分割体20は、
図1~
図3に示すように、複数設けられている。複数の分割体20は、互いに同じ形状であってもよく異なる形状であってもよい。
【0028】
ヒンジ構造30は、複数の分割体20における互いに隣り合う位置にある2つの分割体20同士の少なくとも1つを屈曲可能(回動可能、揺動可能)に連結する。ヒンジ構造30により、三次元造形物10は、
図2,
図3に示すように、折畳位置10aと、折畳位置10aから組立てられる(展開される)組立位置(展開位置)10bとに変位可能とされている。なお、ヒンジ構造30が複数設けられる場合、各ヒンジ構造30の回動軸は、三次元造形物10を折畳位置10aと組立位置10bとの間で変位可能であれば、互いに平行となっていてもよく平行となっていなくてもよい。
【0029】
ヒンジ構造30は、
図5、
図6に示すように、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の一方である第1分割体20aに一体に形成される第1ヒンジ要素31と、ヒンジ構造20により連結される2つの分割体20の他方である第2分割体20bに一体に形成され第1ヒンジ要素31と回動可能に連結される第2ヒンジ要素32と、を有する。
【0030】
第1ヒンジ要素31は、第1分割体20aから第2分割体20bに向って突出して設けられている。第1ヒンジ要素31は、第1分割体20aに1つのみ設けられていてもよく、複数設けられていてもよい。なお、図示例では、第1分割体20aに2個設けられる場合を示している。第1ヒンジ要素31には、第1ヒンジ要素31を貫通する貫通孔31aが形成されている。
【0031】
第2ヒンジ要素32は、第2分割体20bから第1分割体20aに向って突出する突出部32aと、突出部32aに一体に形成されるシャフト部32bと、を有する。突出部32aは、第2分割体20bに1つのみ設けられていてもよく、複数設けられていてもよい。なお、図示例では、第2分割体20bに3個設けられる場合を示している。シャフト部32bは、突出部32aと一体に形成されており、第1ヒンジ要素31の貫通孔31aに挿入されている。このため、第1ヒンジ要素31と第2ヒンジ要素32は、シャフト部32bを中心として互いに回動可能となっている。
【0032】
嵌合構造40は、組立位置10bにある三次元造形物10を組立位置10bに保持するために設けられている。嵌合構造40は、嵌合雄部41と、嵌合雄部41が嵌合・離脱可能な嵌合雌部42と、を有する。
【0033】
嵌合雄部41は、第1ヒンジ要素31に形成されており、嵌合雌部42は、第2ヒンジ要素32の突出部32aに形成されている。嵌合雄部41は、第1ヒンジ要素31に弾性変位可能に一体に形成されている。嵌合雌部42は、第2ヒンジ要素32に形成される凹部または孔からなる。嵌合雄部41は、三次元造形物10が折畳位置10aにあるとき嵌合雌部42に嵌合しておらず、三次元造形物10が組立位置10bにあるとき嵌合雌部42に嵌合している。三次元造形物10が組立位置10bにあるとき嵌合雄部41が嵌合雌部42に嵌合しているため、三次元造形物10を組立位置10bに保持可能である。
【0034】
なお、ヒンジ構造30と嵌合構造40は、上述した構造に限定されるものではない。たとえば、
図15A、
図15Bに示すように、ヒンジ構造30は、第1、第2のヒンジ要素31,32を有しておらず、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20(20a、20b)の両方に一体に形成されるインテグラルヒンジであってもよい。この場合、ヒンジ構造30は、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20(20a、20b)よりも薄肉に形成されており、比較的軽い力で変形可能となっている。また、嵌合構造40は、ヒンジ構造30には設けられておらず、嵌合雄部41が、第1分割体20aに形成されており、嵌合雌部42が、第2分割体20bに形成されていてもよい。
【0035】
ここで、本発明全実施例にわたって共通する、三次元造形物10の製造方法を説明する。
三次元造形物10の製造方法は、
(i)
図4に示すように、ヒンジ構造30により組立位置10bから折り畳まれる折畳位置10aで、3Dプリンタ100を用いて積層造形によって製造する製造工程と、
(ii)
図2、
図3に示すように、製造工程後に、折畳位置10aから組立位置10bに変位させる組立工程と、を有する。
【0036】
上記(ii)の組立工程では、折畳位置10aから組立位置10bに変位させることで、嵌合構造40の嵌合雄部41が嵌合雌部42に嵌合する。すなわち、折畳位置10aから組立位置10bに変位させるだけで、嵌合雄部41が嵌合雌部42に嵌合する。
【0037】
本発明全実施例にわたって共通する作用、効果を説明する。
【0038】
(A1)三次元造形物10が、ヒンジ構造30により、折畳位置10aと組立位置10bとに変位可能とされているため、折畳位置10aで三次元造形物10を積層造形によって製造することができる。そのため、
図4に示すように、三次元造形物10を積層造形によって製造する際、組立位置10bで製造する場合には重ねて製造することができない、または少数しか重ねて製造することができない場合であっても、折畳位置10aで製造することで、組立位置10bの場合よりも多数重ねて製造することができる。よって、1バッチ内Sで製造する部品数(1度に製造できる部品数、1ロット当たりの生産個数)を多くでき、歩留まりの向上やコスト低減を図ることができる。
【0039】
(A2)
図5~
図7Bに示すように、嵌合雄部41が嵌合雌部42に嵌合することにより、三次元造形物10が組立位置10bにあるときに該組立位置10bに保持されるため、折畳位置10aで三次元造形物10を積層造形によって製造する場合であっても、三次元造形物10を組立位置10bに保持することができる。また、手で折畳位置10aから組立位置10bに変位させることができる場合、手で押し拡げるだけで組み立てられるため、組立時の手間も少なくて済む。
【0040】
(A3)ヒンジ構造30が、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の一方である第1分割体20aに一体に形成される第1ヒンジ要素31と、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の他方である第2分割体20bに一体に形成され第1ヒンジ要素31と回動可能に連結される第2ヒンジ要素32と、を有するため、ヒンジ構造30がヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の両方20a、20bに一体に形成されるインテグラルヒンジからなる場合に比べて、強固なヒンジ構造30を作製できる。
【0041】
(A4)嵌合雄部41が第1ヒンジ要素31に形成されており、嵌合雌部42が第2ヒンジ要素32に形成されているため、ヒンジ構造30に嵌合構造40を設けることができる。そのため、分割体20に嵌合構造40を設ける必要が無く、嵌合構造40による分割体20への制約を低減させることができる。
【0042】
(A5)
図15A、
図15Bに示すように、ヒンジ構造30が、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の両方20a、20bに一体に形成されるインテグラルヒンジである場合、ヒンジ構造30が、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の一方である第1分割体20aに一体に形成される第1ヒンジ要素31と、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の他方である第2分割体20bに一体に形成され第1のヒンジ要素31と回動可能に連結される第2ヒンジ要素32と、を有する場合に比べて、(a)ヒンジ構造30を簡易に作製できる。また、(b)ヒンジ構造30に要するスペースを低減でき、三次元造形物10を積層造形によって製造する際に1バッチ内Sで製造する部品数を多くすることができる。
【0043】
(A6)嵌合雄部41が、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の一方である第1分割体20aに形成されており、嵌合雌部42が、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20の他方である第2分割体20bに形成されている場合、分割体20に嵌合構造40を設けることができる。そのため、ヒンジ構造30に嵌合構造40を設ける必要が無く、ヒンジ構造30をインテグラルヒンジで構成することができる。
【0044】
本発明全実施例にわたって共通する、三次元造形物10の製造方法によれば、つぎの作用、効果を得ることができる。
【0045】
(B1)
図4に示すように、ヒンジ構造30により組立位置10bから折畳まれる折畳位置10aで、三次元造形物10を積層造形によって製造する製造工程を有するため、製造工程時に、組立位置10bで製造する場合には重ねて製造することができない、または少数しか重ねて製造することができない場合であっても、折畳位置10aで製造することで、組立位置10bの場合よりも多数重ねて製造することができる。よって、1バッチ内Sで製造する部品数(1度に製造できる部品数、1ロット当たりの生産個数)を多くでき、歩留まりの向上やコスト低減を図ることができる。
【0046】
(B2)折畳位置10aから組立位置10bに変位させる組立工程を有するため、手で折畳位置10aから組立位置10bに変位させることができる場合、手で押し拡げるだけで組み立てられるため、組立時の手間も少なくて済む。
【0047】
(B3)組立工程では、折畳位置10aから組立位置10bに変位させることで、嵌合雄部41が嵌合雌部42に嵌合するため、三次元造形物10を組立位置10bに保持することができる。また、折畳位置10aから組立位置10bに変位させるだけで嵌合雄部41を嵌合雌部42に嵌合させることができ、折畳位置10aから組立位置10bに変位させた後に嵌合雄部41を嵌合雌部42に嵌合させる必要がなく、コスト上有利である。
【0048】
つぎに、本発明各実施例に特有な部分を説明する。
〔実施例1〕(
図1~
図7B)
本発明実施例1では、
図1に示すように、三次元造形物10が、製品であり、組立位置10aにあるとき、内側に空洞Vを形成するような形状となっている。三次元造形物10は、略矩形枠状であり、たとえば車両に設けられるフロントダクトに用いられる。
【0049】
各分割体20は、略直線状に延びる棒状となっており、ヒンジ構造30は、組立位置10bにあるときにおける三次元造形物10の各角部に設けられている。
図5、
図6に示すように、ヒンジ構造30は、第1、第2のヒンジ要素31、32を有している。嵌合構造40は、嵌合雄部41が第1ヒンジ要素31に形成されており、嵌合雌部42が第2ヒンジ要素32の突出部32aに形成されている。
【0050】
各ヒンジ構造30の回動軸は、すべて平行となっている。このため、枠状の三次元造形物10を折畳位置10aと組立位置10bとの間で変位可能である。
【0051】
三次元造形物10は、略矩形枠状であるため、組立位置10bにあるとき、内側に空洞Vを形成するような形状となっている。
図2、
図3に示すように、三次元造形物10が折畳位置10aにあるとき、組立位置10bにあるときに比べて、空洞Vの容積が小となっている。
【0052】
本発明実施例1では、三次元造形物10の製造方法は、つぎのようになっている。
製造工程(上記(i)の工程)では、三次元造形物10を、組立位置10bよりも空洞Vの容積が小となるように空洞Vを利用して折畳まれる折畳位置10aで、製造する。
【0053】
本発明実施例1では、本発明全実施例にわたって共通する部分で得られる作用、効果(上記(A1)~(A6)及び(B1)~(B3))に加えて、さらにつぎの作用、効果を得ることができる。
【0054】
(A7)三次元造形物10が、組立位置10bにあるとき内側に空洞Vを有するような形状となっているため、三次元造形物10を積層造形によって製造する際、折畳位置10aで製造することで、組立位置10bで製造する場合よりも1バッチ内Sで製造する部品数を多くすることができる。
【0055】
(A8)三次元造形物10が折畳位置10aにあるとき、組立位置10bにあるときに比べて、空洞Vの容積が小となっているため、上記(A7)で得られる効果を効率よく得ることができる。
【0056】
(B4)製造工程では、三次元造形物10を、組立位置10bよりも空洞Vの容積が小となるように折畳まれる折畳位置10aで製造するため、組立位置10bで製造する場合に比べて1バッチ内Sで製造する部品数を多くすることができる。
【0057】
〔実施例2〕(
図8~
図10)
本発明実施例2では、三次元造形物10が、製品であり、組立位置10aにあるとき、内側に空洞Vを形成するような形状となっている。三次元造形物10は、略球体状である。
【0058】
各分割体20は、球体表面の一部をなす形状となっている。分割体20の数は、特に限定されるものではないが、
図8における三次元造形物10の上半分を構成する7個と下半分を構成する7個の計14個である。ヒンジ構造30は、第1、第2のヒンジ要素31,32を有している。嵌合構造40は、嵌合雄部41が第1ヒンジ要素31に形成されており、嵌合雌部42が第2ヒンジ要素32の突出部32aに形成されている。
【0059】
各ヒンジ構造30の回動軸は、
図8において縦に並ぶ位置に設けられるヒンジ構造30同士は互いに平行となっているが、横に並ぶ位置に設けられるヒンジ構造30同士は互いに平行となっていない。このため、球体状の三次元造形物10を折畳位置10aと組立位置10bとの間で変位可能である。
【0060】
三次元造形物10は、略球体状であるため、組立位置10bにあるとき、内側に空洞Vを形成するような形状となっている。
図8,
図9に示すように、三次元造形物10が折畳位置10aにあるとき、組立位置10bにあるときに比べて、空洞Vの容積が小となっている。
【0061】
本発明実施例2では、本発明実施例1と同様に、三次元造形物10の製造方法は、つぎのようになっている。
製造工程(上記(i)の工程)では、三次元造形物10を、組立位置10bよりも空洞Vの容積が小となるように空洞Vを利用して折畳まれる折畳位置10aで、製造する。
【0062】
本発明実施例2では、本発明実施例1と同様に、本発明全実施例にわたって共通する部分で得られる作用、効果(上記(A1)~(A6)及び(B1)~(B3))に加えて、上記(A7)、(A8)および上記(B4)の作用、効果を得ることができる。
【0063】
〔実施例3〕(
図11~
図15B)
本発明実施例3では、三次元造形物10が、互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物10同士の少なくとも1つを連結(結合)されることで製品となる半製品である。
【0064】
三次元造形物10は、
図12に示すように、組立位置10bにあるとき正面視で略「L」字形状となっている。1つの三次元造形物10にある分割体20の数は、2個である。各分割体20は、略直線状に延びる棒状となっており、ヒンジ構造30は、組立位置10bにあるときにおける三次元造形物10の角部に設けられている。ヒンジ構造30は、
図15A、
図15Bに示すように、ヒンジ構造30により連結される2つの分割体20(20a、20b)の両方に一体に形成されるインテグラルヒンジである。嵌合構造40は、嵌合雄部41が第1分割体20aに形成されており、嵌合雌部42が第2分割体20bに形成されている。
【0065】
互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物10は、
図13に示すように、該2つの三次元造形物10の一方に形成される嵌合突起101を、該2つの三次元造形物10の他方に形成される嵌合受け部102に嵌合させることで連結(結合)される。これにより、半製品である三次元造形物10から製品が製造される(
図11)。なお、この製品は、本発明実施例1と同様に略矩形枠状であり、たとえば車両に設けられるフロントダクトに用いられる。
【0066】
本発明実施例3では、三次元造形物10の製造方法は、つぎのようになっている。
半製品である三次元造形物10を、製造工程(上記(i)の工程)と組立工程(上記(ii)の工程)で製造する。
組立工程(上記(ii)の工程)の後に、(iii)互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物10同士を連結(結合)する連結工程を、さらに有する。
【0067】
本発明実施例3では、本発明全実施例にわたって共通する部分で得られる作用、効果(上記(A1)~(A6)及び(B1)~(B3))に加えて、さらにつぎの作用、効果を得ることができる。
【0068】
(A9)三次元造形物10が、互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物10同士が連結されることで製品となる半製品であるため、三次元造形物10が製品である場合に比べて、積層造形によって製造する部品を小型化でき、1バッチ内Sで製造する部品数を多くすることができる。
【0069】
(A10)互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物10が、該2つの三次元造形物10の一方に形成される嵌合突起101を、該2つの三次元造形物10の他方に形成される嵌合受け部102に嵌合させることで連結されるため(
図13参照)、三次元造形物10同士を比較的簡易に連結することができる。
【0070】
(B5)半製品である三次元造形物10を製造工程と組立工程で製造するため、三次元造形物10が製品である場合に比べて、積層造形によって製造する部品を小型化でき、1バッチ内Sで製造する部品数を多くすることができる。
【0071】
(B6)組立工程の後に、互いに隣り合う位置にある2つの三次元造形物10同士を連結する連結工程を有するため、三次元造形物10同士を連結することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 三次元造形物
10a 折畳位置
10b 組立位置
20 分割体
20a 第1分割体
20b 第2分割体
30 ヒンジ構造
31 第1ヒンジ要素
32 第2ヒンジ要素
40 嵌合構造
41 嵌合雄部
42 嵌合雌部
P 3Dプリンタ
S 1バッチ内(製造機内空間)
V 空洞