(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】濃縮器
(51)【国際特許分類】
G01N 1/40 20060101AFI20241126BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20241126BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01N1/40
B01D53/04 220
B01D53/04 110
G01N1/22 L
(21)【出願番号】P 2021182707
(22)【出願日】2021-11-09
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】溝下 倫大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏一
(72)【発明者】
【氏名】郡司島 造
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-501448(JP,A)
【文献】国際公開第2016/174866(WO,A1)
【文献】特開2005-283317(JP,A)
【文献】特開2009-150652(JP,A)
【文献】特開2019-045242(JP,A)
【文献】特表2013-503348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0214482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/40
B01D 53/04
G01N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体試料中の一つ以上の成分を濃縮する濃縮器であって、
前記気体試料およびキャリアガスの流入口および排出口を備えた容器と、
前記容器の内部に配置されており、前記気体試料中の特定成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した前記特定成分を脱着可能な吸着材と、
前記容器の外側表面に配置されている1つのヒータと、
を備え、
前記吸着材は、前記1つのヒータが加熱開始してから所定温度に到達するまでの時間が、前記排出口側の方が前記流入口側よりも長い、濃縮器。
【請求項2】
前記1つのヒータの前記容器に対向している面である第1面と前記容器の外側表面との距離は、前記排出口側の方が前記流入口側よりも大きい、
請求項1に記載の濃縮器。
【請求項3】
前記1つのヒータの前記第1面と前記容器の外側表面とを接続するように配置されている複数の熱伝導部をさらに備え、
前記複数の熱伝導部は、前記流入口から前記排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されている、
請求項2に記載の濃縮器。
【請求項4】
前記1つのヒータの前記第1面と前記容器の外側表面とを接続するように配置されている複数の熱伝導部をさらに備え、
前記複数の熱伝導部は、前記流入口から前記排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されており、
前記複数の熱伝導部の熱伝導率は、前記排出口側の方が前記流入口側よりも小さい、
請求項2または3に記載の濃縮器。
【請求項5】
前記1つのヒータの表面積は、前記排出口側の方が前記流入口側よりも小さい、請求項1~4の何れか1項に記載の濃縮器。
【請求項6】
前記1つのヒータの前記容器に対向している面である第1面の反対側の第2面の一部に配置されているヒートシンクをさらに備え、
前記ヒートシンクと前記1つのヒータの前記流入口側の端部との距離は、前記ヒートシンクと前記1つのヒータの前記排出口側の端部との距離よりも大きい、
請求項1~5の何れか1項に記載の濃縮器。
【請求項7】
前記1つのヒータは、第1電極部位と、第2電極部位と、前記第1電極部位と前記第2電極部位との間を接続している複数の発熱部位と、を備えた導体であり、
前記複数の発熱部位は、前記流入口から前記排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されており、
前記複数の発熱部位の電気抵抗値は、前記排出口側の方が前記流入口側よりも大きい、
請求項1~6の何れか1項に記載の濃縮器。
【請求項8】
前記1つのヒータは、複数の発熱部位と、隣接する前記複数の発熱部位の間を接続する複数の接続部位と、を備えた導体であり、
前記複数の発熱部位は、前記流入口から前記排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されており、
前記複数の発熱部位の電気抵抗値は、前記排出口側の方が前記流入口側よりも大きく、
前記複数の発熱部位は、前記第1方向に略垂直な第2方向に正側端部と負側端部とを備えており、
前記複数の接続部位は、前記正側端部同士を接続する前記接続部位と、前記負側端部同士を接続する前記接続部位とを交互に備えている、
請求項1~6の何れか1項に記載の濃縮器。
【請求項9】
気体試料中の一つ以上の成分を濃縮する濃縮器であって、
前記気体試料およびキャリアガスの流入口および排出口を備えた容器と、
前記流入口から前記排出口へ向かう第1方向に沿って前記容器の内部に配置されている複数の吸着材であって、前記気体試料中の特定成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した前記特定成分を脱着可能な前記複数の吸着材と、
前記容器の外側表面に配置されている1つのヒータと、
を備え、
前記複数の吸着材の前記所定温度は、前記排出口側の方が前記流入口側よりも高い、濃縮器。
【請求項10】
前記容器は、前記容器の内部空間を挟んで対向する第1壁および第2壁を備えており、
前記吸着材は、前記第1壁の内側に接触して配置されており、
前記1つのヒータは、前記第2壁の外側に配置されており、
前記1つのヒータの少なくとも一部が、前記第2壁を介して前記吸着材に対向している、
請求項1~9の何れか1項に記載の濃縮器。
【請求項11】
前記容器は、前記容器の内部空間を挟んで対向する第1壁および第2壁を備えており、
前記吸着材は、前記第1壁の内側に接触して配置されており、
前記1つのヒータは、前記第1壁の外側に配置されており、
前記1つのヒータの少なくとも一部が、前記第1壁を介して前記吸着材に対向している、
請求項1~9の何れか1項に記載の濃縮器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、気体試料中の一つ以上の成分を濃縮することが可能な濃縮器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料ガス中の選択したガス成分を濃縮することが可能な濃縮器が開示されている。この濃縮器では、試料ガスの流通路に沿って、吸着層および複数のヒータが配置されている。まず、ガス試料を流通路に流すことで、所望のガス成分を吸着層に吸着させる。次いで、複数のヒータを、時間同調した順序で1つずつ加熱する。これにより、複数のヒータの各々によって発生したガス成分の濃縮パルスを重畳させることで、ガス成分を濃縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の濃縮器では、複数のヒータを時間同調して加熱する必要があるため、制御が困難である。ヒータ制御回路が複数必要となるため、コストが増大したりサイズが増大してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する濃縮器の一実施形態は、気体試料中の一つ以上の成分を濃縮する濃縮器である。濃縮器は、気体試料およびキャリアガスの流入口および排出口を備えた容器を備える。濃縮器は、容器の内部に配置されており、気体試料中の特定成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した特定成分を脱着可能な吸着材を備える。濃縮器は、容器の外側表面に配置されている1つのヒータを備える。吸着材は、1つのヒータが加熱開始してから所定温度に到達するまでの時間が、排出口側の方が流入口側よりも長い。
【0006】
1つのヒータを加熱開始すると、まず、流入口側の吸着材から特定成分が脱着する。流入口側で脱着した特定成分は、キャリアガスによって排出口側へ移動する。その後、排出口側の吸着材からも特定成分が脱着する。流入口側で脱着した特定成分と排出口側で脱着した特定成分とを合流させることで、特定成分の濃度を高めることができる。1つのヒータを用いて濃縮することができるため、ヒータの複雑な制御が不要となる。濃縮器のコストやサイズを抑制することが可能となる。
【0007】
1つのヒータの容器に対向している面である第1面と容器の外側表面との距離は、排出口側の方が流入口側よりも大きくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
濃縮器は、1つのヒータの第1面と容器の外側表面とを接続するように配置されている複数の熱伝導部をさらに備えていてもよい。複数の熱伝導部は、流入口から排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
濃縮器は、1つのヒータの第1面と容器の外側表面とを接続するように配置されている複数の熱伝導部をさらに備えていてもよい。複数の熱伝導部は、流入口から排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されていてもよい。複数の熱伝導部の熱伝導率は、排出口側の方が流入口側よりも小さくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
1つのヒータの表面積は、排出口側の方が流入口側よりも小さくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
濃縮器は、1つのヒータの容器に対向している面である第1面の反対側の第2面の一部に配置されているヒートシンクをさらに備えていてもよい。ヒートシンクと1つのヒータの流入口側の端部との距離は、ヒートシンクと1つのヒータの排出口側の端部との距離よりも大きくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
1つのヒータは、第1電極部位と、第2電極部位と、第1電極部位と第2電極部位との間を接続している複数の発熱部位と、を備えた導体であってもよい。複数の発熱部位は、流入口から排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されていてもよい。複数の発熱部位の電気抵抗値は、排出口側の方が流入口側よりも大きくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
1つのヒータは、複数の発熱部位と、隣接する複数の発熱部位の間を接続する複数の接続部位と、を備えた導体であってもよい。複数の発熱部位は、流入口から排出口へ向かう第1方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されていてもよい。複数の発熱部位の電気抵抗値は、排出口側の方が流入口側よりも大きくてもよい。複数の発熱部位は、第1方向に略垂直な第2方向に正側端部と負側端部とを備えていてもよい。複数の接続部位は、正側端部同士を接続する接続部位と、負側端部同士を接続する接続部位とを交互に備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0014】
本明細書が開示する濃縮器の一実施形態は、気体試料中の一つ以上の成分を濃縮する濃縮器である。濃縮器は、気体試料およびキャリアガスの流入口および排出口を備えた容器を備える。濃縮器は、流入口から排出口へ向かう第1方向に沿って容器の内部に配置されている複数の吸着材を備える。複数の吸着材は、気体試料中の特定成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した特定成分を脱着可能である。濃縮器は、容器の外側表面に配置されている1つのヒータを備える。複数の吸着材の所定温度は、排出口側の方が流入口側よりも高い。効果の詳細は実施例で説明する。
【0015】
容器は、容器の内部空間を挟んで対向する第1壁および第2壁を備えていてもよい。吸着材は、第1壁の内側に接触して配置されていてもよい。1つのヒータは、第2壁の外側に配置されていてもよい。1つのヒータの少なくとも一部が、第2壁を介して吸着材に対向していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0016】
容器は、容器の内部空間を挟んで対向する第1壁および第2壁を備えていてもよい。吸着材は、第1壁の内側に接触して配置されていてもよい。1つのヒータは、第1壁の外側に配置されていてもよい。1つのヒータの少なくとも一部が、第1壁を介して吸着材に対向していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】実施例1の濃縮器10の上面模式図および模式的断面図である。
【
図3】比較例の濃縮器110の模式的断面図および温度変化グラフである。
【
図4】実施例1の濃縮器10の模式的断面図および温度変化グラフである。
【
図6】実施例2の濃縮器10aの上面模式図および模式的断面図である。
【
図7】実施例3の濃縮器10bの上面模式図および模式的断面図である。
【
図8】変形例の濃縮器10b2の上面模式図および模式的断面図である。
【
図9】実施例4の濃縮器10cの上面模式図および模式的断面図である。
【
図10】実施例5の濃縮器10dの上面模式図および模式的断面図である。
【
図11】実施例6の濃縮器10eの上面模式図および模式的断面図である。
【
図12】実施例7の濃縮器10fの上面模式図および模式的断面図である。
【
図13】実施例8の濃縮器10gの上面模式図および模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
(ガス検出システム1の構成)
図1に、実施例1のガス検出システム1のブロック図を示す。ガス検出システム1は、試料ガスに含まれる特定成分を検出するためのシステムである。例えば、呼気に含まれる特定成分(例:アセトン、イソプレン、N
2O)を検知することで、病気の有無を診断することができる。ガス検出システム1は、接続部2、送風部3、第1ライン4、濃縮器10、第2ライン5、センサ6を備えている。ガス検出システム1は、手のひらサイズの一体型システムであってもよい。
【0019】
濃縮器10は、試料ガス中の一つ以上の成分を濃縮する部位である。濃縮器10の流入口11は、第1ライン4を介して接続部2に接続されている。第1ライン4の経路上には、送風部3が配置されている。送風部3は、試料ガスやキャリアガスを濃縮器10へ送出する部位である。送風部3は、例えば小型のファンやポンプであってもよい。濃縮器10の排出口12は、第2ライン5を介してセンサ6に接続されている。センサ6は、試料ガスに含まれる各種の成分を検出可能なセンサである。例えば、チャンバ内に複数の感応膜が配置されているセンサであってもよい。
【0020】
接続部2は、試料ガスを保持するための試料ガス容器30が接続される部位である。試料ガス容器30は、例えば樹脂フィルム製のパックであってもよい。試料ガス容器30を接続した状態で送風部3を動作させることで、試料ガスを濃縮器10に送出することができる。また、試料ガス容器30取り外した状態で送風部3を動作させることで、キャリアガスを濃縮器10から第2ライン5を経由してセンサ6に送出することができる。キャリアガスの一例としては、空気、N2などが挙げられる。キャリアガスの流速は、送風部3によって制御することができる。
【0021】
(濃縮器10の構成)
図2(A)に、実施例1の濃縮器10の上面模式図を示す。
図2(B)に、
図2(A)のB-B線における模式的断面図を示す。濃縮器10は、容器13、吸着材14、ヒータ15、熱伝導部21~25、を備える。
【0022】
容器13の-x方向の側面には流入口11が形成されており、+x方向の側面には排出口12が形成されている。容器13は、内部空間SPを挟んで対向する下側壁13Lおよび上側壁13Uを備えている。容器13の材料は様々であって良い。例えばシリコンや、各種の樹脂(例:アクリル樹脂)を用いることができる。吸着材14は、下側壁13Lの内壁に接触して配置されている。吸着材14は、試料ガス中の特定成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した特定成分を脱着可能である。吸着材14の種類は様々であってよい。例えば、MOF-5、HKUST-1、MOF-177、ZIF-90、UiO-66などの金属有機構造体(Metal Organic Frameworks)、メソポーラスシリカ系材料およびカーボン系材料であってもよい。
【0023】
ヒータ15は、上側壁13Uの外側表面に配置されている。ヒータ15の少なくとも一部が、上側壁13Uを介して吸着材14に対向している。ヒータ15は、一体の1つの部品である。不図示の制御回路により、ヒータ15の全体を略均一に加熱することができる。ヒータ15は、容器13と対向している面である下面15Lを備えている。下面15Lの流入口11側の端部15E1は、上側壁13Uの外側表面に接触している。そして排出口12側の端部15E2に進むに従って、下面15Lは上側壁13Uから離れるような一定傾きを有している。すなわち下面15Lと上側壁13Uの外側表面との距離は、排出口12側の方が流入口11側よりも大きい。
【0024】
下面15Lと上側壁13Uの外側表面との間には、熱伝導部21~25が配置されている。熱伝導部21~25は、下面15Lと上側壁13Uの外側表面とを接続している。熱伝導部21~25は、流入口11から排出口12へ向かう+x方向に沿って配置されている。また熱伝導部21~25は互いに離れて配置されているため、その間にはスリットSLが形成されている。熱伝導部21~25は、金属やセラミックなどのブロック、ペースト、金属膜など、様々な部材であってよい。
【0025】
(動作)
まず、
図3の比較例の濃縮器110について説明する。比較例の濃縮器110は、実施例1の濃縮器10に比して、熱伝導部21~25を備えていない点のみが異なる。すなわち比較例の濃縮器110では、ヒータ15の下面15Lの全体が、上側壁13Uの外側表面に接触している。
図3(A)は、
図2(B)と同様の断面図である。
図3(B)は、吸着材14の温度変化を示すグラフである。横軸がx方向の位置であり、縦軸は温度である。時刻t11からt13の順に、温度が上昇することを示している。
【0026】
まず、吸着ステップが行われる。試料ガス容器30から濃縮器10の内部空間SP内に試料ガスを供給する。これにより、吸着材14の表面を試料ガスに暴露することで、吸着材14に特定成分を選択的に吸着させることができる。暴露時間は、例えば1時間である。
【0027】
次に、測定ステップが行われる。流入口11から排出口12に向かって、キャリアガスCGを一定の流速FVで流す。本実施例では、キャリアガスCGはN
2とした。そしてヒータ15の加熱を開始する。
図3(B)の時刻t11からt13のグラフに示すように、吸着材14の温度は、位置X1~X5の全てが均一に上昇する。そして時刻t13において、位置X1~X5の温度が所定温度PTに到達すると、位置X1~X5から同時に特定成分SC1~SC5が脱着する(矢印Y10参照)。
図3(A)では、特定成分SC1~SC5を白丸で示している。脱着した特定成分SC1~SC5は、キャリアガスCGによって排出口12から順番に排出される。従って、特定成分SC1~SC5は濃縮されない。
【0028】
図5に、排出口12から排出されるキャリアガスCG中における、特定成分の濃度を示す。横軸は時間であり、縦軸は特定成分濃度である。比較例の濃縮器110では、特定成分の濃縮が行われない。従って、時刻tonにおいてヒータ15がオンすると、点線のグラフG1に示すように、期間P1の間、特定成分濃度がわずかに上昇する。この場合、特定成分濃度が検出下限DL(例:10ppb)まで上昇せず、検出ができない場合がある。
【0029】
次に、
図4の実施例1の濃縮器10について説明する。吸着ステップの内容は、前述の比較例と同様であるため、説明を省略する。測定ステップにおいて、ヒータ15の加熱を開始する。
図4(B)の時刻t1からt5のグラフに示すように、吸着材14の温度は、位置X1からX5に向かって一定傾きで低くなるように、傾斜を有して上昇する。理由を説明する。
図4(A)に示すように、ヒータ15の下面15Lは、上側壁13Uに対して傾斜して配置されている。そして位置X1~X5の各々の位置に、熱伝導部21~25が配置されている。熱伝導部21~25の間にはスリットSLが形成されているため、熱伝導部21~25の間の熱拡散は抑制されている。そのため、熱伝導部21~25が個別の熱伝導経路として機能する。そして、熱伝導部21から25に至るまで、熱伝導距離が一定割合で増加している。よって、ヒータ15の熱が吸着材14に到達するまでの時間に、一定割合の時間差を発生させることができる。その結果、所定温度PTに到達して脱着が発生する脱着点を、位置X1から位置X5へ一定速度で移動させることができる。
【0030】
実施例1の濃縮器10では、この脱着点の移動速度と、特定成分SCの移動速度とが略同一となるように、各種のパラメータを設定している。パラメータの具体例としては、キャリアガスCGの流速FV、熱伝導距離の増加割合(すなわち上側壁13Uに対するヒータ15の傾き角度)、熱伝導部21のx方向幅および熱伝導率、などが挙げられる。
【0031】
時刻t1において、位置X1の温度が所定温度PTに到達すると、位置X1から特定成分SC1が脱着する(矢印Y1参照)。特定成分SC1は、キャリアガスCGによって排出口12側へ移動する。時刻t2において、位置X2の温度が所定温度PTに到達すると、位置X2から特定成分SC2が脱着する(矢印Y2参照)。脱着した特定成分SC2は、移動してきた特定成分SC1と合流する。以下同様にして、時刻t5において、位置X5の温度が所定温度PTに到達すると、位置X5から特定成分SC5が脱着する(矢印Y5参照)。脱着した特定成分SC5は、移動してきた特定成分SC1~SC4と合流する。これにより、特定成分SC1~SC5を濃縮することができる。
【0032】
実施例1の濃縮器10では、特定成分を濃縮することができる。従って、
図5の実線のグラフG2に示すように、時刻tonにおいてヒータ15がオンすると、期間P2の間、特定成分濃度を大きく上昇させることができる。すなわち、グラフG1とG2とでは、特定成分の総量は同一である。しかし実施例1のグラフG2では、期間P1よりも短い期間P2の間に集中して特定成分を排出することができる。これにより、特定成分濃度を、検出下限DL(例:10ppb)を超えて上昇させることができる。センサ6が低感度である場合においても、特定成分の検出を可能とすることができる。
【実施例2】
【0033】
図6(A)に、実施例2の濃縮器10aの上面模式図を示す。
図6(B)に、B-B線における模式的断面図を示す。実施例1の濃縮器10と実施例2の濃縮器10aとで共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例2に特有の部位については、符号の末尾に「a」を付すことで区別する。
【0034】
ヒータ15の下面15Lは、上側壁13Uと略平行に配置されている。下面15Lと上側壁13Uの外側表面との間には、x方向に沿って熱伝導部21a~25aが配置されている。熱伝導部21a~25aの間には、スリットSLが形成されている。熱伝導部21a~25aの熱伝導距離(z方向距離)は同一である。また熱伝導部21a~25aの熱伝導率は、熱伝導部21a>22a>23a>24a>25aの関係とされている。熱伝導率の制御は、材料の種類や密度を変更することで実現できる。
【0035】
ヒータ15から吸着材14まで熱伝導する時間は、熱伝導部21a<22a<23a<24a<25aの関係となる。従って、ヒータ15が加熱開始してから吸着材14が所定温度PTに到達するまでの時間を、排出口12側の方が流入口11側よりも長くするように、時間差を発生させることができる。これにより、実施例1と同様にして、特定成分を濃縮することが可能となる。
【実施例3】
【0036】
図7(A)に、実施例3の濃縮器10bの上面模式図を示す。
図7(B)に、B-B線における模式的断面図を示す。実施例1の濃縮器10と実施例3の濃縮器10bとで共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例3に特有の部位については、符号の末尾に「b」を付すことで区別する。
【0037】
ヒータ15bのy方向の幅は、流入口11側で最大であり、排出口12へ向かって連続的に減少している。すなわちヒータ15bの表面積は、排出口12側の方が流入口11側よりも小さくされている。そしてヒータ15bから吸着材14へ伝達される熱量は、ヒータ15bの表面積に比例する。従って、排出口12側の方が流入口11側よりも、吸着材14の温度上昇速度を小さくすることが可能になる。これにより、実施例1と同様にして、特定成分を濃縮することが可能となる。
【0038】
(実施例3の変形例)
図8の濃縮器10b2に示すように、熱伝導部21bの表面積を変化させる形態であってもよい。そして、熱伝導部21bの上面全体に接触するように、幅一定のヒータ15を配置してもよい。これにより、ヒータ15の形状を変更する必要がなくなるため、ヒータ15に市販品などの標準品を使用することが可能となる。
【実施例4】
【0039】
図9(A)に、実施例4の濃縮器10cの上面模式図を示す。
図9(B)に、B-B線における模式的断面図を示す。実施例1の濃縮器10と実施例4の濃縮器10cとで共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例4に特有の部位については、符号の末尾に「c」を付すことで区別する。
【0040】
ヒータ15の下面15Lは、上側壁13Uの外側表面に接触している。換言すると、下面15Lは容器13に対向している。下面15Lの反対側の面である上面15Uには、ヒートシンク16cが配置されている。ここで、ヒートシンク16cとヒータ15の流入口11側の端部15E1との距離をD1とする。また、ヒートシンク16cとヒータ15の排出口12側の端部15E2との距離をD2とする。距離D1は、距離D2よりも大きい。すなわちヒートシンク16cは、排出口12側に配置されている。
【0041】
ヒートシンクにより、ヒータ15の排出口12側の熱を吸収して外気へ排出することができる。従って、排出口12側の方が流入口11側よりも、吸着材14の温度上昇速度を小さくすることができる。これにより、実施例1と同様にして、特定成分を濃縮することが可能となる。
【実施例5】
【0042】
図10(A)に、実施例5の濃縮器10dの上面模式図を示す。
図10(B)に、B-B線における模式的断面図を示す。実施例1の濃縮器10と実施例5の濃縮器10dとで共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例5に特有の部位については、符号の末尾に「d」を付すことで区別する。
【0043】
ヒータ15dは、第1電極部位15dp、第2電極部位15dm、発熱部位15d1~15d5を備えている。ヒータ15dは、例えば金属で形成されていてもよい。第1電極部位15dpおよび第2電極部位15dmは、x方向に延びており、互いに平行に配置されている。第1電極部位15dpと第2電極部位15dmの間には、電源17dおよびスイッチ18dが接続されている。第1電極部位15dpと第2電極部位15dmとの間は、導体の発熱部位15d1~15d5によって接続されている。すなわち発熱部位15d1~15d5は、電源17dに対して並列接続されている。発熱部位15d1~15d5は、流入口11から排出口12へ向かう方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されている。
【0044】
発熱部位15d1~15d5は、この順にx方向幅が小さくされているとともに、z方向高さが小さくされている。これにより、発熱部位15d1~15d5の電気抵抗値は、排出口12側の方が流入口11側よりも大きくされている。すなわち電気抵抗値は、発熱部位15d1<15d2<15d3<15d4<15d5の関係とされている。スイッチ18dをオンすることで、並列接続されている発熱部位15d1~15d5に電流を流すと、高抵抗の発熱部位の方が電流値が小さくなるため、発熱量が小さくなる。すなわち発熱量は、発熱部位15d1>15d2>15d3>15d4>15d5の関係となる。従って、排出口12側の方が流入口11側よりも、吸着材14の温度上昇速度を小さくすることができる。これにより、実施例1と同様にして、特定成分を濃縮することが可能となる。
【0045】
(実施例5の変形例)
発熱部位15d1~15d5の電気抵抗値を異ならせる態様は、様々であって良い。例えば、発熱部位15d1~15d5は、この順にx方向幅が小さくされているとともに、z方向高さが同一にされていてもよい。また、発熱部位15d1~15d5は、この順にz方向高さが小さくされているとともに、x方向幅が同一にされていてもよい。
【実施例6】
【0046】
図11(A)に、実施例6の濃縮器10eの上面模式図を示す。
図11(B)に、B-B線における模式的断面図を示す。実施例1の濃縮器10と実施例6の濃縮器10eとで共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例6に特有の部位については、符号の末尾に「e」を付すことで区別する。
【0047】
ヒータ15eは、発熱部位15e1~15e5および接続部位15ec1~15ec4を備えた導体である。ヒータ15eは、例えば金属で形成されていてもよい。発熱部位15e1~15e5は、流入口11から排出口12へ向かう方向に沿って配置されているとともに、互いに離れて配置されている。発熱部位15e1~15e5は、+y方向に正側端部を備えており、-y方向に負側端部を備えている。接続部位15ec1~15ec4は、隣接する発熱部位の間をx方向に接続している。また接続部位15ec1~15ec4は、正側端部同士を接続する接続部位と、負側端部同士を接続する接続部位とを交互に備えている。発熱部位15e1の負側端部と発熱部位15e5の正側端部の間には、電源17eおよびスイッチ18eが接続されている。すなわち発熱部位15e1~15e5は、電源17eに対して直列接続されている。
【0048】
発熱部位15e1~15e5は、この順にx方向幅が大きくされているとともに、z方向高さが大きくされている。これにより、発熱部位15e1~15e5の電気抵抗値は、排出口12側の方が流入口11側よりも小さくされている。すなわち電気抵抗値は、発熱部位15e1>15e2>15e3>15e4>15e5の関係とされている。スイッチ18eをオンすることで、直列接続されている発熱部位15e1~15e5に電圧を印加すると、一定電流が流れるため、低抵抗の発熱部位の方が発熱量が小さくなる。すなわち発熱量は、発熱部位15e1>15e2>15e3>15e4>15e5の関係となる。従って、排出口12側の方が流入口11側よりも、吸着材14の温度上昇速度を小さくすることができる。これにより、実施例1と同様にして、特定成分を濃縮することが可能となる。
【0049】
(実施例6の変形例)
発熱部位15e1~15e5の電気抵抗値を異ならせる態様は、様々であって良い。例えば、発熱部位15e1~15e5は、この順にx方向幅が大きくされているとともに、z方向高さが同一にされていてもよい。また、発熱部位15e1~15e5は、この順にz方向高さが大きくされているとともに、x方向幅が同一にされていてもよい。
【実施例7】
【0050】
図12(A)に、実施例7の濃縮器10fの上面模式図を示す。
図12(B)に、B-B線における模式的断面図を示す。実施例1の濃縮器10と実施例7の濃縮器10fとで共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例7に特有の部位については、符号の末尾に「f」を付すことで区別する。
【0051】
容器13の内部空間SPには、流入口11から排出口12へ向かう方向に沿って、吸着材14f1~14f3が配置されている。吸着した特定成分を脱着するときの所定温度は、排出口12側の方が流入口11側よりも高くされている。具体的には、所定温度は、吸着材14f1<14f2<14f3の関係とされている。またヒータ15の下面15Lは、上側壁13Uの外側表面に接触している。
【0052】
ヒータ15が加熱開始すると、吸着材14f1~14f3は、同一の傾きで温度上昇する。従って、特定成分の脱着開始の時間を、排出口12側の方が流入口11側よりも遅くするように、時間差を発生させることができる。これにより、実施例1と同様にして、特定成分を濃縮することが可能となる。
【実施例8】
【0053】
図13(A)に、実施例8の濃縮器10gの上面模式図を示す。
図13(B)に、B-B線における模式的断面図を示す。実施例8の濃縮器10gは、実施例1の濃縮器10(
図2)のヒータ15および熱伝導部21~25を、上側壁13Uから下側壁13Lへ移動させた構造を有する。実施例1の濃縮器10と共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例8に特有の部位については、符号の末尾に「g」を付すことで区別する。
【0054】
吸着材14は、下側壁13Lの内側表面に接触して配置されている。ヒータ15gは、下側壁13Lの外側表面に配置されている。すなわち、ヒータ15gの少なくとも一部が、下側壁13Lを介して吸着材14に対向している。また、ヒータ15gの下面15gLと下側壁13Lの外側表面との間には、熱伝導部21g~25gが配置されている。熱伝導部21g~25gの構成および作用は、実施例1の熱伝導部21~25と同様である。
【0055】
ヒータ15gの上面15gUには、台座19gが配置されている。台座19gの材料は、ガラスやセラミックであってもよい。台座19gの下面19gLは、下側壁13Lに対して略平行となっている。台座19gによって、濃縮器10gの裏面をフラットにすることができるとともに、濃縮器10gを断熱することができる。
【0056】
効果を説明する。実施例1の濃縮器10(
図2)に比して、ヒータ15gと吸着材14との距離を近づけることができる。よって、ヒータ15gで加熱する場合の応答性を高めることができる。また吸着材14を所定温度まで上昇させるための総熱量を低減することができるため、低消費電力化が可能となる。
【0057】
なお、実施例2~7の濃縮器10b~10fの各々についても、同様にして、ヒータ等を下側壁13Lへ移動させることができる。これによっても、加熱時の応答性を高めたり、省電力化が可能となる。
【0058】
(実施例8の変形例)
実施例2~7の濃縮器10a~10fの各々において、吸着材14の配置位置を、下側壁13Lの内壁から上側壁13Uの内壁へ移動させてもよい。これによっても、ヒータと吸着材14との距離を近づけることができるため、加熱時の応答性を高めることが可能となる。
【0059】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0060】
1:ガス検出システム 3:送風部 6:センサ 10:濃縮器 11:流入口 12:排出口 13:容器 13U:上側壁 13L:下側壁 14:吸着材 15:ヒータ 21~25:熱伝導部 30:試料ガス容器