(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 11/00 20060101AFI20241126BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
F01N11/00
F01N3/20 C
(21)【出願番号】P 2021213104
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】徳川 有穂
(72)【発明者】
【氏名】井下 憲二
(72)【発明者】
【氏名】服部 剛
(72)【発明者】
【氏名】森廣 錦司
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】利光 勇
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-256951(JP,A)
【文献】特開2012-02141(JP,A)
【文献】特開平07-185344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00- 3/38、 9/00-11/00
F02D 13/00-28/00、43/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気浄化用の触媒が担持された触媒装置を昇温する触媒昇温処理と、前記触媒装置内の触媒雰囲気をリーン化する触媒リーン化処理と、を行うエンジン制御装置であって、
前記触媒昇温処理の実施毎に、同触媒昇温処理の実施に伴う前記触媒の劣化の進行度を演算する第1演算処理と、
前記触媒リーン化処理の実施毎に、同触媒リーン化処理の実施に伴う前記触媒の劣化の進行度を演算する第2演算処理と、
前記第1演算処理による前記進行度の演算値、及び前記第2演算処理による前記進行度の演算値を積算した値を前記触媒の劣化度の指標値として演算する第3演算処理と、
を行うエンジン制御装置。
【請求項2】
前記第3演算処理による前記指標値の演算結果に基づき、1トリップ当たりの前記触媒昇温処理の実施回数の上限値と、1トリップ当たりの前記触媒リーン化処理の実施回数の上限値と、をそれぞれ個別に設定する請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記第1演算処理は、前記触媒昇温処理による前記触媒装置の発熱量に基づき、前記進行度を演算する請求項1又は請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記触媒昇温処理は、
燃焼を停止した状態でエンジンを回転させつつ、燃料噴射を行う処理、
前記エンジンにおいて理論空燃比よりもリッチ側の空燃比でのリッチ燃焼と、前記理論空燃比よりもリーン側の空燃比でのリーン燃焼と、を周期的に切り替える処理、
間欠的に気筒休止を行うとともに、燃焼を行う気筒で前記リッチ燃焼を行う処理、
排気中に燃料を添加する処理、
点火時期を遅角する処理、
及び前記エンジンの吸気量を増量する処理、
のうちの一つ以上である
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記触媒リーン化処理は、
燃焼を停止した状態でエンジンを回転させる処理、
前記エンジンにおいて理論空燃比よりもリーン側の空燃比でのリーン燃焼を行う処理、
及び間欠的に気筒休止を行う処理、
のうちの一つ以上である
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化用の触媒装置を備えるエンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気浄化用の触媒が担持された触媒装置を備えるエンジンの制御装置として、特許文献1に記載の装置が知られている。同文献のエンジン制御装置は、触媒温度が高いときには、触媒の熱劣化の進行度合が大きくなるため、燃料カットの実施を禁止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒の劣化が進むと、エンジンの排気性能が低下する。そのため、正確な触媒の劣化度を確認できるようにすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するエンジン制御装置は、排気浄化用の触媒が担持された触媒装置を昇温する触媒昇温処理と、触媒装置内の触媒雰囲気をリーン化する触媒リーン化処理と、を行う。同エンジン制御装置は、触媒昇温処理の実施毎に、同触媒昇温処理の実施に伴う触媒の劣化の進行度を演算する第1演算処理と、触媒リーン化処理の実施毎に、同触媒リーン化処理の実施に伴う触媒の劣化の進行度を演算する第2演算処理と、第1演算処理による進行度の演算値、及び第2演算処理による進行度の演算値を積算した値を触媒の劣化度の指標値として演算する第3演算処理と、を行う。
【0006】
触媒装置に担持された触媒の劣化は、触媒リーン化処理による触媒雰囲気のリーン化、及び触媒昇温処理により触媒装置の昇温により進行する。上記エンジン制御装置では、触媒リーン化処理の実施による触媒劣化の進行度、及び触媒昇温処理の実施による触媒劣化の進行度をそれら処理の実施毎に演算している。そして、同エンジン制御装置は、触媒劣化の進行度の演算値を積算した値を触媒の劣化度の指標値として演算している。そのため、触媒装置に担持された触媒の劣化度を精度良く推定できる。
【0007】
上記エンジン制御装置において、上記第3演算処理による上記指標値の演算結果に基づき、1トリップ当たりの触媒昇温処理の実施回数の上限値と、1トリップ当たりの触媒リーン化処理の実施回数の上限値と、をそれぞれ個別に設定するとよい。こうした場合、触媒劣化の進行に応じて、触媒リーン化処理、触媒昇温処理の実施頻度が減少する。そのため、触媒の劣化を適切に抑制できる。
【0008】
触媒昇温処理の実施に伴う触媒劣化の進行度は、同処理による触媒装置の昇温幅に、すなわち同処理による触媒装置の発熱量に依存する。よって、上記第1演算処理は、触媒昇温処理による触媒装置の発熱量に基づき、触媒劣化の進行度を演算する処理とするとよい。
【0009】
なお、上記触媒昇温処理には、燃焼を停止した状態でエンジンを回転させつつ、燃料噴射を行う処理、エンジンにおいて理論空燃比よりもリッチ側の空燃比でのリッチ燃焼と、理論空燃比よりもリーン側の空燃比でのリーン燃焼と、を周期的に切り替える処理、間欠的に気筒休止を行うとともに、燃焼を行う気筒で前記リッチ燃焼を行う処理、排気中に燃料を添加する処理、点火時期を遅角する処理、及びエンジンの吸気量を増量する処理、が含まれる。
【0010】
また、上記触媒リーン化処理には、燃焼を停止した状態でエンジンを回転させる処理、エンジンにおいて理論空燃比よりもリーン側の空燃比でのリーン燃焼を行う処理、及び間欠的に気筒休止を行う処理、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エンジン制御装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図1のエンジン制御装置が行う触媒劣化推定ルーチンのフローチャートである。
【
図3】
図2の触媒劣化推定ルーチンで演算するリーン化上限回数及び昇温上限回数と触媒劣化度との関係を示すグラフ。
【
図4】
図1のエンジン制御装置が行う減速時制御選択ルーチンのフローチャートである。
【
図5】
図1のエンジン制御装置を採用する車両における触媒劣化度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、エンジン制御装置の一実施形態を、
図1~
図5を参照して詳細に説明する。
<エンジン制御装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態のエンジン制御装置の構成を説明する。本実施形態のエンジン制御装置は、車輪11に伝える動力を発生する駆動源として、エンジン12と発電電動機13とを備えるハイブリッド車両に搭載されている。ハイブリッド車両は、エンジン12及び発電電動機13を制御する電子制御ユニット14を備えている。電子制御ユニット14は、エンジン12及び発電電動機13を制御のための処理を実行する処理装置15と、制御用のプログラムやデータが記憶された記憶装置16と、を有している。本実施形態では、こうした電子制御ユニット14がエンジン制御装置に対応する。
【0013】
エンジン12は、混合気を燃焼する燃焼室20と、燃焼室20への吸気の導入路である吸気通路21と、燃焼室20からの排気の排出路である排気通路22と、を備えている。吸気通路21には、吸気通路21の吸気流量を調整するためのスロットルバルブ23が設置されている。排気通路22には、排気浄化用の触媒が担持された触媒装置26が設置されている。また、排気通路22における触媒装置26よりも下流側の部分には、排気中のPM(Particulate matter:微粒子物質)を捕集するフィルタ装置27が設置されている。さらに、エンジン12は、燃焼室20に導入される吸気中に燃料を噴射するインジェクタ24と、燃焼室20内の混合気を火花放電により点火する点火装置25と、を備えている。
【0014】
電子制御ユニット14には、車両の各部に設けられた各種のセンサが接続されている。そうしたセンサには、エアフローメータ30、空燃比センサ31、クランク角センサ32、アクセルペダルセンサ34、車速センサ35が含まれる。エアフローメータ30は、吸気通路21の吸気流量を検出するセンサである。空燃比センサ31は、燃焼室20で燃焼した混合気の空燃比を検出するセンサである。クランク角センサ32は、エンジン12のクランク角を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ34は、運転者によるアクセルペダル33の踏込量を検出するセンサである。車速センサ35は、車速を検出するセンサである。そして、電子制御ユニット14は、それらセンサの検出結果に基づき、スロットルバルブ23の開度、インジェクタ24の燃料噴射量、及び点火装置25の点火時期等を決定することで、エンジン12を制御している。また、電子制御ユニット14は、アクセルペダル33の踏込量や車速等から車両の駆動力の要求値を演算している。そして、電子制御ユニット14は、要求値分の駆動力が得られるように、エンジン12及び発電電動機13のトルク制御を行っている。なお、電子制御ユニット14は、エンジン12の制御状況から、触媒装置26の内部温度である触媒温度、及びフィルタ装置27の内部温度であるフィルタ温度を推定している。
【0015】
<車両減速時の制御について>
電子制御ユニット14は、車両減速時に実行する制御として、回生制御、燃料カット制御、及び触媒燃料供給制御の3つの制御を有している。そして、電子制御ユニット14は、車両減速時に、それら3つの制御のうちのいずれかを選択して実行する。なお、燃料カット制御及び触媒燃料供給制御は、フィルタ装置27に堆積したPMを燃焼浄化するフィルタ再生のために実行される制御となっている。
【0016】
回生制御は、車輪11の回転により発電電動機13を駆動して回生発電を行う制御である。回生制御に際して電子制御ユニット14は、エンジン12を停止している。
燃料カット制御は、フィルタ温度が再生可能温度以上の状態で車両の減速が開始された場合のフィルタ再生のために実行される制御である。再生可能温度は、PMを燃焼可能なフィルタ温度の下限値を表わしている。燃料カット制御は、インジェクタ24の燃料噴射及び点火装置25の点火の停止によりエンジン12の燃焼を停止した状態で、車輪11の回転でエンジン12を回転させる制御である。燃料カット制御中は、フィルタ装置27に流入するガスが排気から新気に置き換わる。燃料カット制御では、こうしてフィルタ装置27に酸素を供給することで、フィルタ装置27に堆積したPMを燃焼浄化している。こうした燃料カット制御の実行中は、触媒装置26に流入するガスも新気となる。このように燃料カット制御では、触媒装置26内の触媒雰囲気をリーン化する触媒リーン化処理が行われる。
【0017】
触媒燃料供給制御は、フィルタ温度が再生可能温度未満の状態で車両の減速が開始された場合のフィルタ再生のために実行される制御である。電子制御ユニット14は、触媒燃料供給制御を開始するとまず、インジェクタ24の燃料噴射及び点火装置25の点火の停止によりエンジン12の燃焼を停止する。その後、電子制御ユニット14は、燃焼室20内の排気が掃気されるのを待って、点火装置25の点火を停止したまま、インジェクタ24の燃料噴射を開始する。燃焼を停止した状態で燃料噴射を行うと、酸素と未燃の燃料とが触媒装置26に供給される。そして、未燃燃料の酸化に伴う発熱で触媒装置26が昇温する。触媒装置26の温度が上がると、触媒装置26を通過してフィルタ装置27に流入するガスの温度も上昇する。触媒燃料供給制御では、こうして酸素を含む高温のガスをフィルタ装置27に供給することで、フィルタ装置27に堆積したPMを燃焼浄化している。こうした触媒燃料供給制御では、まず触媒リーン化処理が行われ、その後に触媒装置26を昇温する触媒昇温処理が行われる。
【0018】
なお、電子制御ユニット14は、触媒燃料供給制御での燃料噴射の開始時の触媒温度に基づき、フィルタ再生のために必要となる触媒装置26への燃料の供給量を演算する。そして、電子制御ユニット14は、触媒燃料供給制御において、その演算した供給量分の燃料噴射を実施している。
【0019】
<触媒の劣化度推定について>
電子制御ユニット14は、フィルタ再生の要否と、触媒装置26の触媒の劣化度の推定値と、に基づき、上記3つの制御の内のいずれを車両減速時に実行するかを決定している。次に、こうした減速時制御の選択に用いる触媒の劣化度の推定について説明する。
【0020】
図2は、触媒の劣化度を推定するため、電子制御ユニット14が実行する触媒劣化推定ルーチンのフローチャートである。電子制御ユニット14は、本ルーチンの処理を、既定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0021】
本ルーチンを開始すると、電子制御ユニット14はまず、ステップS100において、触媒リーン化処理が実施されたか否かを判定する。そして、電子制御ユニット14は、触媒リーン化処理が実施された場合(YES)にはステップS110に処理を進め、実施されていない場合(NO)にはステップS120に処理を進める。なお、上記のように、触媒リーン化処理は、燃料カット制御、及び触媒燃料供給制御の双方において実施される。
【0022】
ステップS110に処理を進めると、電子制御ユニット14はそのステップS110において、今回の触媒リーン化処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを演算する。本実施形態では、このステップS110で演算する劣化進行度ΔDの値は、定数となっている。そして、電子制御ユニット14は、ステップS150に処理を進める。
【0023】
一方、ステップS120に処理を進めると、電子制御ユニット14はそのステップS120において、触媒昇温処理が実施されたか否かを判定する。そして、電子制御ユニット14は、触媒昇温処理が実施された場合(YES)にはステップS130に処理を進め、そうでない場合(NO)にはそのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。なお、上記のように触媒昇温処理は、触媒燃料供給制御において実施される。
【0024】
ステップS130に処理を進めると、電子制御ユニット14はそのステップS130において、触媒昇温処理での触媒装置26の発熱量を演算する。発熱量の演算は、触媒昇温処理での触媒装置26への燃料の供給量に基づき行われる。そして、電子制御ユニット14は、続くステップS140において、演算した発熱量に基づき、今回の触媒昇温処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを演算する。次いで、電子制御ユニット14は、ステップS150に処理を進める。
【0025】
ステップS150に処理を進めると、電子制御ユニット14はそのステップS150において、ステップS120又はステップS130での劣化進行度ΔDの演算値に基づき、触媒劣化度Dの値を更新する。具体的には、劣化進行度ΔDの演算値を触媒劣化度Dの更新前の値に加算したものを、更新後の触媒劣化度Dの値としている。こうして触媒劣化度Dは、触媒装置26に担持された触媒の劣化度の指標値として演算されている。
【0026】
そして、電子制御ユニット14は、ステップS160において、触媒劣化度Dに基づき、リーン化上限回数U1、及び昇温上限回数U2の値を演算した後、今回の本ルーチンの処理を終了する。リーン化上限回数U1は、1トリップ当たりの触媒リーン化制御の実施回数の上限値を表わしている。また、昇温上限回数U2は、1トリップ当たりの触媒昇温処理の実施回数の上限値を表わしている。
【0027】
図3に、リーン化上限回数U1、及び昇温上限回数U2の設定態様の一例を示す。昇温上限回数U2は、触媒劣化度Dが既定の値「DS2」以上の範囲では、触媒劣化度Dの増加に応じて段階的に小さくなる値として設定される。一方、リーン化上限回数U1は、触媒劣化度Dが既定の値「DS1」以上の範囲では、触媒劣化度Dの増加に応じて段階的に小さくなる値として設定される。「DS1」は「DS2」よりも大きい値とされている。また、触媒劣化度Dが既定の値「DS1」以上の範囲では、リーン化上限回数U1には、昇温上限回数U2よりも大きい値が設定されている。なお、触媒劣化度Dが「DS2」未満のときの昇温上限回数U2の値、及び触媒劣化度Dが「DS1」未満のときのリーン化上限回数U1の値には、無効な値が設定される。これは、1トリップ当たりの触媒リーン化処理/触媒昇温処理の実施回数に制限がないことを表わす。
【0028】
なお、本実施形態では、
図3のステップS130及びステップS140の処理が、触媒昇温処理の実施毎に、同触媒昇温処理の実施に伴う触媒装置26の触媒劣化の進行度を演算する第1演算処理に対応する。また、
図3のステップS110の処理が、触媒リーン化処理の実施毎に、同触媒リーン化処理の実施に伴う触媒装置26の触媒劣化の進行度を演算する第2演算処理に対応する。さらに、
図3のステップS150の処理が、第1演算処理による進行度の演算値、及び第2演算処理による進行度の演算値を積算した値を触媒の劣化度の指標値として演算する第3演算処理に対応する。
【0029】
<減速時制御の選択について>
次に、
図4を参照して、減速時制御の選択について説明する。
図4は、減速時制御の選択のため、電子制御ユニット14が実行する減速時制御選択ルーチンのフローチャートである。電子制御ユニット14は、車両の減速開始時に、本ルーチンを実行する。なお、電子制御ユニット14は、一定以上の車速で、アクセルペダル33の踏込量が「0」となったときを減速開始時としている。
【0030】
なお、電子制御ユニット14は、リーン化カウンタC1、及び昇温カウンタC2の2つのカウンタを有している。リーン化カウンタC1は、現トリップにおける触媒リーン化処理の実施回数を表わすカウンタである。また、昇温カウンタC2は、現トリップにおける触媒昇温処理の実施回数を表わすカウンタである。これらリーン化カウンタC1及び昇温カウンタC2の値は、車両のトリップ終了時にクリアされる。すなわち、トリップ開始時におけるリーン化カウンタC1及び昇温カウンタC2の値は共に「0」となっている。
【0031】
電子制御ユニット14は、本ルーチンを開始すると、まずステップS200において、フィルタ再生が要求されているか否かを判定する。そして、電子制御ユニット14は、フィルタ再生の要求が無い場合(S200:NO)には、ステップS210において、今回の車両減速時に実行する制御として回生制御を選択して、今回の車両減速時における本ルーチンの処理を終了する。なお、電子制御ユニット14は、エンジン12の運転状況から、フィルタ装置27のPM堆積量を推定している。そして、電子制御ユニット14は、PM堆積量の推定値が一定の値を超えた場合に、フィルタ再生を要求している。
【0032】
一方、フィルタ再生が要求されている場合(S200:YES)には、電子制御ユニット14は、ステップS220において、リーン化カウンタC1の値がリーン化上限回数U1以上であるか否かを判定する。そして、リーン化カウンタC1の値がリーン化上限回数U1以上の場合(S220:YES)には、電子制御ユニット14は、上述のステップS210に処理を進める。一方、リーン化カウンタC1の値がリーン化上限回数U1未満の場合(S220:NO)には、電子制御ユニット14は、ステップS230に処理を進める。
【0033】
ステップS230において電子制御ユニット14は、フィルタ温度が再生可能温度以上であるか否かを判定する。そして、電子制御ユニット14は、フィルタ温度が再生可能温度以上の場合(S230:YES)には、ステップS240において、今回の車両減速時に実行する制御として、燃料カット制御を選択する。上記のように燃料カット制御は、触媒リーン化処理の一種である。よって、このときの電子制御ユニット14は、ステップS250において、リーン化カウンタC1のカウントアップを行う。そして、リーン化カウンタC1のカウントアップ後、電子制御ユニット14は、今回の車両減速時における本ルーチンの処理を終了する。
【0034】
一方、フィルタ温度が再生可能温度未満の場合(S230:NO)には、電子制御ユニット14は、ステップS260において、昇温カウンタC2の値が昇温上限回数U2以上であるか否かを判定する。そして、電子制御ユニット14は、昇温カウンタC2が昇温上限回数U2以上の値である場合(S260:YES)には、ステップS210において、今回の車両減速時に実行する制御として回生制御を選択して、今回の車両減速時における本ルーチンの処理を終了する。一方、昇温カウンタC2の値が昇温上限回数U2未満の場合(S260:NO)には、電子制御ユニット14は、ステップS270に処理を進める。そして電子制御ユニット14はそのステップS270において、今回の車両減速時に実行する制御として、触媒燃料供給制御を選択する。上記のように触媒燃料供給制御では、触媒リーン化処理と触媒昇温処理とが行われる。よって、このときの電子制御ユニット14は、ステップS280において、リーン化カウンタC1及び昇温カウンタC2の双方のカウントアップを行う。そして、リーン化カウンタC1及び昇温カウンタC2のカウントアップ後、電子制御ユニット14は、今回の車両減速時における本ルーチンの処理を終了する。
【0035】
<実施形態の作用効果>
電子制御ユニット14は、フィルタ再生のため、燃料カット制御と触媒燃料供給制御とを行う。燃料カット制御に際して電子制御ユニット14は、触媒装置26内の触媒雰囲気をリーン化する触媒リーン化処理を実施する。また、電子制御ユニット14は、触媒燃料供給制御に際して、上記触媒リーン化処理と、触媒装置26を昇温する触媒昇温処理と、を実施する。こうした触媒リーン化処理及び触媒昇温処理は、触媒装置26の触媒劣化の主な要因となっている。
【0036】
これに対して、電子制御ユニット14は、触媒リーン化処理の実施毎に、その実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを演算している。また、電子制御ユニット14は、触媒昇温処理の実施毎に、その実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを演算している。そして、電子制御ユニット14は、それら劣化進行度ΔDの演算値を積算した値と、触媒劣化度Dの値として演算している。これにより、触媒装置26に担持された触媒の劣化度を精度良く推定できる。
【0037】
なお、本実施形態では、燃料カット制御及び触媒燃料供給制御での触媒リーン化処理はいずれも、触媒装置26内の触媒雰囲気を新気に置き換えるかたちで実施される。こうした場合、触媒リーン化処理毎の触媒の劣化進行度ΔDは、ほぼ一定であると考えられる。そのため、電子制御ユニット14は、触媒リーン化処理の実施毎の劣化進行度ΔDを定数として演算している。
【0038】
一方、触媒昇温処理での触媒の昇温幅が大きいほど、すなわち同処理による触媒装置26の発熱量が大きいほど、触媒の劣化進行度ΔDが大きくなる。そのため、電子制御ユニット14は、触媒昇温処理による触媒装置26の発熱量に基づき、同処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを演算している。
【0039】
さらに、電子制御ユニット14は、触媒劣化度Dに基づき、触媒リーン化処理及び触媒昇温処理の実施を制限している。具体的には、電子制御ユニット14は、1トリップ当たりの触媒リーン化処理の実施回数の上限値、及び1トリップ当たりの触媒リーン化処理の実施回数の上限値を、触媒劣化度Dに基づき、それぞれ個別に設定している。これにより、触媒劣化の進行に応じて、触媒リーン化処理、及び触媒昇温処理の実施頻度が減少する。
【0040】
図5には、本実施形態の電子制御ユニット14を搭載する車両における総走行距離に対する触媒劣化度Dの推移が実線で示されている。なお、同図には、触媒劣化度Dに拘わらず、触媒リーン化処理、及び触媒昇温処理を一定の頻度で実施した場合の触媒劣化度Dの推移が破線で併せ示されている。また、
図5に示される許容限界値は、触媒装置26の排気浄化能力が許容可能な下限値に達するときの触媒劣化度Dの値を示している。すなわち、触媒劣化度Dが許容限界値となったときが、触媒装置26の寿命となる。
【0041】
本実施形態の場合、触媒劣化度Dが「DS2」を超えると、1トリップ当たりの触媒昇温処理の実施回数が制限される。触媒劣化度Dが更に増加して「DS1」を超えると、1トリップ当たりの触媒リーン化処理の実施回数も制限される。そして、触媒劣化度Dの増加と共にそれらの制限を強化している。これにより、触媒劣化度Dの増加に応じて触媒リーン化処理、及び触媒昇温処理の実施頻度が減少して、触媒劣化度Dの増加のペースが遅くなる。よって、上記制限により、触媒装置26の寿命を延長できる。
【0042】
なお、触媒リーン化処理と触媒昇温処理とでは、触媒の劣化に与える影響の大きさが異なる場合がある。そうした場合、劣化に与える影響が大きい方の処理を優先して制限を掛けることが望ましい。本実施形態の場合、触媒リーン化処理よりも触媒昇温処理の方が、触媒の劣化に与える影響が大きくなっている。すなわち、触媒昇温処理の実施による劣化進行度ΔDが、触媒リーン化処理の実施による劣化進行度ΔDよりも大きい値となる傾向がある。そのため、電子制御ユニット14は、触媒劣化度Dが「DS1」以上の範囲では、触媒リーン化処理よりも触媒昇温処理の方が、1トリップ当たりの実施回数の上限値が小さくなるようにしている。
【0043】
本実施形態のエンジン制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)電子制御ユニット14は、触媒昇温処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDと、触媒リーン化処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDと、をそれぞれ個別に演算している。そして、電子制御ユニット14は、それら劣化進行度ΔDの演算値を積算した値を、触媒装置26の触媒の劣化度の指標値である触媒劣化度Dの値として演算している。そのため、触媒装置26の触媒の劣化度を精度良く推定できる。
【0044】
(2)電子制御ユニット14は、触媒劣化度Dの演算結果に基づき、1トリップ当たりの触媒昇温処理の実施回数の上限値と、1トリップ当たりの触媒リーン化処理の実施回数の上限値と、をそれぞれ個別に設定している。そのため、触媒装置26の劣化の進行を適切に抑制できる。そしてその結果、触媒装置26の寿命を延長できる。
【0045】
(3)電子制御ユニット14は、触媒昇温処理による触媒装置26の発熱量に基づいて、同処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを演算している。そのため、触媒昇温処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを的確に求められる。
【0046】
(実施形態の変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
<触媒昇温処理について>
上記実施形態では、フィルタ再生のための触媒燃料供給制御において実施する触媒昇温処理について述べていた。この触媒昇温処理は、点火の停止によりエンジン12の燃焼を停止した状態で、車輪11によりエンジン12を回転させつつ、燃料噴射を行う処理となっていた。こうした触媒昇温処理を、発電電動機13によりエンジン12を回転させつつ実施してもよい。他にも、下記の各処理を、触媒装置26を昇温する触媒昇温処理として行うようにしてもよい。また、触媒昇温処理を、フィルタ再生以外の目的、例えば触媒装置26の暖機促進のために行うようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、減速時制御の一つとして触媒昇温処理を行っていたが、減速時以外のエンジン12の負荷運転中にも触媒昇温処理を実施してもよい。そうした負荷運転中の触媒昇温処理についても、昇温カウンタC2のカウントアップの対象としてもよい。また、負荷運転中の触媒昇温処理についても、昇温上限回数U2による1トリップ中の実施回数の制限の対象に含めるようにしてもよい。
【0049】
・エンジン12において理論空燃比よりもリッチ側の空燃比でのリッチ燃焼と、理論空燃比よりもリーン側の空燃比でのリーン燃焼と、を周期的に切り替える処理。リッチ燃焼時には未燃燃料を含む排気が、リーン燃焼時には酸素を含む排気が、それぞれ燃焼室20から排出される。これにより、触媒装置26に酸素と未燃燃料とを供給することで、触媒装置26を昇温できる。
【0050】
・エンジン12で間欠的に気筒休止を行うとともに、燃焼を行う気筒でリッチ燃焼を行う処理。燃焼を休止した気筒からは新気が、燃焼を行う気筒からは未燃燃料を含む排気がそれぞれ排出される。よって、同処理でも、触媒装置26に酸素と未燃燃料とを供給して、触媒装置26を昇温できる。
【0051】
・排気通路22を流れる排気中に燃料を添加する処理。この処理は、排気中に燃料を添加する燃料添加弁が排気通路22に設置されたエンジンで実施する処理である。リーン燃焼を行っているときに排気への燃料添加を行えば、触媒装置26に酸素と未燃燃料とを供給して、触媒装置26を昇温できる。
【0052】
・点火時期を遅角する処理。点火時期を遅角すると、燃焼室20からの排出時の排気温度が高まる。そして、高温の排気により触媒装置26を昇温できる。
・エンジン12の吸気量を増量する処理。吸気量を増量すると、触媒装置26への排気の流入量が増加する。その結果、触媒装置26が排気から受け取る熱量が増加するため、触媒装置26を昇温できる。
【0053】
<触媒リーン化処理について>
上記実施形態では、フィルタ再生のための燃料カット制御、及び触媒燃料供給制御において実施する触媒リーン化処理について述べていた。この触媒リーン化処理は、点火及び燃料噴射の停止によりエンジン12の燃焼を停止した状態で、車輪11によりエンジン12を回転させる処理となっていた。こうした触媒リーン化処理を、発電電動機13によりエンジン12を回転させつつ実施してもよい。他にも、下記の各処理を、触媒装置26内の触媒雰囲気をリーン化する触媒リーン化処理として行うようにしてもよい。また、触媒リーン化処理を、フィルタ再生以外の目的で行うようにしてもよい。ちなみに、駆動源としてエンジンのみを搭載する車両では、燃費性能を向上するため、減速時燃料カットを実施するが、これも触媒リーン化処理に含まれる。
【0054】
また、上記実施形態では、減速時制御の一つとして触媒リーン化処理を行っていたが、減速時以外のエンジン12の負荷運転中にも触媒リーン化処理を実施してもよい。そうした負荷運転中の触媒リーン化処理についても、リーン化カウンタC1のカウントアップの対象としてもよい。また、負荷運転中の触媒リーン化処理についても、リーン化上限回数U1による1トリップ中の実施回数の制限の対象に含めるようにしてもよい。
【0055】
・エンジン12において理論空燃比よりもリーン側の空燃比でのリーン燃焼を行う処理。
・間欠的に気筒休止を行う処理。この場合にも、燃焼を行う気筒でリッチ燃焼を行わなければ、触媒装置26内の触媒雰囲気がリーン化される。
【0056】
<劣化進行度ΔDの演算について>
上記実施形態では、触媒昇温処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを、同処理による触媒装置26の発熱量に基づき演算していた。また、触媒リーン化処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを定数として演算していた。これらの演算態様を適宜変更してもよい。
【0057】
触媒リーン化処理による触媒雰囲気のリーン化度合が、同処理の実施毎に異なる場合がある。そうした場合、触媒雰囲気のリーン化度合により、触媒劣化の進行度が変わることがある。また、触媒リーン化処理の実施時間によっても、触媒劣化の進行度が変わることがある。よって、触媒リーン化処理の実施に伴う劣化進行度ΔDを、触媒リーン化処理による触媒雰囲気のリーン化度合や同処理の実施時間に基づき演算するようにしてもよい。
【0058】
触媒昇温処理による触媒装置26の発熱量が一律であれば、触媒昇温処理の実施に伴う劣化進行度ΔDを定数として演算してもよい。また、触媒昇温処理による触媒装置26のトータルの発熱量が同じでも、触媒装置26が時間を掛けて緩やかに昇温した場合と急速に昇温した場合とでは、触媒劣化の進行度に違いが生じることがある。よって、そうした場合には、発熱量に加えて触媒昇温処理の実施時間に基づき、同処理の実施に伴う触媒の劣化進行度ΔDを演算するようにしてもよい。
【0059】
<触媒リーン化処理、触媒昇温処理の制限について>
上記実施形態の場合、触媒リーン化処理よりも触媒昇温処理の方が、触媒の劣化に与える影響が大きくなっていた。そのため、電子制御ユニット14は、触媒リーン化処理よりも触媒昇温処理の方が、1トリップ当たりの実施回数の上限値が小さくなるようにしていた。触媒昇温処理よりも触媒リーン化処理の方が、触媒の劣化に与える影響が大きい場合には、触媒リーン化処理よりも触媒昇温処理の方が、1トリップ当たりの実施回数の上限値が小さくなるようにするとよい。また、触媒リーン化処理及び触媒昇温処理のうち、触媒の劣化に与える影響が大きい方の処理にのみ、1トリップ当たりの実施回数に上限値を設定してもよい。すなわち、触媒の劣化に与える影響が小さい方の処理については、触媒劣化度Dに拘わらず、1トリップ当たりの実施回数の上限値を設定しないようにしてもよい。
【0060】
また、1トリップ当たりの実施回数の上限値を設定する以外の方法で、触媒リーン化処理及び触媒昇温処理の実施を制限してもよい。例えば、両処理の実施条件を、成立し難くなるように変更することで、両処理の実施頻度を低下させるようにしてもよい。
【0061】
さらに、処理の内容を変更することで、触媒リーン化処理及び触媒昇温処理の制限を行うようにしてもよい。例えば触媒雰囲気のリーン化度合を小さくしたり、触媒雰囲気をリーン化する時間を短縮したりすることで、触媒リーン化処理の制限を行うようにしてもよい。また、触媒装置26の発熱量を小さくすることで、触媒昇温処理の制限を行うようにしてもよい。いずれにせよ、触媒劣化度Dの増加に応じて触媒リーン化処理及び触媒昇温処理の制限を強化していけば、触媒装置26の触媒の劣化を適切に抑制できる。
【0062】
また、触媒リーン化処理及び触媒昇温処理の制限の内容は一律とし、触媒劣化度Dが一定の値を超えたときにそれら処理の制限を実施するようにしてもよい。
さらに、触媒劣化度Dに応じた触媒リーン化処理及び触媒昇温処理の制限は実施せず、触媒劣化度Dをそれ以外の目的に用いるようにしてもよい。例えば、触媒劣化度Dに基づくことで触媒装置26の寿命を推定できるため、触媒劣化度Dを用いて触媒装置26の交換時期を予測することができる。
【符号の説明】
【0063】
11…車輪
12…エンジン
13…発電電動機
14…電子制御ユニット
15…処理装置
16…記憶装置
20…燃焼室
21…吸気通路
22…排気通路
23…スロットルバルブ
24…インジェクタ
25…点火装置
26…触媒装置
27…フィルタ装置
30…エアフローメータ
31…空燃比センサ
32…クランク角センサ
33…アクセルペダル
34…アクセルペダルセンサ
35…車速センサ