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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】フィラメントおよび釣り糸
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20241126BHJP
   A01K 91/00 20060101ALI20241126BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
D01F6/60 361A
A01K91/00 F
C08G69/26
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021525925
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016359
(87)【国際公開番号】W WO2020250564
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2019108864
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小黒 葉月
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】小田 尚史
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-063050(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174345(WO,A1)
【文献】特開2003-026797(JP,A)
【文献】特表2011-527369(JP,A)
【文献】特開2000-154426(JP,A)
【文献】特開平05-044109(JP,A)
【文献】特開2006-122005(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01129074(GB,A)
【文献】国際公開第2017/010389(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/60
A01K 91/00
C08G 69/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)を含み、
前記ポリアミド樹脂(A)がジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、
前記キシリレンジアミンは、10~90モル%のメタキシリレンジアミンと、90~10モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、
フィラメント。
【請求項2】
延伸されている、請求項1に記載のフィラメント。
【請求項3】
前記キシリレンジアミンは、40~80モル%のメタキシリレンジアミンと、60~20モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、請求項1または2に記載のフィラメント。
【請求項4】
前記キシリレンジアミンは、51~75モル%のメタキシリレンジアミンと、49~25モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、請求項1または2に記載のフィラメント。
【請求項5】
前記ジカルボン酸が、1,12-ドデカン二酸を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項6】
前記フィラメントを40℃で74時間乾燥させた後の直線強さX1に対する、前記フィラメントを23℃の水に336時間浸漬した後の直線強さX2の維持率[(X2/X1)×100]が、90以上であり、直線強さがJIS L 1013:2010に従って測定した値である、請求項1~のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項7】
前記フィラメントを40℃で74時間乾燥させた後の結節強さY1に対する、前記フィラメントを23℃の水に336時間浸漬した後の結節強さY2の維持率[(Y2/Y1)×100]が、70以上であり、結節強さがJIS L 1013:2010に従って測定した値である、請求項1~のいずれか1項に記載のフィラメント。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のフィラメントを有する釣り糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントおよび釣り糸に関する。特に、ポリアミド樹脂を用いたフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂をフィラメントに用いることが検討されている。
例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂を含むモノフィラメントであって、前記ポリアミド樹脂がε-カプロラクタムおよび/またはε-アミノカプロン酸に由来する単位(以下、これを「単位1」とも称する。)、アジピン酸に由来する単位(以下、これを「単位2」とも称する。)並びにヘキサメチレンジアミンに由来する単位(以下、これを「単位3」とも称する。)を含み、単位1、単位2および単位3の合計に対し、単位1が60質量%超80質量%未満であるモノフィラメントが開示されている。
また、特許文献2には、ペンタメチレンジアミンを主要成分として含有する脂肪族ジアミンと、アジピン酸を主要成分として含有するジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂を含むポリアミドフィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-223037号公報
【文献】特開2010-281027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、ポリアミド樹脂をフィラメントに用いることは行われているが、例えば、釣り糸に用いる場合は、吸水処理後について、直線強さの維持率および結節強さの維持率が高いことが求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、吸水処理後について、直線強さの維持率および結節強さの維持率が高いフィラメント、ならびに、釣り糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、キシリレンジアミンと炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸等から合成されるポリアミド樹脂を含むフィラメントを用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂(A)を含み、前記ポリアミド樹脂(A)がジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、
フィラメント。
<2>延伸されている、<1>に記載のフィラメント。
<3>前記キシリレンジアミンは、10~90モル%のメタキシリレンジアミンと、90~10モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、<1>または<2>に記載のフィラメント。
<4>前記キシリレンジアミンは、40~80モル%のメタキシリレンジアミンと、60~20モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、<1>または<2>に記載のフィラメント。
<5>前記キシリレンジアミンは、51~75モル%のメタキシリレンジアミンと、49~25モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、<1>または<2>に記載のフィラメント。
<6>前記ジカルボン酸が、1,12-ドデカン二酸を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載のフィラメント。
<7>前記フィラメントを40℃で74時間乾燥させた後の直線強さXに対する、前記フィラメントを23℃の水に336時間浸漬した後の直線強さXの維持率[(X/X)×100]が、90以上であり、直線強さがJIS L 1013:2010に従って測定した値である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のフィラメント。
<8>前記フィラメントを40℃で74時間乾燥させた後の結節強さYに対する、前記フィラメントを23℃の水に336時間浸漬した後の結節強さYの維持率[(Y/Y)×100]が、70以上であり、結節強さがJIS L 1013:2010に従って測定した値である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のフィラメント。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載のフィラメントを有する釣り糸。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、吸水処理後について、直線強さの維持率および結節強さの維持率が高いフィラメント、ならびに、釣り糸を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明のフィラメントは、ポリアミド樹脂(A)を含み、前記ポリアミド樹脂(A)がジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来することを特徴とする。このような構成とすることにより、吸水処理後について、直線強さの維持率および結節強さの維持率が高いフィラメントが得られる。
【0009】
<ポリアミド樹脂(A)>
本発明のフィラメントは、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂(A)を含む。
このようなポリアミド樹脂(A)を用いることにより、吸水処理後について、直線強さの維持率および結節強さの維持率を高くすることができる。この理由は推定であるが、ポリアミド樹脂(A)は、吸水処理後のガラス転移温度が室温以上であることにより、これらの維持率を高くできたと推測される。尚、キシリレンジアミンと炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸等から合成されるポリアミド樹脂は、吸水率が低いことは知られている。しかしながら、吸水率が低いことと、吸水処理後の物性の維持率に相関関係がないこともある。
さらに、本発明では、ポリアミド樹脂(A)を用いることにより、透明性により優れたフィラメントが得られる。また、ポリアミド樹脂(A)を用いることにより、高い強度を有するフィラメントとすることもできる。
【0010】
ポリアミド樹脂(A)において、ジアミン由来の構成単位は、その70モル%以上がキシリレンジアミンに由来するが、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。
【0011】
キシリレンジアミンは、10~90モル%のメタキシリレンジアミンと、90~10モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含むことが好ましく、40~80モル%のメタキシリレンジアミンと、60~20モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがさらに好ましく、51~75モル%のメタキシリレンジアミンと、49~25モル%のパラキシリレンジアミンを含むことが一層好ましい。また、キシリレンジアミンにおいて、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が95モル%以上を占めることが好ましく、99モル%以上を占めることがさらに好ましく、100モル%であることが一層好ましい。
【0012】
キシリレンジアミン以外のジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0013】
ポリアミド樹脂(A)において、ジカルボン酸由来の構成単位は、その70モル%以上が炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくは、炭素数12~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸、より好ましくは1,12-ドデカン二酸)に由来するが、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。
【0014】
炭素数11~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸等の炭素数10以下のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
尚、ここで、「ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され」とは、ポリアミド樹脂(A)を構成するアミド結合がジカルボン酸とジアミンの結合によって形成されていることをいう。また、ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸由来の構成単位と、ジアミン由来の構成単位以外に、末端基等の他の部位を含む。さらに、ジカルボン酸とジアミンの結合に由来しないアミド結合を有する繰り返し単位や微量の不純物等が含まれる場合もあるであろう。具体的には、ポリアミド樹脂(A)は、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。本発明では、好ましくはポリアミド樹脂(A)の90質量%以上が、より好ましくは95質量%以上が、さらに好ましくは98質量%以上がジアミン由来の構成単位またはジカルボン酸由来の構成単位である。
【0016】
本発明で用いるポリアミド樹脂(A)は、数平均分子量(Mn)が6,000~50,000であることが好ましく、より好ましくは8,000~48,000であり、さらに好ましくは9,000~46,000である。このような範囲であると、成形加工性がより良好となる。
【0017】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。
【0018】
本発明において、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度は、下限値が、30℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。この範囲であると、吸水処理後について、直線強さの維持率および結節強さの維持率がより高くなる傾向にある。一方、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度の上限値は、特に定めるものではなく、例えば、200℃以下とすることができる。
【0019】
なお、本発明における融点とは、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。具体的には、DSC装置を用い、試料量は1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温(25℃)から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させ次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温した際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度をいう。
ガラス転移温度とは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるガラス転移点をいう。具体的には、DSC装置を用い、試料量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させたポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移温度を求めることができる。
【0020】
ポリアミド樹脂(A)のJIS K 69020-2の条件で測定した相対粘度(RV)は、下限値が、2.0以上が好ましく、2.1以上がより好ましく、2.3以上がさらに好ましい。一方、ポリアミド樹脂(A)の相対粘度の上限値は、4.0以下が好ましく、3.9以下がより好ましく、3.8以下がさらに好ましい。このような範囲とすることにより、直線強さおよび結節強さがより向上する傾向にある。
【0021】
また、本発明のフィラメントにおいて、ポリアミド樹脂(A)はフィラメントの質量の70質量%以上を占めることが好ましく、80質量%以上を占めることがより好ましく、90質量%以上を占めることがさらに好ましく、95質量%以上であってもよい。
本発明のフィラメントは、ポリアミド樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0022】
<他の樹脂成分>
本発明のフィラメントは、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂や、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド66/6T、ポリアミド9T、ポリアミド9MT、ポリアミド6I/6T、ポリアミドXD6(ポリキシリレンアジパミド)、ポリアミドXD10(ポリキシリレンセバサミド)等が挙げられ、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド610、ポリアミド612が好ましい。
【0023】
本発明のフィラメントが、ポリアミド樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を含む場合、その質量比率(ポリアミド樹脂(A):ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂)は、100:1~100であることが好ましく、100:10~90であることがより好ましい。
本発明のフィラメントは、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
前記ポリアミド樹脂以外の他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、熱可塑性ポリエーテルイミド等が例示される。
また、本発明のフィラメントでは、ポリアミド樹脂(ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂)以外の熱可塑性樹脂を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、例えば、本発明のフィラメントにおいて、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が、ポリアミド樹脂の質量の5質量%以下であることをいう。
【0025】
<添加剤>
本発明のフィラメントには、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、表面活性化剤、染色剤、等の添加剤を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載、特開2010-281027号公報の段落0021の記載、特開2016-223037号公報の段落0036の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
可塑剤としては、具体的には、p-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルデシル(花王株式会社製、エキセパール HD-PB)、p-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、o-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、N-ブチルベンゼンスルホンアミドが例示される。また、国際公開第2017/010389号の段落0033~0038の記載も参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
また、本発明のフィラメントは、炭素繊維等の充填材を含んでいてもよいが、実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、充填材の配合量が、本発明のフィラメントの3質量%以下であることをいう。
また、本発明のフィラメントはプラズマ処理を行うことで、任意の表面性を付与することができる。この詳細は、特開平06-182195号公報の0019~0022の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0026】
<フィラメントの特性、物性>
本発明のフィラメントの長さ(質量平均長)は特に定めるものでは無いが、通常、2cm以上であり、0.1m以上であることが好ましく、より好ましくは1m以上、さらに好ましくは100m以上である。また、フィラメントの長さ(質量平均長)の上限値としては、20,000m以下であることが好ましく、より好ましくは1,000m以下、さらに好ましくは100m以下である。
【0027】
本発明のフィラメントの繊度は、下限値は、50d(デニール)以上であることが好ましく、100d以上であることがより好ましく、300d以上であることがさらに好ましく、500d以上であることが一層好ましく、600d以上であることがより一層好ましい。上限値は、1500d以下であることが好ましく、1300d以下であることがより好ましく、1200d以下であることがさらに好ましく、1100d以下であることが特に好ましい。
繊度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0028】
本発明のフィラメントは、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよいが、モノフィラメントが好ましい。また、芯鞘構造であってもよい。
本発明のフィラメントの断面は、通常円形である。ここでの円形とは、数学的な意味での円形の他、本発明の技術分野において、概ね円形と認められるものも含む趣旨である。また、本発明におけるフィラメントの断面は、円形以外の形状であってもよく、例えば、楕円形、長円形などの扁平形状であってもよい。
【0029】
本発明のフィラメントは、乾時の直線強さXに対する、吸水処理後の直線強さXの維持率[(X/X)×100]が、90以上であることが好ましく、92以上であることがより好ましく、93以上であることがさらに好ましく、94以上であることが一層好ましい。吸水処理後の直線強さの維持率の上限値は、100であることが好ましい。
本発明のフィラメントは乾時の結節強さYに対する、吸水処理後の結節強さYの維持率[(Y/Y)×100]が、70以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、85以上であることがさらに好ましく、90以上であることが一層好ましい。吸水処理後の結節強さの維持率の上限値は、100であることが好ましい。
吸水処理後の直線強さの維持率および吸水処理後の結節強さの維持率は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0030】
<延伸>
本発明のフィラメントは、延伸されていてもよいし、延伸されていなくてもよいが、延伸されていることが好ましい。延伸は、フィラメントの長手方向(フィラメント長方向)に延伸されていることが好ましい。延伸倍率は、2.5倍以上であることが好ましく、3.0倍以上であることがより好ましく、3.5倍以上であることがさらに好ましく、3.8倍以上であることが一層好ましい。前記延伸倍率の上限は、8.0倍以下であることが好ましく、7.5倍以下であることがより好ましく、7.0倍以下であることがさらに好ましく、6.5倍以下であることが一層好ましい。
【0031】
<製造方法>
本発明のフィラメントは、ポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂(A)を含む組成物を成形して得られる。その成形方法は任意であり、溶融紡糸などの、従来公知の任意の成形方法により所望の形状に成形すればよい。例えば、国際公開第2017/010389号の段落0051~0058の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
成形条件や成形後の形状などは、その用途に応じて適宜選択し決定すればよく、例えば釣り糸用フィラメント、魚網用フィラメント、産業資材用フィラメント、衣類やカーペット等の織布用フィラメント、ラケット用ガット等により適宜変更すればよい。
【0032】
<用途>
本発明のフィラメントは、そのまま用いてもよいが、混繊糸、組紐、より紐等の成形材料に加工してもよい。また、織物、編み物、不織布等の成形材料としても好ましく用いられる。
本発明のフィラメントは、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品(例えば、釣り糸)、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム、衣類等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
本発明のフィラメントは、芯材に巻き取ってもよい。すなわち、芯材と芯材に巻き取られたフィラメントを有する巻取体とすることもできる。
【実施例
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0034】
原料
<ポリアミドMP12の合成>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤した1,12-ドデカン二酸60.00molを入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で180℃まで昇温し、1,12-ドデカン二酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、ジアミン成分の40mol%をパラキシリレンジアミン、60mol%をメタキシリレンジアミンとしたパラ/メタキシリレンジアミン60molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に250℃まで昇温させ、またパラ/メタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。パラ/メタキシリレンジアミン滴下終了後、250℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、20分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。得られたペレットを熱媒加熱の外套を有するタンブラー(回転式の真空槽)に、室温で仕込んだ。タンブラーを回転しながら槽内を減圧状態(0.5~10Torr)とし、流通熱媒を190℃まで加温し、ペレット温度180℃まで昇温してその温度で5時間保持した。その後、再び窒素を導入して常圧にし、冷却を開始した。ペレットの温度が70℃以下になったところで、槽からペレットを取り出し、固相重合品を得た。
得られたポリアミド樹脂(MP12)の融点は216℃、ガラス転移温度は57℃、相対粘度は2.36であった。
【0035】
ポリアミド612:宇部興産社製、7034B、ポリアミド612の融点は205℃、ガラス転移温度は25℃、相対粘度は3.86であった。
【0036】
実施例1~4、比較例1、2
<フィラメントの製造>
ポリアミドMP12を、単軸押出機を用いて溶融し、紡糸温度を260℃として紡糸口金を通して紡出し、温度50℃の水浴中に引き取り、一旦巻き取ることなく連続して延伸した。延伸は延伸2段、熱固定1段で実施し、延伸手段として第1段延伸域に温度70℃の温水浴を、第2段延伸 200℃の乾熱空気浴を、延伸条件としては全延伸倍率を3~6、2段延伸倍率を1.0から1.5、弛緩率を5%とした。上記方法によりフィラメントを得た。
得られたフィラメントについて、40℃で74時間乾燥させた(乾時)。また、前記乾時のフィラメントを、23℃の水に336時間浸漬した(吸水処理時)。乾時のフィラメントおよび吸水処理後のフィラメントについて、各種評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0037】
<繊度>
JIS L 1013:2010の規定に従い、乾時と吸水処理後のフィラメントの繊度(正量繊度)をそれぞれ測定した。単位は、デニール(d)で示した。
【0038】
<直線強さ>
乾時と吸水処理後のフィラメントについて、JIS L 1013:2010に従い、直線強さを測定した。直線強さの単位は、gf/dで示した。
【0039】
<結節強さ>
乾時と吸水処理後のフィラメントについて、JIS L 1013:2010に従い、結節強さを測定した。結節強さの単位は、gf/dで示した。
【0040】
<吸水処理後の直線強さの維持率および吸水処理後の結節強さの維持率>
吸水処理後の直線強さの維持率は、乾時の直線強さXに対する、吸水処理後の直線強さXの維持率[(X/X)×100]を算出することにより求めた。
吸水処理後の結節強さの維持率は、乾燥時の結節強さYに対する、吸水処理後の結節強さYの維持率[(Y/Y)×100]を算出することにより求めた。
【0041】
【表1】
【0042】
上記結果から明らかなとおり、ポリアミド樹脂(A)を含むフィラメントは、吸水処理後について、直線強さの維持率および結節強さの維持率が高かった。
【0043】
実施例4で得たフィラメントをハリスとして道糸につなぎ、使用したところ、海釣り用として問題なく使用できた。